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タイトル:公開特許公報(A)_高純度酸型ソホロリピッド含有物及びその製造方法
出願番号:2014092677
年次:2014
IPC分類:C12P 19/12,C07H 15/04,C07H 9/00,A61K 8/73,A61K 47/26,C12R 1/72


特許情報キャッシュ

平田 善彦 竜 瑞之 伊藤 仁 荒木 道陽 JP 2014140383 公開特許公報(A) 20140807 2014092677 20140428 高純度酸型ソホロリピッド含有物及びその製造方法 サラヤ株式会社 000106106 特許業務法人三枝国際特許事務所 110000796 平田 善彦 竜 瑞之 伊藤 仁 荒木 道陽 JP 2012047409 20120302 C12P 19/12 20060101AFI20140711BHJP C07H 15/04 20060101ALI20140711BHJP C07H 9/00 20060101ALI20140711BHJP A61K 8/73 20060101ALN20140711BHJP A61K 47/26 20060101ALN20140711BHJP C12R 1/72 20060101ALN20140711BHJP JPC12P19/12C07H15/04C07H9/00A61K8/73A61K47/26C12P19/12C12R1:72 8 2013535608 20130301 OL 39 4B064 4C057 4C076 4C083 4B064AD85 4B064AF03 4B064CA06 4B064CB01 4B064CE01 4B064CE17 4B064DA01 4B064DA10 4B064DA20 4C057AA19 4C057BB03 4C057CC01 4C057DD01 4C057FF01 4C057JJ10 4C076DD66 4C076FF16 4C076FF34 4C083AA122 4C083AB032 4C083AC022 4C083AC122 4C083AC172 4C083AD092 4C083AD211 4C083AD212 4C083AD352 4C083AD572 4C083CC04 4C083CC05 4C083EE01 4C083EE07 4C083FF01 本発明は、高純度酸型ソホロリピッド含有物及びその製造方法に関する。 生物由来の界面活性剤であるバイオサーファクタント(以下、BSともいう。)は、生分解性及び安全性が高いことから、次世代型界面活性剤として産業利用が期待されている。 糖脂質型BSの一つとして知られるソホロリピッドは、酵母の発酵から得られる発酵産物である。当該ソホロリピッドは、例えば、グルコースなどの糖類と植物油脂などの炭素源を含む液体培地に酵母を接種し、穏和な温度、圧力条件下で通気しながら攪拌するだけで容易に生産される。ソホロリピッドは、他のBSに比べ、生産性が高く(例えば、100 g/L程度)、産業利用もされてきた(非特許文献1)。 しかしながら、ソホロリピッドの発酵生成過程では、発酵副産物(各種の有機酸及びその塩、色素など)も同時に生成されるため、発酵終了後に粗精製または粗抽出されたソホロリピッドは、特異的な臭気を有するものである。その為、医薬品、医薬部外品、食品及び化粧品等へのソホロリピッドの応用は、解決すべき課題も多く、限界があった。 例えば、身体に使用する化粧品や医薬部外品には、シャンプー(ボディシャンプー、ヘアシャンプー)やリンスなどのように皮膚に適用した後、洗い流すリンスオフタイプのものと、化粧水及び乳液などのように皮膚に塗布した状態を維持するリーブオンタイプのものなどがあるが、皮膚のpHは弱酸性であることから、両タイプともに弱酸性のものが皮膚に与える影響が少なく、マーケットニーズも高い。しかしながら、従来のソホロリピッドは、発酵由来のさまざまな有機酸が多量に含まれることから、弱酸性の化粧品等に配合した場合に特有の臭気が発生し、使用に耐えるものではない。これらの臭気は、酢酸や酪酸、イソ吉草酸のような低級脂肪酸に由来し、マスキング方法等によって臭気を緩和する手法もあるが、低級脂肪酸は嗅覚閾値(臭気を感知できる最小濃度)が非常に低く、且つ揮発性が低いために皮膚残留性が高く、長時間に渡って不快な酸臭が感じられる。 近年、食品や化粧品に汎用されるようになったコエンザイムQ10やヒアルロン酸は、様々な生理活性を持つことから多くの研究がなされ、現在ではその機能を活かし、多くの製品に配合されている。一方、同じ天然物であるソホロリピッドは、乳化力や有効成分の経皮吸収性を制御する(特許文献1)などのユニークな機能が見出されているにも関わらず、実際に化粧品などの外用組成物に使用された例は皆無である。 このように生物体に由来する、高性能で、かつ安全性及び生分解性の高い素材であるにも関わらず、ソホロリピッドの産業利用が進まない理由は、工業規模での脱臭または不純物の除去方法が確立されていないことに他ならない。 一般的に、発酵産物の製造で最も困難かつコストがかかるのは精製プロセスである。その理由としては、発酵によって得られる発酵産物が、例えば発酵終了液100質量%あたり1質量%以下と、著しく少ないことが挙げられる。つまり、発酵生産された有用物質が発酵終了液内で極めて希薄でかつ拡散されている状況で、目的とする有用物質を選択的に抽出または濃縮等をする必要がある。本発明で対象としているソホロリピッドも生産性が高いとは言えその例外ではない。 ソホロリピッドの精製に関して、これまでの報告の多くは、培養液に同量のヘキサン及び酢酸エチルを加えて抽出する方法である(例えば、非特許文献2)。しかし、この方法で得られるソホロリピッドは、特有の臭気を含んだままである。これは、ソホロリピッドと臭気成分とが化学的に類似の性質をもつため、同様に抽出されてしまうからである。 ソホロリピッドを白色物質として精製する方法も報告されている(非特許文献3)。ここでは、培養液そのものを凍結乾燥し、乾燥物に酢酸エチルを加え30℃で2日間攪拌し、酢酸エチルを留去した後、ヘキサンで結晶させている。しかしながら、この方法は可燃性の有機溶剤を添加後、数日にも渡って放置する必要があるため、実用化することは困難である。また、この方法で得られたソホロリピッドも、まだ若干の臭気を有するものである。 さらに、前記のような方法では、回収液から有機溶剤を除去または回収する必要性がある。このため、有機溶剤を含む廃液処理に、専用の設備やエネルギーが必要となり、コスト上昇につながる。また、このような有機溶剤の使用は、環境負荷や健康面への悪影響の観点から厳重な管理が必要となる。さらに、得られるソホロリピッドに有機溶剤が残留してしまう恐れがあると、食品や化粧品に適用するときに好ましくない。すなわち、これまでの方法は、基礎研究の観点から提案された抽出、分離、及び精製方法に過ぎず、工業利用を考慮したものではない。 工業利用の観点からは、精製は安価で安全なプロセスである必要がある。汎用化学品の場合は、特にコスト面が重要視される。さらに、現在では、LCA(Life Cycle Assessment)の観点から、使用後の生分解性のみならず原材料も含めたより安全な製造プロセスの確立が重要であり、生体に安全な生物体由来のソホロリピッドにおいてもまた、有害な有機溶剤を使用ないし排出することなく製造する手法の確立が望まれている。 従って、高純度の酸型ソホロリピッドを、有害な有機溶剤を使用せず、高収率かつ安価に安定的に供給できる製造法を確立すれば、生物体由来の安全かつ生分解性に優れる新素材として、ソホロリピッドの工業利用が飛躍的に進むと期待される。特開2009−62288号公報特開2002−045195号公報特開2003−9896号公報特開2008−247845号公報Gorin,Can. J Chem.,39,846(1961)D. G. Cooper and D. A. Paddock, Appl. Environ. Microbiol., 47, 173-176 (1984)R. D. Ashby, D. K. Y. Solaiman and T. A. Foglia, Biotechnol. Lett., 30, 1093-1100, 2008Hirata, Y., Ryu, M., Igarashi, K., Nagatsuka, A., Furuta, T., Kanaya, S., and Sugiura, M. (2009) Natural synergism of acid and lactone type mixed sophorolipids in interfacial activities and cytotoxicities. J. Oleo. Sci., 58, 565-572 本発明は、発酵生成過程で発生する発酵副産物、特に臭いの原因となる臭気成分(中でも刺激臭の原因となる酢酸)が除去された高純度酸型ソホロリピッド含有物を提供することを目的とする。また、本発明は、及び当該高純度酸型ソホロリピッド含有物の製造方法を提供することを目的とする。 本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討の結果、驚くべきことに、発酵生成過程で得られる粗精製酸型ソホロリピッド含有物のpHを酸性領域に調整し、次いでこれをクロマトグラフィーに供するか、低温条件下でゲル化させることにより、発酵副産物、特に刺激臭の原因となる酢酸が有意に除去でき、所望の高純度酸型ソホロリピッド含有物が取得できることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成させた。 すなわち、本発明は、酸型ソホロリピッドを高純度で含む酸型ソホロリピッド含有物、及びその製造方法に関する。以下、本明細書において、当該本発明の酸型ソホロリピッド含有物を、従来の酸型ソホロリピッド含有物と区別する意味で「高純度酸型ソホロリピッド含有物」、または「ソホロリピッド」を「SL」と略称して「高純度酸型SL含有物」とも称する。 (I)高純度酸型ソホロリピッド含有物(I−1)(1)酢酸を実質的に含まないことを特徴とする高純度酸型SL含有物。(I−2)下記(2)および(3)の物性を有することを特徴とする(I−1)に記載する高純度酸型SL含有物:(2)強熱残分:0〜30%、(3)エステル価:0〜20mg KOH/g。(I−3)下記(4)〜(6)のいずれか少なくとも1つの物性を有することを特徴とする(I−2)に記載する高純度酸型SL含有物:(4)蒸発残分:1〜100%、(5)乾燥減量:0〜99%、(6)エタノール可溶分:1〜100%。(I−4)赤外吸収スペクトルにおいて、少なくとも波数1024cm−1付近、1706cm−1付近、2854cm−1付近、2924cm−1付近、および3000〜3500cm−1付近に赤外線吸収バンドを有する、(I−1)〜(I−3)のいずれかに記載する高純度酸型SL含有物。(I−5)固体形状を有することを特徴とする、(I−1)〜(I−4)のいずれかに記載する高純度酸型SL含有物。(I−6)固体形状が粉末または顆粒である、(I−5)に記載する高純度酸型SL含有物。 (II)高純度酸型ソホロリピッド含有物の用途(II−1)(I−1)〜(I−6)のいずれかに記載する高純度酸型SL含有物を含有することを特徴とする香粧品、飲食品、医薬部外品または医薬品。(II−2)飲食品が健康補助食品、健康機能食品、特定保健用食品、またはサプリメントである、(II−1)に記載する香粧品、飲食品、医薬部外品または医薬品。(II−3)香粧品、医薬部外品または医薬品が、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されるものである、(II−1)に記載する香粧品、飲食品、医薬部外品または医薬品。 (III)高純度酸型ソホロリピッド含有物の製造方法(III−1)下記の工程(i)、及び工程(ii−a)または(ii−b)を有することを特徴とする、(I−1)〜(I−6)のいずれかに記載する高純度酸型SL含有物の製造方法:(i)粗精製酸型SL含有物のpHを酸性領域に調整する工程、(ii−a)前記工程(i)で得られた酸性化粗精製酸型SL含有物をクロマトグラフィーに供して酸型SLを含む画分を取得する工程、(ii−b)前記工程(i)で得られた酸性化粗精製酸型SL含有物を低温条件下に静置し、生じたゲル化物を取得する工程。(III−2)前記粗精製酸型SL含有物が、ソホロリピッド産生酵母の培養液またはその処理物をアルカリ加水分解して得られる酸型SL含有物である、(III−1)に記載する製造方法。(III−3)工程(i)及び工程(ii−a)を有する高純度酸型SL含有物の製造方法であって、酸性領域がpH6未満であることを特徴とする(III−1)または(III−2)に記載する製造方法。(III−4)工程(i)及び工程(ii−a)を有する高純度酸型SL含有物の製造方法であって、クロマトグラフィーが逆相カラムクロマトグラフィーである、(III−1)〜(III−3)のいずれかに記載する製造方法。(III−5)前記逆相カラムクロマトグラフィーが、カラム充填剤としてODS樹脂を用いたカラムクロマトグラフィーである、(III−4)に記載する製造方法。(III−6)前記逆相カラムクロマトグラフィーが、溶離液としてエタノール水溶液を用いたクロマトグラフィーであって、カラム充填剤(固定相)に工程(i)で得られた酸性化粗精製酸型SL含有物を供した後、当該カラム充填剤をエタノール濃度約10〜60容量%未満のエタノール水溶液で洗浄した後、エタノール濃度約70〜90容量%のエタノール水溶液を供して酸型SLを含む画分を溶出取得する工程をする、(III−5)に記載する製造方法。(III−7)工程(i)及び工程(ii−b)を有する高純度酸型SL含有物の製造方法であって、酸性領域がpH4以下、好ましくはpH1〜4であり、低温条件が15℃以下、好ましくは10℃以下であることを特徴とする、(III−1)または(III−2)に記載する製造方法。(III−8)工程(i)及び工程(ii−b)を有する高純度酸型SL含有物の製造方法であって、工程(ii−b)で生じたゲル化物をさらに冷水で洗浄する工程を有する、(III−1)、(III−2)または(III−7)に記載する製造方法。(III−9)さらに下記の工程を有する、(III−1)〜(III−8)のいずれかに記載する製造方法。(iii)工程(i)および工程(ii−a)または(ii−b)を経て得られる液状の高純度酸型SL含有物を蒸留する工程、及び(iv)上記蒸留残液から酸型SLを析出させる工程。(III−10)前記(iv)の工程がスプレードライ工程であることを特徴とする(III−9)に記載する製造方法。(III−11)さらに下記の工程を有する、(III−1)〜(III−8)のいずれかに記載する製造方法。(v)工程(i)および工程(ii−a)または(ii−b)を経て得られる高純度酸型SL含有物を冷却固化する工程、及び(vi)上記冷却固化物を乾燥する工程。(III−12)前記(v)及び(vi)の工程が凍結乾燥工程であることを特徴とする(III−11)に記載する製造方法。 (IV)高純度酸型ソホロリピッド含有物の製造方法(IV−1)工程(i)及び(ii−b)を有することを特徴とする、酸型ソホロリピッド含有物の製造方法:(i)ソホロリピッド産生酵母の培養液またはその処理物をアルカリ加水分解して得られる粗精製酸型ソホロリピッド含有物のpHを7未満の酸性領域に調整する工程、(ii−b)前記工程(i)で得られた酸性化粗精製酸型ソホロリピッド含有物をそのpHに応じて下記の低温条件下に静置して、生じたゲル化物を15℃以下の水を含む冷溶媒で洗浄し、ゲル状の酸型ソホロリピッド含有物を取得する工程:(a)pH4以下の場合、−25℃〜15℃、(b)pH4より高くpH5以下の場合、−25℃〜10℃、(c)pH5より高くpH6以下の場合、−25℃〜−10℃、(d)pH6より高くpH7未満の場合、−25℃〜−20℃。 (IV−2)さらに下記の工程を有する、(IV−1)に記載する製造方法。(iii)工程(i)および工程(ii−b)で得られたゲル状の酸型ソホロリピッド含有物を溶解した液状の酸型ソホロリピッド含有物を蒸留する工程、及び(iv)上記蒸留残液から酸型ソホロリピッドを析出させる工程。 (IV−3)前記(iv)の工程がスプレードライ工程であることを特徴とする、(IV−2)に記載する製造方法。 (IV−4)さらに下記の工程を有する、(IV−1)に記載する製造方法。(v)工程(i)および工程(ii−b)で得られたゲル状の酸型ソホロリピッド含有物を冷却固化する工程、及び(vi)上記冷却固化物を乾燥させる工程。 (IV−5)前記(v)及び(vi)の工程がフリーズドライ工程であることを特徴とする、(IV−4)に記載する製造方法。 (IV−6)下記特性を有する酸型ソホロリピッド含有物の製造方法である、(IV−1)乃至(IV−5)のいずれかに記載する製造方法:(1)下記条件のヘッドスペース・ガスクロマトグラフィー・水素炎イオン検出器を用いた分析において、酢酸が検出限界(5μg/シリンジ1ml)未満である:[GC条件] キャピラリーカラム:DB−WAX(長さ30m×内径0.25mm×膜厚0.25mm) キャリアガス:窒素(流速1.2ml/分) 昇温条件;40℃(5分間)、40〜240℃(8℃/分)、240℃(5分間) 気化室温度;200℃ 検出器温度;270℃ 試料注入方法;スプリットレス。 (IV−7)酸型ソホロリピッド含有物がさらに下記(2)および(3)、または(2)および(3)並びに(4)〜(6)のいずれか少なくとも1つの物性を有するものであることを特徴とする、(IV−6)に記載する製造方法:(2)強熱残分:0〜30%、(3)エステル価:0〜20mgKOH/g、(4)蒸発残分:1〜100%、(5)乾燥減量:0〜99%、(6)エタノール可溶分:1〜100%。 (IV−8)酸型ソホロリピッド含有物がさらに下記の物性を有するものであることを特徴とする、(IV−6)または(IV−7)に記載する製造方法:赤外吸収スペクトルにおいて、少なくとも波数1024cm−1付近、1706cm−1付近、2854cm−1付近、2924cm−1付近、および3000〜3500cm−1付近に赤外線吸収バンドを有する。 本発明の製造方法によると、高純度かつ化学的に安定な酸型SLを低エネルギーで安全に、かつ高回収率で分離精製できるため、工業的に有利である。また、本発明の高純度酸型SL含有物は、発酵生成過程で発生する発酵副産物等の不純物、特に酢酸等の臭気成分が除去されているため、好ましくない臭いがなく、化粧品等の多様な処方に配合することが容易である。特に、弱酸性が好まれる皮膚用の化粧品や医薬部外品等に好適である。本発明の高純度酸型SL含有物のpKaを6.1とした場合の、pH2〜9.5の範囲における挙動を示す図である。本発明の高純度酸型SL含有物(粉末)のマイクロスコープ写真である。(I)ソホロリピッド ソホロリピッド(SL)とは、ソホロース又はヒドロキシル基が一部アセチル化したソホロースと、ヒドロキシル脂肪酸とからなる糖脂質である。なお、ソホロースとは、β1→2結合した2分子のブドウ糖からなる糖である。ヒドロキシル脂肪酸とは、ヒドロキシル基を有する脂肪酸である。また、SLは、ヒドロキシ脂肪酸のカルボキシル基が遊離した酸型(一般式(1))と、分子内のソホロースが結合したラクトン型(一般式(2))とに大別される。ある種の酵母(SL産生酵母)の発酵によって得られるSLは、通常、下記一般式(1)で示されるSLと一般式(2)で示されるSLの混合物であり、脂肪酸鎖長(R3)が異なるもの、ソホロースの6’(R2)及び6”位(R1)がアセチル化あるいはプロトン化されたものなど、30種以上の構造同族体の集合体として得られる。 前記一般式(1)又は(2)において、R0は水素原子あるいはメチル基のいずれかである。R1及びR2はそれぞれ独立して、水素原子又はアセチル基である。R3は飽和脂肪族炭化水素鎖、又は二重結合を少なくとも一個有する不飽和脂肪族炭化水素鎖であり、一以上の置換基を有していても良い。該置換基は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、ハロゲン原子、水酸基、低級(C1〜6)アルキル基、ハロ低級(C1〜6)アルキル基、ヒドロキシ低級(C1〜6)アルキル基、ハロ低級(C1〜6)アルコキシ基等が挙げられる。また、R3の炭素数は、通常11〜20、好ましくは13〜17、より好ましくは14〜16である。 前述するように、SL産生酵母の発酵により得られる培養液には、SLが、通常、前記酸型SL(一般式(1)で示されるSL)と前記ラクトン型SL(一般式(2)で示されるSL)との混合物として存在している。このうちラクトン型SLはそれ自体が非イオン性の油状物質であり水に極めて不溶であるため、ラクトン型SLが多いとソホロリピッド混合物全体が難水溶性になり、好ましくない(非特許文献4)。一方、酸型SLはラクトン型SLに比べて化学的に安定であるため、その割合が高いほうが好ましい。 一般に酸型ソホロリピッド含有物(酸型SL含有物)とは、当該含有物中に含まれるソホロリピッド100質量%のうち、78質量%以上が一般式(1)で示される酸型SLであり、残りの22質量%未満が一般式(2)で示されるラクトン型SLであるものを意味する。 以下、本明細書において、SL産生酵母の発酵により産生されるSLを含む組成物(培養液、及びその処理物を含む)において、当該組成物に含まれるSL100質量%中の酸型SLの含有割合が78質量%以上である組成物を「酸型ソホロリピッド含有物(酸型SL含有物)」と総称し、酸型SLの含有割合が45質量%未満で、残り55質量%以上がラクトン型SLである組成物を「ラクトン型/酸型ソホロリピッド含有物(ラクトン型/酸型SL含有物)」と称する。 さらに本発明において、上記の酸型SL含有物は、当該酸型SLの精製度(純度)、非揮発性成分の含有量、酸型SLの含有割合、また液性などに応じて、粗精製酸型SL含有物、酸性化粗精製酸型SL含有物、高純度酸型SL含有物などに種々分類することができる。 なお、ここで高純度酸型SL含有物は、酢酸を実質的に含まないことを特徴とする本発明の酸型SL含有物であり(後述)、それ以外の酸型SL含有物、つまり酢酸を含む酸型SL含有物は、酸型SLの純度やSL含有割合に差はあるものの、「粗精製酸型SL含有物」に分類される。 (II)高純度酸型ソホロリピッド含有物 本発明が対象とする高純度酸型SL含有物は、従来公知の酸型SL含有物(前述するラクトン型/酸型SL含有物、及び粗精製酸型SL含有物が含まれる)とは、少なくとも臭いの点で相違し、下記の特徴を備えている:(1)酢酸を実質的に含まない。 ここで「酢酸を実質的に含まない」とは、例えばガスクロマトグラフィーなどの通常の分析方法で酢酸含有量を測定した場合に検出限界未満であることを意味する。つまり、仮に極微量の酢酸を含んでいたとしても、それが通常の分析方法で測定不能(検出限界未満)であれば、当該酸型SL含有物は酢酸を実質的に含まないということができる。 ここで「通常の分析方法」としては、アルカリ性溶液を使用した中和滴定による方法、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)またはガスクロマトグラフィーを使用して酢酸ピークを検出する方法、ガステック社製検知管式測定器を使用する方法、ロシュ・ダイアグノスティックス社製のF−kit酢酸を使用した酵素法を挙げることができる。 より具体的には、試験例1で説明する「ヘッドスペース・ガスクロマトグラフィー・水素炎イオン検出器」を用いた分析方法を挙げることができる。対象とする酸型SL含有物のエタノール可溶分1g相当を、少なくとも当該試験例1に記載する方法に従って分析した場合に、検出限界未満、つまり「5μg/シリンジ1ml」未満であり、酢酸が検出できなければ、当該酸型SL含有物は、本発明の高純度酸型SL含有物であるということができる。 なお、試験例1において「参考製造例品1」は、本発明の高純度酸型SL含有物の製造原料として使用したラクトン型/酸型SL含有物であり、「比較例品2」は、非特許文献2の記載に準じてヘキサンで抽出精製し、アルカリ加水分解された粗精製酸型SL含有物である(以下、これらを便宜上「従来品」と総称する)。試験例1に示すように、これらの従来品は、酢酸を300μg/ml程度以上も含むため刺激臭が強いのに対して、本発明の高純度酸型SL含有物は酢酸を実質的に含まないため、酢酸に起因する刺激臭を有さない点で従来品とは明らかに相違する。 また本発明の高純度酸型SL含有物は、試験例1に示すように従来品と比べて他の臭気成分の含有量も有意に低減されてなることを特徴とする。試験例1で採用した「ヘッドスペース・ガスクロマトグラフィー・水素炎イオン検出器」を用いた分析方法によれば、酸型SL含有物のエタノール可溶分1g相当量から検出されるトータル臭気濃度は10000μg/ml以下であり、好ましくは8000μg/ml以下、より好ましくは5000μg/ml以下、さらに好ましくは3000μg/ml以下、よりさらに好ましくは2000μg/ml以下、特に好ましくは1000μg/ml以下または500μg/ml以下である。 これらのことから、本発明の高純度酸型SL含有物は、酢酸に起因する刺激臭がなく、また他の臭気成分に起因する臭いも格段に減少されており、無臭またはほぼ無臭であることを特徴とする。 ここで他の臭気成分としては、SL産生酵母の発酵によるSL生成過程(発酵生成過程)で生じる臭気成分を挙げることができ、その一種として、酢酸以外の低級脂肪酸が例示される。ここで低級脂肪酸(酢酸を含む)とは、RCOOH(Rは炭素数1〜5の炭化水素)で示される鎖式構造を持つモノカルボン酸の総称である。かかる低級脂肪酸は水に可溶であるが、刺激臭と酸味をもち、一般的に疎まれる臭気成分の一つである。例えば、CH3(CH2)3COOHで示される吉草酸は、蒸れた靴下のようなニオイを有しており、嗅覚閾値が非常に低いことからも悪臭防止法で規制されている化合物の一つである。 こうした酢酸以外の低級脂肪酸は、酢酸と同様に水に可溶であるため、本発明の高純度酸型SL含有物の製造において、SL産生酵母の培養液から酸型SLを分離精製する際に、酢酸と同様に除去される。そのため、上記ヘッドスペース・ガスクロマトグラフィー・水素炎イオン検出器により酢酸の含有量を測定した場合に、当該酢酸の含有量が検出限界未満であることが示されれば、酢酸以外の低級脂肪酸も酢酸と同様に除去されているか、少なくともその含有量は低減されていると言える。そのため、本発明において「酢酸を実質的に含まない」とは、「(酢酸を含む)低級脂肪酸を実質的に含まない」と言うこともできる。つまり、本発明の高純度酸型SL含有物は酢酸を実質的に含まないことを特徴とするが、好ましくは酢酸のみならず、酢酸以外の低級脂肪酸をも実質的に含まず、酢酸及び酢酸以外の低級脂肪酸に起因する刺激臭を有しないことを特徴とする。 さらに本発明が対象とする高純度酸型SL含有物は、下記(2)および(3)の物性を有することを特徴とする:(2)強熱残分:0〜30%、(3)エステル価:0〜20mg KOH/g。 ここで「強熱残分(%)」とは、試験例2で説明するように試料中に含まれる無機化合物(硫酸塩相当)の割合であり、これにより試料、本発明では酸型SL含有物の中に不純物として含まれる無機化合物の含量を硫酸塩量として把握することができる。当該「強熱残分(%)」は、JIS K0067−1992または医薬部外品原料規格2006(日本)の第1法に従って測定することができる。その詳細は、試験例2で説明する通りである。本発明の高純度酸型SL含有物の強熱残分(%)は0〜30%であり、好ましくは0〜20%、より好ましくは0〜10%、特に好ましくは0%である。 また「エステル価(mg KOH/g)」とは、試験例2で説明するように試料1gに含まれるエステルを完全けん化するのに要する水酸化カリウムのmg数であり、これにより試料、本発明では酸型SL含有物の中に含まれるアセチル基やラクトン環のエステル結合の割合を把握することができる。当該「エステル価(mg KOH/g)」は、日本油化学協会(日本)が定めている基準油脂分析試験法(2.3.3-1996)に従って測定することができる。その詳細は、試験例2で説明する通りである。本発明の高純度酸型SL含有物のエステル価(mg KOH/g)は0〜20mgKOH/gであり、好ましくは0〜18mgKOH/g、より好ましくは0〜9mgKOH/g、特に好ましくは0mgKOH/gである。 なお、本発明の高純度酸型SL含有物のエステル価(mg KOH/g)は、当該高純度酸型SL含有物中に含まれるSL100質量%に占めるラクトン型SLの割合と相関しており、エステル価(mg KOH/g)が高ければラクトン型SLの割合も高く、エステル価(mg KOH/g)が低ければラクトン型SLの割合も低いという関係にある。 具体的には、酸型SLの分子量を621(ソホロースにグリコシド結合している脂肪酸をオレイン酸とした場合)、ラクトン型SLの分子量を603(前記酸型SLのカルボキシル基が分子内ソホロースとエステル結合をしている)、水酸化カリウムの分子量を56.1にした場合、ラクトン型SLと水酸化カリウムは下式のようにアルカリ分解される。[数1] ラクトン型SL + 水酸化カリウム → 酸型SL。 つまり、アルカリ分解される対象がラクトン型SLのエステル結合とした場合にエステル価が低ければ酸型SL含有物に含まれるラクトン型SLの割合が低くなる。 このため、本発明の高純度酸型SL含有物100質量%中に含まれる酸型SLの割合は、固形換算で78〜100質量%であり、好ましくは80〜100質量%、より好ましくは90〜100質量%、特に好ましくは100質量%である。 さらにまた本発明が対象とする高純度酸型SL含有物は、上記(1)、(2)および(3)に加えて、下記(4)〜(6)のいずれか少なくとも1つの物性を有することを特徴とする:(4)蒸発残分:1〜100%、(5)乾燥減量:0〜99%、(6)エタノール可溶分:1〜100%。 ここで「蒸発残分(%)」とは、試験例2で説明するように、試料を蒸発させた時の残分を質量百分率(質量%)で示したものであり、これにより試料中、本発明では酸型SL含有物中に混在する物、特に高沸点の混在物の含量を把握することができる。当該「蒸発残分(%)」は、JIS K0067−1992の第2法に従って測定することができる。その詳細は、試験例2で説明する通りである。本発明の高純度酸型SL含有物の蒸発残分(%)は1〜100%であり、好ましくは5〜100%、より好ましくは10〜100%の範囲にあればよいが、さらに好ましくは60〜100%、さらにより好ましくは70〜100%、特に好ましくは80〜100%、より特に好ましくは90〜100%である。 また「乾燥減量(%)」とは、試験例2で説明するように試料を乾燥した時の減量を質量百分率(質量%)で示したものであり、これにより試料中、本発明では酸型SL含有物中の水分その他の揮発性物質(低沸点化合物)の含量を把握することができる。当該「乾燥減量(%)」は、JIS K0067−1992の第1法に従って測定することができる。その詳細は、試験例2で説明する通りである。本発明の高純度酸型SL含有物の乾燥減量(%)は、0〜99%であり、好ましくは0〜95%、より好ましくは0〜90%の範囲にあればよいが、さらに好ましくは0〜30%、さらにより好ましくは0〜20%、特に好ましくは0〜20%、より特に好ましくは0〜10%である。 また「エタノール可溶分(%)」とは、試験例2で説明するように、試料中に含まれるエタノールに溶解する物質の含量(質量%)であり、これにより試料中に混在するエタノール溶解性の極性物質、例えば界面活性剤等の含量を把握することができる。当該「エタノール可溶分(%)」は、JIS K3362−2008に従って測定することができる。その詳細は、試験例2で説明する通りである。本発明の高純度酸型SL含有物のエタノール可溶分(%)は1〜100%であり、好ましくは5〜100%、より好ましくは10〜100%の範囲にあればよいが、さらに好ましくは85〜100%、さらにより好ましくは90〜100%、特に好ましくは95〜100%、より特に好ましくは98〜100%である。エタノール可溶分(%)は、対象の試料、本発明においては酸型SL含有物を100質量%とした場合の酸型SLおよびラクトン型SLの含有割合(質量%)を示す。 本発明の高純度酸型SL含有物は、より好ましくは赤外吸収スペクトルが、少なくとも波数1024cm−1付近、1706cm−1付近、2854cm−1付近、2924cm−1付近、および3000〜3500cm−1付近に赤外線吸収バンド(吸収ピーク)を有する。試験例2に示すように、特に波長1706cm−1付近ピークは、従来品では認められず、本発明の高純度酸型SL含有物に特異的に認められるピークである。 本発明の高純度酸型SL含有物には、上記の特性を有することを限度として、さらにHPLC分析により得られるピーク総面積の約85%以上が酸型SLである組成物が含まれる。なお、ここでHPLCの分析条件は実施例(表1)に記載する通りであり、当該HPLC分析で得られるピーク総面積は、本発明の高純度酸型SL含有物に含まれる窒素ガス条件下40℃で揮発しない成分の総量に相当する。また、この条件で測定した場合、8〜25分のリテンションタイムで検出されるピークは酸型SL、25〜45分で検出されるピークはラクトン型SL、45〜55分で検出されるピークは高級脂肪酸に相当する。ここで高純度酸型SL含有物中に含まれる酸型SLの割合は、酸型SLのピーク面積、ラクトン型SLのピーク面積および高級脂肪酸のピーク面積の合算値に対する酸型SLのピーク面積の割合から算出される。なお、前述する「ラクトン型/酸型SL含有物」及び「酸型SL含有物」の別は、対象とするSLを含む組成物を上記条件のHPLCに供した場合に、酸型SLのピーク面積およびラクトン型SLのピーク面積の合算値(総面積値)をSL総量100質量%として酸型SLの含有割合を算出することで判断することができる。 高純度酸型SL含有物中における酸型SLの占める割合は、前述する通り約85%以上であり、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上である。なお、残りの約15%未満、好ましくは約10%未満、より好ましくは約5%未満にはラクトン型SL及び高級脂肪酸などが含まれる。 また、本発明の高純度酸型SL含有物に含まれる酸型SLにおいて、ソホロースにグリコシド結合している脂肪酸としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、及びリノール酸等の炭素数10〜22の飽和または不飽和脂肪酸を挙げることができる。これらの脂肪酸は1種であってもよいが、2種以上の任意の脂肪酸が組み合わせであってもよい。その構成割合として、制限はされないが、オレイン酸が約85%以上、好ましくは約85〜93%程度含まれることが好ましく、さらに、パルミチン酸が約2〜5%、ステアリン酸が約1〜3%、または/およびリノール酸約4〜7%の割合で含まれることがより好ましい。 本発明の高純度酸型SL含有物はその形状を特に制限せず、液状であっても、乳液状であっても、また固体形状であってもよい。好ましくは固体形状であり、かかる固体形状には、錠剤形態、丸剤形態、粉末形態、顆粒形態、カプセル形態を挙げることができる。好ましくは粉末形態または顆粒形態であり、より好ましくは粉末形態である。 本発明の高純度酸型SL含有物は、その製造過程で生じる発酵副産物等の不純物の混入が少なく、前述するように好ましくない臭いを有していない。このため、臭いが商品価値に重要なファクターになる飲食品、医薬品、医薬部外品、香粧品等に、例えば界面活性剤等の添加物として好適に用いることができる。なお、ここで飲食品には、一般の食品や飲料のほか、健康補助食品、健康機能食品、特定保健用食品、またはサプリメントなどの、特定の機能を有し、健康維持などを目的として摂取される飲食物が含まれる。またここで香粧品とは、「化粧品」と、香水、オーデコロン、及びパヒューム等の「芳香製品」を包含する概念で用いられる。なお、化粧品とは、人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、又は皮膚もしくは毛髪を健やかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法(例えば、貼付など)で使用されることが目的とされるものであり、例えばメーキャップ化粧品(ファンデーション、口紅など)、基礎化粧品(化粧水、乳液など)、頭髪用化粧品(ヘアトニック、ヘアリキッド、ヘアクリームなど)、トイレタリー製品(歯磨き、シャンプー、リンス、石けん、洗顔料、入浴剤など)を例示することができる。 本発明の高純度酸型SL含有物は、前述するように、発酵副産物等の不純物、特に刺激臭の原因となる酢酸が有意に除去され、またそれ以外の臭い成分の含有量も極めて少ないため、特に、弱酸性が好まれる皮膚用の化粧品及び医薬部外品(外用組成物)等にも好適に用いられる。また、本発明の高純度酸型SL組成物は、実施例4及び試験例3に示すように、分子間相互作用により、例えば酸性低温条件下で網目状のネットワークを形成し、水等を保持することが可能であるため、例えば、ゲル化剤等としても利用できる。 (III)本発明の高純度酸型ソホロリピッド含有物の製造方法 前述する本発明の高純度酸型SL含有物は、下記(i)工程、及び(ii−a)または(ii−b)のいずれかの工程を有する製造方法を用いることで調製することができる:(i)粗精製酸型SL含有物のpHを酸性領域に調整する工程、(ii−a)前記工程(i)で得られた酸性化粗精製酸型SL含有物をクロマトグラフィー分離する工程、(ii−b)前記工程(i)で得られた酸性化粗精製酸型SL含有物を低温条件下に静置しゲル化させる工程。 言い換えると、本発明の高純度酸型SL含有物は、上記(i)工程及び(ii−a)工程を有する製造方法(以下、これを「製法A」という)、または上記(i)工程及び(ii−b)工程を有する製造方法(以下、これを「製法B」という)により製造することができる。 以下、「製法A」及び「製法B」の各工程について詳細に説明する。 (III−1)製法A(a)原料(粗精製酸型ソホロリピッド含有物) (i)工程で用いる粗精製酸型ソホロリピッドを含有する水溶液(以下、これを単に「粗精製酸型SL含有物」ともいう)としては、本発明の効果を妨げない限り、ソホロリピッド(SL)を含有する液体を広く使用することができる。好ましくは、酵母を培養して得られた培養液から酸型SLを含む画分を分離したものが用いられる。SLは、微生物の培養によって得られ、例えば、Starmerella(Candida) bombicola、C.apicola、C.petrophilum、Rhodotorula(Candia) bogoriensis、C. batistae、C.gropengiesseri、Wickerhamiella domercqiae、Yarrowia lipolytica等の酵母を公知の方法で培養することで産生される。本発明ではこれらの酵母を「SL産生酵母」と称する。前記酵母は、保存機関から分譲された菌株又はその継代培養によって得られた菌株であってもよい。ここで、Rhodotorula(Candia) bogoriensis NRCC9862が生産するSLは、13−[(2’−O−β−D−glucopyranosyl−β−D−glucopyranosyl)oxy] docosanoic acid6’, 6”−diacetateであり、アルキル基の中央のヒドロキシル基とソホロースがグリコシド結合している。このSLは前記一般式(1)及び(2)とは異なるが、ソホロースとヒドロキシル脂肪酸から構成される点では同じであり、本発明が対象とするSLに含まれる。 SL産生のための酵母(SL産生酵母)の培養方法としては、例えば、高濃度の糖と疎水性の油性基質を同時に与えて培養する方法等が好ましく挙げられる。又は、これに限らず、本発明の効果を妨げない限り広く公知の方法を適用できる。前記公知の方法は、特開2002−045195号公報(特許文献2)等に記載されたものであってもよい。具体的には、糖としてグルコース、疎水性の油性基質として脂肪酸と植物油からなる炭素源を用いて、Starmerella(Candida) bombicolaを生産酵母として培養する手法であってもよい。 培地組成は、特に限定されないが、SLの脂肪酸部分は、培地成分として添加する疎水性基質の脂肪酸鎖長やその割合に依存することが知られており、ある程度の制御が可能である。たとえば、疎水性基質としては、オレイン酸あるいはオレイン酸を高い割合で含有する脂質が好適である。たとえば、パーム油、米ぬか油、ナタネ油、オリーブ油、サフラワー油などの植物油、及び豚脂や牛脂などの動物油が挙げられる。さらに、疎水性基質をトリグリセライドとオレイン酸の混合基質を用いれば、高い割合でオレイン酸を含むソホロリピッドを高い収量・収率で得ることが可能である。産業利用の観点からは、安定的に高い収量・収率でSLを発酵生産させることが求められるが、この場合、炭素源として親水性の糖と疎水性の油脂を混合したものが好ましい。親水性基質としては、グルコースが多用される。 得られた培養液から、例えば遠心分離やデカンテーション等の定法の固液分離法で液成分を分離除去した後、固形分を水洗いすることにより、SL含有画分を得ることができる。当該SL含有画分は、ラクトン型SLと酸型SLとの混合物であり、酸型SLの含有率がSL総量中45質量%未満(固形換算)であることから、ラクトン型/酸型SL含有物に分類される。 前記SL産生酵母の培養液から、当該ラクトン型/酸型SL含有物を回収する方法は、本発明の効果を妨げない限り広く公知の方法であってよく、例えば、特開2003−9896号公報(特許文献3)等に記載された方法を挙げることができる。かかる方法は、SL産生酵母の培養液またはそれから調製したSL含有画分のpHを調節することで、水に対するSLの溶解性を制御する方法であり、斯くしておよそ50%含水物としてラクトン型/酸型ソホロリピッド含有物を調製することができる。 製法A(及び製法B)の原料として使用する粗精製酸型ソホロリピッド含有物は、上記のラクトン型/酸型ソホロリピッド含有物を加水分解処理してラクトン型SLのラクトン環を開環し、酸型SLの含有量がSL総量中78質量%以上になるように調製されたものである。また加水分解によって、ラクトン型/酸型ソホロリピッド含有物に含まれる、例えば30種以上のソホロリピッド同族体はおよそ4種程度にまで単純化することができる。 前記加水分解には、本発明の効果を妨げない限り、広く公知の方法を用いることができる。例えば、水酸化物の金属塩(ナトリウム、カリウム、カルシウム及びマグネシウムなど)、炭酸塩、リン酸塩、またはアルカノールアミン等の塩基を用いたアルカリ加水分解を好適に挙げることができる。さらに、各種の触媒、例えば、アルコール等を用いることも可能である。前記アルカリ加水分解を行う温度、圧力及び時間は、本発明の効果を妨げない限り適宜設定できるが、目的産物である酸型SLの分解や化学修飾等の副反応を抑制しながら、効率的にラクトン型SLの加水分解を進行させることのできる温度、圧力及び時間を採用することが好ましい。この点から、反応温度は通常約30℃〜120℃の範囲であり、好ましくは約50℃〜90℃である。圧力は通常約1気圧〜10気圧の範囲であり、好ましくは約1気圧〜2気圧である。反応時間は通常約10分〜5時間の範囲であり、好ましくは約1時間〜3時間である。また、アルカリ加水分解を行う時間は、処理するラクトン型/酸型ソホロリピッド含有物中のラクトン型SLの濃度及び量等によって適宜設定できる。 また、本発明の高純度酸型SL含有物の製造に使用する粗精製酸型ソホロリピッド含有物は、例えば、特開2008−247845号公報(特許文献4)等に記載されるように、酸型SLのみを一段階で選択的に生産する発酵生産方法により得られたものであってもよい。また当該発酵生産方法で得られたものをさらにアルカリ処理したものであってもよい。 (b)工程(i) 工程(i)は、上記の粗精製酸型SL含有物のpHを酸性領域に調整する工程である。酸性化粗精製酸型SL含有物の調製工程ともいうことができる。 酸性領域としては、後の工程で発酵副産物等の不純物が効果的に除去できる、高純度酸型SL含有物を高収率で得られる等の点から、酸型SLのpKa値がpH6.1〜6.4であることから、好ましくはpH6程度未満である。 図1に高純度酸型SL含有物のpH2〜9.5の範囲における挙動(プロトン化酸型SL←→イオン化酸型SL)を示す。ここでプロトン化酸型SLはカルボキシル基に水素原子が結合している酸型SL、一方イオン化酸型SLは水素原子が解離した酸型SLに相当する。これからわかるように、pH6.1程度を境に、pH6.1よりも高いpH領域ではイオン化酸型SLがプロトン化酸型SLよりも優勢となり、pH6.1よりも低いpH領域ではプロトン化SLがイオン化SLよりも優勢になる。 特に制限はされないものの、製法Aの工程(i)の酸性領域として、より好ましくはpH5程度以下である。より具体的にはpH1〜6未満程度、好ましくはpH1〜5程度、より好ましくはpH1〜4.5程度である。特に好ましくpH1〜4程度である。 粗精製酸型SL含有物を前記酸性領域に調整する方法としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、広く公知の方法を使用できるが、通常pH調整剤を用いて、粗精製酸型ソホロリピッド含有液のpHを調整する方法を用いることができる。pH調整剤としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、燐酸、ホウ酸及びフッ化水素酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、グルタミン酸及びアスパラギン酸等の有機酸等が使用される。 (c)工程(ii−a) 工程(ii−a)は、工程(i)で得られた酸性化粗精製酸型SL含有物をクロマトグラフィーに供して目的の高純度酸型SL含有物を取得する工程である。 当該クロマトグラフィーに供する酸性化粗精製酸型SL含有物は、分離効率の面から、粘度約5〜50mPa・Sの液状物であることが好ましい。より好ましくは、粘度約5〜20mPa・Sの液状物である。工程(i)で得られた酸性化粗精製酸型SL含有物の粘度が高い場合、クロマトグラフィーに供する前に、上記の範囲内になるように粘度を調整することが好ましい。粘度の調整方法としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、人体及び環境等に対する悪影響を考慮して、エタノール、水(例えば精製水)またはこれらの混合液で希釈することが好ましい。 なお、酸性化粗精製酸型SL含有物の粘度の値は、下記の方法及び条件で測定した場合に得られる値である。 <粘度の測定条件> JIS Z8803−2011に準じ、粘度の測定を行う。具体的には、100mlのポリプロピレン製瓶(PPビン)に試料90g投入し、30℃で30分間加温する。温度が30℃に達したことを確認した後、BII形粘度計(東機産業製、BL型、No.2/60rpm)で粘度を測定する。 クロマトグラフィーは、両親媒性であるSLの構造を利用した分離方法である。一般的に、固定相として用いられる充填剤(吸着剤)には、当該分野で公知の任意のシリカゲル、オクタデシルシリカゲル(ODS)樹脂、イオン交換樹脂、合成吸着剤などが用いられる。本発明で採用するクロマトグラフィーは、分配クロマトグラフィー、特に逆相クロマトグラフィーであることが好ましい。当該逆相クロマトグラフィーによると、環境及び人体に対して安全性の高い溶離液(移動相)を使用することができる。 クロマトグラフィーとして逆相クロマトグラフィーを用いる場合、充填剤としては、ODS樹脂等を用いることが好ましい。シリカゲル担体に疎水性オクタデシル基等が化学修飾されたODS樹脂を用いることで、SLのアルキル側鎖との疎水性相互作用を利用して、酸性化粗精製酸型SL含有物から効率的に酸型SLを精製することができ、高純度な酸型SL含有物を取得することができる。逆相クロマトグラフィーの溶離液(移動相)としては、分離効率等の点から、固定相として用いる充填剤より極性の強い溶媒を用いることが好ましい。このような溶離液としては、例えば、メタノール及びエタノール等の低級アルコールと水との混合液が挙げられるが、安全性及び環境の面から、好ましくはエタノールと水との混合液である。このように、本発明の方法(製法A)における工程(ii−a)は、環境や人体に対して有害性の低い溶媒を利用した方法であり、広く産業利用できることから、好ましい方法である。 なお、本発明で採用するクロマトグラフィーでは、溶離液に、例えば、酢酸、ギ酸及びテトラヒドロフラン等のpH調整剤を添加しないことが好ましい。pH調整剤を添加すると、SL回収画分から該pH調整剤を除去することが困難であり、また、該pH調整剤によりSLのグリコシド結合が分解されて純度が低下するおそれもある。また、前記溶離液として、人体及び環境等に害を及ぼし得るクロロホルム等の有機溶剤を含むものを用いることも、安全性等の点からは好ましくない。 前記逆相クロマトグラフィーは、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、溶離液としてエタノール水溶液を用いる場合を例にすると、充填剤(固定相)に酸性化粗精製酸型SL含有物を供した後、約10〜60%(容量%を意味する。以下同じ)未満の範囲で断続的または連続的にエタノール濃度を上げながら溶離液(エタノール水溶液)を流すことで、充填剤に酸型SLを吸着保持させた状態で他の成分(不純物)を溶出させて洗い流し、次いで約70〜90%のエタノール濃度の溶離液(エタノール水溶液)を流すことで酸型SLを含む画分(酸型SL画分)を回収してもよい。具体的には、例えば、以下の方法を例示することができる。(1)カラム塔最上部(以下、分離塔塔頂)から約10〜30%濃度の溶離液(例えば、エタノール濃度が約10〜30%の溶離液(エタノール水溶液))を供給し、カラムを平衡化する。(2)分離塔塔頂から酸性化粗精製酸型SL含有物を添加する。(3)分離塔塔頂から約10〜40%濃度の前記溶離液を供給する。かかる処理により主に酢酸を含む不快臭の原因となる成分および塩類を溶出させることができる。(4)分離塔塔頂から約40〜60%未満濃度の前記溶離液を供給する。かかる処理により主に酢酸を含む不快臭の原因となる成分および色素を溶出させることができる。(5)分離塔塔頂から約70〜90%濃度の前記溶離液を供給し、酸型SL画分を溶出させて回収する。 なお、(1)、(3)及び(4)の各工程において、溶離液中のエタノール濃度は、上記の濃度範囲内で経時的に上昇させてもよいし(グラジェント溶出法)、また同濃度に保持させてもよい(ステップワイズ溶出法)。好ましくは後者のステップワイズ溶出法であり、例えばエタノール濃度10%のエタノール水溶液で平衡化したカラム充填剤に[(1)工程]、酸性化粗精製酸型SL含有物を添加し[(2)工程]、エタノール濃度10%のエタノール水溶液を一定量流した後[(3)工程]、エタノール濃度50%のエタノール水溶液を一定量流し[(4)工程]、次いでエタノール濃度70%のエタノール水溶液を流して、目的の酸型SL画分を溶出させ回収する[(5)工程]方法を例示することができる。また、上記の(3)工程を省略し、(2)工程後、(4)工程としてエタノール濃度約40〜60%未満のエタノール水溶液から供給し始めてもよい。この場合、刺激臭の原因となる酢酸に加えて塩類と色素成分を同時に溶出除去できるため、溶出工程の短縮およびエタノール使用量を減らすことができる。 溶離液に酸及びアルカリ等の添加剤(pH調整剤)を添加していない場合、カラムから溶出された使用済みの溶離液は、エバポレーターを用いた蒸留等の簡単な蒸留操作で再度用いることができる。また、酸型SL画分を溶出回収した後、所望に応じて、分離塔塔頂からエタノール約90〜100%濃度のエタノール水溶液を供してもよい。この作業により、脂肪酸等の疎水性物質がカラム充填剤から溶出除去されるため、充填剤を再利用することが可能となる。 後述する実施例1及び2、並びに試験例1〜2及び4〜7に示すように、本発明の製造方法(製法A)によると、工程(i)及び(ii−a)をこの順番で組み合わせることにより、刺激臭の原因となる酢酸が除去されてなり、酢酸を実質的に含まない高純度酸型SL含有物を得ることができる。当該高純度酸型SL含有物は、発酵副産物に由来する他の臭気成分も有意に除去されて、その含有量も低減されており、ゆえに無臭または臭いが極めて少ないことを特徴とする。 (III−2)製法B (a)原料(粗精製酸型ソホロリピッド含有物) 製法Bにおいて、原料として使用する粗精製酸型ソホロリピッドを含有する水溶液(粗精製酸型SL含有物)は、製法Aで使用する粗精製酸型SL含有物と同じである。従って、ここには、前述する(3−1)製法Aの「(a)原料(粗精製酸型ソホロリピッド含有物)」の記載をそのまま援用することができる。 (b)工程(i) 製法Bにおいて、工程(i)で実施される操作は、製法Aで採用される工程(i)の操作と基本的には同じである。従って、ここには、前述する(3−1)製法Aの「(b)工程(i)」の記載を援用することができる。 ただ、粗精製酸型SL含有物の酸性条件として、好ましくはpH6程度以下の範囲であり、より好ましくはpH5程度以下、さらに好ましくはpH4程度以下である。pH値の下限は特に制限されないが、通常pH1程度を例示することができる。 試験例3に示すように、酸性化粗精製酸型SL含有物をゲル化させるためには、酸性化粗精製酸型SL含有物のpH条件と温度条件がうまくかみ合う必要がある。従って、当該酸性化粗精製酸型SL含有物のpH条件に応じて、次の工程(ii−b)で採用する温度条件を変える必要がある。 (c)工程(ii−b) 工程(ii−b)は、工程(i)で得られた酸性化粗精製酸型SL含有物を低温条件下に静置しゲル化させる工程である。 ここで低温条件は、上記するように、工程(i)で得られた酸性化粗精製酸型SL含有物のpHに応じて調節する必要がある。試験例3に示すように、例えば酸性化粗精製酸型SL含有物のpHが4以下である場合、その温度条件として15℃以下、好ましくは10℃以下を挙げることができる。また例えば酸性化粗精製酸型SL含有物のpHが4より高く5以下である場合、その温度条件として10℃以下、好ましくは0℃以下、より好ましくは−10℃以下を挙げることができる。また例えば酸性化粗精製酸型SL含有物のpHが5より高く6以下である場合、その温度条件として−10℃以下、好ましくは−25℃以下を挙げることができる。さらに例えば酸性化粗精製酸型SL含有物のpHが6より高く7以下である場合、その温度条件として−20℃以下、好ましくは−25℃以下を挙げることができる。 0℃以下の温度では水も凍ってしまうことに鑑みれば、0℃以上の温度でゲル化するpH条件を採用することが好ましい。従って、製法Bにおいては、工程(i)で調整する粗精製酸型SL含有物の酸性条件をpH4以下、好ましくはpH1〜4程度、好ましくはpH2〜4程度に設定し、工程(ii−b)において当該酸性化粗精製酸型SL含有物を15℃以下(0〜15℃)、好ましくは10℃以下(0〜10℃)の低温条件下に静置することが好ましい。 当該条件で、半日〜数日間静置することで、酸性化粗精製酸型SL含有物はゲル化し、ゲル状の酸性粗精製酸型SL含有物として採取することができる。 当該ゲル状の粗精製酸型SL含有物の採取は、実施例4に示すように、ろ過などの定法に従って固液分離し、液層を除去することで行うことができるが、得られた固形画分をさらに冷溶媒で洗浄し、粗精製酸型SL含有物に含まれる不純物を洗い流すことで、より純度の高い高純度酸型SL含有物を取得することができる。冷溶媒の温度は、高純度酸型SL含有物のゲル化が損なわれない温度であればよく、例えば15℃以下、好ましくは0〜10℃を挙げることができる。ここで冷溶媒としては、高純度酸型SL含有物のゲル化が損なわれないものであればよく、水、低級アルコール(エタノール、プロピレンアルコールなど)やアセトン等の有機溶媒、または水と有機溶媒との混合液を挙げることができる。好ましくは水、または有機溶媒との混合液である。なお、有機溶媒として好ましくはエタノールであり、水と混合して使用する場合の濃度としては10容量%以下を例示することができる。 冷溶媒での洗浄は、制限されないが、繰り返し行うことが好ましい。また制限はされないものの、洗浄に使用する冷溶媒の総量として、洗浄するゲル状物の容量の2〜50倍量を例示することができる。 後述する実施例4、並びに試験例1〜2に示すように、本発明の製造方法(製法B)によると、工程(i)及び(ii−b)をこの順番で組み合わせることにより、刺激臭の原因となる酢酸が除去されてなり、酢酸を実質的に含まない高純度酸型SL含有物を得ることができる。当該高純度酸型SL含有物は、発酵副産物に由来する他の臭気成分も有意に除去されて、その含有量も低減されており、ゆえに無臭または臭いが極めて少ないことを特徴とする。 (d)工程(iii)及び(iv) 下記の工程(iii)及び(iv)は、上記工程(i)及び工程(ii−a)(製法A)または工程(i)及び工程(ii−b)(製法B)を経て得られる高純度酸型SL含有物を蒸留し、得られた蒸留残物を乾燥する工程である。(iii)(i)および(ii)([ii−a]または[ii−b])の工程を経て得られる液状の高純度酸型SL含有物を蒸留する工程、及び(iv)上記蒸留残液から酸型SLを析出させる工程。 前記工程(iii)は、工程(ii)を経て得られる水を含む液状の高純度酸型SL含有物(高純度酸型SL含有液)を蒸留し、高純度酸型SL含有液に含まれる酸型SL濃度を調整する工程である。また工程(ii)を経て得られる高純度酸型SL含有液中にエタノールなどの有機溶媒が混入している場合は、当該有機溶媒を留去する工程でもある。 なお、製法Aの場合、工程(ii−a)のクロマトグラフィーで得られる酸型SLの溶出画分を高純度酸型SL含有液としてそのまま当該工程(iii)に供することができる。また、製法Bの場合、工程(ii−b)で得られるゲル化物を、加温して溶解させた後に、これを高純度酸型SL含有液として、当該工程(iii)に供することができる。 蒸留後の残液(蒸留残液)に含まれる酸型SLの濃度は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、通常50質量%程度以下を挙げることができ、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、特に好ましくは20質量%程度である。酸型SLをかかる濃度に調整することで、次の析出工程(粉末化)に供する際に、粉末化が容易である、微細な粉末が得られる等という効果を得ることができる。 蒸留方法は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、公知の蒸留方法を用いることができる。蒸留方法としては、例えば、分子蒸留、減圧蒸留、水蒸気蒸留等が挙げられる。工業的観点からは減圧蒸留が好ましい。 前記工程(iv)は、前記(iii)で得られる蒸留残液から酸型SLを析出させる工程である。本工程により、本発明の高純度酸型SL含有物を粉末状態にすることができる。 酸型SLを析出させる方法は、一般的にフリーズドライ法(凍結乾燥法)、再結晶法、スプレードライ法(噴霧乾燥法)などが挙げられるが、本発明ではスプレードライ法で行うことが好ましい。本発明の酸型SLは、化学的に非常に安定であることから、加熱に強く、構造変化のリスクが低いため、連続生産可能であるスプレードライ法を用いることでより効率よく本発明の高純度酸型SL含有物を生産することが可能となる。 前記スプレードライ法では、賦形剤を用いても用いなくてもよいが、より高純度な酸型SL粉末を得る観点からは、賦形剤を用いないことが好ましい。前記スプレードライ法の条件は、本発明の効果を妨げない限り特に制限されないが、高温かつ高回転で処理することで(例えば、温度100℃以上、回転数12000rpm以上)、流動性が高く、だまの少ない粉末状の高純度酸型SL含有物を得ることができる。 (e)工程(v)及び(vi) 下記の工程(v)及び(vi)は、上記工程(i)及び工程(ii−a)(製法A)または工程(i)及び工程(ii−b)(製法B)を経て得られる高純度酸型SL含有物を冷却固化し、これを乾燥する工程である。(v)工程(i)および工程(ii−a)または(ii−b)を経て得られる高純度酸型SL含有物を冷却固化する工程、及び(vi)上記冷却固化物を乾燥する工程。 工程(v)には、工程(ii)を経て得られる水を含む液状の高純度酸型SL含有物(高純度酸型SL含有液)を冷凍固化する工程が含まれ、また工程(vi)には、当該冷凍固化物を乾燥する工程が含まれる。この場合、工程(v)と(vi)の一連の工程はフリーズドライ工程(凍結乾燥工程)である。本工程により、本発明の高純度酸型SL含有物を固形状態(凍結乾燥状態)にすることができる。 なお、製法Aの場合、工程(ii−a)のクロマトグラフィーで得られる酸型SLの溶出画分をそのまま当該工程(v)に供してもよいし、一旦濃縮した後に工程(v)に供してもよい。また、製法Bの場合、工程(ii−b)で得られるゲル化物をそのまま当該工程(v)に供することができる。 本発明の製造方法は、所望により、活性炭又は吸着樹脂によるろ過等、公知の手段によりさらに精製する工程を有していても良い。このような工程を有することで、さらに純度が高く、臭いだけでなく、色相等の面においても好ましいものを得ることができる。当該精製工程は、本発明の製造方法の工程中、任意の段階で行うことができるが、効率等の面から、工程(i)と工程(ii−a)との間、または工程(i)と(ii−b)との間で行うことが好ましい。また、特に工程(ii−a)におけるクロマトグラフィーがカラムクロマトグラフィーである場合、事前に精製工程を行うことでカラムへの負荷が低減されるという利点もある。 斯くして得られる固体形状(例えば、粉末)の高純度酸型SL含有物は、保存安定性に優れ、後述する実施例にも示すように水系及び油系を問わず多様な処方に適用可能であり、取扱いにも便利である。 以下に本発明を実施例及び試験例に基づいてより具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例及び試験例になんら限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形が可能である。下記実施例及び試験例において、ソホロリピッドは「SL」とも記載される。 下記参考製造例及び実施例1〜3において、乾燥残分、エタノール可溶分、けん化価、及び粘度は、下記の方法に従って求めた。 (1)蒸発残分(重量%) JIS K0067−1992の第2法に準じて蒸発残分の測定を行った。重量既知の100mlビーカーに試料2gを取り、105℃で3時間加温してからデシケーター内で放冷させ、ビーカー内の残留物の重量を測定した。105℃での乾燥及びデシケーター内での放冷は、残留物の重量(g)が恒量となるまで繰り返し、下式をもとに試料の蒸発残分(重量%)を算出した。[数2] 蒸発残分(重量%)=ビーカー内の残留物重量(g)/試料採取量(g)×100(2)エタノール可溶分(重量%) JIS K3362−2008に準じ、試料のエタノール可溶分を測定した。2gの試料を100ml容量のビーカーに投入し、ガラス棒で時々混合しながら105℃で2時間加温して低揮発成分を除去した後、30mlのエタノール(95)を加え、水浴上で30分間加熱してビーカー内の残留物を溶解させた。温溶液のままガラスろ過器を用いてろ過し、200ml容量の重量既知のナス型フラスコに回収した。ビーカー内の残部に再び20mlのエタノールを加えて水浴上で加熱しながら溶解し、温溶液をガラスろ過器を用いてろ過し、熱エタノールでビーカーおよびガラスろ過器をよく洗浄して、上記ナス型フラスコに回収した。回収ろ液を室温まで放冷し、エバポレーターでエタノールを蒸留した後、105℃で1時間乾燥させた後にデシケーター内で放冷し、ナス型フラスコ内の残留物の重量(g)を測定した。エタノール可溶分(重量%)は下式をもとに算出した。[数3] エタノール可溶分(重量%)= ナス型フラスコ内の残留物重量(g)/試料採取量(g)×100 (3)けん化価 基準油脂分析法 2.3.2.1−1996に従い、けん化価の測定を行った。 (4)粘度 JIS Z8803−2011に準じ、粘度の測定を行った。100ml容量のポリプロピレン製瓶(PPビン)に試料を90g投入し、30℃で30分間加温した。温度が30℃に達したことを確認した後、同温度条件下でBII形粘度計(東機産業製、BL型、No.2/60rpm)で粘度を測定した。 (5)HPLC分析 下記実施例及び試験例におけるHPLC分析の条件は、下表に記載の通りである。 参考製造例1:ソホロリピッドの抽出(ラクトン型/酸型SL含有物の調製)培養培地として、1L当たり、含水グルコース10g(日本食品化工社製、製品名:日食含水結晶ブドウ糖)、ペプトン10g(オリエンタル酵母社製、製品名:ペプトンCB90M)、酵母エキス5g(アサヒフードアンドヘルスケア社製、製品名:ミーストパウダーN)を含有する液体培地を使用し、30℃で2日間、Candidabombicola ATCC22214を振盪培養し、これを前培養液とした。 この前培養液を、5L容量の発酵槽に仕込んだ本培養培地(3L)に、仕込み量の4%の割合で植菌し、30℃で6日間、通気0.6vvmの条件下で培養し発酵させた。なお、本培養培地として、1L当たり、含水グルコース100g、パームオレイン50g(日油製、製品名:パーマリィ2000)、オレイン酸(ACID CHEM製、製品名:パルマック760)50g、塩化ナトリウム1g、リン酸一カリウム10g、硫酸マグネシウム7水和物10g、酵母エキス2.5g(アサヒフードアンドヘルスケア社製、製品名:ミーストパウダーN)、及び尿素1gを含む培地(滅菌前のpH4.5〜4.8)を用いた。 培養開始から6日目目に発酵を停止し、発酵槽から取り出した培養液を加熱してから室温に戻し、2〜3日間静置することで、下から順に、液状の褐色沈殿物層、主に菌体と思われる乳白色の固形物層、上澄みの3層に分離した。上澄を除去した後、工業用水または地下水を、除去した上澄の量と同量添加した。これを攪拌しながら、48質量%の水酸化ナトリウム溶液を徐々に加えてpH6.5〜6.9とし、培養液中に含まれるSLを可溶化した。これを卓上遠心分離機(ウェストファリア:ウェストファリアセパレーターAG製)で遠心処理することにより、乳白色の固形物を沈殿させ、上澄を回収した。回収した上澄を攪拌しながら、これに62.5質量%硫酸を徐々に加えてpH2.5〜3.0とし、SLを再不溶化した。これを2日間静置後、デカンテーションにより上澄を可能な限り除去し、残留物を「ラクトン型/酸型SL含有物」(約50%含水物、参考製造例品1)として取得した。なお、当該「ラクトン型/酸型SL含有物」には酸型SLが45質量%未満、ラクトン型SLが55質量%以上含まれている。得られた「ラクトン型/酸型SL含有物」の物性を下表に示す。 参考製造例2:酸型ソホロリピッドの粗精製(粗精製酸型SL含有物の調製) 前記参考製造例1で分取したラクトン型/酸型SL含有物に水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH12に調整し、80℃で2時間処理して加水分解(アルカリ加水分解)を行った。次いで、室温に戻してから発生した不溶物をろ過除去して、ろ液を「粗精製酸型SL含有物」(参考製造例品2)として得た。なお、当該「粗精製酸型SL含有物」には酸型SLおよびラクトン型SLの合計を100質量%とした場合、酸型SLが78質量%以上、ラクトン型SLが22質量%未満含まれている。得られた「粗精製酸型SL含有物」の物性を下表に示す。 実施例1:高純度酸型ソホロリピッド含有物(液状)の製造 前記参考製造例2で得た粗精製酸型SL含有物を、硫酸(9.8M水溶液)を用いてpH3.2に調整した(酸性化粗精製酸型SL含有物)。 これを下記条件の逆相カラムクロマトグラフィーに供した。固定相:C18カラム(コスモシル40C18―PREP、ナカライテスク、15kg)移動相:10%〜70% エタノール水溶液。 具体的には、pH3.2に調整した酸性化粗精製酸型SL含有物1.2kg(固定相充填量に対し、エタノール可溶分として約3%の参考製造例品2)をC18カラムに添加し、これに10%エタノール水溶液20L、次いで50%エタノール水溶液35Lを供することにより、水溶性不純物(臭気及び塩類、一部の色素物質)を溶出除去した。引き続きカラムに70%エタノール水溶液30Lを供して、目的とする酸型SLを含有する画分をC18カラムから溶出した。 得られた画分を、蒸発光散乱検出器を備えたHPLC、及びFTIR(フーリエ変換赤外分光分析装置SpeetrumTM100、ATR法)で分析したところ、化学構造の単一化、ラクトン部分の完全開裂及びアセチル基の完全脱離が認められ、酸型SLが高純度で含まれていることが確認された(高純度酸型SL含有液)。 ここで得られた高純度酸型SL含有液は、酸型SL濃度1質量%、pH3.3、エタノール濃度70容量%、粘度15.3mPa・s、エタノール臭のある無色透明の溶液であった(実施例品1)。 実施例2:高純度酸型ソホロリピッド(粉末)の製造 実施例1で得られた高純度酸型SL含有液(実施例品1)をエバポレーター(東洋ケミカルフードプラント)に供して溶媒(エタノール)を留去し濃縮した。得られた濃縮物は、酸型SL濃度15質量%、pH3.3、エタノール濃度5%以下、粘度10.2mPa・s、エタノール臭のある透明の溶液であった。 該濃縮物を、スプレードライヤー(乾燥粉体化装置)(SUS304製R-3型、水分蒸発能力MAX5kg/h、坂本技研社製)に供して乾燥粉末化した。スプレードライの条件は、アトマイザー12000rpm、槽内温度105℃とした。その結果、微細な粉末が得られた(実施例品2)。得られた粉末を、マイクロスコープ(DIGITAL MICROSCOPE VHX-900、KEYENCE社製)を用い倍率×200倍で測定した(図2)。なお、当該方法の回収率は、pH3.2に調整した酸性化酸型SL含有物1.2kg(実施例1におけるC18カラム供給物)に対し、3回の平均で25%だった。 得られた高純度酸型SL含有物(粉末)の物性は下表の通りであった。また当該高純度酸型SL含有物(粉末)に含まれるSL100質量%中99質量%以上は酸型SLだった。発酵副産物特有の不快な臭気が全くせず、一部の色素成分も除去できていることが確認された。 実施例品2の安定性試験の結果は、表6の通りである。該安定性試験では、実施例品2を低温条件(−5℃)及び高温条件(50℃)(いずれも暗所)で1ヶ月間保存した後の物性を調べた。 この結果から、上記で得られた高純度酸型SL含有物(粉末)は高温及び低温のいずれの条件においても長期の間、色の変化や臭気の変化がなく極めて安定であることがわかった。また、安定性試験後の粉末をHPLCによって分析した結果、その化学構造にも安定性試験前と変化がないことが判明した。また、水分含量も小さいことから微生物汚染の影響もないことがわかった。 実施例3 実施例品2(高純度酸型SL含有物(粉末))を、60℃程度に加温した蒸留水に酸型SL濃度が15質量%程度になるまで溶解し、pH3.0の水溶液を得た。この水溶液を4℃にまで冷却すると、結晶化せずにゲル化することが判った。この現象は、酸型SLが溶液内で高次構造またはネットワークを形成しているために起こったと考えられる。 実施例4 高純度酸型ソホロリピッド含有物(ゲル)の製造 前記参考製造例2で得た粗精製酸型SL含有物100gを、62.5%硫酸水溶液9gと混合して、pH3前後になるように調整し、冷蔵庫(約7℃)で一晩保存した。保存後、ゲル化した内容物を乳鉢に移し、200gの冷却水(冷蔵庫で冷蔵保存した蒸留水)を加えてすり潰し、懸濁状にした。これをガラス漏斗に移し、ろ過して冷却水を除去した後、得られたろ物(ろ過残渣)に再び冷却水を200ml投入し、薬さじでかき混ぜて分散させ、分散液を減圧下でろ過し冷却水を除去した。この操作を5回繰り返し、トータル1000mLの冷却水で洗浄を行った。得られた洗浄物をガラス漏斗に入れた状態で50℃のインキュベーターに入れて加温し溶解させた。これを減圧下でろ過してろ液を回収し、これを冷凍庫(−30℃)内で冷却凝固させた後、凍結乾燥処理により粉末化した。 得られた粉末は、実施例品2(高純度酸型SL含有物)と同様に発酵副産物特有の不快な臭気はしなかった。このことから、実施例1及び2のカラム精製に代えて、参考製造例2で得られた粗精製酸型SL含有物を酸性条件下で冷却ゲル化させる当該実施例4の方法でも、不純物(臭い成分)が有意に除去された高純度酸型SL含有物が得られることが確認された。なお、当該方法の回収率は酸型SL含有物100gに対して3回の平均で16.2%であった。 比較例1 参考製造例1で得られるラクトン型/酸型SL含有物に酢酸エチルと水を加え、酢酸エチル層を抽出した。抽出した酢酸エチル層をエバポレーターで濃縮し、これに水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH12に調整した。次いで、これを80℃で2時間処理して加水分解し、酸型SL含有物を得た(比較例品1)。 比較例2 参考製造例1で得られるラクトン型/酸型SL含有物にヘキサンを加え、抽出したヘキサン層を除去した。残部(SL画分)50gに5Mの水酸化ナトリウム水溶液を100g加え、80℃で2時間処理して加水分解した。次いで室温まで放冷後、HCl水溶液でpH2に調整し、酸型SLを沈殿させた。上清(水層)を除去し、沈殿した酸型SL層を取り出し、水分をメタノールと共沸留去して、酸型SL含有物を得た(比較例品2)。 比較例3〜5 実施例1において、参考製造例2で得られた粗精製酸型SL含有物をpH3.2に調整する代わりに、pH7.0に調整した以外は実施例1と同様にして、酸型SL含有物(比較例品3)を得た。同様に、粗精製酸型SL含有物をpH3.2に調整する代わりに、pH9.0(比較例品4)及びpH10.0(比較例品5)に調整して、酸型SL含有物(比較例品4及び5)を得た。実施例品1と比較例品3〜5について、SL回収率を下表に示す。実施例品1は、比較例品3〜5と比較して、回収率に優れたものであった。 試験例1 臭気成分の測定 上記の参考製造例、実施例及び比較例で得られた酸型SL含有物(実施例品2、実施例品4、参考製造例品1、及び比較例品2)について、「ヘッドスペース・ガスクロマトグラフィー・水素炎イオン検出器(HS-GC-FID)」を用いて臭気成分を分析定量した。 (1)実験方法 各試料のエタノール可溶分1gを、19mLのシリンジバイアル(胴径27mm×高さ55mm×口内径15mm)に投入し、さらに内部標品として、5000ppmの1−ブタノール水溶液50μL加えてから、5%硫酸水溶液で全量を3mLに調整した。シリングバイヤルの蓋を閉め、60℃で20分以上加温して試料固形物を完全に溶解させてバイアル内の気相部を平衡状態にした。60℃以上で加温しておいたマイクロシリンジMS−GLL500(伊藤製作所)で気相部を1ml回収し、ガスクロマトグラフGC−2014に供した。ガスクロマトグラフの条件は以下の通り行った。 [GC条件] ・キャピラリーカラム:DB−WAX(長さ30m×内径0.25mm×膜厚0.25mm) ・キャリアガス:窒素 (流速1.2ml/分) ・昇温条件;40℃(5分間)、40〜240℃(8℃/分)、240℃(5分間) ・気化室温度;200℃ ・検出器温度;270℃ ・試料注入方法;スプリットレス。 [定量方法] 内部標準法を用いて定量した。得られた酢酸ピーク面積値およびトータルピーク面積値(但し、内部標品面積値を減算)を内部標品の面積値で割って、マイクロシリンジ1mlに含まれている濃度(μg/mL)として算出した。[数4] 酢酸濃度(μg/mL)=酢酸ピーク面積値/内部標品面積値 × 250 トータル臭気濃度(μg/mL)=([トータル面積値−内部標品面積値]/内部標品面積値)×250(2)実験結果 上記方法により得られた各試料(n=2)に含まれる酢酸濃度及び臭気成分の総量(トータル臭気濃度)を下記表に示す。 この結果からわかるように、実施例2及び4で調製された本発明の高純度酸型SL含有物(実施例品2、実施例品4)は、刺激臭の原因となる酢酸を実質的に含んでおらず(検出限界5μg/ml未満)、また臭気成分のトータル量も極めて低く、実質的に無臭であると判断できる。 (3)経時的安定性について 上記実施例品2及び4(n=2)について、室温で数ヶ月間(実施例品2:9ヶ月、実施例品4:6ヶ月)保存した後に、再度臭気分析を行い、製品の経時的安定性を評価した。 結果を、上記の結果と併せて下記表に示す。 上記の結果から、いずれの試料も長期間室温に放置しても刺激臭の原因となる酢酸は発生しないことが確認された。実施例品4は長期保存によりトータルの臭気量がやや増える傾向があるものの、実施例品2はそれも有意に抑制されていることが確認された。 試験例2 各試料の物性測定 上記の参考製造例、実施例及び比較例で得られた酸型SL含有物(実施例品2、実施例品4、参考製造例品1、及び比較例品2)について、強熱残分、エステル価、蒸発残分、乾燥減量、エタノール可溶分、及び赤外吸収スペクトルを測定した。 (1)試験の概要 (2)試験方法 (A)強熱残分 強熱残分試験は、被験試料を下記の方法[第1法]で強熱した後に残留する物質の量を測定する方法である。通常、有機物中に不純物として含まれる無機物の含量を知る目的で行われるが、場合によっては、有機物中に構成成分として含まれる無機物又は揮発性無機物中に含まれる不純物の量を測定するために行なわれる。例えば、本発明において「強熱残分0.1%以下(第1法、1g)と規定したものは、被験試料約1gを精密に量り、下記第1法の操作法によって強熱したとき、その残分が被験試料の採取量の0.10%以下であることを示す。 [試料の採取法]白金製、石英製または磁製のるつぼを恒量になるまで強熱し、デシケーター(シリカゲル)中で放冷した後、その質量を精密に量る(採取量)。これに規定量の±10%の範囲の試料を精密に測定し、次の操作を行う。[第1法]るつぼの上で試料を硫酸少量で潤し、徐々に加熱してなるべく低温でほとんど灰化又は揮散させた後、硫酸で潤し、完全に灰化し、恒量になるまで強熱(450〜550℃)する。これをデシケーター(シリカゲル)中で放冷した後、質量を精密に量る。得られた測定値(残分)とあらかじめ測定しておいた採取量から、下式により強熱残分(%)を算出する。[数5] 強熱残分(%)=([W2−W3]/[W1−W3])×100 W1:採取量と試料容器(るつぼ)の質量(g) W2:残分と試料容器(るつぼ)の重量(g) W3:試料容器(るつぼ)の質量(g)(B)エステル価 けん化価(試料1g中の遊離酸の中和及びエステルのけん化に要する水酸化カリウムのmg数:JIS K 3331、日本油化学協会規定の基準油脂分析試験法[2.3.2.1-1996]))と酸価(試料1g中に含有する遊離酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数:JIS K 3331、日本油化学協会法の基準油脂分析試験法[2.3.1-1996])との差として求めることができる他、直接測定する方法として、下記の方法を用いることができる。 [直接法] 試料約3gをけん化用フラスコに正しくはかり取り、95vol%エタノール50mLを加えてフェノールフタレイン指示薬を用いてよく振り混ぜながら、0.1mol/L 水酸化カリウム標準液で滴定中和する(酸価が求められる)。次にこれに0.5mol/L水酸化カリウム−エタノール標準液25mLを正しく加え、フラスコに冷却器をつけ、時々振り混ぜながら、還流するエタノールが冷却器の上端に達しないように加熱温度を調節して穏やかに加熱する。フラスコの内容物を30分間沸騰させた後、直ちに冷却し、内容物が寒天状に固まらないうちに、冷却器をはずして、フェノールフタレイン指示薬を数滴加え、0.5mol/L塩酸標準液で滴定し、指示薬の微紅色が消え、それが30秒間続いたときに終点と定め、要した0.5mol/L塩酸標準液の使用量を「本試験の0.5mol/L塩酸標準液の使用量(mL)」とする。なお、並行して、95vol%エタノール50mLを取り、0.5mol/L水酸化カリウム−エタノール標準液25mLを正しく加えたものについて空試験を行い、空試験において要した0.5mol/L塩酸標準液の使用量を「空試験の0.5mol/L塩酸標準液の使用量(mL)」とし、下式から、エステル価を算出する。 [数6] エステル価=[28.05×(A−B)×F]/C A:空試験の0.5mol/L塩酸標準液使用量(mL) B:本試験の0.5mol/L塩酸標準液使用量(mL) C:試料採取量(g) F:0.5mol/L塩酸標準液のファクター(C)蒸発残分[蒸発残分試験] 試料の重量を精密に秤量した後、JIS K0067-1992規定の第2法(熱板上で加熱蒸発する方法)に従って蒸発乾固し、その残分を量り、下式から蒸発残分(%)を求める。 [数7] 蒸発残分(%)=([W2−W3]/[W1−W3])×100 W1:試料と試料容器の質量(g) W2:残分と試料容器の重量(g) W3:試料容器の質量(g)(D)乾燥減量[乾燥減量試験] 試料の重量を精密に秤量した後、JIS K0067-1992規定の第1法(大気圧下で加熱乾燥する方法)に従って加熱乾燥し(105±2℃、2時間)、乾燥後の減量を量り、下式から乾燥減量(%)を求める。[数8] 乾燥減量(%)=([W1−W2]/[W1−W3])×100 W1:乾燥前の試料とはかり瓶の質量(g) W2:乾燥後の試料とはかり瓶の重量(g) W3:はかり瓶の質量(g)(E)エタノール可溶分 エタノール可溶分は、試料をエタノールで溶解し、エタノールに溶ける物質の量を示したものである。 [測定方法] 三角フラスコ及びガラスろ過器の重量を正確に測定する。これらの重量は105℃で2時間以上乾燥後、デシケーター内で放冷してから測定する。三角フラスコに試料約5gを1mg単位まで正確に量り取り、エタノールを試料の100mL添加して、ガラス管を付けて水浴上で30分間加熱し、時々振り混ぜながら溶解する。なお、粉状または粒状試料には95vol%エタノールを使用し、液状又はペースト状試料には99.5vol%のエタノールを使用する。温溶液のままガラスろ過器を用いてろ過し、三角フラスコの残量に再びエタノール50mLを加えて溶解する。温溶液をガラスろ過器を用いてろ過し、熱エタノールで三角フラスコ及びガラスろ過器をよく洗浄する。室温まで放冷し、全量フラスコ250mLにろ液および洗液を移し、エタノールを標線まで加え、この中から、全量ピペットを用いて、100mLずつ質量既知の2個のビーカー200mLに分取する。そのうちの1個を、水浴上で加熱してエタノールを除いた後、105±2℃に調節した乾燥器で1時間乾燥し、デシケーターで放冷後重量を正確に測定する。 以下の式からエタノール可溶分を算出する。[数9] エタノール可溶分(質量%)=(A/[S×100/250])×100 =([250×A]/S) A:乾燥残量(g) S:試料の質量(g)(F)赤外吸収スペクトル 液体試料は105±2℃で3時間加熱乾燥固化したものを使用し、固体試料はそのまま使用した。赤外吸収スペクトルについては、フーリエ変換赤外分光分析装置SpectrumTM100(パーキンエルマージャパン製)を使用し、ATR法で分析した。 (3)試験結果 上記試験結果を下表に示す。 この結果からわかるように、本発明の高純度酸型SL含有物(実施例品2、実施例品4)は、強熱残分が0〜30%の範囲でかつエステル価が0〜20mgKOH/gの範囲であり、その点で参考製造品1(ラクトン型/酸型SL含有物)及び比較例品2(粗精製酸型SL含有物)とは有意に異なるものである。 さらに、本発明の高純度酸型SL含有物(実施例品2、実施例品4)は、蒸発残分が91〜100%、乾燥減量が0〜9%、及びエタノール可溶分が80〜100%であり、これらの点からも参考製造品1及び比較例品2と有意に異なるものである。 さらに本発明の高純度酸型SL含有物(実施例品2、実施例品4)は、赤外線吸収スペクトルにおいて1706cm-1に吸収ピークを有するが、参考製造品1及び比較例品2は、赤外線吸収スペクトルにおいて上記に該当する吸収ピークがない。従って、その点においても本発明の高純度酸型SL含有物は、従来の酸型SL含有物と相違するものであることがわかる。 試験例3 酸型ソホロリピッドのゲル化条件の検討 実施例4に示すように、酸型SLは、酸性条件下で冷蔵保存することでゲル化するが、ここではどういう条件(pH、温度)でゲル化するかを調べた。 (1)試験方法 参考製造例2で調製した酸型SL含有物(参考製造例品2)(25g)を、それぞれ62.5%硫酸水溶液でpH2〜7(pH2, 3, 4, 5, 6, 7)に調整し、各調製液から10g採取して各試験管に移した。これらの試験管を−25℃〜20℃に置き、経過時間と外観変化(液性状態)を記録した。 (2)試験結果 結果を下表に示す。 表からわかるように、20℃条件ではいずれのpHでも液状のままであり、ゲル化はみられなかった、15℃及び10℃になると、pH2から4でゲル化し始めた。pH5から7では、ゲル化し始めるのが10℃以下、好ましくは−10℃以下であり、−25℃ではいずれのpHでもゲル化して固まった。このことから、ゲル化条件として、pH2〜4の強酸性条件では15℃以下、好ましくは10℃以下;pH4より高くpH6以下の弱酸性条件では10℃以下、好ましくは−10℃以下:pH6より高くpH7以下の弱酸性条件では−20℃以下を挙げることができる。 実施例4に示すようにゲル状の酸型SLを水洗して精製する場合、水の凍結を避けるため、0℃以上の温度条件を採用することが好ましい。このため、ゲル化するpH条件としては、0℃以上で酸型SLがゲル化するpH4以下が好ましい。 試験例4 実施例品2、参考製造例品1及び比較例品2をそれぞれ用いて、下表に記載の組成で化粧水を作製し(試作品1〜5)、pH、臭い及び外観を観察した後、安定性試験に供した。安定性試験は、50℃の恒温条件(暗所)に1ヶ月保存した後、外観変化を観察することで行った。各試験とも、5名のパネラーが下記の基準で評価し、最も多かった回答を試験結果とした。 [臭い]○:刺激臭なし×:刺激臭あり[経時安定性]○:外観上、変化なし△:分離、沈殿物などが少し生じている×:完全に分離している。 結果を表13に示す。 表13に示すように、実施例品2、参考製造例品1および比較例品2を用いて調製した化粧水(試作品1〜5)はいずれも外観は透明であり、経時的にも安定であった。しかし、参考製造例品1および比較例品2を用いて調製した化粧水(試作品4及び5)は臭い(刺激臭)が認められるのに対し、本発明の実施例品2を用いて調製した化粧水(試作品1〜3)はいずれも臭い(刺激臭)は認められなかった。 試験例5 実施例品2、ラウリン酸ポリグリセリル−10、参考製造例品1、及び比較例品2を用いて下表に記載の組成で乳液を作製し、pH、臭い及び外観を観察するとともに、試験例4と同様の方法で安定性試験(50℃、7日間)を行った。なお、ラウリン酸ポリグリセリル−10は、実施例品2の酸型SL(粉末)に近いHLBをもつ界面活性剤である。 外観は次の基準で、臭い及び経時安定性は試験例4と同様の基準で評価した。 [外観]○:乳白色、油滴及び分離なし△:乳白色、油滴が見られる×:完全に分離している。 参考製造例品1および比較例品2を用いて調製した乳液(試作品13〜20)には刺激臭が認められ、経時安定性も悪いことがわかった。これに対して、実施例品2を用いて調製した乳液(試作品6〜11)はいずれも刺激臭が認められず、経時安定性も改善されていた。さらに、実施例品2を用いて調製した乳液(試作品6〜11)は、一般的に乳化剤として使用されているラウリン酸ポリグリセリル−10を用いて調製した乳液(試作品12)と比較しても、優位に経時的安定性に優れていることが分かった。 試験例6 実施例品2、実施例品4、参考製造例品1、及び比較例品2を用いて表10に記載の組成で100gの乳化物を作製し、40gずつ2つの丸型計量規格ビン(型式No.10)に移し、一つを暗所室温(25±5℃)条件下で1日間静置し、もう一方を暗所50℃条件下で1日間静置した。1日間静置後、規格ビンを上下ひっくり返すように静かに攪拌し、その後の外観をもとに乳化安定性を評価した。なお、成分として配合するオレオレジンパプリカ10000CVは油溶性色素であるため、乳化物内で合一による油層が形成された場合は、油層がオレンジ色になって現われる。つまり、乳化安定性が低い場合は、表面にオレンジ色の油層が形成される。そこで乳化安定性については、次の基準で評価した。 [乳化安定性]○:表面にオレンジ色の油滴または油層は認められない。△:表面に油層は確認されないが、僅かにオレンジ色の油滴が見られる。×:表面にオレンジ色の油層が見られる。 参考製造例品1および参考比較例品2で調製した乳化物(試作品23および24)ではオレンジ色の油層が確認されたことから、乳化安定性が失われ、合一が生じていると考えられる。これは、参考製造例品1ではエステル価が20mgKOH/gより大きくソホロリピッドの分子集合体として不均一であるためであり、また比較例品2では強熱残分が30%より多く含まれており乳化物内で合一が起こりやすくなっているためと考えられる。これに対して、実施例品2および実施例品4で調製した乳化物(試作品21および22)は油層が確認されず、試作品23および24よりも乳化安定性が改善されていることが確認された。 試験例7 実施例品2、参考製造例品1又は比較例品2を用いて表○に記載の組成でクリームを作製し、試験例4〜6と同様の方法及び基準にて臭い及び外観を観察し、安定性試験(50℃、1ヶ月間)を行った。 上記の結果から、実施例品2を用いて調製したクリーム(試作品21及び22)はいずれも刺激臭がなく、1ヵ月保存後も安定であることがわかった。 本発明の製造方法によれば、簡便な方法で低エネルギーかつ安全に高純度の酸型ソホロリピッドを調製することができる。本発明の高純度酸型ソホロリピッド含有物は、好ましくない臭い、特に酢酸に起因する刺激臭を有しないため、食品、化粧品及び医薬等にも好適に適用することができる。工程(i)及び(ii−b)を有することを特徴とする、酸型ソホロリピッド含有物の製造方法:(i)ソホロリピッド産生酵母の培養液またはその処理物をアルカリ加水分解して得られる粗精製酸型ソホロリピッド含有物のpHを7未満の酸性領域に調整する工程、(ii−b)前記工程(i)で得られた酸性化粗精製酸型ソホロリピッド含有物をそのpHに応じて下記の低温条件下に静置して、生じたゲル化物を15℃以下の水を含む冷溶媒で洗浄し、ゲル状の酸型ソホロリピッド含有物を取得する工程:(a)pH4以下の場合、−25℃〜15℃、(b)pH4より高くpH5以下の場合、−25℃〜10℃、(c)pH5より高くpH6以下の場合、−25℃〜−10℃、(d)pH6より高くpH7未満の場合、−25℃〜−20℃。 さらに下記の工程を有する、請求項1に記載する製造方法。(iii)工程(i)および工程(ii−b)で得られたゲル状の酸型ソホロリピッド含有物を溶解した液状の酸型ソホロリピッド含有物を蒸留する工程、及び(iv)上記蒸留残液から酸型ソホロリピッドを析出させる工程。 前記(iv)の工程がスプレードライ工程であることを特徴とする、請求項2に記載する製造方法。 さらに下記の工程を有する、請求項1に記載する製造方法。(v)工程(i)および工程(ii−b)で得られたゲル状の酸型ソホロリピッド含有物を冷却固化する工程、及び(vi)上記冷却固化物を乾燥させる工程。 前記(v)及び(vi)の工程がフリーズドライ工程であることを特徴とする、請求項4に記載する製造方法。 下記特性を有する酸型ソホロリピッド含有物の製造方法である、請求項1乃至5のいずれかに記載する製造方法:(1)下記条件のヘッドスペース・ガスクロマトグラフィー・水素炎イオン検出器を用いた分析において、酢酸が検出限界(5μg/シリンジ1ml)未満である:[GC条件] キャピラリーカラム:DB−WAX(長さ30m×内径0.25mm×膜厚0.25mm) キャリアガス:窒素(流速1.2ml/分) 昇温条件;40℃(5分間)、40〜240℃(8℃/分)、240℃(5分間) 気化室温度;200℃ 検出器温度;270℃ 試料注入方法;スプリットレス。 酸型ソホロリピッド含有物がさらに下記(2)および(3)、または(2)および(3)並びに(4)〜(6)のいずれか少なくとも1つの物性を有するものであることを特徴とする、請求項6に記載する製造方法:(2)強熱残分:0〜30%、(3)エステル価:0〜20mgKOH/g、(4)蒸発残分:1〜100%、(5)乾燥減量:0〜99%、(6)エタノール可溶分:1〜100%。 酸型ソホロリピッド含有物がさらに下記の物性を有するものであることを特徴とする、請求項6または7に記載する製造方法:赤外吸収スペクトルにおいて、少なくとも波数1024cm−1付近、1706cm−1付近、2854cm−1付近、2924cm−1付近、および3000〜3500cm−1付近に赤外線吸収バンドを有する。 【課題】酢酸を実質的に含まないことを特徴とする高純度な酸型ソホロリピッド(SL)含有物を製造する方法を提供する。【解決手段】下記工程(i)及び(i−b)を実施する:(i)粗精製酸型SL含有物のpHを7未満の酸性領域に調整する工程、及び(ii−b)前記工程(i)で得られた酸性化粗精製酸型SL含有物を、そのpHに応じて下記の低温条件下に静置し、生じたゲル化物を15℃以下の水を含む冷溶媒で洗浄し、ゲル状の酸型ソホロリピッド含有物を取得する工程:(a)pH4以下の場合、−25℃〜15℃、(b)pH4より高くpH5以下の場合、−25℃〜10℃、(c)pH5より高くpH6以下の場合、−25℃〜−10℃、(d)pH6より高くpH7未満の場合、−25℃〜−20℃。【選択図】なし


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特許公報(B2)_高純度酸型ソホロリピッド含有物及びその製造方法

生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_高純度酸型ソホロリピッド含有物及びその製造方法
出願番号:2014092677
年次:2015
IPC分類:C12P 19/12,C12R 1/72


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平田 善彦 竜 瑞之 伊藤 仁 荒木 道陽 JP 5788058 特許公報(B2) 20150807 2014092677 20140428 高純度酸型ソホロリピッド含有物及びその製造方法 サラヤ株式会社 000106106 特許業務法人三枝国際特許事務所 110000796 平田 善彦 竜 瑞之 伊藤 仁 荒木 道陽 JP 2012047409 20120302 20150930 C12P 19/12 20060101AFI20150910BHJP C12R 1/72 20060101ALN20150910BHJP JPC12P19/12C12P19/12C12R1:72 C12P 1/00− 41/00 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) CAplus/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) PubMed 国際公開第2011/061032(WO,A2) 特開2003−009896(JP,A) J. Chromatogr.,1993年10月 1日,Vol.648, No.1,p.139-149 8 2013535608 20130301 2014140383 20140807 37 20140428 小金井 悟 本発明は、高純度酸型ソホロリピッド含有物及びその製造方法に関する。 生物由来の界面活性剤であるバイオサーファクタント(以下、BSともいう。)は、生分解性及び安全性が高いことから、次世代型界面活性剤として産業利用が期待されている。 糖脂質型BSの一つとして知られるソホロリピッドは、酵母の発酵から得られる発酵産物である。当該ソホロリピッドは、例えば、グルコースなどの糖類と植物油脂などの炭素源を含む液体培地に酵母を接種し、穏和な温度、圧力条件下で通気しながら攪拌するだけで容易に生産される。ソホロリピッドは、他のBSに比べ、生産性が高く(例えば、100 g/L程度)、産業利用もされてきた(非特許文献1)。 しかしながら、ソホロリピッドの発酵生成過程では、発酵副産物(各種の有機酸及びその塩、色素など)も同時に生成されるため、発酵終了後に粗精製または粗抽出されたソホロリピッドは、特異的な臭気を有するものである。その為、医薬品、医薬部外品、食品及び化粧品等へのソホロリピッドの応用は、解決すべき課題も多く、限界があった。 例えば、身体に使用する化粧品や医薬部外品には、シャンプー(ボディシャンプー、ヘアシャンプー)やリンスなどのように皮膚に適用した後、洗い流すリンスオフタイプのものと、化粧水及び乳液などのように皮膚に塗布した状態を維持するリーブオンタイプのものなどがあるが、皮膚のpHは弱酸性であることから、両タイプともに弱酸性のものが皮膚に与える影響が少なく、マーケットニーズも高い。しかしながら、従来のソホロリピッドは、発酵由来のさまざまな有機酸が多量に含まれることから、弱酸性の化粧品等に配合した場合に特有の臭気が発生し、使用に耐えるものではない。これらの臭気は、酢酸や酪酸、イソ吉草酸のような低級脂肪酸に由来し、マスキング方法等によって臭気を緩和する手法もあるが、低級脂肪酸は嗅覚閾値(臭気を感知できる最小濃度)が非常に低く、且つ揮発性が低いために皮膚残留性が高く、長時間に渡って不快な酸臭が感じられる。 近年、食品や化粧品に汎用されるようになったコエンザイムQ10やヒアルロン酸は、様々な生理活性を持つことから多くの研究がなされ、現在ではその機能を活かし、多くの製品に配合されている。一方、同じ天然物であるソホロリピッドは、乳化力や有効成分の経皮吸収性を制御する(特許文献1)などのユニークな機能が見出されているにも関わらず、実際に化粧品などの外用組成物に使用された例は皆無である。 このように生物体に由来する、高性能で、かつ安全性及び生分解性の高い素材であるにも関わらず、ソホロリピッドの産業利用が進まない理由は、工業規模での脱臭または不純物の除去方法が確立されていないことに他ならない。 一般的に、発酵産物の製造で最も困難かつコストがかかるのは精製プロセスである。その理由としては、発酵によって得られる発酵産物が、例えば発酵終了液100質量%あたり1質量%以下と、著しく少ないことが挙げられる。つまり、発酵生産された有用物質が発酵終了液内で極めて希薄でかつ拡散されている状況で、目的とする有用物質を選択的に抽出または濃縮等をする必要がある。本発明で対象としているソホロリピッドも生産性が高いとは言えその例外ではない。 ソホロリピッドの精製に関して、これまでの報告の多くは、培養液に同量のヘキサン及び酢酸エチルを加えて抽出する方法である(例えば、非特許文献2)。しかし、この方法で得られるソホロリピッドは、特有の臭気を含んだままである。これは、ソホロリピッドと臭気成分とが化学的に類似の性質をもつため、同様に抽出されてしまうからである。 ソホロリピッドを白色物質として精製する方法も報告されている(非特許文献3)。ここでは、培養液そのものを凍結乾燥し、乾燥物に酢酸エチルを加え30℃で2日間攪拌し、酢酸エチルを留去した後、ヘキサンで結晶させている。しかしながら、この方法は可燃性の有機溶剤を添加後、数日にも渡って放置する必要があるため、実用化することは困難である。また、この方法で得られたソホロリピッドも、まだ若干の臭気を有するものである。 さらに、前記のような方法では、回収液から有機溶剤を除去または回収する必要性がある。このため、有機溶剤を含む廃液処理に、専用の設備やエネルギーが必要となり、コスト上昇につながる。また、このような有機溶剤の使用は、環境負荷や健康面への悪影響の観点から厳重な管理が必要となる。さらに、得られるソホロリピッドに有機溶剤が残留してしまう恐れがあると、食品や化粧品に適用するときに好ましくない。すなわち、これまでの方法は、基礎研究の観点から提案された抽出、分離、及び精製方法に過ぎず、工業利用を考慮したものではない。 工業利用の観点からは、精製は安価で安全なプロセスである必要がある。汎用化学品の場合は、特にコスト面が重要視される。さらに、現在では、LCA(Life Cycle Assessment)の観点から、使用後の生分解性のみならず原材料も含めたより安全な製造プロセスの確立が重要であり、生体に安全な生物体由来のソホロリピッドにおいてもまた、有害な有機溶剤を使用ないし排出することなく製造する手法の確立が望まれている。 従って、高純度の酸型ソホロリピッドを、有害な有機溶剤を使用せず、高収率かつ安価に安定的に供給できる製造法を確立すれば、生物体由来の安全かつ生分解性に優れる新素材として、ソホロリピッドの工業利用が飛躍的に進むと期待される。特開2009−62288号公報特開2002−045195号公報特開2003−9896号公報特開2008−247845号公報Gorin,Can. J Chem.,39,846(1961)D. G. Cooper and D. A. Paddock, Appl. Environ. Microbiol., 47, 173-176 (1984)R. D. Ashby, D. K. Y. Solaiman and T. A. Foglia, Biotechnol. Lett., 30, 1093-1100, 2008Hirata, Y., Ryu, M., Igarashi, K., Nagatsuka, A., Furuta, T., Kanaya, S., and Sugiura, M. (2009) Natural synergism of acid and lactone type mixed sophorolipids in interfacial activities and cytotoxicities. J. Oleo. Sci., 58, 565-572 本発明は、発酵生成過程で発生する発酵副産物、特に臭いの原因となる臭気成分(中でも刺激臭の原因となる酢酸)が除去された高純度酸型ソホロリピッド含有物を提供することを目的とする。また、本発明は、及び当該高純度酸型ソホロリピッド含有物の製造方法を提供することを目的とする。 本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討の結果、驚くべきことに、発酵生成過程で得られる粗精製酸型ソホロリピッド含有物のpHを酸性領域に調整し、次いでこれをクロマトグラフィーに供するか、低温条件下でゲル化させることにより、発酵副産物、特に刺激臭の原因となる酢酸が有意に除去でき、所望の高純度酸型ソホロリピッド含有物が取得できることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成させた。 すなわち、本発明は、酸型ソホロリピッドを高純度で含む酸型ソホロリピッド含有物、及びその製造方法に関する。以下、本明細書において、当該本発明の酸型ソホロリピッド含有物を、従来の酸型ソホロリピッド含有物と区別する意味で「高純度酸型ソホロリピッド含有物」、または「ソホロリピッド」を「SL」と略称して「高純度酸型SL含有物」とも称する。 (I)高純度酸型ソホロリピッド含有物(I−1)(1)酢酸を実質的に含まないことを特徴とする高純度酸型SL含有物。(I−2)下記(2)および(3)の物性を有することを特徴とする(I−1)に記載する高純度酸型SL含有物:(2)強熱残分:0〜30%、(3)エステル価:0〜20mg KOH/g。(I−3)下記(4)〜(6)のいずれか少なくとも1つの物性を有することを特徴とする(I−2)に記載する高純度酸型SL含有物:(4)蒸発残分:1〜100%、(5)乾燥減量:0〜99%、(6)エタノール可溶分:1〜100%。(I−4)赤外吸収スペクトルにおいて、少なくとも波数1024cm−1付近、1706cm−1付近、2854cm−1付近、2924cm−1付近、および3000〜3500cm−1付近に赤外線吸収バンドを有する、(I−1)〜(I−3)のいずれかに記載する高純度酸型SL含有物。(I−5)固体形状を有することを特徴とする、(I−1)〜(I−4)のいずれかに記載する高純度酸型SL含有物。(I−6)固体形状が粉末または顆粒である、(I−5)に記載する高純度酸型SL含有物。 (II)高純度酸型ソホロリピッド含有物の用途(II−1)(I−1)〜(I−6)のいずれかに記載する高純度酸型SL含有物を含有することを特徴とする香粧品、飲食品、医薬部外品または医薬品。(II−2)飲食品が健康補助食品、健康機能食品、特定保健用食品、またはサプリメントである、(II−1)に記載する香粧品、飲食品、医薬部外品または医薬品。(II−3)香粧品、医薬部外品または医薬品が、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されるものである、(II−1)に記載する香粧品、飲食品、医薬部外品または医薬品。 (III)高純度酸型ソホロリピッド含有物の製造方法(III−1)下記の工程(i)、及び工程(ii−a)または(ii−b)を有することを特徴とする、(I−1)〜(I−6)のいずれかに記載する高純度酸型SL含有物の製造方法:(i)粗精製酸型SL含有物のpHを酸性領域に調整する工程、(ii−a)前記工程(i)で得られた酸性化粗精製酸型SL含有物をクロマトグラフィーに供して酸型SLを含む画分を取得する工程、(ii−b)前記工程(i)で得られた酸性化粗精製酸型SL含有物を低温条件下に静置し、生じたゲル化物を取得する工程。(III−2)前記粗精製酸型SL含有物が、ソホロリピッド産生酵母の培養液またはその処理物をアルカリ加水分解して得られる酸型SL含有物である、(III−1)に記載する製造方法。(III−3)工程(i)及び工程(ii−a)を有する高純度酸型SL含有物の製造方法であって、酸性領域がpH6未満であることを特徴とする(III−1)または(III−2)に記載する製造方法。(III−4)工程(i)及び工程(ii−a)を有する高純度酸型SL含有物の製造方法であって、クロマトグラフィーが逆相カラムクロマトグラフィーである、(III−1)〜(III−3)のいずれかに記載する製造方法。(III−5)前記逆相カラムクロマトグラフィーが、カラム充填剤としてODS樹脂を用いたカラムクロマトグラフィーである、(III−4)に記載する製造方法。(III−6)前記逆相カラムクロマトグラフィーが、溶離液としてエタノール水溶液を用いたクロマトグラフィーであって、カラム充填剤(固定相)に工程(i)で得られた酸性化粗精製酸型SL含有物を供した後、当該カラム充填剤をエタノール濃度約10〜60容量%未満のエタノール水溶液で洗浄した後、エタノール濃度約70〜90容量%のエタノール水溶液を供して酸型SLを含む画分を溶出取得する工程をする、(III−5)に記載する製造方法。(III−7)工程(i)及び工程(ii−b)を有する高純度酸型SL含有物の製造方法であって、酸性領域がpH4以下、好ましくはpH1〜4であり、低温条件が15℃以下、好ましくは10℃以下であることを特徴とする、(III−1)または(III−2)に記載する製造方法。(III−8)工程(i)及び工程(ii−b)を有する高純度酸型SL含有物の製造方法であって、工程(ii−b)で生じたゲル化物をさらに冷水で洗浄する工程を有する、(III−1)、(III−2)または(III−7)に記載する製造方法。(III−9)さらに下記の工程を有する、(III−1)〜(III−8)のいずれかに記載する製造方法。(iii)工程(i)および工程(ii−a)または(ii−b)を経て得られる液状の高純度酸型SL含有物を蒸留する工程、及び(iv)上記蒸留残液から酸型SLを析出させる工程。(III−10)前記(iv)の工程がスプレードライ工程であることを特徴とする(III−9)に記載する製造方法。(III−11)さらに下記の工程を有する、(III−1)〜(III−8)のいずれかに記載する製造方法。(v)工程(i)および工程(ii−a)または(ii−b)を経て得られる高純度酸型SL含有物を冷却固化する工程、及び(vi)上記冷却固化物を乾燥する工程。(III−12)前記(v)及び(vi)の工程が凍結乾燥工程であることを特徴とする(III−11)に記載する製造方法。 (IV)高純度酸型ソホロリピッド含有物の製造方法(IV−1)工程(i)及び(ii−b)を有することを特徴とする、酸型ソホロリピッド含有物の製造方法:(i)ソホロリピッド産生酵母の培養液またはその処理物をアルカリ加水分解して得られる粗精製酸型ソホロリピッド含有物のpHを7未満の酸性領域に調整する工程、(ii−b)前記工程(i)で得られた酸性化粗精製酸型ソホロリピッド含有物をそのpHに応じて下記の低温条件下に静置して、生じたゲル化物を15℃以下の水を含む冷溶媒で洗浄し、ゲル状の酸型ソホロリピッド含有物を取得する工程:(a)pH4以下の場合、−25℃〜15℃、(b)pH4より高くpH5以下の場合、−25℃〜10℃、(c)pH5より高くpH6以下の場合、−25℃〜−10℃、(d)pH6より高くpH7未満の場合、−25℃〜−20℃。 (IV−2)さらに下記の工程を有する、(IV−1)に記載する製造方法。(iii)工程(i)および工程(ii−b)で得られたゲル状の酸型ソホロリピッド含有物を溶解した液状の酸型ソホロリピッド含有物を蒸留する工程、及び(iv)上記蒸留残液から酸型ソホロリピッドを析出させる工程。 (IV−3)前記(iv)の工程がスプレードライ工程であることを特徴とする、(IV−2)に記載する製造方法。 (IV−4)さらに下記の工程を有する、(IV−1)に記載する製造方法。(v)工程(i)および工程(ii−b)で得られたゲル状の酸型ソホロリピッド含有物を冷却固化する工程、及び(vi)上記冷却固化物を乾燥させる工程。 (IV−5)前記(v)及び(vi)の工程がフリーズドライ工程であることを特徴とする、(IV−4)に記載する製造方法。 (IV−6)下記特性を有する酸型ソホロリピッド含有物の製造方法である、(IV−1)乃至(IV−5)のいずれかに記載する製造方法:(1)下記条件のヘッドスペース・ガスクロマトグラフィー・水素炎イオン検出器を用いた分析において、酢酸が検出限界(5μg/シリンジ1ml)未満である:[GC条件] キャピラリーカラム:DB−WAX(長さ30m×内径0.25mm×膜厚0.25mm) キャリアガス:窒素(流速1.2ml/分) 昇温条件;40℃(5分間)、40〜240℃(8℃/分)、240℃(5分間) 気化室温度;200℃ 検出器温度;270℃ 試料注入方法;スプリットレス。 (IV−7)酸型ソホロリピッド含有物がさらに下記(2)および(3)、または(2)および(3)並びに(4)〜(6)のいずれか少なくとも1つの物性を有するものであることを特徴とする、(IV−6)に記載する製造方法:(2)強熱残分:0〜30%、(3)エステル価:0〜20mgKOH/g、(4)蒸発残分:1〜100%、(5)乾燥減量:0〜99%、(6)エタノール可溶分:1〜100%。 (IV−8)酸型ソホロリピッド含有物がさらに下記の物性を有するものであることを特徴とする、(IV−6)または(IV−7)に記載する製造方法:赤外吸収スペクトルにおいて、少なくとも波数1024cm−1付近、1706cm−1付近、2854cm−1付近、2924cm−1付近、および3000〜3500cm−1付近に赤外線吸収バンドを有する。 本発明の製造方法によると、高純度かつ化学的に安定な酸型SLを低エネルギーで安全に、かつ高回収率で分離精製できるため、工業的に有利である。また、本発明の高純度酸型SL含有物は、発酵生成過程で発生する発酵副産物等の不純物、特に酢酸等の臭気成分が除去されているため、好ましくない臭いがなく、化粧品等の多様な処方に配合することが容易である。特に、弱酸性が好まれる皮膚用の化粧品や医薬部外品等に好適である。本発明の高純度酸型SL含有物のpKaを6.1とした場合の、pH2〜9.5の範囲における挙動を示す図である。本発明の高純度酸型SL含有物(粉末)のマイクロスコープ写真である。(I)ソホロリピッド ソホロリピッド(SL)とは、ソホロース又はヒドロキシル基が一部アセチル化したソホロースと、ヒドロキシル脂肪酸とからなる糖脂質である。なお、ソホロースとは、β1→2結合した2分子のブドウ糖からなる糖である。ヒドロキシル脂肪酸とは、ヒドロキシル基を有する脂肪酸である。また、SLは、ヒドロキシ脂肪酸のカルボキシル基が遊離した酸型(一般式(1))と、分子内のソホロースが結合したラクトン型(一般式(2))とに大別される。ある種の酵母(SL産生酵母)の発酵によって得られるSLは、通常、下記一般式(1)で示されるSLと一般式(2)で示されるSLの混合物であり、脂肪酸鎖長(R3)が異なるもの、ソホロースの6’(R2)及び6”位(R1)がアセチル化あるいはプロトン化されたものなど、30種以上の構造同族体の集合体として得られる。 前記一般式(1)又は(2)において、R0は水素原子あるいはメチル基のいずれかである。R1及びR2はそれぞれ独立して、水素原子又はアセチル基である。R3は飽和脂肪族炭化水素鎖、又は二重結合を少なくとも一個有する不飽和脂肪族炭化水素鎖であり、一以上の置換基を有していても良い。該置換基は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、ハロゲン原子、水酸基、低級(C1〜6)アルキル基、ハロ低級(C1〜6)アルキル基、ヒドロキシ低級(C1〜6)アルキル基、ハロ低級(C1〜6)アルコキシ基等が挙げられる。また、R3の炭素数は、通常11〜20、好ましくは13〜17、より好ましくは14〜16である。 前述するように、SL産生酵母の発酵により得られる培養液には、SLが、通常、前記酸型SL(一般式(1)で示されるSL)と前記ラクトン型SL(一般式(2)で示されるSL)との混合物として存在している。このうちラクトン型SLはそれ自体が非イオン性の油状物質であり水に極めて不溶であるため、ラクトン型SLが多いとソホロリピッド混合物全体が難水溶性になり、好ましくない(非特許文献4)。一方、酸型SLはラクトン型SLに比べて化学的に安定であるため、その割合が高いほうが好ましい。 一般に酸型ソホロリピッド含有物(酸型SL含有物)とは、当該含有物中に含まれるソホロリピッド100質量%のうち、78質量%以上が一般式(1)で示される酸型SLであり、残りの22質量%未満が一般式(2)で示されるラクトン型SLであるものを意味する。 以下、本明細書において、SL産生酵母の発酵により産生されるSLを含む組成物(培養液、及びその処理物を含む)において、当該組成物に含まれるSL100質量%中の酸型SLの含有割合が78質量%以上である組成物を「酸型ソホロリピッド含有物(酸型SL含有物)」と総称し、酸型SLの含有割合が45質量%未満で、残り55質量%以上がラクトン型SLである組成物を「ラクトン型/酸型ソホロリピッド含有物(ラクトン型/酸型SL含有物)」と称する。 さらに本発明において、上記の酸型SL含有物は、当該酸型SLの精製度(純度)、非揮発性成分の含有量、酸型SLの含有割合、また液性などに応じて、粗精製酸型SL含有物、酸性化粗精製酸型SL含有物、高純度酸型SL含有物などに種々分類することができる。 なお、ここで高純度酸型SL含有物は、酢酸を実質的に含まないことを特徴とする本発明の酸型SL含有物であり(後述)、それ以外の酸型SL含有物、つまり酢酸を含む酸型SL含有物は、酸型SLの純度やSL含有割合に差はあるものの、「粗精製酸型SL含有物」に分類される。 (II)高純度酸型ソホロリピッド含有物 本発明が対象とする高純度酸型SL含有物は、従来公知の酸型SL含有物(前述するラクトン型/酸型SL含有物、及び粗精製酸型SL含有物が含まれる)とは、少なくとも臭いの点で相違し、下記の特徴を備えている:(1)酢酸を実質的に含まない。 ここで「酢酸を実質的に含まない」とは、例えばガスクロマトグラフィーなどの通常の分析方法で酢酸含有量を測定した場合に検出限界未満であることを意味する。つまり、仮に極微量の酢酸を含んでいたとしても、それが通常の分析方法で測定不能(検出限界未満)であれば、当該酸型SL含有物は酢酸を実質的に含まないということができる。 ここで「通常の分析方法」としては、アルカリ性溶液を使用した中和滴定による方法、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)またはガスクロマトグラフィーを使用して酢酸ピークを検出する方法、ガステック社製検知管式測定器を使用する方法、ロシュ・ダイアグノスティックス社製のF−kit酢酸を使用した酵素法を挙げることができる。 より具体的には、試験例1で説明する「ヘッドスペース・ガスクロマトグラフィー・水素炎イオン検出器」を用いた分析方法を挙げることができる。対象とする酸型SL含有物のエタノール可溶分1g相当を、少なくとも当該試験例1に記載する方法に従って分析した場合に、検出限界未満、つまり「5μg/シリンジ1ml」未満であり、酢酸が検出できなければ、当該酸型SL含有物は、本発明の高純度酸型SL含有物であるということができる。 なお、試験例1において「参考製造例品1」は、本発明の高純度酸型SL含有物の製造原料として使用したラクトン型/酸型SL含有物であり、「比較例品2」は、非特許文献2の記載に準じてヘキサンで抽出精製し、アルカリ加水分解された粗精製酸型SL含有物である(以下、これらを便宜上「従来品」と総称する)。試験例1に示すように、これらの従来品は、酢酸を300μg/ml程度以上も含むため刺激臭が強いのに対して、本発明の高純度酸型SL含有物は酢酸を実質的に含まないため、酢酸に起因する刺激臭を有さない点で従来品とは明らかに相違する。 また本発明の高純度酸型SL含有物は、試験例1に示すように従来品と比べて他の臭気成分の含有量も有意に低減されてなることを特徴とする。試験例1で採用した「ヘッドスペース・ガスクロマトグラフィー・水素炎イオン検出器」を用いた分析方法によれば、酸型SL含有物のエタノール可溶分1g相当量から検出されるトータル臭気濃度は10000μg/ml以下であり、好ましくは8000μg/ml以下、より好ましくは5000μg/ml以下、さらに好ましくは3000μg/ml以下、よりさらに好ましくは2000μg/ml以下、特に好ましくは1000μg/ml以下または500μg/ml以下である。 これらのことから、本発明の高純度酸型SL含有物は、酢酸に起因する刺激臭がなく、また他の臭気成分に起因する臭いも格段に減少されており、無臭またはほぼ無臭であることを特徴とする。 ここで他の臭気成分としては、SL産生酵母の発酵によるSL生成過程(発酵生成過程)で生じる臭気成分を挙げることができ、その一種として、酢酸以外の低級脂肪酸が例示される。ここで低級脂肪酸(酢酸を含む)とは、RCOOH(Rは炭素数1〜5の炭化水素)で示される鎖式構造を持つモノカルボン酸の総称である。かかる低級脂肪酸は水に可溶であるが、刺激臭と酸味をもち、一般的に疎まれる臭気成分の一つである。例えば、CH3(CH2)3COOHで示される吉草酸は、蒸れた靴下のようなニオイを有しており、嗅覚閾値が非常に低いことからも悪臭防止法で規制されている化合物の一つである。 こうした酢酸以外の低級脂肪酸は、酢酸と同様に水に可溶であるため、本発明の高純度酸型SL含有物の製造において、SL産生酵母の培養液から酸型SLを分離精製する際に、酢酸と同様に除去される。そのため、上記ヘッドスペース・ガスクロマトグラフィー・水素炎イオン検出器により酢酸の含有量を測定した場合に、当該酢酸の含有量が検出限界未満であることが示されれば、酢酸以外の低級脂肪酸も酢酸と同様に除去されているか、少なくともその含有量は低減されていると言える。そのため、本発明において「酢酸を実質的に含まない」とは、「(酢酸を含む)低級脂肪酸を実質的に含まない」と言うこともできる。つまり、本発明の高純度酸型SL含有物は酢酸を実質的に含まないことを特徴とするが、好ましくは酢酸のみならず、酢酸以外の低級脂肪酸をも実質的に含まず、酢酸及び酢酸以外の低級脂肪酸に起因する刺激臭を有しないことを特徴とする。 さらに本発明が対象とする高純度酸型SL含有物は、下記(2)および(3)の物性を有することを特徴とする:(2)強熱残分:0〜30%、(3)エステル価:0〜20mg KOH/g。 ここで「強熱残分(%)」とは、試験例2で説明するように試料中に含まれる無機化合物(硫酸塩相当)の割合であり、これにより試料、本発明では酸型SL含有物の中に不純物として含まれる無機化合物の含量を硫酸塩量として把握することができる。当該「強熱残分(%)」は、JIS K0067−1992または医薬部外品原料規格2006(日本)の第1法に従って測定することができる。その詳細は、試験例2で説明する通りである。本発明の高純度酸型SL含有物の強熱残分(%)は0〜30%であり、好ましくは0〜20%、より好ましくは0〜10%、特に好ましくは0%である。 また「エステル価(mg KOH/g)」とは、試験例2で説明するように試料1gに含まれるエステルを完全けん化するのに要する水酸化カリウムのmg数であり、これにより試料、本発明では酸型SL含有物の中に含まれるアセチル基やラクトン環のエステル結合の割合を把握することができる。当該「エステル価(mg KOH/g)」は、日本油化学協会(日本)が定めている基準油脂分析試験法(2.3.3-1996)に従って測定することができる。その詳細は、試験例2で説明する通りである。本発明の高純度酸型SL含有物のエステル価(mg KOH/g)は0〜20mgKOH/gであり、好ましくは0〜18mgKOH/g、より好ましくは0〜9mgKOH/g、特に好ましくは0mgKOH/gである。 なお、本発明の高純度酸型SL含有物のエステル価(mg KOH/g)は、当該高純度酸型SL含有物中に含まれるSL100質量%に占めるラクトン型SLの割合と相関しており、エステル価(mg KOH/g)が高ければラクトン型SLの割合も高く、エステル価(mg KOH/g)が低ければラクトン型SLの割合も低いという関係にある。 具体的には、酸型SLの分子量を621(ソホロースにグリコシド結合している脂肪酸をオレイン酸とした場合)、ラクトン型SLの分子量を603(前記酸型SLのカルボキシル基が分子内ソホロースとエステル結合をしている)、水酸化カリウムの分子量を56.1にした場合、ラクトン型SLと水酸化カリウムは下式のようにアルカリ分解される。[数1] ラクトン型SL + 水酸化カリウム → 酸型SL。 つまり、アルカリ分解される対象がラクトン型SLのエステル結合とした場合にエステル価が低ければ酸型SL含有物に含まれるラクトン型SLの割合が低くなる。 このため、本発明の高純度酸型SL含有物100質量%中に含まれる酸型SLの割合は、固形換算で78〜100質量%であり、好ましくは80〜100質量%、より好ましくは90〜100質量%、特に好ましくは100質量%である。 さらにまた本発明が対象とする高純度酸型SL含有物は、上記(1)、(2)および(3)に加えて、下記(4)〜(6)のいずれか少なくとも1つの物性を有することを特徴とする:(4)蒸発残分:1〜100%、(5)乾燥減量:0〜99%、(6)エタノール可溶分:1〜100%。 ここで「蒸発残分(%)」とは、試験例2で説明するように、試料を蒸発させた時の残分を質量百分率(質量%)で示したものであり、これにより試料中、本発明では酸型SL含有物中に混在する物、特に高沸点の混在物の含量を把握することができる。当該「蒸発残分(%)」は、JIS K0067−1992の第2法に従って測定することができる。その詳細は、試験例2で説明する通りである。本発明の高純度酸型SL含有物の蒸発残分(%)は1〜100%であり、好ましくは5〜100%、より好ましくは10〜100%の範囲にあればよいが、さらに好ましくは60〜100%、さらにより好ましくは70〜100%、特に好ましくは80〜100%、より特に好ましくは90〜100%である。 また「乾燥減量(%)」とは、試験例2で説明するように試料を乾燥した時の減量を質量百分率(質量%)で示したものであり、これにより試料中、本発明では酸型SL含有物中の水分その他の揮発性物質(低沸点化合物)の含量を把握することができる。当該「乾燥減量(%)」は、JIS K0067−1992の第1法に従って測定することができる。その詳細は、試験例2で説明する通りである。本発明の高純度酸型SL含有物の乾燥減量(%)は、0〜99%であり、好ましくは0〜95%、より好ましくは0〜90%の範囲にあればよいが、さらに好ましくは0〜30%、さらにより好ましくは0〜20%、特に好ましくは0〜20%、より特に好ましくは0〜10%である。 また「エタノール可溶分(%)」とは、試験例2で説明するように、試料中に含まれるエタノールに溶解する物質の含量(質量%)であり、これにより試料中に混在するエタノール溶解性の極性物質、例えば界面活性剤等の含量を把握することができる。当該「エタノール可溶分(%)」は、JIS K3362−2008に従って測定することができる。その詳細は、試験例2で説明する通りである。本発明の高純度酸型SL含有物のエタノール可溶分(%)は1〜100%であり、好ましくは5〜100%、より好ましくは10〜100%の範囲にあればよいが、さらに好ましくは85〜100%、さらにより好ましくは90〜100%、特に好ましくは95〜100%、より特に好ましくは98〜100%である。エタノール可溶分(%)は、対象の試料、本発明においては酸型SL含有物を100質量%とした場合の酸型SLおよびラクトン型SLの含有割合(質量%)を示す。 本発明の高純度酸型SL含有物は、より好ましくは赤外吸収スペクトルが、少なくとも波数1024cm−1付近、1706cm−1付近、2854cm−1付近、2924cm−1付近、および3000〜3500cm−1付近に赤外線吸収バンド(吸収ピーク)を有する。試験例2に示すように、特に波長1706cm−1付近ピークは、従来品では認められず、本発明の高純度酸型SL含有物に特異的に認められるピークである。 本発明の高純度酸型SL含有物には、上記の特性を有することを限度として、さらにHPLC分析により得られるピーク総面積の約85%以上が酸型SLである組成物が含まれる。なお、ここでHPLCの分析条件は実施例(表1)に記載する通りであり、当該HPLC分析で得られるピーク総面積は、本発明の高純度酸型SL含有物に含まれる窒素ガス条件下40℃で揮発しない成分の総量に相当する。また、この条件で測定した場合、8〜25分のリテンションタイムで検出されるピークは酸型SL、25〜45分で検出されるピークはラクトン型SL、45〜55分で検出されるピークは高級脂肪酸に相当する。ここで高純度酸型SL含有物中に含まれる酸型SLの割合は、酸型SLのピーク面積、ラクトン型SLのピーク面積および高級脂肪酸のピーク面積の合算値に対する酸型SLのピーク面積の割合から算出される。なお、前述する「ラクトン型/酸型SL含有物」及び「酸型SL含有物」の別は、対象とするSLを含む組成物を上記条件のHPLCに供した場合に、酸型SLのピーク面積およびラクトン型SLのピーク面積の合算値(総面積値)をSL総量100質量%として酸型SLの含有割合を算出することで判断することができる。 高純度酸型SL含有物中における酸型SLの占める割合は、前述する通り約85%以上であり、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上である。なお、残りの約15%未満、好ましくは約10%未満、より好ましくは約5%未満にはラクトン型SL及び高級脂肪酸などが含まれる。 また、本発明の高純度酸型SL含有物に含まれる酸型SLにおいて、ソホロースにグリコシド結合している脂肪酸としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、及びリノール酸等の炭素数10〜22の飽和または不飽和脂肪酸を挙げることができる。これらの脂肪酸は1種であってもよいが、2種以上の任意の脂肪酸が組み合わせであってもよい。その構成割合として、制限はされないが、オレイン酸が約85%以上、好ましくは約85〜93%程度含まれることが好ましく、さらに、パルミチン酸が約2〜5%、ステアリン酸が約1〜3%、または/およびリノール酸約4〜7%の割合で含まれることがより好ましい。 本発明の高純度酸型SL含有物はその形状を特に制限せず、液状であっても、乳液状であっても、また固体形状であってもよい。好ましくは固体形状であり、かかる固体形状には、錠剤形態、丸剤形態、粉末形態、顆粒形態、カプセル形態を挙げることができる。好ましくは粉末形態または顆粒形態であり、より好ましくは粉末形態である。 本発明の高純度酸型SL含有物は、その製造過程で生じる発酵副産物等の不純物の混入が少なく、前述するように好ましくない臭いを有していない。このため、臭いが商品価値に重要なファクターになる飲食品、医薬品、医薬部外品、香粧品等に、例えば界面活性剤等の添加物として好適に用いることができる。なお、ここで飲食品には、一般の食品や飲料のほか、健康補助食品、健康機能食品、特定保健用食品、またはサプリメントなどの、特定の機能を有し、健康維持などを目的として摂取される飲食物が含まれる。またここで香粧品とは、「化粧品」と、香水、オーデコロン、及びパヒューム等の「芳香製品」を包含する概念で用いられる。なお、化粧品とは、人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、又は皮膚もしくは毛髪を健やかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法(例えば、貼付など)で使用されることが目的とされるものであり、例えばメーキャップ化粧品(ファンデーション、口紅など)、基礎化粧品(化粧水、乳液など)、頭髪用化粧品(ヘアトニック、ヘアリキッド、ヘアクリームなど)、トイレタリー製品(歯磨き、シャンプー、リンス、石けん、洗顔料、入浴剤など)を例示することができる。 本発明の高純度酸型SL含有物は、前述するように、発酵副産物等の不純物、特に刺激臭の原因となる酢酸が有意に除去され、またそれ以外の臭い成分の含有量も極めて少ないため、特に、弱酸性が好まれる皮膚用の化粧品及び医薬部外品(外用組成物)等にも好適に用いられる。また、本発明の高純度酸型SL組成物は、実施例4及び試験例3に示すように、分子間相互作用により、例えば酸性低温条件下で網目状のネットワークを形成し、水等を保持することが可能であるため、例えば、ゲル化剤等としても利用できる。 (III)本発明の高純度酸型ソホロリピッド含有物の製造方法 前述する本発明の高純度酸型SL含有物は、下記(i)工程、及び(ii−a)または(ii−b)のいずれかの工程を有する製造方法を用いることで調製することができる:(i)粗精製酸型SL含有物のpHを酸性領域に調整する工程、(ii−a)前記工程(i)で得られた酸性化粗精製酸型SL含有物をクロマトグラフィー分離する工程、(ii−b)前記工程(i)で得られた酸性化粗精製酸型SL含有物を低温条件下に静置しゲル化させる工程。 言い換えると、本発明の高純度酸型SL含有物は、上記(i)工程及び(ii−a)工程を有する製造方法(以下、これを「製法A」という)、または上記(i)工程及び(ii−b)工程を有する製造方法(以下、これを「製法B」という)により製造することができる。 以下、「製法A」及び「製法B」の各工程について詳細に説明する。 (III−1)製法A(a)原料(粗精製酸型ソホロリピッド含有物) (i)工程で用いる粗精製酸型ソホロリピッドを含有する水溶液(以下、これを単に「粗精製酸型SL含有物」ともいう)としては、本発明の効果を妨げない限り、ソホロリピッド(SL)を含有する液体を広く使用することができる。好ましくは、酵母を培養して得られた培養液から酸型SLを含む画分を分離したものが用いられる。SLは、微生物の培養によって得られ、例えば、Starmerella(Candida) bombicola、C.apicola、C.petrophilum、Rhodotorula(Candia) bogoriensis、C. batistae、C.gropengiesseri、Wickerhamiella domercqiae、Yarrowia lipolytica等の酵母を公知の方法で培養することで産生される。本発明ではこれらの酵母を「SL産生酵母」と称する。前記酵母は、保存機関から分譲された菌株又はその継代培養によって得られた菌株であってもよい。ここで、Rhodotorula(Candia) bogoriensis NRCC9862が生産するSLは、13−[(2’−O−β−D−glucopyranosyl−β−D−glucopyranosyl)oxy] docosanoic acid6’, 6”−diacetateであり、アルキル基の中央のヒドロキシル基とソホロースがグリコシド結合している。このSLは前記一般式(1)及び(2)とは異なるが、ソホロースとヒドロキシル脂肪酸から構成される点では同じであり、本発明が対象とするSLに含まれる。 SL産生のための酵母(SL産生酵母)の培養方法としては、例えば、高濃度の糖と疎水性の油性基質を同時に与えて培養する方法等が好ましく挙げられる。又は、これに限らず、本発明の効果を妨げない限り広く公知の方法を適用できる。前記公知の方法は、特開2002−045195号公報(特許文献2)等に記載されたものであってもよい。具体的には、糖としてグルコース、疎水性の油性基質として脂肪酸と植物油からなる炭素源を用いて、Starmerella(Candida) bombicolaを生産酵母として培養する手法であってもよい。 培地組成は、特に限定されないが、SLの脂肪酸部分は、培地成分として添加する疎水性基質の脂肪酸鎖長やその割合に依存することが知られており、ある程度の制御が可能である。たとえば、疎水性基質としては、オレイン酸あるいはオレイン酸を高い割合で含有する脂質が好適である。たとえば、パーム油、米ぬか油、ナタネ油、オリーブ油、サフラワー油などの植物油、及び豚脂や牛脂などの動物油が挙げられる。さらに、疎水性基質をトリグリセライドとオレイン酸の混合基質を用いれば、高い割合でオレイン酸を含むソホロリピッドを高い収量・収率で得ることが可能である。産業利用の観点からは、安定的に高い収量・収率でSLを発酵生産させることが求められるが、この場合、炭素源として親水性の糖と疎水性の油脂を混合したものが好ましい。親水性基質としては、グルコースが多用される。 得られた培養液から、例えば遠心分離やデカンテーション等の定法の固液分離法で液成分を分離除去した後、固形分を水洗いすることにより、SL含有画分を得ることができる。当該SL含有画分は、ラクトン型SLと酸型SLとの混合物であり、酸型SLの含有率がSL総量中45質量%未満(固形換算)であることから、ラクトン型/酸型SL含有物に分類される。 前記SL産生酵母の培養液から、当該ラクトン型/酸型SL含有物を回収する方法は、本発明の効果を妨げない限り広く公知の方法であってよく、例えば、特開2003−9896号公報(特許文献3)等に記載された方法を挙げることができる。かかる方法は、SL産生酵母の培養液またはそれから調製したSL含有画分のpHを調節することで、水に対するSLの溶解性を制御する方法であり、斯くしておよそ50%含水物としてラクトン型/酸型ソホロリピッド含有物を調製することができる。 製法A(及び製法B)の原料として使用する粗精製酸型ソホロリピッド含有物は、上記のラクトン型/酸型ソホロリピッド含有物を加水分解処理してラクトン型SLのラクトン環を開環し、酸型SLの含有量がSL総量中78質量%以上になるように調製されたものである。また加水分解によって、ラクトン型/酸型ソホロリピッド含有物に含まれる、例えば30種以上のソホロリピッド同族体はおよそ4種程度にまで単純化することができる。 前記加水分解には、本発明の効果を妨げない限り、広く公知の方法を用いることができる。例えば、水酸化物の金属塩(ナトリウム、カリウム、カルシウム及びマグネシウムなど)、炭酸塩、リン酸塩、またはアルカノールアミン等の塩基を用いたアルカリ加水分解を好適に挙げることができる。さらに、各種の触媒、例えば、アルコール等を用いることも可能である。前記アルカリ加水分解を行う温度、圧力及び時間は、本発明の効果を妨げない限り適宜設定できるが、目的産物である酸型SLの分解や化学修飾等の副反応を抑制しながら、効率的にラクトン型SLの加水分解を進行させることのできる温度、圧力及び時間を採用することが好ましい。この点から、反応温度は通常約30℃〜120℃の範囲であり、好ましくは約50℃〜90℃である。圧力は通常約1気圧〜10気圧の範囲であり、好ましくは約1気圧〜2気圧である。反応時間は通常約10分〜5時間の範囲であり、好ましくは約1時間〜3時間である。また、アルカリ加水分解を行う時間は、処理するラクトン型/酸型ソホロリピッド含有物中のラクトン型SLの濃度及び量等によって適宜設定できる。 また、本発明の高純度酸型SL含有物の製造に使用する粗精製酸型ソホロリピッド含有物は、例えば、特開2008−247845号公報(特許文献4)等に記載されるように、酸型SLのみを一段階で選択的に生産する発酵生産方法により得られたものであってもよい。また当該発酵生産方法で得られたものをさらにアルカリ処理したものであってもよい。 (b)工程(i) 工程(i)は、上記の粗精製酸型SL含有物のpHを酸性領域に調整する工程である。酸性化粗精製酸型SL含有物の調製工程ともいうことができる。 酸性領域としては、後の工程で発酵副産物等の不純物が効果的に除去できる、高純度酸型SL含有物を高収率で得られる等の点から、酸型SLのpKa値がpH6.1〜6.4であることから、好ましくはpH6程度未満である。 図1に高純度酸型SL含有物のpH2〜9.5の範囲における挙動(プロトン化酸型SL←→イオン化酸型SL)を示す。ここでプロトン化酸型SLはカルボキシル基に水素原子が結合している酸型SL、一方イオン化酸型SLは水素原子が解離した酸型SLに相当する。これからわかるように、pH6.1程度を境に、pH6.1よりも高いpH領域ではイオン化酸型SLがプロトン化酸型SLよりも優勢となり、pH6.1よりも低いpH領域ではプロトン化SLがイオン化SLよりも優勢になる。 特に制限はされないものの、製法Aの工程(i)の酸性領域として、より好ましくはpH5程度以下である。より具体的にはpH1〜6未満程度、好ましくはpH1〜5程度、より好ましくはpH1〜4.5程度である。特に好ましくpH1〜4程度である。 粗精製酸型SL含有物を前記酸性領域に調整する方法としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、広く公知の方法を使用できるが、通常pH調整剤を用いて、粗精製酸型ソホロリピッド含有液のpHを調整する方法を用いることができる。pH調整剤としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、燐酸、ホウ酸及びフッ化水素酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、グルタミン酸及びアスパラギン酸等の有機酸等が使用される。 (c)工程(ii−a) 工程(ii−a)は、工程(i)で得られた酸性化粗精製酸型SL含有物をクロマトグラフィーに供して目的の高純度酸型SL含有物を取得する工程である。 当該クロマトグラフィーに供する酸性化粗精製酸型SL含有物は、分離効率の面から、粘度約5〜50mPa・Sの液状物であることが好ましい。より好ましくは、粘度約5〜20mPa・Sの液状物である。工程(i)で得られた酸性化粗精製酸型SL含有物の粘度が高い場合、クロマトグラフィーに供する前に、上記の範囲内になるように粘度を調整することが好ましい。粘度の調整方法としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、人体及び環境等に対する悪影響を考慮して、エタノール、水(例えば精製水)またはこれらの混合液で希釈することが好ましい。 なお、酸性化粗精製酸型SL含有物の粘度の値は、下記の方法及び条件で測定した場合に得られる値である。 <粘度の測定条件> JIS Z8803−2011に準じ、粘度の測定を行う。具体的には、100mlのポリプロピレン製瓶(PPビン)に試料90g投入し、30℃で30分間加温する。温度が30℃に達したことを確認した後、BII形粘度計(東機産業製、BL型、No.2/60rpm)で粘度を測定する。 クロマトグラフィーは、両親媒性であるSLの構造を利用した分離方法である。一般的に、固定相として用いられる充填剤(吸着剤)には、当該分野で公知の任意のシリカゲル、オクタデシルシリカゲル(ODS)樹脂、イオン交換樹脂、合成吸着剤などが用いられる。本発明で採用するクロマトグラフィーは、分配クロマトグラフィー、特に逆相クロマトグラフィーであることが好ましい。当該逆相クロマトグラフィーによると、環境及び人体に対して安全性の高い溶離液(移動相)を使用することができる。 クロマトグラフィーとして逆相クロマトグラフィーを用いる場合、充填剤としては、ODS樹脂等を用いることが好ましい。シリカゲル担体に疎水性オクタデシル基等が化学修飾されたODS樹脂を用いることで、SLのアルキル側鎖との疎水性相互作用を利用して、酸性化粗精製酸型SL含有物から効率的に酸型SLを精製することができ、高純度な酸型SL含有物を取得することができる。逆相クロマトグラフィーの溶離液(移動相)としては、分離効率等の点から、固定相として用いる充填剤より極性の強い溶媒を用いることが好ましい。このような溶離液としては、例えば、メタノール及びエタノール等の低級アルコールと水との混合液が挙げられるが、安全性及び環境の面から、好ましくはエタノールと水との混合液である。このように、本発明の方法(製法A)における工程(ii−a)は、環境や人体に対して有害性の低い溶媒を利用した方法であり、広く産業利用できることから、好ましい方法である。 なお、本発明で採用するクロマトグラフィーでは、溶離液に、例えば、酢酸、ギ酸及びテトラヒドロフラン等のpH調整剤を添加しないことが好ましい。pH調整剤を添加すると、SL回収画分から該pH調整剤を除去することが困難であり、また、該pH調整剤によりSLのグリコシド結合が分解されて純度が低下するおそれもある。また、前記溶離液として、人体及び環境等に害を及ぼし得るクロロホルム等の有機溶剤を含むものを用いることも、安全性等の点からは好ましくない。 前記逆相クロマトグラフィーは、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、溶離液としてエタノール水溶液を用いる場合を例にすると、充填剤(固定相)に酸性化粗精製酸型SL含有物を供した後、約10〜60%(容量%を意味する。以下同じ)未満の範囲で断続的または連続的にエタノール濃度を上げながら溶離液(エタノール水溶液)を流すことで、充填剤に酸型SLを吸着保持させた状態で他の成分(不純物)を溶出させて洗い流し、次いで約70〜90%のエタノール濃度の溶離液(エタノール水溶液)を流すことで酸型SLを含む画分(酸型SL画分)を回収してもよい。具体的には、例えば、以下の方法を例示することができる。(1)カラム塔最上部(以下、分離塔塔頂)から約10〜30%濃度の溶離液(例えば、エタノール濃度が約10〜30%の溶離液(エタノール水溶液))を供給し、カラムを平衡化する。(2)分離塔塔頂から酸性化粗精製酸型SL含有物を添加する。(3)分離塔塔頂から約10〜40%濃度の前記溶離液を供給する。かかる処理により主に酢酸を含む不快臭の原因となる成分および塩類を溶出させることができる。(4)分離塔塔頂から約40〜60%未満濃度の前記溶離液を供給する。かかる処理により主に酢酸を含む不快臭の原因となる成分および色素を溶出させることができる。(5)分離塔塔頂から約70〜90%濃度の前記溶離液を供給し、酸型SL画分を溶出させて回収する。 なお、(1)、(3)及び(4)の各工程において、溶離液中のエタノール濃度は、上記の濃度範囲内で経時的に上昇させてもよいし(グラジェント溶出法)、また同濃度に保持させてもよい(ステップワイズ溶出法)。好ましくは後者のステップワイズ溶出法であり、例えばエタノール濃度10%のエタノール水溶液で平衡化したカラム充填剤に[(1)工程]、酸性化粗精製酸型SL含有物を添加し[(2)工程]、エタノール濃度10%のエタノール水溶液を一定量流した後[(3)工程]、エタノール濃度50%のエタノール水溶液を一定量流し[(4)工程]、次いでエタノール濃度70%のエタノール水溶液を流して、目的の酸型SL画分を溶出させ回収する[(5)工程]方法を例示することができる。また、上記の(3)工程を省略し、(2)工程後、(4)工程としてエタノール濃度約40〜60%未満のエタノール水溶液から供給し始めてもよい。この場合、刺激臭の原因となる酢酸に加えて塩類と色素成分を同時に溶出除去できるため、溶出工程の短縮およびエタノール使用量を減らすことができる。 溶離液に酸及びアルカリ等の添加剤(pH調整剤)を添加していない場合、カラムから溶出された使用済みの溶離液は、エバポレーターを用いた蒸留等の簡単な蒸留操作で再度用いることができる。また、酸型SL画分を溶出回収した後、所望に応じて、分離塔塔頂からエタノール約90〜100%濃度のエタノール水溶液を供してもよい。この作業により、脂肪酸等の疎水性物質がカラム充填剤から溶出除去されるため、充填剤を再利用することが可能となる。 後述する実施例1及び2、並びに試験例1〜2及び4〜7に示すように、本発明の製造方法(製法A)によると、工程(i)及び(ii−a)をこの順番で組み合わせることにより、刺激臭の原因となる酢酸が除去されてなり、酢酸を実質的に含まない高純度酸型SL含有物を得ることができる。当該高純度酸型SL含有物は、発酵副産物に由来する他の臭気成分も有意に除去されて、その含有量も低減されており、ゆえに無臭または臭いが極めて少ないことを特徴とする。 (III−2)製法B (a)原料(粗精製酸型ソホロリピッド含有物) 製法Bにおいて、原料として使用する粗精製酸型ソホロリピッドを含有する水溶液(粗精製酸型SL含有物)は、製法Aで使用する粗精製酸型SL含有物と同じである。従って、ここには、前述する(3−1)製法Aの「(a)原料(粗精製酸型ソホロリピッド含有物)」の記載をそのまま援用することができる。 (b)工程(i) 製法Bにおいて、工程(i)で実施される操作は、製法Aで採用される工程(i)の操作と基本的には同じである。従って、ここには、前述する(3−1)製法Aの「(b)工程(i)」の記載を援用することができる。 ただ、粗精製酸型SL含有物の酸性条件として、好ましくはpH6程度以下の範囲であり、より好ましくはpH5程度以下、さらに好ましくはpH4程度以下である。pH値の下限は特に制限されないが、通常pH1程度を例示することができる。 試験例3に示すように、酸性化粗精製酸型SL含有物をゲル化させるためには、酸性化粗精製酸型SL含有物のpH条件と温度条件がうまくかみ合う必要がある。従って、当該酸性化粗精製酸型SL含有物のpH条件に応じて、次の工程(ii−b)で採用する温度条件を変える必要がある。 (c)工程(ii−b) 工程(ii−b)は、工程(i)で得られた酸性化粗精製酸型SL含有物を低温条件下に静置しゲル化させる工程である。 ここで低温条件は、上記するように、工程(i)で得られた酸性化粗精製酸型SL含有物のpHに応じて調節する必要がある。試験例3に示すように、例えば酸性化粗精製酸型SL含有物のpHが4以下である場合、その温度条件として15℃以下、好ましくは10℃以下を挙げることができる。また例えば酸性化粗精製酸型SL含有物のpHが4より高く5以下である場合、その温度条件として10℃以下、好ましくは0℃以下、より好ましくは−10℃以下を挙げることができる。また例えば酸性化粗精製酸型SL含有物のpHが5より高く6以下である場合、その温度条件として−10℃以下、好ましくは−25℃以下を挙げることができる。さらに例えば酸性化粗精製酸型SL含有物のpHが6より高く7以下である場合、その温度条件として−20℃以下、好ましくは−25℃以下を挙げることができる。 0℃以下の温度では水も凍ってしまうことに鑑みれば、0℃以上の温度でゲル化するpH条件を採用することが好ましい。従って、製法Bにおいては、工程(i)で調整する粗精製酸型SL含有物の酸性条件をpH4以下、好ましくはpH1〜4程度、好ましくはpH2〜4程度に設定し、工程(ii−b)において当該酸性化粗精製酸型SL含有物を15℃以下(0〜15℃)、好ましくは10℃以下(0〜10℃)の低温条件下に静置することが好ましい。 当該条件で、半日〜数日間静置することで、酸性化粗精製酸型SL含有物はゲル化し、ゲル状の酸性粗精製酸型SL含有物として採取することができる。 当該ゲル状の粗精製酸型SL含有物の採取は、実施例4に示すように、ろ過などの定法に従って固液分離し、液層を除去することで行うことができるが、得られた固形画分をさらに冷溶媒で洗浄し、粗精製酸型SL含有物に含まれる不純物を洗い流すことで、より純度の高い高純度酸型SL含有物を取得することができる。冷溶媒の温度は、高純度酸型SL含有物のゲル化が損なわれない温度であればよく、例えば15℃以下、好ましくは0〜10℃を挙げることができる。ここで冷溶媒としては、高純度酸型SL含有物のゲル化が損なわれないものであればよく、水、低級アルコール(エタノール、プロピレンアルコールなど)やアセトン等の有機溶媒、または水と有機溶媒との混合液を挙げることができる。好ましくは水、または有機溶媒との混合液である。なお、有機溶媒として好ましくはエタノールであり、水と混合して使用する場合の濃度としては10容量%以下を例示することができる。 冷溶媒での洗浄は、制限されないが、繰り返し行うことが好ましい。また制限はされないものの、洗浄に使用する冷溶媒の総量として、洗浄するゲル状物の容量の2〜50倍量を例示することができる。 後述する実施例4、並びに試験例1〜2に示すように、本発明の製造方法(製法B)によると、工程(i)及び(ii−b)をこの順番で組み合わせることにより、刺激臭の原因となる酢酸が除去されてなり、酢酸を実質的に含まない高純度酸型SL含有物を得ることができる。当該高純度酸型SL含有物は、発酵副産物に由来する他の臭気成分も有意に除去されて、その含有量も低減されており、ゆえに無臭または臭いが極めて少ないことを特徴とする。 (d)工程(iii)及び(iv) 下記の工程(iii)及び(iv)は、上記工程(i)及び工程(ii−a)(製法A)または工程(i)及び工程(ii−b)(製法B)を経て得られる高純度酸型SL含有物を蒸留し、得られた蒸留残物を乾燥する工程である。(iii)(i)および(ii)([ii−a]または[ii−b])の工程を経て得られる液状の高純度酸型SL含有物を蒸留する工程、及び(iv)上記蒸留残液から酸型SLを析出させる工程。 前記工程(iii)は、工程(ii)を経て得られる水を含む液状の高純度酸型SL含有物(高純度酸型SL含有液)を蒸留し、高純度酸型SL含有液に含まれる酸型SL濃度を調整する工程である。また工程(ii)を経て得られる高純度酸型SL含有液中にエタノールなどの有機溶媒が混入している場合は、当該有機溶媒を留去する工程でもある。 なお、製法Aの場合、工程(ii−a)のクロマトグラフィーで得られる酸型SLの溶出画分を高純度酸型SL含有液としてそのまま当該工程(iii)に供することができる。また、製法Bの場合、工程(ii−b)で得られるゲル化物を、加温して溶解させた後に、これを高純度酸型SL含有液として、当該工程(iii)に供することができる。 蒸留後の残液(蒸留残液)に含まれる酸型SLの濃度は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、通常50質量%程度以下を挙げることができ、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、特に好ましくは20質量%程度である。酸型SLをかかる濃度に調整することで、次の析出工程(粉末化)に供する際に、粉末化が容易である、微細な粉末が得られる等という効果を得ることができる。 蒸留方法は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、公知の蒸留方法を用いることができる。蒸留方法としては、例えば、分子蒸留、減圧蒸留、水蒸気蒸留等が挙げられる。工業的観点からは減圧蒸留が好ましい。 前記工程(iv)は、前記(iii)で得られる蒸留残液から酸型SLを析出させる工程である。本工程により、本発明の高純度酸型SL含有物を粉末状態にすることができる。 酸型SLを析出させる方法は、一般的にフリーズドライ法(凍結乾燥法)、再結晶法、スプレードライ法(噴霧乾燥法)などが挙げられるが、本発明ではスプレードライ法で行うことが好ましい。本発明の酸型SLは、化学的に非常に安定であることから、加熱に強く、構造変化のリスクが低いため、連続生産可能であるスプレードライ法を用いることでより効率よく本発明の高純度酸型SL含有物を生産することが可能となる。 前記スプレードライ法では、賦形剤を用いても用いなくてもよいが、より高純度な酸型SL粉末を得る観点からは、賦形剤を用いないことが好ましい。前記スプレードライ法の条件は、本発明の効果を妨げない限り特に制限されないが、高温かつ高回転で処理することで(例えば、温度100℃以上、回転数12000rpm以上)、流動性が高く、だまの少ない粉末状の高純度酸型SL含有物を得ることができる。 (e)工程(v)及び(vi) 下記の工程(v)及び(vi)は、上記工程(i)及び工程(ii−a)(製法A)または工程(i)及び工程(ii−b)(製法B)を経て得られる高純度酸型SL含有物を冷却固化し、これを乾燥する工程である。(v)工程(i)および工程(ii−a)または(ii−b)を経て得られる高純度酸型SL含有物を冷却固化する工程、及び(vi)上記冷却固化物を乾燥する工程。 工程(v)には、工程(ii)を経て得られる水を含む液状の高純度酸型SL含有物(高純度酸型SL含有液)を冷凍固化する工程が含まれ、また工程(vi)には、当該冷凍固化物を乾燥する工程が含まれる。この場合、工程(v)と(vi)の一連の工程はフリーズドライ工程(凍結乾燥工程)である。本工程により、本発明の高純度酸型SL含有物を固形状態(凍結乾燥状態)にすることができる。 なお、製法Aの場合、工程(ii−a)のクロマトグラフィーで得られる酸型SLの溶出画分をそのまま当該工程(v)に供してもよいし、一旦濃縮した後に工程(v)に供してもよい。また、製法Bの場合、工程(ii−b)で得られるゲル化物をそのまま当該工程(v)に供することができる。 本発明の製造方法は、所望により、活性炭又は吸着樹脂によるろ過等、公知の手段によりさらに精製する工程を有していても良い。このような工程を有することで、さらに純度が高く、臭いだけでなく、色相等の面においても好ましいものを得ることができる。当該精製工程は、本発明の製造方法の工程中、任意の段階で行うことができるが、効率等の面から、工程(i)と工程(ii−a)との間、または工程(i)と(ii−b)との間で行うことが好ましい。また、特に工程(ii−a)におけるクロマトグラフィーがカラムクロマトグラフィーである場合、事前に精製工程を行うことでカラムへの負荷が低減されるという利点もある。 斯くして得られる固体形状(例えば、粉末)の高純度酸型SL含有物は、保存安定性に優れ、後述する実施例にも示すように水系及び油系を問わず多様な処方に適用可能であり、取扱いにも便利である。 以下に本発明を実施例及び試験例に基づいてより具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例及び試験例になんら限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形が可能である。下記実施例及び試験例において、ソホロリピッドは「SL」とも記載される。 下記参考製造例及び実施例1〜3において、乾燥残分、エタノール可溶分、けん化価、及び粘度は、下記の方法に従って求めた。 (1)蒸発残分(重量%) JIS K0067−1992の第2法に準じて蒸発残分の測定を行った。重量既知の100mlビーカーに試料2gを取り、105℃で3時間加温してからデシケーター内で放冷させ、ビーカー内の残留物の重量を測定した。105℃での乾燥及びデシケーター内での放冷は、残留物の重量(g)が恒量となるまで繰り返し、下式をもとに試料の蒸発残分(重量%)を算出した。[数2] 蒸発残分(重量%)=ビーカー内の残留物重量(g)/試料採取量(g)×100(2)エタノール可溶分(重量%) JIS K3362−2008に準じ、試料のエタノール可溶分を測定した。2gの試料を100ml容量のビーカーに投入し、ガラス棒で時々混合しながら105℃で2時間加温して低揮発成分を除去した後、30mlのエタノール(95)を加え、水浴上で30分間加熱してビーカー内の残留物を溶解させた。温溶液のままガラスろ過器を用いてろ過し、200ml容量の重量既知のナス型フラスコに回収した。ビーカー内の残部に再び20mlのエタノールを加えて水浴上で加熱しながら溶解し、温溶液をガラスろ過器を用いてろ過し、熱エタノールでビーカーおよびガラスろ過器をよく洗浄して、上記ナス型フラスコに回収した。回収ろ液を室温まで放冷し、エバポレーターでエタノールを蒸留した後、105℃で1時間乾燥させた後にデシケーター内で放冷し、ナス型フラスコ内の残留物の重量(g)を測定した。エタノール可溶分(重量%)は下式をもとに算出した。[数3] エタノール可溶分(重量%)= ナス型フラスコ内の残留物重量(g)/試料採取量(g)×100 (3)けん化価 基準油脂分析法 2.3.2.1−1996に従い、けん化価の測定を行った。 (4)粘度 JIS Z8803−2011に準じ、粘度の測定を行った。100ml容量のポリプロピレン製瓶(PPビン)に試料を90g投入し、30℃で30分間加温した。温度が30℃に達したことを確認した後、同温度条件下でBII形粘度計(東機産業製、BL型、No.2/60rpm)で粘度を測定した。 (5)HPLC分析 下記実施例及び試験例におけるHPLC分析の条件は、下表に記載の通りである。 参考製造例1:ソホロリピッドの抽出(ラクトン型/酸型SL含有物の調製)培養培地として、1L当たり、含水グルコース10g(日本食品化工社製、製品名:日食含水結晶ブドウ糖)、ペプトン10g(オリエンタル酵母社製、製品名:ペプトンCB90M)、酵母エキス5g(アサヒフードアンドヘルスケア社製、製品名:ミーストパウダーN)を含有する液体培地を使用し、30℃で2日間、Candidabombicola ATCC22214を振盪培養し、これを前培養液とした。 この前培養液を、5L容量の発酵槽に仕込んだ本培養培地(3L)に、仕込み量の4%の割合で植菌し、30℃で6日間、通気0.6vvmの条件下で培養し発酵させた。なお、本培養培地として、1L当たり、含水グルコース100g、パームオレイン50g(日油製、製品名:パーマリィ2000)、オレイン酸(ACID CHEM製、製品名:パルマック760)50g、塩化ナトリウム1g、リン酸一カリウム10g、硫酸マグネシウム7水和物10g、酵母エキス2.5g(アサヒフードアンドヘルスケア社製、製品名:ミーストパウダーN)、及び尿素1gを含む培地(滅菌前のpH4.5〜4.8)を用いた。 培養開始から6日目目に発酵を停止し、発酵槽から取り出した培養液を加熱してから室温に戻し、2〜3日間静置することで、下から順に、液状の褐色沈殿物層、主に菌体と思われる乳白色の固形物層、上澄みの3層に分離した。上澄を除去した後、工業用水または地下水を、除去した上澄の量と同量添加した。これを攪拌しながら、48質量%の水酸化ナトリウム溶液を徐々に加えてpH6.5〜6.9とし、培養液中に含まれるSLを可溶化した。これを卓上遠心分離機(ウェストファリア:ウェストファリアセパレーターAG製)で遠心処理することにより、乳白色の固形物を沈殿させ、上澄を回収した。回収した上澄を攪拌しながら、これに62.5質量%硫酸を徐々に加えてpH2.5〜3.0とし、SLを再不溶化した。これを2日間静置後、デカンテーションにより上澄を可能な限り除去し、残留物を「ラクトン型/酸型SL含有物」(約50%含水物、参考製造例品1)として取得した。なお、当該「ラクトン型/酸型SL含有物」には酸型SLが45質量%未満、ラクトン型SLが55質量%以上含まれている。得られた「ラクトン型/酸型SL含有物」の物性を下表に示す。 参考製造例2:酸型ソホロリピッドの粗精製(粗精製酸型SL含有物の調製) 前記参考製造例1で分取したラクトン型/酸型SL含有物に水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH12に調整し、80℃で2時間処理して加水分解(アルカリ加水分解)を行った。次いで、室温に戻してから発生した不溶物をろ過除去して、ろ液を「粗精製酸型SL含有物」(参考製造例品2)として得た。なお、当該「粗精製酸型SL含有物」には酸型SLおよびラクトン型SLの合計を100質量%とした場合、酸型SLが78質量%以上、ラクトン型SLが22質量%未満含まれている。得られた「粗精製酸型SL含有物」の物性を下表に示す。 実施例1:高純度酸型ソホロリピッド含有物(液状)の製造 前記参考製造例2で得た粗精製酸型SL含有物を、硫酸(9.8M水溶液)を用いてpH3.2に調整した(酸性化粗精製酸型SL含有物)。 これを下記条件の逆相カラムクロマトグラフィーに供した。固定相:C18カラム(コスモシル40C18―PREP、ナカライテスク、15kg)移動相:10%〜70% エタノール水溶液。 具体的には、pH3.2に調整した酸性化粗精製酸型SL含有物1.2kg(固定相充填量に対し、エタノール可溶分として約3%の参考製造例品2)をC18カラムに添加し、これに10%エタノール水溶液20L、次いで50%エタノール水溶液35Lを供することにより、水溶性不純物(臭気及び塩類、一部の色素物質)を溶出除去した。引き続きカラムに70%エタノール水溶液30Lを供して、目的とする酸型SLを含有する画分をC18カラムから溶出した。 得られた画分を、蒸発光散乱検出器を備えたHPLC、及びFTIR(フーリエ変換赤外分光分析装置SpeetrumTM100、ATR法)で分析したところ、化学構造の単一化、ラクトン部分の完全開裂及びアセチル基の完全脱離が認められ、酸型SLが高純度で含まれていることが確認された(高純度酸型SL含有液)。 ここで得られた高純度酸型SL含有液は、酸型SL濃度1質量%、pH3.3、エタノール濃度70容量%、粘度15.3mPa・s、エタノール臭のある無色透明の溶液であった(実施例品1)。 実施例2:高純度酸型ソホロリピッド(粉末)の製造 実施例1で得られた高純度酸型SL含有液(実施例品1)をエバポレーター(東洋ケミカルフードプラント)に供して溶媒(エタノール)を留去し濃縮した。得られた濃縮物は、酸型SL濃度15質量%、pH3.3、エタノール濃度5%以下、粘度10.2mPa・s、エタノール臭のある透明の溶液であった。 該濃縮物を、スプレードライヤー(乾燥粉体化装置)(SUS304製R-3型、水分蒸発能力MAX5kg/h、坂本技研社製)に供して乾燥粉末化した。スプレードライの条件は、アトマイザー12000rpm、槽内温度105℃とした。その結果、微細な粉末が得られた(実施例品2)。得られた粉末を、マイクロスコープ(DIGITAL MICROSCOPE VHX-900、KEYENCE社製)を用い倍率×200倍で測定した(図2)。なお、当該方法の回収率は、pH3.2に調整した酸性化酸型SL含有物1.2kg(実施例1におけるC18カラム供給物)に対し、3回の平均で25%だった。 得られた高純度酸型SL含有物(粉末)の物性は下表の通りであった。また当該高純度酸型SL含有物(粉末)に含まれるSL100質量%中99質量%以上は酸型SLだった。発酵副産物特有の不快な臭気が全くせず、一部の色素成分も除去できていることが確認された。 実施例品2の安定性試験の結果は、表6の通りである。該安定性試験では、実施例品2を低温条件(−5℃)及び高温条件(50℃)(いずれも暗所)で1ヶ月間保存した後の物性を調べた。 この結果から、上記で得られた高純度酸型SL含有物(粉末)は高温及び低温のいずれの条件においても長期の間、色の変化や臭気の変化がなく極めて安定であることがわかった。また、安定性試験後の粉末をHPLCによって分析した結果、その化学構造にも安定性試験前と変化がないことが判明した。また、水分含量も小さいことから微生物汚染の影響もないことがわかった。 実施例3 実施例品2(高純度酸型SL含有物(粉末))を、60℃程度に加温した蒸留水に酸型SL濃度が15質量%程度になるまで溶解し、pH3.0の水溶液を得た。この水溶液を4℃にまで冷却すると、結晶化せずにゲル化することが判った。この現象は、酸型SLが溶液内で高次構造またはネットワークを形成しているために起こったと考えられる。 実施例4 高純度酸型ソホロリピッド含有物(ゲル)の製造 前記参考製造例2で得た粗精製酸型SL含有物100gを、62.5%硫酸水溶液9gと混合して、pH3前後になるように調整し、冷蔵庫(約7℃)で一晩保存した。保存後、ゲル化した内容物を乳鉢に移し、200gの冷却水(冷蔵庫で冷蔵保存した蒸留水)を加えてすり潰し、懸濁状にした。これをガラス漏斗に移し、ろ過して冷却水を除去した後、得られたろ物(ろ過残渣)に再び冷却水を200ml投入し、薬さじでかき混ぜて分散させ、分散液を減圧下でろ過し冷却水を除去した。この操作を5回繰り返し、トータル1000mLの冷却水で洗浄を行った。得られた洗浄物をガラス漏斗に入れた状態で50℃のインキュベーターに入れて加温し溶解させた。これを減圧下でろ過してろ液を回収し、これを冷凍庫(−30℃)内で冷却凝固させた後、凍結乾燥処理により粉末化した。 得られた粉末は、実施例品2(高純度酸型SL含有物)と同様に発酵副産物特有の不快な臭気はしなかった。このことから、実施例1及び2のカラム精製に代えて、参考製造例2で得られた粗精製酸型SL含有物を酸性条件下で冷却ゲル化させる当該実施例4の方法でも、不純物(臭い成分)が有意に除去された高純度酸型SL含有物が得られることが確認された。なお、当該方法の回収率は酸型SL含有物100gに対して3回の平均で16.2%であった。 比較例1 参考製造例1で得られるラクトン型/酸型SL含有物に酢酸エチルと水を加え、酢酸エチル層を抽出した。抽出した酢酸エチル層をエバポレーターで濃縮し、これに水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH12に調整した。次いで、これを80℃で2時間処理して加水分解し、酸型SL含有物を得た(比較例品1)。 比較例2 参考製造例1で得られるラクトン型/酸型SL含有物にヘキサンを加え、抽出したヘキサン層を除去した。残部(SL画分)50gに5Mの水酸化ナトリウム水溶液を100g加え、80℃で2時間処理して加水分解した。次いで室温まで放冷後、HCl水溶液でpH2に調整し、酸型SLを沈殿させた。上清(水層)を除去し、沈殿した酸型SL層を取り出し、水分をメタノールと共沸留去して、酸型SL含有物を得た(比較例品2)。 比較例3〜5 実施例1において、参考製造例2で得られた粗精製酸型SL含有物をpH3.2に調整する代わりに、pH7.0に調整した以外は実施例1と同様にして、酸型SL含有物(比較例品3)を得た。同様に、粗精製酸型SL含有物をpH3.2に調整する代わりに、pH9.0(比較例品4)及びpH10.0(比較例品5)に調整して、酸型SL含有物(比較例品4及び5)を得た。実施例品1と比較例品3〜5について、SL回収率を下表に示す。実施例品1は、比較例品3〜5と比較して、回収率に優れたものであった。 試験例1 臭気成分の測定 上記の参考製造例、実施例及び比較例で得られた酸型SL含有物(実施例品2、実施例品4、参考製造例品1、及び比較例品2)について、「ヘッドスペース・ガスクロマトグラフィー・水素炎イオン検出器(HS-GC-FID)」を用いて臭気成分を分析定量した。 (1)実験方法 各試料のエタノール可溶分1gを、19mLのシリンジバイアル(胴径27mm×高さ55mm×口内径15mm)に投入し、さらに内部標品として、5000ppmの1−ブタノール水溶液50μL加えてから、5%硫酸水溶液で全量を3mLに調整した。シリングバイヤルの蓋を閉め、60℃で20分以上加温して試料固形物を完全に溶解させてバイアル内の気相部を平衡状態にした。60℃以上で加温しておいたマイクロシリンジMS−GLL500(伊藤製作所)で気相部を1ml回収し、ガスクロマトグラフGC−2014に供した。ガスクロマトグラフの条件は以下の通り行った。 [GC条件] ・キャピラリーカラム:DB−WAX(長さ30m×内径0.25mm×膜厚0.25mm) ・キャリアガス:窒素 (流速1.2ml/分) ・昇温条件;40℃(5分間)、40〜240℃(8℃/分)、240℃(5分間) ・気化室温度;200℃ ・検出器温度;270℃ ・試料注入方法;スプリットレス。 [定量方法] 内部標準法を用いて定量した。得られた酢酸ピーク面積値およびトータルピーク面積値(但し、内部標品面積値を減算)を内部標品の面積値で割って、マイクロシリンジ1mlに含まれている濃度(μg/mL)として算出した。[数4] 酢酸濃度(μg/mL)=酢酸ピーク面積値/内部標品面積値 × 250 トータル臭気濃度(μg/mL)=([トータル面積値−内部標品面積値]/内部標品面積値)×250(2)実験結果 上記方法により得られた各試料(n=2)に含まれる酢酸濃度及び臭気成分の総量(トータル臭気濃度)を下記表に示す。 この結果からわかるように、実施例2及び4で調製された本発明の高純度酸型SL含有物(実施例品2、実施例品4)は、刺激臭の原因となる酢酸を実質的に含んでおらず(検出限界5μg/ml未満)、また臭気成分のトータル量も極めて低く、実質的に無臭であると判断できる。 (3)経時的安定性について 上記実施例品2及び4(n=2)について、室温で数ヶ月間(実施例品2:9ヶ月、実施例品4:6ヶ月)保存した後に、再度臭気分析を行い、製品の経時的安定性を評価した。 結果を、上記の結果と併せて下記表に示す。 上記の結果から、いずれの試料も長期間室温に放置しても刺激臭の原因となる酢酸は発生しないことが確認された。実施例品4は長期保存によりトータルの臭気量がやや増える傾向があるものの、実施例品2はそれも有意に抑制されていることが確認された。 試験例2 各試料の物性測定 上記の参考製造例、実施例及び比較例で得られた酸型SL含有物(実施例品2、実施例品4、参考製造例品1、及び比較例品2)について、強熱残分、エステル価、蒸発残分、乾燥減量、エタノール可溶分、及び赤外吸収スペクトルを測定した。 (1)試験の概要 (2)試験方法 (A)強熱残分 強熱残分試験は、被験試料を下記の方法[第1法]で強熱した後に残留する物質の量を測定する方法である。通常、有機物中に不純物として含まれる無機物の含量を知る目的で行われるが、場合によっては、有機物中に構成成分として含まれる無機物又は揮発性無機物中に含まれる不純物の量を測定するために行なわれる。例えば、本発明において「強熱残分0.1%以下(第1法、1g)と規定したものは、被験試料約1gを精密に量り、下記第1法の操作法によって強熱したとき、その残分が被験試料の採取量の0.10%以下であることを示す。 [試料の採取法]白金製、石英製または磁製のるつぼを恒量になるまで強熱し、デシケーター(シリカゲル)中で放冷した後、その質量を精密に量る(採取量)。これに規定量の±10%の範囲の試料を精密に測定し、次の操作を行う。[第1法]るつぼの上で試料を硫酸少量で潤し、徐々に加熱してなるべく低温でほとんど灰化又は揮散させた後、硫酸で潤し、完全に灰化し、恒量になるまで強熱(450〜550℃)する。これをデシケーター(シリカゲル)中で放冷した後、質量を精密に量る。得られた測定値(残分)とあらかじめ測定しておいた採取量から、下式により強熱残分(%)を算出する。[数5] 強熱残分(%)=([W2−W3]/[W1−W3])×100 W1:採取量と試料容器(るつぼ)の質量(g) W2:残分と試料容器(るつぼ)の重量(g) W3:試料容器(るつぼ)の質量(g)(B)エステル価 けん化価(試料1g中の遊離酸の中和及びエステルのけん化に要する水酸化カリウムのmg数:JIS K 3331、日本油化学協会規定の基準油脂分析試験法[2.3.2.1-1996]))と酸価(試料1g中に含有する遊離酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数:JIS K 3331、日本油化学協会法の基準油脂分析試験法[2.3.1-1996])との差として求めることができる他、直接測定する方法として、下記の方法を用いることができる。 [直接法] 試料約3gをけん化用フラスコに正しくはかり取り、95vol%エタノール50mLを加えてフェノールフタレイン指示薬を用いてよく振り混ぜながら、0.1mol/L 水酸化カリウム標準液で滴定中和する(酸価が求められる)。次にこれに0.5mol/L水酸化カリウム−エタノール標準液25mLを正しく加え、フラスコに冷却器をつけ、時々振り混ぜながら、還流するエタノールが冷却器の上端に達しないように加熱温度を調節して穏やかに加熱する。フラスコの内容物を30分間沸騰させた後、直ちに冷却し、内容物が寒天状に固まらないうちに、冷却器をはずして、フェノールフタレイン指示薬を数滴加え、0.5mol/L塩酸標準液で滴定し、指示薬の微紅色が消え、それが30秒間続いたときに終点と定め、要した0.5mol/L塩酸標準液の使用量を「本試験の0.5mol/L塩酸標準液の使用量(mL)」とする。なお、並行して、95vol%エタノール50mLを取り、0.5mol/L水酸化カリウム−エタノール標準液25mLを正しく加えたものについて空試験を行い、空試験において要した0.5mol/L塩酸標準液の使用量を「空試験の0.5mol/L塩酸標準液の使用量(mL)」とし、下式から、エステル価を算出する。 [数6] エステル価=[28.05×(A−B)×F]/C A:空試験の0.5mol/L塩酸標準液使用量(mL) B:本試験の0.5mol/L塩酸標準液使用量(mL) C:試料採取量(g) F:0.5mol/L塩酸標準液のファクター(C)蒸発残分[蒸発残分試験] 試料の重量を精密に秤量した後、JIS K0067-1992規定の第2法(熱板上で加熱蒸発する方法)に従って蒸発乾固し、その残分を量り、下式から蒸発残分(%)を求める。 [数7] 蒸発残分(%)=([W2−W3]/[W1−W3])×100 W1:試料と試料容器の質量(g) W2:残分と試料容器の重量(g) W3:試料容器の質量(g)(D)乾燥減量[乾燥減量試験] 試料の重量を精密に秤量した後、JIS K0067-1992規定の第1法(大気圧下で加熱乾燥する方法)に従って加熱乾燥し(105±2℃、2時間)、乾燥後の減量を量り、下式から乾燥減量(%)を求める。[数8] 乾燥減量(%)=([W1−W2]/[W1−W3])×100 W1:乾燥前の試料とはかり瓶の質量(g) W2:乾燥後の試料とはかり瓶の重量(g) W3:はかり瓶の質量(g)(E)エタノール可溶分 エタノール可溶分は、試料をエタノールで溶解し、エタノールに溶ける物質の量を示したものである。 [測定方法] 三角フラスコ及びガラスろ過器の重量を正確に測定する。これらの重量は105℃で2時間以上乾燥後、デシケーター内で放冷してから測定する。三角フラスコに試料約5gを1mg単位まで正確に量り取り、エタノールを試料の100mL添加して、ガラス管を付けて水浴上で30分間加熱し、時々振り混ぜながら溶解する。なお、粉状または粒状試料には95vol%エタノールを使用し、液状又はペースト状試料には99.5vol%のエタノールを使用する。温溶液のままガラスろ過器を用いてろ過し、三角フラスコの残量に再びエタノール50mLを加えて溶解する。温溶液をガラスろ過器を用いてろ過し、熱エタノールで三角フラスコ及びガラスろ過器をよく洗浄する。室温まで放冷し、全量フラスコ250mLにろ液および洗液を移し、エタノールを標線まで加え、この中から、全量ピペットを用いて、100mLずつ質量既知の2個のビーカー200mLに分取する。そのうちの1個を、水浴上で加熱してエタノールを除いた後、105±2℃に調節した乾燥器で1時間乾燥し、デシケーターで放冷後重量を正確に測定する。 以下の式からエタノール可溶分を算出する。[数9] エタノール可溶分(質量%)=(A/[S×100/250])×100 =([250×A]/S) A:乾燥残量(g) S:試料の質量(g)(F)赤外吸収スペクトル 液体試料は105±2℃で3時間加熱乾燥固化したものを使用し、固体試料はそのまま使用した。赤外吸収スペクトルについては、フーリエ変換赤外分光分析装置SpectrumTM100(パーキンエルマージャパン製)を使用し、ATR法で分析した。 (3)試験結果 上記試験結果を下表に示す。 この結果からわかるように、本発明の高純度酸型SL含有物(実施例品2、実施例品4)は、強熱残分が0〜30%の範囲でかつエステル価が0〜20mgKOH/gの範囲であり、その点で参考製造品1(ラクトン型/酸型SL含有物)及び比較例品2(粗精製酸型SL含有物)とは有意に異なるものである。 さらに、本発明の高純度酸型SL含有物(実施例品2、実施例品4)は、蒸発残分が91〜100%、乾燥減量が0〜9%、及びエタノール可溶分が80〜100%であり、これらの点からも参考製造品1及び比較例品2と有意に異なるものである。 さらに本発明の高純度酸型SL含有物(実施例品2、実施例品4)は、赤外線吸収スペクトルにおいて1706cm-1に吸収ピークを有するが、参考製造品1及び比較例品2は、赤外線吸収スペクトルにおいて上記に該当する吸収ピークがない。従って、その点においても本発明の高純度酸型SL含有物は、従来の酸型SL含有物と相違するものであることがわかる。 試験例3 酸型ソホロリピッドのゲル化条件の検討 実施例4に示すように、酸型SLは、酸性条件下で冷蔵保存することでゲル化するが、ここではどういう条件(pH、温度)でゲル化するかを調べた。 (1)試験方法 参考製造例2で調製した酸型SL含有物(参考製造例品2)(25g)を、それぞれ62.5%硫酸水溶液でpH2〜7(pH2, 3, 4, 5, 6, 7)に調整し、各調製液から10g採取して各試験管に移した。これらの試験管を−25℃〜20℃に置き、経過時間と外観変化(液性状態)を記録した。 (2)試験結果 結果を下表に示す。 表からわかるように、20℃条件ではいずれのpHでも液状のままであり、ゲル化はみられなかった、15℃及び10℃になると、pH2から4でゲル化し始めた。pH5から7では、ゲル化し始めるのが10℃以下、好ましくは−10℃以下であり、−25℃ではいずれのpHでもゲル化して固まった。このことから、ゲル化条件として、pH2〜4の強酸性条件では15℃以下、好ましくは10℃以下;pH4より高くpH6以下の弱酸性条件では10℃以下、好ましくは−10℃以下:pH6より高くpH7以下の弱酸性条件では−20℃以下を挙げることができる。 実施例4に示すようにゲル状の酸型SLを水洗して精製する場合、水の凍結を避けるため、0℃以上の温度条件を採用することが好ましい。このため、ゲル化するpH条件としては、0℃以上で酸型SLがゲル化するpH4以下が好ましい。 試験例4 実施例品2、参考製造例品1及び比較例品2をそれぞれ用いて、下表に記載の組成で化粧水を作製し(試作品1〜5)、pH、臭い及び外観を観察した後、安定性試験に供した。安定性試験は、50℃の恒温条件(暗所)に1ヶ月保存した後、外観変化を観察することで行った。各試験とも、5名のパネラーが下記の基準で評価し、最も多かった回答を試験結果とした。 [臭い]○:刺激臭なし×:刺激臭あり[経時安定性]○:外観上、変化なし△:分離、沈殿物などが少し生じている×:完全に分離している。 結果を表13に示す。 表13に示すように、実施例品2、参考製造例品1および比較例品2を用いて調製した化粧水(試作品1〜5)はいずれも外観は透明であり、経時的にも安定であった。しかし、参考製造例品1および比較例品2を用いて調製した化粧水(試作品4及び5)は臭い(刺激臭)が認められるのに対し、本発明の実施例品2を用いて調製した化粧水(試作品1〜3)はいずれも臭い(刺激臭)は認められなかった。 試験例5 実施例品2、ラウリン酸ポリグリセリル−10、参考製造例品1、及び比較例品2を用いて下表に記載の組成で乳液を作製し、pH、臭い及び外観を観察するとともに、試験例4と同様の方法で安定性試験(50℃、7日間)を行った。なお、ラウリン酸ポリグリセリル−10は、実施例品2の酸型SL(粉末)に近いHLBをもつ界面活性剤である。 外観は次の基準で、臭い及び経時安定性は試験例4と同様の基準で評価した。 [外観]○:乳白色、油滴及び分離なし△:乳白色、油滴が見られる×:完全に分離している。 参考製造例品1および比較例品2を用いて調製した乳液(試作品13〜20)には刺激臭が認められ、経時安定性も悪いことがわかった。これに対して、実施例品2を用いて調製した乳液(試作品6〜11)はいずれも刺激臭が認められず、経時安定性も改善されていた。さらに、実施例品2を用いて調製した乳液(試作品6〜11)は、一般的に乳化剤として使用されているラウリン酸ポリグリセリル−10を用いて調製した乳液(試作品12)と比較しても、優位に経時的安定性に優れていることが分かった。 試験例6 実施例品2、実施例品4、参考製造例品1、及び比較例品2を用いて表10に記載の組成で100gの乳化物を作製し、40gずつ2つの丸型計量規格ビン(型式No.10)に移し、一つを暗所室温(25±5℃)条件下で1日間静置し、もう一方を暗所50℃条件下で1日間静置した。1日間静置後、規格ビンを上下ひっくり返すように静かに攪拌し、その後の外観をもとに乳化安定性を評価した。なお、成分として配合するオレオレジンパプリカ10000CVは油溶性色素であるため、乳化物内で合一による油層が形成された場合は、油層がオレンジ色になって現われる。つまり、乳化安定性が低い場合は、表面にオレンジ色の油層が形成される。そこで乳化安定性については、次の基準で評価した。 [乳化安定性]○:表面にオレンジ色の油滴または油層は認められない。△:表面に油層は確認されないが、僅かにオレンジ色の油滴が見られる。×:表面にオレンジ色の油層が見られる。 参考製造例品1および参考比較例品2で調製した乳化物(試作品23および24)ではオレンジ色の油層が確認されたことから、乳化安定性が失われ、合一が生じていると考えられる。これは、参考製造例品1ではエステル価が20mgKOH/gより大きくソホロリピッドの分子集合体として不均一であるためであり、また比較例品2では強熱残分が30%より多く含まれており乳化物内で合一が起こりやすくなっているためと考えられる。これに対して、実施例品2および実施例品4で調製した乳化物(試作品21および22)は油層が確認されず、試作品23および24よりも乳化安定性が改善されていることが確認された。 試験例7 実施例品2、参考製造例品1又は比較例品2を用いて表○に記載の組成でクリームを作製し、試験例4〜6と同様の方法及び基準にて臭い及び外観を観察し、安定性試験(50℃、1ヶ月間)を行った。 上記の結果から、実施例品2を用いて調製したクリーム(試作品21及び22)はいずれも刺激臭がなく、1ヵ月保存後も安定であることがわかった。 本発明の製造方法によれば、簡便な方法で低エネルギーかつ安全に高純度の酸型ソホロリピッドを調製することができる。本発明の高純度酸型ソホロリピッド含有物は、好ましくない臭い、特に酢酸に起因する刺激臭を有しないため、食品、化粧品及び医薬等にも好適に適用することができる。工程(i)及び(ii−b)を有することを特徴とする、酸型ソホロリピッド含有物の製造方法:(i)ソホロリピッド産生酵母の培養液またはその処理物をアルカリ加水分解して得られる粗精製酸型ソホロリピッド含有物のpHを7未満の酸性領域に調整する工程、(ii−b)前記工程(i)で得られた酸性化粗精製酸型ソホロリピッド含有物をそのpHに応じて下記の低温条件下に静置して、生じたゲル化物を15℃以下の水を含む冷溶媒で洗浄し、ゲル状の酸型ソホロリピッド含有物を取得する工程:(a)pH4以下の場合、−25℃〜15℃、(b)pH4より高くpH5以下の場合、−25℃〜10℃、(c)pH5より高くpH6以下の場合、−25℃〜−10℃、(d)pH6より高くpH7未満の場合、−25℃〜−20℃。 さらに下記の工程を有する、請求項1に記載する製造方法。(iii)工程(i)および工程(ii−b)で得られたゲル状の酸型ソホロリピッド含有物を溶解した液状の酸型ソホロリピッド含有物を蒸留する工程、及び(iv)上記蒸留残液から酸型ソホロリピッドを析出させる工程。 前記(iv)の工程がスプレードライ工程であることを特徴とする、請求項2に記載する製造方法。 さらに下記の工程を有する、請求項1に記載する製造方法。(v)工程(i)および工程(ii−b)で得られたゲル状の酸型ソホロリピッド含有物を冷却固化する工程、及び(vi)上記冷却固化物を乾燥させる工程。 前記(v)及び(vi)の工程がフリーズドライ工程であることを特徴とする、請求項4に記載する製造方法。 下記特性を有する酸型ソホロリピッド含有物の製造方法である、請求項1乃至5のいずれかに記載する製造方法:(1)下記条件のヘッドスペース・ガスクロマトグラフィー・水素炎イオン検出器を用いた分析において、酢酸が検出限界(5μg/シリンジ1ml)未満である:[GC条件] キャピラリーカラム:DB−WAX(長さ30m×内径0.25mm×膜厚0.25mm) キャリアガス:窒素(流速1.2ml/分) 昇温条件;40℃(5分間)、40〜240℃(8℃/分)、240℃(5分間) 気化室温度;200℃ 検出器温度;270℃ 試料注入方法;スプリットレス。 酸型ソホロリピッド含有物がさらに下記(2)および(3)、または(2)および(3)並びに(4)〜(6)のいずれか少なくとも1つの物性を有するものであることを特徴とする、請求項6に記載する製造方法:(2)強熱残分:0〜30%、(3)エステル価:0〜20mgKOH/g、(4)蒸発残分:1〜100%、(5)乾燥減量:0〜99%、(6)エタノール可溶分:1〜100%。 酸型ソホロリピッド含有物がさらに下記の物性を有するものであることを特徴とする、請求項6または7に記載する製造方法:赤外吸収スペクトルにおいて、少なくとも波数1024cm−1付近、1706cm−1付近、2854cm−1付近、2924cm−1付近、および3000〜3500cm−1付近に赤外線吸収バンドを有する。


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