タイトル: | 特許公報(B2)_低温至適プロテアーゼ、これを生産する微生物及び当該プロテアーゼの製造法 |
出願番号: | 1995135057 |
年次: | 2004 |
IPC分類: | 7,C12N9/54,C12N1/20,C11D3/386 |
佐伯 勝久 高岩 美喜雄 奥田 光美 小林 徹 伊藤 進 渡邊 啓一 JP 3595024 特許公報(B2) 20040910 1995135057 19950601 低温至適プロテアーゼ、これを生産する微生物及び当該プロテアーゼの製造法 花王株式会社 000000918 特許業務法人アルガ特許事務所 110000084 有賀 三幸 100068700 高野 登志雄 100077562 中嶋 俊夫 100096736 的場 ひろみ 100101317 佐伯 勝久 高岩 美喜雄 奥田 光美 小林 徹 伊藤 進 渡邊 啓一 20041202 7 C12N9/54 C12N1/20 C11D3/386 C12N1/20 C12R1:07 C12N9/54 C12R1:07 JP C12N9/54 C12N1/20 A C11D3/386 C12N1/20 C12R1:07 C12N9/54 C12R1:07 7 C12N 9/48-86 C12N 1/20 EUROPAT(QUESTEL) JSTPlus(JOIS) BIOSIS/WPI(DIALOG) PubMed MEDLINE(STN) 特開平2−242679(JP,A) 特開平1−101885(JP,A) J. Dairy Sci.,1985年,Vol.68,p.1323-1336 現代化学 増刊28「新しい酵素研究法」,1995年 7月21日,第176−186頁 3 FERM P-14839 1996322564 19961210 16 20010710 左海 匡子 【0001】【産業上の利用分野】本発明は、新規な低温至適プロテアーゼ、これを生産する微生物及び当該低温至適プロテアーゼの製造法に関する。【0002】【従来の技術】プロテアーゼは、ペプチド結合の加水分解を触媒する酵素群の総称で、微生物、動物及び植物中に広く分布している。その応用範囲としては、衣料用洗剤、自動食器洗浄機用洗剤、コンタクトレンズ洗浄剤、浴用剤、角質除去用化粧料、食品の改質剤(製パン、肉の軟化、水産加工)、ビールの清澄剤、皮革なしめ剤、写真フィルムのゼラチン除去剤、消化助剤あるいは消炎剤があり、多分野で盛んに利用されてきた。【0003】その中で最も大量に工業生産され、市場規模が大きいのは洗剤用プロテアーゼであり、例えばアルカラーゼ、サビナーゼ(ノボ・ノルディスク社製)、マクサカル(ギスト・ブロケイデス社製)、API−21(昭和電工社製)、ブラップ(ヘンケル社製)及びプロテアーゼK(KAP;花王社製)などが知られている。【0004】しかしながら、これらの大半は最適温度が高温側にあるため、水道水をそのまま用いて低温領域で衣料等の洗浄を行う場合には、その酵素特性が十分に発揮されているとは言いがたい。また、前述のプロテアーゼは、その応用分野のほとんどにおいて、体温、室温又は低温条件下で使用されるため、高温至適酵素の使用はなじまない。加えて、高温至適酵素を用いて高温処理工程を行うことは、省エネルギーの観点からも好ましいとは言えない。一方、低温至適プロテアーゼは、反応系に熱を加えられないようなケース、すなわちチーズの熟成や肉の軟化等の食品の改質に有効であると思われる。【0005】近年、洗剤をはじめとしてプロテアーゼの商品への配合や工業的プロセスなどにおける利用が考えられているのが、この場合、室温から低温領域で有効に作用する酵素を見出すことは、省エネルギー化に加えて酵素の機能を十分発揮させるうえで、必須の条件である。これまでに、寒冷地土壌等の寒冷環境に棲息する生物、海水あるいは冷蔵中のミルク等から分離されたプロテアーゼ生産菌及び生産されるプロテアーゼに関して数多くの報告例がある。すなわち、シュードモナスエスピー(Pseudomonas sp.)No.548株(Agric.Biol.Chem.,36巻,1185頁,1970年)、エシェリヒア フロインディ(Eschreichia freundii)(Eur.J.Biochem.,44巻,87頁,1974年)、キサントモナス マルトフィラ(Xanthomonas maltophila)047/08株(FEMSMicrobiol.Lett.,79巻,257頁,1991年)、シュードモナス フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)T16が(Appl.Environ.Microbiol.,46巻,333頁,1983年)、シュードモナス フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)AFT36株(Biochim.Biophys.Acta.717巻,376頁,1982年)、シュードモナス エスピー(Pseudomonas sp.)145−2株(Microbios.,36巻,7頁,1982年)、アエロモナス サルモニシダ(Aeromonassalmonicida)(J.Appl.Bacteriol.,53巻,289頁,1983年)、シュードモナス パウシモビリス(Pseudomonas paucinomobilis),バチルス エスピー(Bacillus sp.)(J.Basic Microbiol.,31巻,377頁,1991年)、ビブリオ エスピー(Vibrio sp.)SA1株(Antonie van Leeuwenhoek,44巻,157頁,1978年)、シュードモナス フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)NCDO2085株(J.Dairy Res.,53巻,457頁,1986年)、シュードモナス フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)(J.Dairy Res.,53巻,97頁,1986年)、シュードモナス フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)GR83株(Lebensm.−Wiss.u.−Technol.,23巻,106頁,1990年)、ペシロミセス マルクアンディ(Paecilomyces marquandii)(WO88/03948)及びキサントモナス エスピー(Xanthomonas sp.)S−1(特開平5−211868号公報)などの低温で生育できる微生物が種々のプロテアーゼを生産する。また、好冷細菌(psychrotroph)が生産するプロテアーゼに関しては、Fairbainらが要領よく総説にまとめている(J.Dairy Res.,53巻,139頁,1986年)。しかしこれらのプロテアーゼについても、低温域における作用は必ずしも満足できるものではない。【0006】【発明が解決しようとする課題】従って、本発明の目的は低温条件下においても高い活性を保持するプロテアーゼ、及びこれを生産する微生物を提供することにある。【0007】【課題を解決するための手段】そこで本発明者らは、かかる問題点を解決するため、低温領域において十分作用するプロテアーゼを自然界に求め、探索してきた。その結果、南氷洋に生息する甲殻類の一種であるイソポーダから至適温度を25〜30℃に有し、0℃以下の低温条件下でも十分に作用するプロテアーゼを生産するバチルス属細菌を見出し、本発明を完成した。【0008】すなわち、本発明は、次の酵素学的性質を有する低温至適プロテアーゼ、これを生産する微生物及び当該プロテアーゼの製造法を提供するものである。1)作用温度及び最適温度(基質,カゼイン;pH7.0)0〜60℃で作用し、最適温度は25〜30℃の間にある。Ca2+イオンが存在すると最適温度は50℃に上昇する。0℃(氷水中)でも最適温度活性値の20〜30%の活性を保持する。2)温度安定性(基質,カゼイン;pH7.0)pH7.0、15分間の処理条件で40℃まで安定であり、Ca2+イオンが存在すると50℃まで安定である。3)作用pH及び最適pH(基質,カゼイン;20℃)作用pH範囲は5〜10であり、最適pHは7.0近傍にある。4)pH安定性(基質,カゼイン;20℃)20℃、15分間の処理条件でpH5.8〜9.8までの各pHで安定である。5)分子量ソジウムドデシル硫酸(SDS)−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法による推定分子量は、38,000±1,000である。6)等電点pH9.7近傍にある。7)基質特異性天然基質であるカゼイン、ジメチルカゼイン、ヘモグロビン、ゼラチン及びケラチンに対して作用する。8)金属イオンの影響Hg2+イオンによって強く阻害される。9)阻害剤EDTA及びEGTAによって強く阻害される。フェニルメタンスルホニルフルオライド(PMSF)、キモスタチン、p−クロロマーキュリー安息香酸(PCMB)、5,5′−ジチオ−ビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)及びN−エチルマレイミド(NEM)によって全く阻害を受けない。10)界面活性剤の影響ソジウムドデシル硫酸(SDS)、ソジウムα−オレフィンスルホン酸(AOS)、ソジウムアルカンスルホン酸(SAS)、α−スルホ脂肪酸エステル(α−SFE)、ソフタノール(70H)及びソジウム直鎖アルキルベンゼンスルホン酸(LAS)(濃度はそれぞれ0.2重量%)に対して極めて安定である。【0009】本発明の低温至適プロテアーゼは、例えばバチルス属に属するプロテアーゼ生産菌を培養し、その培養物から採取することにより製造することができる。【0010】かかるバチルス属に属する本発明プロテアーゼ生産菌としては、バチルス属に属し、上記の本発明プロテアーゼを生産する限り特に制限されないが、例えば次の分類学的性質を示すKSM−SP101株が挙げられる。【0011】本発明の低温至適プロテアーゼを生産する微生物の分離同定に用いられる培地を以下に示す。【0012】使用培地の組成(重量%で表示)培地1.ニュートリエントブロス,0.8;寒天末(和光純薬社製),1.5培地2.ニュートリエントブロス,0.8培地3.ニュートリエントブロス,0.8;ゼラチン,2.0;寒天末(和光純薬社製),1.5培地4.バクトリトマスミルク,10.5培地5.ニュートリエントブロス,0.8;KNO3,0.1培地6.バクトペプトン,0.7;NaCl,0.5;ブドウ糖,0.5培地7.SIM寒天培地(栄研化学社製),指示量培地8.TSI寒天培地(栄研化学社製),指示量培地9.バクトペプトン,1.5;酵母エキス,0.5,可溶性澱粉,2.0;K2HPO4,0.1;MgSO4・7H2O,0.02;寒天末(和光純薬社製),1.5培地10.Koserの培地(栄研化学社製),指示量培地11.Christensenの培地(栄研化学社製),指示量培地12.(1)酵母エキス,0.05;ブドウ糖,1.0;KH2PO4,0.1;Na2SO4,0.1(2)酵母エキス,0.05;ブドウ糖,1.0;KH2PO4,0.1;MgSO4・7H2O,0.02;CaCl2・2H2O,0.05;FeSO4・7H2O,0.001;MnSO4・4−6H2O,0.001;窒素源としては、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、塩化アンモニウム及びリン酸アンモニウムを各々0.25,0.2,0.16,0.2となるように、上記(1)及び(2)の培地に加えて用いた。培地13.キングA培地“栄研”(栄研化学社製),指示量培地14.キングB培地“栄研”(栄研化学社製),指示量培地15.尿素培地“栄研”(栄研化学社製),指示量培地16.チトクロム・オキシダーゼ試験紙濾紙(日水製薬社製)培地17.3%過酸化水素水培地18.バクトペプトン,1.5;酵母エキス,0.5;KH2PO4,0.1;ブドウ糖,1.0;MgSO4・7H2O,0.02培地19.ペナッセイブロス(ディフコ社製),指示量培地20.バクトペプトン,2.7;NaCl,5.5;ブドウ糖,0.5;K2HPO4,0.1;ブロムチモールブルー,0.06;寒天末,(和光純薬社製),1.5培地21.(NH4)2HPO4,0.1;KCl,0.02;MgSO4・7H2O,0.02;酵母エキス,0.05;糖1.0培地22.カゼイン,0.5;酵母エキス,0.05;ブドウ糖,1.0;KH2PO4,0.1;MgSO4・7H2O,0.02;寒天末,(和光純薬社製),1.5【0013】KSM−SP101株の分類学的性質を以下に示す。【0014】〔分類学的性質〕(a)顕微鏡的観察結果:菌体の大きさは、1.0〜2.0μm ×2.0〜8.0μm の巨大桿菌であり、周鞭毛を有し、運動性がある。楕円形の胞子の形成が認められる。(b)グラム染色性:陽性。(c)各種培地における生育状態:(1)肉汁寒天平板培養(培地1);生育状態は良い。集落の形状は円形であり、表面は円滑で光沢がある。また、集落の色調は、淡黄色で半透明である。(2)肉汁寒天斜面培養(培地1);生育する。(3)肉汁液体培養(培地2);生育は良好で、菌膜の形成は認められない。(4)肉汁ゼラチン穿刺培養(培地3);生育は良く、ゼラチンの液化が認められる。(5)リトマスミルク培地(培地4);ペプトン化が認められ、弱い酸生成が観察される。(d)生理学的性質:(1)硝酸塩の還元及び脱窒反応(培地5);いずれも陰性。(2)MRテスト(培地6);陰性。(3)VPテスト(培地6);陰性。(4)インドールの生成(培地7);陰性。(5)硫化水素の生成(培地8);陰性。(6)澱粉の加水分解(培地9);陽性。(7)クエン酸の利用(培地10、11);陽性。(8)無機窒素源の利用(培地12);アンモニウム塩及び硝酸塩を利用する。(9)色素の生成(培地13、14);陰性。(10)ウレアーゼ(培地15);陽性。(11)オキシダーゼ(培地16);陰性。(12)カタラーゼ(培地17);陽性。(13)生育のpH範囲(培地18);生育のpH範囲は5〜9である。生育の至適pH範囲は6〜8にある。(14)生育の温度範囲(培地1、19);生育の温度範囲は5〜50℃であり、最も生育が旺盛な温度は30〜40℃の間にある。(15)酸素に対する態度(培地20);好気的。(16)O−Fテスト(培地21);酸化型。(17)糖の利用性;L−アラビノース、D−キシロース、D−グルコース、D−フラクトース、D−ガラクトース、マルトース、シュクロース、ラクトース、トレハロース、ラフィノース、D−マンニトール、イノシトール、グリセリン及び可溶性澱粉を利用することができる。(18)食塩含有培地における生育(培地1中);食塩濃度7%では生育するが、10%では生育できない。(19)カゼインの分解(培地22);陽性。【0015】以上の分類学的性質に関する検討に基づき、バージーズ・マニュアル・オブ・システマティク・バクテリオロジー(Bergey’s Mannual ofSystematic Bacteriology)第8版を参照し、比較検討した結果、本菌株は、バチルス属の一種と判断された。類縁菌としてはバチルス メガテリウム(B.megaterium)が挙げられるが、本菌より更に巨大桿菌であり、その他の分類学的性質で相違点が認められた。また、本発明菌は、中温バチルス属細菌に属するものであるが、通常の中温バチルス属細菌に比べ、低温適応している。【0016】従って、本菌株を新菌種としてバチルス エスピー(Bacillus sp.)KSM−SP101と命名し、FERM P−14839号として工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託した。【0017】上記の菌株を用いて、本発明の低温至適プロテアーゼを得るには、培地に菌株を接種し、常法に従って培養すればよい。【0018】培養に用いる培地中には、資化しうる炭素源及び窒素源を適当量含有せしめておくことが望ましい。この炭素源及び窒素源は特に制限されないが、例えば炭素源として可溶性澱粉、アミロペクチン、グリコーゲン及びこれらの分解物やその他の資化しうる炭素源、例えばグルコース、ガラクトース、フラクトース、アラビノース、キシロース、マルトース、ラクトース、シュークロース、マンニトール、イノシトール、トレハロース、ラフィノース、グリセリンや資化しうる有機酸、例えばクエン酸や酢酸などが挙げられる。また、窒素源としては、コーングルテンミール、大豆粉、コーンスティープリカー、カザミノ酸、酵母エキス、ファーマメディア、肉エキス、トリプトン、ソイトン、ポリペプトン、ソイビーンミール、綿実油粕、カルチベータ及びゼストなどの有機窒素源が有効である。更に、燐酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、マンガン塩、亜鉛塩、コバルト塩、ナトリウム塩及びカリウム塩等の無機塩や、必要に応じて、無機又は有機微量栄養素やビタミン類を培地中に適宜添加することができる。【0019】培養温度は、12〜45℃、特に20〜30℃前後が好ましく、培養初発pHは5〜9、特にpH6〜8が好ましい。この条件下において通常1〜3日間で培養が完了する。斯くして得られた培養液の中から目的の酵素である低温至適プロテアーゼを採取するには一般の酵素採取の手段に準じて行うことができる。すなわち、培養後、遠心分離又は濾過の通常の分離手段により菌体を培養液から除去して粗酵素液を得る。この粗酵素液はそのまま使用することもできるが、必要に応じて限外濾過あるいは沈澱法等の手段により回収し、適当な方法を用いて粉末化して用いることもできる。また、酵素精製の一般的手段、例えば適当な陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、ヒドロキシアパタイトによるクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー及びゲル濾過などを適宜組合わせることによって精製することもできる。【0020】斯くして得られる本発明低温至適プロテアーゼの酵素化学的性質について以下に説明する。【0021】〔酵素活性測定法〕カゼイン1%を含む50mMの各種緩衝液1mlを0.1mlの酵素溶液と混合し、20℃で15分間反応させた後、反応停止液(0.11Mトリクロロ酢酸−0.22M酢酸ナトリウム−0.33M酢酸)2mlを加え、30℃で20分間放置した。次に濾紙(ワットマン社製、No.2)で濾過し、濾液中の蛋白分解物をフォーリン・ローリー法(Lowry,O.H.ら.,J.Biol.Chem.,193巻,265頁,1951年)によって測定した。また、上記反応条件下において、1分間に1μmolのチロシンに相当する酸可溶性蛋白分解物を生成する酵素量を1単位(1U)とした。【0022】〔酵素学的性質〕(1)基質特異性:50mM燐酸緩衝液(pH7.0)に各種蛋白基質を0.1%又は1%になるように加えた後、精製酵素を適当量添加して20℃で15分間反応を行った。カゼインを基質とした場合の分解活性を100として、それぞれの基質に対する分解活性を表1に示した。【0023】【表1】【0024】この結果から明らかなように、本酵素は水溶性のカゼイン、ジメチルカゼイン、ヘモグロビン、ゼラチン及びケラチンに対して分解活性を示した。一方、エラスチン、アルブミン、リゾチームやリボヌクレアーゼには作用しなかった。【0025】また、p−ニトロアニリン(pNA)が結合した合成オリゴペプチド基質を用いて、これらの分解活性を調べた。しかし、N−スクシニル化したAla−Ala−Pro−Phe−pNA 、Ala−Ala−Pro−Met−pNA 、Ala−Ala−Ala−pNA 、Phe−Pro−Phe−pNA 、Ala−Ala−pNA 、Ala−pNA やN−カルボベンゾイル化したAla−Ala−Leu−pNA やGly−Gly−Leu−pNA 等の合成基質からのp−ニトロアニリンの遊離は認められなかった。【0026】(2)作用pH及び最適pH:ブリットン・ロビンソン広域緩衝液(50mM)中に最終濃度0.91%となるようにカゼインを加え、20℃で15分間反応を行い、各pHでの活性を測定した。図1から明らかなように、本プロテアーゼの最適pHは5〜7付近に認められる。また、その作用pHは、pH5〜10と幅広いことがわかる。【0027】(3)pH安定性:ブリットン・ロビンソン広域緩衝液(5mM,各pH)中に本酵素を加え、20℃で15分間放置し、カゼインを基質として残存活性を20℃で測定した。その結果、図2示すとおり、本酵素はpH5.8〜9.8の広い範囲で安定であった。【0028】(4)作用温度及び最適温度:基質として0.91%のカゼインを含む50mMトリス−マレイン酸緩衝液(pH7.0)に本酵素を加え、15分間各温度で反応を行った。図3から明らかなように、本酵素の最適温度は25〜30℃であった。Ca2+イオン(CaCl2として5mM)が存在すると、最適温度は約50℃に移行し、Ca2+イオン非存在下の最適温度に比べ、約4倍の活性促進が認められた。特徴的なことに本酵素は0℃(氷水中)でも最適温度の活性は約20〜30%の活性を示し、低温条件下でも十分作用することがわかる。【0029】(5)温度安定性:50mMトリス−マレイン酸緩衝液(pH7.0)に本酵素を加え、各温度で15分間熱処理した後氷冷した。カゼインを基質として、20℃で残存活性を求め、その結果を図4に示す。本酵素はCa2+イオン非存在下で40℃、5mMCa2+イオン存在下で50℃まで極めて安定であった。【0030】(6)分子量:本酵素の分子量をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法により測定した。分子量マーカーには、低分子量マーカーキット(バイオラッド社製)のホスホリラーゼb(分子量:97,400)、牛血清アルブミン(分子量:66,200)、卵白オブアルブミン(分子量:45,000)、カルボニックアンヒドラーゼ(分子量:31,000)、大豆トリプシンインヒビター(分子量:21,500)、リゾチーム(分子量:14,400)を用いた。図5から明らかなように、本精製プロテアーゼ標品は電気泳動的に均一であり、その分子量は38,000±1,000と推定される。【0031】(7)等電点:等電点電気泳動法により、本プロテアーゼの等電点を求めた。アクリルアミドゲル(6.0%)のpH勾配は、両性電解質であるファーマライト(Pharmalyte,pH3〜10;ファルマシア社製)を使用した。その結果、本プロテアーゼの等電点はpH9.7近傍にあることが判明した。【0032】(8)金属イオンの影響:各種金属塩が1mMになるように添加した20mMトリス−マレイン酸緩衝液(pH7.0)に本酵素溶液を添加し、20℃で20分間放置した。その後、50mMトリス−マレイン酸緩衝液(pH7.0)で適当希釈を行い、残存活性を測定した。金属塩無添加系で同様に処理した酵素活性を100%として処理群の残存活性を求めた。結果を表2に示す。【0033】【表2】【0034】表2から、本酵素活性はHg2+イオンにより強く活性が阻害され、Cu2+、Ag2+、Ni2+イオンやCo2+イオンにも若干の阻害作用が認められる。【0035】(9)阻害剤の影響:10mMトリス−マレイン酸緩衝液(pH7.0;2mM CaCl2含有)に各種阻害剤を所定濃度になるように加え、本酵素を添加し、20℃で20分間放置した後、残存活性を測定した。結果を表3に示す。【0036】【表3】【0037】表3から、キレート剤であるEDTAとEGTAによって強く阻害され、PMSFなどのセリン酵素阻害剤で全く影響を受けないので金属プロテアーゼ(metalloprotease)であると考えられる。【0038】(10)界面活性剤の影響:本酵素を、0.2%の界面活性剤を含有する50mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.0;2mM CaCl2含有)に加えて、20℃で4時間放置した後、残存活性を測定した。結果を表4に示す。【0039】【表4】【0040】表4から、本酵素はSDS、AOS、SAS、α−SFE、ソフタノール70HやLAS(それぞれ0.2%濃度)などの界面活性剤と長時間接触させてもほとんど失活せず、強力な界面活性剤耐性を有していることがわかる。【0041】このように、本発明の低温至適プロテアーゼは、過去に報告の無い新規酵素である。最近、南極の海水から分離されたバチルス属の一種が熱に不安定なズブチリシン型の酵素を生産することが報告されているが(Davailら,J.Biol.Chem.,269巻,17448頁(1994年))、最適温度が40℃近傍にあり、EGTAとPMSFで阻害されることから一種の金属セリンプロテアーゼであるので、明らかに本発明の酵素とは異なっていることが認められる。【0042】【発明の効果】本発明のプロテアーゼは、作用最適温度を低温領域に有し、前述の界面活性剤によってもほとんど阻害を受けず、また、酸性から高アルカリ溶液中で幅広く安定である。従って、本酵素は洗浄剤組成物の配合成分として、低温下で有利に使用できるものである。また、低温条件下における、食肉の軟化あるいはチーズの熟成といった食品の改質にも有効である。また、本低温至適酵素の生産菌がバチルス属細菌の一種であることから、培養条件の検討、突然変異やホスト−ベクター系(EK系やBS系)などの育種による著量の酵素を菌体外生産することが可能になった。【0043】【実施例】以下に実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。【0044】実施例1南氷洋に棲息するイソポーダ(甲殻類の一種)を2尾、滅菌人工海水(ジャマリン・ラボラトリー社製)20mlに入れ、ホモゲナイザーで粉砕した。得られた懸濁液を、以下に示す組成を有する人工海水平板培地に塗抹し、5℃で5〜7日間培養した。【0045】【表5】人工海水平板培地(pH7.6)(成分) (配合量)バクトペプトン(ディフコ社製) 2.5g酵母エキス(ディフコ社製) 1.25g肉エキス(ディフコ社製) 1.25gスキムミルク(ディフコ社製)(別滅菌) 10gグルコース 0.5g寒天 20g人工海水 1000ml【0046】生育した集落の周囲にスキムミルクの分解によって生じた透明帯を指標としてプロテアーゼ生産菌を分離した。得られた分離株の中から、低温至適プロテアーゼ生産性を調べ、バチルス エスピー KSM−SP101株を選抜した。【0047】実施例2実施例1で得られたバチルス エスピー KSM−SP101株を以下に示す液体培地で好気的に20℃、2日間培養した。【0048】【表6】液体培地(pH7.6)(成分) (配合量)バクトペプトン 2.5g酵母エキス 1.25g肉エキス 1.25g人工海水 1000ml【0049】培養後、遠心分離(12,000×g,20分間)して得られた上清液を10mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.5;2mM CaCl2含有)で5℃において一昼夜透析した。透析内液のプロテアーゼ活性を、カゼインを基質として20℃で測定したところ(50mM燐酸緩衝液中,pH7.0)、0.3U/l培養液に相当するプロテアーゼの生産が認められた。【0050】実施例3バチルス エスピー KSM−SP101株を以下に示す液体培地で20℃、48時間培養した。【0051】【表7】TSB改変培地(pH7.2)(成分) (配合量)トリティケースソイブロス(BBL) 30g酵母エキス 0.5gMgSO4・7H2O 0.2gイオン交換水 1000ml【0052】培養後、遠心分離して得られた上清液のプロテアーゼ活性を実施例2に従って定量したところ、0.6〜3.2U/l培養液に相当する生産性が認められた。【0053】実施例4バチルス エスピー KSM−SP101株をTSB改変培地に接種し、20℃で40時間培養した。培養後、遠心分離して得られた上清液を限外濾過膜(分画分子量3,000;アミコン社製)で濃縮した。この濃縮液を20mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.3;5mM CaCl2含有)で5℃において一昼夜透析した。この透析内液を20mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.3;5mM CaCl2含有)で平衡化したDEAE−バイオゲルA(バイオラッド社製)のカラムを通過させ、その非吸着画分をプールした。再度、DEAE−バイオゲルAのカラムを通過させて非吸着画分を限外濃縮した。この濃縮液を20mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.3;5mM CaCl2含有)で平衡化したCM−バイオゲルA(バイオラッド社製)のカラムに添着した後、同平衡緩衝液(pH8.3;5mM CaCl2含有)を用いて蛋白質を溶出させた。本発明の低温至適プロテアーゼは非吸着画分の溶出領域から若干遅れて分画された。活性画分を限外濾過膜上で約1.0mlまで濃縮した後、平衡化したセファクリルS−200スーパーファイン(ファルマシア社製)のカラムでゲルクロマトグラフィーを行った。得られた活性画分を最終精製酵素標品として使用した。この結果、約8倍まで精製され(回収率14%)、本精製標品は約38U/mg蛋白質(仔牛血清アルブミン単位)の比活性を有していた。【図面の簡単な説明】【図1】バチルス エスピー KSM−SP101株のプロテアーゼのpH−活性曲線を示す図である。【図2】バチルス エスピー KSM−SP101株のプロテアーゼのpH安定性を示す図である。【図3】バチルス エスピー KSM−SP101株プロテアーゼの温度−活性曲線を示す図である。【図4】バチルス エスピー KSM−SP101株のプロテアーゼの温度安定性を示す図である。【図5】バチルス エスピー KSM−SP101株のプロテアーゼの分子量測定結果を示す図であり、(a)は分子量とSDS電気泳動距離の相関を示す図、(b)は完全精製標品のSDS電気泳動写真(12%アクリルアミドゲル)を示す図である。 次の酵素学的性質を有する低温至適プロテアーゼ。1)作用温度及び最適温度0〜60℃で作用し、最適温度は25〜30℃の間にある。Ca2+イオンが存在すると最適温度は50℃に上昇する。0℃(氷水中)でも最適温度活性値の20〜30%の活性を保持する。2)温度安定性pH7.0、15分間の処理条件で40℃まで安定であり、Ca2+イオンが存在すると50℃まで安定である。3)作用pH及び最適pH作用pH範囲は5〜10であり、最適pHは7.0近傍にある。4)pH安定性20℃、15分間の処理条件でpH5.8〜9.8までの各pHで安定である。5)分子量ソジウムドデシル硫酸(SDS)−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法による推定分子量は、38,000±1,000である。6)等電点pH9.7近傍にある。7)基質特異性天然基質であるカゼイン、ジメチルカゼイン、ヘモグロビン、ゼラチン及びケラチンに対して作用する。8)金属イオンの影響Hg2+イオンによって強く阻害される。9)阻害剤EDTA及びEGTAによって強く阻害される。フェニルメタンスルホニルフルオライド(PMSF)、キモスタチン、p−クロロマーキュリー安息香酸(PCMB)、5,5′−ジチオ−ビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)及びN−エチルマレイミド(NEM)によって全く阻害を受けない。10)界面活性剤の影響ソジウムドデシル硫酸(SDS)、ソジウムα−オレフィンスルホン酸(AOS)、ソジウムアルカンスルホン酸(SAS)、α−スルホ脂肪酸エステル(α−SFE)、ソフタノール(70H)及びソジウム直鎖アルキルベンゼンスルホン酸(LAS)に対して極めて安定である。 バチルス エスピー(Bacillus sp.)KSM−SP101と命名され、FERM P−14839号として寄託された請求項1記載の低温至適プロテアーゼを生産する微生物。 請求項2記載の微生物を培養し、その培養物から低温至適プロテアーゼを採取することを特徴とする請求項1記載の低温至適プロテアーゼの製造法。