生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_水晶体硬化抑制剤
出願番号:2014015139
年次:2015
IPC分類:A61K 38/16,A61P 27/02,A61K 9/08,A61K 9/06,A01K 67/027,C07K 14/79


特許情報キャッシュ

坪田 一男 樋口 明弘 井上 浩義 JP 2015140327 公開特許公報(A) 20150803 2014015139 20140130 水晶体硬化抑制剤 学校法人慶應義塾 899000079 高島 一 100080791 土井 京子 100125070 鎌田 光宜 100136629 田村 弥栄子 100121212 山本 健二 100122688 村田 美由紀 100117743 小池 順造 100163658 當麻 博文 100174296 坪田 一男 樋口 明弘 井上 浩義 A61K 38/16 20060101AFI20150707BHJP A61P 27/02 20060101ALI20150707BHJP A61K 9/08 20060101ALI20150707BHJP A61K 9/06 20060101ALI20150707BHJP A01K 67/027 20060101ALI20150707BHJP C07K 14/79 20060101ALN20150707BHJP JPA61K37/14A61P27/02A61K9/08A61K9/06A01K67/027C07K14/79 7 OL 15 (出願人による申告)平成24年〜25年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果展開事業(研究成果最適展開支援プログラム フィージビリティスタディステージ シーズ顕在化タイプ)「セレン化合物を用いた新規ドライアイ治療薬の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願 4C076 4C084 4H045 4C076AA06 4C076AA12 4C076BB24 4C076CC10 4C084AA02 4C084AA03 4C084BA01 4C084BA31 4C084BA44 4C084CA38 4C084CA59 4C084DC50 4C084MA17 4C084MA28 4C084MA58 4C084NA14 4C084ZA332 4H045CA40 4H045EA20 4H045FA71 本発明は、セレンラクトフェリンなどのセレン化合物又はその塩を有効成分として含有する、水晶体硬化抑制剤、水晶体硬化が関与する疾患の治療及び/又は予防剤、前記疾患のモデル動物の作製方法、並びに該動物を用いた水晶体硬化抑制薬のスクリーニング方法に関する。 水晶体は、タンパク質33%、水66%、ミネラル1%を構成成分とする、ヒトにおいて最もタンパク質の割合が多い組織の一つである。主要なタンパク質として、α−、β−、及びγ−クリスタリンが、重量比で水晶体中のタンパク質全体の1/3〜1/2を占める。水晶体はその厚さを調節することによって目の焦点を調整しているが、加齢と共に水晶体が硬化し、調整がうまくいかなくなり、その結果老視が生じると考えられている。これまでに、老視に関する効果的な治療薬および予防薬は市販されていない。 ラクトフェリンは、母乳、血液、粘膜分泌液(涙、唾液、精液)、粘膜表面、好中球の特殊顆粒などに含まれる、分子量約80,000の鉄イオン結合性糖タンパク質であり、抗菌及び抗エンドトキシン等の作用を示すことから、点眼剤やコンタクトレンズ保存液に防腐剤として用いられている(特許文献1)。また、ラクトフェリンがドライアイの治療に有効であることが報告されている(特許文献2)。さらに、ラクトフェリンから鉄を除去したアポラクトフェリンも抗菌作用を有し、また、眼球やコンタクトレンズ表面などの濡れ性を改善することが報告されている(特許文献3)。 セレンラクトフェリンとは、セレンとアポラクトフェリンが結合したものであり、本発明者らは、セレンラクトフェリンの製造方法、及びセレンラクトフェリンがドライアイ等の角結膜疾患に対して治療効果を有することを開示した(特許文献4、5)。 しかしながら、セレンラクトフェリンの水晶体への効果は知られていない。 ところで、喫煙及び受動喫煙は、癌や呼吸器疾患などの様々な疾患を引き起こし、眼科領域においては白内障及び遠視等のリスクファクターであることが知られている。本発明者らは、主流煙に曝露したラットにおいて、酸化的DNA損傷を伴う角膜損傷及び涙腺機能障害が発生することを見出し(非特許文献1)、当該モデル動物を用いて、セレンラクトフェリンがドライアイ等の角結膜上皮疾患の治療に有効であることを実証した(特許文献4、5)。 しかしながら、喫煙処理により実験動物に水晶体硬化を生じさせ得るか否かについては、何ら知られていない。特開平9−30966号公報特許第4634809号公報特開2007−137817号公報国際公開第2012/161112号特開2013−006829号公報Free Radic. Biol. Med., 2011, Vol. 51, pages 2210-2216 高齢化が進み、加齢に伴い生じる様々な障害に対する治療薬及び予防薬の需要が、今後益々高まることが予想されるが、これまでに、水晶体の硬化に起因して生じる老視等に対する効果的な治療薬及び予防薬はなく、その開発が求められている。 本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行い、非ヒト動物に、ある条件下で喫煙処理を施すことで、水晶体の硬化を引き起こすことに成功した。さらに、該モデル動物を用いて、セレンラクトフェリンが水晶体の硬化を抑制することを見出し、本発明を完成させた。 即ち、本発明は以下に関する。[1]セレンラクトフェリン又はその塩を有効成分とする、水晶体硬化抑制剤。[2]水晶体硬化が関与する疾患の治療及び/又は予防剤である、[1]に記載の剤。[3]水晶体硬化が関与する疾患が老視である、[2]に記載の剤。[4]点眼剤又は眼軟膏剤である、[1]〜[3]のいずれかに記載の剤。[5]非ヒト動物を、一酸化炭素濃度にして50〜250ppmのタバコ煙を含有する雰囲気に、のべ30時間以上曝露することを特徴とする、水晶体硬化が関与する疾患の非ヒトモデル動物の作製方法。[6]水晶体硬化が関与する疾患が老視である、[5]に記載の方法。[7](a)[5]に記載の方法で作製された非ヒトモデル動物に被検物質を投与する工程、及び(b)該動物における水晶体硬化が関与する疾患の病態の変化を評価する工程、を含む、該疾患の治療及び/又は予防薬の候補物質をスクリーニングする方法。 本発明により、これまで効果的な治療及び/又は予防薬が存在しなかった、老視等の水晶体の硬化が関与する疾患に対する治療及び/又は予防が可能となる。また、簡便な喫煙処理により水晶体硬化を生じるモデル動物が提供されるので、水晶体硬化が関与する疾患の治療及び/又は予防薬の開発に有用である。図1は、主流煙曝露による水晶体硬度の変化を示す図である。図2は、主流煙曝露による水晶体の硬化がセレンラクトフェリンによって抑制されることを示す図である。 以下、本発明を説明する。本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常に用いられる意味を有する。 本発明は、セレンラクトフェリン又はその塩を有効成分として含有する、水晶体硬化抑制剤を提供する。 本発明に用いられるセレンラクトフェリン(以下、単に「本発明のセレンラクトフェリン」ともいう)は、セレン及びアポラクトフェリンからなる金属タンパク質であって、セレンがアポラクトフェリンに結合しているものをいう。アポラクトフェリンは、ラクトフェリンから鉄が除かれたものを意味する。 本発明のセレンラクトフェリンにおいて、セレンはアポラクトフェリンの鉄結合性ポケットにおいてキレート作用により結合していると考えられるが、これに限定されるものではない。本明細書中、鉄結合性ポケットとは、アポラクトフェリンの構造中に存在する鉄イオンと結合する部分のことをいい、アポラクトフェリンはその構造中に1分子当り2つの鉄結合性ポケットを有している。該部分は、球状のドメインを形成し、N末端側のドメインはNローブ、C末端側のドメインはCローブと呼ばれている。本発明のセレンラクトフェリンは、鉄結合性ポケット2つともにセレンが結合しているもの、1つの鉄結合性ポケットにセレンが結合しているもの、又はこれらの混合物であってよい。 本発明に用いられるラクトフェリン及びアポラクトフェリン(以下、「本発明のラクトフェリン等」と略記する場合がある)は、動物の乳汁、乳清、血液、粘膜分泌液(涙、唾液、精液)、粘膜表面、好中球の特殊顆粒などから得られる天然のラクトフェリンに由来するものでも、大腸菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞などを用いて当業者に公知の手法によって遺伝子工学的に合成され、精製されたものであってもよい。生来糖タンパク質であるラクトフェリンを糖タンパク質として調製する場合は、前記遺伝子工学的手法においては、翻訳後修飾が起きる酵母、昆虫細胞又は動物細胞を宿主として用いることが好ましく、ヒト等哺乳動物における糖鎖修飾の様式と同様の糖鎖修飾を期待できる動物細胞、特にヒト由来細胞を宿主とすることがより好ましい。また、安価に大量生産を行うために、大腸菌を用いて遺伝子工学的に生産することも好適な例として挙げられる。本発明の所望の効果を得られるのであれば宿主細胞の選択は特に限定されるものではない。或いは、ラクトフェリンやアポラクトフェリンは、医薬品、サプリメントや試薬等として市販されているので、これら市販品も本発明に好適に使用し得る。 例えば、本発明のラクトフェリン等は、カチオン交換樹脂に吸着させ高濃度塩類溶液で脱離させる方法、電気泳動による分離法、アフィニティクロマトグラフィーによる分離法などによって、上記動物の乳汁等の天然材料から調製することができる。遺伝子工学的に合成する場合は、合成後の精製を容易にするために、ラクトフェリンポリペプチドにタグ配列を付加してもよい。タグとしては、Flagタグ、ヒスチジンタグ、c−Mycタグ、HAタグ、AU1タグ、GSTタグ、MBPタグ、蛍光タンパク質タグ(例えばGFP、YFP、RFP、CFP、BFP等)、イムノグロブリンFcタグ等を例示することが出来る。タグ配列が付加される位置は、好ましくは、ラクトフェリンポリペプチドのN末端又はC末端である。 或いは、本発明のラクトフェリン等は、セレンとの結合性を有しており、且つ、水晶体硬化が関与する疾患の治療及び/又は予防効果が得られるのであれば、天然のアミノ酸配列に1又は2以上の(例えば1〜50個、好ましくは1〜10個程度、より好ましくは1〜5個程度の)アミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又はこれらの組み合わせを含むものであり得る。 本発明のラクトフェリン等は、哺乳動物(例、ヒト、ラット、マウス、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に由来するものが好ましい。 本発明に用いられるアポラクトフェリンは、所望の効果が得られるのであれば、その取得方法は特に制限されることはないが、当業者に公知の方法(例えば、上記方法により得られたラクトフェリン含有液に酸を添加して溶液を酸性(例えば、pH1〜3に調整する)にする方法、酸溶液(例えば、pH0.5〜2の酸溶液)に対してラクトフェリン含有液の透析を行う方法、及びラクトフェリンをEDTAなどのキレート剤に接触させる方法等)によりラクトフェリンから鉄を解離させることで得ることができる。酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、炭酸などの無機酸、酢酸、安息香酸、クエン酸などの有機酸が例示される。 或いは、本発明に用いられるアポラクトフェリンは、(a)ラクトフェリンと酸とを含有する溶液を限外濾過に供する工程、及び(b)(a)で限外濾過膜を透過しなかった溶液を回収する工程、を含む方法により製造され得る。当該方法は、例えば、特許第4634809号公報に記載された方法であり得る。具体的には、ラクトフェリンを含有する溶液と酸とを混合し、当該混合液を限外濾過膜に供し、非透過液、透過液をそれぞれ系外へ取り出し、非透過液に対して再度酸を添加し、さらに限外濾過を行い、目的とするアポラクトフェリンの量が得られるまで当該操作を繰り返すことで製造することが可能である。酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、炭酸などの無機酸、酢酸、安息香酸、クエン酸などの有機酸が好適に使用できる。限外濾過においては、ラクトフェリン及びアポラクトフェリンを透過させず、且つ、ラクトフェリンから解離した鉄を透過させる性質を有する膜を使用するのであれば、いかなる材質の膜(例えば、酢酸セルロース、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリルアミド、ポリイミド、芳香族ポリアミド、ポリアクリロニトリル、親水性ポリオレフィンなどの天然若しくは合成ポリマーの有機膜、アルミナ、ジルコニア及びチタンなどのセラミック、カーボン、ガラスなどの無機膜)も使用可能であり、膜の型式(例えば、中空糸膜、管状膜、スパイラル膜、平膜など)も特に限定されるものではない。また、例えば、遠心操作やクロスフローによる限外濾過法を用い得るが、所望の効果を得られるのであれば、これらに限定されない。当該限外濾過を行った後、膜を透過しなかった溶液を回収することによりアポラクトフェリンを得ることができる。 前述のアポラクトフェリンの製造方法における限外濾過に代えて、透析を利用することもできる。透析を行う場合には、分子量約80,000のラクトフェリン及びアポラクトフェリンを透過させず、且つ、鉄を透過させるポアサイズを有する透析膜を使用することが望ましい。様々な材質(例えば、再生セルロース、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリルなど)及びポアサイズの透析膜が市販されており、前記の効果を奏する限り、本発明においてはいかなる透析膜をも使用可能である。透析は、ラクトフェリンを含む溶液の少なくとも100倍量の鉄を含まない溶液に対して、2〜24時間行うことが好ましく、当該透析の操作を1回以上(例えば、1〜5回)行うのが好ましい。 本発明のセレンラクトフェリン又はその塩は、例えば、(a)ラクトフェリン及び/又はアポラクトフェリンを含有する溶液にセレン塩を添加する工程、及び(b)(a)の工程で得られた溶液を透析又は限外濾過に供する工程、を含む方法により製造され得る。当該方法では、ラクトフェリン及び/又はアポラクトフェリンを含有する溶液にセレン塩を添加することにより、セレンをアポラクトフェリンに結合させ、その後、当該溶液を透析又は限外濾過に供し、過剰のセレンを除去することによりセレンラクトフェリンを製造する。 当該製造方法ではラクトフェリン及び/又はアポラクトフェリンを使用し得る。ラクトフェリンを使用した場合、鉄結合性ポケットに結合している鉄が溶液中のセレンに置き換わることでセレンラクトフェリンが製造され、アポラクトフェリンを用いた場合は、空の鉄結合性ポケットにセレンが結合しセレンラクトフェリンが製造されると考えられる。従って、セレンラクトフェリンの製造効率の観点からは、アポラクトフェリンを使用するのが好ましいが、ラクトフェリン溶液やラクトフェリンとアポラクトフェリンの混合溶液も同様に使用可能である。 当該方法に用いられるセレン塩としては、水溶性であり所望の効果が得られるものであれば特に限定されないが、例えば、フッ化セレン、塩化セレン、及び臭化セレンなどを使用することができる。上述したように、アポラクトフェリンは1分子中に2つの鉄結合性ポケットを有することから、当該方法にて添加するセレン塩のモル数は、ラクトフェリン及び/又はアポラクトフェリンのモル数の2倍以上であることが好ましい。また、ラクトフェリン及びアポラクトフェリンは、pHが高い強塩基性溶液中では変性し、pHが低い強酸性溶液中ではセレンと結合しなくなることから、当該方法で用いられる溶液のpHは、例えば、pH3〜8であることが好ましい。該溶液のpHは当業者に公知の方法により調節することができる。当該方法におけるラクトフェリン及び/又はアポラクトフェリンとセレン塩との、反応温度及び反応時間は、使用するラクトフェリン及び/又はアポラクトフェリンとセレン塩の量などに応じて適宜設定する必要があるが、通常、10〜35℃で10分〜2時間行われる。 セレンの過剰摂取は生体にとって毒性があるため、上記方法において、ラクトフェリン又はアポラクトフェリンと結合しなかったセレンは除去する必要がある。過剰なセレンを除去する方法として、透析や限外濾過を使用できる。透析を行う場合には、分子量約80,000のラクトフェリン及びアポラクトフェリンを透過させず、且つ、セレンを透過させるポアサイズを有する透析膜を使用することが望ましい。様々な材質(例えば、再生セルロース、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリルなど)及びポアサイズの透析膜が市販されており、前記の効果を奏する限り、本発明においてはいかなる透析膜をも使用可能である。透析は、ラクトフェリン及び/又はアポラクトフェリンとセレン塩とを含む溶液の少なくとも100倍量のセレンを含まない溶液に対して、2〜24時間行うことが好ましく、当該透析の操作を1回以上(例えば、1〜5回)行うのが好ましい。限外濾過に関しても、ラクトフェリン及びアポラクトフェリンを透過させず、且つ、セレンを透過させる性質を有する膜を使用するものであれば、いかなる材質の膜(例えば、酢酸セルロース、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリルアミド、ポリイミド、芳香族ポリアミド、ポリアクリロニトリル、親水性ポリオレフィンなどの天然若しくは合成ポリマーの有機膜、アルミナ、ジルコニア及びチタンなどのセラミック、カーボン、ガラスなどの無機膜)も使用可能であり、膜の型式(例えば、中空糸膜、管状膜、スパイラル膜、平膜など)も特に限定されるものではない。また、例えば、遠心操作やクロスフローによる限外濾過法を用い得るが、所望の効果を得られるのであれば、どのような方法により限外濾過を行ってもよい。 本発明のセレンラクトフェリンは、本発明の効果を損なうものでない限り、上記方法以外のいかなる方法によって製造したものであってもよい。 本発明のセレンラクトフェリンは、無機塩基、有機塩基、無機酸、有機酸等と塩を形成してもよい。上記無機塩基との塩の例としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩;ならびにアルミニウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。上記有機塩基との塩の例としては、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミンとの塩が挙げられる。上記無機酸との塩の例としては、例えば塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸との塩が挙げられる。上記有機酸との塩の例としては、例えばギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸との塩が挙げられる。これらの塩のなかでも、薬理学的に許容される塩が好ましい。 本発明のセレンラクトフェリンは、水晶体の硬化を抑制することで、水晶体硬化が関与する疾患の治療及び/又は予防効果を奏する。本明細書中、水晶体の硬化抑制とは、水晶体の硬化が進展することを抑制し水晶体の硬度を維持することのみならず、水晶体の硬化を回復させ弾性を持たせることも包含する。本明細書中、水晶体硬化が関与する疾患とは、水晶体の硬化がその発症・進展に寄与しているか、あるいはその発症・進展に伴って水晶体の硬化を生じる任意の疾患を意味する。該疾患の例として、老視、遠視、白内障等が挙げられ、好ましい例は、老視である。水晶体はその厚さを変化させることで目の焦点を調節している。従って、水晶体硬化が関与する疾患の病態として、水晶体が硬化し弾性を失うことで目の焦点の調節が困難になることが挙げられる。 セレンは微量必須元素の1つであり、ラクトフェリンは体内成分であり、サプリメントとしても知られているので、本発明のセレンラクトフェリンは、毒性が低く、そのままあるいは自体公知の方法に従って、医薬上許容される添加物を混合した医薬組成物として、ヒト及び他の哺乳動物(例、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して、経口的又は非経口的に安全に投与することができる。 本発明の水晶体硬化抑制剤あるいは水晶体硬化が関与する疾患の治療及び/又は予防剤(以下、まとめて「本発明の剤」とも記載する)に含有されるセレンラクトフェリン又はその塩の量は、水晶体硬化を抑制するのに十分で、かつ細胞毒性を示さない範囲であれば特に制限はないが、通常0.001〜100w/v%、好ましくは0.01〜1w/v%であり得る。セレンラクトフェリンの含有量は、使用目的、剤形、病態の程度などに応じて適宜増減することができる。 本発明の剤の剤形は特に制限されず、経口投与もしくは非経口投与に適した各種剤形を適宜選択できる。非経口投与のための製剤としては、例えば、点眼剤、軟膏剤、ローション剤、クリーム剤、注射剤、坐剤等が用いられ、好ましくは眼局所への投与に適した剤形、例えば、点眼剤(水性点眼剤、非水性点眼剤、懸濁性点眼剤、乳濁性点眼剤等)、軟膏剤、ローション剤、クリーム剤等が挙げられる。本発明の剤が点眼剤である場合には、適宜基材を用いることができる。点眼剤に用いられる基材としては、リン酸緩衝液、ハンクス緩衝液、生理食塩水、灌流液、人工涙液などが挙げられる。 本発明の剤には、有効成分であるセレンラクトフェリンに加えて、医薬上許容される添加物、例えば眼局所投与用製剤の場合、例えば緩衝剤、等張化剤、溶解補助剤、防腐剤、粘性基剤、キレート剤、清涼化剤、pH調整剤、抗酸化剤などを適宜選択して添加することができる。 緩衝剤としては、例えば、リン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、アミノ酸などが挙げられる。 等張化剤としては、ソルビトール、グルコース、マンニトールなどの糖類、グリセリン、プロピレングリコールなどの多価アルコール類、塩化ナトリウムなどの塩類、ホウ酸などが挙げられる。 溶解補助剤としては、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート(例えば、ポリソルベート80)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、チロキサポール、プルロニックなどの非イオン性界面活性剤、グリセリン、マクロゴールなどの多価アルコールなどが挙げられる。 防腐剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウムなどの第四級アンモニウム塩類、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチルなどのパラオキシ安息香酸エステル類、ベンジルアルコール、ソルビン酸およびその塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)、チメロサール(商品名)、クロロブタノール、デヒドロ酢酸ナトリウムなどが挙げられる。 粘性基剤としては、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールなどの水溶性高分子、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース類などが挙げられる。 キレート剤としては、エデト酸ナトリウム、クエン酸などが挙げられる。 清涼化剤としては、l−メントール、ボルネオール、カンフル、ユーカリ油などが挙げられる。 pH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ホウ酸またはその塩(ホウ砂)、塩酸、クエン酸またはその塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸二水素ナトリウム等)、リン酸またはその塩(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム等)、酢酸またはその塩(酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム等)、酒石酸またはその塩(酒石酸ナトリウム等)等が挙げられる。 抗酸化剤としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、乾燥亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、濃縮混合トコフェロール等が挙げられる。 本発明の剤のpHは、通常、約5.0〜約8.5、好ましくは約6.0〜約8.0に調整され、好ましくは、メンブレンフィルター等を用いた濾過滅菌などの滅菌処理を行う。 本発明の剤を眼軟膏剤として調製する場合は、軟膏基剤をさらに含み得る。該軟膏基剤としては、特に限定されるものではないが、一般に疎水性基剤としての油脂類、ロウ、炭化水素化合物等を用いることができる。具体的には、黄色ワセリン、白色ワセリン、パラフィン、流動パラフィン、プラスチベース、シリコーン等の鉱物性基剤、ミツロウ、動植物性油脂等の動植物性基剤等が挙げられる。 一方、本発明の剤が経口投与のための製剤である場合、例えば、錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等に製剤化することができる。これらの製剤は、自体公知の調製法、例えば、第14改正日本薬局方、製剤総則に記載された方法で製造することができ、眼局所投与用製剤に使用され得る上記医薬上許容される添加物の他、製剤分野において通常用いられる賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、水溶性高分子、塩基性無機塩等を含有していても良い。 賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、D−マンニトール、でんぷん、コーンスターチ、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸、酸化チタン等が挙げられる。 滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、タルク、ステアリン酸等が挙げられる。 結合剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、結晶セルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム末、ゼラチン、プルラン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。 崩壊剤としては、(1)クロスポビドン、(2)クロスカルメロースナトリウム(FMC−旭化成)、カルメロースカルシウム(五徳薬品)等スーパー崩壊剤と称される崩壊剤、(3)カルボキシメチルスターチナトリウム(例、松谷化学(株)製)、(4)低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(例、信越化学(株)製)、(5)コーンスターチ等が挙げられる。該「クロスポピドン」としては、ポリビニルポリピロリドン(PVPP)、1−ビニル−2−ピロリジノンホモポリマーと称されているものも含め、1−エテニル−2−ピロリジノンホモポリマーという化学名を有し架橋されている重合物のいずれであってもよく、具体例としては、コリドンCL(BASF社製)、ポリプラスドンXL(ISP社製)、ポリプラスドンXL−10(ISP社製)、ポリプラスドンINF−10(ISP社製)等である。 水溶性高分子としては、例えば、エタノール可溶性水溶性高分子〔例えば、ヒドロキシプロピルセルロース(以下、HPCと記載することがある)等のセルロース誘導体、ポリビニルピロリドン等〕、エタノール不溶性水溶性高分子〔例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(以下、HPMCと記載することがある)、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース誘導体、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、グアーガム等〕等が挙げられる。 塩基性無機塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウムおよび/またはカルシウムの塩基性無機塩が挙げられる。好ましくはマグネシウムおよび/またはカルシウムの塩基性無機塩である。さらに好ましくはマグネシウムの塩基性無機塩である。該ナトリウムの塩基性無機塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム等が挙げられる。該カリウムの塩基性無機塩としては、例えば、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。該マグネシウムの塩基性無機塩としては、例えば、重質炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム、珪酸マグネシウム、アルミン酸マグネシウム、合成ヒドロタルサイト〔Mg6Al2(OH)16・CO3・4H2O〕および水酸化アルミナ・マグネシウム、好ましくは、重質炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。該カルシウムの塩基性無機塩としては、例えば、沈降炭酸カルシウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。 必要に応じて、上記医薬組成物を細胞内に運搬しやすくするために、リポソームに封入することもできる。好ましいリポソームは、正電荷リポソーム、正電荷コレステロール、膜透過性ペプチド結合リポソームなどである(中西守ら、タンパク質核酸酵素、44: 1590-1596 (1999)、二木史朗、化学と生物、43: 649-653 (2005)、Clinical Cancer Research 59: 4325-4333 (1999)など)。 本発明の剤は、セレンラクトフェリンとの配合により好ましくない相互作用を生じない限り、他の活性成分、例えば、抗アレルギーまたは抗ヒスタミン成分、充血除去成分、局所麻酔薬成分、ビタミン成分、有効アミノ酸以外のアミノ酸成分(例:バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、メチオニン、プロリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、ヒスチジン、シトルリン、オルニチン、シスチン、タウリン、グリシン)などをさらに含有していてもよい。そのような他の活性成分としては、自体公知の各種薬剤を適宜使用することができる。 本発明の剤の投与量は、投与対象、対象疾患、症状、投与ルートなどによっても異なるが、老視の治療剤として点眼剤もしくは眼軟膏剤の形態で使用する場合、例えば、セレンラクトフェリン量として2〜200μg/日を、1日1回又は2〜4回に分けて投与することができる。なお、症状の程度により、適宜、適用量及び回数を増減できる。点眼剤として使用する場合は、非酸素透過性ハードコンタクトレンズ、酸素透過性ハードコンタクトレンズ、ソフトコンタクトレンズなどのコンタクトレンズの装着時おいても使用できる。他の非経口投与および経口投与の場合もこれに準ずる量を投与することができる。 一態様において本発明は、非ヒト動物を、一酸化炭素濃度にして50〜250ppmのタバコ煙を含有する雰囲気に、のべ30時間以上曝露させることを含む、水晶体硬化が関与する疾患の非ヒトモデル動物の作製方法を提供する。 本発明の水晶体硬化が関与する疾患の非ヒトモデル動物(以下、「本発明のモデル動物」と略記する場合がある)を作製する方法において用いられる非ヒト動物としては、一般的に実験動物として使用されるものであれば特に限定されず、例えば脊椎動物が挙げられ、好ましくは温血動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、フェレット、ブタ、イヌ、ネコ、サル、ニワトリ等)であり、より好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはげっ歯類、特に好ましくはマウス又はラットである。 本発明で用いられる非ヒト動物は、得られた本発明のモデル動物を用いた評価実験を行うのに適するように、遺伝学的及び微生物学的に統御されているものを用いることが望ましい。即ち、遺伝学的には、近交系を用いることが好ましい。例えばマウスの場合、C57BL/6J、BALB/c、CBA、DBA/2、C3H/He等の系統が挙げられ、好ましくはC57BL/6Jであるが、これに限定されない。ラットの場合、Wistar系、Sprague−Dawley系等が例示される。また、微生物学的には、SPFもしくはノトバイオートのグレードのものを用いることが好ましい。 本発明で用いられる非ヒト動物は、いかなる齢の動物であってもよいが、例えば、マウスの場合1年未満、好ましくは4〜10週齢の齢のマウス、ラットの場合1.5年未満、好ましくは1〜3月齢の齢のラットが挙げられる。本発明のモデル動物作製方法によれば、老齢でない非ヒト動物を用いて短期間で簡便に水晶体硬化を引き起こすことができるので、水晶体が硬化した動物を取得するために非ヒト動物を長期間飼育する必要がなく、時間やコスト等の削減という面で大きな効果が得られる。 本発明のモデル動物の作製方法では、上記非ヒト動物に喫煙処理(タバコ煙への曝露)を行うことで水晶体硬化を誘発する。該喫煙処理において使用されるタバコの種類は、水晶体硬化を誘発できるものであれば特に限定されない。また、該喫煙処理では、タバコの主流煙、副流煙のいずれも用いることができるが、煙を容易に収集することができるという観点から、主流煙を使用するのが好ましい。当該方法において非ヒト動物に対して供されるタバコの煙の空気中における濃度は、例えば、一酸化炭素濃度として表した場合、50〜250ppmであることが好ましい。一酸化炭素が前記濃度となるようなタバコの煙を含む空気は、例えば、1本当り14mgのタールを含有するタバコの主流煙(1吸引あたり50mL)を、シリンジ等の吸引器具を用いて6〜10回、好ましくは7〜9回、より好ましくは8回吸引して得られた、体積300〜500mL、好ましくは350〜450mL、より好ましくは400mLの空気を、0.06〜0.1m3の空気中に、好ましくは0.07〜0.09m3の空気中に注入することで得ることができる。注入する煙の量を調整するため、非ヒト動物を喫煙処理する際には閉鎖系の飼育容器、飼育部屋等を使用することが好ましい。非ヒト動物の生存のために、該閉鎖系の飼育環境に新鮮な空気を継続的に送り込み、空気を循環させる必要があるため、該環境中のタバコの煙の濃度は時間とともに低くなる。従って、上記タバコの煙の注入操作を1回行ったことによる喫煙効果が持続するのは30分程度と考えられるが、当該喫煙効果の持続時間は、単位時間当りの新鮮な空気の送り込む量、飼育環境中の非ヒト動物の種類や数等によっても変化し得る。 本発明のモデル動物の作製方法では、上記の濃度でタバコの煙を含む空気中で、非ヒト動物をのべ30時間以上、好ましくは36時間以上処理することで水晶体の硬化を誘発することができる。処理時間の上限は特にないが、例えばのべ90時間以下、好ましくは84時間以下、より好ましくは60時間以下である。上述したように、1回の煙の注入操作による喫煙効果の持続時間は限られるため、水晶体硬化を誘発するには複数回の煙の注入が必要になる。複数回の煙の注入は、どのような間隔で行ってもよいが、例えば、1回の煙注入による喫煙処理時間は通常15〜45分、好ましくは30分であり得、該喫煙処理を1日当り4〜8回、好ましくは6回、連続的に又は適切な間隔を空けて実施することができる(本明細書においては、30分以内もしくは雰囲気中の一酸化炭素濃度が50ppm未満となる前に次のタバコ煙注入操作を行う場合、喫煙処理は「連続的」であるといい、30分を超えて且つ雰囲気中の一酸化炭素濃度が50ppm未満となった後に次のタバコ煙注入操作を行う場合、喫煙処理は「断続的」であるといい、その場合、先の注入操作から30分後もしくは一酸化炭素濃度が50ppm未満となった時のいずれか遅い時刻から、次の注入操作までの時間を「間隔」という)。次回注入操作までの間隔は、例えば1時間以内であり、好ましくは30分以内である。注入操作は連続的であることがより好ましい。1日当たりの喫煙処理時間は2〜4時間であり、好ましくは3時間である。喫煙処理期間を通じて1日当たりの処理時間は一定であっても変動してもよい。この操作を喫煙処理時間がのべ30時間以上となるまで繰り返すことで水晶体の硬化を誘発することができる。 本発明の喫煙処理動物をモデル動物として用い得る水晶体硬化が関与する疾患は、上述したように、水晶体が硬化し弾性を失うことで目の焦点の調節が困難になる病態を示す任意の疾患のことをいい、例として、老視、遠視、白内障等が挙げられ、好ましい例として、老視が挙げられる。 更に、本発明のモデル動物を使用することで、水晶体硬化が関与する疾患の治療及び/又は予防薬の候補物質をスクリーニングすることが可能であり、該スクリーニング方法は以下の工程を含む。(a)本発明のモデル動物へ、被検物質を投与する工程(b)該動物における水晶体硬化が関与する疾患の病態の変化を評価する工程 本発明のスクリーニング方法で使用され得る被検物質は、天然物質、有機化合物、無機化合物、タンパク質、ペプチド、核酸、発酵生産物、細胞抽出物、植物抽出物、動物組織抽出物、細胞培養上清等を含むがこれらに限定されない。 上記被検物質を投与する方法は、眼投与、経口投与、門脈内投与、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、皮下投与、経皮投与を含むがこれらに限定されない。 被検物質を眼投与する場合は、例えば、非ヒト動物の片眼に該被検物質を含有する剤を、もう一方の眼には該被検物質を含まないこと以外は成分が同一である剤を投与することができる。当該投与方法によれば、同一個体において被検物質の効果を検査できるため、好ましい方法として例示される。 また、トランスフェクションやウイルスベクターを利用して、タンパク質、ペプチド、shRNA、及びmiRNA等を非ヒト動物体内で発現させることでも被検物質を投与することができる。様々なトランスフェクション試薬(例えば、DharmaFECT(登録商標)1(Thermo Scientific社)、Lipofectamine(登録商標)LTX(life technologies社)等)が市販されており、当業者はこれら試薬の使用マニュアルに従って容易にトランスフェクションを行うことができる。ウイルスベクターの例としては、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レンチウイルスベクター、センダイウイルスベクター等が挙げられ、当業者は、これらのウイルスベクターを公知の方法により調製し、使用することができる。 本発明のスクリーニング方法では、被検物質投与後に水晶体硬化が関与する疾患の病態変化を評価する。当該病態変化を評価するために、水晶体の硬度の検査を行うことができる。水晶体の硬度(弾性度)の測定は、例えば以下の方法により行うことができる。まず動物から水晶体を摘出し、ノギスを用いて眼軸方向の水晶体の厚みを測定したものを初期値とする。該水晶体を定圧厚さ測定器に設置し、所定の圧力を加えたときの変形後の水晶体の厚みを測定する。加圧したときの測定値を初期値で割った値を算出し、当該値を比較することで水晶体の硬度を検査することができる。当該値は水晶体が硬化しているほど大きな値を示す。水晶体硬化が関与する疾患の病態の改善は、例えば、被検物質を投与した水晶体と被検物質を投与していない水晶体との硬度を比較し、統計学上の有意差の有無によって判断することができる。被検物質を投与した水晶体の硬度が、被検物質を投与していない水晶体の硬度よりも有意に低かった場合、水晶体硬化に起因する疾患の病態の改善が認められると判断でき、そのような効果を有する被検物質は水晶体硬化が関与する疾患の治療及び/又は予防剤の有望な候補物質とすることができる。 本発明のスクリーニング方法において、治療効果の指標として用いられ得る、水晶体硬化が関与する疾患の病態変化は、上記した水晶体の硬度(弾性度)変化に限定されず、本発明のモデル動物において発現する当該疾患に特徴的な任意の病態の変化を用いることができる。そのような他の病態としては、例えば白内障等を挙げることができる。 統計解析手法としては、公知の統計解析法を適宜選択して使用することができ、好ましい統計解析法としては、例えば、Studentのt検定やDunnett、Tukey検定等が挙げられる。被検物質を投与した水晶体の硬度と被検物質を投与していない水晶体の硬度を比較したときに、p値が0.05未満であった場合に有意差があると判断し、p値が0.05以上であった場合には有意差がないと判断することができる。 被検物質の投与量及び期間は、被検物質の種類、及び投与対象とする非ヒト動物の種類、齢、大きさ等に応じて最適条件を適宜設定することが可能である。 以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。実施例1:喫煙処理による水晶体硬化の誘発 Higuchiらの方法(Free Radic. Biol. Med., 2011, Vol. 51, pages 2210-2216)を参考にして、以下の方法によりラットに喫煙処理を施した。雄の8週齢SDラットを実験用に作製した喫煙チャンバー(60cm×40cm×35cm)内に入れ(最大12匹まで)、チャンバー内にエアーポンプを用いて新鮮な空気を送り込んだ。タバコ(セブンスター(登録商標))を50mLシリンジに付け、主流煙を吸引しチャンバー内に吹き込んだ。この吸引操作を8回繰り返し、主流煙を合計400mLチャンバー内に入れ、30分放置した。同様の操作をあと5回(計6回)繰り返した。この操作により、ラットは1日当り合計3時間主流煙に曝露されることになる。その後、ラットを飼育室に戻した。この主流煙曝露操作を最長で4週間実施した。実施例2:喫煙処理後の水晶体硬度測定 上記喫煙処理を施したラットの眼球から水晶体を摘出し、以下の方法によって水晶体の硬度を測定した。初めにノギスを用いて眼軸方向の水晶体の厚みを測定した(初期値a)。その後水晶体を定圧厚さ測定器に設置し、測定子を上部よりゆっくりと下ろし、10gの重りにより水晶体を変形させ、変形後の水晶体の厚みを測定した(b値)。b値をa値で割った値(b/a値)を算出した。水晶体が硬化している程b/a値は大きくなる。 図1に、喫煙処理を行っていない群(NT)、又は喫煙処理を1週間、2週間、若しくは4週間行った群のラット水晶体の相対的硬度を示す。図1の横軸は主流煙曝露期間、縦軸はb/a値の相対値を示す(NTを1とする)。喫煙処理を2週間又は4週間行ったラットの水晶体は、非喫煙処理及び1週間の喫煙処理のラット水晶体よりも硬化していた。従って、喫煙処理を行うことにより、水晶体の硬化を引き起こすことが可能であることが示された。実施例3:セレンラクトフェリンによる水晶体硬化の抑制 セレンラクトフェリンはWO2012/161112号公報実施例1に記載の方法で取得した。 上記方法で取得したセレンラクトフェリン溶液を0.1w/v%となるように調製し、点眼剤を作製した。実施例1に記載した方法によりラットに12日間喫煙処理を行うとともに、以下の方法でセレンラクトフェリンの点眼を行った。(1)片眼に0.1%セレンラクトフェリン点眼剤、他眼にリン酸緩衝生理食塩水を5μLずつ点眼する。(2)点眼は最低2時間の間隔を空けて1日4回実施する。1回目は主流煙曝露処理前、2回目は主流煙曝露処理後、残りの2回はその後に実施する。(3)最終日のみ主流煙曝露処理前及び主流煙曝露処理後の2回のみ点眼を実施し、その後水晶体硬度を実施例2に記載の方法で測定した。 水晶体硬度の測定結果を図2に示す。図2の縦軸はb/a値の相対値を示す(NTを1とする)。主流煙曝露により水晶体硬度は増大し(図2、PBS)、この硬度の増大はセレンラクトフェリンの投与により有意に抑制された(図2、0.1% Se-lactoferrin)。 セレンラクトフェリンは優れた水晶体硬化抑制効果を奏するので、これまで効果的な治療及び/又は予防薬が存在しなかった、老視等の水晶体の硬化が関与する疾患に対する有効な治療及び/又は予防手段が提供される。さらに、本発明のモデル動物を用いれば、新規な該疾患の治療及び/又は予防薬を探索することができる。 セレンラクトフェリン又はその塩を有効成分とする、水晶体硬化抑制剤。 水晶体硬化が関与する疾患の治療及び/又は予防剤である、請求項1に記載の剤。 水晶体硬化が関与する疾患が老視である、請求項2に記載の剤。 点眼剤又は眼軟膏剤である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の剤。 非ヒト動物を、一酸化炭素濃度にして50〜250ppmのタバコ煙を含有する雰囲気に、のべ30時間以上曝露することを特徴とする、水晶体硬化が関与する疾患の非ヒトモデル動物の作製方法。 水晶体硬化が関与する疾患が老視である、請求項5に記載の方法。 (a)請求項5に記載の方法で作製された非ヒトモデル動物に被検物質を投与する工程、及び(b)該動物における水晶体硬化が関与する疾患の病態の変化を評価する工程、を含む、該疾患の治療及び/又は予防薬の候補物質をスクリーニングする方法。 【課題】これまでに、水晶体の硬化に起因して生じる老視等に対する効果的な治療薬及び予防薬はなく、その開発が求められている。【解決手段】セレンラクトフェリン又はその塩を有効成分とする、水晶体硬化が関与する疾患の治療及び/又は予防剤の提供、並びに該疾患の治療薬及び予防薬を開発するのに有用な非ヒトモデル動物作成方法及び該動物を用いた該治療薬及び予防薬の探索方法の提供により上記課題を解決する。【選択図】なし


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