生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_ビール酵母及び該ビール酵母の育種法
出願番号:1995243840
年次:2007
IPC分類:C12N 1/16,C12C 11/00,C12G 1/00,C12R 1/865,C12R 1/85


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佐藤 雅英 JP 3946279 特許公報(B2) 20070420 1995243840 19950830 ビール酵母及び該ビール酵母の育種法 サッポロビール株式会社 303040183 矢野 裕也 100086221 佐藤 雅英 20070718 C12N 1/16 20060101AFI20070628BHJP C12C 11/00 20060101ALN20070628BHJP C12G 1/00 20060101ALN20070628BHJP C12R 1/865 20060101ALN20070628BHJP C12R 1/85 20060101ALN20070628BHJP JPC12N1/16C12C11/00C12G1/00C12N1/16C12R1:865C12R1:85 C12N 1/16 C12C 11/00 C12G 1/00 C12R 1/865 C12R 1/85 MEDLINE(STN) BIOSIS/WPI(DIALOG) Science Direct JMEDPlus(JDream2) JST7580(JDream2) JSTPlus(JDream2) 食品関連文献情報(食ネット) 日本醸造協会誌,1993年,第88巻第9号,第708〜713頁 J. Ferment. Bioeng.,1994年,Vol.77, No.4 ,p.432-435 Brauwelt,1985年,Vol.125, No.22,p.1252-1257 J.Inst.Brew.,1986年,Vol.92,p.594-59 3 FERM P-15095 1997065874 19970311 8 20020822 左海 匡子 【0001】【発明の属する技術分野】 本発明はビール酵母及び該ビール酵母の育種法に関し、詳しくは通常約20℃で発酵する上面ビール酵母に、低温でも生育・発酵が可能でありメリビオース資化能を有する低温発酵性ワイン酵母を掛け合わせることにより、親株に変異処理を施すことなく選抜された、10℃以下の低温でも麦汁を発酵できる新規な下面様ビール酵母及び該ビール酵母の育種法に関する。【0002】【従来の技術】ビール酵母は、上面ビール酵母と下面ビール酵母に分類されており、ここで述べる上面ビール酵母は、ビール醸造に使用する酵母で、約20℃で良好に発酵し、発酵中に酵母が塊を形成して浮かび上がってくる株と定義され、下面ビール酵母は、同じくビール醸造に使用する酵母で、10℃以下の低温で良好に発酵し、かつ主発酵終了時に発酵槽の底に沈降する株と定義される。また、一般に上面ビール酵母は、メリビオース資化能を有していないのに対し、下面ビール酵母は、メリビオース資化能を有することにおいても識別される。【0003】近年、酵母の育種が盛んに行われているが、ビール酵母、特に下面ビール酵母は、胞子形成能,接合能が弱いため、有性交雑による育種例は非常に少ない。これまでの育種例として、Bilinskiらは上面ビール酵母と下面ビール酵母からそれぞれ単相栄養細胞を取得し、マニュピレーターを用いて細胞対細胞で交雑させ、交雑株を糖の資化性、ジャイアントコロニーの形態などで選択した(Bilinski,C.A. et al.: J.Inst.Brew.,92:594,1986)。この交雑株について、麦汁を用いて発酵試験を行った結果、交雑株は15℃で良好な発酵能を示した。しかし、交雑株の10℃以下の低温での発酵能に関して記載したものはない。また、この方法はあくまでも一部のビール酵母において適用可能であり、胞子形成能や接合能が弱い株並びにホモタリックな株に関しては適用することができない。【0004】ところで、岸本らは、低温(約7℃)で良好に生育・発酵するワイン酵母YM84株(RIFY1114)またはYM126株(RIFY1216)と、中温(約28℃)で良好に生育・発酵するワイン酵母OC−2株(IAM4274)を交配し、低温から中温で良好に生育・発酵するワイン酵母の育種を行っている(Kishimoto,M.: J.Ferment.Bioeng.77 (4): 432,1994)。この場合、ワイン酵母は高い胞子形成能を持つため、マニュピレーターを用いて胞子対胞子で交配し、人為的に付与したアミノ酸要求の相補により交雑株を取得している。【0005】また、従来のRare-Mating や細胞融合では、交雑株の生じる頻度が極めて低いので、交配に使用する親株には、例えばそれぞれ異なる栄養要求性や薬剤耐性などの選択マーカーを付与し、交雑株のみが生育できる選択培地で交雑株を選択している。しかし、一般にビール酵母を含む産業用酵母は、選択マーカーを持っていないため、エチルメタンスルホン酸(EMS)処理や紫外線(UV)照射などの変異処理、遺伝子破壊などによって選択マーカーを持つ株が造成されるが、変異処理により実用的に優れた性質が失われたり、劣化する恐れがある。また、ビール酵母は高次倍数体であるため、容易に変異株が得られないという問題がある。【0006】【発明が解決しようとする課題】 本発明は、親株に変異処理を施すことなく選抜された、10℃以下の低温で発酵可能な下面様ビール酵母並びに該ビール酵母の有性交雑による育種法の提供を目的とするものである。【0007】【課題を解決するための手段】 本発明者らは、接合能を持つ上面ビール酵母である、35℃の温度で生育可能でありメリビオース資化能を有さないサッカロミセス・セレビシエ Doemens No.338株に、低温発酵性ワイン酵母である、35℃の温度で生育不可能でありメリビオース資化能を有するサッカロミセス・バイヤナスYM84株(RIFY1114)を、有性交雑により掛け合わせ、30〜40℃の温度帯での生育能およびメリビオース資化能を有する交雑株を選抜することにより、上面ビール酵母に10℃以下での生育・発酵能が付与された新規な下面様ビール酵母であるサッカロミセス・Hy001株(FERM P−15095)を創製できることを見出し、本発明を完成した。【0008】 すなわち、請求項1に記載の本発明は、35℃の温度で生育可能でありメリビオース資化能を有さないサッカロミセス・セレビシエ Doemens No.338株と、35℃の温度で生育不可能でありメリビオース資化能を有するサッカロミセス・バイヤナスYM84株(RIFY1114)とを有性交雑し、30〜40℃の温度帯での生育能およびメリビオース資化能を有する交雑株を選抜することにより、親株に変異処理を施すことなく選抜された10℃以下で発酵可能なサッカロミセス・Hy001株(FERM P−15095)である。 請求項2に記載の本発明は、35℃の温度で生育可能でありメリビオース資化能を有さないサッカロミセス・セレビシエ Doemens No.338株と、35℃の温度で生育不可能でありメリビオース資化能を有するサッカロミセス・バイヤナスYM84株(RIFY1114)を胞子対胞子でランダムに交雑し、30〜40℃の温度帯での生育能およびメリビオース資化能を有する交雑株を選抜することを特徴とする、請求項1記載のサッカロミセス・Hy001株の育種法である。 請求項3に記載の本発明は、35℃の温度で生育可能でありメリビオース資化能を有さないサッカロミセス・セレビシエ Doemens No.338株と、35℃の温度で生育不可能でありメリビオース資化能を有するサッカロミセス・バイヤナスYM84株(RIFY1114)のそれぞれの胞子懸濁液を混合して培養し、得られた混合培養液を寒天培地にて35℃で培養し、生育したコロニーの中から微生物を採取し、メリビオース資化能を有する交雑株を選抜することを特徴とする、請求項2記載のサッカロミセス・Hy001株の育種法である。【0009】【発明の実施の形態】一般に、ワイン酵母は高い子嚢胞子形成能を持っているが、ビール酵母のうち特に下面ビール酵母はほとんど胞子を形成しない。また、上面ビール酵母で胞子を形成する株の場合でも、その胞子形成能はワイン酵母に比べると非常に低く、胞子の発芽率も低いことが知られている。そこで、本発明者らは、ビール酵母とワイン酵母を交雑するに際して、マニュピレーターを用いた1対1の交雑は行わないで、ランダムに胞子対胞子で交雑を行う方法を採用した。すなわち、上面ビール酵母と低温発酵性ワイン酵母をそれぞれ胞子形成培地で培養して子嚢胞子を形成させ、胞子対胞子でランダムに交雑を行い、その後の交雑株の選択は、生育温度と糖の資化性の相違を利用して行った。このようにして得られた交雑株については、パルスフィールド電気泳動による核型解析を行い、交雑株であることを確認した後、低温(10℃)の条件で、麦汁を用いた発酵試験を行った。その結果、低温での生育・発酵能を有することを知見したのである。また、この交雑株はメリビオース資化能を有し、主発酵終了時に発酵槽の底に沈降するという性質も備えていることが判明した。【0010】本発明に用いる上面ビール酵母としては、サッカロミセス・セレビシエに属するものがあり、特にサッカロミセス・セレビシエ Doemens No.338株が好適である。この酵母は35℃で生育可能であり、メリビオースを資化しない。また、低温発酵性酵母としては、サッカロミセス属に属し、メリビオース資化性を有するワイン酵母が用いられ、サッカロミセス・バイヤナスに属するもの、具体的にはサッカロミセス・バイヤナスYM84株(RIFY1114),同YM126株(RIFY1216)等があり、特にサッカロミセス・バイヤナスYM84株(RIFY1114)が好適である。酵母YM84株は低温発酵性であり、35℃で生育不可能であるが、約7℃という低温で生育・発酵することができ、メリビオースを資化する能力を有する。上記のように、これら親株は、生育温度と糖の資化性において明らかに相違している。すなわち、上面ビール酵母は35℃で生育可能であるが、低温発酵性酵母はこの温度では生育しない。また、前者はメリビオースを資化しないが、後者はメリビオースを資化する。【0011】交雑株の育種は、前記したように、上面ビール酵母と低温発酵性ワイン酵母をそれぞれ胞子形成培地で培養して子嚢胞子を形成させ、胞子懸濁液を混合し、胞子対胞子でランダムに交雑を行い、適当に希釈した混合培養液を寒天培地に蒔いて30〜40℃、好ましくは35℃で40〜50時間、好ましくは48時間培養し、生育したコロニーの中からなるべく大きいものを選択する。低温発酵性酵母は、この温度では生育できないので、除かれる。【0012】次に、釣菌した菌株のメリビオース資化能を調べるため、メリビオースを唯一の炭素源として含む培地に植菌して判定する。上面ビール酵母は、メリビアーゼ活性がなくメリビオースを資化できないので、この段階で除かれる。メリビオースを含む培地での生育の有無によって判定する方法は、約3〜4日という長時間を要するので、特定の物質を用いてメリビアーゼ活性の有無を判定する方法を採用することが望ましい。このため、本発明では5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−α−ガラクトピラノシド(5-Bromo-4-chloro-3-indolyl-α-galactopyranoside、以下X-α-galと略す。)を使用した。本物質は、酵母菌体内に入ると、メリビアーゼにより加水分解され、青色に変化する性質がある。つまり、コロニーが青色に染まればメリビオースの資化能があることが明らかである。この染色判定法によれば、僅か一晩の培養で判別が可能である。このメリビアーゼ活性を判定する方法は文献(Tubb,S.Roy et al.: J.Inst.Brew.,92: 588-590,1986)に記載されている。この方法によれば、例えば直径8.5cmのシャーレを用いた場合、一度に約100株のメリビアーゼ活性の有無を短時間で調べることができる。因みに、上面ビール酵母サッカロミセス・セレビシエ Doemens No.338株はX-α-galを含む培地上で白色であり、ワイン酵母サッカロミセス・バイヤナスYM84株はメリビオースの資化能を持つため青色に染まる。なお、本手法は他の上面ビール酵母とメリビオースの資化能を持つサッカロミセス・バイヤナス株間の有性交雑にも適用することができる。通常、この培養は18〜25℃、好ましくは20℃の温度で行う。コロニーが青色に染まった菌株についてパルスフィールド電気泳動による核型解析を行い、交雑株であることを確認する。さらに、低温下での発酵試験を行う。このように、本発明によれば、両親株の菌学的性質の相違を利用して、親株に変異処理を施さないで、交雑株の選択を行うことができる。【0013】【実施例】次に、本発明を実施例により詳しく説明する。実施例1上面ビール酵母としてサッカロミセス・セレビシエ Doemens No.338株、低温発酵性酵母としてワイン酵母サッカロミセス・バイヤナスYM84株(RIFY1114)を選択し、これら親株の胞子を用いて育種を行った。なお、交雑株の取得にあたり、第1表に示した生育温度と糖の資化性の違いを選択マーカーとして利用した。まず、両親株をそれぞれMcClary らの胞子形成培地(酢酸ナトリウム0.82%, グルコース0.1%, 酵母エキス0.25%, 塩化カリウム0.18%, 寒天2%) に20℃で3〜4日培養し、子嚢胞子の形成を誘導した。その後、細胞壁溶解酵素(商品名:ザイモリエース20T、生化学工業製)1000ppmを含むリン酸緩衝液(pH7.5)中で子嚢壁を溶解した後、超音波処理を行い、胞子懸濁液0.2mlを得た。このようにして得た両親株の胞子懸濁液0.01mlずつを混合し、YPD培地(グルコース2%,ペプトン2%,酵母エキス1%を含む)0.5mlを加え、25℃で一晩培養した。【0014】混合培養液を適当に希釈してYPD寒天プレート(寒天2%)に蒔き、35℃で2日間培養した。生育してきたコロニーのうち、なるべく大きいものを選択し、500ppmのX-α-galを含むYPD寒天プレートに移し、20℃で培養した。菌体が青く染まった菌株については、パルスフィールド電気泳動による核型解析を行い、交雑株であることを確認した。図1に実験スキームを示した。図2はパルスフィールド電気泳動による核型解析の結果を示す電気泳動写真である。これは、クロスフィールド電気泳動装置(ATTO社)を用いて定法にしたがって行った(Takata, Y et al.: J. Am. Soc. Brew. Chem., 47(4): 109,1989) 。なお、レーン1はサッカロミセス・セレビシエ Doemens No.338株、レーン2はサッカロミセス・Hy001株、レーン3はサッカロミセス・バイヤナスYM84株(RIFY1114)を示す。泳動条件は次の通りである。パルスタイム 70秒、泳動時間 54時間、電圧 180V一定、温度 12℃、緩衝液 0.5×TBE buffer(45mM Tris, 45mM Boric acid, 1.3mM EDTA)このようにして、上面ビール酵母サッカロミセス・セレビシエ Doemens No.338株と低温発酵性ワイン酵母サッカロミセス・バイヤナスYM84株(RIFY1114)の交雑株を5株得た。このうちの1株をサッカロミセス・Hy001と命名した。本菌株は工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託されており、その受託番号はFERM P−15095である。【0015】【表1】【0016】実施例2実施例1で創製された交雑株サッカロミセス・Hy001及びその親株である上面ビール酵母サッカロミセス・セレビシエ Doemens No.338株と低温発酵性ワイン酵母サッカロミセス・バイヤナスYM84株(RIFY1114)について、麦汁(サッポロビール株式会社、パイロットブリュワリー製)を用いた発酵試験を行った。発酵試験はEBC(European Brewery Convention)チューブを用い、2リットルスケール,発酵温度10℃一定で行った。酵母菌体の添加量は9.6g(湿重量)である。なお、EBCチューブは円筒形のガラス製チューブであり、台にクランプで固定して用いた。第2表にそれぞれの菌株の発酵中のエキスの切れを示した。いずれも発酵中のエキスはアントンパール社の密度計(DMA55)を用い、仮性エキスとして測定した。また、参考として菌株保存機関であるAJL(デンマーク)とNCYC(イギリス)より入手した下面ビール酵母についても同一条件下におけるエキスの切れを示した。【0017】【表2】【0018】表から明らかなように、交雑株サッカロミセス・Hy001は、その親株である上面ビール酵母サッカロミセス・セレビシエ Doemens No.338株よりも10℃において良好な発酵能を示した。さらに、本交雑株は参考として示した下面ビール酵母と同等レベルの発酵能を持つことが分かった。この結果は、上面ビール酵母サッカロミセス・セレビシエ Doemens No.338株と低温発酵性ワイン酵母サッカロミセス・バイヤナスYM84株(RIFY1114)を掛け合わせることにより、交雑株に低温(10℃)での発酵能が付与されたことを示している。また、交雑株の発酵形態は、発酵中に酵母が塊になり浮かび上がる上面発酵ではなく、主発酵終了時に酵母が沈降する下面発酵的な特徴を持っていた。【0019】【発明の効果】本発明によれば、有性交雑株である下面様ビール酵母、特に10℃以下で発酵可能な交雑株、サッカロミセス・Hy001株が提供される。この交雑株は、主発酵終了時に酵母が沈降する下面発酵的な特徴を有している。また、交雑株の育種にあたり、親株に変異処理を施すことなく両親株の菌学的性質の相違を利用して交雑株を選択することができる。【図面の簡単な説明】【図1】 本発明の交雑株の取得方法を示した図である。【図2】 核型解析を示す電気泳動写真である。 35℃の温度で生育可能でありメリビオース資化能を有さないサッカロミセス・セレビシエ Doemens No.338株と、35℃の温度で生育不可能でありメリビオース資化能を有するサッカロミセス・バイヤナスYM84株(RIFY1114)とを有性交雑し、30〜40℃の温度帯での生育能およびメリビオース資化能を有する交雑株を選抜することにより、親株に変異処理を施すことなく選抜された10℃以下で発酵可能なサッカロミセス・Hy001株(FERM P−15095)。 35℃の温度で生育可能でありメリビオース資化能を有さないサッカロミセス・セレビシエ Doemens No.338株と、35℃の温度で生育不可能でありメリビオース資化能を有するサッカロミセス・バイヤナスYM84株(RIFY1114)を胞子対胞子でランダムに交雑し、30〜40℃の温度帯での生育能およびメリビオース資化能を有する交雑株を選抜することを特徴とする、請求項1記載のサッカロミセス・Hy001株の育種法。 35℃の温度で生育可能でありメリビオース資化能を有さないサッカロミセス・セレビシエ Doemens No.338株と、35℃の温度で生育不可能でありメリビオース資化能を有するサッカロミセス・バイヤナスYM84株(RIFY1114)のそれぞれの胞子懸濁液を混合して培養し、得られた混合培養液を寒天培地にて35℃で培養し、生育したコロニーの中から微生物を採取し、メリビオース資化能を有する交雑株を選抜することを特徴とする、請求項2記載のサッカロミセス・Hy001株の育種法。


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