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タイトル:特許公報(B2)_エチルアルコール耐性蛋白質分解酵素及びその製造方法並びにエチルアルコール耐性蛋白質分解酵素生産菌
出願番号:1995194436
年次:2007
IPC分類:C12N 9/52,A23L 1/227,C12N 1/20,C12R 1/63


特許情報キャッシュ

小田 耕平 島田 昌彦 佐藤 良一 JP 3989976 特許公報(B2) 20070727 1995194436 19950731 エチルアルコール耐性蛋白質分解酵素及びその製造方法並びにエチルアルコール耐性蛋白質分解酵素生産菌 マルハ株式会社 000003274 羽鳥 修 100076532 小田 耕平 島田 昌彦 佐藤 良一 20071010 C12N 9/52 20060101AFI20070920BHJP A23L 1/227 20060101ALI20070920BHJP C12N 1/20 20060101ALI20070920BHJP C12R 1/63 20060101ALN20070920BHJP JPC12N9/52A23L1/227 BC12N1/20 AC12N9/52C12R1:63C12N1/20 AC12R1:63 C12N 9/00-9/99 BIOSIS/MEDLINE/WPIDS/CAPLUS(STN) PubMed JSTPlus(JDream2) 特開平05−211869(JP,A) 特開平05−260944(JP,A) 特開昭63−219378(JP,A) 特開昭63−218610(JP,A) 特開平01−191684(JP,A) Biochemistry,1991年 4月,30(14),3432−3436 FEMS Microbiol Lett,1993年 3月,108(1),43−46 Gene,1995年,152,59−63 Biosci Biotechnol Biochem,1996年 3月,60(3),463−467 4 FERM P-15035 1997037781 19970210 10 20020703 特許法第30条第1項適用 平成7年7月5日 社団法人日本農芸化学会発行の「日本農芸化学会誌第69巻臨時増刊号」に発表 三原 健治 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、エチルアルコール耐性蛋白質分解酵素、該蛋白質分解酵素の製造方法、及び該蛋白質分解酵素を生産する微生物に関するものである。また、本発明は、エチルアルコール耐性蛋白質分解酵素を用いて雑菌による汚染や雑菌の増殖を生じさせることなく蛋白質系調味料エキスを製造する方法に関するものである。【0002】【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】近年、食品分野における天然物嗜好は、調味料の分野においても例外でなく、加工食品及び業務用食品等の味付け調味料は、グルタミン酸ナトリウムやイノシン酸等の化学調味料から、天然物由来の調味料エキスへとその需要が変わりつつある。この天然物由来の調味料エキスは、そのほとんどが天然物(野菜、魚介類、畜肉等)の原料から熱水又はエチルアルコール等を用いて旨味成分を抽出し、濃縮して製造されたものである。【0003】上記調味料エキスの製造の際、旨味成分の抽出効率を高める目的で、各種酵素を用いて旨味成分を抽出することが行われている。一般に、上記目的のために用いられる酵素としては、抽出されるものによっても異なるが、ほとんどの調味料エキスの場合、旨味成分の主体が蛋白質の分解物(アミノ酸、ペプチド)であることから、旨味成分の効率的遊離を目的に蛋白質分解酵素(プロテアーゼ)が用いられることが多い。【0004】蛋白質系調味料エキスの原料となる水産物や畜肉は一般に栄養価が高いため、蛋白質分解酵素を用いた旨味成分の抽出工程においては、雑菌による汚染や雑菌の増殖の危険性が高いことが懸念されている。従って、蛋白質系調味料エキスの製造においては、雑菌を抑制する技術の開発が重要な課題となっている。【0005】一般に、蛋白質分解酵素を用いて蛋白質系調味料エキスを製造する場合に雑菌による汚染や雑菌の増殖を防止するには、次の様な方策が考えられる。▲1▼原料に食塩(原料中の最終濃度が12%(重量%、以下同じ)以上となる量)を添加し、旨味成分を抽出する方法。▲2▼高温(55℃以上の温度)下で原料を酵素分解し、旨味成分を抽出する方法。▲3▼酵素量を増加させて処理時間を短縮(3〜4時間以内)する方法。【0006】しかし、上記▲1▼〜▲3▼の方法では、次のような問題がある。上記▲1▼の方法は、非常に簡便で雑菌増殖抑制効果が高い方法であるが、一般に高食塩濃度下では酵素の活性が低下するため、雑菌の増殖を抑える目的で食塩を高濃度に添加した場合、十分な酵素分解、抽出効果が期待できない。また、高食塩濃度下で原料を処理した場合、得られる調味料エキス中の食塩濃度が増加するため、抽出後、調味料エキスから食塩を除く必要性が生じることもある。【0007】また、上記▲2▼の方法では、高温下での酵素処理のため、上記▲1▼の方法と同様に酵素が十分に機能しないことが多い。また、高温下で原料を処理した場合、揮発性香気成分が蒸発したり、化学変化(焦げ臭等)が生じ易く、旨味成分本来の風味を損なうこともあり、上記▲2▼の方法は、風味を重視する調味料エキスの製造には適した方法ではない。【0008】また、上記▲3▼の方法は、得られる調味料エキスに二次的な影響を与える惧れがなく優れた方法であるが、酵素量を増加させなければならず、コスト面で問題が生じる。【0009】上記以外の雑菌汚染・増殖防止方法としては、▲4▼旨味成分を抽出する際の原料のpHを下げる(pH3.5)方法や▲5▼エチルアルコール等の制菌作用をもつアルコール類の存在(5%以上)下で、酵素反応を行なう方法が考えられる。上記▲4▼の方法は、得られる調味料エキスに二次的な影響を与える惧れが少なく優れた方法であるが、雑菌を抑える作用が他の方法に比べて弱く、長い反応時間を必要とする酵素反応では雑菌の増殖の危険性がある。また、低pHで十分に機能する蛋白質分解酵素も必要となる。【0010】上記▲5▼の方法は、以下の点より、蛋白質系調味料エキスの製造方法として優れた方法であると考えられる。即ち、エチルアルコールは発酵調味料である醤油、味噌、みりん等に含まれていてその芳香性はこれらの調味料の重要な風味の一つにもなっており、また、水産物や畜肉から調味料エキスを得る場合、味の面では十分価値が高くても、臭い、特に水産物から得られる調味料エキスにおける水産物特有の生臭さ等が問題となることが多く、これらの臭いをマスクする方法として、エチルアルコール等の芳香性の高い成分を添加することは有効な手段の一つと考えられている。さらに、エチルアルコールは食品の保存性を高める効果があるため、食品の保存剤としても広く用いられている。また、エチルアルコールは揮発性が高いため、真空条件下で他の風味成分を損失しない方法で濃度を調整することも容易であり、調味料エキス中のエチルアルコールの存在が問題となる場合には、その除去も容易である。このように、上記▲5▼の方法によれば、雑菌による汚染や雑菌の増殖を生じさせることなく、今までにない自然な風味を有する調味料エキスの製造が可能となる。【0011】しかしながら、エチルアルコール濃度が5%以上(雑菌の増殖を抑制することができる濃度)の条件下で有効に機能する蛋白質分解酵素は知られていない。【0012】従って、本発明の目的は、エチルアルコールの存在下においても蛋白質分解酵素活性を有するエチルアルコール耐性蛋白質分解酵素、及びその製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、エチルアルコールの存在下でエチルアルコール耐性蛋白質分解酵素を用いて原料を酵素分解することにより、雑菌による汚染や雑菌の増殖を生じさせることなく、風味の優れた蛋白質系調味料エキスを製造することのできる蛋白質系調味料エキスの製造方法を提供することにある。【0013】【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記目的を達成する酵素を開発することを目的として、広く自然界、特に海洋生物の検索を行なった結果、10%エチルアルコール濃度の条件下においても、エチルアルコール非存在下の活性に対して40%以上の活性を有する蛋白質分解酵素を生産する菌株がカブトガニから得られることを知見した。【0014】 本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、下記(1) のエチルアルコール耐性蛋白質分解酵素、下記(2) のエチルアルコール耐性蛋白質分解酵素の製造方法、下記(3) のエチルアルコール耐性蛋白質分解酵素生産菌、及び下記(4) の蛋白質系調味料エキスの製造方法を提供するものである。 (1) ビブリオ エスピー.T1800 (FERM P-15035)によって生産された、10%濃度のエチルアルコールの存在下における蛋白質分解酵素活性が、エチルアルコール非存在下における蛋白質分解酵素活性の40%以上であり、下記(1)〜(8)の性質を有する、エチルアルコール耐性蛋白質分解酵素。(1)カゼイン1%、50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)で測定したとき、20〜60℃の範囲の温度において作用し、最適作用温度は45〜50℃である。(2)6.0〜10.0の範囲のpHにおいて作用し、最適作用pHは7.0〜8.0である。(3)40℃付近までは失活が認められず、60℃付近でほぼ失活する。(4)37℃では、pH7〜8の範囲で安定である。(5)分子量は約38kDaである。(6)EDTA及びメタルプロテアーゼ阻害剤によって阻害される。(7)塩化ナトリウムの存在下で活性が増加する。(8)10%濃度のエチルアルコールの存在下においても活性を有する。 (2) ビブリオ エスピー.T1800 (FERM P-15035)を培養し、培養物から上記エチルアルコール耐性蛋白質分解酵素を採取することを特徴とするエチルアルコール耐性蛋白質分解酵素の製造方法。 (3) エチルアルコール耐性蛋白質分解酵素を生産する新規微生物であるビブリオ エスピー.T1800 (FERM P-15035)。 (4) エチルアルコールの存在下、蛋白質に上記エチルアルコール耐性蛋白質分解酵素を作用させることを特徴とする蛋白質系調味料エキスの製造方法。【0015】【発明の実施の形態】以下、先ず本発明のエチルアルコール耐性蛋白質分解酵素について詳述する。本発明のエチルアルコール耐性蛋白質分解酵素を生産する微生物としては、ビブリオ属に属する微生物であるビブリオ エスピー.No.1800(FERM P-15035) が挙げられる。【0016】上記微生物によって生産された本発明のエチルアルコール耐性蛋白質分解酵素の蛋白質分解活性の酵素的性質を以下に記載する。【0017】(1)作用温度及び最適作用温度;FAGLA(Furylacroyl-Gly-Leu-NH2)1mM、50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5)で測定したとき、5〜40℃の範囲の温度において作用し、最適作用温度は15〜20℃である。また、カゼイン1%、50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)で測定したとき、20〜60℃の範囲の温度において作用し、最適作用温度は45〜50℃である。【0018】(2)作用pH及び最適作用pH;6.0〜10.0の範囲のpHにおいて作用し、最適作用pHは7.0〜8.0である。【0019】(3)熱安定性及びpH安定性熱安定性は、本酵素を50mM Tris−HCl(pH7.5)で希釈し、各温度で15分間保持した後、カゼインを基質として、残存するプロテアーゼ活性を測定したところ、本酵素は40℃付近までは失活が認められず、60℃付近ではほぼ失活した。pH安定性は、本酵素をpH3〜8では20mM Mcllvaine 氏緩衝液で、pH7〜9では50mM Tris−HClで、pH8〜10では20mM Atkins and Pantin 氏緩衝液で希釈し、各pHに合わせ、37℃で15時間保持した後、ハマルステインカゼインを基質として残存するプロテアーゼ活性をpH7.5の条件下で測定したところ、pH7〜8の範囲で安定であった。【0020】(4)分子量;SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法により測定した分子量は約38kDaである。【0021】(5)阻害剤;0.5mMのEDTAで80%以上阻害される。また、他のメタルプロテアーゼ阻害剤によっても阻害される。従って、本発明のエチルアルコール耐性蛋白質分解酵素はメタルプロテアーゼである。【0022】(6)安定化剤;塩化ナトリウムの存在下で活性が著しく増加する。12%塩化ナトリウムの存在下の蛋白質分解酵素活性は塩化ナトリウム非存在下の活性の約3.6倍である。【0023】(7)エチルアルコール耐性;10%濃度のエチルアルコール存在下においても活性を有し、10%濃度のエチルアルコール存在下における蛋白質分解酵素活性は、エチルアルコール非存在下における活性の40%以上である。【0024】(8)活性測定方法;本発明のエチルアルコール耐性蛋白質分解酵素の蛋白質分解酵素活性は以下の方法により測定した。尚、蛋白質酵素活性の測定に用いた試薬は以下の通りである。(1)検体希釈液:50mM Tris-HCl(pH7.5)(2)基質溶液::4.3%HAMMARSTEN Casein(MERCK),50mM Tris-HCl(pH7.5)(3)反応停止液::0.44M Trichloroacetic Acid(4)中和液:2.5ml:0.44M Na2CO3(5)発色液:0.5ml:1N Folin試薬酵素を検体希釈液(1)にて適当に希釈し、酵素溶液を調製する。該酵素液と基質溶液(2)とをそれぞれ37℃で3分間保持し、温度を均一にした後、酵素液0.5mlに基質溶液(2)1.5mlを加え、37℃で20分間反応させる。20分経過した後、反応液に反応停止液(3)を2.0ml加えて反応を停止させ、37℃で更に20分間置き、未消化のカゼインを十分に沈殿させる。次いで、上記反応液を濾過し、この濾過液を0.5ml採取し、該濾過液に中和液(4)を2.5ml加え、中和する。次いで、発色液(5)を0.5ml加え、37℃で30分間置き濾過液を発色させる。尚、盲検として、基質溶液(2)と反応停止液(3)の添加順序を逆にして反応を行なった。発色後、吸光度計で660nmの吸光度を測定し、各試料の測定値と盲検の測定値との差(△A660)を蛋白質分解酵素活性の指標とした。活性は、△A660と、検体希釈液で希釈する前の検体の容積体積(ml)との積、即ち、△A660×mlで表記する。【0025】本発明のエチルアルコール耐性蛋白質分解酵素は、蛋白質系調味料エキスの製造用の蛋白質分解酵素として好適に用いられる他、アルコール存在下で蛋白質の分解が必要な場合に好適に用いることができる。例えば、ビールの噴き防止用や日本酒の濁り防止用の蛋白質分解酵素として用いることができる。また、本発明のエチルアルコール耐性蛋白質分解酵素は、アルコール存在下のみならず、12%以上の食塩存在下でも十分に機能するものであるため、高食塩濃度下での酵素処理に好適に用いることができる。【0026】次に、本発明のエチルアルコール耐性蛋白質分解酵素の製造方法について説明する。【0027】本発明のエチルアルコール耐性蛋白質分解酵素の製造方法においては、先ず、エチルアルコール耐性蛋白質分解酵素を生産する微生物、例えばビブリオ属に属する微生物、好ましくはビブリオ エスピー.T1800 (FERM-P-15035)を栄養培地に接種し、培養する。上記栄養培地としては、微生物が増殖し本発明のエチルアルコール耐性蛋白質分解酵素を生産する培地であれば、特に制限されないが、例えば、後述するモディファイド・ネルソン培地(液体培地)やニュートリエントブロス(液体)培地等が挙げられる。また、培養方法としては、通気培養法や振とう培養法を用いることができる。また、培養温度は15〜40℃が好ましく、20〜30℃が更に好ましく、培養時間は1〜5日間が好ましく、1〜2日間が更に好ましい。しかし、これらの培地、培養条件は、微生物の生理的性質を考慮し、エチルアルコール耐性蛋白質分解酵素の生産量が最大となるように、最適の条件を選定すべきであり、上記の培地、培養条件等に限定されるものではない。【0028】次いで、培養物(培養液)から本発明のエチルアルコール耐性蛋白質分解酵素を採取する。この採取方法としては、例えば、培養液を遠心分離等により菌体及び不溶物を取り除き、上清を分画分子量20〜30kDa限外濾過膜を用いて濃縮後、濃縮液を凍結乾燥により粉末化し、本発明のエチルアルコール耐性蛋白質分解酵素(粉末)を得る方法が挙げられる。凍結乾燥により粉末化された本発明のエチルアルコール耐性蛋白質分解酵素は、1mg当たり約100(△A660×ml)の活性を有するものである。【0029】次に、本発明のエチルアルコール耐性蛋白質分解酵素を生産する新規微生物であるビブリオ エスピー.T1800 (FERM-P-15035)について説明する。上記ビブリオ エスピー.T1800 (FERM-P-15035)はカブトガニから分離されたものであり、本菌の菌学的性質は下記の通りである。【0030】(1)形態的性質0.5〜0.8μm×1〜2μmのグラム陰性の桿菌である。運動性を有し、極鞭毛を有し、胞子は有さない。また、細胞は多形性を有さず、好気性の菌である。【0031】(2)培養的性質(a) ニュートリエントアガーNo2(Difco)の平板培地;25℃、24時間で直径1〜2mmの丸いコロニーを形成する。コロニーは淡黄色を呈し、艶があり厚みを有するものである。(b) TSI培地;斜面は黄色に、また、高層は黒色に変色し、ガスの発生はない。(c) TSBS培地;37℃で2日で生育する。コロニーは黄色である。【0032】(3)生理学的性質(a) O−Fテスト;発酵(b) オキシダーゼ;陽性(c) カタラーゼ;陽性(d) 硝酸塩の還元;陽性(e) ナトリウム要求性;陰性(f) β−ガラクトシダーゼ;陰性(g) アルギニンジヒドロラーゼ;陰性(h) リジンデカルボキシラーゼ;陰性(i) オルニチンデカルボキシラーゼ;陰性(j) シモンズクエン酸;陰性(k) 硫化水素の産生;陽性(l) ウレアーゼ;陽性(m) トリプトファンデアミナーゼ;陽性(n) インドール産生;陽性(o) アセトイン産生;陰性(p) エクスリンの分解;陽性(q) ゼラチンの液化;陽性(r) 炭水化物の利用;D−グルコース、D−マンニトール、シュークロース及びグリセリンを利用し、ガスの発生は確認されなかった。(s) 塩化ナトリウム存在下における増殖性;0% +++0.1% +++1% +++3% +++5% ++6% ++7% +8% +また、上記においては+++は25℃、24時間で良好な生育を、++は25℃、24時間で生育を、+は25℃、72時間で生育を示す。【0033】(4)生育pH及び生育温度本菌は、pH6.0〜8.0で良好に生育する。また、好ましい生育温度は15〜40℃であり、最適生育温度は25〜35℃である。【0034】(5)化学分類学的性質本菌のDNAの塩基組成(GC含量)は38%である。【0035】以上の菌学的性質をもとに、Bergey's Manual of Systematic Bacteriology volume 1 中に本菌株を検索したところ、ビブリオ属に分類されるビブリオ・コレラに類縁の微生物であることが明らかになったが、生育可能な食塩濃度や糖の利用性による酸の産生能等が公知の菌株とは異なることから、これを新菌種として設定することが妥当であるとの結論に達し、本菌株を工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託した。【0036】次に、本発明の蛋白質系調味料エキスの製造方法について説明する。本発明の蛋白質系調味料エキスの製造方法は、エチルアルコールの存在下、蛋白質に蛋白質分解酵素を作用させるものであって、該蛋白質分解酵素として本発明のエチルアルコール耐性蛋白質分解酵素を用いるものである。【0037】原料の蛋白質としては、蛋白質系調味料エキスを製造するために従来用いられている水産物や畜肉等の蛋白質含有食品が用いられ、具体的には、海老頭、生イワシ、かに肉残渣、かつお缶詰煮汁、鶏ガラ、豚骨及びカキ等が挙げられる。【0038】本発明のエチルアルコール耐性蛋白質分解酵素の使用量は、1mg当たり約100(△A660×ml)の活性を有するものとして、上記蛋白質100gに対して、好ましくは0.5〜1g、更に好ましくは0.7〜1.0gである。【0039】また、エチルアルコールは、原料中20%程度まで存在させることができるが、酵素活性や雑菌の増殖防止等の観点から、原料中、好ましくは3〜10%、更に好ましくは5〜10%添加するとよい。【0040】また、酵素の作用条件は、反応温度が、好ましくは4〜40℃、更に好ましくは15〜25℃であり、反応時間が、好ましくは5時間〜3日間、更に好ましくは12時間〜2日間であり、反応pHが、好ましくは6〜10、更に好ましくは7〜8である。【0041】本発明の蛋白質系調味料エキスの製造方法により得られる蛋白質系調味料エキスは、雑菌の増殖がなく、また、生臭さのない風味の優れたものである。【0042】【実施例】本発明を以下の実施例により更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。【0043】〔実施例1(エチルアルコール耐性蛋白質分解酵素及びその製造方法)〕ビブリオ エスピー.T1800 (FERM P-15035)を、下記に示すモディファイド・ネルソン培地(300ml/三角フラスコ)に接種し、25℃で24時間振とう培養した。次いで、この培養液を1mlとり、同じ培地2000mlに接種し、25℃で48時間振とう培養を行なった。次いで、菌体及び不溶物を遠心分離によって取り除き、上清1800mlを得た。上清の蛋白質分解酵素活性は6.0×104 (△A660×ml)であった。次いで、上記上清を、分画分子量20kDaの限外濾過膜を用い200mlにまで濃縮した。該濃縮液の蛋白質分解酵素活性は5.0×104 (△A660×ml)であった。該濃縮液を凍結乾燥し、本発明のエチルアルコール耐性蛋白質分解酵素粉末を得た。【0044】このようにして得られた本発明のエチルアルコール耐性蛋白質分解酵素粉末は、1mg当たり100(△A660×ml)の活性を有していた。【0045】〔培地組成(モディファイド・ネルソン培地)〕培地1000ml中グリセロール 6gペプトン 10g酵母エキス 6g1M Tris-HCl pH 7.8 100mlNaCl 3.5gKCl 1.5gMgSO4 ・7H2O 24.7gCaCl2 ・2H2O 2.9gpH7.8【0046】〔実施例2(蛋白質系調味料エキスの製造方法)〕海老頭500gに実施例1で得られたエチルアルコール耐性蛋白質分解酵素粉末を1g加え、更に、エチルアルコール30mlと水100mlとを添加した。次いで、混合物を25℃に保ちながら12時間穏やかに攪拌を行なった。然る後、該混合物を90℃で5分間加熱して酵素を失活させ、混合物を濾布で濾過し、約400mlの蛋白質系調味料エキスを得た。このようにして得られた蛋白質系調味料エキスは、海老の風味が非常に高く、苦み等の嫌な味、刺激臭等は感じられず、海老独特の甘味を有するものであった。【0047】なお、比較例として、市販の酵素を用いて55℃で6時間処理した以外は実施例1と同様に蛋白質系調味料エキスを製造したところ、得られた蛋白質系調味料エキスは、焦げ臭や刺激臭等が感じられるものであった。【0048】〔実施例3(蛋白質系調味料エキスの製造方法)〕生イワシ500gに実施例1で得られたエチルアルコール耐性蛋白質分解酵素粉末を1g加え、更に、エチルアルコール50mlと水200mlとを添加した。次いで、混合物を25℃に保ちながら12時間穏やかに攪拌を行なった。然る後、該混合物を90℃で5分間加熱して酵素を失活させ、混合物を濾布で濾過し、約700mlの蛋白質系調味料エキスを得た。このようにして得られた蛋白質系調味料エキスは、旨味の強いエキスであり、生臭さはほとんど感じられなかった。【0049】なお、比較例として、市販の酵素を用いて55℃で6時間処理した以外は実施例2と同様に蛋白質系調味料エキスを製造したところ、得られた蛋白質系調味料エキスは味の点ではわずかな苦みが感じられたものの、大きな差はなかったが、焦げ臭や生臭さが強く感じられるものであった。【0050】【発明の効果】本発明のエチルアルコール耐性蛋白質分解酵素は、エチルアルコールの存在下においても蛋白質分解酵素活性を有するものである。また、本発明のビブリオ エスピー.T1800 (FERM P-15035)は、本発明のエチルアルコール耐性蛋白質分解酵素を生産する新規微生物である。また、本発明の蛋白質系調味料エキスの製造方法は、本発明のエチルアルコール耐性蛋白質分解酵素を用いているので、雑菌による汚染や雑菌の増殖を生じさせることなく、風味の優れた蛋白質系調味料エキスを製造することができる。 ビブリオ エスピー.T1800 (FERM P-15035)によって生産された、10%濃度のエチルアルコールの存在下における蛋白質分解酵素活性が、エチルアルコール非存在下における蛋白質分解酵素活性の40%以上であり、下記(1)〜(8)の性質を有する、エチルアルコール耐性蛋白質分解酵素。(1)カゼイン1%、50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)で測定したとき、20〜60℃の範囲の温度において作用し、最適作用温度は45〜50℃である。(2)6.0〜10.0の範囲のpHにおいて作用し、最適作用pHは7.0〜8.0である。(3)40℃付近までは失活が認められず、60℃付近でほぼ失活する。(4)37℃では、pH7〜8の範囲で安定である。(5)分子量は約38kDaである。(6)EDTA及びメタルプロテアーゼ阻害剤によって阻害される。(7)塩化ナトリウムの存在下で活性が増加する。(8)10%濃度のエチルアルコールの存在下においても活性を有する。 ビブリオ エスピー.T1800 (FERM P-15035)を培養し、培養物から請求項1記載のエチルアルコール耐性蛋白質分解酵素を採取することを特徴とするエチルアルコール耐性蛋白質分解酵素の製造方法。 エチルアルコール耐性蛋白質分解酵素を生産する新規微生物であるビブリオ エスピー.T1800 (FERM P-15035)。 エチルアルコールの存在下、蛋白質に請求項1記載のエチルアルコール耐性蛋白質分解酵素を作用させることを特徴とする蛋白質系調味料エキスの製造方法。


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