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タイトル:特許公報(B2)_角膜内皮細胞の調製方法
出願番号:2013524760
年次:2015
IPC分類:C12N 5/071


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林 竜平 原 進 景山 智文 西田 幸二 JP 5761827 特許公報(B2) 20150619 2013524760 20120713 角膜内皮細胞の調製方法 国立大学法人大阪大学 504176911 大野 聖二 230104019 田中 玲子 100105991 松任谷 優子 100119183 伊藤 奈月 100156915 北野 健 100114465 林 竜平 原 進 景山 智文 西田 幸二 JP 2011156641 20110715 20150812 C12N 5/071 20100101AFI20150723BHJP JPC12N5/00 202A C12N 5/071 CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) WPIDS/WPIX(STN) 国際公開第2006/092894(WO,A1) 特表2007−509643(JP,A) 特表2007−508015(JP,A) 特表2010−505001(JP,A) 国際公開第2010/084970(WO,A1) YAMAMOTO,N. et al,Basic study of retinal stem/progenitor cell separation from mouse iris tissue,Med Mol Morphol,2010年,Vol.43, No.3,p.139-144 妹尾正 他,水泡性角膜症の角膜内皮細胞増殖能,日本眼科学会雑誌,2001年,Vol.105,p.196, P65 菊池通晴 他,水泡性角膜症における角膜内皮細胞の増殖能,日本眼科学会雑誌,2002年,Vol.106,p.103, 47 YOSHIDA S, et al.,,Isolation of multipotent neural crest-derived stem cells from the adult mouse cornea.,,Stem Cells.,2006年,Vol.24, No.12,,p.2714-22. 14 JP2012068538 20120713 WO2013012087 20130124 25 20140114 (出願人による申告)平成22年度独立行政法人 医薬基盤研究所基礎研究推進事業、産業技術力強化法第19条の適応を受けるもの 鶴 剛史 本発明は、角膜内皮組織から単離した細胞群から角膜内皮前駆細胞を選択的に増殖させる方法、及び前記方法で増殖させた角膜内皮前駆細胞から角膜内皮細胞を取得する方法に関する。 角膜は、外側から、角膜上皮層、ボーマン膜、実質角膜層、デスメ膜、角膜内皮層の5層からなる。このうち一番内側に存在する角膜内皮層は単一の細胞層で、角膜に必要な物質を前房水から取り込むとともに、角膜の水分を前房水へ排出して角膜厚を一定に保ち、角膜の透明性を維持する。角膜内皮細胞数が低下すると、水分排出が不十分になり、角膜混濁や、水疱性角膜症等の角膜内皮疾患の原因となる。 通常ヒトの角膜内皮細胞密度は3000cells/mm2程度であるが、角膜内皮疾患では500cells/mm2程度にまで低下してしまう。しかし、ヒト角膜内皮細胞は生体内においては増殖しないため、一度損傷を受けたり、著しく低下してしまうと、その根本的な治療は移植以外に方法がない。 従来、水疱性角膜症等の難治性角膜内皮疾患に関しては、全層角膜移植術が行われているが、絶対的なドナー不足と移植後の拒絶反応という問題がある。拒絶反応を軽減するために、ヒト輸入アイバンク角膜の角膜内皮(一部実質を含む)を採取し、疾患眼に移植する方法(Descemet stripping endothelial keratoplasty;DSEK)も行われているが、DSEKでもドナー不足の問題を解決することはできない。 角膜内皮細胞をin vitroで増殖させ、これを治療に利用する方法も試みられている(非特許文献1及び特許文献1及び2等)。しかし、従来の血清を用いた培養法では、角膜内皮細胞を長期培養するとその細胞形態が変化して角膜内皮機能が失われ、最終的に増殖は完全に停止してしまい、通常継代数5〜7まで増殖させることしかできない(非特許文献2)。これは、既存の手法では、角膜内皮前駆細胞を選択的に増殖させることができず、分化した細胞のみが一時的に増殖しているに過ぎないことが、理由として考えられる。 これまでに角膜内皮細胞を浮遊培養することで得られる凝集体(sphere)が角膜内皮前駆細胞の性質を有していることが報告されている(非特許文献3及び特許文献3)。しかし、この方法で得られる凝集体は角膜内皮の起源である神経堤幹細胞のマーカーp75を発現しておらず、その未分化性については不明である。p75は神経堤幹細胞を含めた、成体内に少数存在する幹細胞にのみ発現しており、未分化性の指標としては最も信頼できるマーカーの一つである。 以上のとおり、成熟した培養角膜内皮細胞を増幅させる技術はあっても、培養角膜内皮細胞の移植は行われていないのが現状である。そこで、安定的に増殖し良質な角膜内皮細胞へと誘導可能な、角膜内皮幹細胞や角膜内皮前駆細胞を取得し、増殖させる技術の開発が望まれている。WO2004/073761特開2003−038170号特開2006−187281号Ide T,et al.,Biomaterials,2006 Feb.,27(4):607−614Zhu C and Joyce NC,Invest Ophthalmol Vis Sci.,2004 Jun.,45(6):1743−1751Yokoo S.et al.,Invest Ophthalmol Vis Sci.,2005 May,46(5):1626−1631 本発明の課題は、角膜組織由来の細胞群から、未分化な角膜内皮前駆細胞を選択的に増殖させ、これを誘導して得た角膜内皮細胞を角膜内皮疾患の治療に応用することにより、角膜移植におけるドナー不足や拒絶反応の問題を解決することにある。 発明者らは、角膜内皮組織から酵素処理で単離した細胞群を、特定の無血清培養液を用いて、低密度で、長期間培養することによって角膜内皮前駆細胞の選択的な増殖が可能なことを見出した。 すなわち、本発明は、角膜内皮細胞組織から単離した細胞群を、低密度で、無血清培地を用いて接着培養することを特徴とする、角膜内皮前駆細胞の調製方法に関する。 細胞は、少なくとも10000cells/cm2未満、好ましくは5000cells/cm2以下、より好ましくは20〜2000cells/cm2、さらに好ましくは50〜1000cells/cm2、もっとも好ましくは100〜500cells/cm2程度の密度で播種して培養する。 本発明の方法では、増殖能の高い、未分化な角膜内皮前駆細胞群が選択的に増殖される。増殖される角膜内皮前駆細胞群は、未分化性の指標である神経堤マーカーp75陽性によって特徴づけられ、さらに神経堤マーカーであるFOXC2、SOX9、及び角膜内皮マーカーであるN−cadherinの発現も認められる。これらのマーカーは、培養開始時点において高い発現が認められるが、増殖が進むにつれて少しずつ消失する。一方、増殖された細胞群は、培養初期には発現していない増殖マーカーKi−67を高発現するようになり、非常に増殖能が高く、最終的に1細胞から少なくとも1×105cells以上に増殖可能である。 本発明で用いられる培地は、bFGF、EGF、TGF、NGF、及びWnt3aから選ばれる少なくとも1以上のサイトカインを含むことが望ましい。 培地は、KSRなどの血清代替物を含んでいてもよい。また、レチノイン酸、βメルカプトエタノール、ピルビン酸ナトリウム、及びアスコルビン酸から選ばれる1又は2以上を含んでいてもよい。 接着培養は、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、マトリゲルTM、ポリ−L−オルニチン/ラミニン、又はポリ−D−リジン(PDL)でコーティングした培養容器を用いて行う。 本発明の方法によれば、増殖能の高い、未分化な状態で角膜内皮前駆細胞を長期に培養することができる。好ましくは、培養は7日以上継続して行う。 用いられる角膜内皮細胞組織の由来は限定されないが、ヒト由来であることが好ましい。 角膜内皮前駆細胞は、上記方法で培養した細胞群からp75陽性の細胞群を単離することにより取得することができる。 本発明はまた、上記方法によって調製された角膜内皮前駆細胞群を、角膜内皮細胞群に分化誘導することを特徴とする、角膜内皮細胞の調製方法も提供する。 角膜内皮細胞群への分化誘導は、たとえば、TGF−β2を含む無血清培地、又は血清を含む培地を用いて行うことができる。 角膜内皮細胞群への分化誘導は、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、マトリゲルTM、ポリ−L−オルニチン/ラミニン(PLO/LM)又はポリ−D−リジン(PDL)等でコーティングした培養皿(器)を用いた接着培養により行うことができるが、後述する角膜内皮細胞シートを作製する場合には、角膜内皮前駆細胞を高分子膜上で培養し、角膜内皮細胞に分化誘導してもよい。 本発明はさらに、本発明の方法によって調製された角膜内皮前駆細胞群、又は角膜内皮細胞群を、高分子膜を支持体として培養することにより、角膜内皮細胞シートを作製する方法も提供する。 用いられる高分子膜は、例えば、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、及びケラタン硫酸などのグリコサミノグリカン;アテロコラーゲン;アルカリ処理コラーゲン;ゼラチン;ケラチン;プロテオグリカン;アルギン酸;キトサン;ヒアルロン酸;ポリアミノ酸;ポリ乳酸;セルロース;(メタ)アクリルアミド化合物、N−(若しくはN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、ビニルエーテル誘導体、及びこれらの共重合体などの温度応答性ポリマー;からなる群より選ばれるいずれか1又は2以上を含むものを挙げることができる。 本発明によれば、角膜内皮組織由来の細胞を、より未分化な状態(p75陽性の状態を維持したまま)で増殖させることができる。換言すれば、本発明によれば、角膜内皮組織由来の細胞から、より未分化な細胞群(角膜内皮前駆細胞)を選択的に増殖させ、単離することが可能である。本発明で得られる角膜内皮前駆細胞群は高い増殖能を有し、それゆえ、長期にわたって継代培養することが可能であり、これにより大量の角膜内皮前駆細胞群を調製することができる。 本発明で得られる角膜内皮前駆細胞群は、適当な条件下で培養することにより、成熟した角膜内皮細胞へ分化誘導させることが可能である。それゆえ、本発明によれば、長期的に安定した角膜内皮細胞源を供給することが可能となり、角膜再生医療における深刻なドナー不足(待機患者1000万人)の問題を解消することができる。図1は、本発明の方法によって角膜内皮組織より得られた細胞(A:初代培養 14日、B:初代培養 21日)を示す。図2は、本発明の方法で得られた角膜内皮前駆細胞における神経堤マーカーp75、SOX9、FOXC2と、角膜内皮マーカーN−cadherinの発現を示す。各グラフ左から、本発明の方法で得られた角膜内皮前駆細胞、公知の方法で得られた細胞、in vivoの角膜内皮細胞を示す。図3は、本発明の方法で得られた角膜内皮前駆細胞におけるp75の発現量を他の細胞と比較したグラフである。グラフ左から、本発明の方法で得られた角膜内皮前駆細胞、本発明の方法を浮遊培養に代えて行って得られた細胞、公知の方法で得られた細胞、in vivoの角膜内皮細胞を示す。図4は、本発明の方法で得られた角膜内皮前駆細胞の増殖能を示す。A:初代培養細胞(左)と継代1代目の細胞(右)の培養2日後の写真。B:増殖マーカーKi−67の発現(左:Ki−67の染色像、右:Ki−67と核染色の染色像)。C:各継代細胞の増殖能(増殖曲線)。図5Aは、本発明の方法で得られた角膜内皮前駆細胞から分化した角膜内皮細胞の画像を示す(左:本発明の方法で得られた角膜内皮前駆細胞、右:通常の培養角膜内皮細砲)。図5Bは、角膜内皮マーカータイプVIIIコラーゲン(COL8A2)の発現を示す(グラフ左から、角膜内皮前駆細胞、角膜内皮前駆細胞から分化した角膜内皮細胞、公知の方法で得られた細胞、in vivoの角膜内皮細胞)。図6は、アテロコラーゲンシート上に作製した角膜内皮細胞シートの解析結果を示す(A:アテロコラーゲンシート上に作製された角膜内皮細胞シート、B:位走査像、C:アリザリン染色像、D:Na+/K+−ATPaseの発現、E:ZO−1の発現、F:N−Cadherinの発現)。図7は、角膜内皮細胞シートのポンプ機能をin vitro評価系(ussing−chamber system)で解析した結果を示す(A:短絡電流の経時変化、B:角膜内皮前駆細胞から分化した角膜内皮細胞(左)と培養角膜内皮(右)の比較)。図8は、ウサギの水疱性角膜症モデルに角膜内皮細胞シートを移植し、角膜の透明性(A:上段は移植群、下段はコントロール群。いずれも左は移植前、中・右は移植28日後)及び角膜厚の改善(B:−◆−移植群、−■−コントロール群)を検証した結果を示す。 本明細書は、本願の優先権の基礎である特願2011−156641号の明細書に記載された内容を包含する。1.定義 以下、本発明にかかる用語について説明する。(1)角膜内皮細胞 角膜は、表面から、角膜上皮層、角膜実質層、角膜内皮層の3層構造をしている。「角膜内皮細胞」は、この角膜の一番内側の層を構成する細胞群で、障害を受けるとin vivoでは再生しない。「角膜内皮細胞」は神経堤に由来する細胞で、敷石状の形態を有し、角膜内皮細胞の分化マーカーであるタイプVIIIコラーゲン、ZO−1、Na+/K+ ATPase等の発現によって特徴づけられる。(2)角膜内皮前駆細胞 本発明にかかる「角膜内皮前駆細胞」とは、角膜内皮に分化可能な未分化細胞を意味する。「角膜内皮前駆細胞」は、樹状形態を有する細胞で、高い増殖能を有する。また、培養(増殖)初期段階では、分化マーカーを発現しておらず、神経堤幹細胞等の未分化細胞特異的なマーカーであるp75の発現によって特徴づけられる。本発明で得られる「角膜内皮前駆細胞」は、幹細胞としての性質(多分化能と自己複製能)も有する可能性がある。その意味では、「角膜内皮前駆細胞」は「「角膜内皮幹細胞・前駆細胞」と記載することもできる。(3)無血清培地 本発明で用いられる「無血清培地」とは、他種血清成分を含まない培地を意味する。無血清培地は、動物血清に由来する病原体による感染の恐れがなく、得られた細胞や培養物は安全に、臨床応用に適用することができる。それゆえ、本発明で得られる角膜内皮細胞の再生医療等への利用を考慮した場合、培地としては無血清培地を用いることが好ましい。なお、無血清培地は、後述する工血清代替物を含んでいてもよい。(4)血清代替物 本発明で用いられる「血清代替物」とは、血清に代替して使用可能な人工血清代替物を意味し、例えば、前述したKSR(knockout serum replacement:invitrogen社(GIBCO)製)、脂質リッチアルブミン等のアルブミン、トランスフェリン、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2−メルカプトエタノールや3’チオールグリセロール、あるいはこれらの均等物を挙げられる。(5)サイトカイン 「サイトカイン」とは、細胞から放出され、種々の細胞間相互作用を媒介するタンパク質性因子の総称である。本発明においては、細胞の増殖と分化誘導を促進させる目的で、培地にサイトカインを添加する。 本発明で用いられる「サイトカイン」としては、塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor:bFGF)、トランスフォーミング増殖因子β(transforming growth factor−β:TGF−β(TGF−β1、TGF−β2、TGF−β3etc.))、インターフェロン類(IFNα、β、γ)、インターロイキン類、血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor;VEGF)、トロンボポイエチン(thrombopoietin;TPO)、顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte−colony stimulating factor;G−CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(Macrophage−colony stimulating factor;M−CSF)、神経増殖因子(NGF)等を挙げることができるが、本発明の目的と効果に適合する限り、これらに限定されない。(6)細胞マーカー 本発明では、角膜内皮前駆細胞、及び、分化誘導された角膜内皮細胞を同定するために、各細胞種に特異的に発現しているタンパク質(細胞マーカー)を利用する。具体的には、本発明にかかる角膜内皮前駆細胞群は、培養初期段階においては、p75、FOXC2、SOX9、N−cadherin陽性によって特定される。これらのマーカーは、本発明の培養系において一定期間維持することが可能であるが、増殖が進むにつれて少しずつ消失する。一方で、角膜内皮前駆細胞は培養初期にはki−67を発現していないが、増殖時にはki−67を高発現するようになる。一方分化誘導された角膜内皮細胞を含む細胞群はタイプVIIIコラーゲン陽性によって特定される。 神経成長因子受容体はニュートロフィン類に対する受容体であるp75はLow affinity neurotrophin receptorとして知られており、遊走している神経堤細胞のマーカーである。p75は神経堤幹細胞を含めた、成体内に少数存在する幹細胞にのみ発現しており、未分化性の指標としては最も信頼できるマーカーの一つである。その他、神経堤細胞のマーカーとしては、FOXC2(Forkhead box protein C2)、SOX9、SOX10、AP2β、AP2α、snail、slug、PITX2、FOXC1等も、知られている。 N−cadherinはカルシウム依存性細胞接着分子に属するタンパクで、同種のカドヘリンの相互作用及びカテニンを介したアクチン細胞骨格との結合により細胞接着において重要な役割を担い、発生分化段階に関与することが知られている。N−カドヘリンは神経、心筋、骨格筋、血管内皮、角膜内皮など様々な組織に発現している間葉系マーカーである。 タイプVIIIコラーゲンは、非線維性コラーゲンで、形態形成が活発な組織で多く発現し、分化した角膜内皮細胞のマーカーとして知られている。このほか、分化した角膜内皮細胞のマーカーとしては、ZO−1等を挙げることができる。2.細胞の培養方法−角膜内皮前駆細胞群の選択的増殖方法2.1 細胞の単離 まず、常法にしたがい、単離された角膜内皮組織をトリプシン、コラゲナーゼ等の酵素で処理して、細胞を単離させる。単離させた細胞は、DMEM等の基本培地に懸濁させ、遠心して組織断片を除去する。こうして調製した角膜内皮組織由来の細胞群を以下の手順で培養を行う。2.2 細胞の培養 本発明の方法は、(1)無血清培地、(2)低密度培養、(3)接着培養の3つを主たる特徴とする。(1)培地組成(無血清培地) 本発明の方法では、血清を含まない無血清培地を用いて細胞を培養する。基本培地としては、DMEM培地、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle MEM培地、α MEM培地、Dulbecco MEM培地、ハム培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、McCoy’s培地、ウイリアムスE培地、及びこれらの混合培地など、動物細胞の培養に用いることのできる培地であればいずれも用いることができる。 本発明の培養方法で用いられる培地は、上記した基本培地に、細胞の維持増殖に必要な各種栄養源や分化誘導に必要な各成分を添加して作成される。培地には、細胞の増殖を促すサイトカインや血清代替物を含むことが好ましい。培地に添加されるサイトカインとしては、たとえば、塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor:bFGF)、トランスフォーミング増殖因子β(transforming growth factor−β:TGF−β)、インターフェロン類(IFNα、β、γ)、インターロイキン類、血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)、トロンボポイエチン(thrombopoietin:TPO)、顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte−colony stimulating factor:G−CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(Macrophage−colony stimulating factor;M−CSF)、神経増殖因子(nerve growth factor:NGF)等を挙げることができる。 血清代替物としては、アルブミン(例えば、脂質リッチアルブミン)、トランスフェリン、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、βメルカプトエタノール又は3’チオールグリセロール、市販のKnockout Serum Replacement(KSR)、Chemically−defined Lipid concentrated(Gibco社製)、Glutamax(Gibco社製)などを挙げることができる。 また、培地には、必要に応じて、ピルビン酸、βメルカプトエタノール等のアミノ酸還元剤、アミノ酸等を添加することができる。 上記のほかに、栄養源として、グリセロール、グルコース、果糖、ショ糖、乳糖、ハチミツ、デンプン、デキストリン等の炭素源、また、脂肪酸、油脂、レシチン、アルコール類等の炭化水素類、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、尿素、硝酸ナトリウム等の窒素源、食塩、カリウム塩、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩、マンガン塩等の無機塩類、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、モリブデン酸ナトリウム、タングステン酸ナトリウム及び硫酸マンガン、各種ビタミン類等を含むことができる。 これらの成分を配合して得られる培地のpHは5.5〜9.0、好ましくは6.0〜8.0、より好ましくは6.5〜7.5の範囲である。(2)低密度培養 一般に角膜内皮細胞の培養は、10,000〜100,000cells/cm2の高密度で細胞を播種、またはデスメ膜ごと外植片培養を行う。しかし、本発明の方法では少なくとも10000cells/cm2未満、好ましくは5000cells/cm2以下、より好ましくは20〜2000cells/cm2、さらに好ましくは50−1000cells/cm2、もっとも好ましくは100〜500cells/cm2程度の低密度で細胞を播種して培養を行う。(3)接着培養 本発明の方法では、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、マトリゲルTM、ポリ−L−オルニチン/ラミニン(PLO/LM)又はポリ−D−リジン(PDL)等でコーティングした培養皿(器)を用いて、接着培養を行う。 上記した条件にしたがい、培養は、36℃〜38℃、好ましくは36.5℃〜37.5℃で、1%〜25% O2、1%〜15% CO2の条件下で行われる。培養は、2〜3日に1回培地を交換しながら、少なくとも7日、好ましくは7日〜14日間培養する。2.3 角膜内皮前駆細胞群の選択的増殖 血清を含む培地を用いた従来の方法では、継代するにつれて細胞形態が変化し、角膜内皮機能や増殖能を維持することが困難になる。しかしながら、本発明の方法では、継代しても細胞形態は変化せず、高い増殖能を維持したまま、長期間の培養が可能となる。これは、本発明の方法では、角膜内皮組織由来の細胞を、未分化な状態を維持したまま増殖させることができるからである。換言すれば、本発明の方法では、増殖能の高い、より未分化な細胞群が選択的に増殖させることができる。 本発明で選択的に増殖される角膜内皮前駆細胞群は、未分化マーカーであるp75陽性という点で、従来公知の方法で培養した角膜内皮由来の細胞群とは区別される。p75の発現は増殖が進むにつれて少しずつ消失していくが、これらの細胞群は高い増殖能を有し、最終的に100000倍まで増殖可能である。 この細胞群は、培養開始時点において、神経堤マーカーであるSOX9やFOXC2を発現し、角膜内皮マーカーであるN−cadherinを発現しているという点においても、従来公知の方法で培養して得られる角膜内皮由来の細胞群とは区別される。SOX9、FOXC2、N−cadherinの発現も、増殖が進むにつれて少しずつ消失していく。 本発明の方法で増殖された角膜内皮前駆細胞群は、増殖マーカーKi−67を発現し、高い増殖能を有し、最終的に1細胞から少なくとも1×105cells以上に増殖可能な、非常に増殖能の高い細胞群である。この細胞群は、適当な条件下で角膜内皮細胞に分化可能である。本発明においては、この角膜内皮細胞に分化可能な細胞群を、「角膜内皮細胞前駆細胞(群)」と呼ぶ。3.角膜内皮前駆細胞の角膜内皮細胞への分化誘導 上記のとおり、本発明の方法によって得られた角膜内皮前駆細胞群は、適当な条件下で培養することにより、成熟した角膜内皮細胞に分化させることができる。(1)培地組成 基本培地としては、DMEM培地、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle MEM培地、α MEM培地、Dulbecco MEM培地、ハム培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、McCoy’s培地、ウイリアムスE培地、及びこれらの混合培地など、動物細胞の培養に用いることのできる培地であればいずれも用いることができる。 角膜内皮細胞への分化誘導で用いられる培地は、上記した基本培地に、角膜内皮細胞への分化誘導を促す因子や、細胞の維持増殖に必要な各種栄養源や分化誘導に必要な各成分を添加して作成される。 角膜内皮細胞への分化誘導を促す因子としては、TGF−β2、コレラトキシン、トランスフェリン、インスリン、EGM(Epidermal Growth Factor)、血清あるいは血清代替物、KSR(Knockout Serum Replacement)等を挙げることができる。 好ましくは、角膜内皮細胞への分化誘導にはTGF−β2を含む無血清培地(特開2009−268433号参照)、あるいはBSA等の血清を含む培地を用いる。 また培地には、必要に応じて、ペニリシリン、ストレプトマイシン等の抗生剤、サイトカイン、ピルビン酸、βメルカプトエタノール等のアミノ酸還元剤、アスコルビン酸等の抗酸化剤、アミノ酸等を添加することができる。 上記のほかに、栄養源として、グリセロール、グルコース、果糖、ショ糖、乳糖、ハチミツ、デンプン、デキストリン等の炭素源、また、脂肪酸、油脂、レシチン、アルコール類等の炭化水素類、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、尿素、硝酸ナトリウム等の窒素源、食塩、カリウム塩、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩、マンガン塩等の無機塩類、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、モリブデン酸ナトリウム、タングステン酸ナトリウム及び硫酸マンガン、各種ビタミン類等を含むことができる。 これらの成分を配合して得られる培地のpHは5.5〜9.0、好ましくは6.0〜8.0、より好ましくは6.5〜7.5の範囲である。(2)培養条件 培養は、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、マトリゲルTM、ポリ−L−オルニチン/ラミニン(PLO/LM)又はポリ−D−リジン(PDL)等でコーティングした培養皿(器)を用いて、36℃〜38℃、好ましくは36.5℃〜37.5℃で、1%〜25% O2、1%〜15% CO2の条件下で行われる。培養期間は、2〜3日に1回培地を交換し、少なくとも7日、好ましくは1週間〜8週間程度である。 角膜内皮前駆細胞群から成熟角膜内皮細胞への分化誘導は、形態の変化(敷石状の形態の細胞への変化)、成熟角膜内皮細胞マーカーであるタイプVIIIコラーゲン等の発現によって確認することができる。4.細胞の純化 本発明の方法によって増殖された角膜内皮前駆細胞群は、表面マーカーであるp75等を利用して、簡便に単離(純化)することができる。例えば、p75に特異的な抗体で標識された免疫磁気ビーズ、p75抗体を固相化したカラム、蛍光標識されたp75抗体を用いたセルソーター(FACS)による分離を用いて単離することができる。 また、本発明の方法によって分化誘導された角膜内皮細胞群についても、表面マーカーではないものの、その特異的マーカーであるタイプVIIIコラーゲン等の発現を指標として単離することができる。5.再生医療への利用5.1 培養物 本発明の方法によって得られた角膜内皮前駆細胞群、及び/又は前記細胞群から分化誘導された角膜内皮細胞群を含む培養物は、研究、再生医療あるいは後述する細胞製剤の原料として利用することができる。5.2 角膜内皮疾患治療用細胞製剤 本発明の方法によって、分化誘導され、単離された角膜内皮前駆細胞群、及び/又は前記細胞群から分化誘導された角膜内皮細胞群は、角膜内皮疾患用細胞製剤として利用できる。 本発明の細胞製剤の投与方法は特に限定されず、適用部位に応じて、外科的手段による局所移植、静脈内投与、局所注入投与を行うことができる。 本発明の細胞製剤は、細胞の維持・増殖、患部への投与を補助する足場材料や成分、他の医薬的に許容しうる担体を含んでいてもよい。 細胞の維持・増殖に必要な成分としては、炭素源、窒素源、ビタミン、ミネラル、塩類、各種サイトカイン等の培地成分、あるいはマトリゲルTM等の細胞外マトリックス調製品、が挙げられる。 本発明の細胞製剤は、細胞の維持・増殖、患部への投与を補助する足場材料や成分、他の医薬的に許容しうる担体を含んでいてもよい。 細胞の維持・増殖に必要な成分としては、炭素源、窒素源、ビタミン、ミネラル、塩類、各種サイトカイン等の培地成分、あるいはマトリゲルTM等の細胞外マトリックス調製品、が挙げられる。 患部への投与を補助する足場材料や成分としては、生分解性ポリマー;例えば、コラーゲン、ポリ乳酸、ヒアルロン酸、セルロース、及びこれらの誘導体、ならびにその2種以上からなる複合体、注射用水溶液;例えば生理食塩水、培地、PBSなどの生理緩衝液、ブドウ糖やその他の補助剤を含む等張液(例えばD−ソルビトール、D−マンノース、D−マンニトール、塩化ナトリウム)等が挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80、HCO−50等と併用してもよいが挙げられる。 その他、必要に応じて、医薬的に許容される有機溶剤、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、医薬添加物として許容される界面活性剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤等を含んでいてもよい。 実際の添加物は、本発明の治療剤の剤型に応じて上記の中から単独で又は適宜組み合わせて選ばれるが、これらに限定するものではない。例えば、注射用製剤として使用する場合、精製された抗体を溶剤、例えば生理食塩水、緩衝液、ブドウ糖溶液等に溶解し、これに吸着防止剤、例えばTween80、Tween20、ゼラチン等を加えたものを使用することができる。5.3 細胞シート(1)キャリア上での培養 本発明の方法で得られた角膜内皮前駆細胞群を適当な高分子膜(キャリア)上で培養し、角膜内皮細胞に分化誘導させることにより、あるいは、上記3に記載した方法で得られた角膜内皮細胞群を適当な高分子膜(キャリア)上で培養することにより角膜内皮細胞シートを作製することができる。 用いる高分子膜としては、コラーゲン、アテロコラーゲン、アルカリ処理コラーゲン、ゼラチン、ケラチン、ヒアルロン酸、グリコサミノグリカン(コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ケラタン硫酸)、プロテオグリカン、アルギン酸、キトサン、ポリアミノ酸、ポリ乳酸、セルロース等のバイオポリマー、あるいは、(メタ)アクリルアミド化合物、N−(若しくはN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、ビニルエーテル誘導体、又はこれらの共重合体等の温度応答性ポリマー等を挙げることができる。 これらの方法を用いた本発明の細胞製剤や細胞シート移植の対象となりうる疾患としては、水疱性角膜症を含む角膜内皮機能不全、角膜ジストロフィー、発達緑内障、Rieger奇形、先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィー、輪部デルモイド、強膜化角膜、円錐角膜やペルーシド角膜変性などの角膜形状異常、角膜瘢痕、角膜浸潤、角膜沈着、角膜浮腫、角膜潰瘍、化学物質や熱によるものを含む眼外傷、角膜炎、角膜変性、角膜感染症などの眼疾患や神経芽細胞腫、Hirschsprung病、Waadenburg症候群、限局性白皮症Recklinghausen病が挙げられる。 以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。[材料・方法]1.角膜内皮前駆細胞の培養・維持角膜内皮前駆細胞の樹立・維持培地・DMEM/F−12(Invitrogen社、基礎培地)・20% KnockOUT Serum Replacement(Invitrogen社、血清代替物)・2mM L−グルタミン(Invitrogen社)・1%非必須アミノ酸(Invitrogen社)・100μM 2−メルカプトエタノール(Invitrogen社)・4ng/ml basic−FGF(Wako社)角膜内皮前駆細胞の培養に用いるコーティング剤・マトリゲルTM hESC−qualified Matrix(BD社) 氷上又は4℃で融解したマトリゲルTMを冷DMEM/F12培地(Invitrogen社)で30倍希釈し、培養皿に添加し、37℃、1時間インキュベートして培養皿をコーティングした。・ラミニン511(ベリタス社) ラミニン511をPBSで20μg/mlに希釈し、培養皿に添加し、37℃、2時間インキュベートして培養皿をコーティングした。PBSで2回、使用する培地で2回洗浄した後、培地を加えた。ヒト角膜内皮組織からの角膜内皮前駆細胞の調製 ヒト角膜内皮組織をデスメ膜ごと剥離し、10μM Y−27632(Wako社,ROCK阻害剤;アポトーシス阻害剤)を含むDMEM(Invitrogen社)の入った3.5cm培養皿に移し、37℃で30分維持した。 次いで、1mlのStem Pro Accutase(Invitrogen社,細胞乖離液)を加え、37℃で30分処理したのち、4mlのDMEM(Invitrogen社)を加え、15mlチューブに移した。1,500rpm、5分遠心して、上清を吸引除去し、前述の培地を200μl加え、マトリゲルTM又はラミニン511でコーティングした培養皿に播種して(播種密度:50−1000cells/cm2)、2〜3日に1回培地を交換しながら培養を行った。約7〜14日でコロニーが出現した。角膜内皮前駆細胞の継代 サブコンフルエントまで培養した細胞に、Y−27632(Wako社、アポトーシス阻害剤)を終濃度10μMになるように添加し、37℃で60分放置し、PBSで1回洗浄したのち、0.25mlのStem Pro Accutase(Invitrogen社,細胞乖離液)を加え、室温で2〜5分放置した。 5倍容の培地を加え、15mlチューブに移し、1,000rpm、5分遠心して、上清を吸引除去し、培地を加え、マトリゲルTM又はラミニン511でコーティングした培養皿に播種して(播種密度:5,000−20000cells/cm2)、2〜3日に1回培地を交換しながら培養を行った。2.角膜内皮前駆細胞の角膜内皮幹細胞への分化誘導角膜内皮前駆細胞から成熟角膜内皮細胞への分化誘導培地・DMEM low−glucose(日研生物医学研究所)・10% FBS(日本バイオシーラム社)・2mM L−グルタミン(Invitrogen社)・1% Penicillin−Streptomycin(Invitrogen社)角膜内皮細胞への分化誘導に用いるコーティング剤・FNC coating mix(AthenaES社) FNC coating mix(フィブロネクチンとタイプIコラーゲンを含むコーティング剤)を培養皿に加え、室温、30秒放置した。角膜内皮前駆細胞から成熟角膜内皮細胞への分化 上記方法で培養した角膜内皮前駆細胞にY−27632(Wako社)を終濃度10μMになるように添加し、37℃で60分処理し、PBSで1回洗浄したのち、0.25mlのStem Pro Accutase(Invitrogen社,細胞乖離液)を加え、室温で2〜5分間インキュベーションした。 5倍容の培地を加え、15mlチューブに移し、1,000rpm、5分遠心し、上清を吸引除去し、培地を加え、FNC coating mixでコーティングした培養皿またはアテロコラーゲンシート(AteloCell,KOKEN社)上に播種し(播種密度:3,000−5,000cells/mm2)、2〜3日に1回培地を交換しながら培養を行った。1週間から4週間で角膜内皮様(敷石状)の形態を呈する細胞が出現した。成熟角膜内皮細胞の維持培地・DMEM low−glucose(日研生物医学研究所,基礎培地)・10% FBS(日本バイオシーラム社)・2mM L−グルタミン(Invitrogen社)・1% Penicillin−Streptomycin(Invitrogen社)・2ng/ml bFGF(Invitrogen社)4.公知の方法による角膜内皮細胞 1と同様にして、角膜組織から細胞を単離し、公知の方法にしたがい培養を行った(前掲、Yokooら,IVOS,2005)。すなわち、単離した角膜内皮細胞をDMEM/F12,B27 supplement,40ng/ml bFGF,20ng/ml EGFを含む培地を使用し、非接着性培養皿上に播種した。2日に1回40ng/ml bFGF,20ng/ml EGFを追加し、計10日間培養した。5.リアルタイムPCRRNA抽出 RNeasy Micro Plus kit(QIAGEN社)を用いて、細胞からRNAを抽出した。cDNA合成 SuperScript III First−Strand Synthesis SuperMix for qRT−PCR(Invitrogen社)を用いて、前項で得たRNAからcDNAを調製した。リアルタイムPCR TaqMan Fast Universal PCR Master Mix(Applied Biosystems社)と、表1記載のTaqMan probe(Applied Biosystems社)を用いて、7500 FastリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems社)によりリアルタイムPCRを行った。データ解析は、GAPDHを内因性コントロールとして、ΔΔCt法により行った。6.免疫染色 上記した方法で調製した角膜内皮前駆細胞又は角膜内皮細胞を、4%パラホルムアルデヒド(Wako社)で室温30分又は冷メタノール(Wako社)で−30℃、30分で固定した。トリス緩衝溶液(TBS,TaKaRa社)で2回洗浄し、5% NST(組成は表2参照)で室温1時間処理した。 1次抗体を1%NSTで各至適濃度に調整し、4℃で一晩インキュベート(表3参照)し、TBSで3回洗浄した。次いで、2次抗体(Invitrogen社、AlexaFluor 488 or 568 conjugated anti−IgG antibody)を1%NSTで200倍希釈して加え、室温で2時間インキュベートした。 0.2mg/mlのヘキスト33342(Invitrogen社)で核染色を行い、TBSで3回洗浄してから、水溶性封入剤(Perma Fluor,サーモフィッシャーサイエンティフィック社)で封入した。蛍光顕微鏡(Axio observer A1,Zeiss社)で観察し、AxioVision(Zeiss社)で画像を取得した。7.アリザリン染色 アリザリンレッドS(Wako社)を0.9%NaCl(pH4.2)に調整した。細胞を染色液で5分間染色したのち、4%パラホルムアルデヒドにより固定し、顕微鏡下で観察した。8.ポンプ機能測定 ポンプ機能はUssing chamberを用いて測定した。アテロコラーゲン上で培養した誘導角膜内皮細胞シートをKrebs−Ringer溶液(120.7mM NaCl,24mM NaHCO2,4.6mM KCl,0.7mM Na2HPO4,0.5mM MgCl2,10mM glucose,pH7.4)でインキュベートした。Ussing chamberシステムはWPI社製のものを用いた。Na+/K+ −ATPase阻害剤である1mMウワバイン(Sigma社)を加え、短絡電流を算出した。9.家兎角膜内皮障害モデルへの移植 家兎角膜内皮障害モデルは家兎の片眼をクライオ法によって角膜内皮を脱落させた。その1週間後、誘導角膜内皮シートの角膜内皮移植術(DAESK)によって角膜内皮面に接着させ、空気を注入して密着させた。角膜厚は経時的にパキメーター(SP−100,Tomey社)によって測定し、前眼部像はスリットランプによって観察した(AIP−20、トプコン社)。[結果](1)本発明の方法で得られた細胞 ヒト角膜内皮組織(内皮細胞数:約1〜4×104細胞)から単離した細胞を50−1000cells/cm2/無血清下で培養することにより、約7〜14日間培養で、コロニーの出現が認められた(出現率:約0.1%:1眼あたりに約10〜40細胞存在)。 本発明の方法によって角膜内皮組織より増殖された細胞の形態は、iPS細胞から誘導した神経堤細胞と形態が酷似しており、角膜内皮前駆細胞である可能性が示唆された(図1)。(2)角膜内皮前駆細胞のマーカー遺伝子の解析 本発明の方法で得られた角膜内皮前駆細胞は公知の方法で培養した内皮細胞や、in vivoの細胞と比較して、角膜内皮の発生に由来する神経堤マーカーp75、SOX9、FOXC2と、角膜内皮マーカーの一つであるN−cadherinの発現が亢進していた(図2)。(3)角膜内皮前駆細胞と公知の方法で得られた細胞との比較 角膜内皮組織から公知の方法で得られた細胞や生体から単離しただけの細胞(in vivo)ではp75の発現が認められなかったが、本発明の方法で得られた角膜内皮幹細胞・前駆細胞では、p75の発現が認められた(図3)。p75(CD271/NGFR)は、神経堤幹細胞を含めた、生体内に少数存在する幹細胞にのみ発現するマーカーで、未分化性の指標である。上記の結果は、本発明の方法では、角膜内皮前駆細胞をより未分化な状態で増殖させることが可能であることを示す。 また、公知の角膜内皮前駆細胞の培養法である浮遊培養法(前掲、Yokooら,IVOS,2005)を行った場合、得られた細胞ではp75の発現が認められなかった(図3)。このことから、本発明は公知の方法に比較して、より未分化な角膜前駆細胞を単離、増幅可能であることを示す。(4)角膜内皮前駆細胞の増殖能 本発明の方法で得られた角膜内皮前駆細胞では、増殖マーカーの発現が認められた(図4B)。また、継代を繰り返すことによって単一細胞から最大約108個に増幅可能であった(図4C)。このことは、1ドナーから理論上最大、細胞シート8×104枚が作製可能であることを示す。これに対し、公知の方法で得た細胞では、細胞形態が変化し、増殖能が低下するため、継代は困難である(前掲、Yokooら,IVOS,2005)。(5)角膜内皮前駆細胞から角膜内皮細胞の分化誘導 本発明の方法で得られた角膜内皮前駆細胞から分化した角膜内皮細胞は敷石状の細胞形態を呈し(図5A)、角膜内皮マーカーであるタイプVIIIコラーゲン(COL8A2)の発現の亢進が認められた(図5B)。このことから、本発明の方法で得られた角膜内皮前駆細胞は角膜内皮細胞に分化可能であることが確認された。(6)誘導角膜内皮細胞シートの作製 アテロコラーゲンシートは安全性の高い医療用のコラーゲンシートで、角膜内皮の移植用キャリア候補の一つである。角膜内皮前駆細胞から誘導された角膜内皮細胞はアテロコラーゲンシート上に播種すると透明な角膜内皮細胞シートが作製でき(図6A)、敷石状の細胞形態を呈した(図6B、C)。(7)誘導角膜内皮細胞シートの発現解析 アテロコラーゲンシート上に再播種した角膜内皮細胞では、角膜内皮前駆細胞から分化誘導した角膜内皮細胞と同様に、角膜内皮マーカーであるNa+/K+ −ATPase、ZO−1及びN−Cadherinの発現が認められた(図6D、E、F)。このことから、誘導角膜内皮細胞シートは成熟角膜内皮細胞を含み、再生医療用材料として使用可能であることが示された。(8)誘導角膜内皮細胞シートのポンプ機能解析 本発明で得られた誘導角膜内皮細胞シートをUssing chamberを用いてポンプ機能を解析した(図7A)。その結果、培養角膜内皮細胞と比較して同程度であった(図7B)。(9)誘導角膜内皮細胞シートの家兎内皮障害モデルへの移植実験 本発明で得られた誘導角膜内皮細胞シートを家兎角膜内皮障害モデルへ移植するとアテロコラーゲンのみを移植したコントロール群と比較して、移植後2週間目より顕著な角膜厚の減少が認められた(図8A、B)。このことから、誘導角膜内皮細胞シートは成熟角膜内皮細胞を含み、再生医療用材料として使用可能であることが示された。[結論] 本発明の方法により、角膜内皮組織由来の細胞をより未分化な状態(p75及びFOXC2、SOX9 陽性)で増殖させることが可能なことが確認された。得られる角膜内皮前駆細胞は、高い増殖能を有し、1ドナーから理論上、約330枚の角膜内皮細胞シート作製可能であった。当該細胞は成熟角膜内皮細胞への分化能を有する角膜内皮前駆細胞であることが確認された。 本発明によれば、角膜内皮組織由来の細胞を、未分化な状態を維持したまま増殖させることができる。換言すれば、角膜内皮組織由来の細胞から、増殖能の高い、より未分化な角膜内皮前駆細胞を選択的に増殖させることができる。本発明で得られた角膜内皮前駆細胞群は、適当な条件下で培養することにより、成熟した角膜内皮細胞へ分化誘導させることが可能である。それゆえ、本発明は、水疱性角膜症等に対する再生医療の基盤技術として利用可能である。 本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。 角膜内皮細胞組織から単離した細胞群を、5000 cells/cm2以下の低密度で、無血清培地を用いて接着培養して角膜内皮前駆細胞を得ることを特徴とする、角膜内皮前駆細胞の調製方法。 細胞群を20〜2000 cells/cm2の密度で播種して培養することを特徴とする、請求項1に記載の方法。 少なくとも7日以上培養することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。 得られる角膜内皮前駆細胞がKi-67陽性である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。 増殖される角膜内皮前駆細胞がp75陽性である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。 増殖される角膜内皮前駆細胞が、FOXC2、SOX9、及びN-cadherin陽性の細胞である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。 培地がbFGF、EGF、TGF、NGF、及びWnt3aから選ばれる少なくとも1以上のサイトカインを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。 培地が血清代替物を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。 培地が、さらにレチノイン酸、βメルカプトエタノール、ピルビン酸ナトリウム、及びアスコルビン酸から選ばれる1又は2以上を含む、請求項7又は8に記載の方法。 コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、マトリゲルTM、ポリ−L−オルニチン/ラミニン、又はポリ−D−リジン(PDL)でコーティングした培養容器を用いて接着培養することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。 角膜内皮細胞組織から単離した細胞群を、5000 cells/cm2以下の低密度で、無血清培地を用いて接着培養して角膜内皮前駆細胞を取得し、前記角膜内皮前駆細胞を、角膜内皮細胞に分化誘導することを特徴とする、角膜内皮細胞の調製方法。 分化誘導がTGF−β2を含む無血清培地、又は血清を含む培地を用いて行われる、請求項11に記載の方法。 角膜内皮細胞組織から単離した細胞群を、5000 cells/cm2以下の低密度で、無血清培地を用いて接着培養して角膜内皮前駆細胞を取得し、前記角膜内皮前駆細胞をそのまま、あるいは前記角膜内皮前駆細胞を角膜内皮細胞に分化誘導したのち、前記細胞を高分子膜上で培養することを特徴とする、角膜内皮細胞シートの作製方法。 高分子膜が、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、及びケラタン硫酸などのグリコサミノグリカン;アテロコラーゲン;アルカリ処理コラーゲン;ゼラチン;ケラチン;プロテオグリカン;アルギン酸;キトサン;ヒアルロン酸;ポリアミノ酸;ポリ乳酸;セルロース;(メタ)アクリルアミド化合物、N−(若しくはN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、ビニルエーテル誘導体、及びこれらの共重合体などの温度応答性ポリマー;からなる群より選ばれるいずれか1又は2以上を含むものである、請求項13に記載の方法。


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