タイトル: | 特許公報(B2)_慢性骨髄性白血病急性転化の検出方法 |
出願番号: | 1994275527 |
年次: | 2004 |
IPC分類: | 7,C12Q1/48 |
吉村 雅史 西河 淳 松沢 佑次 谷口 直之 JP 3601858 特許公報(B2) 20041001 1994275527 19941017 慢性骨髄性白血病急性転化の検出方法 タカラバイオ株式会社 302019245 井上 昭 100087022 中本 宏 100078503 吉村 雅史 西河 淳 松沢 佑次 谷口 直之 20041215 7 C12Q1/48 JP C12Q1/48 Z 7 C12Q 1/00-70 G01N 33/00-98 PubMed、MEDLINE(STN) BIOSIS/WPI(DIALOG) 1 1996112098 19960507 6 20010419 特許法第30条第1項適用 1994年4月、社団法人日本血液学会発行の「日本血液学会抄録集第59巻補冊1号」に発表 特許法第30条第1項適用 1994年9月 日本癌学会発酵の「第53回日本癌学会総会記事 第571頁」に発表 斎藤 真由美 【0001】【産業上の利用分野】本発明は白血病、特に慢性骨髄性白血病の急性転化の検出方法に関する。【0002】【従来の技術】白血病とは、造血組織の腫瘍性疾患で、悪性化した造血組織由来の細胞(白血病細胞)が単クローン性に自律性増殖する。血流中に白血病細胞が出現し、肝、脾、リンパ節、腎、肺、脳等の主要臓器に白血病細胞の浸潤を来し、最終的には、出血、感染などの合併症も併発し、死に至る。白血病は、未分化な細胞が増殖する急性白血病と、分化能をもつ、あるいは分化した細胞が中心に増殖する慢性白血病とに分類される。またそれぞれは、細胞形態学的、免疫学的に骨髄性白血病、リンパ性白血病、単球性白血病等に細分類される。従来白血病の診断は末梢血や骨髄中の白血病細胞の形態観察、細胞化学染色や遊走能、貪食能等の機能検査の成績などを総合して行われる。近年ではモノクローナル抗体を用いた免疫学的形質を検索することによって病型分類のみならず、細胞の起源や分化段階まで推定できるようになっている。また、各病型に特徴的な染色体異常が観察されており、白血病の総合的診断に染色体分析は重要な位置を占めている。慢性骨髄性白血病(CML)は臨床経過より、慢性期、移行期、急性転化の三つに分類される。多くの場合発症から3〜4年続く慢性期の後、移行期を経るかあるいはそのまま急性転化と呼ばれる急性白血病様の病態に至る。CMLの診断に関しては、その95%以上の症例でフィラデルフィア(Philadelphia) 染色体(Ph1 染色体)と呼ばれる第9番染色体と第22番染色体の相互転座〔t(9;22)(q34;q11)〕の存在が認められており、Ph1 染色体陽性所見はCMLの診断に有用である。更に、近年ではこの相互転座の結果生じる第9番染色体のabl遺伝子と第22番染色体のbcr(break point clustered region) 遺伝子のハイブリッド遺伝子(bcr−ablハイブリッド遺伝子)をサザンブロット解析やPCR法等の分子生物学的手法を用いて検出する、いわゆる遺伝子診断も行われている。近年、骨髄移植がCMLに対する有効な治療法として注目されているが、その実施時期は慢性期のできるだけ早期であるほど治療効果が高く、急性転化すると骨髄移植の成功率は極めて低い。したがって、CML急性転化の有無を判定する必要がある。また、初診時既にCML急性転化した患者の場合には急性白血病との鑑別が問題となる。急性白血病患者には初回からの化学療法が効果的であり、寛解率は80%を越えるが、CML急性転化の患者に対しては化学療法はあまり効果的とはいえず、CMLにおいては慢性期の間にドナーが得られれば、直ちに骨髄移植を実施しなければならない。【0003】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、CMLの進行度、すなわち慢性期、移行期、急性転化期の判定は確固たる基準に沿って行われていないのが現状であり、時には治療方針に混乱を来す場合もある。従来急性転化したCMLの判定は発熱、急激な脾腫、リンパ球内の幼若化細胞の比率増加等の臨床所見に基づいて行われている。更に、CMLに特徴的なPh1 染色体の検出は長時間を要するため、迅速かつ簡便な判定方法が望まれていた。また、前述したようにCML急性転化と急性白血病の鑑別を必要とする場合があるが、Ph1 染色体はCMLのみならず急性リンパ性白血病(ALL)の25〜30%、急性骨髄性白血病(AML)の2〜3%にも認められるため、Ph1 染色体陽性所見からCML急性転化と急性白血病の鑑別を行うことは困難である。それ故、CML急性転化を急性白血病と明確に識別し、診断する簡便かつ迅速な検査法の開発が望まれていた。本発明は上記の問題点を解決するためのものであり、その目的はCML急性転化の有無をでき得る限り早期に、簡便迅速かつ定量的に判定する方法を提供することにある。【0004】本発明は、白血球のN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ−IIIの活性値を対象値と比較測定するCMLの急性転化の検出方法であって、下記工程;(1)ヒトの白血球から細胞破砕液を調製する工程と(2)該細胞破砕液を酵素溶液としてN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ−IIIの活性を測定する工程、とからなり、前記活性がCML慢性期の白血球細胞のN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ−III活性と比較して高値である場合にCMLの急性転化と判定することを特徴とするCMLの急性転化の検出方法に関する。【0005】N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ−III (以下、GnT−III と略記する)は、糖タンパク質のアスパラギン結合型糖鎖のトリマンノシルコア部分に存在するβ−マンノースにN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)をβ−1,4−結合で転移し、バイセクティングGlcNAcを合成する。本発明者らは種々の白血病細胞におけるGnT−III 活性を測定したところ、CML急性転化症例のGnT−III 活性が、CML慢性期を含む他の白血病細胞や正常人の白血球細胞のGnT−III 活性と比較して有意に高値を示すことを発見し、本発明を完成するに至った。【0006】すなわち、本発明はGnT−III の活性上昇を検出することを特徴とするCMLの急性転化の検出方法を提供するものである。【0007】本発明におけるGnT−III 活性上昇の検出は、例えば(1)ヒトの白血球から細胞破砕液を調製する工程と、(2)該細胞破砕液を酵素溶液としてGnT−III の活性を測定する工程、とからなることが好ましい。【0008】ヒトの白血球(例えば末梢血の単核球)から細胞破砕液を調製する方法は特に限定されるものではないが、例えば細胞を超音波処理することによって細胞破砕液を得ることができる。また、細胞破砕液中のGnT−III 活性を測定する方法も特に限定されるものではなく、例えば糖供与体としてウリジンジホスホN−アセチルグルコサミン(UDP−GlcNAc)を用い、受容体として適当な糖鎖あるいは糖ペプチドあるいは糖タンパク質を用いて、適当な緩衝液中でこれらと白血球破砕液を反応させた後転移生成物を定量することによって細胞破砕液中のGnT−III 活性を測定することができる。好ましくは、例えば本発明者らによって開発されたGnT−III 活性測定方法〔アナリチカル バイオケミストリー(Analytical Biochemistry)、第170巻、第349〜354頁(1988)、あるいはメソッズ イン エンザイモロジー(Methods in Enzymology)、第179巻、第397〜408頁(1989)〕によって簡便かつ迅速に白血球破砕液のGnT−III 活性を測定することができる。【0009】この方法を用いて白血病細胞のGnT−III 活性を測定したところ、各症例におけるGnT−III 活性(nmol/h/mg タンパク質)は、CML急性転化では16例中13例でGnT−III 活性は1.0以上、うち3例では6.0以上と異常高値を示した。CML慢性期、AML、ALL、慢性リンパ性白血病(CLL)ではGnT−III 活性は低く、AML1例、ALL1例、CLL1例を除き全例0.5以下であった。正常コントロールの単核球のGnT−III 活性は0.25以下であった。【0010】以上に述べたように、CML慢性期、AML、ALL、CLL、正常コントロールの白血球のGnT−III 活性値をそれぞれ対照値とした場合、CML急性転化の白血球のGnT−III 活性値は有意の高値を示すことから、これらの対照値と比較することによりCML急性転化を検出することができる。また、CML慢性期患者より連続的に検体を調製してそのGnT−III 活性値を測定し、CML慢性期のGnT−III 活性値を対照値として各検体のGnT−III 活性値を比較することによって、CML急性転化をモニタリングすることができる。【0011】【実施例】以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、この実施例は本発明の一例を示すものであり、本発明はこれらになんら限定されるものではない。【0012】実施例1表1に示す白血病患者、多発性骨髄腫(MM)患者、正常コントロールの末梢血(PB)より単核球を調製し、検体とした。【0013】【表1】表 1──────────────────────────CML急性転化 16例CML慢性期 8例AML 10例ALL 8例CLL 11例MM 14例正常コントロール(PB) 7例──────────────────────────【0014】(GnT−III 活性測定法)細胞を超音波破砕して調製した細胞破砕液を酵素溶液とし、アナリチカル バイオケミストリー、第170巻、第349〜354頁(1988)、あるいはメソッズ イン エンザイモロジー、第179巻、第397〜408頁(1989)に記載の方法に従って、2−アミノピリジンで蛍光標識した下記式(化1)で示す糖鎖基質及びUDP−GlcNAcと反応させた後、反応生成物をHPLCで分析定量した。なお下記式(化1)で示す糖鎖基質は宝酒造社製品として入手可能である。以下、方法を詳細に説明する。【0015】【化1】【0016】末梢血をフィコール−ハイパック(Ficoll−Hypaque、ファルマシア社製)に重層して1400rpm、室温で20〜30分遠心してバンドになる単核球画分を分取する。PBS(−)で洗浄後、PBS(−)に懸濁して4℃で超音波処理し、細胞破砕液を調製し、検体とした。アッセイ用混合液〔250mM MES緩衝液、pH6.25、40mM UDP−GlcNAc、20mM MnCl2 、400mM GlcNAc、1.0%(w/v)トリトン(Triton) X−100〕25μlと3.85mM 糖鎖基質溶液10μlの混合液に検体15μlを加えて37℃で2時間反応を行う。反応液を逆層カラム(TSKgel ODS−80TM 、4.6×150mm、東ソー株式会社製)を用いたHPLCで分析を行った。溶出は0.3%1−ブタノールを含む0.02M酢酸アンモニウム緩衝液、pH4.0、流速1.2ml/minで行った。検出は蛍光検出器を用いて行い、励起波長320nm、蛍光波長400nmである。【0017】(結果)各症例におけるGnT−III 活性(nmol/h/mg タンパク質)を図1に示した。すなわち、図1は各症例におけるGnT−III 活性(nmol/h/mg タンパク質)を示す図であり、縦軸はGnT−III 活性(nmol/h/mg タンパク質)、横軸は各症例を示す。CML急性転化では16例中13例でGnT−III 活性は1.0以上、うち3例では6.0以上と異常高値を示した。AML、ALL、CLL、PBではGnT−III 活性は低く、AML1例、ALL1例、CLL1例を除き全例0.5以下であった。また、CML慢性期8例もGnT−III 活性は低く、すべて0.5以下であった。以上に述べたように、CML急性転化でGnT−III 活性の有意の上昇が認められた。なお、白血病以外の血液の腫瘍であるMMのGnT−III 活性(nmol/h/mg タンパク質)は0.19〜3.47であった。【0018】【発明の効果】CML急性転化症例のGnT−III 活性は、CML慢性期を含む他の白血病細胞や正常人の白血球細胞のGnT−III 活性と比較して有意に高値を示す。したがって、白血病細胞のGnT−III 活性を測定することによりCML急性転化の有無を簡便かつ迅速に判定することが可能となった。【図面の簡単な説明】【図1】各症例におけるGnT−III (nmol/h/mg タンパク質)を示す図である。 白血球のN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ−IIIの活性値を対象値と比較測定する慢性骨髄性白血病の急性転化の検出方法であって、下記工程;(1)ヒトの白血球から細胞破砕液を調製する工程と(2)該細胞破砕液を酵素溶液としてN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ−IIIの活性を測定する工程、とからなり、前記活性が慢性骨髄性白血病慢性期の白血球細胞のN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ−III活性と比較して高値である場合に慢性骨髄性白血病の急性転化と判定することを特徴とする慢性骨髄性白血病の急性転化の検出方法。