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タイトル:特許公報(B2)_哺乳類の神経の増殖を促進する薬物
出願番号:1993510115
年次:2006
IPC分類:A61K 38/22,A61K 8/27,A61Q 15/00,A61P 25/02


特許情報キャッシュ

ハンソン ハンズーアーン ラインチ サミュエル イー アントニアデス ハリー エヌ JP 3747416 特許公報(B2) 20051209 1993510115 19921104 哺乳類の神経の増殖を促進する薬物 インスティテュート オブ モレキュラー バイオロジー インコーポレイテッド 501215130 清水 初志 100102978 ハンソン ハンズーアーン ラインチ サミュエル イー アントニアデス ハリー エヌ US 797.315 19911125 20060222 A61K 38/22 20060101AFI20060202BHJP A61K 8/27 20060101ALI20060202BHJP A61Q 15/00 20060101ALI20060202BHJP A61P 25/02 20060101ALI20060202BHJP JPA61K37/24A61K7/36A61P25/02 A61K37/00-36 Cell(1991)Vol.64,p.217−227 Cell(1991)Vol.64,p.209−216 Brain Research(1989)Vol.485,p.102−108 Proc.Natl.Acad.Sci USA(1979)Vol.76,No.3,p.1279−1283 J.Biol.Chem.(1990)Vol.110,p.1353−1360 7 US1992009545 19921104 WO1993010806 19930610 1995501340 19950209 12 19991102 2004016998 20040816 森田 ひとみ 齋藤 恵 佐伯 裕子 発明の背景本出願は、増殖因子を投与することによる神経の再生に関する。増殖因子は標的細胞の一定の集団を刺激するポリペプチドホルモンである。増殖因子の例には、血小板由来増殖因子(PDGF)、インスリン様増殖因子(IGF′s)、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF−β)、及びアルファ(TGF−α)、表皮増殖因子(EGF)、酸性線維芽細胞増殖因子(aFGF)、塩基性FGF(bFGF)、及び神経増殖因子がある。PDGFとIGF−IまたはPDGFとIGF−IIの組み合わせの創傷治癒への応用は既に報告されている(Lynch et al,1987,Proc.Nat'l.Acad.Sci.USA 84:7696-7700;Lynch et al,1989,J.Clin.Invest.84:640-646,Lynch et al,1989,J.Clin.periodontol,16:545-588;Lynch et al,1991,J.periodontol,62:458-467.米国特許第4,861,757号及び第5,019,559号、本発明の参考文献に取り入れられている)。IGF′s、またはソマトメジンは、ヒトプロインスリンと強い相同性を有する約7.5KDのポリペプチドである(Humbel,1984 in Hormonal Proteins and Peptides 12:pp57-79)。IGF−IとIGF−IIは、62%の相同性を示す。これらの作用は2つの異なる受容体により達成される。IGF−I受容体はI型受容体(IGF−IR)と呼ばれ、IGF−II受容体はII型受容体(IGF−IIR)と呼ばれている。IGF−IRは、構造的にインスリン受容体に関連している膜貫通蛋白質である(Ullrich et al,1986 EMBO J.5:2503-2512)。これには、2つα−サブユニットからなる細胞外結合領域と、2つのβ−サブユニットからなる細胞内チロシンキナーゼ領域が含まれる。I型受容体はIGF−Iに対して高い親和性を示し、IGF−II及びインスリンには低い親和性を示す。II型受容体はIGF−I及びインスリン受容体とは異なる(Morgan et al.1987 Nature 329:301-307)。II型受容体はIGF−IIに対して高い親和性を示し、IGF−Iに対して低い親和性を示し、インスリンには結合しない。この受容体は大きな細胞外結合領域を有する膜貫通蛋白質であり、チロシンキナーゼ活性は示さないものと思われる。その一次配列は、陽イオン非依存性マンノース−6−リン酸受容体の一次配列と同一である(Morgan et al,1987 ibid.)。IGF−I及びIGF−IIに加えて、IGF−Iの短縮型受容体が脳から取得され、IGF−IIIと命名された(Sara et al,1986;Proc.Nat'l.Acad.Sci.:USA83:4904-4907)。IGF−IIIはIGF−Iのアミノ末端から3アミノ酸残基が欠失したものであるが、IGF−Iと類似した機能的性質を保持している。in vitroでは、IGFは多様な代謝活性を示し、間葉起源の細胞を含む多くの細胞に対して増殖因子として作用する(Froesch et al.1985 Ann.Rev.Physiol.47:443-467;Van Wyk,(1984)Hormonal proteins and peptides;12:81-125;Daugheday and Rotwein.Endocrine Rev.1989;10:68-91;Baxter et al(1985)Comp.Biochem.Physiol.91β:229-235;Baskin et al(1988)TINS 11:107-111)。IGF−Iは、欠突起膠細胞の発達の潜在的誘導物質(McMorris et al,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1986;83:822-826)や、培養した新生児ラットアストログリア細胞に対するマイトジェン(Han et al,J.Neurosci.1987;7:501-506)にもなることも示されている。胎児及び新生児の組織(脳を含む)におけるIGF−I及びIGF−IIの高発現が報告されている(Han et al,J.Clin.Endocrinol Metab,1988;66:422-426;Schofield and Tate,1987;Development 101:793-803;D'Ercole and Underwood,Pediar.Pulmonol,1985;1:599-606;D'Ercole(1987)J.Devel.Physiol.9:481-495;Bondy et al.(1990),Mol.Endocrinol.4:1386-1398)。IGFはin vitro(Aizenman et al,Brian Res.1987,406:32-42;Bothwell,J.Neurosci.Res.1982;8:225-231;European Patent Application No.86850417.6;Recio-pinto et al.J.Neurosci 1986;6:1211-1219;Shemer et al.J.Biol Chem.1987;262:7693-7699)及びin vivo(Hansson et al,Acta Physiol.Scand.1986;126:609-614;Anderson et al,Acta Physiol.Scand.1988;132:167-173;Kanje et al.Brain Res.1988;475:254-258;Sjoberg and Kanje,Brain Res.1989;485:102-108;Nachemson et al,Growth Factors 1990;3:309-314)において神経栄養因子として作用することが示唆されており、また、未分化のニューロンの増殖に関与することが示唆されている(Recio-Pento et al,J.Neurosci.Res.1988;19:312-320;Matteson et al.(1986)J.Cell Biol.102:1949-1954)。IGF−IまたはIGF−II単独、またはNGFとの組み合わせを添加することにより、in vitroにおいてニューロン細胞の生存性が増大すると思われる(European Patent Application No.63196524)。負傷したラットの坐骨神経にIGF−Iを局所的に投与することにより神経の再生が促進されることが報告されている(Hansson et al,1986;Sjoberg and Kanje,1989;Nachemson et al,1990)。特異的な抗IGF−I抗血清を用いた免疫組織化学的研究から、in vivoにおいて、負傷したラットの坐骨神経の神経内及びシュヴァン細胞内の内在性IGF−Iの発現が増大することが示された(Hansson et al,Cell Tissue Res.1987;247:241-247;及びHansson et al,Acta Physiol.Scand.1988;132:35-41)。これまで、外来の血小板由来増殖因子(PDGF)単独または他の生物活性薬物との組み合わせがin vivoにおいて神経再生に影響を与えるという報告はない。in situハイブリダイゼーション及び抗原特異的抗血清を用いた組織の免疫染色により、胚及び成体ラットのニューロン中でPDGF−A鎖のmRNA及び免疫反応性を有するPDGF−Aが高発現していることが示された(Yeh et al,Cell 1991;64:209-216)。同一の研究において、著しく微弱なPDGF−A鎖のシグナルがグリア細胞中に検出された。in vitroでシュヴァン細胞を短期間及び長期間培養すると、PDGF細胞受容体が生産され、PDGFに応答してDNAが合成される。受容体の大部分はβ型であり、PDGF−BBホモダイマー(すなわちPDGF−2)はPDGF−AAホモダイマーよりも有効なマイトジェンであることが判明した。PDGF−BBは正常な発達の間、自己分泌的にシュヴァン細胞の増殖を刺激する可能性があることが示唆された(Eccleston et al,Eur.J.Neurosci.1990;2:985-992)。PDGF−β型受容体は、in vivoにおいてもin vitroにおいても新生児ラットの脳ニューロン上に存在することが報告されている。in vitroにおいて、ラット脳細胞の一次培養物にPDGF−BBを連続的に作用させることにより神経突起が伸張し、生存期間が延長された(Smits et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1991;88:8159-8163)。培養されたI型星状神経細胞及び周産期ラットの脳においてPDGF−AのmRNAが見られる(Richardson et al,Cell 1988;53:309-319)。I型星状細胞は、神経系のPDGFの源であると提唱されている(Pring et al,EMBO J.1988;18:1049-1056)。PDGFは、ラット視神経0−2A前駆細胞の増殖及び分化にも関連している(Raff et al,Nature 1988;333:560-562;Noble et al,Nature;1988;333:560-562)。PDGFは中枢神経系においてグリア細胞の増殖及び発達に関わっているものと思われる(Raff M,Science 1989;243:1450-1455に概説されている)。末梢神経の修復末梢神経が負傷すると、神経細胞体、その作用及びその環境において大きな変化が誘発される(Seckel,1990;Muscle & Nerve 13:785-800に概説されている)。負傷に引き続いて、中枢神経細胞体が増大し、ニッスル物質が散布され、核は末梢部に押しやられる。中枢細胞体は新たなmRNA′a、脂肪、及び細胞の骨格となる蛋白質のホストを合成する(Grafstein B,et al,in Neuronal Plasticity,Cotman CW(ed)1978)。さらに、他の増殖関連蛋白質(GAP)が合成される。GAPは増殖を開始するとは考えられていないが、これらの蛋白質は再生応答に必須の成分である。増殖しやすい、より可塑的(plastic)または胚的状態への分化を示す電気生理学的変化が細胞体中で起こる(Foehring et al,(1986)J.Neurophysiol 55:947-965;Gorden et al,in Somotic and Autonomic Nerve-Muscle Interactions,Burnstock et al,(ed's)1983)。神経の負傷に引き続いて、近位の軸索部分は変化可能な度合いの外傷性破壊を起こす。この破壊的工程の範囲は最低、次のランヴィエ絞輪に戻り、最大では細胞死に至る。細胞死に至らない場合、創傷に近接した第一のランヴィエ絞輪領域において神経芽の再生が開始される(Gordon et al,(eds)Neurology and Neurobiology.The current status of peripheral Nerve regeneration.pp.79-88;1988)。再生中の神経線維の先端では、移動のための特別な細胞構造である増殖錐状体が必要である。この構造は、組織のマトリクスを劣化させる蛋白質を放出することにより、組織中を神経フィラメントが通る経路を作る(Krystosek et al,(1981)Science 213:1532-1534)。増殖錐状体は、in vitroにおいて例えばNGFのような走化性分子に応答することができる(Gundesen et al,(1980)J.Cell.Biol.87:546-554)。軸索は、神経支配の経路及び標的を明確かつ特異的に選択することができ、軸索の増殖はランダムな工程ではないと思われる(Dodd et al,(1988)Science 242:629-699)。しかし、従来の神経修復においては、軸索の破片やシュヴァン細胞基底板の欠損といった特性を有する負傷領域に妨害されて、増殖錐状体は遠位の神経断端に到達することができない。シュヴァン細胞基底板は、神経線維の再生を誘導するのに必要である。その結果、機能が不完全なものになり、または神経腫が形成される(Hafteck et al,(1968)J Anat.103:233-243)。シュヴァン細胞は末梢神経の再生に決定的な役割を果たす。負傷後の軸索の初期破壊産物はシュヴァン細胞の増殖を刺激し、ファゴサイトーシスの準備を行なう。シュヴァン細胞及びその基底板も、軸索の再生を促進する微小環境の整備を助ける。次いで、再生中の軸索は、シュヴァン細胞の分化及びシュヴァン細胞による軸索の再髄鞘形成のためのミエリンの生産に必要となる。このように、シュヴァン細胞と神経因子が互いに協調して再増殖及び分化することが、末梢神経の構造及び機能の最適な回復に必要とされている。NGF、フィブロネクチン、フィブリン、ラミニン、酸性及び塩基性線維芽細胞増殖因子(それぞれaFGF及びbFGF)及びIGF−Iなど、in vitro及びin vivoにおいて神経の再生を増大させる多くの薬物が報告されている(表1)。in vivoで評価されたこれらの因子の効果のみが真の神経再生効果とされるべきである(再生とは、障害を受けた組織が元の構造及び機能を回復することを指す)。in vivoにおける神経再生の増大再生チャンバーモデル(すなわちentubulation)は、潜在的な神経再生薬物を評価するために非常に有効な方法である(Lundborg et al,(1979)Brain Res. 178:573-576;Lundborg et al,(1980)J.Hand Surg.5:35-38)。このモデルにおいては、障害を受けた神経の2つの末端をpseudomesotheliallined tube(例えば、シリコン製)(ステンレスの糸で開けてある)に挿入し、縫合する;チューブは神経の2つの末端の増殖の“ガイド”として作用する。この技術は単独で、従来の神経再生及び神経移植技術に対してある種の治療的利点を有する(Seckel et al,(1986)Plast.Reconstr.Surg.78:793-800)。この技術の最も大きな利点の一つは、適切な神経のガイドが、障害を受けた神経に作用し再生を増大させる部位に増殖促進因子を導入することができることであろう。Sekel 1990;前出によれば:“・・・治療法において、ガイド内腔中の再生微小環境中に増殖促進薬物が導入されるというコンセプトが最も説得力のある点である”このように、このモデルにおいて、aFGF、ラミニン、フィブリンマトリクス、ラミニン混合物、テストステロン、ガングリオシドGM−1及びカタラーゼ、及びIGF−Iを用いた更なるデータが報告されている。aFGFの添加により、ガイドを横断して増殖する軸索の数が顕著に増加し、また、原始の感覚ニューロン及び運動ニューロンの数が増大する(Cordeiro et al,(1989)Plast.Reconstr.Surg.83:1013-1020)。ラミニンは、2週間はガイド中での増殖を増大させるが、6週間の時点では神経再生を阻害することが報告されている(Madison et al,(1985)Exp.Neurol.88:767-772)。無細胞フィブリンマトリクスの修正により、再生される軸索の大きさ、再生工程の速度、及び架橋可能な距離を増加させる(Williams et al. in Neurology and Neurobiology.The Current Status of Peripheral Nerve Regeneration.Gorden et al(ed'S).1988;pp111-122;Williams et al,J.Comp.Neuro.1985;231:209-220)。ラミニン、テストステロン、GM−1及びカタラーゼの混合物は16週間神経の再生を増大させた(Miller et al.Brain Res.1987;413:320-326)。IGF−Iをチャンバー内腔に連続的に注入すると、1%ウシ血清アルブミンを添加した生理食塩水を注入した場合と比較して再生された軸索の長さが長くなった(Nachemson et al,Growth Factors;1990;3:309-314)。発明の要旨本発明は、神経を精製されたPDGFに接触させることにより哺乳類の神経の増殖を促進させる方法に関する。PDGFは、末梢神経の神経突起に接触させることが好ましい。ここでは、“増殖”とは、最も好ましくは機能的神経突起、例えば軸索、の長さを増加させることをいう。増殖には、神経細胞またはシュヴァン細胞の増殖の誘導も含まれる。PDGFは投与前、または目的の神経増殖部位において、他の因子、最も好ましくはIGF−I、と混合されることが好ましい。第二の因子は、例えば、NGF、フィブロネクチン、フィブリン、ラミニン、酸性または塩基性FGF、EGF、TGFまたは他のIGF、すなわちIGF−IIまたはIGF−IIIでもよい(適切な受容体に特異的に結合する活性分子の活性を有する断片またはアナログも本発明に含まれる)。特に、PDGFとIGF−Iの相乗作用は、負傷した末梢神経のin vivoにおける再生を刺激することが判明している。PDGFとIGF−Iの組み合わせがin vivoにおける神経の再生に及ぼす効果は、精製されたPDGFのみ、または精製されたIGF−Iのみを添加した場合よりも優れていることが知られている。以下に記載するとおり、PDGFとIGF−Iの相乗作用により、再生された髄鞘形成軸索の長さは7.0倍になる。PDGFとIGFの組み合わせは、髄鞘形成された軸索の方向性のある再生とシュヴァン細胞の増殖の両方により、障害を受けた神経の再生を、少なくとも部分的には援護する。シュヴァン細胞の増殖は、軸索の髄鞘形成的増殖を支えるにあたり、非常に重要である。このように、PDGFとIGF−Iの相乗作用は、軸索の増殖、シュヴァン細胞の増殖、およびミエリン鞘の形成を誘発し、髄鞘形成された神経の増殖に寄与する。以下に記載するとおり、PDGFとIGF−Iの相乗作用により再生が誘導された神経は、in vivoにおいて機能的な活性を保持している。これは、軽く麻酔した動物に鋭利なピンセットで疼痛を与え、その反射を見る試験により判定する。本発明の混成物を使用して再生を行なうと、治療を行なわない場合(すなわち、外来物質を投与しない)、または精製されたPDGFのみ、もしくは精製されたIGF−Iのみを投与する場合よりも効果的である。好適な実施例において、神経突起再生用混成物は、PDGFおよび他のいずれかの活性成分を薬理学的に許容可能な担体物質、例えば、アルブミンまたはメチルセルロースゲルを添加した生理食塩水、と混合することにより調製する。最も好ましくは、精製されたPDGFとIGF−Iを1:500〜100:1の間の重量比、好ましくは1:250〜50:1の間、さらに好ましくは1:100〜25:1の間で混合する。精製されたPDGFはヒト血小板から取得することができ、精製されたIGF−Iはヒト血液から取得することができる。これらは共に組み換えDNA技術によっても取得することができる。このように、ここでは“PDGF”と“IGF”という用語は共に、哺乳類、好ましくは霊長類起源の血小板及び血液由来と組み換え物質の両方を指す;霊長類はヒトであることが最も好ましいが、チンパンジーまたは他の霊長類でもよい。“PDGF”及び“IGF”という用語には、それぞれPDGFまたはIGF受容体に結合することにより生物活性を示すアナログも含まれる。組み換えPDGFは組み換えヘテロダイマーでもよい。このヘテロダイマーは、A及びBサブユニットの両方をコードするDNA配列を原核生物または真核生物の培養細胞に挿入し、次いで翻訳されたサブユニットを細胞により加工(プロセス)させることによりヘテロダイマーを形成させたものである。その他の方法として、1つのサブユニットのみをコードするDNAを細胞に挿入し、その細胞を培養してホモダイマ−PDGF(PDGF−1(AA)またはPDGF−2(BB)ホモダイマー)を作製する。ここで使用する“精製された”という用語はPDGF、IGF−Iまたは他の因子が(使用前または他の物質との組み合わせにおいて)、重量で90%またはそれ以上含有されている、すなわちその成分が天然では結合している他の蛋白質、脂肪、及び炭水化物を実質的に含まないことを指す。精製された蛋白質は一般的にポリアクリルアミドゲル上で単一な主要バンドとして検出される。本発明の混成物において使用される精製された因子は、アミノ末端配列解析により純度を検定していることが最も好ましい。本発明の混成物は、負傷した神経をin vivoにおいて迅速かつ効果的に再生する方法を提供する。特にPDGF/IGF−Iの組み合わせは、自然治癒(すなわち、外来薬物を投与しない)または精製されたPDGFもしくはIGF−I単独を投与する場合よりも、神経の増殖を増大させる。混成物の相乗効果により、新たな機能的神経の再生は約7.0倍促進される。本発明の他の特徴及び利点は、以下に記載する好適な実施例及び請求の範囲から明白である。実施例まず始めに図面を簡単に説明する。図面図は、PDGF単独またはPDGFとIGF−Iの混成物の神経再生効果を示した棒グラフである。PDGF及びIGF−I精製されたPDGF及びIGFを混合して調製したPDGF/IGF混合物を用いて、障害を受けた、または負傷した神経を処理し、再生させる。組み換えヒトIGF−IはInstitute of Molecular Biology,Inc.(Boston,MA)から入手可能であり、また、R and D Systems Inc.,(Minneapolis, MN,)、UBI(Lake Placid,NY)、及びKabi(Sweden)から購入することもできる。精製されたヒトPDGFはInstitute of Molecular Biology,Inc.(Boston,MA)から入手可能であり、また、R and D Systems Inc.,(Minneapolis,MN,)、UBI(Lake Placid,NY)、及びGenzyme Corporation(Boston,MA)から購入することもできる。PDGFは組み換えDNA技術を用いて以下の通りに作製することができる。ヒト血小板由来の、血小板由来増殖因子(PDGF)は2つのポリペプチド配列を含む(PDGF−1(A)及びPDGF−2(B)ポリペプチド;Antoniades,HN.,and Hunkapiller,M.(1983)Science 220:963-965)。PDGF−1は第7染色体上に位置する遺伝子によりコードされ(Betsholtz,c.et al,Natute 320:695-699)、第22染色体(Dallas-Favera,R.(1982)Science 218:686-688)上に位置するPDGF−2はsis腫瘍遺伝子によりコードされている(Doolittle,R.et al,(1983)Science 221:275-277;Waterfield et al,(1983)Nature 304:35-39)。sis遺伝子は、PDGF−2ポリペプチドと深く関わっているシアミン肉腫ウイルス(SSV)のトランスフォーミング蛋白質をコードしている。ヒト細胞c−sisもPDGF−2鎖をコードしている(Johnsson et al,(1984)EMBO J 3:2963;Rao,CD et al,(1986)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83:2392-2396)。PDGFの2つのペプチド鎖が別個の染色体上に位置する2つの異なる遺伝子によりコードされているため、ヒトPDGFはPDGF−1とPDGF−2がジスルフィド結合したヘテロダイマーであるか、2つのホモダイマー(PDGF−1ホモダイマー及びPDGF−2ホモダイマー)の混合物であるか、またはヘテロダイマーと2つのホモダイマーの混合物である可能性がある。生物活性を有するPDGF−1、PDGF−2及びPDGF−1/PDGF−2ダイマー、及びこれらのアナログの組み換え体は、c−sis/PDGF−2、PDGF−1をコードするcDNAクローンまたはPDGF−1及びPDGF−2遺伝子を適切な発現系を用いて真核生物細胞に導入することにより調製する(Institute of Molecular Biology,Inc.Boston,MA);米国特許第4776073(Murrey et al,I)、Hannick et al,(1986)Mol.Cell.Biol.6:1343-1348;King et al,(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:5295-5299;Clarke et al,(1984)Nature 308:464;Gazit et al,Cell 39:89-97)。ssvに感染したNRK細胞中での、生物活性を有するv−sisダイマー蛋白質産物の発現はすでに報告されている(Owen et al,(1094)Science 225:54-56)。原核生物中で発現させると生物活性を示さない一本鎖産物が生産された(Devare et al,(1984)Cell 36:43-49;Wang and Williams(1984)J.Biol.Chem.259:10645-10648)。原核生物中で生産された一本鎖をダイマー型に折りたたむと、生物活性を有するPDGF調製物が生産された(Hoppe et al,(1989)Biochemistry 28:2956-2960)。PDGF−2鎖をコードする遺伝子を有するシミアン肉腫ウイルスに感染した哺乳類細胞培養物は、PDGF−2ポリペプチドを合成し、これを分子量約35,000と24,000のジスルフィド結合したホモダイマーへとプロセスした(Robbins,K.et al,(1983)Nature 305:605-608)。さらに、PDGF−2ホモダイマーは、ヒトPDGFに対する抗血清と反応する。また、分泌されたPDGF−2ホモダイマーの機能的性質は、血小板由来のPDGFのものと類似している。すなわち、線維芽細胞培養中のDNA合成を刺激し、185Kdの細胞膜蛋白質のチロシン残基のリン酸化を誘導し、特異的な細胞表面PDGF受容体への結合においてヒト(125I)PDGFと競合することができる(Owen,A.et al,(1984)Science 225:54-56)。sis/PDGF−2遺伝子を発現する正常なヒト細胞培養物(例えば、ヒト動脈内皮細胞)またはヒト悪性細胞由来のsis/PDGF−2遺伝子産物も同様の性質を示した(Antoniades,H.et al,(1985)Cancer Cells 3:145-151)。PDGF−1鎖をコードする遺伝子を同定及びクローニングした結果(Betsholt,et al,(1986)Nature 320:695-699)、生物活性を有するホモダイマーが発現し、このホモダイマーの機能的活性はヒトPDGFのものと類似していることが示された。受容体結合実験から、PDGF−2ホモダイマーは高い親和性で、また、ヒトPDGFヘテロダイマーはそれよりも低い親和性でPDGF受容体ベータ(PDGF−R β)に結合することが示された(Hart et al,1988;Science 240:1529-1531;Heldin et al,1988;EMBO J.7:1387-1393)。PDGF−R βはPDGF−1ホモダイマーを認識しなかった;後者は第二の受容体、PDGF受容体アルファ(PDGF−R α)に結合する。この受容体は、他の2つのアイソフォーム(ヒトPDGF及びPDGF−2ホモダイマー)にも高い親和性で結合した(Heldin et al,1988,ibid)。PDGF−R αは、Matsui et al(1989)Science 243:800-804及びClaesson-Welsh et al(1989)J.Biol.Chem 246:1742-1747によりクローニングされた。このα受容体は、細胞外結合領域及び細胞内キナーゼ領域を有するなどβ受容体と構造的に類似し、その配列は40%一致している(Yarden et al,(1986)Nature 323:226-232;Claesson-Welsh et al,(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:4917-4921)。末梢神経の再生末梢神経のin vivo再生の促進におけるPDGF及びIGF−Iの有効性を決定するために以下の実験を行なった。これらの実験に用いた手法は、Hanssonと共同研究者により記載された系に修正を加えたものである(Nachemson et al,(1990)Growth Factors 3:309-314)。雄のSprague-Dawlayラット(200〜230g)を、生理食塩水、ペントバルビタールナトリウム(60mg/ml)及びジアゼパム(5mg/ml)を1:1:2の容量比で含有する溶液を腹腔内注射することにより麻酔した。実験的モデル内径1.5mmの“T”型シリコンチューブコミュニケーティングシステムを用意した。“T”の左側の突出部の長さは通常15mmとしたが、実験によっては30〜90mmの範囲で変化させた。“T”の右側の突出部の長さは約15mmとし、開いたままにした。“T”の垂直部分(40mm)はmin−osmotic Alzet2002ポンプ(Alza,Palo Alto,CA)に接続し、最大213μlの容量を毎時0.5μlでラットの背に皮下注射するようにした。外科手術法麻酔したラットの坐骨神経を、大腿部中央で切開した。近位断端をチャネルの1つに2mm導入し、2本の9:0エチロン縫合糸で縫合した。以下の処置は、5群について行なった。実験1:無処置この群は、坐骨神経の近位断端を“T”型チャネルの左突出部に導入しただけの対照群である。他の2つのチャネルは空のままにした。実験2:担体供給この対照群においては坐骨神経の近位断端を“T”型チャンバーの左突出部に導入し、“T”チャンバーの垂直部分をAlzet2002ポンプに接続した。3番目のチャネルは空のままにした。ポンプとチャネルを1%ウシ血清アルブミン(BSA)(Sigma Chem.Co.,St.Louis,MO)を含有する生理食塩水で満たした。ポンプにより、担体を毎時0.5μlの速度で2週間供給した。実験3:IGF−Iのみの供給この実験は、Alzetポンプに、1μlにつき100ナノグラムのIGF−Iを含有する生理食塩水/1%BSAを満たす以外は実験2と同様の方法で行なった。ポンプにより、毎時0.5μl又は50ナノグラムのIGF−Iを2週間供給した。実験4:PDGFのみの供給この実験は、Alzetポンプに、1μlにつき2.0ナノグラムのPDGF−2(B)を含有する生理食塩水/1%BSAを満たす以外は実験2と同様の方法で行なった−ポンプにより、毎時0.5μl又は1.0ナノグラムのPDGFを2週間供給した。実験5:PDGFとIGF−Iの組み合わせの供給この実験は、Alzetポンプに1μlにつき2.0ナノグラムのPDGF−2(B)及び1μlにつき100ナノグラムのIGF−Iを含有する生理食塩水/1%BSAを満たす以外は実験2と同様の方法で行なった。ポンプにより、毎時0.5μlすなわち1.0ナノグラムのPDGF、及び毎時50ナノグラムのIGF−Iを2週間供給した。精製されたヒト組み換えIGF−I及び精製されたヒト組み換えPDGF−2(B)ホモダイマーはInstitute of Molecular Biology,Inc.Boston,MAから入手した。神経再生の機能的評価各実験開始から2週間後及び4週間後(後者は試験物質の供給を終了してから2週間後)に、ラットを軽く麻酔した。再生された神経の機能状態は、チューブに沿って鋭利なピンセットで軽くつまむ試験により評価した。麻酔したラットにおける疼痛反射から機能している軸索の位置を判定した。神経再生の組織学的評価再生神経の機能的活性の評価に引き続いてラットを屠殺し、mini−osmoticポンプが接続しているシリコンチューブを取り外し、写真撮影した。mini−osmoticポンプ及びチャネルの上部を切り取った。0.1Mカコジル酸塩緩衝液(pH7.15)中に2.5%の精製グルタルアルデヒドを含有する溶液に、チャンバーを少なくとも24時間浸漬した。1%四酸化オスミウム中でポスト固定し、脱水した後、チャネル内の組織を小さな切片に分割し、寒天樹脂100中に包埋した。チャネル内の特定の高さ(部分)の横断切片(厚さ1μm)を調製した。メチレンブルー及びアズールIIを用いて切片を染色し、光学顕微鏡下で観察した。再生された神経の長さ及び方向は、各高さにおける髄鞘形成された軸索の存在により決定した。この実験においては、髄鞘形成されていない軸索またはシュヴァン細胞は再生の評価の対象としなかった。電子顕微鏡用に選択した試料をLKB Ultratome V上で調製し、ウラニル酢酸及びクエン酸鉛によりコントラストをつけた後ジェオール100 CX電子顕微鏡で観察した。結果結果は表中に記載されている。1.対照群1−無処置(n=18)この対照群ではいずれの試料においても顕著な増殖は認められなかったが、障害を受けた神経の大部分が約1mm退化していた。これらのラット中では機能の回復は見られなかった。神経フィラメントの存在を確認するために行なった、ホルマリン固定した坐骨神経の免疫組織化学的解析から、軸索は神経中に神経腫様構造を形成したがシリコンチューブ内にはほとんど入っていないことが判明した。シュヴァン細胞マーカー蛋白質S−100の存在を確認するような実験を行なった場合、シュヴァン細胞はシリコンチューブ内にほとんど入らず、チューブはフィブリンと炎症細胞及び液体で充満していた。2.対照群2−担体による処理(n=22)切断した坐骨神経に担体のみを与えても顕著な増殖は認められなかったが、種々の程度の退化が見られた。これらのラット中では機能の回復は見られなかった。神経フィラメントの存在を確認するために行なった、坐骨神経の免疫組織化学的解析から、軸索はシリコンチューブ内にほとんど入っておらず、チューブ内にはシュヴァングリア細胞がわずかに見られるだけであった。3.対照群3−IGF−Iのみによる処理(n=17)ミニオスモチックポンプ(miniosmotic pomp)を用いてIGF−Iを供給することにより、2週間測定期間中、再生坐骨神経は1日あたり0.6±0.3mm増殖した。ピンチ試験の結果、軸索の長さは神経に増殖にほぼ対応していることが判明した。4週間後、上述の増殖速度に見合った距離の部分に多くの髄鞘形成された軸索が観察された。軸索に沿って多くのシュヴァン細胞の存在が確認された。4.群4−PDGFのみによる処理(n=7;4匹は上記に記載した体重のもの、3匹は体重450g〜490gのもの)ミニオスモチックポンプ(miniosmotic pomp)を用いてPDGFのみを供給することにより、再生坐骨神経は1日あたり0.2〜0.7mm増殖した。最低10本の軸索が観察されたが、これらにより形成された明確な微小神経束は同定されなかった。しかし、わずかにS−100陽性を示すシュヴァン細胞が多く見られたことから、これらの細胞の増殖がPDGFにより刺激されたものであることが示された。機能回復は確認できなかった。5.群5−PDGFとIGF−Iの組み合わせによる処理(n=7)この群においては、機能を有する神経線維の顕著な増殖が認められた。2週間測定期間中の平均増殖速度は1日あたり4.2±0.7mmであった。4週間後、この群においては、大きな、髄鞘形成された軸索が、上述の他のいずれの処理を施した群よりも大量に認められた。多くのシュヴァン細胞が軸索に付随していた。チューブシステムに沿ってピンセットで軽くつまむピンチ試験(軽く麻酔したラットの足を“つねる”ことによる疼痛反射及び疼痛伝達反射を見る試験)を行なった結果、軸索束の長さに対応して機能の回復が確認された。このように、神経再生におけるPDGF/IGF−Iの組み合わせの効果は相加的ではなく相乗的なものである。なぜなら、PDGFのみでは軸索増殖に顕著な効果はなく、また、IGF−Iによる増殖の刺激も小さなものであったからである。PDGF/IGF−Iによる誘導により髄鞘形成された神経の増殖は、IGF−Iのみに誘導された場合の約7倍であった。PDGFがシュヴァン細胞の増殖を刺激することが強く示唆され、これによりMSのような脱髄疾患の治療に特に有効である可能性が示された。医療的使用法これらの実験結果から本発明の化合物により、多発性硬化症(MS)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、または神経突起の損傷または萎縮症に起因する他の神経変性疾患のような疾患を治療することができることが示唆された。さらに、本発明に記載した化合物により、外傷により障害を受けた神経を治療することもできる。本発明の組成物は、非経口投与により全身に分布させることができ、また、負傷または障害を受けた神経の部位に局所的に投与することもできる。本発明により提供される化合物は、薬理学的に許容可能ないかなる賦形剤または担体中で調製することもできる。化合物を脳または他の領域(例えば網膜)のCNSのCNS疾患(例えば、虚血、外傷及び腫瘍)に使用する場合、これら化合物を天然でCNS中に浸潤することのできる分子と結合させ、生物活性を有する部位を保持しつつポリペプチド鎖の全長を短くすることにより、または、化合物の脂質親和性を高める(例えば、適切なアミノ酸置換により)ことにより、CNSまたは脳脊髄液中に直接浸透させてCNSの組織に化合物を接触させる。IGFに対するPDGFの効果的な分子量比は、1:500〜100:1、好ましくは1:250〜50:1の間、さらに好ましくは1:100〜25:1の間であると予測される。効果的な用量は、負傷または障害を受けた神経、または萎縮した神経に対して、1日あたり活性化合物0.001μg〜1,000μgであると予測される。他の実施例は請求の範囲に含まれる。 血小板由来増殖因子−B(PDGF-B)とインシュリン様増殖因子−I(IGF-I)とを組み合わせたことを特徴とする、哺乳類の末梢神経の増殖促進のための組成物。 前記IGF-I及びPDGF-Bが薬理学的に許容可能な担体中で混合されていることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。 末梢神経突起の成長を促進するための、請求項1に記載の組成物。 PDGF-BとIGF-Iが神経の成長の促進に相乗的に働く、請求項1に記載の組成物。 PDGF-BとIGF-Iが神経の再生の促進に相乗的に働く、請求項1に記載の組成物。 前記神経突起が損傷を受けた有髄軸索であり、該組成物がさらに前記軸索の有髄化を促進する、請求項3に記載の組成物。 PDGF-BとIGF-Iが同時、または、両者が神経の成長の促進に相乗的に作用するようIGF-Iが該PDGF-Bの投与と十分に時間的に近接して投与される請求項1に記載の組成物。


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