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タイトル:公開特許公報(A)_白金族金属の分離回収方法
出願番号:2014112461
年次:2015
IPC分類:C22B 11/00,C22B 3/44,C12P 3/00,C22B 7/00,C02F 1/62


特許情報キャッシュ

小西 康裕 斎藤 範三 登 操生 JP 2015227474 公開特許公報(A) 20151217 2014112461 20140530 白金族金属の分離回収方法 公立大学法人大阪府立大学 505127721 株式会社日高ファインテクノロジーズ 303066116 特許業務法人深見特許事務所 110001195 小西 康裕 斎藤 範三 登 操生 C22B 11/00 20060101AFI20151120BHJP C22B 3/44 20060101ALI20151120BHJP C12P 3/00 20060101ALI20151120BHJP C22B 7/00 20060101ALN20151120BHJP C02F 1/62 20060101ALN20151120BHJP JPC22B11/00 101C22B3/00 TC12P3/00 ZC22B7/00 BC22B7/00 CC02F1/62 Z 3 1 OL 14 4B064 4D038 4K001 4B064AA04 4B064CA02 4B064CB16 4B064CC03 4B064CD07 4B064DA16 4D038AA10 4D038AB76 4D038BA04 4D038BB13 4D038BB15 4D038BB19 4K001AA41 4K001BA22 4K001DB17 4K001DB18 本発明は、白金族金属の2元素を含む溶液中から白金族金属を相互に分離して回収する、白金族金属の分離回収方法に関する。 これまで、自動車の排ガス浄化システムに用いられる三元触媒コンバータや、燃料電池から、白金(Pt)およびパラジウム(Pd)などの白金族金属(PGM:Platinum Group Metals)を回収する種々の方法が検討されている。 特に、低エネルギー型(低環境負荷型)の回収方法として、非特許文献1(小西康裕、「微生物機能を活用するレアメタル回収への挑戦」、化学工学、Vol.74、No.3、p.109−111、2010年)および特許文献1(特開2012−107294号公報)には、プリント基板や自動車の廃触媒などから、金属イオン還元細菌を用いて金や白金族金属を回収する方法が開示されている。 しかし、これらの金属イオン還元細菌を用いた従来の回収方法では、複数の白金族金属(Pd,Pt,Rhなど)の混合物が最終生成物であったため、さらに、各々のPGM元素を相互に分離して回収する分離回収工程が必要であった。このような分離回収工程に関わる従来技術としては、例えば、クロマトグラフ媒体を使用する方法(特許文献3:特開2002−303614号公報)や、ゲルクロマトグラフィーを使用する方法(特許文献4:特開2001−98335号公報)などの吸着法を用いたイオン分離方法が知られている。特開2012−107294号公報小西康裕、「微生物機能を活用するレアメタル回収への挑戦」、化学工学、Vol.74、No.3、p.109−111、2010年 吸着法を用いた従来の分離方法は、高圧操作を行うために、エネルギーコストが高くなり、耐圧性容器等の特別な設備が必要であり、工業的な大量処理が難しいといった問題があった。また、これらの方法では、PGMイオンを各々のイオンとして相互分離するだけであり、個々の白金族金属の固体(または金属粒子)を直接得ることはできなかった。 本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、低エネルギー型(低環境負荷型)の簡易な処理により、白金イオンおよびパラジウムイオンを含む原料溶液から、白金およびパラジウムを相互に分離して金属粒子として回収することのできる分離回収方法を提供することを目的とする。 本発明は、白金イオンおよびパラジウムイオンを含む原料溶液から、白金およびパラジウムを相互に分離して回収する分離回収方法であって、 前記原料溶液、金属イオン還元細菌および電子供与体を含む第1反応溶液中に、前記金属イオン還元細菌を添加することにより、前記白金イオンを還元し、前記白金を析出させる、第1バイオ還元工程と、 前記第1バイオ還元工程によって析出した前記白金を前記第1反応溶液から回収する、第1回収工程と、 前記第1回収工程後の前記第1反応溶液中である第2反応溶液中に、前記金属イオン還元細菌を添加することにより、前記パラジウムイオンを還元し、前記パラジウムを析出させる、第2バイオ還元工程と、 前記第2バイオ還元工程によって析出した前記パラジウムを前記第2反応溶液から回収する、第2回収工程と、 を含むことを特徴とする、分離回収方法である。 前記第1反応溶液中において、前記白金イオンおよび前記パラジウムイオンの合計の初期濃度が0.1〜50mol/m3であり、前記電子供与体の初期濃度が100mol/m3以下であることが好ましい。 前記第2バイオ還元工程において、前記第2反応溶液中の前記電子供与体の初期濃度が前記第1反応溶液中の前記電子供与体の初期濃度より高くなるように、前記第2反応溶液中に前記電子供与体を添加した後に、前記金属イオン還元細菌を添加することが好ましい。 本発明によれば、低エネルギー型の簡易な処理により、白金イオンおよびパラジウムイオンを含む原料溶液から、白金およびパラジウムを相互に分離して金属粒子として回収することのできる分離回収方法を提供することができる。本発明の分離回収方法の一例を説明するためのフロー図である。実施例1における白金族金属の液相濃度と操作時間との関係を示すグラフである。実施例2において、ギ酸ナトリウム濃度が0mol/m3である場合の白金族金属の液相濃度と操作時間との関係を示すグラフである。実施例2において、ギ酸ナトリウム濃度が1mol/m3である場合の白金族金属の液相濃度と操作時間との関係を示すグラフである。実施例2において、ギ酸ナトリウム濃度が5mol/m3である場合の白金族金属の液相濃度と操作時間との関係を示すグラフである。実施例2において、ギ酸ナトリウム濃度が10mol/m3である場合の白金族金属の液相濃度と操作時間との関係を示すグラフである。実施例2において、ギ酸ナトリウム濃度が50mol/m3である場合の白金族金属の液相濃度と操作時間との関係を示すグラフである。実施例2において、ギ酸ナトリウム濃度が100mol/m3である場合の白金族金属の液相濃度と操作時間との関係を示すグラフである。実施例2における白金族金属の液相濃度と操作時間との関係を示す図3〜図8のグラフをまとめた図である。実施例3における白金族金属の液相濃度と操作時間との関係を示すグラフである。 以下、本発明の一実施形態について具体的に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 本実施形態の分離回収方法では、2種の白金族金属イオン(PtイオンおよびPdイオン)を含む溶液を対象に、金属イオン還元細菌と電子供与体の存在下において、各々の白金族金属(PGM)間でのPGMイオンからPGMナノ粒子への還元(析出)速度の差を利用して、各々のPGMを相互に分離して回収する。 [金属イオン還元細菌] 金属イオン還元細菌とは、金属イオンを還元する能力を有する細菌である。金属イオン還元細菌は、電子供与体から電子の供給を受けて(例えば有機物を酸化して発生する電子を利用して)、金属イオンを金属に還元し、析出させる機能を持つ。例えば、自然界の水環境の底泥などに生息する嫌気性細菌が挙げられる。 金属イオン還元細菌としては、例えば、シワネラ属(Shewanella algae:シワネラ アルゲ(以下、「S.algae」と略す):ATCC(American Type Culture Collection)51181株、Shewanella oneidensis:シワネラ オネイデンシス:ATCC700550株など)、ゲオバクター属(代表種:Geobacter metallireducens:ゲオバクター メタリレデューセンス:TCC53774株)、デスルフォモナス属(代表種:Desulfuromonas palmitatis:デスルフォモナス パルミタティス:ATCC51701株)、デスルフォムサ属(代表種:Desulfuromusa kysingii:デスルフォムサ キシンリ:DSM(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen)7343株)、ペロバクター属(代表種:Pelobacter venetianus:ペロバクター ベネティアヌス:ATCC2394株)、フェリモナス属(Ferrimonas balearica:フェリモナス バレアリカ:DSM9799株)、エアロモナス属(Aeromonas hydrophila:エアロモナス ヒドロフィラ:ATCC15467株)、スルフロスピリルム属(代表種:Sulfurospirillum barnesii:スルフロスピリルム バーネシイ:ATCC700032株)、ウォリネラ属(代表種:ウォリネラ スシノゲネス:Wolinella succinogenes:ATCC29543株)、デスルフォビブリオ属(代表種:Desulfovibrio desulfuricans:デスルフォビブリオ デスルフリカンス:ATCC29577株)、ゲオトリクス属(代表種:Geothrix fermentans:ゲオトリクス フェルメンタンス:ATCC700665株)、デフェリバクター属(代表種:Deferribacter thermophilus:デフェリバクター テルモフィルス:DSM14813株)、ゲオビブリオ属(代表種:Geovibrio ferrireducens:ゲオビブリオ フェリレデューセンス:ATCC51996株)、ピロバクルム属(代表種:Pyrobaculum islandicum:テルモプロテウス アイランディカム:DSM4184株)、テルモトガ属(代表種:Thermotoga maritima:テルモトガ マリティマ:DSM3109株)、アルカエグロブス属(代表種:Archaeoglobus fulgidus:アルカエグロブス フルギダス:ATCC49558株)、ピロコックス属(代表種:Pyrococcus furiosus:ピロコックス フリオサス:ATCC43587株)、ピロディクティウム属(代表種:Pyrodictium abyssi:ピロディクティウム アビーシイ:DSM6158株)が挙げられる。好ましくはシワネラ属であり、特に好ましくはS.algaeである。これらの金属イオン還元細菌は、嫌気性細菌(通性嫌気性細菌)である。また、これらの金属イオン還元細菌の工業的応用では、病原性細菌ではなく安全性が確保できる点、また培養の栄養源コストが低く、増殖が速い点(低コスト・迅速に菌体を供給可能)が、大きなメリットとなる。 本発明で用いる金属イオン還元細菌は、当該細菌に適した培地を用いて、増殖を行えばよい。例えば、S.algaeは、pHが7.0で、電子供与体として乳酸ナトリウム(32mol/m3)、電子受容体としてFe(III)イオン(56mol/m3)を含むクエン酸第二鉄培地(ATCC No.1931)を用いて、嫌気性雰囲気下で回分培養して増殖することができる。鉄イオンの塩は、この例では、クエン酸塩であるが、使用する培地、使用する金属イオン還元細菌の種類により、適宜選択すればよい。また、S.algaeは、TSB(トリプトソイブロス)液体培地(pH7.2)を用いて,好気培養することもできる。 以下、本発明の分離回収方法における各工程について説明する。図1は、本発明の分離回収方法の一例を説明するためのフロー図である。 図1を参照して、本発明の回収方法は、白金イオンおよびパラジウムイオンを含む原料溶液から、白金およびパラジウムを相互に分離して回収する分離回収方法であって、基本的に、 (第1バイオ還元工程) 原料溶液、金属イオン還元細菌および電子供与体を含む第1反応溶液中に、金属イオン還元細菌を添加することにより、白金イオンを還元し、白金を析出させる工程と、 (第1回収工程) 第1バイオ還元工程によって析出した白金を第1反応溶液から回収する工程と、 (第2バイオ還元工程) 第1回収工程後の第1反応溶液中である第2反応溶液中に、金属イオン還元細菌を添加することにより、パラジウムイオンを還元し、パラジウムを析出させる工程と、 (第2回収工程) 第2バイオ還元工程によって析出したパラジウムを第2反応溶液から回収する工程と、を含む。 [第1バイオ還元工程] 本工程では、原料溶液中に含まれる2種の白金族金属イオン(PtイオンおよびPdイオン)のうち、Ptイオン(例えばPt(IV)イオンなど)を金属イオン還元細菌および電子供与体の存在下で還元することにより、Ptを析出させる。 具体的には、原料溶液、金属イオン還元細菌の懸濁液および電子供与体を混合して得られる溶液(第1反応溶液)中に、金属イオン還元細菌を添加することにより、Ptイオンが還元されてPtが金属イオン還元細菌の菌体内に析出する。 本工程で用いる金属イオン還元細菌の数は、特には制限されない。一般的に細胞数が多いほど、処理時間が短くなる。第1反応溶液中の細菌数(細胞濃度)は、好ましくは1.0×1014cells/m3〜1.0×1016cells/m3、より好ましくは1.0×1015cells/m3〜8.0×1015cells/m3である。 金属イオン還元細菌の懸濁液の調製は、まず指数増殖末期に達した金属イオン還元細菌培養液を、窒素ガスにより嫌気状態にしたグローブボックス内で採取し、遠心分離機で集菌する。集菌した菌液を、水(蒸留水、イオン交換水、純水などを含む)を用いて所定の濃度に調整する。 本工程において、第1反応溶液中の白金イオンおよびパラジウムイオンの合計の初期濃度が0.1〜50 mol/m3である場合、第1反応溶液中の電子供与体の初期濃度は、好ましくは100mol/m3以下であり、より好ましくは1〜100mol/m3であり、さらに好ましくは1〜50mol/m3である。電子供与体の初期濃度がこの範囲内である場合において、PtイオンとPdイオンの還元速度(PtとPdの析出速度)の差が大きくなるため、PtとPdの相互分離効率を高めることができる。 電子供与体としては、例えば、有機酸塩が挙げられる。有機酸塩としては、例えば、炭素数1〜7のカルボン酸塩(ギ酸塩、酢酸塩など)、芳香族カルボン酸塩(脂式カルボン酸塩(脂肪酸塩)、安息香酸塩など)、オキソカルボン酸塩(ピルビン酸塩など)、その他のカルボン酸塩(乳酸塩など)が挙げられる。また、有機酸塩以外の電子供与体としては、例えば、アルコール(エタノールなど)、不飽和芳香族(トルエンフェノールなど)、水素ガス(分子状水素)が挙げられる。なお、アルコールおよび不飽和脂肪酸の炭素数は、好ましくは1〜7である。 好適な電子供与体は、使用する金属イオン還元細菌の種類により異なり、適宜選択すればよい。例えば、S.algaeについては、有機酸塩を電子供与体として好適に用いることができる。有機酸塩としては、ギ酸塩および乳酸塩を好適に用いることができる。分離回収のための操作時間を短縮する観点からは、ギ酸塩を用いることが好ましい。 なお、PMGイオンが溶解している原料溶液は通常は強酸性の溶液であるため、金属イオン還元細菌が生育可能なpHに調整されることが好ましい。pH調整は、例えば、リン酸塩を添加するとともに、アルカリを添加することにより行うことができる。リン酸塩としては、例えば、リン酸二水素カリウム(KH2PO4)、リン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4)が挙げられる。アルカリとしては、例えば、アルカリ金属の水酸化物が挙げられる。アルカリ金属の水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)が挙げられる。 第1バイオ還元工程の処理時間は、特に制限されないが、PtとPdの相互分離効率と、処理時間(処理効率)とを考慮して、相互分離効率および処理効率が高くなるように調整すればよい。あくまで一例として、第1バイオ還元工程の処理時間は10〜30分間である。 本工程は、通常、嫌気的雰囲気中で実施される。嫌気的雰囲気中でない場合、通常は金属イオン還元細菌によってPGMを還元できないからである。 また、本工程を実施する環境の温度は、特に限定されないが、低エネルギー型の処理を行う観点から、常温であることが好ましい。 (第1回収工程) 本工程では、第1バイオ還元工程によって(金属イオン還元細菌の菌体内に)析出したPtを、第1反応溶液中から分離回収する。具体的には、例えば、第1反応溶液に対してろ過や遠心分離等の処理を施すことにより、金属イオン還元細菌の菌体を混合液中から分離し、菌体を乾燥させた後、焼成等により菌体等の有機物を除去することで、Ptを回収できる。 なお、希薄溶液から回収されたPtには、Pdが僅かに混入する場合があるが、この場合は、高濃度Pd/Pt混合物が処理対象となるために従来技術に基づく分離・精製方法によって、回収されたPtを精製することができる。なお、従来法でPtとPdを全く相互分離せずに回収した場合に比べて、Pdの含有量はわずかでPtの含有量が多いため、Ptの精製は従来よりも容易に行うことができる。 (第2バイオ還元工程) 本工程では、第2反応溶液(第1回収工程後の第1反応溶液)中に含まれるPdイオン(Pd(II)イオンなど)を金属イオン還元細菌および電子供与体の存在下において還元することにより、Pdを析出させる。 具体的には、第2反応溶液中に金属イオン還元細菌を添加することにより、Pdイオンが還元されてPdが金属イオン還元細菌の菌体内に析出する。 本発明においては、Ptを先に析出させて回収するために、通常、第1反応溶液中の電子供与体の初期濃度を、Ptの還元速度が比較的速く、Pdの還元速度が比較的遅くなるような初期濃度に設定する。このため、第2反応溶液中の電子供与体の初期濃度を第1反応溶液中の初期濃度より高く設定しなければ、第2バイオ還元工程に多くの時間を要することになってしまう。また、第1バイオ還元工程で消費された電子供与体を補充する必要もある。したがって、本工程においては、金属イオン還元細菌を添加する前に、第2反応溶液中の電子供与体の初期濃度が第1反応溶液中の電子供与体の初期濃度より高くなるように、第2反応溶液中に電子供与体を添加することが好ましい。これにより、Pdイオンの還元速度が増加し、第2バイオ還元工程に要する処理時間を短縮することができ、分離回収のコストを削減することができる。 上記以外の点については、第1バイオ還元工程と同様であるため、重複する説明についてはここでは省略する。 (第2回収工程) 本工程では、第2バイオ還元工程によって(金属イオン還元細菌の菌体内に)析出したPdを、第2反応溶液中から分離回収する。具体的には、例えば、第2反応溶液に対してろ過や遠心分離等の処理を施すことにより、金属イオン還元細菌の菌体を混合液中から分離し、菌体を乾燥させた後、焼成等により菌体等の有機物を除去することで、Pdを回収できる。 なお、希薄溶液から回収されたPdには、Ptが僅かに混入する場合があるが、この場合は、高濃度Pd/Pt混合物が処理対象となるために従来技術に基づく分離・精製方法によって、回収されたPdを精製することができる。なお、従来法でPtとPdを全く相互分離せずに回収した場合に比べて、Ptの含有量はわずかでPdの含有量が多いため、Pdの精製は従来よりも容易に行うことができる。 本実施形態の分離回収方法を用いれば、極めて簡易な操作で、短時間に高い効率で、PtおよびPdを希薄溶液中から相互に分離して回収することができる。 以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 [実施例1] 本実施例では、Pd単独溶液、Pt単独溶液、Pt−Pd混合溶液(上述の原料溶液に相当)について、S.algaeによるバイオ還元速度の比較を行った。 具体的には、まず、Pd、Pt、または、PtおよびPdの塩化物を希塩酸溶液に溶解させて、Pd単独溶液[Pd(II)イオンのみを含む溶液]、Pt単独溶液[Pt(IV)イオンのみを含む溶液]、および、Pt−Pd混合溶液[Pt(IV)イオンおよびPd(II)イオンを含む原料溶液]を調製した。 次に、上記のPd(II)単独溶液、Pt(IV)単独溶液、および、Pt(IV)−Pd(II)混合溶液を対象に、PMGイオンのバイオ還元工程(上述の第1バイオ還元工程に相当)を回分操作で行った。すなわち、原料溶液、KH2PO4/NaOH緩衝溶液、電子供与体(ギ酸ナトリウム)とを混合し、金属イオン還元細菌の懸濁液を添加することで反応溶液(上述の第1反応溶液に相当)を調製した。 バイオ還元工程の主な操作条件として、反応溶液中の細胞濃度:5.0×1015cells/m3、反応溶液中の電子供与体(ギ酸塩)初期濃度:50mol/m3、反応溶液のpH:7.0〜7.1、室温、嫌気環境下、培養時間120分とした。なお、反応溶液のpH調整には、KH2PO4/NaOH緩衝液を用いた。 金属イオン還元細菌としては、S.algae(ATCC51181株)を用いた。なお、金属イオン還元細菌の懸濁液は次の操作によって調製した。まず、指数増殖末期に達した金属イオン還元細菌培養液を、窒素ガスにより嫌気状態にしたグローブボックス内で採取し、遠心分離機で集菌した。次に、集菌した菌液をイオン交換水で再懸濁し所定の濃度に調整した。 反応溶液中のPtイオンおよびPdイオンの各々の初期濃度を測定したところ、Pd単独溶液中のPdイオンの濃度は0.44mol/m3であり、Pt単独溶液中のPtイオンの濃度は0.44mol/m3であった。また、Pt−Pd混合溶液中のPtイオンの初期濃度は0.44mol/m3、Pdイオンの初期濃度は0.45mol/m3であった。なお、反応溶液中のPtイオンおよびPdイオンの濃度は、誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)発光分光法により測定した。 また、金属イオン還元細菌の懸濁液を添加した後、所定時間毎に反応溶液をサンプリングし、反応溶液中の各白金族金属イオンの濃度をICP発光分光法により測定した。各白金族金属(Pt,Pd)の液相濃度測定値と操作時間との関係を図2に示す。 図2に示される結果から、PtまたはPdの単独溶液と、PtおよびPdを含む混合溶液との間で、還元速度に大きな違いが認められた。すなわち、混合溶液におけるPd(II)イオンの還元速度は、単独溶液よりも減少し、一方、混合溶液におけるPt(IV)イオンの還元速度は、単独溶液よりも増加することが分かった。 なお、標準電極電位に着目すると、Pdイオンの還元反応[Pd(II)Cl42−+2e−→Pd(0)+4Cl−]の標準電極電位は+0.62Vであり、Ptイオンの還元反応[Pt(IV)Cl62−+4e−→Pt(0)+6Cl−]の標準電極電位は+0.73Vである。このように、Ptイオンの還元反応の標準電極電位はPdイオンの還元反応の標準電極電位よりも高い(Ptのイオン化傾向がPdのイオン化傾向がより小さい)ことから、イオン化傾向がより小さいPt(IV)イオンは、バイオ還元によって析出したPd(0)粒子との間で起こるセメンテーションによっても還元(析出)が進行するため、混合溶液中でPt(IV)イオンの還元速度が増加したと推考される。また、このセメンテーションによって、Pd(0)粒子が酸化・溶解する現象が生じることにより、Pd(II)イオンの還元(析出)が抑制されるため、混合溶液中でPd(II)イオンの還元速度が減少したと推考される。 以上の結果から、PGMイオンの還元速度の差に基づいて、先にPtを回収し、Ptの回収後にPdを回収する本発明の分離回収方法によって、PtとPdを相互に分離できることが分かる。 具体的には、例えば、本実施例と同様の処理を第1バイオ還元工程として10〜30分程度実施した後に、第1回収工程によってPtを回収する。次に、Ptが回収された第1反応溶液(第2反応溶液)中の電子供与体の初期濃度を高めてから、第2反応溶液中で第2バイオ還元工程を実施した後に、第2回収工程でPdを回収することで、原料溶液中からPtとPdを相互に分離して回収できると考えられる。 なお、非特許文献1では、バイオ還元による白金族金属の相互分離の可能性について言及しているものの(110頁右欄下から2行目〜111頁左欄4行目)、回収の順序等の具体的方法については一切開示されていない。これに対して、本発明においては、図2に示されるように、PGMの単独溶液と混合溶液とで微生物による還元(析出)速度の傾向が逆転するという新たな知見に基づいて、PtとPdの混合液中から先にPtを回収し、Ptの回収後にPdを回収するという本発明の分離回収方法によって、PtとPdを相互に分離できることを見出した。 [実施例2] 本実施例では、PtイオンおよびPdイオンのバイオ還元速度に及ぼす電子供与体(ギ酸ナトリウム)濃度の影響を調べるための実験を行った。 具体的には、混合液中のギ酸ナトリウムの濃度を0、1、5、10、50および100とした点以外は、実施例1と同様にして、実験を行い、反応溶液中のPtイオンおよびPdイオンの濃度を測定した。ギ酸ナトリウムの各濃度について、各白金族金属(Pt,Pd)の液相濃度測定値と操作時間との関係を図3〜図8に示す。また、図3〜図8のグラフをまとめた図を図9として示す。なお、反応溶液中のPtイオンの初期濃度は0.46mol/m3であり、Pdイオンの初期濃度は0.60mol/m3であった。 図3〜図9に示す結果から、ギ酸ナトリウム(電子供与体)の初期濃度が低下するに従い、Ptイオンに比べて、Pdイオンの還元速度が著しく減少することが分かる。 [実施例3] 本実施例では、電子供与体としてギ酸塩の代わりに乳酸塩を用いた場合について、PtおよびPdのバイオ還元速度を調べるための実験を行った。 具体的には、電子供与体としてギ酸ナトリウムの代わりに乳酸ナトリウムを用いた点以外は、実施例2と同様にして、実験を行い、反応溶液中のPtイオンおよびPdイオンの濃度を測定した。乳酸ナトリウムの各濃度について、各白金族金属(Pt,Pd)の液相濃度測定値と操作時間との関係を図10に示す。なお、反応溶液中のPtイオンの初期濃度は0.45mol/m3であり、Pdイオンの初期濃度は0.59mol/m3であった。 図10に示す結果から、電子供与体として乳酸ナトリウムを用いた場合においても、ギ酸ナトリウムの場合(実施例2)と同様に、電子供与体の初期濃度が低下するに従い、Ptイオンに比べて、Pdイオンの還元速度が著しく減少することが分かる。 したがって、実施例2および3の結果から、電子供与体の初期濃度を低下させることにより、PdイオンとPtイオンの還元速度の差がさらに広がり、両金属相互の分離効率が向上すると考えられる。また、電子供与体の反応液中の初期濃度は、好ましくは100mol/m3以下であり、より好ましくは1〜100mol/m3であり、さらに好ましくは、1〜50mol/m3であることが分かる。ただし、反応溶液中に電子供与体が存在しない場合は、PGMイオンの還元はおこらない。なお、図3および図10で電子供与体の濃度が0mol/m3である場合に、わずかにPGMイオン濃度が減少しているが、金属イオン還元細菌の細胞へのPGMイオンの吸着によるものと考えられる。 また、電子供与体としてギ酸ナトリウムを用いた場合に比べて、乳酸ナトリウムを用いる方が、PtイオンおよびPdイオンの還元速度が遅い傾向があることが分かる。分離回収のための操作時間を短縮する観点からは、電子伝達体としてギ酸塩を用いることが好ましいと考えられる。 今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。 本発明の分離回収方法は、例えば、自動車の排ガス浄化システムに用いられる三元触媒コンバータや、燃料電池から、白金(Pt)およびパラジウム(Pd)などの白金族金属(PGM:Platinum Group Metals)を浸出させた浸出液から、PtおよびPdを相互に分離回収するために用いることができる。本発明の分離回収方法によって回収されたPtおよびPdは、例えば、自動車用の触媒コンバータや燃料電池の触媒として再使用することができる。 白金イオンおよびパラジウムイオンを含む原料溶液から、白金およびパラジウムを相互に分離して金属粒子として回収する分離回収方法であって、 前記原料溶液、金属イオン還元細菌および電子供与体を含む第1反応溶液中に、前記金属イオン還元細菌を添加することにより、前記白金イオンを還元し、前記白金を析出させる、第1バイオ還元工程と、 前記第1バイオ還元工程によって析出した前記白金を前記第1反応溶液から回収する、第1回収工程と、 前記第1回収工程後の前記第1反応溶液中である第2反応溶液中に、前記金属イオン還元細菌を添加することにより、前記パラジウムイオンを還元し、前記パラジウムを析出させる、第2バイオ還元工程と、 前記第2バイオ還元工程によって析出した前記パラジウムを前記第2反応溶液から回収する、第2回収工程と、 を含むことを特徴とする、分離回収方法。 前記第1反応溶液中において、前記白金イオンおよび前記パラジウムイオンの合計の初期濃度が0.1〜50mol/m3であり、前記電子供与体の初期濃度が100mol/m3以下である、請求項1に記載の分離回収方法。 前記第2バイオ還元工程において、前記第2反応溶液中の前記電子供与体の初期濃度が前記第1反応溶液中の前記電子供与体の初期濃度より高くなるように、前記第2反応溶液中に前記電子供与体を添加した後に、前記金属イオン還元細菌を添加する、請求項1に記載の分離回収方法。 【課題】低エネルギー型(低環境負荷型)の簡易な処理により、白金イオン及びパラジウムイオンを含む原料溶液から、白金及びパラジウムを相互に分離して金属粒子として回収することのできる分離回収方法の提供。【解決手段】原料溶液、金属イオン還元細菌及び電子供与体を含む第1反応溶液中に、金属イオン還元細菌を添加して白金イオンを還元し、白金を析出させる第1バイオ還元工程と、第1バイオ還元工程によって析出した白金を第1反応溶液から回収する第1回収工程と、第1回収工程後の第2反応溶液中に、金属イオン還元細菌を添加してパラジウムイオンを還元し、パラジウムを析出させる第2バイオ還元工程と、第2バイオ還元工程によって析出したパラジウムを第2反応溶液から回収する第2回収工程と、を含む、分離回収方法。【選択図】図1


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