生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_間質流改善薬及び軽度認知障害の治療剤
出願番号:2015049442
年次:2015
IPC分類:A61K 31/4709,A61P 25/28


特許情報キャッシュ

猪原 匡史 眞木 崇州 田口 明彦 JP 2015110665 公開特許公報(A) 20150618 2015049442 20150312 間質流改善薬及び軽度認知障害の治療剤 公益財団法人先端医療振興財団 300061835 特許業務法人前田特許事務所 110001427 猪原 匡史 眞木 崇州 田口 明彦 JP 2012135906 20120615 JP 2012223580 20121005 A61K 31/4709 20060101AFI20150522BHJP A61P 25/28 20060101ALI20150522BHJP JPA61K31/4709A61P25/28 10 11 2014520940 20130614 OL 31 4C086 4C086AA01 4C086AA02 4C086BC62 4C086MA01 4C086MA04 4C086NA14 4C086ZA15 本発明は、中枢神経系における有害タンパクの排出経路である脳間質流機能の向上により、脳神経機能を高める間質流改善薬及び軽度認知障害の治療剤に関する。 軽度認知障害(Mild cognitive impairment、MCI)とは、認知症に至らない程度の認知機能障害が生じる症例であり、基本的な日常生活に支障がない状態ではあるが、重要な約束を忘れたり、初めての場所へ旅行することが困難となる等の症状が生じる疾患である。 MCIでは、蓄積する有害タンパクの種類に関わらず、初期においては軽度の認知機能の障害が観察されるが、この時点では脳神経組織の不可逆的な変性はまだ生じていないことが多い。一方、脳アミロイド血管症に伴う認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体病型認知症、アルツハイマー型認知症、パーキンソン病に伴う認知症等既に認知症を発症した患者においては、病理的にも不可逆的な神経変性が多く認められる。 MCIは脳アミロイド血管症に伴う認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体病型認知症、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、パーキンソン病に伴う認知症、プリオン病等の、特定の認知症の単なる前段階というわけではなく、MCI患者においては、レビー小体性変化、進行性核上性麻痺性変化、アルツハイマー変化、嗜銀顆粒性変化、血管障害性変化等の多種多様な病理的変化が観察され、単一の病理変化とは対極にある(非特許文献1)。 以上のことから、MCIは公知の様々な認知症とは区別された疾患として位置付けられるべきであり、実際にそのようになっている。一般社団法人 日本神経学会がホームページ上で公開している「認知症疾患治療ガイドライン」(http://www.neurology-jp.org/guidelinem/nintisyo.html)には、MCIは一般的な認知症と並列して項目が設けられ、認知症とは区別された、独立した疾患として取り扱われている。MCIの診断には、「日常生活動作への支障の有無」、「認知機能の低下」、「認知症とは言えないこと」などを確認してMCIであると判断したうえで、記憶障害の有無によりamnestic MCIまたはNon-amnestic MCIに分類し、これをさらに細分化する概念が取り入れられている(同ガイドライン 第4章 経過と治療計画、B.軽度認知障害、項目CQ IV B-1、108-109頁参照)。 MCI患者はMCI状態のままずっと留まることができるかもしれないし、上記した様々な認知症のいずれにコンバートしていくかも分からない。そのため、仮にある薬剤がアルツハイマー型認知症や脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、パーキンソン病に伴う認知症等、ある特定の認知症に有効であることが統計学的に示されたとしても、その薬剤がMCIに対して有効であるか否かは全く不明である。したがってMCIと診断された場合、前述の通りMCIは様々なタイプの認知症にコンバートする可能性があるため、特に65歳以上の高齢者では早期のリスク管理とMCI治療が望ましいことは明らかである。 実際に、公知の認知症治療薬について、MCIへの効果を確認する目的で多くの臨床試験が行われている。ところが上記「認知症疾患治療ガイドライン」によれば、認知症治療薬として著名なアセチルコリンエステラーゼ阻害剤であるドネペジル(アリセプト)、リバスチグミン(イクセロン)およびガランタミン(レミニール)については、結局、MCI患者に対する効果は極めて限定的もしくは無効であったとの結果であり、このことから、これらの薬剤によるMCIから認知症やアルツハイマーへのコンバート予防効果は認められない(同ガイドライン 第4章 経過と治療計画、115頁参照)と結論付けられている。このことは、非特許文献2にも明記されている(585頁項目3を特に参照のこと)。 さらに同ガイドラインでは、認知症のない65歳以上の閉経女性を対象にしたランダム化比較試験(RCT)において、エストロゲンは意に反して認知症やMCI発症リスクを有意に上昇させ(同ガイドライン115-116頁 項目2.その他の薬剤(1))、非ステロイド性抗炎症薬のrofecoxib(COX-2阻害薬)の投与でも予防効果は示されなかったことが示されている(同ガイドライン116頁 項目2.その他の薬剤(2))。あるいは認知症治療薬として最近用いられるようになったGinkgo biloba(イチョウ葉エキス)やビタミンEについても、MCI患者を対象にしたRCTで認知症予防効果やアルツハイマーへのコンバート予防効果は示されていないとのことである(同ガイドライン116頁 項目2.その他の薬剤(3)および(4))。加えて、ビタミンEやドネペジルがMCIからアルツハイマーへのコンバートに影響を与えないとの報告も存在する(非特許文献3)。 したがって、MCIから認知症へのコンバートを予防するために有効な薬物、およびMCIの治療に有用な手法や薬剤は現在のところ存在しないと言え、MCIの予防・治療剤の早期の開発が求められているところである。 シロスタゾールは、大塚製薬株式会社から「プレタール」の商品名で販売され、それ以外にも多くの後発品が存在する抗血小板薬である。シロスタゾールは、血栓形成を抑制すると共に、血管拡張作用を有する。このため、シロスタゾールが脳梗塞治療に用いられることは良く知られており(非特許文献4)、シロスタゾールの血管内皮の保護効果(非特許文献5)や、内皮非依存的な血管拡張による血流改善効果(非特許文献6)についても公知である。さらに、シロスタゾールがアミロイドβ(以下、単に「Aβ」と記載する場合がある)タンパクの集積を減少させることも知られている。 また、シロスタゾールを具体的な疾患に適用することについても幾つかの文献があり、例えばアミロイドβタンパク誘導性の認知障害、アルツハイマーの治療に用いられること(非特許文献7)や、認知症の治療にも効果があること(非特許文献8)が開示されている。またシロスタゾールがアミロイドβタンパク誘導性の記憶障害や酸化ストレスを阻害することも知られている(非特許文献9)。さらに特許文献1には、シロスタゾールを用いてアルツハイマーの治療が可能なことが示されている。しかしながら、これらの文献ではモデル動物を用いその治療効果を検証したにすぎず、ヒトにおけるシロスタゾールの治療効果は示されていない。 一方で非特許文献10には、アルツハイマー患者にシロスタゾールを投与することで認知機能の低下を抑えられることが開示されているが、Mini-Mental State Examination(MMSE)では変化が認められず、またアルツハイマーにおける認知機能を評価するその他の評価方法(ADAS-Jcog、WMS-R、TMT-A)については改善傾向にあるとしているが、実際には誤差が非常に大きく、有意差があるとは言い難い(なお認知機能の診断において、MMSEが最も優れたスクリーニング検査であることが上記ガイドラインの第II章、32頁に記載されている)。あるいは非特許文献11には、シロスタゾールとドネペジルの併用投与によりアルツハイマー患者におけるMMSEスコアの改善傾向が認められる旨記載されているが、これはシロスタゾール単独の効果とは言えない。 つまるところ、シロスタゾールが単独でMCI患者の治療に有用であることについて、これまでデータと共に示されたことは実質的になく、MCIが様々な認知症やアルツハイマーの前段階の疾患として位置付けられているにも関わらず、有効な治療薬が存在しないのである。 また、中枢神経系の脳には、タウタンパクやシヌクレインタンパク、ユビキチン化タンパク、アミロイドタンパク、プリオンタンパク等の有害タンパクが蓄積し脳神経機能の機能低下をもたらすが、高齢者ではこれらの有害タンパクのうち一種類だけが蓄積することは少なく、多くの症例では複数の有害タンパクが蓄積し、その種類や程度は各個人で異なる(非特許文献1,12)。 このような有害タンパク質が蓄積することで、MCIのような認知機能障害が発生すると考えられている。たとえばMCI患者の60-70%でアミロイドβの蓄積が認められ(非特許文献13)、この排出がMCIの予防・治療に寄与すると考えられている。 このような有害タンパクの共通する排出経路として、血管周囲リンパ排液路(間質流)を介した排出が存在するが(非特許文献14)、現状では血管周囲リンパ排液路(間質流)を十分活性化させる手法や薬剤は知られていない。特許第4590397号公報Neuropathology. 2007;27(6):578-584.Neuropathology of mild cognitive impairment. Saito Y, Murayama S.精神経誌(2011)113巻6号、584-592The New England Journal of Medicine, June 9, 2005, vol. 352 No. 23, pp. 2379-2388Br J Pharmacol. 2011; 72: 634-646/Lancet Neurol. 2010; 9: 959-968Stroke 2012; 43: 499-506Stroke 1989; 20: 668-673Biochem Biophys Res Commun. 2011 May 20;408(4):602-8.J pn J Radiol. 2010; 28: 266-272Br J Pharmacol. 2010 Dec;161(8):1899-912Geriatr Gerontol Int 2013; 13: 90-97Am J Psychiatry 2009; 17: 4-5J Anat. 2000;196 ( Pt 4):609-616. Late-onset neurodegenerative diseases--the role of protein insolubility. Johnson WG.老年期認知症研究会誌、2011年 第18巻、84-88頁Acta Neuropathol. 2009 ;117(1):1-14. Lymphatic drainage of the brain and the pathophysiology of neurological disease. Weller RO, Djuanda E, Yow HY, Carare RO 不可逆的に変性した神経細胞を再生することは極めて困難であるため、認知機能正常高齢者あるいは軽度に認知機能が障害された患者において、脳に蓄積する有害タンパクの排出を促進し、脳神経機能を維持・向上させる新しい手法・治療薬の開発が切望されている。特に、MCIから認知症へのコンバートを予防するために有効な薬物、およびMCIの治療に有用な手法や薬剤は現在のところ存在しないと言え、MCIの予防・治療剤の早期の開発が求められている。 本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、脳血管周囲の間質流を改善させてドレイナージパスウェイを介して、中枢神経系における有害タンパクを十分にクリアランスさせることができる間質流改善薬及び軽度認知障害の治療剤を提供することを目的とする。特に、MCIにおいて脳神経機能の維持・向上のため中枢神経系における有害タンパクの十分な排出促進を有する、脳血管周囲リンパ排液路(間質流)改善薬を提供することを目的とする。この薬は、MCIの予防および/または治療薬として用いることが可能である。 なお、間質流による有害タンパクの排出はタンパク特異的なレセプターや抗原抗体反応を介した排出系ではなく、全てのタンパクに共通する普遍的な排出系である。ここで、有害タンパクとは、本来の機能を失ったあるいはそれが低下したタンパク質であり、中枢神経細胞機能に無益であるばかりでなく、積極的に害をおよぼすタンパクであり、例えば、タウタンパク、シヌクレインタンパク、プリオンタンパク、アミロイドタンパクやユビキチン化タンパク等である。 本発明者らは、鋭意検討のうえ、脳血管周囲の間質流を改善し、中枢神経系における有害タンパクをクリアランスすることでMCIの予防および治療に有用である化合物が、以下の一般式(1):[式中、Aは炭素数1〜6の直鎖アルキレン基、Rは炭素数3〜8個のシクロアルキル基、カルボスチリル骨格の3位と4位間の結合は1重結合又は2重結合である]で示される化合物であることを発見した。そしてこの化合物によって、MCIをはじめとする有効な治療法のなかった有害タンパク蓄積による疾患を予防および治療することが可能となることを証明した。発明者らはさらに鋭意検討し、本発明を完成した。 本発明によれば、脳血管周囲リンパ排液路(間質流)を改善させて、中枢神経系における有害タンパクを十分に排出することができる。そのため、MCIをはじめとする有効な治療法のなかった有害タンパク蓄積による脳神経機能の低下を予防および/または治療することが可能となる。本発明により得られる医薬は、高齢化社会を迎える現在において、高齢者の生活向上、介護負担軽減、医療費の削減等により多くの社会的貢献を可能とする。血管周囲の間質液のドレイナージパスウェイにおいて、沈着した有害蓄積タンパクにより排出機構が阻害されている状態を概念的に説明する図である。血管周囲の間質液のドレイナージパスウェイにおける流れが改善されて、有害タンパクが排出される状態を概念的に説明する図である。通常餌投与群のTg-SwDIマウスにおける脳表血管像であり、そのうち(a)はAIR群であり、(b)はCO2群である。シロスタゾール含有餌投与群のTg-SwDIマウスにおける脳表血管像であり、そのうち(a)はAIR群であり、(b)はCO2群である。飼育開始から15ヶ月にて、シロスタゾール含有餌13.5ヶ月間投与群のTg-SwDIマウス及び通常餌投与群のTg-SwDIマウスにおいて、CO2送気後の脳血管径の相対的増加を示す図である。飼育開始から12ヶ月にて、シロスタゾール含有餌8ヶ月間投与群のTg-SwDIマウス及び通常餌投与群のTg-SwDIマウスにおいて、CO2送気後の脳血管径の相対的増加を示す図である。蛍光標識Aβ1-40を線条体に注入した状態を示す図である。シロスタゾール含有餌投与群のTg-SwDIマウスにおいて、注入部位から2922μmの離れた軟髄膜血管の蓄積部位にある蛍光標識Aβ1-40を示す図である。シロスタゾール含有餌投与群のTg-SwDIマウスにおいて、注入部位から3422μmの離れた軟髄膜血管の蓄積部位にある蛍光標識Aβ1-40を示す図である。シロスタゾール含有餌投与群のTg-SwDIマウスにおいて、注入部位から3507μmの離れた軟髄膜血管の蓄積部位にある蛍光標識Aβ1-40を示す図である。飼育開始から15ヶ月にて、シロスタゾール含有餌投与群のTg-SwDIマウス及び通常餌投与群のTg-SwDIマウスにおいて、側脳室の注入部位から軟髄膜血管の蓄積部位までの蛍光標識Aβ1-40の平均移動距離を示す図である。飼育開始から15ヶ月にて、シロスタゾール含有餌投与群のTg-SwDIマウス及び通常餌投与群のTg-SwDIマウスにおいて、側脳室の注入部位から軟髄膜血管の蓄積部位までの蛍光標識Aβ1-40の最大移動距離を示す図である。通常餌投与群のTg-SwDIマウスにおける血管周囲Aβ沈着の写真図であり、そのうち(a)は前頭葉であり、(b)は海馬である。シロスタゾール含有餌投与群のTg-SwDIマウスにおける血管周囲Aβ沈着の写真図であり、そのうち(a)は前頭葉であり、(b)は海馬である。飼育開始から12ヶ月にて、シロスタゾール含有餌8ヶ月間投与群のTg-SwDIマウス及び通常餌投与群のTg-SwDIマウスにおいて、Aβの相対的減少を示す図である。飼育開始から15ヶ月にて、シロスタゾール含有餌13.5ヶ月間投与群のTg-SwDIマウス及び通常餌投与群のTg-SwDIマウスにおいて、Aβの相対的減少を示す図である。MCI患者群において、シロスタゾール投与群及び非投与群のMMSEの変化率を示す図である。MCI患者群において、シロスタゾール投与群と非投与群とにおおける時間の見当識(MMSEの第1項目)の変化率を示す図である。MCI患者群において、シロスタゾール投与群と非投与群とにおおける遅延再生(MMSEの第5項目)の変化率を示す図である。MCI患者群において、シロスタゾール投与群と非投与群とにおおける文章指示(MMSEの第9項目)の変化率を示す図である。MCI患者群において、シロスタゾール投与群と非投与群とにおおける視覚構成(MMSEの第11項目)の変化率を示す図である。認知症患者群において、シロスタゾール投与群及び非投与群のMMSEの変化率を示す図である。アセチルコリン投与下にて、シロスタゾール含有餌8ヶ月間投与群のTg-SwDIマウス及び通常餌投与群のTg-SwDIマウスにおける、脳血管径の相対的増加を示す図である。アセチルコリン投与下にて、シロスタゾール含有餌13.5ヶ月間投与群のTg-SwDIマウス及び通常餌投与群のTg-SwDIマウスにおける、脳血管径の相対的増加を示す図である。MMSEが22点以上26点以下のMCI患者群において、ドネペジル塩酸塩投与群と、シロスタゾール及びドネペジル塩酸塩併用群とにおけるMMSEの変化率を示す図である。MMSEが22点以上26点以下のMCI患者群において、ドネペジル塩酸塩投与群と、シロスタゾール及びドネペジル塩酸塩併用群とにおける時間の見当識(MMSEの第1項目)の変化率を示す図である。MMSEが22点以上26点以下のMCI患者群において、ドネペジル塩酸塩投与群と、シロスタゾール及びドネペジル塩酸塩併用群とにおける場所の見当識(MMSEの第2項目)の変化率を示す図である。MMSEが22点以上26点以下のMCI患者群において、ドネペジル塩酸塩投与群と、シロスタゾール及びドネペジル塩酸塩併用群とにおける遅延再生(MMSEの第5項目)の変化率を示す図である。MMSEが21点以下のMCI患者群において、ドネペジル塩酸塩投与群と、シロスタゾール及びドネペジル塩酸塩併用群とにおけるMMSEの変化率を示す図である。MMSEが21点以下のMCI患者群において、ドネペジル塩酸塩投与群と、シロスタゾール及びドネペジル塩酸塩併用群とにおける時間の見当識(MMSEの第1項目)の変化率を示す図である。MMSEが21点以下のMCI患者群において、ドネペジル塩酸塩投与群と、シロスタゾール及びドネペジル塩酸塩併用群とにおける場所の見当識(MMSEの第2項目)の変化率を示す図である。MMSEが21点以下のMCI患者群において、ドネペジル塩酸塩投与群と、シロスタゾール及びドネペジル塩酸塩併用群とにおける遅延再生(MMSEの第5項目)の変化率を示す図である。 以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。 本発明は、間質流改善薬と、有害タンパク蓄積による脳神経機能の低下に起因する疾患、特にMCIの予防および/または治療剤を提供する。 (1)間質流改善薬 本発明によれば、脳血管周囲の間質流を改善させることができる、間質流改善薬が提供される。ここで「間質流」とは、細胞間隙流とも言われ、神経細胞の代謝物が細胞間隙を流れ最終的に血管周囲に集められたのち、排出系である血管周囲ドレイナージ経路(脳内の血管網と並行して存在する脳間質流経路)を通って脳外へ排出されていく間質液の流れのことをいい、特に、血管中膜にある平滑筋細胞の基底膜に沿う経路における間質流の流れをいう。リンパ管がない脳にあっては、特に本経路は有害タンパク質を含む老廃物の排泄にとって重要であると考えられている。 また「間質流改善」とは、蓄積される有害タンパク質の蓄積により滞った間質流を、何らかの方法で改善することをいう。特に本発明においては、脳血管周囲の間質流を改善することをいう。 以下に説明する本発明の間質流改善薬は、間質流を改善させて中枢神経系、特に脳血管周囲における有害タンパクを十分に取り除くことができる。 (1−1)化合物 本実施形態にかかる間質流改善薬は、下記一般式(1)で示されるカルボスチリル誘導体(以下、化合物(1)と記載する)又はその塩を有効成分とする。 ここで、一般式(1)中、Aは炭素数1〜6の直鎖アルキレン基、Rは炭素数3〜8個のシクロアルキル基、カルボスチリル骨格の3位と4位間の結合は1重結合又は2重結合である。 Aは、具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、n−ブチレン基、n−ペンチレン基、又はn−ヘキシレン基であり、好ましくはn−ブチレン基である。 Rは、具体的には、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、又はシクロオクチル基であり、好ましくはシクロヘキシル基である。 化合物(1)として好ましくは、Aがn−ブチレン基であり、Rがシクロヘキシル基であり、カルボスチリル骨格の3位と4位間の結合が1重結合である場合である。かかる場合、本発明の間質流改善薬は、6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]3,4−ジヒドロカルボスチリル(シロスタゾール)又はその塩を有効成分とする。 本実施形態にかかる間質流改善薬によれば、脳血管壁を流れる(細胞間隙を流れ、最終的に血管壁内を流れて排泄されていく)間質流を改善させて中枢神経系における有害タンパクを十分にクリアランスさせることができる。ここで、中枢神経系における有害タンパクのクリアランスとは、後述するように、主として、血管周囲の間質液のドレイナージ経路を介して有害タンパクを排出させることであり、このドレイナージ経路は、血管中膜にある平滑筋細胞の基底膜に沿う間質流の流れとなる経路である。 また、本実施形態にかかる間質流改善薬は、ヒトのほか、例えばサル、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ラット、マウス等のヒト以外の哺乳動物にも適用できる。 化合物(1)は、医薬的に許容される酸を作用させることによって塩を形成することが可能であり、作用可能な酸としては、得られた塩が薬理的に許容されるものである限り特に限定されるものではないが、このような酸としては、例えば、硫酸、リン酸、塩酸、臭化水素酸等の無機酸、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸等の有機酸が例示される。 (1−2)剤型 本実施形態にかかる間質流改善薬は、例えば、錠剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤等のような経口投与の製剤、経口投与に適した様々な液体製剤、又は注射剤、坐剤のような非経口投与用製剤とすることが可能である。 経口投与の製剤の場合、本実施形態にかかる間質流改善薬は、例えば化合物(1)またはその塩の微粉末と、分散剤及び/又は溶解改善剤とを製剤担体と共に、錠剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤等の形態で製剤化して得ることができる。分散剤及び/又は溶解改善剤を配合することにより化合物(1)またはその塩の微粉末の分散性及び/又は溶解吸収性を高めることができる。 製剤担体としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、及び可塑剤等を使用できる。賦形剤としては、例えば、白糖、塩化ナトリウム、マンニトール、乳糖、ブドウ糖、でんぷん、炭酸カルシウム、顔林、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ケイ酸塩等を使用できる。結合剤としては、例えば、水、エタノール、プロパノール、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等を使用できる。崩壊剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロースカルシウム、乾燥デンプン、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスカルメロースナトリウム等を使用できる。滑沢剤としては、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール、コロイド状ケイ酸、硬化油等を使用できる。可塑剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、トリアセチン、クエン酸トリエチル、ヒマシ油等を使用できる。 分散剤及び/又は溶解改善剤としては、水溶性高分子及び界面活性剤等を使用できる。水溶性高分子としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸等を使用できる。界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム等のアルキル硫酸塩;デカグリセリルモノラウレート、デカグリセリルモノミリステート等のポリグリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンモノステアレート等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等のポリオキシエチレンヒマシ油及び硬化ヒマシ油;ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖バルミチン酸エステル等のショ糖脂肪酸エステル等を使用できる。 上述例によって経口製剤を製造する場合、化合物(1)またはその塩の微粉末1重量部に対して分散剤及び/又は溶解改善剤を0.001〜100重量部、好ましくは0.01〜10重量部配合することが好ましい。分散剤及び/又は溶解改善剤の添加量が0.001重量部よりも少ない場合は吸収が悪くなり、一方、添加量が100重量部よりも多い場合は粘膜障害性等の毒性や薬事法による制限を受ける可能性があるからである。 錠剤を調製するには、化合物(1)またはその塩の微粉末を上記製剤担体を用いて常法により錠剤とする。顆粒剤又は細粒剤は、化合物(1)またはその塩の微粉末に上記製剤担体を添加し、流動層造粒、高速攪拌造粒、攪拌流動層造粒、遠心流動造粒、押し出し造粒等で顆粒化することにより調製できる。カプセル剤は、不活性な医薬充填剤又は希釈剤と共に混合して調製し、硬ゼラチンカプセル又は軟カプセルに詰められる。 本実施形態にかかる間質流改善薬において用いられる、化合物(1)またはその塩の微粉末の平均粒子径は、通常8μm以下であり、好ましくは4μm以下である。このような平均粒子径を有する微粉末は、例えば、ハンマーミル、ジェットミル、回転ボールミル、振動ボールミル、シェーカーミル、ロッドミル、チューブミル等を用いて形成することができる。 本実施形態にかかる間質流改善薬は、化合物(1)またはその塩を含有する錠剤、顆粒剤、細粒剤に徐放性コーティング基剤をコーティングすることも可能である。徐放性コーティング基剤としては、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタアクリル酸コポリマー、エチルセルロース等を使用できる。これにより例えば消化管下部において、化合物(1)またはその塩の溶出能力を備えることが可能となる。 経口液体製剤は、化合物(1)またはその塩と、甘味料(例えば、ショ糖)、保存剤(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン)、着色料、香料等とを混合して調製する。 非経口投与用製剤のうち注射用製剤は、例えば、液剤、乳濁液、又は懸濁液の形態で調製され、血液に対して等張にされる。液体、乳濁液又は懸濁液の形態の製剤は、例えば、水性媒体、エチルアルコール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを用いて調製される。水性媒体としては、水又は水を含有する媒体が挙げられる。水としては、滅菌水が使用される。水を含有する媒体としては、例えば、生理食塩水、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)又は乳酸配合リンゲル液等が挙げられる。 注射用製剤において、化合物(1)またはその塩の含有量は、製剤の使用目的等により異なり特に限定されるものではないが、例えば0.01〜10mg/mL、好ましくは0.05〜5mg/mLである。 注射用製剤において、当技術分野で通常使用されている添加剤を適宜用いることができる。添加剤としては、例えば、等張化剤、安定化剤、緩衝剤、保存剤、キレート剤、抗酸化剤、又は溶解補助剤等が挙げられる。等張化剤としては、例えば、ブドウ糖、ソルビトール、マンニトール等の糖類、塩化ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。安定化剤としては、例えば亜硫酸ナトリウム等が挙げられる。緩衝剤としては、例えば、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、酢酸緩衝剤等が挙げられる。保存剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸エステル、ベンジルアルコール、クロロクレゾール、フェネチルアルコール、塩化ベンゼトニウム等が挙げられる。キレート剤としては、例えば、エデト酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。抗酸化剤としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム等が挙げられる。溶解補助剤としては、例えば、デキストラン、ポリビニルピロリドン、安息香酸ナトリウム、エチレンジアミン、サリチル酸アミド、ニコチン酸アミド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体等が挙げられる。 注射用製剤にはpH調整剤が含有されていても良い。pH調整剤は、酸類であっても塩基類であってもよい。具体的には、酸類としては、例えば、アスコルビン酸、塩酸、グルコン酸、酢酸、乳酸、ホウ酸、リン酸、硫酸、酒石酸、クエン酸等が挙げられる。塩基類としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。 本実施形態にかかる間質流改善薬における有効成分である化合物(1)またはその塩自体の投与量は、患者の年齢、性別、体重、症状等により適宜設定することが可能である。例えば、成人(体重50kg)で通常、1日当り10〜400mg、好ましくは100〜200mgを1回又は2〜数回に分けて投与することが可能である。 (1−3)併用剤 本実施形態にかかる間質流改善薬は、NMDA受容体拮抗薬であるメマンチン塩酸塩と併用して使用することも可能である。また、βセクレターゼ阻害薬、γセクレターゼ阻害薬、neprilysin活性化剤、又はAβタンパク質ワクチンと併用することも可能である。 βセクレターゼ阻害薬は、特に限定されるものではないが、例えばOM99-2、GT-1017、P10-P4'staV等である。γセクレターゼ阻害薬は、特に限定されるものではないが、例えば(S, S)-2-aminocyclopentanecarboxylic acid(ACPC)、Semagacestat等である。neprilysin活性化剤は、例えばソマトスタチン受容体に対する合成作動薬等である。Aβタンパク質ワクチンは、抗体を直接投与する受動免疫ワクチン又はAβペプチドをアジュバントとともに投与する能動免疫ワクチンの何れも可能である。 例えば合成Aβ1-42とアジュバントQS21とを混合した筋注タイプのワクチンは、ワクチン接種者の約6%に副作用としての亜急性髄膜脳炎が発生することが報告されているが、摂取量を抑制したAβタンパク質ワクチンと本実施形態にかかる間質流改善薬とを併用することにより、副作用をある程度緩和させつつAβ関連疾患の改善が期待できる。また例えば、γセクレターゼ阻害剤を使用した場合、他のNotch1等の切り出しまで阻害される可能性があり、Notch1は成体では免疫細胞の分化に関与しておりこれを阻害すると免疫異常を起こすことが分かっているところ、投与量を抑制したγセクレターゼ阻害剤と本実施形態にかかる間質流改善薬とを併用することにより、副作用をある程度緩和させつつAβ関連疾患の改善が期待できる。 (1−4)間質流の改善に関する作用機序 cAMP応答配列結合タンパク(CREB)は、空間認知や長期の記憶等の脳の高次機能に重要な働きを持っており、リン酸化されることで活性化する。そして「AβにはこのCREBのリン酸化を阻害する作用があり、シロスタゾールによれば、CREBのリン酸化を亢進させることができる」あるいは、「シロスタゾールはAβの凝集に関与するApoEタンパク質の発現レベルを調整し、脳内酸化ストレスレベルを低下させることによってもAβの沈着を妨げ、認知機能の悪化を防ぐことができる」というのが、シロスタゾールがAβの沈着を抑制する公知の作用機序である。 一方、本実施形態にかかる間質流改善薬は、間質流を改善させることによって、中枢神経系における有害タンパクを十分に排出することができる。この間質流改善作用にかかるメカニズムについて以下、脳における代表的な有害物質の一つであるAβを例にとり説明する。 産生されたAβが間質流に乗って脳から取り除かれる経路は多数あり、どの経路がいかなる割合で機能しているかはAβの存在態様や存在位置等によって異なるが、主として、(i)血液脳関門(blood brain barrier:BBB)を介した排出、(ii)血管周囲の間質液のドレイナージパスウェイを介した排出、(iii)Aβ分解酵素であるneprilysinによる分解やアストロサイト及びミクログリアによるAβの取り込み、等が挙げられる。 図1に示されるように、Aβ等の有害タンパクが血管壁にある中膜平滑筋細胞層に沈着することにより、平滑筋細胞の機能が阻害され、間質流の駆動力である血管拍動が低下し、有害タンパクの間質液を介しての排出が阻害される。これにより有害タンパクのクリアランスが低下して、Aβが凝集し、これを経てアミロイド線維等を形成する。しかしながら、本実施形態にかかる間質流改善薬により、図2に示されるように、血管中膜にある平滑筋細胞の基底膜に沿うpathwayを通過する間質流が改善されて有害タンパクの間質液を介しての排出が促進される。そのため有害タンパクの濃度上昇が起こりにくくなり、Aβにおいても凝集しなくなり、またアミロイド線維が形成されにくくなる。 すなわち本発明の本質は、例えばシロスタゾール等のカルボスチリル誘導体により、血管中膜にある平滑筋細胞の基底膜に沿うpathwayを通過する間質流が改善され脳有害タンパクの間質液を介しての排出が促進されることにある。間質流による有害タンパクの排出はタンパクの種類や量を問わない普遍的な排出系であるため、本明細書においてAβは、間質流が改善されて排出される脳内有害タンパクの一例にすぎない。 また、ダウン症候群においては、その原因が体細胞の21番染色体が1本余分に存在し、計3本(トリソミー症)持つことによるところ、APPは21番染色体上にあり、更にAβを生成するβセクレターゼ(BACE-2)遺伝子も21番染色体上にあることによるAPPの過剰な複製が原因となってアミロイド斑の形成開始が認められているところ、本実施形態にかかる間質流改善薬によれば、間質流が改善されて産生されたAβの間質液を介しての排出が促進されるので、アミロイド線維が形成されにくくなり、これによりダウン症候群の改善も可能となる。 また更に、脊椎動物の発生過程において網膜は間脳が側方に突出した眼胞を起源としており、網膜は発生学的には脳の一部であるといえる。加齢によりAPPは網膜神経節細胞において強く発現するようになり、脳と同様に網膜においてもAβの産生及び蓄積が認められる可能性があることが知られている。本実施形態にかかる間質流改善薬によれば、間質流が改善されることにより間質液を介してAβの排出が促進されるので、アミロイド線維が形成されにくくなり、これにより加齢黄斑変性症の改善も可能となる。 加齢黄斑変性には、新生血管の関与がなく、網膜色素上皮細胞や脈絡膜毛細血管板の萎縮を来す萎縮型と、新生血管が関与する滲出型とがあり、このうち高度の視力障害を来すために問題となるのは滲出型である。滲出型では、活性酸素等によるダメージにより網膜の細胞の一部がはがれ落ち、網膜色素上皮の基底面に沿って有害タンパクとしてのドルーゼンがたまる。ドルーゼンがたまることにより網膜の奥から新生血管が生えやすくなり、増殖組織を伴った新生血管から黄斑に出血や滲出を生じ、最終的には瘢痕化して視力の著明な低下や中心暗点を来す。加齢黄斑変性患者のドルーゼンにはAβが高頻度に存在しており、加齢黄斑変性と脳アミロイド血管症との間には共通の病態発症機序が存在している。そのため、本実施形態にかかる間質流改善薬によれば、間質流が改善されて産生されたAβの間質液を介しての排出が促進されるので、加齢黄斑変性症の改善が可能となる。 更に、レビー小体病は、αシヌクレインという病因タンパクが神経細胞に蓄積して生じる疾患であるが、その脳内にはAβが高率に蓄積し(「通常型」レビー小体病と呼ばれる)、その発症過程でAβとαシヌクレイン、2つの病因タンパク質の蓄積が相乗的に発症に寄与する(Examining the mechanisms that link β-amyloid and α-synuclein pathologies. Alzheimers Res Ther. 2012 Apr 30;4(2):11)。従って、レビー小体病において、間質流を活性化し有害タンパクの排出を促進することで、Aβおよびαシヌクレインの蓄積を妨げ、発症の予防や進行の抑制が可能となる。 (1−5)用途 本実施形態にかかる間質流改善薬の具体的な用途としては、特に限定されるものではないが、上述の(1−4)で作用機序において詳細に説明されたとおり、間質流を改善することで有害タンパクの間質液を介しての排出が促進されることで予防または治療効果がある疾患全般の治療や予防を意図している。このような疾患としては、例えば、軽度認知障害、脳アミロイド血管症、前頭側頭型認知症、ダウン症候群、黄斑変性、レビー小体病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症等の中枢神経系における有害タンパク蓄積に関連する疾患が挙げられ、本発明の間質流改善薬は、これらの疾患の予防及び/又は治療のために使用することができる。 なかでも化合物(1)、特にシロスタゾールを含む本発明の間質流改善薬は、MCIの予防および/または治療剤として極めて有用であり、この点に関する詳細は(2)で後述する。 (2)MCIの予防および/または治療薬 (2−1)化合物 本実施形態にかかるMCIの予防および/または治療薬は、上記「(1)間質流改善薬」で説明した化合物(1)またはその塩を有効成分とする。化合物の態様は上記(1−1)で説明したものと同様である。本発明のMCIの予防および/または治療薬は、ヒトのほか、例えばサル、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ラット、マウス等のヒト以外の哺乳動物にも適用できる。 (2−2)軽度認知障害(MCI) 本発明におけるMCIとは、本明細書の「背景技術」の欄で既に説明しているとおりであるが、より具体的には、蓄積される有害タンパク質の種類や量に関わらず、通常、前述の「認知症疾患治療ガイドライン」におけるMCI判断基準に適合した疾患をいい、MCI患者とはそのような症状を示す患者のことをいう。 このうち、本発明のMCIの予防および/または治療薬は、Mini-Mental State Examination: MMSEで22-26点のMCI患者に特に効果を奏する。詳細には、先の「認知症疾患治療ガイドライン」におけるMCI判断基準に適合した患者であれば、後述する本発明のMCIの予防および/または治療薬を有効に用いることができ、さらにMMSEで22-26点のMCI患者に特に高い効果を示す。 さらにこのようなMCI患者のうち、本発明のMCIの予防および/または治療薬は、特に60歳以上の、より好ましくは75歳以上の高齢者に対して、より顕著な効果を発揮する。 ここで、認知機能を示す値として当該分野で頻繁に採用されているMini-Mental State Examination: MMSEにおけるスコアの実質的な評価目安として、22〜26点が軽度認知障害の疑いがあるレベルであることは前述の通りであるが、それ以外に、20点を超えると自立を保てるレベル(認知症ではない)であり、20点以下は認知症疑いのレベルとされる。また14点を下回ると後見人制度が必要なレベルであり、その間の14〜20点は保佐・補助が必要なレベルとされている。すなわち、MMSEスコアが1〜2点程度の改善であればそれほど劇的に効果があるとは言えないが、それが4点程度改善すれば、保佐・補助が不要になったり、自立可能になったりするため、劇的に改善されたということができる。 軽度認知障害(MCI)は、高齢化に伴い患者数が激増している。したがって、MCI患者を治療し不可逆的な脳神経変性を予防することにより、認知症への移行を防止することは極めて重要である。不可逆的な神経変性が生じている認知症患者においては治癒する可能性は極めて低いが、MCIは治癒する可能性もあり、またMCIの症状のまま安定する可能性もあり、また更にMCIからは複数の異なる症状へ移行する可能性がある。MCI患者さらには認知機能が正常な高齢者においても、既にαシヌクレインやAβ等の有害タンパクが脳内に蓄積を開始していることが証明されており、有害タンパクの除去あるいは蓄積の防止に関して、早期より治療を開始することの重要性が認識されてはいるが、背景技術の欄に記載されているとおり、現状では有効な治療薬はなかった。このような事情から、MCIは公知の様々な認知症とは区別された疾患として位置付けられており、また公知の認知症治療・予防薬では治療・予防効果が認められないことから、MCIを予防または治療することができる製剤が切望されている。 しかしながら、本発明のMCIの予防および/または治療薬を用いることにより、MCIの治療や各種認知症へのコンバートを防止することができるし、あるいはMCI患者だけでなく、認知機能が正常な高齢者における認知機能の改善あるいは認知機能の維持も期待できる。特に実施例で示されているとおり、本発明のMCIの予防および/または治療薬の有効成分であるシロスタゾールを継続的に内服することにより、MCI患者において顕著に認知機能が向上することが示されている(図17等)。このことは、公知事情からは予想だにし得ない本願発明の顕著な効果である。したがって、本発明のMCIの予防および/または治療薬は極めて有用な新薬となる可能性がある。 ここで、本明細書において認知機能について規定するに、認知症における認知機能とは、医師に認知症と判断された程度の認知機能障害が生じている認知機能であり、認知症の中でも軽度の認知機能障害が生じている症例もあれば、重度の認知機能障害が生じている症例もある。また、MCIにおける認知機能は、認知症に至らない程度の認知機能障害が生じている認知機能である。そのため認知機能について正常状態から機能障害状態まで順に並べれば、認知機能正常、MCI、軽度の認知症、重度の認知症となる。認知症の分野では、前述の通り認知機能を示す値としてMini-Mental State Examination: MMSEによる点数が好適に用いられており、前述のように、本発明のMCIの予防および/または治療薬はMCI患者のうちMMSEで22〜26点の認知機能を示す患者に対し特に有効である。さらにこのMCI患者のうち、本発明のMCIの予防および/または治療薬は、60歳以上の高齢者により効果を発揮する。具体的には、公知のAD治療薬ではMMSEのスコアがごくわずかしか改善しない(治療群と非治療群の値の差が高くても1程度)一方で、実施例(4)で具体的に後述されるように、本発明のMCIの予防および/または治療薬は、MMSEのスコアを4程度改善するという著しく高い効果を示す。特に本発明のMCIの予防および/または治療薬は、MMSEの項目のうち、第1項目の時間の見当識、第5項目の遅延再生、第9項目の文章による指示、第11項目の視覚構成といった、高いレベルの認知機能を要する各項目、すなわち神経変性疾患で侵されやすい認知領域を要する項目において大きな改善効果を示す。しかしながら本発明のMCIの予防および/または治療薬は、実施例(5)で具体的に後述されるように、認知症患者(特にMMSE値が21点を下回る患者)に対してはそれほど改善効果が得られない。 ところで、脳アミロイド血管症はその前駆段階としてMCIを経由するが、脳アミロイド血管症に伴う微小出血が画像上みられるMCI症例では、微小出血を伴わないものに比べて、認知症への移行が2.6倍高まるという報告があり(Staekenborg SS, et al. Stroke 2009)、更にMCIの前駆段階としてレビー小体型認知症が一定の割合を占めていることから(Mild cognitive impairment associated with underlying Alzheimer's disease versus Lewy body disease. Parkinsonism Relat Disord. 2012 Jan;18 Suppl 1:S41-4)、MCIの段階での早期治療が、脳アミロイド血管症やレビー小体病による認知症といった疾患への移行を未然に防ぐことを可能にする。 (2−3)併用剤 本発明のMCIの予防および/または治療薬は、有効成分として、化合物(1)またはその塩とアセチルコリンエステラーゼ阻害薬とを組み合わせてもよい。 上述した化合物(1)において、Aがn−ブチレンであり、Rがシクロヘキシルであり、カルボスチリル骨格の3位と4位間の結合が1重結合である場合は特に好ましく、かかる場合、本発明のMCI改善薬は、6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]3,4−ジヒドロカルボスチリル(シロスタゾール)又はその塩と、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬と、を組み合わせてなる。 アセチルコリンエステラーゼ阻害薬としては、特に限定されるものではないが、例えば、ドネペジル塩酸塩、リバスチグミン酒石酸塩、ガランタミン臭化水素酸塩、又はメマンチン塩酸塩であり、好ましくはドネペジル塩酸塩である。 化合物(1)又はその塩とアセチルコリンエステラーゼ阻害薬との併用投与形態は、特に限定されるものではないが、例えば下記に示す通りである。ここでは、化合物(1)又はその塩をCとし、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬をAとする。即ち、(i)CとAとを同時に製剤化して得られる単一の製剤の投与、(ii)CとAとを別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での同時投与、(iii)CとAとを別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での時間差投与、(iv)CとAとを別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での同時投与、(v)CとAとを別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での時間差投与である。 (2−4)投与量・投与剤型 上記MCIの予防および/または治療薬の投与量は、臨床上用いられている用量を基準として適宜選択できる。一例として、シロスタゾール又はその塩の投与量は、成人で1日当り30〜400mgを1回又は2〜数回に分けて投与することが可能であり、ドネペジル塩酸塩の投与量は、成人で1日当り1〜10mgを1回又は2〜数回に分けて投与することが可能である。 本発明のMCIの予防および/または治療薬は、上記(1−2)に記載されているように、間質流改善薬と同様に、経口投与の製剤、経口投与に適した様々な液体製剤、又は注射剤、坐剤のような非経口投与用製剤とすることが可能である。すなわち本発明のMCIの予防および/または治療薬は、本発明の「間質流改善薬」と同様の剤型とすることができる。 アセチルコリンエステラーゼ阻害薬と併用して用いる場合、化合物(1)又はその塩とアセチルコリンエステラーゼ阻害薬との配合比は、投与ルート、症状、年齢、用いるアセチルコリンエステラーゼ阻害薬等により適宜選択できる。通常は、用いるアセチルコリンエステラーゼ阻害薬の一般的な用量を基準にして決定される。一例として、シロスタゾール又はその塩とドネペジル塩酸塩との配合比は、シロスタゾール又はその塩:ドネペジル塩酸塩を50:1〜20:1とすることができる。 MCI患者のうち、70〜80%が約5年後には認知症に移行するが、本発明によれば、MCIを適格に改善できるので、MCIを早期治療することにより認知症への移行を未然に防ぐことができる。 (1)シロスタゾールによる血管拍動駆動力の向上 中枢神経系における脳間質流においては、動脈の血管拍動による血管壁運動が駆動力となり、有害タンパクの排出を行っている(Mechanisms to explain the reverse perivascular transport of solutes out of the brain. J Theor Biol. 2006 Feb 21;238(4):962-74.)。血管拍動における動脈の拡張は、心臓の拍動によって動脈内の血液の圧力が上昇することから生じるが、動脈の拡張能が低下することにより、血管壁運動が減弱し、間質流も低下する。老齢マウスや脳アミロイド血管症の存在下では、脳動脈の血管弾性(しなやかさ)が著明に低下し、血管壁運動が減弱するため、有害タンパクの排出能が低下している(Perivascular drainage of solutes is impaired in the ageing mouse brain and in the presence of cerebral amyloid angiopathy. Acta Neuropathol. 2011 Apr;121(4):431-43. )。脳動脈の血管弾性の程度は、血中二酸化炭素濃度の変化に対する反応性を用いれば評価が可能である。すなわち、脳動脈の血管弾性が保たれ、血管拍動駆動力が維持されている脳動脈は、血中二酸化炭素濃度の上昇に対し血管径を十分に拡張する能力を有しおり、間質流を介した有害タンパクの排出能が保たれている一方、脳動脈の血管弾性が低下し血管拍動に伴う駆動力が低下している脳動脈は、血中二酸化炭素濃度の上昇に対しても、血管径を十分に拡張する能力を喪失しており、有害タンパクの排出能が障害されていると考えられている。そこで、有害タンパク蓄積モデル動物として、脳アミロイド血管症を中心とした病理変化を示すモデルマウス(Tg-SwDIマウス)(Davis et al, 2004年)を使用し、脳動脈の血中二酸化炭素濃度反応性に対するシロスタゾールの効果を検討した。 1.5ヶ月齢の雄性のTg-SwDIマウスを16匹準備し、シロスタゾール含有餌投与群(n=9)と通常餌投与群(n=7)との2群に分類して、15ヶ月齢まで飼育した。シロスタゾール含有餌におけるシロスタゾール濃度は0.3wt%であった。なお、1.5ヶ月齢のTg-SwDIマウスは脳血管のAβが蓄積を始めた初期段階、すなわち脳アミロイド血管症の初期段階と考えられ、脳内の神経細胞の壊死はさほど進行していない段階と考えられる。 飼育開始から15ヶ月において、シロスタゾール含有餌投与群のTg-SwDIマウス及び通常餌投与群のTg-SwDIマウスに対して、1.5%イソフルレンの吸入麻酔下で、Tg-SwDIマウスを固定し、シロスタゾール含有餌投与群の5%CO2を送気したTg-SwDIマウス及び通常餌投与群の5%CO2を送気したTg-SwDIマウスにおいて脳血管径の相対的増加率を調べた。脳血管径の測定は、頭蓋骨を5 mm x 5 mm切除した観察窓を作成し、尾静脈からFITC-dextranを注入することで血管を可視化する方法によった。 図3は、通常餌投与群のTg-SwDIマウスにおける脳表血管像であり、そのうち(a)はCO2を添加しない空気の送気群(AIR群)であり、(b)はCO2を添加し最終濃度としてCO2を5%含む空気の送気群(CO2群)である。図4は、シロスタゾール含有餌投与群のTg-SwDIマウスにおける脳表血管像であり、そのうち(a)はAIR群であり、(b)はCO2群である。図3及び図4において、スケールバーは50μmである。図3及び図4で矢印にて示されるように、AIR送気時においては通常餌投与群(図3のa)およびシロスタゾール含有餌投与群(図4のa)では脳動脈径には差を認めないものの(それぞれの動脈径は18.6±2.35μmおよび18.9±1.10μm [平均±標準誤差、以下同じ] 、p>0.10)、CO2送気時においてシロスタゾール含有餌投与群(図4のb)は、通常餌投与群(図3のb)よりもCO2吸入による脳表動脈血管の拡張が良好であることが明確に示された。統計学的な二酸化炭素濃度反応性に関する検討でも、シロスタゾールの投与によりCO2送気に伴う脳動脈血管拡張能が有意に向上することが判明した(図5)。 図6は生後4ヶ月から12ヶ月にて、通常餌投与群のTg-SwDIマウスおよびシロスタゾール含有餌8ヶ月間投与群のTg-SwDIマウスにおける、CO2送気による脳血管径の相対的増加を示す図である。前項のマウスと同様に、CO2送気前は通常餌投与群のシロスタゾール含有餌投与群において、脳動脈径には差を認めないものの(それぞれの動脈径は20.0±2.78μmおよび 21.3±3.85μm、p>0.10)、CO2送気による脳動脈血管拡張能(血管径の相対的増加率)がシロスタゾールの投与により統計学的に有意に向上することが判明した。 これらの結果は、有害タンパクの排出系として重要な脳間質流の原動力である血管拍動駆動力が、シロスタゾールの投与により向上することを示している。 (2)シロスタゾールによる有害タンパクの排出促進効果 シロスタゾールによる間質流改善効果を検証するため、シロスタゾールによる有害タンパク排出促進効果の検証を脳アミロイド血管症モデルを用いて行った。間質流による有害タンパクの排出は、特異的レセプターや抗原抗体反応を介した排出系と全く異なり、タンパクの種類や量を問わない普遍的な排出系であるため、本実施例においてのAβは、間質流が改善されて排出が促進される脳内有害タンパクの一例にすぎない。 飼育開始から15ヶ月において、シロスタゾール含有餌13.5ヶ月間投与群のTg-SwDIマウス(n=4)及び通常餌投与群のTg-SwDIマウス(n=3)に対して、1.5%イソフルランの吸入麻酔下で、腹臥位にTg-SwDIマウスを固定し、頭皮の正中切開後、32Gのマイクロピペットを用いて、図7に矢印にて示されるように、蛍光標識Aβ1-40をTg-SwDIマウスの線条体(bregma前方0.98 mm、側方1.5 mm)に、定位脳手術的に30秒間で注入した。脳表面から線条体の注入部位までは深さ3.0mmであり、蛍光標識Aβ1-40はAnaSpec(San Jose, CA, USA)から購入した。 蛍光標識Aβ1-40を注入してから30分後に脳を取り出し、0.01M リン酸緩衝液を用いて脱血処理を行い、ドライアイスを用いて瞬間凍結した脳ブロックをクリオスタットで20ミクロンにて薄切して注入部位の前後方向に冠状断にて連続切片を作成してプレパラートを作製し、プレパラートを蛍光顕微鏡で観察した。 図8は、シロスタゾール含有餌投与群のTg-SwDIマウスにおいて、注入部位から2922μmの離れた軟髄膜血管の蓄積部位にある蛍光標識Aβ1-40を示す図であり、図9は、シロスタゾール含有餌投与群のTg-SwDIマウスにおいて、注入部位から3422μmの離れた軟髄膜血管の蓄積部位にある蛍光標識Aβ1-40を示す図であり、図10は、シロスタゾール含有餌投与群のTg-SwDIマウスにおいて、注入部位から3507μmの離れた軟髄膜血管の蓄積部位にある蛍光標識Aβ1-40を示す図である。図8〜図10に矢印にて示されるように、シロスタゾール含有餌投与群のTg-SwDIマウスでは、注入部位から移動したAβは軟髄膜血管の血管周囲腔に位置しており、血管周囲の間質液のドレイナージパスウェイを介してAβがクリアランスされていることが示された。 図11は、飼育開始から15ヶ月にて、シロスタゾール含有餌13.5ヶ月間投与群のTg-SwDIマウス及び通常餌投与群のTg-SwDIマウスにおいて、線条体の注入部位から軟髄膜血管の蓄積部位までの蛍光標識Aβ1-40の平均移動距離を示す図である。図12は、飼育開始から15ヶ月にて、シロスタゾール含有餌13.5ヶ月間投与群のTg-SwDIマウス及び通常餌投与群のTg-SwDIマウスにおいて、線条体の注入部位から軟髄膜血管の蓄積部位までの蛍光標識Aβ1-40の最大移動距離を示す図である。図11及び図12に示されるように、シロスタゾール含有餌投与群のTg-SwDIマウスは、通常餌投与群のTg-SwDIマウスよりもAβのクリアランスが促進されており、これらの結果よりシロスタゾール投与により有害タンパクの排出が促進されていることが示された。 (3)シロスタゾールによる有害タンパクの脳血管周囲リンパ排液路への沈着抑制効果 シロスタゾールによる間質流改善効果を検証するため、シロスタゾールによる脳血管周囲リンパ排液路における有害タンパク沈着抑制効果の検証を脳アミロイド血管症モデルを用いて行った。間質流による有害タンパクの排出は、特異的レセプターや抗原抗体反応を介した排出系と全く異なり、タンパクの種類や量を問わない普遍的な排出系であるため、本実施例においてのAβは、シロスタゾールにより間質流が改善され脳血管周囲リンパ排液路における沈着が抑制される脳内有害タンパクの一例にすぎない。 飼育開始から15ヶ月において、シロスタゾール含有餌13.5ヶ月間投与群のTg-SwDIマウス及び通常餌投与群のTg-SwDIマウスの脳を4%パラホルムアルデヒドを用いて灌流固定し、取り出した脳を1日かけて脱水処理を行ってから、固定した脳組織のパラフィンブロックを作製し、パラフィンブロックをミクロトームで6ミクロンにて薄切してプレパラートを作製し、Aβに対する免疫組織化学法により、血管壁に沈着しているAβを顕微鏡観察した。画像解析ソフトウェアはImageJ (NIH)を用いた。組織切片の前頭葉及び海馬域内において無作為に5か所を選択し、200倍視野で写真をとった。測定したデータはt検定を用いて分析した。 図13は、通常餌投与群のTg-SwDIマウスにおける血管周囲Aβ沈着の写真図であり、そのうち(a)は前頭葉であり、(b)は海馬である。図14は、シロスタゾール含有餌投与群のTg-SwDIマウスにおける血管周囲Aβ沈着の写真図であり、そのうち(a)は前頭葉であり、(b)は海馬である。図13及び図14で矢印にて示されるように、前頭葉及び海馬の何れにおいても、シロスタゾール含有餌投与群のTg-SwDIマウスは、通常餌投与群のTg-SwDIマウスよりも血管周囲に沈着しているAβが少なかった。 図15は、飼育開始から12ヶ月にて、シロスタゾール含有餌8ヶ月間投与群のTg-SwDIマウス及び通常餌投与群のTg-SwDIマウスにおいて、血管周囲のAβの相対的減少を示す図である。図16は、飼育開始から15ヶ月にて、シロスタゾール含有餌13.5ヶ月間投与群のTg-SwDIマウス及び通常餌投与群のTg-SwDIマウスにおいて、血管周囲のAβの相対的減少を示す図である。図15及び図16に示されるように、シロスタゾール含有餌投与群のTg-SwDIマウスは、通常餌投与群のTg-SwDIマウスよりも血管周囲のAβの沈着が抑制されており、これらの結果より間質流の流路である脳血管周囲における有害タンパクの沈着がシロスタゾール投与により抑制されることが示された。 (4)MMSE値が22点以上26点以下である高齢者に対する臨床的治療効果 加齢に伴いタウタンパク、シヌクレインタンパク、アミロイドタンパクやユビキチン化タンパク等の神経機能の障害をもたらす有害タンパクが脳内に徐々に蓄積する。蓄積する有害タンパクの種類に関わらず、初期においては軽度の認知機能の障害が観察されるが、この時点では脳神経組織の不可逆的な神経細胞変性はまだ生じていないことが多く、有害タンパクの主要な排出経路の一つである間質流の活性化を行うことで、軽度の認知機能の障害を治療しうる可能性がある。本仮説を検証するために、MMSE値が22点以上26点以下であり、軽度の認知機能低下が疑われる患者におけるシロスタゾールの継続的な内服の認知機能に与える影響を評価した。 1996年から2012年の間にシロスタゾールを投与された記録の存在する連続症例(合計3183症例)を対象としたサーベイを行い、下記の条件に合致する全症例を用いた検討を行った。なお、本検討では抗認知症薬の影響を除外するため、ドネペジル等の抗認知症薬を投与された患者は全て解析から除外した。 〈選択条件〉(i)認知機能の一般的検査であるmini mental state exam (MMSE)が2回以上実施され、その間隔が6か月以上である(3回以上実施した症例は、初回及び最終回の2回の検査結果を選択した)。(ii)初回MMSE値が22点以上26点以下である。(iii)MMSE観察期間のうち少なくとも半分以上の期間シロスタゾールを投薬した症例を、継続的な治療を実施した群(以下、治療群)として選択した。(iv)MMSE観察期間のうちシロスタゾールの投薬が2ヵ月以下の症例を、継続的な治療を実施しなかった群(以下、非治療群)として選択した。 〈解析項目〉(i)各群におけるMMSE値の変化率(算出方法:[最終回MMSE値‐初回MMSE値]/MMSEの観察期間[年])。(ii)各群におけるMMSE各検査項目の得点の変化率(算出方法:[最終回MMSE各検査項目の得点‐初回MMSE各検査項目の得点]/MMSEの観察期間[年])。 なお、2群間の比較において、比率の差異はカイ2乗検定で、その他はt検定を用いて統計解析を行った。 〈結果〉 3183症例中、MCI非治療群9症例、MCI治療群31症例が選択条件に合致した。各群の背景因子は、年齢(非治療群 81.3±2.2歳, 治療群 76.6±1.2歳, P=0.07) [平均±標準誤差、以下同じ]、初回時のMMSE値(非治療群 23.7±0.4, 治療群 23.7±0.2, P=0.87)、MMSEの観察期間(非治療群 773±144日, 治療群 645±74日, P=0.42)、男性の比率(非治療群56%, 治療群 35%, P=0.28)であり、非治療群と治療群では患者背景因子に有意な差を認めなかった。非治療群は、下痢や頭痛等の副作用によりシロスタゾールの継続的な治療を実施しなかった患者群であり、中枢神経系の臨床病態及び背景因子は初回MMSE検査時においては治療群と非治療群はほぼ等しいと考えられた。 MMSE値の変化率に関しては、非治療群 −3.8±1.3 (/年), 治療群 0.4±0.7 (/年)であり、シロスタゾールを継続的に内服することにより、MCI患者において有意に認知機能が向上することが示された(図17、P=0.007)。 更に、MMSE値変化率の項目別解析で2群間に有意差を認めた項目は、第1項目の時間の見当識(非治療群 −0.87±0.30, 治療群 ‐0.13±0.16, P=0.03. 図18)、第5項目の遅延再生(非治療群 −0.66±0.24, 治療群 0.16±0.13, P=0.004. 図19)、第9項目の文章による指示(非治療群 −0.33±0.10, 治療群 0.01±0.06, P=0.008. 図20)、第11項目の視覚構成(非治療群 −0.38±0.15, 治療群 0.03±0.08, P=0.02. 図21)の4項目であった。第11項目の視覚構成障害はレビー小体型認知症へ移行しやすいことが知られているが、老年期のMCI患者においては程度の差はあるもののほとんどの症例でβアミロイドタンパクやαシヌクレイン等の有害なタンパクの脳内蓄積の関与が示唆されており、本実施例の結果は、シロスタゾールによる間質流改善の治療効果が、レビー小体型認知症の前段階を含むMCI患者に広く有効であることを示している。なお、上記図中の*は統計学的にP<0.05であり有意差が存在することを示す。 (5)認知症患者に対する臨床的治療効果の不存在 認知症患者におけるシロスタゾールの治療効果の可能性を示す症例報告があるが(血管性危険因子を有する認知症に対するシロスタゾールの効果 至誠会第二病院 神経内科 2011年脳卒中学会総会ポスター発表)、これらは比較対象群が設定されていない報告であり、科学的有用性は極めて低く、参考にするに全く値しない。認知症患者では相当以上の不可逆的な神経変性が進行していると考えられており、間質流改善薬の作用機序から考慮すると、認知症患者においては間質流改善薬の十分な治療効果が存在しない可能性がある。そこで認知症患者におけるシロスタゾールの継続的な内服の認知機能に与える影響を評価するため、1996年から2012年の間にシロスタゾールを投与された記録の存在する連続症例(合計3183症例)を対象としたサーベイを行い、下記の条件に合致する全症例を用いた検討を行った。なお、本研究では抗認知症薬の影響を除外するため、ドネペジル等の抗認知症薬を投与された患者は全て解析から除外した。 〈選択条件〉(i)認知機能の一般的検査であるmini mental state exam (MMSE)が2回以上実施され、その間隔が6か月以上である(3回以上実施した症例は、初回及び最終回の2回の検査結果を選択した)。(ii)初回MMSE値が21点以下である。(iii)MMSE観察期間のうち少なくとも半分以上の期間シロスタゾールを投薬した症例を、継続的な治療を実施した群(以下、治療群)として選択した。(iv)MMSE観察期間のうちシロスタゾールの投薬が2ヵ月以下の症例を、継続的な治療を実施しなかった群(以下、非治療群)として選択した。 〈解析項目〉(i)各群におけるMMSE値の変化率(算出方法:[最終回MMSE値‐初回MMSE値]/MMSEの観察期間[年])。なお、2群間の比較において比率の差異はカイ2乗検定で、その他はt検定を用いて統計解析を行った。 〈結果〉 3183症例中、非アルツハイマー型認知症のシロスタゾール非治療群9症例、治療群19症例が選択条件に合致した。各群の背景因子は、年齢(非治療群 80.7±3.2歳, 治療群 78.5±2.2歳, P=0.57) [平均±標準誤差、以下同じ]、初回時のMMSE値(非治療群16.3±2.0, 治療群 15.0±1.3, P=0.58)、MMSEの観察期間(非治療群 821±125日, 治療群 565±86日, P=0.10)、男性の比率(非治療群 67%, 治療群 63%, P=0.86)であり、非治療群と治療群では患者背景因子に有意な差を認めなかった。非治療群は、下痢や頭痛等の副作用によりシロスタゾールの継続的な治療を実施しなかった患者群であり、中枢神経系の臨床病態及び背景因子は初回MMSE検査時においては治療群とほぼ等しいと考えられた。 MMSE値の変化率に関しては、非治療群 −1.2±1.1 (/年), 治療群 0.5±0.7 (/年)でP値は0.21であった(図22)。既報ではシロスタゾール投与により血管性危険因子を有する認知症での治療効果の可能性がある症例が報告されているが(血管性危険因子を有する認知症に対するシロスタゾールの効果 至誠会第二病院 神経内科 2011年脳卒中学会総会ポスター発表)、本研究ではシロスタゾール投与群と同様にシロスタゾール非投与群においてもMMSEが改善する症例が存在することが判明し、結局のところ認知症に対する統計学的に有意な治療効果は認められなかった。上述の実施例(4)の知見と総合して勘案すると、間質流改善薬であるシロスタゾールの治療ターゲットは既に認知症を発症している認知症患者ではなく、MMSEが22点以上で26点以下という軽度な認知機能の低下を示す高齢者群であることを我々は発見した。 (6)アセチルコリン投与下におけるシロスタゾールの血管拍動力の向上 中枢神経系における脳間質流においては、動脈の血管拍動による血管壁運動が駆動力となり、有害タンパクの排出を行っている。血管拍動における動脈の拡張は、心臓の拍動によって動脈内の血液の圧力が上昇することから生じるが、動脈の拡張能が低下することにより、血管壁運動が減弱し、間質流も低下する。老齢マウスや脳アミロイド血管症の存在下では、脳動脈の血管弾性(しなやかさ)が著明に低下し、血管壁運動が減弱するため、有害タンパクの排出能が低下している。本研究ではアセチルコリン投与下におけるシロシタゾール投与の血管弾性能に対する影響を検討した。 アセチルコリンには血管弾性能を向上させる生理作用があることは公知であるが、このアセチルコリンを脳表に投与した場合において、シロスタゾール含有餌投与モデルマウスと通常餌投与モデルマウスとの血管弾性能を比較した。 上記の(1)シロスタゾールによる血管弾性能と同様に、脳アミロイド血管症を中心とした病理変化を示すモデルマウス(Tg-SwDIマウス)(Davis et al, 2004年)を使用した。4ヶ月齢の雄性のTg-SwDIマウスを16匹準備し、シロスタゾール含有餌投与群(n=9)と通常餌投与群(n=7)との2群に分類して、12ヶ月齢まで飼育した。シロスタゾール含有餌におけるシロスタゾール濃度は0.3wt%であった。各16匹のTg-SwDIマウスに対して、頭蓋骨を径2mm切除した観察窓を作成した後に硬膜を除去し、リンゲル液を灌流した後、アセチルコリン(100μM)を100 μL/分の速度で灌流した。脳血管をFITC-dextranを用いて可視化した上で、投与前と投与開始3分後の血管径の変化率を解析した。 飼育開始から12ヶ月において、シロスタゾール含有餌投与群のTg-SwDIマウス及び通常餌投与群のTg-SwDIマウスに対して、1.5%イソフルレンの吸入麻酔下で、Tg-SwDIマウスを固定し、シロスタゾール含有餌投与群のTg-SwDIマウス及び通常餌投与群のTg-SwDIマウスにおいて脳血管径の相対的増加を調べた。脳血管径の測定は、頭蓋骨を5 mm x 5 mm切除した観察窓を作成し、尾静脈からFITC-dextranを注入することで血管を可視化する方法によった。 図23は、飼育開始から12ヶ月にて、シロスタゾール含有餌8ヶ月間投与群のTg-SwDIマウス及び通常餌投与群のTg-SwDIマウスにおいて、脳血管径の相対的増加を示す図である。 次に、1.5ヶ月齢の雄性のTg-SwDIマウスを16匹準備し、シロスタゾール含有餌投与群(n=9)と通常餌投与群(n=7)との2群に分類して、15ヶ月齢まで飼育し、その他は上記と同様にして血管弾性能を試験した。図24は、飼育開始から15ヶ月にて、シロスタゾール含有餌13.5ヶ月間投与群のTg-SwDIマウス及び通常餌投与群のTg-SwDIマウスにおいて、脳血管径の相対的増加を示す図である。 図23及び図24に示されるように、アセチルコリンを脳表に投与した場合において、シロスタゾール含有餌投与群のTg-SwDIマウスは、通常餌投与群のTg-SwDIマウスよりも血管が拡張されていることがわかる。アセチルコリン単独投与の場合と比較して、シロスタゾールとアセチルコリンとを併用投与の場合は、格段に血管弾性能が高められていることが示唆された。 (7)ドネペジル塩酸塩を内服しているMMSE値が22点以上26点以下である高齢者に対する臨床的治療効果 ドネペジル塩酸塩を内服しており、MMSE検査施行日の間に少なくとも1年以上の観察期間を有する、初回MMSEが26点以下の患者を診療録から拾い出した。その中で少なくとも観察期間内にシロスタゾールを連続して6ヶ月以上併用した記録のある患者をドネペジル塩酸塩・シロスタゾール併用群(69例)、シロスタゾール内服歴のない患者をドネペジル塩酸塩単独群(87例)とした。シロスタゾールは50〜200mg/日で朝夕内服したものであり、ドネペジル塩酸塩は5mg/日で一日1回服用であった。このうち、MCIの患者群としてMMSEが22点以上26点以下の患者を抽出したところ、ドネペジル塩酸塩単独群(以下、単独群)は36例(男性16名、女性20名;平均年齢78.4歳)、ドネペジル塩酸塩・シロスタゾール併用群(以下、併用群)は34例(男性15名、女性19名;平均年齢77.2歳)であった。併用群におけるシロスタゾールの平均投与量は、121mg/日であった。観察期間内の初回MMSEは、単独群24.0±1.3点(平均±標準誤差)、併用群24.2 ± 1.5点で2群間に差異を認めなかった(p=0.43)。観察期間は、単独群30.4 ± 2.1ヵ月、併用群28.6 ± 2.0ヵ月であり、差を認めなかった(p=0.52)。これら単独群36例と併用群34例を解析対象とし、観察期間内でのMMSEの変化率(各患者におけるMMSE点数の増減値/MMSEの観察期間[年])の検討を行った。MMSEの測定は観察期間内において少なくとも2回行い、そのうち初回及び最終回の2回の検査結果を選択して統計処理を行った。MMSE変化率は単独群-2.23 ± 0.69、併用群-0.45 ± 0.28であり、2群間で有意差を認めた(p=0.022)(図25)。本結果は、ドネペジル塩酸塩内服下にあるMCI患者では、シロスタゾールの追加内服でMMSEの年間低下率を約80%抑制したことを示している。更に、MMSEの下位項目別解析で2群間に有意差を認めた項目の変化率(各項目の増減値/MMSEの観察期間[年])は、第1項目の時間の見当識(単独群-0.85 vs. 併用群-0.16; p=0.003)(図26)、第2項目の場所の見当識(単独群-0.31 vs. 併用群+0.09; p=0.017)(図27)、第5項目の遅延再生(単独群-0.28 vs. 併用群+0.05; p=0.045)(図28)の3項目であった。初回MMSE施行時には、第1項目(単独群3.9±0.2 vs. 併用群4.1±0.2; p=0.74)、第2項目(単独群4.4±0.1 vs. 併用群4.3±0.17; p=0.1)、第5項目(単独群2.1±0.2 vs. 併用群1.9±0.2; p=0.28)ともに、2群間で有意差を認めておらず、シロスタゾールが見当識や遅延再生の悪化を防ぐことを示していた。以上のことから、前項(7)に示したモデル動物の結果からも類推されるように、シロスタゾールとドネペジル塩酸塩の併用がMCIにおいて有効であることが臨床的に示された。 (8)ドネペジル塩酸塩を内服している認知症患者に対する臨床的治療効果の不存在 ドネペジル塩酸塩を内服している認知症患者におけるシロスタゾールの治療効果の可能性を示す症例報告があるが(特表2010-527993号公報 大塚製薬株式会社)、これらは比較対象群が設定されていない報告であり、科学的有用性は極めて低く、参考にするに全く値しない。 ドネペジル塩酸塩を内服している認知症の患者群としてMMSEが21点以下の患者を抽出したところ、ドネペジル塩酸塩単独群(単独群)は51例(男性17名、女性34名;平均年齢78.2歳)、ドネペジル塩酸塩・シロスタゾール併用群(併用群)は35例(男性14名、女性21名;平均年齢79.3歳)であった。併用群におけるシロスタゾールの平均投与量は、139 mg/日であった。観察期間内の初回MMSEは、単独群16.5±0.68点(平均±標準誤差)、併用群15.9 ± 0.72点で2群間に差異を認めなかった(p=0.51)。観察期間は、単独群30.2 ± 1.7ヵ月、併用群25.8 ± 1.7ヵ月であり、有意差を認めなかった(p=0.08)。これら単独群51例と併用群35例を解析対象とし、観察期間内でのMMSEの変化率(各患者におけるMMSE点数の増減値/MMSEの観察期間[年])の検討を行った。MMSEの測定は観察期間内において少なくとも2回行い、そのうち初回及び最終回の2回の検査結果を選択して統計処理を行った。MMSE変化率は単独群-0.90 ± 0.37、併用群-0.69 ± 0.47であり、2群間で有意差を認めなかった(p=0.72)(図29)。MMSEの下位項目に関しても、第1項目の時間の見当識(単独群-0.16 vs. 併用群-0.13; p=0.89)(図30)、第2項目の場所の見当識(単独群-0.13 vs. 併用群+0.09; p=0.86)(図31)、第5項目の遅延再生(単独群-0.15 vs. 併用群-0.02; p=0.37)(図32)を含め、どの項目においても有意な差を認めなかった。以上のことから、シロスタゾールの認知症における有効性は示されなかった。上述の実施例の「(7)ドネペジル塩酸塩を内服しているMCI患者に対する臨床的治療効果」の知見と総合して勘案すると、ドネペジル塩酸併用群においても間質流改善薬であるシロスタゾールの治療ターゲットは既に認知症を発症している認知症患者ではなく、MMSEが22点以上で26点以下という軽度な認知機能の低下を示す高齢者群であることを我々は発見した。 MCIを始めとする、脳内の有害タンパク蓄積に伴う疾患治療に有益である。 一般式:[式中、Aは炭素数1〜6の直鎖アルキレン基、Rは炭素数3〜8個のシクロアルキル基、カルボスチリル骨格の3位と4位間の結合は1重結合又は2重結合である]で示されるカルボスチリル誘導体又はその塩を有効成分とする間質流改善薬。 シロスタゾールを有効成分とする、請求項1に記載の間質流改善薬。 塩酸ドネペジルを含まない、請求項2に記載の間質流改善薬。 脳間質流を改善する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の間質流改善薬。 軽度認知障害の患者に投与することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の間質流改善薬。 軽度認知障害の患者が、MMSEで22点以上26点以下である患者である、請求項5に記載の間質流改善薬。 一般式:[式中、Aは炭素数1〜6の直鎖アルキレン基、Rは炭素数3〜8個のシクロアルキル基、カルボスチリル骨格の3位と4位間の結合は1重結合又は2重結合である]で示されるカルボスチリル誘導体又はその塩を有効成分とし、投与された軽度認知障害患者における間質流を改善することを特徴とする、軽度認知障害の治療剤。 シロスタゾールを有効成分とする、請求項6に記載の軽度認知障害の治療剤。 塩酸ドネペジルを含まない、請求項8に記載の軽度認知障害の治療剤。 脳間質流を改善する、請求項7〜9のいずれか一項に記載の軽度認知障害の治療剤。 【課題】脳血管等の間質流を改善させて脳に蓄積する有害タンパクを十分にクリアランスさせることによる間質流改善薬を提供する。【解決手段】6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]3,4−ジヒドロカルボスチリル又はその塩を有効成分とする。これにより血管周囲の間質液のドレイナージパスウェイにおける流れが改善されて、有毒タンパクが排出される。間質流改善薬は、経口投与の製剤、経口投与液体製剤、又は注射剤とすることが可能である。脳アミロイド血管症の予防及び/又は治療に使用することもできるし、レビー小体病、ダウン症候群または黄斑変性の改善にも使用される。【選択図】図11


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