| タイトル: | 公開特許公報(A)_発酵によるγ−グルタミルシステインおよびこのジペプチドの誘導体の過剰生産のための微生物ならびに方法 |
| 出願番号: | 2014096105 |
| 年次: | 2014 |
| IPC分類: | C12N 15/09,C12N 1/21,C12P 21/02 |
マルセル、テーン トーマス、シュレッサー JP 2014226136 公開特許公報(A) 20141208 2014096105 20140507 発酵によるγ−グルタミルシステインおよびこのジペプチドの誘導体の過剰生産のための微生物ならびに方法 ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト 390008969 Wacker Chemie AG 勝沼 宏仁 100117787 浅野 真理 100120617 藤井 宏行 100143971 マルセル、テーン トーマス、シュレッサー DE 10 2013 209 274.1 20130517 C12N 15/09 20060101AFI20141111BHJP C12N 1/21 20060101ALI20141111BHJP C12P 21/02 20060101ALI20141111BHJP JPC12N15/00 AC12N1/21C12P21/02 C 10 1 OL 26 4B024 4B064 4B065 4B024AA01 4B024BA80 4B024CA01 4B024DA05 4B024DA06 4B024EA04 4B024FA13 4B024FA20 4B024GA11 4B024GA25 4B024HA08 4B064AG01 4B064CA02 4B064CA19 4B064CC24 4B064DA01 4B065AA01X 4B065AA26X 4B065AB01 4B065BA03 4B065BA16 4B065CA24 4B065CA44発明の背景 本発明は、γ−グルタミルシステイン(γGC)と、このジペプチドの誘導体であるγ−グルタミルシスチン(γ-glutamylcysteine)およびビス−γ−グルタミルシスチンとの過剰生産に適した原核(prokaryotic)微生物株、さらにこれらの化合物を調製するための方法に関する。 γ−グルタミルシステインは、原核生物および真核生物の細胞でアミノ酸であるL−システインとL−グルタミン酸との連結により形成されるジペプチドである。 ビス−γ−グルタミルシスチンは、γ−グルタミルシステイン2分子の酸化により形成されるジスルフィドである。この反応は可逆的であり、これはビス−γ−グルタミルシスチンが(例えば、酵素的または化学的)還元により変換され、γ−グルタミルシステインに戻る可能性があることを意味する。 γ−グルタミルシスチンは、γ−グルタミルシステイン1分子とL−システイン1分子との酸化により形成されるジスルフィドである。この反応は可逆的であり、これはγ−グルタミルシスチンが(例えば、化学的)還元により変換され、γ−グルタミルシステインとL−システインに戻る可能性があることを意味する。 チオール化合物であるγ−グルタミルシステインは、数多くの生物においてグルタチオンの前駆体として働く。グルタチオン生合成の第1段階は、ATP依存性酵素であるγ−グルタミルシステインシンセターゼによるL−システインのα−アミノ基とL−グルタミン酸のγ−カルボキシ基とのγ−ペプチド結合による連結である。さらに、この反応はグルタチオン生合成の制限段階でもあり、これはγ−グルタミルシステインシンセターゼ酵素がグルタチオンにより阻害されるためである。グルタチオン生合成の第2段階は、グルタチオンをもたらす、L−グリシンとγ−グルタミルシステインとの反応であり、この反応ではL−グリシンがγ−グルタミルシステインのシステイニル官能基にα−ペプチド結合を介して連結される。同様にATP依存的なこの反応はグルタチオンシンセターゼ酵素によって触媒される。 グルタチオンは、その抗酸化特性から細胞で重要な役割を果たし、数多くの細胞プロセスに還元剤、補基質および補因子として関与する。しかしながら、グルタチオン欠乏生物も知られており、この生物ではグルタチオン前駆体であるγ−グルタミルシステインがグルタチオンの生物学的役割を引き受ける。Halobacterium halobiumなどの好塩性古細菌の代表的なものが公知の例である(Sundquist and Fahey, 1989, J. Biol. Chem. 264: 719-725)。 さらに、文献には様々な種の異なるグルタチオン欠乏微生物株が記載されており、例えば、サッカロミセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)(Grant et al., 1997, Mol. Biol. Cell. 8: 1699-1707)、シネコシスティス属種(Synechocystis sp.)(Cameron and Pakrasi, 2011, Plant Signal. Behav. 6: 89-92)または大腸菌(Eschericha coli)(Fuchs and Warner, 1975, J. Bacteriol. 124: 140-148)がある。これらの菌株は、グルタチオンシンセターゼをコードする対応遺伝子(例えば、大腸菌およびシネコシスティス属種の場合にはgshBまたはS.セレビシエの場合にはgsh2)に突然変異または欠失を有する。グルタチオンシンセターゼ活性の修飾または喪失により、これらの菌株はもはやグルタチオンを合成することができないか、または限られた程度までしかグルタチオンを合成することができない。その結果として、細胞のγ−グルタミルシステインレベルは上昇する。これらの変異株は生存できるが、これは存在するγ−グルタミルシステインの生成促進および濃度上昇によりグルタチオン特有の数多くの機能が引き継がれるためである。しかしながら、それらの変異株は、対応する野生型株と比較して活性酸素種および重金属イオンに対する感受性が増大していることを特徴とする場合が多く、その結果、それらの増殖は部分的に障害を受ける(Cameron and Pakrasi, 2011 Plant Signal. Behav. 6: 89-92; Helbig et al., 2008, J. Bacteriol. 190: 5439-5454)。 活性酸素種、重金属イオンおよび生体異物の解毒は、多くの生物でも、ヒトでも、とりわけ、グルタチオンを介して、頻繁に行われる(Grant et al., Mol. Biol. Cell. 8: 1699-1707)。さらに、低グルタチオンレベルは、多くの場合、症状であり、および/または自閉症、パーキンソン病、嚢胞性繊維症、HIV、癌または統合失調症などの様々な疾患の基盤である(Wu et al., 2004, J. Nutr. 134: 489-492)。そのため、細胞内グルタチオンレベルを一定に維持することに、またはそらにはそれを上昇させるために、大きな関心が寄せられている。γ−グルタミルシステインは細胞のグルタチオンレベルを上昇させるための有望な物質として既に試験に成功している(Anderson and Meister, 1983, P.N.A.S. 80: 707-711). WO2006102722号公報には、γ−グルタミルシステインを調製するための酵素的方法が記載されており、その方法は、固定化γ−グルタミルシステイントランスペプチダーゼを利用するシステイン誘導体とγ−グルタミル供与体との反応に基づくものである。 微生物のγ−グルタミルシステイン生産者は、主として、サッカロミセス目(Saccharomycetales)の真菌株、例えば、サッカロミセス セレビシエまたはカンジダ ユチリス(Candida utilis)であるが、それらの菌株は主にグルタチオンの生産に使用されている。そのような菌株は、例えば、WO2010116833A1号公報、US7371557B2号公報およびUS2005074835A1号公報に開示されている。とりわけ、EP2251413A1号公報、US7569360B2号公報、US2004214308A1号公報、US2003124684A1号公報、US7410790B2号公報およびEP1489173B1号公報には、各段に高いγ−グルタミルシステイン生産能力を有する同じ目の他の真菌株が記載されている。これらの真菌株は、様々な菌株固有の特性、例えば、セルレニンまたはニトロソグアニジンの耐性あるいはパントテン酸要求性の他に、共通した特徴として、グルタチオンシンセターゼ活性が低下している。 さらに、US2005042328A1号公報には、グルタチオンシンセターゼ活性が低下しており、かつgsh1発現が上昇している(gsh1はγ−グルタミルシステインシンセターゼをコードする)C.ユチリス株でのγ−グルタミルシステインの細胞内富化が記載されている。 真菌のγGC生産システムの欠点は、比較的低いγ−グルタミルシステイン収量と、さらにγ−グルタミルシステインの細胞内蓄積であり、そのため、γ−グルタミルシステインについて考えられる後処理として真菌細胞の破壊が必要であると思われる。 US20100203592A1号公報には、γ−グルタミルシステインの原核生物生産者として、様々な大腸菌株が記載されており、それらの総てはgshA発現が上昇している。さらに、これらの菌株は、対応する親株と比較して、グルタチオンシンセターゼ活性が正常であるか、または上昇している。培養培地へのγ−グルタミルシステインの分泌は、真菌のシステムとは対照的に、これらの菌株によって可能である。これらの菌株での最大収量は262mg/lであるが、それでは実用的な方法を確立するには不十分である。 γ−グルタミルシステインと、その誘導体であるビス−γ−グルタミルシスチンおよびγ−グルタミルシスチンという有望な生物活性化合物を過剰生産することが可能であり、さらに、培養培地へのこれらの化合物の分泌がg/lスケールで可能な微生物株は未だ存在していない。 よって、本発明の目的は、γ−グルタミルシステインと、その誘導体であるビス−γ−グルタミルシスチンおよびγ−グルタミルシスチンを過剰生産することが可能であり、さらに、培養培地中へのこれらの化合物の細胞外蓄積を可能にする微生物株を提供することである。 その目的は原核微生物株によって達成され、該原核微生物株は親株から作製され得るものであり、該親株と比較して細胞グルタチオンシンセターゼ活性が低下しており、かつ、細胞グルタチオンシンセターゼ活性が同様に低下している株よりも大幅に増加している細胞γ−グルタミルシステインシンセターゼ活性を有する。図1は、プラスミドpACYC184−LHの制限および機能地図を示す。図2は、pgshAp−gshATTGの制限および機能地図を示す。図3は、ptufBの制限および機能地図を示す。図4は、ptufBp−gshAATGの制限および機能地図を示す。図5は、pgshAATG−serA2040の制限および機能地図を示す。図6は、pgshAATG−cysE14の制限および機能地図を示す。図7は、pgshAATG−cysE14−serA2040の制限および機能地図を示す。図8は、pgshAATG−serA2040−orf306の制限および機能地図を示す。図9は、pgshAATG−cysE14−orf306の制限および機能地図を示す。図10は、pgshAATG−cysE14−serA2040−orf306の制限および機能地図を示す。図11は、A)未処理の(酸化)サンプルおよびB)DTT処理した(還元)サンプルのHPLCクロマトグラムを示す。発明の具体的説明 本発明による菌株におけるグルタチオンシンセターゼ活性は、好ましくは、非常に低下しており、該活性が対応する野生型株のグルタチオンシンセターゼ活性の最大でも50%である。 好ましくは、グルタチオンシンセターゼ活性修飾前の野生型のグルタチオンシンセターゼ活性の最大でも25%を示す原核微生物株である。菌株のグルタチオンシンセターゼ活性の低下とは、特に好ましくは、この菌株にグルタチオンシンセターゼ活性が存在しないことを意味することと理解される。 本発明による菌株におけるγ−グルタミルシステインシンセターゼ活性は、好ましくは、グルタチオンシンセターゼ活性が同様に低下している株よりも少なくとも約5倍高い。 特に好ましくは、グルタチオンシンセターゼ活性とγ−グルタミルシステインシンセターゼ活性との両方が上記のように修飾されている本発明による微生物株である。 DNA同一性の程度は、http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/のサイトで見つけることができる「nucleotide blast」プログラムにより確認され、このプログラムはblastnアルゴリズムに基づくものである。2つ以上のヌクレオチド配列のアラインメントでは、アルゴリズムパラメーターとしてデフォルトパラメーターが使用された。デフォルトの一般的なパラメーターは、Max target sequences = 100; Short queries = “Automatically adjust parameters for short input sequences”; Expect Threshold = 10; Word size = 28; Automatically adjust parameters for short input sequences = 0である。対応するデフォルトのスコアリングパラメーターは、Match/Mismatch Scores = 1,-2; Gap Costs = Linearである。 タンパク質配列の比較には、http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/のサイトにある「protein blast」プログラムが使用される。このプログラムは、blastpアルゴリズムに基づくものである。2つ以上のタンパク質配列のアラインメントでは、アルゴリズムパラメーターとしてデフォルトパラメーターが使用された。デフォルトの一般的なパラメーターは、Max target sequences = 100; Short queries = “Automatically adjust parameters for short input sequences”; Expect Threshold = 10; Word size = 3; Automatically adjust parameters for short input sequences = 0である。デフォルトのスコアリングパラメーターは、Template = BLOSUM62; Gap Costs = Existence: 11 Extension: 1; Compositional adjustments = Conditional compositional score template adjustment)である。 発酵により培養することができる、γ−グルタミルシステインの生合成経路を有する総ての原核微生物株は、原則として、本発明による微生物株の作製のための親株として好適である。そのような微生物は、真正細菌(Bacteria)(以前はEubacteria)または古細菌(Archaea)(以前はArchaebacteria)のドメインに属し得る。 これらの生物は、好ましくは、真正細菌(bacteria)の系統発生群の代表的なものである。特に好ましくは、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)の微生物(microorgansims)であり、特に、大腸菌およびパントエア アナナティス (Pantoea ananatis)種である。 γ−グルタミルシステインシンセターゼ活性は、実施例9に記載のとおり、経時的なγ−グルタミルシステインの生成に基づいて測定される。 グルタチオンシンセターゼ活性は、ピルビン酸キナーゼ結合酵素試験を用いることによってADPの生成速度により決定され、この試験では、L−グリシンおよびL−γ−グルタミル−L−α−アミノ酪酸を基質として反応させる(Kim et al., 2003, J. Biochem. Mol. Biol. 36: 326-331)。 本発明による微生物の作製に好適な親株は、好ましくは、γ−グルタミルシステインの生合成経路を有し、さらに、対応する親株と比較してL−システイン生合成能が上昇している原核微生物株である。L−システイン生合成能の上昇はγ−グルタミルシステインの生成に有利であるが、この理由は、γ−グルタミルシステインの高生産のためには、γ−グルタミルシステイン前駆体としてのL−システインの十分な量の供給が制限されていてはならないからである。「L−システイン生合成能の上昇」とは、本発明によれば、L−システインまたはその誘導体であるL−シスチンおよびチアゾリジンを、対応する野生型株、親株または非修飾株よりも多く生産する微生物株の能力を意味することと理解される。これは、一般には、培地中でのL−システイン、L−シスチンおよび/またはチアゾリジンの富化として現れる。従って、関連微生物株の発酵中または発酵終了時に、培地で少なくとも0.5g/lの「総システイン」(L−システイン+L−シスチン+チアゾリジン)が検出されるならば、L−システイン生合成能の上昇が存在することになり、これは当業者には知られている。 L−システイン生合成能が上昇している本発明による微生物の作製のための潜在的親株は、例えば、US20040038352A1号公報、US20090053778号公報、EP1528108A1号公報、EP2345667A2号公報またはEP2138585号公報に開示されている。 さらに、遺伝子または論点の遺伝子の変異体(対立遺伝子)は、アミノ酸であるL−システイン、および/あるいはL−セリンまたはO−アセチルセリンの前駆体の過剰生産のためのそれらの使用を導いた先行技術から既に分かっている: ・EP0620853B1号公報、EP1496111B1号公報およびEP0931833A2号公報に記載されているserA対立遺伝子: これらのserA対立遺伝子は3−ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子であり、L−セリンによるフィードバック阻害の低減を受けている。このように、3−ヒドロキシピルビン酸の生成は細胞のセリンレベルから大きく切り離されており、そのため、L−システインへの大量の流れをよくすることが可能である。 ・WO9715673号公報、Nakamori S. et al., 1998, Env. Microbiol 64: 1607-1611またはTakagi H. et al., FEBS Lett. 452: 323-327に記載されているcysE対立遺伝子: これらのcysE対立遺伝子はセリン−O−アセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子であり、L−システインによるフィードバック阻害の低減を受けている。このように、O−アセチルセリンおよびL−システインの生成は細胞内のL−システインレベルから大きく切り離されている。 ・EP885962A1号公報に記載されている排出遺伝子: EP885962A1号公報に記載されているorf306は、長年にわたり何度も引用されている。orf306、またはorf299、ydeDおよびeamAとも呼ばれる遺伝子のDNA配列は、現在、受託番号NC_004431またはNC_007779のもとで寄託されている。orf306(orf299、eamAまたはydeD)は排出系をコードする遺伝子であり、抗生物質およびその他の毒性物質の排除に適しており、L−システイン、L−シスチン、N−アセチルセリンおよび/またはチアゾリジン誘導体の過剰生産をもたらす(Ohtsu I. et al., 2010, J. Biol. Chem. 285; 17479 - 17489;EP885962号公報およびEP1233067B1号公報)。 ・DE19949579C1号公報に記載されているcysB: cysB遺伝子は、システイン代謝の中心的な調節因子をコードする遺伝子であり、とりわけ、システイン生合成での硫化物の供給において、決定的な役割を果たす。 本発明による微生物株はまた、好ましくは、上述の遺伝子または対立遺伝子のうちの1種以上を発現することがある。特に好ましくは、cysEまたはserAの記載した対立遺伝子のうちの1種と、さらにorf306とを使用することである。この場合、cysEおよびserAの対立遺伝子とorf306は、本発明による微生物株において個別にまたは一緒に発現され得る。本発明による微生物株は、特に好ましくは、実施例において発明として提示される遺伝子改変、表4において発明としてみなされているものを有する。 発明の微生物株は、標準的な分子生物学技術を用いて作製することができる。 γ−グルタミルシステインシンセターゼ(GshA)の細胞活性は、例えば、gshA遺伝子もしくはgshAホモログ(相同体)のコピー数を増加させることにより、またはgshA遺伝子もしくはgshAホモログの発現増加をもたらす好適なプロモーターを用いることにより増加させることができる。 大腸菌のgshA遺伝子はγ−グルタミルシステインシンセターゼ(GshA)酵素をコードする。gshA遺伝子は配列番号1で示される。GshA遺伝子産物(GshA)は配列番号2で示される。本発明の文脈において、gshA相同遺伝子とは、配列番号1との配列同一性が30%を超えるものである。gshAホモログは、特に好ましくは、配列番号1に対して70%を超える配列同一性を有するものである。 GshAホモログは、配列番号2との配列同一性が30%を超えているタンパク質である。GshAホモログは、特に好ましくは、配列番号2に対して70%を超える配列同一性を有するものである。 微生物におけるgshA遺伝子またはgshAホモログのコピー数の増加は、当業者に公知の方法を用いて行うことができる。従って、gshAまたはgshAホモログは、例えば、1細胞あたりのコピー数が多いプラスミドベクター(例えば、大腸菌の場合、pBR322、pBR誘導体、pBluescript、pUC18、pUC19、pACYC184およびpACYC184誘導体)にクローニングし、微生物に導入することができる。あるいは、gshA遺伝子またはgshAホモログの、微生物株染色体への組込みを繰り返し行ってもよい。組込み方法として、溶原性バクテリオファージ、組込み型プラスミドまたは相同組換えによる組込みを用いる既知システムを利用してよい(Hamilton et al., 1989, J. Bacteriol. 171: 4617-4622; Datsenko and Wanner, 2000, P.N.A.S. 97: 6640-6645)。 好ましくは、プロモーターの制御下でのプラスミドベクターへのgshAまたはgshAホモログのクローニングによるコピー数の増加である。特に好ましくは、pACYC誘導体、例えば、pACYC184−LH(ブダペスト条約に基づき、German Collection of Microorganisms and Cell Cultures(83124 Braunschweig, Inhoffenstraβe 7B)に1995年08月18日付けで番号DSM 10172のもとで寄託された)へのgshAまたはgshAホモログのクローニングによる大腸菌でのコピー数の増加である。 コピー数の増加とは、好ましくは、約10倍の増加を意味することと理解される。 gshA遺伝子またはgshAホモログは、例えば、完全遺伝子をカバーする特異的プライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による特異的増幅と、プラスミドDNA断片とのその後の連結により、プラスミドベクターにクローニングされる。 前記遺伝子の天然プロモーターおよび/またはオペレーター領域は、プラスミドにコードされている遺伝子の発現の制御領域として役目を果たすことができる。 gshAまたはgshAホモログの発現率もまた、他のプロモーターを用いて増加させることができる。関連プロモーター系、例えば、大腸菌におけるgapA遺伝子のGAPDH構成性プロモーターあるいはlac、tac、trc、λ、araまたはtet誘導性プロモーターは当業者に公知である(Markides S.C., 1996, Microbiol. Rev. 60: 512-538)。そのような構築物は、プラスミドまたは染色体に導入して、それ自体が公知である方法で使用することができる。 さらに、細胞のGshA活性の増加は、翻訳開始シグナル、例えば、リボソーム結合部位、またはシャイン ダルガーノ配列を、各構築物の最適化配列中に存在させること、あるいは「コドン使用頻度」によるレアコドンを使用頻度の高いコドンと置換することにより達成することができる。 細胞のGshA活性はまた、突然変異(単一または複数のヌクレオチドの置換、挿入または欠失)をgshA遺伝子またはgshAホモログのリーディングフレームに導入し、その結果として、GshAまたはGshAホモログの比活性の増加をもたらすことによっても増加させることができる。gshA遺伝子の希少な開始コドンTTGを、例えば、通常の開始コドンATGと置換することにより、大腸菌では、gshAの発現増加だけでなく、GshAの総細胞活性の増加ももたらされる(Kwak et al., 1998, J. Biochem. Mol. Biol. 31: 254-257)。 また、タンパク質レベルでの、アラニン494のバリンまたはロイシンとの置換(A494VまたはA494L)、あるいは495位にあるセリンのトレオニンとの置換(S495T)を含むgshAの部位特異的突然変異によっても、大腸菌で細胞GshA活性の増加がもたらされる(Kwak et al., 1998, J. Biochem. Mol. Biol. 31: 254-257)。そのような対立遺伝子は、好ましくは、本発明によるgshAホモログである。 微生物株においてグルタチオンシンセターゼ活性を低下させるための方法も先行技術から分かっている。細胞グルタチオンシンセターゼ活性は、例えば、突然変異(単一または複数のヌクレオチドの置換、挿入または欠失)をgshB遺伝子またはgshBホモログのリーディングフレームに導入し、その結果として、GshBまたはGshBホモログの比活性の低下をもたらすことによって、低下させることができる。そのようなgshB対立遺伝子を作製するための方法は当業者に公知である。gshB遺伝子の対立遺伝子は、例えば、出発材料としてgshB野生型遺伝子のDNAを用い、非特異的または定方向突然変異誘発により作製することができる。そのような対立遺伝子の例は、野生型酵素と比較してGshB活性が低下しているGshB変異体をコードするものであり、例えば、Kato et al. (1988, J. Biol. Chem. 263: 11646-11651)に記載されている。 gshB遺伝子またはgshB遺伝子のプロモーター領域内での非特異的突然変異は、例えば、とりわけ、ニトロソグアニジン、エチルメタンスルホン酸などの化学薬品により、および/または物理的方法により、および/またはある特定条件下で実施されるPCR反応により引き起こすことができる。DNA断片内の特定の位置に突然変異を導入するための方法は公知である。例えば、gshB遺伝子およびそのプロモーター領域を含んでなるDNA断片内の一つ以上の塩基を、プライマーとして好適なオリゴヌクレオチドを用いたPCRによって置換することができる。さらに、遺伝子合成によってgshB遺伝子全体または新たなgshB対立遺伝子を作製することも可能である。 一般的には、gshB対立遺伝子が最初にin vitroで作製され、その後、細胞の染色体に挿入され、それによって、本来存在するgshB野生型遺伝子が置き換えられ、その結果、gshB変異株が生じる。gshB対立遺伝子は、公知の標準的な方法により、gshB野生型遺伝子の代わりに宿主細胞の染色体に挿入することができる。これは、例えば、相同組換え機構による遺伝子への染色体突然変異の導入に関して、Link et al. (1997, J. Bacteriol. 179: 6228-37)に記載されている方法により行うことができる。gshB遺伝子全体またはその一部の染色体欠失は、例えば、Datsenko and Wanner (2000, Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 97: 6640-5)により記載されている方法によるΛ−Redリコンビナーゼシステムの利用によって可能である。また、gshB対立遺伝子は、P1ファージによる形質導入または接合によってgshB突然変異を有する菌株からgshB野生型株へと移入させることもでき、この場合、染色体内のgshB野生型遺伝子は対応するgshB対立遺伝子に置き換えられる。 さらに、細胞のグルタチオンシンセターゼ活性は、発現調節に必要な少なくとも一つのエレメント(例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合部位)を単一または複数のヌクレオチドの置換、挿入または欠失により突然変異させることによっても低下させることができる。 大腸菌のgshB遺伝子はグルタチオンシンセターゼ酵素をコードする。gshB遺伝子は配列番号3により示される。GshB遺伝子産物(GshB)は配列番号4により示される。本発明の文脈において、gshB相同遺伝子とは、配列番号3との配列同一性が30%を超えるものである。特に好ましくは、配列番号3に対して70%を超える配列同一性である。GshBホモログは、配列番号4との配列同一性が30%を超えているタンパク質である。GshBホモログは、特に好ましくは、配列番号4に対して70%を超える配列同一性を有するものである。 本発明さらに、γ−グルタミルシステイン(γGC)と、このジペプチドの誘導体であるγ−グルタミルシスチンおよびビス−γ−グルタミルシスチンを過剰生産するための方法に関し、この方法では、本発明による微生物株を発酵培地中で培養し、該培地から該細胞を除去し、該培養培地から目的生成物を精製する。 本発明による方法に必要な微生物は、工業規模で当業者に公知の慣行発酵方法によりバイオリアクター(発酵槽)中で培養される(発酵させられる)。 発酵は、好ましくは、従来のバイオリアクター、例えば、撹拌槽、気泡塔型発酵槽またはエアリフト型発酵槽で行われる。特にこの好ましくは、撹拌槽型発酵槽である。この場合の工業規模とは、発酵槽の大きさが少なくとも2lであることを意味することと理解される。好ましくは容量が5lより大きい発酵槽であり、特に好ましくは、50lを超える容量の発酵槽である。 γ−グルタミルシステイン生産用の細胞は好気増殖条件下で培養され、その場合、発酵中の酸素含有量は最大でも50%飽和に調整される。培養物中の酸素飽和度はガスの供給および撹拌装置の速度によって自動調節される。 炭素源としては、好ましくは糖、糖アルコール、有機酸または糖含有植物加水分解物である。本発明による方法では、特に好ましくは、炭素源として、グルコース、フルクトース、ラクトース、グリセロールまたはこれらの化合物のうちの2種以上を含んでなるそれらの混合物を使用することである。 生産段階中の発酵槽の炭素源含有量が10g/lを越えないるように、培養物に炭素源が添加されることが好ましい。最大濃度は2g/lであることが好ましい。 本発明による方法では、好ましくは、窒素源として、アンモニア、アンモニウム塩またはタンパク質加水分解物を使用することである。pHを安定させるための調整手段としてアンモニアを使用する場合には、この窒素源が発酵中に通常添加される。 さらなる培地添加物として、リン、塩素、ナトリウム、マグネシウム、窒素、カリウム、カルシウム、鉄各元素の塩、ならびに、痕跡量、すなわち、μM濃度量の、モリブデン、ホウ素、コバルト、マンガン、亜鉛およびニッケル各元素の塩を添加することができる。 さらに、有機酸(例えば、酢酸塩、クエン酸塩)、アミノ酸(例えば、L−グルタミン酸、L−システイン)およびビタミン(例えば、B1、B6)を培地に添加することができる。 L−グルタミン酸は、この場合、酸としてそのまま使用するか、あるいはその塩のうちの一形態、例えば、グルタミン酸のカリウムまたはナトリウム塩として、単独でまたは混合物として使用することができる。好ましくは、グルタミン酸カリウムの使用である。 使用する複合栄養源は、例えば、酵母抽出物、コーンスティープリカー、脱脂大豆または麦芽抽出物であってよい。 大腸菌などの中温性微生物のインキュベーション温度は、好ましくは、15〜45℃、特に好ましくは、30〜37℃である。 本発明の発酵方法の生産段階は、培養ブロスでγ−グルタミルシステイン、ビス−γ−グルタミルシスチンまたはγ−グルタミルシスチンが初めて検出された時点から始まる。この段階は、一般に、生産発酵槽への前培養物接種から約8〜12時間後に始まる。 微生物は、記載される方法に従ってバッチ法またはフェドバッチ法により発酵させられ、少なくとも48時間の増殖期の後に、γ−グルタミルシステインと、それから誘導される化合物γ−グルタミルシスチンおよびビス−γ−グルタミルシスチンを発酵培地中に高効率で分泌する。 本発明の文脈において、γ−グルタミルシステインの過剰生産とは、好ましくは、γ−グルタミルシステインまたはその誘導体であるγ−グルタミルシスチンおよびビス−γ−グルタミルシスチンを、対応する野生型株、親株または非修飾株よりも多く生産する微生物株の能力を意味することと理解される。これは、一般には、培地中でのγ−グルタミルシステイン、γ−グルタミルシスチンおよび/またはビス−γ−グルタミルシスチンの富化として現れる。従って、関連微生物株の発酵終了時に、培地で「総γ−グルタミルシステイン」(γ−グルタミルシステイン+γ−グルタミルシスチン+ビス−γ−グルタミルシスチン)が少なくとも0.2g/lの収量で検出されるならば、γ−グルタミルシステインの過剰生産が起こっていることになる。培地での「総γ−グルタミルシステイン」の収量は、好ましくは、例えば、表3および表4に記載される本発明の微生物で達成され得るように、3〜23g/lの範囲内である。実利的な方法の確立に関しては、培地での「総γ−グルタミルシステイン」の収量が10〜23g/lの範囲内であることが特に好ましい。 以下、実施例により本発明をさらに説明する。実施例1:大腸菌株W3110(ATCC27325)における遺伝子gshBの欠失(グルタチオンシンセターゼ(gutathione synthetase)の不活性化) Datsenko and Wanner (Datsenko and Wanner, 2000, P.N.A.S. 97: 6640-6645)によって開発された「Λ−Red法」に従い、大腸菌において酵素グルタチオンシンセターゼ(GshB)をコードする遺伝子gshBを、大腸菌株W3110(ATCC27325)において欠失させた。カナマイシン耐性(resistence)マーカー(kanR)をコードするDNA断片を、プライマーgshB−del−for(配列番号5)およびgshB−del−rev(配列番号6)を用いて増幅した。 プライマーgshB−del−forは、gshB遺伝子の5’末端と相同な、30ヌクレオチドからなる配列と、プラスミドpKD13(Coli Genetic Stock Center (CGSC)番号7633)上の2つのFRT部位(FLP認識ターゲット)のうちの一方をコードするDNA配列と相補的な、20ヌクレオチドを含んでなる配列をコードする。プライマーgshB−del−revは、gshB遺伝子の3’末端と相同な、30ヌクレオチドからなる配列と、プラスミドpKD13上のもう一方のFRT部位をコードするDNA配列と相補的な、20ヌクレオチドを含んでなる配列をコードする。 増幅したPCR産物を、US5972663A号公報の実施例2に記載のとおり、エレクトロポレーションによって大腸菌株W3110(ATCC27325)に導入した。形質転換されたgshB欠損細胞を、50mg/lカナマイシンを含有するLB寒天プレート上で選択した。マーカー遺伝子(カナマイシン耐性、kanR)をFLPリコンビナーゼ酵素で除去した。この酵素はプラスミドpCP20(CGSC番号7629)上にコードされていた。プラスミドpCP20は、「複製起点」(ori)が温度感受性であるため、形質転換後に大腸菌細胞を43℃でインキュベートすることにより再び除去することができる。このようにして作製される大腸菌gshB欠失株をW3110ΔgshBと呼称する。実施例2:自身のプロモーターを含むgshA遺伝子の増幅 大腸菌におけるgshA遺伝子のプロモーター配列は知られている(Watanabe et al., 1986, Nucleic Acids Res. 14: 4393-4400)。大腸菌のgshA遺伝子とgshAプロモーター(gshAp)をコードするDNA断片をPCRによって増幅した。gshA遺伝子のプロモーター配列をコードするDNA断片を、プライマーgshAp−gshA−for(配列番号7)およびgshAp−gshA−rev(配列番号8)を用いて増幅した。大腸菌株W3110(ATCC 27325)の染色体DNAをPCR反応の鋳型として用いた。 およそ1.9kbの大きさのPCR断片をアガロースゲル電気泳動により精製し、「QIAquick Gel Extraction Kit」(Qiagen GmbH, Hilden, D)を製造業者の説明書に従って使用してアガロースゲルから単離した。次に、精製したPCR断片を制限酵素XbaIで消化し、−20℃で保存した。実施例3:gshA遺伝子の増幅および突然変異誘発A.gshA遺伝子の増幅 大腸菌のgshA遺伝子をPCRによって増幅した。大腸菌株W3110(ATCC 27325)の染色体DNAをPCR反応の鋳型として用いた。増幅にはTaqポリメラーゼ(Qiagen GmbH)を使用し、これによってPCR産物の各3’末端にアデニンが付加される。gshAの増幅の過程で、好適なプライマーを用いることにより希少な開始コドンTTGを開始コドンATGに置き換えた。オリゴヌクレオチドgshA−OE−for(配列番号9)およびgshA−OE−rev(配列番号10)を特異的プライマーとして用いた。 得られた1.6kbの大きさのDNA断片をアガロースゲル電気泳動により精製し、「QIAquick Gel Extraction Kit」(Qiagen GmbH)を使用してアガロースゲルから単離した。増幅および精製したPCR産物とベクターpCR2.1−TOPO(Life Technologies, Life Technologies GmbH, Darmstadt, D)との連結は、「TOPO(商標)TA Cloning(商標)Kit with PCR(商標)2.1 TOPO(商標)」を使用した「TA Cloning」により、製造業者の説明書(Life Technologies GmbH)に従って行った。 連結混合物を「DH5α(商標)−T1R E.coli cells」(Life Technologies)に導入し、これらの細胞で増やし、プラスミド単離後、プラスミドのDNA配列を配列決定法によって確認した。結果として得られた、所望の配列を有する構築物をpCR2.1−gshAと呼称する。B.gshA遺伝子の突然変異誘発 gshAの再クローニングのために、最初に、gshA遺伝子の2つの阻害制限部位EcoRIとBglIIを定方向突然変異誘発(directed mutagensis)によって除去した。突然変異誘発反応は、「GeneTailor(商標) Site−Directed Mutagenesis System」(Life Technologies GmbH)を製造業者の説明書に従って使用して行った。第1の突然変異誘発では、プラスミドpCR2.1−gshAを鋳型として用いた。gshA遺伝子のEcoRI切断部位の除去には、突然変異誘発プライマーgshA−EcoRImut−for(配列番号11)およびgshA−EcoRImut−rev(配列番号12)を用いた。gshA遺伝子のEcoRI切断部位で突然変異誘発を実施後、突然変異誘発反応産物の一部を、この場合にも、Life Technologies製の「DH5α(商標)−T1R E.coli cells」に導入し、これらの細胞で増やした。プラスミド調製後、単離プラスミドのDNA配列を配列決定法によって確認した。結果として得られた、gshA遺伝子内にEcoRI切断部位が存在しない適正なDNA配列を有する構築物をpCR2.1−gshA_mut1と呼称する。 pCR2.1−gshA_mut1のgshA遺伝子のBglII切断部位の除去でも、突然変異誘発反応に突然変異誘発プライマーgshA−BglIImut−for(配列番号13)およびgshA−BglIImut−rev(配列番号14)を用いたこと以外は同様の手順を行った。 第2の突然変異誘発反応産物の一部を、この場合にも、「DH5α(商標)−T1R E.coli cells」(Life Technologies GmbH)に導入し、これらの細胞で増やし、プラスミド調製後、もう一度、単離プラスミドのDNA配列を配列決定法によって確認した。結果として得られた、gshA遺伝子内にEcoRIおよびBg1IIの切断部位が存在しない適正なDNA配列を有する構築物をpCR2.1−gshA_mut2と呼称する。実施例4:tufBプロモーター(ptufB)をコードするDNA断片の増幅 gshA遺伝子の効率的な転写(過剰発現)のために、tRNA−tufBオペロンの活性化領域を用いた(Lee et al., 1981, Cell 25: 251-258)。大腸菌でのこのオペロンはthrU、tyrU、glyTおよびthrTという構造遺伝子をコードし、さらに、「タンパク質鎖延長因子(Protein Chain Elongation Factor)EF−Tu」(TufB)タンパク質もコードする。所望のプロモーター配列を、オリゴヌクレオチドtufBp−for(配列番号15)およびtufBp−rev(配列番号16)を用いて増幅した。この場合にも、大腸菌W3110株(ATCC27325)のゲノムDNAを鋳型として用いた。得られたDNA断片をアガロースゲル電気泳動により精製し、「QIAquick Gel Extraction Kit」(Qiagen GmbH)を使用してアガロースゲルから単離した。次に、精製したPCR断片を制限酵素XbaIで消化し、−20℃で保存した。実施例5:gshA過剰発現のためのプラスミド(gshAプラスミド)の構築 本発明によるプラスミドの構築のための基礎プラスミドとして、プラスミドpACYC184−LHを使用した。プラスミドpACYC184−LHの制限および機能地図を図1に示す。XbaI認識配列に加えて、プラスミドpACYC184−LHは次の制限部位を含むポリリンカー領域もコードする:NotI−NcoI−ScaI−NsiI−MluI−PacI−NotIA.自身のプロモーターを含むgshA遺伝子のクローニング 最初に、実施例2に記載したXbaI消化を行った、自身のプロモーターと希少な開始コドンTTGを含むgshA遺伝子をコードするPCR産物を、pACYC184−LHのXbaI切断部位にクローニングした。連結混合物を「DH5α(商標)−T1R E.coli cells」(Life Technologies GmbH)に導入し、これらの細胞で増やし、単離プラスミドのDNA配列を配列決定法によって確認した。結果として得られた構築物をpgshAp−gshATTGと呼称する(図2参照)。B.tufBプロモーターのクローニング 実施例4に記載したXbaI消化を行った、tufBプロモーター(tufBp)をコードするPCR産物もまた、pACYC184−LHのXbaI切断部位にクローニングした。連結混合物を「DH5α(商標)−T1R E.coli cells」(Life Technologies GmbH)に導入し、これらの細胞で増やし、単離プラスミドのDNA配列を配列決定法によって確認した。結果として得られた構築物をpACYC184−tufBpと呼称する。C.tufBプロモーターの最適化 天然tufBプロモーターのDNA配列において実施される合計3回の最適化(突然変異誘発)では、プラスミドpACYC184−tufBpを鋳型として用いた。「GeneTailor(商標) Site−Directed Mutagenesis System」(Life Technologies GmbH)によって、tufBプロモーターのリボソーム結合部位(RBS)、−10領域および−35領域を最適化し、その結果、それらは最終的に、これらの原核生物プロモーターエレメントの対応するコンセンサス配列をコードした(表1参照)。 プラスミドpACYC184−tufBp上のtufBプロモーターの部位特異的突然変異誘発によるRBSの最適化には、突然変異誘発プライマーtufBp−RBSopt−for(配列番号17)およびtufBp−RBSopt−rev(配列番号18)を用いた。 「GeneTailor(商標) Site−Directed Mutagenesis System」(Life Technologies)を使用してtufBプロモーターのRBSで突然変異誘発反応を実施後、突然変異誘発反応産物の一部を「DH5α(商標)−T1R E.coli cells」(Life Technologies GmbH)に導入し、これらの細胞で増やし、プラスミド調製後、単離プラスミドのDNA配列を配列決定法によって確認した。結果として得られた、適正なDNA配列および最適化RBS配列を有する構築物をpACYC184−tufBp−RBSoptと呼称する。 pACYC184−tufBp−RBSoptに基づいた−10領域の最適化(突然変異誘発)でも、突然変異誘発にプライマーtufBp−10opt−for(配列番号19)およびtufBp−10opt−rev(配列番号20)を用いたこと以外は同様の方法を用いた。 作製し配列決定法によって確認した最適化RBSおよび−10領域を有するプラスミドをpACYC184−tufBp(RBS−10)optと呼称する。 −35領域の突然変異誘発では、この場合にも、プラスミドpACYC184−tufBp(RBS−10)optを鋳型として用い、プライマーtufBp−35opt−for(配列番号21)およびtufBp−35opt−rev(配列番号22)を用いて行った。 作製し配列決定法によって確認した、最適化RBS、−10領域および−35領域を有するプラスミドをptufBpと呼称する。結果として得られたプラスミドptufBpの制限および機能地図を図3に示す。D.ptufBpへの、最適化tufBプロモーターの後に最適化開始コドンを含むgshA遺伝子のクローニング 実施例3に記載した、開始コドンATGを含む突然変異gshA遺伝子を、酵素EcoRIおよびBg1IIでの制限酵素消化によりプラスミドpCR2.1−gshA_mut2から除去し、EcoRIおよびBg1IIで切断したベクターptufBpに再クローニングした。 結果として得られた構築物ptufBp−gshAATG(図4参照)を「DH5α(商標)−T1R E.coli cells」(Life Technologies GmbH)に導入し、これらの細胞で増やし、単離プラスミドのDNA配列を配列決定法によって確認した。実施例6.gshA発現プラスミドptufBp−gshAATGの、serAおよび/またはcysE対立遺伝子、およびまたorf306(=orf299、ydeDまたはeamA)での延長 γ−グルタミルシステイン生産に対するL−システイン生合成増加の影響を調べるために、プラスミドptufBp−gshAATGを、serAおよび/またはcysE対立遺伝子、さらにorf306(=orf299、eamAまたはydeD)で延長した。A.プラスミドptufBp−gshAATGのserA対立遺伝子での延長 プラスミドptufBp−gshAATGを、特定serA対立遺伝子で延長するために、最初に、serA遺伝子を、それ自体のプロモーターとともにPCRによって増幅した。大腸菌株W3110(ATCC 27325)の染色体DNAをPCR反応の鋳型として用いた。PCR反応には、オリゴヌクレオチドserA−NcoI−for(配列番号23)およびserA−SacI−rev(配列番号24)を用いた。 次に、増幅した、それ自体のプロモーターを含むserA遺伝子を、NcoIおよびSacI酵素で消化し、アガロースゲル上での精製後、NcoIおよびSacIで切断したptufBp−gshAATGベクターに連結した。 連結混合物を「DH5α(商標)−T1R E.coli cells」(Life Technologies GmbH)に導入し、これらの細胞で増やし、単離プラスミドのDNA配列を配列決定法によって確認した。このクローニングからもたらされる、天然プロモーターの制御下にあるserAを含むgshAプラスミドを、ptufBp−gshAATG−serAと呼称した。L−セリンに対してフィードバック耐性を示すSerA変異体をコードする様々なserA対立遺伝子を作製するために、EP1496111B1号公報の実施例2の手順を行った(ただし、pFL209のコドン349および/または372への変更では、プラスミドptufBp−gshAATG−serAを鋳型として用いた)。突然変異誘発からもたらされる、異なるserA対立遺伝子を含むgshAプラスミドをptufBp−gshAATG−serA…(この場合、…は、各々のserA対立遺伝子番号に相当する)と呼称した(例えば、ptufBp−gshAATG−serA2040に関する図5を参照)。B.プラスミドptufBp−gshAATGのcysE対立遺伝子での延長 プラスミドptufBp−gshAATGを、特定cysE対立遺伝子で延長するために、最初に、WO9715673号公報の実施例6(表7)に開示されているpACYC184/cysE…プラスミドのうちの一つをNsiIおよびNcoIで消化した。天然cysEプロモーターの制御下にある特定のcysE対立遺伝子をコードするおよそ1.0kbの大きさの各断片を、アガロースゲル上で精製し、その後、NsiIおよびNcoIで線状化したベクターptufBp−gshAATGに連結した。このクローニングからもたらされる、異なるcysE対立遺伝子を含むgshAプラスミドをptufBp−gshAATG−cysE…(この場合、…は、各々のcysE対立遺伝子番号に相当する)と呼称した(例えば、ptufBp−gshAATG−cysE14に関する図6を参照)。C.プラスミドptufBp−gshAATG−serA…のcysE対立遺伝子での延長 プラスミドptufBp−gshAATG−serA…を、特定cysE対立遺伝子で延長するために、最初に、WO9715673号公報の実施例6(表7)に開示されているプラスミドpACYC184/cysE…のうちの一つをSacIおよびNsiIで消化した。およそ1.0kbの大きさの断片を、アガロースゲル上で精製し、その後、SacIおよびNsiIで線状化したベクターptufBp−gshAATG−serA…に連結した。このクローニングからもたらされる、異なるcysEおよびserA対立遺伝子を含むgshAプラスミドをptufBp−gshAATG−cysE… −serA…(この場合、…は、各々のcysEまたはserA対立遺伝子番号に相当する)と呼称した(ptufBp−gshAATG−cysE14−serA2040に関する図7を参照)。D.プラスミドptufBp−gshAATG−serA…、ptufBp−gshAATG−cysE…およびptufBp−gshAATG−cysE…−serA…のorf306での延長 対応するプラスミドptufBp−gshAATG、ptufBp−gshAATG−serA…、ptufBp−gshAATG−cysE…およびptufBp−gshAATG−cysE…−serA…を、orf306で延長するために、最初に、EP885962B1号公報の実施例2に開示されているプラスミドpACYC184/cysEIV−GAPDH−ORF306をNsiIおよびPacIで消化した。O−アセチルセリン/システイン排出輸送体をコードする(EamA、YdeD)およそ1.2kbの大きさの断片を、アガロースゲル上で精製し、その後、NsiIおよびPacIで線状化したベクターptufBp−ptufBp−gshAATG−serA…、gshAATG−cysE…またはptufBp−gshAATG−cysE…−serA…のうちの一つに連結した。このクローニングからもたらされる、GAPDHプロモーターの制御下にあるorf306を含むgshAプラスミドをptufBp−gshAATG−serA…−orf306、ptufBp−gshAATG−cysE…−orf306およびptufBp−gshAATG−cysE…serA…−orf306(この場合、…は、各々のcysEまたはserA対立遺伝子番号に相当する)と呼称した(例えば、ptufBp−gshAATG−serA2040−orf306に関する図8、ptufBp−gshAATG−cysE14−orf306に関する図9およびptufBp−gshAATG−cysE14−serA2040−orf306に関する図10を参照)。実施例7:大腸菌株W3110(ATCC 27325)およびW3110ΔgshBの形質転換 gshA発現プラスミドpgshAp−gshATTG、ptufBp−gshAATG、ptufBp−gshAATG−serA2040、ptufBp−gshAATG−cysE14、ptufBp−gshAATG−cysE14−serA2040、ptufBp−gshAATG−serA2040−orf306、ptufBp−gshAATG−cysE14−orf306およびptufBp−gshAATG−cysE14−serA2040−orf306と、陰性対照としてのプラスミドpACYC184−LHを、実施例1で既に記載したように、エレクトロポレーションによって、大腸菌株W3110(ATCC27325)およびW3110ΔgshBに導入した。プラスミドを含む細胞の選択を15mg/Lテトラサイクリンを含んでなるLB寒天プレート上で行った。実施例8:γ−グルタミルシステインおよび誘導体の分析 「総γ−グルタミルシステイン」という用語は、γ−グルタミルシステインと、それから生じる酸化生成物であるビス−γ−グルタミルシスチンおよびγ−グルタミルシスチンを包含し、これらは発酵中に生成され、培養上清中に蓄積する。「総γ−グルタミルシステイン」の濃度はHPLC分析によって決定した。A.サンプルの前処理 発酵槽サンプルを測定するために、最初に、発酵ブロスの遠心分離工程とその後の無菌化濾過により微生物を除去した。 「総γ−グルタミルシステイン濃度」を正確に決定するために、測定するサンプル中のγ−グルタミルシステイン誘導体を、モル過剰のジチオトレイトール(DTT)を用いて室温(22℃)で1時間還元した。DTTの還元作用は完全に中性〜アルカリ性pHでしか起こらないため、必要に応じて、事前に、サンプルのpHを濃水酸化カリウム水溶液(KOH)を用いてpH>7.0に調整した。B.HPLC分析 脱塩水を用いて対応する希釈液を調製した後に、HPLC分析を、Synergi 4μm Hydro−RP 250×4.6mmカラム(Phenomenex Ltd., Aschaffenburg, D)を使用して20℃で行った。溶出剤として、0.5%(v/v)リン酸(A)およびアセトニトリル(B)を用いた。 細胞を含まない還元物質混合物からのγ−グルタミルシステインの分離には、次のHPLC方法を用いた。・流量=0.5ml/分・ダイオードアレイ検出器(DAD)を使用することによる200nmでの検出・100%Aでイソクラティック分離を行った。各実施後には、100%Bでの洗い流し工程によりカラムを清浄した。 γ−グルタミルシステインの保持時間および測定するサンプル中の終濃度の決定には、基準物質として、Sigma Aldrich GmbH (Steinheim, D)製の還元型γ−グルタミルシステインを用いた。「総γ−グルタミルシステイン」の濃度はクロマトグラムのピーク面積から算出した(図11参照)。実施例9:γ−グルタミルシステインシンセターゼ活性の決定 γ−グルタミルシステインシンセターゼ酵素活性を決定するために、15g/lグルコース、5mg/lビタミンB1および15mg/lテトラサイクリンを添加したSM1培地(12g/l K2HPO4、3g/l KH2PO4、5g/l (NH4)2SO4、0.3g/l MgSO4×7H2O、0.015g/l CaCl2×2H2O、0.002g/l FeSO4×7H2O、1g/lクエン酸Na3×2H2O、0.1g/l NaCl;1ml/l微量元素溶液(0.15g/l Na2MoO4×2H2O、2.5g/l H3BO3、0.7g/l CoCl2×6H2O、0.25g/l CuSO4×5H2O、1.6g/l MnCl2×4H2O、0.3g/l ZnSO4×7H2Oで構成))30mlに、表2に記載する菌株の一晩培養物2mlを接種した。600nmでの初期光学濃度(OD600)0.025に基づいて、30mlバッチ全体を30℃および135rpmでさらに16時間インキュベートした。 その後、細胞を遠心分離により回収し、洗浄し、2mlのバッファー(100mM Tris−HCl pH8.2)中に再懸濁した。細胞をフレンチプレス(Spectronic Instruments, Inc. Rochester, NY, USA)によって圧力124 106kPaで破砕した。粗抽出物(Thw crude extracts)を遠心分離により30 000gで清澄化し、γ−グルタミルシステインシンセターゼ活性を、経時的なγ−グルタミルシステインの生成に基づいて測定した。γ−グルタミルシステイン生成アッセイの基礎となる反応混合物は以下からなる:100mM Tris−HCl pH8.2;10mMグルタミン酸カリウム;10mM L−システイン;20mM MgCl2;150mM KCl;20mM ATPおよび0.25〜4mg/ml粗抽出物タンパク質。L−システインとグルタミン酸カリウムからのγ−グルタミルシステインのATP依存的生成は、粗抽出物タンパク質の添加によって開始した。少なくとも2時間にわたって、反応混合物のアリコート(20μl〜50μl)を取り出した。次に、サンプル(アリコート)において、γ−グルタミルシステインシンセターゼ活性を70℃で5分間不活性化し、生成したγ−グルタミルシステインの含有量をHPLCによって決定した(実施例8参照)。γ−グルタミルシステインシンセターゼ活性の1単位は、25℃で1分間あたり1μmolのγ−グルタミルシステインを生成する酵素の量に相当する。実施例10:γ−グルタミルシステイン生産(発酵)A.前培養物1(振盪フラスコ): 1lのシケイン付(with chicanes)エルレンマイヤーフラスコに入っている15mg/lテトラサイクリンを含む100mlのLB培地に、表3および表4に記載する寒天培養の大腸菌株を接種し、振盪機上で32℃および130rpmで7時間インキュベートした。B.前培養物2(前発酵槽): Sixfors(Infors AG, Bottmingen, CH)型の、発酵培地を充填した発酵槽に、各前培養物1の一部を用いて接種し、開始時の発酵槽内の光学濃度が約0.01(600nmで測定)となるようにした。採用した発酵槽の総容量は1lであり、初期使用容量は0.7lであった。 発酵培地は以下の成分で構成した:3g/l (NH4)2SO4、1.7g/l KH2PO4、0.25g/l NaCl、0.6g/l MgSO4×7H2O、0.03g/l CaCl2×2H2O、0.15g/l FeSO4×7H2O、1g/lクエン酸Na3×2H2O、5g/lコーンスティープドライ(Cornsteep Dry)(CSD)および3ml/l微量元素溶液(2.5g/l H3BO3、0.7g/l CoCl2×6H2O、0.25g/l CuSO4×5H2O、1.6g/l MnCl2×4H2O、0.3g/l ZnSO4×7H2O、0.15g/l Na2MoO4×2H2Oで構成)。この基本培地の滅菌処理後、以下の成分を無菌条件下で添加した:40g/lグルコース、0.018g/lビタミンB1、0.09g/lビタミンB6および15mg/lテトラサイクリン。 発酵槽のpHは、25%NH4OH溶液の添加により7.0に調整した。発酵中は、25%NH4OHによる自動調整によってpHを7.0値で維持した。培養物を開始時に400rpmで撹拌し、ガス流量0.7volume per volume per minute(vvm)で、滅菌フィルターを通って無菌化された圧縮空気によりフラッシュした。これらの初期条件下で、接種前に酸素プローブを100%飽和に調整した。発酵中のO2飽和の目標値を50%に設定した。O2飽和の目標値を下回った場合には、O2飽和を目標値に回復させるように調節カスケードを開始させた。この場合、最初に、ガスの供給を連続的に増加させ(最大1.4vvmまで)、撹拌装置の速度を最大1200rpmまで連続的に増加させた。 発酵は、光学濃度30〜40が達成されるまで(600nmで測定)、温度32℃で行った。これは、一般的には、約17時間後であった。C.本培養物(本発酵槽): 発酵は、Sartorius Stedim GmbH (Gottingen, D)製のBIOSTAT B−DCU型の発酵槽で行った。総容量2lの培養容器を初期使用容量1lで使用した。 発酵培地は以下の成分で構成した:3g/l (NH4)2SO4、1.7g/l KH2PO4、0.25g/l NaCl、0.6g/l MgSO4×7H2O、0.03g/l CaCl2×2H2O、0.15g/l FeSO4×7H2O、1g/lクエン酸Na3×2H2O、15g/lコーンスティープドライ(CSD)および3ml/l微量元素溶液(2.5g/l H3BO3、0.7g/l CoCl2×6H2O、0.25g/l CuSO4×5H2O、1.6g/l MnCl2×4H2O、0.3g/l ZnSO4×7H2O、0.15g/l Na2MoO4×2H2Oで構成)。この基本培地の滅菌処理後、以下の成分を無菌条件下で添加した:10g/lグルコース、0.018g/lビタミンB1、0.09g/lビタミンB6および15mg/lテトラサイクリン。 100mlの前培養物2を発酵容器に入れて、本培養物に接種した。開始時の発酵槽のpHは、25%NH4OH溶液の添加により7.0に調整し、25%NH4OHによる自動調整によってこの値で維持した。培養物を開始時に400rpmで撹拌し、ガス流量2vvmで、滅菌フィルターを通って無菌化された圧縮空気によりフラッシュした。これらの初期条件下で、接種前に酸素プローブを100%飽和に調整した。発酵中のO2飽和の目標値を50%に設定した。O2飽和の目標値を下回った場合には、O2飽和を目標値に回復させるように調節カスケードを開始させた。この場合、最初に、ガスの供給を連続的に増加させ(最大5vvmまで)、撹拌装置の速度を最大1500rpmまで連続的に増加させた。 発酵は温度32℃で行った。発酵槽内のグルコース含有量が初期の10g/lからおよそ2g/lまで減少したらすぐに、60%グルコース溶液を連続的に添加した。供給速度は、この時点の発酵槽内のグルコース濃度が2g/lを超えないように調整した。グルコースの決定はYSI(Yellow Springs, Ohio, USA)製のグルコース分析装置を使用して行った。 発酵時間5時間の後に、硫黄源を1.5M(NH4)2SO4無菌保存溶液(硫酸アンモニウム)として、1時間あたり8〜17mmol/l(平均=1時間あたり11mmol/l)の量で供給した。 発酵時間16時間の後に、さらなるグルタミン酸塩を2.3Mグルタミン酸カリウム無菌保存溶液として、1時間あたり7.4mmol/lの量で本培養物に添加した。 発酵期間は72時間であった。24時間、48時間および72時間の時点でサンプルを採取し、DTTでの還元後に、培養上清中の「総γ−グルタミルシステイン」の割合をHPLC分析によって決定した。 親株から作製することができる、γ−グルタミルシステイン、ビス−γ−グルタミルシスチン、およびγ−グルタミルシスチンを過剰生産することが可能な原核微生物株であって、該親株と比較して細胞グルタチオンシンセターゼ活性が低下しており、かつ細胞グルタチオンシンセターゼ活性が同様に低下している株よりも大幅に増加している細胞γ−グルタミルシステインシンセターゼ活性を有する、原核微生物株。 本発明による菌株におけるグルタチオンシンセターゼ活性が非常に低下しており、該活性が対応する野生型株のグルタチオンシンセターゼ活性の最大でも50%である、請求項1に記載の微生物株。 細胞γ−グルタミルシステインシンセターゼ活性が、細胞グルタチオンシンセターゼ活性が同様に低下している株の少なくとも約5倍である、請求項1または2に記載の微生物株。 親株が大腸菌またはパントエア アナナティス種のメンバーである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の微生物株。 親株が、γ−グルタミルシステインの生合成経路を有し、対応する親株と比較してL−システイン生合成能が上昇している微生物株である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の微生物株。 γ−グルタミルシステインシンセターゼ活性上昇が、gshA遺伝子もしくはgshAホモログのコピー数を増加させることにより、またはgshAの発現増加をもたらすプロモーターを用いることにより達成される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の微生物株。 gshAまたはgshAホモログのコピー数が、プロモーターの制御下においてプラスミドベクターにクローニングすることにより増加されている、請求項1〜6のいずれか一項に記載の微生物株。 GshAが、494位にあるアミノ酸アラニンがバリンまたはロイシンと置換されているタンパク質配列(A494VまたはA494L)、あるいは495位にあるアミノ酸セリンがトレオニンと置換されているタンパク質配列(S495T)を有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の微生物株。 gshA遺伝子の天然開始コドンTTGがATGに置換されている、請求項1〜8のいずれか一項に記載の微生物株。 γ−グルタミルシステイン(γGC)と、このジペプチドの誘導体であるγ−グルタミルシスチンおよびビス−γ−グルタミルシスチンとを過剰生産するための方法であって、請求項1〜9のいずれか一項に記載の微生物株を発酵培地中で培養し、該培地から該細胞を除去し、該培養培地から目的生成物を精製する、方法。 【課題】グルタチオンの前駆体として働く)γ−グルタミルシステイン(γGC)と、このジペプチドの誘導体であるγGC及びビス−γGCとの過剰生産に適した原核微生物株、更にこれらの化合物を調製するための方法の提供。【解決手段】親株から作製することができる、γGCと、その誘導体であるビス−γGC及びγGCを過剰生産することが可能な大腸菌又はパントエアアナナティス種等の原核微生物株であって、その親株と比較して細胞グルタチオンシンセターゼ活性が低下しており、かつ、細胞グルタチオンシンセターゼ活性が同様に低下している株よりも大幅に増加している細胞γ−グルタミルシステインシンセターゼ活性を有する菌株、及び、該菌株を用いたγ−グルタミルシステイン、ビス−γ−グルタミルシスチンおよびγ−グルタミルシスチンの製造方法。【選択図】図1配列表