タイトル: | 特許公報(B2)_ポリアクリルアミド誘導体を有するブロック共重合体および温度応答性高分子ミセル |
出願番号: | 1995331949 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | C08G 81/02,A61K 47/30,C08F 293/00 |
桜井 靖久 岡野 光夫 片岡 一則 青柳 隆夫 鈴木 憲 菊池 明彦 JP 3807765 特許公報(B2) 20060526 1995331949 19951220 ポリアクリルアミド誘導体を有するブロック共重合体および温度応答性高分子ミセル 独立行政法人科学技術振興機構 503360115 平木 祐輔 100091096 桜井 靖久 岡野 光夫 片岡 一則 青柳 隆夫 鈴木 憲 菊池 明彦 20060809 C08G 81/02 20060101AFI20060720BHJP A61K 47/30 20060101ALI20060720BHJP C08F 293/00 20060101ALI20060720BHJP JPC08G81/02A61K47/30C08F293/00 C08F,C08G CA,REGISTRY(STN) 特開平06−287253(JP,A) 特開昭61−098746(JP,A) Lambla,M. et al.,Journal of Macromolecular Science,Chemistry A,1977年,Vol.11,No.8,p1439-1448 Advance in Polymer Science,1985年,Vol.71,p41-77(特にp69) Macromolecular Reports,1994年,Vol.A31,Sulli.1-2,p85-93 Journal of Polymer Materials,1992年,Vol.9,No.4,p311-317 6 1997169850 19970630 15 20021217 特許法第30条第1項適用 平成7年9月1日 高分子学会発行の「高分子学会予稿集 44巻10号」に発表 佐々木 秀次 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、アルキル置換基を有するアクリルアミド連鎖と比較的疎水性の大きい連鎖とを含むブロック共重合体および該共重合体を含む温度応答性ミセルに関する。本発明のブロック共重合体は、特定の温度を境に低温側では溶解、高温側では不溶化を起こす固有の相転移温度を有するアクリルアミド誘導体連鎖を有しているために、その相転移温度近傍でミセル形成に伴う溶解と凝集に伴う不溶化を可逆的に生起する。そのため、温度に応答してガン組織など目的部位にへ選択的に集積性を高めることができ、さらに薬物の放出を制御できる新規の薬物運搬体として特に有用である。【0002】【従来の技術】薬物運搬体としてリポソームに関する研究例が非常に多い。リポソームはその構成単位であるリン脂質が疎水性相互作用により分子集合体として2重層を形成している。リポソームは、その疎水性領域に疎水性薬物が、内水相に親水性薬物が保持され、薬物運搬体として働く。しかし、リポソームは血液中に存在する脂質成分やタンパク質成分との接触によりその膜構造が破壊されやすく、長時間安定であるとは言いがたい。またそのサイズが100nm以上であることから、血液中に投与された場合、脾臓や肝臓に取り込まれやすく、薬物が目的とする部位まで到達するのが困難である。【0003】このような現状から、血液中での安定性の向上を目的としてポリエチレングリコール(PEG)を有するリン脂質を用いたPEG修飾リポソームや、プルランなどで被覆した多糖類修飾リポソームなどが合成されているが、これらのリポソームは依然としてその安定性が不十分である。【0004】一方、薬物を内包した大豆油をレシチンで被覆した微粒子(リピッドマイクロスフィアー)も研究されており、かかるリピッドマイクロスフィアーに各種抗炎症性薬物などを封入した製剤が臨床応用されている。しかし、リピッドマイクロスフィアーは、リポソーム同様、血液中で安定性が低い点や細網内皮系への移行しやすい点で薬物運搬体としての機能が十分に発揮できず、不満足であると言わざるを得ない。【0005】本発明者らは、これまで、親水性連鎖としてポリエチレングリコール、疎水性連鎖としてポリアミノ酸からなるブロック共重合体が、水中またはリン酸緩衝液中でミセル様の安定なナノ会合体を形成し、このナノ会合体中にアドリアマイシン等の抗ガン剤を薬物を安定に、また効率よく内包できる高分子ミセル医薬が得られることを明らかにしてきた(横山昌幸,他“ポリマーミセルを用いた新たなドラッグキャリアシステム”, Drug Delivery System, 6巻2号, 77〜81ページ, 1991年)。更に、この高分子ミセルを静脈内に注射すると、血液中で長期間安定に存在すること、また、その粒子径が数十nmであることからガン部位への集積性が高まり、内包された抗ガン剤の副作用の低減とともにその薬物の高い抗ガン活性を発現させることを明らかにしてきた。しかしながら、薬物のガンに対する治療効果を高めるためには、さらに高い組織指向性を有し、なおかつ、必要とする期間だけ薬物放出を行うという放出制御までも兼ね備えた薬物運搬体の開発が望まれている。【0006】【発明が解決しようとする課題】本発明は、温度変化によって目的部位への集積性を高めることが可能となる新規薬物運搬体、すなわち、特定の温度を境として低温側ではミセル形成、高温側では沈殿生成を可逆的に起こすような新しいブロック共重合体を提供することを目的とする。【0007】【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題に基づいて鋭意検討を加えた。その結果、アルキル置換基を有するアクリルアミド連鎖と比較的疎水性の大きい連鎖とを含むAB型ブロック共重合体が、温度に応答して可逆的にミセル形成と沈殿生成を生起する化合物であることを見い出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、下記一般式 (I)【0008】【化5】【0009】(式中、R1 およびR2 は同一または異なってもよく、水素原子またはアルキル基を表し、mは5〜500の整数を表す。)で示されるポリアクリルアミド誘導体の繰り返し単位からなる連鎖と、下記一般式 (II)【0010】【化6】【0011】(式中、R3 は水素原子、ハロゲン原子または低級アルキル基を表し、Zは無置換もしくは低級アルキル基、ペルフルオロアルキル基、アルキルオキシ基もしくはハロゲン原子で置換されているフェニル基、低級アルキル基、アルキルオキシ基、シアノ基又は−COOR4 で表される基(但し、R4 は水素原子又は炭化水素基を表す。)を表し、nは1〜500の整数を表す。)で示される繰り返し単位からなる連鎖とを含むブロック共重合体である。【0012】ポリアクリルアミド誘導体としては、例えばポリイソプロピルアクリルアミドが挙げられる。さらに、本発明は、前記ブロック共重合体を含む温度応答性高分子ミセルである。【0013】以下、本発明を詳細に説明する。本発明のブロック共重合体は、アルキル置換基を有するアクリルアミド連鎖と比較的疎水性の大きい連鎖とを含むAB型のブロック共重合体であり、水中で特定の温度を境に、低温側でミセルを形成して溶解していたものが高温側に移行すると凝集体を生じて沈殿を生成し、再び低温側に戻すとミセルを形成して溶解するという温度応答性を有する。【0014】ここで、特定の温度とは、ミセル形成と沈殿生成の境界となる温度を意味する。そして、ポリアクリルアミド誘導体の置換基を変えることにより、かかる境界の温度を広範囲に設定させることができる。上記温度は、通常5〜75℃であり、例えばポリアクリルアミド誘導体の置換基がノルマルプロピル基、シクロプロピル基、エチル基とすると、その境界温度をそれぞれ21.5℃、45.5℃、72℃とすることができる。また、ポリイソプロピルアクリルアミドとポリスチレンとのブロック共重合体の場合は、境界となる温度は30〜35℃、好ましくは32℃である。本発明のブロック共重合体の製造方法を以下に示す。本発明のブロック共重合体は、例えば一般式 (III)【0015】【化7】【0016】(式中、Aは一般式 (I)【0017】【化8】【0018】(式中、R1 およびR2 は同一または異なってもよく、水素原子またはアルキル基を表す)で表されるポリアクリルアミド誘導体の繰り返し単位からなる連鎖を表し、Xはアミノ基、カルボキシル基、水酸基、ハロゲン原子で置換されたアルキル基またはフェニル基を表す。)で示される片末端に官能基を有するポリマーと、一般式 (IV)【0019】【化9】【0020】(式中、Bは一般式 (II)【0021】【化10】【0022】(式中、R3 は水素原子、ハロゲン原子または低級アルキル基を表し、Zは無置換もしくは低級アルキル基、ペルフルオロアルキル基、低級アルキルオキシ基もしくはハロゲン原子で置換されているフェニル基、低級アルキル基、アルキルオキシ基、シアノ基又は−COOR4 で表される基(但し、R4 は水素原子又は炭化水素基を表す。)を表す。)で表される繰り返し単位からなる連鎖を表し、Yはアミノ基、カルボキシル基、水酸基、ハロゲン原子で置換されたアルキル基またはフェニル基を表す。)で示される片末端に官能基を有するポリマーとを、公知の方法で反応させることにより容易に得られる。ここで、式Iにおいて、アルキル基としては炭素数1〜6のものが挙げられ、直鎖でも分岐したものであってもよい。【0023】また、式IIにおいて、R3 のうち低級アルキル基としては炭素数1 〜6、Zのうち低級アルキルオキシ基としては炭素数1〜6、低級アルキル基としては炭素数1〜6のものが挙げられ、ハロゲン原子としてはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素、アスタチンが挙げられる。さらに、R4 のうち炭化水素基としては炭素数1〜15のアルキル基又は炭素数3〜12のシクロアルキル基が挙げられる。前記一般式 (I)で示されるポリアクリルアミド誘導体は、例えば一般式 (V)【0024】【化11】【0025】(式中、R1 およびR2 は前記と同様である。)で示されるモノマーを、一般式(VI)【0026】【化12】【0027】(式中、Xは前記と同様である。)で示される化合物の存在下、ラジカル重合法により製造できる。ハロゲン原子、アルキル基の具体例については、前記と同様である。【0028】ラジカル重合法には、バルク重合、溶液重合、乳化重合などの公知の方法を用いることができ、ラジカル開始剤の添加により効率よく開始される。反応に好適に用いられるラジカル開始剤としては、ジラウロイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどの有機過酸化物、又はα,α−アゾビスイソブチロニトリルやアゾビスシクロヘキサンカルボニトリルのようなアゾ化合物を例示することができる。【0029】この場合のラジカル重合反応に利用できる溶媒としては、例えば水、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、イソブタノール、ヘキサノール、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。反応は通常40℃〜100℃の範囲内で円滑に進行する。【0030】前記一般式(V)で表されるモノマーは公知化合物であり、ここで用いられるモノマーとしては、アクリルアミド、メチルアクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、エチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、メチルエチルアクリルアミド、n−プロピルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、ジプロピルアクリルアミド、ジイソプロピルアクリルアミド、メチルプロピルアクリルアミド、メチルイソプロピルアクリルアミド、エチルイソプロピルアクリルアミド、ブチルアクリルアミド、s−ブチルアクリルアミド、t−ブチルアクリルアミド、ジブチルアクリルアミド、メチルブチルアクリルアミド、エチルブチルアクリルアミド、プロピルブチルアクリルアミド、ペンチルアクリルアミド、ヘキシルアクリルアミド等を例示できる。【0031】一般式(VI)で示される化合物は公知であり、ここで用いられる化合物としては、アミノメタンチオール、アミノエタンチオール、アミノエタンチオール塩酸塩、3−アミノプロパンチオール、3−アミノプロパンチオール塩酸塩、2−アミノプロパンチオール、4−アミノブタンチオール、3−アミノブタンチオール、2−アミノブタンチオール、5−アミノペンタンチオール、6−アミノヘキサンチオール、8−アミノオクタンチオール、10−アミノデカンチオール、12−アミノドデカンチオール、18−アミノヘキサデカンチオール、2−アミノチオフェノール、4−アミノチオフェノール、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、2−メルカプトエタノール、3−メルカプトエタノール、3−メルカプトプロパノール、4−メルカプトブタノール、6−メルカプトヘキサノール、10−メルカプトデカノール、12−メルカプトドデカノール、16−メルカプトヘキサデカノール、4−ヒドロキシチオフェノール、2−クロロエタンチオール、2−ブロモエタンチオール、3−クロロプロパンチオール、4−ブロモブタンチオール、チオサリチル酸等を例示できる。一般式(II)で示されるポリマーは、例えば一般式(VII)【0032】【化13】【0033】(式中、R3 は前記と同様である。)で示されるモノマーを、前記と同様に一般式(VI)で示される化合物の存在下、ラジカル重合することにより容易に得られる。【0034】一般式(VII)で示されるビニル基を有するモノマーとしては、例えばスチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン、ペンタフルオロスチレンなどのスチレン誘導体、エチレン、プロピレン、ブテン、イソプレンなどのアルケン類、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、オクチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ポリフルオロアクリレート、p−フルオロフェニルアクリレート、m−トリフルオルメチルフェニルアクリレートなどのアクリル酸エステル類、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、ペルフルオロアルキルメタクリレートなどのメタクリル酸エステル類、アクリロニトリルなどが挙げられる。【0035】本発明のブロック共重合体はAB型、すなわち、ポリマー中に一種類の単量体のみからなるAという連鎖と、別の一種類の単量体のみからなるBという連鎖がブロック状に結合した構造を有しており、一般式(III)で示されるポリマーと、一般式(IV)で示されるポリマーとを反応させることにより得ることができる。この場合、一般式(III)で示されるポリマーと一般式(IV)で示されるポリマーとの組み合わせとしては、それぞれのポリマーの片末端の置換基XおよびYが異なっていることが好ましい。すなわち、一般式(III)または一般式(IV)で示されるポリマーの片末端の置換基X又はYがカルボキシル基で置換されたアルキル基またはフェニル基の時は、それぞれ反応させる一般式(IV)または一般式(III)で示されるポリマーの片末端の置換基Y又はXは、水酸基、アミノ基で置換されたアルキル基またはフェニル基であることが反応の容易さの点で好ましい。【0036】例えば、一般式(III)で示されるポリマーの片末端の置換基Xがカルボキシル基である場合は、一般式(IV)で示されるポリマーの片末端の置換基Yを水酸基とし、両ポリマー同士を酸性触媒の存在下で容易に反応させてエステル結合を生成し、ブロック共重合体が得られる。【0037】反応に用いられる酸性触媒としては、硫酸、塩酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、無水トリフルオロ酢酸、無水トリフルオロメタンスルホン酸が例示できる。この反応は有機溶媒中で行うことが好ましく、用いられる溶媒としては、ポリマーを溶解するが反応に関係しないものであればいずれのものでもよく、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。反応は通常0℃〜100℃の範囲内で円滑に進行する。【0038】さらに、一般式(III)または一般式(IV)の片末端の置換基X又はYをカルボキシル基から酸塩化物に変換することにより、それぞれ片末端の置換基Y又はXが水酸基、アミノ基である一般式(IV)または一般式(III)のポリマーと容易に反応して、それぞれエステル結合またはアミド結合を生成してブロック共重合体が得られる。酸塩化物への変換は、塩化チオニル、三塩化リン、五酸化リンなどを用いて公知の方法により容易に合成できる。片末端が酸塩化物のポリマーと片末端がアミノ基または水酸基のポリマーとを反応させるときは、有機溶媒中、不活性ガス雰囲気下において好適に進行する。用いられる溶媒としては、ポリマーを溶解するが反応に関係しないものであればいずれのものでもよく、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。【0039】この反応は塩基性物質存在下で行うことが好ましく、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化アルミニウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウムリン酸ナトリウム、水素化ナトリウム、水素化カルシウム、ピリジン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン等が好適に用いられる。【0040】一般式(III)または一般式(IV)の片末端の置換基X又はYがカルボキシル基の場合は、縮合剤を用いることにより片末端の置換基Y又はXが水酸基、アミノ基であるそれぞれの一般式(IV)または一般式(III)のポリマーと容易に反応して、それぞれエステル結合またはアミド結合を生成してブロック共重合体が得られる。【0041】この反応で用いられる縮合剤としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、N−エチル−N’−3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド、ベンゾトリアゾール−1−イル−トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロリン化物ジフェニルホスホリルアジド等が例示でき、単独で、又はN−ヒドロキシスクシンイミド、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール等と組み合わせて用いられる。この際、有機溶媒中で行うことが好ましく、用いられる溶媒としてはポリマーを溶解するが反応に関係しないものであればいずれのものでもよく、例えばクロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。反応は通常0℃〜100℃の範囲内で円滑に進行する。【0042】一般式(III)または一般式(IV)で示されるポリマーの片末端の置換基X又はYがハロゲン原子で置換されたアルキル基またはフェニル基の時は、それぞれ一般式(IV)または一般式(III)で示されるポリマーの片末端の置換基Y又はXはアミノ基、水酸基で置換されたアルキル基またはフェニル基であることが反応の容易さの点で望ましい。【0043】一般式(III)または一般式(IV)で示されるポリマーの片末端のハロゲン原子で置換されたアルキル基またはフェニル基は、一般式(III)または一般式(IV)で示されるポリマーの片末端の置換基のアミノ基と容易に反応して、アミノ結合を介してブロック共重合体が得られる。反応は有機溶媒中で行うことが好ましく、用いる溶媒としては反応に関与しないものであればいずれのものでもよく、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ジエチルエーテル、プロピルエーテル、イソプロピルエーテル、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等を例示できるがこれらに限定されるものではない。【0044】一般式(III)または一般式(IV)で示されるポリマーの片末端のハロゲン原子で置換されたアルキル基またはフェニル基は、一般式(III)または一般式(IV)で示されるポリマーの片末端の置換基の水酸基と容易に反応して、エーテル結合を介してブロック共重合体が得られる。【0045】反応は有機溶媒中、不活性ガス雰囲気下において好適に進行する。用いる溶媒としては反応に関与しないものであればいずれのものでもよく、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等を例示できるがこれらに限定されるものではない。この反応は塩基性物質存在下で行うことが好ましく、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化アルミニウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、水素化ナトリウム、水素化カルシウム等が好適に用いられる。【0046】本発明の高分子ミセルは、本発明のブロック共重合体を有機溶媒に溶解し、水への透析を行うことにより作成できる。ここで用いられる有機溶媒としては、水と自由に混合するものであればいずれのものでもよく、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジオキサン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等を挙げることができが、これらに限定されるものではない。また、用いる透析膜はポリマーを溶解させる有機溶媒に対して耐溶剤性があれば特に限定はなく、例えば、セルロース系のような様々なポアサイズを有する市販の多孔膜が好適に用いられる。【0047】また、本発明のブロック共重合体から形成される温度応答性ミセルは、比較的疎水性の大きい連鎖が水中で凝集して核を形成し、その周りをポリアクリルアミド誘導体が取り囲む構造を有している。ポリアクリルアミド誘導体は連鎖固有の温度を境に低温側では溶解し、また高温側では凝集構造を形成して不溶化する。従って、本発明の高分子ミセルにおいては低温側ではミセル形成に基づいて溶解し、高温側では不溶化して沈殿する。この沈殿物を再び冷却すると、再びミセル構造をとり溶解し、この溶解と沈殿形成は温度変化に対して可逆的である。ポリイソプロピルアクリルアミドとポリスチレンとを含むブロック共重合体が形成する高分子ミセルを一例として、その模式図を図3に示す。【0048】【発明の実施の形態】以下、製造例、実施例により本発明を更に具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されないことはもちろんである。【0049】〔製造例1〜2〕ポリアクリルアミド誘導体のポリマーの合成表1記載の量イソプロピルアクリルアミド(IPAAm)、アミノエタンチオール(AESH)、アゾビスイソブトロニトリル(AIBN)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)をガラス製重合管にいれ、常法により脱気、封管した。所定時間、70℃で攪拌した後、大量のジエチルエーテルに沈殿させた。沈殿したポリマーを回収、乾燥した後、N,N-ジメチルホルムアミドに再び溶解させ、大量のジエチルエーテルに沈殿させた。沈殿物を回収、真空乾燥して、表1記載の量の片末端にアミノ基を有するポリマーを得た。末端基定量を行った結果、数平均分子量は製造例1および2で、それぞれ42,000および25,000であり、IPAAmの平均重度mはそれぞれ、370および220であった。【0050】【表1】【0051】反応式を以下に示す。【0052】【化14】【0053】〔製造例3〜4〕片末端にカルボキシル基を有するポリマーの合成スチレン(St)、メルカプトプロピオン酸(MEPA)、アゾビスイソブトロニトリル(AIBN)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)をガラス製重合管にいれ、常法により脱気、封管した。70℃で所定時間攪拌した後、大量のメタノールに沈殿させた。沈殿したポリマーを回収、乾燥した後、N,N-ジメチルホルムアミドに溶解させ、再び大量のメタノールに沈殿させた。沈殿物を回収、真空乾燥して、表2記載の量の片末端にカルボキシル基を有するポリマーを得た。末端基定量を行った結果、数平均分子量は、製造例3および4でそれぞれ4,600と16,000であり、平均重合度nはそれぞれ45と150であった。【0054】【表2】【0055】反応式を以下に示す。【0056】【化15】【0057】〔実施例1〕製造例1で得られた片末端にアミノ基を有するポリイソプロピルアクリルアミド0.46g、製造例3で得られた片末端にカルボキシル基を有するポリスチレン0.54g、及びN−ヒドロキシスクシンイミド0.021gを7mlのジオキサンに溶解させた。0.037gのジシクロヘキシルカルボジイミドを2mlのジオキサンに溶解させた溶液を氷冷下、ゆっくり滴下させた。24時間、室温で攪拌した後、析出物を濾別、濾液を濃縮し、40℃に加温したシクロヘキサンに沈殿させることにより、過剰量のポリスチレンを除去した。沈殿物を回収し、乾燥させ、再びジオキサンに溶解、加温したシクロヘキサンに沈殿させて精製した。沈殿したポリマーを回収、真空乾燥させて、イソプロピルアクリルアミドとスチレンからなるブロック共重合体を0.40g得た。得られたブロックコポリマーの赤外吸収スペクトル分析および1H-NMRスペクトル分析の結果を以下に示す。1H-NMRスペクトルデータ中、「"H"」で表される記号はそのケミカルシフトに帰属されるプロトンを示すものとする。【0058】IR ν (KBr, cm-1); 3440, 3300 3080, 2970, 2940, 1650, 1550, 1460, 1390, 1370, 1170, 1130, 7001H-NMR δ (ppm, CDCl3);1.05〜1.25(m, -CH(C"H"3)2)、 1.25〜2.40(m, -C"H"2C"H"-(イソプロピルアクリルアミド連鎖に基づく) および-C"H"2C"H"-(スチレン連鎖に基づく))、 4.00(m -C"H"(CH3)2、5.80〜6.50(m, -CON"H"-)、6.50〜7.30(m, ベンゼン環)また、得られたイソプロピルアクリルアミドとスチレンとを含むブロック共重合体中の各連鎖の重合度比m:nを元素分析のC%とN%の比から求めると、計算値 m:n=89:11観測値(元素分析から) m:m=89:11となり、目的とするイソプロピルアクリルアミドとスチレンとを含むブロック共重合体の合成が確認された。反応式を以下に示す。【0059】【化16】【0060】〔実施例2〕製造例4で得られた片末端にカルボキシル基を有するポリスチレン0.31gを含む1.56mlのジオキサン溶液に0.06mlの塩化チオニルを加え、60℃で二日間攪拌した。凍結乾燥により溶媒および過剰量の塩化チオニルを除去した後、0.004gのトリエチルアミンと1.56mlのジオキサンを加えた。製造例2で得られた片末端にアミノ基を有するポリイソプロピルアクリルアミド0.047gを含む3mlのピリジン溶液を加え、45℃で二日間反応させた。反応混合液を減圧濃縮した後、2mlのジオキサンを加え、ジエチルエーテルに沈殿させた。得られた沈殿物を回収、減圧乾燥させて、イソプロピルアクリルアミドとスチレンとを含むブロック共重合体を0.078g得た。得られたブロックコポリマーの赤外吸収スペクトル分析を行った結果、スペクトルは実施例1で得られた化合物と同一であった。1H-NMRスペクトル分析結果はピークの強度比が異なるだけで実施例1で得られた化合物と同一であった。また、得られたイソプロピルアクリルアミドとスチレンとを含むブロック共重合体中の各連鎖の重合度比m:nを元素分析のC%とN%の比から求めると、計算値 m:n=53:47観測値(元素分析から) m:m=59:41となり、目的とするイソプロピルアクリルアミドとスチレンとを含むブロック共重合体の合成が確認された。反応式を以下に示す。【0061】【化17】【0062】〔実施例3〜4〕実施例1で得られたイソプロピルアクリルアミドとスチレンとを含むブロック共重合体50.0mgを6.0mlのDMFに溶解させ、5℃で一晩攪拌した。この溶液をポアサイズ0.5mmのメンブランフィルターで濾過後、分画分子量12,000のセルロース製の透析チューブに入れ、蒸留水中で25時間透析を行った。蒸留水は45、60、90、120分後に交換した。透析終了後、凍結乾燥により40.5mgの乾燥試料が得られた。【0063】実施例2で得られたブロック共重合体の場合は、20.0mgの試料を3.0mlのDMFの試料から同様の方法で透析を行い、16.0mgの乾燥試料が得られた。得られた試料の100mg/ml、50mg/ml、25mg/ml、10mg/ml、7.5mg/ml、5mg/ml、2.5mg/mlの水溶液を調整し、それぞれの水溶液にピレンの4.8×10-4M のエタノール溶液を加え、全体のピレン濃度を6.0×10-7M に調整した。【0064】実施例1および2から得られたそれぞれのサンプル溶液の蛍光スペクトルを測定した結果を図1に示す。図1より、実施例1および2で得られたイソプロピルアクリルアミドとスチレンとを含むブロック共重合体は水溶液中でミセルを形成し、その臨界ミセル濃度は10mg/lであることが確認された。【0065】〔実施例5〜6〕実施例1および2で得られたイソプロピルアクリルアミドとスチレンとを含むブロック共重合体2.0mgを2mlの蒸留水に溶解させ、動的光散乱測定を行った。測定の結果、実施例1のブロック共重合体から得られたミセルの数平均粒径がそれぞれ98.0nm、重量平均粒径が127.8nmであり、実施例2のブロック共重合体から得られたミセルの数平均粒径がそれぞれ125.1nm、重量平均粒径が147.4nmであったことから、実施例1および2で得られたブロック共重合体は水中で粒径のそろった高分子ミセルを形成することが確認された。【0066】〔実施例7〜8〕実施例1および2で得られたブロック共重合体0.5%の水溶液を調整し、紫外・可視分光光度計を用いて、500nmの透過度を測定することにより温度応答性を調べた。温度と500nmの可視光の透過度の関係を図2に示す。32.0℃で急激に透過度が減少し、透明な水溶液から濁った水溶液へ変化した。この温度でミセル形成から凝集体へ転移したことを表しており、実施例1および2で得られたブロック共重合体により形成されるミセルは水溶液中で温度応答性を示すことが確認された。【0067】【発明の効果】本発明により、特定の温度を境として低温側ではミセル形成、高温側では沈殿生成を可逆的に起こすような新しいブロック共重合体が提供される。本発明のブロック共重合体は、水中で粒径のそろった安定な高分子ミセルを形成し、なおかつ温度応答性を合わせ持つことから、特に、長期投与が必要な薬物、分解し易い薬物の運搬体として注射剤に好適に用いられるが、経口、経鼻、経肺、経膣などの経粘膜吸収を目的とした製剤や経皮吸収へも用いることができる。外部からの加える温度に応答して、患部への薬物の集積性を高めたり、炎症反応などのために上昇した患部へ高分子ミセル自身が自ら集積するなど、これまで集積性の点で問題を有していた従来の薬物運搬体の問題点を解決できる。さらに、化粧用としても使用可能であるなど極めて有用である。【図面の簡単な説明】【図1】ブロック共重合体の濃度とピレン蛍光スペクトルにおける374nmと386nmのピーク強度比との関係を示す図。【図2】ブロック共重合体からなる高分子ミセル水溶液の温度と500nmでの可視光透過度との関係を示す図。【図3】本発明のブロック共重合体による高分子ミセル形成の摸式図。 下記一般式(I)(式中、R1およびR2は同一または異なってもよく、R1は水素原子またはイソプロピル基、ノルマルプロピル基、シクロプロピル基もしくはエチル基を表し、R2はイソプロピル基、ノルマルプロピル基、シクロプロピル基もしくはエチル基を表し、mは5〜500の整数を表す。)で示されるポリアクリルアミド誘導体の繰り返し単位からなる連鎖と、下記一般式(II)(式中、R3は水素原子、ハロゲン原子または低級アルキル基を表し、Zは無置換もしくは低級アルキル基、ペルフルオロアルキル基、アルキルオキシ基もしくはハロゲン原子で置換されているフェニル基、低級アルキル基、アルキルオキシ基、又はシアノ基を表し、nは1〜500の整数を表す。)で示される繰り返し単位からなる連鎖とを含むAB型ブロック共重合体。 ポリアクリルアミド誘導体がポリイソプロピルアクリルアミドである請求項1記載のブロック共重合体。 片末端に官能基を有する一般式(I)で示されるポリアクリルアミド誘導体の繰り返し単位からなる連鎖と、片末端に官能基を有する一般式(II)で示される繰り返し単位からなる連鎖とを反応させて得られるものである、請求項1又は2記載のブロック共重合体。 下記一般式(I)(式中、R1およびR2は同一または異なってもよく、R1は水素原子またはイソプロピル基、ノルマルプロピル基、シクロプロピル基もしくはエチル基を表し、R2はイソプロピル基、ノルマルプロピル基、シクロプロピル基もしくはエチル基を表し、mは5〜500の整数を表す。)で示されるポリアクリルアミド誘導体の繰り返し単位からなる連鎖と、下記一般式(II)(式中、R3は水素原子、ハロゲン原子または低級アルキル基を表し、Zは無置換もしくは低級アルキル基、ペルフルオロアルキル基、アルキルオキシ基もしくはハロゲン原子で置換されているフェニル基、低級アルキル基、アルキルオキシ基、シアノ基又は−COOR4で表される基(但し、R4は水素原子又は炭化水素基を表す。)を表し、nは1〜500の整数を表す。)で示される繰り返し単位からなる連鎖とを含むAB型ブロック共重合体を含む温度応答性高分子ミセル。 ポリアクリルアミド誘導体がポリイソプロピルアクリルアミドである請求項3記載の温度応答性高分子ミセル。 AB型ブロック共重合体が、片末端に官能基を有する一般式(I)で示されるポリアクリルアミド誘導体の繰り返し単位からなる連鎖と、片末端に官能基を有する一般式(II)で示される繰り返し単位からなる連鎖とを反応させて得られるものである、請求項4又は5記載の温度応答性高分子ミセル。