タイトル: | 公開特許公報(A)_アミロイドベータ凝集抑制剤 |
出願番号: | 2014148160 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | A61K 31/7008,A61K 31/7012,A61K 31/702,A61P 43/00,A61P 21/00,A23L 1/30 |
野口 悟 マリクダン メイ クリスティン 西野 一三 JP 2014224132 公開特許公報(A) 20141204 2014148160 20140718 アミロイドベータ凝集抑制剤 公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 803000056 特許業務法人前田特許事務所 110001427 野口 悟 マリクダン メイ クリスティン 西野 一三 JP 2009119272 20090515 A61K 31/7008 20060101AFI20141107BHJP A61K 31/7012 20060101ALI20141107BHJP A61K 31/702 20060101ALI20141107BHJP A61P 43/00 20060101ALI20141107BHJP A61P 21/00 20060101ALI20141107BHJP A23L 1/30 20060101ALI20141107BHJP JPA61K31/7008A61K31/7012A61K31/702A61P43/00 105A61P21/00A23L1/30 Z 1 1 2011513374 20100513 OL 33 4B018 4C086 4B018MD08 4B018MD09 4B018MD18 4B018MD27 4B018ME14 4C086AA01 4C086AA02 4C086EA02 4C086MA01 4C086MA04 4C086NA14 4C086ZA94 4C086ZB21 4C086ZC41 本発明は、アミロイドベータ凝集抑制剤に関する。 ミオパチー(筋疾患)の中でも、遠位型ミオパチー(DMRV)や遺伝性封入型ミオパチー(HIBM)等はGNE遺伝子の機能喪失型変異により生じることが知られ、15〜40歳で発症する常染色体劣性の疾患である。 GNE遺伝子は、N−アセチルノイラミン酸生合成経路の律速酵素UDP−GlcNAc2−エピメラーゼ/ManNAc−キナーゼをコードし(例えば、非特許文献1、2参照)、この酵素は、UDP−GlcNAcからManNAc、および、ManNAcからManNAc6−リン酸への2つの酵素反応を担っている。このため、ミオパチーに罹患した骨格筋細胞やその初代培養細胞においてはN−アセチルノイラミン酸量が減少することが報告されている(例えば、Noguchi, S. et al., J. Biol. Chem. 279 (12), 11402-11407, 2004; Nonaka, I. et al., Curr. Neurol. Neurosci. Rep. 5 (1), 61-65, 2005 参照)。 このようなGNE遺伝子の変異に起因するミオパチーに罹患した筋組織における病理学的特徴としては、縁取り空胞の形成、筋繊維の大小不同、核内封入体形成、βアミロイドタンパク質の沈着等が挙げられる。臨床病理学的には、前脛骨筋が特に侵されやすく、頸部屈筋群、傍脊柱筋、大腿後面の膝屈筋群も侵されやすい。症状が進行するにつれ、下腿後面の筋群や上肢筋も侵されるが、比較的後期まで大腿四頭筋が保たれる。 GNE遺伝子の変異に起因するミオパチーの筋萎縮に至るプロセスは明らかでなく、その解明と共に、効果的な治療法や治療薬の開発が待ち望まれている。 しかしながら、N−アセチルノイラミン酸を治療のために患者に投与することについては、その可能性を否定する知見が多く報告されている。例えば、N−アセチルノイラミン酸分子が酸性であるために、GNE遺伝子変異動物および正常動物において、細胞に取り込まれにくいことが報告されている(例えば、Datta, Biochemistry 13, 3987-3991, 1978; Harms and Reutter, Cancer Res. 34, 3165-3172, 1974; Hirschberg et al., Biochemistry 15, 3591-3599, 1976; Diaz and Varki, Anal. Biochem. 150, 32-46, 1985; Ferwerda et al., Biochem. Soc. Transactions 17, 744-745, 1989参照)。さらに、N−アセチルノイラミン酸の動物個体血中における半減期が大変短いこと(例えば、Nohle, U. et al., Eur. J. Biochem. 126, 543-548, 1982 参照)、そして、遊離N−アセチルノイラミン酸を投与した場合にガングリオシドにおけるN−アセチルノイラミン酸増加に特別の効果がないこと(例えば、Carlson, S. E. and House, S. G., J. Neutr. 116, 881-886, 2009 参照)等が報告されており、N−アセチルノイラミン酸を薬剤として投与して臨床学的効果を得ることは難しいと考えられている。そのため、医薬剤の有効物質として、N−アセチルノイラミン酸自体が検討されることはなかった(例えば、WO2008/150477 A2公報参照)。 本発明は、GNE遺伝子変異に起因するアミロイドベータの凝集を抑制する薬剤を提供することを目的とする。 本発明にかかる薬剤は、N−アセチルノイラミン酸、N-アセチルマンノサミン、及び、シアリルラクトースの少なくとも何れかを含有することを特徴とする、GNE遺伝子変異に起因するアミロイドベータ凝集抑制剤である。 本発明によれば、GNE遺伝子変異に起因するアミロイドベータの凝集を抑制する薬剤が得られる。本発明の一実施形態において、各種試薬存在下でDMRVモデルマウス由来筋管細胞を培養した場合のデスミン、WGA、SBA標識を示す顕微鏡写真である。本発明の一実施形態において、濃度の異なる各種試薬存在下でヒトDMRV患者由来筋管細胞を培養した場合のNeuAc量を示したグラフである。本発明の一実施形態において、各種試薬存在下でDMRVモデルマウス由来筋管細胞を培養した場合のNeuAc量を示したグラフである。本発明の一実施形態において、DMRVモデルマウスに各種試薬を投与した場合の生存率を示すグラフである。本発明の一実施形態において、DMRVモデルマウスに各種試薬を投与した場合の生存率を示すグラフである。本発明の一実施形態において、DMRVモデルマウスに各種試薬を投与した場合の筋組織中のNeuAc量を示すグラフである。本発明の一実施形態において、DMRVモデルマウスに40または400mg/kgのAc4ManNAcを投与した場合の、筋組織中のNeuAc量を示すグラフである。本発明の一実施形態において、DMRVモデルマウスに各種試薬を投与した場合の血中クレアチンキナーゼ活性を示すグラフである。本発明の一実施形態において、DMRVモデルマウスに各種試薬を投与した場合の走行距離を示すグラフである。本発明の一実施形態において、DMRVモデルマウスに各種試薬を投与した場合の走行距離を示すグラフである。本発明の一実施形態において、DMRVモデルマウスに各種試薬を投与した場合のぶら下がり時間を示すグラフである。本発明の一実施形態において、DMRVモデルマウスに各種試薬を投与した場合の、持久力テスト中にマウスが受けた電気刺激回数を示すグラフである。本発明の一実施形態において、DMRVモデルマウスに各種試薬を投与した場合の、持久力テスト中にマウスが受けた電気刺激回数を示すグラフである。本発明の一実施形態において、DMRVモデルマウスに各種試薬を投与した場合の腓腹筋断面積を示すグラフである。本発明の一実施形態において、DMRVモデルマウスに各種試薬を投与した場合の腓腹筋比収縮力を示すグラフである。本発明の一実施形態において、DMRVモデルマウスに各種試薬を投与した場合の腓腹筋比収縮力を示すグラフである。本発明の一実施形態において、DMRVモデルマウスに各種試薬を投与した場合のPt(等尺性収縮力)/筋断面積を示すグラフである。本発明の一実施形態において、DMRVモデルマウスに各種試薬を投与した場合のPt(等尺性収縮力)/筋断面積を示すグラフである。本発明の一実施形態において、DMRVモデルマウスに各種試薬を投与した場合の、ヘマトキシリン−エオシン染色(H−E)、酸性ホスファターゼ活性染色、抗アミロイド抗体(LC3)標識、コンゴーレッド染色した筋組織の顕微鏡写真である。本発明の一実施形態において、DMRVモデルマウスに各種試薬を投与した場合の抗βアミロイド抗体(Aβ1−40、Aβ1−42)標識、抗リン酸化タウ抗体標識した筋組織の顕微鏡写真である。本発明の一実施形態において、DMRVモデルマウスに各種試薬を投与した場合の、筋組織中の縁取り空胞数を示すグラフである。本発明の一実施形態において、DMRVモデルマウスに各種試薬を投与した場合の、筋組織中のアミロイド含有縁取り空胞数を示すグラフである。本発明の一実施形態において、DMRVモデルマウスに40または400mg/kgのAc4ManNAcを投与した場合の、ヘマトキシリン−エオシン染色(H−E)、Gomoriトリクローム変法染色、あるいは酸性ホスファターゼ活性染色した筋組織の顕微鏡写真である。本発明の一実施形態において、DMRVモデルマウスに40または400mg/kgのAc4ManNAcを投与した場合の、抗Lamp2抗体標識、抗βアミロイド抗体(Aβ1−42)標識、抗p62タンパク質抗体標識した筋組織の顕微鏡写真である。 以下、上記知見に基づき完成した本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されない。 実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.等の標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。 なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例等は、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図ならびに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。==化合物== まず、本発明に係る医薬剤、食品組成物、または食品添加物の製造に用いる化合物について詳細に説明する。(1)N−アセチルノイラミン酸 N−アセチルノイラミン酸の由来は制限されず、例えば、N−アセチルノイラミン酸を含む動物組織、培養細胞、哺乳動物のミルク、鶏卵等から周知の方法で単離、精製された天然由来のN−アセチルノイラミン酸であっても、化学的に合成されたN−アセチルノイラミン酸であってもよい。(2)N−アセチルノイラミン酸生合成経路においてN−アセチルマンノサミンより下流で生成する中間生成物 N−アセチルノイラミン酸生合成経路においてN−アセチルマンノサミンより下流で生成する中間生成物は、N−アセチルマンノサミン−6リン酸、あるいはN−アセチルノイラミン酸−9リン酸であることが好ましい。これらの中間生成物の由来は制限されず、例えば、動物組織や培養細胞等から当業者に周知の方法で単離、精製した天然由来の中間生成物であっても、化学的に合成した中間生成物であってもよい。(3)N−アセチルノイラミン酸誘導体及びN−アセチルマンノサミン誘導体N−アセチルノイラミン酸誘導体は、下記式1で表わされる。式中、XP(Pは1から6までの整数)はOあるいはSであり、RP(Pは2から6までの整数)は、当該RPに隣接して結合するXPがOの時、水素、アルカノイル、または、アルキルであり、当該RPに隣接して結合するXPがSの時、アルカノイル、または、アルキルであり、R1は、X1がOの時、水素、アルキル、または、アルカノイルアルキルであり、X1がSの時、アルキル、または、アルカノイルアルキルであり、R7は水素、アルカノイル、または、ヒドロキシアルカノイルである。ここで、当該RPに隣接して結合するXPとは、具体的にはR1、R2、R3、R4、R5、R6に対してそれぞれX1、X2、X3、X4、X5、X6である。なお、XP(Pは1から6までの整数)およびRP(Pは1から7までの整数)はそれぞれ独立に選択される。 N−アセチルマンノサミン誘導体は下記式2で表わされる。式中、XP(Pは1から4までの整数)はOあるいはSであり、RP(Pは1、3、4、5から選択される整数)は、当該RPに隣接して結合するXPがOの時、水素、アルキル、アルカノイルアルキル、または、アルカノイルであり、当該RPに隣接して結合するXPがSの時、アルキル、アルカノイルアルキル、または、アルカノイルであり、R2は水素、または、アルカノイルである。ここで、当該RPに隣接して結合するXPとは、具体的にはR1に対してX1、R3に対してX2、R4に対してX3、R5に対してX4である。なお、XP(Pは1から4までの整数)およびRP(Pは1から5までの整数)はそれぞれ独立に選択される。 なお、式1および2における、アルカノイル、アルキル、アルカノイルアルキル、および、ヒドロキシアルカノイルは低級であることが好ましい。 特記しない限り、アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニル等は直鎖および側鎖の両方を含む。「プロピル」のような分岐しない基は直鎖のみを含む。 以下に各R基の具体例を示すが、これらに限定されない。低級アルキルは、例えば(C1−C6)アルキルであることが好ましく、そのような低級アルキルまたは(C1−C6)アルキルは、具体的には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、セク(sec-)ブチル、ペンチル、3−ペンチル、ヘキシルが例示できる。(C3−C6)シクロアルキルは、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、あるいはシクロヘキシルが例示できる。(C3−C6)シクロアルキル(C1−C6)アルキルは、シクロプロピルメチル、シクロブチルメチル、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、2−シクロプロピルエチル、2−シクロブチルエチル、2−シクロペンチルエチル、2−シクロヘキシルエチルが例示できる。(C2−C6)アルケニルは、ビニル、1−プロペニル、2−プロペニル、1−ブテニル、2−ブテニル、3−ブテニル、1−ペンテニル、2−ペンテニル、3−ペンテニル、4−ペンテニル、1−ヘキセニル、2−ヘキセニル、3−ヘキセニル、4−ヘキセニル、5−ヘキセニルが例示できる。(C2−C6)アルキニルは、エチニル、1−プロピニル、2−プロピニル、1−ブチニル、2−ブチニル、3−ブチニル、1−ペンチニル、2−ペンチニル、3−ペンチニル、4−ペンチニル、1−ヘキシニル、2−ヘキシニル、3−ヘキシニル、4−ヘキシニル、5−ヘキシニルが例示できる。低級アルカノイルは、例えば、直鎖または分枝鎖(C2−C6)アルカノイルであることが好ましく、具体的には、アセチル、プロパノイル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイルが例示できる。ハロ(C1−C6)アルキルはヨードメチル、ブロモメチル、クロロメチル、フルオロメチル、トリフルオロメチル、2−クロロエチル、2−フルオロエチル、2,2,2−トリフルオロエチル、ペンタフルオロエチルが例示できる。ヒドロキシ(C1−C6)アルキルはヒドロキシメチル、1−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシエチル、1−ヒドロキシプロピル、2−ヒドロキシプロピル、3−ヒドロキシプロピル、1−ヒドロキシブチル、4−ヒドロキシブチル、1−ヒドロキシペンチル、5−ヒドロキシペンチル、1−ヒドロキシヘキシル、6−ヒドロキシヘキシルが例示できる。(C1−C6)アルコキシカルボニルは、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、ペントキシカルボニル、ヘキシルカルボニルが例示できる。(C2−C6)ヒドロキシアルカノイルは、グリコリル、ラクチル、ヒドロキシブタノイル、ヒドロキシペンタノイル、ヒドロキシヘキサノイルが例示できる。 これらのN−アセチルノイラミン酸誘導体およびN−アセチルマンノサミン誘導体の由来は特に制限されず、天然由来であっても、あるいは当業者に周知の方法で合成された各誘導体であってもよい。合成N−アセチルノイラミン酸誘導体である場合、合成に用いられる原料化合物は、所望のN−アセチルノイラミン酸誘導体が合成できる範囲内で特に制限されず、例えば、前述したいずれかのN−アセチルノイラミン酸を用いても、あるいは既に周知の方法で合成された他種のN−アセチルノイラミン酸誘導体を用いてもよい。また、合成N−アセチルマンノサミン誘導体である場合、合成に用いられる原材料化合物は、所望のN−アセチルマンノサミン誘導体が合成できる範囲内で特に制限されず、例えば、N−アセチルマンノサミンを用いても、あるいは既に周知の方法で合成された他種のN−アセチルマンノサミン誘導体を用いてもよい。(4)N−アセチルノイラミン酸含有化合物、N−アセチルノイラミン酸誘導体含有化合物、N−アセチルマンノサミン含有化合物、および、N−アセチルマンノサミン誘導体含有化合物 N−アセチルノイラミン酸含有化合物、N−アセチルノイラミン酸誘導体含有化合物、N−アセチルマンノサミン含有化合物、および、N−アセチルマンノサミン誘導体含有化合物は、上記のN−アセチルノイラミン酸、N−アセチルノイラミン酸誘導体、N−アセチルマンノサミン、あるいは、N−アセチルマンノサミン誘導体のいずれかを、その構造の一部として含む化合物であれば制限がなく、例えば天然由来のN−アセチルノイラミン酸含有糖であるシアリルラクトースや、N−アセチルノイラミン酸含有ペプチドであるカゼイングリコマクロペプチドやムチン、N−アセチルノイラミン酸含有糖脂質であるガングリオシド等が挙げられる。これらの化合物は、天然由来化合物であっても、あるいは、当業者に周知の方法で人工的に合成された化合物であってもよい。(5)分解酵素阻害物質 N−アセチルノイラミン酸の分解酵素阻害物質、N−アセチルマンノサミンの分解酵素阻害物質、あるいは、N−アセチルノイラミン酸生合成経路においてN−アセチルマンノサミンより下流で生成する中間生成物の分解酵素阻害物質は、細胞内に存在するN−アセチルノイラミン酸、N−アセチルマンノサミンや中間生成物の分解酵素の機能を阻害する物質であれば制限されない。N−アセチルノイラミン酸の分解酵素としては、例えばN−アセチルノイラミン酸ピルビン酸リアーゼが挙げられる。また、N−アセチルマンノサミンの分解酵素としては、例えば、GlcNAc2−エピメラーゼが挙げられる。N−アセチルマンノサミンより下流で生成する中間生成物として、例えばN−アセチルマンノサミン−6リン酸、あるいは、N−アセチルノイラミン酸−9リン酸が挙げられる。分解酵素阻害物質は、酵素の機能阻害作用を有する範囲内で制限されず、例えば、酵素をコードするDNAの配列に特異的なsiRNAのような、発現抑制物質であってもよい。siRNAの場合、当業者に周知の方法によって所望のsiRNAを合成することができる。あるいは、阻害物質は、酵素に結合することで機能を阻害する化合物であってもよく、N−アセチルマンノサミンの分解酵素の場合、例えばN−アセチルグルコサミニトール(GlcNAcol)やGlcNAcol誘導体のような化合物であってもよい。GlcNAcol誘導体の好適な例として、アセチル化N−アセチルグルコサミニトール(Ac5GlcNAcol)のような細胞透過性を有する誘導体が挙げられる。GlcNAcolやGlcNAcol誘導体は当業者に周知の方法で合成することができ、その由来は限定されない。また、N−アセチルノイラミン酸の分解酵素である細菌由来のアセチルノイラミン酸リアーゼ(ほ乳類では、N−アセチルノイラミン酸ピルビン酸リアーゼと呼ばれる)に対する阻害物質として、例えばN−アセチル−4−オキソ−ノイラミン酸が挙げられる。==医薬剤の製造方法== 本発明に係る医薬剤は、上記「化合物」に記載の、N−アセチルノイラミン酸、N−アセチルノイラミン酸生合成経路においてN−アセチルマンノサミンより下流で生成する中間生成物、N−アセチルノイラミン酸誘導体、N−アセチルマンノサミン誘導体、N−アセチルノイラミン酸含有化合物、N−アセチルノイラミン酸誘導体含有化合物、N−アセチルマンノサミン含有化合物、N−アセチルマンノサミン誘導体含有化合物、N−アセチルノイラミン酸の分解酵素阻害物質、N−アセチルマンノサミンの分解酵素阻害物質、および、前記中間生成物の分解酵素阻害物質からなる群より選択されるいずれか一つ、あるいは2つ以上の化合物の組み合わせを含有する。 本発明に係る医薬剤の剤形化には、当業者に周知の薬学的に許容される担体、希釈剤、腑形剤等の製剤用添加物が用いられる。その形態は本医薬剤を患者の患部に送達するために適切な剤形であれば特に特定されず、例えば、経口剤として、錠剤、カプセル、顆粒、散剤、シロップ、腸溶剤、徐放性カプセル、カシュー、咀嚼錠、ドロップ、丸剤、内用液剤、菓子錠剤、徐放錠、徐放性顆粒等に剤形化してもよい。また、注射剤に剤形化してもよい。あるいは、シップ剤、軟膏等の外用薬に剤形化してもよい。本発明に係る医薬剤には、上記製剤用添加物の他、異なる医薬組成物を配合することもできる。==治療用医薬剤の使用方法== 本発明に係る治療用医薬剤は、動物個体内で、細胞におけるN−アセチルノイラミン酸量を増加させる効果を有する。従って、本発明に係る治療用医薬剤は、細胞におけるN−アセチルノイラミン酸量が低下するために発症するいずれの疾患の治療あるいは予防のために用いることもでき、例えば、GNEタンパク質の機能低下に起因する疾患を治療対象とすることができる。ここで、GNEタンパク質の機能低下とは、GNEタンパク質が、その標的タンパク質に対して持つべき機能が完全に失われている、あるいは、低下している場合の両方を含む。この場合、その原因は特に制限されず、例えば、GNEタンパク質発現過程の障害によってタンパク質が発現しなかったり、または翻訳後のタンパク質が正常に機能できない構造に変性していたり、阻害や修飾等の障害によってタンパク質が正常に機能していなくてもよく、その原因は、GNE遺伝子の変異が生じているような遺伝的要因であっても、阻害物質などによる外部要因であってもよい。このような、GNE遺伝子の変異に起因して生じる疾患として、例えば、糸球体腎炎、間質性腎炎、ネフロンろう、ネフローゼ症候群をはじめとする腎機能障害、ミオパチー、心筋症が挙げられるが、これらに限定されない。なお、本医薬剤の投与対象となる動物に制限はないが、ヒトまたはヒト以外の脊椎動物であることが好ましい。 本発明に係る治療用医薬剤は、安全とされている投与量の範囲内において、必要量を、適した方法で投与することができる。本発明に係る医薬剤の投与量は、剤形の種類、投与方法、患者等投与対象の年齢や体重、患者等投与対象の症状等を考慮して、最終的には医師または獣医師の判断により適宜決定することができる。==食品組成物== 本発明に係る食品組成物は、上記「化合物」に記載の、N−アセチルノイラミン酸誘導体、N−アセチルマンノサミン誘導体、N−アセチルノイラミン酸の分解酵素阻害物質、N−アセチルマンノサミンの分解酵素阻害物質、および、N−アセチルノイラミン酸生合成経路においてN−アセチルマンノサミンより下流で生成する中間生成物の分解酵素阻害物質からなる群より選択されるいずれか一つあるいは2つ以上の化合物の組み合わせを含有する。 本発明に係る食品組成物は、任意の所望成分を配合することができる。例えば、ビタミンE、ビタミンC等のビタミン類、乳化剤、緊張化剤、緩衝剤、溶解補助剤、防腐剤、安定化剤、抗酸化剤等であってもよく、あるいは、異なる食品組成物であってもよい。本発明に係る食品組成物の用途は特に限定されないが、例えば、食品、栄養補助食品、サプリメントなどを製造するための食品原料として、あるいは、食品添加物として使用することができる。この際、本食品組成物を含有する食品の製造方法は特に制限されず、当業者が適宜選択することができる。なお、これらの食品に含まれる食品組成物の割合は特に制限されない。また、本発明に係る食品組成物を含む食品は、後述の食品添加物を含んでいてもよい。==食品添加物== 食品添加物とは、食品の製造の過程において又は加工若しくは保存の目的で、食品に添加、混和、浸潤その他の方法によって使用するものをいう。本発明に係る食品添加物は、上記「化合物」に記載の、N−アセチルノイラミン酸、N−アセチルノイラミン酸生合成経路においてN−アセチルマンノサミンより下流で生成する中間生成物、あるいは、N−アセチルノイラミン酸含有化合物から選択されるいずれか一つ、あるいは2つ以上の組み合わせを含有する。本発明の食品添加物に含有されるこれらの化合物は、天然物から精製された化合物、あるいは化学的に合成された化合物である。本食品添加物中のこれらの化合物の総含有量は50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。 本発明に係る食品添加物には、上記化合物以外に任意の所望成分を配合することができる。例えば、ビタミンE、ビタミンC等のビタミン類、乳化剤、緊張化剤、緩衝剤、溶解補助剤、防腐剤、安定化剤、抗酸化剤等であってもよく、あるいは、異なる食品添加物であってもよい。ただし、食品添加物として適さない成分、例えば、食品に加工した時点での添加物濃度において、その食品を摂取する動物に対して毒性を有する成分等は、本食品添加物には配合できない。 本発明に係る食品添加物の用途は特に限定されないが、例えば、下記製造方法によって製造される食品などに添加し、食品添加物を含有する食品を製造することができる。==食品添加物含有食品の製造方法== 本発明に係る食品添加物含有食品は、製造工程で本発明に係る食品添加物が添加されて製造される。食品添加物を添加するのは、食品製造工程において、どの段階でも良く、製造する食品の種類に応じて当業者が適宜決定できる。また、食品に添加する食品添加物の量は、製造された食品を摂取する動物における、食品添加物の必要量とその食品の摂取量とから割り出すことができ、当業者が適宜決定することができる。ただし、N−アセチルノイラミン酸、N−アセチルノイラミン酸生合成経路においてN−アセチルマンノサミンより下流で生成する中間生成物、あるいは、N−アセチルノイラミン酸含有化合物の濃度が、製造された食品中10%以上になるように食品添加物を添加することが好ましい。また、本発明に係る食品添加物含有食品は、前述の食品組成物を含んでいてもよい。==食品組成物を含有する食品および食品添加物含有食品== 本発明に係る、食品組成物を含有する食品、あるいは、食品添加物含有食品の形態として、菓子類、調味料、嗜好性食品、飲料等の一般的な食品を例示できる。具体的形態としては、クッキー、ビスケット、キャンディ、ガム、ゼリー等の固形または半固形嗜好食品類、果汁、茶、コーヒー、清涼飲料等の嗜好飲料類、パン、麺類等の主食系食品類、スープ、カレー、シチュー、各種ソース等の副食系食品類、各種風味、調味料類とすることができる。ここで、本発明に係る食品には、栄養補助食品、機能性食品、特定保健用食品、経管栄養剤等も含まれる。また、上記の本発明に係る医薬剤と同様の剤形をとってもよい。 本発明に係る食品組成物あるいは本発明に係る食品添加物含有食品を摂取する動物は特に制限されないが、ヒトまたはヒト以外の脊椎動物であることが好ましく、例えば、本発明に係る医薬剤による治療対象となる疾患に罹患する患者であってもよい。 本発明に係る食品組成物を含有する食品、および、本発明に係る食品添加物含有食品は、民間薬、機能性食品、健康食品、栄養補助食品などとして、安全とされている摂取量の範囲内において、ヒトまたはヒト以外の脊椎動物が、必要量を摂取することができる。本発明に係る食品の摂取量は、食品の種類、摂取者の年齢や体重を考慮して決定することができるが、例えば、摂取者が何らかの疾患に罹患している場合には、その疾患の種類や症状等を考慮して、適宜決定することが好ましい。なお、この食品用途では、食品に、その効果を有する旨の表示を付すことが好ましく、その表示例として、細胞におけるN−アセチルノイラミン酸量を上昇させるために用いられるものである旨、あるいはGNEタンパク質の機能低下に起因する疾患の症状を改善するために用いられるものである旨、などが挙げられるが、その表示は食品の効果を表す表示であればよく、これらの例には限定されない。[実験方法]==DMRVヒト患者== DMRVヒト患者は、GNE遺伝子変異検索によってDMRVに罹患していることが確認された成人患者である。(患者の人数:42例、発症年齢:20〜30歳、性別:男女)国立精神・神経センターで承認されたプロトコールに従って、インフォームドコンセントを行ったこれらの患者ボランティアに局所麻酔を施し、骨格筋(上腕二頭筋、前頚骨筋)をバイオプシにより採取した。==DMRVモデルマウス== DMRVモデルマウスは、特開2007−312641に記載されているGNE(−/−)hGNED176V−Tgを用いた。また、対照として、GNE遺伝子変異を有さない同腹正常個体を用いた。本実施例に用いたマウスは、水と餌を自由に摂取し、餌に含まれる、平均14mg/kg体重/日のN−アセチルノイラミン酸化合物を摂取している。==試薬== N−アセチルノイラミン酸(NeuAc)およびN−アセチルマンノサミン(ManNAc)はナカライテスク社より購入した。ペンタ−0−アセチル−N−アセチルノイラミン酸(Ac5NeuAc)、ペンタ−0−アセチル−N−アセチルノイラミン酸メチルエステル(Ac5NeuAc−Me)は長良サイエンス社より購入した。シアリルラクトース(NeuAcα2−3Galβ1−4Glc)はSigma-Aldrich 社より購入した。テトラ−0−アセチル−N−アセチルマンノサミン(Ac4ManNAc)はNZP社より購入した。ペンタ−0−アセチルN−アセチルグルコサミニトール(Ac5GlcNAcol)は、N−アセチルグルコサミニトール(Marker Gene Technologies 社より購入)を用い、Luchanskyら(J. Biol. Chem. 278, 8035-8042, 2003)の方法に従い合成した。具体的には、0.5gのN−アセチルグルコサミニトールを5mlのピリジンに溶解後、2.5mlの無水酢酸を加えて、一晩、撹拌して反応させた。溶媒を蒸発させ、残渣をクロロホルムに溶解後、クロロホルム相を1.0M塩酸、固体炭酸水素ナトリウム、飽和食塩水で洗った。クロロホルム相を蒸発乾固した後、エタノールに溶解し、HPLCにて生成した生成物をエタノールに溶解し、−20℃で保存した。==筋管細胞の初代培養細胞の調製== 上記DMRVヒト患者、あるいは、モデルマウスから採取した骨格筋組織をPBSまたはHank’s平衡塩中で、軽く洗浄した後、0.25%トリプシンで5分間処理した。眼科用ハサミを用いて組織を数ミリ大に細かく刻み、0.4%コラゲナーゼII/0.25%トリプシンで30分間37℃で消化した後静置し、上清を回収した。沈殿を再び上記酵素液で処理した。静置後、沈殿をDMEM-Ham’sF−12培地に十分懸濁させた。この組織液をナイロンメッシュに通すことにより組織を除去し、洗液と上記上清を合わせて、遠心し、細胞を回収した。このようにして得られた細胞を、100mm径プラスチックディッシュあたり106個の細胞密度でDMEM−Ham’sF−12培地に播種し、これを37℃、5%CO2環境下で4〜7日培養した。==HPLC法によるNeuAcおよびNeuGc量測定== 試料が培養細胞である場合、細胞をPBSにて3回洗浄した後、400μlの50mM 硫酸を加え、80℃、60分間インキュベートし、加水分解によってNeuAcおよびNeuGcを遊離させた。試料が組織片である場合、組織を凍結後、エアハンマーを用いて粉砕し、KCl−トリス溶液中でホモジナイズした。沈殿を、再度KCl−トリス溶液で洗浄後、50mM 硫酸中で1時間80℃に加熱することにより加水分解し、NeuAcおよびNeuGcを遊離させた。このようにNeuAcおよびNeuGcを遊離させた試料中に、7mmol 1,2-Diamino-4,5-methylenedioxybenzene, dihydrochloride(MDB、同人化学社)溶液(15.8 mg MDB、48.8 mg Na2S2O4、735μl 2−メルカプトエタノールを蒸留水に溶解し、10mlとした)を400μl添加し、60℃で2.5時間反応させた。このようにして生成した蛍光誘導体をHPLC(日本分光)で測定した。この際、標準として、0.05〜5nmol/μlのNeu5AcとNeu5Gcスタンダードを用いた。組織からのタンパク質量は、Bio-Rad Protein Assayキット(Bio-Rad Laboratories 社)を用いて測定した。[実施例1] 本実施例では、NeuAc、NeuAc誘導体、NeuAc生合成経路においてManNAcより下流で生成する中間生成物が筋管細胞の初代培養細胞においてシアリル化糖化合物を増加させることを示す。==試薬の投与== 上記DMRVモデルマウス由来筋管細胞の初代培養細胞の培地に、試薬を加え、それぞれ最終濃度が5mM ManNAc、5mM NeuAc、5mM Ac5NeuAc、0.5mM Ac5NeuAc−Me、0.2mM Ac4ManNAcになるよう調製した。その後、さらに3日間培養を続けた。==組織学的NeuAc検出方法== 各試薬の存在下で培養した細胞を、4%パラホルムアルデヒドで15分間、室温で固定し、氷上で30分間0.05%サポニン処理した。処理後の細胞を、筋管細胞のマーカーである抗デスミン抗体(カタログ番号69−181、ICN Pharmaceuticals 社)で検出し、DAPI(和光純薬)で対比染色した。二次抗体として、Alexa Fluor 568 標識抗体(Invitrogen 社)を用い、30分間室温でインキュベートした。さらに、ビオチン標識SBAレクチン(生化学工業株式会社)、あるいは、ビオチン標識WGAレクチン(生化学工業株式会社)で標識した。さらに、FITC標識アビジン(Vector 社)で30分間室温でインキュベートし、ビオチン標識各レクチンを蛍光標識した。なお、SBAは糖鎖末端構造におけるGalNAc構造を認識し、WGAはシアル酸クラスター構造を認識し、このシアル酸にはNeuAcが含まれる。これらの標識した初代培養細胞は、共焦点レーザースキャン蛍光顕微鏡(Olympus 社)で観察した。 図1に示すように、未処理群の初代培養細胞においては、デスミン陽性筋管細胞は、WGA陰性、SBA陽性であった。すなわち、これらの筋管細胞では、糖鎖末端構造におけるシアル酸による修飾が減少し、GalNAcによる修飾が増加していることを示す。一方、各試薬を培地に加えて培養したいずれの群の筋管細胞においても、未処理群と比較してWGAによる標識が増加し、逆に、SBAによる標識が減少した。すなわち、筋管細胞のシアル酸修飾が増加していた。 以上の結果は、本実施例で培地に加えたいずれの試薬化合物も、DMRVモデルマウス由来の筋管細胞における糖鎖末端構造のシアル酸修飾を増加させる効果のあることを示している。よって、これらの試薬化合物は、細胞におけるシアル酸修飾量を増加させる効果がある。[実施例2] 本実施例は、NeuAc、NeuAc誘導体、ManNAc誘導体、NeuAc生合成経路においてManNAcより下流で生成する中間生成物が投与量依存的なNeuAc増加効果を有することを示す。==試薬の投与== 上記DMRVヒト患者由来筋管細胞の初代培養細胞の培地に、最終濃度が、0.005、0.05、0.5、あるいは、5mMになるように、ManNAc、NeuAc、あるいは、Ac5NeuAcを加えた。また、高濃度で細胞毒性を有するAc4ManNAcは、最終濃度が0.0002、0.002、0.02あるいは0.2mMになるように加えた。陰性コントロール群の細胞には、GalNAcを0.005、0.05、0.5、あるいは、5mMになるように加えた。その後、さらに3日間培養を続けた。上記HPLC法に従い、この培養細胞のNeuAc量を測定した(N=3)。 図2に示すように、ManNAc、NeuAc、および、Ac5NeuAcはその用量に依存して、細胞のNeuAc量を増加させる効果を示した。また、Ac4ManNAcは、低濃度域で同様に、用量依存的なNeuAc量増加効果を示した。 以上の結果は、ManNAc、NeuAc、Ac5NeuAc、および、Ac4ManNAcの、DMRV筋管細胞におけるNeuAc量増加効果が用量依存的であることを示す。[実施例3] 本実施例は、GalNAc2−エピメラーゼ阻害剤がManNAcによるNeuAc量増加効果を増大させることを示す。==試薬の投与== 上記DMRVモデルマウス由来筋管細胞の初代培養細胞の培地に、ManNAcを最終濃度10mM、および、Ac5GlcNAcolを最終濃度100μMあるいは500μMになるように添加し、3日間培養した。対照群の培養細胞の培地には、10mMグルコース(Glc)のみを添加した。上記HPLC法に従い、この培養細胞のNeuAc量を測定した(N=3)。 図3に示すように、DMRVモデルマウス由来筋管細胞では、対照群と比較して、ManNAcを添加した場合にNeuAc量が増加し、ManNAcに加えて100あるいは500μM Ac5GlcNAcolを添加した場合にNeuAc量はさらに増加した。 以上の結果は、NeuAc生合成の中間生成物、および、その中間生成物の分解酵素阻害剤が筋管細胞のNeuAc量を増加させる効果を有することを示す。さらに、中間生成物と、その分解酵素阻害剤を共に用いると、そのNeuAc増加効果が増大することを示す。[実施例4] 本実施例は、ManNAc、NeuAc、NeuAc生合成経路の中間生成物、NeuAc誘導体、ManNAc誘導体、NeuAc含有化合物がDRVMモデルマウスの病状および生存率を改善することを示す。==薬剤投与== 11〜15週齢から56〜58週齢にかけて、DMRVモデルマウスに対し、飲水に溶解したManNAc(N=6)、NeuAc(N=5)またはシアリルラクトース(N=7)を20mg/kg体重/日の用量で43〜45週間投与した。また、同年齢のDMRVモデルマウスに対し、飲水に溶解したAc4ManNAcを40mg(N=5)あるいは400mg/kg体重/日(N=4)の用量で43〜47週間投与した。プラセボ群のマウスには、薬剤無添加の飲水を与えた。 上記薬剤投与期間中、定期的に体重測定、生存率確認、血液採取(投与開始0、25、49日後、およびその後28日毎)、ぶら下がりテスト(投与開始0、49日後、およびその後56日毎)を行い、投与終了時に生存していた個体(ManNAc投与群:N=5、NeuAc投与群:N=5、シアリルラクトース群:N=6)にはトレッドミルテストを行った後、筋組織を摘出し、筋収縮テスト、NeuAc量測定、筋組織病理観察を行った。==血中クレアチンキナーゼ活性測定== 薬剤投与期間中、マウスの尾から定期的に血液採取を行った。この血液から遠心分離によって血清を調製し、デタミナーCPK―Lキット(協和メデックス 社)によって血中クレアチン活性を測定した。また、Titan Gel Isoenzyme kit(Helen Laboratories 社)を用いて血清を電気泳動し、クレアチンキナーゼを確認した。なお、クレアチンキナーゼは、激しい運動や筋疾患によって筋繊維が障害を受けた際に血中に流出し、血中濃度が上昇することが知られている。==ぶら下がりテスト== 高さ50cmの筒の上に、直径約0.5mmの針金でできた6mm格子の金網を載せた。この金網にマウスを逆さにつかまらせ、落下するまでの時間を計測した。一個体につき3回ずつ試験した。==トレッドミルテスト== マウスを装置に馴化させるため、一週間前からトレーニングを開始した。この馴化期間中、7度の勾配を5〜15m/分の速度で1日当たり30分、合計7日間、マウスを走行させた。本試験においては、運動能力テストとして、初速度20m/分から1分毎に10m/分ずつ加速していき、マウスが走行できなくなるまでの積算走行距離を測定した。持久力テストとして、7度の勾配を20m/分の速度でマウスを60分間走行させた後、さらに3分間走行させ、この3分間にマウスが走行レーン最後部の刺激グリッドから受けた電気刺激数を計測した。==筋収縮テスト== マウスにペントバルビタールナトリウム(40mg/kg体重)を腹腔内投与して麻酔し、前脛骨筋と腓腹筋の連続した筋組織を単離した。この単離筋組織の、末端の腱と脛骨を糸で縛り、各糸の端をそれぞれ糸吊管(筋長制御装置)と、アイソトニックトランスデューサ(TB−651T(腓腹筋用)、TB−653TD−112S(前脛骨筋用)、日本光電社)に垂直に接続した。筋組織を乳酸リンガー液(95%O2、5%CO2)中に設置し、電気刺激装置(SEN−3301、日本光電)および増幅器(PP−106H、日本光電)を用いて400μsの単収縮刺激を与えながら筋組織を伸長させ、最大収縮力が得られる長さ(L0)、および、その時の収縮力(等尺性収縮力:Pt)を測定した。さらに、筋組織を収縮力の得られる長さ(L0)に保ったまま電気刺激を3msに低下させた上で、10〜1000Hzで300〜600回の反復刺激を2分以上の間隔で与えた際の最大収縮力(P0)を決定した。この測定後、筋組織の平均断面積(CSA:筋重量/L0)を算出した。==筋組織病理観察== 上記筋収縮テストに用いた腓腹筋を液体窒素で冷却したイソペンタン中で凍結させ、クリオスタッドで6μm厚の凍結切片を作製した。この切片をスライドガラスにマウントし、ヘマトキシリン−エオシン(H−E)染色、酸性ホスファターゼ活性染色(Malicdan et al. Method. Enzymol. 453, 379-396, 2009 参照)、あるいはGomoriトリクローム変法染色(Malicdan et al. Method. Enzymol. 453, 379-396, 2009 参照)を隣接切片において行った。これらの切片を光学顕微鏡下で観察した。また、同様にして作製した10μm厚の凍結切片を4%パラホルムアルデヒドで固定後、コンゴーレッド染色し、蛍光顕微鏡下で観察した。 また、上記と同様に作成した6μm厚の凍結切片をアセトンで固定し、切片をブロッキング溶液(5%正常ヤギ血清または2%カゼイン添加PBS)でブロックした。抗オートファジーマーカータンパク質LC3ウサギポリクローナル抗体(NB100-2220、Novus Biologicals 社、100倍希釈)、抗βアミロイドウサギポリクローナル抗体(Aβ1−40、AB5074P、Chemicon 社、100倍希釈)、抗βアミロイドウサギポリクローナル抗体(Aβ1−42、AB5078P、Chemicon 社、100倍希釈)、抗リン酸化タウマウスモノクローナル抗体(90206、Innogenetics 社、100倍希釈)、抗アミロイドマウスモノクローナル抗体(6E10、Covance 社、400倍希釈)、抗p62タンパク質ウサギポリクローナル抗体(PW9860、Biomol 社、500倍希釈)、または、抗リソソーム膜タンパク質2(Lamp2)ウサギポリクローナル抗体(ABL-93、Developmental Studies Hybridoma Bank at the University of Iowaより入手、100倍希釈)と1時間、室温でインキュベートした。二次抗体としてAlexa Fluor 488または568標識抗ウサギ/マウスIgG(H+L)(Molecular Probes 社)を適宜用いた。これらの免疫染色プレパラートは蛍光顕微鏡下で観察した。なお、コンゴーレッド染色とLC3による標識は隣接切片において行った。 なお、ミオパチーに罹患した患者の筋組織で見られる縁取り空胞は酸性ホスファターゼ陽性であることが知られる。DMRVの骨格筋繊維内にはアミロイドタンパク質が蓄積し、コンゴーレッドはアミロイドを認識して蛍光を発する。タウタンパク質はアミロイドβタンパク質によってリン酸化される。GNE遺伝子の変異に起因するミオパチーでは、Lamp2タンパク質が局在するリソソーム性の小胞が蓄積することが知られる。また、p62タンパク質はポリユビキチン蛋白質を認識するとともに、LC3に直接結合して、ポリユビキチン化蛋白質の蓄積部位でオートファジーを誘導することが知られるが、ミオパチー罹患筋組織ではアミロイドとの共局在を示す。==縁取り空胞形成計数== 100μm間隔で作製した10μm厚のH−E染色した病理切片6枚において、筋肉組織断面全体に観察される縁取り空胞数を計数した。また、アミロイド陽性タンパク質デポジットの計数のために、100μm間隔で作製した10μm厚切片6枚における、筋肉組織断面全体に観察される抗アミロイド抗体(6E10)標識デポジットが存在する細胞数を計数した。 図4に示すように、DMRVモデルマウスの生存率は、ManNAc、NeuAc、およびシアリルラクトース投与群において、プラセボ群と比較して有意に上昇した。また、図5に示すように、Ac4ManNAc投与群のDMRVモデルマウスにおいても、プラセボ群と比較して生存率が上昇した。 筋組織のNeuAc量は、プラセボ群、ManNAc、NeuAc、およびシアリルラクトース投与群で測定した。図6に示すように、プラセボ群のDMRVモデルマウスと比較し、ManNAc、NeuAc、およびシアリルラクトース投与群においてNeuAc量が有意に増加していた。 また、40mg/kgまたは400mg/kgのAc4ManNAc投与群においても筋組織のNeuAc量を測定した。図7に示すように、DMRVモデルマウスにおける筋組織のNeuAc量は、プラセボ群のDMRVモデルマウスに比較し、400mg/kgのAc4ManNAc投与群において有意に増加していた。 図8は各マウスの血中クレアチンキナーゼ活性を示す。ManNAc、NeuAc、およびシアリルラクトース投与群において、プラセボ群と比較し、有意な活性低下が示された。 また、図9および図10は、運動能力テストにおける各群マウスの積算走行距離を示す。プラセボ群と比較し、ManNAc、NeuAc、およびシアリルラクトース投与群で、積算走行距離が有意に増加し、運動能力の改善を示した(図9)。また、Ac4ManNAcを400mg/kg投与したDMRVモデルマウスでは、プラセボ群と比較して、有意に積算走行距離が増加し、運動能力の改善を示した(図10)。 図11に示すように、プラセボ群と比較し、ManNAc、NeuAc、およびシアリルラクトース投与群で、マウスのぶら下がり時間が増加した。 図12、図13は持久力テストにおける、3分間の電気刺激数を示している。ManNAc、NeuAc、およびシアリルラクトース投与群のDMRVモデルマウスでは、プラセボ群と比較して有意に電気刺激数が減少し、持久力の改善を示した(図12)。さらに、Ac4ManNAcを40mgあるいは400mg/kg投与した群のDMRVモデルマウスにおいても、プラセボ群と比較して、有意に電気刺激数が減少し、持久力の改善を示した(図13)。 図14、図15に示すように、ManNAc、NeuAc、およびシアリルラクトース投与群のDMRVモデルマウスにおいては、プラセボ群と比較して、腓腹筋断面積および腓腹筋比収縮力(筋断面積当たりのP0)が有意に増加した。また、図16に示すように、Ac4ManNAc40mgおよび400mg/kg投与群のDMRVモデルマウスにおいても、プラセボ群と比較して腓腹筋比収縮力が有意に増加した。さらに、図17および図18に示すように、筋断面積当たりのPtは、ManNAc、NeuAc、およびシアリルラクトース投与群(図17)Ac4ManNAc400mg/kg投与群(図18)のDMVRモデルマウスにおいてプラセボ群と比較して有意に増加した。 ManNAc、NeuAc、およびシアリルラクトース投与群のDMRVモデルマウス筋組織の病理観察の結果を図19および20に示す。図19Aに示すように、プラセボ群のDMRVモデルマウスにおいては、縁取り空胞(矢印)および筋細胞萎縮(矢じり)が観察でき、組織中で高頻度に酸性ホスファターゼ活性染色陽性部位が認められた。一方で、ManNAc、NeuAc、およびシアリルラクトース投与群においては、縁取り空胞や筋細胞萎縮は観察されず(図19E、I、M)、酸性ホスファターゼ活性染色は陰性であった(図19F、J、N)。さらに、DMRVの骨格筋繊維はアミロイドタンパク質を蓄積することが知られ、プラセボ群では各抗アミロイド抗体(LC3、Aβ1−40、Aβ1−42)による標識が観察されたが(図19C、図20A、B)、これに比較して、ManNAc、NeuAc、およびシアリルラクトース投与群では顕著に標識が減少した(図19G、K、O、図20D、E、G、H、J、K)。同様に、アミロイドを認識するコンゴーレッド染色によって、プラセボ群にのみ蛍光標識が認められた(図19D、H、L、P)。また、抗リン酸化タウ抗体による標識は、プラセボ群のみで観察された(図20C、F、I、L)。以上の病理観察の結果は、DMRVモデルマウスの病理組織に認められる、縁取り空胞形成、筋細胞萎縮、アミロイド蓄積等の症状が、ManNAc、NeuAc、およびシアリルラクトース投与群において改善したことを示している。 図21は、ManNAc、NeuAc、およびシアリルラクトース投与群においては、プラセボ群と比較して、有意に縁取り空胞数が減少したことを示す。また、図22に示すように、アミロイド陽性細胞数は、プラセボ群と比較して、ManNAc、NeuAc、およびシアリルラクトース投与群において有意に減少した。 40mg/kgまたは400mg/kgのAc4ManNAc投与群のDMRVモデルマウスにおける筋組織の病理観察の結果を図23および24に示す。プラセボ群のDMRVモデルマウスにおいては、図19Aで観察されたのと同様に、H−E染色またはGomoriトリクローム変法染色した組織で縁取り空胞および筋細胞萎縮が認められた(図23A、B)。また、組織中に高頻度で酸性ホスファターゼ活性染色陽性部位が認められた(図23C)。40mg/kgAc4ManNAc投与群では、プラセボ群に比較して縁取り空胞や筋委縮は著しく低頻度であったが(図23D、F)、酸性ホスファターゼ活性染色陽性部位が散在的に認められた(図23E)。一方、400mg/kgAc4ManNAc投与群では、縁取り空胞および筋細胞萎縮は認められず(図23G、H)、酸性ホスファターゼ活性染色は陰性であった(図23I)。プラセボ群のDMRVモデルマウスの骨格筋では、Lamp2、βアミロイド(Aβ1−42)、およびp62タンパク質が陽性であった(図24A、B、C)。Lamp2については、40mg/kgのAc4ManNAc投与群のDMRVモデルマウスにおいて大変弱い染色が認められたが、400mg/kgのAc4ManNAc投与群では陰性であった。Aβ1−42、p62タンパク質は、40および400mg/kgのAc4ManNAc投与群のいずれのDMRVモデルマウスにおいても陰性であった。このように、DMRVモデルマウスの病理組織に認められる、縁取り空胞形成、筋細胞萎縮、アミロイド蓄積、繊維状構造等の症状が、Ac4ManNAc投与群において改善したことが示された。 以上の結果は、DMRVに罹患する個体に、ManNAc、NeuAc、NeuAc生合成経路の中間生成物、NeuAc誘導体、ManNAc誘導体、NeuAc含有化合物を投与することによって、疾患を有する筋組織の症状改善、個体の運動能力回復、および、致死率改善の効果が得られることを示している。 本発明により、GNEタンパク質の機能低下に起因する疾患の治療用医薬剤、食品組成物、および食品添加物を提供することができる。 N−アセチルノイラミン酸、N-アセチルマンノサミン、及び、シアリルラクトースの少なくとも何れか1つを含有することを特徴とする、GNE遺伝子変異に起因するアミロイドベータ凝集抑制剤。 【課題】本発明は、GNE遺伝子変異に起因するアミロイドベータの凝集を抑制する薬剤を提供することを目的とする。【解決手段】本発明に係る治療用医薬剤は、細胞におけるN−アセチルノイラミン酸量を増加させる効果のある化合物を含むことを特徴とする。治療用医薬剤に含有される化合物として、N−アセチルノイラミン酸、N−アセチルノイラミン酸生合成経路においてN−アセチルマンノサミンより下流で生成する中間生成物、N−アセチルノイラミン酸誘導体、N−アセチルマンノサミン誘導体、N−アセチルノイラミン酸含有化合物、N−アセチルノイラミン酸誘導体含有化合物、N−アセチルマンノサミン含有化合物、N−アセチルマンノサミン誘導体含有化合物、N−アセチルノイラミン酸の分解酵素阻害物質、N−アセチルマンノサミンの分解酵素阻害物質、および、前記中間生成物の分解酵素阻害物質等が挙げられる。【選択図】図1