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タイトル:公開特許公報(A)_β−グルカンの製造方法
出願番号:2014008416
年次:2015
IPC分類:C12P 19/04


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守屋 直幸 守屋 ▲祐▼生子 岡部 満康 伊藤 俊介 JP 2015136310 公開特許公報(A) 20150730 2014008416 20140121 β−グルカンの製造方法 株式会社アウレオ 501257370 松井 茂 100086689 宮尾 武孝 100157772 守屋 直幸 守屋 ▲祐▼生子 岡部 満康 伊藤 俊介 C12P 19/04 20060101AFI20150703BHJP JPC12P19/04 A 10 OL 20 申請有り 4B064 4B064AF12 4B064CA05 4B064CC12 4B064DA01 4B064DA10 本発明は、アウレオバシジウム(Aureobasidium)属に属する微生物を利用したβ−グルカンの製造方法に関するものである。 β−グルカンは、キノコやビール酵母、あるいは黒酵母などによって生産される多糖で、抗腫瘍作用、アレルギー軽減、抗ウイルス作用、抗菌活性などが確認されており、これを含有するサプリメントなどが商品化されている。 一般にキノコ由来のβ−グルカンは、キノコ自体の安定的な大量生産が困難であり、コストの低減化が難しい。またビール酵母由来のβ−グルカンについても、細胞壁からの抽出、精製が複雑であり、高純度のβ−グルカンを得るのが難しく、結果的にコストが高くなってしまう。それに対して黒酵母は、菌体外にβ−グルカンを生産するので、分離精製が容易であり、高純度のグルカンを低価格で生産することが可能である。 黒酵母からβ−グルカンを生産する方法に関し、下記特許文献1には、窒素枯渇培地で誘導したAureobasidium属菌株の厚膜胞子を液体培地に植菌後、時間当り培地の10〜100倍容量の通気を行いながら、72時間20℃にて攪拌培養する方法が記載されている(特許文献1の段落0010)。また、下記特許文献2には、アウレオバシジウム属に属する微生物の培養に際して、培養液の攪拌翼としてトルクの大きな攪拌翼、例えばヘリカルリボン翼、マックスブレンド翼、フルゾーン翼、アンカー翼などを用いて、培地を攪拌しながら培養し、菌の生育とグルカンの生産が増大するに従い、攪拌回転数を増加させ、その攪拌回転数と通気量を調整することによって溶存酸素濃度を15%以上に保持して培養を行うことが記載されている(特許文献2の段落0015)。特に、その粘性の問題からフルゾーン翼での培養が望まれることが一般的な考え方である。特開2004−329077号公報特開平11−56385号公報 アウレオバシジウム(Aureobasidium)属に属する微生物を利用したβ−グルカンの大量生産の方法としては、ジャーファーメンターなどの培養装置を用いた通気撹拌型の培養方式が知られているが、培養中に生産されるβ−グルカンにより培養液の粘度が非常に高まるので大型撹拌翼による高通気高撹拌が必要であり、その場合に設備が大型化して設備コストがかかり、撹拌翼の運転やそれによって生じるジュール熱の冷却のためのエネルギーコストも嵩むという問題があった。また、通気撹拌型の培養方式では、培養液中の溶存酸素濃度の供給には限界があり、微生物によるβ−グルカンの産生能力を最大限に利用することができなかった。 そこで本発明の目的は、アウレオバシジウム(Aureobasidium)属に属する微生物を利用して、低コストで効率よく、高純度のβ−グルカンを得ることができるβ−グルカンの製造方法を提供することにある。 本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明のβ−グルカンの製造方法は、培養槽にアウレオバシジウム(Aureobasidium)属に属する微生物と液体培地とを入れ、前記培養槽の底部から酸素含有気体を気泡状に導入して、該気体により撹拌しつつ培養して、前記微生物が産生するβ−グルカンを得ることを特徴とする。 本発明のβ−グルカンの製造方法によれば、培養槽にアウレオバシジウム(Aureobasidium)属に属する微生物と液体培地とを入れ、その培養槽の底部から酸素含有気体を気泡状に導入して、該気体により撹拌しつつ培養するので、培養中に生産されるβ−グルカンにより培養液の粘度が上昇しても、酸素を培養液中の全体にいきわたらせることができ、その溶存酸素濃度を高めることができるので、撹拌設備を要することなく、高純度のβ−グルカンを大量生産することができる。 本発明のβ−グルカンの製造方法においては、前記培養槽として、筒状の壁面部と逆錐状の底面部とからなる胴部と蓋部とからなり、前記胴部の壁面部下方には培養槽の内部と連通する培養液取出口が設けられ、前記胴部の逆錐状の底面部の最下部には孔が設けられ、その孔には培養槽の内部に向けて前記酸素含有気体を気泡状に導入するためのエアースパージャーが挿入され、前記蓋部には前記エアースパージャーを通じて培養槽の内部に導入される気体の量に相当する量の気体を外部へと排出するための排気管が設けられ、前記胴部の逆錐状の底面部の逆錐の母線と鉛直線とのなす傾斜角θが20〜40°である、該培養槽を用いることが好ましい。これによれば、大型の設備を要せず小型の設備にて本発明を実施できる。 また、前記酸素含有気体を金属焼結体からなるノズルにより気泡状に導入することが好ましい。これによれば、より効率的に高純度のβ−グルカンを大量生産することができる。 また、培養時の酸素移動容量係数が200min−1以上700min−1以下となるように、前記培養槽の底部から前記酸素含有気体を気泡状に導入することが好ましい。 また、培養時の通気量が0.125vvm以上2.0vvm以下となるように、前記培養槽の底部から前記酸素含有気体を気泡状に導入することが好ましい。 また、前記培養槽は液体培地供給口と培養液取出口とを備え、前記培養は、所定時間培養を行った後の培養液の一部を前記培養液取出口から無菌的に回収し、ついで新鮮な液体培地を前記液体培地供給口から無菌的に補充してさらに培養するようにして、これを所定間隔おいて繰り返すことが好ましい。 また、前記培養槽は液体培地供給口と培養液取出口とを備え、前記培養は、所定時間培養を行った後の培養液の一部を無菌的に回収し、ついで新鮮な液体培地を無菌的に補充してさらに培養するようにして、これを連続的に行うことが好ましい。 また、回分方式にて前記微生物を所定の菌数まで培養した後に、連続方法に切り替えて培養を行うことが好ましい。 また、前記微生物がアウレオバシジウム プルランス(Aureobasidium pullulans)に属する微生物であることが好ましい。 また、前記微生物がアウレオバシジウム プルランスM−2(Aureobasidium pullulans M-2)(FERM BP-10014)であることが好ましい。 本発明のβ−グルカンの製造方法によれば、培養槽にアウレオバシジウム(Aureobasidium)属に属する微生物と液体培地とを入れ、その培養槽の底部から酸素含有気体を気泡状に導入して、該気体により撹拌しつつ培養するので、培養中に生産されるβ−グルカンにより培養液の粘度が上昇しても、酸素を培養液中の全体にいきわたらせることができ、その溶存酸素濃度を高めることができるので、撹拌設備を要することなく、高純度のβ−グルカンを大量生産することができる。本発明によるβ−グルカンの製造方法に用いられる気泡型培養装置の構造を示す概略模式図である。調製例1、4、6及び7で使用した焼結ステンレスエアースパージャーの写真(図2A)及びそのノズル部分の模式図(図2B)である。調製例2で使用したシングルノズルエアースパージャーの写真(図3A)及びそのノズル部分の模式図(図3B)である。調製例6の培養経過の結果を示す図表である。調製例7の培養経過の結果を示す図表である。 以下、本発明の一実施形態態として、図1に示す気泡型培養装置20を使用してβ−グルカンを製造する方法について説明する。 まず、この気泡型培養装置20の構造について説明すると、気泡型培養装置20は、筒状の壁面部と逆錐状の底面部とからなる胴部1aと蓋部1bとからなる培養槽1と、培養槽1の逆錐状の底面部の最下部に設けられた孔から培養槽1の内部に向けて挿入されたエアースパージャー11と、外部から培養槽1内に気体を送る通気管16と、培養槽1の外壁面を覆う温度調節可能なジャケット4とを有する。 培養槽1の胴部1aの壁面部下方には、培養槽1の内部と連通する培養液取出口10が設けられ、必要により培養液を抜出すことができるようになっている。培養槽1の蓋部1bには排気管15が配設され、エアースパージャー11を通じて培養槽1の底部から培養槽1内に導入される気体の量に相当する量の気体が、培養槽1の蓋部1bから外部へと排出されるようになっている。蓋部1bには、また、培地供給槽2から延びる通液管2aの端部が培養槽1の内部に向けて挿入され、必要により、培地供給槽2から送液ポンプ2bにより、新鮮培地を培養槽1内に供給できるようになっている。蓋部1bには、更に、pHセンサー5と溶存酸素(DO)センサー6が培養槽1の内部に向けて挿入され、培養中、常時、培養液のpH及び溶存酸素(DO)濃度が指示器3に表示されるようになっている。通気管16からは、コンプレッサー14で圧縮された気体が、流量計測のためのフローメーター13と、滅菌のためにエアーフィルター12を通過した後に、エアースパージャー11を通じて培養槽1内に導入されるようになっている。ジャケット4は排水口7及び給水口8を備え、ジャケット内に温水もしくは冷水を流して培養槽1内の温度を調節できるようになっている。 培養槽1の形状は特に限定されず、その横断面形状は円形、楕円形、矩形のいずれでもよいが、培養液を均一に循環させるためには断面を円形とし、培養槽全体としては円筒状の形状とすることが好ましい。培養槽1の逆錐状の底面部の逆錐の母線と鉛直線とのなす傾斜角θは20〜40°の範囲が好ましい。20°よりも小さいと培養槽の底部の円錐部の占める割合が大きくなり、培養槽の容積効率が低下する。40°を超えると培養液の流動性が低下する。また、培養槽1及び配管系の材質についても特に制限はなく、例えばステンレス材、鉄材、ゴムライニング鉄材などが用いられる。 次に、この気泡型培養装置20を使用してβ−グルカンを製造する方法について説明する。 本発明に用いられるアウレオバジディム属(Aureobasidium )属に属する微生物としては、β−グルカン生産能を有する微生物であればよく、特に制限はない。例えば、アウレオバシジウム プルランス(Aureobasidium pullulans)に属する微生物が好ましく用いられる。なかでもアウレオバシジウム プルランスM−2(Aureobasidium pullulans M-2)(受託番号FERM BP-10014)がより好ましい。 本発明に用いられる液体培地としては、アウレオバジディム属(Aureobasidium )属に属する微生物を培養することができ、その培養液中にβ−グルカンを生産できるものであればよく、特に制限はない。公知の方法(特開昭57−149301号公報等参照)に準じて、炭素源0.5〜5.0w/v%、窒素源0.1〜5.0w/v%、その他微量物質(例えばビタミン類、無機質等)を加えた液体培地(pH5.2〜6.0)などを用いることができる。その炭素源としてはスクロース、グルコースなどが挙げられる。その窒素源としては米糠、乳酸菌菌体、セルロース及び/又はヘミセルロースを含む不溶性植物繊維原料、コーンコブミール又は牧草、強アルカリによるリグニン除去処理を施した牧草などが挙げられる。例えば、米糠0.1〜1.0w/v%を加えると、β−グルカンの産生量が増大するので、より好ましい。培地は、滅菌後のpHが5〜6前後になるように、アスコルビン酸の水溶液を用いてpHを調整するのが有利である。簡単な小規模実験により、使用する菌株に応じて適宜最適な培地の組成を設定して、その培地を使用してもよい。 アウレオバシジウム(Aureobasidium)属に属する微生物の培養に際しては、まず前培養を行なって菌体量を増やし、しかる後に、上記の気泡型培養装置20に菌体を移して本培養を行なうことが好ましい。 [前培養] 前培養は、アウレオバジディム属(Aureobasidium )属に属する微生物の胞子または菌糸を栄養源含有培地に接種して好気的に増殖させることによって行うことができる。典型的には、20〜40℃、好ましくは24〜28℃の範囲内の温度で、2〜3日間通気培養することが好ましく、通気撹拌培養することがより好ましい。前培養では、本培養での培養液量に対して10%程度の前培養液を準備することが好ましい。 [本培養] 前培養で得られた菌体を、上記の気泡型培養装置20の培養槽1に入れ、新鮮な液体培地を加えて、本培養を開始する。本培養では、上記の前培養と同様の条件にてアウレオバシジウム(Aureobasidium)属に属する微生物の培養を行うことができる。ただし本発明においては、培養槽1の底部から酸素含有気体を気泡状に導入しつつ培養する。 この実施形態では、コンプレッサー14で圧縮された空気がフローメーター13で流量が計測され、空気はエアースパージャー11に送る前にカートリッチ式ミリポアフィルター(エアーフィルター12)を通過し除菌されて、一定量が培養槽1内に導入される。空気の吹込み量は培養液量に対する1分間当たりの容積量(vvm)で0.125vvm以上2.0vvm以下の範囲が好ましく、0.5vvm以上1.33vvm以下の範囲がより好ましい。0.125vvm未満では生産効率が悪くなる傾向となり、1.33vvmを超えると培養液の発泡が激しくなる傾向となる。pHセンサー5及び溶存酸素(DO)センサー6によって検出され、指示器3に表示される培養液のpHや溶存酸素(DO)濃度は、通常pHが4〜7の範囲、また溶存酸素(DO)濃度が5〜20飽和%の範囲に維持されていることが好ましい。菌体量は、培養液中0.5〜5質量%程度に保つことが好ましい。0.5質量%未満ではβ−グルカンの生産速度が低下する傾向となり、5質量%を超えると対炭素源収率が低下する傾向となる。培養終了後は、培養液取出口10から培養液を抜出して、別タンクでしかるべき滅菌されたのち、製品化することができる。 本発明において、培養槽1の底部から培養液に導入する酸素含有気体としては、上記の空気以外にも、酸素濃度が空気より高められた酸素富化空気(酸素濃度21v/v%以上)などであってもよい。酸素富化空気は、空気に酸素ガスを添加することによって調製することができる。また、培養槽1の底部から気体を気泡状に導入するための微細気泡発生手段(エアースパージャー11)としては、通常の微生物培養に用いられる方法が適宜使用できるが、気泡が小さいほど、酸素の供給能力の指標である酸素移動容量係数(kLa)を高めることができるので、微細な気泡を作り出せる焼結金属(例えば焼結ステンレス、焼結ブロンズ等)やセラミックなどからなる多孔体のノズルを用いることが好ましい。そして、培養時の酸素移動容量係数(kLa)が200min−1以上700min−1以下となるように培養することが好ましく、320min−1以上650min−1以下となるように培養することがより好ましい。なお、酸素移動容量係数(kLa)は、後述する実施例で示す例により、求めることができる。 本培養は、回分方式、反復回分方式、連続方式のいずれの態様によるものでもよい。ここで、回分(バッチ)方式とは、本培養1回ごとに培養液全量の送入と抜出しを行なうものである。前述の通り、本培養に対する前培養液添加率は10%程度であり、例えば1Lフラスコから立ち上げて100kLの本培養に至るまでには、理論上1L、10L、100L、1kL、及び10kLの各前培養の工程を要する。このため、労務費等の作業経費並びに装置コストが膨大となり、製品のコスト増をもたらす。 反復回分培養は、こうした前培養工程の煩雑さから逃れるため、回分培養での培養液の一部を残し、これを前培養液として再利用する培養方法である。例えば上記の気泡型培養装置20を使用した場合には、培養中に、随時、培養液取出口10から培養液の一部を抜出しての培養液内の残糖濃度やβ−グルカン濃度などを監視し、これらの値が一定水準に達した後、空気の吹込みを停止し、培養液取出口10から培養液の全量の10〜90%を無菌的に回収すると同時に、その抜出量に相当する量の新鮮な液体培地を、培地供給槽2から送液ポンプ2bにより培養槽1内に無菌的に補充し、再び培養を繰り返すことにより培養を長期間にわたって反復継続することができる。この結果、前培養における作業経費及び装置コストを抑えてプロセス全体の製造コストを低減することができる。 連続培養方式は、本培養を行ないつつ、培養液の回収と新鮮液体培地の補充を同時に連続して行なうものである。例えば上記の気泡型培養装置20を使用した場合には、上記の反復回分培養と同様に、培養液取出口10から培養液を無菌的に回収し、送液ポンプ2bにより培地供給槽2から培養槽1内に無菌的に新鮮な液体培地を補充し、これを連続的に行うことにより培養を長期間にわたって継続することができる。培養液の回収及び/又は新鮮液体培地の補充は、常時的に行ってもよく、間欠的に行なってもよい。培養条件にもよるが、培養液の希釈率(1日当たり培養液がどれだけ置き換わったかを示す置換率でともいえる)は、通常、0.1〜1.0(1/日)程度とするのが好ましい。連続方式では、菌体を抜出さずにβ−グルカンの生産を続けて行くため効率的であるが、培養液の回収の際に相当量の菌体が系外に出てしまうため、本培養開始当初から比較的高い濃度で菌体が培養液中に存在している必要がある。よって、最初は回分培養でスタートし菌が十分増殖してから連続培養へ切り替えることが好ましい。この場合、残糖濃度が0.2〜0.4g/Lの濃度になるまで回分培養で培養し、その後連続培養へ切り替えることが好ましい。また、UOD(unit of optical density)(660nmでの吸光度×希釈倍率)がおよそ10に達するまで回分培養で培養し、その後連続培養へ切り替えることが好ましい。 以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。なお、以下の実施例において、β−グルカン及び残糖濃度ならびに酸素移動容量係数(kLa)の測定は、以下のようにして行った。 [実験方法] (1)β−グルカン及び残糖濃度の測定 培養液1mLに蒸留水を9mL加えて10倍に希釈した溶液をAとした。またAを蒸留水で10倍に希釈した溶液をBとした。B液を0.5mLとり、これにフェノール液0.5mLを加え、2.5mLの濃硫酸を加えて激しく撹拌し、25分室温放置後分光光度計を用いて吸光度を測定し、その値をRTとした。一方A液を0.2mLとり、これにエタノール0.8mLを加え、激しく撹拌した後高速遠心機を用いて19,300gで遠心分離した。その上澄み液を0.5mLとり、これにフェノール液0.5mLを加え、2.5mLの濃硫酸を加えて激しく撹拌し、25分室温放置後分光光度計を用いて吸光度(490nm)を測定し、その値をRSとした。次いでグルコースの10g/L溶液を作成し、前記同様の操作で硫酸発色した後吸光度を測定し、その時の吸光度の値をRTSとした。全糖濃度、残糖濃度、β−グルカン濃度を、それぞれ次式から算出した。 ・全糖濃度(g/L)=(0.01×100×RT)/RTS ・残糖濃度(g/L)=(0.01×50×RS)/RTS ・β−グルカン濃度(g/L)=(全糖濃度−残糖濃度)×0.75 (2)酸素移動容量係数(kLa)の測定 溶液中の亜硫酸ソーダは下記の反応式に従い溶存酸素濃度に依存して硫酸ソーダに酸化される。 2Na2SO3+O3→2Na2SO4 酸素の溶け込み速度は下記式(1)で表せる。 溶液中に溶け込んだ酸素は亜硫酸ソーダと急速に反応し酸化されるので、溶液中の酸素濃度は0とみなすことができる。よって(1)式は下記式(2)で表せる。 所定の通気線速度で通気したとき、経時的に亜硫酸ナトリウム濃度を測定しその平方根を時間に対してプロットすればその傾きから式(2)のkLaC*が求まるので、その値をその条件下での飽和酸素濃度(通常6−7ppm)で割った値が酸素移動容量係数(kLa)の値となる(単位は1/min)。 ここで、気泡の平均上昇速度を表す通気線速度は下記式(3)で計算され、通気量によって制御可能である。 上記原理に従い、以下の要領で、酸素の溶け込み速度の指標となる酸素移動容量係数(kLa)を測定した。 気泡塔型培養装置の培養槽に10−3MのCu2+イオンを加えた0.1Mの亜硫酸ソーダ液1.5Lを入れ、所定の通気線速度で通気しながら、5分毎に3.0mLのサンプリングを行い、直ちに0.1Mヨウ素溶液5mLを加えて、未反応の亜硫酸をヨウ素と反応させ、0.1Mチオ硫酸ソーダで逆滴定した滴定量により培養槽内の亜硫酸ソーダ濃度を計算した。求めた亜硫酸ソーダ濃度を時間に対してプロットし、その勾配から酸素移動容量係数(kLa)を求めた。 <調製例1>(気泡塔型培養装置による培養〜焼結ステンレスエアースパージャー〜) 図1に示した構造の気泡塔型培養装置であって、3L容の培養槽1を有し、エアースパージャー11として焼結ステンレスからなるものを培養槽1の底部に装着した培養装置を用いて、アウレオバシジウム プルランス M-2(Aureobasidium pullulans M-2)(FERM BP-10014)の培養を行った。図2には用いた焼結ステンレスエアースパージャーの写真(図2A)及びそのノズル部分の模式図(図2B)を示す。 具体的には、500mL三角フラスコにショ糖2.0w/v%、米糠0.2w/v%、アスコルビン酸ナトリウム0.1w/v%を含む100mLの液体培地(pH5.5〜6.0)を仕込み、オートクレーブで121℃20分滅菌した後、アウレオバシジウム プルランス M-2(Aureobasidium pullulans M-2)(FERM BP-10014)をスラントから1白金耳植菌し、培養温度25℃で3日間振とう培養した。その培養液と、上記と同一の組成の液体培地1.5Lとを、無菌的に上記気泡塔型培養装置の3L容の培養槽1に入れ、焼結ステンレスからなるエアースパージャー11を通して培養槽1の底部から空気を気泡状に導入しつつ培養を行なった。その際、フローメーター13での測定による通気量が1.33vvmとなるようにコンプレッサー14で圧縮された空気の流量を調整した。また、培養温度は25℃で行った。 培養開始0、24、48、72、96、120、144、及び168時間後に、培養液取出口10から培養液の一部を抜き取って、上記実験方法(1)に従い、その培養液に含まれるβ−グルカン及び残糖濃度をフェノール硫酸法により測定した。また、培養液の粘度をB型粘度計(「TVB−10」、東機産業株式会社)で測定した。また、上記気泡塔型培養装置には溶存酸素(DO)センサー6として溶存酸素分析計(「SDOCモデル」、エイブル株式会社)が装着され、これにより培養液中の溶存酸素濃度を測定した。 これらの測定事項について、その結果を表1にまとめて示す。 <調製例2>(気泡塔型培養装置による培養〜シングルノズルエアースパージャー〜) 図1に示した構造の気泡塔型培養装置であって、エアースパージャー11としてシングルノズルからなるものを培養槽1の底部に装着した培養装置を用いた以外は、調製例1と同様にして培養を行った。図3には用いたシングルノズルエアースパージャーの写真(図3A)及びそのノズル部分の模式図(図3B)を示す。 調製例1と同様の測定事項について、その結果を表2にまとめて示す。 <調製例3>(通気攪拌型培養装置による培養) 通気攪拌型培養装置である3L容ジャーファーメンター(「MDL300型」、株式会社丸菱バイオエンジ)を用いて、調製例1と同じ培地と同じ前培養液にて、アウレオバシジウム プルランス M-2(Aureobasidium pullulans M-2)(FERM BP-10014)の培養を行なった。その際、β−グルカンの生産期での溶存酸素(DO)濃度がほぼ10v/v%に維持されるように、攪拌翼の回転速度及び通気量(0.5vvmに固定)を設定した。 調製例1,2と同様の測定事項について、その結果を表3にまとめて示す。 [評価1] 調製例1〜3について、それぞれの培養装置の最終培養成績ならびに通気と撹拌に要したエネルギー所要量を比較した。なおエネルギー所要量は、以下の文献に基づいて、下記式(4)〜(7)により計算した。 ・Aiba, S., Humphrey, A. E., and Mills, N. F.: Aeration and agitation. Biochemical Engineering (2nd ed.), p163-194. Biochemical Engineering. University of Tokyo Press, Tokyo (1973). ・Futamura, T., Ishihara, H., Tamura, Yasutake, T., Huang, G., Kojima, M.,and Okabe, M.: Kojic Acid Production in an Airlift Bioreactor Using Partially Hydrolyzed Raw Corn Starch. J. Biosci. Bioeng., 92 (4), 360-365 (2001). なお上記式(4)〜(6)において、Pは無通気時の攪拌所要エネルギー(kW)、PAは攪拌に必要エネルギー(kW)、PGは通気に必要なエネルギー(kW)、Npは動力数(-)、ρは液密度(kg/m3)、nは攪拌数(rpm)、Dは攪拌翼の径(m)、gcは重力換算係数(=9.81)、Qは通気量(m3/min)、P1はスパージャー位置での圧力(atm)、P2は培養液上面での圧力(atm)を表す。 上記式(4)〜(6)より攪拌に必要エネルギーPA(kW)と、通気に必要なエネルギーPG(kW)とが求められ、下記式(7)のとおり、それらの和としてトータルの所要エネルギーPT(kW)が求められる。 結果を表4に示す。 その結果、調製例1と調製例3の比較にみられるように、β−グルカンを同程度の収量で得るのに必要なエネルギー所要量は、通気攪拌型培養装置よりも気泡塔型培養装置のほうが少なくて済み、より効率的であった。また、調製例1と調製例2の比較にみられるように、気泡塔型培養装置においてエアースパージャーとして焼結ステンレスからなるものを用いた方が、シングルノズルからなるものを用いた場合に比較して、β−グルカンの収量が高く、より効率的であった。 [評価2] 評価1に示されたように、気泡塔型培養装置においてエアースパージャーとして焼結ステンレスからなるものを用いた方が、シングルノズルからなるものを用いた場合に比較して、β−グルカンの収量が高く、より効率的であった。そこで、それぞれの酸素供給能力を比較した。 具体的には、図1に示した構造の気泡塔型培養装置であって、3L容の培養槽1を有し、エアースパージャー11として焼結ステンレスからなるものを培養槽1の底部に装着した培養装置、あるいはエアースパージャー11としてシングルノズルからなるものを培養槽1の底部に装着した培養装置を用いて、その培養槽1に10−3MのCu2+イオンを加えた0.1Mの亜硫酸ソーダ液1.5Lを入れ、模擬培養を行った。その際、上記実験方法(2)に従い、それぞれ通気線速度を変えたときの酸素移動容量係数(kLa)を亜硫酸ソーダ法により測定した。結果を表5に示す。 その結果、表5に示すように、気泡塔型培養装置においてエアースパージャーとして焼結ステンレスからなるものを用いた方が、シングルノズルからなるものを用いた場合に比較して、実験範囲内の通気線速度すべてにおいて数倍高い酸素移動容量係数(kLa)の値が得られた。よって、気泡塔型培養装置においてエアースパージャーとして焼結ステンレスからなるものを用いると、酸素移動容量係数(kLa)の値で表されるように、酸素供給能力に優れ、これにより高効率でβ−グルカンが得られるものと考えられた。 <調製例4>(気泡塔型培養装置による培養〜米糠高濃度培地〜) 調製例1で使用した培地において、米糠濃度のみ1.5倍とし、他の成分は同一とした米糠高濃度培地を用いて、他は調製例1と同様にして、アウレオバシジウム プルランス M-2(Aureobasidium pullulans M-2)(FERM BP-10014)の培養を行なった。その際、β−グルカンの生産期での溶存酸素(DO)濃度がほぼ10v/v%に維持されるように、通気量を制御した。結果的に最高2vvmに設定した。 調製例1と同様の測定事項について、その結果を表6にまとめて示す。 <調製例5>(通気攪拌型培養装置による培養〜米糠高濃度培地〜) 気泡塔型培養装置にかえて通気攪拌型培養装置である3L容ジャーファーメンター(「MDL300型」、株式会社丸菱バイオエンジ)を用いて、他は調製例4と同様にして、アウレオバシジウム プルランス M-2(Aureobasidium pullulans M-2)(FERM BP-10014)の培養を行なった。その際、β−グルカンの生産期での溶存酸素(DO)濃度がほぼ10v/v%に維持されるように、通気量を1.33vvm(最大値)に固定した上で、攪拌翼の回転速度を制御した。この回転速度は、初期100rpmが最終400rpmまで増加した。 調製例4と同様の測定事項について、その結果を表7にまとめて示す。 [評価3] 評価1と同様、それぞれの培養装置の通気と撹拌に要したエネルギー所要量を比較した。評価1での通常培地の結果とともに、その結果を表8にまとめて示す。 その結果、表8に示すように、通気撹拌型培養装置においては気泡塔型培養装置に比べて通気撹拌に必要なエネルギーが4倍近く増加した。これは米糠高濃度培地を用いた場合、β−グルカン生産量の増加に伴いに、培養液粘度が上昇し、結果的に撹拌に必要なエネルギーが増加したものと考えられた。よって、このような米糠高濃度培地を用いたβ−グルカンの生産においても気泡塔型培養装置の優位性が示された。 <調製例6>(気泡塔型培養装置による培養〜反復回分培養〜) 調製例1と同じ条件で気泡塔型培養装置による培養を開始した。残糖濃度が0.1g/L以下となった時点で、焼結ステンレスからなるエア-スパージャー11からの空気の吹込みを停止した。培養液取出口10から培養液1.35Lを回収した後、抜出量と等量の培地を送液ポンプ2bにより培地供給槽2から補充して、再び空気の吹込みを開始して培養を再開した。この反復回分培養を全部で10回繰り返した。培養経過の結果を表9に示す。また図4に、培養液中の残糖濃度(g/L)、回収した培養液中のβ−グルカン濃度(g/L)、β−グルカンの累積収量(g)の結果を図示する。 表9,図4に示されるように、回収した培養液中のβ−グルカン濃度は5.6〜6.2g/Lで安定しており、一時間あたりのβ−グルカン生産量は0.05g/L/hとなり、調製例1で示した回分培養での生産量(0.03g/L/h)に比較してより高い生産性を示した。また、調製例1で示した回分培養に要する、培地の取り出し、培養槽の洗浄、培地滅菌など、余計な作業時間(idling time)を省くことができて、実質的な生産性はさらに向上した。 <調製例7>(気泡塔型培養装置による培養〜連続培養〜) まず調製例6と同じ条件で気泡塔型培養装置による回分培養を開始した。培養開始後3日目に培養液中の残糖濃度が0.2g/L以下になっていることを確認してから、培地供給槽2から新鮮培地の供給を開始し、一日あたり0.5Lの速度で連続的に供給した。また、培養液取出口10から培養液を一日あたり0.5Lの速度で回収した。培養液を連続培養操に切り替えてから4日後には定常状態に到達し、そのあと60日の連続運転が可能であった。培養経過の結果を表10に示す。また図5に、培養液の濁度(UOD)、培養液中の残糖濃度(g/L)、回収した培養液中のβ−グルカン濃度(g/L)、β−グルカンの累積収量(g)の結果を図示する。 表10,図5に示されるように、回収した培養液中のβ−グルカン濃度は5.8〜5.9g/Lで安定しており、一時間あたりのβ−グルカン生産量は0.05g/L/hとなり、調製例1で示した回分培養での生産量(0.03g/L/h)に比較してより高い生産性を示した。また、調製例1で示した回分培養に要する、培地の取り出し、培養槽の洗浄、培地滅菌など、余計な作業時間(idling time)を省くことができて、実質的な生産性は、調製例6で示した反復回分培養に比較しても、さらに向上した。1:培養槽1a:胴部1b:蓋部2:培地供給槽2a:通液管2b:送液ポンプ3:指示器4:ジャケット5:pHセンサー6:溶存酸素(DO)センサー7:排水口8:給水口9:気泡10:培養液取出口11:エアースパージャー12:エアーフィルター13:フローメーター14:コンプレッサー15:排気管16:通気管20:気泡型培養装置 培養槽にアウレオバシジウム(Aureobasidium)属に属する微生物と液体培地とを入れ、前記培養槽の底部から酸素含有気体を気泡状に導入して、該気体により撹拌しつつ培養して、前記微生物が産生するβ−グルカンを得ることを特徴とするβ−グルカンの製造方法。 前記培養槽として、筒状の壁面部と逆錐状の底面部とからなる胴部と蓋部とからなり、前記胴部の壁面部下方には培養槽の内部と連通する培養液取出口が設けられ、前記胴部の逆錐状の底面部の最下部には孔が設けられ、その孔には培養槽の内部に向けて前記酸素含有気体を気泡状に導入するためのエアースパージャーが挿入され、前記蓋部には前記エアースパージャーを通じて培養槽の内部に導入される気体の量に相当する量の気体を外部へと排出するための排気管が設けられ、前記胴部の逆錐状の底面部の逆錐の母線と鉛直線とのなす傾斜角θが20〜40°である、該培養槽を用いる、請求項1記載のβ−グルカンの製造方法。 前記酸素含有気体を金属焼結体からなるノズルにより気泡状に導入する、請求項1又は2記載のβ−グルカンの製造方法。 培養時の酸素移動容量係数が200min−1以上700min−1以下となるように、前記培養槽の底部から前記酸素含有気体を気泡状に導入する、請求項1〜3のいずれか1つに記載のβ−グルカンの製造方法。 培養時の通気量が0.125vvm以上2.0vvm以下となるように、前記培養槽の底部から前記酸素含有気体を気泡状に導入する、請求項1〜4のいずれか1つに記載のβ−グルカンの製造方法。 前記培養槽は液体培地供給口と培養液取出口とを備え、前記培養は、所定時間培養を行った後の培養液の一部を前記培養液取出口から無菌的に回収し、ついで新鮮な液体培地を前記液体培地供給口から無菌的に補充してさらに培養するようにして、これを所定間隔おいて繰り返す、請求項1〜5のいずれか1つに記載のβ−グルカンの製造方法。 前記培養槽は液体培地供給口と培養液取出口とを備え、前記培養は、所定時間培養を行った後の培養液の一部を無菌的に回収し、ついで新鮮な液体培地を無菌的に補充してさらに培養するようにして、これを連続的に行う、請求項1〜5のいずれか1つに記載のβ−グルカンの製造方法。 請求項1〜5に記載の方法にて前記微生物を所定の菌数まで培養した後に、請求項7に記載の方法に切り替えて培養を行う、β−グルカンの製造方法。 前記微生物がアウレオバシジウム プルランス(Aureobasidium pullulans)に属する微生物である、請求項1〜8のいずれか1つに記載のβ−グルカンの製造方法。 前記微生物がアウレオバシジウム プルランスM−2(Aureobasidium pullulans M-2)(FERM BP-10014)である、請求項1〜9のいずれか1つに記載のβ−グルカンの製造方法。 【課題】アウレオバシジウム(Aureobasidium)属に属する微生物を利用して、低コストで効率よく、高純度のβ−グルカンを得ることができるβ−グルカンの製造方法を提供する【解決手段】培養槽にアウレオバシジウム(Aureobasidium)属に属する微生物と液体培地とを入れ、前記培養槽の底部から酸素含有気体を気泡状に導入して、該気体により撹拌しつつ培養して、前記微生物が産生するβ−グルカンを得る。前記酸素含有気体を金属焼結体からなるノズルにより気泡状に導入することが好ましい。【選択図】 なし


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