タイトル: | 公開特許公報(A)_ラン藻の培養のための方法及び装置 |
出願番号: | 2014047914 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | C12N 1/12,C12M 1/00 |
大城 香 吉川 伸哉 JP 2015171327 公開特許公報(A) 20151001 2014047914 20140311 ラン藻の培養のための方法及び装置 公立大学法人福井県立大学 507157045 平木 祐輔 100091096 藤田 節 100118773 遠藤 真治 100130443 大城 香 吉川 伸哉 C12N 1/12 20060101AFI20150904BHJP C12M 1/00 20060101ALI20150904BHJP JPC12N1/12 AC12M1/00 E 6 9 OL 16 特許法第30条第2項適用申請有り 1.刊行物名:Journal of Applied Phycology vol.26,p.265−272(2014) 掲載アドレス:http://www.springer.com/alert/urltracking.do?id=L3602ab7Md2080eSb0ae5cb) 掲載日:平成25年9月11日 2.研究集会名:ユーグレナ研究会 第29回研究集会 主催者名:ユーグレナ研究会 開催日:平成25年11月9日 3.発行者名:ユーグレナ研究会 刊行物名:ユーグレナ研究会 第29回研究集会 要旨集 発行年月日:平成25年11月9日 4.研究集会名:海洋生物資源学科 第20回(2013年度) 卒業論文発表会 主催者名:公立大学法人福井県立大学 開催日:平成26年2月13日 5.発行者名:公立大学法人福井県立大学 刊行物名:海洋生物資源学科 第20回(2013年度) 卒業論文発表会 要旨集 発行年月日:平成26年2月13日 (出願人による申告)平成25年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願 4B029 4B065 4B029AA02 4B029BB04 4B029CC08 4B029GA08 4B065AA83X 4B065BA22 4B065BB02 4B065BC01 4B065BC48 本発明は、簡便かつ効率的にラン藻を培養する方法及びそのための装置に関する。 ラン藻(シアノバクテリア)が生産する細胞外放出多糖は、高い保水力、優れた金属吸着能等を有する機能性バイオポリマーである。当該多糖を工業的に利用するためには、ラン藻の簡便且つ効率的な培養方法が求められている。 従来のラン藻の大量培養は、多量の培地に藻体を懸濁し、十分な照射光強度と炭酸ガスの供給を実現するために通気・循環装置等を備えた高価且つ複雑な培養システムを用いて行われることが一般的である(例えば特許文献1)。国際公開WO2005/102031K. Ohki et al., Journal Appl. Phycol., Vol.26, P.265-272 (2014)Morel,F.M.M. Rueter, J. AQUIL:A chemically defined phytoplankton culture medium for trace metal studies. J. Phycol. 15: 135-141 (1979) 本発明は、簡便かつ効率的にラン藻を大量培養する方法、及びそのための装置を提供することを目的とする。 本発明者はラン藻を、深さ3cm以下かつ液面の面積が400cm2以上であり、前記液面が空気と接している液体培地中において静置培養することにより、ラン藻を簡便且つ効率的に培養できることを見出した。 本発明者はまた前記培養方法を実行するための装置として、上下方向の異なる位置に配置された複数の載置部を備える載置棚と、前記載置部に取り外し可能に載置された複数の容器と、前記複数の容器を覆い、外部の光源から各容器に到達する光の光合成有効光量子束密度を低減する減光シートとを備え、各容器は、ラン藻培養用の液体培地を、深さ3cm以下かつ液面の面積が400cm2以上となるように収容し、且つ、前記液面が空気と接するように収容する形状となっていることを特徴とする装置が好適であることを見出した。 本発明によれば簡便かつ効率的にラン藻を大量培養することが可能である。図1は実験1及び2でのラン藻の培養試験の結果を示す写真である。図2はグリーンハウス内に設置された本発明の培養装置の一例を示す写真である。図3は図2に示す培養装置を用いてラン藻の静置培養を行った場合の、各段の容器でのバイオマス生産量を示す図である。図4は参考試験1で測定された培養時の光及び温度の条件と細胞外多糖類(EPS)の生産量との関係を示す図である。図5は培養用の容器50を示す図である。図6はラン藻601を含む液体培地602をHの深さで収容した容器50を示す図である。図7は容器本体51の外寸及び内寸の最大値及び最小値を説明するための図である。図8は載置棚80を利用して複数の容器50を上下方向の異なる位置に配置した例を示す図である。図9は本発明のラン藻培養用の培養装置90を示す図である。1.ラン藻 本発明に係るラン藻の培養方法及びラン藻の培養装置を用いた方法により培養されるラン藻は、ラン藻に分類される微生物であれば特に限定されないが、好ましくは、細胞外に多糖を放出し、細胞同士が接着して細胞塊を形成するラン藻である。 特に好適なラン藻としては、Rippkaら(R.Rippka, J.Deruelles, J.B.Waterbury, M.Herdman, R.Y.Stanier. Genetic assignments, strain histories and properties of pure cultures of cyanobacteria. J. Gen.Microbiol. 111: 1-61 (1979))の分類によるラン藻のサブグループのうち、単細胞種のセクションI、糸状体種のセクションIII、セクションIV、セクションVに属するラン藻が挙げられる。単細胞種のセクションIに属するラン藻としては、具体的には、シアノセー(Cyanothece)属、グレオセー(Gloeothece)属、又はグレオカプサ(Gloeocapsa)属に属するラン藻が挙げられる。糸状体種のセクションIIIに属するラン藻としては、具体的には、リングビア(Lyngbia)属、フォルミディウム(Phormidium)属、又はオシラトリア(Oscillatoria)属に属するラン藻が挙げられる。糸状体種のセクションIVに属するラン藻としては、具体的には、ノストック(Nostoc)属、又はカロスリックス(Calothrix)属に属するラン藻が挙げられる。糸状体種のセクションVに属するラン藻としては、具体的には、クロログレオプシス(Chlorogloeopsis)属、又はフィッシェレラ(Fischerella)属に属するラン藻が挙げられる。 本発明は、上記に挙げた具体的な属に分類されるラン藻のなかでもシアノセー(Cyanothece)属に属するラン藻に対して特に適しており、更に、該シアノセー属に属するラン藻の中でも以下の特性1〜7のうち少なくとも1つ、好ましくは少なくとも3つ、より好ましくは特性1〜7の全てを有するラン藻に対して特に適している。 (特性1)細胞外に多量の多糖を放出する。具体的には、液体培地(例えば本明細書の実験1の実験培養で用いる液体培地)中で培養する場合に、細胞外多糖の生産量が培養液1リットル・1日あたり10〜50mg(多糖の乾燥重量)である。 (特性2)単細胞であるにも関わらず、生産された細胞外多糖が原因で培養された細胞が大きな細胞塊を形成する。 (特性3)深さ3cm以下(より具体的には下記2.2の深さ)の液体培地中で静置培養により生育可能である。 (特性4)淡水中で生育可能である。 (特性5)窒素固定能力を有する。 (特性6)25〜45℃にて液体培地中で培養した場合の、生育に至適な光合成有効光量子束密度が5〜100μmole・m-2・sec−1、より好ましくは10〜60μmole・m−2・sec−1の範囲内にある。 (特性7)10〜20℃の低温、あるいは、46〜48℃の高温に1日1〜5時間、数日程度(例えば2〜4日間)曝されても生育可能である。 上記の特性1〜7を備えるシアノセー(Cyanothece)属に属するラン藻の具体例としてはCyanothece sp. Viet Nam 01株、Cyanothece sp.PCC7822株等が挙げられる。 Cyanothece sp. Viet Nam 01株は、本発明者らがベトナムの水田から非特許文献1記載の方法により単離した新規のラン藻である。本出願人は本株を独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センターに寄託することを試みたが、受託が拒否された(受託拒否証明書の通知年月日平成26年3月7日、通知番号2013−1367)。本出願人及び本発明者はこのCyanothece sp. Viet Nam 01株を自ら保管しており、分譲することが可能である。Cyanothece sp. Viet Nam 01株の範囲には、Cyanothece sp. Viet Nam 01株の変異株であって、細胞外多糖類生産能が維持された変異株も包含される。 Cyanothece sp. Viet Nam 01株の受託が拒否された理由は本株の試料中に他の細菌が混入しているためである。細菌は本株の細胞外多糖類中に混入していると考えられ、除去することは不可能である。一般的には、ラン藻から細菌を除去する方法としては、ラン藻と細菌とをホモジナイズや超音波処理等でできるだけ分離したのち、ラン藻細胞を寒天培地のプレート上に広げて培養し、出現したラン藻のみのコロニーを無菌的に回収する方法が用いられる。しかしCyanothece sp. Viet Nam 01株は細胞外に多量に多糖を放出するため、細胞外が厚い多糖の層で覆われており、混入細菌は多糖の層に埋没又は付着して生息している。多糖の層は厚いため、弱いホモジナイズや超音波による処理では混入細菌を分離することができない。また、混入細菌を分離できる程度まで処理の強度を高めると、Cyanothece sp. Viet Nam 01株自体が死滅する。したがって、細菌が分離除去されたCyanothece sp. Viet Nam 01株を得ることはできない。更に、細菌が混入した本株の試料を、細菌を死滅させる抗生物質により処理する場合、細菌と本株とはともに原核生物であるため、本株も当該抗生物質に感受性を示し死滅してしまい、やはり分離が不可能である。 Cyanothece sp.PCC7822株はパスツール研究所藻類株コレクションから入手可能である。Cyanothece sp.PCC7822株の範囲には、Cyanothece sp.PCC7822株の変異株であって、細胞外多糖類生産能が維持された変異株も包含される。2.培養条件2.1.液体培地 本発明において用いるラン藻培養用の液体培地は、水中にラン藻の培養に必要な成分が添加された液体培地であって、ラン藻の培養に用いられる公知の液体培地や、公知の液体培地を適宜改変した液体培地であってよい。公知の液体培地としては非特許文献2に開示のものが挙げられ、本明細書に記載の実施例に使用する液体培地はそれを改変したものである。 液体培地のpH調整のためには、一般的にはトリスアミノメタン塩酸塩等の緩衝剤が添加されるが、緩衝剤は高価であることから、好適な実施形態では、液体培地はpH調整のために重炭酸塩を含有し、トリスアミノメタン塩酸塩等の緩衝剤を含有しない。より好ましくはpH調整を目的とした成分としては重炭酸塩のみを含有する。そのためには重炭酸塩の液体培地中での濃度は0.2〜0.4g・L−1が好ましい。 窒素固定能を有するラン藻を培養する場合は、液体培地には、硝酸ナトリウム等の硝酸塩などの窒素源を添加する必要がない。窒素源は一般に高価であることから、窒素源を含有しない液体培地を使用することでラン藻の培養コストを低減することができる。2.2.浅い液体培地中での静置培養 本発明の特徴の一つは、ラン藻を、深さ3cm以下かつ液面の面積が400cm2以上であり、前記液面が空気と接している液体培地中において、静置培養することである。液深が浅く(3cm以下)なおかつ空気と接する液面の面積が広い(400cm2以上)液体培地中では、撹拌や通気をせずともラン藻に十分な空気が供給されるため、ラン藻の成長が可能である。したがって、液体培地に対し通気、撹拌、振とう等による攪乱を与えない静置培養が可能である。液体培地に対し攪乱を与える培養は細胞塊を形成するラン藻の培養には適さないのに対して、静置培養は細胞塊を形成するラン藻の培養に好適である。 液体培地の深さは、好ましくは2.5cm以下、より好ましくは2.0cm以下である。深さの下限値は特に限定されないが、深さは通常は0.5cm以上、好ましくは1cm以上、更に好ましくは1.5cm以上である。なお本発明において液体培地の深さは、液体培地とラン藻とが混合されたのちの、培養を開始する時点での液体培地の深さを指す。 液体培地の液面の面積は400cm2以上であれば特に限定されないが、好ましくは500cm2以上、より好ましくは900cm2以上、更に好ましくは1,000cm2以上、最も好ましくは1,250cm2以上である。この範囲内のとき、液体培地の深さに対して液面が十分に広いため、ラン藻の静置培養が容易となる。液体培地の液面の面積の上限値は特に限定されないが、培養容器の取扱い性の向上と液体培地の揮発の抑制の観点から、液体培地の液面の面積は通常は15,000cm2以下、好ましくは10,000cm2以下、より好ましくは8,100cm2以下、更に好ましくは6,400cm2以下、更に好ましくは4,900cm2以下である。 液体培地の液面の形状は特に限定されないが、典型的には、液面を平面視したときの形状が三角形、四角形(長方形、正方形、平行四辺形、台形、ひし形等)、五〜八角形の多角形、円形、楕円形、扁平した円形、扁平した楕円形等であってよい。三角形、四角形、五〜八角形等の多角形は角部が滑らかな形状であってもよい。より好ましくは、液面を平面視したときの図形において、該図形の重心を間に介して対向する、該図形の周縁上の一対の点の間の距離の最大値(例えば長方形又は正方形の場合は対角線の長さ、円の場合は直径の長さ、楕円の場合は長径の長さ)をAとし、距離の最小値(例えば長方形の場合は短辺の長さ、正方形の場合は一辺の長さ、円の場合は直径の長さ、楕円の場合は短径の長さ)をBとしたとき、A/Bが好ましくは1.0〜5.0、より好ましくは1.0〜3.5、更に好ましくは1.0〜2.5、更に好ましくは1.0〜2.0である。 液体培地の液面と接する空気は、外気と通気可能な状態であることが好ましい。液体培地を収容する容器に蓋を有していたとしても、該蓋によって容器内と外気とが完全には遮断されず、容器内の空気と外気とが通気可能な状態であれば特に問題はない。液体培地を収容する容器が蓋を有することは、液体培地の揮発を抑止できるとともに、容器外からの害虫の侵入を阻止することができるため好ましい。 液体培地を、深さ3cm以下かつ液面の面積が400cm2以上となるように収容し、且つ、液面が空気と接するように収容するのに適した容器の一例である容器50を図5、6に示す。容器50は、容器本体51と蓋52とを備える。蓋52は上記の通り必須ではなく、容器本体51のみからなる容器であってもよい。蓋52は、容器本体51を、容器本体51の内部の空気と外気とが通気可能な状態で閉じることができる。蓋52と容器本体51との間に大きな間隙ができて害虫等が進入することを阻止するためには、蓋52は、薄いプラスチック製シートなどの可塑性のある材質で構成されることが好ましい。容器本体51は底部501と底部501の周縁から起立し、上方に開放された周壁502とを備える。容器本体51の内部にはラン藻601を含む液体培地602が収容される。ここで液体培地を収容する容器が底部と該底部の周縁から起立する周壁とを備える場合、該周壁で囲われる部分の内側形状及び内側寸法(内寸)が、収容された液体培地の液面の形状及び面積を決定する。前記部分の内寸の最大値をA、最小値をBとしたとき、A/Bが上記範囲であることが好ましい。ここで、前記部分の内寸の最大値とは、前記部分での周壁の内側の輪郭を平面視したときの図形において、該図形の重心を間に介して対向する、該図形の周縁上の一対の点の間の距離の最大値を指し、該図形が長方形又は正方形の場合は対角線の長さ、円の場合は直径の長さ、楕円の場合は長径の長さを指す。また、前記部分の内寸の最小値とは、前記部分での周壁の内側の輪郭を平面視したときの図形において、該図形の重心を間に介して対向する、該図形の周縁上の一対の点の間の距離の最小値を指し、該図形が長方形の場合は短辺の長さ、正方形の場合は一辺の長さ、円の場合は直径の長さ、楕円の場合は短径の長さを指す。例えば、容器本体51では、周壁502で囲われる部分504での周壁502の内側の輪郭を平面視したときの図形が長方形であるため、前記部分504の内寸の最大値Aは対角線の長さであり、内寸の最小値Bは短辺の長さである(図7)。 容器本体51に収容された液体培地602の深さHは深さに関する上記条件を満たす。 培養のための容器の外側形状及び外側寸法(外寸)は特に限定されない。容器が、底部と該底部の周縁から起立する周壁とを備える場合、前記周壁で囲われた部分での周壁の外側の輪郭を平面視したときの図形は、三角形、四角形(長方形、正方形、平行四辺形、台形、ひし形等)、五〜八角形の多角形、円形、楕円形、扁平した円形、扁平した楕円形等であってよい。三角形、四角形、五〜八角形等の多角形は角部が滑らかな形状であってもよい。より好ましくは、前記周壁で囲われた部分の外寸の最大値をC、最小値をDとしたとき、C/Dが好ましくは1.0〜5.0、より好ましくは1.0〜3.5、更に好ましくは1.0〜2.5、更に好ましくは1.0〜2.0である。ここで、前記周壁で囲われた部分の外寸の最大値とは、前記周壁で囲われた部分での周壁の外側の輪郭を平面視したときの図形において、該図形の重心を間に介して対向する、該図形の周縁上の一対の点の間の距離の最大値を指し、該図形が長方形又は正方形の場合は対角線の長さ、円の場合は直径の長さ、楕円の場合は長径の長さを指す。前記周壁で囲われた部分の外寸の最小値とは、前記周壁で囲われた部分での周壁の外側の輪郭を平面視したときの図形において、該図形の重心を間に介して対向する、該図形の周縁上の一対の点の間の距離の最小値を指し、該図形が長方形の場合は短辺の長さ、正方形の場合は一辺の長さ、円の場合は直径の長さ、楕円の場合は短径の長さを指す。例えば、容器本体51では、周壁502で囲われる部分504での周壁502の外側の輪郭を平面視したときの図形が長方形であるため、前記部分504の外寸の最大値Cは長方形の対角線の長さであり、外寸の最小値Dは長方形の短辺の長さである(図7)。培養のための容器の、前記周壁で囲われた部分の外寸の最大値Cは、好ましくは30cm〜140cm、より好ましくは40〜120cm、更に好ましくは50〜90cmである。容器の外寸の最大値がこの範囲であれば人手又は機械による搬送が容易であり取扱い性に優れる。 容器本体51及び蓋52を構成する材料は特に限定されないが、外部の光源からの光を透過することができる材料であることが好ましい。2.3.光条件、温度、時間等 ラン藻の静置培養の際の光条件、温度、培養時間等の諸条件は、培養するラン藻の種類に応じて適宜決定することができ特に限定されない。 好ましい一例では、Cyanothece属に属するラン藻を培養する場合、静置培養を、光合成有効光量子束密度が5〜100μmole・m-2・sec−1、より好ましくは10〜60μmole・m−2・sec−1である明期を含む条件で行う。光合成有効光量子束密度とは光合成に有効な波長領域(400〜700nm)の光の、単面積単位時間当たりの光量子数であり、本明細書中では単に「光強度」とも呼ぶ。光合成有効光量子束密度は実施例に記載の機器を用いて測定することができる。上記の条件の明期が24時間当たり12〜24時間となるようにすることが好ましい。上記の光合成有効光量子束密度は、白昼の天然光の光合成有効光量子束密度よりも低い。このため光源として天然光を利用する場合、後述する手段によって培養系に到達する光の光合成有効光量子束密度を低減することが好ましい。前記範囲の光合成有効光量子束密度は、Cyanothece属のラン藻が細胞外多糖類を生産するのに適している。 培養時の温度は、Cyanothece属に属するラン藻を培養する場合、25〜45℃、好ましくは25〜40℃、更に好ましくは25〜35℃、最も好ましくは27.5℃〜32.5℃である。常時前記範囲の温度で培養を行うことが好ましいが、それには限定されず、培養期間中の1〜3時間/日程度の時間、低温(15℃以下)又は高温(45℃以上)にさらされてもよい。 静置培養の時間は特に限定されないが、Cyanothece属に属するラン藻を培養する場合、通常は10〜40日、好ましくは14〜25日である。3.立体的な培養方法 本発明の培養方法の好ましい実施形態では、複数の容器の各々に、液体培地が、深さ3cm以下かつ液面の面積が400cm2以上となるように収容され、且つ、前記液面が空気と接するように収容されており、各容器は、上下方向の異なる位置に配置されており、各容器に収容された前記液体培地中で前記ラン藻を静置培養する。 本実施形態で用いられる個々の容器の特徴は上記2.2において説明した通りであり、具体例として図5、6に示す容器50が例示できる。 本実施形態では、液体培地が収容された複数の容器を、上下方向の異なる位置に、好ましくは上下方向に沿って、配置する。このように配置する方法としては、2以上の容器を上下方向に積み重ねてもよいし、上下方向の異なる位置に配置された複数の載置部を備える載置棚を用意し、各載置部に容器を載置してもよい。3cm以下という浅い液深の液体培地を用いる場合、通常、単位土地面積あたりのラン藻の生産量を向上させることは難しいが、上下方向の異なる位置に複数の容器を配置して静置培養することにより、単位土地面積あたりのラン藻の生産量を増大することが可能となる。上下方向の異なる位置に配置される容器の個数は特に限定されないが、好ましは2〜10、より好ましくは3〜7である。ラン藻、特にCyanothece属に属するラン藻は、小さな光合成有効光量子束密度の条件、例えば5〜100μmole・m-2・sec−1、好ましくは10〜60μmole・m−2・sec−1の条件において増殖し細胞外多糖類を生産することができるため、本実施形態のように、液体培地が収容された複数の容器を上下方向の異なる位置に配置した場合であっても、各容器内で十分に増殖し細胞外多糖類を生産することが可能である。 図8では、排水受け部804と、上下方向の異なる位置に配置された複数の載置部(4つの載置板802と、排水受け部804の一部である載置面803とからなる)と、載置板802を固定するフレーム801とを備える載置棚80に、載置板802及び載置面803のそれぞれに容器50を取り外し可能に載置し静置培養を行う実施形態を示す。排水受け部804を設けない場合、最下段の載置部は地面や床面であってもよい。図8の例では2つの載置棚80は1つの排水受け部804を共有しているが、2つの載置棚80がそれぞれ独立に排水受け部を有してもよい。 本実施形態での静置培養の条件は上記2の通りである。4.培養装置 上記の立体的な培養方法を実現するための培養装置の好ましい実施形態は、上下方向の異なる位置に配置された複数の載置部を備える載置棚と、前記載置部に取り外し可能に載置された複数の容器と、前記複数の容器を覆い、外部の光源から各容器に到達する光の光合成有効光量子束密度を低減する減光シートとを備え、各容器が、ラン藻培養用の液体培地を、深さ3cm以下かつ液面の面積が400cm2以上となるように収容し、且つ、前記液面が空気と接するように収容する形状となっていることを特徴とする装置である。 各容器の特徴は上記2.2において説明した通りであり、具体例として図5、6に示す容器50が例示できる。 当該装置の具体例(培養装置90)を図9に示す。載置棚80の特徴は上記3で説明した通りである。 培養装置90は、前記複数の容器50を覆い、外部の光源から各容器50に到達する光の光合成有効光量子束密度を低減する減光シート91を備える。図示した例では、減光シート91は2つの載置棚80に載置された状態の容器50を覆うことができるように構成されているが、これには限定されず、1つの減光シートが1つの載置棚80に載置された状態の容器50のみを覆うように構成されていてもよい。また、図示した例では、減光シート91は、載置棚80に載置された状態の複数の容器50を覆うように構成されているが、これには限定されず、培養装置が複数の減光シートを備え、各減光シートが個々の容器50を個別に覆うように構成されていてもよい。 減光シート91は、外部の光源(例えば太陽)から各容器50に到達する光の光合成有効光量子束密度がラン藻の培養に適した光合成有効光量子束密度よりも強い場合に、前記光の光合成有効光量子束密度をラン藻の培養に適した光合成有効光量子束密度にまで低下させる役割を担う。ラン藻の培養に適した光合成有効光量子束密度は上記2.2で示した通りである。減光シート91は開閉可能であり、外部の光源の光強度の変化に応じて減光の程度を適宜調節することができる。実験1:静置培養と撹拌培養との比較実験方法材料 ベトナムの水田から分離した単細胞ラン藻Cyanothece sp. Viet Nam 01 株を用いた。本株は細胞外に高分子多糖を放出するため細胞は塊を作り増殖する性質を持つ。培養(静置培養) 細胞の維持培養は定温恒温器を用い温度30℃、光強度20μmole・m−2・sec−1昼光色蛍光灯光・連続明の条件下、円筒型ガラス製培養瓶(直径7cm・高さ9cm、図1a)に培地約100mlを入れたものを用いた。培養に用いた培地の組成(水中に添加した成分の組成)を表1に示す。なお本種は窒素固定能(空気中の窒素ガスをアンモニアに変換する能力)を持つため、窒素源(NaNO3)は維持培養には加えたが、実験培養には加えなかった。この培地の特徴は、重炭酸塩の濃度を比較的高くしたことで、これにより緩衝剤を用いずに本ラン藻株の至適pHを維持することが可能であった。 実験培養は、維持培養の対数増殖期後期から直線増殖期の細胞(培養液として10ml)を、維持培養に用いたのと同じ形状の円筒型ガラス製培養瓶に収容された300mlの新鮮な培地(表1参照)に植え次ぎ14日間培養を行った。実験培養は、室内に設置された定温恒温器において、維持培養と同じ条件(温度30℃・光強度20μmole・m−2・sec−1昼光色蛍光灯光・連続明)のもと14日間行った。 なお、本実験及び明細書に記載の他の実験における光強度は全て、LI−1905A光量子センサーを取り付けたLI−250A光量子計(ともにLI−COR Inc.(アメリカ合衆国ネブラスカ州)社製)を用いて測定した光強度である。この機器により、光合成に関わる波長400〜700nmの範囲の光強度を測定した。 静置培養試験区では、撹拌や振とうを行わず、培養瓶を静置した状態で上記条件の実験培養を行った。(撹拌培養) 撹拌培養試験区では、円筒ガラス製培養瓶に収容された培養物をマグネチックスターラーを用いて撹拌しながら培養を行った点を除いて上記の静置培養試験区と同じ条件で培養を行った。結果と考察 静置培養試験区では、増殖した細胞が細胞塊を形成し培養容器底面に層状に広がった。 撹拌培養試験区では、細胞塊は破断され細かくなったが、培養時間経過とともに次第に退色し、最終的には白くなり死滅した。実験2:培養液の深さとバイオマス生産量との関係実験方法材料 実験1と同様にCyanothece sp. Viet Nam 01株(非特許文献1)を用いた。培養 維持培養に用いた培地の組成及び培養条件と、実験培養に用いた培地の組成は、上記実験1と同様である。 実験培養は、維持培養の対数増殖期後期から直線増殖期の細胞(培養液として300ml)を、半透明のプラスチック容器(外形36cm×54cm、高さ19cm、内形約35cm×45cm、深さ約18cm、液体培地液面面積約1,575cm2、図1b)に収容された、3つの異なる容量の新鮮な培地に植え次ぎ14日間培養を行った。細胞添加後培地の液深はそれぞれ2cm、4cm、8cmであった。実験培養は、室内に設置された定温恒温器において、維持培養と同じ条件(温度30℃・光強度20μmole・m−2・sec−1昼光色蛍光灯光・連続明)のもと行った。バイオマス生産量の評価 上記条件にて14日間培養したのちの細胞をステンレス製バスケット(網目幅約3mm)を用いて回収し(図1c)、凍結乾燥を行ったのち乾燥重量を測定した。結果と考察 培地の深さが浅くなるほどバイオマス生産量は大きくなり、培地の深さが4cmと2cmの間では差は有意(n=3、P<0.05)となった(表2)。培地の深さを2cmとした培養では、増殖した細胞は培養器底面に層状に広がり、上澄みの培地を除いたあとゼリー状の細胞塊として回収が可能であった(図1b、1c)。培養深度を下げ、培養の相対表面積を広げることでガス交換が効率よく行われ攪拌や通気をしなくてもバイオマス生産量を向上させることが可能となったと考えられた。実験3:培養容器の多段化実験方法材料 実験1と同様にCyanothece sp. Viet Nam 01株(非特許文献1)を用いた。培養 維持培養に用いた培地の組成及び培養条件と、実験培養に用いた培地の組成は、上記実験1と同様である。 実験2で用いたのと同様の半透明のプラスチック容器(外形36cm×54cm、高さ19cm、内形約35cm×45cm、深さ約18cm、液体培地液面面積約1,575cm2、図1b)を10個用意し、2つの鉄製アングル棚(載置棚)のそれぞれに縦方向に5個配置した。当該棚は、黒色メッシュ(減光シート)で覆い、自然光を遮蔽した状態で、無加温グリーンハウス(県立大生物資源開発研究センター)内に設置した(図2)。前記黒色メッシュは自然光を約60%遮蔽することができるものを用いた。前記黒色メッシュによる被覆後の前記棚内での光強度は時刻や天候により大きく変動するが、典型的には、白昼の光強度が約30〜50μmole・m−2・sec−1であった。 各々のプラスチック容器に、液深が2cmとなるように新鮮な実験培養用培地を入れた。そして各容器に、維持培養の対数増殖期後期から直線増殖期の細胞を培養液として300ml加え、14日間培養を行った。培養後、実験2と同様の方法でバイオマス生産量を測定した。 実験培養は、2013年8月〜11月に計6回行った。多段化培養の評価については、培養実験時期によりバイオマス生産量が変動したため、実験時期それぞれについて、最上段のバイオマス生産量を100とし、各段のバイオマス生産量を相対値を用いて評価した。結果と考察 最上段のバイオマス生産量を100としたときの各段のバイオマス生産量の値を図3に示した。各段の間のバイオマス生産量に有意な差は見られなかった(n=6、P>0.05)。この結果は培養容器を立体に配置したために生じた光強度の違いがバイオマス生産量の制限要因にはならなかったことを示しており、本株のような比較的低照度を好む藻類の培養に立体培養は有効であった。実験4:他のラン藻株の培養実験方法材料 Cyanothece sp. PCC7822株を、パスツール研究所藻類株コレクションから購入した。Cyanothece sp. PCC7822株は、Cyanothece sp. Viet Nam 01株と同様に細胞外多糖を生産して細胞塊を形成して増殖する性質を持つ。培養条件 維持培養に用いた培地の組成及び培養条件と、実験培養に用いた培地の組成は、上記実験1と同様である。培養実験は、円筒型ガラス製培養瓶(直径7cm・高さ9cm、図1a)中で培地液深が2cmとなる条件で、温度30℃、昼光色蛍光灯(20μmol・m−2・sec−1、12時間明:12時間暗サイクル)の条件で行った。結果 独立した3つの培養を14日間行ったあとの乾燥重量増加量の平均値と標準偏差を、1日・培養1リットルあたりのバイオマス生産量として下表に示した。Cyanothece sp. Viet Nam 01株を同じ条件で培養した結果を対照実験として示す。参考実験1:培養時の光強度と、多糖類の生産量との関係実験方法材料 実験1と同様にCyanothece sp. Viet Nam 01株(非特許文献1)を用いた。培養 維持培養に用いた培地の組成及び培養条件と、実験培養に用いた培地の組成は、上記実験1と同様である。 培養容器としては円筒型ガラス製培養瓶(直径7cm・高さ9cm、図1a)を用いた。 異なった培養温度(20、25、30、35及び40℃)及び光強度(8、40、80、160μmole・m−2・sec−1)のもと、12時間暗/12時間明サイクルで20日間培養を行った。細胞外多糖類(EPS)の生産量測定 培養後の細胞をメンブランフィルター上(孔径3mm)で捕集し、プラスチックチューブに入れ凍結乾燥した。乾燥細胞は測定まで室温保存した。 凍結乾燥させた細胞をアルカリ処理(0.1N NaOH、80℃、4時間)後、イソプロパノールで細胞外多糖類を抽出・洗浄し、乾燥させた。細胞外多糖類は硫酸フェノール法(Radhakrishnamurty and Berenson, Effect of temperature and time of heating on the carbazole reaction of uronic acids and acid mucopolysaccharides Anal. Chem. Vol.35, 1316-1318, 1963)を用いて定量した。 結果を図4に示す。値は、20日間に合成された培養1リットルあたりの細胞外多糖類(EPS)の量を、2回の独立して行った実験の平均値として示した。結果と考察 細胞外多糖類の合成量の至適光・温度条件は、8μmole・m−2・sec−1、30℃であった。本株による細胞外多糖類の合成量は比較的低照度・高温で高くなるということができる。50・・・培養用の容器501・・底部502・・周壁504・・周壁で囲われた部分602・・液体培地601・・ラン藻802・・載置板803・・載置面80・・・載置棚90・・・培養装置91・・・減光シートC・・・・周壁で囲われた部分の外寸の最大値H・・・・液体培地の深さ ラン藻の培養方法であって、 ラン藻を、深さ3cm以下かつ液面の面積が400cm2以上であり、前記液面が空気と接している液体培地中において、静置培養することを特徴とする方法。 ラン藻がシアノセー(Cyanothece)属に属するラン藻である、請求項1の方法。 複数の容器の各々に、前記液体培地が、深さ3cm以下かつ液面の面積が400cm2以上となるように収容され、且つ、前記液面が空気と接するように収容されており、 各容器は、上下方向の異なる位置に配置されており、 各容器に収容された前記液体培地中で前記ラン藻を静置培養することを特徴とする、請求項1又は2の方法。 各容器は、底部と該底部の周縁から起立する周壁とを備え、各容器の前記周壁で囲われた部分の外寸の最大値が30cm〜140cmである、請求項3の方法。 ラン藻の培養装置であって、 上下方向の異なる位置に配置された複数の載置部を備える載置棚と、 前記載置部に取り外し可能に載置された複数の容器と、 前記複数の容器を覆い、外部の光源から各容器に到達する光の光合成有効光量子束密度を低減する減光シートとを備え、 各容器は、ラン藻培養用の液体培地を、深さ3cm以下かつ液面の面積が400cm2以上となるように収容し、且つ、前記液面が空気と接するように収容する形状となっていることを特徴とする装置。 各容器は、底部と該底部の周縁から起立する周壁とを備え、各容器の前記周壁で囲われた部分の外寸の最大値が30cm〜140cmである、請求項5の装置。 【課題】本発明は、簡便かつ効率的にラン藻を大量培養する方法及びそのための装置を提供することを目的とする。【解決手段】本発明は、ラン藻を、深さ3cm以下かつ液面の面積が400cm2以上であり、前記液面が空気と接している液体培地中において静置培養することを特徴とするラン藻の培養方法を提供する。本発明はまた、上下方向の異なる位置に配置された複数の載置部を備える載置棚と、前記載置部に載置された複数の容器と、前記複数の容器を覆う減光シートとを備え、各容器は、液体培地を、深さ3cm以下かつ液面の面積が400cm2以上となるように収容し、且つ、前記液面が空気と接するように収容する形状となっていることを特徴とする培養装置を提供する。【選択図】図9