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タイトル:特許公報(B2)_ムチン及びコラーゲンの分別抽出方法
出願番号:2014531493
年次:2015
IPC分類:C07K 1/14


特許情報キャッシュ

馬場 崇行 JP 5775221 特許公報(B2) 20150710 2014531493 20130815 ムチン及びコラーゲンの分別抽出方法 株式会社海月研究所 511028135 丸和油脂株式会社 398010601 福村 直樹 100087594 馬場 崇行 JP 2012184241 20120823 20150909 C07K 1/14 20060101AFI20150820BHJP JPC07K1/14 C07K 1/14 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) CAplus/BIOSIS(STN) 国際公開第2007/020889(WO,A1) 特表2011−520927(JP,A) 特開2005−330257(JP,A) 特開2004−99513(JP,A) 特開2008−31106(JP,A) 特開2007−51191(JP,A) 3 JP2013004866 20130815 WO2014030323 20140227 15 20150127 田中 晴絵 この発明はムチン及びコラーゲンの分別抽出方法に関し、更に詳しくは一つの原料としてのクラゲからムチンとコラーゲンとをそれぞれ効率的に分別抽出することのできるムチン及びコラーゲンの分別抽出方法に関する。 従来、特許文献1には「水生物を破砕・細断して断片にし前記水生物から酵素を遊離する第1の工程と、この断片中のたんぱく質に前記酵素を作用させ前記断片を分解して液状物質にする第2の工程と、前記液状物質から有用物質を抽出する第3の工程とを具備することを特徴とする水生物の有用物質の抽出方法。」が開示されている。この特許文献1に記載された水生物はクラゲを含む(特許文献1の段落番号0027〜0038参照)。また、この特許文献1では抽出される有用物質は「アルカリプロテアーゼやコラーゲン等」であると例示されている(特許文献1の段落番号0020参照)が、有用物質として「ムチン」が例示されていない。 特許文献2には、特定の8個のアミノ酸配列からなる繰り返し単位を3〜2000回含む繰り返し構造を有し、該構造における1以上のアミノ酸残基に1以上の単糖からなる糖鎖が結合していることを特徴とするムチン型糖タンパク質が開示される(特許文献2の請求項1参照)。この特許文献2によると、このムチン型糖タンパク質は、クラゲの固形部分を切断する工程、切断したクラゲを塩溶液を用いて抽出する工程、抽出物から遠心分離及び透析により粗ムチンを分離する工程、並びにムチン型糖タンパク質を精製する工程を含む方法によって製造されることができる。ムチン型糖タンパク質の具体的な製造方法は、クラゲを切断して得られる断片を水で膨潤させ、膨潤した断片を濃度の薄い食塩水溶液で振盪抽出し、得られた抽出液に3倍量のエタノールを投入してゲル状の沈殿物を得、沈殿物含有物を遠心分離することにより沈殿物を分離し、沈殿物を水に溶解することにより生成する上澄み液を分離し、その上澄み液を透析処理にて精製し、凍結乾燥することにより、得ることができる(特許文献2の段落番号0088参照)。この特許文献2には、ムチン型糖タンパク質を得る方法が開示されているが、コラーゲン及びその製造法についての開示が全く見当たらない。 特許文献3には、「クラゲ類を凍結する凍結工程と、クラゲ類自身が有する内因性酵素を活性化してクラゲ類の分解反応を開始するために、前記凍結したクラゲ類を解凍する解凍工程と、クラゲ類が有するコラーゲンを未変性の状態で可溶化して前記未変性のコラーゲンを含む中性塩溶液を生成するために、前記解凍したクラゲ類を撹拌する撹拌工程と、前記中性塩溶液から前記未変性のコラーゲンを回収する回収工程と、を有することを特徴とするクラゲ類からのコラーゲン回収方法。」が開示されている(特許文献3の請求項参照)。特許文献3にはムチンの分離回収についての記載がない。 特許文献4には、「クラゲ類自身が有する内因性酵素を活性化してクラゲ類の分解反応を開始させ、クラゲ類が有するコラーゲンを未変性の状態で可溶化して前記未変性のコラーゲンを含む中性塩溶液を生成するために、クラゲ類を所定の低温で貯蔵する低温貯蔵工程と、前記中性塩溶液から前記未変性のコラーゲンを回収する回収工程と、を有することを特徴とするクラゲ類からのコラーゲン回収方法」が開示されている(特許文献4の請求項1参照)。特許文献4に開示されたコラーゲン回収方法は、「クラゲの低温貯蔵時にコラーゲンを可溶化する酵素が働く」という発見に基づく(特許文献4の段落番号0019参照)。低温貯蔵時における低温は、「-2℃から25℃までの温度範囲とすることが好ましい」とされている(特許文献4の段落番号0021参照)。特開2001−178492号公報国際公開公報WO2007/020889号公報特開2007−051191号公報特開2008−31106号公報 この発明が解決しようとする課題は、一つの原料であるクラゲからムチンとコラーゲンとのそれぞれに分別抽出する分別抽出方法を提供することにある。 前記課題を解決するための手段は、(1) クラゲを破砕してなる含水破砕物を固液分離して得られる液成分と炭素数1〜4の水溶性アルコールとを、炭素数1〜4の水溶性アルコールの濃度が全体に対して少なくとも50容量%になるように、混合して得られる混合物を固液分離することにより固形分を得る蛋白質分離工程(A)と、 前記蛋白質分離工程(A)で得られる固形分と10〜40質量%のアルコール濃度である炭素数1〜4の水溶性アルコール水溶液とを混合し、次いで固液分離することによりムチン含有液成分とコラーゲン含有固形成分とに固液分画する分画工程(B)とを有することを特徴とするムチン及びコラーゲンの分別抽出方法であり、(2) 前記蛋白質分離工程(A)における固液分離により得られる固形分を炭素数1〜4の水溶性アルコール及び/又は水で洗浄してなる洗浄固形分を、前記蛋白質分離工程(A)で得られる固形分として、前記分画工程(B)に供することを特徴とする前記(1)に記載のムチン及びコラーゲンの分別抽出方法であり、(3) 前記炭素数1〜4の水溶性アルコール及び/又は水が、前記蛋白質分離工程(A)における固液分離により得られる固形分の質量に対して1〜4倍質量の割合で、前記固形分と混合される前記(2)に記載のムチン及びコラーゲンの分別抽出方法である。 この発明によると、クラゲからムチンとコラーゲンとのそれぞれに分別抽出することのできる方法を提供することができる。この発明によると、クラゲからムチンを、従来よりも向上したムチン抽出量をもって、分離することのできるムチンとコラーゲンとの分別抽出方法を提供することができる。図1はこの発明に係る分別抽出方法の一例を示す工程流れ図である。 この発明における「クラゲ」は、刺胞動物門に属するクラゲである。このようなクラゲとして、ミズクラゲ、アカクラゲ、オワンクラゲ、エチゼンクラゲ、アンドンクラゲ、ビゼンクラゲ、ハブクラゲ等を挙げることができる。好適なクラゲは、ヒトに対する安全性が確認されているクラゲであり、既に食用に供されているミズクラゲ、ビゼンクラゲ、エチゼンクラゲ等である。 この発明の方法に提供されるクラゲの形態については特に制限がなく、例えば生のクラゲ、冷凍クラゲ、乾燥クラゲ、塩蔵クラゲ等を使用することができる。 この発明の方法で分離されるムチンは、下記式(I)(配列番号1)で示すアミノ酸配列からなる繰り返し単位を3回以上含む繰り返し単位構造を有する。 Val−Xaa−Glu−Thr−Thr−Ala−Pro (I)(式(I)中、XaaはVal又はIleである。) ムチンは、不定分子量である高分子化合物である。上記単位の繰り返し回数は、たとえ同じ種に属するクラゲを原料にするこの発明の方法によって得られたムチンであっても、個々の分子によって異なる。ゲル濾過分析の結果、この発明の方法の一例である具体的方法により得られるムチンの分子量は、アミノ酸配列解析で得られた数平均を用いてゲル濾過の解析を補正すると10〜1400kDaであったことから、後述する糖鎖の構造とあわせて検討すると、この発明の方法により得られる分子量(繰り返し回数が3〜700回程度)の3倍程度の大きさの高分子も自然界に存在すると予測され、そのムチンでも大きく物性や機能が変化するとは考えられないので、この発明におけるムチンの繰り返し回数は、約3〜2000回程度、好ましくは3〜700回である。ここで、トレオニン(Thr)残基の全てに糖鎖が結合し、かつ糖鎖部分が最も典型的な−GalNac−Galであると仮定すると、例えば分子量約4.5kDaの場合には、上記単位の繰り返し回数が約3回、分子量約750kDaの場合には、上記単位の繰り返し回数が約40回である。なお、本明細書では分子量から繰り返し回数を算出する場合、特に断らない限り同様の仮定を用いるものとする。 前記繰り返し単位は、直接に結合していてもよいし、また、リンカーを介して結合していても良い。前記リンカーは特に制限されるものではないが、前記リンカーの具体例としてシステインを用いたS−S結合を挙げることができる。 この発明の方法により得られるムチンは、上記繰り返し構造のほか、そのムチンとしての機能(例えば、粘性、抗菌性、保湿性など)に影響を及ぼさない程度の他のアミノ酸を含んでいることもある。さらに、繰り返し構造における繰り返し単位がシフトしていることもある。すなわち、アカクラゲ由来のムチンは、その繰り返し単位がVEXXAAPVであり、これは式(I)で示される繰り返し単位が1アミノ酸だけシフトしたものである。したがって、この発明の方法により分離されるムチンは、繰り返し構造のN末端に存在する1又は数個のアミノ酸を欠損し、その結果、繰り返し単位がシフトしているムチンをも包含し、このように繰り返し単位がシフトするムチンの中でも好ましいムチンは、繰り返し構造のN末端に存在するValを欠損するムチンである。 また、この発明におけるムチンは、上述した繰り返し構造の1以上の、特に1以上5以下のアミノ酸残基に1以上、特に1以上5以下の単糖からなる糖鎖が結合していることがある。糖鎖が結合するアミノ酸残基の種類は特に限定されるものではないが、トレオニン残基(Thr)に糖鎖が結合していることが好ましい。例えば、この発明の方法により分離されるムチンは、糖鎖の結合するアミノ酸残基の全体の98%〜100%がトレオニン(Thr)であることもある。また、上述したように、ムチン型糖タンパク質はその性質として不定分子量の高分子化合物であるので、糖鎖が結合するアミノ酸残基の数は、個々の分子によって異なる。しかしながら、上述した繰り返し構造における2つのトレオニン残基のほぼ全てに糖鎖が結合していると予測される。したがって、この発明の方法により分離されるムチンにおける結合糖鎖の数は、上記単位の繰り返し回数に応じて異なる。 糖鎖を構成する単糖は、一般的なムチンにおいて見出されている単糖であり、例えば、N−アセチルガラクトサミン、ガラクトース、N−アセチルグルコサミン、シアル酸、アラビノース、フコースなどを例示することができ、多くの場合、N−アセチルガラクトサミン及び/又はガラクトースから構成される糖鎖であり、具体的には、上述した繰り返し単位におけるトレオニン残基(Thr)に、N−アセチルガラクトサミン及びガラクトースが結合して、Thr−GalNAc−Galの構造をとり、あるいは、N−アセチルガラクトサミンのみが結合してThr−GalNAcの構造をとる。例えば、そのようなムチンは、下記式(II)により表すことができる。 (式(II)中、□はGalNAcであり、○はGalである。○で示すGalは欠損していても良い。 また糖鎖は、通常1〜10個、特に1〜8個、さらには1〜5個の単糖が直鎖状又は分枝状に連結している。ムチンが不定分子量を有するという特質の故に、ムチンに含まれる糖鎖の数、種類、構造、大きさ等は、個々のムチンによって異なり、また、一つのムチンに含まれる糖鎖も個々に異なることがある。例えば、あるミズクラゲから分離されたムチンと他のミズクラゲから分離されたムチンとを比較すると、ペプチド鎖の繰り返し部分は全く同一であるが、糖鎖を構成する糖の種類とその成分比とだけが互いに相違する。なお、このように糖鎖が相違するけれどもペプチド鎖の繰り返し部分が同一であるムチンは、ミズクラゲ又はアカクラゲを含む自然界において同じ機能を果たすものとして存在していると考えられる。この2種のクラゲにおけるムチンの働きには大きな差異がないと考えられることから、糖鎖構造はムチンの主たる性質を変えず、むしろ特異性を微調節する役目を果たしていると推測される。したがって、糖鎖部分が異なっていてもペプチド鎖の繰り返し構造を有するムチンは、この発明の方法により分離されるムチンの範囲内に含まれる。 この発明の方法により分離されるコラーゲンは、グリシンが総アミノ酸量の約1/3を占めるアミノ酸組成を有する。したがって、この発明の方法により分離した物質中に含まれるグリシンの量を定量することにより、その物質をコラーゲンであるとして同定することができる。この発明の方法により分離されるコラーゲンは、従来から公知のコラーゲンと同様に、ヒドロキシプロリン及びヒドロキシリジンを特有のアミノ酸として含有する。クラゲから抽出されるコラーゲンは、α1α2α3のヘテロ3量体で形成されている哺乳動物のV型様コラーゲンと類似構造を有し、他種のコラーゲンと比較して、糖含量が多く、ヒドロキシプロリンに比較してヒドロキシリジン量が多いことが一つの特長である。 この発明に係る分別抽出方法では、 クラゲを破砕してなる含水破砕物を固液分離して得られる液成分と炭素数1〜4の水溶性アルコールとを、炭素数1〜4の水溶性アルコールの濃度が全体に対して少なくとも50容量%になるように、混合して得られる混合物を固液分離することにより固形分を得る蛋白質分離工程(A)(以下において、この蛋白質分離工程(A)を単に工程(A)と称することがある。)と、 前記蛋白質分離工程(A)で得られる固形分と10〜40質量%のアルコール濃度である炭素数1〜4の水溶性アルコール水溶液とを混合し、次いで固液分離することによりムチン含有液成分とコラーゲン含有固形成分とに固液分離する分離工程(B)(以下において、この蛋白質分離工程(B)を単に工程(B)と称することがある。)とを有する。 この発明における工程(A)では、先ずクラゲを破砕することにより含水破砕物を得る。破砕されるクラゲは、海洋で採取したクラゲであってもよく、また海洋で採取後に凍結保存されていた凍結クラゲであっても良い。凍結クラゲは解凍してからこの発明の方法に供するのが好ましい。 どのようであれ原料としてのクラゲは水洗し、固形物と液体とに分離するのが好ましい。固形物と液体とに分離する手段としては、例えば遠心分離機、ストレーナー、水切り器、脱水機を好適例として挙げることができる。 クラゲである固形物は、破砕手段例えばハサミ、ホモジナイザー、ブレンダー、破砕機により破砕されて含水破砕物とされる。含水破砕物は、破砕されて形成された粒子の集合体、破砕されて形成された糸状又は短冊状の断片の集合体、破砕されて形成された5mm〜1cm四方程度であって、形状不特定の断片の集合体等の何れであっても良い。 工程(A)では、前記含水破砕物を撹拌し、次いで固液分離して得られる液成分を得る。含水破砕物は静置しておいても良いが、撹拌するのが好ましい。静置するときには静置時間を通常、1〜24時間とする。この混合物を静置し、又は撹拌するときの混合物の温度を0〜25℃に維持しておくのが好ましい。この混合物を静置し、好ましくは撹拌することにより液中にクラゲ中の水溶性成分が溶解する。この混合物を固液分離する手段としては、遠心分離装置、濾過装置、圧搾装置等を挙げることができる。 工程(A)では、固液分離されて得た液成分と炭素数1〜4の水溶性アルコールとを、炭素数1〜4の水溶性アルコールの濃度が全体に対して少なくとも50容量%になるように、好ましくは60容量%〜80容量%となるように、混合する。 炭素数1〜4の水溶性アルコールとしては、炭素数1〜4の一価アルキルアルコールを挙げることができ、具体的にはメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルキルアルコールを挙げることができる。これらの中でも、エチルアルコール及びプロピルアルコールが好ましい。人体への毒性という観点からメタノールよりもエタノールやプロピルアルコールが好ましい。 前記液成分と水溶性アルコールとの混合割合が、液成分と水溶性アルコールとの混合液中の水溶性アルコールの濃度が50容量%未満であると、ムチンが固形分に移行せずに液成分にとどまってしまって、この発明の課題を達成することができない。 更に詳述すると、以下のような実験事実を提示することができる。 前記液成分と水溶性アルコールとの混合液中の水溶性アルコールの濃度が20容量%となるように前記液成分と水溶性アルコールとを混合することにより生成する沈殿物はコラーゲンが主成分であり、しかしながらその沈殿物は元の液成分中のコラーゲンの全てではなく、固液分離後の液成分(第1液成分と称することがある。)には残余のコラーゲンとムチンとが含有されている。したがって、例えば水溶性アルコールの濃度が20容量%になるように液成分と水溶性アルコールとを混合してから固液分離するだけでは、コラーゲンとムチンとを効率良く分離することができない。 水溶性アルコールの濃度が30容量%となるように前記第1液成分と水溶性アルコールとを混合することにより生成する沈殿物は前記液成分におけるのと同様にコラーゲンが主成分であり、しかしながらその沈殿物は第1液成分中に含まれるコラーゲンの全てではなく、固液分離後の液成分(第2液成分と称することがある。)には残余のコラーゲンとムチンとが含有されている。したがって、例えば水溶性アルコールの濃度が30容量%になるように第1液成分と水溶性アルコールとを混合してから固液分離するだけでは、コラーゲンとムチンとを効率良く分離することができない。 水溶性アルコールの濃度が40容量%となるように前記第2液成分と水溶性アルコールとを混合することにより生成する沈殿物には数種類のペプチドが含有されており、したがって、この第2液成分にはコラーゲンがほとんど含まれていないことが分かる。固液分離後の液成分(第3液成分と称することがある。)にはムチンが含有されている。したがって、例えば水溶性アルコールの濃度が40容量%になるように第2液成分と水溶性アルコールとを混合してから固液分離するだけでは、コラーゲンとムチンとを沈殿物として得ることができず、これらを効率良く分離することができない。 水溶性アルコールの濃度が50容量%となるように前記第3液成分と水溶性アルコールとを混合することにより生成する沈殿物にはムチンが含有されている。したがって、この第3液成分にはコラーゲンがほとんど含まれていないことが分かる。 これらの実験事実から、クラゲの含水破砕物から固液分離により得られる液成分と水溶性アルコールとを、前記液成分と前記水溶性アルコールとの混合物全体に対して水溶性アルコールの濃度が少なくとも50容量%となるように、混合すると、コラーゲンとムチンとが沈殿し、得られる固形分を収集することによりコラーゲンとムチンとを効率良く分離することができる。 このような実験事実は水溶性アルコール例えばエタノール及びプロパノールを使用することにより本願発明者により初めて発見された。エタノール及びプロパノールにおいて観察される現象は、エタノール及びプロパノールと同族且つ近縁のアルコールである炭素数1〜4の低級アルコールにおいても同じ現象が観察される。 この発明はこのような実験事実に基づく。 なお、クラゲの含水破砕物から固液分離により得られる液成分と水溶性アルコールとを、前記液成分と前記水溶性アルコールとの混合物全体に対して水溶性アルコールの濃度が50容量%未満となるように、混合することにより生成する沈殿物と濾液とに分離すると、沈殿物にはコラーゲンが含まれ、濾液にはムチンが含まれるであろうから、濾液に水溶性アルコールを、水溶性アルコールの濃度が50容量%以上となるように添加することによりムチンを沈殿させることができるとの考えもあろうが、この考えの下では、前記濾液中に含まれるコラーゲンを抽出するために前記濾液中のコラーゲンを水溶性アルコールで抽出する操作を繰り返さなければならなくなって煩雑であり、また前記沈殿物中にコラーゲンとぺプチド類とが含有されてしまい、この沈殿物中から前記ペプチド類を除去する工程が必要となってコラーゲン取得の効率が悪い。 液成分と前記水溶性アルコールとの混合は、通常0〜25℃の温度範囲内で行うのが、好ましい。前記温度範囲内の温度で混合を行うと、ムチンおよびコラーゲンに影響を与えることがなく好ましい。混合時間は、通常1〜48時間、好ましくは12〜24時間である。 この工程(A)では、前記混合の後に、混合物を固液分離し、これによって固形分を得る。固液分離する手段としては、遠心分離装置、濾過装置、圧搾装置等を挙げることができる。 固液分離されることにより生成した固形分を、次の工程(B)に、供することができるが、固形分中には塩や脂質等の不純物が含まれているのでこれを除去するため、及び固形分中に含まれるアルコール濃度を一定化させるために、洗浄処理をするのがよい。この洗浄処理をする工程を洗浄工程(A1)と称することがある。 洗浄工程(A1)は、前記蛋白質分離工程(A)における固液分離により得られた固形分と、経済性を考慮してこの固形分の質量に対して1〜4倍質量の炭素数1〜4の水溶性アルコール水溶液とを混合することにより行うことができる。 前記水溶性アルコールとしては、炭素数1〜4の一価アルキルアルコールを挙げることができ、具体的にはメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルキルアルコールを挙げることができる。これらの中でも、エチルアルコール及びプロピルアルコールが好ましい。 固形分と前記水溶性アルコールとの混合物は、静置しておいてもよいが洗浄を効果的に行うには撹拌するのが良い。また混合物を静置し続ける時間又は撹拌する時間すなわち洗浄時間は通常、1時間以内であり、静置し、又は撹拌する際の温度は通常0〜25℃ある。洗浄操作をする際の温度は、通常0〜25℃である。前記温度範囲内の温度で洗浄操作を行うと、ムチンおよびコラーゲンに影響を与えることがなく好ましい。 前記混合物を静置し、又は混合撹拌してから後に、固液分離操作をする。固液分離手段としては、遠心分離装置、濾過装置、圧搾装置等を挙げることができる。 この洗浄工程(A1)においては、固形分と特定濃度の水溶性アルコールとの混合操作及びその後の固液分離操作は1回でもよく、また複数回行ってもよい。繰り返す洗浄回数を決める目安として、固形分の質量変化が5%以下になったときに洗浄操作を停止して、次の工程に移行する。 この洗浄工程(A1)で得られる固形分は、洗浄処理をする前の固形分が含む塩分の量よりも少ない量の塩分を含有するので、この洗浄工程(A1)により得られる固形分を洗浄処理していない固形分と言葉上の区別をするために、「洗浄固形分」と称することがある。 この発明においては、前記工程(A1)により得られた洗浄固形分又は前記工程(A1)に付されない固形分を、工程(B)に供する。 工程(B)では、前記蛋白質分離工程(A)で得られる固形分(洗浄固形分、又は洗浄工程(A1)を経ていない固形分)と10〜40質量%のアルコール濃度である炭素数1〜4の水溶性アルコール水溶液とを混合し、次いで固液分離することによりムチン含有液成分とコラーゲン含有固形成分とに分離する。 前記水溶性アルコールとしてはメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等の一価アルキルアルコールを挙げることができる。これらの中でも、エチルアルコール及びプロピルアルコールが好ましい。 この発明においては、固形分と混合する前記水溶性アルコールのアルコール濃度が10質量%〜40質量%であると、その後の固液分離操作により生成する固形分中にコラーゲンが含まれ、液成分中にムチンが含まれることになる。また、アルコール濃度が40質量%を超える水溶性アルコール水溶液を固形分に添加混合すると、混合により生じる固形分にはコラーゲン以外のペプチドの含有量が極めて少なくてコラーゲンが高純度で含まれる。 この工程(B)においては、工程(A)で得られる前記固形分と前記水溶性アルコールとの混合操作は、通常0〜25℃の温度下で、通常1時間以内撹拌することにより行われる。前記温度範囲内の温度で混合を行うと、ムチンおよびコラーゲンに影響を与えることがなく好ましい。 混合操作の終了後に固液分離操作が行われて、ムチンが含有されるムチン含有液成分とコラーゲンが含有されるコラーゲン含有固形成分とが得られる。 ムチン含有液成分は、それを公知の精製操作例えばイオン交換クロマトグラフィー、及び乾燥操作例えば凍結乾燥をすることによりムチンを単離することができる。ムチン含有液成分中に含まれるムチン又は単離されたムチンは、それをアミノ酸分析により、式(I)(配列番号1)で示すアミノ酸を含有することで同定することができる。 コラーゲン含有固形成分は、それを公知の精製操作例えばイオン交換クロマトグラフィー、及び乾燥操作例えば凍結乾燥をすることによりコラーゲンを単離することができる。コラーゲンは、アミノ酸分析により、Glyの含有量を定量することにより同定することができる。 以下、例示的であるが限定的でない実施例を説明することによって本発明をより深く理解することができる。(実施例1) ミズクラゲ(Aurelia aurita)から下記の方法でムチンおよびコラーゲンを得た。1) 冷蔵状態にあるクラゲ個体を水洗し、ストレーナーで固形物と液体とに分離した。2) 分離された固形物を、破砕機にて細断した。細断して得られた細断片を試料とした。3) 2)にて得られた試料と水とを、抽出撹拌槽に装填し、4℃で撹拌抽出を行った。4) 3)における撹拌抽出により得られた水溶液を4℃のまま10000Gで、10分間遠心分離して液成分を得た。5) 4)にて得られた液成分に、イソプロピルアルコール濃度が70容量%となるように、イソプロピルアルコールを投入するとゲル状の沈殿物が生じた。6) 5)において得られたゲル状の沈殿物を含有する液を一晩中4℃に維持しつつ撹拌した後、4℃のまま10000Gで、10分間遠心分離して固形分を得た。7) 6)で得られた固形分質量に対して3倍質量の60質量%濃度のイソプロピルアルコール水溶液を加えた。8) 7)において生成する混合物を4℃で5分間撹拌した後、4℃のまま10000Gで、10分間遠心分離して固形分を得た。9) 8)で得られた固形分につき、再度7)及び8)による洗浄操作を行った。 以上のようにして蛋白質分離工程(A)を終えた。10) 前記9)で得られた固形分質量に対して3倍質量の25質量%濃度のイソプロピルアルコール水溶液を加えた。11) 10)で得られた溶液を4℃で5分間撹拌した後、4℃のまま10000Gで、10分間遠心分離して固形分を得た。12) 11)で得られた固形分につき10)及び11)の操作を更に2回行い、固形分と液成分とに分離した。13) 12)で得られた液成分につき透析処理及び凍結乾燥を行って最終の固形分(L)を得た。また12)で得られた固形分を水で懸濁した後に透析処理及び凍結乾燥を行って最終の固形分(S)を得た。 これら固形分(L)及び固形分(S)について、以下のようにして、自動アミノ酸分析計によって構成アミノ酸分析を行った結果、固形分(L)がムチンであり、固形分(S)がコラーゲンであった。 前記固形物(L)及び固形物(S)それぞれを前述のイオン交換クロマトグラフィーで精製し、透析した試料(約12マイクログラム)を加水分解チューブに移し、遠心エバポレーターで乾固し、定沸点塩酸(5.7N)の入った外管に入れて減圧封管した。加水分解を、気相法で110℃で20時間行った。 封止された外管を開管し、加水分解チューブの内容物を同様に乾燥し、乾燥した加水分解物を0.02N塩酸100マイクロリットルに溶解した。加水分解物のアミノ酸分析には(株)日立製作所製の高速アミノ酸分析計L−8500Aを用いた。(株)日立製作所の定める特殊アミノ酸分析法にて加水分解物中のアミノ酸を、イオン交換カラムを用いて5種類の緩衝液で分離させた。分離したアミノ酸は、ポストカラム法によりニンヒドリンで反応させて2波長の可視光で検出した。アミノ糖と通常のアミノ酸とは570nmのクロマトグラムより、また、プロリンは440nmのクロマトグラムより標準アミノ酸混合物及びグルコサミン、ガラクトサミンを2ナノモル分析した値をもとに定量した。 アミノ酸組成分析の結果を表1に示す。表1のアミノ酸濃度比に示したように、得られたムチンのペプチド部の組成は、スレオニン(Thr):グルタミン酸(Glu):プロリン(Pro):アラニン(Ala):バリン(Val)+イソロイシン(Ile):N−アセチルガラクトサミン(GalNAc)がそれぞれ15%の誤差で2:1:1:2:2:2であることが判明し、高純度のムチンであることが確認できた。 また、得られたコラーゲンのペプチド部の組成は、グリシン(Gly)の濃度比率が全アミノ酸の約1/3を占め、高純度のコラーゲンであることが確認できた。 表2に、得られたムチンおよびコラーゲンの収率を示した。(実施例2) ミズクラゲ(Aurelia aurita)から下記の方法でムチンおよびコラーゲンを得た。1) 冷蔵状態にあるクラゲ個体を水洗し、ストレーナーで固形物と液体とに分離した。2) 分離された固形物を、破砕機にて細断した。細断して得られた細断片を試料とした。3) 2)にて得られた試料と水とを、抽出撹拌槽に装填し、4℃で撹拌抽出を行った。4) 3)における撹拌抽出により得られた水溶液を4℃のまま10000Gで、10分間遠心分離して液成分を得た。5) 4)にて得られた液成分に、エタノール濃度が70容量%となるように、エタノールを投入するとゲル状の沈殿物が生じた。6) 5)において得られたゲル状の沈殿物を含有する液を一晩中4℃に維持しつつ撹拌した後、4℃のまま10000Gで、10分間遠心分離して固形分を得た。7) 6)で得られた固形分質量に対して3倍質量の60質量%濃度のエタノール水溶液を加えた。8) 7)において生成する混合物を4℃で5分間撹拌した後、4℃のまま10000Gで、10分間遠心分離して固形分を得た。9) 8)で得られた固形分につき、再度7)及び8)による洗浄操作を行った。 以上のようにして蛋白質分離工程(A)を終えた。10) 前記9)で得られた固形分質量に対して3倍質量の25質量%濃度のエタノール水溶液を加えた。11) 10)で得られた溶液を4℃で5分間撹拌した後、4℃のまま10000Gで、10分間遠心分離して固形分を得た。12) 11)で得られた固形分につき10)及び11)の操作を更に2回行い、固形分と液成分とに分離した。13) 12)で得られた液成分につき透析処理及び凍結乾燥を行って最終の固形分(L)を得た。また12)で得られた固形分を水に懸濁した後に透析処理及び凍結乾燥を行って最終の固形分(S)を得た。 表2に、得られたムチンおよびコラーゲンの収率を示した。(比較例1) 実施例2の1)〜4)と同様の操作をすることにより得られた液成分に、エタノール濃度が50容量%となるように、エタノールを投入するとゲル状の沈殿物が生じた。このゲル状の沈殿物を含有する含有する液を用いて、実施例1の6)〜13)と同様の操作をすることにより、最終の固形分(L)と固形分(S)を得た。 表2に、得られたムチンおよびコラーゲンの収率を示した。(実施例3) 実施例2の1)〜4)と同様の操作をすることにより得られた液成分に、エタノール濃度が60容量%となるように、エタノールを投入するとゲル状の沈殿物が生じた。このゲル状の沈殿物を含有する含有する液を用いて、実施例1の6)〜13)と同様の操作をすることにより、最終の固形分(L)と固形分(S)を得た。 表2に、得られたムチンおよびコラーゲンの収率を示した。(比較例2) 実施例2の10)の工程における固形分に、その固形分に対して60質量%の濃度となるように、イソプロパノールを加えて混合した外は実施例2と同様にして操作をすることにより、最終の固形分(L)と固形分(S)を得た。 表2に、得られたムチンおよびコラーゲンの収率を示した。 実施例1〜3と比較例1及び2の結果より、この発明において、ムチンおよびコラーゲンを効率よく分別抽出することが、明らかである。(比較例3) 実施例2の10)の工程における固形分に、その固形分に対して3倍質量の水を、加えた外は前記実施例2と同様に実施して、最終の工程である12)で得られた液成分につき透析処理及び凍結乾燥を行って最終の固形分(Lc)を得た。また12)で得られた固形分を水で懸濁した後に透析処理及び凍結乾燥を行って最終の固形分(Sc)を得た。表3には、得られたムチンおよびコラーゲンの収率を示した。 前記最終の固形分(Lc)及び(Sc)につき、前記実施例1におけるのと同様にして、自動アミノ酸分析計によって構成アミノ酸分析を行った。 アミノ酸組成分析の結果を表4に示す。表4のアミノ酸濃度比に示したように、固形分(Lc)として得られたムチンのペプチド部の組成は、理論値であるスレオニン(Thr):グルタミン酸(Glu):プロリン(Pro):アラニン(Ala):バリン(Val)+イソロイシン(Ile):N−アセチルガラクトサミン(GalNAc)が2:1:1:2:2:2とかけ離れていること、また、コラーゲン由来のグリシン(Gly)の濃度比率が高いことから、ムチンの純度が低いことが確認できた。(参考例) 実施例1における工程4)により得られる液成分に、エタノール濃度が20容量%になるようにエタノールを、添加し、添加混合により生じる沈殿物を固液分離して沈殿物と液成分(第1液成分と称する。)とを採取した。その沈殿物を、実施例1におけるのと同様にして自動アミノ酸分析をしたところ、表5に示される主成分が表5に示される収量で得られた。 前記第1液成分に、エタノール濃度が30容量%になるようにエタノールを、添加し、添加混合により生じる沈殿物を固液分離して沈殿物と液成分(第2液成分と称する。)とを採取した。その沈殿物を、実施例1におけるのと同様にして自動アミノ酸分析をしたところ、表5に示される主成分が表5に示される収量で得られた。 前記第2液成分に、エタノール濃度が40容量%になるようにエタノールを、添加し、添加混合により生じる沈殿物を固液分離して沈殿物と液成分(第3液成分と称する。)とを採取した。その沈殿物を、実施例1におけるのと同様にして自動アミノ酸分析をしたところ、表5に示される主成分が表5に示される収量で得られた。 前記第3液成分に、エタノール濃度が50容量%になるようにエタノールを、添加し、添加混合により生じる沈殿物を固液分離して沈殿物と液成分(第4液成分と称する。)とを採取した。その沈殿物を、実施例1におけるのと同様にして自動アミノ酸分析をしたところ、表5に示される主成分が表5に示される収量で得られた。 前記第4液成分に、エタノール濃度が60容量%になるようにエタノールを、添加し、添加混合により生じる沈殿物を固液分離して沈殿物と液成分(第5液成分と称する。)とを採取した。その沈殿物を、実施例1におけるのと同様にして自動アミノ酸分析をしたところ、表5に示される主成分が表5に示される収量で得られた。 前記第5液成分に、エタノール濃度が70容量%になるようにエタノールを、添加し、添加混合により生じる沈殿物を固液分離して沈殿物と液成分(第5液成分と称する。)とを採取した。その沈殿物を、実施例1におけるのと同様にして自動アミノ酸分析をしたところ、表5に示される主成分が表5に示される収量で得られた。 また、エタノールに代えてプロパノールを使用して前記と同様の試験をすると表5に示すのと同様の傾向を示す結果が得られた。 この発明によると、クラゲからムチン及びコラーゲンを効率的に分別抽出することができる分別抽出方法を提供することができる。この発明の方法により得られるムチン及びコラーゲンは、医薬品、化粧品、食品、農業などの分野において有用である。また、ムチン及びコラーゲンは試薬の原料及び製品にすることができる。 クラゲを破砕してなる含水破砕物を固液分離して得られる液成分と炭素数1〜4の水溶性アルコールとを、炭素数1〜4の水溶性アルコールの濃度が全体に対して少なくとも50容量%になるように、混合して得られる混合物を固液分離することにより固形分を得る蛋白質分離工程(A)と、 前記蛋白質分離工程(A)で得られる固形分と10〜40質量%のアルコール濃度である炭素数1〜4の水溶性アルコール水溶液とを混合し、次いで固液分離することによりムチン含有液成分とコラーゲン含有固形成分とに固液分画する分画工程(B)とを有することを特徴とするムチン及びコラーゲンの分別抽出方法。 前記蛋白質分離工程(A)における固液分離により得られる固形分を炭素数1〜4の水溶性アルコール及び/又は水で洗浄してなる洗浄固形分を、前記蛋白質分離工程(A)で得られる固形分として、前記分画工程(B)に供することを特徴とする前記請求項1に記載のムチン及びコラーゲンの分別抽出方法。 前記炭素数1〜4の水溶性アルコール及び/又は水が、前記蛋白質分離工程(A)における固液分離により得られる固形分の質量に対して1〜4倍質量の割合で、前記固形分と混合される前記請求項2に記載のムチン及びコラーゲンの分別抽出方法。


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