生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_テラヘルツ帯波長板、及びテラヘルツ波測定装置
出願番号:2014006805
年次:2015
IPC分類:G02B 5/30,G01N 21/3581


特許情報キャッシュ

高▲柳▼ 順 永井 正也 JP 2015135414 公開特許公報(A) 20150727 2014006805 20140117 テラヘルツ帯波長板、及びテラヘルツ波測定装置 アイシン精機株式会社 000000011 岡部 讓 100094112 吉澤 弘司 100106183 川崎 孝 100170601 高▲柳▼ 順 永井 正也 G02B 5/30 20060101AFI20150701BHJP G01N 21/3581 20140101ALI20150701BHJP JPG02B5/30G01N21/35 105 6 2 OL 20 特許法第30条第2項適用申請有り 「The 38th International Conference on Infrared,Millimeter and Terahertz Waves IRMMW−THz 2013」、Mainz on the Rhine、平成25年9月1日〜平成25年9月6日開催 2G059 2H149 2G059EE02 2G059GG01 2G059HH01 2G059JJ11 2G059JJ14 2G059JJ20 2G059KK01 2H149AA22 2H149AB03 2H149DA03 2H149DA05 2H149DA13 2H149FD05 本発明は、テラヘルツ帯波長板、及びテラヘルツ波測定装置に関し、より詳細には、テラヘルツ波の直交した偏光成分間に所定の位相差を付与するテラヘルツ帯波長板、及びテラヘルツ波測定装置に関するものである。 テラヘルツ技術は、非破壊検査・透過検査を始めとして、セキュリティ、医療、バイオ等の分野において、近年特に注目されている技術である。従来、テラヘルツ波は、良質な発生源や検出装置がなくその利用は限られたものであったが、近年の技術革新に伴ってテラヘルツ波の発生や検出が容易になり、様々な産業分野で応用されるようになってきた。 しかし、テラヘルツ波の光学系で用いられる光学素子に関しては、未だに開発が遅れている。テラヘルツ波は、周波数がおよそテラヘルツオーダー(0.1〜数10THz)の電磁波を指し、光波と電波の中間帯域に当たる。テラヘルツ波は、レーザ光に比して波長が長く、かつ広帯域であるため、従来のレーザ光で用いられる光学素子をテラヘルツ波に利用することはできない。 テラヘルツ波帯の偏光素子としては、ワイヤーグリッドが従来広く用いられている。特許文献1には、金属ワイヤーを等間隔で並べたワイヤーグリッドが開示されている。ワイヤーグリッドは、入射波のワイヤーに平行な偏光成分を吸収・反射し、垂直な偏光成分を透過するため、ワイヤーに垂直な偏光成分のみを出力波として得ることができる。 しかし、ワイヤーグリッドは特定の偏光方向の光を取り出す偏光子であり、偏光自体を回転させる波長板としては機能しない。例えば、直線偏光から楕円偏光を作り出す1/4波長板として、ワイヤーグリッドを用いることはできない。ワイヤーグリッドの角度をずらして2枚重ね合わせることで直線偏光の偏光方向を回転させることも可能であるが、入射光の多くは吸収・反射されてしまうため、実用的な出射強度を得ることは難しい。そのため、ワイヤーグリッドは、波長板としての使用には適していない。 非特許文献1には、複屈折結晶を複数積み重ねた構造の波長板をテラヘルツ波に用いることが開示されている。複屈折結晶からなる水晶板の枚数を増やすことによって、広帯域な水晶波長板を実現できる。 また、非特許文献2には、いわゆる「フレネルローム」が開示されている。フレネルロームは光の領域で用いられる波長板であるが、テラヘルツ波を良く透過する高抵抗シリコン等の材料で作製すれば、テラヘルツ波帯においても波長板として使用することができる。国際公開第2007/138813号J. Masson and G. Gallot, “Terahertz achromatic quarter-wave plate”, Opt. Lett., Vol.31, No.2, p.265-267, 2006M. Born and E. Wolf, Principles of Optics, 6th ed. (Cambridge University Press, 1997) 非特許文献1に開示された水晶波長板は、3〜8mm程度の厚さの水晶板を6枚積み重ねた構造であり、全体としてバルク部分の素子圧が30mm以上となっている。この水晶波長板は、複数の水晶板を重ね合わせることによって帯域幅を拡張しているため、帯域幅を確保するために全体の素子厚は必然的に厚くなってしまう。素子厚が数10mm程度の場合、水晶板での損失を無視できないことから、非特許文献1に開示された水晶波長板は、広帯域ではあるが挿入損失が大きいという欠点を有している。 また、非特許文献2に開示されたフレネルロームは、斜方体のプリズムであり、プリズム内部で入射光を複数回全反射させることで波長板としての機能を実現している。しかし、フレネルロームにおいては、入射光と出射光の光軸がずれていることから配置に際して精密な光軸調整が必要であり、かつ、複数回の反射を伴うので完全に入力と同軸な出力を得ることは難しい。そのため、フレネルロームの使用時の取扱いは容易ではなく、実用性が十分とは言えない。また、テラヘルツ波はレーザビームに比べて一般的にビーム径が大きい。フレネルロームにおいては、ビーム径の大きなテラヘルツ波を複数回反射させなければならず、フレネルロームの小型・薄型化は困難である。 本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、挿入損失が小さく、広帯域で動作可能なテラヘルツ波帯の波長板、及びテラヘルツ波測定装置を提供することにある。 この目的を達成するために、本発明の第1の態様に係るテラヘルツ帯波長板は、複数の金属平板を一定の間隔で平行に積層してなるテラヘルツ帯波長板であって、前記金属平板は、テラヘルツ波長オーダーの周期構造を有し、前記波長板の積層側面に入射されたテラヘルツ波に対して、前記金属平板に平行な偏光成分と垂直な偏光成分にそれぞれ異なる位相変化を付加して出射する。 本発明の波長板は、複数の金属平板を平行に積層した構造であるため、テラヘルツ波を積層側面に入射させると平行平板導波路として機能し、入射波を低損失で伝搬することができる。その際、入射波の金属平板に平行(積層方向に垂直)な偏光成分(横偏光)は位相変化を受ける。さらに、波長板を構成している各金属平板は周期的な構造を有しているため、入射波の金属平板に垂直(積層方向に平行)な偏光成分(縦偏光)も、波長板を伝搬する際に位相変化を受ける。これらの横偏光と縦偏光が受ける位相変化量の差は、広帯域にわたってほぼ一定であり、この位相変化量の差は、金属平板の積層間隔と金属平板が有する周期構造によって決定され得る。したがって、本発明によれば、挿入損失が小さく、広帯域で動作可能なテラヘルツ波帯の波長板を実現することが可能である。(a)は、本発明の一実施形態に係るテラヘルツ帯波長板の構成を説明するための斜視図であり、(b)は、本発明の一実施形態に係るテラヘルツ帯波長板の金属平板の積層方法を説明するための図である。(a)は、本発明の一実施形態に係るテラヘルツ帯波長板の構成を説明するための斜視図であり、(b)は、本発明の一実施形態に係る周期構造の部分拡大図(上面図)である。本発明の一実施形態に係る周期構造を示す斜視図である。平行平板導波路における群速度vG及び位相速度vpの周波数依存性を説明するためのグラフである。(a)、(b)は、本発明の一実施形態に係るテラヘルツ帯波長板の透過特性を示したグラフである。(a)、(b)は、本発明の一実施形態に係るテラヘルツ帯波長板の透過特性を示したグラフである。(a)、(b)は、本発明の一実施形態に係るテラヘルツ帯波長板において、1/4波長板となるようにデバイスを作成した場合の波長板の透過特性を示したグラフである。本発明の一実施形態に係る測定装置の概略構成図である。本発明の一実施形態に係る測定装置の概略構成図である。 以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。なお、以下で説明する図面で、同機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略することもある。 なお、本発明において「テラヘルツ波」とは、周波数が1THz前後(100GHz〜10THz)の電磁波を指し、「テラヘルツ波長オーダー」とは、テラヘルツ波の波長と同程度(30μm〜3mm)の長さを指す。なお、これら規定は、テラヘルツ波及びテラヘルツ波長オーダーに対する限定を意図するものではなく、あくまで1つの目安を示すものである。よって、上記規定した範囲から外れた場合であっても、テラヘルツ波及びテラヘルツ波長オーダーと言えるものであれば、本発明に含まれる。また、「波長板」とは、直交する偏光成分間に所定の位相差を与える偏光素子である。特に、その位相差がπ(180度)であるものを1/2波長板、π/2(90度)であるものを1/4波長板と呼ぶ。(第1実施形態) まず、本実施形態に係るテラヘルツ帯波長板の構成について説明する。 図1(a)は、本実施形態に係るテラヘルツ帯波長板の基本構成を示す図である。テラヘルツ帯波長板1は、複数の金属平板11を有する波長板である。金属平板11は、表面に高低や凹凸のない厚みの均一な金属板である。金属平板11は、一定の間隔dを空けてY軸方向(積層方向)に沿って平行に積層され、全体としてテラヘルツ帯波長板1を構成している。テラヘルツ波は、テラヘルツ帯波長板1の正面(X−Y面)に対して垂直に入射され、波長板を透過して前記正面に対向した背面から出射される。つまり、図1(a)において、テラヘルツ波はZ軸方向から入射され、テラヘルツ帯波長板1をZ軸方向に伝搬して出射される。 受光面となるテラヘルツ帯波長板1の積層側面のサイズ(幅W×高さH)は、使用するテラヘルツ波のビーム径よりも大きいことが好ましい。テラヘルツ帯波長板1の幅Wは、単に金属平板11の長さで決まるため、金属平板11の長さを入射ビーム径に合わせて作成すれば良い。一方、テラヘルツ帯波長板1の高さHについては、金属平板11の設置間隔dが、波長板に求める位相変化量によって決定されるため(後述)、その決定された間隔dで積層される金属平板11の枚数を変えることで調整することができる。 一般に、テラヘルツ波のビーム径は数10mm程度であるため、ビーム径が光学素子の受光面よりも大きくなる場合がある。そのような場合には、レンズを用いてビームを集束させる、カップリングを行う等の調整が必要となる。ところが、本実施形態では、積層する金属平板11の枚数により受光面のサイズを変更できるため、使用するビーム径に合わせた素子サイズとすれば良く、ビーム径の調整は必要としない。本実施形態では、テラヘルツ帯波長板1のサイズを幅W50mm×高さH50mm×長さL10mmとしている。 なお、テラヘルツ帯波長板1の受光面のサイズが、使用するテラヘルツ波のビーム径より小さい場合であっても、本発明の本質的な機能に何ら影響を与えるものではない。詳しくは後述するが、本発明の本質的な機能とは、テラヘルツ波に対して、直交する偏光成分の間に所定の位相差を生じさせることである。 図1(b)は、図1(a)に示されたテラヘルツ帯波長板1の積層側面(X−Y面)の正面図であり、金属平板11の積層方法が示されている。各金属平板11の間にスペーサー23が金属平板11の両端で挟まれており、これらのスペーサー23によって各金属平板11の設置間隔dが確保されている。各金属平板11は両端に穴が開けられ、支柱22に通されて固定されている。支柱22は、テラヘルツ帯波長板1の最下部に設置された支柱支持台21に垂直に据え付けられている。 次に、本実施形態に係るテラヘルツ帯波長板の原理について説明する。 図1(a)に示されているテラヘルツ帯波長板1は、複数の金属平板11を平行に配置した構造になっている。この構造は、平行平板導波路を複数積み重ねたものと等価であるため、金属平板11に平行な方向からの入射波に対しては、各金属平板11の隙間が全て平行平板導波路として機能する。 平行平板導波路は、従来用いられる電磁波の導波路であり、平板に平行な偏光成分は導波路中をTEモードで伝搬し、平板に垂直な偏光成分はTEMモードで伝搬する。TEモードとは、電磁波の進行方向には電界成分を持たず、進行方向と直交する方向に電界成分を持つ状態である。TEMモードとは、電磁波の進行方向には電界及び磁界成分を持たず、進行方向と直交する方向に電界及び磁界成分を持つ状態である。図1(a)においては、X軸がTEモードの電界成分のベクトル方向にあたり、Y軸がTEMモードの電界成分のベクトル方向にあたる。したがって、テラヘルツ帯波長板1の積層側面(X−Y面)にテラヘルツ波を入射させれば、金属平板11に平行な偏光成分(横偏光)はTEモードで、垂直な偏光成分(縦偏光)はTEMモードで、各金属平板11の間を平行平板導波路として、Z軸方向に伝搬させることができる。 しかし、あらゆる電磁波が平行平板導波路を伝搬できる訳ではなく、入射波の半波長が平板の間隔より大きい場合には、入射波は遮断され伝搬できない。このときの入射波の波長及び周波数は、それぞれカットオフ波長λc及びカットオフ周波数fcと呼ばれる。平板の間隔をdとすれば、λc=2dで表される。一般に、TEモードで伝搬する横偏光成分の群速度vG、位相速度vpは、カットオフ周波数fcに近づくにつれて大きな影響を受けることが知られている。図4は、平板間隔1mmの平行平板導波路における群速度vG及び位相速度vpの周波数依存性を、横軸に周波数、縦軸に屈折率(n=c/v)をとってグラフで示したものである。群屈折率nGが点線で、位相屈折率npが実線で表されている。位相屈折率npは、カットオフ周波数fcに近づくにつれて小さく(位相速度vpは大きく)なっていることが分かる。また、平板間隔dを小さくするとカットオフ周波数fcは高くなるので、位相屈折率npのグラフは破線で示されるように右にシフトしたものとなる。つまり、平行平板導波路においては、平板間隔dが小さいほどTEモードで伝搬する横偏光の位相速度vpの増加量は大きくなる。一方で、TEMモードで伝搬する縦偏光成分の位相速度は伝搬中に影響を受けない。(実施例1) 図5(a)は、図1(a)に示されたテラヘルツ帯波長板1において、入射テラヘルツ波の電界振幅の変化を示したグラフである。一番上の波形(Ref)は、基準とした入射テラヘルツ波の電界振幅の波形を示している。他の3つの波形は、図1(a)に示されたテラヘルツ帯波長板1において金属平板11の間隔dをそれぞれ3mm、2mm、1mmとした場合の電界振幅波形を示している。TEモード成分は実線で、TEMモード成分は破線で表されている。図5(a)により、TEモード成分では、平板間隔dが小さくなるほど出力波形の位相が次第に進んでいくこと(左にシフト)、及び、TEMモード成分では、平板間隔dにかかわらず基準電界(Ref)からの波形の変化がほぼ無いことが確認できた。 さらに、図5(a)に示された電界振幅をフーリエ変換して得られたスペクトル情報を図5(b)に示した。図5(b)上側の図の左縦軸はテラヘルツ帯波長板1の透過率、図5(b)下側の図の右縦軸は透過後の位相変化量、横軸は入射波の周波数である。位相がマイナスであることは、位相が進んだことを示している。図5(b)により、TEモード成分では平板間隔dが小さくなるほど位相進みが大きくなるのに対し、TEMモード成分では平板間隔dによる位相変化はほぼ無いことが確認できた。また、透過率についても、カットオフ周波数fcから2.0THzを超える広帯域において良好であることが確認できた。 したがって、本実施形態のテラヘルツ帯波長板1によれば、TEMモード成分に影響を与えることなく直交するTEモード成分にのみ位相変化を与えることができるので、直交する偏光成分の間に位相差を生じさせることができる。さらに、その位相差は、金属平板11の間隔dまたは奥行き長さLで制御することができる。(第2実施形態) まず、本実施形態に係るテラヘルツ帯波長板の構成について説明する。 図2(a)は、本実施形態に係るテラヘルツ帯波長板の基本構成を示す図である。テラヘルツ帯波長板100は、複数の複数金属平板110を有する波長板である。金属平板11は、一定の間隔dを空けてY軸方向(積層方向)に沿って平行に積層され、全体としてテラヘルツ帯波長板1を構成している。テラヘルツ波は、テラヘルツ帯波長板1の正面(X−Y面)に対して垂直に入射され、波長板を透過して上記正面に対向した背面から出射される。つまり、図2(a)において、テラヘルツ波はZ軸方向から入射され、テラヘルツ帯波長板1をZ軸方向に伝搬して出射される。なお、金属平板11の積層方法については、第1実施形態の図1(b)で示した方法と同様であるため、本実施形態での繰返しの説明は省略する。 本実施形態に係るテラヘルツ帯波長板1は、図2(a)に示された構造に加えて、各金属平板110に周期的な構造が形成されている。図2(b)は、周期構造120を有する金属平板110の一部分111の拡大図である。テラヘルツ帯波長板1を構成する各金属平板110は、テラヘルツ波長オーダーの円形開孔120aが周期的に形成された周期構造120を有している。図2(b)においては、説明の便宜上、金属平板110の一部分111のみを拡大して図示しているが、この円形開孔120aは、金属平板110の全体にわたって周期的に形成されている。 本実施形態では、SUS製の長さ50mm(=W)×幅10mm(=L)×厚さD0.03mmの金属平板110に、直径66μmの円形開孔120aを中心間隔100μmで連続的に配置した周期構造120を形成している。周期構造120は、入射波の波長と同程度の間隔で簡易に加工でき、かつ、板の強度を保つことができる構造であることが、実際のデバイス作製に適した条件となるが、円形の開孔120の周期構造は、これらの条件を満たす構造として好ましい。周期構造を作成する手段としては、電気鋳造の他、簡易的に微細な周期構造を施す手法として、エッチングによる表面処理やブラスト加工を施すことも考えられる。金属平板110の厚みは、透過率を考慮すると薄い方が好ましいが、開孔による凹凸具合は周期構造120の構成要素の1つであるため、金属平板110の厚みは、使用するテラヘルツ波の帯域や波長板に所望する位相変化量に合わせて最適なものとすることが好ましい。金属平板110の材料には伝導度が高い材料、例えば、SUS板、銅板等が好ましいが、伝導度が低い材料であっても、表面に金メッキを施せば高伝導材と同様に使用することができる。 次に、本実施形態に係るテラヘルツ帯波長板の原理について説明する。 本実施形態に係るテラヘルツ帯波長板100は、各金属平板110に周期構造120が形成されている。この周期構造120は、入射波の金属平板110に平行な偏光方向成分(横偏光)の伝搬には影響を与えないが、金属平板11に垂直な偏光方向成分(縦偏光)の伝搬には影響を与える。 周期構造120が形成されていると、入射波によって金属平板110に表面プラズモンが励起される。表面プラズモンとは金属内の自由電子の集団振動であり、金属表面を伝搬する表面波である。この場合、金属平板110に垂直な偏光方向成分は、表面プラズモンが電磁波の進行方向にも電界成分を有するために、TEMモードではなくTMモードで金属平板110をZ軸方向に伝搬する。表面プラズモンは電磁波と結合して表面プラズモン・ポラリトン(自由電子と電磁波との混成状態)となっている。この表面プラズモン・ポラリトンは、周期構造120によって決定される共鳴周波数を持つが、この共鳴周波数付近の電磁波が共振するホッピングのためにTMモード成分には位相遅れが生じる。なお、円形開孔120aによる周期構造120は、フリースタンディングの板でエッチングにより形成できる構造の中で、プラズモンの共鳴周波数を高くすることができる構造として最良の形態である。 すなわち、周期構造120は表面プラズモンの発生に寄与するものであり、本質的には、「金属の誘電率分布」を周期的に変えるための構造である。金属平板110に開孔、または凹凸等の構造を付加することにより、本来一様の誘電率を持つ金属から、周期的な誘電率を持つ金属を実効的に作り出すことができる。 このように、誘電率の周期によってプラズモンの周波数が決定され、プラズモン・ポラリトンが周期構造でテラヘルツ波と共鳴し、その結果、テラヘルツ波がプラズモン・ポラリトンに引きずられて遅くなることが、TMモード成分に位相遅れが生じる要因である。また、この現象は、光学の見地からは周期構造120はブラッグリフレクタであり、TMモード成分に対してバンドストップフィルタとして作用しているとして説明することができる。すなわち、周期構造120によるバンドストップフィルタをテラヘルツ波が透過すると、金属平板110に垂直な偏光方向成分(縦偏光)は、バンドパスフィルタの透過特性に応じた、周波数に対して単調に変化する位相遅延を受ける。そのストップバンド周波数が、プラズモンの共鳴周波数に対応する。 したがって、本実施形態のテラヘルツ帯波長板100によれば、金属平板110と周期構造120の作用によって、入射テラヘルツ波の直交する成分間に異なる位相差を与えることができる。金属平板11の本質的な作用は、導波路を形成してテラヘルツ波を低損失で伝搬させると共に、テラヘルツ波の横偏光成分に位相変化を与えることである。また、周期構造120の本質的な作用は、テラヘルツ波が入射された際に金属平板110の表面にプラズモンを励振させて、金属平板110に垂直な偏光方向成分(テラヘルツ波の縦偏光成分)をTEMモードからTMモードに変換し、伝搬するテラヘルツ波の縦偏光成分に位相変化を与えることである。この縦偏光成分に対する作用は、金属平板110を複数積層させることで初めて生じるものではなく、金属平板110が単独で生じさせることができる作用である。 上記本質的な作用に鑑みると、積層される金属平板110は少なくとも2枚あれば良く、同一の形状、又は厳密に平行な配置でなくても良い。また、積層される金属平板110の必ずしも全てが周期構造120を有する必要は無い。すなわち、許容できる位相差及び透過率が実現できる範囲内で、積層される金属平板110の枚数や形状を調整することができ、また、積層される金属平板110の内のいくつかは、周期構造120を有さないものとすることもできる。 なお、金属平板110が有する周期構造120の形状は円形の開孔120aに限定されるものではなく、入射波によって金属平板110に表面プラズモンを励起させる形状、すなわち、テラヘルツ波の波長オーダーの間隔で、入射波の伝搬方向に対して誘電率の周期的な構造を形成する形状であればいずれの形状であっても良い。例えば、図3に示されるように、伝搬方向(Z軸)に直交(X軸)する矩形状の溝120bを伝搬方向に周期的に掘った構造であっても良いし、円形以外の形状(矩形、星型など)の開口であっても良い。(実施例2) 図6(a)は、図2(a)及び(b)に示されたテラヘルツ帯波長板100において、入射テラヘルツ波の電界振幅の変化を示したグラフである。金属平板110の間隔dを1.5mmとした。破線で示された波形(Ref)は、基準とした入射テラヘルツ波の電界振幅の波形を示している。実線(グレー)はTEモード成分を、黒丸付き実線はTMモード成分をそれぞれ示されている。図6(a)により、金属平板110に平行なTEモード成分の位相は進み(左にシフト)、金属平板110に垂直なTMモード成分の位相は遅れる(右にシフト)ことが確認できた。 さらに、図6(a)に示された電界振幅をフーリエ変換して得られたスペクトル情報を図6(b)に示した。図6(b)上側の図の左縦軸はテラヘルツ帯波長板1の透過率、図6(b)下側の図の右縦軸は透過後の位相変化量、横軸は入射波の周波数である。マイナス位相は位相遅れ、プラス位相は位相進みを示している。TEモード成分とTMモード成分の位相変化は、TEモード成分では周波数がカットオフ周波数に近づき低くなるにつれて単調に位相が進んでいるのに対して、TMモード成分では周波数が共鳴プラズモン周波数に近づき高くなるにつれて単調に位相が遅れていることが確認できた。また、透過率についても、カットオフ周波数と共鳴プラズモン周波数の間の0.5〜1.5THzの帯域において良好であることが確認できた。 図6(b)において注目すべきことは、TEモード成分とTMモード成分の周波数に対する位相変化のグラフの傾きがほぼ同程度であり、その位相変化量の差が広い周波数帯域でほぼ一定となっていることである。この特徴によって、本実施形態のテラヘルツ帯波長板は、直交する偏光成分間に一定の位相差を広帯域において与えることが可能となる。さらに、TEモード成分とTMモード成分に与えられる位相変化量の位相差は、それぞれカットオフ周波数と共鳴プラズモン周波数によって任意に変化させることができる。これらカットオフ周波数及び共鳴プラズモン周波数は、これまで説明してきたように、テラヘルツ帯波長板を構成する金属平板の積層間隔、及び金属平板が有する周期構造によって決定することができる。したがって、この位相差を1/4波長・1/2波長となるようにデバイスを設計することで、1/4波長板・1/2波長板を実現することができる。(実施例3) 図7(a)は、1/4波長板となるようにデバイスを作製したテラヘルツ帯波長板100の透過特性を示したグラフである。偏光方向に対して波長板の角度が0度、45度、90度、135度となるようにして直線偏光のテラヘルツ波を入力し、その出力波形を観測した。それぞれの角度における2本のグラフは、出力波形の直交する偏光成分の電界振幅(実線:TEモード、破線:TMモード)を示している。図7(a)により、角度が0度、90度の場合には、入射波は直線偏光のまま位相が変化し、角度が45度、135度の場合には、入射波の直交する偏光成分間に位相差が生じて出力が円偏光となることが確認できた。図7(b)は、偏光方向に対する波長板の角度が45度、135度の場合に、出射波の直交する偏光成分の電界振幅比を示したグラフである。図7(b)からも、透過後のテラヘルツ波が円偏光となっていることが確認できた。 したがって、図2(a)及び(b)に示されるテラヘルツ帯波長板100によれば、入射波の金属平板110に平行な偏光方向成分(TEモード)と、金属平板110に垂直な偏光方向成分(TMモード)とにそれぞれ異なる位相変化を与えることができる。さらに、それぞれの位相変化の差は帯域によらず一定であるため、直交する偏光成分間に広帯域で一定の位相差を与えることができる。 なお、図5及び図6においては、周波数が2.0THzまでの範囲のデータを示したが、これらの実施形態は、この周波数帯域に限定されるものではなく、金属平板110及び周期構造120を必要とする帯域に合わせて設計することにより、より高い帯域であっても任意に実施可能である。(第3実施形態) 図8は、テラヘルツ波を用いて奥行き方向の微小な変位を観測するための測定装置を説明するための概略構成図である。本実施形態に係るテラヘルツ波測定装置は、フェムト秒レーザ81、ビームスプリッタ82、テラヘルツ波発生器83、テラヘルツ波集光系84、テラヘルツ波コリメート系85、テラヘルツ波検出器86、光学遅延ライン87、及びテラヘルツ帯波長板100を備えている。テラヘルツ帯波長板1は、1/4波長板となるようにデバイスが設計されている。テラヘルツ波集光系84及びテラヘルツ波コリメート系85には、放物面鏡やレンズ等を用いる。 フェムト秒レーザ81から発射されたレーザ光は、ビームスプリッタ82により2つに分割され、一方は発生用レーザとしてテラヘルツ波発生器83に、他方は検出用レーザとしてミラー等を介してテラヘルツ波検出器86に入射される。テラヘルツ波発生器83は、入射されたレーザ光から直線偏光のテラヘルツ波881を発生させることができる。テラヘルツ波発生器83から発射された直線偏光のテラヘルツ波881は、テラヘルツ帯波長板100によって楕円偏光のテラヘルツ波882に変換される。楕円偏光に変換されたテラヘルツ波882は、テラヘルツ波集光系84によって集光され、被測定対象80に照射される。 被測定対象80からの反射テラヘルツ波は、テラヘルツ波コリメート系85によって再びコリメートされ、テラヘルツ波検出器86に入射される。テラヘルツ波検出器86は、反射波されたテラヘルツ波の偏光成分ごとの振幅を検出することができる。測定に際しては、被測定対象80の測定基準面で反射されたテラヘルツ波がテラヘルツ波検出器86に入射するタイミングと、ビームスプリッタ82で分割された他方のレーザ光がテラヘルツ波検出器86に入射されるタイミングとが一致するように光学遅延ライン87を用いて予め調整しておく。このようにタイミングを調整しておくことで、被測定対象80が測定基準面からわずかに奥行き方向にずれた場合、反射テラヘルツ波と検出用フェムト秒レーザのテラヘルツ波検出器86への入射タイミングがわずかにずれることになる。テラヘルツ波は、テラヘルツ帯波長板100を透過後は楕円偏光となっているため、タイミングのずれは偏光状態のずれとして検出することができる。この測定方法は、人間には不可視であるがテラヘルツ波帯においては透明となる、壁の反対側にある物体の表面形状を計測する目的等に活用することができる。(第4実施形態) 図9は、非測定対象90へのテラヘルツ波の入射角度が垂直である測定装置を説明するための概略構成図である。本実施形態に係るテラヘルツ波測定装置は、フェムト秒レーザ91、ビームスプリッタ92、テラヘルツ波発生器93、ポラライザ94、テラヘルツ波集光・コリメート系95、テラヘルツ波検出器96、光学遅延ライン97、及びテラヘルツ帯波長板100を備えている。テラヘルツ帯波長板1は、1/4波長板となるようにデバイスが設計されている。テラヘルツ波集光・コリメート系95には、放物面鏡やレンズ等を用いるが、被測定対象90への入射テラヘルツ波の入射光軸と、前記被測定対象90からの反射テラヘルツ波の出射光軸とは同軸となっている。 フェムト秒レーザ91から発射されたレーザ光は、ビームスプリッタ92により2つに分割され、一方は発生用レーザとしてテラヘルツ波発生器93に、他方は検出用レーザとしてミラー等を介してテラヘルツ波検出器96に入射される。テラヘルツ波発生器93は、入射されたレーザ光から縦偏光のテラヘルツ波991を発生させることができる。ポラライザ94は、縦偏光テラヘルツ波991に対して全エネルギーを透過する角度で設置されている。ポラライザ94としては、例えばワイヤーグリッド等を用いることができる。テラヘルツ波発生器93から発射された縦偏光のテラヘルツ波991は、ポラライザ94を全透過し、さらに、テラヘルツ帯波長板100によって円偏光のテラヘルツ波992に変換される。円偏光に変換されたテラヘルツ波992は、テラヘルツ波集光・コリメート系95によって集光され、被測定対象90に照射される。 被測定対象90からの反射テラヘルツ波は、テラヘルツ波集光・コリメート系95によって再びコリメートされ、テラヘルツ帯波長板100を再度透過し、さらにポラライザ94に再度入射される。テラヘルツ帯波長板100によって反射テラヘルツ波は円偏光から再び直線偏光に戻されるが、その偏光方向はポラライザ94を全透過する前と比較して90度回転した横偏光となる。したがって、横偏光の反射テラヘルツ波993は、ポラライザ94で全反射され、テラヘルツ波検出器96に入射される。テラヘルツ波検出器96で行われる検出方法は、上述の第3実施形態における検出方法と同様であるため、本実施形態においての繰り返しの説明は省略する。 テラヘルツ波分光装置やテラヘルツ波パルスを用いたタイムオブフライトトモグラフィ装置では、被測定対象に対してある角度をつけてテラヘルツ波を入射させる場合がほとんどである。なぜなら、被測定対象にテラヘルツ波を垂直に入射する場合には、入射テラヘルツ波と反射テラヘルツ波が同軸となるため、これらを分離する必要があるからである。高抵抗シリコン基板、ペリクルミラー等をビームスプリッタに用いればテラヘルツ波を分岐することができるが、その際にはテラヘルツ波のエネルギーの大部分が損失するため、検出感度が劣化してしまう。これに対して、本実施形態に係るテラヘルツ波測定装置は、1/4波長板として機能するテラヘルツ帯波長板100を備え、該テラヘルツ帯波長板100を被測定対象90とポラライザ94との間に配置しているため、エネルギーを損失することなく入射テラヘルツ波と反射テラヘルツ波を分岐することが可能である。 1、100 テラヘルツ帯波長板 11、110 金属平板 111 テラヘルツ帯波長板100の一部分(拡大図) 120 周期構造 120a 円形開孔 第1の金属平板と、 前記第1の金属平板と対向して配置された第2の金属平板とを備え、 前記第1及び第2の金属平板の少なくとも一方は、プラズモンを励起させる周期的な誘電率分布を有するテラヘルツ帯波長板。 前記第1及び第2の金属平板の少なくとも一方は、前記第1の金属平板と前記第2の金属平板との間の領域に入射されたテラヘルツ波によって前記第1及び第2の金属平板の少なくとも一方に表面プラズモンを励起させ、 前記第1の金属平板と前記第2の金属平板との間の領域に入射されたテラヘルツ波に対して、前記第1及び第2の金属平板に平行な偏光成分と垂直な偏光成分との間に所定の位相差を付与して出射する請求項1に記載のテラヘルツ帯波長板。 前記第1の金属平板と前記第2の金属平板とに対して平行に積層された少なくとも1つの金属平板をさらに備え、 前記第1の金属平板、前記第2の金属平板、前記さらに積層された少なくとも1つの金属平板の各々の間隔は一定である請求項2に記載のテラヘルツ帯波長板。 前記所定の位相差がπである請求項2又は3に記載のテラヘルツ帯波長板。 前記所定の位相差がπ/2である請求項2又は3に記載のテラヘルツ帯波長板。 請求項5に記載のテラヘルツ帯波長板を備え、 被測定対象への入射テラヘルツ波の入射光軸と、前記被測定対象からの反射テラヘルツ波の出射光軸とが同軸であるテラヘルツ波測定装置。 【課題】挿入損失が小さく、広帯域で動作可能なテラヘルツ波帯の波長板、及びテラヘルツ波測定装置を提供する。【解決手段】本発明の一実施形態に係るテラヘルツ帯波長板100は、第1の金属平板110と、前記第1の金属平板110と対向して配置された第2の金属平板110とを備え、 前記第1及び第2の金属平板110の少なくとも一方は、プラズモンを励起させる周期的な誘電率分布を有する。【選択図】 図2


ページのトップへ戻る

生命科学データベース横断検索へ戻る