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タイトル:公開特許公報(A)_ファブリー病の発症危険度を判定する方法及びマーカー
出願番号:2014115488
年次:2015
IPC分類:G01N 33/92


特許情報キャッシュ

末岡 英明 市原 準二 櫻庭 均 兎川 忠靖 月村 考宏 JP 2015230199 公開特許公報(A) 20151221 2014115488 20140604 ファブリー病の発症危険度を判定する方法及びマーカー 大日本住友製薬株式会社 000002912 学校法人 明治薬科大学 505082350 長谷川 芳樹 100088155 清水 義憲 100128381 沖田 英樹 100140578 末岡 英明 市原 準二 櫻庭 均 兎川 忠靖 月村 考宏 G01N 33/92 20060101AFI20151124BHJP JPG01N33/92 Z 13 OL 15 2G045 2G045AA25 2G045CA26 2G045DA60 2G045FB06 本発明は、ファブリー病の発症危険度を判定する方法に関する。 ファブリー病は、α−ガラクトシダーゼA(α−GAL)の酵素活性が欠損又は低下することによって生じる、先天性の糖脂質代謝異常症である。α−GALは、糖脂質又は糖タンパク質の非還元末端のα−ガラクトシド結合を切断する反応を触媒する酵素であり、生体内では糖脂質の分解を担っている。α−GALはライソゾームの中にあり、主にスフィンゴ糖脂質を基質として分解する。 したがって、α−GALの活性が欠損又は低下すれば、スフィンゴ糖脂質の一種であるグロボトリアオシルセラミド(「Gb3」、「GL−3」、「セラミドトリヘキソアミド(CTH)」ともいう。)が分解されずに、血管内皮細胞(血管内壁を構成している細胞)、全身の細胞、全身の組織に蓄積し、ファブリー病を発症する。その結果、四肢の痛み、低汗症、アンジオケラトーマ、角膜混濁、消化器障害、目眩、聴覚障害、脳血管障害、腎障害及び心障害等の様々な症状が出現し、時間の経過とともに重症化することが知られている。Aerts JM, et al.、Elevated globotriaosylsphingosine is a hallmark of Fabry disease. Proc. Natl. Acad. Sci. USA(2008)105: 2812−2817.Gold H et al.、Quantification of globotriaosylsphingosine in plasma and urine of Fabry patients by stable isotope ultraperformance liquid chromatography−tandem mass spectrometry、Clin. Chem.(2013)59、p.547−556.Auray−Blais C et al.、Urinary globotriaosylsphingosine−related biomarkers for Fabry disease targeted by metabolomics、Anal. Chem.(2012)84、p.2745−2753.Dupont FO, et al.、 A metabolomic study reveals novel plasma lyso−Gb3 analogs as Fabry disease biomarkers.Curr. Med. Chem.(2013)20: 280−288.Lavoie P et al.、Multiplex analysis of novel urinary lyso−Gb3−related biomarkers for Fabry disease by tandem mass spectrometry、Anal. Chem.(2013)85、p.1743−1752.Boutin M、Auray−Blais C、Multiplex tandem mass spectrometry analysis of novel plasma lyso−Gb3−related analogues in Fabry disease、Anal. Chem.(2014)86、p.3476−3483.Manwaring V et al.、A metabolomic study to identify new globotriaosylceramide−related biomarkers in the plasma of Fabry disease patients、Anal. Chem.(2013)85、p.9039−9048. ファブリー病は、その症状、及び、被験者の白血球中のα−GALの酵素活性、被験者のα−GALをコードする遺伝子(GLA)を調べることによって診断することができる。例えば、男性患者では、GLA遺伝子の変異の種類によって、酵素活性がほぼ消失している古典型(Classic)と、酵素活性がわずかに残っている遅発型(Later−Onset)に分類できることが知られている。しかしながら、近年、通常行われている蛋白質コード領域の遺伝子解析ではGLA遺伝子の配列に変異が認められないにも拘わらず、ファブリー病様の症状を呈する患者が存在することがわかってきている。また、X染色体上に存在するGLA遺伝子に変異がある男性患者の場合には、酵素活性の有無によってα−GALの欠損を判別することができるが、X染色体のランダムな不活性化が生じているヘテロ接合型の遺伝子型を有する女性患者においては、α−GAL酵素活性では、ファブリー病の発症危険度を判定することは難しい。以上のことから、遺伝子解析、α−GAL酵素活性の測定によらない、ファブリー病の発症危険度を判定する方法が求められている。 一方、ファブリー病患者の血管内皮及び内臓組織に蓄積され、患者から採取される体液において検出可能な糖脂質としては、尿及び血漿中で検出可能なグロボトリアオシルスフィンゴシン(Lyso−Gb3)、Lyso−Gb3関連物質[Lyso−ene−Gb3(−H2(Lyso−Gb3(−2)))、+O(Lyso−Gb3(+16))、+H2O2(Lyso−Gb3(+34))]、尿中で検出可能なLyso−Gb3関連物質[−C2H4(Lyso−Gb3(−28))、−C2H4+O(Lyso−Gb3(−12))、−H2+O(Lyso−Gb3(+14))、+H2O3(Lyso−Gb3(+50))]、又は血漿中で検出可能なLyso−Gb3関連物質[+H2O(Lyso−Gb3(+18))]、又は血漿中で検出可能なグロボトリアオシルセラミド(Gb3)関連物質が報告されている(非特許文献1〜7)。個々のLyso−Gb3及びLyso−Gb3関連物質の測定によって健常人とファブリー病患者を判定する方法については報告されているが、特定の物質の組み合わせを用いて判定する方法は報告されていない。 本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ファブリー病の発症危険度を判定する方法を提供することを目的とする。 本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、血漿等の体液に存在する複数のLyso−Gb3関連物質の量から算出される指標値、好ましくは量比、具体的には、グロボトリアオシルスフィンゴシン(−2)体(Lyso−Gb3(−2))の量及びグロボトリアオシルスフィンゴシン(+34)体(Lyso−Gb3(+34))の量に基づいて算出される指標値を用いることで、従来の方法に比べて、より正確にファブリー病の発症危険度を判定できることを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は以下に関する。[1]ファブリー病の発症危険度を判定する方法であって、 被験者から採取された体液に含まれる、グロボトリアオシルスフィンゴシン(−2)体(Lyso−Gb3(−2))の量、及びグロボトリアオシルスフィンゴシン(+34)体(Lyso−Gb3(+34))の量を測定する工程と、 上記Lyso−Gb3(−2)の量及び上記Lyso−Gb3(+34)の量に基づいて算出される指標値が、基準値Aよりも小さい場合に、上記被験者がファブリー病を発症している可能性があると判定する工程と、を含む方法。[2]被験者の組織へのグロボトリアオシルセラミド(Gb3)の蓄積の可能性を判定する方法であって、 被験者から採取された体液に含まれる、グロボトリアオシルスフィンゴシン(−2)体(Lyso−Gb3(−2))の量、及びグロボトリアオシルスフィンゴシン(+34)体(Lyso−Gb3(+34))の量を測定する工程と、 上記Lyso−Gb3(−2)の量及び上記Lyso−Gb3(+34)の量に基づいて算出される指標値が、基準値Aよりも小さい場合に、上記被験者の組織にGb3が蓄積している可能性があると判定する工程と、を含む方法。[3]上記指標値が上記Lyso−Gb3(−2)の量に対する上記Lyso−Gb3(+34)の量の比率である、上記[1]又は[2]に記載の方法。[4]上記基準値Aが、健常人における上記比率である、上記[3]に記載の方法。[5]上記体液が血漿又は血清であって、上記基準値Aが、1〜2の間で設定される値である、上記[3]に記載の方法。[6]上記体液に含まれる、グロボトリアオシルスフィンゴシン(Lyso−Gb3)の量を測定する工程を更に含み、 上記指標値が上記基準値Aよりも小さく、かつ上記Lyso−Gb3の量が基準値Bよりも多い場合、上記被験者がファブリー病を発症している可能性がより高い、又は上記被験者の組織にGb3が蓄積している可能性がより高いと判定する、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。[7]上記体液に含まれる、グロボトリアオシルスフィンゴシン(Lyso−Gb3)の量を測定する工程を更に含み、 上記指標値が、[{Lyso−Gb3(+34)の量/Lyso−Gb3(−2)の量}/Lyso−Gb3の量]で表される値である、上記[1]又は[2]に記載の方法。[8]上記基準値Aが、健常人における上記[{Lyso−Gb3(+34)の量/Lyso−Gb3(−2)の量}/Lyso−Gb3の量]で表される値である、上記[7]に記載の方法。[9]上記体液が血漿又は血清であって、上記基準値Aが、10〜80の間で設定される値である、上記[7]に記載の方法。[10]上記指標値が上記基準値Aよりも小さく、かつ上記Lyso−Gb3の量が基準値Bよりも多い場合、上記被験者がファブリー病を発症している可能性がより高い、又は上記被験者の組織にGb3が蓄積している可能性がより高いと判定する、上記[7]〜[9]のいずれかに記載の方法。[11]上記基準値Bが、健常人における上記Lyso−Gb3の量である、上記[6]又は[10]に記載の方法。[12]上記体液が血漿又は血清であって、上記基準値Bが0.2nM〜0.7nMの間で設定される体液中濃度である、上記[6]又は[10]に記載の方法。[13]上記体液が血漿又は血清である、上記[1]〜[12]のいずれかに記載の方法。 本発明によれば、ファブリー病の発症危険度を判定する方法を提供することが可能になる。健常人及びファブリー病を発症している患者における、Lyso−Gb3の濃度及びアナログ比を示すグラフである。 以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。 本実施形態に係るファブリー病の発症危険度を判定する方法(以下、単に「判定方法」という場合がある。)は、(1)被験者から採取された体液に含まれる、グロボトリアオシルスフィンゴシン(−2)体(Lyso−Gb3(−2))の量、及びグロボトリアオシルスフィンゴシン(+34)体(Lyso−Gb3(+34))の量を測定する工程と、(2)上記Lyso−Gb3(−2)の量及び上記Lyso−Gb3(+34)の量に基づいて算出される指標値が、基準値Aよりも小さい場合に、上記被験者がファブリー病を発症している可能性があると判定する工程と、を含む。 ファブリー病とは、α−ガラクトシダーゼA(α−GAL)の酵素活性が欠損又は低下することによって生じる、先天性の糖脂質代謝異常症を意味する。α−GALの活性が欠損又は低下すると、スフィンゴ糖脂質の一種であるグロボトリアオシルセラミド(「Gb3」、「GL−3」、「セラミドトリヘキソアミド(CTH)」ともいう。)が分解されずに、血管内皮細胞、全身の細胞、全身の組織に蓄積する。その結果、四肢の痛み、低汗症、アンジオケラトーマ、角膜混濁、消化器障害、目眩、聴覚障害、脳血管障害、腎障害及び心障害等の様々な症状が出現し、時間の経過とともに重症化することが知られている。したがって、上記判定方法は、被験者の組織へのグロボトリアオシルセラミドの蓄積の可能性を判定する方法として把握することもできる。 被験者から採取された体液としては、特に制限はなく、例えば、血液、血漿、血清、尿、脳脊髄液等が挙げられ、血漿又は血清が好ましく用いられる。 グロボトリアオシルスフィンゴシン(−2)体(以下、「Lyso−Gb3(−2)」という場合がある。)及びグロボトリアオシルスフィンゴシン(+34)体(以下、「Lyso−Gb3(+34)」という場合がある。)は、グロボトリアオシルスフィンゴシン(以下、「Lyso−Gb3」という場合がある。)の類似体(アナログ体)である。Lyso−Gb3(−2)は、Lyso−Gb3から2個の水素原子が脱離した構造を有する類似体である。一方、Lyso−Gb3(+34)は、Lyso−Gb3に2個の水素原子と2個の酸素原子とが付加した構造を有する類似体である。以下、Lyso−Gb3の類似体を、「Lyso−Gb3関連物質」という場合がある。 Lyso−Gb3(−2)の量、及びLyso−Gb3(+34)の量を測定する方法としては、特に制限はなく公知の方法によって測定することが可能であるが、液体クロマトグラフィー法と質量分析法とを組み合わせた方法(LC−MS法)が好ましく用いられる。 液体クロマトグラフィー用のカラムとしては、例えば、逆相カラム、HILIC(Hydrophilic Interaction Liquid Chromatography)カラム等が挙げられる。内径が20〜100μmの逆相カラム(ナノカラム)は、微量の試料でも測定できることから好ましく用いられる。市販されているナノカラムとしては、例えば、Zorbax 300SB−C18 nano column(150mmx0.1mm、3mm particles;Agilent Technology)が挙げられる。 液体クロマトグラフィーの移動相は、用いるカラムによって適宜設定できるが、例えば逆相カラムを用いる場合、メタノール、アセトニトリル等が好ましく用いられる。 質量分析法としては、例えば、大気圧化学イオン化法(APCI)、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)、ナノエレクトロスプレー法等が挙げられ、好ましくは、ナノエレクトロスプレー法が挙げられる。質量分析法に用いられる機器としては、市販されているものであれば特に制限はないが、例えば、Q−Exactive mass spectrometer(Thermo Fisher Scientific)が挙げられる。 上記の測定を行うにあたり、当業者に周知の方法で適宜工程(1)における測定前に、被験者から採取された体液に対して前処理を行ってもよい。例えば、体液が血液である場合、まず被験者の末梢血を採血管に採取し、凝固させた後、遠心分離を行うことによって上清を得る。得られた上清画分を、固相抽出等の前処理を行うことで、測定試料とすることができる。ここでナノエレクトロスプレー法を用いた測定を行う場合、1μl〜5μl程度の血漿量又は血清量で測定が可能である。 上記の測定は、適宜内部標準物質の存在下で行ってもよい。当該内部標準物質としては、Lyso−Gb3又はLyso−Gb3関連物質の任意の炭素原子又は水素原子が、それぞれ13C、重水素原子等の安定同位体に置換された物質を用いることができる。内部標準物質として、具体的には後述の実施例に示す、Lyso−Gb3の末端メチル基の水素原子が重水素原子に置換され、かつスフィンゴシン骨格3位の炭素原子が13Cに置換された化合物(グロボトリアオシル−[3−13C1,18−2H3]−スフィンゴシン)が挙げられる。 本実施形態に係る判定方法に用いられる測定用キットであって、当該内部標準物質があらかじめ充填された容器を含む測定用キットもまた、本実施形態の範疇である。測定用キットとしては、例えば、上記内部標準物質があらかじめ充填された体液注入用容器等が挙げられる。上記体液注入用容器に上記体液を注入することで、LC−MS等の分析機器で測定するための試料を作製できる。 被験者におけるLyso−Gb3(−2)の量及び上記Lyso−Gb3(+34)の量に基づいて算出される指標値が、基準値Aよりも小さい場合に、被験者がファブリー病を発症している可能性がある、又は、被験者の組織にGb3が蓄積している可能性があると判定する。 上記指標値は、上記Lyso−Gb3(−2)の量に対する上記Lyso−Gb3(+34)の量の比率であることが好ましい。この場合、上記基準値Aとしては、健常人における上記比率であってもよいし、あらかじめ設定された値であってもよい。あらかじめ設定された値としては、保有する健常人及び患者の測定値のうち、患者群が含まれない指標値を適宜設定することができ、好ましくは、健常人群にも患者群にも含まれず、健常人群と患者群との間の値を設定する。あらかじめ設定された値を用いる場合、体液が血漿又は血清であるときには、基準値Aは、1〜2の間で設定される値であることが好ましく、1.4〜2の間で設定される値であることがより好ましく、1.4〜1.5の間で設定される値であることが更により好ましい。 本実施形態に係る判定方法は、上記体液に含まれる、グロボトリアオシルスフィンゴシン(Lyso−Gb3)の量を測定する工程を更に含んでもよい。Lyso−Gb3の量を測定する方法としては、特に制限はなく公知の方法によって測定することが可能であるが、例えば、内部標準物質を用いたLC−MS法が好ましく用いられる。内部標準物質としては、例えば、安定同位体標識したLyso−Gb3が挙げられる。 Lyso−Gb3の量を測定することによって、判定方法の精度が更に向上する傾向がある。すなわち、上記指標値が上記基準値Aよりも小さく、かつ上記Lyso−Gb3の量が基準値Bよりも多い場合、上記被験者がファブリー病を発症している可能性がより高い、又は、上記被験者の組織にGb3が蓄積している可能性がより高いと判定できる。 基準値Bは、健常人におけるLyso−Gb3の量であってもよいし、あらかじめ設定された値であってもよい。あらかじめ設定された値としては、保有する健常人及び患者の測定値のうち、患者群が含まれない測定値を適宜設定することができ、好ましくは、健常人群にも患者群にも含まれず、健常人群と患者群との間の値を設定する。健常人におけるLyso−Gb3の量は男性、女性で分けてもよく、平均値±標準偏差等で設定してもよい。あらかじめ設定された値を用いる場合、体液が血漿又は血清であるときには、基準値Bは体液中濃度0.2nM〜0.7nMの間で設定される値であることが好ましく、0.5nM〜0.7nMの間で設定される値であることがより好ましい。 Lyso−Gb3の量を測定する工程を含む場合、指標値は、[{Lyso−Gb3(+34)の量/Lyso−Gb3(−2)の量}/Lyso−Gb3の量]で表される値であることが好ましい。判定方法の精度が更に向上する傾向がある。このときの基準値Aは、健常人における上記[{Lyso−Gb3(+34)の量/Lyso−Gb3(−2)の量}/Lyso−Gb3の量]で表される値であってもよいし、あらかじめ設定された値であってもよい。あらかじめ設定された値としては、保有する健常人及び患者の測定値のうち、患者群が含まれない指標値を適宜設定することができ、好ましくは、健常人群にも患者群にも含まれず、健常人群と患者群との間の値を設定する。あらかじめ設定された値を用いる場合、体液が血漿又は血清であるときには、基準値Aは、10〜80の間で設定される値であることが好ましく、30〜80の間で設定される値であることがより好ましく、30〜40の間で設定される値であることが更に好ましい。 以上説明したように、本実施形態に係る判定方法は、Lyso−Gb3(−2)の量及びLyso−Gb3(+34)の量に基づいて算出される指標値を用いて行われるため、ヘテロ接合型の遺伝子型を有する女性患者等の被験者においても、精度よく判定することが可能になる。また、本実施形態に係る判定方法は、Lyso−Gb3(−2)の量及びLyso−Gb3(+34)の量の比率に基づく指標値を用いる場合、内部標準物質を用いることなく、精度高く算出できる点で、特に有用である。 以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。試薬 Lyso−Gb3は、Matreya社(Pleasant Gap,PA)から購入した。内部標準物質として使用した安定同位体標識したLyso−Gb3(abbr. Lyso−Gb3−IS)は、L−セリン−1−13Cとパルミチン酸−CD3を原料の一部とし、Eur. J. Org. Chem. 2011:1652−1663に記載の方法で、合成した。すなわち、Lyso−Gb3−ISはひとつの13Cと3つの重水素とを含む以下の式:で表される化合物(グロボトリアオシル−[3−13C1,18−2H3]−スフィンゴシン)である。 サンプル調製及びnano−LC/MSに用いたメタノール(MeOH、LC−MSグレード)、並びに、アセトニトリル(AcN、LC−MSグレード)は、関東化学株式会社から購入した。ギ酸(FA、LC−MSグレード)は和光純薬工業株式会社から購入した。サンプル調製 血漿は、健常人(男性20名、女性20名)、並びに、ファブリー病男性患者(Classic9名、Later−onset8名)及び女性患者(10名)から採取した。採取された血漿からのLyso−Gb3及びそのアナログ体の抽出は、Clin. Chim. Acta. 414:273−280に記載の方法を最適化して実施した。まず、標準血漿を作製した。具体的には、チャコール処理した血漿に0、0.016、0.08、0.4、2、10、50及び250nMの濃度でLyso−Gb3を添加して標準血漿を作製した。次にLyso−Gb3−ISを1%H3PO4/MeOHに終濃度が2.5nMになるように希釈し、IS溶液(内部標準溶液)を作製した。20μLの標準血漿にIS溶液を80μL添加し、混合後に遠心し、タンパク質を除去した。一方、ファブリー病患者又は健常人から採取した上記血漿試料も同様に血漿20μLにIS溶液を80μL添加して、混合後に遠心した。遠心後、得られた混合液の上清80μLに1%H3PO4/40%MeOHを920μL添加混合し、1200μLのMeOH及び1200μLの2%H3PO4で予めコンディショニングしたOASIS MCXカートリッジ(waters Corp.、30mg、60mm)に添加した。その後、カートリッジを1200μLの2%FA、1200μLの0.2%FA/MeOH、1200μLの2%NH4(28%(v/v))/50%MeOHの順に洗浄した。アナログ体の抽出の場合は1200μLの2%NH4(28%(v/v))/50%MeOHによる洗浄は実施しなかった。Lyso−Gb3及びそのアナログ体は1200μLの2%NH4(28%(v/v))/MeOHでガラスチューブに溶出し、エバポレーターで乾固した。得られた乾固物は適切な容量の0.1%FA/50%AcNで溶解し、得られたサンプルをnano−LC MS/MSシステムに注入した。機器及び定量方法 nano−LCシステムとして、LC(液体クロマトグラフィー)はUltimate 3000RSLCnano(Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA、USA)、オートサンプラーはPAL HTS XT−CTC autosampler(CTC Analytics AG、Zwingen、Switzerland)を使用した。サンプルは1μL nano Viper Loop(Thermo Fisher Scientific)を用いて注入した。Lyso−Gb3及びそのアナログ体の分離にはZorbax 300SB−C18 nano column(150mmx0.1mm、3mm particles;Agilent Technology)を用いた。溶媒Aは0.2%FA/5%AcN、溶媒Bは0.2%FA/AcNを用い、25分間のグラジエントを使用した(0分、1%溶媒B;10分、99%溶媒B;16分、99%溶媒B;16.1分、1%溶媒B;25分、1%溶媒B)。流速は0.5μL/分とした。Q−Exactive mass spectrometer(Thermo Fisher Scientific)をLyso−Gb3及びそのアナログ体の検出に用いた。装置のキャリブレーションは全ての測定前に実施した。Lyso−Gb3及びそのアナログ体の定量はTargeted MS/MS analysis(HRPS)modeで実施した。一段目の四重極は1.0 FWHN、Orbitrap検出器は17500 FWHNに設定した。AGCターゲット値は1e5、maximum injection timeは100msに設定した。すべての測定対象化合物のコリジョンエネルギーは25%に設定した。ターゲットとした質量はLyso−Gb3に対してm/z 786.4482、lyso−Gb3−ISに対してm/z 790.470、lyso−Gb3(−2)に対してm/z 784.433、lyso−Gb3(+34)に対してm/z 820.454とした。Quan Browser software(Thermo Fisher Scientific)を用いてデータ処理を行った。スフィンゴシン由来の最も強度が強いピークを定量のために選択した。選択した質量はLyso−Gb3に対してm/z 282.278、lyso−Gb3−ISに対してm/z 286.301、lyso−Gb3(−2)に対してm/z 280.263、lyso−Gb3(+34)に対してm/z 334.295とした。 上述したnano−LC MS/MSシステムによる分析の結果に基づいて、健常人及びファブリー病患者における、lyso−Gb3の濃度、lyso−Gb3、lyso−Gb3(−2)及びlyso−Gb3(+34)の内部標準に対する相対量(ピーク面積比)、並びに、(−2)/(+34)、(+34)/(−2)及び{(+34)/(−2)}/Lyso−Gb3の各比率(以下、「アナログ比」という場合がある。)を算出した(表1〜表5)。ここで、「(−2)」及び「(+34)」は、それぞれ、lyso−Gb3(−2)及びlyso−Gb3(+34)を示す。 横軸にアナログ比(+34)/(−2)、縦軸にlyso−Gb3の濃度をとったプロット、及び、横軸にアナログ比{(+34)/(−2)}/Lyso−Gb3、縦軸にlyso−Gb3の濃度をとったプロットを、それぞれ図1(A)及び(B)に示す。これらのプロットから、lyso−Gb3の濃度よりも、上記アナログ比の方が、健常人とファブリー病患者とを区別しやすいことが分かった。すなわち、上記アナログ比の方が、lyso−Gb3の濃度よりもファブリー病の発症危険度を判定するための指標として適していることが分かった。さらに、アナログ比{(+34)/(−2)}/Lyso−Gb3は、アナログ比(+34)/(−2)よりも、健常人とファブリー病患者との差が更に明確となり、指標としてより適していることが分かった。 また、上記アナログ比及びlyso−Gb3の濃度の2つのパラメータを用いることでも、健常人とファブリー病患者との区別が行いやすくなることがわかった。 ファブリー病の発症危険度を判定する方法であって、 被験者から採取された体液に含まれる、グロボトリアオシルスフィンゴシン(−2)体(Lyso−Gb3(−2))の量、及びグロボトリアオシルスフィンゴシン(+34)体(Lyso−Gb3(+34))の量を測定する工程と、 前記Lyso−Gb3(−2)の量及び前記Lyso−Gb3(+34)の量に基づいて算出される指標値が、基準値Aよりも小さい場合に、前記被験者がファブリー病を発症している可能性があると判定する工程と、を含む方法。 被験者の組織へのグロボトリアオシルセラミド(Gb3)の蓄積の可能性を判定する方法であって、 被験者から採取された体液に含まれる、グロボトリアオシルスフィンゴシン(−2)体(Lyso−Gb3(−2))の量、及びグロボトリアオシルスフィンゴシン(+34)体(Lyso−Gb3(+34))の量を測定する工程と、 前記Lyso−Gb3(−2)の量及び前記Lyso−Gb3(+34)の量に基づいて算出される指標値が、基準値Aよりも小さい場合に、前記被験者の組織にGb3が蓄積している可能性があると判定する工程と、を含む方法。 前記指標値が前記Lyso−Gb3(−2)の量に対する前記Lyso−Gb3(+34)の量の比率である、請求項1又は2に記載の方法。 前記基準値Aが、健常人における前記比率である、請求項3に記載の方法。 前記体液が血漿又は血清であって、前記基準値Aが、1〜2の間で設定される値である、請求項3に記載の方法。 前記体液に含まれる、グロボトリアオシルスフィンゴシン(Lyso−Gb3)の量を測定する工程を更に含み、 前記指標値が前記基準値Aよりも小さく、かつ前記Lyso−Gb3の量が基準値Bよりも多い場合、前記被験者がファブリー病を発症している可能性がより高い、又は前記被験者の組織にGb3が蓄積している可能性がより高いと判定する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。 前記体液に含まれる、グロボトリアオシルスフィンゴシン(Lyso−Gb3)の量を測定する工程を更に含み、 前記指標値が、[{Lyso−Gb3(+34)の量/Lyso−Gb3(−2)の量}/Lyso−Gb3の量]で表される値である、請求項1又は2に記載の方法。 前記基準値Aが、健常人における前記[{Lyso−Gb3(+34)の量/Lyso−Gb3(−2)の量}/Lyso−Gb3の量]で表される値である、請求項7に記載の方法。 前記体液が血漿又は血清であって、前記基準値Aが、10〜80の間で設定される値である、請求項7に記載の方法。 前記指標値が前記基準値Aよりも小さく、かつ前記Lyso−Gb3の量が基準値Bよりも多い場合、前記被験者がファブリー病を発症している可能性がより高い、又は前記被験者の組織にGb3が蓄積している可能性がより高いと判定する、請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。 前記基準値Bが、健常人における前記Lyso−Gb3の量である、請求項6又は10に記載の方法。 前記体液が血漿又は血清であって、前記基準値Bが0.2nM〜0.7nMの間で設定される体液中濃度である、請求項6又は10に記載の方法。 前記体液が血漿又は血清である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。 【課題】ファブリー病の発症危険度を判定する方法を提供すること。【解決手段】ファブリー病の発症危険度を判定する方法であって、被験者から採取された体液に含まれる、グロボトリアオシルスフィンゴシン(−2)体(Lyso−Gb3(−2))の量、及びグロボトリアオシルスフィンゴシン(+34)体(Lyso−Gb3(+34))の量を測定する工程と、上記Lyso−Gb3(−2)の量及び上記Lyso−Gb3(+34)の量に基づいて算出される指標値が、基準値Aよりも小さい場合に、上記被験者がファブリー病を発症している可能性があると判定する工程と、を含む方法。【選択図】なし


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