タイトル: | 公開特許公報(A)_醸造酵母の培養方法および培地 |
出願番号: | 2014103742 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | C12N 1/16,C12C 11/02 |
高 橋 文 吉 ▲崎▼ 成 洋 川久保 武 藤 原 広 樹 JP 2015216888 公開特許公報(A) 20151207 2014103742 20140519 醸造酵母の培養方法および培地 キリン株式会社 311002447 勝沼 宏仁 100117787 横田 修孝 100107342 反町 洋 100126099 森田 裕 100173185 高 橋 文 吉 ▲崎▼ 成 洋 川久保 武 藤 原 広 樹 C12N 1/16 20060101AFI20151110BHJP C12C 11/02 20060101ALI20151110BHJP JPC12N1/16 DC12C11/02 12 OL 15 4B065 4B065AA72X 4B065BB02 4B065BB29 4B065BC50 4B065BD35 4B065CA42 本発明は、醸造酵母の培養方法および培地に関する。 ビール製造などの醸造に関して酵母の培養は、回分培養により行なわれてきた。回分培養とは、一定の組成の培地で酵母を増殖させた後に、新たな培地を用意し、ここに得られた酵母を培地ごと接種することを特徴とする培養方法である。培養操作が少なく、コンタミネーションが発生するリスクが低いことからビール酵母の培養に用いられている。 一方、パン製造に関して酵母の培養は、培養中にアルコール発酵が進むことを阻止する目的で、糖濃度を一定値以下に保ち、かつ糖を涸渇させないように酵母を培養する必要がある。このため、パン酵母の培養においては、培養中に糖を適量添加する培養方法、すなわち、流加培養が用いられている(特許文献1および2)。 パン酵母の培養では、炭素原として廃糖蜜を用いることが一般的である。廃糖蜜は、安価で大量に得られ、かつ酵母の増殖に適しているためである。しかしながら、廃糖蜜の成分は、その産出国、産出年度および起源作物などにより大きく異なるため、培養した酵母の品質および培養経過を一定に保つ観点では、廃糖蜜は培養に適しているとは言いがたい。そこで、特許文献3では、廃糖蜜由来成分から精製して得られた成分を培地に添加する方法を開示する。しかし、特許文献3の方法では、特別なカラムを用いた廃糖蜜成分の精製が必要である。特開2004−229563号特開2013−172739号特開2008−178423号 本発明は、醸造酵母の効率的な培養方法およびそのための培地を提供することを目的とする。 本発明者らは、醸造酵母を廃糖蜜の代わりに酵母エキスを含む培地を用いて流加培養すると、極めて高濃度の醸造酵母液が得られることを見出した。本発明者らはさらに、アンモニウムイオン濃度を4g/L以下(特に2g/L以下)に保って培養することで醸造酵母の増殖速度を高めることができることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいてなされた発明である。 本発明によれば以下の発明が提供される。(1)廃糖蜜の代替としての酵母エキスと、アンモニウムイオンと、を含むことを特徴とする、醸造酵母の流加培養用培地組成物。(2)廃糖蜜を含まないことを特徴とする、上記(1)に記載の培地組成物。(3)醸造酵母がビール酵母、ワイン酵母または焼酎酵母である、上記(1)または(2)に記載の培地組成物。(4)アンモニウムイオン濃度が、2g/L以下である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の培地組成物。(5)醸造酵母を流加培養する方法であって、 (a)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の培地組成物および流加基質を調製すること(ここで、流加基質は液糖を含んでなる)、 (b)該培地組成物に醸造酵母を接種すること、 (c)醸造酵母を培養すること、および (d)培養中に培地組成物に流加基質を添加すること、を含んでなる方法。(6)流加基質が、アンモニウムイオンをさらに含んでなる、上記(5)に記載の方法。(7)前記(d)において培養液中のアンモニウムイオン濃度が2g/L以下に維持されるように流加基質を添加する、上記(6)に記載の方法。(8)醸造酵母がビール酵母、ワイン酵母または焼酎酵母である、上記(5)〜(7)のいずれか一項に記載の方法。(9)前記(a)における培地組成物の調製および/または流加基質の調製が、少なくとも酵母エキスとアンモニウム塩と水とを混合することを含んでなる、上記(5)〜(8)のいずれかに記載の方法。(10)前記(a)における流加基質の調製が、少なくとも糖液とアンモニウム塩とを混合することを含んでなる、上記(5)〜(9)のいずれかに記載の方法。(11)上記(5)〜(10)のいずれかに記載の方法により醸造酵母を調製し、該醸造酵母を用いて発酵前液を発酵させる工程を含んでなる、発酵アルコール飲料の製造方法。(12)上記(5)〜(10)のいずれかに記載の方法によりビール酵母を調製し、該ビール酵母を用いて発酵前液を発酵させる工程を含んでなる、ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法。図1は、酵母エキスを用いたビール酵母の流加培養における細胞数の経時変化を示す。図2は、酵母エキスを用いたビール酵母の流加培養における細胞の比増殖速度を示す。図3は、アンモニウムイオン濃度において相違する3種の培地を用いたビール酵母の流加培養における、細胞数の経時変化を示す。図4は、アンモニウムイオン濃度において相違する3種の培地を用いたビール酵母の流加培養における、細胞の比増殖速度を示す。図5は、酵母エキスを用いた様々な酒造酵母の流加培養における細胞数の経時変化を示す。発明の具体的な説明 本明細書では、「醸造酵母」とは、発酵作用を利用した発酵アルコール飲料や液体調味料の製造に用いられる酵母をいう。それぞれの発酵アルコール飲料の製造工程において発酵前液の発酵に用いられる様々な酵母が知られており、本発明の培地および方法で流加培養することができる。醸造酵母のうち、特にアルコール飲料の製造に用いるものを本明細書では酒造酵母という。醸造酵母としては、清酒酵母、焼酎酵母、ワイン酵母およびビール酵母などが挙げられ、本発明で培養することができる。「ビール酵母」とは、醸造酵母の一種であり、ビールなどのビールテイスト発酵アルコール飲料の製造に用いられる酵母をいう。ビール酵母は、サッカロミセス属に属する上面酵母(Saccharomyces cerevisiae)または下面酵母(Saccharomyces pastorianus)であり、アルコール生成能などを指標に選択され、育種されてきた酵母である。本明細書では、「パン酵母」とは、パン製造に用いられる酵母をいう。パン酵母の菌株は、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)に属し、パン特有の風味をパンに与える性質を有し、パン生地中での発酵能などを指標に選択され、育種されてきた酵母である。 本明細書では、「流加培養」とは、半回分培養ともよばれ、培養系に培地成分を供給しながら細胞を培養することをいう。流加培養では、一般的には、培養液の抜き出しは行なわれず、培養中の培養液に必要な成分を含む新たな培地成分を供給することにより行なわれる。流加培養は、培地成分の供給を連続的に行なう連続流加培養と、一定時間間隔で培地成分を供給する間欠流加培養とに大別される。本明細書では、流加培養には、連続流加培養と間欠流加培養の両方が含まれる。また、本明細書では、流加培養には、培養液量一定流加培養と培養液量可変流加培養の両方が含まれる。 本明細書では、培地組成物は、流加培養における流加前の培地(以後、「初発培地」ともいう)を意味する。本発明の培地組成物は、流加培養に用いられるものであるため、培養の全工程で必要な培地成分を全て含まないものであってよい。なぜなら、培養中に必要とされる培地成分は、培養中に培地に供給することができるからである。本明細書では、「流加基質」とは、流加培養において培養系に供給される培地成分を含む基質をいう。本明細書では、流加基質をフィード液ということがある。 本発明は、発酵アルコール飲料の製造工程における発酵前液の発酵に用いる醸造酵母を得るための醸造酵母の培養方法および培地組成物に関するものである。醸造酵母は、例えば、ビール酵母、ワイン酵母または焼酎酵母とすることができ、この場合、それぞれ、発酵アルコール飲料は、ビールテイスト発酵アルコール飲料、ワインまたは焼酎である。すなわち、本発明はまた、ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造工程における発酵前液の発酵に用いるビール酵母を得るためのビール酵母の培養方法および培地組成物に関するものである。本発明はまた、ワインの製造工程における発酵前液の発酵に用いるワイン酵母を得るためのワイン酵母の培養方法および培地組成物に関するものである。本発明はまた、焼酎の製造工程における発酵前液の発酵に用いる焼酎酵母を得るための焼酎酵母の培養方法および培地組成物に関するものである。本発明の培地組成物および流加基質は、ある態様では、液体の形態で提供される。 本発明は、より具体的には、廃糖蜜の代替としての酵母エキスと、アンモニウムイオンと、を含むことを特徴とする、醸造酵母の流加培養用培地組成物に関する。本発明は、成分や品質が安定しない廃糖蜜を用いなくてもよい点で、酵母の安定的な生産に適している。すなわち、廃糖蜜を用いないことにより、品質の安定した酵母を生産することが可能となり、得られた酵母をその後の発酵アルコール飲料の製造における発酵前液の発酵に用いると、発酵前液の安定的な発酵が可能となる。しかも、酵母は培養中、安定した培養経過をたどるため、培養工程の管理が容易である。従って、本発明のある態様では、本発明の培地組成物は、廃糖蜜の一部または全部が酵母エキスにより代替されている。すなわち、本発明のある態様では、廃糖蜜の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上または100%が酵母エキスにより代替されている。本発明のある態様では、本発明の培地組成物は、廃糖蜜は全部が酵母エキスにより代替されており、廃糖蜜を含有しない。本明細書では、「廃糖蜜の代替として」とは、廃糖蜜の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上または100%が酵母エキスにより代替されていることを意味する。 本発明では、酵母エキスとしては、ビール酵母エキスおよびパン酵母エキスのいずれも好ましく用いることができる。 通常の発酵アルコール飲料、特にビールテイスト発酵アルコール飲料の製造では、発酵した発酵液等から得られた酵母を増やして次の発酵アルコール飲料の製造工程に用いるが、本発明の培地組成物は、発酵液から得られた酵母を用いる必要は無い。本発明の培地組成物は、フリーズストックなどの保存元株を培養することに適しており、従って、少量多品種のアルコール飲料を製造することに適しており、特に、製造計画の変更等に伴って急に特定の醸造酵母が必要とされたときに、酵母の保存元株から特定の酵母を増殖させる場合などに有利に用いられる。また、所望の発酵アルコール飲料の製造に適した酵母をスクリーニングする際などに、発酵前液の発酵を経ることなく酵母を増殖させることができるため、時間的に有利である。 本発明の培地組成物は、ある態様では、ビール酵母の培養のためのものであり、麦汁を含有しない。通常のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造では、発酵した麦汁等から得られた酵母を増やして次のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造工程に用いるが、本発明の培地組成物は、発酵した麦汁から得られた酵母を用いる必要は無い。本発明の培地組成物は、フリーズストックなどの保存元株を培養することに適しており、従って、少量多品種のビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することに適しており、特に、製造計画の変更等に伴って急にビール酵母が必要とされたときに、酵母の保存元株から酵母を増殖させる場合などに有利に用いられる。また、ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造に適した酵母をスクリーニングする際などに、発酵前液の発酵を経ることなく酵母を増殖させることができるため、時間的に有利である。 本発明の培地組成物は、ある態様では、培地中のアンモニウムイオン濃度が、好ましくは4g/L以下、より好ましくは3g/L以下、さらに好ましくは2g/L以下、さらにより好ましくは1.5g/L以下、最も好ましくは1g/L以下である。培地中のアンモニウム濃度を上記濃度以下に維持することで酵母の増殖速度を高めることができる。 本発明の培地組成物は、上述の通り、発酵アルコール飲料の製造過程において発酵前液を発酵させることに用いるための酵母を調製することを意図して流加培養することに用いることができる。本発明の培地組成物はまた、上述の通り、ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造過程において発酵前液を発酵させることに用いるための酵母を調製することを意図して流加培養することに用いることができる。さらに、流加培養においては、麦汁を一切用いなくてもよい。従って、本発明の培地組成物は、麦汁を用いずに酵母を流加培養するために用いることができる。 本発明の培地組成物としては、パン酵母の流加培養の初発培地として知られる様々な培地を用いることができるが、廃糖蜜の代替としての酵母エキスを含んでなる。本発明の培地組成物は、酵母エキスとアンモニウムイオンの他には、塩類、ミネラル類およびビタミン類などを含んでいてもよい。当業者であれば、酵母エキスとアンモニウムイオン以外の適宜培地組成を決定して、流加培養に用いる培地組成物を作製することができる。当業者であればまた、既存のパン酵母の流加培養の初発培地の廃糖蜜を酵母エキスで代替して本発明の培地組成物を調製することができる。 本発明によれば、本発明の培地組成物を用いた醸造酵母の流加培養方法が提供される。具体的には、本発明によれば、醸造酵母を流加培養する方法であって、 (a)本発明の培地組成物および流加基質を調製すること(ここで、流加基質は液糖を含んでなる)、 (b)培地組成物に醸造酵母を接種すること、 (c)醸造酵母を培養すること、 (d)培養中に培地組成物に流加基質を添加すること、を含んでなる方法が提供される。 以下、本発明の酵母を流加培養する方法について具体的に説明する。(a)流加培養のための培地組成物および流加基質を調製すること 流加培養のための培地組成物としては、本発明の培地組成物を用いることができる。培地組成物は、好ましくは、アンモニウム塩、例えば、窒素源である硫酸アンモニウム若しくはリン酸アンモニウムまたはこれらの混合物を用いて調製され、より好ましくは、アンモニア水を用いないで調製される。そして、リン酸アンモニウムとしては、(NH4)3PO4、(NH4)2HPO4および/またはNH4H2PO4を用いることができる。従って、本発明のある態様では、培地組成物は、少なくとも酵母エキスとアンモニウム塩と水とを混合することにより調製される。ある態様では、本発明の培地組成物中のアンモニウムイオン濃度は、好ましくは4g/L以下、より好ましくは3g/L以下、さらに好ましくは2g/L以下、さらにより好ましくは1.5g/L以下、最も好ましくは1g/L以下である。 また、流加培養のための流加基質としては、液糖を含んでなる基質を用いることができる。流加培養のための流加基質は、窒素源としてアンモニウムイオンを含んでいてもよい。下記(d)で説明するように、培養中の培地のアンモニウムイオン濃度は一定値以下に維持することが好ましいが、培養中の培養液のアンモニウムイオンを欠乏させないためには、流加基質にはアンモニウムイオンが含まれていることが好ましい。流加基質は、好ましくは、窒素源である硫酸アンモニウム若しくはリン酸アンモニウムまたはこれらの混合物を用いて調製され、より好ましくは、アンモニア水を用いないで調製される。 ある態様では、培地組成物および流加基質のいずれにも麦汁が実質的に含まれていないか、全く含まれていない。(b)培地組成物に醸造酵母を接種すること 培地を調製した後は、醸造酵母を培地組成物に接種することができる。本発明では、必ずしも発酵した麦汁から得られた酵母を接種する必要は無く、酵母の保存元株を培地組成物に接種することが可能である。従って、醸造酵母は、発酵した麦汁から得たものとしてもよいが、好ましくは、保存元株から得たものとしてもよいし、乾燥されたものであってもよい。本発明のある態様では、醸造酵母は、麦汁由来の成分を含まない。本発明では、保存元株は、例えば、酵母株のフリーズストックであり得る。(c)酵母を培養することと、および(d)培地に流加基質を添加すること 以下では(c)および(d)、すなわち流加培養について説明する。 酵母は、通常の培養条件下で培養することができる。例えば、培養温度20〜30℃、0.2vvm(体積/体積/分)〜5vvmの通気条件下で培養が可能である。流加培養は、連続流加培養と間欠流加培養のいずれにて行なってもよい。すなわち、上記(d)は、上記(c)における培養中連続して行なってもよいし、上記(c)における培養中に少なくとも1回以上、好ましくは複数回おこなってもよい。流加培養は、培養液量一定流加培養と培養液量可変流加培養のいずれにておこなってもよい。すなわち、上記(d)では、添加量は一定でも可変でもよいが、酵母の増殖に伴って添加量を増大させることが好ましい。流加基質は、エタノールの生産量または有無を指標として培地に添加することができる。流加時期および流加量は、流加基質の組成と培養中のエタノールの生産量または有無に基づいて当業者であれば適宜決定することができる。細胞の増殖速度を低下させないためには、例えば、培養液中のエタノール濃度をモニターしながらエタノールを実質的に生成させない範囲で流加量を最大限とするのが好ましい。エタノールは培地中の糖濃度が高いと産生されることが知られている。従って、エタノール産生量および濃度は、糖の添加量により制御することができる。例えば、ある態様では、流加時期および流加量は、培養中の培地のエタノール濃度が1.0容積%以下、0.5容積%以下、または0.1容積%以下に維持されることを指標として決定することができる。流加基質は、培地中の糖の濃度を指標として培地に添加することができる。 ある態様では、流加基質はアンモニウムイオンを含んでなり、培養中の培養液のアンモニウムイオン濃度が、好ましくは4g/L以下、より好ましくは3g/L以下、さらに好ましくは2g/L以下、さらにより好ましくは1.5g/L以下、最も好ましくは1g/L以下に維持されるように培養液に添加することができる。流加培養は、連続流加培養と間欠流加培養のいずれとしてもよく、培養液量一定流加培養と培養液量可変流加培養のいずれとしてもよい。 本発明のある態様では、醸造酵母がビール酵母である。 上記方法により培養して得られた醸造酵母は、発酵アルコール飲料の製造における発酵前液の発酵に用いることができる。また、上記方法により培養して得られた醸造酵母は、109細胞/mL以上の濃度で得ることができる。この酵母の濃度は、例えば、従来のビール酵母の回分培養(108細胞/mL程度)の場合よりも1桁濃い濃度であることから、少量の培養で大量の酵母を回収することができる。そのため、小規模培養設備を用いても大量の酵母を得ることができ、あるいは、培養時間の大幅な短縮が可能であると言える。また、小規模培養設備は多数設置することが容易である。そのため、本発明によれば、少量多品種の発酵アルコール飲料の製造が容易となる。これは、商品の多様性を確保する上で、極めて有利な特徴であると言える。 本発明の培養方法のある態様では、廃糖蜜を用いない。この態様では、安定した品質の酵母を得ることが可能となる。 本発明の培養方法のある態様では、アンモニア水を用いない。この態様では、刺激臭を発するアンモニア水の代わりに、窒素源として刺激臭のないアンモニウム塩を用いることができ、培養操作全般の実施が容易となる。 本発明によれば、本発明の培養方法により醸造酵母を調製し、該醸造酵母を用いて発酵前液を発酵させる工程を含んでなる、発酵アルコール飲料の製造方法が提供される。本発明において「発酵アルコール飲料」とは、酒類を意味し、日本酒、焼酎、みりん、ビールテイスト発酵アルコール飲料、ワインなどの果実酒類、ウイスキー類、スピリッツ類およびリキュール類などが挙げられる。本発明において発酵アルコール飲料は、炭素源、窒素源、および水などを原料として酵母により発酵させて得たアルコールを含むアルコール飲料である。発酵アルコール飲料の製造方法は当業者に周知であり、公知の製法に従って製造することができる。 本発明によればまた、本発明の培養方法によりビール酵母を調製し、該ビール酵母を用いて発酵前液を発酵させる工程を含んでなる、ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法が提供される。本発明において「ビールテイスト発酵アルコール飲料」とは、炭素源、窒素源、および水などを原料として酵母により発酵させた飲料であって、ビール風味を有するアルコール飲料を意味する。「ビールテイスト発酵アルコール飲料」としては、原料として麦および麦芽を使用しないビールテイスト発酵飲料(例えば、酒税法上、「その他の醸造酒(発泡性)(1)」に分類される飲料)や、原料として麦芽を使用するビール、発泡酒、リキュール(例えば、酒税法上、「リキュール(発泡性)(1)」に分類される飲料)が挙げられる。 ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法は当業者に周知であり、公知の製法に従って実施することができる。例えば、麦および麦芽を原料として使用しないビールテイスト発酵アルコール飲料は、少なくとも水および液糖から調製された発酵前液を発酵させることにより製造することができる。すなわち、水および液糖から調製された発酵前液(仕込液)に本発明の培養方法により得られた発酵用ビール酵母を添加して発酵を行い、得られた発酵液(酒下し液)を、所望により低温にて貯蔵した後、ろ過工程により酵母を除去することにより、ビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができる。また、麦芽を原料として使用するビールテイスト発酵アルコール飲料は、少なくとも水および麦芽から調製された発酵前液(麦汁)を発酵させることにより製造することができる。すなわち、水および麦芽から調製された発酵前液(仕込液)に本発明の培養方法により得られた発酵用ビール酵母を添加して発酵を行い、得られた発酵液(酒下し液)を、所望により低温にて貯蔵した後、ろ過工程により酵母を除去することにより、ビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができる。いずれの製造方法においても、酒税法等の規定に従って、炭素源および窒素源として麦、米、とうもろこし、でんぷん等の副原料を添加することができる。また、同様に、ホップ、香料、着色料(カラメル)、水質調整剤、発酵助成剤等のその他の添加物等を添加することができる。実施例1:半合成培地を用いた醸造酵母の流加培養 本実施例では、醸造酵母の流加培養を試みた。 培地としては、麦汁を用いない半合成培地を用いた。半合成培地としては、廃糖蜜を用いずにビール酵母エキスを用いた。また、比較のために対照として従来の廃糖蜜を含む培地を用いた。それぞれの培地の具体的な組成は以下の表の通りであった。 なお、廃糖蜜としては、カーギルジャパン社製の廃糖蜜(サトウキビ)を用い、ぶどう糖果糖液糖としては、日本食品化工社製のぶどう糖果糖液糖を用い、コーンスティープリカーとしては、日本食品化工社製の社製のコーンスティープリカーを用い、ビール酵母エキスとしては、キリン協和フーズ社製のビール酵母エキスを用いた。また、いずれの初発培地もpHが4.2に調整され、NaOH水溶液を用いてpHを培養中維持した。 また、まず、ジャー中の初発培地に醸造酵母として下面ビール酵母を接種し、その後、培養は、25℃で、攪拌(300rpm)および通気(1vvm)の条件下で行なった。 流加培養は、連続流加培養とし、流加基質液としてフィード液をエタノールが生成しない範囲で培養期間を通じて添加量が最大量となるように培地に添加しながら行なった。培養中、培地中のエタノール濃度をモニターして添加量を調節し、エタノール濃度を所定値以下に維持することができた。本実施例では、培養工程中、培養液中のエタノールが産生されない範囲でできるだけ多くの流加基質が添加された。具体的には、本実施例の酵母エキス試験区の場合では、培養工程中、培養液中のエタノール濃度が0.5容量%以下となるように、酵母増殖に合わせてフィード液を指数的に増加させながら添加し、培養終了時までに糖積算量として8.2g/100mLまで添加を行なった。 培養の結果は、図1に示される通りであった。図1には、各培地におけるビール酵母の細胞数と時間経過(時間)との関係が示されている。 図1に示されるように、廃糖蜜培地で培養した場合も、廃糖蜜の代わりに酵母エキスを用いて培養した場合も、細胞数は良好に増加することが明らかとなった。従って、本発明の流加培養では、廃糖蜜を用いても用いなくてもよいことが明らかとなった。 また、図1に示されるように、流加培養では、細胞濃度が109細胞/mLの濃度に達した。通常の回分培養では、細胞濃度は108細胞/mL程度であることを考慮すると、流加培養によるビール酵母の培養は、従来の方法に比べて飛躍的に大量の細胞が得られることが明らかとなった。また、炭素原としてビール酵母エキスを用いた場合には、廃糖蜜を用いた場合よりも、良好な細胞の増殖が見られた。なお、通常pH調整剤として用いられるアンモニア水をNaOH水溶液やKOH水溶液に代えても良好な流加培養が可能であった(データ非掲載)。 また、図2には、各培地における比増殖速度μと時間経過(時間)との関係が示されている。比増殖速度μは、以下の式により算出した。{式中、mtは、培養時間t(単位:時間)における酵母の重量を示し、m0は、培養開始時における酵母の重量を示す。} 図2に示されるように、比増殖速度において、廃糖蜜の代わりに酵母エキスを用いて培養した場合には、廃糖蜜培地で培養した場合と同等かそれ以上の比増殖速度を示した。 これらのことから、醸造酵母が、廃糖蜜の代替として酵母エキスを含有する培地を用いて良好に流加培養が可能であったことが分かった。実施例2:醸造酵母の流加培養条件の検討 本実施例では、醸造酵母の増殖に対するアンモニウムイオン濃度の影響を調べた。 アンモニウムイオン濃度の異なる2種類の培地(試験区1、2および3)をそれぞれ下記表3に従って調製した。培養中培地のアンモニウムイオン濃度を、試験区1では0.9g/L以下に保ち、試験区2では1.7g/L以下に保ち、試験区3は6.6g/L以下に保って培養した。また、これらの培地は、廃糖蜜、麦汁およびアンモニア水のいずれも含まない培地であった。 なお、ぶどう糖果糖液糖は、日本食品化工社製のぶどう糖果糖液糖を用い、パン酵母エキスとしては、キリン協和フーズ社製の酵母エキスを用いた。各培地は、pHが4.2に調整され、25%KOH溶液を用いてpHを培養中維持した。上記初発培地では、アンモニウムイオンが試験区1では0.82g/L、試験区2では1.64g/L、および、試験区3では、6.5g/L含まれていた。 まず、ジャー中の初発培地に醸造酵母として下面ビール酵母を接種し、培養は、25℃、攪拌(300rpm)および通気(1.7vvm)の条件下で行なった。また、流加培養は、連続流加培養とし、流加基質液としてフィード液をエタノールが生成しない範囲で培養期間を通じて添加量が最大量となるように培地に添加しながら行なった。すなわち、培養工程中、培養液中のエタノール濃度は、1.0容量%以下に維持された。 結果は、図3および4に示される通りであった。図3に示されるように、試験区1および2のいずれでも、培養開始40時間後の細胞濃度は109細胞/mLに達した。一方で、試験区3では、細胞濃度は109細胞/mLに達したものの、増殖速度が試験区1および2よりも遅かった(図3)。このように、廃糖蜜を用いずに酵母エキスを用いる流加培養では、培地のアンモニウムイオン濃度によらず、極めて良好な培養が達成されたことが理解できる。一方で、細胞数の比増殖速度は、培地のアンモニウムイオン濃度に依存し、アンモニウムイオン濃度が2g/Lである試験区1および2は、試験区3を上回った。 図4に示されるように、比増殖速度は、試験区1および2において試験区3と同等か試験区3を上回ることが明らかとなった。このことから、培地中のアンモニウムイオン濃度は、細胞増殖速度に影響することが明らかとなった。また、酵母エキスとして、パン酵母エキスを用いてもよいことが明らかとなった。実施例3:様々な醸造酵母の培養法への適用 上記実施例と同様の培養を他の下面ビール酵母、上面ビール酵母、ワイン酵母および焼酎酵母で実施した。 培地は、麦汁および廃糖蜜を用いない半合成培地とした。具体的な培地組成は、表4に示す通りであった。 なお、ぶどう糖果糖液糖は、日本食品化工社製のぶどう糖果糖液糖を用い、パン酵母エキスとしては、キリン協和フーズ社製の酵母エキスを用いた。各培地は、pHが4.2に調整され、培養中pHは維持された。 ジャー中の初発培地に醸造酵母として、それぞれ下面ビール酵母W34株(試験区4)、上面ビール酵母株(試験区5)、ワイン酵母株(試験区6)および焼酎酵母株(試験区7)を接種した。培養は、表4に記載の条件下で行なった。 流加培養は、連続流加培養とし、流加基質液としてフィード液をエタノールが生成しない範囲で培養期間を通じて添加量が最大量となるように培地に添加しながら行なった。培養中、培地中のエタノール濃度をモニターして添加量を調節し、エタノール濃度を所定値以下に維持することができた。本実施例では、培養工程中、培養液中のエタノールが産生されない範囲でできるだけ多くの流加基質が添加された。具体的には、本実施例の酵母エキス試験区の場合では、培養工程中、培養液中のエタノール濃度が0.5容量%以下となるように、酵母増殖に合わせてフィード液を指数的に増加させながら添加した。 結果は図5に示される通りであった。いずれの試験区でも細胞は良好な増殖を示し、細胞数は109細胞/mLに達した。上面ビール酵母(試験区5)とワイン酵母(試験区6)では特に良好な増殖が見られ、細胞数は、2×109細胞/mLに達した。 このように、廃糖蜜を用いない本培地組成での流加培養法によって、様々な酒造酵母を良好に培養可能なことが明らかになった。 廃糖蜜の代替としての酵母エキスと、アンモニウムイオンとを含むことを特徴とする、醸造酵母の流加培養用培地組成物。 廃糖蜜を含まないことを特徴とする、請求項1に記載の培地組成物。 醸造酵母がビール酵母、ワイン酵母または焼酎酵母である、請求項1または2に記載の培地組成物。 アンモニウムイオン濃度が、2g/L以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の培地組成物。 醸造酵母を流加培養する方法であって、 (a)請求項1〜4のいずれか一項に記載の培地組成物および流加基質を調製すること(ここで、流加基質は液糖を含んでなる)、 (b)該培地組成物に醸造酵母を接種すること、 (c)醸造酵母を培養すること、および (d)培養中に培地組成物に流加基質を添加すること、を含んでなる方法。 流加基質が、アンモニウムイオンをさらに含んでなる、請求項5に記載の方法。 前記(d)において培養液中のアンモニウムイオン濃度が2g/L以下に維持されるように流加基質を添加する、請求項6に記載の方法。 醸造酵母がビール酵母、ワイン酵母または焼酎酵母である、請求項5〜7のいずれか一項に記載の方法。 前記(a)における培地組成物の調製が、少なくとも酵母エキスとアンモニウム塩と水とを混合することを含んでなる、請求項5〜8のいずれか一項に記載の方法。 前記(a)における流加基質の調製が、少なくとも糖液とアンモニウム塩とを混合することを含んでなる、請求項5〜9のいずれか一項に記載の方法。 請求項5〜10のいずれか一項に記載の方法により醸造酵母を調製し、該醸造酵母を用いて発酵前液を発酵させる工程を含んでなる、発酵アルコール飲料の製造方法。 請求項5〜10のいずれか一項に記載の方法によりビール酵母を調製し、該ビール酵母を用いて発酵前液を発酵させる工程を含んでなる、ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法。 【課題】醸造酵母の効率的な培養方法およびそのための培地の提供。【解決手段】廃糖蜜の代替としての酵母エキスと、アンモニウムイオンとを含むことを特徴とする、醸造酵母を流加培養するための培地組成物。【選択図】なし