タイトル: | 特許公報(B2)_光学活性1−オクテン−3−オールの製造法 |
出願番号: | 1994275734 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,C07C29/88,C07B57/00,C07C27/02,C07C33/03,C12P7/04,C12P41/00,C07M7:00 |
押久保 重政 野崎 倫生 JP 3638643 特許公報(B2) 20050121 1994275734 19941014 光学活性1−オクテン−3−オールの製造法 高砂香料工業株式会社 000169466 渡辺 一雄 100076761 押久保 重政 野崎 倫生 20050413 7 C07C29/88 C07B57/00 C07C27/02 C07C33/03 C12P7/04 C12P41/00 C12P41/00 C12R1:72 C07M7:00 JP C07C29/88 C07B57/00 343 C07C27/02 C07C33/03 C12P7/04 C12P41/00 D C12P41/00 C12R1:72 C07M7:00 7 C07C 29/88 C07B 57/00 343 C07C 27/02 C07C 33/03 C12P 7/04 C12P 41/00 JICSTファイル(JOIS) 特開平04−349894(JP,A) 特開平06−165694(JP,A) 特開平04−266885(JP,A) 特開平06−269294(JP,A) 野崎倫生,化学,1993, Vol.48, No.12,p.814-816 3 1996113544 19960507 10 20010511 松本 直子 【0001】【産業上の利用分野】本発明は、リパーゼの存在下、1−オクテン−3−オールとアシルドナーとを反応させる、新規かつ工業的に有用な光学活性1−オクテン−3−オールの製造法に関する。【0002】【従来の技術】1−オクテン−3−オール(以下、マツタケオールと略記することがある)は、マツタケ様の香気を有し、お吸い物などに使われるマツタケフレーバーなどの食品香料素材として広く用いられている重要な香料物質である。光学活性マツタケオールは両鏡像体間においてその官能特性に著しい差があることが知られている。(R)−マツタケオールはいき値1ppm、強くて典型的なマツタケ様香気を呈し、(S)−マツタケオールはいき値100ppm、弱くてほこりっぽい、草様の香気を呈する(野崎倫生、化学、48, 第814 頁(1993))。【0003】また、キノコ類に含まれるマツタケオールには、R体が78〜94%e.e.で存在していることが知られている(A. Mosandl; Z. Lebensm. Unters. Forsch., 186, P417 (1988))。【0004】マツタケフレーバーに代表されるキノコ系香料の創製において、天然感を忠実に表現するためには、光学活性マツタケオールの使用が重要である。【0005】このような光学活性なマツタケオールを得る方法として、山本らは、高砂香料時報、109,第10頁 (1993) で、β−ケト−オクタン酸メチルより、ルテニウム−バイナップ触媒を用いて光学活性なマンデリン酸メチルを生成し、さらに3工程を経て光学活性なマツタケオールを生成する方法を報告している。【0006】また、酵素法では、W. Grosch らは、"PPOGRESS IN FLAVOUR RESEARCH 1984", Proceedings of the 4th Weurman Flavour Symposium, P253 (1984) で、リノール酸からマッシュルームのリポキシゲナーゼを用いて光学活性なマツタケオールの生成を報告している。【0007】さらに、P. Schreier らは、"Flavor Precursors", ACS Symposium series 490, P32 (1992) で、豚すい臓エステラーゼを用いた有機溶剤中でのエステル化反応によるマツタケオール類縁体である1−アルケン−3−オールの光学分割を報告しており、その中で光学純度60%e.e.の光学活性マツタケオールを得ている。【0008】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、バイナップ触媒を用いた光学活性マツタケオールの不斉合成法は、合成ステップが長く実用的な方法であるとは言いがたい。【0009】また、リノール酸からマッシュルームのリポキシゲナーゼを用いて光学活性なマツタケオールを生成する方法は、生成されるマツタケオールの量が反応液1mlあたり85〜130ugであり、生成量が著しく低く、実用的ではない。【0010】豚すい臓エステラーゼを用いた有機溶剤中での不斉エステル化により光学活性体を得る方法も、得られる光学活性マツタケオールの光学純度およびエナンチオマー選択性が低く、必ずしも満足し得るものではない。【0011】以上の理由から、従来から、簡便でより立体特異的な光学活性マツタケオールの製造法が望まれていた。本発明は、このような実情に鑑み、前記の問題点を解決する新規な光学活性マツタケオールの製造法を提供することを課題とする。【0012】【課題を解決するための手段】本発明者らは、マツタケオールの光学活性体を得る新規な方法について鋭意検討を行っていたところ、従来より市販されているリパーゼを用いて、有機溶剤中にてマツタケオールのラセミ体と酢酸ビニルとのエステル交換反応により、簡便に光学活性マツタケオールが得られることを見出だした。さらに検討を重ねたところ、リパーゼの中でもキャンディダ アンタクティカ (Candida antarctica) 由来のリパーゼを用いる場合は特異的で、簡便にしかも高選択的に光学活性マツタケオールが得られることを見出すに至った。本発明者らは、これらの知見を基にさらに、ラセミ体のアシル化による光学分割について詳細な検討を重ねた結果、本発明に到達したものである。【0013】 すなわち、本発明は、次のとおりである。(1) キャンディダ アンタクティカ (Candida antarctica) 由来のリパーゼの存在下、1−オクテン−3−オールとアシルドナーとを反応させてアシル化物と未反応物とを含有する混合物を得、ついで、上記未反応物を分離することを特徴とする(R)−1−オクテン−3−オールの製造法。(2) 1−オクテン−3−オールと酢酸ビニルとのエステル交換反応を、有機溶剤中で行うことを特徴とする前記第(1)項記載の(R)−1−オクテン−3−オールの製造法。(3) 前記第(1)項記載のアシル化物を加水分解することを特徴とする(S)−1−オクテン−3−オールの製造法。【0014】以下、本発明を詳細に説明する。本発明において、(R)−マツタケオールとは、純粋なものあるいは(R)−1−オクテン−3−オールを優勢に含有するものを意味し、(S)−マツタケオールとは、純粋なものあるいは(S)−1−オクテン−3−オールを優勢に含有するものを意味する。また、光学活性マツタケオールの表現は、模式的に化1で示される(R)−マツタケオール、化2で示される(S)−マツタケオール、またはこれらを不均等含有する混合物を意味する。【0015】【化1】【0016】【化2】【0017】本発明で用いるマツタケオールは一般にはラセミ体が用いられる。ラセミ体のマツタケオールは容易に入手することが可能である。【0018】本発明では、マツタケオールとカルボン酸のアルキルエステルあるいはカルボン酸のアルケニルエステルとのエステル交換による光学分割のほかに、マツタケオールとカルボン酸無水物とのアシル化による光学分割を包含するものである。【0019】エステル交換による光学分割に用いられるアシルドナーとしては、特にアルケニルエステルが用いられ、具体的には、酢酸ビニル、オクタン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、酢酸イソプロペニルなどのエステルが用いられる。酢酸ビニルなどは、樹脂原料として広く用いられ、容易かつ安価に入手することができる。また、アシル化による光学分割に用いられるアシルドナーとしては、無水酢酸、無水酪酸などのカルボン酸無水物が用いられる。【0020】本発明では、マツタケオールを上述のエステル、カルボン酸無水物などのアシルドナーと反応させてアシル化物と未反応物とを含有する混合物を得るが、これらのエステル交換反応、アシル化反応は、好ましくは有機溶剤中で実施される。このような有機溶剤の例としては、シクロヘキサン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、トルエン、tert−ブタノール、エチルエーテル、テトラヒドロフラン、四塩化炭素、クロロホルムなどを挙げることができる。有機溶剤のうち最も好ましい有機溶剤は非極性有機溶剤であり、例えばシクロヘキサン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、トルエンなどがある。【0021】また、本発明で用いるリパーゼの例としては、リパーゼ (Candida antarctica) 、リパーゼA(Aspergillus niger) 、リパーゼAK(Pseudomonas sp.) 、リパーゼAY(Candida rugosa)、リパーゼPS(Pseudomonas cepacia) 、リパーゼQL(Alcaligenes sp.) などを挙げることができる。これらのリパーゼのうち最も好ましいのは、キャンディダ アンタクティカ (Candida antarctica) 由来のリパーゼである。このリパーゼは、実施例に示すように、特異的に高いエナンチオマー選択性を示す。【0022】本発明で用いるリパーゼは、例えばセライトなどの担体に吸着させたものを用いることができる。この場合には、(1)反応系内において酵素の安定性が増す、(2)回収が容易になる、(3)反応速度が早まる、などの利点が発生することになる。【0023】エステル交換による光学分割の好ましい製造法を具体的に説明すると、以下のとおりである。この反応式を化3に示す。【0024】【化3】【0025】マツタケオールのラセミ体と酢酸ビニルなどのビニルエステルを反応フラスコにとり、これに有機溶剤を加え、マグネットスターラーや攪拌羽を用いて良く攪拌し、混合溶液を得る。得られた混合溶液にキャンディダ アンタクティカ由来のリパーゼを0.1〜10%、好ましくは1〜5%を加え、4〜80℃、好ましくは20〜30℃で2〜96時間攪拌を続け反応させる。反応後、リパーゼを濾別し、濾過母液から減圧下で有機溶媒を留去すると、上記した化3の反応生成物が得られる。【0026】このようにして得られた光学活性混合物を公知の方法で溶出分画する。例えば、前記混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで、ヘキサン:酢酸エチル(49:1)の混合溶媒で溶出分画し、それぞれの光学活性体を単離する。単離した光学活性体は、そのまま調合香料の素材として用いることができる。【0027】また、有機合成において通常用いられている3,5−ジニトロ塩化ベンゾイルを用いて結晶化し、得られた結晶を再結晶を行うことで光学的に純粋な光学活性マツタケオールを容易に得ることができる。【0028】また、アシル化による光学分割の好ましい製造法について説明すると、以下の反応式に示すとおりである。この反応式を化4に示す。【0029】【化4】【0030】【発明の効果】本発明によれば、リパーゼの存在下で、マツタケオールのエステル交換反応、またはアシル化による光学分割を行うことにより、簡便にしかも高い反応率で光学活性マツタケオールを得ることができる。【0031】また、キャンディダ アンタクティカ由来のリパーゼの存在下で、マツタケオールのエステル交換反応、またはアシル化による光学分割を有機溶剤中で行うことにより、簡便でしかも高不斉選択的に光学活性マツタケオールを得ることができる。【0032】以上のことから、本発明は工業的にきわめて実用価値の高い光学活性マツタケオールの製造法を提供することができる。【0033】【実施例】以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。【0034】【実施例1】マツタケオールのラセミ体10gと酢酸ビニル6.7gを反応フラスコにとり、ヘキサンを用いて500mlにメスアップした。マグネチックスターラーを用いて良く攪拌し、混合溶液を得た。これにキャンディダ アンタクティカ (Candida antarctica) 由来のリパーゼ(ノボ社製、Novozym 435 )を5g添加し、混合物を室温約25〜27℃で2時間マグネチックスターラーで攪拌した。反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、反応率は47%と見積られた。【0035】反応液からリパーゼを濾別し、エバポレーターを用いて減圧下で有機溶剤の大半を留去した。得られた残液12gをシリカゲル(メルク社製、シリカゲル60)のカラムに充填してヘキサン:酢酸エチル(49:1)の混合溶液で溶出した。先に(S)−1−オクテン−3−イルアセテートを溶出し、その後(R)−マツタケオールを溶出した。【0036】得られたそれぞれの成分を含む溶出液は、それぞれエバポレーターを用いて減圧下で有機溶媒を留去し、(S)−1−オクテン−3−イルアセテート(収量5.6g、収率84%)、(R)−マツタケオール(収量4.8g、収率96%)を得た。【0037】さらに、(S)−1−オクテン−3−イルアセテートは10%KOH/メタノール溶液を用いてアルカリ加水分解し、(S)−マツタケオール(収量2.9g、収率60%)を得た。【0038】ここで得られた(R)−マツタケオールの光学純度は88%e.e.、(S)−マツタケオールの光学純度は97%e.e.であった。反応のエナンチオマー選択性はE=183であった。【0039】(R)−マツタケオールはさらに、ピリジン中にて3,5−ジニトロ塩化ベンゾイルと反応させ結晶とした。得られた結晶をヘキサン中にて再結晶し、光学的に純粋な結晶とした。これを定法に従って加水分解し、光学的に純粋な(R)−マツタケオール(収量2g、収率40%)を得た。【0040】【実施例2】マツタケオールのラセミ体2gと酢酸ビニル6.7gを反応フラスコにとり、ヘキサンにて100mlにメスアップした。マグネチックスターラーで良く攪拌し、混合溶液を得た。これにキャンディダ アンタクティカ (Candida antarctica) 由来のリパーゼ(ノボ社製、SP525)を1g添加し、混合物を室温約25〜27℃で3時間マグネチックスターラーで攪拌した。反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、反応率は51%と見積られた。【0041】反応液からリパーゼを濾別し、濾液はエバポレーターを用いて減圧下で有機溶剤の大半を留去した。得られた残液2.4gをシリカゲルカラムに充填してヘキサン:酢酸エチル(49:1)の混合溶液で溶出した。【0042】溶出液は減圧下で有機溶剤を留去し、(S)−1−オクテン−3−イルアセテート(収量1.2g、収率90%)、(R)−マツタケオール(収量0.9g、収率89%)を得た。【0043】(S)−1−オクテン−3−イルアセテートは、定法に従いアルカリ加水分解し、(S)−マツタケオール(収量0.6g、収率60%)を得た。【0044】ここで得られた(R)−マツタケオールの光学純度は98%e.e.、(S)−マツタケオールの光学純度は95%e.e.であり、反応のエナンチオマー選択性はE=200であった.【0045】【比較例1】 この比較例1は、リパーゼAKの存在下、マツタケオールのラセミ体と酢酸ビニルとのエステル交換反応を有機溶剤中で行った例を示す。【0046】シュードモナス属(Pseudomonas sp.) 由来のリパーゼAK(天野製薬(株)製)5gを、0.1モルのリン酸緩衝液(pH7.0)100mlに溶解し、これにセライト577を20g加え、よく攪拌する。攪拌後、シャーレあるいはそれに類似した平底の容器に溶液を薄く広げ、室温にて十分に乾燥させ、24gのセライト吸着酵素を得た。【0047】マツタケオールのラセミ体1gと酢酸ビニル0.67gを反応フラスコにとり、ヘキサンにて50mlにメスアップした。これに上記のセライトに吸着させたリパーゼAKを1g添加し、室温にて5.5時間攪拌した。反応液をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、反応率は54%であると見積られた。【0048】反応液からリパーゼを濾別し、濾液はエバポレーターを用いて減圧下で有機溶剤の大半を留去した。得られた残液をシリカゲルカラムに充填してヘキサン:酢酸エチル(49:1)の混合溶液で溶出した。【0049】溶出液は減圧下で有機溶剤を留去し、(S)−1−オクテン−3−イルアセテート、(R)−マツタケオールを、それぞれ得た。得られた(S)−1−オクテン−3−イルアセテートの光学純度は38%e.e.であり、この反応のエナンチオマー選択性はE=2.8であった。【0050】【比較例2】 この比較例2は、リパーゼQLの存在下、マツタケオールのラセミ体と酢酸ビニルとのエステル交換反応を有機溶剤中で行った例を示す。【0051】アルカリゲネス属(Alcaligenes sp.) 由来のリパーゼQL(名糖産業(株)製)5gを、0.1モルのリン酸緩衝液(pH7.0)100mlに溶解し、これにセライト577を20g加え、よく攪拌する。攪拌後、シャーレあるいはそれに類似した平底の容器に溶液を薄く広げ、室温にて十分に乾燥させ、24gのセライト吸着酵素を得た。【0052】マツタケオールのラセミ体1gと酢酸ビニル0.67gを反応フラスコにとり、ヘキサンにて50mlにメスアップした。これに上記のセライトに吸着させた上記リパーゼを1g添加し、6時間攪拌した。反応液をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、反応率は38%であると見積られた。【0053】反応液からリパーゼを濾別し、濾液はエバポレーターを用いて減圧下で有機溶剤の大半を留去した。得られた残液2.3gをシリカゲルカラムに充填してヘキサン:酢酸エチル(49:1)の混合溶液で溶出した。【0054】溶出液は減圧下で有機溶剤を留去し、(S)−1−オクテン−3−イルアセテート、(R)−マツタケオールを、それぞれ得た。得られた(S)−1−オクテン−3−イルアセテートの光学純度は36%e.e.、(R)−マツタケオールの光学純度は22%e.e.であった。この反応のエナンチオマー選択性はE=2.6であった。【0055】【比較例3】 この比較例3は、リパーゼPSの存在下、マツタケオールのラセミ体と酢酸ビニルとのエステル交換反応を有機溶剤中で行った例を示す。【0056】シュードモナス属(Pseudomonas cepacia) 由来のリパーゼPS(天野製薬(株)製)5gを、0.1Nリン酸緩衝液(pH7.0)100mlに溶解し、これにセライト577を20g加え、よく攪拌する。攪拌後シャーレあるいはそれに類似した平底の容器に溶液を薄く広げ、室温で十分に乾燥させ、セライトに吸着した酵素、24.5gを得た。【0057】マツタケオールのラセミ体6gと酢酸ビニル3.4gを反応フラスコにとり、ヘキサンにて250mlにメスアップした。これにセライトに吸着させたリパーゼPSを5g添加し、室温にて1.5時間攪拌した。反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、反応率は51%であると見積られた。【0058】反応液からリパーゼを濾別し、濾液はエバポレーターを用いて減圧下で有機溶剤の大半を留去した。得られた残液5.7gをシリカゲルカラムに充填してヘキサン:酢酸エチル(49:1)の混合溶液で溶出した。【0059】溶出液は減圧下で有機溶剤を留去し、(S)−1−オクテン−3−イルアセテート(収量3.2g、収率97%)、(R)−マツタケオール(収量2.2g、収率88%)を得た。得られた(R)−マツタケオールの光学純度は50%e.e.であった。この反応のエナンチオマー選択性はE=4.6であった。【0060】さらに、得られた光学純度50%e.e.の(R)−マツタケオール2g、酢酸ビニル1.3gを反応フラスコにとり、ヘキサンにて20mlにメスアップした。これにセライトに吸着させたリパーゼPSを2g添加し、0.5時間攪拌した。反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、反応率は30%であると見積られた。【0061】反応液からリパーゼを濾別し、濾液はエバポレーターを用いて減圧下で有機溶剤を留去した。得られた残液2.3gをシリカゲルカラムに充填してヘキサン:酢酸エチル(49:1)の混合溶液で溶出した。【0062】溶出液は減圧下で有機溶剤を留去し、(R)−マツタケオール(収量1.6g、収率64%)を得た。得られた(R)−マツタケオールの光学純度は71%e.e.であった。【0063】得られた(R)−マツタケオールはさらに、ピリジン中にて3,5−ジニトロ塩化ベンゾイルと反応させ結晶とした。得られた結晶はヘキサン中にて再結晶し、光学的に純粋な結晶とした。これを定法に従って加水分解し、光学的に純粋な(R)−マツタケオール(収量0.4g、収率16%)を得た。【0064】【比較例4】 この比較例4は、リパーゼAKの存在下、マツタケオールのラセミ体とオクタン酸ビニルとのエステル交換反応を有機溶剤中で行った例を示す。【0065】 比較例1と同様のリパーゼAKのセライト吸着酵素を用いた。 マツタケオールのラセミ体1gとオクタン酸ビニル1.33gを反応フラスコにとり、ヘキサンにて50mlにメスアップした。これに上記のセライトに吸着させたリパーゼAKを1g添加し、室温にて7時間攪拌した。反応液をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、反応率は46%であると見積られた。【0066】反応液からリパーゼを濾別し、濾液はエバポレーターを用いて減圧下で有機溶剤の大半を留去した。得られた残液をシリカゲルカラムに充填して、ヘキサン:酢酸エチル(49:1)の混合溶液で溶出した。【0067】溶出液は減圧下で有機溶剤を留去し、(S)−1−オクテン−3−イルオクタノエート、(R)−マツタケオールを、それぞれ得た。得られた(S)−1−オクテン−3−イルオクタノエートの光学純度は50%e.e.、(R)−マツタケオールの光学純度は42%e.e.であり、この反応のエナンチオマー選択性はE=4.5であった。【0068】【比較例5】 この比較例5は、リパーゼAKの存在下、マツタケオールのラセミ体とラウリン酸ビニルとのエステル交換反応を有機溶剤中で比較例4と同様に行った例を示す。【0069】この反応では、ガスクロマトグラフィーによる反応率は51%であると見積られた。また、得られた(S)−1−オクテン−3−イルラウリノエートの光学純度は49%e.e.であり、この反応のエナンチオマー選択性はE=4.7であった。【0070】【実施例3】 この実施例3は、キャンディダ アンタクティカ (Candida antarctica) 由来のリパーゼの存在下、アシルドナーとして無水酢酸を用いて、マツタケオールのラセミ体のアシル化による光学分割を行った例を示す。【0071】マツタケオールのラセミ体2g、無水酢酸1.6gを反応フラスコにとり、ヘキサンにて100mlにメスアップした。キャンディダ アンタクティカ (Candida antarctica) 由来のリパーゼ(ノボ社製、Novozym 435 )を1g添加し、室温にて6時間攪拌した。反応液をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、反応率は41%であると見積られた。【0072】反応液からリパーゼを濾別し、濾液はエバポレーターを用いて減圧下で有機溶剤の大半を留去した。得られた残液3.6gをシリカゲルカラムに充填して、ヘキサン:酢酸エチル(49:1)の混合溶液で溶出した。【0073】溶出液は減圧下で有機溶剤を留去し、(S)−1−オクテン−3−イルアセテート(収量0.72g、収率54%)、(R)−マツタケオール(収量0.74g、収率74%)を、それぞれ得た。得られた(S)−1−オクテン−3−イルアセテートの光学純度は85%e.e.、(R)−マツタケオールの光学純度は60%e.e.であった。この反応のエナンチオマー選択性はE=22.4であった。【0074】【比較例6】 この比較例6は、リパーゼPSの存在下、アシルドナーとして無水酢酸、無水酪酸を用いて、マツタケオールのラセミ体のアシル化による光学分割を行った例を示す。【0075】ここで用いたリパーゼPSは、セライトに吸着させたものを用いた。リパーゼPSによるアシル化反応の結果を以下に示す。【0076】酸無水物 反応率(h) 光学純度( %e.e.) 選択性(E)────────────────────────────────────無水酢酸 47(11) 48 4.2無水酪酸 49(11) 53 5.3 キャンディダ アンタクティカ (Candida antarctica) 由来のリパーゼの存在下、1−オクテン−3−オールとアシルドナーとを反応させてアシル化物と未反応物とを含有する混合物を得、ついで、上記未反応物を分離することを特徴とする(R)−1−オクテン−3−オールの製造法。 1−オクテン−3−オールと酢酸ビニルとのエステル交換反応を、有機溶剤中で行うことを特徴とする請求項1記載の(R)−1−オクテン−3−オールの製造法。 請求項1記載のアシル化物を加水分解することを特徴とする(S)−1−オクテン−3−オールの製造法。