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タイトル:公開特許公報(A)_ホスホマイシン不活化酵素産生菌の検出
出願番号:2014083319
年次:2015
IPC分類:C12Q 1/04,C12M 1/34


特許情報キャッシュ

和知野 純一 荒川 宜親 JP 2015202082 公開特許公報(A) 20151116 2014083319 20140415 ホスホマイシン不活化酵素産生菌の検出 国立大学法人名古屋大学 504139662 萩野 幹治 100114362 和知野 純一 荒川 宜親 C12Q 1/04 20060101AFI20151020BHJP C12M 1/34 20060101ALI20151020BHJP JPC12Q1/04C12M1/34 B 10 2 OL 11 4B029 4B063 4B029AA07 4B029BB02 4B029CC02 4B029CC07 4B029FA01 4B029GA08 4B063QA01 4B063QA18 4B063QQ06 4B063QR67 4B063QR75 4B063QX01 本発明はホスホマイシン耐性菌の検査に関する。詳しくは、ホスホマイシン不活化酵素を産生し、ホスホマイシン耐性を獲得した細菌の検査法及びその用途等に関する。 カルバペネムやフルオロキノロンといった抗菌薬に耐性を獲得した多剤耐性大腸菌の出現が、医療現場で問題となっている。このような多剤耐性菌は現存するほとんどの抗菌薬に耐性を示すため、治療に難渋するケースが少なくない。このような状況の中、多剤耐性大腸菌に有効な抗菌薬として、ホスホマイシンが再評価されつつある。しかしながら、本発明者らは過去の研究において、少数ながら既にホスホマイシンに耐性を獲得した大腸菌が存在することを明らかにしている(非特許文献1)。このようなホスホマイシン耐性菌では、ホスホマイシンにグルタチオンを付加し、ホスホマイシンを化学的に修飾、不活化する酵素(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、以下「GST」と略称することがある)の産生が示唆された(非特許文献1)。最近では、ヒトのみならず、家畜やペット、野生動物などからもホスホマイシン耐性菌が分離され始め、今後、ホスホマイシンの使用増加に伴い、ホスホマイシン耐性菌が医療環境のみならず畜水産環境などでさらに増加することが懸念される。Wachino et al., Prevalence of fosfomycin resistance among CTX-M-producing Escherichia coli clinical isolates in Japan and identification of novel plasmid-mediated fosfomycin-modifying enzymes. Antimicrob Agents Chemother. 2010 Jul;54(7):3061-4.2.Rigsby et al., Phosphonoformate: a minimal transition state analogue inhibitor of the fosfomycin resistance protein, FosA. Biochemistry. 2004 Nov 2;43(43):13666-73. 病院など医療現場において、薬剤耐性菌の増加、蔓延を防止するためには、院内における薬剤耐性菌の動向を的確に把握することが重要である。そのためには、薬剤耐性菌の特徴を識別するための検査法が必須である。具体的には、検査対象の菌がホスホマイシン耐性を示すか否かに加えて、ホスホマイシン不活化酵素の産生の有無(即ち、耐性メカニズムの判定)を把握することは、薬剤の選定や院内感染の防止などの観点から極めて重要である。ホスホマイシン不活化酵素を産生してホスホマイシン耐性を示す病原細菌を特定するためには、PCR等の遺伝子検査によって当該酵素の遺伝子(薬剤耐性遺伝子)を保有しているか否かを調べるのが常法である。しかしながら、一般細菌検査室において、PCR等を用いた薬剤耐性遺伝子検査を日常業務の一環として実施するのは、この種のPCR検査に健康保険が適応されておらず、費用(試薬代、設備費等)や労力(人材、作業時間)の面から困難である。 そこで本発明は、ホスホマイシン不活化酵素を産生してホスホマイシン耐性を示す病原細菌を、細菌検査室で日常的に実施可能な方法により、簡易且つ低コストで判別できる手段を提供することを課題とする。 本発明者らは、ホスホマイシン耐性菌の中に、ホスホマイシンを化学的に修飾し、不活化する酵素(GST)を産生するものが存在すること(非特許文献1)に着目し、当該酵素の特異的阻害剤を利用すれば、ホスホマイシン耐性の判定とその耐性メカニズム(GSTの獲得によるものであるか否か)の判定を同時に且つ簡便な方法で検査できると考え、その検証を試みた。その結果、感度及び特異度に優れた検出、判定が可能であることが確認された。この成果に基づき、以下の発明が提供される。 [1]ホスホマイシンと、細菌のグルタチオン−S−トランスフェラーゼを阻害する化合物との共存下で検査対象の細菌を培養したときの増殖阻害の有無又は程度を指標として判定することを特徴とする、ホスホマイシン耐性菌の検査法。 [2]検査対象の細菌が塗布された固体培地上に、ホスホマイシン及び細菌のグルタチオン−S−トランスフェラーゼを阻害する化合物を含有するディスクと、ホスホマイシンを単独で含有するディスクを離間して設置した後、培養する工程と、 培養後、各ディスク周囲に形成される阻止円の形状を比較し、ホスホマイシンと前記化合物の共存による増殖阻害の有無又は程度を判定する工程と、 を含む、[1]に記載の検査法。 [3]検査対象の細菌が塗布された固体培地上に、細菌のグルタチオン−S−トランスフェラーゼを阻害する化合物を含有する第1ディスクと、ホスホマイシンを単独で含有する第2ディスクと、ホスホマイシンを単独で含有する第3ディスクとを、前記第1ディスクと前記第2ディスクが近接し、前記第1ディスクと前記第3ディスクが離間する状態で設置した後、培養する工程と、 培養後、第2ディスク周囲に形成される阻止円の形状と、第3ディスク周囲に形成される阻止円の形状を比較し、ホスホマイシンと前記化合物の共存による増殖阻害の有無又は程度を判定する工程と、 を含む、[1]に記載の検査法。 [4]ホスホマイシン及び細菌のグルタチオン−S−トランスフェラーゼを阻害する化合物を含有する液体培地を入れたウェルと、ホスホマイシンを単独で含有する液体培地を入れたウェルとを用意し、各ウェルに検査対象の細菌を接種した後、培養する工程と、 培養後、各ウェルの濁度を比較し、ホスホマイシンと前記化合物の共存による増殖阻害の有無又は程度を判定する工程と、 を含む、[1]に記載の検査法。 [5]前記化合物がホスホノギ酸、アセチルホスホノギ酸、ホスホノ酢酸、及び2−カルボキシ−エチルホスホノギ酸からなる群より選択される化合物である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の検査法。 [6]前記検査対象の細菌が病原性腸内細菌である、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の検査法。 [7]前記病原性腸内細菌が、大腸菌、クレブシエラ属菌、黄色ブドウ球菌、セラチア属菌、エンテロバクター属菌、アシネトバクター属菌、シトロバクター属菌からなる群より選択される細菌である、[6]に記載の検査法。 [8]以下の(1)〜(3)の中の一つ以上を対照として前記判定を行う、[1]〜[7]のいずれか一項に記載の検査法: (1)ホスホマイシンの存在下且つ前記化合物の非存在下で検査対象の細菌を培養したときの増殖状態; (2)ホスホマイシンの非存在下且つ前記化合物の非存在下で検査対象の細菌を培養したときの増殖状態; (3)ホスホマイシン非存在下且つ前記化合物の存在下で検査対象の細菌を培養したときの増殖状態。 [9]ホスホマイシン及び細菌のグルタチオン−S−トランスフェラーゼを阻害する化合物を含有するディスクと、ホスホマイシンを単独で含有するディスクと、を含む、ホスホマイシン耐性菌の検査用キット。 [10]細菌のグルタチオン−S−トランスフェラーゼを阻害する化合物を含有するディスクと、ホスホマイシンを単独で含有するディスクと、を含む、ホスホマイシン耐性菌の検査用キット。検査法の作業手順の例。判定法の具体例(例1)。判定法の具体例(例2)臨床検体を使用した検査の結果。 本発明では、ホスホマイシン耐性に関与するGSTの産生に注目し、ホスホマイシンと、細菌のGSTを阻害する化合物(以下、「GST阻害化合物」と略称することがある)との共存下で検査対象の細菌を培養したときの増殖阻害の有無を指標として判定する。本発明によれば、検査対象の菌がホスホマイシン耐性であるかの判定と、耐性である場合の耐性メカニズムの判定を同時に行うことができる。換言すれば、ホスホマイシン不活化酵素を産生してホスホマイシン耐性を示す病原細菌を特定することができる。 ホスホマイシンは抗生物質の一種であり、細菌の細胞壁のペプチドグリカン合成を阻害する。ホスホマイシンは合成法が確立されており、また、市販もされている(Meiji Seika ファルマ株式会社、日医工株式会社等) ホスホマイシン耐性化が問題となる各種細菌に対して本発明を適用可能である。本発明は特に病原性腸内細菌に対して有効である。病原性腸内細菌の例は、大腸菌(腸管病原性大腸菌(EPEC)、腸管組織侵入性大腸菌(EIEC)、腸管毒素原性大腸菌(ETEC)、腸管出血性大腸菌(EHEC)、腸管凝集接着性大腸菌(EAggEC)等)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)等のクレブシエラ属菌、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、セラチア属菌(Serratia marcescens)、エンテロバクター属菌(Enterobacter cloacae、Enterobacter aerogenes等)、アシネトバクター属菌(Acinetobacter baumannii、Acinetobacter johnsonii、Acinetobacter lwoffii、Acinetobacter junii等)、シトロバクター(Citrobacter freundii)属菌である。 大腸菌がGST遺伝子を獲得し、ホスホマイシン耐性を示すことが報告されている(非特許文献1)。「細菌のグルタチオン−S−トランスフェラーゼを阻害する化合物(GST阻害化合物)」として、ホスホマイシン耐性大腸菌に認められた当該GST(非特許文献1ではFosA3、FosC2と呼称される)に対する阻害能を示す化合物を使用することができる。本発明で使用し得るGST阻害化合物を例示すると、ホスホノギ酸、アセチルホスホノギ酸、ホスホノ酢酸、及び2−カルボキシ−エチルホスホノギ酸である。好ましい一態様では、GST阻害化合物として、緑膿菌由来のGST阻害剤として報告のあるホスホノギ酸を用いる。ホスホノギ酸は市販品を用いることができる(例えばシグマアルドリッチ社が販売している)。 本発明では、増殖阻害の有無を指標として判定する。検査対象の細菌がGSTを産生してホスホマイシン耐性を示す場合には増殖阻害が認められる。一方、検査対象の菌がGST非産生菌(GST遺伝子の獲得以外のメカニズムでホスホマイシン耐性化を示す菌)の場合には増殖阻害が認められない。 好ましくは、対照(コントロール)を用意し、対照との比較に基づき判定を行う。対照を用いることにより、判定の正確性、信頼度等が向上する。対照として、以下の対照1〜3の一つ以上を用いることができる。(対照1) ホスホマイシンの存在下且つGST阻害化合物の非存在下で検査対象の細菌を培養したときの増殖状態(対照2) ホスホマイシンの非存在下且つGST阻害化合物の非存在下で検査対象の細菌を培養したときの増殖状態(対照3) ホスホマイシン非存在下且つGST阻害化合物の存在下で検査対象の細菌を培養したときの増殖状態 対照1を用いることにより、検査対象の細菌がホスホマイシン耐性か否かをより確実に判定できる。また、ホスホマイシンとGST阻害化合物の共存下で培養したときの増殖状態と対照1を比較し、前者の方が増殖率が低いのであれば、GST阻害化合物の影響による増殖阻害を認めることができ、検査対象の細菌がGSTを産生してホスホマイシン耐性を示していると判断できる。 対照2は培養が正しく行われたことを保証する役割を担う。対照3を利用することは、GST阻害化合物そのものに検出対象菌に対する増殖抑制効果がないことを確認できるという、利点がある。 本発明の検査法を、ディスク拡散試験法の原理を利用して実施することができる。細菌検査室において、薬剤耐性菌の検査法として最も一般的なディスク拡散試験法の原理を利用することにより、より簡便な検査が可能となる。この場合の実施態様の一つ(第1実施態様)では、検査対象の細菌が塗布された固体培地上に、ホスホマイシン及び細菌のグルタチオン−S−トランスフェラーゼを阻害する化合物を含有するディスクと、ホスホマイシンを単独で含有するディスクとを離間して設置した後、培養する工程(第1工程)と、培養後、各ディスク周囲に形成される阻止円の形状を比較し、ホスホマイシンと前記化合物の共存による増殖阻害の有無を判定する工程(第2工程)を行う。尚、「ホスホマイシンを単独で含有する」とは、「ホスホマイシン及び細菌のグルタチオン−S−トランスフェラーゼを阻害する化合物を含有するディスク」とは異なり、ホスホマイシンを含有する一方で、細菌のグルタチオン−S−トランスフェラーゼを阻害する化合物は含有しないことを意味する。 本発明に使用する固体培地は、検査対象の細菌が増殖化能なものであれば特に限定されない。例えば、検査対象の細菌の検出や分離に通常使用される固体培地を用いることができる。固体培地の具体例を挙げると、普通寒天培地、標準寒天培地、LB寒天培地、ミューラー・ヒントン寒天培地等である。培地の固化剤としては寒天、アガロースなどを用いることができる。固体培地の形態も特に限定されないが、典型的には、シャーレ(ペトリ皿)内に所定の厚さ(例えば3mm〜6mm)で平板状に成形される。 固体培地の表面に試料(検出対象の細菌)を塗布する。試料は、ホスホマイシン耐性菌を含む可能性のあるものであれば特に限定されない。ヒト又は他の動物(例えば家畜)由来の試料の他、環境中から採取された試料、食品由来の試料などが用いられる。試料の具体例として、ヒト又は他の動物の皮膚、咽頭、鼻腔、直腸等を擦過して得た試料、血液、血漿、血清、腹水、髄液、唾液、尿、喀痰、嘔吐物、膿、分泌液、糞便、拭き取り試料等を挙げることができる。これらの試料は必要に応じて前処理に供される。前処理として例えば溶媒による希釈、フィルターろ過や遠心による夾雑物の除去、前培養を行うことができる。典型的には、必要に応じて希釈や夾雑物の除去などを行った試料を培養してコロニーを形成させる。そして、検査対象とすべき細菌のコロニーを採取し、本発明における培養を行う。尚、このような前培養を行うことなく、生体等から採取した試料を直接(但し、希釈や夾雑物の除去などの処理を行うことは妨げない)、本発明における培養に供してもよい。 固体培地表面への試料の塗布方法や条件等は常法に従えばよい。例えば、日本化学療法学会標準法又はCLSI(Clinical and Laboratory Standards Institute)で定められたディスク拡散試験法に準拠した方法を採用することができる。 ディスクには特定の試薬(ホスホマイシン及び/又はGST阻害化合物)が含有されることになる。予めディスクに試薬を含有させておいても、或いは検査対象の細菌が塗布された培地上にディスクを設置する際に試薬を含有させることにしてもよい。後者の場合には、大別して、ディスクに試薬を含有させた後に設置する方法と、ディスクを設置した後に試薬を滴下などする方法の二種類がある。 ディスクの材質、形状、サイズ等は特に限定されない。例えば、適当な寸法及びサイズに成形された濾紙でディスクを作製することができる。形状は通常、円形であるが、楕円形、矩形、短冊状など、その他の形状を採用することもできる。細菌の培養に通常使用さる直径9cm前後のシャーレ内の固体培地上に設置して使用することを想定すると、例えば、直径5〜13mmの円形のディスクを使用するとよい。 ディスクにおける試薬含有量は、固体培地表面での拡散性や培養時間、使用する試薬の効果(阻害強度)などを考慮して決定すればよい。ディスクには、必要に応じて、その他の成分(例えばpH緩衝剤、滅菌蒸留水)を含有させてもよい。 ホスホマイシン及びGST阻害化合物の双方を含有するディスクと、ホスホマイシンを単独で含有するディスクは、培養中に前者からGST阻害剤が拡散する範囲と、培養中に後者からホスホマイシンが拡散する範囲が重複しないように、離間した状態で設置される(図2、左)。各試薬の拡散範囲は、試薬の含有量、培養条件によって変動し得るが、予備実験を通して、「離間した状態」を実現するディスク間の距離を設定することができる。例えば、ディスク間の距離を35mm〜80mmに設定することができる。 固体培地上にディスクを設置した後、培養を行う。培養条件は、検査対象の細菌、使用する試薬(ホスホマイシン、GST阻害化合物)の拡散性等を考慮して設定すればよい。培養温度は例えば20〜40℃、好ましくは25〜37℃、更に好ましくは35〜37℃である。培養時間は例えば6〜48時間、好ましくは8〜36時間、更に好ましくは8〜24時間である。尚、日本化学療法学会標準法又はCLSIで定められたディスク拡散検査法に準拠した条件を採用することにしてもよい。 培養中、固体培地上に設置されたディスクから各試薬(ホスホマイシン、GST阻害化合物)が固体培地表面及び内部に拡散する。ホスホマイシン及び/又はGST阻害化合物によって増殖阻害を受ける場合、ディスク周囲に阻止円が形成される。即ち、ディスク周囲に形成される(又は形成されない)阻止円の形状は増殖阻害の有無及び程度を反映する。本発明では、培養後、各ディスク周囲に形成される阻止円の形状を比較し、ホスホマイシンとGST阻害化合物の共存による増殖阻害の有無又は程度を判定する。検査対象の菌がGSTを産生してホスホマイシン耐性を示す場合、ホスホマイシン単独含有ディスク周囲に形成される阻止円よりも、ホスホマイシン及びGST阻害化合物含有ディスク周囲に形成される阻止円の方が大きくなる(図2、中央、上)。即ち、GST阻害化合物の影響による阻止円の拡大が認められる。一方、検査対象の菌がGST非産生菌(GST遺伝子の獲得以外のメカニズムでホスホマイシン耐性化を示す菌)の場合には、このような阻止円の拡大は認められない(両方のディスクの周囲に阻止円が観察されないか、観察されるとしてもディスクに近接した小さな阻止円となる)(図2、中央、下)。ホスホマイシン非耐性菌の場合には、両方のディスクの周囲に同等の阻止円の形成が認められることになる。このように、二つのディスク周囲の阻止円のサイズ(例えば、直径、半径、又は面積)に基づき、ホスホマイシン耐性の有無、及びGST産生の有無を判定することができる。阻止円のサイズは増殖阻害の強さ(程度)も反映することから、阻止円のサイズ又は拡大率に基づき、ホスホマイシン耐性の程度、GST産生の程度、及び/又は耐性化におけるGST獲得の寄与度を評価することにしてもよい。 別の実施態様(第2実施態様)では3個のディスク、即ち、GST阻害剤を単独で含有する第1ディスク、ホスホマイシンを単独で含有する第2ディスク、及びホスホマイシンを単独で含有する第3ディスクを使用する。検査対象の細菌が塗布された固体培地上に、第1ディスクと第2ディスクは、培養中に第1ディスクからGST阻害剤が拡散する範囲と、培養中に第2ディスクからホスホマイシンが拡散する範囲が重複するように、近接した状態で設置される(図3、左)。第3ディスクは、培養中に第1ディスクからGST阻害剤が拡散する範囲と、培養中に第3ディスクからホスホマイシンが拡散する範囲が重複しないように、第1ディスクと離間した状態で設置される(図3、左)。各試薬の拡散範囲は、試薬の含有量、培養条件によって変動し得るが、予備実験を通して、「近接した状態」を実現するディスク間の距離、及び「離間した状態」を実現するディスク間の距離をそれぞれ設定することができる。例えば、第1ディスクと第2ディスクの間の距離を5 mm〜10 mmとし、第1ディスクと第3ディスクの間の距離を35 mm〜40 mmに設定することができる。 以上のように各ディスクを設置した後、培養する。培養方法、培養条件等は上記第1実施態様と同様である。培養後、第2ディスク周囲に形成される阻止円の形状と第3ディスク周囲に形成される阻止円の形状を比較し、ホスホマイシンとGST阻害化合物の共存による増殖阻害の有無を判定する。検査対象の菌がGSTを産生してホスホマイシン耐性を示す場合、第3ディスク周囲に形成される阻止円よりも、第2ディスク周囲に形成される阻止円の方が大きくなる(図3、右上)。即ち、第1ディスクから拡散したGST阻害化合物の影響により、第2ディスク周囲の阻止円の拡大や変形が認められる。一方、検査対象の菌がGST非産生菌(GST遺伝子の獲得以外のメカニズムでホスホマイシン耐性化を示す菌)の場合には、このような阻止円の拡大や変形は認められない(第2ディスクと第3ディスクの周囲に阻止円の形成が観察されないか、観察されるとしてもディスクに近接した小さな阻止円となる)。ホスホマイシン非耐性菌の場合には、第2ディスクと第3ディスクの周囲に同等の阻止円の形成が認められることになる。このように、当該態様においても二つのディスク(第2ディスクと第3ディスク)周囲の阻止円の大きさや形状の差に基づき、ホスホマイシン耐性の有無及び/又は程度、並びにGST産生の有無及び/又は程度を判定することができる。 阻止円の大きさ(例えば、直径又は半径)、形状、拡大率から選択される一以上の値を用いて、ホスホマイシン耐性の程度及び/又は耐性化におけるGST獲得の寄与度を評価することにしてもよい。 液体培地を用いて本発明の検査法を実施することもできる。液体培地を用いる場合には、ホスホマイシン及び細菌のグルタチオン−S−トランスフェラーゼを阻害する化合物を含有する液体培地を入れたウェルと、ホスホマイシンを単独で含有する液体培地を入れたウェルとを用意し、各ウェルに検査対象の細菌を接種した後、培養する工程と、培養後、各ウェルの濁度を比較し、ホスホマイシンと前記化合物の共存による増殖阻害の有無を判定する工程を行う。以下、各工程の詳細を説明するが、言及しない事項については、上記態様(固体培地を使用する検査法)に準ずる。 液体培地としては、ミューラー・ヒントン液体培地、LB液体培地等を用いることができる。ホスホマイシンの添加量は例えば0.25μg/mL〜1,024μg/mL、好ましくは0.5μg/mL〜512μg/mLとする。一方、GST阻害化合物の添加量は例えば100μg/mL〜1,000μg/mL、好ましくは200μg/mL〜500μg/mLとする。 本発明の実施に使用する容器(ウェル)は特に限定されないが、マルチウェルプレート(例えば12ウェルプレート、24ウェルプレート、48ウェルプレート、96ウェルプレート)を使用することが好ましい。マルチウェルプレートを用いることは、例えば、多検体の処理に有利である。 培養条件は、検査対象の細菌、試薬(ホスホマイシン、GST阻害化合物)の添加量(濃度)等を考慮して設定すればよい。培養温度は例えば20〜40℃、好ましくは25〜37℃、更に好ましくは35〜37℃である。培養時間は例えば6〜48時間、好ましくは8〜36時間、更に好ましくは8〜24時間である。 培養後、各ウェルの濁度を比較する。濁度は常法(例えばOD660の測定)で測定すればよいが、肉眼による観察によって濁度を比較することも可能である。検査対象の菌がGSTを産生してホスホマイシン耐性を示す場合、ホスホマイシン単独含有ウェルの濁度よりも、ホスホマイシン及びGST阻害化合物含有ウェルの濁度の方が低くなる。即ち、GST阻害化合物の影響による濁度の低下が認められる。一方、検査対象の菌がGST非産生菌(GST遺伝子の獲得以外のメカニズムでホスホマイシン耐性化を示す菌)の場合には、このような濁度の低下は認められない。ホスホマイシン非耐性菌の場合には、両方のウェルにおいて細菌の増殖が抑制され、濁度は低くなる。 上記2種類のウェルに加え、ホスホマイシン及びGST阻害化合物を含有しない液体培地を入れたウェル(対照ウェル。上記の対照2に対応する)も用意し、同様に処理するとよい。この態様では、対照ウェルの濁度も判定に利用する。対照ウェルは培養が正しく行われたことを保証する役割を担う。培養後に対照ウェルの濁度が上昇していることは、培養が正しく行われたことを裏づける。更に、ホスホマイシンを含有せず、且つGST阻害化合物を含有する液体培地を入れたウェル(対照ウェル。上記の対照3に対応する)も用意し、同様に処理することにしてもよい。当該対照ウェルの培養後の濁度は、GST阻害化合物による検査対象菌に対する増殖抑制効果がないことを表す。従って、当該ウェルを設けることにより、GST阻害化合物の添加量が適当であることを確認できる。 本発明の別の局面は、本発明の検査法を実施するためのキットを提供する。本発明のキットの一態様は、ディスク拡散試験法の原理を利用した上記第1実施態様に対応するものであり、ホスホマイシン及び細菌のグルタチオン−S−トランスフェラーゼを阻害する化合物を含有するディスクと、ホスホマイシンを単独で含有するディスクを含む。別の態様は、ディスク拡散法の原理を利用した上記第1実施態様に対応するものであり、細菌のグルタチオン−S−トランスフェラーゼを阻害する化合物を含有するディスクと、ホスホマイシンを単独で含有するディスクを含む。これらのキットを利用すれば、より簡便な検査が可能になる。尚、通常、本発明のキットには取り扱い説明書が添付される。<臨床検体を用いたホスホマイシン耐性菌の判別>1.材料と方法(1)試薬溶液の作製 ホスホマイシンを50μg含んだディスク(栄研化学、ベクトンデッキンソン社)を用意した。一方、ホスホノギ酸(シグマアルドリッチ社)を滅菌蒸留水に溶解し、阻害剤溶液(ホスホノギ酸濃度50mg/ml)とした。(2)菌の接種と培養(図1) 検体を寒天培地で前培養し、コロニーを形成させる。寒天培地に発育した被検菌(大腸菌)を滅菌綿棒でかきとり、それを液体培地に浸し、懸濁液を作製する。被検菌が108cfu/mlになるように調整する(被検菌液)。次に、被検菌液に滅菌綿棒を浸し、グルコース-6-リン酸を25μg/ml含んだミューラー・ヒントン寒天培地の全面に塗布する。続いて、ホスホマイシンを50μg含んだディスクろ紙(直径6 mm)を2枚、菌液を塗布した寒天培地に、35 mm以上離して配置する。配置したホスホマイシン含有ディスクろ紙1枚に、マイクロピペットを用いて阻害剤溶液を20μl滴下する。その後、37℃で1晩培養する。培養後、2枚のディスクろ紙周囲に形成された発育阻止径をそれぞれ計測する。(3)判定(図2) 阻害剤添加ホスホマイシン含有ディスク周囲の発育阻止円の直径からホスホマイシン含有ディスク周囲の発育阻止円の直径を差し引き、それが5 mm以上であった場合、GST産生株であると判定する。2.結果・考察 上記方法で臨床検体(27検体)を試験した結果、ホスホマイシン耐性且つGST産生菌が9株(典型的な結果を図2右上に示す)、ホスホマイシン耐性且つGST非産生菌16株(典型的な結果を図2右下に示す)が検出された(図4)。即ち、GSTの産生によりホスホマイシン耐性を示す菌株を高い感度及び特異度で検出可能であった。 本発明によれば、ホスホマイシン耐性であるか否かと耐性化のメカニズム(GST産生によりホスホマイシン耐性を獲得したか否か)を同時に判定できる。しかも、PCR等の遺伝子検査が不要であり、低コスト且つ簡便な方法で検査結果を得ることができる。また、PCR検査の際には、fosA3やfosC2などにそれぞれ特異的なPCR用プライマーを準備して検査を実施する必要があるが、本発明による検査法は、それらを区別すること無く一括して検出することを可能とする。本発明は適切な薬剤の選定、院内感染の防止(抑制)、薬剤耐性菌診断技術の向上等に貢献し得る。本発明の方法は複雑高度な操作を要しない。また、従来の方法(遺伝子検査)に比べ、格段に迅速な検出・判定を可能にする。 この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。 ホスホマイシンと、細菌のグルタチオン−S−トランスフェラーゼを阻害する化合物との共存下で検査対象の細菌を培養したときの増殖阻害の有無又は程度を指標として判定することを特徴とする、ホスホマイシン耐性菌の検査法。 検査対象の細菌が塗布された固体培地上に、ホスホマイシン及び細菌のグルタチオン−S−トランスフェラーゼを阻害する化合物を含有するディスクと、ホスホマイシンを単独で含有するディスクを離間して設置した後、培養する工程と、 培養後、各ディスク周囲に形成される阻止円の形状を比較し、ホスホマイシンと前記化合物の共存による増殖阻害の有無又は程度を判定する工程と、 を含む、請求項1に記載の検査法。 検査対象の細菌が塗布された固体培地上に、細菌のグルタチオン−S−トランスフェラーゼを阻害する化合物を含有する第1ディスクと、ホスホマイシンを単独で含有する第2ディスクと、ホスホマイシンを単独で含有する第3ディスクとを、前記第1ディスクと前記第2ディスクが近接し、前記第1ディスクと前記第3ディスクが離間する状態で設置した後、培養する工程と、 培養後、第2ディスク周囲に形成される阻止円の形状と、第3ディスク周囲に形成される阻止円の形状を比較し、ホスホマイシンと前記化合物の共存による増殖阻害の有無又は程度を判定する工程と、 を含む、請求項1に記載の検査法。 ホスホマイシン及び細菌のグルタチオン−S−トランスフェラーゼを阻害する化合物を含有する液体培地を入れたウェルと、ホスホマイシンを単独で含有する液体培地を入れたウェルとを用意し、各ウェルに検査対象の細菌を接種した後、培養する工程と、 培養後、各ウェルの濁度を比較し、ホスホマイシンと前記化合物の共存による増殖阻害の有無又は程度を判定する工程と、 を含む、請求項1に記載の検査法。 前記化合物がホスホノギ酸、アセチルホスホノギ酸、ホスホノ酢酸、及び2−カルボキシ−エチルホスホノギ酸からなる群より選択される化合物である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の検査法。 前記検査対象の細菌が病原性腸内細菌である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の検査法。 前記病原性腸内細菌が、大腸菌、クレブシエラ属菌、黄色ブドウ球菌、セラチア属菌、エンテロバクター属菌、アシネトバクター属菌、シトロバクター属菌からなる群より選択される細菌である、請求項6に記載の検査法。 以下の(1)〜(3)の中の一つ以上を対照として前記判定を行う、請求項1〜7のいずれか一項に記載の検査法: (1)ホスホマイシンの存在下且つ前記化合物の非存在下で検査対象の細菌を培養したときの増殖状態; (2)ホスホマイシンの非存在下且つ前記化合物の非存在下で検査対象の細菌を培養したときの増殖状態; (3)ホスホマイシン非存在下且つ前記化合物の存在下で検査対象の細菌を培養したときの増殖状態。 ホスホマイシン及び細菌のグルタチオン−S−トランスフェラーゼを阻害する化合物を含有するディスクと、ホスホマイシンを単独で含有するディスクと、を含む、ホスホマイシン耐性菌の検査用キット。 細菌のグルタチオン−S−トランスフェラーゼを阻害する化合物を含有するディスクと、ホスホマイシンを単独で含有するディスクと、を含む、ホスホマイシン耐性菌の検査用キット。 【課題】ホスホマイシン不活化酵素を産生してホスホマイシン耐性を示す病原細菌を簡易且つ低コストで判別できる手段を提供することを課題とする。【解決手段】 ホスホマイシンと、細菌のグルタチオン−S−トランスフェラーゼを阻害する化合物との共存下で検査対象の細菌を培養したときの増殖阻害の有無を指標として判定する。【選択図】図2


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