タイトル: | 公開特許公報(A)_強磁性共鳴測定装置 |
出願番号: | 2014086323 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | G01R 33/20,G01N 24/10,G01R 33/60 |
田丸 慎吾 久保田 均 JP 2015206641 公開特許公報(A) 20151119 2014086323 20140418 強磁性共鳴測定装置 国立研究開発法人産業技術総合研究所 301021533 田丸 慎吾 久保田 均 G01R 33/20 20060101AFI20151023BHJP G01N 24/10 20060101ALI20151023BHJP G01R 33/60 20060101ALI20151023BHJP JPG01R33/20G01N24/10 510DG01N24/10 520Z 4 1 OL 13 特許法第30条第2項適用申請有り 発行者名 公益社団法人応用物理学会 刊行物名 2014年第61回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集(DVD−ROM) 頁 10−043頁 発行年月日 平成26年3月3日 (出願人による申告)平成25年度独立行政法人科学技術振興機構研究成果展開事業 戦略的イノベーション創出推進プログラム「3次元磁気記録新ストレージアーキテクチャのための技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願 本発明は、例えば、直径φ=3μm、厚さ100nm、更には直径φ=200nm、厚さ5nmのようなミクロンからナノサイズレベルの極めて小さい磁性体材料(例えばパーマロイ(NiFe合金)、CoFeB合金))の強磁性共鳴(Ferromagnetic Resonance,FMR)を測定する装置に関する。 磁性体材料(試料)の強磁性共鳴を測定することはその磁性体材料の性質を知る有効な手段の一つとなる。最も一般的な試料形状である薄膜の場合、強磁性共鳴が起こる条件は、以下のキッテルの式 2πf=γ{(HB+HK)(HB+HK+4πMS)}1/2 (1)で表される。上記式(1)において、・fは強磁性共鳴周波数・γはジャイロ磁気定数・HBは外部直流磁場の強度・MSは磁性体材料の飽和磁化・HKは内部異方性磁場の強度である。 そのため、強磁性共鳴の測定は、例えば、従来型のハードディスク(HDD)、或いは、積極的に強磁性共鳴を利用した磁気記録技術(MAMR)において、磁気媒体や磁気ヘッドのための磁性体材料の開発に重要な手法である。 従来、強磁性共鳴を測定する装置としては、図6に示すような装置(非特許文献1のFIG.1やFIG.3参照)が使われた。このFIG.1の装置は、一番古いタイプの強磁性共鳴測定装置である。この装置(図6参照)は、基本的には、マイクロ波発振器(1)、該発振器から出力されたマイクロ波が透過する導波路であって、ここに試料(S)を置くことによりマイクロ波により誘起された高周波磁場(HRF)が試料に印加される導波路(6)、試料(S)に外部直流磁場を印加する磁石(5a+5b)、該導波路(6)から出力されたマイクロ波を検出する検出器(11)からなる。導波路(6)に試料(S)を置き、外部直流磁場(HB)の強度を低から高へと掃引することにより試料(S)の強磁性共鳴を測定する。 マイクロ波発振器(1)の出力P1と検出器(11)の出力P2との比(P2/P1)を透過係数“S21”と呼ぶ。マイクロ波が減衰せずにそのまま検出器まで伝搬した場合を“1“、マイクロ波伝送路(M)を遮断したときのS21を“0“と定義する。強磁性共鳴測定におけるS21の変化の様子を、縦軸をS21、横軸を外部直流磁場(HB)の強度とするグラフ(強磁性共鳴曲線)として図7に示す。強磁性共鳴が起きると、導波路(6)を透過するマイクロ波が試料(S)に吸収され、検出器(11)で検出されるマイクロ波の振幅、ひいてはS21が低下する。このためグラフに窪み(dip)ができる。従ってS21の変化を監視することにより、強磁性共鳴を測定することができる。窪み(dip)の中で最もS21が低い点における外部直流磁場(HB)の強度を特に“強磁性共鳴磁場(HR)”と呼ぶ。 この装置には、装置各部からの雑音(ノイズ)やドリフトを除去するため、外部直流磁場(HB)と共に低周波変調磁場(HLF)を試料に印加する手段と、検出器(11)の出力信号から前記低周波変調磁場(HLF)の変調周波数成分だけを抽出する手段(15)としてのロックインアンプが備えられている。これにより、S21の微分を検出して(微分検出法)、図8のようなグラフを出力させる。このグラフが縦軸の“0“位置を横切るときの外部直流磁場(HB)の強度が“強磁性共鳴磁場(HR)”である。 最近では、マイクロ波発振器(1)と検出器(11)を内在し、P1とP2の比を振幅だけでなく位相も含めて計算した値、言い換えれば、複素数のS21を測定できるベクター・ネットワーク・アナライザ(Vector Network Analyzer,略称VNA)を使うことが多い。非特許文献1のFIG.3でもVNAが使われている。この装置(FIG.3)では電磁石は空芯のヘルムホルツコイルで、鉄芯を使った電磁石ではないので、外部直流磁場(HB)の強度は相当に弱い。変調コイルは無く微分法ではないので、VNAで直接S21を測定して、図7に示されるようなグラフを得ている。 試料のサイズはますます小さくなってきており、今日の研究開発で特に興味ある試料サイズはマイクロからナノサイズレベルである。例えば、磁気記録では、情報単位を表す磁気ドメイン(ビットに相当)を小さくするほど、記録密度は向上し、記録容量が増大する。そのような微小な磁気ドメインを書き込み/読み出すための磁気ヘッドも、ドメインサイズに応じて小さくしなくてはならない。このような磁気ヘッドに埋め込まれる磁性体のサイズは極めて小さい。 しかし、そのように小さい試料になると、S21の変化は試料の体積に比例するので、検出したい信号は極めて小さくなってしまう。一方、強磁性共鳴を起こすためのマイクロ波の強度はそのままなので、(i)見たい信号S21の変化に比べて相対的に非常に大きなバックグラウンドがあり、その揺らぎに伴う雑音(トレースノイズ)が発生する、(ii)見たい信号S21を増幅しようとすると、重畳するバックグラウンドも一緒に増幅してしまい、増幅器が飽和してしまうため、信号の増幅ができない、等の理由のため、従来の装置(図6)では信号雑音比(S/N比)が低く、ミクロンからナノサイズレベルの極めて小さい試料の測定ができない。例えば、非特許文献1に示された測定装置の構成では、上記の理由によりS/N比が低いので、試料の寸法を大きくすることにより、測定に必要な強度の信号を得ている。非特許文献1の試料はNi80%Fe20%の合金で、大きさは縦1cm×横1cm×厚さ50nm又は100nmである(非特許文献1の第093909−2頁左欄中段参照)。 そこで、本発明者らは、次に非特許文献2に開示された強磁性共鳴測定装置に注目した。この装置は入力されたマイクロ波を2経路に分け、それらを相殺的に干渉させる構造(干渉計、interferometer)を備えている点が特徴である。Sangita S. Kalarickal,et al,,JOURNAL OF APPLIED PHYSICS 99, 093909 (2006)Hanqiao Zhang,et al.,REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS 82, 054704 (2011) しかしながら、非特許文献2に開示された強磁性共鳴測定装置は、干渉計を用いているものの、本発明者らの研究によれば、以下の問題点のあることが分かった。 (1)干渉させるべくReference channel(非特許文献2中のFig.1参照、本発明でいう第2経路)を設けているが、その経路の位相を半波長ずらす手段が、金薄膜で作ったReference channelの長さである。しかし、そのReference channelの作成誤差があるので、当初測定条件として設計した周波数において、正確に位相を半波長ずらせることが困難であった。 (2)Reference channelに振幅調整する手段が無い為、干渉計の消光比が小さい。一般に干渉計の性能は、2つの信号を建設的に干渉(constructive interference)させた時の最大出力と、相殺的に干渉(destructive interference)させた時の最小出力の比として定義される消光比で表され、これが大きい程干渉計としての性能が優れている。非特許文献2の干渉計の消光比は、第054704−2頁右欄のFig.3のグラフから最大値を−30dB、最小値を−77dBと読み取ることができ、その差分として47dBとなる。これは干渉計としては性能が悪い。 (3)干渉計から出力された信号を増幅せず、そのままVNAで測定している。その為VNAの検出感度が低い。 (4)上記(1)〜(3)に挙げられた問題点の総合的結果として、強磁性共鳴測定におけるS/N比がまだ低い。試料はますます小さくなる傾向にあるので、更に高いS/N比が求められている。 本発明者らは、鋭意研究の結果、改良された干渉計と微分検出法を組み合わることにより、上記課題を解決し、より優れた性能を示す強磁性共鳴測定装置を発明した。 すなわち、本発明は、マイクロ波発振器、該発振器から出力されたマイクロ波を第1マイクロ波と第2マイクロ波に分ける分岐器、第1マイクロ波を伝送する第1経路、第2マイクロ波を伝送する第2経路、第1経路の途中に設けられた導波路、試料に外部直流磁場HBを印加する磁石、第1経路もしくは第2経路又はその両方に設けられた“n+0.5”波長、ただしnは整数、ずらせる位相シフタ、第1経路もしくは第2経路又はその両方に設けられた振幅調整器、第1経路を伝送した第1マイクロ波と第2経路を伝送した第2マイクロ波とを結合する結合器、該結合器から出力したマイクロ波を増幅する増幅器、及び前記増幅器から出力したマイクロ波を検出する検出器を有する装置であって、前記導波路の途中に配置された試料Sに、第1マイクロ波により誘起された高周波磁場HRFが印加され、前記外部直流磁場HBの強度を掃引することにより所定強度で試料Sに強磁性共鳴を起こさせる強磁性共鳴測定装置において、前記試料Sに低周波変調磁場HLFを印加する手段、及び前記検出器の出力信号から前記低周波変調磁場HLFの変調周波数成分だけを抽出する手段を付加したことを特徴とする。 また、本発明は、上記強磁性共鳴測定装置において、前記マイクロ波発振器に、基準信号源及びフェーズロックドループ回路を付加することにより、位相雑音を低減したマイクロ波を発振させ、該マイクロ波を前記分岐器に入力することを特徴とする。 また、本発明は、上記強磁性共鳴測定装置において、前記導波路が「複数の帯状導体箔を備えたコプレーナ導波路」であり、試料が中央の帯状導体箔に置かれることを特徴とする。 また、本発明は、上記強磁性共鳴測定装置において、60dB以上の消光比を有することを特徴とする。 本発明によれば、試料サイズが小さい場合であっても上記課題が解決され、更に高いS/N比が実現される。本発明の強磁性共鳴測定装置の一実施例(実施例1)を示す概念図である。PLL回路等のブロック図である。本発明の強磁性共鳴測定装置の他の実施例(実施例2)を示したものであって、図1の実施例に、図2のPLL回路を付加した概念図である。図3の装置に使用した導波路(3)を拡大して示す説明図である。図3の導波路(3)を説明する概念図であり、(a)はその平面図、(b)は平面図(a)におけるA−A’の位置で導波路(6)を切断したときの断面端面図である。従来の強磁性共鳴測定装置の構成を示す概念図である。S21の変化の様子を、縦軸をS21、横軸を外部直流磁場HBの強度として示したグラフ(強磁性共鳴曲線)により強磁性共鳴磁場HRを説明した図である。S21の微分(dS21/dHB)の変化の様子を、縦軸をdS21/dHB、横軸を外部直流磁場HBの強度として示したグラフ(強磁性共鳴曲線)により強磁性共鳴磁場HRを説明した図(微分検出法)である。微分検出法による測定結果のグラフであり、(a)は本発明の実施例による測定結果のグラフ、(b)は従来の図6で示した装置による測定結果のグラフである。本発明の実施例による測定結果のグラフであって、感度向上を示したグラフである。<実施例1> 本発明は、干渉計と微分検出法を組み合わることにより、優れた検出感度と高いS/N比を示す強磁性共鳴測定装置を提供するものである。 本発明の強磁性共鳴測定装置の一実施例を図1に示す。この装置は、マイクロ波発振器(1)、該発振器から出力されたマイクロ波Mを第1マイクロ波と第2マイクロ波に分ける分岐器(2)、第1マイクロ波を伝送する第1経路(3)、第2マイクロ波を伝送する第2経路(4)、第1経路(3)の途中に設けられた導波路(6)、試料(S)に外部直流磁場(HB)を印加する磁石(5a+5b)、第2経路(4)に設けられた半波長遅らせる位相シフタ(7)、第2経路(4)に設けられた振幅調整器(8)、第1経路(3)を伝送した第1マイクロ波と第2経路(4)を伝送した第2マイクロ波とを結合する結合器(9)、該結合器(9)から出力したマイクロ波を増幅する増幅器(10)、該増幅器から出力したマイクロ波を検出する検出器(11)、前記試料(S)に低周波変調磁場(HLF)を印加する手段、及び前記検出器(11)の出力信号から前記低周波変調磁場(HLF)の変調周波数成分だけを抽出する手段(15)を備えている。 導波路(6)の途中に試料(S)を配置した場合、第1マイクロ波により誘起された高周波磁場(HRF)が試料に印加され、このとき、外部直流磁場(HB)の強度を掃引することにより所定強度で試料(S)に強磁性共鳴を起こさせることができる。 なお、この装置(図1参照)のうち干渉計部分については非特許文献2の教示に従ったものである。 第1経路(3)と第2経路(4)は、それぞれの経路を通った2つのマイクロ波を結合器(9)で結合させて「干渉」を起こさせており、従って、この構造は「干渉計」と呼ばれる。非特許文献2の干渉計の消光比は、前述の通り47dBである。それに対して、本発明の装置(図1参照)は、干渉計の構成が非特許文献2と異なり、位相シフタ(7)と振幅調整器(8)を有する。そのため、より精度の高い位相調整及び振幅調整ができるので、消光比は60dB以上と高い。 低周波変調磁場(HLF)を印加する手段及び前記検出器(11)の出力信号からHLFの変調周波数成分だけを抽出する手段(15)の役割は、非特許文献1におけるものと目的(役割)が異なる。非特許文献1の装置(FIG.1)では、ドリフトはそれ程大きくないが、マイクロ波発振器の信号レベルの揺らぎに伴うトレースノイズが非常に大きい。この問題解決のため、装置(FIG.1)では変調周波数成分だけを抽出する微分法を採用している。 それに対して、本発明(図1参照)では、第1マイクロ波と第2マイクロ波が相殺的干渉によって打ち消し合い検出器(11)に到達しないため、トレースノイズは極めて小さくなるが、干渉計を備えたが故の問題点、即ち、干渉計の調整ずれによるドリフトが相対的に非常に大きくなる。 この問題解決のため、本発明(図1参照)では、変調周波数成分だけを抽出する微分法を採用している。<実施例2> 試料のサイズはますます小さくなる傾向にあるので、更に高いS/N比が求められている。そのため、マイクロ波発振器(1)に基準信号源及びフェーズロックドループ(PLL)回路(1a)を付加する(図2参照)ことが好ましい。これにより、位相雑音を低減したマイクロ波を発振させ、このマイクロ波を分岐器(2)に入力することにより、更に高いS/N比が実現される。 そこで、図1に示した強磁性共鳴測定装置(実施例1)に、図2に示したPLL回路を付加した装置を図3に示す。図3に示した強磁性共鳴測定装置(実施例2)は以下の通りである。 マイクロ波発振器(1)、該発振器から出力されたマイクロ波を第1マイクロ波と第2マイクロ波に分ける分岐器(2)、第1マイクロ波を伝送する第1経路(3)、第2マイクロ波を伝送する第2経路(4)、第1経路(3)の途中に設けられた導波路(6)、該導波路(6)の途中に配置される試料(S)に外部直流磁場(HB)を印加する磁石(5a+5b)、第1経路(3)もしくは第2経路(4)又はその両方に設けられた“n+0.5”波長(nは整数)ずらせる位相シフタ(7)、第1経路(3)もしくは第2経路(4)又はその両方に設けられた振幅調整器(8)、第1経路(3)を伝送した第1マイクロ波と第2経路(4)を伝送した第2マイクロ波とを結合する結合器(9)、該結合器(9)から出力したマイクロ波を増幅する増幅器(10)、前記増幅器から出力したマイクロ波を検出する検出器(11)、前記試料(S)に低周波変調磁場(HLF)を印加する手段、及び前記検出器(11)の出力信号から前記低周波変調磁場(HLF)の変調周波数成分だけを抽出する手段(15)を有する装置であって、前記導波路(6)の途中に試料(S)を配置した場合に、第1マイクロ波により誘起された高周波磁場(HRF)が試料(S)に印加され、このとき、前記外部直流磁場(HB)の強度を掃引することにより所定強度で試料(S)に強磁性共鳴を起こさせることができる強磁性共鳴測定装置において、前記マイクロ波発振器(1)に、基準信号源及びPLL回路(1a)を付加することにより、位相雑音を低減したマイクロ波Mを発振させ、該マイクロ波を前記分岐器(2)に入力し、これにより更に高いS/N比を実現したことを特徴とする。 上記実施例1、2において、前記導波路(6)は「複数の帯状導体箔を備えたコプレーナ導波路」であり、試料が中央の帯状導体箔に置かれることが好ましい。 消光比は60dB以上(好ましく70dB以上特に80dB以上)である。<測定装置の動作および測定方法の説明> マイクロ波発振器(1)は、例えば1〜110GHzのマイクロ波を出力する。この出力の強度P1は、試料や導波路が熱の影響を受けない限り、高い方がS/N比のためには有利である。一般には、−20dBm〜+20dBm位の強度が用いられる。試料中で強磁性共鳴が起きなかった場合に、結合器(9)から出力されるマイクロ波の出力は、位相シフタ(7)及び振幅調整器(8)によって最小になるように調整される。これにより、干渉計の消光比を60dB以上にすることができる。 分岐器(2)としては、例えば、抵抗型パワーデバイダやウィルキンソン型パワーデバイダが使用される。 導波路(6)としては、例えば、図4に示すようなコプレーナ導波路(共平面導波路)が使用される。このコプレーナ導波路は、入力側の高周波プローブ(6a)、3本の帯状導体箔(6b、6c、6d)及び出力側の高周波プローブ(6e)からなる。そのほか、マイクロストリップラインなどの導波路も使用される。 外部直流磁場(HB)を印加する磁石(5a+5b)としては、例えば、永久磁石又は電磁石が使用される。強度は例えば100〜30kOe位が適当である。HBを掃引する幅としては、試料にもよるが、例えば±10〜±30kOe位が適当である。 位相シフタ(7)としては、例えば、機械式位相シフタ、電子制御位相シフタなどが使用される。 振幅調整器(8)としては、例えば、機械式可変減衰器、電子制御可変減衰器などが使用される。 結合器(9)としては、例えば、抵抗型パワーデバイダやウィルキンソン型パワーデバイダなどを逆接続してパワーコンバイナとして使用される。 増幅器(8)としては、例えば低雑音増幅器などが使用される。 検出器(9)としては、例えば半導体ダイオードや高周波ミキサーなどが使用される。 マイクロ波伝送路(M)としては、例えば、50オームの同軸ケーブルが使用される。 次にこの装置の動作について、説明する。 マイクロ波発振器(1)から強度P1のマイクロ波(高周波励起信号)が出力され、それはマイクロ波伝送路(M)を通って分岐器(2)に達し、分岐器(2)によって第1経路(3)の第1マイクロ波と第2経路(4)の第2マイクロ波に分けられる。 第1経路(3)では、第1マイクロ波が、従来の強磁性共鳴測定装置と同様に、導波路(6)を通って、結合器(9)に到達する。 他方、第2経路(4)では、第2マイクロ波が位相シフタ(7)、次に振幅調整器(8)を通って、結合器(9)に到達する。なお、場合によっては、位相シフタ(7)及び/又は振幅調整器(8)は第1経路(3)又は両方に設けても良い。 結合器(9)はこれら2つの経路から入力されたマイクロ波の和を出力する。この際、試料(S)中で強磁性共鳴が起きていない状態で第1経路を伝搬する第1マイクロ波に対し、第2経路を伝搬する第2マイクロ波の位相を位相シフタ(7)で“n+0.5”波長(nは整数)ずらす。これにより、第1マイクロ波に対し、第2マイクロ波は位相がちょうど180度反転した状態となる。また、振幅調整器(8)により、第1マイクロ波と第2マイクロ波が同じ振幅を持つように調整する。これにより、試料(S)中で強磁性共鳴が起きていない状態で、結合器(9)に到達した第1マイクロ波と第2マイクロ波が相殺的干渉を起こし、結合器(9)が出力するマイクロ波の出力が最小になる。 この状態で外部直流磁場(HB)の強度を小から大へと掃引すると、所定強度即ち“強磁性共鳴磁場(HR)”のときに、共鳴条件が満たされる。すると、試料(S)内で強磁性共鳴が起こり、そのため第1経路(3)を伝搬する第1マイクロ波が試料(S)に吸収される。その結果、第1マイクロ波と第2マイクロ波の間のバランスが崩れ、強磁性共鳴による第1マイクロ波の変化分が結合器(9)の出力信号に現れる。 この出力信号を増幅器(10)で増幅して、マイクロ波検出器(11)に送る。すると、マイクロ波検出器(11)によってマイクロ波強度P2が出力される。 入力P1と出力P2の比(P2/P1)から透過係数S21を求める。好ましい実施例では、VNAに、PLL回路によって安定化されたマイクロ波発振器を付加し、VNAのポート1からマイクロ波(高周波励起信号)が出力されて分岐器(2)に入り、増幅器(10)で増幅されたマイクロ波がポート2に入る。そして、このVNA内で透過係数S21が求まる。 これにより、まだ強磁性共鳴が起きていない状態では、マイクロ波(高周波励起信号)がそれ自身によって相殺され、バックグラウンドが理論上ゼロになる。つまり、発振器(1)の事情で、マイクロ波(高周波励起信号)の強度が揺らいでも、その揺らぎ(バックグラウンドの揺らぎ)に伴うトレースノイズが原理的に消滅する。 また、強磁性共鳴が起きた時だけ、その共鳴に伴う強度吸収により、第1マイクロ波の振幅が減少し、それによって第2マイクロ波との間に振幅の差が生じ、その差分の信号が結合器(9)から出力される。この出力信号にはバックグラウンドが重畳していないため、増幅器(10)によって飽和することなく増幅することができる。 増幅することができることは、VNAの検出感度が上がったことと等価であり、これらの効果により、S/N比が向上する。 本装置(図3)は、第1の特徴として、改良された干渉計を備え、第2の特徴として、改良された干渉計の問題解決のため、試料(S)に低周波変調磁場(HLF)を印加する手段と、前記検出器(11)の出力信号から低周波変調磁場(HLF)の変調周波数成分だけを抽出する手段(15)を備えている。具体的には、前者の手段(低周波変調磁場(HLF)を印加する手段)として変調コイル(12)を使用し、後者の手段(15)としては、外部にロックインアンプを追加するか、又はVNAで測定されたS21をコンピュータ上で数値計算処理を施すことである。 信号源(14)で低周波(例えば10〜10kHz)の交流信号を発生させ、それを電流源(13)に送ることによって、低周波電流を変調コイル(12)に流し、低周波変調磁場(HLF)を外部直流磁場(HB)に重畳して試料(S)に印加する。この変調磁場(HLF)により、透過係数S21が変調周波数で振動する。この振動するS21を、検出器出力を外部に追加したロックインアンプに送ることにより、その変調周波数成分だけを取り出す。また、VNAを用いた場合は、VNAで取得したS21の変調周波数成分だけをフーリエ変換することにより取り出す。この信号処理により、図7に示されたS21曲線の微分が得られる(図8参照)。強磁性共鳴を反映する有意な信号は変調周波数の成分だけに集中し、その一方で干渉計のドリフトやその他の雑音は変調周波数以外の周波数成分に広がっている。そのため、ロックインアンプで変調周波数成分だけを増幅する事により、干渉計のドリフトやその他の雑音に伴う信号を効果的に除去し、興味ある強磁性共鳴信号だけを取り出すことができ、S/N比が飛躍的に向上する。 図1の装置では、第1経路(3)を通った第1マイクロ波と第2経路(4)を通った第2マイクロ波が相殺的に干渉し、その結果、結合器(9)から出力される信号は消光比60dB以上と大きくなる。しかしながら、干渉計はある特定の周波数のマイクロ波に対して、相殺的干渉を起こすように調整される。一方マイクロ波発信器(1)は、発振周波数が一定でなく、時間と共に揺らぐ(この周波数揺らぎは位相雑音として定量化される)。そのため、理想的に相殺的干渉させるべく第1経路(3)と第2経路(4)とを調整しても、実際にはマイクロ波発信器(1)の周波数揺らぎにより、有限のバックグラウンド信号が漏れてしまい、それが強磁性共鳴を反映する信号と重畳する。このマイクロ波発信器(1)の周波数揺らぎに伴うバックグラウンド信号の漏れ、すなわち消光比の揺らぎが、低周波変調磁場の周波数と同じである場合、干渉計から出てきたマイクロ波が、マイクロ波源の周波数揺らぎによるものなのか、それとも試料の強磁性共鳴に由来するものなのか区別できない。 この問題を解決するため、本実施形態は、第3の特徴として、図3に示すようにマイクロ波発振器(1)に基準信号源及びPLL回路(1a)を付加して発振周波数を安定化する。これにより位相雑音を低減したマイクロ波を発振させ、該マイクロ波を分岐器(2)に入力する。そのため、消光比が時間と共に揺らぐことが無くなり、一層S/N比が向上する。<測定結果1> 図3の実施例2の装置を用いて測定した測定結果を説明する。 ここでは、マイクロ波発振器(1)として、Gigatronics社(米国)製のマイクロ波シグナルジェネレータModel605を用い、周波数7.04GHz、出力6dBmのマイクロ波(高周波励起信号)を発生させた。この際、このマイクロ波ジェネレータをそのまま用いることはせず、10MHz基準信号源と外部PLL回路(図2参照)を追加した。この外部PLL回路は、ECL位相比較器、カットオフ周波数200Hzのローパスフィルタ、N=704に設定された1/Nカウンタを内包するInteger−Nタイプの構成である(因みにPLL回路には他にFractional−Nタイプがある。)。 このPLL回路によって生成された位相差を反映する信号を前述のマイクロ波シグナルジェネレータに送って周波数を微調整することにより、周波数を正確に10MHzの704倍で安定化させ、周波数揺らぎをおさえた。これにより、そのまま用いる場合に比べ、位相雑音が約5分の1に低減した。 基準信号源としては、Wenzel社(米国)製OCXO501-10295を使用した。 検出器(11)として、Agilent Technologies社(米国)製のE8361C(PNAシリーズ ベクター・ネットワーク・アナライザ)に内包された高周波ミキサーを使用した。またこのVNAは、測定装置全体を制御するための信号(トリガー信号)の発生や、取得したS21データをコンピュータに送るなどの役割も担っている。 マイクロ波伝送路(M)として、50オームの同軸ケーブルを使用した。同軸ケーブルは、マイクロ波発振器(1)から検出器(11)までの各部品をつないでいる。 分岐器(2)としてはMini-Circuits社(米国)製抵抗型パワーデバイダZFRSC-183+を使用した。 導波路(6)と試料(S)は、図5に示すように一体形成した。まず、ガラス基板(6g)を用意し、その上に試料(S)として厚さ100nmのパーマロイ(Ni80%Fe20%合金)層をスパッタリング法で形成した後、フォトリソグラフィ&エッチングにて直径φ=3μmの形状に加工した。これによりパーマロイ試料(S)が形成された。その後、全体に厚さ540nmのアルミナ(Al2O3)層をスパッタリング法で形成し、その上に更に厚さ750nmの銅層をスパッタリング法で形成した。最後にその銅層をフォトリソグラフィ及びエッチングにより、3本の帯状(6b、6c、6d)に加工した。6bの帯の幅は6μmで、中央の6cの帯の幅は3μmで、6dの帯の幅は6μmである。外側の帯(6b、6d)はグランド(マイナス)である。 実際の測定では、高周波プローブ(6a)、(6e)を帯の両端に接触させ、片方の高周波プローブ(6a)から7.04GHzのマイクロ波を導波路(6)に流した。この時のマイクロ波の強度は0dBmであり、これは試料(S)に対して約19Oeの高周波磁場(HRF)を印加することに対応する。この高周波磁場により試料(S)の磁気モーメントが歳差運動を起こす。 試料(S)に外部直流磁場(HB)を印加する磁石(5a+5b)は、電磁石であり、その強度は0〜1.3kOeの間を掃引することが可能である。 この電磁石は変調コイル(12)を兼ねており、周波数28Hzの低周波変調磁場(HLF)を試料(S)に印加することができる。ここではHLFの強度を0.25Oeに設定して実験した。 位相シフタ(7)としてはARRA社(米国)製機械式位相シフタModel9426Aを使用した。これにより、第2マイクロ波の位相を半波長ずらすことができる。 結合器(9)としてはMarki社(米国)製ウィルキンソン型パワーデバイダPD-0140を逆接続で使用した。 結合器(9)に入力する前に第2マイクロ波の振幅を減じることにより、第1マイクロ波の振幅と第2マイクロ波の振幅を同一にする振幅調整器(8)としてはAdvanced Technical Materials社(米国)製機械式可変減衰器AV065-10を使用した。 結合器(9)から出力するマイクロ波の消光比を調べたところ、80dB以上と高い値を示した。 結合器(9)から出力したマイクロ波を増幅する増幅器(10)としてはB&Z Technologies社(米国)製低雑音増幅器BZ-00101600を使用した。 本発明の装置は、干渉計の問題解決のため、試料(S)に低周波変調磁場(HLF)を印加する手段と、検出器(11)の出力信号から低周波変調磁場(HLF)の変調周波数成分だけを抽出する手段(15)を備える。 変調周波数を発生する信号源(14)としては、「株式会社エヌエフ回路設計ブロック」製信号発生器WF1974を用い、これによって発生させた28Hzの信号を、自作した電流源(13)に送る事により、変調コイル(12)に28Hzの電流を流し、変調磁場を発生させている。 なお、図3には、抽出する手段として「符号15」の部品が描かれ、何か現実の部品があるかのように見える。しかし、本実施例では、コンピュータの数値計算処理によりロックインアンプ(部品)と同等の機能を実現したので、ロックインアンプはない。 以上の条件で試料(S)の強磁性共鳴を測定(測定時間10分)した。この結果を図9(a)のグラフに示す。 縦軸はS21の微分(×10-4)で、横軸は外部直流磁場(HB)の強度(単位:エルステッドOe)である。これによれば、強磁性共鳴磁場(HR)は525Oeである。 比較のために第2経路(第2マイクロ波)を遮断し、また増幅器(10)を取り除いて従来の装置(図6)に相当する構成で同様の条件の下で強磁性共鳴を測定した。この結果を図9(b)に示す。 これにより明らかなように、実施例のデータ(a)は、S21が明瞭な強磁性共鳴信号を示すのに対して、従来の装置相当のデータ(b)は、同じ条件では雑音のため強磁性共鳴の信号が全く見えない。 これらの実験結果を定量的に比較すると、本実施例では従来の装置相当(図6)に比べ、強磁性共鳴の信号強度は約20倍、雑音レベルは約1/20になり、合計で約400倍のS/N比の向上(改善)が見られた。また、PLL回路(1a)等を付加しなかった装置(図1相当)に比べると、約4倍のS/N比の向上が見られた。<測定結果2> 上記測定結果1と同じ図3の実施例2の装置で、より小さい試料を測定した。試料のサイズは直径φ=200nm、厚さ5nmである。試料その他の作成法は上記測定結果1と同じである。測定条件は、マイクロ波周波数を6.4GHz、変調磁場HLFの強度を13Oeとした。他の測定条件は上記測定結果1と同じである。 この試料について測定された結果を図10のグラフに示す。このような極めて微小な試料からも、明瞭な強磁性共鳴信号が観測できている。これは非特許文献2で用いられた試料のサイズ(0.24×5×0.07μm)の約1/500の体積であり、この結果から、本発明が強磁性共鳴の測定においてその感度を大幅に向上させたことが示される。 本発明の装置は、マイクロからナノサイズレベルの極めて小さな磁性体材料の磁気特性例えば飽和磁化、異方性磁界などの評価に好適である。1・・・・マイクロ波発振器1a・・・基準信号源及びフェーズロックドループ(PLL)回路2・・・・分岐器3・・・・第1経路4・・・・第2経路5a+5b・・・・外部直流磁場(HB)6・・・・導波路7・・・・位相シフタ8・・・・振幅調整器9・・・・結合器10・・・増幅器11・・・検出器12・・・変調コイル13・・・電流源14・・・低周波交流信号の信号源15・・・低周波変調磁場(HLF)の変調周波数成分だけを抽出する手段M・・・・マイクロ波伝送路S・・・・試料 マイクロ波発振器、該発振器から出力されたマイクロ波を第1マイクロ波と第2マイクロ波に分ける分岐器、第1マイクロ波を伝送する第1経路、第2マイクロ波を伝送する第2経路、第1経路の途中に設けられた導波路、試料に外部直流磁場HBを印加する磁石、第1経路もしくは第2経路又はその両方に設けられた“n+0.5”波長、ただしnは整数、ずらせる位相シフタ、第1経路もしくは第2経路又はその両方に設けられた振幅調整器、第1経路を伝送した第1マイクロ波と第2経路を伝送した第2マイクロ波とを結合する結合器、該結合器から出力したマイクロ波を増幅する増幅器、及び前記増幅器から出力したマイクロ波を検出する検出器を有する装置であって、 前記導波路の途中に配置された試料Sに、第1マイクロ波により誘起された高周波磁場HRFが印加され、前記外部直流磁場HBの強度を掃引することにより所定強度で試料Sに強磁性共鳴を起こさせる強磁性共鳴測定装置において、 前記試料Sに低周波変調磁場HLFを印加する手段、及び前記検出器の出力信号から前記低周波変調磁場HLFの変調周波数成分だけを抽出する手段を付加したことを特徴とする強磁性共鳴測定装置。 請求項1記載の強磁性共鳴測定装置において、 前記マイクロ波発振器に、基準信号源及びフェーズロックドループ回路を付加することにより、位相雑音を低減したマイクロ波を発振させ、該マイクロ波を前記分岐器に入力することを特徴とする強磁性共鳴測定装置。 請求項1又は2記載の強磁性共鳴測定装置において、 前記導波路が「複数の帯状導体箔を備えたコプレーナ導波路」であり、試料が中央の帯状導体箔に置かれることを特徴とする強磁性共鳴測定装置。 請求項1又は2又は3記載の強磁性共鳴測定装置において、 60dB以上の消光比を有することを特徴とする強磁性共鳴測定装置。 【課題】S/N比が低く、ミクロンからナノサイズレベルの極めて小さい磁性体試料について強磁性共鳴の測定ができる装置を提供する。【解決手段】マイクロ波発振器(1)、マイクロ波を第1、第2に分ける分岐器(2)、第1が伝送する第1経路、第2が伝送する第2経路、第1経路に設けられた導波路(6)、第2経路に設けられた位相シフタ(7)及び振幅調整器(8)、前記経路を伝送し終えた第1、第2を結合する結合器(9)、外部直流磁場HB(5a、5b)、増幅器(10)及びマイクロ波検出器(11)を備えた強磁性共鳴測定装置において、低周波変調磁場HLFを印加する手段及び検出器の出力信号からHLFの変調周波数成分だけを抽出する手段(15)を付加した導波路途中に試料(S)を置き、第1により誘起された高周波磁場HRFを試料に印加し、HB強度を掃引して所定強度HRで試料に強磁性共鳴を起こす。【選択図】図1