タイトル: | 特許公報(B2)_蛋白質のカルボキシル末端断片の分離方法 |
出願番号: | 1994018796 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,C12Q1/37,C07K1/06,C07K1/14 |
笹川 立 秋山 知子 JP 3669720 特許公報(B2) 20050422 1994018796 19940120 蛋白質のカルボキシル末端断片の分離方法 株式会社東レリサーチセンター 000151243 谷川 英次郎 100088546 笹川 立 秋山 知子 20050713 7 C12Q1/37 C07K1/06 C07K1/14 JP C12Q1/37 C07K1/06 C07K1/14 7 C12Q 1/37 C07K 1/06 JICSTファイル(JOIS) PubMed BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) 特開平05−172820(JP,A) ANALYTICAL BIOCHEMISTRY,1993年,209,163-8 Int. J. Peptide Protein Res.,1995年,66,366-71 蛋白質 核酸 酵素,1995年,40(1),76-83 4 1995203993 19950808 6 20010112 阪野 誠司 【0001】【産業上の利用分野】本発明は、蛋白質のカルボキシル末端(以下、「C末端」ということがある)断片の分離方法に関する。本発明は、遺伝子工学分野等における蛋白質の同定等に有用である。【0002】【従来の技術】蛋白質のC末端アミノ酸周辺のアミノ酸配列を決定することは、現在、遺伝子工学分野等において非常に重要な作業である。C末端周辺のアミノ酸配列を決定する従来法として、カルボキシペプチダーゼ法(Methods in Enzymology, 45, 568-587 (1976))、アフィニティーカラム法(「蛋白質核酸酵素」、34、 168 (1989)) 、チオシアン酸法等があるが、それぞれ問題点を有し、実際に用い得る方法は少ない。以下に、現在使用されている下記の諸方法の概略と欠点を記す。【0003】(1) カルボキシペプチダーゼ法蛋白質にカルボキシペプチダーゼを作用させ、C末端より順次アミノ酸を遊離、同定することによりその配列を決定する。この方法では、蛋白質の場合解析が困難であり、得られる情報の信頼性が低い等の欠点を有する。【0004】(2) アフィニティーカラム法蛋白質をエンドペプチダーゼで消化後、アンヒドロトリプシンカラムを用いてC末端に由来する断片を特異的に回収する方法である。回収された断片をエドマン分解法で分析することにより蛋白質のC末端配列を決定できる。この方法では、エンドペプチダーゼによる非特異的切断に由来する断片が混入するため、回収された断片が必ずしもC末端由来であるという保証がない等の問題がある。【0005】(3) チオシアン酸法蛋白質、ペプチドにアンモニウムチオシアネイトを反応させC末端にペプチジルヒダントインを形成させた後、これをアセトヒドロキサム酸によって切断し、遊離したチオヒダントインをC末端アミノ酸として同定する。この反応を繰り返せばC末端から逐次的にアミノ酸を1個ずつ切断することが可能でありC末端付近のアミノ酸配列解析が可能となる。しかし、この方法ではプロリン、アスパラギン酸で反応が止まる、感度が低い等の問題点がある。現在の段階では蛋白質に応用することが難しく、実用化に至っていない。【0006】【発明が解決しようとする課題】上記の通り、従来の蛋白質のC末端周辺のアミノ酸配列分析方法には、感度が低い、信頼性が低い等の問題点があった。【0007】本発明の目的は、蛋白質のC末端断片を効率的に且つ確実に、しかも高感度に分離することができる、蛋白質のカルボキシル末端断片の分離方法を提供することである。【0008】【課題を解決するための手段】本願発明者らは、鋭意研究の結果、蛋白質のC末端アミノ酸を特異的にラセミ化し、次いで蛋白質を断片化し、さらに得られた断片をカルボキシペプチダーゼで処理すれば、カルボキシペプチダーゼはC末端がD−アミノ酸の場合には作用しないのでC末端がラセミ化されたC末端断片の半量のみがカルボキシペプチダーゼの作用を受けないので分子量が変化しないが他の断片はカルボキシペプチダーゼの作用を受けてC末端アミノ酸が遊離されるのでその分だけ分子量が減少するという現象を利用して蛋白質のC末端断片を分離することができることを見出し本発明を完成した。【0009】すなわち、本発明は、蛋白質のカルボキシル末端アミノ酸を特異的にラセミ化する工程と、次いで該ポリペプチドを断片化する工程と、次いで生じた断片をカルボキシペプチダーゼで処理する工程と、次いで、上記カルボキシペプチダーゼ処理により分子量が変化しない断片を選択することを含む、蛋白質のカルボキシル末端断片の分離方法を提供する。【0010】以下、本発明を詳細に説明する。【0011】本発明で言う「蛋白質」という語は、蛋白質のみならず、ジペプチド以上のポリペプチドを包含する意味で用いている。また、蛋白質のC末端断片とは、蛋白質のC末端アミノ酸を含むペプチド断片を意味する。なお、本発明で言う、「蛋白質」は、生体中に存在する蛋白質のような、L−アミノ酸からなるものを意味する。【0012】本発明の方法では、下記の第1工程に先立ち、前処理工程として、蛋白質中のリジンのε−アミノ基を保護することが好ましい。この工程は、ラセミ化反応中に起こるε−アミノ基のアセチル化に伴う試料の不溶化を防ぐことを目的とする。リジンのε−アミノ基を保護する方法としては、サクシニル化が好ましいが、無水酢酸、ピリジン、水の混合液中で脱保護されない方法であればいかなる保護法であってもよい。また、サクシニル化する方法としては公知の方法を用いることができ、その1例は下記実施例に詳述されている。【0013】本発明の第1工程では、蛋白質のC末端アミノ酸を特異的にラセミ化する。なお、ここで、ラセミ化とは、スレオニン、イソロイシンのα炭素のエピメリゼーションを包含する。蛋白質のC末端アミノ酸のみをラセミ化する方法は公知であり、例えば、下記実施例においては、蛋白質を無水酢酸、ピリジン及び水の混合液で室温下処理する方法を採用している。蛋白質のC末端を特異的にラセミ化する方法はこれに限定されるものではなく、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド等のカルボキシル基活性化剤を用いる方法等によっても行うことができる。これを用いることにより、C末端アミノ酸がオキサゾロン環を形成し、ラセミ化が進行すると考えられる。【0014】次いで、C末端アミノ酸をラセミ化した蛋白質を断片化する。断片化の方法は特に限定されず、化学的、生物学的及び物理的方法のいずれをも採用できる。これらのうち、蛋白質をエンドペプチダーゼで処理する方法が好ましい。【0015】上記工程で得られたペプチド断片を次いで、カルボキシペプチダーゼで処理する。カルボキシペプチダーゼは周知の酵素であり、市販もされている。カルボキシペプチダーゼ処理の条件は、特に限定されないが、例えば、試料に対する酵素量を1〜2重量%とし、25〜50℃で3〜24時間程度処理することにより行うことができる。【0016】カルボキシペプチダーゼは、C末端アミノ酸がL−アミノ酸である場合にのみ作用してC末端アミノ酸を切断する。蛋白質を構成するアミノ酸は全てL−アミノ酸であるので、蛋白質のC末端断片以外のペプチド断片は、そのそれぞれのC末端もL−アミノ酸であり、カルボキシペプチダーゼの作用を受け、C末端アミノ酸が遊離されてその分子量が減少する。一方、蛋白質のC末端アミノ酸のみはラセミ化されてその半量がD−アミノ酸になっているので、蛋白質のC末端断片の半量のみがカルボキシペプチダーゼの作用を受けずその分子量が減少しない。【0017】従って、次の工程は、カルボキシペプチダーゼ処理の前後で分子量が変化しなかったペプチド断片を選択することであり、このようにして選択された断片が蛋白質のC末端断片である。この工程は、クロマトグラフィーにより行うことが簡便で好ましいが必ずしもこれに限定されるものではない。クロマトグラフィーにより行う場合には、上記カルボキシペプチダーゼ処理前の試料をとっておき、これをクロマトグラフィーにかけてその溶出パターンを調べ、一方、カルボキシペプチダーゼ処理後の試料も同様にクロマトグラフィーにかけてその溶出パターンを調べる。すると、蛋白質のC末端断片の半量以外のペプチド断片は全て、分子量が減少しているので溶出位置が変化する。これに対し、蛋白質のC末端断片の半量は溶出位置が変化しない。よって、この溶出位置が変化しない画分を採取することにより蛋白質のC末端断片を分離することができる。なお、この場合のクロマトグラフィーの条件は、ペプチドを分子量に基づいて分離することができるものであればいかなるクロマトグラフィーでもよく、これらはこの分野において周知である。【0018】なお、カルボキシペプチダーゼによる反応が理論通りに進めば上記のように、カルボキシペプチダーゼ処理の前後で分子量が変化しないペプチド断片が1つだけ検出されることになるが、場合によっては、この酵素反応が完全には進まず、分子量が変化しないペプチド断片が複数得られる場合もある。このような場合には、分子量が変化しなかった断片の画分の一部をとり、各断片中にD−アミノ酸が存在するか否かを調べることにより、蛋白質のC末端断片を選択することができる。D−アミノ酸が存在するか否かは、例えば、各断片を塩酸等で完全加水分解し、得られた加水分解物を、蛍光を持つカイラル試薬で誘導体化し、逆相クロマトグラフィーにてアミノ酸のD、L体を分離、同定することにより行うことができる(T. HAYASHI, T. Sasagawa, Anal. Biochem., 209, 163-168 (1993)) 。この場合、カイラル試薬としては例えば(+)-1-(-9-フルオレニル)エチルクロロホルメートを挙げることができる。なお、アミノ酸のDL体を同定する方法は必ずしもこれに限定されるものではない。【0019】上記のようにして分離された蛋白質のC末端断片は、周知のエドマン分解法等により、又は市販のプロテインシークエンサーにかけること等により、そのアミノ酸配列を容易に決定することができる。これにより、蛋白質のC末端周辺のアミノ酸配列を決定することができる。【0020】【実施例】以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。【0021】実施例1ヒト成長ホルモン(1mg)を過ギ酸酸化後、溶解性を上げる事を目的として試料をサクシニル化した。サクシニル化は、ヒト成長ホルモン約50μg当たり次の処理を行うことにより行った。すなわち、ヒト成長ホルモンを、0.5mlの0.5M炭酸ナトリウム緩衝液(pH8.3、塩酸グアニジン含有)に溶解した。次いで、これにすりつぶした無水コハク酸100μgを3回に分けて加えた。この溶液を50℃で3時間攪拌した。この際、炭酸ナトリウムを添加することによりpHを一定に保った。次いで、セファデックスG−25カラム(直径0.78cm、長さ30cm、ファルマシア社製)を用い、移動相として0.1M炭酸水素アンモニウムを用いて溶液を脱塩した。【0022】次いで、C末端アミノ酸を無水酢酸:ピリジン:水=60:60:20(μl)の存在下で室温に2時間放置しラセミ化した。ラセミ化した成長ホルモンをトリプシンで消化し(条件:1%重炭酸アンモニウム(pH8.3)、1%トリプシン添加。37℃、18時間反応)、10本のフラグメントを得た。得られたペプチド混合液の一部にカルボキシペプチターゼY(WORTHINGTON 社製)を添加し、逆相クロマトブラフィー(条件:0.1%TFA,5→55%アセトニトリル150分)で酵素消化前後のパターンを比較した。消化前後で溶出位置に変化のなかった3本のフラグメントをC末端フラグメント候補とし、110℃で6時間加水分解した後DLアミノ酸分析に供した。DLアミノ酸分析は、T. HAYASHI, T. Sasagawa, Anal. Biochem., 209, 163-168 (1993)に記載された方法により行った。その結果、内1本よりD型アミノ酸が検出され、組成分析の結果C末端フラグメントである事が確認された。【0023】更にプロテインシークエンサーを用いて、上記のようにして分離されたC末端断片のN末端から配列解析を行い、C末端アミノ酸配列〜Ser Val Glu Ser Cys Gly Phe を決定した。このように、本発明の方法により、効率的に且つ確実にC末端フラグメントを決定する事が可能であった。【0024】実施例2子牛のカルモジュリン(650μg)を溶解性を上げる事を目的としてサクシニル化した。C末端アミノ酸を無水酢酸:ピリジン:水=60:60:20(μl)の存在下で2時間放置しラセミ化後、実施例1と同様にトリプシンで消化し8本のフラグメントを得た。得られたペプチド混合液の半量に2μgのカルボキシペプチターゼYを添加し、実施例1と同様に逆相クロマトグラフィーで酵素消化前後のパターンを比較した。消化前後で溶出位置に変化のなかった3本のフラグメントをC末端フラグメント候補とし、実施例1と同様にDLアミノ酸分析を行った。その結果、うち1本よりD−リジンが検出され、組成分析の結果、C末端断片であることが確認された。更にプロテインシークエンサーを用いて、上記のようにして分離されたC末端断片のN末端から配列解析を行い、C末端アミノ酸配列〜Glu Ala Asp Ile Asp Gly Asp Gly Gln Val Asn Tyr Glu Glu Phe Val Gln Met Met Thr Ala Lys を決定した。【0025】【発明の効果】本発明によれば、蛋白質のC末端フラグメントの選択的分離を効率的に、確実に、かつ感度良く行うことができる。従って、蛋白質を断片化して得られた全てのフラグメントをアミノ酸分析する必要がなくなる。この為、時間、労力が削減されC末端アミノ酸配列解析作業が効率化される。 蛋白質のカルボキシル末端アミノ酸を特異的にラセミ化する工程と、次いで該ポリペプチドを断片化する工程と、次いで生じた断片をカルボキシペプチダーゼで処理する工程と、次いで、上記カルボキシペプチダーゼ処理により分子量が変化しない断片を選択することを含む、蛋白質のカルボキシル末端断片の分離方法。 カルボキシペプチダーゼ処理により分子量が変化しない断片を選択する工程は、カルボキシペプチダーゼ処理前の断片及び処理後の断片をクロマトグラフィーにかけ、その溶出位置が変化しないものを選択することにより行われる請求項1記載の方法。 カルボキシペプチダーゼ処理により分子量が変化しない断片が複数存在した場合に、各断片中にD−アミノ酸が存在するか否かを調べ、D−アミノ酸が存在する断片をカルボキシル末端断片として選択する工程をさらに含む請求項1又は2に記載の方法。 前記ラセミ化工程に先立ち、蛋白質中のリジンのε−アミノ基を保護する工程をさらに含む請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。