タイトル: | 公開特許公報(A)_銀イオン抗菌液の生成方法、その方法で生成される銀イオン抗菌液及びその抗菌液を含有した銀イオン含有製品 |
出願番号: | 2014037138 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | A61K 8/25,A61K 8/36,A61Q 15/00,A61Q 19/10,C11D 3/48,A01N 59/16,A01P 3/00,A01N 25/02,A01N 25/08 |
中村 憲司 中村 興司 JP 2014193855 公開特許公報(A) 20141009 2014037138 20140227 銀イオン抗菌液の生成方法、その方法で生成される銀イオン抗菌液及びその抗菌液を含有した銀イオン含有製品 株式会社タイキ 591254958 長谷部 善太郎 100122954 山田 泰之 100162396 中村 憲司 中村 興司 JP 2013039486 20130228 A61K 8/25 20060101AFI20140912BHJP A61K 8/36 20060101ALI20140912BHJP A61Q 15/00 20060101ALI20140912BHJP A61Q 19/10 20060101ALI20140912BHJP C11D 3/48 20060101ALI20140912BHJP A01N 59/16 20060101ALI20140912BHJP A01P 3/00 20060101ALI20140912BHJP A01N 25/02 20060101ALI20140912BHJP A01N 25/08 20060101ALI20140912BHJP JPA61K8/25A61K8/36A61Q15/00A61Q19/10C11D3/48A01N59/16 AA01P3/00A01N25/02A01N25/08 7 1 OL 24 4C083 4H003 4H011 4C083AB441 4C083AB442 4C083AC301 4C083AC302 4C083BB48 4C083CC01 4C083CC17 4C083CC24 4C083CC25 4C083DD17 4C083DD23 4C083EE12 4C083EE18 4C083FF01 4H003BA22 4H003FA34 4H011AA02 4H011BA01 4H011BB18 4H011BC18 4H011DA02 4H011DA15 4H011DD07 本発明は、安全性が高く、原材料費が低価格な銀ゼオライトの結晶構造をクエン酸で崩壊させて、その結晶構造内に含有する銀イオンを液体中に溶出させることで、生成される銀イオン抗菌液を大量生産する銀イオン抗菌液の生成方法、その方法で生成される銀イオン抗菌液及びその抗菌液を含有した銀イオン含有製品に関する。 細菌は人体の分泌物を分解することで臭気を産生するといわれている。例えば、腋臭の臭気の原因は、皮膚のアポクリン汗腺から分泌する汗が原因であるが、その汗が皮膚上に分泌されると皮脂腺から分泌された脂肪分やエクリン汗腺から分泌された汗と混ざり、それが皮膚や脇毛の皮膚常在菌により分解され、腋臭の臭気を発する物質が生成される。上記皮膚常在菌には黄色ブドウ球菌、アクネ菌等があり、臭気の成分には、酪酸、吉草酸等がある。臭いとしては、腋臭、汗臭、毛髪臭等がある。 一般的な臭気の種類としては、脂肪酸系(体臭、汗など)、窒素化合物系(腐敗した尿など)、硫黄化合物系(糞便など)の三つのタイプに大きく分けられる。これらの臭気を防ぐ手段には、(1)香料によるマスキング、(2)活性炭、ゼオライト等による吸着、(3)酸、アルカリによる中和、(4)抗菌剤により殺菌する方法がある。(1)のマスキングは香料の揮発により一時的に臭気を感じさせないが、悪臭が再現されてしまうので根本的な臭気防止の効果はない。(2)の吸着法は吸着能力に限界があるために臭気除去の性能に問題がある。(3)の中和法は特定の悪臭にしか適用できない、という問題がある。(4)の抗菌剤で細菌を殺菌する方法は、抗菌剤の種類によりアレルギーなどの刺激があり好ましくないものがあるが、銀系無機抗菌剤(銀ゼオライト)は、広範な安全性、抗菌スペクトル、持続性等を有することが評価され、例えば、抗菌液、消臭液、化粧品、サニタリー製品等の製品に使用されている。 そして、上記銀ゼオライトに関して様々な発明が提案されている。 例えば、イオン交換可能なイオンの一部又は全部を亜鉛イオン、アンモニウムイオン及び銀イオンの金属イオンでイオン交換した抗菌性ゼオライトと、シリコーンを含有した防臭化粧料が提案されており、該防臭化粧料の抗菌性ゼオライト((株)シナネンゼオミック製ゼオミックAJ10N、平均粒径約2.5μm)(銀ゼオライトの銀イオンを担持する重量;2.2重量%)をエアゾールタイプとして用いることが記載されている(特許文献1参照)。また、上記銀イオンによる変色を抑制する試みとして、ゼオライトを銀イオンで置換した銀ゼオライトにアンモニウムイオンを配合する耐変色性に優れた抗菌性ゼオライトが提案されている(特許文献2参照)。 また、上記銀ゼオライトに即効性能のないことを指摘した特許文献3が知られている。特許文献3には、細菌やかびに対して抗菌効果が長期間持続する抗菌剤として、亜鉛、銀、銅などの重金属イオンを含むゼオライト系抗菌剤が記載されている。重金属イオンの種類としては、銀イオンが、安全性の点で特に優れていることから、近年広く使用されている。銀イオンは、処理直後の殺菌力及び消臭力に関しては、塩素系殺菌剤などの酸化剤に比べると殺菌性能が不十分であるため、その問題を解決するために、ゼオライト系抗菌剤に代えて銀クロロ錯塩と酸化剤を含む抗菌剤が提案されている(特許文献3参照)。しかし、銀ゼオライトから即効性のある銀イオンが生成できるのであれば、臭気を発生する細菌を殺菌でき、その結果として防臭できることは明らかである。 上記したこれらの銀ゼオライトは、銀ゼオライトの銀イオンの溶出を利用する発明であって、アルミノケイ酸塩による三次元骨格構造、即ちケイ素(Si)とアルミニウム(Al)が酸素(O)を介して結合したSi-O-Al-O-Siの三次元骨格構造を有しており、アルミニウム(+3価)とケイ素(+4価)が酸素(-2価)を互いに共有するため、ケイ素の周りは電気的に中性となり、アルミニウムの周りは-1価(Al-)となる。この負電荷を補うために、通常はナトリウムイオン(Na+)を保持している。上記銀ゼオライトは、上記骨格中のナトリウムイオンの一部を、抗菌性を有する銀イオン(Ag+)で置き換えたものである。その銀イオンが上記骨格中に静電気的に結合した構造を有しており、その構造を有しているが故に、イオン交換作用により上記銀イオンが溶出して細菌を殺菌し、優れた徐放性能(長時間に抗菌作用を発揮する性能)を有しているといわれている。 しかしながら、上記銀ゼオライトは、水中に存在するカチオンとのイオン交換による銀イオンの溶出を利用しているために、徐々に溶出した銀イオンが細菌を殺菌するのでその効果が発揮されるまでに長い時間がかかる。即ち細菌を短時間に殺菌する即効性能がないことが問題として指摘されている(非特許文献1参照)。 特許文献4には、電気分解装置を用いて殺菌の即効性能を有する水性の殺菌剤が提案されている。その水性の殺菌剤は、銀電極を備えた電気分解装置でクエン酸水溶液中に生成した銀イオンと、上記クエン酸とから、生成されるクエン酸銀錯体であることが開示されている。その電気分解装置は、図4に示すように、流量制御インゼクタ40、クエン酸タンク50、イオン室70、直流電源80、沈殿タンク90、パージタンク100及び粒子フィルタ110から構成された装置である。上記イオン室70には、陽極71及び陰極72が設置され、それら陽極71及び陰極72は、互いに離れており、陽極71と陰極72との間にクエン酸の希釈溶液が通ることができる。陽極71及び陰極72のそれぞれは、99.9999%の純度の銀から形成されている。そして、上記電気分解装置で生成した銀イオンの化学構造を調べるために、試料を核磁気共鳴テスト(1H NMR)で測定してみたら、試料は圧倒的に過多のクエン酸を示し他のアニオンはほとんど存在しなかったので、銀イオンに対する錯結合が複合化していると考えられる旨の記載がある(特許文献4参照)。この記載は、銀イオンとクエン酸で生成されるものの具体的な構造を特定することが困難であることを示唆している。 以上のように、特許文献4には、銀電極を備える電気分解装置によってクエン酸水溶液中でクエン酸銀錯体が生成できることが開示されている。 そして、Ciba Specialty Chemicals社は、TINOSAN SDC(商品名)として、上記クエン酸銀錯体を含有する溶液を販売しており、このINCI(「化粧品原料の国際命名法(International Nomenclature of Cosmetic Ingredients)」)の名称は、Citric acid and silver citrateとして公表されている。そして、そのTINOSAN SDC(商品名)は、スキンケアのための抗菌性銀であり、銀とクエン酸を用いてユニークな電気的処理により生産された銀錯体であることを報告している(非特許文献2参照)。 特許文献4に記載のクエン酸銀錯体は、流量制御インゼクタ40、クエン酸タンク50、イオン室70、直流電源80、沈殿タンク90、パージタンク100及び粒子フィルタ110から構成された電気分解装置の、上記イオン室70の高純度の銀で形成された陽極及び陰極の間にクエン酸の希釈溶液を満たす容器中で生成されている。従って、電気分解装置を備えるための設備費や、高純度の銀で形成された陽極及び陰極を消耗により交換するための維持費等が高額となり、クエン酸銀錯体を生成する費用が高価であり、その費用を低廉にするのが難しい。そして、TINOSAN SDC(商品名)は、ユニークな電気的処理により生産された銀錯体である旨の報告がされているので、特許文献4と類似の電気分解装置と銀の電極によりクエン酸銀錯体を生成する方法で作製しているものと推測される。 そして、市販品のTINOSAN SDC(商品名)は、スキンケア用の抗菌剤として防腐剤パラベンを使用しないパラベンフリー、アルコールを使用しないアルコールフリーで、誰でも安心して使用できるので、優れた抗菌剤として評価されている。しかし、一般の消費者が日常的に使用するには非常に高価であることが難点となり、一般に普及していない。そこで、クエン酸銀錯体を含有する銀イオン抗菌液を生成するのに、低廉に生成できる方法が希求されている。 本発明者等は、上記従来技術の問題点に鑑み、その問題点を解決するために鋭意研究開発を継続して試み、銀ゼオライトとクエン酸を特定の配合比率で混合することで、全部の銀ゼオライトの結晶構造が崩壊されてクエン酸銀錯体が生成できる、「銀イオン抗菌液の生成方法」の発明を完成するに至った。その発明は、銀ゼオライトとその銀ゼオライトに対するクエン酸の配合比率が1.2以上の配合量を秤量して精製水に配合する処理と、この精製水に配合した上記銀ゼオライト及びクエン酸を撹拌し混合して、少なくともクエン酸銀錯体及びシリカ水和物を含む混合液を調製する処理と、この混合液中に作製されるシリカ水和物を除去する処理とからなる銀イオン抗菌液の生成方法であり、特願2011−191039号(特開2013−053085号公報)として日本特許庁に出願(2011年9月1日)している。この先願発明の生成方法は、上記混合液を調製する処理において生成される作製物には、クエン酸銀錯体以外にシリカ水和物等が生成されるが、上記シリカ水和物はその表面に水酸化銀が吸着してシリカ水和物水酸化銀を生成して凝集し、その凝集作製物に光が照射されると酸化銀(黒褐色)となる恐れがあるので、混合液中からシリカ水和物を除去する処理が含まれている。特開平08−092051号公報特開昭63−265809号公報国際公開第99/065317号公報特表2001−519361号公報「人体常在菌のはなし」、青木皐著、集英社新書、第182〜183頁、2008年10月29日(第7刷発行)http://naturalingredient.org/Articles/Tinosan_Micro_info.pdf 上記銀イオン抗菌液の生成方法でシリカ水和物を除去した銀イオン抗菌液は、その液を保存する状態が長期間に渡る状況にあっても変色する恐れがなく、また使用する様々な用途に応じた銀イオン濃度を自由に選択することができる。そこで、本発明者等は、上記生成方法で作製する銀イオン抗菌液を大量生産するために、パイロットプラントを使って収率、生産量等のデータの収集を行った。シリカ水和物を除去するには、(1)沈殿した凝集シリカ水和物水酸化銀をデカンテーションで処理、(2)上記沈殿した凝集シリカ水和物水酸化銀をフィルタで処理、(3)シリカ水和物が凝集する前にフィルタで処理、(4)精製水に銀ゼオライト、クエン酸を配合する際に、二価金属塩(例えば、クエン酸亜鉛等)を添加してその二価金属イオンをシリカ水和物に結合させ沈殿させて処理、でシリカ水和物を除去することができる。例えば、上記(3)のフィルタの処理を行うに際して、Watman CF/C 濾紙で行ったところ、短時間に濾紙の目詰まりが発生し濾紙の交換作業が必要になり、シリカ水和物の除去に時間がかかることが判明し、手間がかかることが判明した。 そこで、本発明の課題は、上記先願発明の問題点に鑑み、シリカ水和物を除去する処理を行わなくても、変色する恐れがなく、かつ手間がかからない銀イオン抗菌液の生成方法、その方法で生成される銀イオン抗菌液及びその抗菌液を含有した銀イオン含有製品を提供することである。 変色する恐れがなく、かつ手間がかからない銀イオン抗菌液の生成方法について鋭意検討を重ねた結果、銀ゼオライト、クエン酸及び精製水を使用し、その銀ゼオライト、クエン酸及び精製水の各配合量を秤量する処理と、上記精製水に上記銀ゼオライト及びクエン酸を配合した配合液を撹拌し混合して混合液を調製する第1処理、又は、上記各配合量を秤量する処理と、上記混合液を調製する処理と、その後に精製水を加えて希釈して希釈液を調製する処理からなる第2処理を行い、上記第1及び第2処理における上記銀ゼオライトに対するクエン酸の配合比率が0.9〜1.5の範囲の配合量であれば、上記銀イオン抗菌液が即効性のある銀イオンを含み、その銀イオン濃度が適当な範囲に調整されたものであれば、光で黒褐色にならないことを見いだして本発明を完成した。 すなわち本発明は以下の通りのものである。1.銀担持量が0.5〜5.0重量%の銀ゼオライトから溶出する銀イオンを含有する銀イオン抗菌液の生成方法であって、 前記銀ゼオライト、クエン酸及び精製水を使用し、その銀ゼオライト、クエン酸及び精製水の各配合量を秤量する処理と、上記銀ゼオライト、クエン酸及び精製水を配合した配合液を撹拌し混合して混合液を調製する処理からなる第1処理、又は、上記各配合量を秤量する処理と、上記混合液を調製する処理と、その後に精製水を加えて希釈して希釈液を調製する処理からなる第2処理であり、 上記第1及び第2処理の混合液を調製する処理における、上記銀ゼオライトに対するクエン酸の配合比率が0.9〜1.5の範囲の配合量であり、銀イオン濃度が2.5〜750ppmである銀イオン抗菌液を生成することを特徴とする銀イオン抗菌液の生成方法。2.前記第1処理は、前記銀ゼオライトの配合量が0.01〜3.0重量%であり、前記第2処理は、前記銀ゼオライトの配合量が3.0重量%を超えることを特徴とする1に記載の銀イオン抗菌液の生成方法。3.前記銀ゼオライトがA型又はX型の銀ゼオライトであることを特徴とする1に記載の銀イオン抗菌液の生成方法。4.1に記載の銀イオン抗菌液の生成方法で生成された銀イオン抗菌液。5.1に記載の銀イオン抗菌液を、凍結乾燥又は噴霧乾燥して粉末にすることを特徴とする銀イオン抗菌粉末。6.請求項4に記載の銀イオン抗菌液を、液状化粧料、ウェットティシュ、液状デオドラント、液状浴用剤、液状洗濯柔軟剤の群から選ばれた製品に配合することを特徴とする銀イオン含有製品。7.4に記載の銀イオン抗菌液を、院内や公共の場で使用する物品に塗布又は付着させたことを特徴とする銀イオン含有処理物。 本発明の銀イオン抗菌液の生成方法は、前記電気分解装置と銀の電極を使用しないで、銀イオンを担持した低廉なA型又はX型銀ゼオライトとクエン酸を原材料として使用し、クエン酸銀錯体を含有する銀イオン抗菌液が生成できるので、製造コストを大幅に下げることができ、その銀イオン抗菌液は、細菌を短時間に殺菌する即効性を発揮できる。 また、本発明の銀イオン抗菌液の生成方法は、銀ゼオライトの配合量が決まれば、クエン酸の配合量を配合比率0.9〜1.5の範囲の量として簡単に決められ、また、銀イオン抗菌液を生成する処理は配合量を秤量する処理、混合液を調製する処理、又はそれらの処理後に希釈液を調製する処理からなるので、簡単な処理操作で銀イオン抗菌液を調製でき、先願発明の混合液中に生成されるシリカ水和物を除去する処理を施さなくともよい。また、光照射で黒褐色に変色することがない。 本発明の銀イオン抗菌液の生成方法は、第1処理が銀イオン抗菌液の少量生産に適しており、第2処理がその大量生産に適している。 本発明の銀イオン抗菌液は、その用途に応じて、その銀イオン濃度を銀ゼオライトの配合量と銀担持量、更には精製水の配合量で任意に調整することができ、また、安価であるから普及品として一般の人が利用でき、更に、例えばスキンケア用の抗菌剤としてパラベンフリー、アルコールフリーで誰もが安心して使用できる。 また、本発明の銀イオン抗菌液は、従来の銀担持ゼオライトのイオン交換作用では不可能であった、細菌を短時間に殺菌する即効性を有している。 本発明の銀イオン含有製品は、黒褐色に変色しないで長期間にわたる製品の品質保証が可能である。本発明の銀イオン抗菌液(銀イオン濃度10ppm)の各菌に対する殺菌速度を示す図である。本発明の銀イオン抗菌液(銀イオン濃度10ppm)と対照の滅菌生理食塩液を結核菌に作用させたときの菌数の経時的変化を示す図である。本発明の銀イオン抗菌液(銀イオン濃度10ppm)を作用させたときの結核菌の死滅曲線を示す図である。従来のクエン酸銀錯体を生成する電気分解装置の構造を示す図である。(最良の実施形態) 本発明に用いる銀ゼオライトは、A型又はX型銀ゼオライトである(以下、これらの銀ゼオライトを単に「銀ゼオライト」という。)。X型銀ゼオライトは高価なのでA型銀ゼオライトを用いることが好ましい。このA型又はX型銀ゼオライトは酸により溶解され、本発明がこの両ゼオライトを用いる理由である。しかし、Y型銀ゼオライトやモルデナイト型銀ゼオライトは酸に溶解しないので使用できない。銀ゼオライトの構造式は下記の通りである。 (αNa2 βAg2)O・Al2O3‐2SiO2nH2O (α+β=1 n=5:110℃乾燥品) 上記銀ゼオライトのイオン交換サイトを形成する結晶構造は、Si-O-Al-O-Siの構造を三次元的に結合した結晶構造中のAl部分に、銀イオンが静電気的に結合した構造を有しており、イオン交換作用により上記結晶構造中の銀イオンが溶出して細菌を殺菌するといわれている。(銀ゼオライトの製造方法) 銀ゼオライトの製造方法を以下に説明する。 材料の一例としてA型ゼオライトで説明するが、X型ゼオライトの製造方法もA型ゼオライトと同じである。なお、以下に説明する銀ゼオライトの製造方法は、従来から知られた製造方法である。 ポリ容器に水を入れ、そこへ少しずつA型ゼオライト(Na型)を入れて撹拌し懸濁液を作成し、固体内の空気を出す。所定時間経過後pHを確認する。pH5〜7になるよう、希硝酸(6倍希釈)を少量ずつ添加し、pH試験紙にて大まかなpH変化を確認する。 別途、硝酸銀を水に混合しておき、それをA型ゼオライトスラリーに撹拌下少しずつ投入する。その後一晩撹拌放置する。ヌッチェに磁性ロートを設置し、標準濾紙を敷き、そこへ前記銀ゼオライトスラリーを静かに注ぐ。吸引工程の液切れ前に水で洗浄する。 銀担持量0.5重量%(製造例1)、銀担持量2.5重量%(製造例2)、銀担持量5.0重量%(製造例3)の3種類の銀ゼオライトの製造方法を、製造例として以下に説明する。製造例1;銀担持量0.5重量%の銀ゼオライト(1)材料 A型ゼオライト(110℃乾燥品):1000g 硝酸銀(AgNO3):7.9g(2)製造の手順 10Lポリ容器に水4.0Lを入れ、そこへ少しずつA型ゼオライト(Na型)を入れて撹拌し懸濁液を作る。3時間ほど連続して撹拌し、固体内の空気を出す。 所定時間経過後pHを確認する。pH5〜7になるよう、希硝酸(6倍希釈)を少量ずつ添加し、pH試験紙にて大まかなpH変化を確認する。 別途、硝酸銀を水3.0Lに混合しておき、それをA型ゼオライトスラリーに撹拌下少しずつ投入する。その後一晩撹拌放置する。 ヌッチェに磁性ロートを設置し、標準濾紙を敷き、そこへ前記銀ゼオライトスラリーを静かに注ぐ。 吸引工程の液切れ前に5L水量で洗浄する。 その後110℃で一晩乾燥し、冷却後乳鉢で粉砕する。平均粒径が2〜2.5μmの粉末状のA型銀ゼオライトができる。製造例2;銀担持量2.5重量%の銀ゼオライト(1)材料 A型ゼオライト(110℃乾燥品):1000g 硝酸銀(AgNO3):39.7g(2)製造の手順は上記製造例の手順と同様である。製造例3;銀担持量5.0重量%の銀ゼオライト(1)材料 A型ゼオライト(110℃乾燥品):1000g 硝酸銀(AgNO3):79.5g(2)製造の手順は上記製造例の手順と同様である。(銀イオン抗菌液の生成方法) 本発明の銀イオン抗菌液の生成方法は、上記銀ゼオライト、クエン酸及び精製水を使用し、その銀ゼオライト、クエン酸及び精製水の各配合量を秤量する処理と、上記銀ゼオライト、クエン酸及び精製水を配合した配合液を撹拌し混合して混合液を調製する処理からなる第1処理、又は、上記各配合量を秤量する処理と、上記混合液を調製する処理と、その後に精製水を加えて希釈して希釈液を調製する処理からなる第2処理、からなり、上記第1及び第2処理は、上記銀ゼオライトに対するクエン酸の配合比率が0.9〜1.5の範囲の配合量であり、前記銀イオン抗菌液に銀イオンを含むことで、即効性の抗菌効果を奏する。上記銀イオン抗菌液の銀イオン濃度は、黒褐色に変色しない2.5〜750ppmが適当である。 上記配合比率は、銀ゼオライトの配合量(重量%)に対するクエン酸の配合量(重量%)の割合、即ち「クエン酸の重量%/銀ゼオライトの重量%」の比率を意味しており、その比率を「配合比率」と定義して用いる。 銀イオン抗菌液の生成方法を具体的な例で説明する。(混合液を調製する処理) 生成する銀イオン抗菌液の所望量に基づいて、銀ゼオライト、クエン酸及び精製水の各配合量を決めておく。 銀ゼオライトの配合量は生成する銀イオン抗菌液の所望量の0.01〜3.0重量%である。 さらに、その秤量した上記銀ゼオライトの重量に対して、クエン酸を0.9〜1.5倍量となるように秤量しておく。 常温(28℃)で上記配合量の精製水に、銀ゼオライトとクエン酸を配合して配合液を調製する。その両材料を配合した直後の配合液は白濁している。その後、半透明又は透明になるまで撹拌して混合液を生成する。上記クエン酸の配合比率が0.9以上1.2未満の配合量の場合には、混合液は少なくとも10分間撹拌し混合すると半透明になる。上記クエン酸の配合比率が1.2以上1.5以下の配合量の場合には、混合液は少なくとも2分間撹拌し混合すると透明になる。又は、常温で精製水に銀ゼオライトを配合して配合液を調製し、同様に常温で精製水にクエン酸を配合して配合液を調製した後に、両液を混合し撹拌して混合液を生成しても良い。 このとき、銀ゼオライトとしては、銀担持量2.2重量%のゼオミックAJ10N((株)シナネンゼオミック製)を用いることができる。 次に、混合液を調製する処理において生成される生成物を説明する。 精製水に配合した銀ゼオライト((αNa2 βAg2)O・Al2O3‐2SiO2nH2O(α+β=1 n=5:110℃乾燥品))とクエン酸(C6H8O7)を撹拌し混合した混合液は、両者の化学式からみて、クエン酸銀錯体、クエン酸アルミニウム錯体、ナトリウムイオン(Na+)、シリカ水和物を含んでいる。 銀ゼオライトとクエン酸の混合により、最初に、クエン酸のプロトン(H+)が銀ゼオライトのSi-O-Al-O-Siの構造中のAl-O部分をアタックして切断し、その結果ゼオライト骨格を崩壊し、イオン交換吸着サイトが失われるので銀が混合液中に溶出する。 その銀イオンはクエン酸と反応してクエン酸銀錯体を生成し、同時にごく僅かな銀イオンを生成する。一方、アルミニウムはクエン酸と反応してクエン酸アルミニウム錯体を生成し、その他には、シリカ水和物及びナトリウムイオンを生成すると推測される。 上記クエン酸銀錯体の構造式を以下に示す。 yは1及び/又は2であり、yが3であると難溶性で水に溶けなくなる。銀イオンとクエン酸の反応で生成されるクエン酸銀錯体は、殆どがクエン酸1銀のものであるから、yが1でxが2の錯体である。 上記銀イオン抗菌液に対する銀ゼオライトとクエン酸の配合は、銀ゼオライト0.01〜3.0重量%の範囲の配合量を秤量し、その銀ゼオライトに対するクエン酸の配合比率が0.9〜1.5の配合量を秤量して精製水で配合量を調整する。この銀ゼオライトの上記配合量及びクエン酸の上記配合量は、以下に述べる第1の実験の結果から導き出されたものである。第1の実験は、上述したように、銀ゼオライトとクエン酸の混合により、クエン酸のプロトン(H+)が銀ゼオライトのSi-O-Al-O-Siの構造中のAl-O部分の骨格構造を崩壊し、イオン交換吸着サイトが失われて銀イオンが混合液中に溶出する。そのメカニズムを考慮すると、混合直後の銀ゼオライトの分散液は白濁しているが、上記骨格構造の崩壊により混合液は透明になると仮定して行ったものである。 そのために、銀ゼオライトの配合量に対して、どの位の量のクエン酸を配合すれば、混合液が透明の状態になるのかを調べる実験(以下、「第1の実験」という)を最初に行った。 次に、銀担持量が異なる複数種の銀ゼオライトを使用して、第1の実験結果から得られた上記配合比率で生成された混合液の銀イオン濃度を調べることで、銀ゼオライトが担持する全ての銀イオンを溶出できるのかを調べる実験(以下、「第2の実験」という)を行った。(第1の実験) 銀ゼオライトの一例として、上記銀ゼオライトの製造方法で製造したA型銀ゼオライト(銀担持量2.5重量%)とゼオミックAJ10N((株)シナネンゼオミック製、銀担持量2.2重量%)を試料として用いた。 A型銀ゼオライトは、生成する銀抗菌液中0.5重量%又は2.5重量%となるように2種類を6個づつ秤量し、合計12個の試料を調製した。また、ゼオミックAJ10Nも同様に上記の配合量の異なる2種類を秤量し、合計12個の試料を調製した。 上記0.5重量%又は2.5重量%の配合量が同じである各6個の試料に対して、表1の配合比率の欄に示すように、クエン酸を試料No.1及び7の銀ゼオライトの重量に対して0.8、同様に試料No.2及び8に対して0.9、試料No.3及び9に対して1.0、試料No.4及び10に対して1.2、試料No.5及び11に対して1.3、試料No.6及び12に対して1.5を秤量した。この秤量した銀ゼオライトとクエン酸の粉末を精製水に配合して200gの配合液を調製し、2分後、10分後、30分後にその混合液のpHをpHメーターにより測定した。上記混合液の外観観察は目視により、白濁、沈殿、半透明、透明の4段階で判定した。 表1は、上記ゼオミックAJ10Nの合計12個の試料の第1の実験の結果である。そして、A型銀ゼオライト(銀担持量2.5重量%)の0.5重量%又は2.5重量%の合計12個の試料の第1の実験の結果は、表1のゼオミックAJ10Nの第1の実験の結果と測定誤差を考慮すると一致していることを示したので省略している。 なお、表1に示すNo.1〜12のpHの値は、試料数をN=3としてその算術平均で求めた。この表1における配合比率は先に定義した配合比率である。また、以下、表2以降に示す値は、表1に示す試料数と同様に試料数をN=3としてその算術平均で求めたものである。 上記第1の実験の結果は、銀ゼオライトの配合量に対して、クエン酸の配合量の配合比率が0.8以下だと混合してから30分が経過しても、半透明の混合液の底部に白色の未反応の銀ゼオライトが沈殿することを示し、配合比率が0.9以上1.2未満だと混合してから10分を経過しても、上記未反応の銀ゼオライトは沈殿しないものの、混合液が半透明であることを示し、配合比率が1.2以上1.5以下だと混合してから2分を経過すると混合液が透明になることを示している。 以上のことから、配合比率が0.8以下だと未反応の銀ゼオライトが沈殿するので、その分、銀ゼオライトが無駄になることは明らかである。配合比率が0.9以上1.2未満だと混合してから30分を経過しても混合液が半透明であり、配合比率が1.2以上1.5以下だと混合してから2分後に混合液が透明になる。 この結果によれば、0.9以上1.2未満の配合比率の混合液は、クエン酸が銀ゼオライトのイオン交換サイトを形成する結晶構造の一部を残して崩壊させるため、銀ゼオライトからほぼ全ての銀イオンが溶出されるものと推測される。また、1.2以上1.5以下の配合比率の混合液では、上記結晶構造が全て崩壊されて、銀ゼオライトから全ての銀イオンが溶出されるものと推測される。肌に対する影響等を考慮すると、配合比率が1.5を超えると混合液のpHが4.4以下の強い酸性状態となって肌に悪影響を与えると共に、クエン酸が無駄になるので好ましくない。 次に、銀ゼオライトの配合量を検討する実験を行った。銀ゼオライト(110℃乾燥品)は、スラリー状とするために、精製水100gに対して、銀ゼオライトは50gまで、また、クエン酸は73gまで配合できる。単独の材料を精製水100gに配合する場合の配合量を説明したが、銀ゼオライトが最大でどれ位の配合量を配合して、本発明の銀イオン抗菌液が生成できるかを試みた。 その最大の場合は、銀ゼオライトが24重量%であり、クエン酸が28.8重量%、精製水が47.2重量%の場合である。 この配合量で混合液の生成を試みたが、銀ゼオライトがクエン酸と反応後、高濃度のシリカゲルが生成し混合液を得ることができなかった。そこで、事業的に銀イオン抗菌液が生成できる銀ゼオライトの配合量を決めるために、最大の配合量24重量%を減らして以下に述べる実験を試みた。室温下(28℃)で200gビーカーに100gの精製水を入れ、続いて表2に示す6種類の配合量のクエン酸を投入して完全に溶解させた。次に撹拌しながら表2に示す6種類の配合量のA型銀ゼオライト(銀担持量2.5重量%、110℃乾燥品)を投入した。この混合液100gを100mlスクリュー管に保存して、そのスクリュー管を窓側に置いて3時間後、24時間後、240時間後の混合液の性状を観察した。その観察の結果を表2に示す。 表2の試料No.1〜6は、銀ゼオライトの配合量とクエン酸の配合量の配合比率が1.2ではあるが、各試料の両材料を混合して3時間、24時間及び240時間後の性状が異なることを示している。試料No.1は、3時間後には混合液が透明で未反応の銀ゼオライトが沈殿し、24時間及び240時間後にはゲル状化した黒褐色不透明の外観を呈した。試料No.2及び3は、3時間後には混合液が透明の液体であったのが、24時間及び240時間後にはゲル状化した黒褐色不透明の外観を呈した。試料No.4は、3時間及び24時間後には混合液が透明の液体であったのが、240時間後には黒褐色不透明の液体の外観を呈した。試料No.5は、3時間及び24時間後に混合液が透明の液体であったのが240時間後に混合液が不透明の液体であった。試料No.6は、240時間後であっても混合液が透明の液体であった。 表3の試料No.1〜3は、銀ゼオライトの配合量とクエン酸の配合量の配合比率が0.9であるが、銀ゼオライトとクエン酸の配合比率が1.2の場合と同様の外観を呈していた。 上記先願発明の「銀イオン抗菌液の生成方法」は、混合液中に生成されるシリカ水和物を除去する処理が必要なために、手間がかかる問題があることを既述した。しかしながら、表2及び表3が示す結果は、銀ゼオライトの配合量が2.5重量%以下であれば、240時間後の混合液は透明の外観を維持できることを示しているから、シリカ水和物を除去する処理を不用とするには、混合液を生成させる際に銀ゼオライトの配合量を2.5重量%以下とすれば良いことが判明した。(第2の実験) 続いて、第2の実験の実験例について説明する。 第2の実験は、上記銀ゼオライトの製造方法で作製した、銀担持量の異なる3種類(0.5、2.5及び5.0重量%)の銀ゼオライトと、市販品であるゼオミックAJ10N((株)シナネンゼオミック製、銀担持量2.2重量%、平均粒径約2.5μm)を試料として用いた。そして、上記銀ゼオライトの配合量に対するクエン酸の配合量の配合比率は、試料No.1〜3は0.6、試料No.4〜6は0.9、試料No.7〜9は1.1、試料No.10〜12は1.2、試料No.13〜15は1.5となるようにクエン酸を秤量した。そして、精製水に秤量した銀ゼオライトを配合して調製した配合液100gと、精製水に上記のように秤量したクエン酸を配合して調製した配合液100gとを、混合して200gの混合液を生成した。 精製水に銀ゼオライトとクエン酸を上記配合比率で配合して200gの配合液を調製し、撹拌し混合して混合液を生成する。化学反応は通常24時間で平衡状態になるので、混合液を生成してから24時間後にその混合液の銀イオン濃度を測定した。24時間経った混合液は、未反応の銀ゼオライトが沈殿しており、その沈殿物を分離するために濾過して、得られた液中の銀イオン濃度を高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置(ICP S−8100、島津製作所(株)製)により測定した。 一方、比較例のNo.16(表6(銀担持量5.0重量%)に限ってはNo.17)として、精製水に銀ゼオライトを配合した配合液100gと生理食塩液(塩化ナトリウム0.8重量%)100gを混合した混合液200gを調製して、溶出する銀イオン濃度の測定を行った。その濃度は450〜590ppbであった。なお、この比較例のNo.16は、発汗(塩化ナトリウム0.9重量%)した状態の体に、特許文献1に記載のエアゾールタイプの防臭化粧料の銀ゼオライト(銀担持量が2.2重量%)を噴霧した条件と同じ条件を想定して、銀イオン濃度を測定したものである。 次に、銀担持量の異なる4種類(銀担持量;0.5、2.5、5.0、2.2重量%)の銀ゼオライトごとに、各試験のNo.の銀ゼオライト、クエン酸、配合比率及び銀イオン濃度を以下の表4〜表7に示す。 表4の試料No.4は、配合比率が0.9の時に、銀ゼオライト配合量0.1gに対して銀イオン濃度が2.5ppmであることを示している。また、表6の試料No.16は、配合比率が1.5の時に、銀ゼオライト配合量3.0gに対して銀イオン濃度が750.0ppmであることを示している。これにより、銀イオン濃度が銀ゼオライトの配合量0.01〜3.0重量%の範囲で、銀イオン濃度が2.5〜750ppmの範囲で変化することがわかる。 表4、5及び7のNo.16、さらに表6のNo.17は、比較例として銀イオン濃度が0.5〜0.6ppmと他の例よりも明らかに少ない値を示しており、これに対して実施例である表4、5及び7のNo.1〜15、表6のNo.1〜16では、銀イオン濃度が最小で2.0ppmの値を示しており、比較例の少なくとも約4倍の濃度であるから、より高い抗菌効果を奏することが明らかである。 第2の実験の実験例1〜15では、秤量した銀ゼオライトの配合量が最大で1.0gで、秤量したクエン酸の配合量が最大で1.5gの例を示したが、表7のNo.15は、その例に該当するもので、銀担持量5.0重量%で銀イオン濃度が250.0ppmである。生成された銀イオン抗菌液の用途に応じて、その銀イオン濃度を銀ゼオライトの配合量と銀担持量で任意に調製することができる。 ところで、先にも述べたように、市販品のTINOSAN SDC(商品名)は、クエン酸銀錯体を含有することで、スキンケア用の抗菌剤としてパラベンフリー、アルコールフリーで安心して使用できるので、優れた抗菌剤として評価されているが、一般の消費者が日常的に使用するには非常に高価であるために、普及品として利用されていない。それ故に、銀ゼオライトからクエン酸銀錯体を含有する銀イオン抗菌液がシリカ水和物の除去する処理を行わずに、光照射で黒褐色にならない銀イオン抗菌液が生成できることは有意義である。 ここで、さらに混合液中の生成物について説明する。 上記したように、銀ゼオライトの構造式は下記の通りである。 (αNa2 βAg2)O・Al2O3‐2SiO2nH2O (α+β=1 n=5:110℃乾燥品) 上記銀ゼオライトのイオン交換サイトを形成する結晶構造は、Si-O-Al-O-Siの構造を三次元的に結合した結晶構造中のAl部分に、銀イオンが静電気的に結合した構造を有しており、イオン交換作用により上記結晶構造中の銀イオンが溶出して細菌を殺菌するといわれている。換言すれば、A型銀ゼオライトは、シリカ(SiO2)とアルミナ(Al2O3)からなるアルミノケイ酸塩で、その骨格が(AlO4)−四面体及び(SiO4)−四面体が三次元的に結合した結晶構造中のAl部分に、静電気的に銀イオンが吸着された構造を有している。 A型銀ゼオライトのクエン酸による崩壊の過程は次のように考えられる。1.クエン酸のプロトン(陽子)がA型銀ゼオライトの(AlO4)−四面体の負の電荷部位に存在するナトリウムイオンとイオン交換する。(銀イオンに比べてナトリウムイオンの選択係数が小さいため)2.過剰のプロトンが骨格中のAl-O結合部分に作用してその結合を切断する。3.Al-O結合部分の切断による骨格構造の崩壊で、銀ゼオライトに吸着していた銀イオン、ナトリウムイオンなどが溶液中に放出される。4.放出された銀イオンはクエン酸と反応してクエン酸銀錯体となる。5.アルミニウムもクエン酸のC6H5O73-と反応し、クエン酸アルミニウム錯体となる。6.クエン酸銀錯体は水中で一部解離し、極少量の銀イオンも存在する。7.ナトリウムはイオンの形態で水中に存在する。8.ケイ素はシリカゲルの形態で懸濁あるいは沈殿する。この時表面には少量の銀イオンが吸着されている。 上記の化学反応から考察して、混合液に含有する生成物は、クエン酸銀錯体、シリカ水和物、クエン酸アルミニウム錯体、銀イオンが含まれていると考えられる。しかしながら、銀イオン抗菌液中にクエン酸銀錯体が存在することを同定できないが、銀ゼオライトの銀イオンが全てイオン化することで従来とは異なる殺菌システムの機能が働いていることは明らかである。 本発明の銀イオン抗菌液の生成方法は、0.01〜3.0重量%の銀ゼオライトの量を秤量し、上記配合比率が0.9〜1.5の範囲のクエン酸を秤量し、精製水に両材料を配合して混合すれば、表2及び表3の240時間後の混合液は、黒褐色にならずに半透明または透明の外観を示しているから、シリカ水和物を除去する処理を不用とすることが判明した。今後、クエン酸銀錯体を含有する銀イオン抗菌液を調製する時に、銀ゼオライトの量が.0.01〜3.0重量%に対して、該銀ゼオライトに対するクエン酸の上記配合比率が0.9〜1.5のクエン酸の量を秤量し精製水に両材料を配合して混合すれば、シリカ水和物を除去する処理を不用とし、手間暇がかからず銀イオン抗菌液が作製できる。 上記銀ゼオライト、クエン酸及び精製水の配合量(重量%)は、銀ゼオライトが0.01〜3.0重量%、クエン酸が上記銀ゼオライトに対する配合比率0.9〜1.5の範囲の重量%、精製水が合計100重量%となる残りの重量%とし、精製水に上記銀ゼオライト及びクエン酸を配合し混合する。このようにして生成させた銀イオン抗菌液が、光照射してから240時間後であっても黒褐色にならない理由を考察する。 既述したように、上記シリカ水和物を銀イオン抗菌液から除去する理由は、そのシリカ水和物の表面に水酸化銀(AgOH)が吸着してシリカ水和物水酸化銀が生成され、その生成したシリカ水和物水酸化銀同士が凝集し、その凝集物に光が照射されると酸化銀(Ag2O;黒褐色)となるので除去する必要がある。しかしながら、上記の配合量で生成させた銀イオン抗菌液は、上記シリカ水和物水酸化銀が生成するので光により酸化銀が生じるが、このシリカ水和物水酸化銀が銀イオン抗菌液中に極微量しか存在しないために、そのシリカ水和物水酸化銀同士が凝集することがなく、そのために、表2及び表3の240時間後の性状が示すように、上記凝集していないシリカ水和物水酸化銀が光により酸化銀となっても、そのシリカ水和物水酸化銀の表面での銀吸着密度が小さいため、酸化銀の大きさが0.1mm以下の肉眼で見えない大きさなので、人の目にはその黒褐色が認識できないためと推測される。肉眼で見える大きさは0.1mm程度といわている(http://microscopelabo.jp/learn/025/参照)。 なお、本発明の銀イオン抗菌液を粉末化して銀イオン抗菌粉末とし、その後、この銀イオン抗菌粉末を精製水で還元して銀イオン抗菌液としても使用することができるので、次に銀イオン抗菌粉末の生成方法を説明する。(銀イオン抗菌粉末の生成方法) 銀イオン抗菌液を粉末状にする銀イオン抗菌粉末の生成方法としては、上記銀イオン抗菌液を減圧凍結乾燥機で凍結乾燥又は減圧噴霧乾燥機で噴霧乾燥する方法を採用すればよい。例えば、銀ゼオライト(銀担持量2.5重量%、110℃乾燥品)11.0gとクエン酸13.2gで銀イオン抗菌液を生成させた場合、この銀イオン抗菌液を減圧凍結乾燥機で凍結乾燥することにより、24.2gの銀イオン抗菌粉末を得ることができる。 このようにして得られた銀イオン抗菌粉末1.0gを水1000gに溶解させると完全に溶解し、その時の銀イオン濃度は11.5ppmであった。 次に、銀イオン抗菌液の生成方法の実施例を説明する。(第1処理の実施例1) 市販の銀ゼオライト((株)シナネンゼオミック製ゼオミックAJ10N、平均粒径約2.5μm、銀担持量;2.2重量%、100℃乾燥品)0.150kgと、クエン酸粉末0.135kgを秤量する。そして、500リットル容量のステンレス製タンクに精製水149.71kgを投入し撹拌する。続いて上記クエン酸粉末を投入し完全に溶解させる。さらに銀ゼオライトを投入する。このようにして得られた混合液の銀ゼオライト濃度は0.1重量%であり、銀ゼオライト/クエン酸の配合比率は0.9である。混合撹拌した5分後には混合液は透明になるが、更にこの混合液を30分撹拌する。このようにして、本発明の銀イオン抗菌液を製造した。この銀イオン抗菌液の銀イオン濃度は22ppmであった。この銀イオン抗菌液をコットン不織布にスプレーで塗布して含浸させることにより、抗菌ウェットシートを製造することができる。(第1処理の実施例2) 前記製造例2で製造した銀ゼオライト(銀担持量;2.5重量%、110℃乾燥品)6.49kgと、クエン酸粉末9.73kgを秤量する。そして、500リットル容量のステンレス製タンクに精製水199.78kgを投入し撹拌する。続いて上記クエン酸粉末を投入し完全に溶解させる。さらに銀ゼオライトを投入する。このようにして得られた混合液の銀ゼオライト濃度は3.0重量%であり、銀ゼオライト/クエン酸の配合比率は1.5である。混合撹拌した5分後には混合液は透明になるが、更にこの混合液を30分撹拌する。このようにして、本発明の銀イオン抗菌液を製造した。この銀イオン抗菌液の銀イオン濃度は750ppmであった。この銀イオン抗菌液を化粧料の防腐液として化粧料に配合することにより、抗菌性を付与した化粧料を製造することができる。(第2処理の実施例) 前記製造例3で製造した銀ゼオライト(銀担持量;5.0重量%、110℃乾燥品)0.875kgと、クエン酸粉末1.313kgを秤量する。次に、500リットル容量のステンレス製タンクに精製水50kgを投入し撹拌する。続いて上記のクエン酸1.313kgを投入し完全に溶解させる。さらに銀ゼオライト0.875kgを投入する。このようにして得られた混合液の銀ゼオライト配合量は1.75重量%であり、銀イオン濃度は875ppm、銀ゼオライト/クエン酸の配合比率は1.5である。5分後には液は透明になるが、更に30分撹拌する。その後、精製水100kgを投入して希釈し18時間撹拌する。このようにして、本発明の銀イオン抗菌液を製造した。この銀イオン抗菌液の銀イオン濃度は250ppmであった。 なお、第2処理の実施例において、混合液の銀イオン濃度が750ppmを超える場合には、混合液を調製してから遅くとも3時間以内に精製水を投入する必要がある。3時間を超えるとシリカ水和物が凝集を起こすので、できれば2時間以内に精製水を投入しておけば安全である。 なお、配合量は重量%を説明したが、これに限定する必要はなく、重量%を密度に基づいて換算して体積%を用いてもよいことは明らかなので、体積%の換算方法については説明を省略する。 因みに、銀ゼオライトの密度は1.99g/cm2、クエン酸の密度は1.665g/cm2である。 本発明の銀イオン抗菌液は、細菌やウイルス等の微生物が人体に病害等を伝播、伝染させることを予防、防御する目的で使用するものであって、そのまま抗菌洗浄用に使用したり、抗菌製品の原材料に混合し抗菌効果を付与して使用したり、抗菌製品に配合したり噴霧や浸漬処理し加工を施したりして抗菌効果を付与し使用する。これらの抗菌効果を付与した製品を以下「銀イオン含有製品」という。この銀イオン含有製品の具体的な使用例を示すと、液状化粧料、ウェットティシュ、液状デオドラント、液状浴用剤、液状洗濯柔軟剤等である。 また、本発明の銀イオン抗菌液は、院内感染を予防、防御する目的で病院内に於ける医療者、看護者、患者等が使用、着用する衣類、寝具類及び用具、あるいはインフルエンザウイルスなどのウイルス感染を予防、防御する目的で一般生活の中で使用するウェットティッシュ、ウェットシート、マスク等の雑貨類、また、公共施設等の設備や機器、用具類、一般建造物の建材、建具や天井、壁、巾木、床、ハンドレール、階段の手すり、便座、浴槽、洗面台、洗面用具等に塗布又は付着させても良い。これらの抗菌効果を付与した院内や公共の場で使用する物品を以下「銀イオン含有処理物」という。(銀イオン含有製品) 本発明の銀イオン含有製品である抗菌ウェットシートに用いられる水分を保持可能でかつ柔軟な吸液シートの基材は、パルプ等の天然繊維、レーヨン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリエステル又はポリアクリルニトリル等の合成繊維、ポリエチレン等からなる合成パルプ並びにガラスウール等の無機繊維などを使用する。 上記吸液シート基材に上記銀イオン抗菌液を含浸、噴霧して抗菌ウェットシートを作製する。その抗菌ウェットシートは、幼児や老人などのおむつを換えるときなどにお尻を、またおしぼりとして肌を拭く清浄用として、また、拭取るだけでペットの毛髪、肌の汚れ、体臭を除去し、簡単に清潔な状態にできるペット用として、また、上記銀イオン抗菌液を、液状化粧料、ウェットティシュ、液状デオドラント、液状浴用剤、液状洗濯柔軟剤の群から選ばれた製品に配合して銀イオン含有製品とすることもできる。(銀イオン含有処理物) 医療施設の院内や公共の場において、感染防止のために各種の医療機器の外装、手が頻繁に接触するドアノブ、ベッドサイドテーブル、ベッド柵や各種の手すり等の物品に上記銀イオン抗菌液を塗布又は付着させることにより銀イオン含有処理物とすることもできる。 ところで、銀イオン濃度に関して、坂上等の「銀化合物の抗菌効果検証に関する基礎研究」(防菌防黴、Vol.37、No.7、499頁参照)によれば、黄色ブドウ球菌の場合には、Nutrient Brothの添加条件下(これを「NB培地」といい、この培地では獣肉ペプトンと牛肉エキスが培地基材として用いられる)では、銀イオン濃度が10ppbで2Log以上の菌数低下が確認されたことが報告されている。即ち黄色ブドウ球菌は、銀イオン濃度が10ppb(0.01ppmに相当)でありさえすれば死滅し、銀イオンが抗菌効果を発揮することを意味している。 ここで、本発明の銀イオン抗菌液の機能性について、各試験結果を示す。(抗菌力の試験) ゼオミックAJ10N((株)シナネンゼオミック製、銀担持量2.2重量%、平均粒径約2.5μm)5gとクエン酸6gから調製した抗菌液200mlを得た。この抗菌液は、1.2の配合比率であり表1の試料No.10に相当し、銀ゼオライトから全ての銀イオンが溶出されるものと推測される。この抗菌液を試験液(銀イオン濃度550ppm)として、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、大腸菌、カンジタ菌の各菌懸濁液(菌濃度106〜107CFU/ml)を用いて抗菌試験を行ったところ、接種の30分後に生残菌数が10以下であることが分かった。 その後、上記抗菌液1.85mlを精製水100mlに溶解させて試験液(銀イオン濃度10ppm)とした。なお、リン酸緩衝液は、微生物細胞内の急激なpHや浸透圧の変動を防止し、微生物の活性な状態を維持するために必要なものである。 本試験では、試験液10mlを試験管に取った。ここで事前に調製していた黄色ブドウ球菌、緑膿菌、大腸菌、カンジタ菌の各菌懸濁液(菌濃度106〜107CFU/ml)それぞれの0.1mlを試験管内の試験液に接種した。続いて、接種の直後、1分後、3分後、10分後、30分後に検体1.0mlを採取し9mlのリン酸緩衝液で希釈した。そして検体希釈液1.0mlを採取し9mlのリン酸緩衝液で希釈した。この希釈の操作を4回繰り返し、それぞれ系列希釈した検体1.0mlを標準寒天培地に接種した。36℃、2日間の培養の後、表面に形成されたコロニー数をカウントし、生残菌数の測定を行った。その結果を表8に示す。(試験結果) 一般に無機系銀抗菌剤(銀ゼオライト)を使用する試験では、水中に存在するカチオンとのイオン交換による銀イオンの溶出を利用しているために、徐々に溶出した銀イオンが細菌を殺菌するので、早くても6時間後程度から抗菌性が認められるが、本試験では分単位で細菌が死滅しており、10分後には明らかに細菌が死滅していることを示している。このことから、銀ゼオライトの銀イオンが全てイオン化することで従来とは異なる殺菌システムの機能が働いていると推測できる。そして、銀イオン濃度10ppmで、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌、酵母に対して優れた即効性抗菌力を持つことが判明した。 なお、図1に、本発明の銀イオン抗菌液(銀イオン濃度10ppm)の各菌に対する殺菌速度を示す。 ここで抗菌試験に使用した細菌は、各種微生物をおおむね代表する細菌である。例えば、大腸菌はグラム陰性の桿菌で通性嫌気性菌に属し、環境中に存在する。この菌は汚染指標菌として用いられることが多い。グラム陰性細菌の細胞膜構造の特徴は、薄いペプチドグリカン層とペプチドグリカン層の外側の外膜がリポ多糖類により覆われていることである。多くは無害な菌であるが、中にはO-157のような強毒性のものある。銀イオンは、この薄いペプチドグリカン層を通過しやすく、殺菌効果を発揮しやすい。 黄色ブドウ球菌は代表的なグラム陽性の球菌で、通性嫌気性菌に属し、表面に厚いぺプチドグリカン層を持ち,その内側に細胞膜が存在する。そのため、銀イオンはグラム陰性菌に比べ抗菌効果が発揮されくい。この細菌は、ヒトや動物の皮膚、消化管(腸)常在菌(腸内細菌)に存在する。これはヒトの膿瘍等の様々な表皮感染症や食中毒、また肺炎、髄膜炎、敗血症等致死的となるような感染症の起因菌でもある。この中でメチシリンなどの抗生物質に耐性を示すものがMRSAとよばれ、院内感染の原因菌である。 緑膿菌はグラム陰性の桿菌であり、MRSAと同様に院内感染の原因となる菌である。緑膿菌は免疫力が低下している患者に感染すると、感染症を起こすことがある。そして、この細菌の最も恐ろしい性質は、「多剤耐性」を有することであり、多くの抗生物質が効かないことである。 カンジタ菌は、上記細胞と異なり酵母の仲間に属する。その細胞壁はグルカン(glucan)、キトサン(chitosan)、マンナン(mannnan)、キチン(chitin)の重合多糖で形成されている。カンジダ菌は、粘膜下組織に侵入し、血行性、リンパ行性に臓器感染を起こすことでもよく知られている。 殺菌速度から読み取れることは、1分間に生残菌数が何桁減少するかということが分かる。例えば、本グラフより大腸菌の殺菌速度は約1.2であることから、理論的には5分間に1.2×5=6.0桁、即ち99.9999%の初発菌が死滅することを示している。これは通常の銀系無機抗菌剤が時間単位で抗菌効果を発揮するのに対して飛躍的に抗菌速度が大きいことを示している。 次に、本発明の銀イオン抗菌液が細菌を殺菌するのに要する時間を測定した結果を示す。 なお、測定条件は次のとおりである。 試料:銀イオン抗菌液(銀イオン濃度20ppm) 使用菌株:黄色ブドウ球菌(S. aureus、菌懸濁液濃度107 cfu/ml) 試験方法:銀イオン抗菌液5.0mlとニュートリエント栄養液(濃度1/20 NB培地)5.0mlを混合し、これに黄色ブドウ球菌懸濁液10mlを接種して、室温で静置培養し、経時的に生菌数を測定した。(試験液中の銀イオン濃度10ppm) 一方、対照として、銀イオン抗菌液5.0mlと滅菌水5.0mlを混合し、これに黄色ブドウ球菌懸濁液10mlを接種して、経時的に生菌数を測定した。 なお、培養液の採取時間は、初発(0分)、1分後、3分後、10分後、30分後とし、それぞれの試料をサンプリングして菌数を測定した。 上記の測定結果を表9に示す。この測定結果は、黄色ブドウ球菌における栄養濃度と細菌死滅の関係を示している。なお、測定値は、菌濃度単位(cfu/ml)で、試料数(N=3)の菌数平均値で示している。 この結果、富栄養下の環境にあっても30分後には菌数検出限界以下となっており、倍希釈した銀イオン抗菌液(銀イオン濃度10ppm)は高い抗菌能力があることが分かった。 一般的な生活環境下では、栄養成分の濃度はこれよりもはるかに低いので、本発明の銀イオン抗菌液は実用性のあることが確認された。 次に、病院において高齢者や幼児等の身体の抵抗力が低下した患者が、複数の薬剤に耐性を有するいわゆる多剤耐性菌に感染することが問題となっている。この原因菌の例として、黄色ブドウ球菌(MRSA)、緑膿菌、結核菌等が挙げられる。健康な人であれば血液中の好中球等で十分抵抗できるが、免疫力や体力の弱った患者の血液内に入ると、敗血症等の悲惨な事態を招く。 近年、院内感染の深刻な例の一つとして、多剤耐性結核菌の問題がある。そこで、多剤耐性結核菌の感染経路を遮断する試みとして、枕カバー、シーツ等に付着した菌を上記銀イオン抗菌液で殺菌できれば被害の拡散を防ぐことができるのではないかと考えた。 そこで、銀イオン抗菌液が、結核菌に対して殺菌効果を有するか否かの試験を行った。測定条件は次のとおりである。 試料:銀イオン抗菌液(銀イオン濃度20ppm) 使用菌株:Mycobacterium bovis (BCG) RIMD1314006 (ウシ型結核菌:BCG変異株、菌懸濁液濃度107 cfu/ml) 試験方法:銀イオン抗菌液10mlに結核菌懸濁液0.1ml接種し、室温で静置培養し、経時的に生菌数を測定した。なお、菌数測定は、培養液1mlを採取してSCDLPブイヨン培地9mlに添加し、殺菌作用を停止して、MF法で測定した。 培養液の採取時間は、初発(0分)、10分後、1時間後、24時間後とした。 上記の測定結果を表10に示す。なお、測定値は菌濃度単位(cfu/ml)であり、検出限界値は10cfu/mlである。 なお、表10の結果を見やすいように図2として示した。また、結核菌の死滅曲線を図3に示した。 この結果、銀イオン抗菌液は結核菌に対して抗菌能力があることが分かった。 毎年、冬季にインフルエンザ症が発生し社会的な問題になっている。最近ではそれら薬剤に耐性を示すインフルエンザウイルスが出現している。それらインフルエンザウイルスはNA蛋白にH275Y耐性変異をもち、オセルタミビル(タミフル)及びペラミビル(ラピアクタ)に薬剤耐性を示す。 インフルエンザウイルスは、宿主細胞表面の糖タンパク質末端分子のシアル酸に吸着し感染する。この過程において重要な役割をするのが、ウイルスのスパイクのヘマグルチニン(HA)及びノイラミニダーゼ(NA)と呼ばれる表面タンパク質である。これらはウイルスのエンベロープ(殻)に刺さったトゲのような形をしているため、スパイクと呼ばれる。A型インフルエンザウイルスのスパイクは構成するアミノ酸の組み合わせでタイプが異なり、HAタイプには16種類、NAタイプには9種類あり、この組み合わせによりA型インフルエンザウイルスにはH1N1〜H16N9の144種類の"亜型"が存在し、非常に多様性をもつことが分かる。 しかし、銀イオンはこれらスパイクの型には影響されず、全てのスパイクタンパク質に吸着し、変質させるので、インフルエンザウイルスは宿主細胞表面に吸着することができない。すなわち完全に感染を防御できる。 そこで、本発明の銀イオン抗菌液(銀イオン濃度20ppm)がA型インフルエンザウイルス(H1N1型)に対して不活化効果を有するか否かの試験を行った。なお、この試験は、一般財団法人北里環境科学センターにて行った。(ウイルス不活化試験) 本発明の銀イオン抗菌液(銀イオン濃度20ppm)0.9mlにA型インフルエンザウイルス(H1N1型)液0.1mlを接種し、試験管ミキサーで穏やかに撹拌した後、室温で1分間又は5分間作用させた。所定時間後に0.1ml採取し、0.2%ウシ胎児血清(FBS)を含むDulbeccos Modified Eagles Medium(DMEM)で100倍に希釈し、ウイルス液感染測定原液として用いた。なお、初期ウイルス感染価はpHの影響も検討するため、対照としてクエン酸溶液(pH6.1)にウイルス液を摂取した後、直ちに採取したものを用いた。(ウイルス感染価測定法) ウイルス感染価測定原液をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で10段階に希釈した後、感染価測定用原液及びその希釈ウイルス液50μLと5%FBS添加DMEMに懸濁したイヌ腎臓由来細胞(MDCK)50μLを、96穴マイクロプレートに播種した。その後、37℃の炭酸ガス孵卵器内で4日間培養を行った。培養後、倒立顕微鏡下でウイルスの増殖による細胞変性効果(CPE)を観察して、Reed−Muench法を用いてウイルス感染価(TCID50/ml)を求めた。 その結果を表11に示す。 この試験結果から、銀イオン抗菌液(銀イオン濃度20ppm)をインフルエンザウイルスに作用させると、1分後に感染価が検出限界値(6.3×101TCID50/mL)以下となった。初期感染値からのウイルス感染価対数減少値は4.1log10以上(減少率99.99%以上)であった。したがって、銀イオン抗菌液のインフルエンザウイルス防御性能が確認された。 通常、素材の抗菌効果の判定基準として試験菌の対数減少値が2.0以上で効果があると判定される。一方、消毒液のそれは4.0以上とされている。このことから判断すると、銀イオン抗菌液(銀イオン濃度20ppm)はむしろ消毒液の範疇に入るといえる。 銀担持量が0.5〜5.0重量%の銀ゼオライトから溶出する銀イオンを含有する銀イオン抗菌液の生成方法であって、 前記銀ゼオライト、クエン酸及び精製水を使用し、その銀ゼオライト、クエン酸及び精製水の各配合量を秤量する処理と、上記銀ゼオライト、クエン酸及び精製水を配合した配合液を撹拌し混合して混合液を調製する処理からなる第1処理、又は、上記各配合量を秤量する処理と、上記混合液を調製する処理と、その後に精製水を加えて希釈して希釈液を調製する処理からなる第2処理であり、 上記第1及び第2処理の混合液を調製する処理における、上記銀ゼオライトに対するクエン酸の配合比率が0.9〜1.5の範囲の配合量であり、銀イオン濃度が2.5〜750ppmである銀イオン抗菌液を生成することを特徴とする銀イオン抗菌液の生成方法。 前記第1処理は、前記銀ゼオライトの配合量が0.01〜3.0重量%であり、前記第2処理は、前記銀ゼオライトの配合量が3.0重量%を超えることを特徴とする請求項1に記載の銀イオン抗菌液の生成方法。 前記銀ゼオライトがA型又はX型の銀ゼオライトであることを特徴とする請求項1に記載の銀イオン抗菌液の生成方法。 請求項1に記載の銀イオン抗菌液の生成方法で生成された銀イオン抗菌液。 請求項1に記載の銀イオン抗菌液を、凍結乾燥又は噴霧乾燥して粉末にすることを特徴とする銀イオン抗菌粉末。 請求項4に記載の銀イオン抗菌液を、液状化粧料、ウェットティシュ、液状デオドラント、液状浴用剤、液状洗濯柔軟剤の群から選ばれた製品に配合することを特徴とする銀イオン含有製品。 請求項4に記載の銀イオン抗菌液を、院内や公共の場で使用する物品に塗布又は付着させたことを特徴とする銀イオン含有処理物。 【課題】シリカ水和物を除去する処理を行わなくても、変色する恐れがなく、かつ手間がかからない銀イオン抗菌液の生成方法、その方法で生成される銀イオン抗菌液及びその抗菌液を含有した銀イオン含有製品を提供する。【解決手段】銀ゼオライトから溶出する銀イオンを含有する銀イオン抗菌液の生成方法であって、前記生成方法は、前記銀ゼオライト、クエン酸及び精製水を使用し、その銀ゼオライト、クエン酸及び精製水の各配合量を秤量する処理と、上記銀ゼオライト、クエン酸及び精製水を配合した配合液を撹拌し混合して混合液を調製する処理からなる第1処理、又は、上記各配合量を秤量する処理と、上記混合液を調製する処理と、その後に精製水を加えて希釈して希釈液を調製する処理からなる第2処理、であり、上記第1及び第2処理における、上記銀ゼオライトに対するクエン酸の配合比率は0.9〜1.5である銀イオン抗菌液を生成することを特徴とする銀イオン抗菌液の生成方法。【選択図】図1