タイトル: | 公開特許公報(A)_L−リジン脱炭酸/酸化酵素およびその応用 |
出願番号: | 2014041841 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | C12N 15/09,C12N 9/10,C12N 9/06,C12M 1/34,C12Q 1/26,C12Q 1/25,C12N 1/15,C12N 1/19,C12N 1/21,C12N 5/10,G01N 27/416 |
礒部 公安 浅野 泰久 松井 大亮 JP 2015165791 公開特許公報(A) 20150924 2014041841 20140304 L−リジン脱炭酸/酸化酵素およびその応用 国立大学法人岩手大学 504165591 富山県 000236920 植木 久一 100075409 植木 久彦 100129757 菅河 忠志 100115082 伊藤 浩彰 100125243 礒部 公安 浅野 泰久 松井 大亮 C12N 15/09 20060101AFI20150828BHJP C12N 9/10 20060101ALI20150828BHJP C12N 9/06 20060101ALI20150828BHJP C12M 1/34 20060101ALI20150828BHJP C12Q 1/26 20060101ALI20150828BHJP C12Q 1/25 20060101ALI20150828BHJP C12N 1/15 20060101ALI20150828BHJP C12N 1/19 20060101ALI20150828BHJP C12N 1/21 20060101ALI20150828BHJP C12N 5/10 20060101ALI20150828BHJP G01N 27/416 20060101ALI20150828BHJP JPC12N15/00 AC12N9/10C12N9/06 BC12M1/34 EC12Q1/26C12Q1/25C12N1/15C12N1/19C12N1/21C12N5/00 101G01N27/46 311KG01N27/46 336G 13 OL 46 (出願人による申告)独立行政法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業・総括実施型研究(ERATO) 浅野酵素活性分子プロジェクト 4B024 4B029 4B050 4B063 4B065 4B024AA11 4B024BA07 4B024BA08 4B024CA01 4B024DA01 4B024DA02 4B024DA05 4B024DA06 4B024DA11 4B024EA04 4B024GA11 4B024HA08 4B029AA07 4B029BB16 4B029CC02 4B029CC03 4B029FA12 4B029GB02 4B029GB06 4B050CC01 4B050CC03 4B050CC04 4B050DD02 4B050EE10 4B050FF01 4B050FF11E 4B050LL03 4B063QA18 4B063QQ80 4B063QR02 4B063QR03 4B063QR20 4B063QR66 4B063QS03 4B063QS28 4B063QS36 4B063QS39 4B063QX01 4B065AA01X 4B065AA01Y 4B065AA26X 4B065AA57X 4B065AA87X 4B065AB01 4B065BA02 4B065CA27 4B065CA28 4B065CA46 本発明は、L−リジンに対する基質特異性の高い新規なL−リジン脱炭酸/酸化酵素と、その利用方法などに関する。より詳しくは、本発明は、L−リジン脱炭素活性とL−リジン酸化活性の両方を有し、且つ、L−リジンに対する基質特異性の高い新規なL−リジン脱炭酸/酸化酵素、当該新規L−リジン脱炭酸/酸化酵素をコードする核酸、並びに、当該新規L−リジン脱炭酸/酸化酵素を用いるL−リジンの測定方法、当該測定方法に用いることができるL−リジン測定用キットおよびL−リジン測定用酵素センサ、また、当該新規L−リジン脱炭酸/酸化酵素を産生する新規微生物に関するものである。 L−リジンはタンパク質構成アミノ酸の一つであるが、体内で生成されない必須アミノ酸である。L−リジンを含むアミノ酸の濃度は、生体内では恒常性が維持されているが、先天性代謝異常や内臓疾患によりその血中濃度は大きく変動する。L−リジンに限らず、生体内のアミノ酸濃度の測定は、疾病を検出する有用な手段となり得る。このため、1種類もしくは多種類のアミノ酸の血中濃度を測定することにより、特定の疾病を検出することが可能となる(特許文献1および非特許文献1)。 近年、アミノ酸の定量法として酵素を用いる方法が多数報告されている。酵素を用いる方法は、機器分析的手法と比べ、短時間に多数のサンプルの測定が可能であり、また安価で簡易的に行うことができる利点がある。定量用酵素としては、例えば、酸化酵素や脱水素酵素が多く用いられる。酸化酵素を用いる場合、アミノ酸に酸化酵素を作用させることで生成される過酸化水素をペルオキシダーゼで検出し、定量する方法が挙げられる(特許文献2)。この検出および定量には、比色法、蛍光法、電極法のいずれの方法も利用可能である。 L−リジンの定量法としても酵素を用いる方法が知られている。例えば、酸化酵素による定量には、L−リジンα−酸化酵素[EC1.4.3.14]が用いられてきた。トリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)由来のL−リジンα−酸化酵素は、他のL−アミノ酸酸化酵素に比べて基質特異性が高く、市販もされていることから、酵素センサなどの素子に利用されてきた(非特許文献2,非特許文献3および非特許文献4)。しかし、本酵素は数種類の他のアミノ酸にも僅かながら作用することが報告されている。 また、海洋バクテリアであるマリノモナス・メディテラネア(Marinomonas mediterranea)NBRC103028T株由来のL−リジンε−酸化酵素[EC1.4.3.20]を用いたL−リジン定量方法も報告されている(特許文献3および非特許文献4)。この酵素は、L−リジンに加え、僅かながらL−オルニチンを基質とする。 また、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)由来のL−リジンモノオキシゲナーゼ[EC1.13.12.2]にL−リジン酸化酵素活性があるという報告がある(非特許文献6および非特許文献7)。この酵素は、L−リジン、L−オルニチン、L−アルギニンを基質とする。国際公開第2006/129513号パンフレット特開昭55−43409号公報特開2011−43396号公報Anal.Chem.,81,pp.307−314(2009)Sens.Actuators,B,126,pp.424−430(2007)Anal.Bioanal.Chem.,391,pp.1255−1261(2008)Anal.Bioanal.Chem.,406,pp.19−23(2010)Appl.Microbiol.Biotechnol.,DOI 10.1007/S00253−00013−05168−00253(2013)J.Biol.Chem.,249,pp.2579−2586(1974)J.Biol.Chem.,249,pp.2587−2592(1974) 上述したように、様々な微生物に由来するL−リジン酸化酵素が知られているが、アミノ酸の中でL−リジンに対してのみ作用する酸化酵素はなく、L−リジン以外のアミノ酸も酸化することから、L−リジンの定量に使用した場合、例えば、特に血漿のように様々な化合物を含む検体中のL−リジンを正確に測定できるものではなかった。 そこで本発明は、L−リジンに対する基質特異性が極めて高く、夾雑物を多く含む検体におけるL−リジンも高い正確性をもって測定が可能になるL−リジン脱炭酸/酸化酵素と、当該酵素を用いたL−リジンの測定方法を提供することを目的とする。また、本発明は、当該測定方法に用いることができるL−リジン測定用キットおよびL−リジン測定用酵素センサ、また、当該新規L−リジン脱炭酸/酸化酵素を産生する新規微生物を提供することも目的とする。 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、L−リジンに対する基質特異性が極めて高い上に、脱炭酸酵素活性と酸化酵素活性の両方を有する新規酵素を見出した。本発明者らは、当該酵素を用いれば、血漿など夾雑物を多く含む検体におけるL−リジンも高い正確性をもって測定できることを見出した。 本発明に係るL−リジン脱炭酸/酸化酵素は、下記の(1)〜(3)の何れかのアミノ酸配列を有することを特徴とする。 (1)配列番号2に記載のアミノ酸配列; (2)配列番号2に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換および/または付加を有し、且つL−リジン脱炭酸/酸化酵素活性を有するアミノ酸配列; (3)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して95%以上の相同性を有し、且つL−リジン脱炭酸/酸化酵素活性を有するアミノ酸配列。 上記L−リジン脱炭酸/酸化酵素は、バークホルデリア(Burkholderia)属細菌から、特にバークホルデリア・エスピー(Burkholderia sp.)AIU395株(受託番号:NITE P−01796)から得ることができる。 本発明に係る核酸は、下記の(1’)〜(3’)の何れかの塩基配列を有することを特徴とするものであり、上記L−リジン脱炭酸/酸化酵素の製造に利用することができる。 (1’)配列番号1に記載の塩基配列 (2’)配列番号1に記載の塩基配列において1から数個の塩基の欠失、置換および/または付加を有し、且つ、当該塩基配列がコードするタンパク質がL−リジン脱炭酸/酸化酵素活性を有する塩基配列 (3’)配列番号1に記載の塩基配列に対して95%以上の相同性を有し、且つ、当該塩基配列がコードするタンパク質がL−リジン脱炭酸/酸化酵素活性を有する塩基配列。 また、本発明に係る形質転換体は、上記核酸を含むことを特徴とする。 本発明に係るL−リジンの測定方法は、検体中のL−リジンを測定する方法であって、 (A)必要に応じて、L−リジンの量が明らかな複数の試料につき以降と同様の工程を行い、当該L−リジン量と下記工程(D)で計測すべき反応生成物の量との関係を明らかにしておく工程; (B)必要に応じて、検体にプトレシン酸化酵素を作用させることにより検体中のカダベリンを酸化する工程; (C)検体に上記L−リジン脱炭酸/酸化酵素を作用させる工程;および (D)上記L−リジン脱炭酸/酸化酵素の作用による反応生成物の少なくとも一種の量を計測する工程 を含むことを特徴とする。 上記工程(C)においては、上記L−リジン脱炭酸/酸化酵素の作用により生成するカダベリンをプトレシン酸化酵素により酸化し、且つ、上記工程(D)において、反応生成物である過酸化水素の量を計測することが好ましい。かかる態様により、検体中のL−リジンをより一層正確に測定することが可能になる。 上記プトレシン酸化酵素としては、コクリア ロゼア(Kokuria rosea)NBRC 3768株由来のものが好ましい。かかるプトレシン酸化酵素の作用効果は、本発明者らの実験により確認されている。 本発明に係るL−リジン測定用キットは、上記L−リジン脱炭酸/酸化酵素を含むことを特徴とする。 当該L−リジン測定用キットとしては、さらにプトレシン酸化酵素を含むもの、また、ペルオキシダーゼと発色試薬を含む過酸化水素検出用試薬を含むものが好ましい。 本発明に係る酸素センサは、L−リジンを測定するための酵素センサであって、過酸化水素検出用電極を有し、当該過酸化水素検出用電極の表面または近傍に上記L−リジン脱炭酸/酸化酵素が配置されていることを特徴とする。 また、本発明は、上記L−リジン脱炭酸/酸化酵素を産生するバークホルデリア・エスピー(Burkholderia sp.)AIU395株(受託番号:NITE P−01796)にも関する。 本発明に係るL−リジン脱炭酸/酸化酵素は、L−リジンに対する基質特異性が非常に高い。よって、このL−リジン脱炭酸/酸化酵素を用いることで、他のアミノ酸など多くの夾雑物を含む検体においても、L−リジンを特異的に迅速かつ簡便に測定することが可能である。特に、血漿、血清、尿のような生体試料に対し本発明は有効である。図1は、バークホルデリア(Burkholderia)属の16SrDNA塩基配列に基づく簡易分子系統樹である。図1中のSIID13564は、バークホルデリア・エスピー(Burkholderia sp.)AIU395株を示す。左下の線はスケールバー、系統枝の分岐に位置する数値はブートストラップ値、株名の末尾のTはその種の規準株(Type strain)を示す。図2は、バークホルデリア・エスピー(Burkholderia sp.)AIU395株の生理・生化学性状試験の結果を表わす図である。図2(1)は結果を示し、図2(2)は試験項目の説明を示す。図3は、バークホルデリア・エスピー(Burkholderia sp.)AIU395株の培養曲線と、L−リジン脱炭酸/酸化酵素の活性の経時的変化を表わす図である。●はL−リジン酸化酵素活性、■は菌株の生育曲線(OD660nm)、▲は培地のpHを示す。図4は、バークホルデリア・エスピー(Burkholderia sp.)AIU395株由来のL−リジン脱炭酸/酸化酵素のNative−PAGE(A)とSDS−PAGE(B)の写真である。なお(C)は分子量マーカーを示す。図5は、精製酵素の吸収スペクトルを表わす図である。横軸が吸収波長、縦軸が吸光度値を示している。図6は、バークホルデリア・エスピー(Burkholderia sp.)AIU395株由来のL−リジン脱炭酸/酸化酵素の活性と安定性に対するpHの影響、並びに、コクリア ロゼア(Kokuria rosea)NBRC 3768株由来プトレシン酸化酵素の活性に対するpHの影響を示している。●は30℃での各pHにおけるL−リジン酸化酵素活性、○は各pHにおいて30℃で30分間加温した後の残存活性、▲はプトレシン酸化酵素のカダベリン酸化酵素活性に対するpHの影響を示している。図7は、バークホルデリア・エスピー(Burkholderia sp.)AIU395株由来のL−リジン脱炭酸/酸化酵素の温度による影響を示している。○は各温度でのL−リジン酸化酵素活性を示し、●は各温度で30分間加温した後の残存活性を示している。図8は、バークホルデリア・エスピー(Burkholderia sp.)AIU395株由来のL−リジン脱炭酸/酸化酵素と、バークホルデリア(Burkholderia)属細菌および大腸菌(Escherichia coli)由来の塩基性アミノ酸脱炭酸酵素とのアミノ酸配列のアライメントを示している。図9は、1.0mLの反応液において、1.0mM L−リジンを基質としてL−リジン脱炭酸/酸化酵素添加量を変えて20分間反応させ、比色法で555nmの吸光度を測定した結果を示している。図10は、1.0mLの反応液において、0〜1.0mM L−リジンを基質としてL−リジン脱炭酸/酸化酵素を1.3mU添加して555nmの吸光度を測定した結果を示している。図11は、1.0mLの反応液において、60μMのカダベリンを基質としてプトレシン酸化酵素(PUO)の添加量を変えて20分間または30分間反応させ、比色法で555nmの吸光度を測定した結果を示している。図12は、1.0mLの反応液において、60μMのL−リジンを基質としてプトレシン酸化酵素(PUO)量を200mUに固定して、L−リジン脱炭酸/酸化酵素の添加量を変えて反応させ、比色法で555nmの吸光度を測定した結果を示している。図13は、1.0mLの反応液において、濃度0〜60μMのリジンに対してL−リジン脱炭酸/酸化酵素(1.5mU)とプトレシン酸化酵素(200mU)を添加して30分間反応させた後、比色法で555nmの吸光度を測定した結果を示している。図14は、1.0mLの反応液において、60μMカダベリンと濃度0〜60μMのL−リジンを含む溶液に、プトレシン酸化酵素(200mU)と発色液I(ペルオキシダーゼと4−アミノアンチピリン)を添加して反応させ(Reaction I)、次いで、発色液II(TOOS)とL−リジン脱炭酸/酸化酵素(2.3mU)を添加して反応させ(Reaction II)、555nmの吸光度を30分間測定した結果を示している。(1)は経時的な吸光度変化を示し、(2)のグラフの横軸はL−リジン濃度を、縦軸は吸光度変化量を示している。 以下、先ず、本発明に係るL−リジン脱炭酸/酸化酵素について説明する。 <L−リジン脱炭酸/酸化酵素> 本発明に係るL−リジン脱炭酸/酸化酵素は、L−リジンに対する基質特異性が極めて高い。具体的には、5−ヒドロキシ−DL−リジンとジアミン有機化合物であるカダベリンに僅かな酸化酵素活性を示す以外、L−アルギニン、L−オルニチン、L−チロシン、L−アラニン、L−システイン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−メチオニン、L−アスパラギン、L−プロリン、L−グルタミン、L−アルギニン、L−セリン、L−スレオニン、L−バリンに対しては、全く活性を示さない。よって、本発明のL−リジン脱炭酸/酸化酵素を用いることにより、血漿など様々なアミノ酸などが含まれ得る生体試料などにおいてもL−リジンを正確に測定することが可能になる。 本発明に係るL−リジン脱炭酸/酸化酵素は、下記の(1)〜(3)の何れかのアミノ酸配列を有することを特徴とする。 (1)配列番号2に記載のアミノ酸配列; (2)配列番号2に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換および/または付加を有し、且つL−リジン脱炭酸/酸化酵素活性を有するアミノ酸配列; (3)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して95%以上の相同性を有し、且つL−リジン脱炭酸/酸化酵素活性を有するアミノ酸配列。 なお、本発明において「L−リジン脱炭酸/酸化酵素」とは、L−リジンに対する脱炭酸酵素活性と酸化酵素活性の両方の活性を有する酵素をいう。 本発明において「L−リジン脱炭酸酵素活性」とは、L−リジンを脱炭酸してカダベリンを生成する反応を触媒する酵素活性をいい、「L−リジン酸化酵素活性」とは、酸素と水の存在下、L−リジンを酸化してL−2−アミノアジピン酸 5−セミアルデヒド、過酸化水素およびアンモニアを生成する反応を触媒する酵素活性をいう。即ち、本発明のL−リジン脱炭酸/酸化酵素は、下記式の反応を触媒する。 また、本発明において酵素が「(特定の)アミノ酸配列を有する」とは、その酵素のアミノ酸配列が特定されたアミノ酸配列を含んでいればよく、且つ、その酵素の機能が維持されていることを意味する。その酵素において特定されたアミノ酸配列以外の配列としては、ヒスチジンタグや固定化のためのリンカー配列の他、ジスルフィド結合などの架橋構造などが挙げられる。 上記アミノ酸配列(1)は、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列である。当該アミノ酸配列を有する酵素は、L−リジン脱炭酸/酸化酵素活性を有するものであり、本発明者らが自然界から見出した新規なバークホルデリア属菌株が産生する酵素として単離精製したものである。 上記アミノ酸配列(1)(配列番号2)を有するL−リジン脱炭酸/酸化酵素は、本発明に係る新規微生物であるバークホルデリア・エスピー(Burkholderia sp.)AIU395株により産生されるものである。当該AIU395株は、下記の通り寄託機関に寄託されている。 (i) 寄託機関の名称およびあて名 名称: 独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター あて名: 日本国 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 (ii) 受託日: 2014年1月24日 (iii) 受託番号: NITE P−01796 その他、本発明者らの実験的知見により、AIU395株以外の複数のバークホルデリアも、L−リジンに対する脱炭酸酵素活性と酸化酵素活性の両方の活性を有するL−リジン脱炭酸/酸化酵素を産生することが確認されている。 本発明に係るアミノ酸配列(2)の「1から数個のアミノ酸の欠失、置換および/または付加を有するアミノ酸配列」における「1から数個」の範囲は、欠失等を有するタンパク質が、L−リジンに対する脱炭酸酵素活性と酸化酵素活性の両方の活性を有する酵素である限り、特に限定されない。前記「1から数個」の範囲は、前記L−リジン脱炭酸/酸化酵素を有するタンパク質である割合が高いことから、例えば、1個以上、30個以下、好ましくは1個以上、20個以下、より好ましくは1個以上、10個以下、さらに好ましくは1個以上、7個以下、一層好ましくは1個以上、5個以下、特に好ましくは1個以上、3個以下程度であることができる。 本発明に係るアミノ酸配列(3)の「配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して95%以上の相同性を有するアミノ酸配列」における相同性は、当該相同性を有するタンパク質が、L−リジンに対する脱炭酸酵素活性と酸化酵素活性の両方の活性を有する酵素である限り、特に限定されない。当該相同性は95%以上であれば特に限定されないが、好ましくは96%以上、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、特に好ましくは99.5%以上である。 なお、上記の配列番号2に記載のアミノ酸配列との相同性は、比較すべきタンパク質のアミノ酸配列が明らかであれば、当業者であればアライメント解析ソフトを用いて容易に求めることができる。 上記アミノ酸配列(2)およびアミノ酸配列(3)において、「L−リジン脱炭酸/酸化酵素活性を有する」とは、例えば後記の実施例に記載の条件で、L−リジンを脱炭酸してカダベリンを生成する反応を触媒する酵素活性を有し、且つ、酸素と水の存在下、L−リジンを酸化してL−2−アミノアジピン酸 5−セミアルデヒド、過酸化水素およびアンモニアを生成する反応を触媒する酵素活性を有することをいう。 本発明の上記L−リジン脱炭酸/酸化酵素は、上記アミノ酸配列(1)〜(3)を有し、且つ、L−リジンに対して高い基質特異性を示し、L−リジン酸化活性とL−リジン脱炭酸活性を有する酵素であれば、その由来は特に限定されるものではない。 例えば、本発明のL−リジン脱炭酸/酸化酵素は、各種遺伝子工学的技術により製造した組換えタンパク質であってもよいし、化学合成により製造した合成タンパク質であってもよく、或いは配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるL−リジン脱炭酸/酸化酵素の遺伝子ホモログを有する特定の生物種(例えば、細菌)から、或いは、当該生物種に変異原を与えることによりアミノ酸配列(2)または(3)を有するL−リジン脱炭酸/酸化酵素を産生し得る変異体を獲得して、産生するタンパク質を抽出および精製することによって製造したタンパク質であってもよい。 異種発現による生産法としては、例えば、同様の活性を有する生物種より抽出したゲノムDNAから該当する遺伝子をPCRにて増幅し、pETもしくはpUCなどに組み込んだプラスミドベクターを構築したのち、BL21やJM109などの宿主菌株に形質転換し、培養する方法が挙げられる。これら以外の公知の方法も適宜用いることができる。 本発明に係るL−リジン脱炭酸/酸化酵素の取得方法は特に制限されず、化学合成により合成したタンパク質でもよいし、遺伝子組換え技術により作製した組換えタンパク質でもよい。組換えタンパク質を作製する場合には、後述するように当該タンパク質をコードする遺伝子(DNA)を取得する。このDNAを適当な発現系に導入することにより、上記L−リジン脱炭酸/酸化酵素を産生することができる。 本発明に係るL−リジン脱炭酸/酸化酵素は、上記L−リジン脱炭酸/酸化酵素をコードする遺伝子をベクター上に搭載し、このベクターによって宿主細胞を形質転換した後、形質転換させた宿主細胞を培養して培養物中に前記遺伝子がコードするタンパク質を蓄積し、蓄積したタンパク質を収集することを含む方法により製造することができる。 <L−リジン脱炭酸/酸化酵素をコードする核酸> 本発明に係るL−リジン脱炭酸/酸化酵素をコードする遺伝子は、本発明の一態様である。即ち、本発明は、下記の何れかの塩基配列を有する核酸を包含する。 (1’)配列番号1に記載の塩基配列 (2’)配列番号1に記載の塩基配列において1から数個の塩基の欠失、置換および/または付加を有し、且つ、当該塩基配列がコードするタンパク質がL−リジン脱炭酸/酸化酵素活性を有する塩基配列 (3’)配列番号1に記載の塩基配列に対して95%以上の相同性を有し、且つ、当該塩基配列がコードするタンパク質がL−リジン脱炭酸/酸化酵素活性を有する塩基配列。 上記核酸における各文言の定義は、上記L−リジン脱炭酸/酸化酵素の定義などを準用する。なお、配列番号1に記載の塩基配列に対して95%以上の相同性の塩基配列を有する核酸を用いれば、配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して95%以上の相同性のアミノ酸配列を有するL−リジン脱炭酸/酸化酵素を製造することができる。 本発明のL−リジン脱炭酸/酸化酵素をコードする遺伝子の取得方法は特に限定されない。本発明のL−リジン脱炭酸/酸化酵素をコードする遺伝子は、例えば、配列番号2に記載のアミノ酸配列および配列番号1に記載した塩基配列の情報に基づいて、化学合成、遺伝子工学的手法または突然変異誘発などの当業者に既知の任意の方法で作製することができる。 例えば、配列表の配列番号1に記載の塩基配列を有するDNAに対し、変異原となる薬剤と接触作用させる方法、紫外線を照射する方法、遺伝子工学的手法等を用いて行うことができる。遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発法は特定の位置に特定の変異を導入できる手法であることから有用であり、Molecular Cloning:A laboratory Mannual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,NY.,1989(以下、モレキュラークローニング第2版と略す)、Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1〜38,John Wiley & Sons(1987−1997)(以下、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジーと略す)等に記載の方法に準じて行うことができる。 配列表の配列番号2に記載したアミノ酸配列または配列番号1に示す塩基配列の情報に基づいて適当なブローブやプライマーを調製し、それらを用いてバークホルデリア・エスピー(Burkholderia sp.)AIU395株のcDNAまたはゲノムライブラリーをスクリーニングすることにより本発明の遺伝子を単離することができる。cDNAまたはゲノムライブラリーは、常法により作製することができる。 PCR法により本発明のL−リジン脱炭酸/酸化酵素をコードする遺伝子を取得することもできる。例えば、上記バークホルデリア・エスピー(Burkholderia sp.)AIU395株のcDNAまたはゲノムライブラリーを鋳型として使用し、配列番号1に記載した塩基配列等を増幅できるように設計した1対のプライマーを用いてPCRを行う。PCRの反応条件は適宜設定すればよい。次いで、増幅されたDNA断片を、大腸菌(E.coli)等の宿主で増幅可能な適切なベクター中にクローニングすることができる。 上記したプローブまたはプライマーの調製、ゲノムライブラリーの構築、ゲノムライブラリーのスクリーニング、並びに目的遺伝子のクローニングなどの操作は当業者に既知であり、例えば、上記モレキュラークローニング第2版や上記カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載の方法に準じて行うことができる。 上記L−リジン脱炭酸/酸化酵素の遺伝子は適当なベクター中に挿入して使用することができる。本発明で用いるベクターの種類は特に限定されず、例えば、自立的に複製するベクター(例えばプラスミド等)でもよいし、あるいは、宿主細胞に導入された際に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、組み込まれた染色体と共に複製されるものであってもよい。好ましくは、ベクターは発現ベクターである。発現ベクターにおいて上記遺伝子は、転写に必要な要素(例えば、プロモーター等)が機能的に連結されている。プロモータは宿主細胞において転写活性を示すDNA配列であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。 細菌細胞で作動可能なプロモータとしては、ジェオバチルス・ステアロテルモフィルス・マルトジェニック・アミラーゼ遺伝子(Geobacillus stearothermophilus maltogenic amylase gene)、バチルス・リケニホルミスαアミラーゼ遺伝子(Bacillus licheniformis alpha−amylase gene)、バチルス・アミロリケファチエンス・BANアミラーゼ遺伝子(Bacillus amyloliquefaciens BAN amylase gene)、バチルス・サブチリス・アルカリプロテアーゼ遺伝子(Bacillus Subtilis alkaline protease gene)、バチルス・プミルス・キシロシダーゼ遺伝子(Bacillus pumilus xylosldase gene)のプロモータ;ファージ・ラムダのPRプロモータやPLプロモータ;大腸菌(E.coli)のlacプロモータ、trpプロモータおよびtacプロモータなどが挙げられる。 哺乳動物細胞で作動可能なプロモータの例としては、SV40プロモータ、MT−1(メタロチオネイン遺伝子)プロモータ、アデノウイルス2主後期プロモータなどがある。昆虫細胞で作動可能なプロモータの例としては、ポリヘドリンプロモータ、P10プロモータ、オートグラファ・カリホルニカ・ポリヘドロシス塩基性タンパクプロモータ、バキュロウイルス即時型初期遺伝子1プロモータ、バキュロウイルス39K遅延型初期遺伝子プロモータ等がある。酵母宿主細胞で作動可能なプロモータの例としては、酵母解糖系遺伝子由来のプロモータ、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子プロモータ、TPI1プロモータ、ADH2−4cプロモータなどが挙げられる。糸状菌細胞で作動可能なプロモータの例としては、ADH3プロモータ、tpiAプロモータなどがある。 また、上記L−リジン脱炭酸/酸化酵素の遺伝子は必要に応じて、適切なターミネータに機能的に結合されてもよい。L−リジン脱炭酸/酸化酵素の遺伝子を含む組換えベクターは更に、ポリアデニレーションシグナル(例えばSV40またはアデノウイルス5E1b領域由来のもの)、転写エンハンサ配列(例えばSV40エンハンサ)などの要素を有していてもよい。L−リジン脱炭酸/酸化酵素の遺伝子を含む組換えベクターは更に、該ベクターが宿主細胞内で複製することを可能にするDNA配列を具備してもよく、その一例としてはSV40複製起点(宿主細胞が哺乳類細胞のとき)が挙げられる。 L−リジン脱炭酸/酸化酵素の遺伝子を含む組換えベクターはさらに選択マーカーを含有してもよい。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)やシゾサッカロマイセス・ポンベTPI遺伝子等のようなその補体が宿主細胞に欠けている遺伝子、および、アンピシリン、カナマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、ネオマイシン、ヒグロマイシンのような薬剤の耐性遺伝子を挙げることができる。L−リジン脱炭酸/酸化酵素の遺伝子、プロモータ、および所望によりターミネータおよび/または分泌シグナル配列をそれぞれ連結し、これらを適切なベクターに挿入する方法は当業者に周知である。 <形質転換体> L−リジン脱炭酸/酸化酵素の遺伝子を含む組換えベクターを適当な宿主に導入することによって形質転換体を作製することができる。L−リジン脱炭酸/酸化酵素の遺伝子を含む組換えベクターを導入される宿主細胞は、L−リジン脱炭酸/酸化酵素遺伝子を発現できれば任意の細胞でよく、細菌、酵母、真菌および高等真核細胞等が挙げられる。かかる形質転換体は、本発明に係るL−リジン脱炭酸/酸化酵素の製造に利用できる点で有用である。 細菌細胞の例としては、バチルスまたはストレプトマイセス等のグラム陽性菌または大腸菌(E.coli)等のグラム陰性菌が挙げられる。これら細菌の形質転換は、プロトプラスト法、または公知の方法でコンピテント細胞を用いることにより行えばよい。哺乳類細胞の例としては、HEK293細胞、HeLa細胞、COS細胞、BHK細胞、CHL細胞、CHO細胞等が挙げられる。哺乳類細胞を形質転換し、該細胞に導入されたDNA配列を発現させる方法も公知であり、例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等を用いることができる。 酵母細胞の例としては、サッカロマイセスやシゾサッカロマイセスに属する細胞が挙げられ、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)やサッカロマイセス・クルイベリ(Saccharomyces kluyveri)等が挙げられる。酵母宿主への組換えベクターの導入方法としては、例えば、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法等を挙げることができる。 他の真菌細胞の例は、糸状菌、例えばアスペルギルス、ニューロスポラ、フザリウム、またはトリコデルマに属する細胞である。宿主細胞として糸状菌を用いる場合、DNA構築物を宿主染色体に組み込んで組換え宿主細胞を得ることにより形質転換を行うことができる。DNA構築物の宿主染色体への組み込みは、公知の方法に従い、例えば相同組換えまたは異種組換えにより行うことができる。 昆虫細胞を宿主として用いる場合には、組換え遺伝子導入ベクターおよびバキュロウイルスを昆虫細胞に共導入して昆虫細胞培養上清中に組換えウイルスを得た後、さらに組換えウイルスを昆虫細胞に感染させ、タンパク質を発現させることができる(例えば、Baculovirus Expression Vectors,A Laboratory Manua1;およびカレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、Bio/Technology,6,47(1988)等に記載)。 バキュロウイルスとしては、例えば、ヨトウガ科昆虫に感染するウイルスであるアウトグラファ・カリフォルニカ・ヌクレアー・ポリヘドロシス・ウイルス(Autographa californica nuclear polyhedrosis virus)等を用いることができる。 昆虫細胞としては、Spodoptera frugiperdaの卵巣細胞であるSf9、Sf21〔バキュロウイルス・エクスプレッション・ベクターズ、ア・ラボラトリー・マニュアル、ダブリュー・エイチ・フリーマン・アンド・カンパニー(W.H.Freeman and Company)、ニューヨーク(New York)、(1992)〕、Trichoplusia niの卵巣細胞であるHiFive(インビトロジェン社製)等を用いることができる。 組換えウイルスを調製するための、昆虫細胞への組換え遺伝子導入ベクターと上記バキュロウイルスの共導入方法としては、例えば、リン酸カルシウム法またはリポフェクション法等を挙げることができる。 上記の形質転換体は、導入された遺伝子の発現を可能にする条件下で適切な栄養培地中で培養する。形質転換体の培養物から、本発明で用いるL−リジン脱炭酸/酸化酵素を単離精製するには、通常のタンパク質の単離、精製法を用いればよい。例えば、本発明で用いるL−リジン脱炭酸/酸化酵素が、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、細胞を遠心分離により回収し水系緩衝液に懸濁後、超音波破砕機等により細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られた上清から、通常のタンパク質の単離精製法、即ち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)セファロース等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィ法、S−Sepharose FF(ファルマシア社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィ法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィ法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィ法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を単独あるいは組み合わせて用い、本発明のL−リジン脱炭酸/酸化酵素を精製標品として得ることができる。 <L−リジンの測定方法> 本発明に係る検体中のL−リジンの測定方法は、 (A)必要に応じて、L−リジンの量が明らかな複数の試料につき以降と同様の工程を行い、当該L−リジン量と下記工程(D)で計測すべき反応生成物の量との関係を明らかにしておく工程; (B)必要に応じて、検体にプトレシン酸化酵素を作用させることにより検体中のカダベリンを酸化する工程; (C)検体に本発明の上記L−リジン脱炭酸/酸化酵素を作用させる工程;および (D)上記L−リジン脱炭酸/酸化酵素の作用による反応生成物の少なくとも一種の量を計測する工程 を含むことを特徴とする。 上記本発明方法には、検体中におけるL−リジンの有無を判断するための検出方法と、検体中におけるL−リジンの濃度や量を測定する定量方法などが含まれるものとする。 本発明のL−リジン測定方法で検体として用いられる生体試料は、L−リジンの有無を判断すべきものや、L−リジンの量などを測定すべき試料であれば、如何なるものでもよい。例えば、血液、血清、血漿、臓器の一部のホモジェネート、尿などの生体試料を挙げることができる。また、生体試料にL−リジン脱炭酸/酸化酵素を作用させて生じる生成物を如何なる方法で測定するかに応じて、生体試料の種類を適宜選択することができる。より具体的には、発色剤や蛍光剤を利用して上記生成物を定量する場合には無色の水溶液であることが好ましく、血清や血漿などが例として挙げられる。なお、本発明において、L−リジンなどの「量」には、L−リジンなどの濃度も含まれるものとする。 以下、本発明に係るL−リジンの測定方法を、実施の順番に従って説明する。 工程(A):検量線の作成工程 本工程では、必要に応じて、L−リジンの量が明らかな複数の試料につき以降と同様の工程を行い、当該L−リジン量と下記工程(D)で計測すべき反応生成物の量との関係を明らかにしておく。即ち、本工程では、必要に応じて検量線を作成する。 本発明に係るL−リジンの測定方法では、工程(D)において反応生成物の量を計測し、検体中のL−リジンの量を間接的に決定する。この際、反応生成物の絶対量を計測すれば、L−リジンの絶対量も決定できる。しかし、反応生成物の絶対量の計測は、容易でないことがある。そこで、本工程で検量線を作成しておくことにより、L−リジンの測定がより一層簡便になる。 本工程で用いるL−リジンの量が明らかな試料の数は、検体に含まれると予測されるL−リジンの量が十分に含まれる範囲で、3以上とすることが好ましい。当該試料数が多いほど正確な測定が可能になるので、当該試料数としては4以上がより好ましく、5以上がさらに好ましい。当該試料数の上限は特に制限されないが、多過ぎると測定効率が低下するおそれがあり得るので、当該試料数としては10以下が好ましい。 検量線の作成では、各試薬の濃度、反応温度、反応時間などの反応条件を、予定されている以降の工程の条件と同一にして、上記試料につき反応生成物の量を計測する。計測された反応生成物の量と、事前に分かっている各試料中のL−リジンの量のデータから、常法に従って検量線を作成する。 工程(B):カダベリンの処理工程 本工程では、必要に応じて、検体にプトレシン酸化酵素を作用させることにより検体中のカダベリンを酸化する。 本発明に係るL−リジン脱炭酸/酸化酵素は、L−リジンに対する基質特異性が極めて高く、血漿など、様々な夾雑物を含む検体であってもL−リジンを正確に測定することができる。しかし、非常に僅かではあるが、本発明に係るL−リジン脱炭酸/酸化酵素はカダベリンを基質にして酸化する。よって、検体にカダベリンが含まれる場合や含まれる可能性がある場合には、本工程を行ってカダベリンを事前に酸化しておくことが好ましい。逆に、検体にカダベリンが含まれていないことが明らかであれば、本工程を行う必要はない。 プトレシン酸化酵素は、本来、水と酸素の存在下、プトレシン(2HN−(CH2)4−NH2)を酸化して4−アミノブタナール(OHC−(CH2)3−NH2)、アンモニアおよび過酸化水素を生成する反応を触媒する酵素であるが、カダベリン(2HN−(CH2)5−NH2)も基質とし、5−アミノペンタナール(OHC−(CH2)4−NH2)、アンモニアおよび過酸化水素を生成する反応を触媒する。即ち、本工程では、下記の反応が進行する。 プトレシン酸化酵素としては、特に制限されないが、例えば、コクリア ロゼア(Kokuria rosea)NBRC 3768株(旧ミクロコッカス ルーベンス(Micrococcus rubens)IFO3768株)に由来するプトレシン酸化酵素を用いることができる。 反応液のpH、反応温度、反応条件、プトレシン酸化酵素の添加量などの反応条件は、検体中に含まれるカダベリンが十分に酸化されるよう調節する。例えば、プトレシン酸化酵素は、一般的にpH6.5以上で活性を示すので、反応液のpHを6.5以上にする。具体的な条件は、予備実験で決定したり、検体中のカダベリンがクロマトグラフィなどで確認できなくなるよう調整すればよい。 反応後は、検体中のカダベリンの量を決定するために、生成した5−アミノペンタナール、アンモニアまたは過酸化水素の量を計測することが好ましい。測定条件は、後記する。 或いは、本工程で生成した過酸化水素の一部または全部は分解する可能性があるため、例えば工程(D)で過酸化水素の量を計測する場合には、過酸化水素の量の計測の代わりに、または過酸化水素の量の計測に加えて、生成した過酸化水素をペルオキシダーゼなどにより積極的に分解しておいてもよい。 工程(C):L−リジン脱炭酸/酸化酵素による反応工程 本工程では、本発明に係るL−リジン脱炭酸/酸化酵素を検体に作用させることにより、検体中に含まれるL−リジンを脱炭酸してカダベリンとし、また、当該L−リジンを酸化してL−2−アミノアジピン酸 5−セミアルデヒド、アンモニアおよび過酸化水素を生成させる。 上記反応を十分に進行せしめるために、本工程の反応液におけるL−リジン脱炭酸/酸化酵素の量は、反応液1.0mLあたり1.0mU以上とすることが好ましい。なお、ここでの1Uは、リジン1μmolを1分間で消費する活性をいうものとする。 溶媒としては水を用い、緩衝液などを用いて、反応液のpHをL−リジン脱炭酸/酸化酵素の至適pHを考慮したpHに調整することが好ましい。pHは適宜調整すればよいが、本発明に係るL−リジン脱炭酸/酸化酵素がpH5.0以上、8.5以下で活性を示すので、この範囲で用いることができる。 また、本工程において、L−リジン脱炭酸/酸化酵素に加えてプトレシン酸化酵素を用い、L−リジン脱炭酸/酸化酵素の作用により生成したカダベリンを酸化してもよい。それにより、L−リジンをより正確に測定できる。詳しくは、L−リジン脱炭酸/酸化酵素はL−リジン脱炭酸酵素活性とL−リジン酸化酵素活性の両活性を示すため、例えば、L−リジンから生成するカダベリンまたはL−2−アミノアジピン酸 5−セミアルデヒドの生成量は、検体に含まれるL−リジンの量とは異なるので、続く工程(D)でカダベリンまたはL−2−アミノアジピン酸 5−セミアルデヒドの量を計測する場合には、工程(A)を行って事前に検量線を作成しておくことが必要となる。しかし、プトレシン酸化酵素を共存させてL−リジンから生成するカダベリンを酸化すると、工程(B)の反応と同様に、カダベリンと等モルのアンモニアと過酸化水素が生成する。即ち、L−リジン脱炭酸/酸化酵素とプトレシン酸化酵素を併用して十分に反応を進行させれば、検体中に含まれるL−リジンと等モルのアンモニアおよび過酸化水素が生成するため、このアンモニアまたは過酸化水素の量を計測することにより、検体中のL−リジンをより正確に測定することが可能になる。 生成したカダベリンを十分に酸化するために、本工程の反応液におけるプトレシン酸化酵素の量は、反応液1.0mLあたり100mU以上とすることが好ましい。なお、ここでの1Uは、カダベリン1μmolを1分間で消費する活性をいうものとする。 上記のとおり、本発明に係るL−リジン脱炭酸/酸化酵素がpH5.0以上、8.5以下で活性を示し、また、プトレシン酸化酵素はpH6.5以上で活性を示すので、プトレシン酸化酵素を用いる場合には反応液のpHを6.5以上、8.5以下に調整することが好ましい。 本工程の反応条件は、上記酵素反応が十分に進行するよう調整する。例えば、L−リジン脱炭酸/酸化酵素によるL−リジンの酸化反応には酸素が必要であり、通常、酸化反応に必要とされる酸素量が微量であり溶存酸素により十分に賄えるため、空気などの酸素含有気体を反応液に供給する必要はないが、供給してもかまわない。反応温度は適宜調整すればよいが、L−リジン脱炭酸/酸化酵素の至適温度は40℃付近であるので、例えば、20℃以上、50℃以下とすることができる。酵素反応時間は、使用する酵素量などにもよるが、例えば、10分間以上、1時間以下程度の範囲とすることができる。しかし、この範囲に限定する意図ではなく、適宜調整できる。 工程(D):反応生成物量の計測工程 本工程では、上記L−リジン脱炭酸/酸化酵素の作用による反応生成物の少なくとも一種の量を計測する。得られた計測値から、検体中におけるL−リジンの量を把握できる。 L−リジン脱炭酸/酸化酵素の作用による反応生成物は、具体的には、カダベリン、L−2−アミノアジピン酸 5−セミアルデヒド、アンモニア、過酸化水素を挙げることができる。なお、上記工程(C)においてプトレシン酸化酵素を併用すると、生成したカダベリンは5−アミノヘプタナールに変換され、カダベリンと等モルのアンモニアと過酸化水素が別途生成する。 反応生成物の量の計測方法は、選択された反応生成物に応じて公知方法から適宜選択することができる。例えば、測定対象である反応生成物が過酸化水素である場合、例えばペルオキシダーゼ反応を用いて測定する方法など公知の方法により、過酸化水素の定量が可能である。ペルオキシダーゼ反応を用いて測定する場合、使用可能なペルオキシダーゼは過酸化水素の定量に利用可能な酵素であればよく、例えば西洋わさび由来ペルオキシダーゼが挙げられる。また、使用するペルオキシダーゼの基質となり得るものであれば発色剤として使用可能であり、西洋わさび由来ペルオキシダーゼを用いる場合には、4−アミノアンチピリンとフェノールとの組み合せや4−アミノアンチピリンとN−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン(TOOS)との組み合わせなどが、発色剤として挙げられる。なお、発色剤は、使用されるペルオキシダーゼの種類によって適宜選択することが可能である。西洋わさび由来ペルオキシダーゼ、4−アミノアンチピリンおよびフェノールを用いる過酸化水素定量のための反応は、以下に示す通りである。 2H2O2 + 4−アミノアンチピリン + フェノール → キノンイミン色素 + 4H2O 上記工程(C)でプトレシン酸化酵素を用いた場合には、生成したアンモニアと過酸化水素のモル数は検体中に含まれるL−リジンのモル数と同じである。また、アンモニアに比べて、過酸化水素の量の計測はより容易である。よって、上記工程(C)でプトレシン酸化酵素を用いた場合には、過酸化水素の量を計測することが好ましい。 L−リジン脱炭酸/酸化酵素の反応生成物である過酸化水素は、過酸化水素電極を用いた電流検出型センサを用いて測定することもできる。過酸化水素電極を用いた電流検出型センサとしては、例えば、ペルオキシダーゼを牛血清アルブミンとともにグルタルアルデヒドに固定化した膜とフェロセンをカーボンペーストに含有させたものを電極として用いるセンサを挙げることができる。 測定すべき反応生成物をアンモニアとする場合には、アンモニア検出薬を用いて測定することができる。アンモニア検出薬としては、例えば、フェノールと次亜塩素酸の組み合わせによるインドフェノール法を挙げることができる。具体的には、サンプルをフェノール・ニトロプルシド溶液および過塩素酸溶液と混合して発色させ、635nmの吸光度を測定することにより、アンモニア定量が可能である。 定量に用いられる反応生成物がL−リジンの脱アミノ化生成物であるL−2−アミノアジピン酸5−セミアルデヒドである場合には、5−グアニジノ−2−オキソペンタン酸を3−メチル−2−ベンゾチアゾリノン ヒドラゾン 塩酸塩と反応させてヒドラゾン誘導体を分光測定することにより、L−2−アミノアジピン酸5−セミアルデヒドの量を計測することができる。 <L−リジンの測定用キット> プトレシン酸化酵素を用いずに本発明に係るL−リジン測定方法を実施するためのL−リジン測定用キットは、例えば、以下の試薬を含む。 本発明のL−リジン測定用キットは、(K1−1)L−リジン脱炭酸/酸化酵素を含むことを特徴とする。 本発明のキットは、さらに、(K1−2)過酸化水素検出用試薬、(K1−3)アンモニア検出薬および(K1−4)L−リジンの脱アミノ化生成物であるL−2−アミノアジピン酸 5−セミアルデヒド検出薬の少なくとも一つを含むことができる。 (K1−2)過酸化水素検出用試薬は、例えば、過酸化水素を発色により定量するものを挙げることができる。発色光は、蛍光であってもよい。過酸化水素検出用試薬としては、例えば、ペルオキシダーゼとその基質となり得る発色剤の組合せであることができる。具体的には、西洋わさびペルオキシダーゼと4−アミノアンチピリンとフェノールの組み合わせを挙げることができる。 (K1−3)アンモニア検出薬としては、フェノールとの次亜塩素酸の組み合わせを挙げることができる。かかるアンモニア検出薬により、インドフェノール法でのアンモニアの検出が可能になる。 (K1−4)L−リジンの脱アミノ化生成物であるL−2−アミノアジピン酸5−セミアルデヒド検出薬としては、3−メチル−2−ベンゾチアゾロン ヒドラジン 塩酸塩を挙げることができる。例えば、L−2−アミノアジピン酸5−セミアルデヒドと3−メチル−2−ベンゾチアゾロン ヒドラジン 塩酸塩を反応させて生成するヒドラゾン誘導体を分光測定することができる。 本発明のキットは、さらに、(K1−5)反応用緩衝液を含むものであってもよい。反応用緩衝液は、反応液中を定量反応に適したpHに維持するために用いられる。L−リジン脱炭酸/酸化酵素は、pH5.0以上、8.5以下で活性を示すことから、反応用緩衝液のpHも5.0以上、8.5以下が好ましい。当該pH範囲としては、6.0以上、7.0以下がより好ましい。 プトレシン酸化酵素を用いて本発明に係るL−リジン測定方法を実施するためのL−リジン測定用キットは、(K2−1)L−リジン脱炭酸/酸化酵素と(K2−2)プトレシン酸化酵素を含む。(K2−2)プトレシン酸化酵素としては、コクリア ロゼア(Kokuria rosea)NBRC 3768株由来のプトレシン酸化酵素を挙げることができる。 (K2−3)過酸化水素検出用試薬、(K2−4)アンモニア検出薬および(K2−5)L−リジンの脱アミノ化生成物であるL−2−アミノアジピン酸 5−セミアルデヒド検出薬の少なくとも一つを含むことができる。これらの説明などは、プトレシン酸化酵素を用いずに本発明に係るL−リジン測定方法を実施するためのL−リジン測定用キットのものと同様である。 本発明のキットは、さらに、(K2−6)反応用緩衝液を含むものであってもよい。反応用緩衝液は、反応液中を定量反応に適したpHに維持するために用いられる。一般的に、L−リジン脱炭酸/酸化酵素はpH5.0以上、8.5以下で活性を示し、プトレシン酸化酵素はpH6.5以上で活性を示すので、反応用緩衝液のpHは6.0以上、8.5以下が好ましい。 <L−リジン測定用酵素センサ> 本発明に係るL−リジン測定用酵素センサは、過酸化水素検出用電極を有し、当該過酸化水素検出用電極の表面または近傍に本発明に係る上記L−リジン脱炭酸/酸化酵素が配置されていることを特徴とする。 過酸化水素検出用電極は、過酸化水素が水と酸素に分解するにあたって生じる電子を検出することにより、過酸化水素を検出するものである。過酸化水素検出用電極は、酵素式過酸化水素電極または隔膜式過酸化水素電極であることができる。 上記L−リジン測定用酵素センサによれば、L−リジン脱炭酸/酸化酵素がL−リジンと反応することで過酸化水素が生成するので、この過酸化水素を過酸化水素検出用電極で検出することができる。酵素式過酸化水素電極としては、例えば、ペルオキシダーゼを牛血清アルブミンとともにグルタルアルデヒドに固定化した膜とフェロセンをカーボンペーストに含有させた電極を挙げることができる。隔膜式過酸化水素電極は、隔膜により過酸化水素と反応する電極が隔離されたタイプの電極である。 本発明に係る酵素センサにおいて、L−リジン脱炭酸/酸化酵素は、検出用電極の表面または検出用電極の近傍に配置されることが好ましく、検出用電極の表面に配置される場合には、検出用電極の表面に固定化されても固定化されなくてもよい。検出用電極の表面に固定化されることで、本発明のセンサを繰り返し利用できる利点がある。 以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。 実施例1: 本発明に係るL−リジン脱炭酸/酸化酵素産生菌の探索 (1) スクリーニング 日本国内各地から土壌試料を採取し、下記条件により各土壌に含まれる微生物のL−リジン酸化酵素活性を試験し、L−リジン酸化酵素活性を有する微生物をスクリーニングした。 L−リジン酸化酵素活性は、酵素によるL−リジンの酸化反応により生成される過酸化水素量を、比色法で求めることにより測定した。具体的には、各培養微生物の菌体を破砕し、遠心分離して得られた上清を粗酵素液として用いた。当該粗酵素液0.1mLと、表1に示す化合物を混合して得られた酸化酵素活性測定用反応液0.9mLを1cm石英セル中でし、30℃で反応させた。吸光度計を用い、反応開始から約1秒間間隔で連続的に555nmの吸光度を測定した。基質としては、L−リジンの5mM水溶液を調製して添加した。また、ブランクでは、基質の代わりに100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)を添加した。 得られた吸光度変化により、下記計算式に基づいて酸化酵素活性を算出した。尚、上記条件で1分間に1マイクロモルの基質を与える酵素量を1Uとした。 酸化酵素活性値(U/mL)={ΔOD/min(ΔODtest−ΔODblank)×3.1(mL)×希釈倍率}/{13×1.0(cm)×0.1(mL)} 3.1(mL): 全液量 13: ミリモル吸光係数 1.0(cm): セルの光路長 0.1(mL): 酵素サンプル液量 その結果、L−リジン酸化酵素活性を有するAIU395株を見出した。当該AIU395株について、以下のとおり検討した。 (2)16SrDNA塩基配列 上記AIU395株から常法に従ってゲノムDNAを抽出し、得られたゲノムDNAを鋳型とし、PCRにより16SrDNAを増幅し、その塩基配列を決定した。当該微生物の16SrDNA塩基配列を配列番号9に示す。決定された配列に基づいて、アポロンDB−BA9.0 Blastにより、相同性の高い微生物を検索した。結果を表2に示す。 また、図1に、当該微生物の16SrDNA塩基配列に基づく簡易分子系統樹を示した。表2と図1のとおり、AIU395株の16SrDNA塩基配列は、Burkholderia属の16SrDNA塩基配列に対し高い相同性を示し、B.arboris R−24201株に対して99.9%と最も高い相同性を示したが、何れの規準菌株の16SrDNA塩基配列とも一致しなかった。また、アポロンDB−BA9.0に対する相同性検索で得られた上位10塩基配列を用いた16SrDNA塩基配列に基づく簡易分子系統解析の結果、AIU395株は、Burkholderia属の種で形成されるクラスターに含まれ、B.arborisとクラスターを形成し、近縁であることが示された。 以上の通り、本発明に係るAIU395株は、Burkholderia属に属する新規な微生物であることが明らかとなった。 (3) 生理・生化学性状試験 本発明に係るAIU395株の生理・生化学性状を試験した。第一次試験の結果を表3に、第二次試験の結果を図2と表4に示す。 第一次試験の結果、AIU395株は運動性を有するグラム陰性桿菌であり、グルコースを酸化せず、カタラーゼ反応に陽性、オキシダーゼ反応に陰性を示した(表3)。第二次試験の結果、AIU395株は硝酸塩を還元し、アルギニンジヒドロラーゼおよびウレアーゼなどの活性を示さず、エスクリンおよびゼラチンを加水分解せず、β−ガラクトシダーゼ活性を示し、グルコース、L−アラビノースおよびD−マンノースなどを資化した(図2)。また、追加試験の結果、42℃で生育せず、マッコンキー寒天で生育し、羊血をβ−溶血した(表4)。これらの性状は、16SrDNA塩基配列解析の結果において近縁性が示唆されたB.arborisの性状と類似性があるものの、相違も確認された。特に、エスクリンおよびゼラチンを加水分解しない点はB.arborisの性状と異なった。 以上の結果から、本発明に係るAIU395株は、B.arborisに最も近縁なBurkholderia sp.であるが、B.arborisとは異なる新規なものであると判断した。 実施例2: 本発明に係るL−リジン脱炭酸/酸化酵素の取得 (1) AIU395株由来のL−リジン酸化酵素の誘導剤の検討 0.3%グルコース、0.2%リン酸二水素カリウム、0.1%リン酸水素ナトリウム、および0.05%硫酸マグネシウム七水和物を含む培地(pH7.0)に、窒素源として、表5に示す6−アミノヘキサン酸、L−リジン、プトレシン、カダベリンまたは硫酸アンモニウムをそれぞれ添加した。当該培地に上記実施例1で得られたバークホルデリア・エスピー(Burkholderia sp.)AIU395株を接種して30℃で36時間培養し、培養後の培地pH、培養濁度、L−リジン酸化酵素活性を測定した。結果を表5に示す。 表5に示す結果のとおり、6−アミノヘキサン酸(以下、「6−AHA」と略記する)を添加した培地において、最も高いL−リジン酸化酵素活性が認められた。よって、以降の実験では6−AHAを培地に添加し、L−リジン脱炭酸/酸化酵素の誘導を行った。 (2) AIU395株の培養時間 上記実施例1のバークホルデリア・エスピー(Burkholderia sp.)AIU395株を、6−AHA培地(0.5% 6−AHA,0.3%グルコース,0.2%リン酸二水素カリウム,0.1%リン酸水素ナトリウム,0.05%硫酸マグネシウム七水和物,pH7.0)に植菌し、30℃、115行程/分で4日間培養した。0、12、24、36、48、72、96時間ごとに、培養濁度(660nm)、培地pH、L−リジン酸化酵素活性を測定した。結果を図3に示す。培養濁度とL−リジン酸化酵素活性の関係から、36時間の培養後集菌し、精製を行った。 (3) AIU395株由来L−リジン酸化酵素の精製 (3−1) AIU395株の培養 上記実施例1のバークホルデリア・エスピー(Burkholderia sp.)AIU395株を、5mLの上記6−AHA培地に植菌し、30℃、115行程/分で2日間前培養した。その後、150mLの6−AHA培地を含む500mLフラスコで同様の条件で2日間培養した。本培養として、2Lの6−AHA培地を含む3Lのフラスコに前培養したAIU395株を植菌し、30℃で36時間培養した。培養後、10,000×gで10分間遠心後、10mMカリウムリン酸緩衝液(pH6.0,以下、「KPB」と略記する)で洗菌し、菌体を得た。 (3−2) 無細胞抽出液の調製 培地8L分の菌体をKPBに懸濁し、細胞破砕機(安井器械社製,「マルチビーズショッカー(登録商標)」)を使って、2,200rpmで2分間、菌体を破砕する操作を4回繰り返した。次いで、10,000×gで15分間遠心分離し、得られた上清を回収した。遠心で得られたペレットを再度40mM KPB(pH6.0)に懸濁し、同様の操作を3回繰り返した。全ての上清(計2,150mL)を回収し、無細胞抽出液とした。 (3−3) DEAE樹脂を使った陰イオン交換カラムクロマトグラフィ 40mM KPB(pH6.0)により平衡化したDEAE樹脂(TOSOH社製,「TOYOPEARL(登録商標) DEAE−650」)を充填したカラム(直径2.4cm×27cm)に、上記無細胞抽出液を吸着させた。40mM KPB(pH6.0)でカラムを洗浄した後、0.2M NaClを含む40mM KPB(pH6.0)を用いて、酵素を溶出させた。得られた酵素液を10mM KPB(pH6.0)で透析した。 (3−4) アガロースビーズを使った陰イオン交換カラムクロマトグラフィ 0.14M NaClを含む40mM KPB(pH6.0)により平衡化したアガロースビーズ(GEヘルスケアバイオサイエンス,「Q セファロース」)を充填したカラム(直径2.4cm×11cm)に、上記酵素液を吸着させた。0.14M NaClを含む40mM KPB(pH6.0)で洗浄した後、0.14M NaClを含む40mM KPB(pH6.0)250mLおよび0.26M NaClを含む40mM KPB(pH6.0)250mLを用いて、グラジエントによりNaCl濃度を徐々に上げ、酵素を溶出させた。フラクションコレクターを用いて、試験管にフラクションを採取し、活性が認められたフラクションを集めた。活性が得られたフラクションは、10mM KPB(pH6.0)で、透析した。 (3−5) DEAE樹脂を使った陰イオン交換カラムクロマトグラフィ 0.1M NaClを含む40mM KPB(pH6.0)により平衡化したDEAE樹脂(TOSOH社製,「TOYOPEARL(登録商標) DEAE−650」)を充填したカラム(直径1.2cm×36cm)に、上記酵素液を吸着させた。0.1M NaClを含む40mM KPB(pH6.0)で洗浄した後、0.1M NaClを含む40mM KPB(pH6.0)200mLおよび0.24M NaClを含む40mM KPB(pH6.0)200mLを用いて、グラジエントによりNaCl濃度を徐々に上げ、酵素を溶出させた。フラクションコレクターを用いて、試験管にフラクションを採取し、活性が認められたフラクションを集めた。活性が得られたフラクションは、10mM KPB(pH6.0)で、透析した。 (3−6) ハイドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィ 10mM KPB(pH6.0)により平衡化したハイドロキシアパタイト樹脂を充填したカラム(直径1.2cm×18cm)に、上記酵素液を吸着させた。10mM KPB(pH6.0)100mLおよび0.1MKPB(pH6.0)100mLを用いて、グラジエントによりKPB濃度を徐々に上げ、酵素を溶出させた。フラクションコレクターを用いて、試験管にフラクションを採取し、活性が認められたフラクションを集めた。活性が得られたフラクションは、10mM KPB(pH6.0)で、透析した。以上の精製状況を表6にまとめる。 (4) SDS−PAGEによる上記株由来L−リジン酸化酵素の分子量測定 泳動ゲルとして、36%アクリルアミド5.25mL、0.68Mトリス−HCL緩衝液(pH8.8)8.25mL、1%SDS 1.58mL、10%TEMED 187μL、2%APS 562.5μLの組成を有するゲルに、36%ポリアクリルアミド0.5mL、0.179Mトリス−HCl(pH6.8)3.5mL、1%SDS 0.5mL、10%TEMED 125μL、2%APS 375μLの組成を有する濃縮ゲルを重層したものを用い、緩衝液(グリセロール200μL,1Mトリス−HCl(pH8.0)40μL,水360μL,2−メルカプトエタノール200μLおよび10%SDS 200μL)と等量混合した上記精製酵素サンプル10μLを、ランニング緩衝液(トリス3.0g,グリシン14.1gおよびSDS 10g)中、30mAで電気泳動を行った。その後、ゲルをタンパク染色液(CBB2.5g,メタノール500mL,酢酸50mLおよび水450mL)で1時間染色し、脱色液(メタノール:酢酸:水=3:1:6)でバンドが鮮明になるまで脱色した。分子量マーカーとしては、20kDa、25kDa、37kDa、50kDa、75kDa、100kDa、150kDa、250kDaの組換えタンパク質を含む分子量マーカーを用いた。 図4にバークホルデリア・エスピー(Burkholderia sp.)AIU395株由来L−リジン酸化酵素のSDS−PAGEの写真を示した。SDS−PAGEで明らかなように、上記の方法で酵素は単一のタンパク質まで精製されたので、精製酵素を用いて性質を明らかにした。 (5) AIU395株由来L−リジン酸化酵素の吸収スペクトル解析 L−リジン酸化酵素の精製酵素の吸収スペクトルを測定した。結果を図5に示す。279nmと415nmに吸収極大が見られたことから、本酵素はピリドキサール5’−リン酸(PLP)依存型の酵素であることが示唆された。 (6) AIU395株由来L−リジン酸化酵素の基質特異性 上記実施例1(1)の酸化酵素活性測定用反応液中の基質を表7に示すアミノ酸およびアミン有機化合物に変更して、上記精製酵素の酸化酵素活性を測定した。結果を表7に示す。 表7に示す結果のとおり、本酵素は、L−リジンに対する酸化活性が極めて高い一方、5−ヒドロキシ−L−リジンおよびカダベリンをわずかに基質とするのみで、その他のアミノ酸やアミンには全く活性を示さないという基質特異性の高いものであった。 (7) L−リジン脱炭酸酵素活性の測定 L−リジン脱炭酸酵素活性は、脱炭酸反応により生成するカダベリンをプトレシン酸化酵素により酸化し、この酸化反応に伴って、反応したカダベリンと等モル生成する過酸化水素量を比色法で求めることにより測定した。具体的には、1cm石英セル中、表8に示す基質量に相当するL−リジン溶液を基質として含む表8に示す脱炭酸酵素活性測定用反応液0.9mLと酵素液1mLを混合し、30℃で反応させた。吸光度計を用い、反応開始から約1秒間間隔で連続的に550nmの吸光度を測定した。また、プトレシン酸化酵素を添加せず、同様の実験を行った。ブランクでは、基質の代わりに100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)を添加した。 得られた吸光度変化により、下記計算式に基づいて脱炭酸酵素活性を算出した。尚、上記条件で1分間に1マイクロモルの基質を与える酵素量を1Uとした。 脱炭酸酵素活性値(U/mL)={ΔOD/min(プトレシン酸化酵素を添加した場合の測定値)−ΔOD/min(プトレシン酸化酵素を添加しない場合の測定値)}×3.1(mL)×希釈倍率}/{13×1.0(cm)×0.1(mL)} 3.1(mL): 全液量 13: ミリモル吸光係数 1.0(cm): セルの光路長 0.1(mL): 酵素サンプル液量 その結果、AIU395株から単離されたL−リジン酸化酵素は、L−リジン脱炭酸酵素活性をも有することが明らかとなった。 (8) AIU395株由来L−リジン脱炭酸/酸化酵素のKmおよびVmaxの測定 上記の酸化酵素活性測定方法と脱炭酸酵素活性測定方法において、基質の濃度を変更して各酵素活性を測定することによって、KmとVmaxを求めた。酸化酵素活性の測定では、L−リジンの他、僅かに活性が認められた5−ヒドロキシ−L−リジンとカダベリンを基質として用いた。脱炭酸酵素活性の測定では、L−リジンのみ基質として用いた。結果を表9に示す。 表9に示す結果のとおり、本酵素はL−リジンに対して親和性が非常に高いことが明らかとなった。また、本酵素の脱炭酸酵素活性と酸化酵素活性との比率は、最大速度で比較すると0.79:122と脱炭酸酵素活性の方が高いことが分かった。さらに、特に低濃度の5−ヒドロキシ−L−リジンおよびカダベリンでは反応速度は著しく遅くなることから、本酵素のL−リジンに対する高い基質特異性が証明された。 (9) AIU395株由来L−リジン脱炭酸/酸化酵素のN末端アミノ酸配列の決定 上記精製酵素のN末端アミノ酸配列の分析を、株式会社ニッピに依頼し、N末端側から15残基が決定された。 実施例3: L−リジン脱炭酸/酸化酵素の最適pHとpH安定性の検討 上記のL−リジン酸化酵素活性方法において、緩衝液を変更することにより反応液のpHを5〜8.5に変化させ、本発明に係るL−リジン脱炭酸/酸化酵素の酸化酵素活性を測定した。結果を図6に示す。 図6のとおり、本発明に係るL−リジン脱炭酸/酸化酵素は、pH6.0で最も高い活性を示し、pH5.0からpH7.0付近まで安定であることが明らかとなった。なお、図6の縦軸は、L−リジン酸化酵素活性についてはpH6.0の活性値を100%とした場合の相対活性値を示し、残存活性についてはpH6.5の活性値を100%とした場合の相対活性値を示す。ちなみに、破線はプトレシン酸化酵素のpHに対する相対活性を示している。 実施例4: L−リジン脱炭酸/酸化酵素の最適温度と熱安定性の検討 上記のL−リジン酸化酵素活性方法において、反応温度を20〜60℃に変化させ、本発明に係るL−リジン脱炭酸/酸化酵素の酸化酵素活性を測定した。結果を図7に示す。 図7のとおり、本発明に係るL−リジン脱炭酸/酸化酵素は、50℃で最も高い活性を示し、45℃付近まで安定であることが明らかとなった。なお、図7の縦軸は、L−リジン酸化酵素活性については50℃における活性値を100%とした場合の相対活性値であり、残存活性については30℃における活性値を100%とした場合の相対活性値である。 実施例5: L−リジン脱炭酸/酸化酵素の阻害剤の検討 上記のL−リジン酸化酵素活性方法において、阻害剤を添加し、本発明に係るL−リジン脱炭酸/酸化酵素の酸化酵素活性を測定した。結果を表10に示す。 表10に示す結果のとおり、本発明酵素には、PLP依存型酵素の阻害剤であるファニルヒドラジンやヒドロキシルアミンで著しい酸化酵素活性の減少が見られた。また、CuCl2やZnCl2により、酸化反応に阻害が見られた。 実施例6: 本発明に係る組換えL−リジン脱炭酸/酸化酵素の取得 (1) AIU395株由来L−リジン脱炭酸/酸化酵素遺伝子のクローニング (1−1) AIU395株の染色体DNAの抽出 上記実施例1のバークホルデリア・エスピー(Burkholderia sp.)AIU395株をTGY培地(0.5%トリプトン,0.25%イースト抽出物,0.1%グルコース,pH7.0)3mLに植菌し、30℃、200rpmで12時間培養した。培養液1mLを、15,000rpm、4℃で5分間遠心分離し、集菌した。菌体をSTE緩衝液(NaCl 0.58g,1Mトリス−HCl(pH8.0)1mLおよび0.5M EDTA(pH8.0)200μLを水で100mLに定量したもの)1mLで洗浄した後、同緩衝液に懸濁した。68℃で15分間加熱した後、15,000rpm、4℃で5分間遠心分離し、上清を除いた。別途、リゾチーム5mgと10mg/mL RNase 10mLを含む溶液(以下、当該溶液を「1液」という)を準備した。また、グルコース0.9g、1Mトリス−HCl(pH8.0)2.5mL、0.5M EDTA(pH8.0)2mLを含む溶液に超純水を加え、総量を100mLにした。当該溶液1mLと、上記1液10mLを混合した。上記遠心分離沈殿物を、当該混合液300μLに懸濁した。37℃で30分間インキュベートした後、プロテイナーゼK液(プロテイナーゼK 10mg/1液1mL)6μLを加え、穏やかに混合し、37℃で10分間インキュベートした。N−ラウロイルザルコシン3mgを加えて、穏やかに混合した後、37℃で3時間インキュベートし、フェノール−クロロホルム処理を穏やかに2回行った。上清300μLに5M NaCl溶液10μLとエタノール600μLを加えて混合した後、15,000rpm、4℃で10分間遠心分離した。70%エタノールで洗浄した後、風乾し、TE緩衝液100μLに溶解し、目的とする染色体DNAを得た。 (1−2) AIU395株由来L−リジン脱炭酸/酸化酵素遺伝子内部配列の増幅 PCR反応液の組成は、水35μL、10×LA Taq buffer 5μL、2mM dNTP 5μL、100pmolプライマー1(5’−ATGACCGCTTCCTTGACCCAAC−3’,配列番号3)1μL、100pmolプライマー2(5’−TGCACGCGATCCGGTACACGCC−3’,配列番号4)1μL、鋳型DNA2μLおよびLA Taq 1μLとした。PCR反応の条件は、(i)98℃で5分間の後、(ii)96℃で10秒間、(iii)50℃で5秒間、(iv)72℃で2分間の(ii)〜(iv)を30回繰返した。増幅した遺伝子は、アガロースゲル電気泳動により確認した。増幅した遺伝子をVIOGENE(USA)社のGel−Mゲル抽出キットを用いて抽出した。 (1−3) AIU395株由来L−リジン脱炭酸/酸化酵素遺伝子内部配列のシーケンシング 遺伝子の両方の鎖についてシーケンシングを行うため、プライマー1とプライマー2を用いてシーケンス反応を行った。反応液組成は、1.6μLの各プライマー、1.6μLの鋳型DNA、1μLのBigDyeプレミックスソリューション、1.5μLの5xBigDyeシーケンシングバッファーと4.9μLの滅菌水とし、全量10μLとした。PCR反応の条件は、(i)96℃で2分間、(ii)96℃で10秒間、(iii)50℃で5秒間、(iv)60℃で4分間、(v)(ii)〜(iv)を25回、および(vi)72℃で5分間とした。PCR産物に、1μLの3M 酢酸ナトリウム(pH5.2)、1μLの0.125M EDTAと25μLのエタノールを加え、室温で15分間放置した後、15,000rpm、4℃で8分間遠心分離することにより沈殿させた。上清を廃棄した後、10μLの Hi Di Formamideを加え、100℃で5分間加熱した後に、氷水で急冷したものをABI PRISM 3500 Genetic Analyzerで塩基配列の解読をした。得られたシーケンスデータの解析はGenetyxで行い、それぞれのプライマーで増幅した断片を連結した。 (1−4) AIU395株由来L−リジン脱炭酸/酸化酵素遺伝子末端配列の増幅 プライマー3(5’−ATGTCGCGATCACGACGTCGACGAGCCG−3’,配列番号5)と、プライマー4(5’−GCTGATGCCCGGCGAGAACGCGGGG−3’,配列番号6)を用いて、TaKaRa LA PCRTM Cloning Kit(タカラバイオ社)のマニュアルに従って、末端配列の増幅を行った。上記同様にシーケンシングを行った。配列番号2に、バークホルデリア・エスピー(Burkholderia sp.)AIU395株由来L−リジン脱炭酸/酸化酵素遺伝子から予測される一次構造を示した(図8)。 (1−5) AIU395株由来L−リジン脱炭酸/酸化酵素遺伝子の発現系構築 L−リジン脱炭酸/酸化酵素遺伝子(配列番号1)を増幅するためのPCR反応液として、滅菌水(MilliQ)34μL、プライマー5(5’−GGAGATATACATATGACCGCTTCCTTGACCCAAC−3’,配列番号7,100pmol)1μL、プライマー2(5’−TTAGCAGCCGGATCCTCACCGCGTGTTGGTATCGC−3’,配列番号8,100pmol)1μL、ポリメラーゼ(TOYOBO社製,製品名「KOD−Plus−」,1U/μL水溶液)1μL、10×PCRバッファー、2mM dNTPs水溶液5μL、25mM塩化マグネシウム水溶液2μL、および鋳型DNA1μLを混合した。PCR反応の条件は、(i)94℃で2分間、(ii)94℃で15秒間、(iii)55℃で30秒間、(iv)68℃で2分間とし、(i)と(ii)を30サイクル繰返した。増幅した遺伝子は、アガロースゲル電気泳動により確認した。増幅した遺伝子を、DNA精製キット(Promega社製,製品名「Wizard(登録商標) Genomic DNA Purification Kit)を用いて抽出した。 (1−6) AIU395株由来L−リジン脱炭酸/酸化酵素遺伝子のベクターへの組換え 制限酵素NdeIおよびBamHIで処理したpET11a 1μL、上記で得たL−リジン脱炭酸/酸化酵素遺伝子のPCR産物3μL、およびクローニングキット(タカラバイオ社製,製品名「5×In−Fusion HD Enzyme Premix」)1μLを混合して50℃で15分間反応させることにより、プラスミドベクターpET11aにL−リジン脱炭酸/酸化酵素遺伝子を導入した。大腸菌JM109(DE3)のコンピテントセル50μLに、5μLの上記反応液を加え、ヒートショック法で形質転換を行った。100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地に生育したコロニーから数株選抜してプラスミドを抽出し、0.7%アガロース電気泳動により、L−リジン脱炭酸/酸化酵素遺伝子の導入の有無を確認した。 (1−7) AIU395株由来L−リジン脱炭酸/酸化酵素遺伝子の発現と精製 80μg/mLのアンピシリンを含む4LのLB培地(1.0%ポリペプトン,0.5%イースト抽出物,1.0%NaCl,pH7.0)に組換え大腸菌(BL21)を植菌し、16℃で12時間培養後、0.5mM IPTGを添加して、引き続き30℃で12時間培養してL−アミノ酸オキシダーゼを誘導した。大型遠心機を用いて5,000rpm、4℃で10分間遠心分離することにより集菌し、生理食塩水(0.9%NaCl)で洗浄した後、100mLの20mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁した。100mLの菌体液を15分間超音波処理し、8,000rpm、4℃で20分間遠心分離することにより得られた上清を無細胞抽出液とした。無細胞抽出液を実施例2(3−3)〜(3−6)と同様の手法で精製を行った。 (2) AIU395株由来組換えL−リジン脱炭酸/酸化酵素の活性測定 上記精製酵素の酸化酵素活性を、表7におけるアミノ酸およびアミンをそれぞれ単独に含有する測定試薬にて測定した。その結果、表7の結果と同様に、本発明に係るL−リジン脱炭酸/酸化酵素は、L−リジンを基質として酸化する一方で、5−ヒドロキシL−リジンおよびカダベリンをわずかに基質とするのみで、その他のアミノ酸には全く活性を示さなかった。このように、本発明に係るL−リジン脱炭酸/酸化酵素は、組み換え酵素においても、L−リジンに対して高い特異性を示すことが明らかとなった。 実施例7: AIU395株由来L−リジン脱炭酸/酸化酵素を用いたL−リジンの定量 上記実施例1(1)の酸化酵素活性測定用試薬を調製した。次に、上記実施例1(1)において、L−リジン脱炭酸/酸化酵素の添加量を変えて、吸光度変化を測定した。L−リジン脱炭酸/酸化酵素の各添加量における20分後の吸光度変化を図9に示す。図9に示す結果によれば、1.3m unit以上で、L−リジン定量に問題なく使用できることが示唆された。 また、上記試薬組成物を用い、L−リジン測定を実施した。検体として、反応液中の最終濃度が0〜1.0mMのL−リジン水溶液を調製した。L−リジンの各濃度における20分後の吸光度変化を図10に示す。 図10のとおり、L−リジン溶液を検体とした場合には十分な反応性が認められ、水溶液において、L−リジン濃度と吸光度測定データは良好な正の相関を示した。従って、本発明のL−リジン測定用試薬組成物を用いることにより、正確なL−リジンの測定を行うことができることが実証された。 実施例8: プトレシン酸化酵素によるカダベリンの定量 上記実施例2(7)のとおり、プトレシン酸化酵素は、L−リジンの脱炭酸により生じたカダベリンを定量するのに用いることができるので、本発明に係るL−リジン脱炭酸/酸化酵素と組合わせることにより、試料中のL−リジンを定量することができる。そこで、プトレシン酸化酵素につき詳しく調べた。 具体的には、上記実施例2(7)において、60μMカダベリンを基質とし、プトレシン酸化酵素の添加量を変えて吸光度変化を測定した。プトレシン酸化酵素の各添加量に対する20分後または30分後の吸光度変化を図11に示す。これらの結果により、200m unit以上のプトレシン酸化酵素を用いれば、カダベリン定量に問題なく使用できることが示唆された。 実施例9: 本発明に係るL−リジン脱炭酸/酸化酵素とプトレシン酸化酵素とのカップリングにおける他のアミノ酸およびアミンの影響 表11は、30μMのL−リジンのみ、或いは、30μMのL−リジンと30μMのL−リジン以外のアミノ酸あるいはアミンを混和した液に、本発明に係るL−リジン脱炭酸/酸化酵素とプトレシン酸化酵素を、上記実施例2(7)と同じ割合で添加してpH7.0で30分間反応し,555nmの吸光度を測定した結果を示している。 表11に示す結果のとおり、本発明に係るL−リジン脱炭酸/酸化酵素を用いれば、L−リジン以外のアミノ酸やアミンの存在下でも、プトレシン酸化酵素とのカップリングによるL−リジンの定量が可能であることが分かった。 実施例10: 本発明に係るL−リジン脱炭酸/酸化酵素の添加量の検討 60μMのL−リジンを基質として、200mUのプトレシン酸化酵素を併用し、L−リジン脱炭酸/酸化酵素の添加量を変えて、pH7.0で30分間反応させた後、555nmの吸光度を測定した。結果を図12に示す。 図12に示す結果の通り、本発明に係るL−リジン脱炭酸/酸化酵素を用いれば、1.0mU以上の添加量で、L−リジンを十分に測定できることが明らかとなった。 実施例11: 本発明に係るL−リジン脱炭酸/酸化酵素を用いたL−リジン定量 0〜60μMのL−リジンに対してL−リジン脱炭酸/酸化酵素(1.5mU)とPUO(200mU)を添加して、pH7.0で30分間反応させた後、555nmの吸光度を測定した。結果を図13に示す。 図13に示す結果の通り、本発明に係るL−リジン脱炭酸/酸化酵素を用いて検量線において、直線性が得られた。 実施例12: カダベリン存在下でのプトレシン酸化酵素を用いたL−リジン測定方法 L−リジンの脱炭酸により生じるカダベリンは生体内でも生成するものであることから、試料中にカダベリンが存在すると、試料中のL−リジンを正確に測定できないおそれがある。そこで、図14(1)に示すように、基質として0〜60nmolのL−リジンを、60mmolのカダベリンと共に、200mU プトレシン酸化酵素、0.12μmol 4−AA、1.8U ペルオキシダーゼ、0.75mmol リン酸カリウムを含む反応液I(pH7.0)と混合し(総量:750μL)、30℃で20分間反応させた(Reaction I)。次いで、2.3UのL−リジン脱炭酸/酸化酵素と0.38μmol TOOSを含む反応液II(250μL)を添加し、30℃で30分間反応させ(Reaction II)、Reaction II中、生成する過酸化水素量を、555nmの吸収により確認した。 図14(2)に示す結果のとおり、試料中のL−リジンの濃度と生成する過酸化水素量による吸光度変化には相関関係が見られる。これは、試料中にカダベリンが存在していても、上記Reaction Iにおいてプトレシン酸化酵素により酸化され、且つ当該反応により生じた過酸化水素がペルオキシダーゼにより分解されるため、L−リジン脱炭酸/酸化酵素によるL−リジンの測定結果に影響は及ばないことによる。かかる結果により、プトレシン酸化酵素を先に添加することで、試料中に存在するカダベリンを除去することが可能であり、L−リジン定量に影響が出ないことが明らかとなった。 実施例13: Burkholderia属細菌由来のL−リジン脱炭酸/酸化酵素の活性 上記実施例2と同様の条件で、岩手大学が保有していたBurkholderia sp. AIU129株と、微生物株保存機関NBRCより購入したBurkholderia ginsengisoli NBRC100965、Burkholderia ferrariae NBRC106233およびBurkholderia terrae NBRC100964を培養し、粗酵素液を調製した。なお、各菌株の最適培養温度が異なるが、培養温度は25℃とした。得られた各酵素について、上記実施例1および実施例2と同様にして、L−リジンに対する酸化酵素活性と脱炭酸酵素活性を測定した。結果を、Burkholderia sp. AIU395株の結果と共に表12に示す。 表12に示した結果のとおり、いずれのBurkholderia属細菌にもL−リジン脱炭酸酵素活性とL−リジン酸化酵素活性の両方が認められた。従って、Burkholderia属細菌において、L−リジン脱炭酸/酸化酵素が保存されている可能性が示唆された。 下記の(1)〜(3)の何れかのアミノ酸配列を有することを特徴とするL−リジン脱炭酸/酸化酵素。 (1)配列番号2に記載のアミノ酸配列; (2)配列番号2に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換および/または付加を有し、且つL−リジン脱炭酸/酸化酵素活性を有するアミノ酸配列; (3)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して95%以上の相同性を有し、且つL−リジン脱炭酸/酸化酵素活性を有するアミノ酸配列。 バークホルデリア(Burkholderia)属細菌由来のものである請求項1に記載のL−リジン脱炭酸/酸化酵素。 バークホルデリア・エスピー(Burkholderia sp.)AIU395株(受託番号:NITE P−01796)由来のものである請求項1に記載のL−リジン脱炭酸/酸化酵素。 下記の(1’)〜(3’)の何れかの塩基配列を有することを特徴とする核酸。 (1’)配列番号1に記載の塩基配列 (2’)配列番号1に記載の塩基配列において1から数個の塩基の欠失、置換および/または付加を有し、且つ、当該塩基配列がコードするタンパク質がL−リジン脱炭酸/酸化酵素活性を有する塩基配列 (3’)配列番号1に記載の塩基配列に対して95%以上の相同性を有し、且つ、当該塩基配列がコードするタンパク質がL−リジン脱炭酸/酸化酵素活性を有する塩基配列。 請求項4に記載の核酸を含むことを特徴とする形質転換体。 検体中のL−リジンを測定する方法であって、 (A)必要に応じて、L−リジンの量が明らかな複数の試料につき以降と同様の工程を行い、当該L−リジン量と下記工程(D)で計測すべき反応生成物の量との関係を明らかにしておく工程; (B)必要に応じて、検体にプトレシン酸化酵素を作用させることにより検体中のカダベリンを酸化する工程; (C)検体に請求項1〜3のいずれかに記載のL−リジン脱炭酸/酸化酵素を作用させる工程;および (D)上記L−リジン脱炭酸/酸化酵素の作用による反応生成物の少なくとも一種の量を計測する工程 を含むことを特徴とする方法。 上記工程(C)において、上記L−リジン脱炭酸/酸化酵素の作用により生成するカダベリンをプトレシン酸化酵素により酸化し、且つ、上記工程(D)において、反応生成物である過酸化水素の量を計測する請求項6に記載の方法。 上記プトレシン酸化酵素として、コクリア ロゼア(Kokuria rosea)NBRC 3768株由来のものを用いる請求項6または7に記載の方法。 請求項1〜3のいずれかに記載のL−リジン脱炭酸/酸化酵素を含むことを特徴とするL−リジン測定用キット。 さらにプトレシン酸化酵素を含む請求項9に記載のL−リジン測定用キット。 さらに、ペルオキシダーゼと発色試薬を含む過酸化水素検出用試薬を含む請求項9または10に記載のL−リジン測定用キット。 L−リジンを測定するための酵素センサであって、過酸化水素検出用電極を有し、当該過酸化水素検出用電極の表面または近傍に請求項1〜3のいずれかに記載のL−リジン脱炭酸/酸化酵素が配置されていることを特徴とするL−リジン測定用酵素センサ。 バークホルデリア・エスピー(Burkholderia sp.)AIU395株(受託番号:NITE P−01796)。 【課題】本発明は、L−リジンに対する基質特異性が極めて高く、夾雑物を多く含む検体におけるL−リジンも高い正確性をもって測定が可能になるL−リジン脱炭酸/酸化酵素と、当該酵素を用いたL−リジンの測定方法を提供することを目的とする。また、本発明は、当該測定方法に用いることができるL−リジン測定用キットおよびL−リジン測定用酵素センサ、また、当該新規L−リジン脱炭酸/酸化酵素を産生する新規微生物を提供することも目的とする。【解決手段】本発明に係るL−リジン脱炭酸/酸化酵素は、特定のアミノ酸配列を有することを特徴とする。【選択図】なし配列表