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タイトル:公開特許公報(A)_ハロモナス菌を用いたピルビン酸の製造方法
出願番号:2014086578
年次:2015
IPC分類:C12P 7/50,C12R 1/01


特許情報キャッシュ

河田 悦和 坪田 潤 松下 功 JP 2015204769 公開特許公報(A) 20151119 2014086578 20140418 ハロモナス菌を用いたピルビン酸の製造方法 国立研究開発法人産業技術総合研究所 301021533 大阪瓦斯株式会社 000000284 特許業務法人三枝国際特許事務所 110000796 河田 悦和 坪田 潤 松下 功 C12P 7/50 20060101AFI20151023BHJP C12R 1/01 20060101ALN20151023BHJP JPC12P7/50C12P7/50C12R1:01 7 OL 15 4B064 4B064AD52 4B064CA02 4B064CC06 4B064CC12 4B064CD02 4B064CD09 本発明は、ハロモナス菌を用いたピルビン酸の製造方法に関する。 近年、エネルギーのみならずケミカル・リファイナリーのバイオベース化、工業用原料の石油からバイオマスへの転換等が課題となっている。 ピルビン酸は多くの生物の代謝において重要な化合物であり、解糖系として知られるグルコースの嫌気性代謝による生産物である。嫌気的代謝過程において、グルコース1分子はピルビン酸2分子へと分解され、これに続く好気的代謝の過程において、ピルビン酸はクレブス回路(TCA回路、クエン酸回路)として知られる一連の反応の主要な材料であるアセチル補酵素Aへと変換される。また、ピルビン酸は補充反応によってオキサロ酢酸にも変換される。そしてオキサロ酢酸はクレブス回路の中間体を補充し、糖新生にも使用される。 十分な酸素が供給されない環境下では、ピルビン酸は嫌気的に分解されて乳酸、エタノール等が生成する。解糖系から産生したピルビン酸は、乳酸発酵において乳酸脱水素酵素と補酵素NADHを用いて、又はアルコール発酵においてアセトアルデヒド、更にエタノールへと変換される。また、ピルビン酸は糖新生によって炭水化物、アセチルCoA等を介して脂肪酸;エネルギー;アラニン;エタノール等へと変換することができる。すなわち、ピルビン酸は代謝経路ネットワークの鍵となる化合物である。 ピルビン酸の用途はその反応性が高いことから、医薬、農薬等の合成の基質といったファインケミカルにおける重要な中間体として用いられ、また、細胞にエネルギーを供給する際に解糖系を経由しないことから、輸液、サプリメント等への応用も期待されている。 ピルビン酸の製造方法として、カンジダ属(Candida)に属するカンジダ・エスピー・MC−P0101株(Candida sp. MC−P0101)FERM BP−7539によるピルビン酸の発酵生産が示されている(特許文献6)。 本発明者らは、微細藻類スピルリナの効率的な培養方法を検討する中で、ある条件下では、ハロモナス属に属する好塩菌が唯一の混入する菌として生育することを認めた。当該好塩菌そのものは、通常はpH5〜12程度の条件下の、高濃度のナトリウムを含む培地中でも良好に生育するため、好気発酵下であっても他のバクテリア等の混入が極めて起こりにくいことが知られている。そこで、当該好塩菌の各種の炭素源の資化性を検討していたところ、当該好塩菌の菌体内に著量のPHBを蓄積していること明らかにした(特許文献1)。更に、検討を進める中で、当該ハロモナス属菌が好気条件で菌体内にPHBを蓄積し、その後微好気条件に移行するとことで、PHBのモノマーである3−ヒドロキシ酪酸を培養液中に分泌産生することを見いだした(特許文献2、3)。また、別途検討を進めるなかで、生育初期の段階において培地に乳酸、酢酸等を分泌すること(特許文献4)、バイオディーゼル廃グリセロール等を含む培地を用いることでアルファケトグルタル酸、グルタミン酸が培養液中に分泌生産されることを見いだした(特許文献5)。 そしてハロモナス属菌による発酵技術の鋭意検討を進めるなかで、菌体濃度が高くなった段階でグルコースが消費されているものの、菌体内のPHBの蓄積量の増加が頭打ちになる現象を見いだした。国際公開第2009/041531号パンフレット特開2013−081403号公報特願2014−030915号公報特許5229904号公報特願2012−170385号公報特開2003−024048号公報 上述のような特許文献6に記載されるカンジダ属菌を培養するには滅菌環境が必須であり、更にポリペプトン、酵母エキス等といった高価な培地成分を必要とするところ、工業的に優れたピルビン酸の製造方法とは言い難い。 本発明は、ピルビン酸の発酵産生方法を提供することを目的とする。特に、安価で且つ簡便なピルビン酸の発酵生産方法を提供することを目的とする。 本発明者らは、好塩菌を用いた発酵生産過程においてPHBを著量蓄積する培地条件で培養の検討をしていたところ、過剰の炭素源存在下で、菌体濃度が高くなった段階で、培養液のpHの低下が見られることを認めた。そこで、この培養液を分析したところ、培養液中に著量のピルビン酸などが蓄積していることを見出した。 好塩菌を発酵培養することによりハロモナス属菌体内にポリヒドロキシアルカノエート(PHAs)が蓄積されると、炭素源の一部が乳酸、酢酸等として培養液中に分泌され、培養の過程において上記菌体により再度取り込まれて栄養源として利用されてしまい、培養時間が長くなると、結果として乳酸、酢酸等は培地中から無くなってしまう。 これに対して、ピルビン酸はハロモナス属菌の培養液中にて菌体濃度が上昇しても、PHBへの合成等が進行することなく、培養液中に分泌され続け、その結果として培養液のpHを低下することを確認した。 更に、本発明者らは好塩菌が高価なペプトンや酵母エキスを用いることなく高アルカリ条件下でピルビン酸を産生させることができるため、低コストでの培養及び他のバクテリアのコンタミが起こりにくい環境での培養することでピルビン酸を産生できることを見出した。 本発明は、これら知見に基づいて鋭意検討を重ねて完成されたものであり、以下に示す広い態様の発明を含むものである。 項1 下記の工程(1)〜(3)を含む、ピルビン酸又はその塩の製造方法:(1)ハロモナス属に属する好塩菌を、有機炭素源及び無機塩を含有する培地中で好気培養する工程1、(2)培養液中に、窒素源、金属塩、及びホウ酸塩からなる群より選択される少なくとも1つを添加する工程2、(3)工程2で得られる培養液から、ピルビン酸又はその塩を回収する工程3。 項2 工程2における窒素源が、硝酸塩、亜硝酸塩、アンモニウム塩、及び尿素からなる群より選択される少なくとも1つである、上記項1に記載の製造方法。 項3 工程2における金属塩が、亜鉛塩、モリブデン塩、マンガン塩、銅塩、及びコバルト塩からなる群より選択される少なくとも1つの金属である、請求項1又は2に記載の製造方法。 項4 工程2における窒素源、金属塩、及びホウ酸塩からなる群より選択される少なくとも1つを添加する時期が、培養液のOD600が30以上となる時期である、上記項1〜項3の何れか1項に記載の製造方法。 項5 工程1における、培養条件が20〜45℃である、上記項1〜項4の何れか1項に記載の製造方法。 項6 工程2にて得られる培養液1L当たり、10g以上のピルビン酸又はその塩が含まれることを特徴とする上記項1〜項5の何れか1項に記載の方法。 項7 前記好塩菌がハロモナス・エスピー(Halomonas sp.)KM−1株(FERM BP−10995)である、上記項1〜項6のいずれか1項に記載の方法。 本発明に係る製造方法は、ピルビン酸又はその塩を培養液中に産生させることができる。 本発明に係る製造方法は、ハロモナス属に属する好塩菌を培養する工程が含まれるが、斯かる好塩菌の培養は、他の細菌の混入が起こりにくい環境で培養することが可能であり、非滅菌培地及び/又は非滅菌環境下での培養が可能である。更に、供気条件の変更も容易であることから優れた製造方法である。 本発明に係る製造方法にて用いる好塩菌は、例えば、安価な無機塩に加え、バイオディーゼル生産に副生する廃グリセロール、エタノール発酵等の過程で生産される木材糖化液;生ごみ等の発酵で得られる有機酸等を有機炭素源として単独で、又は他の有機炭素源と組み合わせて用いることが可能である。さらに、酵母細胞を用いたエタノール発酵において得られ、利用が難しいとされる五炭糖のキシロース、アラビノース等を有機炭素源として有効に利用することも可能である。 本発明に係る製造方法では、ピルビン酸又はその塩を培養液中にて生産させることが可能である。ピルビン酸の産生は一連のハロモナス属菌体の増殖中にて行われるため、一段階の培養でのピルビン酸の産生が可能である。 また、菌体培養液からピルビン酸又はその塩を含む画分を簡便に回収することが可能であり、精製工程を行ったとしても、簡易な精製方法が適用できるため、優れた製造方法である。 この点に関して、本発明に係る製造方法ではハロモナス属に属する好塩菌体の溶菌を伴わない条件にてピルビン酸又はその塩をその培養液中から回収することができるので、ピルビン酸又はその塩を精製する際に、溶菌に伴う核酸、タンパク質、糖質、脂質等といった夾雑分子を除去するための精製工程が非常に簡便になるといった効果を有する。 特に、本発明に係る方法によると、ピルビン酸を回収する際の培養液がアルカリ性になっており、ピルビン酸が塩を形成しにくい環境であるため、ピルビン酸の回収に有効である。 本発明に係る製造方法によって得られるピルビン酸又はその塩は、医療用の輸液等に添加したり、健康食品などとして利用するだけでなく、化粧品、医薬品などの素材、化成品原料等として有用である。実施例の製造例1に示す方法によって得られた、乾燥菌体重量CDM(縦軸:g/Lと培養時間(横軸:h))を示すグラフ。 グラフ中の●(黒丸)は、培養開始から18時間目、24時間目、36時間目、48時間目、60時間目それぞれに、2.5g/Lの硝酸ナトリウム加えたものの結果を示す。グラフ中の▲(黒三角)は、培養開始後、硝酸ナトリウム加えなかったものの結果を示す。実施例の製造例1に示す方法によって得られた、ピルビン酸濃度(縦軸:ピルビン酸(g)/培養上清(L)と培養時間(横軸:h))を示すグラフ。 グラフ中の●(黒丸)は、培養開始から18時間目、24時間目、36時間目、48時間目、60時間目それぞれに、2.5g/Lの硝酸ナトリウム加えたものの結果を示す。グラフ中の▲(黒三角)は、培養開始後、硝酸ナトリウム加えなかったものの結果を示す。実施例の製造例2に示す方法によって得られた、乾燥菌体重量CDM(縦軸:g/Lと培養時間(横軸:h))を示すグラフ。 グラフ中の●(黒丸)は、培養開始から33℃で培養したものの結果を示す。グラフ中の▲(黒三角)は、培養開始から37℃で培養したものの結果を示す。グラフ中の■(黒四角)は、培養開始から40℃で培養したものの結果を示す。実施例の製造例2に示す方法によって得られた、ピルビン酸濃度(縦軸:ピルビン酸(g)/培養上清(L)と培養時間(横軸:h))を示すグラフ。 グラフ中の●(黒丸)は、培養開始から33℃で培養したものの結果を示す。グラフ中の▲(黒三角)は、培養開始から37℃で培養したものの結果を示す。グラフ中の■(黒四角)は、培養開始から40℃で培養したものの結果を示す。実施例の製造例3に示す方法によって得られた、乾燥菌体重量CDM(縦軸:g/Lと培養時間(横軸:h))を示すグラフ。 グラフ中の●(黒丸)は、Halomonos sp. KM−1の結果を示す。グラフ中の▲(黒三角)は、Halomons meridian:NBRC15608の結果を示す。グラフ中の■(黒四角)は、Halomons pantelleriensis: ATCC700273の結果を示す。グラフ中の◆(黒ダイヤモンド)は、Halomonas campisalis:ATCC700597の結果を示す。実施例の製造例3に示す方法によって得られた、ピルビン酸濃度(縦軸:ピルビン酸(g)/培養上清(L)と培養時間(横軸:h))を示すグラフ。 グラフ中の●(黒丸)は、Halomonos sp. KM−1の結果を示す。グラフ中の▲(黒三角)は、Halomons meridian:NBRC15608の結果を示す。グラフ中の■(黒四角)は、Halomons pantelleriensis: ATCC700273の結果を示す。グラフ中の◆(黒ダイヤモンド)は、Halomonas campisalis:ATCC700597の結果を示す。 本発明に係るピルビン酸又はその塩の製造方法は下記の工程(1)〜(3)を含む製造方法である。(1)ハロモナス属に属する好塩菌を、有機炭素源及び無機塩を含有する培地中で好気培養する工程1、(2)培養液中に、窒素源、金属塩、及びホウ酸塩からなる群より選択される少なくとも1つを添加する工程2、(3)工程2で得られる培養液から、ピルビン酸又はその塩を回収する工程3。 本発明に係る製造方法によって製造されるピルビン酸の塩とは、製造時に使用するハロモナス属に属する好塩菌の培地中に含まれる成分に由来する陽イオン及び/又は菌体内に存在する陽イオンによって形成される塩であり、特に限定はされないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、コバルト塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、モリブデン塩、アンモニウム塩、リチウム塩、銀塩、水銀塩、ストロンチウム塩、バリウム塩、カドミウム塩、ニッケル塩、スズ塩、鉛塩、マンガン塩、アルミニウム塩等が挙げられる。工程1について 本発明に係るピルビン酸又はその塩の製造方法における工程1は、ハロモナス属に属する好塩菌を、有機炭素源及び無機塩を含有する培地中で好気培養する工程である。<A:好塩菌> 本発明の製造方法工程1にて用いる好塩菌は、下記の(i)又は(ii)のいずれかによって示されるハロモナス属に属する好塩菌を用いればよい。(i)無機塩と単一若しくは複数の有機炭素源を含む培地にて好気的に増殖し、ピルビン酸又はその塩を菌体外の培地中に生産させることを特徴とする好塩菌。(ii)無機塩と単一若しくは複数の有機炭素源を含む培地にて好気的に増殖した後、ピルビン酸又はその塩を菌体外の培養液に分泌産生することを特徴とする好塩菌。 なお、「無機塩」及び「有機炭素源」については、<培地>の欄にて後述する。このようなハロモナス属に属する好塩菌は、酸化的代謝も嫌気的代謝も使い分けることができ、遊離酸素の存在の有無にかかわらず生存が可能で、且つ、遊離酸素の存在下のほうが生育し易い傾向となる、所謂、通性嫌気性菌の性質を有する菌体である。 上述のハロモナス属に属する好塩菌は、0.1〜1.0Mの塩濃度を適とする好塩性を有し、時には塩を含まない培地においても生育する細菌である。そして、上述のハロモナス属に属する好塩菌は、通常はpH5〜12程度の培地にて生育する。 上述のハロモナス属に属する好塩菌として、例えば、ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.)KM−1株が挙げられる。ハロモナス・エスピーKM−1株は、平成19年7月10日付で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305−8566茨城県つくば市東1−1−1中央第6)に受託番号FERM P−21316として寄託されている。また、この菌株は、現在国際寄託に移管されており、その受託番号はFERM BP−10995である。当該ハロモナス・エスピーKM−1株の16S rRNA遺伝子は、DDBJにAccession Number AB477015として登録されている。 また、上述したようなハロモナス属に属する好塩菌の生育特性等に鑑みて、本発明に係る製造方法において用いる好塩菌として、ハロモナス・エスピーKM−1株以外に、ハロモナス・パンテラリエンシス(Halomonas pantelleriensis:ATCC 700273)、ハロモナス・カンピサリス(Halomonas campisalis:ATCC 700597)、ハロモナス・メリディアナ(Halomonas meridiana:NBRC15608)等も挙げることができる。 さらに、16SリボゾームRNA配列による分析から、上述のハロモナス属に属する好塩菌に限らず、ハロモナス・ニトリトフィルス、ハロモナス・アリメンタリア、ハロモナス・メリディアナ等も、本発明に係る製造方法にて用いるハロモナス属に属する好塩菌として使用してもよい。 なお、上述したハロモナス属に属する好塩菌には、遺伝子が導入されていてもよい。導入される遺伝子は、本発明に係る製造方法において、ピルビン酸又はその塩の生産効率等を向上させる機能を発現させるものであれば特に限定されない。例えば、ピルビン酸の発現量を増大させる遺伝子、ピルビン酸の該菌体外への分泌を上昇させる機能を発現させる遺伝子;ピルビン酸又はその塩を培養液にて生産する機能を増大させる遺伝子;ピルビン酸又はその塩の産生量を増大させる遺伝子等が挙げられる。組換えDNAの当該菌体への導入方法及びこれによる形質転換方法としては、一般的な各種方法を採用できる。<B:培地> 工程1にて用いる培地は、無機塩と及び有機炭素源を含有する。培地のpHは特に限定されないが、上述した好塩菌の生育条件を満たすpHであることが好ましく、具体的にはpH5〜12程度にすればよい。より好ましくはpH8.8〜12の培地である。アルカリ性の培地を用いれば、他の菌のコンタミネーションをより効果的に防止することができ、また分泌されたピルビン酸によって生じるpHの大幅な低下を抑制するので好ましい。 工程1にて用いる培地に配合する無機塩は、特に限定されることは無く、例えばリン酸塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、及びナトリウム、マグネシウム、カリウム、マンガン、鉄、亜鉛、銅、コバルト等の金属塩が挙げられる。 例えば、ナトリウムを無機塩として用いる場合は、NaCl、NaNO3、NaHCO3、Na2CO3等を用いればよい。 これらの無機塩は、上述の好塩菌にとって窒素源やリン源となるような化合物を用いることが好ましい。 窒素源は、硝酸塩、亜硝酸塩、アンモニウム塩、尿素等を用いればよく、特に限定はされないが、例えばNaNO3、NaNO2、NH4Cl、尿素等の化合物を用いればよい。 窒素源の使用量は、菌体の生育に影響を及ぼすことなく、本発明のピルビン酸又はその塩の生産目的が達成される範囲において適宜設定すればよい。具体的には、培養初期の培地100ml当たり通常であれば硝酸塩として500mg程度以上とすればよく、より好ましくは1000mg程度以上、更に好ましくは1250mg程度以上である。 リン源は、リン酸塩、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩等を用いればよく、特に限定はされないが、例えばK2HPO4、KH2PO4等の化合物を用いればよい。 リン源の使用量も、上記の窒素源の使用量と同様の観点から適宜設定すればよく、具体的には、リン酸二水素塩として培地100ml当たり通常は50〜400mg程度とすればよく、より好ましくは100〜200mg程度である。 これらの無機塩は単一で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。 その他の化合物等も含めた無機塩は、総量で通常は0.1〜2.5M程度となる濃度で用いればよく、好ましくは0.2〜1.0M程度、より好ましくは0.2〜0.5M程度である。 工程1にて用いる培地に配合する有機炭素源は、特に限定はされないが、例えばトリプトン、イーストエキストラクト、可溶性デンプン、エタノール、n−プロパノール、酢酸、酢酸ナトリウム、プロピオン酸、廃グリセロール、廃蜜糖、木材糖化液、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース等の六炭糖;リブロース、キシルロース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、デオキシリボース等の五炭糖;スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、ツラノース、セロビオース等の二糖;エリスリトール、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、キシリトール等の糖アルコール等が挙げられる。 本発明に係る製造方法では、塩濃度が比較的高い条件の培地で、ハロモナス属に属する好塩菌を培養するので、他の菌体の混入、増殖の恐れ等がほとんどない。従って、上述の培地に対して滅菌処理等を行っても行わなくともよく、且つ、簡便な設備で培養することも可能である。<C:培養方法> 工程1における上述のハロモナス属に属する好塩菌の培養は、好気培養を採用する。工程1における好気培養は、当該菌体が増殖する限り、特に限定はされない。 具体的には、5ml程度の培地に当該好塩菌を植菌し、通常30〜37℃程度、攪拌速度は120〜180rpm程度で1晩振盪しながら前培養を行う。続いて前培養して得られた菌体を、三角フラスコ、発酵槽、ジャーファーメンター等に入った培地中に100倍程度に希釈し本培養する。 本培養は通常20〜45℃程度で可能であるが、33℃程度以上とすることが好ましく、33℃〜40℃程度が更に好ましい。この際の攪拌速度は通常は150〜250rpm程度とすればよい。なお、培養環境は培地が空気に触れる環境とすればよく、培養液表面に積極的に酸素を含む気体を吹き付ける方法や培地中に係る気体を吹き込む方法を採用してもよい。 工程1では、このような培養条件でハロモナス属に属する好塩菌を好気培養すればよい。具体的に好気培養時の培養液中の溶存酸素濃度は、特に限定はされないが、通常は0.5mg/L以上とすればよく、2mg/L以上が好ましい。 工程1での培養方法は、回分培養、半回分培養、連続培養等の培養方法が挙げられ、特に限定はされないが、ピルビン酸又はその塩を効率よく製造するには、本発明に係る方法によって用いる好塩菌が他の菌が混入する可能性が極めて低いことを考慮して長期の連続培養も可能である。そして、培養環境も特に限定はされず、非滅菌環境下であっても滅菌環境下であってもよい。工程2について 本発明に係るピルビン酸又はその塩の製造方法における工程2は、培養液中に、窒素源、金属塩、及びホウ酸塩からなる群より選択される少なくとも1つを添加する工程である。 工程2では、上記窒素源のみを添加してもよいし、更に金属塩及び/又はホウ酸塩を添加してもよい。窒素源並びに金属塩及び/又はホウ酸塩の添加時期は、同一であっても異なっていてもよく、特に限定はされないが、異なる場合は窒素源の添加の後に金属塩及び/又はホウ酸塩を添加することが好ましい。 なお、金属塩及びホウ酸塩を添加する際の添加時期は、同一であっても、異なっていてもよく、特に限定はされない。 窒素源は、上記工程1において詳述した通りとすればよい 金属塩は、特に限定はされないが、例えば亜鉛塩、モリブデン塩、マンガン塩、銅塩、コバルト塩等が挙げられる。これらの金属塩は適宜組み合わせて添加してもよく、特に限定はされないが、少なくともモリブデン塩を含む組み合わせとすることが好ましい。 具体的にはモリブデン塩、亜鉛塩、マンガン塩、銅塩、及びコバルト塩を含む金属塩;モリブデン塩、銅塩を含む金属塩;モリブデン塩、亜鉛塩を含む金属塩;モリブデン塩、マンガン塩を含む金属塩;モリブデン塩、コバルト塩を含む金属塩等の組み合わせが挙げられる。 ホウ酸塩は、特に限定はされないが例えばホウ酸(H3BO3)、メタホウ酸(HBO2)n、過ホウ酸(HBO3)、次ホウ酸(H4B2O4)、ボロン酸(H3BO2)、ボリン酸(H3BO)等が挙げられる。 工程2における、窒素源、金属塩、及びホウ酸塩からなる群より選択される少なくとも1つを添加する時期は、特に限定はされないが、例えば培養液のOD600の値が30以上となる時期にすればよい。好ましくは50以上である。OD600の測定方法は、市販の分光光度計を用いて測定する。 工程1における窒素源の添加量は、特に限定はされないが、通常は100重量部の培地に対して、硝酸ナトリウムとして0.1〜0.5重量部程度とすればよい。また、工程1における金属塩の添加量は、特に限定はされないが、通常は100重量部の培地に対して0.02〜0.250重量部程度とすればよい。そして、工程1におけるホウ酸塩の添加量も、特に限定はされないが、通常は100重量部の培地に対して0.143〜0.286重量部程度とすればよい。なお、金属塩及びホウ酸塩の添加量の合計は、100重量部の培地に対して通常は0.02〜0.286重量部程度とすればよい。 窒素源、金属塩、及びホウ酸塩からなる群より選択される、少なくとも1つを添加する回数は、特に限定はされないが、通常は1〜5回程度とすればよい。複数回添加する場合、上述の培養条件下であれば、3〜24時間の間隔を空ければよい。工程3について 本発明に係るピルビン酸又はその塩の製造方法における工程3は、上記工程1〜2によって得られた培養液から、ピルビン酸又はその塩を回収する工程である。ここで、回収とは工程1〜2によって得られる培養液中にピルビン酸又はその塩が存在している時に上述の工程2の培養を停止し、ピルビン酸又はその塩を含む培養液と、上記好塩菌体を分離すすればよい。 なお、分離した菌体内からは、特許文献1〜3に記載の手法に従い、バイオポリマーPHB、3−ヒドロキシ酪酸等を回収することも可能である。 具体的な分離の手法は、遠心操作、濾過等の公知の固液分離の操作を採用すればよい。また、培養の停止方法も特に限定はされず、例えば、上記工程1〜2によって得られるハロモナス属に属する好塩菌を加熱、酸処理等の方法によって殺菌する方法、遠心操作、濾過等の公知の固液分離手段を用いて培養液と前記好塩菌体を分離する方法等が挙げられる。 培養液中にピルビン酸又はその塩が含まれたまま培養をし続けて、特に培養条件が好気的になればなるほど、ハロモナス属に属する好塩菌体から培養液中に分泌されたピルビン酸又はその塩が、当該好塩菌体内に再度取り込まれて利用される傾向となり、培養液中のピルビン酸又はその塩が減少し、最終的には培養液からこれらが消失してしまうこともある。 従って、培養液中にピルビン酸又はその塩が、培養液1L当たり10g以上存在しているときに、上記培養を停止することが好ましい。すなわち本発明の方法によると、上記培養液中に、培養液1L当たり10g以上のピルビン酸又はその塩を産生させることができる。 培養液中のピルビン酸又はその塩の存在を確認する方法は、菌種、培地成分、培養条件等により変わり得るものであり、これらの要素を考慮して適宜決定する。例えば、継時的に培養液を採取し、これをHPLC、分析キット等による分析方法を供して、培養を停止する時間を決定することもできる。 また、ピルビン酸は酸性を示す化合物であることから、培養液のpHを継時的にモニタリングしながら、培養の際の培地のpHの低下を基準にして、ピルビン酸の存在を確認してもよい。 なお、回収されるピルビン酸の塩は、培養液中に含まれる無機塩に基づくナトリウム、カルシウム等のアルカリ金属;アルカリ土類金属陽イオン等と反応したアルカリ金属塩として回収される。従って、ピルビン酸を製造するには、回収した培養液を塩析等の常法に供すればよい。 また、回収した培養液を適切なカラムを用いたカラムクロマトグラフィーによって精製工程に供してもよい。これら以外の他の方法として、回収した培養液のpHを適宜変更して、所望のピルビン酸又はその塩のいずれかを精製工程に供してもよい。 以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明する。なお、本発明が実施例に限定されないことは言うまでも無い。 本実施例では、ハロモナス属に属する好塩菌を用いたピルビン酸又はその塩を製造する方法について具体的に詳述する。 表1に示すSOT改5(Spirulina platensis Medium改5)を基本にした培地を用いた。この培地は、Spirulina platensis Medium(国立環境研究所のHP)であり、NaHCO3及びNa2CO3の量を調整し、窒素源のNaNO3を5倍に、リン源のK2HPO4を4倍に増加させて調整した。上記の培地を調整した後のpHは9.4±0.1であり、オートクレーブ等の滅菌操作は行わずにそのまま用いた。 培養の際には、上述の培地に対してグルコースを適宜追加して用いた。<ピルビン酸又はその塩の測定> 本実施例における培養液にて生産されるピルビン酸又はその塩の測定は、BIO−RAD社Aminex HPX−87Hに添付に記載された分析条件に準拠し、検出には島津製作所RID−10A示差屈折率検出器を用いた方法にて行った。 簡略には、培養液を遠心分離して上清のみ採取し、50μL分取し、450μLの水を加えて10倍に希釈した。これを上記HPLCにて分析した、ピルビン酸の標品と比較した。また、「F−キット ピルビン酸」(株式会社J.K.インターナショナル)のキットでの測定値と、ガスクロマトグラフ装置での測定値が一致したことから、分析されたピークはピルビン酸であることが確認された。<ハロモナス属に属する好塩菌のプレ培養> ハロモナス属に属する好塩菌(ハロモナス・エスピーKM−1株を、プレート培養より、16.5mm径の試験管に5mlの上記SOT5改培地に炭素源として上述のグルコースではなく、1w/v%グルコースを加えて、37℃で1晩振盪培養した。<ハロモナス属に属する好塩菌の培養、サンプルの回収等> 製造例1 プレ培養した各種ハロモナス属に属する好塩菌体0.2mlを、100ml容の三角フラスコに入れた上記SOT改5培地20mlに混合して植菌し、シリコセンをした。これを、33℃で撹拌速度を200rpmとなる条件にて振盪培養し、12時間後から、およそ12時間おきに培養液を0.25mlずつ回収して、上清中のピルビン酸又はその塩の量を測定した。 培養当初は、撹拌速度を200rpmと好気的な条件で培養し、培養液は、サンプリング後、再度シリコセンをし、37℃で振盪培養を継続し、半回分培養した。 有機炭素源は、培養当初に10重量%のグルコースを培地し、18時間目、24時間目、36時間目それぞれに、5重量%のグルコースを添加した。 さらに、窒素源として、培養当初に12.5g/Lの硝酸ナトリウムを添加し、培養開始から18時間目、24時間目、36時間目、48時間目、60時間目それぞれに、2.5g/Lの硝酸ナトリウム加えたものと、加えなかったものとを比較した。結果を図1及び2に示す。 図1に示す菌体重量の結果から、硝酸ナトリウムの添加を行った場合も行わなかった場合も菌体重量には変化はなかった。 一方で、図2のピルビン酸分泌量の結果から、硝酸ナトリウムを加えなかった場合には、36時間目に分泌量の極大値18g/Lを示すのに対して、硝酸ナトリウムを逐次加えた場合には、60時間に分泌量の極大値40g/Lを超えた。 以上の結果から、好気培養中の適当な時期に硝酸ナトリウム等の適当な窒素源を添加することで、ピルビン酸の培養液中での産生量を増大させることができることが明らかとなった。製造例2 培養当初は、撹拌速度を200rpmと好気的な条件で培養し、培養液は、サンプリング後、再度シリコセンをし、振盪培養を継続し、半回分培養した。 有機炭素源は、培養当初に15重量%のグルコースを培地し、24時間目、36時間目、48時間目それぞれに、5重量%のグルコースを添加した。 窒素源として、培養当初に12.5g/Lの硝酸ナトリウムを添加し、培養開始から24時間目、36時間目、48時間目、60時間目、72時間目それぞれに、2.5g/Lの硝酸ナトリウム加えた。さらに、培養温度を、33℃、37℃、40℃それぞれで行い、比較した。結果を図3及び4に示す。 図3に示す菌体重量の結果から、36時間目以降、乾燥菌体重量は、33℃、37℃、40℃の順であり、特に40℃で培養したものは菌体重量の増加はほとんど見られなかった。 一方で、図4のピルビン酸分泌量の結果から、36時間目以降に、40℃、37℃、33℃の順で、ピルビン酸の分泌が見られた。 以上の結果から、培養温度により、ピルビン酸の分泌量に変化が生じ、特に40℃では、生育が抑制された一方で、ピルビン酸が著しく速やかに分泌されることが確認され、温度によるピルビン酸の分泌量の影響があることが明らかとなった。製造例3 ハロモナス菌株による比較 培養当初は、撹拌速度を200rpm、培養温度37℃の好気的な条件で培養し、培養液は、サンプリング後、再度シリコセンをし、振盪培養を継続し、半回分培養した。用いた菌株は、Halomonos sp. KM−1、Halomons meridian:NBRC15608、Halomons pantelleriensis: ATCC700273、Halomonas campisalis:ATCC700597であった。 有機炭素源は、培養当初に15重量%のグルコースを培地し、Halomonos sp. KM−1、Halomons meridian:NBRC15608は24時間目、36時間目それぞれに、5重量%のグルコースを添加し、Halomons pantelleriensis : ATCC700273、Halomonas campisalis : ATCC700597は、24時間目に、5重量%のグルコースを添加した。 窒素源として、培養当初に12.5g/Lの硝酸ナトリウムを添加し、培養開始から24時間目、36時間目、48時間目それぞれに、2.5g/Lの硝酸ナトリウム加え比較した。結果を図5及び6に示す。 図5に示す菌体重量の結果から、Halomonos sp.KM−1、Halomons meridian:NBRC15608は24時間目には、30g/Lを超えた。Halomons pantelleriensis : ATCC700273、Halomonas campisalis : ATCC700597は、84時間目においても20g/Lを超えなかった。図6に示すピルビン酸分泌量の結果から、Halomonos sp.KM−1のみならず、Halomons meridian:NBRC15608も30g/L以上のピルビン酸を分泌することが判明した。また、Halomons pantelleriensis:ATCC700273、Halomonas campisalis:ATCC700597は、72時間目、84時間目において微量のピルビン酸を分泌した。 以上の結果から、窒素添加、炭素過剰条件において、37℃培養を行った場合には、複数のハロモナス属の菌がピルビン酸を分泌することが明らかとなった。 下記の工程(1)〜(3)を含む、ピルビン酸又はその塩の製造方法:(1)ハロモナス属に属する好塩菌を、有機炭素源及び無機塩を含有する培地中で好気培養する工程1、(2)培養液中に、窒素源、金属塩、及びホウ酸塩からなる群より選択される少なくとも1つを添加する工程2、(3)工程2で得られる培養液から、ピルビン酸又はその塩を回収する工程3。 工程2における窒素源が、硝酸塩、亜硝酸塩、アンモニウム塩、及び尿素からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の製造方法。 工程2における金属塩が、亜鉛塩、モリブデン塩、マンガン塩、銅塩、及びコバルト塩からなる群より選択される少なくとも1つの金属である、請求項1又は2に記載の製造方法。 工程2における窒素源、金属塩、及びホウ酸塩からなる群より選択される少なくとも1つを添加する時期が、培養液のOD600が30以上となる時期である、請求項1〜3の何れか1項に記載の製造方法。 工程1における、培養条件が20〜45℃である、請求項1〜4の何れか1項に記載の製造方法。 工程2にて得られる培養液1L当たり、10g以上のピルビン酸又はその塩が含まれることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の方法。前記好塩菌がハロモナス・エスピー(Halomonas sp.)KM−1株(FERM BP−10995)である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。 【課題】本発明はピルビン酸の発酵産生方法を提供することを目的とする。特に、安価で且つ簡便なピルビン酸の発酵産生方法を提供することを目的とする。【解決手段】下記の工程(1)〜(3)を含む、ピルビン酸又はその塩の製造方法:(1)ハロモナス属に属する好塩菌を、有機炭素源及び無機塩を含有する培地中で好気培養する工程1、(2)培養液中に、窒素源、金属塩、及びホウ酸塩からなる群より選択される少なくとも1つを添加する工程2、(3)工程2で得られる培養液から、ピルビン酸又はその塩を回収する工程3。【選択図】なし


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