生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_リグノセルロースからのセルロース抽出方法
出願番号:2014001479
年次:2014
IPC分類:C12P 19/04


特許情報キャッシュ

濱野 智子 飯田 孝彦 小沼 ルミ 水越 厚史 瓦田 研介 JP 2014147383 公開特許公報(A) 20140821 2014001479 20140108 リグノセルロースからのセルロース抽出方法 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター 506209422 前 直美 100113402 濱野 智子 飯田 孝彦 小沼 ルミ 水越 厚史 瓦田 研介 JP 2013001809 20130109 C12P 19/04 20060101AFI20140725BHJP JPC12P19/04 Z 6 OL 12 4B064 4B064AF12 4B064CA07 4B064CB07 4B064DA16 本発明は、植物系バイオマスの処理方法、さらに具体的には植物系バイオマスに含まれるセルロースを溶解し又は抽出するための処理方法に関する。 植物系バイオマス、特に木材等の木質バイオマスに含まれるセルロースは、膨大な量が利用可能であり、食糧と競合しないため、第二世代のバイオエタノール原料等の資源として注目されている。しかし、木質バイオマスに含まれるセルロースは、強固な結晶構造を有しており、汎用有機溶媒や水に不溶であるため、そのままでは利用できる範囲が限定的であり、エタノールへの糖化効率も低い。 従来、セルロースを溶解させるためには、添加剤と溶媒とを組み合わせて利用する方法がとられてきたが、添加剤と溶媒の種類は数種類しかなく、高温処理を必要とし、煩雑な操作を伴う。このため、セルロースを効率的に利用するための溶解及び/又は抽出方法は、改良・開発が求められており、特にセルロースからのバイオエタノール生産に関しては適切な糖化前処理技術として開発が急がれている。 近年、水や有機溶媒に次ぐ新たな溶媒としてイオン液体が注目されている。イオン液体とは、塩でありながら常温付近に融点を持つ塩の総称であり、100℃以下で流動性がある、溶解力が優れている、揮発性が極めて低い、難燃性、イオン性であるが低粘性である等の特徴を持っている。イオン液体は、加熱撹拌という簡便な操作でセルロースの溶解が可能であり、R.P.Swatloskiら(J. Am. Chem. Soc., 124, 4974 (2002);非特許文献1)がイオン液体へのセルロースの溶解を報告して以来、イオン液体を利用した様々なセルロース溶剤が開発されている(たとえば特許文献1)。現在では、室温付近でもセルロースを溶解させることができるイオン液体も開発され、今後、イオン液体は主要なセルロース溶剤になると予想される。 このように、イオン液体はセルロースの新規抽出溶媒として期待され、研究開発が盛んに行われているが、実際に木質バイオマスに適用した場合、抽出効率が非常に低いという問題が生じている。これは、木質バイオマスにはセルロースの他に主要な構成成分としてヘミセルロース及びリグニンが含まれているため、セルロースが化学的に非常に安定なリグニンに覆われてリグノセルロースを形成していることに起因している。 これまで、リグノセルロースからセルロースを抽出する際には、酸やアルカリ等を使った高温高圧処理が前処理として施されてきた。しかし、これらの処理は、大量のエネルギーを必要とし、反応容器等の腐食、廃液及び大量の薬物を含んだ残渣の処理といった多くの課題が残っており、環境配慮型のプロセス構築が求められている現代においては適用が難しい。そこで、イオン液体と超音波照射等を組み合わせた前処理方法が提案されているが(特許文献2)、大量のバイオマスの処理には適していない。さらに、この方法もまた、超音波を発生させるための電力(エネルギーの投入)が必要である。特開2009−203467号公報特開2012−86154号公報R. P. Swatloski et al.: J. Am. Chem. Soc., 124, 4974 (2002) そこで、本発明は、多量の廃棄物を生じるような高温高圧処理等を必要としない、簡便な、植物系バイオマス又はリグノセルロースからのセルロースの溶解及び/又は抽出方法、特に簡便で高効率な植物系バイオマスの糖化前処理技術を提供することを目的とする。 本発明者らは、バイオマス中に含まれるリグニンを選択的に分解できる微生物(選択的白色腐朽菌)に着目した。そして、植物系バイオマスを、リグニンを選択的に分解する木材腐朽菌等の微生物で予め処理することにより、イオン液体法の問題点であった低いセルロース収率を向上させることを実現し、本発明を完成した。 したがって、本発明は、〔1〕 植物系バイオマス又はリグノセルロースを、白色腐朽菌を含む微生物で腐朽処理する工程と、前記処理後の植物系バイオマス又はリグノセルロースを、イオン液体中で加熱処理する工程とを含む、セルロースの溶解又は抽出方法;〔2〕 白色腐朽菌が、カワラタケである、〔1〕記載の方法;〔3〕 イオン液体が、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートである、〔1〕又は〔2〕記載の方法;〔4〕 植物系バイオマス又はリグノセルロースを、白色腐朽菌を含む微生物で腐朽処理する工程と、前記処理後の植物系バイオマス又はリグノセルロースを、イオン液体中で加熱処理する工程と、前記加熱処理後のイオン液体に水性溶媒を添加してセルロースを分離する工程とを含む、セルロースの回収方法;〔5〕 白色腐朽菌が、カワラタケである、〔4〕記載の方法;〔6〕 イオン液体が、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートである、〔4〕又は〔5〕記載の方法、を提供する。 本発明によれば、植物系バイオマス、特にリグノセルロースを含む木質バイオマスから、非常に簡便な方法でセルロースを抽出することができる。従来のイオン液体法によるセルロース抽出と比較して、本発明の方法によれば、セルロース抽出効率が約2倍に向上する。また、従来の酸又はアルカリを用いた高温高圧処理による糖化前処理と比較して、本発明の方法によれば、大量のバイオマスの処理が可能であり、廃棄物もコストも少なく、作業中の安全性も高いうえ、工程が単純で特別な設備も必要としない等の利点を有する。特に、本発明において使用される白色腐朽菌による微生物処理の場合は、食用きのこの生育が常温環境下で可能であるのと同様に、新たに投入するエネルギーが少ない。また、廃菌床及び廃ほだ木等を用いれば、産業廃棄物からエネルギー材料を創出することが可能である。したがって、結果として、本発明の方法によれば、環境配慮型の低コストで簡便かつ安全な方法で、高効率でバイオエタノール生産等をはじめとする種々の工業的利用に適した品質のセルロースを得ることができる。図1は、イオン液体(1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド)での処理の前に、無処理、オオウズラタケを用いた腐朽処理、又はカワラタケを用いた腐朽処理のいずれかを行って回収したセルロースの回収率の比較を示す図である。図2は、反応時間を変えてイオン液体処理を行った場合のセルロース回収率を示す図である。A=イオン液体処理前にカワラタケを用いた腐朽処理を行ったもの、B=腐朽処理を行わずにイオン液体処理を行ったもの、をそれぞれ表す。図3は、腐朽処理による木材(ブナ)中のセルロース結晶構造の変化を表すXRDスペクトルの図である。A=カワラタケを用いた腐朽処理を行ったもの、B=オオウズラタケを用いた腐朽処理を行ったもの、C=腐朽処理を行っていないもの、をそれぞれ表す。図4は、腐朽処理後にイオン液体処理を行った木材(ブナ)中のセルロース結晶構造の変化を表すXRDスペクトルの図である。A=イオン液体処理前にカワラタケを用いた腐朽処理を行ったもの、B=腐朽処理を行わずにイオン液体処理を行ったもの、C=いずれの処理も行っていないもの、をそれぞれ表す。図5は、腐朽菌処理を行った木材(ブナ)のIRスペクトルを示す図である。A=オオウズラタケを用いた腐朽処理を行ったもの、B=カワラタケを用いた腐朽処理を行ったもの、C=試験片として用いた未処理ブナ材、をそれぞれ表す図6は、回収されたセルロースのIRスペクトルを示す図である。A=オオウズラタケを用いた腐朽処理の後イオン液体処理を行ったもの、B=カワラタケを用いた腐朽処理の後イオン液体処理を行ったもの、C=微生物による腐朽処理を行わずにイオン液体処理のみ行ったもの、D=試験片として用いた未処理ブナ材、をそれぞれ表す。図7は、3種のいずれかのイオン液体での処理の前に、腐朽処理を行わずに(無処理;黒塗りのバーで示す)、又はカワラタケを用いた腐朽処理を行って(斜線を付したバーで示す)回収したセルロースの回収率の比較を示す図である。イオン液体として、A=1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド、B=1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド、C=1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートを使用した。図8は、腐朽処理期間とイオン液体による再生セルロース収率との関係を示す図である。イオン液体として、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートを使用した。イオン液体による処理時間は3時間であった。図9は、イオン液体での処理後に回収された物質(再生セルロース)の組成をHPLCにより分析した結果(回収された物質のブドウ糖及びキシロースの収量)を示す図である。 本発明において処理の対象として使用される植物系バイオマスとしては、セルロースを含むものであれば特に限定されないが、本発明の方法は、リグノセルロースを含むバイオマスに有利に使用することができる。具体的には、たとえば針葉樹及び広葉樹等の間伐材・廃材、木材チップ、木粉のような木質系バイオマス、ケナフのような草本植物、さらにはモミ殻、米ぬか等のバイオマスを処理対象とすることができる。 腐朽処理に供する際の木片の大きさは特に制限はないが、一般に、より細かく粉砕された状態の方が短時間の腐朽処理に適する一方、粉砕時に要する手間及びコストが増大する。したがって、原料のサイズ等は、それらの要因を勘案して、当業者が必要に応じて適宜選択することができる。 本発明において使用される白色腐朽菌は、リグニン分解能を有する、担子菌、子のう菌等の菌類であればよく、具体例としては、シイタケ、ナメコ、エノキタケ、ヒラタケ、スギヒラタケ、マイタケ、タモギタケ、スエヒロタケ、カワラタケ、シュタケ、ホシゲタケ、ヒイロタケ等が挙げられる。これらの菌類の菌体又は菌糸を含むものであれば、腐朽処理又はイオン液体処理において妨害作用を示さない限り、他の微生物や物質が混在するものであってもよく、食用きのこを生産した後の廃菌床を使用することができる。 腐朽工程は、上記のようなバイオマスと白色腐朽菌とを、白色腐朽菌の生育に適した環境下に一定時間保持することにより行うことができる。具体的には、たとえば、生育した菌糸の上に処理対象のバイオマス等を置き、温度約20℃〜約30℃、湿度約70%RH以上の条件下で、数週間〜数ヶ月保持することができる。腐朽処理の期間中、バイオマスを静置してもよく、途中で攪拌等してもよい。 本発明の方法において使用されるイオン液体としては、100℃以下で液体の状態であるものであれば使用することができ、有機塩であっても無機塩であってもよい。たとえば、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムホスホネート等が挙げられる。セルロース収率の点で、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートが望ましい。 イオン液体での処理は、腐朽処理されたバイオマス等をイオン液体と接触させ、所定時間反応させることにより行うことができる。イオン液体とバイオマスとの重量比は、たとえば、1:1〜20:1程度とすることができるが、特に制限はない。反応温度は、約80℃〜約150℃とすることができる。反応時間は、約0.5時間〜約8時間とすることができる。また、イオン液体には、DMSO等の溶媒又は添加剤が含まれていてもよい。 イオン液体での処理後、セルロースはバイオマス等から抽出され、溶液中に溶解した状態で存在する。セルロースの用途によっては、この溶液をそのまま用いることができるが、たとえばエタノール生産に使用する場合には、最終的なエタノール収率の点で、セルロースを回収することが好ましい。回収工程は、セルロースを含むイオン液体溶液に、水性溶媒を添加することにより行うことができる。水性溶媒としては、水、エタノール等のアルコール類、及びこれらの混合物等を使用することができる。添加量は、イオン液体溶液の容量に対し1〜30倍程度とすることができる。これによりセルロースは固体として溶液から分離するので、これをろ過、遠心分離等の手段により回収することができる。 得られたセルロースは、糖化工程に供することができる。また、一般的な工業材料等として各種製品に使用することができる。 1. ブナ材からのセルロースの回収 (1)微生物による腐朽処理 「JIS Z2101-1994:木材の試験方法(耐朽性試験)」に基づいて、ブナ材を試料(試験片)として使用し、褐色腐朽菌であるオオウズラタケを供試菌とし、白色腐朽菌であるカワラタケを対照として、腐朽処理を行った。ただし、石英砂培地の代わりに、同等の結果が得られ、取り扱いの容易なポテトデキストロース寒天培地(PDA培地)を使用した。 試験片の形状は、20mm(T)×20mm(R)×10mm(L)とした。試験片は、ガス滅菌器(株式会社ジェーエムシ医器研、SEMMEL−502C)を用いて、予め酸化エチレンガスにより滅菌処理を行った。供試培地として、溶解したPDA培地をプラスチック製角型培養瓶(柴田科学機器株式会社、内容量約500mL)に100ml分注し、高圧蒸気滅菌したものを用意した。供試培地に供試菌をそれぞれ一白金耳接種し、約26℃で2週間培養し、菌糸が十分に生育したことを確認した。この菌糸上に試験片を静置し、約26℃、相対湿度70%以上の条件で約60日間腐朽させた。 (2) イオン液体によるセルロース抽出 上記の微生物処理を行ったブナ材及び微生物処理を施していないブナ材を、それぞれミルサーで粉砕し、木粉とした。木粉5gを用い、アセトンを沸騰状態に保ってアセトンによるソックスレー抽出を12時間行った。抽出後の木粉を、105℃の恒温槽で乾燥した。 乾燥した木粉を用いて、イオン液体によるセルロース抽出を行った。セルロースの抽出用のイオン液体として1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリドを用いた。イオン液体をガラス容器に5g秤りとり、120℃のオイルバスの中で1時間ほど加熱した。その後、乾燥後の木粉0.25gをイオン液体中に入れ、120℃で3時間、加熱撹拌し、イオン液体中にセルロースを溶解させた。 その後、残渣をろ過して除去し、セルロースを含むイオン液体溶液に純水20mLを加え、セルロースを遊離させた。得られたセルロースを、ガラスろ紙を用いてろ過し、DMSO、アセトン、純水で洗浄し、105℃で乾燥した後、セルロースの重量を求めた。セルロースの収率を、 (セルロース重量)/(用いた木粉の重量)×100(%)として算出した。 セルロース収率は、腐朽処理なし(無処理)=4.6%、オオウズラタケによる腐朽処理=2.7%、カワラタケによる腐朽処理=9.9%であった。結果を、無処理を1.0とした相対値として図1に示す。 図1に示すように、カワラタケによる腐朽処理後にイオン液体処理を行った場合には、微生物処理を行わなかった場合と比較して2倍以上のセルロースが回収された。一方、オオウズラタケによる腐朽処理ではこのような効果は見られなかった。これは、カワラタケ等の白色腐朽菌は木材中のリグニンを選択的に分解したためと推察された。また、オオウズラタケ等の褐色腐朽菌では木材中のセルロースも分解されてしまうことが示唆された。 2.反応時間の検討 イオン液体処理の時間を、1、3又は6時間に変えたこと以外は上記1.と同様にして、腐朽処理及びイオン液体処理を行い、セルロース回収率を調べた。 結果を図2に示す。 図2からわかるように、カワラタケによる腐朽処理を行った場合にはイオン液体処理時間が長いほどセルロースの回収率が向上するが、微生物処理を行わない場合にはイオン液体処理時間を長くしてもセルロース回収率はほとんど向上しない。また、この実験の条件下では、3時間〜6時間のイオン液体処理で十分であり、これ以上の長時間処理は不要と考えられることがわかった。 3.セルロースの構造変化 上記1.の実験において採取した微生物処理後のブナ材及びイオン液体処理後のブナ材を試料として、XRDスペクトルを測定した(粉末X線回折装置: (株)リガク製 全自動水平型多目的X線回折装置「SmartLab」(商品名)、管球: Cu、X線出力: 40kV, 30mA、検出器: D/teX、スキャン軸: 2θ/θ、スキャン範囲: 5°〜50°)。また、試験片として使用した未処理のブナ材についても同じ測定を行った。 結果を図3及び4に示す。図3からわかるように、オオウズラタケを用いて腐朽処理を行った場合はセルロースの結晶に由来するピーク(図中のピーク1、2)強度が顕著に低下したのに対し、カワラタケを用いて腐朽処理を行った場合はXRDスペクトルに変化が見られず、未処理のブナ材と同様であった。したがって、カワラタケによる処理は、セルロースの結晶構造を変えずにリグニンを選択的に分解することがわかった。また、図4からわかるように、予めカワラタケによる処理を行ったものは、イオン液体処理によるセルロース結晶構造の緩和が増大していることがわかった。 4.セルロースの純度 上記1.の実験により回収した各セルロースを試料として、フーリエ変換赤外分光計(日本分光(株)製 FT/IR-6300, IMV-4000)を用いて透過法によりIRスペクトルを測定した。また、試験片として使用した未処理のブナ材についても同じ測定を行った。 結果を図5及び6に示す。図5は腐朽処理後(イオン液体処理前)の試料、図6は腐朽処理及びイオン液体処理後の試料についての結果である。番号を付したピークのうち、3、9、12、14、15はセルロース又はヘミセルロース由来のピークであり、5、6、7、8、10、11、13はリグニン由来のピークである。図5及び6から、オオウズラタケによる処理ではセルロースが選択的に分解されたのに対し、カワラタケによる処理ではセルロースは顕著に分解されず、カワラタケによる腐朽処理を行って得たセルロースは、リグニン由来のピークが低く、高純度のセルロースであることがわかった。 5.イオン液体種によるセルロース回収効率の比較 上記1.と同様にしてブナ材からセルロースを抽出した。 ただし、セルロースの抽出用のイオン液体として、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートを用いた。 結果を表1及び図7に示す。 これらの結果から、本発明の方法においては各種のイオン液体を使用することができ、これらの中では1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートは特に良好な結果を与えることがわかった。 6.セルロース収率に対する腐朽処理期間の影響 上記1.と同様にしてブナ材からセルロースを抽出した。ただし、この実験においては、白色腐朽菌としてカワラタケを用い、腐朽処理期間は、腐朽処理無し(0週間)、2週間、4週間、6週間、8週間、10週間とした。また、この実験においては、イオン液体として1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートを用いた(処理時間は3時間)。 セルロースの収率を、上記1.と同様に、 (セルロース重量)/(用いた木粉の重量)×100(%)として算出した。また、腐朽処理による質量減少率を、 (腐朽処理前のブナ材試験片の質量-腐朽処理後のブナ材試験片の質量)/(腐朽処理前のブナ材試験片の質量)×100(%)として算出した。 結果を表2及び図8に表す。 この実験の条件下では、腐朽による質量減少率は腐朽処理の期間が10週間まで増加したが、腐朽処理の期間が8週間の場合に最も再生セルロース収率が高くなることがわかった。また、腐朽処理によって木材の構成成分の分解が進みすぎると再生セルロース収率が低下することがわかった。 7.回収されたセルロースのHPLC分析 上記1.と同様にしてブナ材からセルロースを抽出した。ただし、この実験においては、白色腐朽菌としてカワラタケを用い、腐朽処理期間は、腐朽処理無し(0週間)又は8週間とした。また、この実験においては、イオン液体として1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートを用いた(処理時間は3時間)。 回収されたセルロースには、セルロース以外の物質も含有されていることが予想される。また、質量測定以外でセルロース量を直接定量する方法がないが、構成糖の量からセルロース量を推定することができる。そこで、回収されたセルロース中の、セルロースやヘミセルロースの構成糖であるブドウ糖及びキシロースの組成を、HPLC(高速液体クロマトグラフィ)を用いて屈折率(RI)計によって分析した。測定は、Bioresource Technology 128 (2013) 188-192、「Effect of ionic liquid weight ratio on pretreatment of bamboo powder prior to enzymatic saccharification」、K. Ninomiya et al.の方法に基づいて、カラム温度85℃、溶離液は純水とし、溶離液の流量は0.4mL/minの条件で行った。なお、この方法では、セルロースは分解されてブドウ糖として検出される。 ブナ材の木粉1gあたりから得られた糖の収量を、 構成糖の質量/木粉の質量として算出した。結果を表3及び図9に表す。 イオン液体処理後に回収した再生セルロースは茶褐色であり、セルロース以外の成分を含んでいる可能性がある。そこで、セルロースなどの多糖類の構成糖の量を比較することで、白色腐朽菌による腐朽処理の有効性について検討した。その結果、白色腐朽菌(リグニン分解菌)で処理すると、腐朽処理なしと比較して得られる構成糖の量が多いことから、白色腐朽菌(リグニン分解菌)で処理したほうが、不純物の少ないセルロース等の糖類が得られることが判明した。 植物系バイオマス又はリグノセルロースを、白色腐朽菌を含む微生物で腐朽処理する工程と、前記処理後の植物系バイオマス又はリグノセルロースを、イオン液体中で加熱処理する工程とを含む、セルロースの溶解又は抽出方法。 白色腐朽菌が、カワラタケである、請求項1記載の方法。 イオン液体が、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートである、請求項1又は2記載の方法。 植物系バイオマス又はリグノセルロースを、白色腐朽菌を含む微生物で腐朽処理する工程と、前記処理後の植物系バイオマス又はリグノセルロースを、イオン液体中で加熱処理する工程と、前記加熱処理後のイオン液体に水性溶媒を添加してセルロースを分離する工程とを含む、セルロースの回収方法。 白色腐朽菌が、カワラタケである、請求項4記載の方法。 イオン液体が、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートである、請求項4又は5記載の方法。 【課題】多量の廃棄物を生じるような高温高圧処理等を必要としない、簡便な、植物系バイオマス又はリグノセルロースからのセルロースの溶解及び/又は抽出方法、特に簡便で高効率な植物系バイオマスの糖化前処理技術を提供する。【解決手段】植物系バイオマス又はリグノセルロースを、白色腐朽菌を含む微生物で腐朽処理する工程と、前記処理後の植物系バイオマス又はリグノセルロースを、イオン液体中で加熱処理する工程とを含む、セルロースの溶解又は抽出方法。【選択図】なし


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