タイトル: | 公表特許公報(A)_大腸菌での異種タンパク質生成のための新規発現および分泌ベクター系 |
出願番号: | 2014503272 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | C12N 15/09,C12N 1/15,C12N 1/19,C12N 1/21,C12N 5/10,C12P 21/02 |
アイヤッパン・ナイール スニル・クマール・スクマラン シャラカ・サマント グンジャ・グプタ スサカルン・ピチャイムス ガネーシュ・サンバシヴァン JP 2014512814 公表特許公報(A) 20140529 2014503272 20120408 大腸菌での異種タンパク質生成のための新規発現および分泌ベクター系 アンセム・バイオサイエンシズ・プライベート・リミテッド 513252389 村山 靖彦 100108453 志賀 正武 100064908 渡邊 隆 100089037 実広 信哉 100110364 アイヤッパン・ナイール スニル・クマール・スクマラン シャラカ・サマント グンジャ・グプタ スサカルン・ピチャイムス ガネーシュ・サンバシヴァン C12N 15/09 20060101AFI20140502BHJP C12N 1/15 20060101ALI20140502BHJP C12N 1/19 20060101ALI20140502BHJP C12N 1/21 20060101ALI20140502BHJP C12N 5/10 20060101ALI20140502BHJP C12P 21/02 20060101ALI20140502BHJP JPC12N15/00 AC12N1/15C12N1/19C12N1/21C12N5/00 101C12P21/02 C AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN IB2012051730 20120408 WO2012137187 20121011 22 20131209 4B024 4B064 4B065 4B024AA20 4B024BA80 4B024CA01 4B024CA09 4B024CA11 4B024CA20 4B024DA01 4B024DA02 4B024DA05 4B024DA06 4B024DA11 4B024EA04 4B024FA02 4B024GA11 4B024HA01 4B024HA09 4B024HA11 4B064AG01 4B064CA02 4B064CA19 4B064CC24 4B064DA01 4B064DA13 4B065AA01X 4B065AA26X 4B065AA57X 4B065AA87X 4B065AA90X 4B065AA90Y 4B065AB01 4B065AC14 4B065BA01 4B065BA02 4B065CA24 4B065CA44 4B065CA46 本発明は、大腸菌BL21 DE3および大腸菌K12を含むがこれらに限定されない大腸菌などのグラム陰性原核生物での、組換え体DNA発現/分泌系に関する。より詳細には、本発明は、細胞外間隙への分泌をさらに助けるために、大腸菌のペリプラズム間隙への組換え体タンパク質のシグナルペプチドに基づく転位の能力を、大腸菌の膜不完全突然変異体に組み合わせる系に関する。 原核生物は、組換え体タンパク質の生成のために広く使われている。所望のポリペプチドまたはタンパク質の制御された発現は、組換えDNA技術を通してプロモーターの後にタンパク質をコードする遺伝子を結合することによって達成され、プロモーターの活性は外部因子によって調節することができる。この発現構築物は、ベクター、最も多くの場合プラスミドで運ばれる。宿主細菌への発現構築物を運ぶプラスミドの導入、およびプロモーターを活性化する化合物の存在下でその生物体を培養することは、所望のタンパク質の高レベルの発現をもたらす。このようにして、大量の所望タンパク質を生成することができる。 大腸菌は、タンパク質生成のために最も一般的に用いられる原核生物である。発現系を構築するための大腸菌での使用のために、多くの異なる種類のプラスミドベクターが開発されている。異なる変形形態は、いくつかの異なる型のプロモーター、選択マーカーおよび複製開始点を使用し、そこで、異なる構成の各々は発現ベクターに特異な特性を付与する。最も一般的な配置では、発現されるタンパク質は細胞質に蓄積する。このアプローチは一部のタンパク質に有用であるが、全てのタンパク質を活性状態で細胞質に蓄積することができるとは限らない。しばしば、宿主タンパク質に対して所望のタンパク質が高いレベルで生成される場合は、タンパク質は封入体としても知られる不溶性粒子として蓄積する。封入体として蓄積するタンパク質は、活性型で回収するのが困難である。 この問題点を解決する2つの方法は、内側と外側の膜の間のペリプラズムに標的タンパク質を送り出すか、細胞外間隙への分泌を促進するかのいずれかである。ペリプラズム間隙/細胞外培地にクローン遺伝子生成物を分泌させることには、以下を含むいくつかの潜在的利点がある: 1)タンパク質生成物は、細胞質のプロテアーゼを回避することができる;2)ホルモン、リグニン溶解酵素およびデキストラナーゼなどの通常分泌されるタンパク質は、分泌される場合、大腸菌ではそれらの活性な立体構造でのみ折り畳むことができる;3)ペリプラズム間隙が細胞質よりも酸化的な環境を提供するので、ジスルフィド結合の正しい形成を促進することができる;4)ヌクレアーゼまたはプロテアーゼなどの毒性の酵素は、宿主に対する毒作用を発揮するそれらの能力のために、細胞質で生成され得ない;ならびに5)精製の容易さ。 ペリプラズムをタンパク質の標的にするために、異なる分泌経路(例えばSec、TatおよびSRP)をたどるシグナルペプチド配列(例えばPelB、OmpA、DsbA、TorAおよびMalE)との融合体として、それらは発現される。他の戦略としては以下が挙げられる: a.転位を強化するためのシグナルペプチドの改変。b.大腸菌での異種シグナル配列の使用。c.ペリプラズムシャペロン(例えばDsbファミリーのタンパク質)の同時発現。d.タンパク質分解を低減するためのプロテアーゼ陰性突然変異株。 多くの場合、大腸菌のペリプラズムへの組換え体タンパク質の送り出しは、細胞質の生成にとって好ましい。しかし、タンパク質が過剰発現する場合は、送り出し効率は著しく低下し、系のいくつかの利点が失われる。シグナルペプチド-組換え体タンパク質融合体の過剰発現に続く宿主の転位機構の過負荷を回避するために、分泌経路からの対応するトランスロコンを本来の分泌機構に追加することが試みられた。 組換え体タンパク質の細胞外生成は、ペリプラズムへの分泌に勝るいくつかの利点を有する。細胞外生成は標的タンパク質を回収するために外膜破壊を必要とせず、したがって、それはペリプラズムプロテアーゼによる細胞内タンパク質分解を回避し、組換え体タンパク質の連続生成を可能にする。 大腸菌からの組換え体タンパク質の細胞外分泌を促進するために、いくつかの方法が適用された。これらには、生化学物質、物理的方法(浸透圧ショック、凍結および解凍)、リゾチーム処理ならびにクロロホルムショックの使用が含まれる。しかし、これらの方法は、細胞を収集した後にのみ適用することができる。大腸菌は、毒素およびヘモリシンなどの2、3の種類のタンパク質を除いて、細胞外にタンパク質を通常分泌しない。一般に、ペリプラズムから培地への組換え体タンパク質の移動は、外膜の完全性を損なう結果である。 細菌の外膜の完全性を損なうことは、いくつかのアプローチによって達成することができる。一つの方法は、生成物を、通常培地に分泌される担体タンパク質(例えばヘモリシン)、または外膜の上で発現されるタンパク質(例えばOmpF)と、融合することを含む。 大腸菌ペリプラズムに分泌されるタンパク質は、kilまたは膜貫通タンパク質TolA(TolAIII)の第3トポロジードメインをコードする遺伝子またはE.クリサンテミ(E. chrysanthemi) EC16からのout遺伝子の同時発現によって、培地に放出させることもできる。大腸菌での組換え体タンパク質の細胞外生成では、バクテリオシン放出タンパク質(BRP)を用いることもできる。 標的タンパク質の細胞外生成の別のアプローチは、L型菌細胞、壁がないか不完全な壁の細胞を用いる。外膜タンパク(omp、tol、lpp、env)のノックアウトを構築し、分泌性組換え体タンパク質の発現を促進するために対応する漏出株を用いた。 大腸菌K12はGRAS生物体であるため、治療的タンパク質の大規模生産のための安全な系となる。しかし、K12は、分泌性組換え体タンパク質発現株と通常みなされない。本発明に記載の効率的な分泌性大腸菌K12株の生成のアプローチは、シグナルペプチド-タンパク質融合体の能力およびトランスロコン構成成分の過剰発現を膜不完全突然変異体と組み合わせる。 本発明は、新規シグナルペプチドの力を利用するものであり、このペプチドのヌクレオチド配列は、対象のタンパク質を大腸菌細胞の異なる細胞コンパートメントへ導くことができるように選択される。したがって、本発明は、対象のタンパク質の分泌性発現のために可能な最良の組合せを判定するために試験することができる、7つの異なるシグナルペプチドのプラットホームを提供する。 本発明は、大腸菌K12または大腸菌BL21 DE3を含むがこれらに限定されない大腸菌などのグラム陰性原核生物での、組換え体DNA発現/分泌系に関する。前記系は、細胞外間隙への分泌をさらに助けるために、大腸菌のペリプラズム間隙への組換え体タンパク質のシグナルペプチドに基づく転位の能力を、膜不完全突然変異体に組み合わせたものである。 本発明の別の態様は、過剰発現される組換え体タンパク質の向上したペリプラズム分泌を促進するために、トランスロコンの発現を促進するヘルパープラスミドを任意選択で含む発現ベクターである。この系は、大腸菌宿主によって分泌される特定のタンパク質であって、この宿主によって通常は分泌されないタンパク質の生成のためにさらに用いることができる。さらに、この系は、大腸菌で対象の特定のタンパク質の効率的な生成も促進する。発現ベクターは、分泌性シグナル配列、誘導可能なプロモーターおよび対象の遺伝子を含む。 本発明のさらに別の態様は、組換え体細胞を得る方法であり、前記方法は、(a)組換え体ベクターを得るステップ、(b)組換え体ベクターにより宿主細胞を形質転換するステップ、および(c)組換え体細胞を得るために任意選択でヘルパープラスミドにより宿主細胞を同時形質転換するステップを含む。 本発明のさらに別の態様は、組換え体ペプチドを得る方法であり、前記方法は、(a)分泌性シグナル配列、誘導可能なプロモーターおよび対象の遺伝子を含む組換え体ベクターを得るステップ、(b)組換え体ベクターで宿主細胞を形質転換し、任意選択でヘルパープラスミドにより宿主細胞を同時形質転換するステップ、(c)組換え体ベクターを発現させ、細胞外の培地に組換え体ペプチドを分泌させるステップ、ならびに(d)任意選択で精製して組換え体ペプチドを得るステップを含む。 本発明のさらに別の態様は、発現ベクター、組換え体細胞またはその組合せを含む、組換え体ペプチドを得るためのキット;および、発現ベクター、組換え体細胞またはその組合せを組み合わせるステップを含む、組換え体ペプチドを得るためのキットを組み立てる方法である。 本発明が容易に理解され、実際に実行されるように、添付の図に例証された例示的な実施形態について以下に言及する。図は、下記の詳細な説明と一緒に明細書に組み込まれてその一部を形成し、本発明に従って実施形態をさらに例示し、様々な原理および利点を説明するのに役立つ。本発明の実施形態による、誘導可能なT5プロモーターの制御下でシグナルペプチド-標的タンパク質融合体を運ぶ発現ベクターpAEV01のプラスミドマップを表す概略図である。本発明の実施形態による、バシラス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)のマルトジェニックアミラーゼのT7プロモーター、シグナルペプチド配列、リボソーム結合部位および転写開始点の概略図である。本発明の実施形態による、0.1mM IPTG誘導後の、マルトジェニックアミラーゼとのMalE、TorAおよびpelBシグナルペプチド融合体を発現する株からの溶解物のSDS-PAGE分析を示す図である。本発明の実施形態による、0.1mM IPTG誘導試験後の、マルトジェニックアミラーゼとのDsbA、YcdO、FhuD、MdoDおよびpelBシグナルペプチド融合体を発現する株からの溶解物のSDS-PAGE分析を示す図である。本発明の実施形態による、1mM IPTG誘導試験後の、マルトジェニックアミラーゼとのMalE、YcdO、TorA、FhuDおよびpelBシグナルペプチド融合体を発現する株からの溶解物のSDS-PAGE分析を示す図である。本発明の実施形態による、対応する非誘導培養と比較した、pelB、MalE、FhuD、DsbAおよびMdoDに融合した0.1mMのマルトジェニックアミラーゼ活性による誘導倍率を示す図である。本発明の実施形態による、対応する非誘導培養と比較した、MalE、FhuD、TorA、YcdOおよびpelBに融合した1mMのマルトジェニックアミラーゼ活性による誘導倍率を示す図である。表の簡単な説明 表1は、本発明の実施形態によるシグナル配列のアミノ酸残基およびそれぞれの送り出し経路を掲載したものである。 表2は、本発明の実施形態によるシグナル配列を掲載したものである。 表3は、本発明の実施形態によるシグナル配列プラスミドの情報を掲載したものである。 特許請求される発明の対象物を、より明らかにかつ簡潔に説明し示すために、以下の明細書で用いられる特定の用語のための定義を以下に定める。 用語「発現」は、文脈に応じて、転写もしくは翻訳、または両方を意味する。 用語「発現ベクター」は、特定の宿主細胞での作動可能に連結するヌクレオチド配列の発現のために必要である適当な制御ヌクレオチド配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、リプレッサー、オペレーター配列およびリボソーム結合部位)を含有する組換えDNA分子を指す。発現ベクターは、プラスミドのように自己複製するものであってよく、したがって複製部位を運ぶものであってよく、あるいはまた、宿主染色体に、ランダムにもしくは標的部位に組み込まれるベクターであってよい。発現ベクターは、形質転換細胞で表現型選択をもたらす選択マーカーとして選択遺伝子を含有することができる。発現ベクターは、翻訳の制御のために有用である配列を含むこともできる。 用語「作動可能に連結される/連結する」または「作動可能に結合する」は、制御ヌクレオチド配列に対して、所望のタンパク質分子の転写および/または合成を開始、調節、さもなければ導くように位置されるヌクレオチド配列を指す。 用語「ヌクレオチド」は、リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドを指す。「核酸」は、ヌクレオチドのポリマーを指し、一本鎖または二本鎖であってよい。「ポリヌクレオチド」は、長さが12ヌクレオチド以上である核酸を指す。 用語「対象のヌクレオチド配列」は、「対象のタンパク質、ポリペプチドまたはペプチド配列」をコードするヌクレオチド配列を意味し、それらの生成が何らかの理由で望まれると当業者が考えることができるものである。そのようなヌクレオチド配列には、構造遺伝子、調節遺伝子、抗体遺伝子、酵素遺伝子などのコード配列、またはその一部が含まれるが、これらに限定されない。対象のヌクレオチド配列は、多くの異なる生物体の1つからの遺伝子のコード配列を含むことができる。 ヌクレオチド配列をタンパク質のアミノ酸配列に翻訳することができる場合、そのヌクレオチド配列はそのタンパク質を「コードする(encode)」か「コードする(code for)」。ヌクレオチド配列は、実際の翻訳開始コドンまたは終結コドンを含んでも含まなくてもよい。 「対象のタンパク質、ポリペプチドまたはペプチド配列」は、「対象のヌクレオチド配列」によってコードされる。タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドは、限定はされないが、哺乳動物、昆虫、微生物、例えば細菌およびウイルスを含む、任意の生物体からのタンパク質であってよい。それは、限定はされないが、構造タンパク質、調節タンパク質、抗体、酵素、阻害剤、トランスポータ、ホルモン、親水性もしくは疎水性のタンパク質、単量体または二量体、治療関連のタンパク質、産業関連のタンパク質、またはその一部を含む、任意の種類のタンパク質であってよい。 「ペプチド」は4〜20アミノ酸のポリマーであり、「ポリペプチド」は21〜50アミノ酸のポリマーであり、「タンパク質」は50アミノ酸を超えるポリマーである。 タンパク質に関して用いられる場合、用語「部分」は、そのタンパク質の断片を指す。断片は、タンパク質の4アミノ酸残基の大きさから、アミノ酸配列全体から1アミノ酸を引いた大きさまでの範囲であってよい。 用語「精製された」または「精製すること」は、試料からの望ましくない構成成分の除去を指す。例えば、増殖培地から分泌タンパク質を精製することは、培地の他の構成成分(すなわち、タンパク質および他の有機分子)を除去し、それによって分泌タンパク質の百分率を増加させることを意味することができる。本明細書では、用語「改変された」、「突然変異体」または「変異体」は互換的に用いられ、以下を指す:(a)1つもしくは複数のヌクレオチドが付加または削除されるか、または異なるヌクレオチドもしくは修飾塩基で置換されたヌクレオチド配列、あるいは(b)1つもしくは複数のアミノ酸が付加または削除されるか、または異なるアミノ酸で置換された、タンパク質、ペプチドまたはポリペプチド。変異体は天然に生じたものでよく、または当分野の技術者により実験的に作製されたものでよい。変異体は、親配列から1つもしくは複数のアミノ酸またはヌクレオチドが異なる(すなわち、付加、欠失または置換)タンパク質、ペプチド、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドであってよい。 用語「ペリプラズム」は、グラム陰性菌の細胞膜の外側表面とリポポリサッカライド層の内側表面との間のゲル様領域を指す。 用語「分泌」は、ペリプラズムまたは細胞外の増殖培地への、細菌で発現される組換え体タンパク質の排出を指す。 好ましい実施形態に従って、本発明は、分泌性シグナル配列、誘導可能なプロモーターおよび対象の遺伝子を含む発現ベクターに関する。本発明は、前記ベクターを、任意選択でヘルパープラスミドと一緒に含む、膜不完全細胞である組換え体細胞にさらに関する。 本発明の別の好ましい実施形態は、組換え体細胞を得る方法に関し、前記方法は、以下のステップを含む: a.組換え体ベクターを得るステップ、b.組換え体ベクターにより宿主細胞を形質転換するステップ;および(c)組換え体細胞を得るために任意選択でヘルパープラスミドにより宿主細胞を同時形質転換するステップ。 別の実施形態は、組換え体ペプチドを得る方法に関し、前記方法は、以下のステップを含む: a.分泌性シグナル配列、誘導可能なプロモーターおよび対象の遺伝子を含む組換え体ベクターを得るステップ; b.組換え体ベクターで宿主細胞を形質転換し、任意選択でヘルパープラスミドにより宿主細胞を同時形質転換するステップ; c.組換え体ベクターを発現させ、細胞外の培地に組換え体ペプチドを分泌させるステップ;ならびに、d.任意選択で精製して組換え体ペプチドを得るステップ。 本発明の実施形態では、前記分泌性シグナル配列は、配列番号1から配列番号7を含む群から選択されるコドン最適化配列であり;誘導可能なプロモーターは、T5プロモーターである。 本発明の一実施形態では、対象の前記遺伝子は、原核生物および真核生物の遺伝子を含む群から選択される。 本発明のさらに別の実施形態では、前記細胞は原核細胞、好ましくは大腸菌K12であり;ヘルパープラスミドは、原核生物の分泌系からのシャペロンまたはトランスロコンを運ぶプラスミドである。 本発明の別の実施形態は、発現ベクター、組換え体細胞またはその組合せを含む、組換え体ペプチドを得るためのキットに関する。 本発明は、発現ベクター、組換え体細胞またはその組合せを組み合わせる行為を含む、組換え体ペプチドを得るためのキットを組み立てる方法をさらに含む。 本発明のさらに別の実施形態では、ヘルパープラスミドは、細菌の分泌機構からのシャペロンまたはトランスロコンの任意の構成成分を運ぶプラスミドを含む群から選択され;実例は、SECおよびTATである。 本発明は、細胞外増殖培地への対象の組換え体タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの分泌を通してその組換え体タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドを生成する方法にさらに関する。 本発明の一実施形態では、この方法は、単独のまたは組み合わせたSEC、TATまたはSRP送り出し経路を通して組換え体タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの分泌をペリプラズムに導くために、天然の大腸菌分泌性シグナル配列の特定のコドン最適化変形体を運ぶ発現ベクターを利用する(Table 1 (表1))。 本発明の実施形態では、発現ベクターは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6または配列番号7からなる群から選択されるシグナル配列を、誘導可能なT5プロモーターの下流に運ぶ(Table 2 (表2))。 一実施形態では、発現ベクターは、プラスミドpAEV01、pAEV02、pAEV03、pAEV04、pAEV05、pAEV06、pAEV07からなる群から選択される(Table 3 (表3))。 一実施形態では、発現ベクターは、原核生物の宿主細胞、例えば大腸菌またはその株で使用するものである。 本発明のさらに別の実施形態では、核酸によってコードされる対象のタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをその細胞が発現して分泌するように、発現ベクターのいずれかによって形質転換されている単離された宿主細胞が提供される。一実施形態では、宿主細胞は、原核生物の宿主細胞、例えば大腸菌またはその株である。 本発明のさらに別の実施形態では、単一のヌクレオチド配列で2つのペリプラズム分泌シグナルの特徴を利用する、配列番号2、3および5に対応するシグナルペプチドの使用が記載される。したがって、対応する発現ベクターの使用は、特定の分泌経路の閉塞を回避して、タンパク質収量を向上させることができる。本発明に記載される発現ベクターは、誘導可能なT5プロモーターの制御下のシグナルペプチド標的タンパク質融合体を運び、したがって異種タンパク質発現を誘導するための大腸菌K12宿主での使用にそれらを適合させる。 本発明のさらに別の実施形態では、SECおよびTAT分泌経路に属するトランスロコンを同時発現するためのヘルパープラスミドの使用が記載される。詳細には、これらのヘルパープラスミドの1つは、遺伝子secY、secEおよびsecGを単一のオペロンとしてコードする。別のヘルパープラスミドは、tatA、tatBおよびtatCを単一のオペロンとしてコードする。トランスロコンをコードするこれらの両方のオペロンは、誘導可能なT5プロモーターの制御下にあり、したがって異種タンパク質発現を誘導するための大腸菌K12宿主での使用にそれらを適合させる。 本開示のさらに別の実施形態では、シグナルペプチド-組換え体タンパク質融合体ベクターおよびトランスロコンをコードするプラスミドで同時形質転換された、不完全な外膜を有する大腸菌株。この大腸菌株は、ペリプラズム間隙を組換え体タンパク質の標的にするだけでなく、外膜を通しての細胞外培地へのその漏出タンパク質の受動拡散も促進する。(実施例) 本発明がより完全に理解されるように、以下に準備的および試験的実施例を示す。これらの実施例は例示のみが目的であり、本発明の範囲を限定するものと決してみなすべきではない。(実施例1) マルトジェニックアミラーゼのクローニング 以下の実施例は、pET20b+へのマルトジェニックアミラーゼコード遺伝子のクローニング、および本発明に記載される7つの他のシグナルペプチド配列番号1、2、3、4、5、6および7による、pET20b+マルトジェニックアミラーゼ(MA)のpelBシグナルペプチドの置換を例示する。 NcoIおよびBamHI部位を運ぶプライマーを用いて、バシラス・ステアロサーモフィルスからのマルトジェニックアミラーゼ遺伝子を増幅した。プライマー配列は以下の通りである: MANcoIフォワードプライマー: 5'-gatcgtaccatgggaATGAGCAGTTCCGCAAGCGT-3'およびMABglIIリバースプライマー: 5'-gatcgtacagatctTCTAGACTAGTTTTGCCACG-3'。 次に、このPCR生成物をNcoIおよびBglII酵素で消化して、NcoIおよびBamHIで消化したpET-20b(+)ベクターにクローニングした。生じたライゲーション混合物をDH5α大腸菌細胞に形質転換させた。プラスミドは、正しいマルトジェニックアミラーゼコード遺伝子を確かめるために配列を検証し、次に、ゲル溶出によってpelBシグナルペプチドを除去するためにNdeIおよびNcoIで消化した。7つのシグナルペプチド(配列番号1、2、3、4、5、6および7)をNdeIおよびNcoIオーバーハングで合成し、このベクターにクローニングした。生じたベクターは、pET-20b(+)からのATG開始コドンによって定義される読み枠を保持していた(図2)。これらの7つのプラスミドを、DH5α大腸菌細胞に形質転換させた。プラスミドをDH5α大腸菌細胞から単離、検証し、次にBL21 DE3(IPTGを用いて異種遺伝子発現を誘導することができる産生株)を形質転換するために用いた。(実施例2) この実施例は、SDS-PAGEおよびマルトジェニックアミラーゼ活性度アッセイを用いる、異なるマルトジェニックアミラーゼシグナルペプチド融合体での誘導試験を例示する。 37℃、200rpmのインキュベーター振盪機に一晩保った、炭素源としてグルコース、および100ug/mlアンピシリンを追加した最少培地で、全8つのBL21(DE3)株を増殖させた。この培養物を1:100に希釈して、アンピシリンを含有する50mlの酵母抽出物培地を含む新鮮な250mlフラスコに入れ、200rpmの振盪機インキュベーター内にて37℃で増殖させた。600nmのODが0.6に到達したときに、0.1mM IPTGを培養物に加えた。次に、培養物を200rpm、26℃で16時間インキュベートした。誘導および未誘導(IPTGを加えなかったこと以外は誘導された培養物と同じ方法で増殖させた)の培養物を、3500rpmで15分間ペレット化した。10mM NaClを含有するpH5の試料緩衝液に、ペレットを再懸濁した。このペレットを超音波処理して可溶性タンパク質を放出し、細胞片をペレットから取り出し、上清をSDS-PAGEで分析した。同様に、培養物に1mM IPTGを加えることによって誘導を実行し、誘導温度は30℃に維持した。 0.1mM IPTGによる誘導および26℃で16時間の増殖の後、pAEV01、pAEV05、pAEV06およびpET-20b(+)構築物を運ぶ株は、12%SDS-PAGEでマルトジェニックアミラーゼの予想されるサイズである70kDaに目立ったタンパク質バンドを表した。pAEV06およびpAEV01でのマルトジェニックアミラーゼタンパク質レベルの誘導は、親ベクターのそれと同等で、pAEV05のそれは親より高かった(図3Aおよび図3B)。pAE04およびpAEV07を運ぶ株では、生成されたマルトジェニックアミラーゼはなかった。 pAEV03プラスミドを運ぶ株はトランケーションされたタンパク質の誘導を示し、pAEV02株はマルトジェニックアミラーゼの目立った漏出性発現を示し、すなわち、誘導の有る無しで生成されたマルトジェニックアミラーゼの量に差はなかった(図3Aおよび図3B)。 マルトジェニックアミラーゼタンパク質の局在化を判定する実験が実行される。これは、シグナルペプチド融合体の分泌性質を解明する。異なるシグナルペプチドとの融合は、対象の異なるタンパク質の発現分泌に異なって寄与することを、我々のデータは示唆している。 1mM IPTGによる誘導および30℃で6時間の増殖の後、pAEV01、pAEV02、pAEV04、pAEV05およびpET-20b(+)構築物を運ぶ株は、12%SDS-PAGEでマルトジェニックアミラーゼの予想されるサイズである70kDaに目立ったタンパク質バンドを表した(図4)。誘導後の異なるIPTG濃度および温度が、異種タンパク質の発現で重要な役割を演ずることをこのデータは示す。 超音波処理した上清を、グルコースオキシダーゼ法を用いるマルトジェニックアミラーゼ活性度の判定にもかけた。培養物を0.1mM IPTGで誘導したとき、親と比較してpAEV01構築物で、マルトジェニックアミラーゼ活性度に関してより高い倍率の誘導が観察された(図5A)。 培養物を1mM IPTGで誘導したとき、pAEV05およびpAEV01構築物で形質転換させた両株は、親と比較して、マルトジェニックアミラーゼ活性度に関してより高い倍率の誘導を示した(図5B)。SDS-PAGEでマルトジェニックアミラーゼ発現を示した他の構築物を運ぶ株は、親に類似した機能的マルトジェニックアミラーゼ活性度を示した(図5Aおよび図5B)。 pAEV01およびpAEV05の場合、親プラスミドと比較して非常により多い量の機能的マルトジェニックアミラーゼがペリプラズム間隙に向けられることを結果は示す。大腸菌ペリプラズム間隙へのマルトジェニックアミラーゼの局在化に関しては、pelBと比較してMalEおよびFhuDは向上したシグナルペプチドを表すと考えられる。 このように、本発明は、ヌクレオチド配列が効率的な翻訳を助けるように最適化された新規シグナルペプチドの力を利用する。これらの配列は、それらが、対象のタンパク質を大腸菌細胞の異なる細胞コンパートメントに導くことができるように選択される。したがって、本発明は、対象のタンパク質の分泌性発現のために可能な最良の組合せを判定するために試験することができる、7つの異なるシグナルペプチドのプラットホームを提供する。 発現ベクターを、任意選択でヘルパープラスミドと一緒に含む、膜不完全細胞である組換え体宿主細胞。 適する宿主細胞においてタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの発現および分泌を導くことが可能であり、分泌性シグナル配列、誘導可能なプロモーターおよび対象の遺伝子をさらに含む、請求項1に記載の発現ベクター。 SEC、TAT、SRP送り出し経路に属するトランスロコンまたはその組合せを同時発現する、請求項1に記載のヘルパープラスミド。 対象の遺伝子が原核生物および真核生物の遺伝子を含む、請求項2に記載の発現ベクター。 分泌性シグナル配列が、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8または配列番号9からなる群から選択される、請求項2に記載の発現ベクター。 原核生物である宿主細胞で用いられる、請求項2に記載の発現ベクター。 大腸菌またはその株である、請求項6に記載の単離された宿主細胞。 pAEV01、pAEV02、pAEV03、pAEV04、pAEV05、pAEV06またはpAEV07からなる群から選択されるプラスミドの少なくとも1つを含む、請求項2に記載の発現ベクター。 a)組換え体ベクターを得るステップと、 b)組換え体ベクターにより宿主細胞を形質転換するステップと、 c)任意選択でヘルパープラスミドにより宿主細胞を同時形質転換して組換え体細胞を得るステップとを含む、組換え体細胞を得る方法。 a)分泌性シグナル配列、誘導可能なプロモーターおよび対象の遺伝子を含む組換え体ベクターを得るステップと、 b)組換え体ベクターで宿主細胞を形質転換し、任意選択でヘルパープラスミドにより宿主細胞を同時形質転換するステップと、 c)組換え体ベクターを発現させ、細胞外の培地に組換え体ペプチドを分泌させるステップと、 d)任意選択で組換え体ペプチドを精製するステップとを含む、組換え体ペプチドを得る方法。 SEC、TAT、SRP送り出し経路に属するトランスロコンまたはその組合せを同時発現する、請求項9および10に記載のヘルパープラスミド。 発現ベクターが、pAEV01、pAEV02、pAEV03、pAEV04、pAEV05、pAEV06またはpAEV07からなる群から選択されるプラスミドの少なくとも1つを含む、請求項9および10に記載の方法。 発現ベクターが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8または配列番号9からなる群から選択されるコドン最適化分泌性シグナル配列を含む、請求項9および10に記載の方法。 誘導可能なプロモーターがT5プロモーターである、請求項10に記載の方法。 不完全な外膜を有し、シグナルペプチド-組換え体タンパク質融合体ベクターおよびトランスロコンをコードするプラスミドでさらに同時形質転換される、請求項7に記載の宿主細胞。 発現ベクター、組換え体細胞またはその組合せを含む、組換え体ペプチドを得るためのキット。 本発明は、大腸菌(E. coli)での組換え体DNA発現/分泌系に関し、前記系は、細胞外間隙への分泌をさらに助けるために、大腸菌のペリプラズム間隙への組換え体タンパク質のシグナルペプチドに基づく転位の能力を、大腸菌の不完全膜突然変異体に組み合わせたものである。本発明は、過度に発現される組換え体タンパク質の向上したペリプラズム分泌を促進するために、トランスロコンの発現を推進するためのヘルパープラスミドをさらに含む発現系にさらに関する。さらに、この系は、大腸菌での対象の特定のタンパク質の効率的な生成も促進する。 配列表