タイトル: | 特許公報(B2)_スポロドキアの形成方法 |
出願番号: | 1994258872 |
年次: | 2004 |
IPC分類: | 7,C12N1/14 |
進藤 美穂 宮城 任子 JP 3593156 特許公報(B2) 20040903 1994258872 19940928 スポロドキアの形成方法 TDK株式会社 000003067 大場 充 100100077 進藤 美穂 宮城 任子 20041124 7 C12N1/14 JP C12N1/14 B 7 C12N 1/14 JSTPlus(JOIS) BIOSIS/WPI(DIALOG) 6 1996089235 19960409 10 20010629 田村 明照 【0001】【産業上の利用分野】本発明は、フザリウム属(Fusarium)菌のスポロドキアの形成方法に関する。【0002】【従来の技術】フザリウム属菌は、自然条件下の枯死枝葉や土壌中などに広く存在する糸状菌の一種であり、形態的に類似する病原性の菌と非病原性の菌とが雑居していることが多い。【0003】病原性のフザリウム属菌は多くの植物に感染して萎ちょう病や萎黄病等の植物疾病を引き起こす。このため、いち早く病原性のフザリウム属菌の存在を知り、対策を講ずることが重要となるが、感染の予防あるいは感染の有無のチェックには、分析可能な量に達するまで病原性のフザリウム属菌を培養して調べる必要がある。また、病原性フザリウム属菌の殺菌剤や病原性フザリウム属菌に対して耐性のある品種を開発研究するにしても大量培養が必要である。【0004】一方、非病原性のフザリウム属菌は、病原性のフザリウム属菌に対する拮抗作用を有することから、拮抗作用を利用した土壌改良剤としての用途が期待できる。さらに、一般には、化学農薬に代わる、環境汚染の少ない生物防除剤や化学農薬では防除が困難な土壌病害防除剤への応用が試みられている。従って、このような用途においても、フザリウム属菌の大量培養が必要となってくる。【0005】このように、フザリウム属菌は、病原性、非病原性にかからわず、上記のような利用法が種々存在するため、大量培養することが望まれており、例えば特開平4−237490号公報には、糖蜜を含む液体培地でフザリウム属微生物の芽胞を大量培養する方法が開示されている。【0006】しかし、フザリウム属菌のなかには、胞子が形成しにくいものがあり、上記公報に開示される方法では培養がうまくいかないものもある。【0007】このように胞子が形成しにくいフザリウム属菌では、例えばフザリウム属菌の宿主となりうるカーネーションを用い、水に溶解した寒天に乾燥カーネーションの葉片を入れた平板培地(CLA培地)など特定の培地を作製し、この培地に植菌し、12時間周期での明期(25℃)、暗期(20℃)の繰り返し条件下の培養によって分生子を形成させている[Fusarium Species An Illustrated Manual for Identification Nelson,Toussoun and Marasas The Pennsylvania Press p12−18(1983) ]。【0008】このような方法で分生子を形成する場合、分生子の粘塊であるスポロドキアが形成されるまでに要する時間は、植菌後4〜6週間程度であるが、上記の乾燥カーネーションの葉片を入れた平板培地を作製するに際し、培地成分としてのカーネーションの葉片の乾燥と乾燥後の保存に手間取り、またこのような操作には技術を要し、効率がよくない。さらに、培養条件も明期、暗期を要し、温度管理も必要なことから、それに応じ、照明手段、温度制御手段および時間制御手段(タイマー)を備えた特殊な培養装置が必要となる。【0009】従って、胞子の培養がしにくいフザリウム属菌においても、胞子の大量培養を容易に行うことができる生産効率の高い方法の開発が望まれている。【0010】【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、特にフザリウム属菌において、簡易かつ効率よくスポロドキアの形成を行うことができるスポロドキアの形成方法を提供することにある。【0011】【課題を解決するための手段】このような目的は、下記(1)〜(6)の構成によって達成される。(1) 固体培地上にフザリウム属(Fusarium)菌を植菌して培養し気生菌糸および基底菌糸を生長させる第1の工程と、基底菌糸を切断するとともにその切断面を大気に露出させる第2の工程と、その後さらに培養してスポロドキアを得る第3の工程とを有するスポロドキアの形成方法。(2) 前記第1の工程で前記気生菌糸を前記固体培地の実質的全面を覆うように生長させる上記(1)のスポロドキアの形成方法。(3) 前記第1および第3の工程で前記培養を暗所で行う上記(1)または(2)のスポロドキアの形成方法。(4) 前記第2の工程で前記気生菌糸を除去する上記(1)〜(3)のいずれかのスポロドキアの形成方法。(5) 前記第2の工程で前記固体培地表面をかきとって前記基底菌糸を切断し、かつ前記気生菌糸を除去する上記(1)〜(4)のいずれかのスポロドキアの形成方法。(6) 前記固体培地が天然ジャガイモ寒天培地、ポテト・デキストロース寒天(PDA)培地またはポテト・サッカロース寒天(PSA)培地である上記(1)〜(5)のいずれかのスポロドキアの形成方法。【0012】【作用】本発明では、フザリウム属(Fusarium)菌を固体培地に植菌し、気生菌糸と基底菌糸とが生長するまで培養し、その後基底菌糸を切断して切断面を大気中に露出させたのち、さらに培養を継続する。このためフザリウム属菌の菌糸生育用寒天培地をそのまま使用して、暗所で、照明設備やタイマーなどの特別な装備を必要としない通常の培養装置を用いて、植菌時から約5週間程度の時間でスポロドキアを形成することができる。【0013】従来、このようなスポロドキアの形成は、例えば乾燥カーネーションの葉片を入れた寒天を固めたCLA培地等に代表される特定の平板培地を用い、一定温度に設定した明期(25℃)、暗期(20℃)を12時間周期で繰り返す培養条件により行っていたが、このような方法に比べ、本発明の方法は格段と簡便な方法である。また、要する培地量で比較した場合、スポロドキアの形成個数も本発明の方が多い。【0014】【具体的構成】以下、本発明の具体的構成について詳細に説明する。【0015】本発明では、まず第1の工程で、固体培地上にフザリウム属(Fusarium)菌を植菌して培養し、気生菌糸および基底菌糸を生長させる。このように気生菌糸および基底菌糸を生長させることによって、培地中の栄養分のうち菌糸生長に必要な栄養分が摂取された状態になり、分生子形成に有利な培地状態となる。【0016】この場合、気生菌糸が固体培地の実質的全面を覆うように生長伸長させることが好ましく、これにより、菌糸生長のスペースもなくなるなど、培地条件が分生子形成により好適なものとなる。【0017】ここで、「実質的全面」とは固体培地表面積の90%以上であることをいう。さらには95〜100%であることが好ましい。【0018】気生菌糸および基底菌糸の伸長は、植菌時から1日以内(8〜12時間程度)に観察され、全面を覆うようになるまでに植菌時から1週間程度の時間を要する。【0019】このように気生菌糸および基底菌糸が盛んに伸長しているときには、固体培地には分生子は存在しないと考えられる。【0020】ここで、「基底菌糸」とは、培地または宿主に入りこみ、栄養分を摂取する菌糸をいい、「気生菌糸」とは、大気中にのびる菌糸をいう。ただし、基底菌糸であっても、本発明に用いる菌は嫌気性ではないので、培地の極表面でのみ生長し、基底菌糸の存在する培地体積は全培地体積の15%程度である。【0021】なお、植菌は、公知の方法によればよく、例えば白金耳やコルクボーラーなどを用い一定量の菌糸を一部の培地ごとかきとり、そのまま培地上に植え付けるなどする。通常、直径90mm程度のシャーレに培地を20ml程度分注して用いるが、その場合の植菌量は周辺の寒天培地を含めて0.2g 程度の量とすればよい。【0022】上記のように第1の工程で気生菌糸および基底菌糸を生長させたのち、本発明では、第2の工程で基底菌糸を切断するとともにその切断面を大気に露出させる。【0023】このように栄養分を摂取し生長伸長したのちの基底菌糸を切断し、切断面を大気に露出させることによって、栄養源の枯渇および菌糸の損傷と乾燥がもたらされ、分生子の形成が促進される。【0024】この基底菌糸の切断とともに、気生菌糸の大部分(気生菌糸の培地における占有面積全体の90%以上)、好ましくは全てを除去すると分生子の形成が促進される。気生菌糸の除去の方法には特に制限はないが、通常は切断した気生菌糸を培養容器から取り出す。【0025】より具体的な手段としては、培地をこそぎ落とすように少量ずつかきとり、気生菌糸を除去し、同時にかきとった基底菌糸の一部も除去し、同時にその切断と露出とを行えばよい。さらに、この際には気生菌糸の全てを除去し、また基底菌糸の大部分を除去することが好ましい。このように、気生菌糸の全て、基底菌糸の大部分を除去することによって、分生子形成に一層有利な培地状態が実現する。また、基底菌糸を一部残すのは、その切断面から分生子が形成されるからであり、全部除去したのでは分生子が形成されなくなる。従って、基底菌糸は、基底菌糸が存在する培地体積で表示して、基底菌糸がもともと存在した全培地体積の8〜12%程度を残すようにすることが好ましい。培地全体の体積を基準にすれば3〜7%程度が除去され、93〜97%程度が残存することになる。【0026】このような切断操作は、通常、白金耳やセルスクレーパー(プラスチック製のへら)等を用いてかきとること、あるいはカミソリやメスの刃の腹等でこそぎ落とすこと、などにより行えばよい。【0027】上記において、培地表面の基底菌糸の切断面は、通常、切断後、大気にずっと露出された状態にある。しかし、場合によっては、培地表面から内部に至るキズを入れたり、スリットを形成したりしてもよく、この場合も基底菌糸の切断面は大気に露出している状態である。この他、切断方法については種々の方法が可能である。【0028】上記のような切断操作を行う第2の工程ののち、第3の工程では、そのままの培地を用いて培養を続行する。この引き続き行う培養は、この切断操作の時点から2〜4週間程度の時間、すなわち植菌時から5〜8週間程度の時間とすればよい。【0029】このような培養によってスポロドキアが形成される。この場合、植菌時から5〜8週間程度の時間でスポロドキアの形成が肉眼で認識され始め、その全体的な大きさにはさほどの変化はないが、徐々にその一つ一つの膨らみが増していくとともに、数も増大していくのが観察される。そして、その後一週間程度で安定化する。この場合スポロドキアは培地1ml当り5〜10個形成される。【0030】ここで、「スポロドキア」とは、分生子の粘塊をいい、培地表面および表面部(培地の表面領域であって、培地全体の15体積%程度に相当する部分であり、通常培地表面からの深度で1mm程度の部分)に形成される。また、その形状はほぼ球状であり、直径1mm程度の大きさのものである。そしてこのような大きさになったときに肉眼で認識できるようになる。スポロドキアを構成する「分生子」は、大型のもので20〜100μm ×2〜6μm 程度の大きさであり、小型のもので4〜20μm ×2〜4μm 程度の大きさであり、通常、大型のものは隔壁が形成される。【0031】なお、スポロドキアは、通常植菌時から5〜8週間程度で形成されるが、場合によっては栄養分の枯渇や乾燥等のために2週間程度で分生子が形成されることがある。【0032】本発明に用いる固体培地には特に制限はなく、通常諸種の寒天培地を用いることができる。特に、天然じゃがいも寒天培地、この天然ジャガイモ寒天培地にデキストロースまたはサッカロースを添加したポテト・デキストロース寒天(PDA)培地やポテト・サッカロース寒天(PSA)培地等を用いることが好ましい。このような天然培地を用いることによってスポロドキアの形成効率が向上する。【0033】天然ジャガイモ培地は、ジャガイモ200g 程度を適当量の水で煮た煮汁をガーゼで濾した後、蒸留水を加えて1リットル程度としたジャガイモ煎汁液を用い、この煎汁に対し粉末寒天を15g 程度添加して得られたものである。【0034】またPDA培地、PSA培地は、上記のようにして得られたジャガイモ煎汁液にデキストロースまたはサッカロースを2wt% 程度となるように添加して同様にして得られたものである。【0035】培地には、このほか、必要に応じ、リン塩酸、カリウム塩、マグネシウム塩等の無機塩類を添加してもよい。【0036】このように本発明では、菌糸生育用に用いられている培地をそのまま用いることができる。【0037】本発明における培養条件は、気生菌糸および基底菌糸の生長伸長までの培養、基底菌糸の切断および大気露出後の培養のいずれにおいてもかわりはなく、特に制限はない。培養温度の管理の必要はなく、室温(22〜28℃)で行えばよい。また、暗所、明所、さらには明暗交替のいずれで培養してもよく、特に制限はない。このため例えば暗所のみとすることもできる。なお、湿度条件については寒天培地が乾燥しないように配慮するほかは特に管理する必要はないが、極端な乾燥や加湿は好ましくないので、通常10〜90%RH程度とする。【0038】従って、本発明における培養は、照明設備やタイマーなどの装備がない汎用の恒温機能をもつ培養装置を用いて行うことができる。【0039】本発明において植菌に供するフザリウム属(Fusarium)菌としては種々のものであってよく、特に制限はない。このようなものとしては、例えばフザリウム属ロゼウム種(F.roseum)、フザリウム属オキシスボラム種(F.oxysporum) 、フザリウム属ソラニ種(F.sorani)、フザリウム属モニリフォルメ種(F.moniliforme) 、フザリウム属ニバレ種(F.nivale)、フザリウム属ラテリチウム種(F.lateritium)、フザリウム属スプレンデンス種(F.splendens) 等の菌が挙げられる。【0040】このようなフザリウム属菌のなかで、病原性のフザリウム属菌と宿主植物(感染植物)との関係を例示すれば以下のようになる。【0041】(1) F. roseumムギ類(コムギ、オオムギ等)、ストック、カーネーション、チューリップ、カラマツ、アカマツ、アルファルファ、アカクローバー、イネ科牧草、リンドウ(なお、本発明者等によりトルコキキョウへの感染も確認された。)(2) F. oxysporumサツマイモ、ナガイモ、トマト、ナス、スイカ、メロン、キュウリ、ヘチマ、ユウガオ、キャベツ、ダイコン、イチゴ、タマネギ、ネギ、ラッキョウ、アスパラガス、ゴボウ、ハス、ホウレンソウ、レタス、ミツバ、カーネーション、アスター、シクラメン、チューリップ、スイセン、グラジオラス、カラマツ、アカマツ、アルファルファ、赤クローバー、イネ、ダイズ、トルコキキョウ、カナリーヤシ、クロッカス(サフラン)、サトイモ、マーガレット、キク、ゴマ、タバコ、ジャガイモ、ワタ、アマ、ササゲ、インゲンマメ、ソラマメ、ルービン、エンドウ、クローバ、ネムノキ、イチゴ、テンサイ(3) F. solaniインゲン、サツマイモ、ジャガイモ、ナガイモ、コンニャクイモ、チョウセンニンジン、クワ、ハス、ウド、ヤマゴボウ、カラマツ、アカマツ、アルファルファ、アカクローバ、トルコキキョウ、マーガレット(4) F. moniliformeイネ、ダイズ(5) F. nivaleイネ、ムギ類(6) F. lateritiumクワ、ケイトウ、カラマツ、アカマツ、アカシア(7) F. splendensネム【0042】また、これらのフザリウム属菌の感染によって引き起こされる病気としては萎黄病、萎ちょう病、茎腐れ病等が挙げられる。【0043】本発明の方法は、フザリウム属菌のなかでも一般に胞子を形成しにくいとされるものに用いることが好ましく、このようなフザリウム属菌においてもスポロドキアの形成を行うことができる。【0044】本発明の方法は、フザリウム属菌において有効であるが、このほかの不完全菌に対しても用いることができ、特に胞子形成がしにくい不完全菌を対象にして効果が大きい。【0045】本発明のスポロドキアの形成方法は、病原性フザリウム属菌においては、スポロドキアを容易に得ることができ、その種等の識別により、植物への感染予防や感染対策を講じやすくなる。【0046】また、分生子の大量生産が可能になり、病原性のフザリウム属菌においては、この菌の殺菌剤や抵抗性の植物品種の開発・研究を行うときに使用することができる。一方、非病原性のフザリウム属菌においては、病原性のものに対する拮抗作用を利用した土壌改良剤、あるいは生物防除剤や土壌病害防除剤等としての用途が期待できる。【0047】【実施例】以下、本発明の実施例を比較例、実験例とともに示し、本発明を具体的に説明する。【0048】実施例1フザリウム属菌の菌糸生育用寒天培地である天然ジャガイモ培地に植物病原性フザリウム属ロゼウム種の菌を植菌した。【0049】植菌に用いた菌は、トルコキキョウから分離したもので、フザリウム属ロゼウム種と同定されるものであり、日本植物病理学会報,vol. 57, No. 1, January, p.123 (1991) に記載のものと同じである。また、この菌は、トルコキキョウに感染して茎腐れ病を引き起こすことも確認されている。【0050】天然ジャガイモ培地は、200g のジャガイモを用いて前記のようにして得られたジャガイモ煎汁液1リットルを用い、この液1リットルに対し寒天15g の割合で添加して作製し、殺菌したペトリ皿にて固化して用いた。この場合、直径90mmのペトリ皿に約20mlの培地を流し込み、約7mm強の厚さの固形培地を作った。【0051】植菌は、上記のフザリウム属ロゼウム種の菌の菌糸を白金耳で一定量培地上に植え付けることによって行った。植菌に用いた菌糸量は培地20mlに対して、培地を含む菌叢の重量で0.2g とした。【0052】上記のように植菌したのち暗所で25℃(20%RH)の条件下で培養した。1週間培養すると、気生菌糸が培地全面を覆うように生長しており、気生菌糸と基底菌糸とからなる菌糸体の形成がみられた。この段階で気生菌糸の全てと基底菌糸の大部分を除去した。すなわち、培地表面を白金耳でこそぎ落とし、一部の培地とともに菌糸をかき取って除去した。このとき、基底菌糸は切断されて切断面は大気に露出された状態となった。また、この操作により、操作前にて基底菌糸がもともと存在した培地に対し、10体積%程度の培地に存在する基底菌糸を最終的に残した。【0053】こののち、さらに培養を継続し、植菌時から約5週間後にスポロドキアの形成をみた。なお、スポロドキアの数は徐々に増えていくものであり、その形成が肉眼で観察でき始めるのは、前述のように、スポロドキアの大きさがおよそ1mm位になった時点である。そして、その後一週間程度で安定した。【0054】このように最終的に形成されたスポロドキアの個数は、培地1ml当り5〜10個であった。【0055】実施例2実施例1において、天然ジャガイモ寒天培地の代わりに、PDA培地を用いたが、同様にスポロドキアの形成がみられた。なお、PDA培地は、実施例1の天然ジャガイモ寒天培地において、ジャガイモ煎汁液に対し、2wt% の割合でデキストロースを添加した液を用いて同様に、作製したものである。【0056】スポロドキアの培地1ml当りの形成個数は実施例1と同等であった。【0057】実施例3実施例1において、天然ジャガイモ寒天培地の代わりに、PSA培地を用いたが、同様にスポロドキアの形成がみられた。なお、PSA培地は、実施例1の天然ジャガイモ寒天培地において、ジャガイモ煎汁液に対し、2wt% の割合でサッカロースを添加した液を用いて同様に、作製したものである。【0058】スポロドキアの培地1ml当りの形成個数は実施例1と同等であった。【0059】比較例1殺菌したペトリ皿(実施例1と同じ大きさ)に2wt% の寒天溶液を流し込み、その表面に乾燥カーネーションの葉片(5mm角の大きさ)を4〜5枚浮かせた後、完全に固化させ、CLA培地を作製した。【0060】このCLA培地を用いて、実施例1と同様に植菌し、12時間周期で明期、暗期を繰り返し、培養した。明期での温度は25℃(15%RH)、暗期での温度は20℃(12%RH)とした。【0061】このようにして植菌時から4〜6週間でスポロドキアの形成をみた。スポロドキアの培地1ml当りの形成個数は1〜2個であった。【0062】以上の結果から、実施例1〜3の本発明の方法は、比較例1の従来法に比べ、培地作製が容易であり、培養条件の管理も容易である。また、同培地量におけるスポロドキアの形成個数が多い。従来法では培地における葉片数に限度があり、またスポロドキアの形成が葉片の周囲に限定され、しかも葉片が存在しても必ずしもスポロドキアが形成されるとは限らないことから、上記のような好条件を選択しても本発明の方法に比べスポロドキアの形成個数が少なくなると考えられる。【0063】実験例1実施例1〜3で各々得られたスポロドキアと従来法で得られたスポロドキアの感染特性を調べた。【0064】このときの病原性試験の方法は以下のとおりである。【0065】分離したスポロドキアから菌糸を発芽させた。発芽した菌糸をPDA培地に移植し、その上に滅菌したガーゼ(2.5cm×4cm)をおいて、10日間培養した。供試菌が付着したガーゼを開花前の成長したトルコキキョウの茎に巻き付け、有傷接種と無傷接種とを行った。有傷接種は、巻き付けたガーゼの上から針を茎に突き刺して傷を付けることで行った。接種部位はいずれの場合もラップで包み、乾燥を防いだ。茎1本について、接種は同一の方法で3ケ所行った。無菌ガーゼを巻き付けたコントロールと比較しながら病徴を毎日観察し、約1週間後のものについて調べた。葉が萎れたり、茎が褐変した場合を病徴とみなした。【0066】10本ずつの処理による結果、本発明の方法によるものでも、従来法によるものでも、有傷接種ではいずれも100%が発病し、無傷接種では90%の発病率だった。【0067】従って、本発明の方法でスポロドキアを形成したものも、従来法と同等の感染力が維持されることがわかった。【0068】【発明の効果】本発明によれば、特にフザウリウム属菌において、スポロドキアの形成を簡易かつ効率よく行うことができる。また、菌の特質を保持できる。これより、分生子の大量培養が可能になる。 固体培地上にフザリウム属(Fusarium)菌を植菌して培養し気生菌糸および基底菌糸を生長させる第1の工程と、基底菌糸を切断するとともにその切断面を大気に露出させる第2の工程と、その後さらに培養してスポロドキアを得る第3の工程とを有するスポロドキアの形成方法。 前記第1の工程で前記気生菌糸を前記固体培地の実質的全面を覆うように生長させる請求項1のスポロドキアの形成方法。 前記第1および第3の工程で前記培養を暗所で行う請求項1または2のスポロドキアの形成方法。 前記第2の工程で前記気生菌糸を除去する請求項1〜3のいずれかのスポロドキアの形成方法。 前記第2の工程で前記固体培地表面をかきとって前記基底菌糸を切断し、かつ前記気生菌糸を除去する請求項1〜4のいずれかのスポロドキアの形成方法。 前記固体培地が天然ジャガイモ寒天培地、ポテト・デキストロース寒天(PDA)培地またはポテト・サッカロース寒天(PSA)培地である請求項1〜5のいずれかのスポロドキアの形成方法。