生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_狂犬病ウイルスの複製促進・増強方法
出願番号:2014070744
年次:2015
IPC分類:C12N 7/00,A61K 39/205,A61P 37/04,C12N 7/02


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河合 明彦 JP 2015188440 公開特許公報(A) 20151102 2014070744 20140331 狂犬病ウイルスの複製促進・増強方法 一般財団法人生産開発科学研究所 000002336 岡本 昭二 100087815 河合 明彦 C12N 7/00 20060101AFI20151006BHJP A61K 39/205 20060101ALI20151006BHJP A61P 37/04 20060101ALI20151006BHJP C12N 7/02 20060101ALI20151006BHJP JPC12N7/00A61K39/205A61P37/04C12N7/02 8 1 OL 7 4B065 4C085 4B065AA91X 4B065AA95X 4B065AC14 4B065BB19 4B065CA45 4C085AA03 4C085BA51 4C085CC01 4C085DD24 4C085EE01 本発明は、狂犬病ウイルスの複製促進・増強方法に関する。現在、狂犬病ワクチンを製造するには、その原料となるウイルス材料を培養細胞系で複製し、その後、培養液を回収精製することにより行われている。すなわち、細胞をウイルスで感染させると、感染細胞内でウイルス粒子を構成する成分が生合成され組み立てられる。ウイルスが増殖すると、細胞膜から出芽して、子孫ウイルスを細胞外に放出させる。培養細胞を宿主とした場合には、子孫ウイルスは培養液中に放出されて蓄積するので、感染細胞の培養液を回収して精製し、ワクチン製造の原料とするのである。特表平11−502412 しかし、狂犬病ウイルスは培養細胞系での複製効率が低いので、ワクチン原料の調製コストが非常に高いものとなっている。それに伴い、ワクチン自体の価格も他のウイルスワクチンに比べて相当に高価である。そのため、以前からワクチン原料調製の低コスト化が望まれていた。 本発明者は、培養細胞を宿主とした複製系において、狂犬病ウイルスに対するラクトフェリンの影響を調べていたところ、思いがけず、ラクトフェリンは狂犬病ウイルスの複製を促進・増強する作用を有することを見出した。本発明はこの知見に基づいて完成したものである。 本発明の目的は、ラクトフェリンを用いて狂犬病ウイルスの複製を促進・増強させ、それにより狂犬病ワクチンの低コスト化を図ることである。 本発明は、培養細胞を宿主とした複製系において、ラクトフェリンを用いることを特徴とする狂犬病ウイルスの複製を促進・増強する方法である(請求項1)。この発明工程の前後の工程は従来法と同様である。したがって、ワクチン製造方法は、培養細胞を狂犬病ウイルスで感染させる工程、前記培養細胞を宿主とした複製系において、ラクトフェリンを用いて狂犬病ウイルスの複製を促進・増強する工程、及び前記培養液中の狂犬病ウイルスを回収して精製する工程を有することを特徴とする(請求項8)。ラクトフェリンは、1939年にウシミルクから発見された分子量約8万の糖タンパク質で、抗菌作用、抗ウイルス作用や制がん作用、アンチエイジング作用など、多様な生理活性が報告されている。ラクトフェリンは、ウシミルクその他哺乳動物由来のミルクが好ましいが、ヒト・ラクトフェリンも使用可能である(請求項4)。ウシミルク由来のラクトフェリンは市販品として容易に入手可能である。ラクトフェリンの処理濃度は好ましくは、100μg/ml〜350μg/mlである(請求項2)。100μg/ml以下であればウイルス産生量に大きな改善は見られず、350μg/ml以上であれば細胞に対する毒性がみられるようになる。より好ましくは、200μg/ml〜320μg/mlであり、最も好ましいのは250μg/ml〜310μg/mlである。ラクトフェリン処理時間は好ましくは、36時間〜84時間である(請求項3)。36時間以下、84時間以上であればウイルス産生量に大きな改善は見られない。より好ましくは、48時間〜72時間である。ラクトフェリン処理するのは、狂犬病ウイルス感染後の処理(後処理)であることが好ましい(請求項5)。回収した感染細胞の培養液(即ち、ワクチン原料)に含まれるラクトフェリンは、ウイルス精製等のワクチン製造過程で大部分が除去されている。かりに、ウイルス精製操作後のワクチン製品にラクトフェリンが多少残留していたとしても、ラクトフェリンは本来ヒト・哺乳動物の体液(ミルク以外に、涙、唾液、鼻汁、膵液、血清、子宮分泌液など)に含まれる自然物質(生体成分)であるので、大きな害はないと考えてもよい。下記実施例で使用した狂犬病ウイルスは、ヒト用の国産ワクチンの製造に用いられているHEP-Flury株であるが、他の狂犬病ウイルス株(例えば、動物用狂犬病ワクチンの製造に用いられているRC-HL株や、他の固定毒株ERA株、CVS株等)でも同様の効果があると考えられる(請求項6)。また、下記実施例では、ウイルス複製の宿主となる培養細胞として、ハムスター由来のBHK21細胞を用いて研究成果を得ているが、ワクチンメーカーが用いているハムスター由来の他の培養細胞(HmLu細胞)でも同様の結果があると考えられる(請求項7)。ラクトフェリンは、狂犬病ウイルス感染細胞の培養液に添加すると、他のウイルスで報告されている抗ウイルス作用とは異なり、添加量に応じてウイルス複製の促進・増強作用がみられた。この効果により、300μg/ml前後の濃度でラクトフェリンを感染細胞の培養液に添加するとウイルス産生のピーク時のウイルス量は通常の約3倍に達する(図1参照)。細胞条件が良い時は4〜5倍になる(図3参照)。ラクトフェリンは、ウイルス複製の促進・増強作用のみならず宿主細胞の変性を抑制し、子孫ウイルス産生の期間がおよそ2倍に延びることが分かった(図4参照)。その結果、従来の培養条件でのワクチン原料調製に比べて、大量の子孫ウイルスを含む感染細胞の培養液を2度回収してワクチン製造の原料とすることができ、また壊れた感染細胞由来の細胞成分がウイルスワクチン原料へ混入する量も比較的少なくなるので、ワクチンの不純物含量も少なくすることができる。ラクトフェリンによるウイルス増殖の促進・増強作用によって、全体として感染培養系から狂犬病ウイルスの子孫ウイルスが回収される総量が5〜6倍になった。これは明らかに狂犬病ワクチンの低コスト化に貢献するものである。なお、ラクトフェリンによるウイルス複製の促進・増強作用は、ウイルスを接種した培養細胞の培地に添加することによりみられるがウイルス感染後の24〜48時間添加して培養した後にラクトフェリンを除去しても、そのウイルス複製の増強効果はさらに1〜2日間持続する。これにより、ラクトフェリンを含まない純度の高いウイルス液をワクチンの原料として得ることもできる。他方、ウイルス感染前の細胞を、ラクトフェリンを添加した培地で培養(即ち、前処理)しても、そのウイルス複製に対する促進・増強効果は少ない(図3参照)。ラクトフェリン処理濃度とウイルス産生量の関係を示すグラフである。ラクトフェリン処理時間とウイルス産生量の関係を示すグラフである。ウイルス接種前あるいは接種後のラクトフェリン処理による子孫ウイルス産生量を比較したグラフである。ラクトフェリンによる細胞変性の抑制効果を示すグラフである。 以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 なお、各実施例において、最初に採用した抗ウイルス作用のスクリーニングはCPE抑制作用、さらに確認法として、封入体を染色する蛍光抗体染色法によるフォーカス形成抑制法により、IC50値を求めた。子孫ウイルス産生に及ぼす効果については段階希釈したウイルス液についてのフォーカス形成法による感染価アッセイによった。 ラクトフェリンは主にウシミルク由来の市販品(和光純薬工業(株)製の「牛由来ラクトフェリン」(カタログ番号125-04123))を用い、その影響については、主にウイルスを接種したBHK細胞の培養液に一定の濃度で添加することにより、上記のようなチェック法により検討した。 培養細胞 (BHK21細胞)に狂犬病ウイルス(HEP-Flury株)を感染させた後、培養液に色々の濃度でラクトフェリンを添加した。48時間および72時間後に子孫ウイルスを含む培養液を回収し、培養液中のウイルス量(感染価)をフォーカス形成法によりアッセイした。実験は30μg/ml、 100μg/ml、 300μg/ml の濃度で行った。さらに高い濃度では細胞に対する毒性がみられるようになる。子孫ウイルスの産生量は、ラクトフェリンを添加しない場合に比べて、300μg/mlの濃度で2.5〜3倍になる(図1参照)。細胞条件が良いと、4〜5倍になる(図3参照)。 BHK21細胞に狂犬病ウイルスを感染させた直後から、培養液にラクトフェリン(300μg/ml)を添加し、いろいろの時間 (即ち、6時間、24時間、48時間) 培養した後に、ラクトフェリンを含まない培養液に置き換えて培養を続けた。子孫ウイルスを含む培養液を24時間ごとに回収し、培養液中のウイルス量をフォーカス形成法によりアッセイした。6時間の処理でもかなりの効果がみられたが、48時間処理をした方が子孫ウイルスの産生に対してより大きい増強効果がみられた(図2参照)。図中、「LF」はラクトフェリンの略称である。 あらかじめ宿主細胞(BHK細胞)の培養液にラクトフェリン(300μg/ml)を添加して24時間培養してから(前処理)、ウイルスを接種して48時間後、72時間後のウイルス産生量を前処理しない場合と比較した。ほかに、前処理をせずに,後処理だけの場合のウイルス産生量,および前処理と後処理の両方を行った場合とも比較した。結果を図3に示す。図中の記号は、(-/-):前処理も後処理もしない対照, (+/-):前処理した場合(後処理はせず)、(-/+):前処理なしで,ウイルス接種後にラクトフェリン添加した場合、(+/+):前処理も後処理も行った場合を意味する。 宿主細胞をラクトフェリンで前処理しても子孫ウイルスの産生量は殆ど変化が見られなかった。他方,ラクトフェリン前処理の有無にかかわらず,感染後にラクトフェリンを培養液に添加すると(後処理)、ウイルス産生量が大きく増加した。 宿主細胞(BHK細胞)にウイルス接種後に、培養液に種々の時間(即ち,6時間、24時間,および48時間)ラクトフェリン(300μg/ml)を添加して培養してからラクトフェリンを含まない培養液に交換して培養を続けながら24時間ごとに細胞を観察した。結果を図4に示す。ウイルス増殖に伴い起こってくる細胞変性がラクトフェリンの添加によって強く抑えられることが分かった。ラクトフェリンを添加する時間が長い方が細胞変性の抑制が強いことが分かった。この効果により,別のデータが示すように,ウイルス産生期間が延長されるので,対照に比べて大量のウイルスが回収できることが期待される。[結果と考察]上記のようなCPE抑制による抗ウイルス作用のチェック法やフォーカス形成抑制法による一般的なスクリーニング法では明らかに抗ウイルス作用物質として認知された(IC50値= 300μg/ml)。このような効果がみられるには一定時間作用させることが必要で、前処理はあまり効果がみられなかった。ウイルス吸着液にラクトフェリンを添加しておくと、フォーカスの数が若干増加するのが観察された。ウイルス粒子の感染性に対する直接的な作用はみられなかった。しかし、子孫ウイルスの産生に対しては、上記の結果とは矛盾するような結果が得られ、上記のような従来の簡便なスクリーニング法が正しい結果を得られるとは限らないことが分かってきた。ラクトフェリンによる子孫ウイルス産生の促進・増強作用は、日本国産の狂犬病ワクチン製造のように、ニワトリ胎児線維芽細胞における狂犬病ウイルス複製系を用いた狂犬病ワクチンの製造にも応用できることが期待される。培養細胞を宿主とした複製系において、ラクトフェリンを用いることを特徴とする、狂犬病ウイルスの複製を促進・増強する方法。 前記ラクトフェリンの処理濃度が100μg/ml〜350μg/mlである請求項1記載の方法。前記ラクトフェリンの処理時間が36時間〜84時間である請求項1又は2記載の方法。 前記ラクトフェリンがウシミルク由来のウシ・ラクトフェリンその他哺乳動物由来のラクトフェリンである請求項1〜3のいずれかに記載の方法。 前記ラクトフェリン処理が前記狂犬病ウイルス感染後の処理である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。 前記狂犬病ウイルスが、HEP-Flury株、RC-HL株、ERA株、CVS株のいずれかである請求項1〜4のいずれかに記載の方法。 前記培養細胞が、BHK21細胞又はHmLu細胞である請求項1〜5のいずれかに記載の方法。 培養細胞を狂犬病ウイルスで感染させる工程、前記培養細胞を宿主とした複製系において、ラクトフェリンを用いて狂犬病ウイルスの複製を促進・増強する工程、及び前記培養液中の狂犬病ウイルスを回収して精製する工程を有することを特徴とする、狂犬病ワクチンの製造方法。 【課題】ラクトフェリンを用いて狂犬病ウイルスの複製を促進・増強させ、それにより狂犬病ワクチンの低コスト化を図る。【解決手段】培養細胞を宿主とした複製系において、ラクトフェリンを用いて、狂犬病ウイルスの複製を促進・増強する。ラクトフェリンの処理濃度は100μg/ml〜350μg/mlである。ラクトフェリンの処理時間が36時間〜84時間である。ラクトフェリンとしては、例えばウシミルク由来のもの、狂犬病ウイルスとしては、例えばHEP-Flury株、培養細胞としては、例えばBHK21を使用することができる。【選択図】図1


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