生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_美容方法
出願番号:2013541091
年次:2014
IPC分類:A61K 8/99,A61Q 19/00,C12N 1/00,C12N 1/20


特許情報キャッシュ

本多 英俊 出来尾 格 JP 5584833 特許公報(B2) 20140725 2013541091 20121107 美容方法 株式会社バイオジェノミクス 504095173 学校法人九州文化学園 399015388 大竹 正悟 100106220 武田 寧司 100115613 本多 英俊 出来尾 格 JP 2011253056 20111118 20140903 A61K 8/99 20060101AFI20140814BHJP A61Q 19/00 20060101ALI20140814BHJP C12N 1/00 20060101ALI20140814BHJP C12N 1/20 20060101ALI20140814BHJP JPA61K8/99A61Q19/00C12N1/00 TC12N1/00 PC12N1/20 E A61K 8/00−8/99 A61Q 1/00−90/00 特開平06−135843(JP,A) 特開平06−271851(JP,A) 特開2006−219414(JP,A) 特開2005−304363(JP,A) 特開昭62−070307(JP,A) 特開2003−321341(JP,A) 6 JP2012078835 20121107 WO2013073431 20130523 11 20130906 手島 理 本発明は、皮膚環境の個人差に関わりなく、万人に適用可能であり、かつ副作用等の殆どない美容方法、スキンケア用組成物ならびにその製造に好適に用いられる菌体および乾燥菌体に関する。 人間の皮膚の表面には数十種類程度の皮膚常在菌が生息していることが知られている。皮膚常在菌の中には、黄色ブドウ球菌等のように人体に有害なものも存在する一方、皮膚状態を健全に保つ上で有用な有用菌も存在しており、常在菌を正常な状態に保つことが皮膚または皮膚表面の状態の改善のために有用である。例えば、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)は、グリセリンを産生することにより、皮膚の保湿機能やバリア機能の維持に大きく寄与していると共に、有機酸を産生し、皮膚の表面を弱酸性に保つことで、有害菌の繁殖を抑制する上でも大きな役割を果たしている(例えば、非特許文献1参照)。さらに、表皮ブドウ球菌は、有害菌である黄色ブドウ球菌の生育を阻害する抗菌ペプチドを産生する。 食中毒やインフルエンザ等の感染症の予防や、ニキビ等の皮膚疾患の予防のために、皮膚の表面を清浄に保ち、有害菌の繁殖を抑制することが有用であるとされている。そのため、石けん等の洗浄剤が用いられている。しかしながら、これらの洗浄剤を使いすぎると、セラミド等の皮膚の保湿成分が失われてしまうと共に、有用菌をも死滅させてしまうおそれがあり、却って逆効果となる場合がある。 皮膚常在菌叢に占める各菌種の存在割合は、種々の要因により影響を受けるが、有用菌の生育が何らかの要因により阻害されると、有害菌が優勢となり、各種疾患を引き起こすおそれがある。そこで、皮膚常在菌叢の健全化のために、有用菌に影響を与えず有害菌のみに対し選択的に殺菌作用または静菌作用を示す化合物についての研究開発が盛んに行われている。例えば、特許文献1には、皮膚常在菌の中でも増殖したアクネ菌(Propionibacterium属)にだけ効果的に作用し、好気性菌には作用しない、皮膚常在菌のバランスを健常な状態にする皮膚常在菌正常化剤として、オウレン抽出物を有効成分とするものが開示されている。特許文献2には、複数の糖がβ結合した水溶性糖類を含有する皮膚常在菌叢改善剤が開示されている。特許文献3には、黄色ブドウ球菌を静菌・殺菌し、表皮ブドウ球菌を増殖させる活性成分としてヒノキチオール配糖体を含有する皮膚常在菌の生態系バランス調整剤が開示されている。特許文献4には、表皮ブドウ球菌に対しては殺菌作用を示さず、黄色ブドウ球菌に対しては殺菌若しくは増殖抑制作用を有する有効成分として、キダチキンバイ及びタコノキ属植物抽出物から選択される1種または2種以上と、ニガリを含有する皮膚常在菌の生態系バランス調整剤が開示されている。特開2010−202604号公報特開2008−50322号公報特開2007−246411号公報特開2007−153800号公報出来尾 格、服部 正平共著、「人体と共生する100兆個の菌たち」、Newton(株式会社ニュートンプレス刊)、2010年11月号、68〜75ページ しかしながら、外在性の化合物を投与することにより皮膚常在菌叢の健全化を図るという特許文献1〜4の方法では、有害菌における薬剤耐性の獲得や、個人毎の皮膚環境の相違等により皮膚常在菌叢を構成する各菌種が変異を受け、薬剤感受性が変化した場合等に健全化効果を発揮できなくなるおそれがある。このような変化に応じて最適な薬剤を、多数の候補化合物の中からオーダーメイド的に選択することは大変な困難を伴う。 本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、皮膚環境の個人差に容易に対応可能で、副作用等の悪影響が少なく、有用菌を選択的に増殖させることにより皮膚常在菌叢の健全化を図ることが可能な、新規かつ安全な美容方法、スキンケア用組成物およびその製造に好適に用いられる乾燥菌体を提供することにある。 すなわち、本発明は、下記[1]〜[7]記載の美容方法、[8]〜[12]記載のスキンケア用組成物、[13]〜[17]記載の菌体および[18]の乾燥菌体を提供することにより上記課題の解決を図るものである。 [1] ヒトの皮膚表面に生息する細菌を採取する工程と、前記細菌のうち、ヒトの皮膚表面で増殖し、皮膚の健康状態を改善させる1または複数種の有用菌を選択的に増殖させる工程と、前記増殖させた有用菌の菌体、菌体成分および前記有用菌の産生物質からなる群より選択される1または複数を含む組成物をヒトの皮膚に投与する工程とを有する美容方法。 [2] 前記投与する工程において、前記細菌を採取したのと同一のヒト個体に前記組成物の投与(戻し)を行う上記[1]記載の美容方法。 [3] 前記細菌が皮膚常在菌である上記[1]または[2]記載の美容方法。 [4] 前記1または複数種の有用菌を選択的に増殖させる工程が、 採取した前記細菌を培地上で培養する予備培養工程と、 前記培養した細菌から前記有用菌を選抜する選抜工程と、 前記選抜した有用菌を培養する培養工程とを含む上記[1]から[3]のいずれか1項記載の美容方法。 [5] 前記細菌がヒトの健全な状態の皮膚表面に生息するものである上記[1]から[4]のいずれか1項記載の美容方法。 [6] 前記有用菌がコアグラーゼ陰性ブドウ球菌である上記[1]から[5]のいずれか1項記載の美容方法。 [7] 前記有用菌が表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)である上記[6]記載の美容方法。 [8] ヒトの皮膚表面から採取した皮膚常在菌より分離し選択的に増殖させた、ヒトの皮膚表面で増殖し、皮膚の健康状態を改善させる1または複数種の有用菌の菌体、菌体成分および前記有用菌の産生物質からなる群より選択される1または複数を含むスキンケア用組成物。 [9] 前記細菌が皮膚常在菌である上記[8]記載のスキンケア用組成物。 [10] 前記細菌が、ヒトの健全な状態の皮膚表面に生息するものである上記[8]または[9]記載のスキンケア用組成物。 [11] 前記有用菌がコアグラーゼ陰性ブドウ球菌である上記[8]から[10]のいずれか1項記載のスキンケア用組成物。 [12] 前記有用菌が表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)である上記[11]記載のスキンケア用組成物。 [13] ヒトの皮膚表面から採取した皮膚常在菌のうち、ヒトの皮膚表面で増殖し、皮膚の健康状態を改善させる1または複数種の有用菌を選択的に増殖させて得られる菌体。 [14] 前記細菌が皮膚常在菌である上記[13]記載の菌体。 [15] 前記細菌がヒトの健全な状態の皮膚表面に生息するものである上記[13]または[14]記載の菌体。 [16] 前記有用菌がコアグラーゼ陰性ブドウ球菌である上記[13]から[15]のいずれか1項記載の菌体。 [17] 前記有用菌が表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)である上記[16]記載の菌体。 [18] 上記[13]から[17]のいずれか1項記載の菌体を乾燥させて得られる乾燥菌体。 ヒトの皮膚より採取した細菌、特に皮膚常在菌は、ヒトに固有の皮膚環境下で特に増殖しやすい。そのため、ヒトの皮膚表面より採取した細菌から選択的に増殖させた1または複数種の有用菌、あるいはその増殖を促進させる有用菌の菌体成分または産生物質を含む組成物をヒトの皮膚表面に投与すると、有用菌が皮膚表面で優勢となることにより、有害菌の繁殖を有効に抑制でき、ひいては皮膚常在菌叢のバランスを適切に保つことができる。その結果、皮膚の健康状態を確実に保持または改善することができる。したがって、本発明により提供される美容方法およびスキンケア用組成物は、皮膚状態を健全に保つ上で有用である。また、本発明の美容方法およびスキンケア用組成物では、薬剤を使用しないため、安全であると共に、副作用等の悪影響が少ないという利点を有している。 特に、個人の皮膚より採取した細菌、特に皮膚常在菌は、皮膚環境の個人差に適応しており、その個人に固有の皮膚環境下で特に増殖しやすい。そのため、個人の皮膚表面より採取した細菌から有用菌のみを選択的に増殖させたものをその個人の皮膚表面に投与する(戻す)と、皮膚環境の個人差に関わりなく、有用菌が皮膚表面で優勢となることにより、有害菌の繁殖をより有効に抑制でき、ひいては皮膚常在菌叢のバランスをより適切に保つことができる。自己の皮膚常在菌由来の表皮ブドウ球菌の戻し作業が皮膚表面の表皮ブドウ球菌数に及ぼす影響を示すグラフである。自己の皮膚常在菌由来の表皮ブドウ球菌の戻し作業が表皮水分量に及ぼす影響を示すグラフである。 以下、本発明の実施形態(あくまで例示に過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。)について説明する。 本発明の一実施の形態に係る美容方法(以下、「美容方法」と略称する場合がある。)は、個人(ヒトの個体)の皮膚表面からその表面に生息する皮膚常在菌(細菌の一例)を採取する工程と、皮膚常在菌のうち、個人の皮膚表面で増殖し、皮膚の健康状態を改善させる1または複数種の有用菌を選択的に増殖させる工程と、増殖させた有用菌の菌体、菌体成分および有用菌の産生物質からなる群より選択される1または複数を含むスキンケア用組成物を個人の皮膚に投与する(戻す)工程とを有している。 美容方法に用いられるスキンケア用組成物は、個人の皮膚表面から採取した細菌より分離し選択的に増殖させた1または複数種の有用菌の菌体、菌体成分および有用菌の産生物質からなる群より選択される1または複数を含んでおり、個人の皮膚よりその表面に生息する細菌を採取する工程と、採取した細菌のうち1または複数種の有用菌のみを選択的に増殖させる工程とを含む方法により製造される。以下、スキンケア用組成物の製造に関する各工程についてより具体的に説明する。(1)細菌の採取 皮膚の表面には数十種類の皮膚常在菌を始めとする細菌が存在しているが、スキンケア用組成物の製造に用いられる細菌としては、皮膚の状態を健全に保つ上で有用なものであれば、これらのうち任意のものを単独で、あるいは任意の2以上のものを適宜組み合わせて用いてもよい。スキンケア用組成物の製造に好適に用いられる細菌としては、ヒトの皮膚常在菌が挙げられ、その具体例として、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)が挙げられる。 皮膚常在菌等の各種細菌は、全身の皮膚表面に存在するが、顔や脇の下等の表面に特に多く存在する。そのため、これらの部位から採取することが好ましい。特に、化粧品としてスキンケア用組成物を使用する場合には、顔の皮膚表面から細菌、例えば皮膚常在菌を採取することが好ましい。健康な皮膚表面では皮膚常在菌のバランスも適切に保たれていると考えられることから、皮膚常在菌の採取は健康な(健全な状態の)皮膚表面から行うことが好ましい。 細菌の採取は、皮膚表面からの細菌の採取および任意の菌株の単離が可能な任意の方法を用いて行うことができる。例えば、必要に応じて生理食塩水や緩衝液で湿らせ、滅菌した綿棒、ガーゼ、不織布、紙、スポンジ等の任意の器具で皮膚表面を拭うことにより採取する方法、滅菌した寒天培地を皮膚表面に圧着して細菌を皮膚表面から培地の表面に転写する方法、水、生理食塩水等の液体を皮膚表面に接触させ、皮膚表面に存在する細菌を液体中に懸濁させ液体と共に回収する方法等が挙げられる。採取した細菌に含まれる菌種およびそれらの数の比は、皮膚の健康状態を診断するための指標ともなるため、細菌の採取は、皮膚上の一定の面積から行うことが好ましい。滅菌綿棒で皮膚表面を拭う方法により細菌を採取する場合、滅菌綿棒で拭う面積を一定に保つために、合成樹脂やガラス等からなり、両端が開口した円筒状、楕円筒状、または角柱状の採取具を皮膚に軽く密着させ、開口の内部をくまなく拭うことにより細菌を採取してもよい。このような方法により、常に所定の面積範囲内の皮膚表面から細菌を採取することができる。 一方、滅菌した寒天培地を皮膚表面に圧着する方法を用いて細菌を採取する場合には、所定の面積(半径)を有する培地を用いることにより、常に一定の面積範囲内の皮膚表面から細菌を採取することができる。細菌の採取に用いることができる培地は特に限定されないが、皮膚常在菌の採取に用いられる培地の具体例としては、一般生菌用の標準寒天培地やトリプチケースソイ寒天培地、卵黄加マンニット食塩培地や食塩卵寒天培地等のブドウ球菌用の選択分離培地が挙げられる。なお、細菌の採取に用いられる培地は、皮膚表面に接触させるため、アレルゲンとして作用する可能性のある物質を含まない組成の培地を用いることが好ましい。(2)有用菌の選択的増殖 上記のようにして皮膚表面から採取した細菌には、有用菌も有害菌も含まれている。これらのうち、所望の1または複数種の有用菌のみを選択的に増殖させる。選択的な増殖の方法としては、所望の有用菌のみを分離後培養する方法、所望の有用菌のみが増殖する条件下で培養を行う方法があり、いずれの方法を用いてもよい。 前者の方法の一例として、有用菌を選択的に増殖させる工程は、下記の(i)〜(iii)の工程を含んでいてもよい。 (i)採取した細菌を培地上で培養する予備培養工程 (ii)培養した細菌の同定を行い、有用菌を選抜する選抜工程 (iii)選抜した有用菌を培養する培養工程(i)予備培養工程 滅菌綿棒等を用いて採取した細菌は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)等の希釈液を用いて所定の倍率(例えば10〜100,000倍)に希釈し、培養用の培地表面に塗布後、培養を行う。培養条件は、分離の目的とする有用菌の種類や使用する培地等の条件に応じて適宜設定される。 なお、培地を皮膚表面に圧着することにより細菌の採取を行った場合、予備培養工程は採取を行った培地の表面でそのまま行ってもよいが、培地表面から滅菌綿棒等を用いて再採取した細菌を希釈し、培養用の培地表面に塗布後、上記と同様の手順を用いて予備培養を行ってもよい。培養用の培地としては、トリプチケースソイ寒天培地(TS培地)等の一般細菌用の培地や、上述のブドウ球菌用の選択分離用培地等が挙げられる。(ii)選抜工程 上記の予備培養工程で培養した細菌について、菌種の同定を行い、有用菌の選抜を行う。選抜工程は、任意の公知の方法を用いて行うことができるが、例えば、下記のような手順で行われる。まず、培地の目視観察を行い、培地上に形成されたコロニー数のカウントを行うと共に、可能な場合には外観による予備分類を行う。次いで、個々のコロニーまたはそのうちの代表的ないくつかについて、菌種の同定を行う。例えば、表皮ブドウ球菌の場合には、顕微鏡観察、グラム染色およびコアグラーゼ活性を組み合わせることにより同定を行う。特に、表皮ブドウ球菌は、黄色ブドウ球菌等の病原性菌と異なりコアグラーゼ陰性(CNS)であるため、コアグラーゼ活性の測定は、黄色ブドウ球菌との識別上重要である。(iii)培養工程 上記のようにして皮膚常在菌等の細菌から選抜(分離)された有用菌を培養する。培養は、任意の公知の方法を用いて行うことができる。このようにして得られる有用菌は、皮膚常在菌を採取した個人の皮膚表面の環境に適応していると考えられるため、スキンケア用組成物に含有させて個人の皮膚表面に投与する(戻す)ことにより、皮膚表面で優勢に増殖し、それに伴う皮膚表面の状態の改善や有害菌の増殖抑制等の効果が期待できる。培養に使用される培地や培養条件については、予備培養工程の場合と同様、分離の目的とする有用菌の種類や使用する培地等の条件に応じて適宜設定される。なお、複数の有用菌を選抜した場合、菌株ごとに分離し、純粋培養したものを、スキンケア用組成物の製造時に所定の割合で混合して用いてもよいが、複数種の有用菌を混合した状態で培養してもよい。(3)スキンケア用組成物の調製 スキンケア用組成物の調製に際し、上記のようにして選択的に増殖させた有用菌の生菌を直接用いてもよいが、生菌を含む状態では長期保存が困難であるため、有用菌の仮死状態菌または有用菌の乾燥菌体を調製しておき、使用の直前に水を含む基剤に分散させることにより有用菌を復元し、有用菌を含むスキンケア用組成物を調製してもよい。 スキンケア用組成物の基材としては、その中で有用菌が生存および/または増殖できる限りにおいて特に限定されず、化粧水、乳液、美容液、ジェル、クリーム、ローション、スプレー剤等の任意の基礎化粧品、パック等のスペシャルケア品、ヘアトニック、ヘアローション、育毛料、ヘアトリートメント、ヘアコンディショナー、ヘアパック、ヘアダイ等の頭皮ケア用品または頭髪用化粧品等を用いることができる。単位体積あたりの有用菌の配合量については、基材および有用菌の種類等に応じて適宜選択される。 乾燥菌体の作製方法としては、任意の公知の方法を特に制限なく用いることができ、その具体例としては、凍結乾燥法、熱風乾燥法等が挙げられる。例えば、凍結乾燥法により乾燥菌体を作製する場合には、スキムミルクや豆乳等の適当な保護剤の共存下で分散媒(通常、水が用いられる。)に有用菌を分散させ、液体窒素等で凍結後、凍結乾燥機で減圧下水分を除去する。このようにして得られた乾燥菌体は、滅菌したアンプル等に封入し、保管することができる。 なお、有用菌の死菌体、菌体の超音波破砕物等の菌体成分や有用菌の産生物質が有用菌に対し特異的な増殖促進活性を有する場合、スキンケア用組成物は、有用菌の生菌の代わりにこれらを含んでいてもよい。有用菌の生菌を供給する代わりに、個人の皮膚表面において有用菌の増殖を特異的に促進する物質をその個人の表皮に供給することによっても、皮膚常在菌叢に占める有用菌の割合を増大させ、皮膚の健康状態を健全に保つことが可能だからである。有用菌の生菌の代わりに、有用菌の死菌体や有用菌の産生物質を用いる場合、スキンケア用組成物は、界面活性剤を含むシャンプー、ボディシャンプー、ヘッドスパ用洗浄剤等の皮膚洗浄剤であってもよい。 スキンケア用組成物は、有用菌の生菌を含む場合には、その製造および/または増殖を阻害しないかぎりにおいて、化粧品等に通常用いられる任意の添加剤を含んでいてよい。このような添加剤の具体例としては、着香料、保存料、酸化防止剤、殺菌剤(有用菌に対する抗菌活性のないものまたは弱いものに限る。)、乳化剤、安定剤等が挙げられる。スキンケア用組成物は、有用菌の増殖を特異的に促進する物質をさらに含んでいてもよい。 このようにして得られた有用菌の菌体、菌体成分および有用菌の産生物質のいずれか1または複数を含むスキンケア用組成物を個人の皮膚に投与する(戻す)ことにより有用菌を個人の皮膚に投与する(戻す)(投与する(戻す)部位は、皮膚常在菌の採取を行った部位と同一であっても異なっていてもよい。)ことにより、その個人の皮膚表面の環境に適応している有用菌が皮膚表面で迅速に増殖し、皮膚の健康状態を改善することができる。このような美容方法において、スキンケア用組成物の投与の方法としては、化粧水、乳液、ローション等の液剤の塗布、スプレー剤の噴霧、クリーム、ジェル等の塗布等、スキンケア用組成物の性状に応じた任意の方法を選択することができる。投与は手指等を用いて行ってもよいが、スプレー、アプリケータ等の器具を用いて行ってもよい。スキンケア用組成物の投与間隔および1回当たりの投与量は、有用菌の種類、投与する部位、皮膚の健康状態等に応じて適宜調節することができるが、皮膚表面に有用菌を確実に定着させるためには、継続的に投与を行うことが好ましい。 なお、本実施の形態の美容方法では、個人の皮膚から採取した細菌のうち、有用菌のみを選択的に増殖させ、これを含むスキンケア用組成物を同一の個人に投与して(戻して)いるが、細菌を採取した個人とは異なる個人の皮膚表面に投与してもよい。あるいは、複数人から採取した細菌から選択的に増殖させた有用菌(本人から採取した細菌に由来するものを含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。)を含むスキンケア用組成物を投与してもよい。 以下、本発明の効果を確認するために行った実施例について説明する。実施例1:皮膚常在菌からの表皮ブドウ球菌の分離および純粋培養ならびに乾燥菌体の作製[1]皮膚常在菌の採取 下記の操作は滅菌手袋を着用した状態で行った。 洗浄後、オートクレーブ中で滅菌したポリカーボネート製の円筒(内径25mmφ)を被験者の額の皮膚表面に軽く圧着し、円筒の内部に露出した皮膚の表面を滅菌済みのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に20秒間浸した滅菌綿棒で満遍なく拭った。円筒を離し、皮膚表面に残った水分を滅菌綿棒で拭き取った。円筒の皮膚接触面の内側に付着した水分についても同様に滅菌綿棒で拭き取った。滅菌済みのPBSを入れた滅菌済みのチューブ内にこれらの滅菌綿棒(採取者の手が触れた部分は折り取っておく。)を入れ、キャップをして安全キャビネット中に移した。[2]予備培養 上記の様にして得られた菌液100μLを、900μLのPBSを入れたマイクロチューブに加え、ボルテックスして、10倍希釈液を作製した。菌液の代わりに希釈液を用いて同様の操作を繰り返し、100〜100,000倍希釈液を作製した。得られた各希釈液をトリプチケースソイ寒天培地(TS培地)および黄色ブドウ球菌用選択培地(以下「選択培地」という。)上に50μLずつ加え均一に伸ばし、37℃で48時間培養を行った。[3]表皮ブドウ球菌の分離 TS培地および選択培地上に形成されたコロニーを目視観察し、各コロニーに番号を振った。各コロニーをTS培地および選択培地上で上記[2]と同様の培養条件下で純粋培養した。形成された各コロニーに番号を振り、スライドガラス上に脱イオン水を1滴置き、白金線を用いてコロニーから採取した菌体を分散後、裏からガスバーナーで炙り、スライドガラスの表面に菌体を火炎固定した。これに、クリスタルバイオレット溶液、ヨード液、サフラニン液を順次作用させ、グラム染色を行った。その後、各コロニーに含まれる菌体について、染色性および形態を顕微鏡観察した。併せて、アピ スタフプレートを用いて菌種の同定を行ったところ、表皮ブドウ球菌であることが確認された。[4]表皮ブドウ球菌の純粋培養および乾燥菌体の作製 表皮ブドウ球菌と同定されたコロニーから採取した菌体を、TS培地上で純粋培養した。得られたコロニーより、白金耳を用いて菌体を採取(1mm径のコロニー1個)し、保護剤としてスキムミルクに分散させ、アンプルへ注入し、−80℃超低温庫で急速凍結させた。これを凍結乾燥機にかけ、乾燥菌体粉末を得た。[5]乾燥菌体の復元 乾燥菌体を含むアンプルを開封し、液体状のTS培地を少量加え、乾燥菌体を懸濁させた。得られた懸濁液を、液体状のTS培地、平板状のTS培地およびマンニット培地に加え、37℃で48時間培養したところ、いずれの培地からも菌が検出されると共に、平板培地上でコロニーを形成することが確認された。これらの菌体の同定を行ったところ、表皮ブドウ球菌であることが確認された。実施例2:臨床試験 20〜50代の21名の女性を被験者として、試験の初日に本人の皮膚(額部)から採取した皮膚常在菌より、実施例1に記載の手順を用いて分離および純粋培養した、自己の皮膚常在菌に由来する表皮ブドウ球菌を投与する(戻す)ことが、皮膚表面の表皮ブドウ球菌数および表皮水分量に及ぼす影響を検討した。 21名の被験者を13名の第1群(図1および図2においては「美肌菌戻し群」と表記)と8名の第2群(図1および図2においては「プラセボ群」と表記)とに分け(被験者にはどちらの群に割り当てられたかは知らせなかった。)、基礎化粧品(エタノールフリーの化粧水(ホウリン製)、保湿用ジェル(ホウリン製)および乳液(ホウリン製))を配布した。併せて、第1群には本人の皮膚常在菌由来の表皮ブドウ球菌の乾燥菌体(以下、「乾燥菌体」と略称する。)、第2群にはプラセボ(スキムミルク)をそれぞれ配布した。各群の被験者には、4週間にわたり、化粧水、乾燥菌体(ジェル1回使用量あたり約10億個)またはプラセボを懸濁させた保湿用ジェル、乳液の順で顔の皮膚に塗布することにより、自己の皮膚常在菌由来の表皮ブドウ球菌を投与し(戻し)、またはプラセボを投与する作業(図1において「美肌菌戻し」と表記。以下、総称して「戻し作業」という。)を定期的(各週の1日目と4日目)に実施してもらった。戻し作業の影響を検討するために、額部の皮膚表面の表皮ブドウ球菌数および表皮水分量を定期的(1回/週)に測定した。表皮ブドウ球菌数の測定は、実施例1の[1]、[2]記載の方法により、額部の皮膚表面から採取後培養した皮膚常在菌のコロニーのうち、実施例1の[3]記載の方法により表皮ブドウ球菌のコロニーと同定されたものの数をカウントすることにより行った。後者の測定には、キュートメーターMPA580(皮膚粘弾性測定装置:ドイツ C+K社製)およびコルネオメータープローブを使用した(以上第1クール)。 第1クール終了後の4週間にわたり、第2群の被験者のみを対象に、プラセボの代わりに乾燥菌体を配布した以外は第1クールと同様の条件で、自己の皮膚常在菌由来の表皮ブドウ球菌の戻し作業をしてもらった。戻し作業の影響を検討するために、額部の皮膚表面の表皮ブドウ球菌数を定期的(2週間おき)に測定した。第1群の被験者については、第1クール終了後4週間経過時に、額部の皮膚表面の表皮ブドウ球菌数を測定した(以上第2クール)。 図1に、各群における臨床試験開始前の表皮ブドウ球菌数を1とした場合の表皮ブドウ球菌数(「美肌菌相対数」と表記。)の経時変化を示す。第1群において、皮膚表面の表皮ブドウ球菌数は、自己の皮膚常在菌由来の表皮ブドウ球菌を投与する(戻す)ことにより有意に増大しているが、第1クールを終え、戻し作業を止めると減少に転じた。一方、第2群においては、プラセボを投与している間は皮膚表面の表皮ブドウ球菌数がほぼ一定であるのに対し、自己の皮膚常在菌由来の表皮ブドウ球菌の戻し作業に切り替えると有意な増加が見られた。これらの結果は、(1)自己の皮膚常在菌由来の表皮ブドウ球菌を投与する(戻す)ことにより、皮膚表面に表皮ブドウ球菌が確実に定着すること、(2)戻し作業終了後、皮膚表面の表皮ブドウ球菌数が減少することから継続的に投与(戻し作業)を行うことが好ましいことを示唆している。 図2に、第1群および第2群における、第1クール終了前後の額部の表皮水分量(肌水分相対値)を示す。第1群において、第1クールにおける3〜4週間の自己の皮膚常在菌由来の表皮ブドウ球菌を投与する(戻す)ことにより表皮水分量が有意に増大していることが確認された。一方第2群においては、第1クールを通して表皮水分量はほぼ一定であることが観測された。 これらの結果は、自己の皮膚常在菌由来の表皮ブドウ球菌を自己の皮膚に投与する(戻す)ことにより、皮膚常在菌叢において表皮ブドウ球菌が優勢となり、それに伴って皮膚の健康状態の一指標である表皮水分量が改善されたことを強く示唆している。 ヒトの皮膚表面から採取した細菌のうち、そのヒトの皮膚表面で増殖し、その皮膚の表皮水分量を改善させる1または複数種の有用菌を選択的に増殖させる工程と、 増殖させた前記有用菌の菌体、その菌体成分および前記有用菌の産生物質からなる群より選択される1または複数を含む組成物を前記細菌を採取したのと同一のヒト個体に前記組成物の投与(戻し)を行う工程とを有することを特徴とする美容方法(但し、ヒトの疾病を予防又は治療する態様は除く)。 ヒトの皮膚表面から採取した細菌のうち、そのヒトの皮膚表面で増殖し、その皮膚の健康状態を改善させる1または複数種の有用菌である表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)を選択的に増殖させる工程と、 増殖させた前記表皮ブドウ球菌の菌体、その菌体成分および前記表皮ブドウ球菌の産生物質からなる群より選択される1または複数を含む組成物を前記細菌を採取したのと同一のヒト個体に前記組成物の投与(戻し)を行う工程とを有することを特徴とする美容方法(但し、ヒトの疾病を予防又は治療する態様は除く)。 前記細菌が皮膚常在菌であることを特徴とする請求項1または2記載の美容方法。 前記1または複数種の有用菌を選択的に増殖させる工程が、 採取した前記細菌を培地上で培養する予備培養工程と、 前記培養した細菌から前記有用菌を選抜する選抜工程と、 前記選抜した有用菌を培養する培養工程とを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の美容方法。 前記細菌がヒトの健全な状態の皮膚表面に生息するものであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の美容方法。 前記有用菌がコアグラーゼ陰性ブドウ球菌であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の美容方法。


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