タイトル: | 特許公報(B2)_糸状菌の培養方法 |
出願番号: | 1995272143 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,C12N1/14 |
佐藤 宏次 堺田 明美 JP 3679474 特許公報(B2) 20050520 1995272143 19950927 糸状菌の培養方法 株式会社興人 000142252 佐藤 宏次 堺田 明美 20050803 7 C12N1/14 C12N1/14 C12R1:69 C12N1/14 C12R1:82 JP C12N1/14 B C12N1/14 C C12N1/14 B C12R1:69 C12N1/14 B C12R1:82 7 C12N 1/14 C12P 1/00-1/06 BIOSIS/WPI(DIALOG) 特開昭60−214878(JP,A) 特開平05−076378(JP,A) 特開昭59−205978(JP,A) 1 1997084578 19970331 6 20020411 飯室 里美 【0001】【産業上の利用分野】本発明は、糸状菌の培養においてその形態を制御する方法に関する。【0002】【従来の技術】糸状菌(かび)は産業への利用として長い歴史を有しているが、培養形態としてその名の示すとおり糸状状態を成し、他の一般的微生物に比べ菌体の培養液からの分離が非常に困難である。例えば、酵母、大腸菌などの微生物の分離には遠心法、膜法など簡便でクリーンな方法が用いられるが、糸状菌においてはその形態から、珪藻土を使用した濾過法が最も一般的である。【0003】珪藻土を使用する菌体分離法は、作業も煩雑で作業環境も悪く、更に使用済み珪藻土の廃棄物処理も必要である等の、多くの問題を抱えていることから、この方法によらなければ菌体を分離できない糸状菌培養方法は、やはり問題を抱えていると言わざるを得ない。【0004】【発明が解決しようとする課題】かかる状況に鑑み、簡便に菌体を分離すべく、糸状菌培養において種菌に用いられる胞子数を制御する事により、培養菌体をペレット化させる研究が報告されている(J. Fermentation & Bioengineering 1993 76 470、等)。しかしながら、培養に入るための初発胞子数を制御する方法は非常に煩雑であり、低胞子濃度での培養は誘導期を延長させ、製造プロセスの遅延を引き起こす。また、液体培養における攪拌回転数等の物理的培養条件の変更によるペレット化の報告もされている(Acta. Biotechnol. 1989 9 149、等)が、製造プロセスに対応できる特殊な装置を必要とし、かつペレット化も十分とはいい難い。【0005】【課題を解決するための手段】 本発明者らは、以上のような問題点を解決するため鋭意検討を重ねた結果、Aspergillus属又はPenicilliumu属の糸状菌の攪拌式発酵槽を用いた培養の培地組成において、酵母エキス、ペプトンから選ばれた1種以上の天然窒素源を0.5〜1.5%添加し、界面活性剤を添加しないことにとり、容易に該糸状菌を培養過程で直径1〜5mmのペレットにさせ得ること、分離も非常に容易であることを見いだし、本発明を完成するに至った。 即ち、本発明は、天然窒素源を使用した、簡便で工業的に有利な、糸状菌をペレット形状に増殖させる培養方法を提供するものである。【0006】 以下、本発明を詳細に説明する。 本発明で使用される天然窒素源は、酵母エキスあるいはペプトンである。これら天然窒素源は、培地に0.5〜1.5%添加される。0.5%未満では糸状菌のペレット化が十分ではなく、また1.5%を超えて使用しても添加量に見合った効果は期待されない。【0007】 本発明で使用される糸状菌は、その液体培養形態においてハルピーとペレットの両形態を有することが可能なもので、Aspergillus属、Penicillium属のものである。【0008】 本発明の攪拌式発酵槽を用いた培養方法は、天然窒素源として酵母エキスあるいはペプトンを0.5〜1.5%使用し、界面活性剤を添加しない以外は、公知の糸状菌の培養に用いられる培地組成、培養条件で実施される。【0009】通常、糸状菌の寒天固体培地には、酵母エキスあるいはペプトンが使用されるが、その使用量は0.3〜0.5%程度が一般的である。使用量の多い例としては、特開平5−76378号公報には、コウジ酸を生産する糸状菌の液体培養においてペプトン0.7%を使用したことが記載されているが、この報告では界面活性剤の影響により菌体のペレット化の記載はない。本発明の培養方法によれば、糸状菌をペレット形状に増殖させることができるため、培養後の分離が容易で、珪藻土等を使用することなく、遠心法、膜法など簡便でクリーンな方法で分離することができる。【0010】【実施例】次に実施例及び比較例をあげて本発明の方法を説明する。実施例1 酵母エキスによる糸状菌培養菌体のペレット化Czapek−Dox斜面寒天固体培地にて増殖させたAspergillus oryzae(IAM2024)の胞子を、500mlの坂口フラスコに分注し滅菌したグルコース2%、酵母エキス1%、Tween800.1%を組成とする培地100ml(pH4.0)に接種し、30℃で48時間振とう培養(200rpm)したものから更に同様の培地1Lを分注し滅菌した5L三角フラスコに全量を接種し、30℃で48時間振とう培養(210rpm)したものを種菌とした。発酵培地の培地組成はグルコース10%、酵母エキス0.7%、リン酸一カリウム0.1%、硫酸マグネシウム0.05%、シリコン0.05%(pH4.0)とした。この発酵培地18Lを30L容通気攪拌式発酵糟に入れ、121℃で15分殺菌後、種菌を対液10%接種し温度30℃、通気量0.8VVM、内圧1kg/cm2、250rpmの回転数で7日間培養を行った。この培養において培養3日目より培養菌体のペレット化が観察されはじめ培養7日目には全培養菌体の70〜90%がペレット化した。形成された菌体ペレットは球形から楕円形(卵形)を有し、その直径サイズは1〜5mmであった。【0011】実施例2〜4 添加酵母エキス濃度による菌体ペレット化の比較実施例1の方法に準じ、発酵培地の酵母エキス濃度を0.5%、1.0%、1.5%と変えて培養を行った。酵母エキス濃度1.0%以上では培養2日目よりペレット化が観察された。7日目のペレット化菌体の直径サイズは実施例1と差違はなかった。また、0.5%濃度のものは実施例1と同じであった。【0012】実施例5 ペプトンによる糸状菌培養菌体のペレット化実施例1の方法に準じ、発酵培地組成のうち酵母エキスの代わりにペプトン0.75%を添加し培養を行った。この培養において培養3日目より培養菌体のペレット化が観察されはじめ培養7日目には全培養菌体の70〜90%がペレット化した。形成された菌体ペレットは球形から楕円形(卵形)を有し、その直径サイズは1〜5mmであった。【0013】実施例6〜8 添加ペプトン濃度による菌体ペレット化の比較実施例5の方法に準じ、発酵培地のペプトン濃度を0.5%、1.0%、1.5%と変えて培養を行った。ペプトン濃度1.0%以上では培養2日目よりペレット化が観察された。7日目のペレット化菌体の直径サイズは実施例5と差違はなかった。また、0.5%濃度のものは実施例5と同じであった。【0014】比較例1実施例1において、酵母エキス濃度を0.25%とした以外は実施例1と同様に培養することにより、培養液を得た。【0015】実施例9 酵母エキスによる糸状菌培養菌体のペレット化Czapek−Dox斜面寒天固体培地にて増殖させたPenicillium chrysogenum(IMA7106)の胞子を、500mlの坂口フラスコに分注し滅菌したグルコース2%、酵母エキス1%、Tween800.1%を組成とする培地100ml(pH4.0)に接種し、30℃で48時間振とう培養(200rpm)したものから更に同様の培地1Lを分注し滅菌した5L三角フラスコに全量を接種し、30℃で48時間振とう培養(210rpm)したものを種菌とした。発酵培地の培地組成はグルコース10%、酵母エキス0.7%、リン酸一カリウム0.1%、硫酸マグネシウム0.05%、シリコン0.05%(pH4.0)とした。この発酵培地18Lを30L容通気攪拌式発酵糟に入れ、121℃で15分殺菌後、種菌を対液10%接種し温度30℃、通気量0.8VVM、内圧1kg/cm2、250rpmの回転数で7日間培養を行った。この培養において培養3日目より培養菌体のペレット化が観察されはじめ培養7日目には全培養菌体の70〜90%がペレット化した。形成された菌体ペレットは球形から楕円形(卵形)を有し、その直径サイズは1〜5mmであった。【0016】評価例1 ペレット化菌体と非ペレット化菌体における濾過速度の比較実施例1及び比較例1で製造した培養液を用い、濾過試験を行った。濾過試験は、内径11cmの磁器製ヌッチェに東洋濾紙製No.2を引き、各培養液1Lを濾過し、その時間及び濾液の濁りについて吸光度OD660にて測定した。結果を表1に示した。【0017】【表1】【0018】評価例2 ペレット化菌体と非ペレット化菌体における濾過速度の比較−2評価例1と同じ培養液を用い、目開き20メッシュの金網による濾過試験を行った。濾過試験は内径30cmのステンレス製篩にて、各培養液1Lを濾過し、その時間を測定した。また、濾液の濁りについて吸光度OD660にて測定した。結果を表2に示した。【0019】【表2】【0020】【発明の効果】以上説明してきた通り、本発明の培養方法によると、従来その特徴的な培養菌体の形態から、緻密な培養条件の設定、あるいは培養終了後の添加剤による凝集化等に依らなければ珪藻土等の濾過助剤なしで菌体分離は困難であった糸状菌を、容易に分離することが可能となり、従来もっとも多く使用されている、内径1mm程度の中空糸を用いた精密濾過膜等でも容易に分離が可能なため、作業環境、地球環境に優しい製造工程を提供することが可能となる。 Aspergillus属又はPenicillium属の糸状菌の攪拌式発酵槽を用いた培養方法において、培地成分として、酵母エキス、ペプトンから選ばれる1種以上の天然窒素源を0.5〜1.5%使用し、界面活性剤を添加しないことを特徴とする、糸状菌を直径1〜5mmのペレット形状に増殖させる培養方法。