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タイトル:特許公報(B2)_フェニルボロン酸基が導入されたブロックコポリマーおよびその使用
出願番号:2013529476
年次:2014
IPC分類:A61K 45/00,A61K 31/7088,C08L 87/00,C08G 81/00


特許情報キャッシュ

片岡 一則 石井 武彦 内藤 瑞 松元 亮 加藤 泰己 JP 5481614 特許公報(B2) 20140228 2013529476 20121119 フェニルボロン酸基が導入されたブロックコポリマーおよびその使用 国立大学法人 東京大学 504137912 国立大学法人 東京医科歯科大学 504179255 ナノキャリア株式会社 597144679 籾井 孝文 100122471 上野山 温子 100150212 片岡 一則 石井 武彦 内藤 瑞 松元 亮 加藤 泰己 US 61/561,022 20111117 20140423 A61K 45/00 20060101AFI20140403BHJP A61K 31/7088 20060101ALI20140403BHJP C08L 87/00 20060101ALI20140403BHJP C08G 81/00 20060101ALI20140403BHJP JPA61K45/00 101A61K31/7088C08L87/00C08G81/00 A61K 45/00−45/08 31/00−31/80 C08G 81/00−81/02 C08L 87/00 特開平05−301880(JP,A) 特開平08−003172(JP,A) 中野渡史子、原田敦史、片岡一則,フェニルボロン酸を内核に結合させたPEG−p(Lys)ブロック共重合体ミセルの調整とその外部環境応答性,高分子学会予稿集,日本,高分子学会,1999年 5月12日,48巻第3号,572 片岡一則,細胞特異性材料と新しいドラッグデリバリーシステム,ポリファイル,日本,株式会社大成社,1993年 4月 1日,27-31 8 JP2012079897 20121119 WO2013073697 20130523 29 20130628 岡▲崎▼ 忠 本発明は、フェニルボロン酸基が導入されたブロックコポリマーおよび当該ブロックコポリマーと薬物とを含む複合体に関する。 タンパク質や核酸といった生体高分子を利用するバイオ医薬品は、低分子化合物を利用する従来型の医薬品に比べ、酵素で分解されたり免疫系によって排除されたりしやすい。本発明者は、こうしたバイオ系薬物の患部への到達性を向上させる観点から、ポリアミノ酸系のブロックコポリマーを利用したドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発を進めてきた。当該開発の目標の一つは、血中での安定性(バイオ系薬物の保持性)と患部での薬物放出性が両立するキャリアの提供にある。 また、本発明者は当該DDS開発とは別の目的で、糖センサーや糖応答アクチュエータへの適応を目指した生体適合性材料の基礎的な研究も進めてきた。例えば、生体適合性材料として、フェニル環をフッ素化したフェニルボロン酸系化合物が生み出されている(特許文献1)。 なお、フェニルボロン酸基を利用して核酸をポリアミノ酸系誘導体に担持させ、核酸や核酸関連物質の挙動や構造解析に適用する試薬に関する従来技術として、特許文献2がある。特開2011−140537号公報特開2002−179683号公報 本発明の主目的は、バイオ系薬物の血中での安定性と患部での放出性が両立するキャリアの提供にある。なお、特許文献2には、核酸関連物質を担持させた試薬をDDSとして応用展開する旨の記述がある。しかし、こうして展開されるDDSは疑似RNAのようなプロドラッグに過ぎず、沈殿が生じ易い状態にある。特許文献2に記載の技術は、そもそも本発明者が開発を進めるDDSとは異質なDDSを指向しており、血中での安定性に優れたキャリアとしては容易に適用できない。 本発明者は、DDS開発とは異なる目的で生み出した生体適合性材料が、ポリアミノ酸系のブロックコポリマーによるバイオ系薬物の血中での安定性を大幅に向上させることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明によれば、ポリアミノ酸鎖セグメントと親水性ポリマー鎖セグメントとを含むブロックコポリマーであって、当該ポリアミノ酸鎖セグメントが、側鎖にカチオン性基を有するアミノ酸残基と、側鎖に生理的pH付近にpKaを有するようにフェニル環の少なくとも1つの水素が置換されたフェニルボロン酸基を有するアミノ酸残基とを含むブロックコポリマーが提供される。 本発明の別の局面によれば、複合体が提供される。当該複合体は、上記ブロックコポリマーと生体高分子との複合体である。 本発明によれば、バイオ系薬物の血中での安定性と標的細胞内での放出性が両立し得るキャリアが提供される。FPBA基含有量と複合体の安定性との関係を示す図である。ブロックコポリマーの毒性試験の結果を示す図である。複合体の毒性試験の結果を示す図である。複合体のpH安定性を示す図である。複合体のsiRNAの放出性を示す図である。複合体の細胞内への取り込み能を示す図である。複合体の血中滞留性を示す図である。複合体の制がん活性を示す図である。[A.ブロックコポリマー] 本発明のブロックコポリマーは、ポリアミノ酸鎖セグメントと親水性ポリマー鎖セグメントとを含む。当該ポリアミノ酸鎖セグメントは、側鎖にカチオン性基を有するアミノ酸残基(以下、「カチオン性アミノ酸残基」と称する場合がある)と、側鎖に生理的pH付近にpKaを有するようにフェニル環の少なくとも1つの水素が置換されたフェニルボロン酸基(以下、「置換PBA基」と称する場合がある)を有するアミノ酸残基(以下、「置換PBA基含有アミノ酸残基」と称する場合がある)とを含む。ここで、カチオン性アミノ酸残基と置換PBA基含有アミノ酸残基とは、異なるアミノ酸残基であってもよく、同一のアミノ酸残基であってもよい。具体的には、当該ポリアミノ酸鎖セグメントは、側鎖に置換PBA基を有さないカチオン性アミノ酸残基と側鎖にカチオン性基を有さない置換PBA基含有アミノ酸残基とを含んでもよいし、これらの一方または両方に代えて、あるいは、これらに加えて、側鎖にカチオン性基と置換PBA基との両方を有するアミノ酸残基を含んでもよい。 上記置換PBA基は、血液に代表される生体環境(pH7.5未満)に適合させる観点から、生理的pH付近にpKaを有するように、フェニルボロン酸基を構成するフェニル環の少なくとも1つの水素が任意の置換基によって置換されている。上記置換PBA基のpKaは8未満であることが好ましく、7.5未満であることがより好ましい。置換される水素の数は、1、2、3、または4であり、水素が1つのみ置換されるときの置換基およびB(OH)2の導入箇所は、オルト、メタ、パラのいずれでもよい。置換基としては、例えば、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン、ニトロ基等が挙げられる。なかでも、ブロックコポリマーの親水性を高める観点及びpKaを7.5未満にする観点から、置換PBA基は、下記の式(I)で示されるフッ素化フェニルボロン酸基(以下、「FPBA基」と称する場合がある)であることが好ましい。上記置換PBA基のpKaは、単量体として合成した置換PBA基含有アミノ酸から特定するものとする。上記置換PBA基のpKaの下限値は特に制限されないが、例えば2、また例えば3、であってよい。(式(I)中、Fは独立に存在し、nは1、2、3または4のいずれかであり、nが1のときのFおよびB(OH)2の導入箇所は、オルト、メタ、パラのいずれでもよい。) 本発明のブロックコポリマーは、ポリアミノ酸鎖セグメントの側鎖部分にカチオン性基を有することにより、生体高分子と会合して複合体、例えば、ポリイオンコンプレックス(PIC)を形成し得る。 また、本発明のブロックコポリマーがポリアミノ酸鎖セグメントの側鎖部分に置換PBA基を有することにより、次のような効果が奏され得る。第一に、ポリアミノ酸鎖セグメントの疎水性が高まることにより、水性媒体中における複数の本発明のブロックコポリマー間には、静電相互作用に加えて疎水性相互作用が好適に働く。その結果、ポリマー間の会合力が増強されるので、本発明のブロックコポリマーは、水性媒体中で非常に安定なポリマーミセルを形成し得る。なお、当該ポリマーミセルにおいて、本発明のブロックコポリマーは、ポリアミノ酸鎖セグメントを内側に、親水性ポリマー鎖セグメントを外側に向けて放射状に配列していると推測される。当該水性媒体としては、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝液、炭酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酢酸緩衝液等の水性緩衝液が挙げられる。 第二に、フェニルボロン酸化合物は、水性媒体中において、1,2−ジオール(cis−ジオール)または1,3−ジオールを有する分子との可逆的な共有結合能を有している。よって、本発明のブロックコポリマーは、水性媒体中において、1,2−ジオール等を有する生体高分子(例えば、siRNA)と、カチオン性基との静電的な結合に加えて、置換PBA基との共有結合を介して強く結合し得、その結果、安定な複合体(例えば、当該生体高分子を内包したポリマーミセル)を形成し得る。特に、二本鎖のそれぞれの3’末端リボースにcis−ジオールを有するsiRNAとは当該2つの末端で結合することができるので、非常に安定な複合体の形成が可能である。 第三に、フェニルボロン酸のpKaは通常8〜9程度であり、当該pKa付近で上記1,2−ジオール等を有する分子との共有結合能が最大となるので、pH7.5未満である生体環境下でのフェニルボロン酸の使用は原理的に困難とされてきた。しかしながら、本発明のブロックコポリマーに導入される置換PBA基は、生理的pH付近にpKaを有するように(好ましくは8未満のpKa、より好ましくは7.5未満のpKaを示すように)フェニル環の水素が置換されているので、生体環境下で好適に上記結合能を発揮し得る。 第四に、上記置換PBA基は、pKa以下のpH環境下で高度に疎水化するので、pKaを適度に制御することにより、生体環境下において、上記1,2−ジオール等を有する分子との結合とブロックコポリマー間の疎水性相互作用との双方を強化することができる。その結果、これらの分子との極めて安定な複合体が得られ得る。[A−1.ポリアミノ酸鎖セグメント] 上記ポリアミノ酸鎖セグメントは、側鎖にカチオン性基を有するカチオン性アミノ酸残基と側鎖に置換PBA基を有する置換PBA基含有アミノ酸残基とを含む。 上記カチオン性アミノ酸残基としては、側鎖にアミノ基を有するカチオン性アミノ酸残基が好ましい。側鎖にアミノ基を有することにより、水性媒体中において、該アミノ基が置換PBA基のホウ素に配位し得る。その結果、置換PBA基の導入によるブロックコポリマーの疎水化が回避されて、高い親水性が維持され得る。なお、アミノ基が配位した状態でも、置換PBA基の上記cis−ジオールを有する分子等との結合能は維持され得る。 上記側鎖にアミノ基を有するカチオン性アミノ酸残基が由来するアミノ酸としては、例えば、リシン、オルニチン、アルギニン、ホモアルギニン、ヒスチジン等の塩基性アミノ酸および酸性アミノ酸に任意の適切なアミン化合物が導入されたアミノ酸誘導体が挙げられる。なかでも、リシンおよび酸性アミノ酸のカルボキシル基(−C(=O)OH)の−OH部が下記式(i)〜(iv)のいずれかの基で置換されたアミノ酸誘導体が好ましく、リシンおよびアスパラギン酸のα位もしくはβ位またはグルタミン酸のα位もしくはγ位のカルボキシル基(−C(=O)OH)の−OH部が下記式(i)〜(iv)のいずれかの基で置換されたアミノ酸誘導体がより好ましく、リシンおよびアスパラギン酸のα位もしくはβ位またはグルタミン酸のα位もしくはγ位のカルボキシル基(−C(=O)OH)の−OH部が下記式(i)の基で置換されたアミノ酸誘導体がさらに好ましい。−NH−(CH2)p1−〔NH−(CH2)q1−〕r1NH2 (i);−NH−(CH2)p2−N〔−(CH2)q2−NH2〕2 (ii);−NH−(CH2)p3−N{〔−(CH2)q3−NH2〕〔−(CH2)q4−NH−〕r2H} (iii);および−NH−(CH2)p4−N{−(CH2)q5−N〔−(CH2)q6−NH2〕2}2 (iv)(式(i)〜(iv)において、p1〜p4、q1〜q6、およびr1〜r2は、それぞれ相互に独立して、1〜5の整数である。) 上記式(i)〜(iv)において、p1〜p4およびq1〜q6は、それぞれ相互に独立して、好ましくは2または3であり、より好ましくは2である。また、r1〜r2は、それぞれ相互に独立して、好ましくは1〜3の整数である。 上記カチオン性アミノ酸残基がリシン残基である場合には、ポリアミノ酸鎖の合成が容易であり、かつ、得られたブロックコポリマーが生体適合性に非常に優れるという利点がある。また、上記カチオン性アミノ酸残基が酸性アミノ酸のカルボキシル基(−C(=O)OH)の−OH部が上記式(i)〜(iv)のいずれかの基で置換されたアミノ酸残基である場合、これらの残基は、異なる複数のアミン官能基を有するので、pKaが複数段階を示し、生理条件であるpH7.4においては複数のアミン官能基は部分的にプロトン化状態にあり、細胞に対するダメージが低いことが明らかにされている。また、核酸等と相互作用することによりPIC等の複合体を好適に形成することができるという利点がある。さらに、こうして形成された複合体がエンドソーム内(pH5.5)へ取り込まれてpHが下がると、ポリアミノ酸鎖セグメントのプロトン化がさらに進行し、バッファー効果(またはプロトンスポンジ効果)、或いは膜傷害活性が高まることによりエンドソームエスケープを促進させ得る。その結果、細胞質への薬物送達効率が向上し得る。 上記置換PBA基含有アミノ酸残基において、置換PBA基は、代表的には、二価の連結基を介してその側鎖に導入されている。当該二価の連結基としては、例えば、アミド結合、カルバモイル結合、アルキル結合、エーテル結合、エステル結合、チオエステル結合、チオエーテル結合、スルホンアミド結合、ウレタン結合、スルホニル結合、チミン結合、ウレア結合、チオウレア結合が挙げられる。 上記置換PBA基が導入されるアミノ酸残基としては、上記連結基を介して置換PBA基が導入され得る限りにおいて、任意の適切なアミノ酸残基が選択され得る。合成の容易さの観点から、置換PBA基は、上記側鎖にアミノ基を有するカチオン性アミノ酸残基に導入されることが好ましい。具体例としては、置換PBA基は、側鎖にアミノ基を有するカチオン性アミノ酸残基に、当該アミノ基とフェニル環の少なくとも1つの水素が置換されたカルボキシフェニルボロン酸またはそのエステル等との反応によって生じるアミド結合を介して導入され得る。ここで、側鎖に複数のアミノ基を有するカチオン性アミノ酸残基に対しては、置換PBA基を1つのみ導入してもよく、複数導入してもよい。1つのみ導入する場合、導入後の置換PBA基含有アミノ酸残基は、側鎖にアミノ基と置換PBA基との両方を有するのでカチオン性アミノ酸残基でもある。したがって、本発明においては、このようなアミノ酸残基のみを含むポリアミノ酸鎖セグメントもまた、カチオン性アミノ酸残基と置換PBA基含有アミノ酸残基との両方を含んでいると理解される。ただし、このようなアミノ酸残基を含むポリアミノ酸鎖セグメント中のカチオン性アミノ酸残基の数と置換PBA基含有アミノ酸残基の数との和を求める際には、当該アミノ酸残基については、どちらか一方としてのみ数えることとする。 上記ポリアミノ酸鎖セグメントは、上記カチオン性アミノ酸残基および置換PBA基含有アミノ酸残基に加えて、側鎖に疎水性基を有するアミノ酸残基(以下、「疎水性アミノ酸残基」と称する場合がある)をさらに含み得る。当該疎水性アミノ酸残基を含むことにより、水性媒体中において、本発明のブロックコポリマー間に働く疎水性相互作用が大きくなり、その結果、より安定なポリマーミセルが形成され得る。さらに、疎水性アミノ酸残基が細胞膜の疎水性部分に突き刺さり、当該ポリマーミセルを細胞膜に固定するアンカーとして機能し得る。そのため、当該ポリマーミセルに核酸等の生体高分子を内包させた場合に、該生体高分子の細胞内への導入率が向上し得る。 上記疎水性アミノ酸残基が由来するアミノ酸としては、好ましくは25℃の水100gに対する溶解度が5g以下、より好ましくは4g以下であるアミノ酸が挙げられる。このようなアミノ酸としては、例えば、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン等の非極性天然アミノ酸や、側鎖に疎水性基が導入されたアミノ酸の疎水性誘導体が挙げられる。当該アミノ酸の疎水性誘導体としては、好ましくはアスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸の側鎖に疎水性基が導入された誘導体が挙げられる。 上記導入される疎水性基としては、炭素数6〜27の飽和もしくは不飽和の直鎖または分枝状の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜27の芳香族炭化水素基あるいはステリル基が好ましく例示され得る。 上記炭素数6〜27の飽和の直鎖または分枝状の脂肪族炭化水素基としては、炭素数6〜27のアルキル基および当該アルキル基に加えてペンタコシル基、ヘキサコシル基、へプタコシル基等が例示される。 上記炭素数6〜27の不飽和の直鎖または分枝状の脂肪族炭化水素基としては、炭素数6〜27のアルキル基の鎖中の炭素−炭素単結合の1〜5個が炭素−炭素二重結合となっている基が挙げられる。このような基が由来する不飽和の脂肪族炭化水素の例としては、ラウリン酸(またはドデカン酸)、ミリスチン酸(またはテトラデカン酸)、パルミチン酸(またはヘキサデカン酸)、パルミトオレイン酸(または9−ヘキサデセン酸)、ステアリン酸(またはオクタデカン酸)、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸(または9,11,13−オクタデカトリエン酸)、アラキジン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ネルボン酸、セロチン酸、モンタン酸等が挙げられる。 上記炭素数6〜27の芳香族炭化水素基としては、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。これらの好ましい具体例としては、フェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。 上記ステリル基が由来するステロールとは、シクロペンタノンヒドロフェナントレン環(C17H28)をベースとする天然、半合成または合成の化合物、さらにはそれらの誘導体を意味し、例えば、天然のステロールとしては、限定されるものではないが、コレステロール、コレスタノール、ジヒドロコレステロール、コール酸、カンペステロール、シストステロール等が挙げられ、その半合成または合成の化合物としては、これら天然物の例えば、合成前駆体(必要により、存在する場合には、一定の官能基、ヒドロキシ基の一部もしくは全部が当該技術分野で既知のヒドロキシ保護基により保護されているか、またはカルボキシル基がカルボキシル保護基により保護されている化合物を包含する)であることができる。また、ステロール誘導体とは、本発明の目的に悪影響を及ぼさない範囲内で、シクロペンタノンヒドロフェナントレン環にC1−12アルキル基、ハロゲン原子、例えば、塩素、臭素、フッ素、が導入されていてもよく、該環系は飽和、部分不飽和、であることができること等を意味する。上記ステリル基が由来するステロールとしては、好ましくはコレステロール、コレスタノール、ジヒドロコレステロール、コール酸、カンペステロール、シストステロール等の動植物油起源のステロールであり、さらに好ましくはコレステロール、コレスタノール、ジヒドロキシコレステロールであり、特に好ましくはコレステロールである。 上記ポリアミノ酸鎖セグメントは、カチオン性アミノ酸残基、置換PBA基含有アミノ酸残基および疎水性アミノ酸残基として、それぞれ一種のみのアミノ酸残基を含んでもよく、二種以上のアミノ酸残基を含んでもよい。また、ポリアミノ酸鎖セグメントにおけるカチオン性アミノ酸残基、置換PBA基含有アミノ酸残基および疎水性アミノ酸残基の結合順は任意であり、ランダム構造であってもよく、ブロック構造であってもよい。 上記ポリアミノ酸鎖セグメントに含まれるカチオン性アミノ酸残基、置換PBA基含有アミノ酸残基および疎水性アミノ酸残基の数は、各アミノ酸残基の種類、ブロックコポリマーの用途等によって適切に調整され得る。生体高分子の保持性(血中における安定性)をより確実に向上させる観点からは、以下の関係式を満足するように各アミノ酸残基の数を調整することが好ましい。なお、ポリアミノ酸鎖セグメントを構成する繰り返し単位(アミノ酸残基)中にカチオン性基が複数個存在する場合、1つの繰り返し単位中に複数の置換PBA基が導入され得る。そのため、ポリアミノ酸鎖セグメント中の置換PBA基の総数が、置換PBA基が導入されていないカチオン性アミノ酸残基の数と置換PBA基が導入されたアミノ酸残基(置換PBA基含有アミノ酸残基)の数との和を超えることがある。また、汎用的な構造解析装置による分析では、複数の置換PBA基が、1つの繰り返し単位中に導入されているのか、複数の繰り返し単位中に分散して導入されているのかの区別が容易ではない場合がある。したがって、当該関係式においては便宜的に、置換PBA基を有さないカチオン性アミノ酸残基の数として、カチオン性アミノ酸残基の数と置換PBA基含有アミノ酸残基との和(理論値)から置換PBA基の数(実測値)を減算して得られる値に定めることを許容する(ただし、0を下限値とする)。なお、以下の関係式の上限値は特に制限されないが、例えば、40、38、35、25であってよい。以下の関係式の値が14以上、さらには15以上であると、さらに確実に血中における安定性が向上する。[A−2.親水性ポリマー鎖セグメント] 上記親水性ポリマー鎖セグメントは、任意の適切な親水性ポリマーによって構成され得る。該親水性ポリマーとしては、例えば、ポリ(エチレングリコール)、ポリサッカライド、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(メタクリル酸エステル)、ポリ(アクリル酸エステル)、ポリアミノ酸、ポリ(リンゴ酸)、またはこれらの誘導体が挙げられる。ポリサッカライドの具体例としては、デンプン、デキストラン、フルクタン、ガラクタン等が挙げられる。これらのなかでも、ポリ(エチレングリコール)は、末端に種々の官能基を有する末端反応性ポリエチレングリコールが市販されており、また、種々の分子量のものが市販されており、容易に入手できることから、好ましく用いられ得る。[A−3.ブロックコポリマーの具体例] 本発明の特に好ましい実施形態におけるブロックコポリマーの具体例を式(1)〜(4)に示す。当該式(1)〜(4)のブロックコポリマーにおいては、置換PBA基は、カチオン性アミノ酸残基の側鎖に導入される。(式(1)〜(4)中、 R1の基は、水素原子あるいは未置換もしくは置換された炭素数1〜12の直鎖または分枝状のアルキル基であり、 R2の基は、水素原子、炭素数1〜12の未置換もしくは置換された直鎖または分枝状のアルキル基あるいは炭素数1〜24の未置換もしくは置換された直鎖または分枝状のアルキルカルボニル基であり、 R3の基は、ヒドロキシル基、炭素数1〜12の未置換もしくは置換された直鎖または分枝状のアルキルオキシ基、炭素数2〜12の未置換もしくは置換された直鎖または分枝状のアルケニルオキシ基、炭素数2〜12の未置換もしくは置換された直鎖または分枝状のアルキニルオキシ基あるいは炭素数1〜12の未置換もしくは置換された直鎖または分枝状のアルキル置換イミノ基であり、 R4a、R4b、R5aおよびR5bの基は、相互に独立して、メチレン基またはエチレン基であり、 R6aおよびR6bの基は、相互に独立して、上記(i)〜(iv)の基から選択される基であり、 R7aおよびR7bの基は、相互に独立して、−O−または−NH−であり、 R8aおよびR8bの基は、相互に独立して、炭素数6〜27の飽和もしくは不飽和の直鎖または分枝状の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜27の芳香族炭化水素基あるいはステリル基であり、 Qの基は、−NH2、−NHC(=NH)NH2、または以下の式(II)で表される基であり、 L1およびL3は、相互に独立して、−S−S−または原子価結合であり、 L2は、−NH−、−O−、−O(CH2)p1−NH−、または−L2a−(CH2)q1−L2b−であり、ここで、p1およびq1は、相互に独立して、1〜5の整数であり、L2aはOCO、OCONH、NHCO、NHCOO、NHCONH、CONHまたはCOOであり、L2bはNHまたはOであり、 L4は、−OCO−(CH2)p2−CO−、−NHCO−(CH2)p3−CO−、または−L4a−(CH2)q2−CO−であり、ここで、p2、p3、およびq2は、相互に独立して、1〜5の整数であり、L4aは、OCONH、−CH2NHCO−、NHCOO、NHCONH、CONHまたはCOOであり、 kは、30〜20,000の整数であり、 sは、1〜6の整数であり、 mは、1〜300の整数であり、 nは、0〜mの整数であり、 xは、0〜80の整数であり yは、0〜xの整数であり zは、2〜300の整数であり、 ただし、z個のQの基に含有される1級アミノ基および2級アミノ基の総数または(m−n)個のR6aの基とn個のR6bの基とに含有される1級アミノ基および2級アミノ基の総数をwとしたとき、1以上w未満の当該アミノ基の水素原子が置換PBA基(例えば、上記式(I)で示されるFPBA基)を有するアシル基で置換されている。) 上記式(1)〜(4)において、L1およびL2の組み合わせ、ならびに、L3およびL4の組み合わせは、一緒になって一つの連結基となり得るように組み合わされる必要がある。例えば、L2が−NH−である場合、L1は−S−S−でなく、原子価結合である。 上記式(1)〜(4)において、エチレングリコール(またはオキシエチレン)の繰り返し数を表すkは、30〜20,000、好ましくは40〜2,000、より好ましくは50〜1,500の整数である。 上記R1〜R3の基で定義する、炭素数1〜12の直鎖または分枝状のアルキルオキシ基、アルキル置換イミノ基、およびアルキル基のアルキル部分としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ヘキシル基、デシル基、およびウンデシル基等を挙げることができる。炭素数2〜12の直鎖または分枝状のアルケニルオキシ基または炭素数2〜12の直鎖または分枝状のアルキニルオキシ基における、アルケニルまたはアルキニル部分は、炭素数が2以上の上記に例示したアルキル基中に二重結合または三重結合を含むものを挙げることができる。 このような基または部分について、「置換された」場合の置換基としては、限定されるものでないが、C1−6アルコキシ基、アリールオキシ基、アリールC1−3オキシ基、シアノ基、カルボキシル基、アミノ基、C1−6アルコキシカルボニル基、C2−7アシルアミド基、トリ−C1−6アルキルシロキシ基、シロキシ基、シリルアミノ基を示すか、またはアセタール化ホルミル基、ホルミル基、塩素またはフッ素等のハロゲン原子を挙げることができる。ここで、例えば、C1−6のごとき表示は、炭素数1〜6を意味し、以下同様な意味を表すものとして使用する。さらに、炭素数1〜24の未置換もしくは置換された直鎖または分枝状のアルキルカルボニル基の内の炭素数1〜12の未置換もしくは置換された直鎖または分枝状のアルキル部分は上述した例示を参考にでき、炭素数13以上のアルキル部分は、例えば、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ノナデシル基、ドコサニル基およびテトラコシル基等を挙げることができる。 別の実施形態において、R1の基は、標的結合部位を含む基で置換されてもよい。標的結合部位をポリマーの末端に導入することにより、標的となる所望の部位への薬物(生体高分子)の到達性を向上できる。標的結合部位を含む基としては、標的となる組織に対する指向性または機能性を有する限りにおいて任意の適切な基であり得、例えば、抗体もしくはその断片、またはその他の機能性もしくは標的指向性を有するタンパク質、ペプチド、アプタマー、ラクトース等の糖、葉酸といった生理活性物質およびその誘導体に由来する基であり得る。 標的結合部位を含む基で置換されたR1の基の一例を、以下の式(III)に示す。ここで、vは1〜5の整数を表し、Dは標的結合部位を表す。 Dは、好ましくは重量平均分子量が50〜20,000のペプチドであり、より好ましくは重量平均分子量が100〜10,000のペプチドであり、さらに好ましくは重量平均分子量が150〜3,000のペプチドである。 また、Dは、1〜200個のアミノ酸残基を有するペプチドであることが好ましく、1〜100個のアミノ酸残基を有するペプチドであることがより好ましく、1〜30個のアミノ酸残基を有するペプチドであることがさらに好ましい。 上記ペプチドとしては、例えば、血管新生や内膜肥厚、悪性腫瘍の増殖に関与するインテグリンと特異的に結合することができるペプチドが挙げられ、具体的には、RGDペプチドが挙げられる。RGDペプチドを標的結合部位として用いることにより、疾患部分を特異的に認識可能な粒子および該粒子を用いた医薬組成物が得られる。ここで、RGDペプチドとは、アルギニン−グリシン−アスパラギン酸(RGD)配列を含むペプチドをいう。好ましくは、RGDペプチドは環状RGD(cRGD)ペプチドである。具体的には、Dは、下記式(IV)で表わされ得る。 上記式(1)〜(4)において、R6aおよびR6bの基で定義する上記式(i)〜(iv)の基ならびにR8aおよびR8bの基で定義する炭化水素基またはステリル基については、上述した通りである。Q、R6a、R6b、R8a、およびR8bの基については、属する繰り返し単位全てについて同一の基が選択されてもよく、異なる基が選択されてもよい。また、sは、例えば、1、3、または4である。 式(3)または(4)において、R4aおよびR4bの基の両者がエチレン基を表す場合には、代表的には、nが整数0であるか、またはm−nが整数0であるポリアミノ酸を表すことになる。前者は、例えば、グルタミン酸γ−ベンジルエステルのN−カルボン酸無水物の重合により得られるポリ−α−グルタミン酸を表し、後者は、例えば、納豆菌をはじめとする細菌バチルス(Bacillus)属の菌株が生産するポリ−γ−グルタミン酸を表す。一方、R4aおよびR4bの基の両者ともメチレン基を表す場合には、これらの基を有するそれぞれの反復単位は共存し得るものと理解されている。R5aおよびR5bの基についても同様である。製造効率の観点からは、好ましくはR4aおよびR4bの基がメチレン基であり、R5aおよびR5bの基がエチレン基である。 式(1)または(2)のブロックコポリマーに含まれるカチオン性アミノ酸残基および置換PBA基含有アミノ酸残基の総数zは、形成されるポリマーミセルの安定性の観点から、1〜300、好ましくは20〜300、より好ましくは30〜200、さらに好ましくは40〜150の整数である。 式(3)または(4)のブロックコポリマーに含まれるカチオン性アミノ酸残基および置換PBA基含有アミノ酸残基の総数mは、形成されるポリマーミセルの安定性の観点から、1〜300、好ましくは1〜200、より好ましくは1〜150の整数である。当該ブロックコポリマーが疎水性アミノ酸残基を含む場合(すなわち、xが0ではない場合)、カチオン性アミノ酸残基の数は、例えば1〜20、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜5の整数とすることができる。このようなブロックコポリマーによれば、核酸に代表される生体高分子の放出がより好適に行われ得る。 式(3)または(4)のブロックコポリマーに含まれ得る疎水性アミノ酸残基の数xは、カチオン性アミノ酸残基の種類または数、ブロックコポリマーの用途等によって適切に調整され得る。当該疎水性アミノ酸残基の数xは、好ましくは1〜80、より好ましくは5〜70、さらに好ましくは10〜60の整数である。 式(1)〜(4)のブロックコポリマーにおいて、置換PBA基含有アミノ酸残基の数は、カチオン性アミノ酸残基の種類または数、ブロックコポリマーの用途等によって適切に調整され得る。当該ブロックコポリマー、特に式(1)および(2)のブロックコポリマーは、置換PBA基が、以下の関係を満足するようにカチオン性アミノ酸残基の側鎖に導入されることが好ましい。このような関係を満足する場合、ブロックコポリマーによる生体高分子の保持性(血中における安定性)がより確実に向上する。なお、以下の関係式の上限値は特に制限されないが、例えば、40、38、35、25であってよい。以下の関係式の値が14以上、さらには15以上であると、さらに確実に血中における安定性が向上する。[A−4.ブロックコポリマーの作製方法] 本発明のブロックコポリマーは、任意の適切な合成方法によって作製され得る。本発明の好ましい実施形態におけるブロックコポリマーの合成方法の一例は次の通りである。すなわち、R1を付与できる開始剤を用いてアニオンリビング重合を行うことによりポリエチレングリコール鎖を形成すること、当該ポリエチレングリコール鎖の成長末端側にアミノ基を導入すること;当該アミノ末端からNCA−Lys(TFA)等の保護されたアミノ酸誘導体を重合させてポリアミノ酸鎖セグメントを形成すること;当該ポリアミノ酸の側鎖を脱保護してアミノ基を露出させること;および、当該露出したアミノ基とフッ素化カルボキシフェニルボロン酸のカルボキシル基とを反応させて、アミド結合により所望の数のFPBA基を当該側鎖に導入すること;によって作製され得る。 本発明の別の好ましい実施形態におけるブロックコポリマーは、例えば、以下のようにして作製され得る。すなわち、R1を付与できる開始剤を用いてアニオンリビング重合を行うことによりポリエチレングリコール鎖を形成すること、当該ポリエチレングリコール鎖の成長末端側にアミノ基を導入すること;当該アミノ末端からβ−ベンジル−L−アスパルテート、γ−ベンジル−L−グルタメート等の保護されたアミノ酸のN−カルボン酸無水物を重合させてポリアミノ酸鎖セグメントを形成すること;次いで、当該ポリアミノ酸とジエチレントリアミン(DET)等のアミン化合物とを反応させて、エステルアミド交換反応により当該アミノ酸側鎖にDET基等のアミン残基を導入すること;次いで、当該アミン残基のアミノ基とフッ素化カルボキシフェニルボロン酸のカルボキシル基とを反応させて、アミド結合により所望の数のFPBA基を当該側鎖に導入すること;によって作製され得る。このとき、β−ベンジル−L−アスパルテートとγ−ベンジル−L−グルタメートとを併用してポリアミノ酸鎖セグメントを形成すると、その後のエステルアミド交換反応がβ−ベンジル−L−アスパルテートに対して優先的に生じる。その結果、γ−ベンジル−L−グルタメート由来のアミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基として含むブロックコポリマーが得られ得る。 なお、上記合成の過程でアミノ酸エステル残基の一部にアミンの求核攻撃に起因した構造変化(例えば、アミノ酸エステル残基の脱アルコールによるイミド環の形成)が生じる場合がある。本発明においては、ポリアミノ酸鎖セグメントは、このような構造変化を経た残基もさらに含み得るものとする。この場合、上記構造変化を経た残基は、カチオン性アミノ酸残基、置換PBA基含有アミノ酸残基、および疎水性アミノ酸残基のいずれにも含めないものとする。また、カチオン性アミノ酸残基における一部のNH基およびNH2基が合成過程での酸(主に塩酸)の使用に起因して塩(主に塩酸塩)になる場合があるが、本発明においては、ポリアミノ酸鎖セグメントは、こうした構造を含み得るものとする。すなわち、Q、R6aおよびR6bの基における一部のNH基およびNH2基は塩(例えば、塩酸塩)となっていてもよい。 また、α末端に標的結合部位を有するポリエチレングリコールを用いて上記のようなブロックコポリマーの合成を行うか、またはα末端に後から標的結合部位を含む基を導入できるような官能基を有するポリエチレングリコールを用いて上記のようなブロックコポリマーの合成を行った後に標的結合部位を含む基を導入することにより、親水性ポリマー(ポリエチレングリコール)の末端に標的結合部位を持つブロックコポリマーを合成することができる。標的結合部位を含む基を導入する方法としては種々の方法が用いられるが、例えばα末端がアセタール化されたポリエチレングリコール鎖を有するブロックコポリマーとシステイン末端を有する所望の標的結合部位を有する化合物とを酸性溶液中で混合することにより、ポリエチレングリコール鎖側の末端に上記標的結合部位を付与することができる。[B.複合体] 本発明の複合体は、上記A項に記載のブロックコポリマーと生体高分子との複合体である。当該複合体は、複数の当該ブロックコポリマーと生体高分子とのPICであり得る。また、当該PICは、複数の当該ブロックコポリマーによって生体高分子が内包されたポリマーミセルの形態であり得る。従来型のキャリアでは、生理条件と同程度のイオン濃度の媒体中で複合体が解離してしまうという問題があるが、本発明の複合体は安定性に優れるので、当該媒体中、さらにはタンパク質を含む媒体中であっても、複合体の形態を維持し得る。[B−1.生体高分子] 上記生体高分子としては、例えば、タンパク質、脂質、核酸等が挙げられる。本明細書において、タンパク質はペプチドも含む。生体高分子のなかでも、上記ブロックコポリマーは核酸と好適に複合体を形成し得る。また、複合体の形成に適した生体高分子としては、上記ブロックコポリマーのpKa以下のpHの範囲において負の電荷を有する、アニオン荷電性の化合物が例示できる。 上述したとおり、上記ブロックコポリマーがポリアミノ酸鎖セグメントのアミノ酸側鎖にカチオン性基を有することにより、当該ブロックコポリマーは小分子量の核酸とであっても生理的条件下で安定な複合体(例えば、ベシクルまたは会合体)を形成できる。ブロックコポリマーとの複合体を提供できる核酸としては、プリンまたはピリミジン塩基、ペントース、リン酸からなるヌクレオチドを基本単位とするポリもしくはオリゴヌクレオチドを意味し、オリゴもしくはポリ二本鎖RNA、オリゴもしくはポリ二本鎖DNA、オリゴもしくはポリ一本鎖DNAおよびオリゴもしくはポリ一本鎖RNAを挙げることができる。また、同一の鎖にRNAとDNAが混在したオリゴもしくはポリ2本鎖核酸、オリゴもしくはポリ1本鎖核酸も含まれる。当該核酸に含有されるヌクレオチドは天然型であっても、化学修飾された非天然型のものであっても良く、またアミノ基、チオール基、蛍光化合物などの分子が付加されたものであっても良い。 上記核酸がRNAである場合、当該RNAは3’末端リボースが1,2−cis−ジオールを有するので、上記カチオン性アミノ酸残基のカチオン性基との静電的相互作用に加えて、置換PBA基を介して上記ブロックコポリマーと可逆的に共有結合し得る。その結果、安定性に優れた複合体が得られる。このような安定性に優れた複合体によれば、RNA分子の血中濃度レベル(通常、約4〜7mM)のグルコース(分子内にcis−ジオール構造を有する)との置き換わりが回避され得るので、血中での安定性にも優れる。よって、当該複合体が生体内に投与される場合には、血中滞留性が向上され得る。特に、2本鎖RNAの場合、各鎖の3’末端リボースを結合部位とする架橋構造がミセル内部に形成され得るので、安定性に極めて優れた複合体が得られ得る。また、当該RNAとの複合体が低pH環境であるエンドソーム内に取り込まれた場合には、置換PBA基の疎水化によって疎水性相互作用が大きくなるので、安定性がさらに向上し得る。さらに、エンドソームから細胞質に移行した後には、ATP、リボ核酸等の細胞質内に比較的高濃度で存在する1,2−cis−ジオールを有する他の分子との置き換わりにより、速やかにRNAを放出することが可能である。 上記核酸の鎖長は、例えば、4〜20,000塩基、好ましくは10〜10,000塩基、さらに好ましくは18〜30塩基であり得る。 上記核酸としては、その機能または作用を考慮すると、プラスミドDNA、siRNA、micro RNA、shRNA、アンチセンス核酸、デコイ核酸、アプタマーおよびリボザイムを挙げることができる。 本発明の複合体における上記ブロックコポリマーと生体高分子との含有量比は、ブロックコポリマーおよび生体高分子の種類、複合体の用途等に応じて適切に設定され得る。生体高分子がsiRNAである場合の本発明の複合体は、生理的条件下での安定性を向上させる観点からはN/P比が2以上であることが好ましく、ポリマーによる毒性を抑制する観点からはN/P比が200以下であることが好ましい。なお、N/P比とは、[複合体に含有されるブロックコポリマー中のポリアミノ酸側鎖のアミノ基濃度]/[核酸中のリン酸基濃度]を意味する。また、生体高分子がsiRNAである場合の本発明の複合体は、生理的条件下での安定性を向上させる観点から、pH7.4における[ポリアミノ酸鎖セグメントの正電荷数]/[ポリアミノ酸鎖セグメントの負電荷数およびsiRNAの負電荷数の合計]が、例えば1/2〜20/1、好ましくは1/1〜10/1であり得る。 上記ブロックコポリマーは、置換PBA基の種類および導入数を適切に選択することによって高い親水性を維持し得るので、本発明の複合体は、例えば、必要により緩衝化された水溶液中で当該ブロックコポリマーと生体高分子とを混合することのみによって調製され得る。すなわち、本発明の複合体は、ブロックコポリマーの末端を別途修飾する必要がなく、また、簡便な方法で調製され得るという利点も有し得る。 以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例になんら限定されるものではない。なお、以下の実施例においては、「PEGの分子量(kDa)−FPBA基含有アミノ酸残基数/ポリアミノ酸鎖セグメントを構成するアミノ酸残基の総数」の順序でポリマー構造を記す。例えば、PEGの分子量が10,000であり、ポリアミノ酸鎖セグメントが重合度40のポリリシンにFPBA基を5個導入したものである場合は、「PEG−PLL 10−5/40」と表記する。また、例えば、PEGの分子量が10,000であり、ポリアミノ酸鎖セグメントがFPBA基が導入されていない重合度40のポリリシンである場合は、「PEG−PLL 10−0/40」と表記する。ここで、該表記における各数字は、ブロックコポリマー全体の平均値である。[ポリリシン系ブロックコポリマーの作製] 以下の実験例で用いたポリリシン系のブロックコポリマーの合成スキームAを以下に示す。具体的には、(1−i)〜(1−iii)に記載の通りにしてブロックコポリマーを作製した。(1−i) ベンゼン凍結乾燥したMethoxy−PEG−NH2を1Mのチオウレアを含むジメチルホルムアミド(DMF)に溶解する。得られた溶液に1M チオウレア含有DMFに溶解したNCA−Lys(TFA)を加え、3日間25℃で撹拌することにより、重合を行う。重合後の反応液をジエチルエーテルに滴下し、生じた沈殿をろ過して回収し、減圧下で乾燥することにより、MeO−PEG−PLys(TFA)を得る。(1−ii) MeO−PEG−PLys(TFA)を1NのNaOHaq./メタノール=1/10中、35℃で12時間撹拌し、透析(外液は水)および凍結乾燥を経て、MeO−PEG−PLysを得る。(1−iii) MeO−PEG−PLysとPLysのアミノ基に対して5当量のD−Mannitolを50mMのNaHCO3水溶液中に溶解させる。得られた溶液にメタノールに溶解した3−フルオロ−4−カルボキシフェニルボロン酸を添加し、次いで、縮合剤DMT−MMを加える。得られた溶液を室温にて終夜撹拌し、透析(外液は水)および凍結乾燥を経て、MeO−PEG−[PLys(FPBA)/PLys]を得る。 得られたブロックコポリマーの分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)によって測定した。その際、50mMのNaHCO3にD−Sorbitolを50mg/mL以上溶解した溶液、リン酸緩衝液(pH5〜7)または50mg/mLのD−Sorbitolを含有する500mM NaCl水溶液とメタノールとの混合溶媒(NaCl aq./メタノール=1/4)を移動相として用いた。また、FPBA基の導入量は、1H−NMRスペクトルで側鎖とフェニル環との積分比から見積もった。その際、D−Sorbitolを少量含むD2Oにポリマーを溶解した溶液を測定サンプルとした。[PAsp(DET)系ブロックコポリマーの作製] 以下の実験例で用いたPAsp(DET)系のブロックコポリマーの合成スキームBを以下に示す。具体的には、(2−i)〜(2−iii)に記載の通りにしてブロックコポリマーを作製した。(2−i) ベンゼン凍結乾燥したMethoxy−PEG−NH2をジクロロメタンに溶解する。得られた溶液にDMF/ジクロロメタン=1/10で溶解したNCA−BLAを加え、3日間35℃で撹拌することにより、重合を行う。重合後の反応液をジエチルエーテルに滴下し、沈殿物をろ過により回収し、減圧下で乾燥することにより、MeO−PEG−PBLAを得る。(2−ii) ベンゼン凍結乾燥したMeO−PEG−PBLAをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に溶解する。得られた溶液をジエチレントリアミンのNMP溶液中に滴下し、5〜10℃で1時間撹拌する。氷冷下で塩酸にて中和し、透析(外液は0.01Nの塩酸)および凍結乾燥を経て、MeO−PEG−PAsp(DET)を得る。(2−iii) MeO−PEG−PAsp(DET)およびPAsp(DET)の一級アミンに対して5当量のD−Mannitolを氷冷下(0℃)において50mMのNaHCO3水溶液中に溶解する。得られた溶液に、メタノールに溶解した3−フルオロ−4−カルボキシフェニルボロン酸を添加し、次いで、縮合剤DMT−MMを加える。得られた溶液を6時間撹拌し、5℃で透析(外液は、任意にソルビトールを含む、0.01Nの塩酸)し、凍結乾燥を経て、MeO−PEG−P[Asp(DET−FPBA/DET)]を得る。 得られたブロックコポリマーの分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)によって測定した。その際、50mMのリン酸バッファー(pH7.4)に50mg/mLのD−Sorbitolを溶解した溶液を移動相として用いた。また、FPBA基の導入量は、1H−NMRスペクトルで側鎖とフェニル環との積分比から見積もった。その際、NaODを少量含むD2Oにポリマーを溶解した溶液を測定サンプルとした。[siRNA] 以下の実験例で使用したsiRNAの配列は次の通りである。Cy3等の標識は、全てセンス鎖の5’末端に導入した。(1)hVEGF-siRNA(ヒト血管内皮成長因子に対するsiRNA):センス鎖:5’−GAUCUCAUCAGGGUACUCCdTdT−3’(配列番号1)アンチセンス鎖:5’−GGAGUACCCUGAUGAGAUCdTdT−3’(配列番号2)(2)scramble-siRNA(非治療用配列siRNA):センス鎖:5’−UUCUCCGAACGUGUCACGUUU−3’(配列番号3)アンチセンス鎖:5’−ACGUGACACGUUCGGAGAAUU−3’(配列番号4)(3)GL3−siRNA(ホタルルシフェラーゼに対するsiRNA)センス鎖:5’−CUUACGCUGACUACUUCGAUU−3’(配列番号5)アンチセンス鎖:5’−UCGAAGUACUCAGCGUAAGUU−3’(配列番号6)[FPBA基含有量と複合体の安定性との関係] 上記(1−i)〜(1−iii)および(2−i)〜(2−iii)の記載の通りにして、アミノ酸重合度およびFPBA基含有量が異なる種々のブロックコポリマーを作製した。なお、Methoxy−PEG−NH2としては、PEGの分子量(Mw)が12,000であるものを用いた。当該ブロックコポリマーとCy3で蛍光標識したsiRNAとをN/P比が8となるように混合した。得られた混合液を冷蔵庫内で1〜2時間静置後、血清溶液(150mM NaCl, 10mM Hepes, 10% FBS)でsiRNA濃度が50nMとなるように希釈した。得られた希釈液を1時間程度室温で静置し、共焦点レーザスキャン顕微鏡(Carl Zeiss社製、製品名「LSM510」)にてsiRNAの拡散時間を測定した(10sec×10times)。結果を表1および図1に示す。なお、ブロックコポリマーと混合しないこと以外は同様に測定した場合における拡散時間(siRNA単独の拡散時間)は、157.5μsecである。なお、siRNAとしては、GL3‐siRNAを用いた。 表1および図1に示されるように、上記ブロックコポリマーと混合した場合のsiRNAの拡散時間がsiRNA単独の場合よりも長いことから、これらのブロックコポリマーはいずれもsiRNAと複合体を形成することが分かる。また、FPBA基が導入されたブロックコポリマーは、導入されていないブロックコポリマーよりも拡散時間が長いことから、より安定な複合体を形成することが分かる。なかでも、[√(ポリアミノ酸鎖セグメント中のFPBA基を含まないカチオン性アミノ酸残基の数)+2√(ポリアミノ酸鎖セグメント中のFPBA基の数)≧12.0]の関係を満たすブロックコポリマーを用いた場合には、siRNAの拡散時間が400μsec以上であることから、高度に安定な複合体が形成されたことが示唆される。[ブロックコポリマーの毒性試験] A549−Luc細胞を96ウェルの培養ディッシュに2,500cells/wellとなるように播種し、10%牛胎児血清含有DMEM培地を用いて、インキュベーターで24時間培養した。培地を新しい10%牛胎児血清含有DMEM培地に交換するとともに、生理食塩水に溶解した各ブロックコポリマーを、種々のアミン濃度となるように添加した。次いで、48時間培養した後、製品名「Cell Counting Kit8」(同仁化学研究所社製)によって生細胞数を測定し、細胞生存率を算出した(N=4)。結果を図2に示す。[複合体の毒性試験] A549−Luc細胞を96ウェルの培養ディッシュに2,500cells/wellとなるように播種し、10%牛胎児血清含有DMEM培地を用いて、インキュベーターで24時間培養した。培地を新しい10%牛胎児血清含有DMEM培地に交換するとともに、siRNAとブロックコポリマーとの複合体を、種々のsiRNA濃度となるように添加した。次いで、48時間培養した後、製品名「Cell Counting Kit8」(同仁化学研究所社製)によって生細胞数を測定し、細胞生存率を算出した(N=4)。結果を図3に示す。なお、上記複合体は、各ブロックコポリマーとGL3-siRNAとを、N/P比が4でsiRNA濃度が80nMとなるように10mM HEPES緩衝液(pH7.3)に添加および混合し、1〜2時間程度室温で静置後、種々の濃度に希釈して用いた。 図2に示す通り、FPBA基を導入していないブロックコポリマー処理群よりもFPBA基を導入したブロックコポリマー処理群の方が高い細胞生存率を示した。また、図3に示す通り、FPBA基を導入していないブロックコポリマーを用いて形成した複合体処理群よりもFPBA基を導入したブロックコポリマーを用いて形成した複合体処理群の方が高い細胞生存率を示した。以上の結果から、FPBA基導入による細胞毒性は認められず、FPBA基を導入したブロックコポリマーが十分な生体適合性を有することがわかる。[複合体のpH安定性評価] ブロックコポリマー(PEG−PLL 12−23/43)とCy3で標識したGL3-siRNAとを種々のpHの緩衝液(リン酸緩衝液またはリン酸−クエン酸緩衝液)に溶解し、N/P比が4でsiRNA濃度が50nMとなるように混合した。得られた混合液を1時間程度室温で静置し、共焦点レーザスキャン顕微鏡(Carl Zeiss社製、製品名「LSM510」)にてsiRNAの拡散時間を測定した(10sec×10times)。結果を図4に示す。 図4に示すように、生体内環境(約pH7.4)からエンドソーム内等の酸性環境(約pH5.5)までの広いpH範囲においてsiRNAの拡散時間が800μsecを超えて長いことから、本発明のブロックコポリマーが当該pH範囲においてsiRNAと安定な複合体(siRNA内包ポリマーミセル)を形成できることがわかる。[複合体のsiRNAの放出性評価] ブロックコポリマー(PEG−PLL 12−23/43)とCy3で標識したGL3‐siRNAとを10mM HEPES緩衝液(pH7.3)にそれぞれ溶解し、N/P比が4となるように混合した。得られた混合液を1〜2時間程度冷蔵庫内で静置した後、種々の濃度のグルコース、dTMPまたはUMPを含む10mM HEPES緩衝液(pH7.3)でsiRNA濃度が50nMとなるように希釈した。得られた希釈液を室温で1時間程度静置した。次いで、共焦点レーザスキャン顕微鏡(Carl Zeiss社製、製品名「LSM510」)にてsiRNAの拡散時間を測定した(10sec×10times)。結果を図5に示す。 図5に示すように、血中内と同程度のグルコース濃度(通常、約4〜7mM)においてsiRNAの拡散時間が800μsecを超えて長いことから、本発明のブロックコポリマーが血中内においてsiRNAと安定な複合体(siRNA内包ポリマーミセル)を形成できることがわかる。また、血中よりも高いグルコース濃度では徐々に拡散時間が短くなっていくことから、これらの濃度ではミセルが崩壊し、siRNAが速やかに放出されることがわかる。なお、このようなミセルの崩壊は、ミセル内において1,2−ジオール構造を介してFPBA基と結合していたRNA分子が同じく1,2−ジオール構造を有するグルコースと置き換わることによって生じると推測される。 同様に、1,2−ジオール構造を有するUMPの存在下では、UMPが低濃度である場合にはミセル形状を維持し得るが、UMP濃度が1mMを超えるとRNA分子とUMPとの置き換わりによってミセルが崩壊し、siRNAが速やかに放出されることがわかる。一方、UMPと類似する構造を有するが1,2−ジオール構造を有さないdTMPの存在下では、10mMを超える濃度においてもミセル形状が安定に維持されている。これは、RNA分子との置き換わりが生じないためと推測される。[複合体の細胞内への取り込み能評価] 48wellディッシュに10,000cells/wellとなるようにA549−Luc細胞をまき、10%牛胎児血清含有DMEM培地を用いて、インキュベーターで24時間培養した。培地を新しい10%牛胎児血清含有DMEM培地に交換し、siRNAが100nM/wellとなるよう、Cy3で標識したsiRNAまたは該siRNAとブロックコポリマーとの複合体を培地に添加した。インキュベーターで37℃で5時間または9時間培養した後、細胞を1mLのPBS緩衝液で3回洗浄し、トリプシン−EDTA溶液で細胞をディッシュからはがした。はがした細胞を、Cy3フィルターをセットしたフローサイトメーター(BD社製、LSRII)を用いてヒストグラム解析を行い、細胞内へのsiRNAの取り込み量を評価した(N=4)。なお、siRNAとしては、GL3−siRNAを用いた。細胞内へのsiRNA取り込み量を示すグラフを図6に示す。なお、上記複合体は、各ブロックコポリマーとsiRNAとを、N/P比が8でsiRNA濃度が4μMとなるように10mM HEPES緩衝液(pH7.3)に添加および混合し、1〜2時間程度室温で静置することによって調製した。 図6に示すように、siRNAを単独で添加した場合およびFPBA基が導入されていないブロックコポリマーとの複合体として添加した場合に比べて、FPBA基が導入されているブロックコポリマーとの複合体として添加した場合の方が、siRNAの取り込み量が格段に向上された。[複合体の血中滞留性評価] ブロックコポリマー(PEG−PLL 12−23/43)とCy5−GL3-siRNAとを、N/P比が8でsiRNA濃度が7.5μMとなるように10mM HEPES緩衝液(pH7.3)に添加および混合し、1〜2時間程度室温で静置することによって複合体溶液を調製した。該複合体溶液またはsiRNA溶液(10mM HEPES緩衝液)をマウス(メスのBalb/C nude、6週齢、N=4)にsiRNAの投与量が20μgとなるように尾静脈投与し、siRNAの血中残存量を経時的に調べた。結果を図7に示す。 図7に示すように、siRNA単独投与の場合は、投与後10分の時点で10%程度しか残存しておらず、1時間経過後にはほとんど残存していないのに対し、複合体投与の場合は、投与後1時間の残存量が40%以上であり、2時間経過後も10%以上が残存していた。このことから、本発明のブロックコポリマーとsiRNAとから形成される複合体(siRNA内包ミセル)は、血中滞留性に極めて優れることがわかる。[複合体の制がん活性評価](1)FPBA基含有ブロックコポリマーの調製 スキームBと類似のスキームによって、Ace−PEG−PAsp(DET) 12−62/75のブロックコポリマーを得た。具体的には、PEG側末端にアセタール基を有するAce−PEG−PBLA(12−110)をDETでアミノリシスし、Ace−PEG−PAsp(DET)(12−90)を得た。次いで、NaCl溶液で透析して対イオンを酢酸からクロライドとした後に、縮合剤(DMT−MM)を用いて4−カルボキシ−3−フルオロフェニルボロン酸を縮合させて、Ace−PEG−PAsp(DET) 12−62/75のブロックコポリマーを得た。(2)cRGD導入ブロックコポリマーの調製 次いで、アセタール基に対して5当量のcRGDペプチド(Cyclic(Arg−Gly−Asp−D−Phe−Cys)をpH7.2でDTTと1時間混合し、得られた混合液と上記ブロックコポリマーとを混合し、pHを2に調整した。1時間撹拌後、2Mの酢酸ナトリウムおよびNaOHを用いてpHを5とした。その後、ポリマー濃度が20mg/mLとなるように水を加えて一晩撹拌した。純水に対して透析し、未反応物及び不要物を除去後、凍結乾燥によってPEG鎖の末端にcRGDを導入されたブロックコポリマー cRGD−PEG−PAsp(DET) 12−62/75を得た。なお、反応、透析は4℃(冷蔵庫)にて行った。(3)複合体の調製 ブロックコポリマーを10mg/mLとなるように10mM HEPES緩衝液に溶解した。12.18μLの該ポリマー溶液と、75μLのsiRNA(15μM 10mM HEPES緩衝液)と、7.81μLの10mM HEPES緩衝液とを混合し、一晩静置した。該混合液に投与数時間前に3M NaCl 10mM HEPES緩衝液を5μL添加し、NaCl濃度が150mMとなるように調整した(全量 100μL)。これにより、複合体(siRNA内包ポリマーミセル)を得た。調製した複合体におけるsiRNAとブロックコポリマーとの組み合わせおよび混合比を表2に示す。(4)制がん活性評価 6週齢のマウス(メスのBalb/C nude、N=4)を購入後、1週間飼育し、5.0×107cells/mLとしたHela−luc細胞を各マウスに100μLずつ皮下に注射した。その後さらに4日間飼育し、治療(すなわち、複合体の投与)を開始した。具体的には、上記(3)で調製した複合体を一日おきに6日目まで尾静脈より投与した(すなわち、投与開始日を0日目として、0、2、4、6日目の計4回投与)。1回の投与につき、15μg/100μLのsiRNAを投与した。対照群に対しては、1回の投与につき100μLのHEPES溶液を投与した。投与開始日における腫瘍体積に対する腫瘍体積の相対値と投与後の経過日数との関係を図8に示す。 図8に示すように、PEG末端にcRGDが導入されていない本発明のブロックコポリマーをキャリアとする(−)hVEGF複合体投与群において、対照群および(+)Scramble複合体投与群よりも明らかに腫瘍の成長が抑制された。このことから、siRNAが該ブロックコポリマーによって血中で安定に保持されて、RNA干渉能を発揮できたことがわかる。さらに、PEG末端にcRGDが導入されたブロックコポリマーをキャリアとする(+)hVEGF複合体投与群においては、対照群および(+)Scramble複合体投与群よりも有意に腫瘍の成長が抑制された。このことから、該複合体が優れた血中安定性を有し、さらには、高い移行率で腫瘍組織へ取り込まれてRNA干渉効果を効率的に発揮することがわかる。 本発明のブロックコポリマーは、DDSの分野において好適に適用され得る。 ポリアミノ酸鎖セグメントと親水性ポリマー鎖セグメントとを含むブロックコポリマーと、核酸との複合体によって構成された医薬組成物であって、 該ポリアミノ酸鎖セグメントが、側鎖にカチオン性基を有するアミノ酸残基と、側鎖に8未満のpKaを有するようにフェニル環の少なくとも1つの水素が置換されたフェニルボロン酸基を有するアミノ酸残基とを含み、前記核酸が前記フェニルボロン酸基と可逆的な共有結合を形成した状態にある、医薬組成物。 前記置換されたフェニルボロン酸基のpKaが7.5未満である、請求項1に記載の医薬組成物。 前記置換されたフェニルボロン酸基が、下記式(I)で示されるフッ素化フェニルボロン酸基である、請求項1または2に記載の医薬組成物。(式(I)中、Fは独立に存在し、nは1、2、3または4のいずれかであり、nが1のときのFおよびB(OH)2の導入箇所は、オルト、メタ、パラのいずれでもよい。) 前記カチオン性基が、アミノ基である、請求項1から3のいずれか1項に記載の医薬組成物。 前記側鎖にカチオン性基を有するアミノ酸残基が、リシン残基、または、酸性アミノ酸のカルボキシル基(−C(=O)OH)の−OH部が下記式(i)〜(iv)のいずれかの基で置換されたアミノ酸残基である、請求項1から4のいずれか1項に記載の医薬組成物。−NH−(CH2)p1−〔NH−(CH2)q1−〕r1NH2 (i);−NH−(CH2)p2−N〔−(CH2)q2−NH2〕2 (ii);−NH−(CH2)p3−N{〔−(CH2)q3−NH2〕〔−(CH2)q4−NH−〕r2H} (iii);および−NH−(CH2)p4−N{−(CH2)q5−N〔−(CH2)q6−NH2〕2}2 (iv)(式(i)〜(iv)において、p1〜p4、q1〜q6、およびr1〜r2は、それぞれ相互に独立して、1〜5の整数である。) 前記ポリアミノ酸鎖セグメント中における前記置換されたフェニルボロン酸基を有さないカチオン性アミノ酸残基の数と前記置換されたフェニルボロン酸基の数とが、以下の関係を満足する、請求項1から5のいずれか1項に記載の医薬組成物。 前記ポリアミノ酸鎖セグメントが、側鎖に疎水性基を有するアミノ酸残基をさらに含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の医薬組成物。 請求項1から5のいずれかに記載の医薬組成物を形成し得るブロックコポリマーであって、ポリアミノ酸鎖セグメントと親水性ポリマー鎖セグメントとを含み、該ポリアミノ酸鎖セグメントが、側鎖にカチオン性基を有するアミノ酸残基と、側鎖に8未満のpKaを有するようにフェニル環の少なくとも1つの水素が置換されたフェニルボロン酸基を有するアミノ酸残基とを含み、該ポリアミノ酸鎖セグメント中における、カチオン性基を有するが置換されたフェニルボロン酸基を有さないアミノ酸残基の数と該置換されたフェニルボロン酸基の数とが、以下の関係を満足する、ブロックコポリマー。配列表


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