タイトル: | 特許公報(B2)_コンドロイチン硫酸分解酵素及びそれを用いたコンドロイチン硫酸オリゴ糖の製造方法 |
出願番号: | 1995332406 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | C12N 9/16,C12P 19/26 |
三浦 りゅう 山形 達也 JP 3759774 特許公報(B2) 20060113 1995332406 19951220 コンドロイチン硫酸分解酵素及びそれを用いたコンドロイチン硫酸オリゴ糖の製造方法 生化学工業株式会社 000195524 遠山 勉 100089244 松倉 秀実 100090516 川口 嘉之 100100549 三浦 りゅう 山形 達也 20060329 C12N 9/16 20060101AFI20060309BHJP C12P 19/26 20060101ALI20060309BHJP JPC12N9/16 ZC12P19/26 C12N 9/16 PubMed Anal Biochem 225 p.333-340 (1995) 3 1997168384 19970630 14 20021203 特許法第30条第1項適用 平成7年7月18日〜7月20日 日本糖質学会主催の「第17回糖質シンポジウム」において文書をもって発表 光本 美奈子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、新規なコンドロイチン硫酸分解酵素、及びこの酵素を用いた飽和型コンドロイチン硫酸オリゴ糖の製造方法に関する。【0002】【従来の技術】コンドロイチン硫酸分解酵素は、コンドロイチン硫酸を脱離反応で分解する酵素と、コンドロイチン硫酸を加水分解する酵素とに大別される。【0003】従来、コンドロイチン硫酸を脱離反応で分解する酵素としては、次のものが知られている。なお括弧内には酵素の由来と、酵素が作用する基質(CSはコンドロイチン硫酸、DSはデルマタン硫酸、HAはヒアルロン酸をそれぞれ表す)を示す。【0004】コンドロイチナーゼABC(Proteus vulgaris由来;CS、DS、HA)コンドロイチナーゼAC I(Flavobacterium heparinum由来;CS、HA)コンドロイチナーゼAC II(Arthrobacter aurescens由来;HA、CS)コンドロイチナーゼAC II(Flavobacterium sp. Hp 102由来;HA、CS)コンドロイチナーゼBC II(Flavobacteruim heparinum由来;DS)コンドロイチナーゼC(Flavobacterium sp. Hp 102由来;CS)(糖鎖工学と医薬品開発 第374頁 薬業時報社 (1993))これらのコンドロイチン硫酸分解酵素は、コンドロイチン硫酸に作用して不飽和型二糖(単に、不飽和二糖ともいう)または不飽和型四糖(単に、不飽和四糖ともいう)を生成することが知られており、酵素学上「リアーゼ」に分類されている。なお本明細書において「不飽和型」とは、糖鎖の非還元末端糖に二重結合等の不飽和結合を有している糖鎖を意味する。【0005】また、コンドロイチン硫酸の加水分解酵素(コンドロイチン硫酸加水分解酵素ともいう)としては、ウシやヒツジの精巣由来のヒアルロニダーゼが知られている。この酵素は糖タンパク質で、分子量はドデシル硫酸ナトリウム(以下、SDSともいう)−ポリアクリルアミドゲル電気泳動で61kDaと67.2kDaの型が観察されている。この酵素の至適pHは4.4から6の間であり、NaClの存在下では5.2、非存在下では6.0であることが報告されている。また、この酵素をコンドロイチン硫酸に作用させた時の生成物は、四糖を主成分とする飽和型のオリゴ糖であることが知られている(糖鎖工学 第284〜286頁 株式会社産業調査会(1992)、生化学工業株式会社総合カタログ 第277〜278頁(1995))。なお本明細書において「飽和型」とは、糖鎖の非還元末端糖に二重結合等の不飽和結合を有していない糖鎖を意味する。【0006】しかし、コンドロイチン硫酸のみを加水分解しうる酵素については全く知られていなかった。【0007】【発明が解決しようとする課題】コンドロイチン硫酸のみを加水分解しうる酵素が得られれば、糖鎖研究に有用な試薬としての利用が期待される。さらに、現在椎間板ヘルニア等の治療薬としての利用が期待されているコンドロイチナーゼABCと同様に、医薬品としての利用も期待される。【0008】すなわち本発明が解決すべき課題は、新規なコンドロイチン硫酸加水分解酵素、特にコンドロイチン硫酸のみを加水分解しうる酵素を提供し、さらに飽和型コンドロイチン硫酸オリゴ糖の製造方法を提供することである。【0009】なお本明細書において「コンドロイチン硫酸オリゴ糖」とは、コンドロイチン硫酸をコンドロイチン硫酸分解酵素で処理することにより得られうる処理生成物を意味する。【0010】【課題を解決するための手段】本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ヒトの胃癌周辺組織から、コンドロイチン硫酸のみを加水分解しうる新規なコンドロイチン硫酸分解酵素を分離するに至った。【0011】すなわち、本発明は、下記の理化学的性質を有するコンドロイチン硫酸分解酵素を提供する。▲1▼作用:グリコサミノグリカンのN−アセチルヘキソサミニド結合を加水分解する。▲2▼基質特異性:pH5において、コンドロイチン硫酸に作用し、ヒアルロン酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸及びヘパリンには作用しない。pH3.5において、コンドロイチン硫酸及びヒアルロン酸に作用する。▲3▼至適反応pH:pH5付近(基質:コンドロイチン硫酸、緩衝液:0.15M NaClを含む50mM クエン酸−Na2HPO4緩衝液、温度:37℃)▲4▼等電点:pH5付近好ましくは、上記酵素の分子量は、末端にアリル基を有するコンドロイチン硫酸鎖を共重合させたポリアクリルアミドゲルを用いたSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法において、約36kDaである。【0012】また、好ましくは、上記酵素はエンド型酵素である。また、好ましくは、上記酵素はヒト由来である。さらに、本発明は、コンドロイチン硫酸を上記のコンドロイチン硫酸分解酵素で処理するステップと、この処理生成物から飽和型コンドロイチン硫酸オリゴ糖を分画するステップとを含むことを特徴とする、飽和型コンドロイチン硫酸オリゴ糖の製造方法を提供する。【0013】【発明の実施の形態】以下に本発明の実施の形態について説明する。本発明のコンドロイチン硫酸分解酵素(以下、「本発明酵素」ということもある)は、コンドロイチン硫酸のみを加水分解しうる新規な酵素であり、下記の理化学的性質を有する。▲1▼作用:グリコサミノグリカンのN−アセチルヘキソサミニド結合を加水分解する。コンドロイチン硫酸への作用の結果、主に12〜16糖の飽和型コンドロイチン硫酸オリゴ糖を生成する。▲2▼基質特異性:pH5において、コンドロイチン硫酸に作用し、ヒアルロン酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸及びヘパリンには作用しない。pH3.5において、コンドロイチン硫酸及びヒアルロン酸に作用する。▲3▼至適反応pH:pH5付近(基質:サメ軟骨由来のコンドロイチン硫酸(平均分子量44000)、緩衝液:0.15M NaClを含む50mM クエン酸−Na2HPO4緩衝液、温度:37℃)▲4▼等電点:pH5付近好ましくは、本発明酵素の分子量は、末端にアリル基を有するコンドロイチン硫酸鎖を共重合させたポリアクリルアミドゲルを用いたSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(ザイモグラフィー;Anal. Biochem. 225, 333-340(1995))において、約36kDaである。【0014】さらに、好ましくは、本発明酵素は、コンドロイチン硫酸を基質とした場合、エンド型酵素である。また本発明酵素は、上記の理化学的性質を有する限りにおいてその由来は特に限定されるものではなく、動物組織等の天然物由来のものや、遺伝子工学的手法により製造されたものなどを利用することができる。なお医薬品として本発明酵素を利用する場合、その投与対象がヒトであることを考慮すると、抗原性の点からもヒト由来の酵素であることが好ましい。その中でもヒトの胃癌周辺組織由来のものは、組織における本発明酵素の発現頻度も高いことから好ましい。また、その中でも、ボルマン(Borrmann)分類の2型及び4型の胃癌の周辺組織由来のものが、組織における本発明酵素の発現頻度が特に高いことから好ましい。【0015】本発明酵素は、例えばこのようなヒトの胃癌周辺組織から、通常の酵素の抽出、精製方法によって得ることができる。抽出方法として具体的には、例えばハサミ等による細片化、ホモジナイズ、音波処理、浸透ショック法、凍結融解法等の細胞破砕による抽出、界面活性剤抽出等や、これらの組合わせ等の処理操作が挙げられるが、ハサミで組織を細片化する方法が特に好ましい。また、精製方法として具体的には、例えば硫酸アンモニウム(硫安)や硫酸ナトリウム等による塩析、遠心分離、透析、限外濾過法、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ゲル濾過法、ゲル浸透クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、電気泳動法、ザイモグラフィー等や、これらの組合わせ等の処理操作が挙げられるが、ザイモグラフィーが特に好ましい。なお、ザイモグラフィーについては下記実施例中で詳述する。【0016】また、本発明酵素は、ヘパリン−セファロース(Heparin-Sepharose;ファルマシア製)に吸着させることができるので、ヘパリン−セファロースを用いたクロマトグラフィーによって精製することも好ましい。【0017】また、この酵素の遺伝子を公知の方法に従ってクローニングし、適当な宿主に導入して、発現させることにより本発明酵素を得ることができる。例えば、本発明酵素の特異的コンドロイチン硫酸分解活性を指標に用い、ヒトDNAライブラリーからこの酵素をコードするDNAを単離し、これを遺伝子組換え技術によりベクターに入れ、宿主細胞に導入し、そこで発現させることにより本発明酵素を得ることができる。また、クローニングを、本発明酵素に特異的な抗体を作成しこれを用いて行うこともできる。あるいは、本発明酵素のN末端のアミノ酸配列を決定し、この配列から推定されるヌクレオチド配列を有するDNAをプローブとしてクローニングを行うことができる。発現した酵素は上記のような抽出・精製方法を用いて回収できる。【0018】本発明の飽和型コンドロイチン硫酸オリゴ糖の製造方法(以下、「本発明方法」ともいう)は、コンドロイチン硫酸を上記の本発明酵素で処理するステップと、この処理生成物から飽和型コンドロイチン硫酸オリゴ糖を分画するステップからなる。本発明方法により得られる飽和型コンドロイチン硫酸オリゴ糖の二糖組成は、原料となるコンドロイチン硫酸の二糖組成を反映するので、所望のオリゴ糖に応じて原料となるコンドロイチン硫酸を当業者が適宜選択することができ、原料とすることができるコンドロイチン硫酸としては、例えば、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C、コンドロイチン硫酸D、コンドロイチン硫酸E、コンドロイチン硫酸K等が挙げられる。【0019】本発明酵素による処理は、本発明酵素のコンドロイチン硫酸を基質とした場合の至適pH(pH5付近)で行うことが好ましく、該pH下で緩衝作用を有する緩衝液中で行うことが好ましい。また、その際に0.15M程度のNaClを添加しておくことが好ましい。酵素処理時の温度は、本発明酵素の活性が保持されている限りにおいて特に限定されないが、30〜40℃付近で行うことが好ましく、37℃付近で行うことが特に好ましい。また処理時間は、用いるコンドロイチン硫酸及び本発明酵素の量、並びにその他の処理条件に応じて当業者が適宜決定できる。【0020】少量生産であれば、コンドロイチン硫酸溶液中に本発明酵素を存在させて処理すればよいが、大量生産する場合、適当な固相(ビーズ等)に本発明酵素を結合させた固定化酵素や、限外濾過膜、透析膜等を用いる膜型のリアクター等を用いて連続的に酵素処理を行うこともできる。【0021】処理生成物からコンドロイチン硫酸オリゴ糖を分画するステップにおいては、通常の糖鎖の分離、精製の手法を用いることができる。例えば、吸着クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過法、ゲル浸透クロマトグラフィー等により行うことができるが、これに限定されるものではない。本発明方法を用いることにより、飽和型コンドロイチン硫酸オリゴ糖、好ましくは10〜20糖のオリゴ糖、より好ましくは12〜16糖の飽和型コンドロイチン硫酸オリゴ糖を容易に得ることができる。【0022】この飽和型コンドロイチン硫酸オリゴ糖は、ウロン酸残基の1位と、4位の水酸基及び/又は6位の水酸基が硫酸化されたN−アセチルガラクトサミン残基(以下、単に「硫酸化N−アセチルガラクトサミン残基」ともいう)の3位とがグリコシド結合した二糖単位を主な繰り返し単位とする構造からなり、非還元末端糖残基がウロン酸残基で、かつ還元末端糖残基が硫酸化N−アセチルガラクトサミン残基であるオリゴ糖である。なお、非還元末端糖残基はグルクロン酸残基であるものが好ましい。【0023】また、この飽和型コンドロイチン硫酸オリゴ糖はコンドロイチン硫酸と同じ二糖組成を有していることから、例えばコンドロイチナーゼABC等のコンドロイチン硫酸分解酵素により、二糖〜四糖程度まで分解される。【0024】【実施例】次に、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、この実施例は本発明の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。<ザイモグラフィー>以下の実施例中で用いるザイモグラフィーについては Anal. Biochem. 225, 333-340 (1995)に記載された方法に基づいて行った。具体的手法を、コンドロイチン硫酸およびヒアルロン酸を基質としたザイモグラフィーを例に挙げて説明する。1.末端にアリル基を有するコンドロイチン硫酸鎖(コンドロイチン硫酸−アリル化合物)が共重合したSDS−ポリアクリルアミドゲル(ゲル濃度:10%)の作製コンドロイチン硫酸4000mg(0.2mmol)(サメ軟骨由来、平均分子量:44000、生化学工業株式会社より入手)を50mM ホウ酸ナトリウム緩衝液(pH 8.3)に溶解し、30.26mg(0.8mmol)の水素化ホウ素ナトリウムを加えて室温で20時間反応させた。反応液を酢酸でpH 4.0に調整し、4℃下で水に対して透析して凍結乾燥した。得られた白色粉体が還元末端糖還元物である。【0025】この還元末端糖還元物(還元コンドロイチン硫酸)4000mg(0.2mmol)を40mM イミダゾール塩酸塩(pH6.5)に溶解し、過ヨウ素酸ナトリウム171mg(0.8mmol)を加えて,暗所、0℃で1時間反応させた。生成した反応液を4℃下で水に対して透析して凍結乾燥した。得られた白色粉体が還元末端糖限定酸化物でアルデヒド基を持っている(コンドロイチン硫酸−アルデヒド)。【0026】コンドロイチン硫酸−アルデヒド4000mg(0.2mmol)を50mlの水に溶解し、2M-エチレンジアミンを15ml加えた。15分後、1.26g(20mmol)のシアノ水素化ホウ素ナトリウムを加えて室温で5時間反応させた。189mg(5mmol)の水素化ホウ素ナトリウムを加えて1〜4日間反応させた。生成した反応液を4℃下で水に対して透析して凍結乾燥した。得られた白色粉体はアミノ基を持っている(アミノ化−コンドロイチン硫酸)。【0027】アミノ化−コンドロイチン硫酸 100mgを水2mlに溶解し1mlのエタノールを加えて、1mlのアリルグリシジルエーテル(アリル2、3−エポキシプロピルエーテル)を加えて40℃で2時間反応させた。反応液を4℃下で水に対して透析し凍結乾燥した。得られた白色粉体がコンドロイチン硫酸−アリル化合物である。【0028】SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)の10%ポリアクリルアミドゲル調製時(重合前)に、終濃度8.5μg/mlとなるようにコンドロイチン硫酸−アリル化合物を加え、通常の方法で重合させて、コンドロイチン硫酸−アリル化合物が共重合したSDS−ポリアクリルアミドゲル(ゲル濃度10%;以下、「コンドロイチン硫酸共重合ゲル」ともいう)を作製した。2.ヒアルロン酸を含有するSDS−ポリアクリルアミドゲル(ゲル濃度:10%)の作製SDS−PAGE用の10%ポリアクリルアミドゲル調製時(重合前)に、終濃度17μg/mlとなるようにヒアルロン酸(鶏冠由来、平均分子量824,000、生化学工業株式会社より入手)を加え、通常の方法で重合させて、ヒアルロン酸を含むSDS−ポリアクリルアミドゲル(ゲル濃度10%;以下、「ヒアルロン酸含有ゲル」ともいう)を作製した。3.電気泳動及び酵素の検出試料を上記で作製したゲルに付し、20mAで電気泳動したゲルを、2.5%トライトンX−100(商品名)で1時間、室温で洗浄した。その後、0.15M NaClを含む50mMクエン酸−Na2HPO4緩衝液(pHは実験に応じて適宜調整する)中で37℃、16時間インキュベートすることによって、酵素反応を進行させた。その後、0.1mg/mlプロナーゼ(Streptomyces griseus由来、Calbiochem社製)を含む20mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)中で、37℃、2時間インキュベートした。その後、20%エタノール/10%酢酸で20分間インキュベートし、0.5%アルシャンブルーを含む20%エタノール/10%酢酸で1時間インキュベートして染色した。その後、20%エタノール/10%酢酸中でインキュベートすることによって余分なアルシャンブルーを除いた。また必要に応じて、デンシトメーター(島津製作所製)により酵素のバンドをさらに解析した。【0029】【実施例1】本発明酵素の抽出ヒト胃癌手術時に摘出された胃癌組織を含む組織およびヒト大腸癌手術時に摘出された大腸癌を含む組織より、癌組織と周辺組織とを別々に切り分けた。ハサミを用いて細片化(約3mm角)した後、冷RPMI−1640液(pH7.4、ニッスイ製)にて洗浄し、血液を取り除いた。さらにハサミで細片化(1mm角以下)し、0.1g/mlの濃度になるようにRPMI−1640液を加え、37℃にてCO2インキュベーター中で4時間保温した。8,000rpm、30分間の遠心分離により得た上清を酵素抽出液としてザイモグラフィーに用いた。【0030】【実施例2】本発明酵素の理化学的性質(分子量、至適反応pH、等電点、及び基質特異性)(1)実施例1により得た酵素抽出液を、2枚のコンドロイチン硫酸共重合ゲル及び2枚のヒアルロン酸含有ゲルに付してザイモグラフィーを行った。なお酵素反応において、1枚のコンドロイチン硫酸共重合ゲル及び1枚のヒアルロン酸含有ゲルについてはpH3.5の条件下で、残りのコンドロイチン硫酸共重合ゲル及びヒアルロン酸含有ゲルについてはpH5.0の条件下でそれぞれ行った。結果を図1に示す。なお、図1においてHCは大腸癌を含む組織由来を、HGは胃癌を含む組織由来を示し、TおよびNはそれぞれ癌組織と周辺組織を意味する。また、数字は検体の番号を意味する。【0031】図1より、pH3.5の条件下においてヒアルロン酸とコンドロイチン硫酸を分解する、分子量約36kDaの酵素(本発明酵素)が胃癌周辺組織において確認された。また、本発明酵素は、pH5.0の条件下においてはヒアルロン酸を分解せず、コンドロイチン硫酸のみを分解することが確認された。(2)種々のボルマン分類のヒト胃癌について、胃癌組織及び胃癌周辺組織に対して実施例1に記載した酵素抽出操作を施し、それぞれの抽出液をコンドロイチン硫酸共重合ゲルを用いたザイモグラフィー(酵素反応pH条件:pH5.0)で解析して本発明酵素の存在の有無を調べた。結果を、用いたボルマン分類の型、及びサンプル数と併せて第1表に示す。なお、表中のnはサンプル数、Nは胃癌周辺組織、Tは胃癌組織をそれぞれ表す。また、本発明酵素活性が検出されたものを+、検出されなかったものを−でそれぞれ示した。【0032】【表1】第1表より、本発明酵素はボルマン分類の2型及び4型の胃癌の周辺組織に高率に発現していることが確認された。(3)本発明酵素の至適pHを調べるために、ザイモグラフィーにおける酵素反応時のpHが3.5、5.0、6.0、7.5の時の本発明の酵素活性をそれぞれ調べた。なおザイモグラフィーにはコンドロイチン硫酸共重合ゲルを用いた。結果を図2に示す。【0033】図2より、pH5.0において本発明酵素に由来するバンド(約36kDa)が最も強く検出された。この結果から本発明酵素の至適pHは、コンドロイチン硫酸を基質とした場合pH5付近であることが確認された。(4)本発明酵素の等電点を調べるために、等電点電気泳動(1次元目)及びザイモグラフィー(2次元目)を行った。等電点電気泳動のゲルは、アンフォライン(LKB社)pH3.5〜10を含有する6%アクリルアミドゲルを用いた。等電点電気泳動時の泳動バッファーは、カソード溶液として20mM NaOH、アノード溶液として10mM H3PO4を用いた。泳動は、400V、2時間30分、0℃下で行った。なお、等電点電気泳動における等電点スタンダードはバイオラッド(Bio-Rad)社製のものを用いた。【0034】等電点電気泳動終了後、等電点電気泳動ゲルをコンドロイチン硫酸共重合ゲルに付し、ザイモグラフィー(酵素反応pH条件:pH5.0)を行った。結果を図3に示す。図3において、ザイモグラフィー(2次元目)における分子量約36kDaの本発明酵素のバンドは、等電点電気泳動(1次元目)においてpH5付近に見られた。よって本発明酵素の等電点は、pH5付近であることが確認された。(5)本発明酵素の基質特異性を調べるために、種々のコンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、及び他のグリコサミノグリカン(ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン)のそれぞれのアリル化物と、アクリルアミドとの共重合ゲルを上記のコンドロイチン硫酸共重合ゲルと同様に作製した。なお、各種コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸(鶏冠由来)、ケラタン硫酸(ウシ角膜由来)、ヘパラン硫酸(ウシ腎臓由来)及びヘパリン(ブタ腸由来)は、生化学工業株式会社より入手した。これらのゲルと、ヒアルロン酸含有ゲルを用いてザイモグラフィー(酵素反応pH条件:pH5.0)を行い、本発明酵素に由来するバンドをデンシトメーターで解析した。バンドの強度を酵素活性の指標とし、最も酵素活性が高かった基質における酵素活性を100%として相対活性を算出した。用いた種々のコンドロイチン硫酸(本明細書中ではCS1〜CS5で表す)及びデルマタン硫酸(本明細書中ではDSで表す)の二糖組成(コンドロイチナーゼABCによる消化物の二糖分析による解析結果)を第2表に、結果を図4にそれぞれ示す。また、第2表中の二糖構造を式(1)及び第3表に示す。【0035】【表2】【0036】【化1】【0037】【表3】この結果から、本発明酵素はpH5においてコンドロイチン硫酸(CS1〜CS5)を分解するが、ヒアルロン酸(HA)、ケラタン硫酸(KS)、ヘパラン硫酸(HS)及びヘパリン(Hep)には作用しないことが示された。なお、デルマタン硫酸(DS)は、ウロン酸残基としてイズロン酸残基を含有している点においてコンドロイチン硫酸(CS1〜CS5)とは異なる。しかし、本実施例で用いたデルマタン硫酸にはグルクロン酸残基が少し含まれている。第4図の結果をみると、本発明酵素は、本実施例で用いたデルマタン硫酸にもわずかに作用している。しかし、この結果からは、本発明酵素が、デルマタン硫酸にわずかに含有されるグルクロン酸残基に隣接するグリコシド結合(N−アセチルヘキソサミニド結合)に対してのみ作用しているのか、それともイズロン酸残基に隣接するグリコシド結合に対しても作用しているのかどうかは明かではないが、おそらくグルクロン酸残基に隣接するグリコシド結合に対してのみ作用しているものと思われる。実施例2の(1)の結果と総合すると、本発明酵素はpH5においてコンドロイチン硫酸に作用し、ヒアルロン酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸及びヘパリンには作用しないが、pH3.5においてはコンドロイチン硫酸及びヒアルロン酸に作用することが確認された。【0038】【実施例3】本発明酵素の理化学的性質(作用)及びコンドロイチン硫酸の分解生成物の分析(1)本発明酵素を用いてコンドロイチン硫酸を処理し、飽和型コンドロイチン硫酸オリゴ糖を製造した。具体的には次の通り行った。実施例1の方法で調製した本発明酵素の抽出液をコンドロイチン硫酸共重合ゲルに付し、ザイモグラフィーを行った。ザイモグラフィーの電気泳動終了後、2.5%トライトンX−100(商品名)で1時間、室温で洗浄してSDSを除去した。36kDa付近のゲル(本発明酵素を含んでいる)を切り出して、反応液(0.15M NaClを含む50mMクエン酸−Na2HPO4緩衝液(pH5.0))中で37℃において18時間インキュベートした。インキュベート後、ゲルを除いた溶液を凍結乾燥により濃縮し、Sephadex G-15(ファルマシア社製)カラムで糖部分を回収し、再度凍結乾燥により濃縮して、本発明酵素によるコンドロイチン硫酸の処理生成物(以下、単に「生成オリゴ糖」ともいう)を得た。(2)生成オリゴ糖の分析(A)生成オリゴ糖の還元末端糖残基を、2−アミノピリジンでピリジルアミノ化(新生化学実験講座3 糖質II 63〜64頁(東京化学同人))し、TSK−GEL G2000PWカラム(東ソー製)を用いたゲル浸透クロマトグラフィーを行った。クロマトグラフィーは室温で、溶離液として0.02M 酢酸アンモニウム緩衝液(pH7.5)を用い、流速は0.5ml/分で行った。また、検出は蛍光検出器(日本分光製)で行った。なお分子量(重合度)のスタンダードを同様にゲル浸透クロマトグラフィーにかけ、溶出時間と分子量(重合度)との関係を調べ、検量線を作成した。生成オリゴ糖のクロマトグラフィーの結果を図5に、検量線を図6に示す。なお、図中のDPは重合度を意味する。【0039】図5に示した結果、及び図6に示した検量線とから、生成オリゴ糖は12〜16糖であることが確認された。またこの結果から、本発明酵素はエンド型酵素であることが確認された。【0040】(B)生成オリゴ糖がコンドロイチン硫酸由来のオリゴ糖であることを確認するため、生成オリゴ糖をコンドロイチナーゼABC(Proteus vulgaris由来;生化学工業株式会社製)で処理して分解されるか否かを検討した。具体的には次の通り行った。還元末端糖残基を2−アミノピリジンでピリジルアミノ化した生成オリゴ糖を15mUのコンドロイチナーゼABC(生化学工業製)で0.3M酢酸ナトリウムを含む0.25Mトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)中、37℃の条件下で12時間処理した。このコンドロイチナーゼABC処理生成物を、TSK−GEL ODS-120Aカラム(東ソー製)を用いたクロマトグラフィーを行った。クロマトグラフィーは30℃で、溶離液として1%アセトニトリルを含む0.25M クエン酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)を用い、流速は0.5ml/分で行った。また、検出は蛍光検出器(日本分光製)で行った。結果を、コンドロイチナーゼABC処理前の生成オリゴ糖の結果と併せて図7に示す。なお、コンドロイチナーゼABC処理前の生成オリゴ糖の結果は図中の手前側の曲線で示した。【0041】図7より、生成オリゴ糖はコンドロイチナーゼABCによって低分子化することが確認された。このことから、生成オリゴ糖がコンドロイチン硫酸由来のオリゴ糖であることが確認されたと同時に、該生成オリゴ糖は、それが由来するコンドロイチン硫酸鎖の構造を保持していることが示唆された。【0042】(C)生成オリゴ糖の還元末端糖残基と非還元末端糖残基、および本発明酵素の作用位置を調べるために以下の実験を行った。生成オリゴ糖の還元末端糖残基を、2−アミノピリジンでピリジルアミノ化し、その後2N HClで2時間、及び6時間、100℃下で加水分解した。2N HClによる加水分解物を、TSK−GEL ODS-120A(東ソー製)に付し、クロマトグラフィーを行った。クロマトグラフィーは30℃で、溶離液として1%アセトニトリルを含む0.25M クエン酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)を用い、流速は0.5ml/分で行った。また、検出は蛍光検出器(日本分光製)で行った。結果を図8に示す。【0043】図8より、2時間加水分解したもの及び6時間加水分解したもののいずれにも、ピリジルアミノ化されたN−アセチルガラクトサミン(PA-GalNAcとも記す)が検出された。2時間加水分解したものよりも、6時間加水分解したものの方がPA-GalNAcのピークが増加しているが、これは時間と共に加水分解が進行していることを示している。なおPA-GalNAcの検出は、PA-GalNAcのスタンダードを上記と同条件のクロマトグラフィーに付し、その溶出位置を比較することにより行った。【0044】この結果から、生成オリゴ糖の還元末端はN−アセチルヘキソサミン(N−アセチルガラクトサミン)残基であることが確認された。また生成オリゴ糖はコンドロイチン硫酸由来のオリゴ糖であることが上記(実施例3の(2)の(B))で示されていることから、生成オリゴ糖の非還元末端はウロン酸(グルクロン酸)残基であることが示された。【0045】またこの結果から、本発明酵素はグリコサミノグリカンのN−アセチルヘキソサミン残基とウロン酸残基との間の結合(N−アセチルヘキソサミニド結合)を分解することが示された。なお、本発明酵素が作用するグリコサミノグリカンについては、基質特異性として前記した。【0046】(D)生成オリゴ糖が飽和型か否か、および本発明酵素が加水分解酵素かリアーゼかを調べるために、以下の実験を行った。生成オリゴ糖をβ−グルクロニダーゼ(β-glucuronidase)で処理し、分解されるか否かを調べた。β−グルクロニダーゼは、β−グルクロニド結合を加水分解してD−グルクロン酸を遊離させる反応を触媒する酵素である。すなわちβ−グルクロニダーゼは、生成オリゴ糖の非還元末端糖残基が二重結合を有するヘキスロン酸(ΔHexA)残基の場合は作用せず、グルクロン酸残基の場合は作用する。【0047】還元末端糖残基を2−アミノピリジンでピリジルアミノ化した生成オリゴ糖を、0.6mUのβ−グルクロニダーゼ(生化学工業株式会社販売)で0.15M NaClを含む10mMクエン酸−Na2HPO4緩衝液(pH5.0)中、37℃の条件下で12時間処理し、反応物をTSK−GEL Amide-80(東ソー製)に付し、クロマトグラフィーを行った。クロマトグラフィーは40℃で、溶離液A(3%酢酸−トリエチルアミン(pH7.3):アセトニトリル=35:65)と溶離液B(3%酢酸−トリエチルアミン(pH7.3):アセトニトリル=50:50)とを用い、溶離液A:100%(溶離液B:0%)から溶離液A:0%(溶離液B:100%)までの直線濃度勾配を50分間かけて行った。また流速は1.0ml/分で行った。結果を、β−グルクロニダーゼ処理前のものと併せて図9に示した。なお、β−グルクロニダーゼ処理前の生成オリゴ糖の結果は図中の手前側の曲線で示した。【0048】図9より、生成オリゴ糖はβ−グルクロニダーゼ処理により低分子化したことが確認された。β−グルクロニダーゼは非還元末端糖残基が二重結合を有するヘキスロン酸(ΔHexA)残基の場合には作用しないことから、生成オリゴ糖は飽和型であることが確認された。また、この結果から、本発明酵素は加水分解酵素であることが確認された。【0049】【発明の効果】本発明酵素はコンドロイチン硫酸のみを加水分解しうる新規酵素であり、現在椎間板ヘルニア等の治療薬としての利用が期待されているコンドロイチナーゼABCと同様に医薬品としての利用が期待される。また、ヒト由来の本発明酵素を用いれば、抗原性が低く、安全性が高い医薬品として利用できることが期待される。さらに糖鎖研究に有用な試薬としての利用も期待される。【0050】また、本発明方法によれば、飽和型コンドロイチン硫酸オリゴ糖を特異的に、かつ容易に得ることができる。本発明方法により得られる飽和型コンドロイチン硫酸オリゴ糖は、新規生理活性を有することも期待され、新たな医薬品としての利用も期待される。【図面の簡単な説明】【図1】 本発明酵素の分子量、及びpH3.5とpH5.0におけるヒアルロン酸とコンドロイチン硫酸に対する反応性を示す電気泳動の写真である。【図2】 本発明酵素の至適pHを示す電気泳動の写真である。【図3】 本発明酵素の等電点を示す電気泳動の写真である。【図4】 本発明酵素の基質特異性を示す図である。【図5】 本発明方法により得られる飽和型コンドロイチン硫酸オリゴ糖のTSK−GEL G2000PW(東ソー製)によるゲル浸透クロマトグラフィーの溶出パターンを示す図である。【図6】 TSK−GEL G2000PW(東ソー製)を用いたゲル浸透クロマトグラフィーにおける、分子量(重合度)の検量線である。【図7】 本発明方法により得られる飽和型コンドロイチン硫酸オリゴ糖のコンドロイチナーゼABC消化物のTSK−GEL ODS-120A(東ソー製)によるクロマトグラフィーの溶出パターンを示す図である。【図8】 ピリジルアミノ化した本発明方法により得られる飽和型コンドロイチン硫酸オリゴ糖の酸加水分解物の、TSK−GEL ODS-120A(東ソー製)によるクロマトグラフィーの溶出パターンを示す図である。【図9】 本発明方法により得られる飽和型コンドロイチン硫酸オリゴ糖のβ−グルクロニダーゼ消化物の、TSK−GEL Amide-80(東ソー製)によるクロマトグラフィーの溶出パターンを示す図である。 下記の理化学的性質を有するヒト由来のコンドロイチン硫酸分解酵素。(1)作用: グリコサミノグリカンのN−アセチルヘキソサミニド結合を加水分解する。(2)基質特異性: pH5において、コンドロイチン硫酸に作用し、ヒアルロン酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸及びヘパリンには作用しない。 pH3.5において、コンドロイチン硫酸及びヒアルロン酸に作用する。(3)至適反応pH: pH5付近(基質:コンドロイチン硫酸、緩衝液:0.15M NaClを含む50mM クエン酸−Na2HPO4緩衝液、温度:37℃)(4)等電点: pH5付近(5)分子量:末端にアリル基を有するコンドロイチン硫酸鎖を共重合させたポリアクリルアミドゲルを用いたドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法において、約36kDaである。 エンド型酵素である請求項1記載のコンドロイチン硫酸分解酵素。 コンドロイチン硫酸を請求項1または2に記載のコンドロイチン硫酸分解酵素で処理するステップと、この処理生成物から飽和型コンドロイチン硫酸オリゴ糖を分画するステップとを含むことを特徴とする、飽和型コンドロイチン硫酸オリゴ糖の製造方法。