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タイトル:公開特許公報(A)_薬剤放出層を有するインプラント
出願番号:2015041816
年次:2015
IPC分類:A61L 31/00,A61P 43/00,A61K 31/436,A61P 37/06,A61K 31/203,A61K 45/00,A61K 45/06,A61F 2/915,A61F 2/82


特許情報キャッシュ

加来田 博貴 山田 翔也 景山 圭祐 岩澤 亮 三宅 雅 高畠 伸幸 JP 2015180247 公開特許公報(A) 20151015 2015041816 20150303 薬剤放出層を有するインプラント 国立大学法人 岡山大学 504147243 株式会社日本ステントテクノロジー 504184721 有限会社エスク 514054133 杉本 修司 100087941 野田 雅士 100086793 堤 健郎 100112829 小林 由佳 100142608 中田 健一 100154771 加来田 博貴 山田 翔也 景山 圭祐 岩澤 亮 三宅 雅 高畠 伸幸 JP 2014040337 20140303 A61L 31/00 20060101AFI20150918BHJP A61P 43/00 20060101ALI20150918BHJP A61K 31/436 20060101ALI20150918BHJP A61P 37/06 20060101ALI20150918BHJP A61K 31/203 20060101ALI20150918BHJP A61K 45/00 20060101ALI20150918BHJP A61K 45/06 20060101ALI20150918BHJP A61F 2/915 20130101ALI20150918BHJP A61F 2/82 20130101ALI20150918BHJP JPA61L31/00 ZA61P43/00 121A61P43/00 105A61K31/436A61P37/06A61K31/203A61K45/00A61K45/06A61F2/915A61F2/82 14 2 OL 21 4C081 4C084 4C086 4C167 4C206 4C081AC09 4C081BA12 4C081BA16 4C081BB06 4C081CA161 4C081CA171 4C081CA231 4C081CD061 4C081CD071 4C081CD081 4C081CD111 4C081CD121 4C081CE02 4C081CF011 4C081CG01 4C081CG04 4C081DA03 4C081DC03 4C081DC04 4C084AA17 4C084AA20 4C084MA34 4C084MA67 4C084NA06 4C084NA12 4C084ZB082 4C084ZB222 4C084ZC751 4C086AA01 4C086AA02 4C086CB22 4C086MA02 4C086MA04 4C086MA09 4C086MA34 4C086MA67 4C086NA06 4C086NA12 4C086ZB08 4C086ZC75 4C167AA45 4C167AA50 4C167CC07 4C167CC08 4C167FF05 4C167GG01 4C167GG21 4C167GG26 4C167GG43 4C206AA01 4C206AA02 4C206DA12 4C206MA02 4C206MA04 4C206MA12 4C206MA54 4C206MA87 4C206NA06 4C206NA12 4C206ZB22 4C206ZC75 本発明は、生体内の管腔の治療に用いられる薬剤放出層を有するインプラントに関する。とくに、本発明は、生体内の管腔、特に血管の治療に用いられる、単一または複数の放出層を有するインプラント(ステント等)に関する。 インプラントには、ステント、バルーン、カニューレ、コイル、ピン等、様々なものがある。これらのインプラントには、生体内の管腔の治療時に、薬剤の放出を可能とするように、インプラント本体にポリマー被覆層を設け、該ポリマー層に薬剤を含有させている。 特許文献1および2には、ステントなどに搭載する生物学的生理活性物質が、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、HMG−CoA還元酵素阻害剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症薬、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GPIIbIIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質改善薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、抗炎症薬、生体由来材料、インターフェロンおよびNO産生促進物質よりなる群から選ばれる少なくとも1種であること、前記免疫抑制剤としては、ラパマイシン(シロリムス)、エベロリムス、バイオリムス、タクロリムス、アザチオプリン、シクロスポリン、シクロフォスファミド、ミコフェノール酸モフェチル、グスペリムス、ミゾリビン等が好ましく、抗血栓薬としては、ヘパリン、アスピリン、抗トロンビン製剤、チクロピジン、ヒルジン等が好ましく、前記レチノイドとしては、オールトランスレチノイン酸が好ましいことが開示されている。特開2007−313009特開2013−226244 実際のステント治療においては、最近では、特許文献1および2に記載されている免疫抑制剤のリムス系薬剤[シロリムス(ラパマイシン)やエベロリムス等]を搭載したステントが治療に多く使用されている。しかし、これらの薬剤は血管平滑筋細胞だけでなく血管内皮細胞に対しても増殖抑制作用を示し、ステント表面での血管内皮細胞による被覆化の遅延・障害が起こるので、遅発性血栓症の原因になると考えられており、また、これを防止するために、抗血栓薬を長期間服用しなければならず、その副作用が懸念されていた。 上記の特許文献1および2では、種々の薬剤が一種だけでなく組み合わせて使用可能であることが記載されているが、上記の問題点をどのようにして克服するかについての示唆はなく、また、複数の薬剤を具体にどのように組み合わせて用いるかについての開示もない。 本発明者らは、上記の遅発性血栓症の発生率を低下すべく、血管内膜肥厚の形成に寄与する血管平滑筋細胞の過増殖抑制作用を図ると共に、血管内皮細胞の増殖を促進する効果を、薬剤の併用により得ることを解決すべき課題として設定した。 また、上記の遅発性血栓症の発生率を低下すべく、血管平滑筋細胞の増殖抑制作用を図ると共に、血栓発生を抑制する効果を、薬剤の併用により得ることを解決すべき課題として設定した。 本発明者らは、上記課題について鋭意検討の結果、レチノイドとリムス系薬剤との併用を行うことにより、血管内皮細胞の増殖促進効果を図りつつ、血管平滑筋細胞の増殖抑制効果が得られることを見出し、本発明に到達した。 本発明は、インプラント本体と、前記インプラント本体の表面の少なくとも一部を被覆する単一又は複数の被覆層と、を具備したインプラントであって、 前記被覆層の一つは、(a)リムス系薬剤および/または(b)RXR活性化能が本明細書で定義する基準値以下のレチノイドを含有するポリマー層を具備することによって、 (a)リムス系薬剤と(b)レチノイドとが放出されるように構成されたインプラントである。 本明細書において、「RXR活性化能が本明細書で定義する基準値以下のレチノイド」とは、参考例2に示されているRXR活性化能の測定法において、LGD1069のRXR活性能を基準とした場合、LGD1069の活性化能よりも低い値を示すことを意味している。LGD1069の活性化能よりも低い活性化能を有するレチノイドが本発明において用いられるレチノイドである。LGD1069の活性化能と同じまたはそれよりも高いRXR活性化能を示すレチノイド(例えば、レキシノイド)は本発明においては用いられない。以下、本明細書において、RXR活性化能が本明細書で定義する基準値以下のレチノイド(レキシノイドを含まない)を単にレチノイドと称することがある。 前記インプラントの被覆層は、単一層から形成され、この単一層には、a)リムス系薬剤および(b)RXR活性化能が本明細書で定義する基準値以下のレチノイドが含有されていることが好ましい。 また、前記インプラントの被覆層は、第1被覆層と第2被覆層の二層からなり、いずれか一方の層は(a)前記リムス系薬剤を、他方の層は(b)前記レチノイドを含有することが好ましい。 上記の単一層構造と二層構造とでは、単一層の方が好ましい(後述の実施例1〜3を参照)。 前記インプラントがステントであることが好ましい。 前記インプラント本体は管状体であることが好ましく、前記管状体は、金属材料、セラミック材料、またはポリマー材料から形成されていることが好ましく、前記金属材料、セラミック材料またはポリマー材料は、生分解性であることが好ましい。 前記ポリマーが生分解性ポリマーであることが好ましく、前記生分解性ポリマーが、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリεカプロラクトン、ポリ(乳酸−グリコール酸)、ポリ(乳酸−ε−カプロラクトン)、ポリ(グリコール酸−ε−カプロラクトン)、ポリヒドロキシ酪酸、ポリリンゴ酸、ポリα−アミノ酸、コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸、フィブロネクチン、コンドロイチン硫酸、およびヒアルロン酸からなるグループから選ばれる1種又は2種以上であることが好ましい。 前記リムス系薬剤は、ラパマイシンであることが好ましい。 前記レチノイドは、レキシノイドを含まないことが好ましい。 前記レチノイドは、所定の量により前記リムス系薬剤による血管内皮細胞の増殖抑制作用を低下させることが好ましく、前記リムス系薬剤に対する前記レチノイドの比率(重量)が2倍もしくはそれ以上であることが好ましい。 上記の知見から、(a)リムス系薬剤および(b)RXR活性化能が本明細書で定義する基準値以下のレチノイドとからなり、前記リムス系薬剤に対する前記レチノイドの重量比率が2倍またはそれ以上である血管平滑筋細胞増殖抑制剤が提供される。血管平滑筋細胞増殖抑制を図りながら、血管内皮細胞の増殖促進を図ることができる。 本発明によれば、インプラント本体上の少なくとも一部に形成されたポリマー層に、リムス系薬剤とともに、レチノイド(レキシノイドを除く)を含有させた、ステントなどのインプラントを体内(特に血管中)に挿入することにより、血管平滑筋細胞の過増殖抑制は維持しつつ、血管内皮細胞の増殖を促進する効果が得られるインプラントが提供される。とくに、本発明によって、従来の薬剤溶出性ステントと比較して遅発性血栓症の発生率の低下が期待されるステントが提供される。ステントの形状の一例を示す模式図である。本発明に係るインプラントの層構成の一例を示す断面図である。本発明に係るインプラントの層構成の一例を示す断面図である。本発明に係るインプラントの層構成の一例を示す断面図である。ラパマイシンの細胞増殖率−濃度関係を示すグラフである。 (○は、HUVEC、●は、HASMCを表す。以下、同じ)ATRAの各濃度における平滑筋細胞(●)および血管内皮細胞(○)の細胞増殖率を示すグラフである。ATRA(1×10−5M)共存下における、ラパマイシン濃度に対する細胞増殖率−濃度関係を示すグラフである。ラパマイシン(1×10−10 M)共存下における,ATRA濃度に対する細胞増殖率−濃度関係を示すグラフである。ラパマイシン−FO2‐80系の細胞増殖率−濃度関係を示すグラフである。ラパマイシン−FO3−58系の細胞増殖率−濃度関係を示すグラフである。ラパマイシン−LGD1069系の細胞増殖率−濃度関係を示すグラフである。実施例1〜3のステントの層構成を示す概略図である。実施例1〜3のステントから溶出された薬剤(ラパマイシンまたはATRA)濃度の経時変化を示すグラフである。条件1および条件2で作製されたステントから溶出された薬剤濃度の経時変化を示すグラフである。 (インプラント) 本発明においてインプラントとは、血管治療に通常用いられるインプラントであって、ステント、カバードステント、ステントグラフト、血管吻合デバイス、血管止血デバイス、血管瘤治療デバイス、バルーン、カニューレ、コイル、ピンなどを含む用語として用いられているが、主たる用途はステントであるので、以下、ステントを例にして具体的に記載する。 (ステント本体) 本発明において、インプラント本体(ステント本体)は、外表面と内表面とを有する管状体であり、特に円筒形状を有している。例えば、図1は、本発明で用いられる円筒形状に形成されたステント本体の一例を示す平面図であり、隣接する全てのセルとリンクが連結された全リンク型のステントが示されている。また、隣接するセルとリンクが部分的に連結された部分リンク型ステントも本発明で用いられる。部分リンクステントの方が、血管に対する順応性が高いという利点がある。 ステント本体を形成する基材材料は、特に制限されない。その具体的な例としては、例えば、SUS316などの各種ステンレス鋼(SUS)、金、白金、銀、銅、ニッケル、コバルトクロム、チタンおよびそれらの合金などの各種金属材料、各種セラミックス材料などの無機材料、金属−セラミックス複合体、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂(アリル樹脂)、ポリカーボネート樹脂、フッ素樹脂、アミノ樹脂(ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂)、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂(ケイ素樹脂)、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイト、ポリエーテルスルホンなどのポリマー材料が挙げられる。 なかでもステント本体を構成する材料としては、生分解性金属、生分解性セラミック、生分解性ポリマーなどの生分解性材料が好ましい。生分解性金属としては、純マグネシウムまたはマグネシウム合金、カルシウム、亜鉛、リチウムなどが使用される。特に好ましくは、純マグネシウムまたはマグネシウム合金である。マグネシウム合金としては、マグネシウムを主成分とし、Zr、Y、Ti、Ta、Nd、Nb、Zn、Ca、Al、Li、およびMnからなる生体適合性元素群から選択される少なくとも1つの元素を含有するものが好ましい。また、生分解性ポリマーとしては、特に限定されないが、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、セルロース、ポリヒドロキシブチレイト吉草酸、およびポリオルソエステルからなる群から選択される少なくとも1つもしくは、これらの共重合体、混合物、または複合物であることが好ましい。 (ステント本体の表面処理) ステント表面に後述する被覆層を形成するにあたっては、被覆層がステント表面に密着する必要があるので、ステント本体表面は被覆層形成の前に、必要に応じて、洗浄や表面活性化処理をおこなうのが好ましい。表面処理法としては、酸化剤やフッ素ガスなどによる薬品処理、表面グラフト重合、プラズマ放電処理、コロナ放電処理、UV/オゾン処理、電子線照射などが挙げられる。 (被覆層) 本発明のインプラントは、インプラント本体の表面の少なくとも一部を被覆する単一又は複数の被覆層を具備しており、具体的には、下記の3通りの態様が例示される。 (1)図2に示すように、インプラント(ステント)本体5と、前記インプラント本体5の表面の少なくとも一部を被覆する単一被覆層4を具備しており、前記単一被覆層4は、(a)リムス系薬剤(ラパマイシン)2および(b)RXR活性化能が本明細書で定義する基準値以下のレチノイド3を含有するポリマー層から構成されている。 (2)図3に示すように、インプラント(ステント)本体10と、前記インプラント本体10の表面の少なくとも一部を被覆する第1被覆層9と第2被覆層8を具備しており、第1被覆層9は、(b)RXR活性化能が本明細書で定義する基準値以下のレチノイド7を含有するポリマー層から構成され、第2被覆層8は(a)リムス系薬剤(ラパマイシン)6を含有するポリマー層から構成されている。 (3)図4に示すように、インプラント(ステント)本体15と、前記インプラント本体15の表面の少なくとも一部を被覆する第1被覆層14と第2被覆層13を具備しており、第1被覆層14は、(a)リムス系薬剤(ラパマイシン)12を含有するポリマー層から構成され、第2被覆層13は、(b)RXR活性化能が本明細書で定義する基準値以下のレチノイド11を含有するポリマー層から構成されている。 なお、上記被覆層からの薬剤の放出をコントロールするために、上記の薬剤を含まないポリマー層を上記被覆層上に必要に応じて形成してもよい。 (被覆層を構成するポリマー) 本発明においては、狭窄抑制に有効な量の薬剤を一定時間持続的に放出させることを主眼としているが、そのために、被覆層を形成する、薬剤(リムス系薬剤、レチノイド)を担持するマトリックスポリマーとして、薬剤が拡散によりポリマー層中を移動しやすいガラス転移温度(Tg)が−100〜50℃の範囲内にある柔軟性ポリマーを使用することが好ましい。このような柔軟性ポリマーとして、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素樹脂、ポリブチルアクリレート(−54℃)、ポリブチルメタクリレート(20℃)、アクリルゴム、天然ゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレン−イソブチレンブロック共重合体などが例示される。上記の柔軟性ポリマーは、血管内に導入されたとき非分解性であるが、本発明においては、ポリマーに起因する慢性炎症から血管組織を早期に回復させることが要求される場合には、生分解性ポリマー、なかでも半年以内に生体内で分解・消失するものを用いて被覆するのが好ましい。 生分解性ポリマーの具体例としては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリε‐カプロラクトン、ポリ(乳酸−グリコール酸)、ポリ(乳酸−ε−カプロラクトン)、ポリ(グリコール酸−ε−カプロラクトン)、ポリ−p−ジオキサノン、ポリ(グリコール酸−トリメチレンカーボネート)、ポリ−ヒドロキシ酪酸、ポリリンゴ酸、ポリα−アミノ酸、コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸、フィブロネクチン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸などが挙げられる。なかでもポリ(乳酸−グリコール酸)、ポリ(乳酸−ε−カプロラクトン)、 ポリ(グリコール酸−ε−カプロラクトン)は、ガラス転移温度が−20〜50℃の範囲にあり、かつ、生分解速度が半年以内に生体内で分解消失する速度であるので、本発明において好ましく用いられる。これらのポリマーの分子量は、被覆層の強度確保、コーティング作業効率の観点から、20,000〜500,000が適当である。 (被覆層の形成方法) 薬剤を担持したマトリックスポリマーがステント本体表面にコートされるためには、その薬剤とポリマーとを易揮発性溶剤に溶解した溶液をステント表面に噴霧するか、ステント本体を該溶液に浸漬することにより、ステント本体に該溶液を塗布し、この塗布層を乾燥することにより被覆層は形成される。本発明において、薬剤を含む組成物は、円筒状のステント本体の少なくとも外表面(血管壁と接触する面)にコーティングされる。この場合には、塗布は該組成物を溶剤に溶解した溶液をステント本体の外表面に噴霧することにより行うのが好ましい。また、外表面だけでなく内表面にも行う場合には、内外両表面に噴霧を行うか、溶液中にステント本体を含浸することにより行うのが好ましい。塗布後の溶剤除去は、減圧、送風、加熱などの方法で適宜行われる。 (リムス系薬剤) 本発明において用いられるリムス系薬剤としては、ラパマイシン(シロリムス)、エベロリムス、バイオリムス、ゾダリムス、タクロリムスなどが挙げられるが、これらのなかでもラパマイシンが好ましく用いられる。 (レチノイド) 本発明において用いられるレチノイドとしては、ビタミンAのすべての天然、組換え及び合成誘導体又はミメティクス、例えば、パルミチン酸レチニル、レチノイル−β−グルクロニド(ビタミンA1β−グルクロニド)、レチニルホスフェート(ビタミンA1ホスフェート)、レチニルエステル、4−オキソレチノール、4−オキソレチンアルデヒド、3−デヒドロレチノール(ビタミンA2)、11−シス−レチナール(11−シス−レチンアルデヒド、11−シス又はネオbビタミンA1アルデヒド)、5,6−エポキシレチノール(5,6−エポキシビタミンA1アルコール)、アンヒドロレチノール(アンヒドロビタミンA1)及び4−ケトレチノール(4−ケト−ビタミンA1アルコール)、オールトランスレチノイン酸(ATRA;トレチノイン;ビタミンA酸;3,7−ジメチル−9−(2,6,6,−トリメチル−1−シクロヘネン(cyclohenen)−1−イル)−2,4,6,8−ノナテトラエン酸[CAS番号302−79−4])、オールトランスレチノイン酸の脂質製剤(例えば、ATRA−IV)、(e)−4−[2−(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフタレニル)−1−プロペニル]−安息香酸、3−メチル−(E)−4−[2−(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフタレニル)−1−プロペニル]−安息香酸、フェンレチニド(N−(4−ヒドロキシフェニル)レチナミド;4−HPR)、エトレチナート(2,4,6,8−ノナテトラエン酸)、アシトレチン(Ro10−1670)、タザロテン(エチル6−[2−(4,4−ジメチルチオクロマン−6−イル)−エチニル]ニコチナート)、トコレチナート(9−シス−トレチノイントコフェリル)、アダパレン(6−[3−(1−アダマンチル)−4−メトキシフェニル]−2−ナフトエ酸)、モトレチニド(トリメチルメトキシフェニル−N−エチルレチナミド)及びレチンアルデヒドなどが挙げられる。 また、国際公開WO2011−055843に開示されているレチノイド化合物も本発明において用いられるレチノイド化合物に含まれる。 一方、本発明において、レチノイドX受容体(RXR)と結合をするレキシノイドは、レチノイドに含まれない。 本発明において用いられないレチノイド(レキシノイド)としては、例えば、ドコサヘキサン酸(DHA)、フィタン酸、メトプレン酸、LG100268(LG268)、LG100324、LGD1057、SR11203、SR11217、SR11234、SR11236、SR11246、AGN194204(例えば、シメオネ(Simeone)及びタリ(Tari)、2004、セル・アンド・モレキュラー・ライフ・サイエンス(Cell of Molecular Life Science)61:1475〜1484頁;リガス(Rigas)及びドラグネブ(Dragnev)、2005、ジ・オンコロジスト(The Oncologist)10:22〜33頁;アフヤ(Ahuja)ら、2001、モレキュラー・ファルマコロジー(Molecular Pharmacology)59:765〜773頁;ゴーグン(Gorgun)及びフォス(Foss)、2002、ブラッド(Blood)、100:1399〜1403頁;ビスコフ(Bischoff)ら、1999、ジャーナル・オブ・ザ・ナショナル・キャンサー・インスティチュート(Journal of the National Cancer Institute)91:2118〜2123頁;サン(Sun)ら、1999、クリニカル・キャンサー・リサーチ(Clinical Cancer Research)5:431〜437頁;クロウ(Crow)及びチャンドララトナ(Chandraratna)、2004、ブリースト・キャンサー・リサーチ(ブリースト・キャンサー・リサーチ(Breast Cancer Research )6:R546〜R555頁)も含まれる。3−メチルTTNEB及び関連薬剤、例えば、タルグレチン(Targretin)(登録商標);ベキサロテン;LGD1069;4−[1−(5,6,7,8−テトラヒドロ−3,5,5,8,8−ペンタメチル−2−ナフタレニル)エテニル]安息香酸又はその医薬的に許容される塩若しくは水和物が特に含まれる。 以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例の範囲に限定されることはない。 [参考例1] 血管内皮細胞・血管平滑筋細胞に対する増殖抑制作用の評価 ラパマイシン(Rapamycin)による血管内皮細胞の増殖抑制作用を軽減し、かつ血管平滑筋細胞に対する増殖抑制作用を維持するラパマイシンとの併用薬物を見出すことを目的に実施した。血管内皮細胞としては正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を、血管平滑筋細胞としては正常ヒト大動脈血管平滑筋細胞(HASMC)を用いて、これらに対する評価薬物の細胞増殖抑制作用を調べた。 1)材料 実験に用いた材料は下記の通りである。 ・HUVEC(クラボウ製) ・HuMedia-EG2(HUVEC専用培地、クラボウ製) ・HASMC(クラボウ製) ・HuMedia-SG2(HASMC専用培地,クラボウ製) ・細胞剥離液:TrypLE Express(ライフテクノロジーズ製) ・96穴プレート(ファルコン製) ・生細胞数測定キット:Cell Counting Kit-8(CCK-8)(同仁化学製) ・エタノール(和光純薬工業製) ・評価化合物 (a)ラパマイシン、(b)レチノイド:(b−1)オールトランスレチノイン酸(All-trans retinoic acid;ATRA)、(b−2)FO2-80、(b−3)FO3-58、(c)レキシノイド:4−[1−(3,5,5,8,8−ペンタメチル−5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−2−イル)エテニル]安息香酸(LGD1069) 上記記載の化合物のなかで、FO2−80の化学構造式を下記の式(1)に、FO3−58の化学構造式を下記の式(2)に示す。また、LGD1069の化学構造式を下記の式(3)に示す。 LGD1069は、文献(Cancer Res. 1996, 56, 5566)(文献1)に記載されている、レチノイドX受容体(RXR)活性を主たる特徴とするレキシノイドである。 FO2-80およびFO3-58については、WO2011/055843(文献2)に記載されている、レチノイン酸受容体(RAR)のα、β、γと3種の存在が知られるサブタイプのうち、RARβへの活性化能を主たる機能とする化合物である。 2)方法 (1日目) ・ アッセイには60−80%コンフルエンシーの細胞を使用した。 ・ 細胞のフラスコから培地を吸引除去し、2 mLのPBS(-)で細胞層を洗浄した。 ・ PBS(-)を吸引除去し、2mLのTrypLE Expressを加え、30秒間水平静置した後、TrypLE Expressを1.5 mL吸引除去した。 ・ 顕微鏡で観察しながらフラスコを軽くたたき、細胞をフラスコから剥離させた(TrypLE Express処理時間は計2分30秒)。 ・ フラスコに培地を3 mL加え、ピペッティングして細胞を15 mL遠沈管に回収した。 ・ 600gで5分間遠心、上清を吸引除去し、2 mLの培地に懸濁し、細胞数を数えた。(25cm2フラスコを用いた場合、4−6 x 105個程度の細胞が回収された)。 ・HUVECについては20,000 cells/mLに、HASMCについて10,000 cells/mLになるように、細胞数をそれぞれの培地にて調整し、96穴透明プレートに100 μL/well(HUVEC: 2,000 cells/well、HASMC: 1,000 cells/well)で播種した。これを、37 °C、5% CO2で24時間インキュベートした。 (2日目) ・化合物希釈系列の作成 各化合物について、90 μLの培地に各終濃度の100倍高濃度に相当するEtOH溶液10 μLを加え、終濃度の10倍高濃度の希釈系列を作成した。 ・細胞を播種したwellから培地を吸引除去した後、90 μL/well量の新たな培地を加え培地交換した。 ・上記の化合物希釈系列を用いて、10 μL/wellで化合物添加を行った(EtOHの終濃度は1%)。これを,37c,5% CO2で72時間インキュベートした。 (5日目) ・上記処理を施した細胞に、Cell Counting Kit-8(CCK-8)を10 μL/wellで加え、37°C、5% CO2で3時間インキュベートした後、450 nmの吸光度を測定した。 3)データ解析 ・全wellの吸光度から,培地のみの吸光度の平均値を減じた吸光度差を算出した. ・上記処理後、各化合物、各濃度での吸光度の平均値を算出し、その値から上記処理を施した。細胞非存在下でのCCK-8(10 μL)の吸光度の平均値を減じた吸光度差を算出した。 ・1%エタノール(EtOH)存在下での吸光度の平均値を算出し、その値を本評価系での1(100%)と定義し、各化合物の各濃度での吸光度の比をもって薬効を評価した。 4)評価結果 評価結果を図5〜図11に示した。 図5は、ラパマイシン単独存在下における、血管平滑筋細胞と血管内皮細胞の細胞増殖率を示した図である。縦軸は、薬物未処理時における細胞生存率を1として細胞増殖率を示し、横軸は、ラパマイシン濃度10-13〜10-6Mの対数表示(log[M])である。○は血管内皮細胞(HUVEC)を示し、●は血管平滑筋細胞(HASMC)を示している。 図6は、オールトランスレチノイン酸(ATRA)(濃度10-10〜10-5M)単独存在下での細胞増殖率を示している。○は血管内皮細胞(HUVEC)を示し、●は血管平滑筋細胞(HASMC)を示している。 図7は、ATRA(1×10−5M)共存下における、ラパマイシン濃度に対する細胞増殖率−濃度関係を示すグラフである。 図8は、ラパマイシン(1×10−10 M)共存下における,ATRA濃度に対する細胞増殖率−濃度関係を示すグラフである。ラパマイシン単独の場合、10-10Mでは血管内皮細胞(HUVEC)増殖率が0.4〜0.5まで抑制されているが、ATRA10-5M併用したとき、血管平滑筋細胞の増殖を促進することなく、血管内皮細胞の増殖率が0.8〜1.0へと増加しており、顕著な併用効果が認められる。 図9は、ラパマイシン(濃度10-10M)存在下、FO2−80を併用する系、図10は、ラパマイシン(濃度10-10M)存在下)、FO3−58を併用する系を示した。図9〜図10のいずれの場合も、FO2−80もしくはFO3−58を10 μMで併用することにより血管平滑筋細胞に比べ、血管内皮細胞の増殖率が促進されていることを示している。 図11は、ラパマイシン(濃度10-10M)存在下、LGD1069(レキシノイド)を併用する系についての結果を示している。RXRと選択的に結合するレキシノイドを併用した場合には、上記のような併用効果は認められなかった。 [参考例2] レチノイドX受容体(RXR)に対する活性評価 1)測定原理 核内受容体の多くは転写調節に関わる転写因子であるため、その転写活性を測定する手段としてレポーター遺伝子アッセイ(reporter gene assay)が行われる。COS-1細胞やHeLa細胞などの細胞に、RXR受容体タンパク質発現プラスミド及びレポータープラスミドを導入し、融合タンパク質(fusion protein)を過剰発現させる。そこに、RXR作動性物質(リガンド)が受容体に結合すると、転写がリガンド依存的に起こり、その下流にある融合タンパク質が生成され、下流にあるルシフェラーゼの産生が始まる。このルシフェラーゼ活性を測ることにより、RXR作動活性を測定した。 2)宿主細胞の培養 細胞の増殖培地は、ダルベッコ変法イーグルMEM培地(DMEM)を用いた。まず、500 mLの超純水(Milli-Q(R)にて生成)にDMEM粉末を4.75 g溶解し、高圧加熱滅菌(121℃、20分間)を行った後、室温に戻し、これを非働化したウシ胎児血清(FBS)を10 % (v/v)となるように加え、さらに高圧加熱滅菌した10 % NaHCO3を10 mL添加し、その後L‐グルタミン0.292 gを8 mLの超純水に溶解したものをろ過滅菌後添加して調製した。 各細胞の継代は、100 mm培養シャーレで培養した細胞の培養上清を除き、トリプシン処理により細胞を回収し、4 ℃、1000 rpm、3分間遠心分離後、増殖培地を加えて細胞を分散させ、100 mm培養シャーレに細胞を分散した増殖培地を15 mL加え、37℃、5 % CO2存在下で培養した。 形質転換はEffecteneTM Transection Reagent (QIAGEN社)を用いて行った。RXRの陽性コントロールにはLGD1069、PPARの陽性コントロールにはTIPP-703、LXRの陽性コントロールにはcarba-T0901317を用いた。これらは、DMSO溶解したものをストック溶液とし、アッセイするプレートにおいて計測した。 3)転写活性の測定 (1日目)60 mm培養シャーレに、増殖培地5 mLとともにCOS-1細胞を50×104cells播種し、一晩培養した。 (2日目)EffecteneTM Transection Reagent (QIAGEN社)を用いたリポフェクション法により形質転換を行った。 (3日目)16〜18時間後、培養上清を除き、トリプシン処理により細胞を回収し、4 ℃、1000 rpm、3分間遠心分離後、増殖培地を加えて細胞を分散し、2.0×104 cells/wellとなるように96ウェルのホワイトプレートに播種した。その後、DMSO濃度が1%以下になるように各化合物を加えた。 (4日目)24時間後、上清25 μLをSEAP測定に用い、残りの細胞液はルシフェラーゼ活性測定に用いた。 SEAP測定は、Methods in molecular biology, 63, pp.49-60, 1997/ BD Great EscAPe SEAP User manual (BD bioscience)に記載の方法に従い行った。 具体的には、以下の方法で測定した。上記4日目の上清25μLに対して希釈用緩衝液を25μL加えた後、65 ℃で30分インキュベートした。その後室温に戻し、アッセイ用緩衝液 (7μL)、10×MUP (0.3 μL)、希釈用緩衝液 (2.7 μL)を加え、暗所室温で60分インキュベートした。その後、マイクロプレートリーダー(インフィニットTM (infinite)200、TECAN社製)を用い励起波長360 nm、蛍光波長465 nmにより蛍光強度を測定した。 アッセイ用緩衝液は、以下の方法で調製した。50 mLの超純水(Milli-Q(R)にて生成)にL-ホモアルギニン(0.45 g)と塩化マグネシウム(0.02 g)を溶解させ、ジエタノールアミン(21 mL)を加えた。その後、塩酸を用いてpHを9.8になるように調整後、超純水を用いて全量が100 mLになるようにメスアップし、それを4 ℃で保存した。 希釈用緩衝液は、以下の方法で調製した。90 mLの超純水(Milli-Q(R)にて生成)に塩化ナトリウム(4.38 g)とTris Base(2.42 g)を溶解させた。その後、塩酸を用いてpHが7.2になるように調整し、5倍濃度希釈用緩衝液を作製し、それを4 ℃で保存した。使用直前にそれを5倍希釈することで希釈用緩衝液を作製した。 4-メチルウンベリフェリルホスフェートを25 mMになるように超純水(Milli-Q(R)にて生成)に溶解させ、それを-20 ℃で保存したものを、10×MUPとした。 ルシフェラーゼ活性は、NUNC社製の96穴ホワイトプレートを用い、発光基質(Steady-Glo(R) Luciferase Assay System、Promega社製)との反応産物との発光強度をマイクロプレートリーダー(インフィニットTM (infinite)200、TECAN社製)を用いて測定した。 測定結果は、陽性コントロール(RXRには上記の文献1に記載のLGD1069)を1 μM反応させたときの転写活性を100とし、相対活性を調べた。 4)測定結果 化合物(LGD1069,ATRA、エトレチナート、アシトレチン、FO2−80,FO3−58)について測定した結果を表1に示した。 RXR活性化能を測定した結果では、LGD1069を基準物質として、エトレチナート、アシトレチン、FO2−80,FO3−58はいずれもRXR活性化能が低く、本発明における、RXR活性化能が本明細書で定義する基準値以下のレチノイドに相当する。 両実験の結果(図5〜11および表1)より、ラパマイシンと併用し、血管平滑筋細胞の増殖には影響を及ぼさず、血管内皮細胞の増殖能を増強する薬物の特徴として、RXR活性化能はLGD1069よりも低いことが必須であることがわかる。 (実施例1) ステント1本当たり、ラパマイシン(リムス系薬剤)85μg、レチノイン酸(レチノイド)85μgおよびポリ(乳酸-グリコール酸)共重合体(PLGA)170μgとからなる被覆層(単層)が形成されるように、コーティング溶液(溶媒:2,2,2−トリフルオロエタノール)を調製した。図1に示すデザインを有する、コバルトクロム合金製ステント本体(全リンク型)(加工時の内径=φ1.55mm、拡張後内径=φ3mm、長さ18mm、全面積=0.80cm2)をスプレイ式コーティング装置のマンドレルに装着した。前記コーティング液を0.02mL/分の速度でノズルより噴射し、ノズル下9mmの位置でステント本体を毎分120回転の速度で回転させつつ往復運動させて約70秒間にわたってステント本体の端から中央までの表面にコーティングを行った。コーティング終了後3分間ステントを減圧乾燥し、ついで残りの半分をコーティングした。全面コーティングが終了したステントは減圧乾燥してから、60℃で24時間乾燥して溶剤を完全に除去して、ラパマイシンとレチノイン酸を含有するポリ(乳酸―グリコール酸)共重合体の被覆層を有するステント(RA)を得た。 (実施例2) 実施例1と同じステント本体を使用し、ステント1本当たり、レチノイン酸85μgおよびPLGA85μgとからなる第1被覆層と、ラパマイシン85μgおよびPLGA85μgとからなる第2被覆層が形成されるように、第1被覆層形成用および第2被覆層形成用コーティング溶液(溶媒:2,2,2−トリフルオロエタノール)をそれぞれ調製した。図1に示すデザインを有するステント本体(全リンク型)をスプレイ式コーティング装置のマンドレルに装着した。前記コーティング液を0.02mL/分の速度でノズルより噴射し、ノズル下9mmの位置でステント本体を毎分120回転の速度で回転させつつ往復運動させて約70秒間にわたってステント本体の端から中央までの表面にコーティングを行った。コーティング終了後3分間ステントを減圧乾燥し、ついで残りの半分をコーティングした。全面コーティングが終了したステントは減圧乾燥してから、60℃で24時間乾燥して溶剤を完全に除去した。 このようにして、第1被覆層を形成し、ついで同様にして、第1被覆層の上に第2被覆層を形成し、ラパマイシンとレチノイン酸を含有するポリ(乳酸―グリコール酸)共重合体の被覆層を有するステント(A/R)を得た。 (実施例3) 実施例1と同じステント本体を使用し、ステント1本当たり、ラパマイシン85μgとPLGA85μgとからなる第1被覆層と、レチノイン酸85μgとPLGA85μgとからなる第2被覆層が形成されるように、第1被覆層形成用および第2被覆層形成用のコーティング溶液(溶媒:2,2,2−トリフルオロエタノール)をそれぞれ調製した。図1に示すデザインを有するステント本体をスプレイ式コーティング装置のマンドレルに装着した。前記コーティング液を0.02mL/分の速度でノズルより噴射し、ノズル下9mmの位置でステント本体を毎分120回転の速度で回転させつつ往復運動させて約70秒間にわたってステント本体の端から中央までの表面にコーティングを行った。コーティング終了後3分間ステントを減圧乾燥し、ついで残りの半分をコーティングした。全面コーティングが終了したステントは減圧乾燥してから、60℃で24時間乾燥して溶剤を完全に除去した。このように第1被覆層を形成し、ついで、同様にして第1被覆層の上に第2被覆層を形成して、ラパマイシンとレチノイン酸を含有するポリ(乳酸―グリコール酸)共重合体の被覆層を有するステント(R/A)を得た。 (実施例1〜3ステントの薬剤溶出試験) 実施例1から実施例3に示した3種類のステントからの薬剤溶出試験を行った。各ステントは減圧滅菌後、エチレンオキサイドガス(EOG)滅菌を行った。各ステントを拡張し、拡張したステントをDMEM(ダルベック修飾型イーグル培養液)(Gibco製)10mLの入った遠心チューブ(エル・エム・エス製)に入れ、37℃、5%CO2インキュベーター(ヤマト科学株式会社製)内でインキュベートした。インキュベート1,3,7日後に薬剤の溶出されているDMEM(Gibco製)を100μLずつマイクロチューブ(AXYGEN製)に取り分け、−30℃にて保存した。 (溶出薬剤の高速液体クロマトグラフィHPLCによる濃度決定法) 各化合物の濃度は、基準化合物の検量線の結果をもとにして、試料のピーク面積から算出した。 (溶出薬剤のHPLCサンプル作成方法) ステントからの溶出液100 μLに、氷冷5 mM酢酸アンモニウム100 μLと、氷冷した酢酸エチル1 mLを添加した。30秒間ボルテックスした後、得られた混合物を 10分間室温で静置した。その後、混合物を1890×gにて30秒間室温で遠心分離を行った後、酢酸エチル相800 μLをエッペンチューブにとり、室温にて遠心エバポレーターにて乾固した。得られた残渣に下記のHPLC移動相を100 μL添加し混和した溶液を使用した。 (HPLC測定条件) HPLCシステムはSCL-10A system controller、LC-10AD pump、SPD-10AV UV-Vis spectrophotometric detector、SIL-10AD autoinjector、CTO-6A column oven、DGU-14A degasserおよびC-R7A Chromatopacを装備した島津液体クロマトグラフィシステムもしくは、CBM-20A system controller、LC-20AD pump、SPD-20A UV-Vis spectrophotometric detector 、SIL-10AF autoinjector、CTO-20A column ovenを装備した島津液体クロマトグラフィシステムを用いた。クロマトグラフ解析のカラムは、Inertsil ODS-3(4.6 i.d.× 250 mm、5 μm、GL Sciences社)、ガードカラムInertsil ODS-3(4.0 i.d. × 10 mm、5 μm、GL Sciences社)を使用した。流量は0.7 mL/minであり、カラムオーブンにて40°Cに保って、試料(各20 μL)をオートサンプラーにて注入した。移動相としてメタノール:33 mM、酢酸アンモニウム(酢酸によりpH 5に調整)(85:15 v/v)を用いた。ATRAはAbs: 330 nm、ラパマイシンはAbs: 260 nmで吸光度をモニタリングした。 (溶出試験結果) 実施例1〜3の各ステントについて、溶出試験結果を図13(縦軸:溶出量、横軸:インキュベート後の日数)に示した。図13Aは、実施例1のステント、図13Bは、実施例2のステント、図13Cは、実施例3のステントからの溶出試験結果である。 図13Aにおいて、RA−1−Rは、実施例1のステント(ラパマイシン・レチノイン酸混合単層)におけるラパマイシンの溶出量を示し、RA−1−Aは、同ステントにおけるレチノイン酸の溶出量を示している。 RA−1−R、RA−2−R、RA−3−Rは、同一条件で作製された3つのサンプルの測定値を示し、RA−R-aveはその平均値を示す。 図13Bにおいて、A/R1−Rは、実施例2のステント[レチノイン酸(下層)・ラパマイシン(上層)・2層]におけるラパマイシンの溶出量を示し、A/R1−Aは、同ステントにおけるレチノイン酸の溶出量を示している。 図13Cにおいて、R/A1−Rは、実施例3のステント[レチノイン酸(上層)・ラパマイシン(下層)]におけるラパマイシンの溶出量を示し、R/A1−Aは、同ステントにおけるレチノイン酸の溶出量を示す。 図13に示すように、各ステントからの薬剤溶出試験の結果、実施例2のステントではレチノイン酸(ATRA)の溶出が認められず、実施例1、実施例3のステントではラパマイシンのみならず、レチノイン酸(ATRA)の溶出が認められ、なかでも実施例1がレチノイン酸(ATRA)の溶出には適していることが示唆された。 (被覆層における薬物濃度比の検討) 実施例1のステント(ラパマイシン・レチノイン酸混合・単層)について、薬物濃度比(ラパマイシンとレチノイン酸との比率)の検討を行った。 (ステント作製・条件1) [R1,R2] ステント1本当たり、ラパマイシン(リムス系薬剤)85μgおよびポリ(乳酸-グリコール酸)共重合体(PLGA)170μgとからなる被覆層(単層)が形成されるように、コーティング溶液(溶媒:2,2,2−トリフルオロエタノール)を調製した。図1に示すデザインを有するステント本体(全リンク型)(加工時の内径=φ1.55mm、拡張後内径=φ3mm、長さ18mm、全面積=0.80cm2)をスプレイ式コーティング装置のマンドレルに装着した。前記コーティング液を0.02mL/分の速度でノズルより噴射し、ノズル下9mmの位置でステント本体を毎分120回転の速度で回転させつつ往復運動させて約70秒間にわたってステント本体の端から中央までの表面にコーティングを行った。コーティング終了後3分間ステントを減圧乾燥し、ついで残りの半分をコーティングした。全面コーティングが終了したステントは減圧乾燥してから、60℃で24時間乾燥して溶剤を完全に除去して、ラパマイシンを含有するポリ(乳酸―グリコール酸)共重合体の被覆層を有するステントを得た。同一条件で二つのステントを作製し、R1、R2とした。 [RA1,RA2] ステント1本当たり、ラパマイシン(リムス系薬剤)85μg、レチノイン酸(レチノイド)85μgおよびポリ(乳酸-グリコール酸)共重合体(PLGA)170μgとからなる被覆層(単層)が形成されるように、コーティング溶液(溶媒:2,2,2−トリフルオロエタノール)を調製した。図1に示すデザインを有するステント本体(全リンク型)(加工時の内径=φ1.55mm、拡張後内径=φ3mm、長さ18mm、全面積=0.80cm2)をスプレイ式コーティング装置のマンドレルに装着した。前記コーティング液を0.02mL/分の速度でノズルより噴射し、ノズル下9mmの位置でステント本体を毎分120回転の速度で回転させつつ往復運動させて約70秒間にわたってステント本体の端から中央までの表面にコーティングを行った。コーティング終了後3分間ステントを減圧乾燥し、ついで残りの半分をコーティングした。全面コーティングが終了したステントは減圧乾燥してから、60℃で24時間乾燥して溶剤を完全に除去して、ラパマイシンとレチノイン酸を含有するポリ(乳酸―グリコール酸)共重合体の被覆層を有するステントを得た。同一条件で2つのステントを作製し、RA1、RA2とした。 (ステント作製・条件2) [R1、R2、R3] ステント1本当たり、ラパマイシン(リムス系薬剤)42.5μgおよびポリ(乳酸-グリコール酸)共重合体(PLGA)170μgとからなる被覆層(単層)が形成されるように、コーティング溶液(溶媒:2,2,2−トリフルオロエタノール)を調製した。図1に示すデザインを有するステント本体(全リンク型)(加工時の内径=φ1.55mm、拡張後内径=φ3mm、長さ18mm、全面積=0.80cm2)をスプレイ式コーティング装置のマンドレルに装着した。前記コーティング液を0.02mL/分の速度でノズルより噴射し、ノズル下9mmの位置でステント本体を毎分120回転の速度で回転させつつ往復運動させて約70秒間にわたってステント本体の端から中央までの表面にコーティングを行った。コーティング終了後3分間ステントを減圧乾燥し、ついで残りの半分をコーティングした。全面コーティングが終了したステントは減圧乾燥してから、60℃で24時間乾燥して溶剤を完全に除去して、ラパマイシンを含有するポリ(乳酸―グリコール酸)共重合体の被覆層を有するステントを得た。同一条件で3つのステントを作製し、R1、R2、R3とした。 [RA1,RA2,RA3] ステント1本当たり、ラパマイシン(リムス系薬剤)42.5μg、レチノイン酸(レチノイド)85μgおよびポリ(乳酸-グリコール酸)共重合体(PLGA)170μgとからなる被覆層(単層)が形成されるように、コーティング溶液(溶媒:2,2,2−トリフルオロエタノール)を調製した。図1に示すデザインを有するステント本体(全リンク型)(加工時の内径=φ1.55mm、拡張後内径=φ3mm、長さ18mm、全面積=0.80cm2)をスプレイ式コーティング装置のマンドレルに装着した。前記コーティング液を0.02mL/分の速度でノズルより噴射し、ノズル下9mmの位置でステント本体を毎分120回転の速度で回転させつつ往復運動させて約70秒間にわたってステント本体の端から中央までの表面にコーティングを行った。コーティング終了後3分間ステントを減圧乾燥し、ついで残りの半分をコーティングした。全面コーティングが終了したステントは減圧乾燥してから、60℃で24時間乾燥して溶剤を完全に除去して、ラパマイシンとレチノイン酸を含有するポリ(乳酸―グリコール酸)共重合体の被覆層を有するステントを得た。同一条件で3つのステントを作製し、RA1、RA2、RA3とした。 上記の条件1および条件2で作製したステントの仕様を、下記の表2に示した。 (溶出試験) 上記の条件1および条件2で作製したステントからの薬剤溶出試験を行った。ステントは減圧滅菌後、エチレンオキサイドガス(EOG)滅菌を行った。ステントを拡張し、拡張したステントをDMEM(Gibco製)10mLの入った遠心チューブ(エル・エム・エス製)に入れ、37℃、5%CO2インキュベーター(ヤマト科学株式会社製)内でインキュベートした。インキュベート1,3,7日後に薬剤の溶出されているDMEM(Gibco製)を100μLずつマイクロチューブ(AXYGEN製)に取り分け、−30℃にて保存した。 溶出試験によって抽出された液を、上記に記載された溶出薬剤のHPLCによる濃度決定法、溶出薬剤のHPLCサンプル作成方法、HPLC測定条件と同様の方法、条件で行なった。 上記の条件1および条件2で作製したステントの溶出試験の結果を図14(縦軸:溶出量、横軸:インキュベート後の日数)に示した。 図14Aは、条件1で作製されたステントの溶出試験結果を示し、図14Bは、条件2で作製されたステントの溶出試験結果を示す。 図14Aおよび図14Bにおいて、RA1−Rは、ステントRA1(ラパマイシン・レチノイン酸混合・単層)におけるラパマイシンの溶出量を示し、RA1−Aは、同ステントのレチノイン酸の溶出量を示す。 R1は、ステントR1(ラパマイシン・単層)におけるラパマイシンの溶出量を示す。 RA−R−aveは、ステントRA1とステントRA2(図14A)、ステントRA1、RA2およびRA3(図14B)におけるラパマイシンの溶出量を平均した値を示し、R-aveは、ステントR1とステントR2(図14A)におけるラパマイシンの溶出量を平均した値を示す。 図14に示すように、実施例1の単層構造によるコーティングについて、ラパマイシンとATRAとの混合比を1対1(条件1)もしくは0.5対1(条件2)で比較したところ、条件1に比べ条件2の方(ラパマイシンに対してATRAの比率が2倍もしくはそれ以上の方)がラパマイシン、ATRAの溶出に適していることが示唆された。 本発明に係るインプラントは、インプラント本体にポリマー層を設けて、一つのポリマー層にリムス系薬剤および/またはRXR活性化能が本明細書で定義する基準値以下のレチノイドと、を含有させるか、複数のポリマー層にリムス系薬剤とRXR活性化能が本明細書で定義する基準値以下のレチノイドをそれぞれ含有させることにより、血管平滑筋細胞の過増殖抑制は維持しつつ、血管内内皮細胞の増殖を促進する効果を有するので、心臓疾患等の治療に有効に用いることのできるものであるから、医薬品、医療用材料、医療用器具とその製造の分野において、種々の産業上の利用性を有するものである。 本発明の特定の実施形態について説明を行ったが、この技術分野における当業者は本明細書において記述された上記の実施形態を容易に修正することができることは明らかである。したがって、本発明は、この明細書で示された特定の実施形態に限定されることなく、他のいかなる修正、変更、実施の形態への利用に適用されるものであり、それゆえに、他の全ての修正、変更、実施形態は、本発明の精神および範囲内に入るものと見なされるべきである。1 全リンク型ステント2,6,12 ラパマイシン3,7,11 レチノイド 4 単一被覆層 9,14 第1被覆層 8,13 第2被覆層 5,10,15 ステント本体 インプラント本体と、前記インプラント本体の表面の少なくとも一部を被覆する単一又は複数の被覆層と、を具備したインプラントであって、 前記被覆層の一つは、(a)リムス系薬剤および/または(b)RXR活性化能が本明細書で定義する基準値以下のレチノイドを含有するポリマー層を具備することによって、 (a)リムス系薬剤と(b)レチノイドとが放出されるように構成されたインプラント。 前記インプラントは、単一層である、請求項1に記載のインプラント。 前記インプラントは、第1被覆層と第2被覆層の二層からなり、いずれか一方の層は (a)前記リムス系薬剤を、他方の層は(b)前記レチノイドを含有する、請求項1に記載のインプラント。 前記インプラントがステントである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のインプラント。 前記インプラント本体は管状体である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のインプラント。 前記管状体は、金属材料、セラミック材料、またはポリマー材料から形成されている、請求項5に記載のインプラント。 前記金属材料、セラミック材料またはポリマー材料は、生分解性である、請求項6に記載のインプラント。 前記ポリマー材料が生分解性ポリマーである、請求項1〜7のいずれか一項に記載のインプラント。 前記生分解性ポリマーが、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリεカプロラクトン、ポリ(乳酸−グリコール酸)、ポリ(乳酸−ε−カプロラクトン)、ポリ(グリコール酸−ε−カプロラクトン)、ポリヒドロキシ酪酸、ポリリンゴ酸、ポリα−アミノ酸、コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸、フィブロネクチン、コンドロイチン硫酸、およびヒアルロン酸からなるグループから選ばれる1種又は2種以上である請求項8に記載のインプラント。 前記リムス系薬剤は、ラパマイシンである請求項1〜9のいずれか一項に記載のインプラント。 前記レチノイドは、レキシノイドを含まない請求項1〜10のいずれか一項に記載のインプラント。 前記レチノイドは、所定の量により前記リムス系薬剤による血管内皮細胞の増殖抑制作用を低下させる、請求項1〜11のいずれか一項に記載のインプラント。 前記リムス系薬剤に対する前記レチノイドの比率(重量)が2倍もしくはそれ以上である、請求項12に記載のインプラント。 (a)リムス系薬剤および(b)RXR活性化能が本明細書で定義する基準値以下のレチノイドとからなり、前記リムス系薬剤に対する前記レチノイドの重量比率が2倍またはそれ以上である血管平滑筋細胞増殖抑制剤。 【課題】遅発性血栓症の発生率が低下する、インプラント(ステントなど)を提供する。【解決手段】インプラント本体と、前記インプラント本体の表面の少なくとも一部を被覆する単一又は複数の被覆層と、を具備したインプラントであって、前記被覆層の一つは、(a)リムス系薬剤および/または(b)RXR活性化能が本明細書で定義する基準値以下のレチノイドを含有するポリマー層を具備することによって、リムス系薬剤とレチノイドとが放出されるように構成されたインプラント。【選択図】図2


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