生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_食用アピオス花、食品素材、血糖値上昇抑制効果具有物、血糖値上昇抑制物質およびアピオス花の使用方法
出願番号:2014002052
年次:2014
IPC分類:A01H 5/00,A61K 36/48,A61P 3/10,A61P 43/00,A23L 1/30


特許情報キャッシュ

岩井 邦久 川村 仁 松江 一 北村 勉 小渡 晃 川岸 健 JP 2014087364 公開特許公報(A) 20140515 2014002052 20140108 食用アピオス花、食品素材、血糖値上昇抑制効果具有物、血糖値上昇抑制物質およびアピオス花の使用方法 公立大学法人青森県立保健大学 508105186 株式会社倉石地域振興公社 504350887 富沢 知成 100119264 富沢 知成 100119264 岩井 邦久 川村 仁 松江 一 北村 勉 小渡 晃 川岸 健 A01H 5/00 20060101AFI20140418BHJP A61K 36/48 20060101ALI20140418BHJP A61P 3/10 20060101ALI20140418BHJP A61P 43/00 20060101ALI20140418BHJP A23L 1/30 20060101ALI20140418BHJP JPA01H5/00 ZA61K35/78 JA61P3/10A61P43/00 111A23L1/30 B 9 10 2009189000 20090818 OL 15 2B030 4B018 4C088 2B030AA02 2B030AB02 2B030AD09 4B018MD27 4B018MD48 4B018ME03 4B018MF01 4C088AB59 4C088AC03 4C088BA06 4C088BA08 4C088NA14 4C088ZC20 4C088ZC35 本発明は食用アピオス花、食品素材、血糖値上昇抑制効果具有物、血糖値上昇抑制物質およびアピオス花の使用方法に係り、特に、アピオス生産における廃棄物である花の有効利用によって得ることの可能な、食用アピオス花、アピオス花の使用方法等に関する。 アピオス(別名ホドイモ)は、北米原産のマメ科のツル性植物であり、日本では青森県から広まったと言われている。つまり、リンゴを導入した際に苗木の土中にアピオスが混じっていたと考えられており、国内における栽培は、種芋も栽培法もすべて青森県に由来するものである。現在農産物として扱われているものはApios americana Medikus であり、球状の根茎部が食用となる。 過去には、愛用者の経験談をもとに夢の健康作物としてマスコミでも取り上げられ、星川らはその栽培法について研究した(K.Hoshikawa., et al.: The growth of Apios (Apios americana Medikus), a new crop, under field conditions. Jpn. J. Crop Sci., 64, 323-327, 1995.)。しかし、その滋養強壮効果等の様々な生理作用についてはあくまでも伝承の類であり、科学的根拠には乏しいものだった。 そこで本願発明者らは、アピオス粉末を高血圧ラット(SHR)に与えたところ、7〜11%の降圧効果および中性脂肪の減少効果を見出した。この結果を元にして行った研究において、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害活性を指標としてアピオスの降圧成分を探索し、ACE阻害ペプチドを発見し、特許出願した(特許文献1)。また、県内産地の一つである五戸町の株式会社倉石地域振興公社は、本願発明者らと連携して新規製品開発を行っている。 なおアピオスのイモ部分については本願発明者らが既に、その生理作用に関する科学的報告をしている(非特許文献1、2)。なおまた、アピオス栽培においては、夏に咲く花を摘み取ることが良いイモを作るための一手段であると言われており、摘み取られた花は廃棄されているのが現状である。 さて一方、平成18年国民健康・栄養調査結果の概要(厚生労働省健康局総務課生活習慣病対策室)によれば、生活習慣病有病者の状況は、糖尿病が強く疑われる人が約820万人、糖尿病の可能性を否定できない人が約1050万人、合計約1870万人と推定されており、平成14年と比較して糖尿病が強く疑われる人は80万人、可能性が否定できない人は250万人もの増加が見られた。また40〜74歳では、男性の2人に1人、女性の5人に1人が、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)が強く疑われる者またはその予備群と考えられている。 このような状況下、食生活改善による生活習慣病の一次予防の重要性が増し、国民の健康志向は高まっている。加えて2008年4月より特定健診制度もスタートし、健診結果によっては、改善の指導及び結果の報告が求められ、医療費圧縮の施策推進として、治療から予防へのシフトが図られている。このようなことを背景として予防医学の一助としての保健機能食品への関心は高まり、厚生労働省認可の特定保健用食品およびいわゆる健康食品を含めた市場規模は、一般用医薬品の年間売り上げより多い1兆円以上であり、バイオテクノロジー戦略大綱では、2010年には3.2兆円を超えると推計している。特開2007−326790号公報「アピオスの酢酸・酵素処理物製造方法、アピオス由来ペプチドおよびその製造方法」K. Iwai., et al.: Ingestion of Apios americana Medikus tuber suppresses blood pressure and improves plasma lipids in spontaneously hypertensive rats. Nutr. Res., 27, 218-224, 2007.岩井邦久, 他: 「県産農水産物を活用した産業振興モデル」成果報告書, 財団法人21あおもり産業総合支援センター, 2005. 上述のように、アピオス栽培においては良いイモを作るために花が摘み取られ、そしてそれは廃棄されており、その有効利用が模索されている現状である。この花を有効利用できれば、資源の有効活用と廃棄物産出低減の両方を図ることができる。さらに上述のように本願発明者らによって、アピオスのイモ部分の生理作用については血圧降下作用など身体に良い健康効果を明らかにされているが、殊アピオス花に関する生理作用およびその利用については従来、特段の技術開示文献は従来見当たらない。 そこで本発明が解決しようとする課題は、アピオス生産における廃棄物である花を用いることによって、人体において保健機能を発揮できる物質、食品素材等を提供することである。 本願発明者らは、アピオス花が含有するポリフェノールの生理作用を検討し、近年増加している生活習慣病の予防に資する生理活性成分の探索を行った。生理作用としては、特に増加が顕著である糖尿病予防に寄与するα−グルコシダーゼ阻害活性に焦点を当てた。さらに、生理活性の有用性を確認するために動物試験を行った。その結果、アピオス花が有用な生理活性成分を備えていることを見出し、本発明の完成に至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。〔1〕 アピオス(Apios americana Medikus)の花を食用として用いる、食用アピオス(Apios americana Medikus)花。〔2〕 血糖値上昇抑制効果を具有する、食用アピオス(Apios americana Medikus)花。〔3〕 糖尿病予防用であることを特徴とする、〔2〕に記載の食用アピオス(Apios americana Medikus)花。〔4〕 乾燥物であることを特徴とする、〔1〕ないし〔3〕のいずれかに記載の食用アピオス(Apios americana Medikus)花。〔5〕 〔1〕ないし〔4〕のいずれかに記載の食用アピオス(Apios americana Medikus)花を用いた、食品素材。〔6〕 〔1〕ないし〔4〕のいずれかに記載の食用アピオス(Apios americana Medikus)花を用いた、血糖値上昇抑制効果具有物。〔7〕 〔1〕ないし〔4〕のいずれかに記載の食用アピオス(Apios americana Medikus)花を用いた、血糖値上昇抑制物質。〔8〕 α−グルコシダーゼ阻害作用を備えていることを特徴とする、〔7〕に記載の血糖値上昇抑制物質。〔9〕 食用として用いる、アピオス(Apios americana Medikus)花の使用方法。 本発明の食用アピオス花、食品素材等は上述のように構成されるため、これによれば、従来未利用であったアピオス生産における廃棄物である花を有効利用して、α−グルコシダーゼ阻害作用を有し血糖値上昇抑制効果の得られる食品素材を得、これに基づきかかる作用効果を有する食品を実現することができる。さらに、アピオス栽培における廃棄物産出を削減することもできる。 本願発明は、アピオス花の有用性を実証し、新規な健康的食素材開発の可能性を広げ、ひいては増加する生活習慣病予備群から有病者への歯止め策の一助とする上でも大いに意義深いものである。従来、花を食することができる植物性食物は、ブロッコリーや菊など、限られた種類しか存在しない。つまり本発明によれば、アピオス花に明らかとなったα−グルコシダーゼ阻害活性により、生活習慣病の予防に寄与する新たな食資源を提供、開発することができる。アピオス花の写真である。アピオス花乾燥物の写真である。活性画分の分画法を示すフロー図である。AFL40およびAFL60のセミ分取HPLCクロマトグラムである。AFL60F28を更に精製した結果を示すHPLCクロマトグラムである。AFL60F28−1をLC/MS/MSで分析した結果を示すクロマトグラムである。AFL60F28−1の1H−NMR分析結果を示すグラフである。AFL60F28−1の13C−NMR分析結果を示すグラフである。AFL60F28−1のDEPT分析結果を示すグラフである。AFL60F28−1の化学構造を示す構造式である。AFL60F28−1の化学構造を示す構造式である。正常マウスにAFL60とマルトースを同時に単回経口投与した後の血漿中グルコース濃度推移を示すグラフである。糖尿病モデルマウスにAFL60とマルトースを同時に単回経口投与した後の血漿中グルコース濃度推移を示すグラフである。 本発明について、詳細に説明する。 図1A、1Bはそれぞれ、アピオス花、アピオス花乾燥物の写真である。本発明の「アピオス(Apios americana Medikus)花を用いた血糖値上昇抑制効果具有物」とは、アピオス花を用いることによって、血糖値上昇抑制効果を備えた物を広く指す。つまりアピオス花をどのように処理するかしないか、そのような処理形態・利用形態の如何に関わらず、アピオス花を用いたものであれば全て、かかる本発明に該当する。 さらに、かかる効果を備えた「物」には、粉状・粒状・液状・流体状といった不定形の物の他、一定の形態を備えた物も、また逆に化学物質レベルのような物質レベルの物も、広く含む。したがって、アピオス(Apios americana Medikus)花からの抽出物であって、血糖値上昇抑制効果を具有する物も、当然ながら本発明の範囲内である。 また、かかる「血糖値上昇抑制効果具有物」を用いた糖尿病予防用食品素材も、その種類・形態等は何ら制限されず、本発明の血糖値上昇抑制効果具有物を用いたものである限り、あらゆる種類・形態の食品素材が本発明に該当する。 本発明の「アピオス(Apios americana Medikus)花抽出物を用いた血糖値上昇抑制物質」は特に、実施例に後述するように、アピオス花から抽出されるα−グルコシダーゼ阻害作用を備えた化合物を用いた血糖値上昇抑制物質である。 また、かかる「血糖値上昇抑制物質」を用いた糖尿病予防用食品素材も、その種類・形態等は何ら制限されず、本発明の血糖値上昇抑制効果具有物を用いたものである限り、あらゆる種類・形態の食品素材が本発明に該当する。 以下、本発明を完成するに至った研究経過をもって実施例とし、本発明をより詳細に説明するが、本発明がかかる実施例に限定されるものではない。実施例詳述の前にまず、研究経過における若干の用語について、一部、本研究との関連も含めて説明する。〈α−グルコシダーゼ阻害活性〉 ヒトが摂取する糖質の多くは多糖類のデンプンだが、最終的には小腸粘膜上皮細胞の刷子縁膜に存在する数種類のα−グルコシダーゼ(二糖類水解酵素)により単糖類に分解され、小腸絨毛上皮から吸収される。糖尿病患者は小腸におけるこれらの酵素活性が亢進しており、食後の急激な血糖上昇にはインスリン分泌不足やインスリン抵抗性とともにこの酵素活性の亢進が関与していると考えられている。特に2型糖尿病患者の高血糖改善には食事療法が基本であるが、糖質の消化吸収を遅延させることによる血糖コントロールの観点から、α−グルコシダーゼ阻害薬が開発されている( W. Puls, U. Keup: Influence of an α-amylase inhibitor (Bay 7791) on blood glucose serum insulin and NEFA in starch loading tests in rats dog and man. Diabetologia, 9, 97-101, 1973.)。 食事との関連性が強いことや、特定保健用食品として開発するメリットが大きいこと等から、最近では食品素材からα−グルコシダーゼ阻害成分を探索する研究も盛んに行われており(T. Matsui, et al.: In vitro survey of α-glucosidase inhibitory food components. Biosci. Biotechnol.Biochem., 60, 2019-2022, 1996.)、バナバ(鈴木裕子, 他: バナバ(Lagerstroemia speciosa L.) 葉抽出物のラットにおける食後血糖上昇抑制作用およびその作用様式. 日本栄養・食糧学会誌. 54, 131-137, 2001.)、桑葉(小島芳弘: 桑葉の保健機能, 食品と開発, 37 (10), 54-56, 2002.)、タモギタケ(藤野正行, 何普明: タモギタケ熱水抽出物によるII 型糖尿病モデルマウスの血糖値抑制. 日本食品科学工学会誌, 45, 618-623, 1998.)等が見出されている。 特に桑葉からはグルコースと構造が類似した成分が抽出され、1−deoxynojirimycin(DNJ)として同定されている(N. Peyrieras, et al.: Effects of the glucosidase inhibitors nojirimycin and deoxynojirimycin on thebiosynthesis of membrane and secretory glycoproteins. EMBO J., 2, 823-832, 1983.、他)。このように、α−グルコシダーゼ阻害作用は高血糖の抑制・改善に有益であり、糖尿病予防を目指す食品の開発や研究の多くは、糖質の分解と吸収を阻害・遅延させ、過血糖を改善するものが主流である。〈ポリフェノール〉 ポリフェノールは植物細胞の生成、活性化などを助ける働きを持つ。その有効性は抗酸化作用に基づくものであるため、動脈硬化、糖尿病、ガン等の予防、老化抑制等の様々な生体調整機能に関係している。アピオス花中のポリフェノールとしてはアントシアニン類等が本願発明者により類推されているが(岩井邦久, 他: 「県産農水産物を活用した産業振興モデル」成果報告書, 財団法人21 あおもり産業総合支援センター, 2005.)、詳細は解明されていない。<A 研究方法> アピオス花の利用価値を高めるため、アピオス花が持つ有益な生理活性、特にα−グルコシダーゼ阻害活性、抗酸化活性等を探索し、それら活性成分の解明(構造決定)を行った。<A−1.試料調製> 五戸町倉石地域で8月に採取したアピオス花を50〜60℃で温風乾燥した。これをギ酸、トリフルオロ酢酸(TFA)および1%ギ酸含有メタノール(ギ酸/MeOH)中でホモジナイズし、攪拌抽出を行い、遠心分離にて得た上清を濃縮乾固し凍結乾燥して粗抽出物を調製し、Folin−Denis法によるポリフェノール濃度(Gao X., et al.: J. Sci. Food Agric., 80, 2021-2027, 2000. 以下も同じ。)、DPPHラジカル消去活性(須田郁夫: 抗酸化機能, 分光学的抗酸化機能評価. 食品機能研究法, 篠原和毅他編, pp.218-220, 光琳, 2000. 以下も同じ。)、α−グルコシダーゼ(マルターゼ)阻害活性(鈴木裕子, 他: バナバ(Lagerstroemia speciosa L.) 葉抽出物のラットにおける食後血糖上昇抑制作用およびその作用様式. 日本栄養・食糧学会誌. 54, 131-137, 2001. 以下も同じ。)を測定し、最適な抽出方法を決定した。<A−2.生理活性の測定> DPPHラジカル消去活性の測定では、試料をエタノールで溶解および希釈し、DPPH溶液を添加混合し、520nmにおける吸光度を測定した。標準物質としたTroloxの吸光度から検量線を作成し、試料1μg当たりのラジカル消去活性をTrolox相当量として算出した。 マルターゼ阻害活性の測定では、マレイン酸緩衝液(pH6.0)で調製した試料にマルトース(基質)を混合し、プレインキュベートした。この混合液にラット小腸粉末由来の粗酵素液を添加混合し、37℃でインキュベートした。経時的にサンプリングし、ムロターゼ−GOD法により測定したグルコース生成量から酵素反応速度を求め、酵素+基質のみの反応速度を100%とし、試料添加時の酵素活性阻害率を算出した。試料濃度と阻害率の関係から、50%阻害濃度(IC50)を阻害活性として算出した。<A−3.アピオス花活性画分の大量調製> アピオス花ギ酸/MeOH抽出物を大量に調製し、Sephadex LH−20カラムクロマトグラフィー(37×980mm)によって分画を行った。1回の処理で抽出物2gを負荷し、MeOH含量0,20,40,60,99および100%の1%ギ酸/MeOH混合溶液を450mLずつ流速2mL/minで流した。溶出物(AFL0,AFL20,AFL40,AFL60,AFL99,AFL100)を収集し、濃縮・凍結乾燥を施し、この処理を繰り返すことで、活性画分を大量に調製した。全画分の総ポリフェノール濃度、DPPHラジカル消去活性およびマルターゼ阻害活性を測定し、活性画分を確定した。 図2は、活性画分の分画法を示すフロー図である。<A−4.アピオス花ポリフェノールの分析> Sephadex LH−20で分画したAFL0,AFL20,AFL40,AFL60,AFL99およびAFL100を高速液体クロマトグラフィー−フォトダイオードアレイ検出(HPLC−PDA)で分析し、各画分中に含まれるポリフェノール類を分析した。分析システムはWaters 2695(Waters社)、カラムはInertsil ODS−3(粒径5μm,4.6X150mm)を使用し、カラム温度40℃にて移動相としたA液10%ギ酸およびB液アセトニトリルを0〜35分間でB液0〜70%に変化させるリニアグラジエントで、流速1.0mL/minで流した。分析注入量は10μLで、2998PDA検出器(Waters社)によって200〜800nmの波長範囲で検出した。<A−5.主要なポリフェノールの分取、活性成分の分離・精製> AFL60(マルターゼ阻害画分)を分取HPLCに供し、主要なピークを分取した。分取HPLCは、ポンプおよびインジェクターにW600(Waters社)、カラムにInertsil ODS−3(20X300mm)、移動相にA液10%ギ酸およびB液アセトニトリルを使用し、カラム温度40℃にて、B液濃度を0〜70分で0%から70%に変化させるリニアグラジエント(70〜90分でB液100%、その後初期条件に平衡化)条件で、流速5.0mL/minで溶出した。AFL60の注入量は500μLとし、波長280nmで検出した。EYELA製フラクションコレクターDC−1500を使用し、10〜54分の分取区間で1分間隔にてピークを分取した。分取した活性ポリフェノールのHPLC−PDAによる分析と精製を行った。装置、カラムおよび移動相は既述した分析条件と同じであり、移動相のグラジエント条件を0〜60分で0〜35%に変化させるリニアグラジエントに変更した。<A−6.活性成分の構造決定> 構造決定は核磁気共鳴(NMR)および液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS/MS)によって分析し、活性成分の構造同定を行った。<A−7.アピオス花活性画分の生理効果の検討> アピオス花活性画分AFL60を大量に調製し、生理効果を検討するため、マルトースを投与する糖負荷試験を行った。動物には、正常マウスとして雄性ddYマウス(10週齢)および糖尿病モデルマウスとして雄性KK−Ayマウス(10週齢)を用い、AFL60とマルトースを混合し、20時間の絶食下で単回経口投与した。AFL60の投与量は0,62.5,125および250mg/kgとして0.5%カルボキシメチルセルロースに懸濁し、マルトースの投与量は0.6g/kgとした。投与後0,0.5,1および2時間に、ヘパリン処理済プラスチック製キャピラリーチューブを用いて眼窩底採血を行い、血液を直ちにヘマトクリット遠心機(3220,クボタ)で遠心分離(12,000rpmX2分)し、血漿を採取した。適宜0.15M NaCl溶液で希釈し、血漿中グルコース濃度をグルコースCII-テストワコー(和光純薬工業)にて測定した。<B 結果および考察><B−1.アピオス花活性画分の大量調製> アピオス花の抽出では、ギ酸およびTFA抽出に比べて1%ギ酸/MeOH抽出が総ポリフェノール濃度、DPPHラジカル消去活性およびα−グルコシダーゼ阻害活性いずれも優れており、活性成分を得るためには1%ギ酸/MeOH 抽出が適していることが明らかになった。 表1に、アピオス花ギ酸/MeOH抽出物をSephadex LH−20カラムクロマトグラフィーで分画した時の収量、総ポリフェノール濃度、DPPHラジカル消去活性およびα−グルコシダーゼ阻害活性を示す。 分画した70%はAFL0に集まったが、これにはポリフェノールはほとんど含まれず、DPPHラジカル消去活性およびグルコシダーゼ阻害活性も認められず、ほとんどが糖質であることが推察された。総ポリフェノール濃度が最も高かったのはAFL40だったが、DPPHラジカル消去活性およびグルコシダーゼ阻害活性が最も強かったのはAFL60であった。したがって、AFL60を活性成分同定のための分取に使用した。<B−2.アピオス花活性成分の解明>1)セミ分取逆相カラムの使用による主要なポリフェノールの分取 リニアグラジエント溶出条件でセミ分取HPLCによる分画を行い、AFL60からピークを大量に分離した。フラクションコレクターを使用し、保持時間10〜54分で1分間隔にてピーク分取を行った。 図3は、AFL40およびAFL60のセミ分取HPLCクロマトグラムである。その結果、図示するように、AFL60から33分および36分に非常に大きなピークを得た。また、AFL40も同様に処理すると34,37および39分に主要なピークを得た。 分取したこれらのピークのマルターゼ阻害活性を測定すると、阻害活性が強かったのはFr.25,Fr.28およびFr.29であり、これらにおけるマルターゼ阻害率はいずれも50%以上であった。Fr.25は収量が少ないため、Fr.28およびFr.29を活性ポリフェノールとして収集し、更に精製した。AFL40もFr.29およびFr.30がこれらと類似性が考えられたため、同様に収集した。2)活性ポリフェノールの分離・精製 AFL60から分取したFr.28(AFL60F28)をHPLCで再度分析すると、4〜5本のピークが混在していた。これらはポリフェノール化合物であることが示唆された。そこで、HPLC条件を変更しAFL60F28を更に精製した結果、主要ピーク#1〜#5が得られた。これらは、320nmに吸収極大を有する成分が1種類、280nmに吸収極大を持つ成分が2種類、525nmに吸収極大を持つ成分が2種類であった。 図4は、AFL60F28をさらに精製した結果を示すHPLCクロマトグラムである。 表2は、これらピーク#1〜#5のマルターゼ阻害活性を示すものである。各収量は0.4〜0.8mgであり、AFL60F28の3〜6%に相当した。ピーク#4および#5はアントシアニンであることが示されたが、阻害率は30%以下と低く、最も阻害が強かったのは#1(AFL60F28−1)で、この成分は330nmに吸収極大を持つポリフェノール化合物であることが示唆された。 図5は、AFL60F28−1をLC/MS/MSで分析した結果を示すクロマトグラムである。その結果、AFL60F28−1は分子量が342と推定された。また、 図6は、AFL60F28−1の1H−NMR分析結果を示すグラフ、 図7は、AFL60F28−1の13C−NMR分析結果を示すグラフ、そして 図8は、AFL60F28−1のDEPT分析結果を示すグラフである。以上の分析結果からAFL60F28−1は、分子式がC15H18O9の、(E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)アクリル酸β−D−グルコピラノシル(カフェオイルβ−D−グルコピラノシド)か、もしくは、2−O−[3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)アクリロイル]−D−グルコピラノース のいずれかであることが示された。 図9A、9Bはこれらの構造式である。<B−3.アピオス花活性画分の生理効果>アピオス花活性画分としてAFL60をマルトースと混合し、マウスに単回経口投与する負荷試験を行った。 図10は、正常マウスにAFL60とマルトースを同時に単回経口投与した後の血漿中グルコース濃度推移を示すグラフである。マルトースの投与量は0.6g/kgであり、データは5匹の平均値±標準偏差を示す。図示するように、正常マウスである雄性ddYマウスに負荷した時、マルトース(Mal)単独の投与では投与後0.5時間での血糖値が絶食下血糖値の2.5倍に増加したのに対し、AFL60を混合して負荷した場合は、血糖値の上昇は2倍以下に抑えられた。統計的有意差はなかったものの、この抑制は投与後0.5時間だけでなく、1時間でも見られた。また、用量依存性が認められた。したがって、アピオス花には正常マウスの血糖値に対する上昇抑制効果のあることが示された。 同様の検討を糖尿病モデルKK−Ayマウスでも行った。 図11は、糖尿病モデルマウスにAFL60とマルトースを同時に単回経口投与した後の血漿中グルコース濃度推移を示すグラフである。マルトースの投与量は0.6g/kgであり、データは5匹の平均値±標準偏差を示す。その結果、図示するように、血糖値はマルトース投与後1時間で最大となり、そのレベルは絶食下血糖値の2.7倍に達した。ddYに比べて血糖値の低下は遅く、糖尿病モデル特有の血糖値推移を示した。AFL60を投与した場合、0.5時間ではマルトース単独と血糖値に差はなかったが、投与後1時間以降でマルトース単独よりも低い血糖値推移を示し、血糖値の上昇抑制あるいは抑制傾向が示された。 これらの結果から、AFL60には血糖上昇抑制効果があることが示された。なお糖尿病モデルマウスでは、少ない用量でより高い効果が認められた。つまり、少量の使用によって充分に血糖上昇抑制効果を得られることが示された。これは、必要以上に用量が多い場合にはかえって、AFL60に含まれる成分が消化管内で何らかの変化を起こして糖質としての吸収・血糖値の上昇に結びつくという機作が考えられる。かかる現象は正常マウスでは見られなかったことであるが、ddYマウスとKK−Ayマウスの糖質吸収および配糖体の分解に関する生体機能の違いが関与しているものと考えられる。 以上述べた通り本発明では、従来廃棄されているアピオス花の高付加価値化と有効利用を目的に、生理活性の探索、活性成分の同定を行った。つまり、アピオス花の抽出物を調製し、カラムクロマトグラフィー手法によって分画し、ラジカル消去活性およびα−グルコシダーゼ阻害活性を指標に成分を分離・精製した。その結果、マルターゼ(α−グルコシダーゼの一種)阻害作用を有する成分としてAFL60F28−1が単離され、これは(E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)アクリル酸β−D−グルコピラノシル(カフェオイルβ−D−グルコピラノシド)、または2−O−[3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)アクリロイル]−D−グルコピラノースであることを同定した。これら化合物がα−グルコシダーゼ阻害作用を有することが、本発明により初めて明らかとなった。 さらに、この成分を含む活性画分AFL60をマウスに投与した結果、正常マウスおよび糖尿病モデルマウスにおいて、血糖値の上昇抑制効果が認められた。これらの結果より、AFL60F28−1、ならびにAFL60F28−1を含むAFL60画分およびアピオス花は、糖尿病予防に資する新たな健康食素材として有用であることが明らかとなった。従来、花を食することができる植物性食物は、ブロッコリーや菊など、限られた種類しか存在しなかったが、本発明により、生活習慣病の予防に寄与する新たな食資源たる食用アピオス花を提供でき、食品素材を開発することができる。したがって、食生活改善による生活習慣病の一次予防の重要性が増し、国民の健康志向が高まりを見せる状況下、血糖値上昇抑制効果を備えた食品素材・食品開発の基礎となる本発明の意義は大きく、産業上利用性の高い発明である。アピオス(Apios americana Medikus)の花を食用として用いる、食用アピオス(Apios americana Medikus)花。血糖値上昇抑制効果を具有する、食用アピオス(Apios americana Medikus)花。糖尿病予防用であることを特徴とする、請求項2に記載の食用アピオス(Apios americana Medikus)花。乾燥物であることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の食用アピオス(Apios americana Medikus)花。請求項1ないし4のいずれかに記載の食用アピオス(Apios americana Medikus)花を用いた、食品素材。請求項1ないし4のいずれかに記載の食用アピオス(Apios americana Medikus)花を用いた、血糖値上昇抑制効果具有物。請求項1ないし4のいずれかに記載の食用アピオス(Apios americana Medikus)花を用いた、血糖値上昇抑制物質。α−グルコシダーゼ阻害作用を備えていることを特徴とする、請求項7に記載の血糖値上昇抑制物質。食用として用いる、アピオス(Apios americana Medikus)花の使用方法。 【課題】アピオス生産における廃棄物である花から人体に保健機能を発揮できる物質、およびそのような物質に基づく食品素材を提供する。【解決手段】アピオス花の抽出物を調製し、カラムクロマトグラフィー手法によって分画し、ラジカル消去活性およびα−グルコシダーゼ阻害活性を指標に成分を分離・精製する。マルターゼ阻害作用を有する成分AFL60F28−1が単離され、これは(E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)アクリル酸β−D−グルコピラノシル(カフェオイルβ−D−グルコピラノシド)、または2−O−[3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)アクリロイル]−D−グルコピラノースである。この成分を含む活性画分AFL60は正常マウスおよび糖尿病モデルマウスにおいて、血糖値の上昇を抑制する。したがって、アピオスの花を健康食素材として有用である。【選択図】図10


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