タイトル: | 公開特許公報(A)_加熱溶融押出用組成物及びこれを用いた加熱溶融押出成型物の製造方法 |
出願番号: | 2014114900 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | A61K 47/38 |
藁品 彰吾 草木 史枝 菊池 一輝 尾原 栄 丸山 直亮 JP 2015127316 公開特許公報(A) 20150709 2014114900 20140603 加熱溶融押出用組成物及びこれを用いた加熱溶融押出成型物の製造方法 信越化学工業株式会社 000002060 奥山 尚一 100099623 有原 幸一 100096769 松島 鉄男 100107319 河村 英文 100114591 中村 綾子 100125380 森本 聡二 100142996 角田 恭子 100154298 田中 祐 100166268 徳本 浩一 100170379 渡辺 篤司 100161001 藁品 彰吾 草木 史枝 菊池 一輝 尾原 栄 丸山 直亮 JP 2013116836 20130603 JP 2013246178 20131128 A61K 47/38 20060101AFI20150612BHJP JPA61K47/38 7 OL 13 4C076 4C076AA95 4C076EE33E 4C076FF03 4C076FF33 本発明は、加熱溶融押出用組成物及びこれを用いた加熱溶融押出成型物の製造方法に関する。 薬物と高分子の混合物を加熱下で溶融押出する製剤手法が、最近注目されている。 例えば、水難溶性薬物と高分子を加熱溶融押出法(ホットメルトエクストルージョン)により固化させた固体分散体は、薬物が非晶質(アモルファス)の状態で高分子担体中に分子分散し、薬物の溶解性が見かけ上顕著に上昇して生物学的利用能が改善される。また、加熱溶融押出法は溶媒の使用を回避することができるため、水に不安定な薬物に対して適用でき、溶剤回収不要なことによる安全性及び環境への配慮や溶剤回収工程にかかるエネルギーの節約、作業員への安全面での改善といった利点が挙げられる。更に、従来のバッチ生産システムとは異なり、連続的な製造が可能で、時間あたりの生産性、消費エネルギーの面からも着目されている。 これら加熱溶融押出法に使用される高分子の一例として、セルロース骨格にメトキシ基(−OCH3)とヒドロキシプロポキシ基(−OC3H6OH)の2つの置換基を導入してエーテル構造とするほか、アセチル基(−COCH3)とスクシニル基(−COC2H4COOH)の2つの置換基を導入してエステル構造として、計4種類の置換基を導入した高分子であるヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル(以下、「HPMCAS」ともいう。)がある。 ここで、第16改正日本薬局方に収載されているHPMCASの各置換基含有量は、以下の通りに規定されている(非特許文献1)。 HPMCASを含む固体分散体としては、例えば、HPMCAS(市販品のAS−LF;モル置換度0.16〜0.35)に水を添加した予備混合物を加熱溶融押出して得られる固体分散体組成物が報告されており、水を添加することにより、HPMCAS又は水難溶性薬物のガラス転移温度や軟化温度を下げる方法が提案されている(特許文献1)。 また、水難溶性薬物のポサコナゾールとHPMCAS(市販品のAS−MF及びAS−MG;モル置換度0.15〜0.34)を加熱溶融押出法により製剤化する方法(特許文献2)や、水難溶性薬物の脂質阻害剤CETP(コレステロールエステル転送タンパク)阻害剤とHPMCAS(市販品のAS−MF;モル置換度0.15〜0.34)を加熱溶融押出法により製剤化する方法(特許文献3)が提案されている。 更に、水難溶性薬物とヒドロキシプロポキシ基のモル置換度が0.25、スクシニル基のモル置換度が0.02以上で、かつアセチル基のモル置換度が0.65以上及びアセチル基とスクシニル基のモル置換度の合計が0.85以上である0%RHのガラス転移温度が131〜146℃のHPMCASを用いた固体分散体組成物をスプレードライする方法(特許文献4)が提案されている。この他、水難溶性薬物とヒドロキシプロポキシ基のモル置換度が0.21以下、メトキシル基のモル置換度が1.45以下で、かつアセチル基とスクシニル基のモル置換度の合計が1.25以上であるHPMCASを用いた固体分散体組成物をスプレードライする方法(特許文献5)も提案されている。国際公開2003/077827号公報特表2011−516612号公報特表2005−523895号公報特表2008−501009号公報国際公開2011/159626号公報第16改正日本薬局方第一追補医薬品各条「ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル」 近年、より簡便な方法で固体分散体を製造することが求められるようになり、加熱溶融押出法において、加熱溶融温度を低くする必要が生じてきた。 しかし、特許文献1に記載の方法では、水は水難溶性薬物にとって貧溶媒であるため、場合によっては薬物の結晶性を高めて非晶化を妨げたり、熱や湿度によって高温処理時には水難溶性薬物が失活し、高湿度条件下では、薬物やキャリヤが熱と水の影響で加水分解を生じやすくなって失活するという不都合が生じる。 一方、特許文献2及び特許文献3に記載の方法では、加熱溶融温度が、HPMCASのガラス転移温度(Tg)よりも高く、水難溶性薬物及びHPMCASが熱で分解し失活する恐れがある。 特許文献4及び特許文献5に記載の方法では、高温の加熱溶融押し出しのために、HPMCASの熱分解による遊離酸が生じて酸による水難溶性薬物の失活や加熱による水難溶性薬物の熱分解の不都合が生じる。固体分散体の主たる製造方法として従来から知られているスプレードライ法又はスプレーコーティング法では、担体として用いられる高分子のガラス転移温度を下げると、却ってスプレー装置の壁面にHPMCASが付着したり、得られた固体分散体の粉体同士が融着してしまう恐れがあったため、ガラス転移温度を下げる検討は行われていなかった。 本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、従来よりも低い温度で加熱溶融押出することにより、熱等による薬物の失活がなく、過飽和維持性能が高い加熱溶融押出組成物及びスプレードライ法よりも簡便な方法により加熱溶融押出成型物が得られる加熱溶融押出成型物の製造方法を提供する。 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、HPMCASの4種類の置換基のうち、ヒドロキシプロポキシ基を特定範囲にすることにより、従来よりも低いガラス転移温度(Tg)を有するHPMCASが得られること、より低い加熱溶融押出温度で加熱溶融押出成型物を製造すること及びスクシニル基に対するアセチル基の比率(モル比)を特定の範囲にすることにより過飽和維持性能が高くすることができることを見出し、本発明を完成させた。 従って、本発明は、ヒドロキシプロポキシ基のモル置換度が0.40以上、好ましくはスクシニル基に対するアセチル基の比率(モル比)が1.6〜4.0のヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル(HPMCAS)と薬物を少なくとも含む加熱溶融押出用組成物を提供する。また、本発明は、ヒドロキシプロポキシ基のモル置換度が0.40以上、好ましくはスクシニル基に対するアセチル基の比率(モル比)が1.6〜4.0であるヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルと薬物を少なくとも含む加熱溶融押出用組成物をヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルの溶融温度以上又はヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル及び薬物を共に溶融することになる温度以上の加熱溶融温度で加熱溶融し、押出する加熱溶融押出成型物の製造方法を提供する。 本発明によれば、従来よりも低い温度で加熱溶融押出しが可能となり、熱等による薬物の失活もなく、スプレードライ法等よりも簡便な方法により加熱溶融押出成型物が得られる。また、従来よりも過飽和維持性能が高い加熱溶融押出成型物が得られる。 以下、本発明につき更に詳しく説明する。 HPMCASのヒドロキシプロポキシ基のモル置換度は、0.40以上、好ましくは0.40〜1.50、より好ましくは0.40〜1.0、更に好ましくは0.40〜0.90である。ヒドロキシプロポキシ基のモル置換度が0.40未満の場合、加熱溶融押出温度が高温となり、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルの熱分解により加水分解が生じて一部のエステル基がセルロース骨格から遊離し、酢酸及びコハク酸を生じて薬物との相互作用により薬物を失活させる。 ヒドロキシプロポキシ基をはじめとするHPMCASの置換基含有量は、第16改正日本薬局方第一追補の医薬品各条「ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル」に記載されている方法により測定できる。 HPMCASのガラス転移温度(Tg)は、好ましくは115℃以下であり、より好ましくは60〜115℃、更に好ましくは70〜100℃である。ガラス転移温度が115℃より高い場合、加熱溶融押出温度も高くなり、上述の熱分解が起こる可能性がある。 ガラス転移温度(Tg)は、通常、示差走査熱量分析装置(DSC)により、以下のように測定される。即ち、HPMCAS10mgを窒素雰囲気下、室温から10℃/分の昇温度速度で150℃まで上げ、更に10℃/分の降温速度で25℃まで一旦冷却し、再度10℃/分の速度で230℃まで昇温したときに見られた変曲点をガラス転移温度とする。このように絶乾状態でガラス転移温度を測定するのは、試料中の水分がTgの測定値に影響するためである。 HPMCASにおけるヒドロキシプロポキシ基以外の他の置換基であるメトキシ基のモル置換度は特に限定されないが、好ましくは0.70〜2.90、より好ましくは1.00〜2.40、更に好ましくは1.4〜1.9である。 HPMCASにおけるアセチル基のモル置換度も特に限定されないが、好ましくは0.10〜2.50、より好ましくは0.10〜1.00、更に好ましくは0.40〜0.95である。 HPMCASにおけるスクシニル基のモル置換度も特に限定されないが、好ましくは0.10〜2.50、より好ましくは0.10〜1.00、更に好ましくは0.10〜0.60である。 また、スクシニル基に対するアセチル基の比率(モル比)は、薬物の過飽和状態をより長く維持する観点から、好ましくは1.6〜4.0、より好ましくは1.8〜3.8である。 20℃における、HPMCASを2質量%含む希(0.1mol/L)水酸化ナトリウム水溶液の粘度は、好ましくは1.1〜20mPa・s、より好ましくは1.5〜3.6mPa・sである。粘度が1.1mPa・s未満の場合、加熱溶融押出時に溶融粘度が低すぎてせん断力がかからず、ピストン又はスクリューの空転や吐出口からの押出しが困難になる場合がある。一方、粘度が20mPa・sを超える場合は、加熱溶融押出用組成物の粘度が高くなり過ぎ、ピストン又はスクリューにかかるトルクが過大となり、ピストン又はスクリューが回らない又は機械が安全上停止する場合がある。粘度の測定方法は、第16改正日本薬局方のHPMCASの一般試験法に記載の方法により測定することができる。 HPMCASは、例えば、特開昭54−61282号公報に記載の方法を用いて製造できる。原料となるヒプロメロース(別名ヒドロキシプロピルメチルセルロース、以下、「HPMC」ともいう。)を氷酢酸に溶解し、エステル化剤として無水酢酸と無水コハク酸、反応触媒として酢酸ナトリウムを添加して加熱反応させる。反応終了後、反応液に多量の水を添加してHPMCASを析出させ、その析出物を水洗後、乾燥する。このとき、ヒドロキシプロポキシ基のモル置換度が0.40以上のHPMCを使用すれば、生成するHPMCASのヒドロキシプロポキシ基のモル置換度も0.40以上となる。 薬物は、経口投与可能な薬物であれば特に限定されるものではない。かかる薬物としては、例えば、中枢神経系薬物、循環器系薬物、呼吸器系薬物、消化器系薬物、抗生物質、鎮咳去たん剤、抗ヒスタミン剤、解熱鎮痛消炎剤、利尿剤、自律神経作用薬、抗マラリア剤、止潟剤、向精神剤、ビタミン類及びその誘導体等が挙げられる。 中枢神経系薬物としては、ジアゼパム、イデベノン、アスピリン、イブプロフェン、パラセタモール、ナプロキセン、ピロキシカム、ジクロフェナック、インドメタシン、スリンダック、ロラゼパム、ニトラゼパム、フェニトイン、アセトアミノフェン、エテンザミド、ケトプロフェン及びクロルジアゼポキシド等が挙げられる。 循環器系薬物としては、モルシドミン、ビンポセチン、プロプラノロール、メチルドパ、ジピリダモール、フロセミド、トリアムテレン、ニフェジビン、アテノロール、スピロノラクトン、メトプロロール、ビンドロール、カプトプリル、硝酸イゾソルビト、塩酸デラプリル、塩酸メクロフェノキサート、塩酸ジルチアゼム、塩酸エチレフリン、ジギトキシン、塩酸プロプラノロール及び塩酸アルプレノロール等が挙げられる。 呼吸器系薬物としては、アムレキサノクス、デキストロメトルファン、テオフィリン、プソイドエフェドリン、サルブタモール及びグアイフェネシン等が挙げられる。 消化器系薬物としては、2−[〔3−メチル−4−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−2−ピリジル〕メチルスルフィニル]ベンゾイミダゾール及び5−メトキシ−2−〔(4−メトキシ−3,5−ジメチル−2−ピリジル)メチルスルフィニル〕ベンゾイミダゾール等の抗潰瘍作用を有するベンゾイミダゾール系薬物、シメチジン、ラニチジン、塩酸ピレンゼピン、パンクレアチン、ビサコジル並びに5−アミノサリチル酸等が挙げられる。 抗生物質としては、塩酸タランピシリン、塩酸バカンピシリン、セファクロル及びエリスロマイシン等が挙げられる。 鎮咳・去たん剤としては、塩酸ノスカピン、クエン酸カルベタペンタン、臭化水素酸デキストロメトルファン、クエン酸イソアミニル及びリン酸ジメモルファン等が挙げられる。 抗ヒスタミン剤としては、マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸ジフェンヒドラミン及び塩酸プロメタジン等が挙げられる。 解熱鎮痛消炎剤としては、イブプロフェン、ジクロフェナクナトリウム、フルフェナム酸、スルピリン、アスピリン及びケトプロフェン等が挙げられる。 利尿剤としては、カフェイン等が挙げられる。 自律神経作用薬としては、リン酸ジヒドロコデイン、dl−塩酸メチルエフェドリン、塩酸プロプラノロール、硫酸アトロピン、塩化アセチルコリン、ネオスチグミン等が挙げられる。 抗マラリア剤としては、塩酸キニーネ等が挙げられる。 止潟剤としては、塩酸ロペラミド等が挙げられる。 向精神剤としては、クロルプロマジン等が挙げられる。 ビタミン類及びその誘導体としては、ビタミンA、ビタミンB1、フルスルチアミン、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、パントテン酸カルシウム及びトラネキサム酸等が挙げられる。 特に、本発明のHPMCASを水難溶性の薬物の固体分散体の担体として用いることにより、水難溶性薬物の溶解性を改善することができる。ここで、水難溶性薬物とは、第16改正日本薬局方に記載された水に「溶けにくい」、「極めて溶けにくい」、「ほとんど溶けない」とされる薬物をいう。「溶けにくい」とは、固形の医薬品1g又は1mLをビーカーにとり、水を投入し20±5℃で5分ごとに強く30秒間振り混ぜるとき、100mL以上1000mL未満で30分以内に溶ける度合いをいう。「極めて溶けにくい」とは、同様に1000mL以上10000mL未満で30分以内に溶ける度合いをいう。「ほとんど溶けない」とは、同様に30分以内に溶けるために10000mL以上要するものをいう。 また、上記の医薬品試験において、水難溶性薬物が解けるということは、薬物が溶媒に溶ける又は混和することを示し、繊維等を認めないか又は認めても極めてわずかであることをいう。 水難溶性薬物の具体例としては、イトラコナゾール、ケトコナゾール、フルコナゾール、ミトコナゾール等のアゾール系化合物、ニフェジピン、ニトレンジピン、アムロジピン、ニカルジピン、ニルバジピン、フェロジピン、エフォニジピン等のジヒドロピリジン系化合物、イブプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン等のプロピオン酸系化合物、インドメタシン、アセメタシン等のインドール酢酸系化合物のほかに、グリセオフルビン、フェニトイン、カルバマゼピン、ジピリダモール等が挙げられる。 HPMCASと薬物の質量比率は特に限定されないが、非晶化状態の保存安定性の観点から、好ましくは1:0.01から1:100、より好ましくは1:0.1から1:10、更に好ましくは1:0.2から1:5である。 更に、本発明の組成物は、加熱溶融押出の際の成形性の改善等のために、可塑剤、界面活性剤等の添加剤を添加してもよい。 可塑剤としては、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール、マンニトール、ソルビトール、グリセリン等の多価アルコール、ビーズワックス、クエン酸トリエチル、ポリエチレングリコール又はプロピレングリコール等のアルキレングリコール、トリアセチン、ジブチルセバセート、グリセリンモノステアレート、モノグリセリンアセテート等の可塑剤が挙げられる。 界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム等の陰イオン性界面活性剤、ジグリセリド、ポロクサマー、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ツイン20、60、80)、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等の非イオン性界面活性剤、レシチン、タウロコール酸ナトリウム等の天然界面活性剤等が挙げられる。配合量は、保存安定性の観点から、可塑剤はHPMCASに対して30質量%以下、界面活性剤は10質量%以下が好ましい。 加熱溶融押出成型物は、必要に応じて賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑択剤、凝集防止剤等、通常この分野で常用され得る種々の添加剤を配合して、錠剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤等の経口固形製剤や経口フィルム剤として用いることができる。 賦形剤としては、白糖、乳糖、マンニトール、グルコース等の糖類、でんぷん、結晶セルロース等が挙げられ。 結合剤としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、マクロゴール類、アラビアゴム、ゼラチン、でんぷん等が挙げられる。 崩壊剤としては、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース又はその塩、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポビドン、結晶セルロース及び結晶セルロース・カルメロースナトリウム等が挙げられる。 滑択剤、凝集防止剤としては、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、コロイダルシリカ、ステアリン酸、ワックス類、硬化油、ポリエチレングリコール類、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。 得られた経口固形製剤は、メチルセルロース、ヒプロメロース等の水溶性コーティング剤によりフィルムコーティングや、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルやヒプロメロースフタル酸エステル、メタクリル酸アクリル酸エステルコポリマー等の腸溶性コーティング剤によりコーティングされてもよい。 次に、加熱溶融押出成型物の製造方法について説明する。 まず、ヒドロキシプロポキシ基のモル置換度が0.40以上のHPMCASと薬物に、必要に応じてその他の成分を加えて混合して、加熱溶融押出用組成物を調製する。調製された加熱溶融押出用組成物を加熱溶融押出機により、円形や四角形等の形状の他、柱状やフィルム状の形状等、所望の形状に押出して、成型体を得ることができる。 加熱溶融押出機は、HPMCASと薬物等系内で加熱をしながら、ピストン又はスクリューで剪断力を加えて溶融して練合後、ダイから押し出す構造の押出機であれば特に制限はないが、より均一な押出成型物を得るためには、二軸型の押出機の方が好ましい。具体的には、東洋精機社製のキャピログラフ(一軸ピストン型押出装置)やライストリッツ(Leistritz)社製のNano−16(二軸スクリュー型押出装置)、サーモフィッシャーサイエンティフィック(ThermofisherScientific)社製のMiniLab(二軸スクリュー型押出装置)及びPharmaLab(二軸スクリュー型押出装置)が挙げられる。 加熱溶融温度は特に限定されないが、好ましくは加熱溶融押出用組成物が溶融して押出が無理なくでき、熱により薬物や高分子の分解をできるだけ避けることができる温度範囲で行うのが好ましい。即ち、固体分散体を製造しない場合にはHPMCASの溶融温度以上の温度が、固体分散体を製造する場合にはHPMCAS及び薬物の両者が溶融することになる温度以上が好ましい。なお、薬物の添加によりHPMCASの融点が低下する場合にも、同様に共に溶融することになる温度以上の温度が好ましい。具体的な加熱溶融温度は、好ましくは50〜250℃、より好ましくは60〜200℃、更に好ましくは90〜190℃である。50℃よりも低いと溶融が不完全となり押出が困難となる場合があり、250℃を超えるとHPMCASや薬物の分解により分子量の低下及び置換基の加水分解による失活の可能性がある。 加熱溶融押出条件は、加熱溶融押出時における粘度が好ましくは1〜100000Pa・sである加熱溶融押出用組成物を押し出すことができれば特に制限されないが、一軸ピストン型押出装置の場合は、押出速度が好ましくは1〜1000mm/分、より好ましくは10〜500mm/分であり、二軸スクリュー型押出装置の場合は、スクリュー回転数が好ましくは1〜1000rpm、より好ましくは、1〜500rpmである。押出速度が1mm/分未満又はクリュー回転数が1rpm未満の場合、系内での滞留時間が長くなり、熱分解する場合がある一方、押出速度が10000mm/分を超える場合又はクリュー回転数が1000rpmを超える場合、混練り部分での加熱溶融過程が不十分となり、加熱溶融押出成型物中の薬物とポリマーの溶融状態が不均一となる場合がある。 押出後の加熱溶融押出成型物は、ダイ吐出口以降から室温(1〜30℃)による自然冷却又は冷送風により冷却されるが、薬物の熱分解を最少にするため及び非晶化薬物の場合は再結晶化を抑制するために、好ましくは50℃以下、より好ましくは室温以下(30℃以下)に急速に冷却することが望ましい。 冷却後の加熱溶融押出成型物は、必要に応じて切断機によって0.1〜5mm以下のペレット化するか、更に粉砕して粒状及び粉状になるまで粒度調整を行ってもよい。粉砕には機器の構造上、品温が高くなりにくいジェットミル、ナイフミル、ピンミル等の衝撃粉砕機が好ましい。なお、切断機及び粉砕機内が高温化してしまう場合は、HPMCASが熱により軟化し粒同士が固着してしまうため、冷送風下で粉砕することが好ましい。 以下に、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。<HPMCAS−1の合成> 50Lニーダーに氷酢酸12kg秤込み、ヒドロキシプロポキシ基のモル置換度0.97、メトキシ基のモル置換度1.67のヒプロメロース(HPMC)6kgを加えて溶解した。更に、無水酢酸3.7kg及び無水コハク酸2.0kg、酢酸ナトリウム4.8kgを加えて、85℃で5時間反応を行った。これに精製水6.7kgを加えて撹拌した後、この溶液に精製水を添加してHPMCASを粒状に沈殿させ、濾過により粗HPMCASを採取した。この粗HPMCASを精製水にて洗浄し、乾燥後、10メッシュ(目開き:1700μm)の篩にて篩過し、最終水分1.2質量%のHPMCAS−1を得た。 得られたHPMCAS−1の各置換基含有量を第16改正日本薬局方第一追補記載の方法により測定したところ、ヒドロキシプロポキシ基24.1質量%(モル置換度:1.00)、メトキシ基16.7質量%(モル置換度:1.67)、アセチル基5.6質量%(モル置換度:0.40)、スクシニル基16.4質量%(モル置換度:0.50)であった。<HPMCAS−2〜11の合成> 同様な方法で置換基の含有量が異なる原料HPMCを用いて、無水酢酸と無水コハク酸の添加量を適宜変更して、表2に示す各種HPMCAS−2〜11を得た。<HPMCASのガラス転移温度の測定> HPMCAS−1〜11のガラス転移温度(Tg)を示差走査熱量分析装置(Bruker社製DSC3200SA)で測定した。即ち、各HPMCAS10mgを窒素雰囲気下、室温から10℃/分の昇温度速度で150℃まで上げ、更に10℃/分の降温速度で25℃まで一旦冷却し、再度10℃/分の速度で230℃まで昇温したときに見られる吸・発熱曲線における変曲点の温度、即ち2度目の昇温時に測定される変曲点の温度をガラス転移温度とした。<実施例1〜8及び比較例1〜3> 予め測定試料中の水分を1質量%未満になるように、乾燥したHPMCAS−1〜11をダイの直径1mm、高さ10mm、押出速度50mm/分の条件で、真空押出機(一軸ピストン型溶融押出装置:東洋精機社製キャピログラフ)より吐出口のダイから押し出した時のHPMCAS−1〜11の最低押出温度を測定した。その結果を表3に示す。 ヒドロキシプロポキシ基のモル置換度が0.40以上のHPMCASを用いた実施例1〜8は、0.4未満の比較例1〜3に比べてガラス転移温度が低く、最低押出温度も低かった。以上の結果から、加熱溶融押出用組成物をより低い温度で押し出すことができるため、薬物が熱分解によって失活せずに押出成型体を得ることができる。<実施例9〜16及び比較例4〜5> 比較例3において押し出すことができなかったHPMCAS−11以外の各HPMCASと、水難溶性薬物であるニフェジピン(融点172℃)を乳鉢により混合(HPMCAS:ニフェジピン=1:0.5質量比)して、180℃にて加熱溶融押出用組成物を調製した。 次に、上記の混合末を用いて、同方向型二軸スクリュー(直径:5/14mm、長さ:109.5mm、スクリュー回転数100rpm、滞留時間5分間)の加熱溶融押出機(サーモフィッシャー社製HAAKE MiniLab)により、180℃での加熱溶融押出しを行い、得られた加熱溶融押出成型物を粉砕機(大阪ケミカル社製ワンダーブレンダーWB−1型)を用いて20000rpmで粉砕し、30メッシュ(目開き500μm)の篩で篩過して得られた粉末について第16改正日本薬局方に記載の溶出試験を行った。 本粉末270mg(ニフェジピン90mg相当量)から溶出されるニフェジピンの溶出率(質量%)を、第16改正日本薬局方崩壊試験用の第2液(pH6.8)900mL及び日本薬局方溶出試験機(富山産業社製NTR−6100A型)を用いてパドル回転数100rpmにて測定した。ニフェジピンの定量は、UV(波長325nm、光路長10mm)の吸光度を求め、予め既知の濃度で作成した吸光度換算直線から求めた。その結果を表4に示す。 ヒドロキシプロポキシ基のモル置換度が0.4以上のHPMASを用いた実施例9〜16は、比較例4〜5と同様に試験開始後15分間までに73質量%以上の高い溶出率が得られた。また、スクシニル基に対するアセチル基の比率(モル比)が1.6以上である実施例11、12、13および15は、試験開始後60分後、120分後及び180分後においても88質量%以上の高い溶出率を維持していた。この溶出率の長時間における持続は、スクシニル基に対するアセチル基の比率(モル比)の増大により、水難溶性薬物との親和性が向上し、水難溶性薬物の再結晶化を抑止したためであると考えられる。 また、加熱溶融押出成型物を卓上小型粉砕機(大阪化学社製ワンダーブレンダーWB−1型)を用いて20000rpmで粉砕し、30メッシュ(目開き500μm)の篩で篩過して得られた粉末について粉末のX線回折像を測定したところ、X線回折像でニフェジピンの結晶ピークが認められず、ニフェジピン溶出率が著しく高かった。このことから、加熱溶融押出による組成物はニフェジピンが非晶質状態でHPMCAS中に分散している固体分散体を形成していることがわかる。<実施例17〜24及び比較例6〜7> 実施例9と同様にして、水溶性薬物のアスコルビン酸を用い、加熱溶融押出用組成物を調製した。アスコルビン酸の熱分解温度は176℃であり、加熱溶融押出中の熱分解による失活が懸念されるモデル薬物である。 比較例3において押し出すことができなかったHPMCAS−11以外の各HPMCASとアスコルビン酸粉末を乳鉢により混合(HPMCAS:アスコルビン酸=1:0.5質量比)して、加熱溶融押出用組成物を調製した。 次に、上記の混合末を用いて、同方向型二軸スクリュー(直径:5/14mm、長さ:109.5mm、スクリュー回転数100rpm、滞留時間5分間)の加熱溶融押出機(サーモフィッシャー社製HAAKE MiniLab)により、130℃以上での加熱溶融押出しを行い、得られた加熱溶融押出成型物の最低押出温度を実施例1と同様にして測定した。また、得られた加熱溶融押出成型物を粉砕機(大阪ケミカル社製ワンダーブレンダーWB−1型)を用いて20000rpmで粉砕し、30メッシュ(目開き500μm)の篩で篩過して得られた粉末及び成型前の加熱溶融押出組成物について黄色度指数(YI)をSMカラーコンピューター (スカ試験機社製SM-T)にて測定した。その結果を表5に示す。 ヒドロキシプロポキシ基のモル置換度が0.40以上であるHPMCASを用いた実施例17〜24の最低押出温度は、アスコルビン酸の熱分解温度(176℃)よりも26℃以上低くすることができ、得られた加熱溶融押出成型物の外観は白色のまま変化せず、黄色度指数(YI)も20以下であり、成型前の混合末(YI=16.8)とほとんど変わらなかった。一方、比較例6〜7のHPMCASは、最低押出温度が160℃で実施例17〜24よりも高く、得られた加熱溶融押出成型物の外観は原末の白色紛体から褐色に変化しており、黄色度指数(YI)も20を大きく上回っており、加熱溶融押出によりアスコルビン酸が熱分解し失活していることが確認された。 ヒドロキシプロポキシ基のモル置換度が0.40以上であるヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルと薬物を少なくとも含む加熱溶融押出用組成物。 前記ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルのガラス転移温度(Tg)が、115℃以下である請求項1に記載の加熱溶融押出用組成物。 前記ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルのスクシニル基に対するアセチル基の比率(モル比)が、1.6〜4.0である請求項1又は請求項2に記載の加熱溶融押出用組成物。 前記薬物が、水難溶性薬物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の加熱溶融押出用組成物。 ヒドロキシプロポキシ基のモル置換度が0.40以上であるヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルと薬物を少なくとも含む加熱溶融押出用組成物を、前記ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルの溶融温度以上、又は前記ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル及び前記薬物の共に溶融することになる温度以上の加熱溶融温度で加熱溶融し、押出する工程を少なくとも含む加熱溶融押出成型物の製造方法。 前記ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルのスクシニル基に対するアセチル基の比率(モル比)が、1.6〜4.0である請求項5に記載の加熱溶融押出成型物の製造方法。 前記加熱溶融温度が、50〜250℃である請求項5又は請求項6に記載の加熱溶融押出成型物の製造方法。 【課題】従来よりも低い温度で加熱溶融押出することにより、熱等による薬物の失活がない、加熱溶融押出組成物及びスプレードライ法よりも簡便な方法により加熱溶融押出成型物得られる加熱溶融押出成型物の製造方法を提供する。【解決手段】ヒドロキシプロポキシ基のモル置換度が0.40以上のヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル(HPMCAS)と薬物を少なくとも含む加熱溶融押出用組成物を提供する。また、ヒドロキシプロポキシ基のモル置換度が0.40以上であるヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルと薬物を少なくとも含む加熱溶融押出用組成物をヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルの溶融温度以上、又はヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル及び薬物の共に溶融することになる温度以上の加熱溶融温度で加熱溶融し、押出する工程を少なくとも含む加熱溶融押出成型物の製造方法を提供する。【選択図】なし