生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_ニトロイミダゾールを用いたプロドラッグ
出願番号:2013558712
年次:2015
IPC分類:C07D 233/91,C07D 403/06,C07H 19/06,A61K 31/4168,A61K 31/513,A61K 31/7068,A61K 47/48,A61P 35/00,A61P 43/00


特許情報キャッシュ

長崎 幸夫 池田 豊 久野 光 JP 5676020 特許公報(B2) 20150109 2013558712 20130213 ニトロイミダゾールを用いたプロドラッグ 国立大学法人 筑波大学 504171134 特許業務法人小田島特許事務所 110000741 長崎 幸夫 池田 豊 久野 光 JP 2012028761 20120213 20150225 C07D 233/91 20060101AFI20150205BHJP C07D 403/06 20060101ALI20150205BHJP C07H 19/06 20060101ALI20150205BHJP A61K 31/4168 20060101ALN20150205BHJP A61K 31/513 20060101ALN20150205BHJP A61K 31/7068 20060101ALN20150205BHJP A61K 47/48 20060101ALN20150205BHJP A61P 35/00 20060101ALN20150205BHJP A61P 43/00 20060101ALN20150205BHJP JPC07D233/91C07D403/06C07H19/06A61K31/4168A61K31/513A61K31/7068A61K47/48A61P35/00A61P43/00 123 C07D 233/91 C07D 403/06 C07H 19/06 A61K 31/4168 A61K 31/513 A61K 31/7068 A61K 47/48 A61P 35/00 A61P 43/00 CAplus/REGISTRY(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) 国際公開第2009/018163(WO,A1) 特表2010−508292(JP,A) 特開2007−230958(JP,A) Hay, Michael P. et al.,Nitroimidazole-based 'extruded mustards' designed as reductively activated hypoxia-selective cytotox,Anti-Cancer Drug Design,1996年,Vol.11(5),p.383-402 Hay, Michael P. et al.,Hypoxia-selective antitumor agents. 8. Bis(nitroimidazolyl)alkanecarboxamides: a new class of hypox,Journal of Medicinal Chemistry,1994年,Vol. 37(3),p.381-91 Li, Zejun et al.,Synthesis and in vitro and in vivo evaluation of three radioiodinated nitroimidazole analogues as tu,Nuclear Medicine and Biology,2005年,Vol.32(3),p.225-231 4 JP2013053429 20130213 WO2013122112 20130822 19 20140630 清水 紀子 本発明は、2−ニトロ−1−イミダゾールプロピオン酸と治療的活性化合物たる薬剤のコンジュゲートに関する。より具体的には、生体の低酸素部位または還元環境下でニトロイミダゾールと薬剤の間の共有結合が開裂し、活性な形体で治療的活性化合物を放出できる当該プロドラッグ、及び当該コンジュゲートを提供するための2−ニトロ−1−イミダゾールプロピオン酸の使用に関する。 低酸素部位の腫瘍は浸潤、転移及び耐性癌の原因となっており、癌の根治を妨げる最大の要因であり、これら低酸素環境下にある腫瘍細胞の治療法の開発は切に望まれている。 低酸素部位の癌細胞を標的とした医薬品はトリアパザミン(Triapazamine)、AQ4N〔バノキサントロン・二塩酸(banoxantrone dihydrochloride)〕、PR104〔ジニトロベンズアミド・ナイトロジェンマスタード プロドラッグ(dinitrobenzamide nitrogen mustard prodrug)〕及びTH−302〔N,N’−ビス(2−ブロモエチル)ホスホロジアミジックアシッド(1−メチル−2−ニトロ−1H−イミダゾール−5−イル)メチルエステル(N,N’−bis(2−bromoethyl)phosphorodiamidic acid(1−methyl−2−nitro−1H−imidazol−5−yl)methyl ester)〕等現在数種類の臨床試験が行われているが、現時点で、上市されたとの情報はない。 このような保護基として作用する、例えば、ジニトロベンズアミドが非特許文献1に開示されており、また、TH−302に関連するニトロイミダゾール類が非特許文献2、特許文献1、特許文献2に開示されている。TH−302は次の反応スキームにより表されるように、保護基−薬剤の結合を開裂し、薬剤を放出する機序を利用するものと理解される。 特許文献1及び2のどちらも、薬剤はイミダゾール環を構成する炭素原子にメチレンオキシ基(−CH2−O−)を介して結合しており、上記の反応スキームと同様の機序によりプロドラッグから薬剤を放出するものと理解される。しかしながらこのシステムでは薬剤の放出効率が薬剤の脱離能に依存しており、放出される薬剤は脱離しやすいフェノール性の水酸基やリン酸を有する化合物等に限定される。 特許文献3には、生体還元性基(Hyp:例えば、2−ニトロイミダゾリル)がその1位でリンカー〔L:−CH2CH2CH2−C(=O)−〕を介してアントラサイクリン系抗癌剤(Q)のアミノ基に共有結合させた低酸素活性化コンジュゲート(Hyp−L−Q)が記載されている。このコンジュゲートである化合物は、低酸素腫瘍領域で−L−Q部分が結合したままであるが、2−ニトロイミダゾリルのニトロ基ヒドロキシアミンに還元され、こうしてイミダゾリルの4位もしくは5位を介してDNAをアルキル化でき、一方で、Qを構成するアントラサイクリンがDNA塩基間にインターカレートすることで癌細胞を殺すことが示唆されている。しかしながら、当該文献では、リンカーが「−C3H6−C(=O)−」である化合物は、リンカーが、例えば、−CH2(CH2)aCH2−O−CH2−(ここで、aは0または1の整数である。)である対応する化合物に比べて低酸素下の肺癌細胞に対して著しく低い細胞毒性を示すにすぎないことが明らかにされており、現に、前記化合物は当該特許出願においてクレームの範囲外におかれている。 さらに、特許文献4には、例えば、N−メチル−2−ニトロ−1−イミダゾールプロパノイルアミド等のアミド類が放射線増感作用とともに単独で抗悪性腫瘍作用を有することが記載されている。しかし、かようなイミダゾールカルボン酸が他の薬剤とのコンジュゲートまたはプロドラッグを形成するのに使用できることは何ら記載も示唆もされていない。WO2000/64864または特表2002−543059WO2004/087075または特表2006−521409WO2009/018163 A1JP7(1995)−101860 AB.M.Sykes et al.,J.Med.Chem.1999,42,345−355J.Duan et al.,J.Med.Chem.2008,51(8):2412−2420 本発明者等は、2−ニトロイミダゾールは酸化還元電位が比較的高く生体内の低酸素部位で効率よく還元されるので、ニトロ基がヒドロキシアミン及びアミンに還元され、こうして起こる分子の構造変化を化合物の放出に展開または応用できれば低酸素部位特異的な制癌剤の開発につながるものと推定した。すなわち通常の酸素濃度では化合物がプロドラッグの形で存在するため活性を有さないが、低酸素部位において構造変化を起こし活性型となるのであれば、抗癌剤の副作用を抑え、低酸素部位において活性を有する医薬品開発が可能となろう。したがって、本発明の目的は、従来技術に比べ、より汎用性があり、腫瘍等の低酸素部位において特異的に分子構造が変化し、効率よく薬剤等の化合物を放出するシステムを提供するにある。 非特許文献1では、2−ニトロイミダゾール骨格の1位と結合した、リンカー:−CH(−Me)−C(=O)−のカルボニル基に薬剤が共有結合した化合物は、ニトロイミダゾール部が還元されても分子内環化反応が起こらず、薬剤が放出されない旨示唆されている。一方、特許文献3では、リンカー部が−CH2CH2CH2−C(=O)−で表されるHyp−L−Qは、低酸素下でHypに相当する2−ニトロイミダゾール部は還元されるものの、L−Qの結合は開裂しないことが記載されている。 意外にも、当該カルボニル基を介して形成されたアミド結合、イミド結合またはエステル結合は還元環境下、特に、生体内の低酸素部位において開裂することを本発明者等は見出した。 このような開裂は、理論に拘束されるものではないが、還元環境下でイミダゾール環上のニトロ基がヒドロキシアミンまたはアミノ基に変換され、当該アミノ基が分子内で求核攻撃を行う次の反応スキームに従う分子内環化反応を伴って起こるものと理解できる。 本願発明に従えは、前記アミド結合、イミド結合またはエステル結合が還元環境下で開裂し、その場でそれ自体活性を持つ薬物を放出するので、還元環境下で選択的に放出されることに技術的に意味のある、多種多様な薬物のコンジュゲートまたはプロドラッグとなり得る化合物を提供できる。 したがって、本発明は、広く、2−ニトロ−1−イミダゾールプロピオン酸を、多種多様な薬物、特に、治療的活性有機化合物のプロドラッグを提供するために使用できることを見出したことに基づく。 本発明の一態様としては、一般式(I) 一般式(I)で表される化合物またはその製薬学的に許容される塩: 式中、Zは、式(a):または、式(b):−O−R3 (b)を表し、式中、R1は、アミノ基を持つ治療的活性有機化合物から当該アミノ基を除去した残基であり、かつ、R2が水素原子であるか、または、R1とR2が隣接するN原子と一緒になって、環状アミノ基を持つ治療的活性有機化合物の残基を表す、R3は、ヒドロキシル基を持つ治療的活性有機化合物から当該ヒドロキシ基を除去した残基である。 また、本発明の別の態様としては、式(II) で表される2−ニトロ−1−イミダゾールプロピオン酸を反応体として含む分子中にアミノ基、環状アミノ基またはヒドロキシル基を分子中に持つ治療的活性有機化合物のプロドラッグを製造するための調製物、または 分子中にアミノ基、環状アミノ基またはヒドロキシル基を分子中に持つ治療的活性有機化合物のプロドラッグを製造するための反応体としての式(II)で表される化合物の使用、についても提供される。 このような一般式(I)の化合物は、2−ニトロ−1−イミダゾールプロピオニル(以下、Izpと略称することがある。)が治療的活性有機化合物に結合していることにより、当該有機化合物が本来持っている生物活性(例えば、細胞毒性、その他の活性)を低下またはマスクする一方で、還元環境下、特に、哺乳動物の低酸素部位でIzp部分とZに相当する部分が選択的に開裂する。かような開裂によりもたらされる当該有機化合物はそれら本来の活性を低酸素部位またはその周辺で示すようになる。 したがって、一般式(I)で表される化合物は、それに含まれる治療的有機化合物を哺乳動物の特定部位で放出できるので、より安全かつ、効果的に使用できる。発明の詳細な記述 本明細書で用いるか、または本発明に関して用いる技術用語は、別に定義しないかぎり当該技術分野で一般的に用いられている意味、内容を持つ。 こうして、「プロドラッグ」とは、それ自体当該技術分野で用いられている意味を有し、例えば、生理活性物質または治療的活性有機化合物を化学的に修飾し、生体内で酵素的またはその他の条件下で親化合物を遊離もしくは放出するように設計された化合物を意味する。 「コンジュゲート」とは、2種以上の異なる化合物が共有結合して形成された結合体を意味し、プロドラッグを包合する概念として用いている。 「治療的活性有機化合物」は、哺乳動物、特にヒトの疾患、障害、等を治療または予防する活性を持つ有機化合物を意味する。かような疾患、障害としては、腫瘍、特に悪性腫瘍、及び炎症であって、これらの病巣またはその周辺領域が正常な組織または細胞領域に比べて低酸素状態を伴うものを挙げることができる。 「抗腫瘍剤または物質」及び「抗癌剤」は互換可能な用語として使用している。 治療的活性有機化合物に包含される抗腫瘍物質には、現在、癌の化学療法に使用されているか、または使用するために試験中である化合物のみならず、毒性または副作用が強いため臨床使用があきらめられた化合物、さらには本発明の目的の沿うのであれば、将来抗癌剤として提供される化合物も包含される。このような抗癌剤には、限定されるものではないが、ドキソルビシン、イダルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、ピラルビシン、アムルビシン、アクラシノマイシン、アントラマイシン、ゾルビシン等のアントラサイクリン系、ブレオマイシン、アクチノマイシン等のペプチド系、カンプトテシン、トポテカン、イリノテカン等のキノリンアルカロイド系、ドセタキセル、パクリタキセル等のタキサン系、ビノレルビン(vinorelbine)、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン等のビンカアルカロイド系、ゲムシタビン、シタラビン等のデオキシシチジン系、5−フルオロウラシル、カペシタビン、ドキシフルリジン等のピリミジン系、フルダラビン、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン等のプリン環誘導体系、エポチロン等のマクロライド系、メルファラン等のアミノ酸誘導体系、メトトレキサート、ペメトレキセド等の葉酸誘導体系に包含される化合物が挙げられる。 他方、治療的活性有機化合物に包含される抗炎症には、メサラジン等のサリチル酸系非ステロイド抗炎症剤、ピロキシカム、メロキシカム、テノキシカム等のオキシカム系非ステロイド系抗炎症薬、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、コルチゾン酢酸エステル、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド等のステロイド系抗炎症薬等が挙げられる。 これらの抗腫瘍物質の分子中に存在し、式(II)の化合物との反応によりアミド結合、イミド結合、またはエステル結合を形成するのに使用できるアミノ基もしくは環状アミノ基またはヒドロキシル基は、例えば、アンスラサイクリン類では、糖部分に存在するアミノ基またはヒドロキシル基を、ペプチド系抗生物質はアミノ基を、キノリンアルカロイド類ではE環のヒドロキシル基を、タキサン類ではタキサン環に結合している水酸基または側鎖のヒドロキシルを、ビンカアルカロイド類ではインドール環上の環状アミノ基を、デオキシシチジン誘導体では、シトシン塩基の環外アミノ基またはリボース環上のヒドロキシルを、ピリミジン系誘導体では、ピリミジン環上の環状アミノ基またはリボース環上のヒドロキシルを、プリン環誘導体ではプリン環の環状アミノ基もしくは環外アミノ基またはリボース環上のヒドロキシル基を、マクロライド系抗生物質ではマクロライド環上のヒドロキシル基を、アミノ酸誘導体ではα炭素に結合しているアミノ基を、葉酸代謝拮抗剤では複素環に結合しているアミノ基を挙げることができる。 また、抗炎症剤の分子中に存在し、式(II)の化合物との反応によりアミド結合、イミド結合、またはエステル結合を形成するのに使用できるアミノ基もしくは環状アミノ基またはヒドロキシル基は、例えば、サリチル酸系ではベンゼン環に結合した水酸基もしくはアミノ基を、オキシカム系では環状スルホンアミドに存在する水酸基を、ステロイド系では21位の炭素に結合している水酸基を挙げることができる。 したがって、一般式(I)にいう、 アミノ基を持つ治療的活性有機化合物の代表的な化合物としては、ドキソルビシン、イダルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、ピラルビシン、アムルビシン、アクラシノマイシン、アントラマイシン、ゾルビシン、ブレオマイシン、アクチノマイシン、ゲムシタビン、シタラビン、メトトレキサート、ペメトレキセド、メルファラン、メサラジンを挙げることができ、 環状アミノ基を持つ治療的活性有機化合物の代表的な化合物としては、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、5−フルオロウラシル、6−メルカプトプリンを挙げることができ、 ヒドロキシル基を持つ治療的活性有機化合物の代表的な化合物としては、がドセタキセル、パクリタキセル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、ドキソルビシン、イダルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、ピラルビシン、アムルビシン、アクラシノマイシン、アントラマイシン、ゾルビシン、ブレオマイシン、アクチノマイシン、ゲムシタビン、シタラビン、カペシタビン、ドキシフルリジン、エポチロン、ピロキシカム、メロキシカム、テノキシカム、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、コルチゾン酢酸エステル、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニドを挙げることができる。 これらのうち、治療的活性有機化合物の好ましいものとしては、ドキソルビシン、イダルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、ピラルビシン、アムルビシン、アクラシノマイシン、アントラマイシン、ゾルビシン、ブレオマイシン、アクチノマイシン、カンプトセシン、トポテカン、イリノテカン、ドセタキセル、パクリタキセル、ビノレルビン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、ゲムシタビン、シタラビン、5−フルオロウラシル、カペシタビン、ドキシフルリジン、フルダラビン、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、エポチロン、ピロキシカム、メルファラン、メトトレキサート、ペメトレキセド、メサラジン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、ベタメタゾンを挙げることができ、より好ましいものとしては、ドキソルビシン、イダルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、ピラルビシン、アムルビシン、アクラシノマイシン、アントラマイシン、ゾルビシン、ゲムシタビン、シタラビン、メトトレキサート、ペメトレキセド、メルファラン、メサラジン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、5−フルオロウラシル及び6−メルカプトプリン、プレドニゾロンを挙げることができる。 一般式(I)の化合物の製薬学的に許容される塩は、当該化合物が上記アミド結合、イミド結合を形成するアミノ基または環状アミノ基以外に塩基性の基を持つ場合には、塩酸、硫酸等の鉱酸、ギ酸、酢酸、クエン酸、メタンスルホン酸等の有機酸の酸付加塩であることができ、一方、当該化合物がカルボキシル基、水酸基等の酸性基を有する場合は、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、アンモニウム、メチルアミン等の有機アミンの付加塩であることができる。 本発明に関して、「低酸素部位」には、インビボまたはインビトロのいずれであるかを問わず使用しているが、好ましくは哺乳動物、特にヒトの生体内の、特に、固形癌病巣または固形癌細胞集団等、並びにその周辺領域が包含される。 分子中にアミノ基、環状アミノ基及び/またはヒドロキシル基を持つ治療的活性有機化合物と式(II)の化合物との反応によりアミド結合、イミド結合またはエステル結合を形成することによる一般式(I)の化合物を製造するには、適当な非活性溶媒中で、当該有機化合物と式(II)の化合物を当該技術分野でそれ自体周知の縮合剤(例えば、カルボジイミド類)の存在下で反応させるか、或は、式(II)の化合物の活性エステル(ハロゲン化物、N−ヒドロキシコハク酸イミドとのエステル等)を一般式(I)の化合物と適当な溶媒中で反応させればよい。当該有機化合物の分子中にアミノ基もしくは環状アミノ基とヒドロキシル基が共存するときには、必要により、当該技術分野で公知の方法により、いずれかの基を保護した後、上記のいずれかの反応を行えばよい。 一般式(I)で表される化合物またはプロドラッグは、親化合物たる治療的活性有機化合物が投与されているのと同様の剤形で、同様の投与経路から患者に投与できる。限定されるものではないが、製剤は、製薬学的に許容される担体を用いて調製できる。例えば、非経口または筋肉内投与に適する製剤としては、バッファー、張度調節剤、等を含め、必要に応じて、界面活性剤、リポソーム形成剤、高分子ミセル形成剤、等を含む、水性または非水性の溶液または希釈剤に溶解または懸濁させて調製できる。投与量は、親化合物の用量を参考に、必要があれば専門医と相談して決定すればよい。例1の環化反応により生成した化合物4のNMRチャート。例4で通常酸素及び低酸素環境下でのナフチルメチルアミンの放出量の比較検討を行った高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の測定結果を示すグラフ。例5によるヒト膵臓がん細胞を用いる一般式(I)のモデル化合物からのアミノ基を持つ有機化合物の放出挙動を示すグラフ。例7による細胞生存率の評価(低酸素環境応答性ドキソルビシン)の結果を示すグラフ。比較実験例による本発明の化合物と構造類似の公知化合物の細胞毒性についての比較試験の結果を示すグラフ。例9による細胞生存率評価(低酸素環境応答性ゲムシタビン)の結果を示すグラフ。例11による細胞生存率評価(低酸素環境応答性5−フルオロウラシル)の結果を示すグラフ。例16による低酸素環境下でのプレドニゾロンプロドラッグからの薬剤の放出挙動を示すグラフ。発明の具体的な態様 以下、具体例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの例に本発明を限定することを意図するものでない。例1:メチル 3−(2−ニトロ−1H−イミダゾールイル)プロピオネートの還元 文献(M.P.Hay et al.,J.Med.Chem.1994,37,381−391)に記載の方法に準じて合成した化合物1の200mgを加えた反応容器にメタノール10mL,Pd/C 150mgを入れ、水素ガスを充填させた。水素ガスを充填させたまま24時間撹拌し、反応後TLC(展開溶媒 酢酸エチル:ヘキサン=1:1)によって反応の進行を確認した。次にセライト濾過によってPd/Cを除去し、最後にエバポレーターを用いてメタノールを除去した。その結果、中間体3が単離されることなく還元反応中の溶液で速やかに環構造を形成して化合物4が生成した。得られた化合物4のNMRチャートを図1に示す。 このチャートから、化合物(1)を還元することにより環状構造を有する化合物4が生成したことが確認された。すなわち、式(I)で表される化合物の類似体がその分子内環化反応を伴いエステル結合が開裂し、HOMeを放出することがわかる。例2:N−ナフチルメチル−3−(2−ニトロ−1H−イミダゾールイル)プロピオニルアミドの製造 文献(M.P.Hay et al.,J.Med.Chem.1994,37,381−391)に記載の方法に準じて合成した化合物2(100mg)を50mLのナスフラスコに加え、スターラーで撹拌しながら反応容器に1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(155.6mg),N,N−ジメチル4−アミノピリジン(6.7mg),塩化メチレン(5.4mL),1−ナフチルメチルアミン(119.27μL)を入れ、2日間撹拌した。100mLの分液ロートに酢酸エチル20mLと飽和塩化アンモニウム20mLを入れ、有機層と水層に分離した。回収した酢酸エチル層に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液及び飽和NaCl水溶液を加えて分離を行い、有機層を回収した。有機層を無水Na2SO4で乾燥後、エバポレーターで溶媒を除去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 酢酸エチル:ヘキサン=1:1 400mL)で単離精製し、エバポレーターで溶媒を除去し、標題の化合物5を得た。ESI−MS(M+H+)理論値:325.130,実測値:325.126例3:化合物5の還元 50mLのナスフラスコに撹拌子と化合物5(10mg)を加えた。スターラーで撹拌しながら反応容器にメタノール10mL,Pd/C 50mgを入れ、水素ガスを充填させた。水素ガスを充填させたまま24時間間撹拌し、反応後TLC(展開溶媒 酢酸エチル:ヘキサン=1:1)によって反応の進行を確認した。次にセライト濾過によってPd/Cを除去し、最後にエバポレーターによってメタノールを除去した。エレクトロスプレーイオン化質量分析により解析したところ、化合物4の生成を示す結果が得られた。すなわち、分子内環化反応を伴いアミド結合が開裂し、ナフチルメチルアミンを放出することがわかる。化合物4の分子量理論値:138.067、実測値:138.063例4:化合物5の低酸素下にある培養細胞中でのインキュベーション この例は、化合物5が低酸素環境下の細胞で還元され、その後の分子内環化反応によりナフチルメチルアミンを放出することを確認するために行った。 細胞数が1×104cell/mLになるように調整し、96wellプレートに播種し、24時間インキュベーターで37℃のもと培養した。24時間後、合成した化合物5を細胞中で1mMになるように添加した。添加した後、通常酸素濃度インキュベーター(20%O2)と低酸素ワークステーション(1%O2)でそれぞれ6時間培養した。その後、培地を回収した、50uLのTrypsin/EDTAを加えて5分間インキュベーションを行って細胞をはがし、先に回収した培地に加えた。その後、回収サンプルを一晩凍結乾燥し、アセトニトリルを200uL加えて超音波洗浄を30分間行った。さらに、遠心分離機(3,000rpm,10min)で死細胞を沈殿させ、上澄みを回収し、アセトニトリルを遠心エバポレーターによって除去した。そのエッペンチューブにメタノール(LC/MS用)を200uL加え、フィルター(0.2um)を通してLC/MS測定および高速液体クロマトグラフィー(HPLC)測定を行った。この測定を行う事で低酸素環境と正常酸素環境での放出量の差を比較した。HPLCの結果を図2に示す。図より、低酸素環境下で多くのナフチルメチルアミンが放出されていることがわかる。例5:化合物5の低酸素下にある培養細胞中でのインキュベーション ヒト膵臓がん細胞(MIA PaCa−2、理研セルバンクより入手)を細胞数が1×104cell/mLになるように調整し、96wellプレートに播種した。24時間後、化合物5を10μMの濃度で加え、通常酸素濃度インキュベーター(20%O2)と低酸素ワークステーション(0.1%O2)でそれぞれ培養した。時間経過後培地を回収し、更にトリプシンを加え細胞を回収した。回収した細胞を超音波処理により粉砕し、アセトニトリルで化合物を抽出して下記条件によりLC/MSにより解析を行った。使用カラム : Lachrom Urtra C18(粒子径2um,2mm×50mm)カラム測定波長 : 220nm溶離液A :0.1%TFA含有milliQ溶離液B :アセトニトリル流速 :0.2mL/minグラジエント95:5(溶離液A:溶離液B)→95:5(5分)→30:70(15分)この測定を行うことで低酸素環境と正常酸素環境での放出量の差を比較した。HPLCの結果を図3に示す。図より、低酸素環境下で多くのナフチルメチルアミンが放出されていることがわかる。例6:ドキソルビシンのプロドラッグの製造(1)化合物6の合成 例2と同様に合成した化合物2(60mg)に1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(80.8mg)加え、N−ヒドロキシコハク酸イミド(48mg)を加えN,N−ジメチルホルムアミド(1mL)中、氷冷下で1時間反応させその後室温で3時間反応させた。反応後、氷冷下で酢酸を数滴滴下し30分撹拌した。酢酸エチルと飽和食塩水で分液を行い、有機層をエバポレーションにより濃縮し、2−プロパノールを加えて加熱し不純物を濾別し、濾液を氷冷することにより化合物6を得た(50mg)。ESI−MS(M+H+)理論値:283.068,実測値:283.079(2)化合物7の合成 ドキソルビシン(3mg)に化合物6(2.2mg)をN,N−ジメチルホルムアミド(50μL)と水(50μL)の混合溶媒中で加え、トリエチルアミン(1.4μL)を加え24時間室温において反応させた。反応後、逆相HPLCカラム(GL Sciences Inc.Inertsil ODS−3 20X50mm、流速 5ml/min、展開液:メタノール/水=60/40(0min)〜100/0(20min)により精製した。ESI−MS(M+Na+)理論値:733.1967,実測値:733.2013 こうして、上記反応スキームに記載の化合物7が得られた。例7:細胞生存率の評価(低酸素環境応答性ドキソルビシン) ヒト膵臓がん細胞(MIA PaCa−2、理研セルバンクより入手)MIA PaCa−2を5000cells/wellの濃度で撒きダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で24時間培養した後に化合物7を指定濃度で加え、6時間通常酸素濃度(20%)及び低酸素濃度(0.1%)で培養した。培養後DMEM培地交換を行い、化合物を除去し、通常酸素濃度のインキュベーターにおいて48時間培養し、その後WSTアッセイにより細胞の生存率を解析した。結果を図4に示す。 図より、化合物7は、通常酸素濃度下に比べて低酸素濃度下で、ヒト膵臓がん細胞の生存率を有意に低下させることがわかる。比較実験例:本発明の化合物と構造類似の公知化合物の細胞毒性についての比較 WO2009/018163 A1に記載されている下記化合物8を用意し、その化合物と本発明の範囲内の化合物(対応するリンカーが−CH2CH2C(=O)−であること以外、ニトロイミダゾール及び薬剤との結合様式は同じ。実施例6の化合物7)について実施例7に記載の方法に従って試験したときの細胞生存率を比較した。結果を図5に示す。 図から、本発明の化合物7は公知化合物8に比べてヒト膵臓がん細胞に対して有意に高い細胞毒性を示すことがわかる。例8:低酸素環境応答性ゲムシタビンプロドラッグの合成 ピリジン(1mL)に溶解させたゲムシタビン(22mg)にトリメチルクロロシラン(47μL)を加え0℃で2時間撹拌した。その後、アセトニトリル(1mL)に溶解させた化合物6を加え45℃で12時間撹拌した。反応後エタノール(1mL)を加え45℃で30分撹拌し、水(1mL)加え45℃で30分撹拌した。エバポレーションにより溶媒を除去し、逆相HPLCカラム(GL Sciences Inc. Inertsil ODS−3 20X50mm、流速5mL/min、展開液:アセトニトリル/水=20/80(0min)〜50/50(30min)により精製した。 こうして精製し化合物9を得た。収率 20%ESI−MS [M+H]+:理論値:431.11、実測値:431.20)例9:細胞生存率評価(低酸素環境応答性ゲムシタビン) ヒト膵臓がん細胞(MIA PaCa−2、理研セルバンクより入手)MIA PaCa−2を5000cells/wellの濃度で撒きDMEM培地中で24時間培養した後に、化合物9を指定濃度で加え、1時間通常酸素濃度(20%)及び低酸素濃度(0.1%)で培養した。培養後培地交換を行い、化合物9を除去し、通常酸素濃度のインキュベーターにおいて48時間培養し、その後WSTアッセイにより細胞の生存率を解析した。結果を図6に示す。例10:低酸素環境応答性フルオロウラシルプロドラッグの合成 塩化メチレン(1mL)に溶解させた化合物2(30mg)に塩化チオニル(500μL)を加え60℃で2時間反応させた。反応後、エバポレーションにより溶媒を除去した。生成物(化合物10)を塩化メチレン(1mL)に溶解させ、ピリジン(1mL)に溶解させた5−FU(21mg)を加え0℃で30分反応させた後、室温で12時間反応させた。反応後エバポレーションにより溶媒を除去し、逆相HPLCカラム(GL Sciences Inc.Inertsil ODS−3 20X50mm、流速5mL/min、展開液:アセトニトリル/水=20/80(0min)〜50/50(30min)により精製し、化合物11及び12を混合物として得た。収率 45%ESI−MS[M−H]−:理論値296.1、実測値296.1)例11:細胞生存率評価(低酸素環境応答性5−フルオロウラシル) ヒト膵臓がん細胞(MIA PaCa−2、理研セルバンクより入手)MIA PaCa−2を5000cells/wellの濃度で撒き、DMEM培地中で24時間培養した後に、化合物11および12の混合物を指定濃度で加え、24時間通常酸素濃度(20%)及び低酸素濃度(0.1%)で培養した。培養後培地交換を行い、化合物を除去し、通常酸素濃度のインキュベーターにおいて48時間培養し、その後WSTアッセイにより細胞の生存率を解析した。結果を図7に示す。例12:低酸素環境応答性メサラジンプロドラッグの合成 例10と同様に合成した化合物10(0.11mmol)を塩化メチレン(1mL)に溶解させ、ピリジン(1mL)に溶解させたメサラジン(16mg)を加え0℃で30分反応させた後、室温で24時間反応させた。反応後エバポレーションにより溶媒を除去し、逆相HPLCカラム(GL Sciences Inc.Inertsil ODS−3 20X50mm、流速 5ml/min、展開液:メタノール/水=20/80(0min)〜80/20(30min)により精製し化合物14を得た。収率 35%ESI−MS[M−H]−:理論値319.07、実測値 318.78例13:低酸素環境応答性メルファランプロドラッグの合成 例10と同様に合成した化合物10(0.11mmol)を塩化メチレン(1mL)に溶解させ、ピリジン(1mL)に溶解させたメルファラン(32mg)を加え0℃で30分反応させた後、室温で24時間反応させた。反応後エバポレーションにより溶媒を除去し、逆相HPLCカラム(GL Sciences Inc.Inertsil ODS−3 20X50mm、流速 5ml/min、展開液:メタノール/水=20/80(0min)〜80/20(30min)により精製し化合物15を得た。収率 38%ESI−MS[M−H]−:理論値470.10、実測値469.63例14:低酸素環境応答性メトトレキサートプロドラッグの合成 例10と同様に合成した化合物10(0.11mmol)を塩化メチレン(1mL)に溶解させ、ピリジン(1mL)に溶解させたメトトレキサート(50mg)を加え0℃で30分反応させた後、室温で24時間反応させた。反応後エバポレーションにより溶媒を除去し、逆相HPLCカラム(GL Sciences Inc.Inertsil ODS−3 20X50mm、流速 5ml/min、展開液:メタノール/水=20/80(0min)〜80/20(30min)により精製し化合物16および化合物17を混合物で得た。収率 51%MALDI−TOF MS[M−H]−:理論値620.19、実測値620.38例15:低酸素環境応答性プレドニゾロンプロドラッグの合成 例10と同様に合成した化合物10(0.16mmol)を塩化メチレン(1mL)に溶解させ、ピリジン(1mL)に溶解させたプレドニゾロン(84mg)を加え0℃で30分反応させた後、室温で24時間反応させた。反応後エバポレーションにより溶媒を除去し、飽和食塩水とクロロホルムにより分液を行い、硫酸ナトリウムで有機層を処理した後にエバポレーターを用いて濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィーにより精製して化合物13を得た。収率 42%ESI−MS(M+H+)理論値:528.23,実測値:527.93例16:低酸素環境下でのプレドニゾロンプロドラッグからの薬剤の放出 ヒト膵臓がん細胞(MIA PaCa−2、理研セルバンクより入手)を細胞数が1×104cell/mLになるように調整し、96wellプレートに播種した。24時間後、化合物13を10μMの濃度で加え、通常酸素濃度インキュベーター(20%O2)と低酸素ワークステーション(0.1%O2)でそれぞれ培養した。1時間後培地を回収し、更にトリプシンを加え細胞を回収した。回収した細胞を超音波処理により粉砕し、アセトニトリルで化合物を抽出して下記条件によりLC/MSによりプレドニゾロンの放出量解析を行った。使用カラム : TSKgel ODS−100Z(粒子径3um,2mm×75mm)カラム測定波長 : 250nm溶離液A :0.1M酢酸アンモニウム溶離液B :アセトニトリル流速 :0.2mL/minグラジエント40:60(溶離液A:溶離液B)〜10:90 (20分)この測定を行うことで低酸素環境と正常酸素環境での放出量の差を比較した。HPLCの結果を図8に示す。図より、低酸素環境下で多くのプレドニゾロンが放出されていることがわかる。 本発明によれば、正常酸素濃度環境下では親化合物の副作用が低減するが、低酸素環境下では親化合物本来の活性を示すプロドラッグが提供できる。したがって、本発明は、例えば、毒性の低減した治療的活性有機化合物を提供する製薬産業で利用できる。 一般式(I)で表される化合物またはその製薬学的に許容される塩: 式中、Zは、式(a):を表し、式中、R1は、アミノ基を持つ治療的活性有機化合物から当該アミノ基を除去した残基であり、R2は水素原子であるか、または、R1とR2は隣接するN原子と一緒になって、環状アミノ基を持つ治療的活性有機化合物の残基を表し、前記治療的活性有機化合物が、ドキソルビシン、ゲムシタビン及び5−フルオロウラシルからなる群より選ばれる。 下記式で表される、請求項1に記載の化合物。 下記式で表される、請求項1に記載の化合物。下記式のいずれかで表される、請求項1に記載の化合物。


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