タイトル: | 公開特許公報(A)_FATP4産生促進剤 |
出願番号: | 2014056412 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | A61K 31/047,A61P 17/00,A61P 43/00 |
萬治 愛子 JP 2015178469 公開特許公報(A) 20151008 2014056412 20140319 FATP4産生促進剤 株式会社ファンケル 593106918 特許業務法人 もえぎ特許事務所 110000774 萬治 愛子 A61K 31/047 20060101AFI20150911BHJP A61P 17/00 20060101ALI20150911BHJP A61P 43/00 20060101ALI20150911BHJP JPA61K31/047A61P17/00A61P43/00 111 1 OL 8 4C206 4C206AA01 4C206AA02 4C206CA05 4C206MA01 4C206MA04 4C206NA14 4C206ZA89 4C206ZC41本発明は、FATP4産生促進剤に関する。 皮膚の角質層は角質細胞と角質細胞間脂質のラメラ構造からなる。角質細胞間脂質の主成分はセラミド、脂肪酸、コレステロール、コレステロール硫酸から成り、水分と油分を交互に積み重ねることで肌の水分を保持し、外的刺激から肌を保護している。したがって、細胞間脂質により整然としたラメラ構造を形成する角質層は、皮膚外部からの刺激を受けても、防御する機能を有する。一方、細胞間脂質が少なく、ラメラ構造に乱れがある角質層は、皮膚外部からの刺激に対する防御機能が低いことから、外部刺激物質の影響を受け、角質層内部の水分が蒸散するなど、ダメージを受けやすくなる。 ところで、角質層に急性刺激が与えられた場合、皮膚のバリア機能が崩壊するが、このとき正常な皮膚であれば、角化細胞の分化とともに脂肪酸合成酵素の発現が多くなり、脂肪酸がバリア機能回復を行うことが知られている(非特許文献1)。 また、脂肪酸の細胞外からの取り込みに作用する脂肪酸輸送たんぱく質(FATP/Fatty-Acid Transport Protein)の分子種と局在の点から検討すれば、皮膚にはFATP4が存在することが知られている(非特許文献2)。そして、野生型マウスと比べFATP4を欠損させたマウスは、凹凸のない硬い皮膚に覆われており(非特許文献3)、FATP4を欠損させたマウスは表皮の分化がうまくいかず正常な水分保持能を有さないことが知られている(非特許文献4)。人においてもFATP4の遺伝子変異は、魚鱗癬未熟性症候群の原因となることが知られている(非特許文献5)。Dermatoendocrinol 2011 Apr3(2)53-61 Epub 2011 Apr 1.J Biol Chem. 2008 Jan 25;283(4):1773-7.Epub 2007 Nov 16PNAS 2003 Apr 29 100(9)5274-9 Epub 2003 Apr 15Dev Biol 2010 Aug 15 344(2)707-19 Epub 2010 Jun 1Am J Hum Genet. 2009 Aug;85(2):248-53. 本発明者らは、上記のとおり、FATP4は皮膚の水分保持に重要な役割を担っていることから、FATP4の産生を促進することができれば、皮膚の水分保持機能を高めることができ、また、魚鱗癬未熟性症候群などの皮膚異常症の予防・治療剤としても利用することができるのではないかと考え、FATP4産生促進剤の探索を鋭意行った。 その結果、驚くべきことに、マンニトールにFATP4の産生促進活性があることを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は以下の構成を有する。〔1〕マンニトールを有効成分とするFATP4産生促進剤。 本発明によれば、マンニトールを有効成分とするFATP4の産生促進剤を提供することができた。そして、本剤は、FATP4の欠乏による皮膚異常、例えば魚鱗癬や魚鱗癬未熟性症候群などの治療に効果を発揮することが期待される。皮膚角化細胞とSDSを接触させることによりFATP4遺伝子の発現が無添加のものに対して有意に低下することを確認した結果である。(参考例1)皮膚角化細胞とSDSを接触させることにより低下するFATP4遺伝子の発現について、各種のサンプル物質の添加による影響を調べた結果である。(実施例1)各種のサンプル物質の添加によるヒト皮膚角化細胞における細胞保護作用を調べた結果である。(参考例2) 本発明は、皮膚細胞におけるFATP4の遺伝子の発現増進作用を有するかどうかを手がかりに被験物質をスクリーニングし、当該作用を有する物質をFATP4産生促進剤として提供する。 一般的に、遺伝子の「発現」という用語は、その遺伝子の翻訳産物すなわちタンパク質の産生のことを指すが、より広義には、その遺伝子の転写産物すなわちmRNAの産生のことを指すこともある。本明細書では、「発現」と言えば特にことわりがない限りタンパク質のレベルにおける発現とmRNAのレベルにおける発現の両方を指すものとする。タンパク質のレベルにおける発現量増加はその遺伝子の機能を遂行する最終産物の増加を反映し、mRNAのレベルにおける発現量増加はその遺伝子の活性化に伴う直接的な結果を反映する。一般的にmRNA発現の増加はタンパク質発現の増加につながると推定することが通常である。 本発明では後述する実施例のように、FATP4の産生促進は、mRNA量の増加として表れる場合に産生促進であると判断した。 特定のタンパク質の発現を検出または定量するための種々の方法は、当業者にはよく知られており、例えばウェスタンブロッティング、ELISA、免疫染色などが挙げられる。当業者は、個々のタンパク質の特性に合わせて、適切な検出方法または定量方法を選択または設計できる。特定のmRNAの発現を検出または定量するための種々の方法も、当業者にはよく知られており、例えばノザンブロッティング、RT−PCR、マイクロアレイなどが挙げられる。各遺伝子に特異的なプローブおよびプライマーを併用するTaqMan系によるRT−PCRは、感度、定量性、特異性において優れており、好ましい。 皮膚細胞は判定の対象となる被験体に由来するものであるとよく、被験体の生物種としては、ヒト、ブタ、サル、チンパンジー、イヌ、ウシ、ウサギ、ラット、マウス、モルモットなどの哺乳動物を挙げることができる。 皮膚細胞としては、表皮角化細胞、皮膚線維芽細胞、ランゲルハンス細胞、色素細胞(メラノサイト)、悪性黒色腫細胞(メラノーマ)などを挙げることができる。皮膚細胞は国内ではヒューマンサイエンス研究資源バンク、理化学研究所細胞銀行、海外ではthe American Type Culture Collectionから供給される。またClontech社、クラボウ社、PromoCell社から入手できる。また、公知の方法により皮膚から採取することができる(分子生物学研究のための新細胞培養実験法,p57−71,羊土社,1999)。本発明に用いるマンニトールはマンニットとも呼ばれ、マンノースの糖アルコールである。マンニトールの組成式はC6H14O6、分子量は182である。マンニトールは市販品を用いることができる。 本発明のFATP4産生促進剤は、FATP4の産生促進活性を必要とする用途のいずれにも使用することができ、例えば、医薬用組成物としての用途が考えられる。医薬用組成物としては、皮膚異常症治療用組成物、魚鱗癬や魚鱗癬未熟性症候群の治療用組成物やこれらの予防用組成物として利用することができる。本発明のFATP4産生促進剤の使用形態としては、経口用、経鼻用、皮膚外用、注射剤などが挙げられる。以下に実施例を挙げて、具体的に説明するが、これに限定されるものではない。 〔参考例1〕SDS添加による、ヒト皮膚角化細胞のFATP4遺伝子発現に対する影響確認試験 一般にヒト皮膚角化細胞に対して刺激物質として知られているSDSを細胞に添加することにより、皮膚を損傷させ、その場合にFATP4遺伝子の発現に対してどのような影響を与えるかを調べた。1.試験に用いた材料細胞:ヒト皮膚角化細胞(HaCat)、Deutsches Krebsforschungszentrum製(J.Cell Biol.106:761−771(1988)マルチプレート6F:MS−80060、住友ベークライト製D−MEM培地:11995−073、Life Science Technologies製D−PBS培地:Dulbecco’s Phosphate−Buffered Salines、14190−250、Life Technologies Japan製SDS(ドデシル硫酸ナトリウム):191−07145、和光純薬工業製クロロホルム:038−02606、和光純薬工業製2−プロパノール:168−21675、和光純薬工業製エタノール:059−07895、和光純薬工業製RNase−free水:Distilled Water(DNase/RNase Free)、10977−015、Life Technologies Japan製2.試験方法(1)細胞の培養 ヒト皮膚角化細胞(HaCat)をマルチプレート6Fに4x105cells/cm2 にて播種し、FBS10%とPenisilin streptmysin1%を添加したD−MEM培地を用いて、37℃、5%CO2雰囲気下で、24時間前培養を行った。培養後のマルチプレートをD−PBS培地により洗浄し、Penisilin streptmysin1%およびSDS0.2%を添加したD−MEM培地で培養した。培養時間は、30分、60分、180分とした。(2)totalRNAの抽出 上記(1)の細胞培養後、マルチプレートをD−PBS培地で洗浄し、1mLのTRIzol(登録商標)Reagent(Life Technologies製、15596−018)にて細胞を溶解し回収した。回収した細胞溶解液は−80℃で保存し、1週間以内にtotalRNA抽出を行った。 totalRNAの抽出は、TRIzol Reagentマニュアルに従って行った。すなわち、室温にて5分間静置したのち、クロロホルム200μLを加えて15秒間激しく混合した後、室温で3分間静置した。その後、13,000rpm、5分間、4°Cで遠心分離した上清を回収し、2−プロパノール500μLを加えて室温で10分間置き、13,000rpm、10分間、4°Cで遠心分離してペレットを回収した。このペレットに70vol%エタノールを1ml添加し、再び10,000rpm、4°C、5分で遠心分離してペレットを回収し、風乾した。これにRNase−free水20μLを添加して溶解したものをtotal RNA溶液として以下の試験に用いた。(3)cDNAの合成 cDNAの合成は、PrimeScript(登録商標)RT Master Mix(Perfect Real Time)(タカラバイオ、RR036A)のマニュアルに従って行った。すなわち、5x PrimeScript RT Master Mix(Perfect Real Time):total RNA溶液:RNase−free水が1:1:3の割合(体積割合)になるように混合し、サーマルサクラーにて37℃、15分で逆転写、85℃、5秒で逆転写酵素の熱失活を行った後、4℃にて冷却した。(4)FATP4の遺伝子の発現量の測定 PCR反応は、SYBR(登録商標)Premix Ex Taq(登録商標)II(Tli RNaseH Plus)(タカラバイオ製、RR820A)のマニュアルに従って行った。SYBR Premix Ex Taq II(Tli RNaseH Plus)(2x)に対し、PCR Forward Primer(終濃度0.4μM)、PCR Reverse Primer(終濃度0.4μM)を含む等量のRNase−free水を加え調整した。その後、Light Cycler(登録商標)480(Roche Diagnostics)を用いて、以下の条件にて初期変性、PCR反応、融解曲線分析および冷却を行い、PCR増幅産物の生成量(mRNA量)の検出を行った。 初期変性:95℃、30秒 PCR反応:95℃で5秒、60℃で30秒を40サイクル 融解曲線分析:95℃で5秒、60℃で1分 冷却:50℃、30秒 FATP4の遺伝子の発現量はActin遺伝子の発現量で標準化を行った。 培養時間30分のコントロール(SDS無添加の細胞)のFATP4遺伝子発現量を基準として、FATP4遺伝子発現量の相対比を算出した。(5)データ解析 コントロールに対する分散性をF検定にて確認後、等分散性と仮定できる場合Student’sのt検定を行い、等分散性と仮定できない場合にはWelchのt検定を用いて行った。有意水準は*:p<0.05、**:p<0.01とした。以下の試験についても同様である。3.試験結果 結果を図1に示す。 図1によれば、SDS添加により皮膚角化細胞におけるFATP4の遺伝子の発現は、コントロールの場合に比べて優位に低下し、かつ経時的に低下したことが確認された。したがって、皮膚角化細胞はSDSのような皮膚刺激物質にさらされることにより、FATP4の遺伝子の発現が低下・抑制されることがわかった。以下、FATP4遺伝子の発現が抑制されるような皮膚への刺激が起きる環境下でFATP4産生促進剤のスクリーニングを行った。〔実施例1〕FATP4産生促進剤のスクリーニング 参考例1より、皮膚に対する刺激によってFATP4の遺伝子の発現が低下することが確認された。したがって、FATP4遺伝子の発現を手がかりに、同遺伝子の発現低下を抑制あるいは発現を増進するような物質を探すことにより、FATP4産生促進剤を取得することにつながると考え、以下のスクリーニングを行った。1.試験に用いた材料 参考例1と同じ。2.試験方法(1)細胞の培養 ヒト皮膚角化細胞(HaCat)をマルチプレート6Fに4x105cells/cm2 にて播種し、FBS10%とPenisilin streptmysin1%を添加したD−MEM培地を用いて、37℃、5%CO2雰囲気下で、24時間前培養を行った。培養後のマルチプレートをD−PBS培地により洗浄し、Penisilin streptmysin1%およびSDS0.2%を添加したD−MEM培地に、各サンプルを1μg/mL培地となるように添加して培養した。サンプルは、D(+)−グルコース(和光純薬工業製、047−00592)、D(−)−フルクトース(和光純薬工業製、123−02762)、D(+)−ガラクトース(和光純薬工業製、071−00032)、D(+)−マルトース一水和物(和光純薬工業製、136−00612)、ラフィノース(Difco Laboratories製、217410)、ソルビトール(東京化成工業製、S0065)、D−マンニトール(Pfanstiehl Laboratories製、69−65−8)、エリスリトール(Pfanstiehl Laboratories製、149−32−6)、マルチトール(Sigma−Aldrich製、M8892−25G)を用いた。サンプルを添加しないで培養したものをコントロールとした。 サンプルはあらかじめ少量のD−PBS培地に溶解したのち培地に添加した。培養時間は180分とした。(2)totalRNAの抽出 参考例1と同じ(3)cDNAの合成 参考例1と同じ(4)FATP4の遺伝子の発現量の測定 参考例1と同様に測定した。コントロールのFATP4遺伝子発現量を基準として、SDSとサンプル添加時のFATP4遺伝子発現量の相対比を算出した。3.試験結果 結果を図2に示す。 本図によれば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マルトース、ラフィノース、ソルビトール、エリスリトール、マルチトールを添加した場合は、皮膚刺激物質であるSDSによるFATP遺伝子の発現の低下抑制あるいは発現を増進することができず、SDSのみを添加した場合(コントロール)と同じ程度、あるいはそれ以下であった。一方、マンニトールを添加した場合は、有意にSDSによるFATP4遺伝子の発現の低下抑制あるいは発現を増進することがわかった。〔参考例2〕 ヒト皮膚角化細胞における細胞保護作用の検討皮膚に対する刺激によって細胞生存量の低下が見られるが、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マルトース、ラフィノース、ソルビトール、マンニトール、エリスリトール、マルチトールがこの細胞生存量の低下を抑制する程度を調べた。1.試験に用いた材料臭化3-(4,5-ジメチル-2-チアゾリル)-2,5-ジフェニル-2H-テトラゾリウム:341−01823、和光純薬工業製2-プロパノール:163-04846、和光純薬工業製96ウェルマイクロプレート:Falcon(登録商標) 96ウェル マイクロプレート(BD製、353072)参考例1と共通のものは省略した。2.試験方法 ヒト皮膚角化細胞(HaCat)をマルチプレート6Fに4x105cells/cm2 にて播種し、FBS10%とPenisilin streptmysin1%を添加したD−MEM培地を用いて、37℃、5%CO2雰囲気下で、24時間前培養を行った。その後、培養後のマルチプレートをD−PBS培地により洗浄し、Penisilin streptmysin1%およびSDS0.2%を添加したD−MEM培地に、各サンプルを1μg/mL培地となるように添加して培養した。サンプルは、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マルトース、ラフィノース、ソルビトール、マンニトール、エリスリトール、マルチトールを用いた。 サンプルの溶解は参考例1と同じである。培養終了後、上清を取り除いた細胞に、D-PBS培地で5 mg/mLに溶解した臭化3-(4,5-ジメチル-2-チアゾリル)-2,5-ジフェニル-2H-テトラゾリウムを20分の1量添加したD−MEM培地 100μLを添加し、3時間インキュベートした。培養液を除去して、2-プロパノール100μLを各wellに添加し、マイクロプレートシェーカーにて30分間撹拌してホルマザンを溶解し、570nmと630nmの吸光度を測定しその吸光度差を求め、以下の式により細胞生存量比を算出した。サンプルを添加しないで培養したものをコントロールとした。細胞生存量比=サンプル添加時の吸光度差 /コントロールの吸光度差3.試験結果 結果を図3に示す。図3よりグルコース、ガラクトース、マンニトールがSDSによる細胞生存量の低下を顕著に抑制することがわかった。本結果および実施例1の結果より、マンニトールには、皮膚のFATP4産生促進活性があり、ガラクトース、グルコースは、皮膚のFATP4産生促進活性はないものの細胞保護活性があることがわかった。 また、これらの結果より、グルコース、ガラクトース、マンニトールのSDSによる細胞生存量低下抑制と、FATP4の産生促進効果には、特に関連性がないこともわかった。 本発明によれば、マンニトールを有効成分とするFATP4産生促進剤を提供することができた。そして、本剤を、FATP4の欠乏が原因となって起こる皮膚の異常症、例えば魚鱗癬や魚鱗癬未熟性症候群などの患者に適用することによりこれらの疾病の予防や治療をすることが期待される。マンニトールを有効成分とするFATP4産生促進剤。 【課題】皮膚細胞のFATP4産生促進剤の提供を課題とする。【解決手段】マンニトールにFATP4産生促進活性があることを見出し、本化合物を有効成分とする皮膚細胞のFATP4産生促進剤を提供する。【選択図】なし