タイトル: | 公開特許公報(A)_生体試料中のエクオールを免疫法により測定する方法、その測定のためのキット、および被験者のエクオール産生能を判定する方法 |
出願番号: | 2014095421 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | G01N 33/53,G01N 33/533,G01N 33/534,G01N 33/535,G01N 33/553,G01N 33/543 |
峰川 貴之 新留 久美子 阿部 克司 大熊 博 安藤 知英子 阿比留 康弘 JP 2014160088 公開特許公報(A) 20140904 2014095421 20140502 生体試料中のエクオールを免疫法により測定する方法、その測定のためのキット、および被験者のエクオール産生能を判定する方法 栄研化学株式会社 000120456 大塚製薬株式会社 000206956 特許業務法人三枝国際特許事務所 110000796 峰川 貴之 新留 久美子 阿部 克司 大熊 博 安藤 知英子 阿比留 康弘 JP 2009114572 20090511 G01N 33/53 20060101AFI20140808BHJP G01N 33/533 20060101ALI20140808BHJP G01N 33/534 20060101ALI20140808BHJP G01N 33/535 20060101ALI20140808BHJP G01N 33/553 20060101ALI20140808BHJP G01N 33/543 20060101ALI20140808BHJP JPG01N33/53 SG01N33/533G01N33/534G01N33/535G01N33/553G01N33/543 521 9 2011513349 20100511 OL 30 本発明は、生体試料中のエクオールを免疫法により測定する方法、その測定のためのキット、および被験者のエクオール産生能を判定する方法に関する。 大豆中に含まれるイソフラボンが、乳癌、前立腺癌等に対する予防効果(抗エストロゲン効果)を有すること、および更年期障害、閉経後の骨粗鬆症・高脂血症・高血圧症等に対して改善効果(エストロゲン様効果)を有することは、広く知られている。 最近になって、大豆イソフラボンによる直接の臨床効果に加え、該大豆イソフラボンに代わって大豆イソフラボンの活性代謝物であるエクオールが、臨床応用における有効性の鍵を握ると報告されている。すなわち、乳癌、前立腺癌、更年期障害および閉経後の骨粗鬆症に対して、エクオールが有効である旨の報告が種々見られている。 また、エクオールは、腸内細菌によって生成されるため、腸内の菌叢によりその生成量に違いがあり、個人差が存在することが報告されている。それゆえ、大豆加工品を摂取しても所望の抗エストロゲン効果、エストロゲン様効果が期待できないヒトが存在することは否めない。 その後、エクオールを効率的に産生する乳酸菌が単離・同定され(特許文献1)、該乳酸菌製剤を経口摂取して乳酸菌を腸内に到達あるいは定着させることにより、エクオールの体内への効率的な取り込みが期待される。この時、例えば尿、血液、糞便等のエクオールを測定することにより、該乳酸菌の腸内への到達あるいは定着の有無を確認することが可能となる。 このエクオールの測定法としては、血液試料では液体クロマトグラフ質量分析装置あるいはガスクロマトグラフ質量分析計を用い、尿試料では高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法等の機器分析を用いる方法が知られているが、より簡便な測定法が期待されている。 また、イムノアッセイによるエクオールの測定法としては、時間分解蛍光イムノアッセイ法を用いたLabmaster TR−FIA Research Reagents for the Measurement of Equol(LABMASTER DIAGNOSTIC社)が市販されている(非特許文献1)。 一方、エクオールには、S−エクオールおよびR−エクオールの二種類の光学異性体の存在が知られている。この中、エクオールの前駆物質であるダイゼインの腸内細菌による代謝産物はS−エクオールに限られる。また、エストロゲン受容体との結合もS−エクオールの方がはるかに強い(非特許文献2)。 すなわち、生体内での存在の指標となる血液試料および尿試料に含まれるエクオールはS−エクオールであり、S−エクオールを特異的に測定することが有用である。特開2006−296434号公報E. Brouwersら、Journal of Steroid Biochemistry & Molecular Biology、2003年、84巻、p.577−588K. D. R. Setchellら、The American Journal of Clinical Nutrition、2005年、81巻、p.1072−1079 本発明は、免疫法、すなわちイムノアッセイを用いたエクオールの測定法において、S−エクオールを特異的に、かつ精確に測定する方法を構築することを目的とする。また、本発明は、免疫法を用いたエクオールの濃度の測定において、S−エクオールを特異的且つ精確に測定できるキットを構築することを目的とする。更に、本発明は、被験者のエクオール産生能を判定する方法を構築することを目的とする。 イムノアッセイの性能を大きく左右するものとして、試料中の測定対象物とその結合対との反応から濃度を求める際の標準物質や競合反応を用いる際の競合物質と測定対象物との同一性もしくは類似性が挙げられる。 そこで、測定値を求めるための検量線を作成するための標準物質にS−エクオールを用いることにより、測定値の精確性が向上した。 また、競合免疫反応を用いたイムノアッセイにおいて、競合反応物に標識化したS−エクオールを用いることにより非特異反応を抑制し、S−エクオールおよびR−エクオールの混合物を用いたときに比べて精確に測定できる範囲が拡大した。 本発明は、この知見に基づき、さらに研究を重ねた結果完成されたものである。 すなわち、本発明は以下の構成からなる。項1.生体試料中のエクオールを免疫法により測定する方法であって、検量線の作成に使用する標準抗原および生体試料中のエクオールと競合する標識化抗原からなる群より選択される少なくとも一方の抗原として、S−エクオールを用いることを特徴とする方法。項2.S−エクオールに対する交差性を100%とした場合、ダイゼインに対する交差性が10%以下、ゲニステインに対する交差性が10%以下、グリシテインに対する交差性が10%以下、ジヒドロダイゼインに対する交差性が20%以下、およびデヒドロエクオールに対する交差性が20%以下である抗エクオール抗体を一次抗体として使用する、項1に記載の方法。項3.前記標識化抗原の標識物が、酵素、放射性同位体、色素、蛍光物質、ラテックスおよび金属コロイドからなる群より選択される少なくとも1種である、項1に記載の方法。項4.前記免疫法が、ELISA法、ラジオイムノアッセイ法およびイムノクロマト法からなる群より選択される少なくとも1種である、項1に記載の方法。項5.前記生体試料が、尿および血液からなる群より選択される少なくとも1種である、項1に記載の方法。項6.前記生体試料中のエクオールの抱合体が脱抱合処理されることなく測定されることを特徴とする、項1に記載の方法。項7.生体試料中のエクオールを免疫法により測定するためのキットであって、検量線の作成に使用する標準抗原および試料中のエクオールと競合する標識化抗原からなる群より選択される少なくとも一方の抗原として、S−エクオールを含むことを特徴とする、キット。項8.更に、S−エクオールに対する交差性を100%とした場合、ダイゼインに対する交差性が10%以下、ゲニステインに対する交差性が10%以下、グリシテインに対する交差性が10%以下、ジヒドロダイゼインに対する交差性が20%以下、およびデヒドロエクオールに対する交差性が20%以下である抗エクオール抗体を一次抗体として含む、項7に記載のキット。項9.前記免疫法が、ELISA法、ラジオイムノアッセイ法およびイムノクロマト法からなる群より選択される少なくとも1種である、項7に記載のキット。項10.前記生体試料が、尿および血液からなる群より選択される少なくとも1種である、項7に記載のキット。項11.被験者のエクオール産生能を判定する方法であって、(1)検量線の作成に使用する標準抗原および生体試料中のエクオールと競合する標識化抗原からなる群より選択される少なくとも一方の抗原としてS−エクオールを用いた免疫法により、大豆イソフラボンを摂食させた被験者由来の生体試料中のエクオールを測定する工程、および(2)前記工程(1)で得られたエクオールの測定値に基づいて、被験者のエクオール産生能を判定する工程、を含む判定方法。項12.前記工程(1)において、生体試料中のエクオールの抱合体が脱抱合処理されることなく測定されることを特徴とする、項11に記載の判定方法。 本発明の測定方法を実施することにより、生体試料中のエクオールをイムノアッセイによって測定する方法において、非特異反応を抑制し、精確な測定結果が得られる。また、本発明のキットによれば、該方法を、一層簡便に実施することができる。また、本発明の判定方法によれば、被験者がエクオール産生能を有するか否かを精確且つ簡便に判定することができる。 また、本発明により測定されるエクオール濃度は、HPLC法により測定されるエクオール濃度と高い相関性を示す。また、本発明によれば、その検出時間も3時間程度であり、72時間、受託だと約2週間を要するHPLC法と比較して、迅速にエクオール濃度を測定できる。また、本発明のキットは、HPLC法と比較して非常に安価であるにもかかわらず、HPLC法と同等の検出感度が得られる。 更に、本発明によれば、被験者のエクオール産生能の有無およびその程度を精確、簡便、迅速且つ特異性が高く把握できることから、該測定結果および判定結果に基づき、エクオール産生能の欠如に関連する疾患(例えば、乳癌、前立腺癌、更年期障害、閉経後の骨粗鬆症・高脂血症・高血圧症等)の発症可能性や症状の程度を把握することが可能になり、該疾患の予防や改善方策を適切に施すことが可能になる。図1はHPLC法および実施例1で測定した結果の相関図である。図中、縦軸はELISA法により得られた値を示し、横軸はHPLC法により得られた値を示し、単位はいずれもng/mlである。図2はHPLC法および実施例2で測定した結果の相関図である。図中、縦軸はELISA法により得られた値を示し、横軸はHPLC法により得られた値を示し、単位はいずれもng/mlである。図3はHPLC法および実施例3で測定した結果の相関図である。図中、縦軸はELISA法により得られた値を示し、横軸はHPLC法により得られた値を示し、単位はいずれもng/mlである。図4はHPLC法および比較例で測定した結果の相関図である。図中、縦軸はELISA法により得られた値を示し、横軸はHPLC法により得られた値を示し、単位はいずれもng/mlである。図5は、ELISA法における競合法のモデル図である。図6はLC/MS/MSおよび試験例3に記載の本発明の免疫測定法でエクオール濃度を測定した結果の相関図である。図7はHPLC法を用いて測定した尿中のダイゼイン濃度を示す。図8はEQL ELISAとLog E/D ratioとのプロットを示す。 以下、本発明について説明する。1.生体試料中のエクオールを免疫法により測定する方法 本発明の、生体試料中のエクオールの濃度を免疫法により測定する方法(以下、これを免疫測定法と記載する場合がある)は、検量線の作成に使用する標準抗原および生体試料中のエクオールと競合する標識化抗原からなる群より選択される少なくとも一方の抗原に、S−エクオールを用いることを特徴とする。本発明の免疫測定法について、以下、説明する。S−エクオールに対する抗体作製のための免疫抗原 本発明の測定対象であるエクオールは低分子のハプテン抗原であるため、それ自体では免疫原性を有していない。そのため、免疫測定法に用いる抗体を得るためには、エクオールと抗原支持物質との結合体を合成し、免疫抗原を作製することが好ましい。 前記抗原支持物質としては、前記免疫抗原を作製できる限り制限されないが、高分子物質(分子量1万以上、好ましくは5万〜100万)が好ましく、その中でもタンパク質が好ましい。好ましいタンパク質の例として、抗体、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン、ゼラチン、フェリチン等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。 また、ハプテン抗原と抗原支持物質とを結合させる方法は、これらが結合できる限り制限されないが、共有結合が好ましい。 共有結合の場合、例えば、抗原支持物質としてタンパク質を用いる場合は、N−ヒドロキシサクシイミド活性化エステル法により、ハプテン抗原に導入したサクシイミド基とタンパク質又は糖タンパク質のアミノ基とを反応させ、ハプテン抗原と抗原支持物質とを結合させることができる。また、この場合、他の方法として、グルタール法等が例示される。 さらに、ハプテン抗原と抗原支持物質との結合に際し、ハプテン抗原と抗原支持物質の間の距離を拡げるために、ハプテン抗原にスペーサー化合物を導入してから抗原支持物質と結合させることにより、抗体との親和性、抗体の特異性に変化を与えることができる。 スペーサー化合物の例としては、スペーサー化合物を介してハプテン抗原と抗原支持物質を結合できるものであれば制限されず、また、前記抗体との親和性、抗体の特異性に変化を与えることができるものであれば制限されないが、カルボキシメチルエーテル(CME)、カルボキシプロピルエーテル(CPE)、カルボキシブチルエーテル(CBE)、カルボキシフェニルエーテル(CPhE)等が例示され、好ましくはCMEが挙げられる。 スペーサー化合物を介してハプテン抗原と抗原支持物質が結合された例としては、後述のエクオール−CME−タンパク質が例示でき、このほかにもエクオール−CPE−タンパク質、エクオール−CBE−タンパク質、エクオール−CPhE−タンパク質等が例示される。エクオール−CME−タンパク質は後述の実施例のようにしてようにして作製でき、このほかのスペーサー化合物を備えた免疫抗原は、使用するスペーサーの種類に応じて、当業者により適宜作製することができる。標識化ハプテン抗原 抗体の存在を検出する標識化ハプテン抗原については、前記抗原支持物質の代わりに標識物を用いることにより、同様に作製することができ、ハプテン抗原と標識物の間にスペーサー化合物を導入することにより、検出する抗体との親和性を調整することができる。 標識物としては、抗原抗体反応を妨げないことを限度として、従来公知の標識物が使用できる。標識物として、酵素、放射性同位体、色素、蛍光物質、ラテックス、金属コロイド、ユーロピウム、アクリジニウム等が例示され、好ましくは、酵素、放射性同位体、色素、蛍光物質、ラテックスおよび金属コロイドからなる群から選択される。また、酵素としてはパーオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼ等;放射性同位体としては125I等;色素としてはシアニン系色素等;蛍光物質としてはFITC、cy3、cy5等;ラテックスとしてはポリスチレンラテックス、磁性ラテックス等;金属コロイドとしては金、銀、白金等が例示される。これらの標識物の中でも、高感度の検出を容易にできるという利点から、好ましくは酵素、更に好ましくはパーオキシダーゼ、特に好ましくは西洋ワサビパーオキシダーゼが例示される。 また、ハプテン抗原と標識物の結合に使用されるスペーサー化合物としては、カルボキシメチルエーテル(CME)、カルボキシプロピルエーテル(CPE)、カルボキシブチルエーテル(CBE)、カルボキシフェニルエーテル(CPhE)等が例示され、好ましくはCPEが挙げられる。抗体:一次抗体 本発明に用いる一次抗体は、エクオールに特異的に結合できる限り制限されず、ポリクローナル抗体を用いてもよく、モノクローナル抗体を用いてもよい。また、エクオールとの特異性を維持する限り、その抗体断片を一次抗体として使用してもよい。また、一次抗体として、抗血清を使用することもできる。 免疫測定法に用いる一次抗体は、公知の方法を実施することにより作製することができる。例えば、該一次抗体は、以下のようにして作製できるが、作製方法は以下の例に限定されない。 すなわち、ポリクローナル抗体は、エクオールと抗原支持物質を結合させた免疫抗原とFreund’s complete adjuvantを混和して免疫剤を調製し、調製した免疫剤を定期的にウサギ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、モルモット、ニワトリ等の皮下および/または皮内に複数回注射した後に得られる抗血清を精製または希釈等することで調製できる。免疫抗原としては前述のものが例示でき、アジュバントの使用は必須ではないが、アジュバントを使用しておくことが望ましい。抗血清は、従来公知の方法に従い採取することにより作製できる。本発明に用いる一次抗体として、好ましくは、ウサギ抗血清が使用される。 モノクローナル抗体は、エクオールと抗原支持物質を結合させた免疫抗原とFreund’s complete adjuvantを混和して免疫剤を調製し、調製した免疫剤を定期的にマウス、ラット等の皮下および/または皮内に複数回注射した後に前記免疫抗原を単独で静脈内または腹腔内注射し、数日後に摘出した脾臓より調製した脾細胞とミエローマ細胞を融合して融合細胞を選択培養する。 増殖した融合細胞をクローン化培養し、エクオールに特異的に結合するIgG抗体を産生する細胞株を選定する。選定した細胞株を培養して得られる培養上清を精製または希釈等することで測定に用いるモノクローナル抗体を調製できる。ポリクローナル抗体と同様に、免疫抗原としては前述のものが例示でき、アジュバントの使用は必須ではないが、アジュバントを使用しておくことが望ましい。 本発明で使用される一次抗体は、S−エクオールに対する特異性が高く、他の構造類似のイソフラボンに対しては交差性が低いことが望ましい。とりわけ、ダイゼイン、ジヒドロダイゼインおよびデヒドロエクオールは、生体試料中のエクオールの誤検出要因となるため、これらの化合物に対する交差性が低い一次抗体を使用することが望ましい。具体的には、本発明で使用される一次抗体として、S−エクオールに対する交差性を100%とした場合、ダイゼイン、ゲニステイン、グリシテイン、ジヒドロダイゼイン、及びデヒドロエクオールに対する交差性が、下記範囲を充足していることが望ましい:ダイゼインに対する交差性:10%以下、好ましくは1%以下、更に好ましくは0.1%以下;ゲニステインに対する交差性:10%以下、好ましくは1%以下、更に好ましくは0.1%以下;グリシテインに対する交差性:10%以下、好ましくは1%以下、更に好ましくは0.1%以下;ジヒドロダイゼインに対する交差性:20%以下、好ましくは5%以下、更に好ましくは1.1%以下;及びデヒドロエクオールに対する交差性:20%以下、好ましくは5%以下、更に好ましくは1%以下。 上記交差性は、次のように説明できる。すなわち、上記交差性は、標識化されたS−エクオールの抗エクオール抗体への結合を20%反応阻害できる各イソフラボン類等の濃度(IC20)に対する、標識化されたS−エクオールの抗エクオール抗体への結合を20%反応阻害できる標識化されていないS−エクオールの濃度(IC20)の割合(%)を示す。より具体的には、標識化されたS−エクオール単独での抗体への結合を100とした場合、該標識化されたS−エクオールと標識化されていないS−エクオールとの競合反応において、該標識化されたS−エクオールの抗体への結合が80となったときの、該標識化されていないS−エクオールの濃度を求める。同様に、標識化されていない各々のイソフラボン類等について、該標識化されたS−エクオールとの競合反応を行い、該標識化されたS−エクオールの抗体への結合が80となったときの、各々のイソフラボン類等の濃度を求める。 このようにして得られた、標識化されていないS−エクオールの濃度(IC20)と、各々のイソフラボン類等の濃度(IC20)の比をパーセント表示したものを交差性とする。これは、以下の式で表される。交差性(%)=(S−エクオールのIC20/各々のイソフラボン類等のIC20)×100 ここで、該交差率は、ELISAにおける競合法を用いて決定され、検量線の作成に使用する標準抗原および生体試料中のエクオールと競合する標識化抗原の抗原として、S−エクオールを用いて決定される。 また、該交差率の決定において使用される標識化されたS−エクオールの濃度は、競合法において、抗原を高感度に測定できる条件に適宜設定すればよい。標識物としては前述の酵素が例示できる。 より具体的には、例えば、該交差率は、後述の試験例2と同様の手順で決定される。 上記のような特異性を備えた一次抗体を使用し、且つ標準抗原および/または生体試料中のエクオールと競合する標識化抗原としてS−エクオールを使用することによって、生体試料中のエクオールをより高精度に検出することが可能になる。抗体:二次抗体 本発明に使用する二次抗体は、上記一次抗体に対して特異的に結合する抗体であり、該二次抗体は公知の方法に従い作製できる。 一次抗体としてウサギ抗体またはウサギ抗血清を使用する場合、二次抗体として好ましくはヤギ抗ウサギIgG抗体が使用される。 また、ビオチン−アビジン/ストレプトアビジンの結合を利用してもよく、この場合には、例えばビオチン化一次抗体を作製して、該ビオチンと、固相に固定化したアビジン/ストレプトアビジンとを結合させればよい。標準抗原、及び生体試料中のエクオールと競合する標識化抗原 また、本発明において、前記した方法により作製した抗体を用いて生体試料中のエクオールを測定するときに、検量線の作成に使用する標準抗原および/または試料中のエクオールと競合する標識化抗原に、S−エクオールを用いることにより、精確なエクオールの測定値を得ることが可能となる。すなわち、本発明では、検量線の作成に使用する標準抗原および試料中のエクオールと競合する標識化抗原の少なくとも一方にS−エクオールが使用されるが、生体試料中のエクオールの測定精度を高めるという観点から、検量線の作成に使用する標準抗原および試料中のエクオールと競合する標識化抗原の双方にS−エクオールを使用することが望ましい。 上記標識化抗原の標識物としては、抗原抗体反応を妨げないことを限度として、従来公知の標識物が使用できる。標識物として、酵素、放射性同位体、色素、蛍光物質、ラテックス、金属コロイド、ユーロピウム、アクリジニウム等が例示され、好ましくは、酵素、放射性同位体、色素、蛍光物質、ラテックスおよび金属コロイドからなる群から選択される。また、酵素としてはパーオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼ等;放射性同位体としては125I等;色素としてはシアニン系色素等;蛍光物質としてはFITC、cy3、cy5等;ラテックスとしてはポリスチレンラテックス、磁性ラテックス等;金属コロイドとしては金、銀、白金等が例示される。これらの標識物の中でも、高感度の検出を容易にできるという利点から、好ましくは酵素、更に好ましくはパーオキシダーゼ、特に好ましくは西洋ワサビパーオキシダーゼが例示される。 抗原と標識物との結合を目的として、また該抗原と抗体との親和性等の調整を目的として、該抗原と標識物の間にスペーサー化合物を導入してもよい。抗原(S−エクオール)と標識物の結合に使用されるスペーサー化合物としては、カルボキシメチルエーテル(CME)、カルボキシプロピルエーテル(CPE)、カルボキシブチルエーテル(CBE)、カルボキシフェニルエーテル(CPhE)等が例示され、好ましくはCPEが挙げられる。生体試料 エクオールを測定する生体試料としては、動植物を含む生体に由来する試料であってエクオールの測定が求められるものである限り特に制限されないが、例えば、尿、血液(例えば血清の他、血漿)、便、組織抽出物、細胞抽出物、食材等が挙げられる。生体試料として、好ましくはヒト由来の生体試料であり、さらに好ましくはヒト由来の尿および血液であり、特に好ましくはヒト由来の尿である。 また、エクオールの測定に供される生体試料は、必要に応じて、希釈されていてもよい。生体試料を前処理(脱抱合)するための酵素 前記生体試料に含まれるエクオールは、通常、抱合体の形態で存在する。このため、該生体試料を抗原抗体反応に供する前に、エクオールを脱抱合させるための前処理に供してもよい。 該脱抱合処理は、β−グルファターゼ(グルクロニダーゼ、サルファターゼ含有)、グルクロニダーゼ、サルファターゼ等の酵素を使用して行うことができる。より具体的には、脱抱合処理に使用される酵素液の好適な一例として、6%β−グルファターゼ、0.1M酢酸緩衝液(pH5.5)を主成分とする組成が例示される。 また、該脱抱合処理は、抗原抗体反応に先だって実施してもよく、また抗原抗体反応と同時に実施してもよい。該脱抱合処理の反応条件は、使用する酵素の種類や生体試料の種類等に応じて適宜設定されるが、通常、25〜56℃で5分から一昼夜行われる。生体試料および/または標準抗原の希釈液 生体試料および標準抗原の希釈に使用される希釈液は、測定に悪影響を及ぼさない限り制限されず、一般的な免疫法において使用されている希釈液を使用することができる。本発明において使用される希釈液の好適な一例として、塩化ナトリウム、ウシ血清アルブミン含有リン酸緩衝液(pH7.5)を含有する混合溶液、100%チャコール処理ヒト血清等が例示される。より具体的には、希釈液として、150mM塩化ナトリウム、1.0%ウシ血清アルブミン含有0.1Mリン酸緩衝液(pH7.5)の混合溶液が例示される。エクオールの濃度を測定するための免疫法 次に、エクオールを測定するための免疫法の具体例を以下に示すが、本発明の本質はこれらの例により限定されるものではない。 本発明において、エクオールを測定するための免疫法としては、前記抗原および抗体を利用した抗原抗体反応により、生体試料中のエクオールの濃度を測定できる限り制限されないが、例えば、ELISA法、ラジオイムノアッセイ法およびイムノクロマト法等が例示される。 免疫法としてELISA(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay)法を使用する場合、生体試料中のエクオールの測定は、従来公知のELISAの手法に従い行えばよく、競合法、サンドイッチ法、直接法のいずれであってもよい。ELISA法として、好ましくは競合法である。参考として、ELISA法における競合法のモデルを、図5に示す。 例えば、競合法を採用する場合、ELISA法による生体試料中のエクオールの測定は、例えば、二次抗体を予め固相化しておいたマイクロプレートのウェルに、生体試料、酵素標識した抗原(標識化抗原)および一次抗体を添加して反応させ、二次抗体−一次抗体−エクオールの結合体を形成させる。また、一次抗体は、生体試料および標識化抗原と同時に添加してもよく、別々に添加してもよい。反応後、洗浄液にてウェルを洗浄し、前記酵素に対応する基質を加えて反応させた後、反応停止液等により反応を停止させて吸光度を測定し、同様に標準抗原を測定した検量線から、試料中のエクオール濃度を算出する。 この場合、マイクロプレートは従来公知のものが使用でき、そのウェルの大きさや形状も、前記反応が実施される限り制限されない。また、二次抗体のウェルへの固相化は従来公知の方法により実施できる。また、基質も、該酵素に適した従来公知の基質を使用すればよい。 また、該競合法において、一次抗体、二次抗体、標識化抗原の添加量は、当該方法により生体試料中のエクオールが精確に測定できる限り制限されず、一般的なELISA法の条件に従って適宜設定される。また、ELISA法以外の免疫法においても、同様に、一次抗体、二次抗体、標識化抗原の添加量は、従来公知の条件に従えばよく、適宜設定される。 ELISA法における各反応は、従来公知の条件に従い行えばよく、生体試料の種類やELISA法の方法等に応じて適宜設定される。例えば、競合法の場合であれば、二次抗体−一次抗体−エクオールの結合体を形成させるための抗原抗体反応は、通常、4〜37℃で5分から一昼夜行われる。 より具体的には、ELISA法(競合法)による尿中のエクオールの測定については、尿検体に検体希釈液を加えて希釈尿検体液を調製し、予めヤギ抗ウサギIgG抗体(二次抗体)を固相化しておいたマイクロプレートのウェルに調製した希釈尿検体液、西洋ワサビパーオキシダーゼ標識エクオールおよび希釈した抗エクオールウサギ抗血清(一次抗体)を加えて一定時間反応させる。反応後、ウェルを洗浄して発色基質液を加えて一定時間反応させ、一定時間後に反応を停止させて吸光度を測定し、同様に標準抗原を測定した検量線から、試料中のエクオール濃度を算出する。 抗血清を希釈するための緩衝液(抗血清希釈緩衝液)は、抗血清を好適に希釈でき且つ測定に悪影響を及ぼさない限り制限されない。本発明において使用される抗血清希釈緩衝液の好適な一例として、塩化ナトリウム、ウシ血清アルブミン、Tween20含有りん酸緩衝液(pH7.5)等を含有する混合溶液が例示される。より具体的には、抗血清希釈緩衝液として、150mM塩化ナトリウム、0.5%ウシ血清アルブミン、0.01%Tween20含有0.1Mりん酸緩衝液(pH7.5)の混合溶液が例示される。該抗血清希釈緩衝液は競合法だけでなく、競合法以外のELISA法、更に種々の免疫法において使用できる。なお、Tweenは登録商標である。 RIA(Radioimmunoassay)法による生体試料中のエクオールの測定についても従来公知の方法に従い行えばよく、標識物として放射性同位体を使用する以外は、前記ELISA法と同様にして実施できる。生体試料として尿を、放射性同位体として125Iを使用するRIA法として、以下が例示される。 尿検体に検体希釈液を加えて希釈尿検体液を調製し、予めヤギ抗マウスIgG抗体を固相化しておいたマイクロプレートのウェルに調製した希釈尿検体液、125I標識S−エクオールおよび希釈した抗エクオール抗体産生細胞培養上清を加えて一定時間反応させる。反応後、ウェルを洗浄した後にマイクロプレートのウェルの放射線活性を測定し、同様に標準抗原を測定した検量線から、試料中のエクオール濃度を算出する。 イムノクロマト(イムノクロマトグラフィー)法による生体試料中のエクオールの測定についても、従来公知の方法に従い行えばよい。生体試料として尿を、標識物として金コロイドを使用するイムノクロマト法として、以下の手法が例示される。即ち、尿検体に金コロイド標識抗エクオールマウスモノクローナル抗体を加えて希釈尿検体液を調製し、イムノクロマトストリップのサンプルパッド部に希釈尿検体液を滴下して一定時間反応させる。反応後、エクオールを固定化した捕捉部の金コロイド標識物による着色を測定し、同様に標準抗原を測定した検量線から、試料中のエクオール濃度を算出する。 また、生体試料中のエクオールを標識化した抗体を用いて測定する方法としては、抗原支持物質と結合したエクオールまたはその類似物を固相化し、蛍光物質で標識化した抗エクオールウサギポリクローナル抗体と生体試料を混合することにより、生体試料中の測定対象物質と競合して固相に結合した蛍光物質を洗浄した後に測定し、同様に標準抗原を測定した検量線から、試料中のエクオール濃度を算出する。 さらに、生体試料中のエクオールを標識化した抗体断片を用いて測定する方法として、オープンサンドイッチ法が知られている。この測定方法は、例えば、抗エクオールマウスモノクローナル抗体の軽鎖抗原結合部位断片と重鎖抗原結合部位断片を用いて生体中のエクオールを生体試料中のエクオールを挟み込んだ重合体を形成することによって測定できる。 具体的には、軽鎖抗原結合部位断片を固相化し、アルカリフォスファターゼで標識化した重鎖抗原結合部位断片と生体試料を混合することにより、生体試料中のエクオールを介して固相に結合したアルカリフォスファターゼ活性を洗浄した後に測定し、同様に標準抗原を測定した検量線から、試料中のエクオール濃度を算出する。 また、軽鎖抗原結合部位断片と重鎖抗原結合部位断片に異なった蛍光物質で標識化し、生体試料中のエクオールを介して複合物を形成することにより生じる蛍光共鳴エネルギー移動現象を測定し、同様に標準抗原を測定した検量線から、試料中のエクオール濃度を算出することも可能である。 本発明の好適な一態様としては、免疫法としてELISA法が挙げられ、さらに好ましくは、競合法によって行われるELISA法が挙げられ、特に好ましくは、検量線の作成に使用する標準抗原および試料中のエクオールと競合する標識化抗原の双方にS−エクオールを使用し、競合法によって行われるELISA法が挙げられる。2.生体試料中のエクオールの濃度を免疫法により測定するためのキット 本発明の、生体試料中のエクオールの濃度を免疫法により測定するためのキットは、検量線の作成に使用する標準抗原および試料中のエクオールと競合する標識化抗原からなる群より選択される少なくとも一方の抗原として、S−エクオールを含むことを特徴とする。本発明のキットは、更に、S−エクオールに特異的に結合する一次抗体を含んでもよい。 また、本発明のキットは、更に必要に応じて、生体試料および/または標準抗原の希釈液、試料中のS−エクオールの抱合体を脱抱合するための酵素液、二次抗体を固相化させたプレート、及び洗浄液からなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。 更に、本発明のキットは、採用する免疫法の種類に応じて、その他に必要とされる試薬が含まれていてもよい。例えば、競合法によって行われるELISA法に使用される場合には、更に標識化抗原の標識物に対する基質、標識物と基質の反応を停止させるための反応停止液、ならびに基質を溶解するための溶解液からなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。 更に、本発明のキットにおいて抗血清が使用される場合、該抗血清の希釈に使用される抗血清希釈緩衝液を含んでいても良い。 以下、本発明のキットに備えさせ得る各試薬について説明する。標準抗原 標準抗原としては、前述のものが同様に使用できる。該標準抗原は、溶液の形態でキットに含まれていてもよい。例えば、標準抗原としてS−エクオールを使用する場合、S−エクオール、塩化ナトリウム、ウシ血清アルブミン含有りん酸緩衝液(pH7.5)を含有する標準エクオール溶液の形態にあってもよい。標準エクオール溶液として、例えば、810ng/mL S−エクオール、150mM塩化ナトリウム、0.1%ウシ血清アルブミン、0.1%含有0.01Mりん酸緩衝液(pH7.5)が例示される。また、別の標準エクオール溶液として、S−エクオール及び100%チャコール処理ヒト血清の混合溶液等が例示される。標識化抗原 標識化抗原としては、前述のものが同様に使用できる。好ましくはパーオキシダーゼ標識S−エクオールが、特に好ましくは西洋ワサビパーオキシダーゼ標識S−エクオールが例示される。標識物に対する基質 標識物に対する基質としては、従来公知の基質が使用でき、従来公知の標識物との組み合わせで使用される。例えば、西洋ワサビパーオキシダーゼの場合には、基質として過酸化水素が例示される。該基質は、後述する溶解液に溶解された後に使用されることが好ましい。溶解液 溶解液は、必要に応じて溶解することを目的として使用される。該溶解液は、基質を好適に溶解でき、かつ測定に悪影響を及ぼさない限り制限されず、従来公知の緩衝液が使用でき、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液等が例示される。該溶解液は、基質を予め含む形態で提供することができる。 基質が前述の過酸化水素である場合には、溶解液に、OPD(o−フェニレンジアミン二塩酸塩)を溶解して基質液とする。好適な一態様としては、0.05%過酸化水素水、2.2mg/mL OPD(o−フェニレンジアミン二塩酸塩)含有50mMクエン酸緩衝液(pH5.5)の基質液が挙げられる。抗体:一次抗体 一次抗体としては、前述のものが同様に使用できる。好ましくは抗血清が使用され、更に好ましくはウサギ抗血清が使用される。該抗血清は、必要に応じて、後述する抗血清溶解緩衝液で希釈された後に使用される。該抗血清は、該抗血清希釈緩衝液で希釈された状態で、キットに含まれていてもよい。抗体:二次抗体 二次抗体としては、前述のものが同様に使用できる。一次抗体としてウサギ抗体またはウサギ抗血清を使用する場合、二次抗体として、好ましくはヤギ抗ウサギIgG抗体が使用される。また、ELISA法における競合法を採用する場合には、二次抗体はマイクロプレートのウェルに固相化されていることが好ましい。該マイクロプレートは、従来公知のものが使用でき、固相化は従来公知の方法に従い実施すればよい。抗血清希釈緩衝液 抗血清希釈緩衝液は、前述の抗血清を必要に応じて希釈することを目的として使用される。該抗血清希釈緩衝液は、抗血清を好適に希釈でき且つ測定に悪影響を及ぼさない限り制限されず、前述のものが同様に使用できる。該抗血清希釈緩衝液は、抗血清を希釈した状態で、キットに含まれていてもよい。生体試料を前処理(脱抱合)するための酵素液 生体試料を前処理(脱抱合)するための酵素液としては、前述のものが同様に使用できる。生体試料および/または標準抗原の希釈液 生体試料(検体)および標準抗原の希釈液としては、前述のものが同様に使用できる。標識物質と基質の反応を停止させるための反応停止液 標識物質と基質の反応を停止させるための反応停止液は、これらの反応を停止させることができ、測定結果に影響を与えない限り制限されず、従来公知の反応停止液が使用できる。反応停止液として、硫酸、塩酸、硝酸等が例示される。洗浄液 洗浄液は、抗原抗体反応終了後、基質の分注前に、余分な生体試料および抗体等をウェル等から除去することを目的として使用される。該洗浄液は、好適に洗浄でき、かつ測定に悪影響を及ぼさない限り制限されず、従来公知の洗浄液が使用でき、そのままで使用されてもよく、精製水等で希釈して使用されてもよい。洗浄液として、精製水、界面活性剤を緩衝液で希釈した溶液等が例示される。 このほか、本発明のキットには、該キットを使用するプロトコールが記載された説明書、希釈用のプレート、プレートシールなども含むことができる。また、キットに含まれる前記溶液には、着色のため、更に色素が添加されていてもよい。 本発明のキットが対象とする生体試料は、前述のものが挙げられる。また、該キットを用いて実施される免疫法も前述の方法が例示され、好ましくはELISA法であり、好ましくはELISA法の中でも競合法である。 本キットにおける前記抗体、抗原、溶液等の含有量は、生体試料中のエクオール濃度が測定できる限り制限されず、前述の通り、ELISA法をはじめとする免疫法の一般的な条件に従って適宜設定される。3.被験者のエクオール産生能を判定する方法 本発明の被験者のエクオール産生能を判定する方法(以下、判定方法と記載する場合がある)は、(1)検量線の作成に使用する標準抗原および生体試料中のエクオールと競合する標識化抗原からなる群より選択される少なくとも一方の抗原としてS−エクオールを用いた免疫法により、大豆イソフラボンを摂食させた被験者由来の生体試料中のエクオールを測定する工程、ならびに(2)前記工程(1)で得られたエクオールの測定値に基づいて、被験者のエクオール産生能を判定する工程を含む。以下に、本発明の判定方法について、工程毎に説明する。工程(1) 本工程(1)では、検量線の作成に使用する標準抗原および生体試料中のエクオールと競合する標識化抗原からなる群より選択される少なくとも一方の抗原にS−エクオールを用いた免疫法により、大豆イソフラボンを摂食させた被験者由来の生体試料中のエクオールを測定する。 本工程(1)に供される生体試料は、大豆イソフラボンを摂食させた被験者由来の生体試料である。エクオールは大豆イソフラボンの活性代謝物であるため、大豆イソフラボンを摂取していない被験者は、エクオール産生能を有している場合であっても、エクオールが検出されないか、その測定値が非常に低い傾向を示す。そのため、被験者には、予め大豆イソフラボンを摂取させることが必要とされる。被験者に大豆イソフラボンを摂取させる量については、特に制限されないが、例えば大豆イソフラボンの総量が20〜70mg、好ましくは25〜50mg程度が例示される。また、大豆イソフラボンを摂取させる時期についても、特に制限されるものではないが、例えば、生体試料採取前の3日間毎日あるいは生体試料採取前6〜24時間、好ましくは生体試料採取前8〜12時間が例示される。被験者に摂取させる大豆イソフラボンは、豆乳、大豆イソフラボン錠、大豆バー、納豆、豆腐、大豆煮豆、枝豆、黒豆、テンペ等の大豆製品の形態の物が使用できる。 本工程(1)に供される生体試料は、尿、血液(血清、血漿)、便等のいずれであってもよいが、好ましくは尿、血液であり、更に好ましくは尿である。 本工程(1)における免疫法によるエクオールの測定は、前述する「1.生体試料中のエクオールを免疫法により測定する方法」に従って行われる。工程(2) 本第2工程では、前記工程(1)で得られたエクオールの測定値に基づいて、被験者のエクオール産生能を判定する。 本工程(2)では、前記工程(1)においてエクオールが検出された生体試料の被験者は、エクオール産生能を有していると判定され、また前記工程(1)においてエクオールが検出されなかった生体試料の被験者は、エクオール産生能を有していないと判定される。 なお、本工程(2)では、エクオール産生能の有無の判定において誤判定を抑制するために、測定されたエクオールの濃度に対してカットオフ値未満であるか否かを判定することが望ましい。即ち、測定された生体試料のエクオールの濃度がカットオフ値未満であれば、該生体試料の被験者はエクオール産生能がないと判定され、測定された生体試料のエクオールの濃度がカットオフ値以上ならば、該生体試料の被験者はエクオール産生能があると判定される。カットオフ値は、次のようにして設定できる。1.前記免疫法により生体試料中のエクオール濃度を測定する。2.同一の生体試料中のダイゼイン濃度を測定する。該測定は、既存の測定法(HPLC法、GC−MS法など)を用いて測定する。3.生体試料毎にダイゼイン濃度に対するエクオール濃度の対数比を算出する。 エクオールはダイゼインの代謝産物であるため、該対数値を算出することで、生体内でどの程度のエクオールが産生されているかを把握することができる。4.HPLC法により、生体試料中のS−エクオール濃度及びダイゼインを測定する。5.前記4の測定値に基づき、生体試料毎にダイゼイン濃度に対するエクオール濃度の対数比を算出する。6.前記5で得られた対数比により設定される基準値と、前記3で得られた対数比とを比較し、前記3についてエクオール産生/非産生の結果に分類する。これに基づきエクオール非産生者/産生者の誤判定率が最も低くなるエクオール濃度を決定し、該濃度をカットオフ値とする。 前記6について、具体的には、例えば、HPLC法から算出される対数比において−1.75未満がエクオール非産生者、−1.75以上ならばエクオール産生者と判断される場合には、該値(−1.75)を基準値とする(例えば、Setchell and Co, 2006)。そして、該基準値と前記3で得られた対数比とを照らし合わせて、同様に、−1.75未満であればエクオール非産生者、−1.75以上ならばエクオール産生者と分類する。そして、当該分類と前記1で測定したエクオール濃度を照らし合わせ、前記分類を基準として、エクオール非産生者/産生者の誤判定率が最も低くなるようエクオール濃度を決定し、この濃度をカットオフ値として設定する。 また、本工程(2)では、前記工程(1)において高濃度のエクオールが検出された生体試料の被験者については、エクオール産生能が高いと判定され、また前記第(1)工程において低濃度のエクオールが検出された生体試料の被験者は、エクオール産生能が低いと判定することもできる。 エクオールには、S−エクオールおよびR−エクオールの二種類の光学異性体の存在が知られており、生体内での存在は、前者のS−エクオールに限られる。それゆえ、測定方法としては、S−エクオールを特異的に、精確に測定することが求められる。そこで、競合免疫法による測定に影響を及ぼす標準抗原および標識化抗原を検討した。 以下に評価を行った測定法およびその結果について説明する。<試験例1>・実施例1 標識化抗原および標準抗原にS−エクオールを用いた測定キットによる測定 1.生体試料 生体試料として、尿を使用した。生体試料数は5である。 2.抗エクオールウサギ抗血清溶液の作製(一次抗体) 免疫抗原の合成 100mgのエクオールを400μLのDMSOに溶解し、58μLのMethyl Bromoacetateおよび140mgのK2CO3を加えて、25℃で4時間反応させる。反応終了後に塩酸を用いて酸性に調整した後、酢酸エチルを用いて抽出を行い、脱水後に蒸発乾固した。 続いて、展開溶媒としてクロロホルムメタノール(19:1)を用いて薄層クロマトグラフィー(1.05717、メルク ジャパン社)上で展開分離し、1分子のエクオールに1分子のCME(carboxymethylether)−methylesterが導入された分画のみを回収した。 回収した1分子ずつ結合したエクオール−CME−methylesterに8Nの水酸化ナトリウムを加えて50℃で20分間加熱した。加熱後に塩酸を用いて酸性に調整した後、酢酸エチルを用いて抽出を行い、蒸発乾固してエクオール−CME−acidを得た。 得られたエクオール−CME−acidの2mgに、1.5mgのN−hydroxysuccinimide(NHS)、1.5mgの水溶性カルボジイミド(WSC)を加えて20μLのDMSOに溶解して25℃で1時間反応させ、エクオール−CME−NHSを得た。 20mg/mLのBSA溶液(ウシ血清アルブミン20mgを50mM炭酸緩衝液(pH9.7)1mLに溶解)250μLに、エクオール−CME−NHS(10mg/mLDMF溶液)10μLを添加して25℃で30分間反応させた。反応終了後にゲル濾過により未反応物を除き、エクオール−CME−BSA抗原の原液とした。 抗血清の作製 合成した免疫抗原エクオール−CME−BSA(2.5mg/mL)とFreund’s complete adjuvantを等量混和し、免疫剤を作製した。該免疫剤を用い、3週間毎に1mL/回をウサギの背部の数箇所に皮下注射した。免疫開始12週目から3週間毎に採血を開始し、5回の部分採血の後に全採血を実施した。採血した抗血清の抗体価を表1に示す。この全採血して得られた抗血清を抗血清希釈緩衝液で適宜希釈して以下の試験に使用した。 なお、ここでは、従来公知の方法により抗体が検出できる抗血清の最大希釈倍率を抗体価とした。該希釈は、後述の抗血清希釈緩衝液を用いて行った。 3.ヤギ抗ウサギIgG抗体(二次抗体)および該抗体固相化プレートの作製 96穴マイクロプレートの各ウェルに10μg/mLのヤギ抗ウサギIgG抗体溶液を100μL加える。4℃で2晩静置した後にヤギ抗ウサギIgG抗体溶液を吸引除去した。 吸引除去した96穴マイクロプレートの各ウェルに0.5mg/mLのウシ血清アルブミン溶液を300μL加えた。4℃で18時間静置した後に、ウシ血清アルブミン溶液を吸引除去し、真空乾燥してヤギ抗ウサギIgG抗体固相化プレートとした。 4.西洋ワサビパーオキシダーゼ標識S−エクオール(生体試料中のエクオールと競合する標識化抗原)の作製 100mgのS−エクオール(S−equol)を400μLのDMSOに溶解し、58μLの4−Bromo−n−butylic Acidおよび140mgのK2CO3を加えて、25℃で4時間反応させる。反応終了後に塩酸を用いて酸性に調整した後、酢酸エチルを用いて抽出を行い、脱水後に蒸発乾固した。 続いて、展開溶媒としてクロロホルムメタノール(19:1)を用いて薄層クロマトグラフィー(1.05717、メルク ジャパン社)上で展開分離し、1分子のS−equolに1分子のCPE(carboxypropylether)−methylesterが導入された分画のみを回収した。 回収した1分子ずつ結合したS−equol−CPE−methylesterに8Nの水酸化ナトリウムを加えて50℃で20分間加熱する。加熱後に塩酸を用いて酸性に調整した後、酢酸エチルを用いて抽出を行い、蒸発乾固してS−equol−CPE−acidを得た。 得られたS−equol−CPE−acidの2mgに、1.5mgのN−hydroxysuccinimide(NHS)、1.5mgの水溶性カルボジイミド(WSC)を加えて20μLのDMSOに溶解して25℃で1時間反応させ、S−equol−CPE−NHSを得た。 20mg/mLのHRP溶液(西洋ワサビパーオキシダーゼ20mgを50mM炭酸緩衝液(pH9.7)1mLに溶解)250μLに、S−equol−CPE−NHS (10mg/mLDMF溶液)10μLを添加して25℃で30分間反応させた。反応終了後にゲルろ過により未反応物を除き、西洋ワサビパーオキシダーゼ標識S−エクオール溶液の原液(標識化抗原液)とした。 5.標準抗原 標準抗原として、S−エクオールを用いた。なお、0、30、90、270または810ng/mL S−エクオール及び100%チャコール処理ヒト血清の混合溶液の標準エクオール溶液を使用した。 6.生体試料希釈液、標準抗原希釈液 生体試料(検体)および標準抗原の希釈液として、100%チャコール処理ヒト血清(SERACON II:CD INTERGEN社)を用いた。 7.抗血清希釈緩衝液の組成 150mM塩化ナトリウム、0.5%ウシ血清アルブミン、0.01%Tween20含有0.1Mりん酸緩衝液(pH7.5)を抗血清希釈緩衝液とした。なお、Tweenは登録商標である。 8.洗浄液の組成 100mM塩化ナトリウム、0.025%Tween20含有0.3mMりん酸緩衝液(pH7.5)を洗浄液とした。 9.酵素液の組成 6%β−グルファターゼ(株式会社日本バイオテスト研究所製)含有0.1M酢酸緩衝液(pH5.5)を酵素液とした。 10.基質 0.05%過酸化水素水、2.2mg/mL OPD(o−フェニレンジアミン二塩酸塩)含有50mMくえん酸緩衝液(pH5.5)を基質(基質液)とした。 11.反応停止液 3N硫酸を反応停止液とした。 12.生体試料を用いたエクオールの測定 尿検体20μLに検体希釈液200μLを加えて、11倍希釈尿検体を調製した。抗ウサギIgGヤギ抗体固相化プレートのウェルに、11倍希釈尿検体20μL、酵素及び標識化抗原の混合液50μL(標識化抗原液1に対して、酵素液10)を加え、攪拌後に25℃で30分間静置した。その後、抗エクオールウサギ抗血清溶液50μLを加え、攪拌後に25℃で1時間静置した。 ヤギ抗ウサギIgG抗体固相化プレートのウェルから反応溶液を除去した後に洗浄液を用いて3回ウェルを洗浄した。洗浄後、ヤギ抗ウサギIgG抗体固相化プレートのウェルに基質を100μL加え、25℃で30分間静置した。その後、ヤギ抗ウサギIgG抗体固相化プレートのウェルに反応停止液を100μL加え、波長490nmの吸光度を測定し、同様に測定した標準希釈液を用いて作製した標準抗原の希釈系列から得られる検量線から、試料中のエクオール濃度を算出した。・実施例2 標識化抗原にS−エクオールを用いた測定キットによる測定 実施例1の中より、「標準抗原」をS−エクオールからエクオール(S−エクオールおよびR−エクオールの混合物)に変更した他は、実施例1と同様に実施した。・実施例3 標準抗原にS−エクオールを用いた測定キットによる測定 実施例1の中より、「西洋ワサビパーオキシダーゼ標識S−エクオールの作製」を以下のようにS−エクオールからエクオール(S−エクオールおよびR−エクオールの混合物)に変更した他は、実施例1と同様に実施した。 西洋ワサビパーオキシダーゼ標識エクオールの作製 100mgのエクオール(Equol)を400μLのDMSOに溶解し、58μLの4−Bromo−n−butylic Acidおよび140mgのK2CO3を加えて、25℃で4時間反応させる。反応終了後に塩酸を用いて酸性に調整した後、酢酸エチルを用いて抽出を行い、脱水後に蒸発乾固した。 続いて、展開溶媒としてクロロホルムメタノール(19:1)を用いて薄層クロマトグラフィー(1.05717、メルク ジャパン社)上で展開分離し、1分子のEquolに1分子のCPE(carboxypropylether)−methylesterが導入された分画のみを回収した。 回収した1分子ずつ結合したEquol−CPE−methylesterに8Nの水酸化ナトリウムを加えて50℃で20分間加熱する。加熱後に塩酸を用いて酸性に調整した後、酢酸エチルを用いて抽出を行い、蒸発乾固してEquol−CPE−acidを得た。 得られたEquol−CPE−acidの2mgに、1.5mgのN−hydroxysuccinimide(NHS)、1.5mgの水溶性カルボジイミド(WSC)を加えて20μLのDMSOに溶解して25℃で1時間反応させ、Equol−CPE−NHSを得た。 20mg/mLのHRP溶液(西洋ワサビパーオキシダーゼ20mgを50mM炭酸緩衝液(pH9.7)1mLに溶解)250μLに、Equol−CPE−NHS (10mg/mLDMF溶液)10μLを添加して25℃で30分間反応させる。反応終了後にゲルろ過により未反応物を除き、西洋ワサビパーオキシダーゼ標識エクオール溶液の原液とした。・比較例 標識化抗原および標準抗原にエクオールを用いた測定キットによる測定 実施例1の中より、「標準抗原」のS−エクオールを実施例2に記載のエクオールに、「西洋ワサビパーオキシダーゼ標識S−エクオールの作製」のS−エクオールを実施例3に記載のエクオールに変更した他は、実施例1と同様に実施した。 ・実施例4 HPLC法との測定値の比較(パネル検体) HPLC法によりエクオール濃度既知の尿試料5検体について、実施例1、実施例2、実施例3および比較例により測定した結果を表2に示し、HPLC法による測定値を100%とした各測定値の比を表3に示す。 比較例による測定結果とHPLC法による測定結果の比が39〜82%であるのに比べ、実施例1、実施例2および実施例3では、各々、89〜107%、106〜130%および92〜159%と、標準抗原および/または標識化抗原にS−エクオールを用いることにより、HPLC法との測定値の乖離が収束した。 ・実施例5 HPLC法との相関(測定値) HPLC法によりエクオール濃度既知の尿試料50検体について、実施例1、実施例2、実施例3および比較例と同様にして測定した結果とHPLC法による測定結果との相関図を、各々、図1、図2、図3および図4に示す。該尿試料は、前日に大豆イソフラボン摂取(イソフラボンアグリコンとして26mg)させ、早朝第一尿を使用した 比較例による測定結果では、相関係数r=0.973と相関性が高いものの、回帰式の傾きが0.664とHPLC法での測定値の半分近くになっている。 一方、実施例1による測定結果では、相関係数r=0.974と相関性が高く、回帰式の傾きが1.067とHPLC法と同等であった。それゆえ、実施例1は比較例に比べて精確性が高まったと判断された。 なお、実施例2による測定結果では、相関係数r=0.987と相関性が高いものの、回帰式の傾きが1.594とHPLC法での測定値より高くなっている。 なお、実施例3による測定結果では、相関係数r=0.973と相関性が高いものの、回帰式の傾きが1.712とHPLC法での測定値より高くなっている。グラフ(図3)を見ると、測定結果のばらつきが大きく、特に高値での測定値の乖離が認められた。<試験例2> 交差反応性 本試験例では、ELISA法における競合法を採用し、且つ、標準抗原および標識化抗原にS−エクオールを用いた場合の、一次抗体の交差反応性について調べた。具体的には、以下のようにして交差反応性について調べた。 1.試料 後述の表4に示す各々のイソフラボン類等を100%チャコール処理ヒト血清で溶解し、試料とした。 2.一次抗体 一次抗体として、実施例1と同様に、抗エクオールウサギ抗血清を使用した。該抗血清は、後述の抗血清希釈緩衝液で適宜希釈して試験に使用した。 3.二次抗体 二次抗体として、実施例1と同様に、ヤギ抗ウサギIgG抗体を使用した。該抗体は、実施例1と同様に固相化させて、ヤギ抗ウサギIgG抗体固相化プレートとした。 4.生体試料中のエクオールと競合する標識化抗原 標識化抗原として、実施例1と同様に、西洋ワサビパーオキシダーゼ標識S−エクオールを使用した。 5.標準抗原 標準抗原として、実施例1と同様に、S−エクオールを用いた。なお、0、30、90、270および810ng/mL S−エクオール及び100%チャコール処理ヒト血清の混合溶液の標準エクオール溶液を使用した。 6.試料および標準抗原希釈液 試料および標準抗原の希釈液として、100%チャコール処理ヒト血清を用いた。 7.抗血清希釈緩衝液 150mM塩化ナトリウム、0.5%ウシ血清アルブミン、0.01%Tween20含有0.1Mりん酸緩衝液(pH7.5)を抗血清希釈緩衝液とした。 8.洗浄液 洗浄液として、100mM塩化ナトリウム、0.025%Tween20含有0.3mMりん酸緩衝液(pH7.5)を使用した。 9.酵素液 酵素液として、6%β−グルファターゼ(株式会社日本バイオテスト研究所製)含有0.1M酢酸緩衝液(pH5.5)を使用した。 10.基質 基質(基質液)として、0.05%過酸化水素水、2.2mg/mL OPD(o−フェニレンジアミン二塩酸塩)含有50mMくえん酸緩衝液(pH5.5)を使用した。 11.反応停止液 反応停止液として、3N硫酸を使用した。 12.交差反応性の検討手順 各々のイソフラボン類等及び標識化されていないS−エクオールの濃度希釈系列を調製し、各イソフラボン類等及び標識化されていないS−エクオールについて、それぞれ濃度0から過剰量を加えたときの競合反応おける吸光度を測定した。ここで得られた各測定値を、標準抗原(S−エクオール)の希釈系列から得られる検量線と照らし合わせ、算出された各値に基づき反応阻害を比較して、標識化されたS−エクオールの抗エクオール抗体への結合を20%反応阻害する各イソフラボン類等の濃度及び標識化されていないS−エクオールの濃度(IC20)を決定した。 該競合反応は、実施例1同様の手順で、ELISAにおける競合法を用いて行った。また、標識物として、西洋ワサビパーオキシダーゼを使用した。 このようにして得られた、各々のイソフラボン類等の濃度と、標識化されていないS−エクオールの濃度の比をパーセント表示したものを交差性とした。これは、以下の式で表される。交差性(%)=(S−エクオールのIC20/各々のイソフラボン類等のIC20)×100 結果を表4に示す。 該結果から、この一次抗体の交差反応性は、S−エクオールとの交差性100%に対し、R−エクオールとの交差性が13.24%、エクオールの代謝前のダイゼインとの交差性が0.08%、ジヒドロダイゼインとの交差性が1.03%、デヒドロエクオールとの交差性が0.33%、ダイジンとの交差性が0.06%であり、このほかの各種物質に対しても交差性が著しく低いことがわかる。これは、本発明の方法、更に本発明のキットによれば、S−エクオールを特異的に検出、測定できることを意味する。 また、例えば従来公知のLABMASTER社のキットLabmaster Equol TR-FIAでは、ダイゼインとの交差率が0.8%であり(http://labmaster.fi/products/tr-fia-kits/equol-tr-fia.htm参照)、その交差性は本キットの10倍である。また、Labmaster Equol TR-FIAにおけるデヒドロエクオールとの交差率は42.3%、ジヒドロダイゼインとの交差率も4.0%であり、本キットは従来公知のキットより特異性が著しく高いといえる。 また、これまでに、モノクローナル抗体を使った論文(Duncan C.S. Talbot, et al. Clinical Chemistry 53: 748-756, 2007)ではダイゼインに対する交差率が<0.04%という報告があり、本発明では、一次抗体として抗血清を使用しているにもかかわらず、モノクローナル抗体と同等の特異性を得ることができたことが分かる。<試験例3> 液体クロマトグラフ/タンデム質量分析装置(LC/MS/MS)との相関性 本試験例では、ELISA法における競合法を採用し、且つ、標準抗原および標識化抗原にS−エクオールを用いた場合の、LC/MS/MS法との相関性を調べた。具体的には以下のようにして相関性を調べた。 1.生体試料 生体試料として、イソフラボン摂取前および摂取後の血清(男性10名)を使用した。 2.一次抗体 一次抗体として、実施例1と同様の、抗エクオールウサギ抗血清を使用した。該抗血清は、後述の抗血清希釈緩衝液で適宜希釈して試験に使用した。 3.二次抗体 二次抗体として、実施例1と同様の、ヤギ抗ウサギIgG抗体を使用した。該抗体は、実施例1と同様に固相化させて、ヤギ抗ウサギIgG抗体固相化プレートとした。 4.生体試料中のエクオールと競合する標識化抗原 標識化抗原として、実施例1と同様の、西洋ワサビパーオキシダーゼ標識S−エクオール及び標識化抗原液を使用した。 5.標準抗原 標準抗原として、実施例1と同様に、S−エクオールを用いた。なお、810ng/mL S−エクオールを標準抗原希釈液で適宜希釈して、標準エクオール溶液とした。 6.標準抗原希釈液 標準抗原の希釈液として、100%チャコール処理ヒト血清を用いた。 7.抗血清希釈緩衝液 150mM塩化ナトリウム、0.5%ウシ血清アルブミン、0.01%Tween20含有0.1Mりん酸緩衝液(pH7.5)を抗血清希釈緩衝液とした。 8.洗浄液 洗浄液として、100mM塩化ナトリウム、0.025%Tween20含有0.3mMりん酸緩衝液(pH7.5)を使用した。 9.酵素液 酵素液として、6%β−グルファターゼ(株式会社日本バイオテスト研究所製)含有0.1M酢酸緩衝液(pH5.5)を酵素液とした。 10.基質 0.05%過酸化水素水、2.2mg/mL OPD(o−フェニレンジアミン二塩酸塩)含有50mMくえん酸緩衝液(pH5.5)を基質(基質液)とした。 11.反応停止液 3N硫酸を反応停止液とした。 12.エクオール濃度の測定手順 ヤギ抗ウサギIgG抗体固相化プレートのウェルに、血清検体20μL、酵素及び標識化抗原の混合液50μL(標識化抗原液1に対して酵素液10)を加え、攪拌後に25℃で30分静置する。その後、抗エクオールウサギ抗血清溶液50μLを加え、攪拌後に25℃で1時間静置した。 ヤギ抗ウサギIgG抗体固相化プレートのウェルから反応溶液を除去した後に洗浄液を用いて3回ウェルを洗浄した。洗浄後、ヤギ抗ウサギIgG抗体固相化プレートのウェルに基質を100μL加え、25℃で30分間静置した。その後、ヤギ抗ウサギIgG抗体固相化プレートのウェルに反応停止液を100μL加え、波長490nmの吸光度を測定し、同様に測定した標準希釈液を用いて作製した標準抗原の希釈系列から得られる検量線から、試料中のエクオール濃度を算出した。 また、液体クロマトグラフ/タンデム質量分析装置(LC/MS/MS)を用いて、同一の生体試料のエクオール濃度を測定した。得られた結果を比較した。これらの相関性を表5および図6に示す。 表5から、実施例4による血清検体の測定結果における絶対値は、LC/MS/MSの半分弱と低いが、表5から、これらの相関係数は0.984と高いことが分かる。 <試験例4>S−エクオール産生者/非産生者の判定1(カットオフ値の設定) 本試験例では、以下のようにしてカットオフ値を設定した。 尿検体は、前日の夕食時に大豆イソフラボン摂取(イソフラボンアグリコンとして約25mg)させ、摂取6時間以降の早朝第一尿を使用した。対象者数は、244名(男性:76名、女性;168名)であり、生体試料数は432であった。 ダイゼイン(DZN)濃度の測定結果を図7に示した。DZN濃度は、HPLC法を用いて測定した。イソフラボンを前日摂取することによって早朝第一尿で十分量のDZNが尿中に検出されたことから、S−エクオール産生者/非産生者の判定が可能と判断した。 次に、ELISA法にて、尿中エクオール(EQL)濃度(EQL ELISA)を測定した。検出限界は330ng/mlであった。同時に、HPLC法での結果に基づき、DZN濃度に対するEQL濃度の対数比(Log E/D ratio)を算出した。図8に、EQL ELISAとLog E/D ratioとのプロット図を示した。なお、Log E/D ratioは、−1.75(Kenneth D.R. Stechell and Sindey J. cole, J. Nutr. 136:2188-2193, August 2006)を基準値とし、−1.75以上をS−エクオール産生者、−1.75未満を非産生者と判断した。 これに基づき、エクオール産生者/非産生者の誤判定率が最も低くなるエクオール濃度、すなわちカットオフ値を検討した。検討結果を表6に示す。なお、HPLC法において、産生者と判断された生体試料数は377、非産生者と判断された生体試料数は55であった。 表6から、エクオール濃度が800ng/mlの場合に、エクオール産生者/非産生者の誤判定率が最も低くなった。従って、この場合、カットオフ値は800ng/mlと設定された。<試験例5>S−エクオール産生者/非産生者の判定2(カットオフ値の設定) 試験例4と同様にして、S−エクオール産生者か非産生者かの判定基準となるカットオフ値を設定した。 なお、免疫測定法における生体試料数は713である。また、検出限界以下の値を「0」とした。検討結果を表7に示す。 表7から、エクオール濃度が650ng/mlの場合に、エクオール産生者/非産生者の誤判定率が最も低くなった。従って、この場合、カットオフ値は650ng/mlと設定された。 <試験例6>S−エクオール産生者/非産生者の判定3 試験例4と同様にして、S−エクオール産生者か非産生者かの判定基準となるカットオフ値を設定した。 なお、免疫測定法における生体試料数は118である。検討結果を表8に示す。 表8から、エクオール濃度が1000ng/mlの場合に、エクオール産生者/非産生者の誤判定率が最も低くなった。従って、この場合、カットオフ値は1000ng/mlと設定された。 抗エストロゲン効果、エストロゲン様効果を期待して、大豆加工品を摂取する際に、尿中、血液中のエクオール濃度を測定することにより、その効果の有無が判断されるが、エクオールを精確に測定するためにHPLC法等の機器分析を用いる方法では、多検体処理には時間と手間がかかり、日常の測定には適さない。 しかし、本発明により、尿中、血液中のエクオールを短時間で、しかも精確に測定することが可能となり、エクオールを産生する安全な乳酸菌製剤の投与の効果の判断も含め、大豆加工品の摂取の効果を類推することが可能となる。被験者のエクオール産生能を検査する方法であって、(1)大豆イソフラボンを摂食させた被験者の尿又は血液を検体として採取する工程、(2)検量線の作成に使用する標準抗原および生体試料中のエクオールと競合する標識化抗原からなる群より選択される少なくとも一方の抗原としてS−エクオールを用いた免疫法により、検体中のエクオールを測定する工程、および(3)前記工程(2)で得られたエクオールの測定値に基づいて、被験者のエクオール産生能を判定する工程、を含む検査方法。S−エクオールに対する交差性を100%とした場合、ダイゼインに対する交差性が10%以下、ゲニステインに対する交差性が10%以下、グリシテインに対する交差性が10%以下、ジヒドロダイゼインに対する交差性が20%以下、およびデヒドロエクオールに対する交差性が20%以下である抗エクオール抗体を一次抗体として使用する、請求項1に記載の検査方法。検体中のエクオール濃度が650ng/mL以上である場合に被験者はエクオール産生能を有すると判定する、請求項1又は2に記載の検査方法。カットオフ値が設定される、請求項1又は2に記載の検査方法。検体中のダイゼイン濃度とエクオールの測定値との対比を行わない、請求項1〜4に記載の検査方法。検体中のエクオールの測定時間が、3時間以下である、請求項1〜5のいずれかに記載の検査方法。前記標識化抗原の標識物が、酵素、放射性同位体、色素、蛍光物質、ラテックスおよび金属コロイドからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜6のいずれかに記載の検査方法。前記免疫法が、ELISA法、ラジオイムノアッセイ法およびイムノクロマト法からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜7のいずれかに記載の検査方法。前記生体試料中のエクオールの抱合体が脱抱合処理されることなく測定されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の検査方法。 【課題】生体試料中のエクオールを免疫法により測定する方法、その測定のためのキット、および被験者のエクオール産生能を判定する方法を提供する。【解決手段】検量線の作成に使用する標準抗原および生体試料中のエクオールと競合する標識化抗原からなる群より選択される少なくとも一方の抗原にS−エクオールを用いる測定方法、該標準抗原および該標識化抗原からなる群より選択される少なくとも一方の抗原にS−エクオールを含むキット、および、該標準抗原および該標識化抗原からなる群より選択される少なくとも一方の抗原にS−エクオールを用いた免疫法により、大豆イソフラボンを摂食させた被験者由来の生体試料中のエクオールを測定する工程、該工程で得られたエクオールの測定値に基づいて被験者のエクオール産生能を判定する工程を含む、判定方法を提供。【選択図】なし