タイトル: | 公開特許公報(A)_鉄アミノ錯体及びその製造方法 |
出願番号: | 2014031874 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | C07C 255/30,C07F 15/02 |
小島 綾一 日名子 英範 JP 2015157767 公開特許公報(A) 20150903 2014031874 20140221 鉄アミノ錯体及びその製造方法 旭化成ケミカルズ株式会社 303046314 稲葉 良幸 100079108 大貫 敏史 100109346 内藤 和彦 100134120 小島 綾一 日名子 英範 C07C 255/30 20060101AFI20150807BHJP C07F 15/02 20060101ALN20150807BHJP JPC07C255/30C07F15/02 6 OL 11 4H006 4H050 4H006AA01 4H006AA02 4H006AC52 4H006AC54 4H006BB14 4H050AA01 4H050AA02 4H050BB14 4H050WB14 4H050WB17 4H050WB21 本発明は、鉄アミノ錯体及びその製造方法に関する。 鉄に窒素が配位した錯体として、鉄フタロシアニン錯体、鉄ポルフィリン錯体などが知られている。これらは古くは顔料などに用いられてきたが、これらの錯体、もしくはその焼成体には酸素還元活性があることが知られており、特許文献1によれば、近年では燃料電池電極の酸素還元触媒の材料としての研究が盛んに行われている。特開2012−101155号公報特開2011−162575号公報 しかしながら、窒素が鉄に配位したフタロシアニン錯体やポルフィリン錯体は、十分に溶解できる適切な溶媒がないという問題がある。そのために、他の材料と複合化しようとしても分離してしまうため、複合化を十分にできないという問題や、あるいは薄膜化が困難であるという問題がある。 かかる課題に対して、フタロシアニンにt−ブチル基を導入することによって、鉄に窒素が配位した可溶性の錯体を製造するという検討もなされている(特許文献2参照)。しかしこのような製造方法で得られた錯体も、溶解性は十分ではなく、また製造方法が複雑という問題もある。 本発明は、かかる事情に鑑みなされたものであり、新規な鉄アミノ錯体、及びその製造方法を提供することを目的とする。 本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに鉄化合物と2つのアミノ基と2つのニトリル基を有する化合物を溶媒に溶解させて混合することで、鉄アミノ錯体を合成できることを見出し、本発明をなすに至った。 即ち、本発明は以下の通りである。〔1〕 鉄化合物と、2つのアミノ基及び2つのニトリル基を有する化合物と、を溶媒中で混合して得られる、鉄アミノ錯体。〔2〕 アミノ基が、−NH2、−NR1R2、及び=NRからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、前項〔1〕に記載の鉄アミノ錯体。〔3〕 前記化合物が、ジアミノマレオニトリル及び/又はジイミノスクシノニトリルを含む、前項〔1〕又は〔2〕に記載の鉄アミノ錯体。〔4〕 0.1質量%メタノール溶液の紫外可視吸収スペクトルにおける極大吸収波長が、400〜700nmである、前項〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の鉄アミノ錯体。〔5〕 0.1質量%メタノール溶液の紫外可視吸収スペクトルにおいて、400〜700nmの範囲の極大吸収波長における吸収強度が、0.10以上である、前項〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載の鉄アミノ錯体。〔6〕 鉄化合物と、2つのアミノ基及び2つのニトリル基を有する化合物と、を溶媒中で混合して鉄アミノ錯体を得る混合工程を有する、鉄アミノ錯体の製造方法。 本発明によれば、新規な鉄アミノ錯体及びその製造方法を提供することができる。実施例1の紫外可視吸収スペクトルを示すグラフである。第一原理計算に基づく構造と紫外可視吸収スペクトルのシミュレーションに用いた、ジアミノマレオニトリル2分子と塩化鉄(II)1分子からなる推定構造を示す図である。 以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されるものではない。すなわち、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。〔鉄アミノ錯体〕 本実施形態の鉄アミノ錯体は、鉄化合物と、2つのアミノ基及び2つのニトリル基を有する化合物と、を溶媒中で混合して得られるものである。本実施形態の鉄アミノ錯体は、可溶性を有し得る。「可溶性」とは、メタノールへの溶解度が、好ましくは0.005〜1.0であり、より好ましくは0.01〜1.0であり、さらに好ましくは0.05〜1.0であることをいう。このような可溶性を有することにより、他の材料と複合化の際に分離することを抑制できる。薄膜の作成などに好適に用いることができる。メタノールへの溶解度は、実施例に記載の方法により測定することができる。〔鉄化合物〕 鉄化合物としては、特に限定されないが、例えば、シアノ錯体、ヒドロキシ錯体、クロロ錯体、アセチルアセトナ−ト錯体、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩、亜硝酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、又は種々の有機金属化合物などが挙げられる。このなかでも、好ましくは、シアノ錯体、クロロ錯体、アセチルアセトナ−ト錯体、硝酸塩、塩化物、臭化物であり、特に好ましくは塩化物、臭化物、硝酸塩である。 具体的には、鉄化合物としては、特に限定されないが、例えば、ヘキサシアノ鉄(II)酸アンモニウム三水和物、ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム三水和物、ヘキサシアノ鉄(III)酸アンモニウム、ヘキサシアノ鉄(III)カリウム、ヘキサシアノ鉄(II)酸ナトリウム十水和物、ヘキサシアノ鉄(III)酸ナトリウム一水和物、硝酸鉄(II)六水和物、硝酸鉄(III)九水和物、塩化鉄(II)、塩化鉄(II)四水和物、塩化鉄(III)、塩化鉄(III)六水和物、臭化鉄(II)、臭化鉄(II)六水和物、臭化鉄(III)、臭化鉄(III)六水和物、チオシアン酸鉄(III)、炭酸鉄(II)、炭酸鉄(II)一水和物、ヘキサクロロ鉄(III)酸メチルアンモニウム、テトラクロロ鉄(II)酸テトラメチルアンモニウム、ペンタシアノニトロシル鉄(III)酸カリウム二水和物、ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム鉄(III)水和物、ペンタシアノニトロシル鉄(III)酸ナトリウム二水和物、アンミンペンタシアノ鉄(II)酸ナトリウム三水和物、アクアペンタシアノ鉄(II)酸ナトリウム七水和物、チオシアン酸鉄(II)三水和物、酢酸鉄、シュウ酸鉄(III)五水和物、シュウ酸鉄(II)二水和物、クエン酸鉄(III)三水和物、ヨウ化鉄(II)、ヨウ化鉄(II)四水和物、硫酸鉄(III)、硫酸鉄(III)九水和物、テトラクロロ鉄(II)酸アンモニウム、過塩素酸鉄(II)六水和物、過塩素酸鉄(III)六水和物、アクアペンタフルオロ鉄(III)酸カリウム、硫酸カリウム鉄(III)十二水和物、ビス(スルファト)鉄(II)二アンモニウム六水和物、トリス(硫酸)鉄(III)酸ナトリウム三水和物、リン酸鉄(III)二水和物、リン酸鉄(II)八水和物、硫酸鉄(II)七水和物などが挙げられる。このなかでも、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、臭化鉄(II)、臭化鉄(III)、硝酸鉄(III)九水和物が好ましい、。〔2つのアミノ基及び2つのニトリル基を有する化合物〕 上記化合物は、2つのアミノ基及び2つのニトリル基を有する。アミノ基としては、特に限定されないが、例えば、−NH2、又は−NR1R2、及び=NRが挙げられる。ここで、Nは窒素であり、R1、R2、及びRは、水素原子、又は、メチル及びエチルなどの有機官能基である。アミノ基として、−NH2、又は−NR1R2、及び=NRからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことにより、錯体の安定性、錯体の溶解性がより向上する傾向にある。 上記化合物としては、特に限定されないが、例えば、ジアミノマレオニトリル及び/又はジイミノスクシノニトリルを例示することができる。化合物が、ジアミノマレオニトリル及び/又はジイミノスクシノニトリルを含むことにより、錯体の安定性、錯体の溶解性がより向上する傾向にある。 ジアミノマレオニトリルは、構造中に炭素−炭素二重結合、2つのアミノ基(−NH2)、2つのニトリル基を有する。ジアミノマレオニトリルは市販品を用いてもよいし、公知の方法(例えば、特開昭49−126619号公報、特開昭60−651158号公報等参照)に基づき製造して用いてもよい。ジアミノマレオニトリルは、再結晶等の方法により精製して純度を高めてもよいし、無精製でもよい。 ジイミノスクシノニトリルは、構造中に炭素−炭素単結合、2つのアミノ基(=NH)、2つのニトリル基を有する。ジイミノスクシノニトリルは、ジアミノマレオニトリルを酸化して得ることができる。酸化方法は、特に限定されないが、例えば、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−p−ベンゾキノンなどの酸化剤を用いることができる。〔溶媒〕 溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等)、ケトン類(アセトン、ジエチルケトン等)、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等)、塩素系炭化水素類(ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、四塩化炭素等)、グリコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール等)、ニトリル類(アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等)、アミド類(N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等)、ラクタム類(N−メチル−2−ピロリドン等)、ジメチルスルホキシド、脂肪族炭化水素類(n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等)、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等)等が挙げられる。このなかでも、特に好ましいのはメタノール、エタノール、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド等である。溶媒は、1種類の単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。 本実施形態の鉄アミノ錯体の0.1質量%メタノール溶液の紫外可視吸収スペクトルにおける極大吸収波長は、好ましくは400〜700nmであり、より好ましくは450〜650nmであり、さらに好ましくは500〜600nmである。極大吸収波長が上記範囲内であることにより、錯体の形成を確認することができる。極大吸収波長は、実施例に記載の方法により測定することができる。ここで「極大吸収波長」とは、紫外可視吸収スペクトルにおける吸収強度が増加から減少へと変化する点をいい、400〜700nmの範囲において、最大ピークの吸光係数に対応する波長をいう。 本実施形態の鉄アミノ錯体の0.1質量%メタノール溶液の紫外可視吸収スペクトルにおいて、400〜700nmの範囲の極大吸収波長における吸収強度は、好ましくは0.10以上であり、より好ましくは0.20以上であり、さらに好ましくは0.30以上である。400〜700nmの範囲の極大吸収波長における吸収強度の上限は、特に限定されないが、好ましくは5.0以下であり、より好ましくは3.0以下であり、さらに好ましくは1.0以下である。400〜700nmの範囲の極大吸収波長における吸収強度が上記範囲内であることにより、錯体の形成を確認することができる。400〜700nmの範囲の極大吸収波長における吸収強度は、実施例に記載の方法により測定することができる。〔鉄アミノ錯体の製造方法〕 本実施形態の鉄アミノ錯体の製造方法は、鉄化合物と、2つのアミノ基及び2つのニトリル基を有する化合物と、を溶媒中で混合して鉄アミノ錯体を得る混合工程を有する。〔混合工程〕 鉄化合物と2つのアミノ基と2つのニトリル基を有する化合物を溶媒中で混合する際は、鉄化合物を溶解させた溶媒に2つのアミノ基と2つのニトリル基を有する化合物を添加してもよいし、2つのアミノ基と2つのニトリル基を有する化合物を溶解させた溶媒に鉄化合物を添加してもよし、2つのアミノ基と2つのニトリル基を有する化合物と鉄化合物を同時に溶媒に添加してもよいし、鉄化合物を溶解させた溶媒と2つのアミノ基と2つのニトリル基を有する化合物を溶解させた溶媒とを混合してもよい。 溶媒に対する2つのアミノ基と2つのニトリル基を有する化合物の質量比率(化合物/溶媒)は、好ましくは0.0001〜0.99であり、より好ましくは0.001〜0.90であり、さらに好ましくは0.005〜0.5であり、特に好ましくは0.01〜0.25である。2つのアミノ基と2つのニトリル基を有する化合物と溶媒の質量比率が0.0001以上であることにより、錯体形成速度がより速くなる傾向にある。また、2つのアミノ基と2つのニトリル基を有する化合物と溶媒の質量比率が0.99以下であることにより、急激な反応熱の発生をより抑制できる傾向にある。 鉄化合物に対する2つのアミノ基と2つのニトリル基を有する化合物のモル比率(化合物/鉄化合物)は、好ましくは0.1〜10000であり、より好ましくは1:1.0〜100.0であり、さらに好ましくは1:1.0〜6.0であり、特に好ましくは1:2.0〜3.0である。鉄化合物に対する2つのアミノ基と2つのニトリル基を有する化合物のモル比率が0.1以上であることにより、錯体の安定性がより向上する傾向にある。また、鉄化合物に対する2つのアミノ基と2つのニトリル基を有する化合物のモル比率が10000以下であることにより、錯体の溶解性がより向上する傾向にある。 鉄化合物と2つのアミノ基と2つのニトリル基を有する化合物を溶媒中で混合する際の温度は、好ましくは0〜200℃であり、より好ましくは10〜100℃であり、特に好ましくは20〜50℃である。温度が0℃以上であることにより、反応速度がより向上する傾向にある。また、温度が200℃以下であることにより、安全性がより向上する傾向にある。 鉄化合物と2つのアミノ基と2つのニトリル基を有する化合物を溶媒中で混合する際の圧力は、好ましくは0.05〜2.0MPaであり、より好ましくは0.08〜1.5MPaであり、さらに好ましくは0.1〜1.0MPaである。圧力が0.05MPa以上であることにより、錯体形成の反応速度がより向上する傾向にある。また、圧力が2.0MPa以下であることにより、暴走反応をより抑制でき、錯体形成の際の安全性がより向上する傾向にある。 鉄化合物と2つのアミノ基と2つのニトリル基を有する化合物を溶媒中で混合する際の時間は、好ましくは1分〜240時間であり、より好ましくは10分〜120時間であり、さらに好ましくは30分〜60時間である。時間が1分以上であることにより、錯体の安定性がより向上する傾向にある。また、時間が240時間以下であることにより、錯体の溶解性がより向上する傾向にある。 鉄化合物と2つのアミノ基と2つのニトリル基を有する化合物を溶媒中で混合する際は、バッチ式反応器を用いてもよいし、流通式反応器を用いてもよい。流通式反応器は完全混合槽でもよいし、管状反応器でもよいし、完全混合槽と管状反応器を組み合わせたものでもよい。 反応器内の雰囲気は、空気でもよいが、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスであってもよい。 上記の混合後は、蒸留により溶媒を留去する方法、もしくは鉄アミノ錯体を結晶として沈殿させる方法により、鉄アミノ錯体を単離することができる。単離した鉄アミノ錯体は、メタノール、エタノール、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド等を用いて洗浄、精製することができる。精製した鉄アミノ錯体は、減圧乾燥などの方法で洗浄液を除去し、粉末状とすることができる。 以下、実施例等を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。したがって、当業者は以下に示す実施例に様々な変更を加えて本発明を実施することができる。 まず、本実施例で行った測定方法について説明する。(鉄アミノ錯体のメタノールへの溶解度) 鉄アミノ錯体を10g(鉄アミノ錯体の仕込み質量)、メタノールを10g(溶媒質量)秤量して混合し、25℃で10分間攪拌した後、ADVANTEC社製、型式:No.5C(保留粒子径1μm(カタログ記載値))のろ紙を用いて吸引ろ過して、ろ紙上に残留している鉄アミノ錯体をろ物として回収する。得られたろ物を120℃で10時間減圧乾燥して、鉄アミノ錯体残留質量(g)を測定する。得られた鉄アミノ錯体残留質量に基づいて式(I)により、鉄アミノ錯体のメタノールへの溶解度(x)を算出した。鉄アミノ錯体のメタノールへの溶解度(x) =(鉄アミノ錯体仕込み質量−鉄アミノ錯体残留質量)/メタノール質量 =(10−鉄アミノ錯体残留質量)/10 ・・・(I)(紫外可視吸収スペクトルの測定方法) 紫外可視吸収スペクトルは、試料0.1gをメタノール(和光純薬株式会社製、98%、試薬特級)に溶解させて全体を10.0gとし、その溶液を1.0g採取してさらにメタノールで希釈して全体を10.0gとし、最終的に試料濃度が0.1wt.%となるよう調整した。その溶液を厚さ2mmの石英セルに充填して紫外可視吸収スペクトルを測定し、得られた紫外可視スペクトルから、厚さ2mmの石英セルにメタノールを充填した場合(ブランク)の紫外可視吸収スペクトルをバックグラウンドとして差し引くことで紫外可視吸収スペクトルを得た。 装置 :日本分光株式会社製、紫外可視吸収分光光度計 V−670 光源 :重水素ランプ、ハロゲンランプ 測定波長範囲:1100〜250nm 検出器 :光電子増倍管、冷却型PbS光導電素子 バンド幅 :1.0nm 走査速度 :400nm/min(構造と紫外可視吸収スペクトルのシミュレーション) 本実施形態における鉄アミノ錯体の構造を推定するために、一例として、ジアミノマレオニトリル1又は2分子と、塩化鉄(II)無水物1分子からなる構造を、数例仮定し、それぞれについて、第一原理計算に基づくエネルギー計算を実施した。また、最も安定な構造と推定される化合物については、同様の計算ソフト、方法、基底関数を用いて、メタノール溶媒中で示す紫外可視吸収スペクトルをシミュレーションした。第一原理計算に基づく構造と紫外可視吸収スペクトルのシミュレーションに用いた、ジアミノマレオニトリル2分子と塩化鉄(II)1分子からなる推定構造を図2に示す。 第一原理計算ソフト:Gaussian09 計算方法 :B3LYP 基底関数 :6−311+G(d.p)[実施例1] ジアミノマレオニトリル4g、塩化鉄(II)無水物2.345g、溶媒としてメタノール200gを用意し、ビーカー中で混合した。室温で5時間攪拌した後、この溶液を500mLのナスフラスコに移し、50℃のウオーターバスに浸し、エバポレーターでメタノールを除去した。溶媒を除去した後、濃青紫色の結晶を取り出し、メノウ乳鉢で粉砕した。その後、80℃で12時間減圧乾燥を行い、6.0gの鉄アミノ錯体を回収した。 得られた鉄アミノ錯体のメタノールへの溶解度を測定したところ、0.40であった。また、0.1wt.%メタノール溶液の紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、570nmに吸収極大を有し、その強度は1.1であった。得られた紫外可視吸収スペクトルを図1に示す。 第一原理計算にて、エネルギー計算を実施したところ、図2に示す、ジアミノマレオニトリル2分子のNH2基が、trans位で塩化鉄(II)に配位した構造が、最も安定であるとの結果を得た。さらにこの構造の化合物がメタノール溶媒中で示す紫外可視吸収スペクトルを、同様の計算ソフト、方法、基底関数でシミュレーションしたところ、570nmに吸収極大を有する結果となった。これにより実施例1の鉄アミノ錯体はこの構造を有すると推定できる。[実施例2] 実施例1の5時間攪拌を、0.5時間攪拌に変更した以外は、実施例1と同様の方法により実施例2の鉄アミノ錯体6.2gを得た。 得られた鉄アミノ錯体のメタノールへの溶解度を測定したところ、0.10であった。また、0.1wt.%メタノール溶液の紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、580nmに吸収極大を有し、その強度は0.3であった。[実施例3] 実施例1の塩化鉄(II)無水物2.345gを、塩化鉄(II)無水物4.69gに変更した以外は、実施例1と同様の方法により実施例3の鉄アミノ錯体7.9gを得た。 得られた鉄アミノ錯体のメタノールへの溶解度を測定したところ、0.30であった。また、0.1wt.%メタノール溶液の紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、600nmに吸収極大を有し、その強度は1.0であった。[実施例4] 実施例1の溶媒メタノール200gを、アセトニトリル200gに変更した以外は、実施例1と同様の方法により実施例4の鉄アミノ錯体6.1gを得た。 得られた鉄アミノ錯体のメタノールへの溶解度を測定したところ、0.45であった。また、0.1wt.%メタノール溶液の紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、570nmに吸収極大を有し、その強度は1.2であった。[実施例5] 実施例1の塩化鉄(II)無水物2.345gを、臭化鉄(II)無水物3.990gに変更した以外は、実施例1と同様の方法により実施例5の鉄アミノ錯体7.5gを得た。 得られた鉄アミノ錯体のメタノールへの溶解度を測定したところ、0.28であった。また、0.1wt.%メタノール溶液の紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、590nmに吸収極大を有し、その強度は1.0であった。[実施例6] ジアミノマレオニトリル8gと2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−p−ベンゾキノン8.4gとメタノール200gをビーカー中で混合した。40℃で5時間攪拌した後、冷却し、再結晶法により、ジイミノスクシノニトリルを4.2g回収した。 実施例1のジアミノマレオニトリル4gを、上記で合成したジイミノスクシノニトリル3.9gに変更した以外は、実施例1と同様の方法により実施例6の鉄アミノ錯体5.8gを得た。 得られた鉄アミノ錯体のメタノールへの溶解度を測定したところ、0.28であった。また、0.1wt.%メタノール溶液の紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、570nmに吸収極大を有し、その強度は1.0であった。[比較例1] 市販の鉄フタロシアニン錯体(東京化成工業製)を用いて、メタノールへの溶解度を測定したところ、溶解度は0.001以下であった。 本発明に係る鉄アミノ錯体は、燃料電池電極、電気二重層キャパシタ、有機薄膜トランジスタ、太陽電池材料、等の有機電子材料として利用できる。 鉄化合物と、2つのアミノ基及び2つのニトリル基を有する化合物と、を溶媒中で混合して得られる、鉄アミノ錯体。 アミノ基が、−NH2、−NR1R2、及び=NRからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の鉄アミノ錯体。 前記化合物が、ジアミノマレオニトリル及び/又はジイミノスクシノニトリルを含む、請求項1又は2に記載の鉄アミノ錯体。 0.1質量%メタノール溶液の紫外可視吸収スペクトルにおける極大吸収波長が、400〜700nmである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の鉄アミノ錯体。 0.1質量%メタノール溶液の紫外可視吸収スペクトルにおいて、400〜700nmの範囲の極大吸収波長における吸収強度が、0.10以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の鉄アミノ錯体。 鉄化合物と、2つのアミノ基及び2つのニトリル基を有する化合物と、を溶媒中で混合して鉄アミノ錯体を得る混合工程を有する、鉄アミノ錯体の製造方法。 【課題】新規な鉄アミノ錯体、及びその製造方法を提供することを目的とする。【解決手段】鉄化合物と、2つのアミノ基及び2つのニトリル基を有する化合物と、を溶媒中で混合して得られる、鉄アミノ錯体。【選択図】なし