タイトル: | 特許公報(B2)_経腸栄養剤 |
出願番号: | 2013503480 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | A61K 38/00,A61K 31/685,A61K 35/54,A61K 31/7032,A61K 31/20,A61K 9/107,A61P 3/02,A61P 1/12 |
杉浦 華代 西山 博 武藤 彩乃 長野 学 JP 5824509 特許公報(B2) 20151016 2013503480 20120301 経腸栄養剤 キユーピー株式会社 000001421 杉浦 華代 西山 博 武藤 彩乃 長野 学 JP 2011048121 20110304 20151125 A61K 38/00 20060101AFI20151105BHJP A61K 31/685 20060101ALI20151105BHJP A61K 35/54 20150101ALI20151105BHJP A61K 31/7032 20060101ALI20151105BHJP A61K 31/20 20060101ALI20151105BHJP A61K 9/107 20060101ALI20151105BHJP A61P 3/02 20060101ALI20151105BHJP A61P 1/12 20060101ALI20151105BHJP JPA61K37/22A61K31/685A61K35/54A61K31/7032A61K31/20A61K9/107A61P3/02A61P1/12 A61K 38/00 A61K 9/00 A61K 31/00 A61P 1/00 A61P 3/00 A23L 1/00 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) CAplus(STN) 特開2006−104147(JP,A) 特表2007−508343(JP,A) 特開昭60−025934(JP,A) 国際公開第2009/096579(WO,A1) 特開2011−006380(JP,A) 特開2004−099563(JP,A) 国際公開第2008/029909(WO,A1) 谷野壮介他,卵黄リゾホスファチジルコリン経口摂取時の血清コリンおよびリン脂質濃度の変化,栄養学雑誌,2006年10月25日,第64巻、第5号特別付録,第250頁“P2-a076”欄,第53回日本栄養改善学会学術総会講演集 3 JP2012055197 20120301 WO2012121095 20120913 12 20140819 伊藤 基章 本発明は、胃液や腸液に接触した場合においても優れた乳化状態を保ち、下痢を起こしにくい経腸栄養剤に関する。 手術後などに消化吸収機能の低下した患者や疾病や高齢により咀嚼嚥下機能の低下した人に対しての栄養補給の手段として、経腸栄養法と経静脈栄養法の2つが知られている。経腸栄養法では腸を介して経口あるいは経鼻胃管や胃ろうにより経管的に栄養を投与する方法で、血管を介した経静脈栄養法よりも生理的な栄養摂取法と考えられ、患者の腸管機能が有効な場合に活用されている。 経腸栄養法では、投与する栄養源として医薬品や食品の経腸栄養剤が広く使用されている。そのような経腸栄養剤は液状であることで、上記のように咀嚼嚥下機能が低下した状態の人でも摂取しやすく、経管投与の際にも胃や腸まで挿入した細長いチューブを通過することができる。さらに、乳化されていることにより消化吸収機能の低下した状態の患者でも栄養成分を吸収しやすいという利点がある。 一方で医療現場では、このような経腸栄養剤を使用する際のトラブルとして、下痢が大きな問題とされている。 術前術後の絶食時や静脈栄養を実施した時など、腸管を一定期間使用しなかった場合、腸管粘膜に一種の廃用萎縮が起こることがある。経腸栄養法の開始時にはそのようなケースが多く、下痢が起こりやすいと考えられている。 腸管機能の低下時には、消化酵素の分泌が低下していることによる脂肪の消化不良や、消化吸収速度の低下により腸管内の残留物が増え、浸透圧が高くなることで多量の水分と電解質が腸管内に移行することなどが原因となり、下痢が起こりやすい。特に脂質含量の多い経腸栄養剤を使用する場合はさらに下痢が起こりやすくなる。 特許文献1には、食物繊維として水溶性食物繊維と非水溶性食物繊維を含有し、ビフィズス増殖因子であるオリゴ糖を含有することで下痢や便秘の発生が少ない経口経管栄養組成物が開示されている。 市販の経腸栄養剤においても食物繊維を配合しているものは広く使用されているが、それらの経腸栄養剤を使用しても十分に下痢を抑えることができない場合があり、下痢の問題は依然医療現場での大きな課題としてあげられている。特開平6−135838 本発明者らは従来の市販の経腸栄養剤について検討を行った結果、これらの経腸栄養剤は、酸添加や塩溶液添加を行った際に乳化状態が悪くなりやすいことを見出した。通常、工業的に製造された経腸栄養剤は高度に乳化された状態に製造されており、流通、保管時にもその乳化安定状態が保持されているが、生体内に摂取された後、胃や腸の中での乳化安定状態については明らかではない。つまり、消化管内で胃液や腸液に接触した際、経腸栄養剤が乳化安定状態を維持できていないとすれば、そのことが下痢を防止できない一因である可能性が考えられる。 そこで本発明では、胃液や腸液に接触した場合においても、優れた乳化状態を保ち、脂質を含有しているにもかかわらず消化吸収機能低下時にも下痢を起こしにくい経腸栄養剤を提供することを目的とする。 本発明者等は、上記目的を達成すべく、鋭意研究を重ねた結果、脂質を含有する経腸栄養剤において、卵黄リゾリン脂質、中鎖脂肪酸トリグリセリド、脂肪酸を含有し、脂質に対する中鎖脂肪酸トリグリセリドの割合が20〜65質量%であって、人工胃液と1:1の比率で混合した際の平均粒子径(体積換算)が10μm以下であり、人工腸液と1:1の比率で混合した際の平均粒子径(体積換算)が5μm以下である経腸栄養剤は、脂質を含有しているにもかかわらず下痢を起こしにくいことを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は、(1)脂質を0.5〜15質量%含有し、平均粒子径(体積換算)が5μm以下の経腸栄養剤において、卵黄リゾリン脂質、中鎖脂肪酸トリグリセリド、脂肪酸を含有し、脂質に対する中鎖脂肪酸トリグリセリドの割合が20〜65質量%であって、人工胃液と1:1の比率で混合した際の平均粒子径(体積換算)が10μm以下であり、人工腸液と1:1の比率で混合した際の平均粒子径(体積換算)が5μm以下であることを特徴とする経腸栄養剤。(2)脂質に対する脂肪酸の含有量が0.1〜5%である(1)記載の経腸栄養剤。(3)容器に密封され、レトルト処理されてなる、(1)または(2)に記載の経腸栄養剤。(4)下痢発生防止用である、(1)乃至(3)のいずれかに記載の経腸栄養剤、である。 本発明によれば、脂質を含有しているにもかかわらず、胃液や腸液に接触した場合においても優れた乳化状態を保つ経腸栄養剤を提供し、経腸栄養剤使用時に起こりやすい下痢を防止できる。図1(a)は実施例7の配合を用いて得られた経腸栄養剤を小腸部分切除ラットに与えた際の糞の写真を示す。図1(b)は、比較例6の配合を用いて得られた経腸栄養剤を小腸部分切除ラットに与えた際の糞の写真を示す。図1(c)は、比較例7の配合を用いて得られた経腸栄養剤を小腸部分切除ラットに与えた際の糞の写真を示す。 以下本発明を説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を意味する。 本発明における経腸栄養剤とは、腸を介した栄養補給時に使用される栄養剤のことをいう。一般に経腸栄養剤はその組成の違いから、天然濃厚流動食、半消化態栄養剤、成分栄養剤などに分類されることもあり、医薬品と食品扱いの製品がある。また、日本人の食事摂取基準に基づき1日に必要な栄養素をバランスよく配合した標準的な組成の製品の他に、肝不全用、腎不全用、糖尿病用、呼吸不全用、高度侵襲用などの特定疾患用に栄養成分を調整したものもある。 本発明の経腸栄養剤は、脂質、卵黄リゾリン脂質、中鎖脂肪酸トリグリセリド、脂肪酸を含有する。 本発明における脂質とは、例えば、リン脂質やそのリゾ化物、中鎖脂肪酸トリグリセリドや長鎖脂肪酸トリグリセリドなどの中性脂肪、脂肪酸、コレステロールなどの一般に脂質といわれる水に溶けず有機溶剤に溶ける一連の有機化合物の総称に加え、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤も含む。経腸栄養剤に含有する脂質の量としては栄養学的観点から0.5〜15%が好ましく、より好ましくは2.5〜10%である。 本発明においてリン脂質とは、ジアシルグリセロリン脂質のことをいい、リゾリン脂質はそのアシル基がひとつ外れてモノアシル型になったものをいう。リゾリン脂質としては、卵黄リゾリン脂質、大豆リゾリン脂質等が挙げられるが、本発明では卵黄リゾリン脂質を使用することで、胃液や腸液に接触した場合においても、優れた乳化状態を保ち、脂質を含有しているにもかかわらず消化吸収機能低下時にも下痢を起こしにくい経腸栄養剤を提供することができる。 本発明における卵黄リゾリン脂質は、例えば、鶏、うずら、あひる等の家禽卵の卵黄から抽出して得られたリン脂質を常法によりホスホリパーゼAにて酵素処理する等の方法により得ることができる。 本実施形態に係る経腸栄養剤の卵黄リゾリン脂質含有量は、脂質の量に合わせて適宜調整すれば良いが、安定な乳化状態を維持する観点から脂質に対して0.3〜10%が好ましく、0.5〜5%がより好ましい。 本発明において中鎖脂肪酸トリグリセリドとは、炭素数6〜12の脂肪酸からなるトリグリセリドであり、通常炭素数14以上の長鎖脂肪酸が消化管から吸収された場合、リポ蛋白質のカイロミクロンに組み込まれてリンパ管、静脈を経て肝臓に運ばれるのに対し、中鎖脂肪酸トリグリセリドは消化管から門脈に吸収されて直接肝臓に運ばれるため、中鎖脂肪酸トリグリセリドは吸収が速い脂肪として病態時のエネルギー補給などの栄養管理に使用されている。 本発明の経腸栄養剤において中鎖脂肪酸トリグリセリドの含有量は脂質に対して20〜65%とし、好ましくは25〜45%である。中鎖脂肪酸トリグリセリドは吸収されやすい脂肪であるため、通常下痢予防の観点からすると多く配合するのが良いと考えられるが、本発明に係る経腸栄養剤においては、中鎖脂肪酸トリグリセリドを上記範囲内にすることで胃液や腸液に接触した場合においても、優れた乳化状態を保ち、脂質を含有しているにもかかわらず消化吸収機能低下時にも下痢を起こしにくい経腸栄養剤を提供することができる。中鎖脂肪酸トリグリセリドの含有量が20%未満、あるいは65%より多い場合は消化管内での乳化状態が不安定になり、下痢を起こしやすくなる。 本発明において脂肪酸とは、カルボキシル基が他の官能基と共有結合をしていない状態にある脂肪酸を意味し、具体的には、カプリン酸(C10)、パルミチン酸(C16)、ステアリン酸(C18)などの飽和脂肪酸、並びに、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)などの不飽和脂肪酸を挙げることができる。 本発明の経腸栄養剤は、脂肪酸を脂質の量に対して0.1〜5%含有することが好ましい。さらに、より好ましくは脂質の量に対して0.3〜3%含有することが好ましい。通常の精製された食用油脂に含有される脂肪酸は0.05%以下であるが、本発明の経腸栄養剤は、脂肪酸を脂質の量に対して0.1〜5%含有させることによって胃液や腸液に接触した場合においても、優れた乳化状態を保つことができる。脂質に対する脂肪酸の割合が0.1%未満、あるいは5%より多い場合は消化管内での乳化状態が不安定になり、下痢を起こしやすくなる。 本発明における脂肪酸の含有量とは、経腸栄養剤中から抽出した脂質をクロロホルムで希釈し、シリカ棒上にスポットし、展開溶媒にて展開後、展開された脂質を水素炎イオン化検出器(FID)で検出したクロマトグラムの面積のうち、脂肪酸のピーク面積の占める割合を数値化したものをいう。 脂質に対する脂肪酸含量の測定方法としては、経腸栄養剤中の脂質をクロロホルムで抽出し、クロロホルムを除去した後、得られた脂質を0.1g/mLに希釈し、イアトロスキャン((株)ヤトロン製)用シリカ棒に一定量スポットし、展開溶媒で展開後、展開された脂質を水素炎イオン化検出器(FID)で検出したクロマトグラムから、脂肪酸のピーク面積の占める割合を測定し、数値化した。なお、脂肪酸ピークの同定にはオレイン酸を標品として同時に展開した。 本実施形態に係る経腸栄養剤には、本発明の効果を損なわない範囲でその他の成分を含有させることができる。その他の成分としては、乳蛋白、乳清蛋白、アルブミン、カゼイン、大豆蛋白等の蛋白質や、脂質としては、先述の卵黄リゾリン脂質、脂肪酸、中鎖脂肪酸トリグリセリドの他に、長鎖脂肪酸トリグリセリド、コレステロール、さらにショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の合成乳化剤や、大豆レシチン等も含有することができる。炭水化物としては、デキストリン、乳糖、ブドウ糖等が挙げられる。また、これらの配合量についても特に限定されないが、通常、栄養学的観点から経腸栄養剤中に蛋白質を2〜10%、脂質を0.5〜15%、炭水化物を5〜30%含有すればよい。総エネルギーに対する脂質由来のエネルギーは、本願発明の経腸栄養剤では0.5〜20%である。さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、セルロースや難消化性デキストリン等の食物繊維、ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビタミンK、ビオチン等のビタミン類、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、銅、鉄、マンガン、リン、モリブデン、クロム、ヨウ素等のミネラル、ナトリウム、カリウム等の電解質、果汁、香料等も含むことができる。 本実施形態に係る経腸栄養剤は医薬品でも食品でもよく、エネルギー濃度は、栄養管理の観点から0.5〜2kcal/mLであるのが望ましい。 経腸栄養剤は通常平均粒子径(体積換算)が5μm以下である。工業的に製造された脂質を含む経腸栄養剤は、一般的に消化吸収しやすいように、また流通、保管時の分離を防止するという観点で粒子径が1μm程度に調整されている。したがって本発明の経腸栄養剤も同様である。なお、本発明において経腸栄養剤の平均粒子径の下限値は特に限定していないが、工業的生産性を考慮すると平均粒子径は0.1μm以上になる。 本発明において人工胃液とは、第十五改定日本薬局方規定に準じた方法(崩壊試験第1液)により調製したものである。すなわち、塩化ナトリウム2.0gに塩酸7.0mL及び精製水を加えて溶かし、1000mLとしたものであり、そのpHは略1.2である。 本発明において人工腸液とは、第十五改定日本薬局方規定に準じた方法(崩壊試験第2液)により調製したものである。すなわち、0.2mol/Lリン酸二水素カリウム試液250mLに0.2mol/L水酸化ナトリウム試液118mL及び水を加えて1000mLとしたものである。この液は無色透明で、そのpHは略6.8である。 本発明における経腸栄養剤は、脂質を含有しているにもかかわらず下痢を起こしにいものとする観点から、人工胃液と1:1の比率で混合した際の平均粒子径(体積換算)が10μm以下であり、より好ましくは2μm以下である。また、人工腸液と1:1の比率で混合した際の(体積換算)は5μm以下であり、好ましくは2μm以下である。 生体内に摂取された後の胃や腸の中での経腸栄養剤の状態に関しては、通常油脂の消化吸収時に健常人の胃内で形成されるエマルジョンが直径0.5〜1.0μmであると言われていることから、粒子径が小さいほうがスムーズに消化吸収されると考えられる。したがって、経腸栄養剤を人工胃液や人工腸液と混合した際の粒子径は小さいほど下痢を起こしにくく好ましく、特に限定していないが、上記のように製造時の経腸栄養剤の粒子径が0.1μm以上となることから、人工胃液や人工腸液と混合した際の粒子径についても0.1μm以上となる。 本発明における平均粒子径は、レーザ回折式粒度分布測定装置(日機装(株)製、商品名「マイクロトラックMT3300EXII」)を用いて測定し、得られた値である。経腸栄養剤を人工胃液や人工腸液と混合した場合には、経腸栄養剤をビーカーに50mL量り取り、人工胃液、または人工腸液を50mL加えてよく攪拌した後、測定装置にセットし、超音波をかけることなく試料を循環させ、値が安定したところで粒度分布を測定し得られた平均粒子径の体積換算径の値である。なお、測定に用いる循環水は水道水である。水道水は日本水道法に合致したものであり、pH調整剤や界面活性剤などの添加は行わずに測定する。 本実施形態に係る経腸栄養剤の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、蛋白質、炭水化物等に適量の水を添加して溶解し、これに上述の卵黄リゾリン脂質、脂肪酸等の脂質等を添加して混合し、ホモジナイザー等によって乳化させることにより製することができる。 本実施形態に係る経腸栄養剤は、レトルト殺菌やUHT殺菌を行うことが可能である。例えば、レトルト殺菌の場合、経腸栄養剤を容器に充填し、密封した後、105〜130℃で、5〜30分程度の処理を行うことができる。経腸栄養剤への熱ダメージが大きい方が乳化状態は悪くなりやすいため、UHT殺菌よりもレトルト殺菌を行った方が、本発明の効果を奏しやすい。 次に、本発明を実施例、比較例および試験例に基づき、さらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。[試験例1] 乳化剤の種類と量を変えて、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、比較例1、比較例2、比較例3の経腸栄養剤を製した。なお、全脂質量が配合全体の10%となるように植物油脂の量で調整した。具体的には、表1に記載の原料をミキサーで混合した後、高圧ホモゲナイザーで処理して、これをポリプロピレン製のフレキシブルな袋に200g充填し、121℃で15分間レトルト処理を施した。 さらに表1に実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、比較例1、比較例2、比較例3の配合について卵黄リゾリン脂質の有無、脂質に対する中鎖脂肪酸トリグリセリドの割合、脂質に対する脂肪酸の割合を示した。また、上記配合から調整した経腸栄養剤の平均粒子径(体積換算)と経腸栄養剤を人工胃液および人工腸液と1:1の比率でそれぞれ混合した際の平均粒子径(体積換算)の測定結果を示した。 表1の結果から、卵黄リゾリン脂質を配合している経腸栄養剤(実施例1〜4)は、人工胃液と人工腸液どちらに混合した場合においても、粒子径が小さく優れた乳化状態を保っていることがわかる。一方、乳化剤として大豆リン脂質を使用した場合(比較例1)や合成乳化剤を使用した場合(比較例2)あるいは卵黄リン脂質のみの場合(比較例3)は、人工胃液あるいは人工腸液に混合した際の粒子径が大きく、乳化状態が悪くなっていることがわかる。[試験例2] 中鎖脂肪酸トリグリセリドの割合を変えて、実施例5、実施例6、実施例7、比較例4の経腸栄養剤を製した。なお、全脂質量が配合全体の10%となるように植物油脂の量で調整した。具体的には、表2に記載の原料をミキサーで混合した後、高圧ホモゲナイザーで処理して、これをポリプロピレン製のフレキシブルな袋に200g充填し、121℃で15分間レトルト処理を施した。 さらに表2に実施例5、実施例6、実施例7、比較例4の配合について卵黄リゾリン脂質の有無、脂質に対する中鎖脂肪酸トリグリセリドの割合、脂質に対する脂肪酸の割合を示した。また、上記配合から調整した経腸栄養剤の平均粒子径(体積換算)と経腸栄養剤を人工胃液および人工腸液と1:1の比率でそれぞれ混合した際の平均粒子径(体積換算)の測定結果を示した。 表2の結果から、脂質に対する中鎖脂肪酸トリグリセリドの割合が20〜65%である経腸栄養剤(実施例5、6、7)は人工胃液と人工腸液どちらに混合した場合においても、粒子径が小さく優れた乳化状態を保っていることがわかる。一方、中鎖脂肪酸トリグリセリドの割合が75%である場合(比較例4)は、人工胃液あるいは人工腸液に混合した際の粒子径が大きく、乳化状態が悪くなっていることがわかる。[試験例3] 脂肪酸混合物の配合割合を変えて、実施例8、実施例9、比較例5の経腸栄養剤を製した。なお、全脂質量が配合全体の10%となるように植物油脂の量で調整した。具体的には、表3に記載の原料をミキサーで混合した後、高圧ホモゲナイザーで処理して、これをポリプロピレン製のフレキシブルな袋に200g充填し、121℃で15分間レトルト処理を施した。 さらに表3に実施例8、実施例9、比較例5の配合について卵黄リゾリン脂質の有無、脂質に対する中鎖脂肪酸トリグリセリドの割合、脂質に対する脂肪酸の割合を示した。また、上記配合から調整した経腸栄養剤の平均粒子径(体積換算)と経腸栄養剤を人工胃液および人工腸液と1:1の比率でそれぞれ混合した際の平均粒子径(体積換算)の測定結果を示した。 表3の結果から、脂質に対する脂肪酸の割合が0.1〜5%である経腸栄養剤(実施例8、9)は人工胃液と人工腸液どちらに混合した場合においても、粒子径が小さく優れた乳化状態を保っていることがわかる。一方、脂肪酸を含まない場合(比較例5)は、人工腸液に混合した際の粒子径が大きく、乳化状態が悪くなっていることがわかる。[試験4(動物試験)] 乳化剤の種類、脂質に対する中鎖脂肪酸トリグリセリドの割合、脂質に対する脂肪酸の割合を変えて、ラットに投与する経腸栄養剤(実施例7、比較例6、比較例7)を調整した。なお、脂質全量は配合全体の2.7%となるように植物油脂の量で調整した。具体的には、表4に記載の原料をミキサーで混合した後、高圧ホモゲナイザーで処理して、これをポリプロピレン製のフレキシブルな袋に200g充填し、121℃で15分間レトルト処理を施した。 さらに表4に実施例7、比較例6、比較例7の配合について卵黄リゾリン脂質の有無、脂質に対する中鎖脂肪酸トリグリセリドの割合、脂質に対する脂肪酸の割合を示した。また、上記配合から調整した経腸栄養剤の平均粒子径(体積換算)と経腸栄養剤を人工胃液および人工腸液と1:1の比率でそれぞれ混合した際の平均粒子径(体積換算)の測定結果を示した。 表4の結果から、卵黄リゾリン脂質、中鎖脂肪酸トリグリセリド、脂肪酸を配合した経腸栄養剤(実施例7)は人工胃液と人工腸液どちらに混合した場合においても、粒子径が小さく優れた乳化状態を保っていることがわかる。一方、卵黄リゾリン脂質を配合せず、脂質に対する中鎖脂肪酸トリグリセリドの割合が20%以下であり、脂肪酸を配合していない経腸栄養剤(比較例6)および卵黄リゾリン脂質を配合せず、脂肪酸を配合していない経腸栄養剤(比較例7)は、人工胃液に混合した際の粒子径が大きく、乳化状態が悪くなっていることがわかる。 消化吸収機能の低下した状態を再現するために小腸部分切除ラットを作製し試験を行った。すなわち、7週齢の雄SDラット12匹の小腸を、トライツ靭帯の下方10cmから約40cm切除した。5日程度の回復期間の後、6匹づつの試験群に分け、実施例7、比較例6、比較例7の配合を用いて得られた経腸栄養剤を摂食量がそろうように10日間給餌し、試験期間中の糞の形状について観察を行った。 実施例7、比較例6および比較例7の配合を用いて得られた経腸栄養剤を小腸部分切除ラットに与えた際の糞の状態を図1(a)、(b)、(c)に示す。図1(a)から実施例7の配合を用いて得られた経腸栄養剤を与えた試験群では、明らかな下痢の改善が確認された。一方、図1(b)および(c)から比較例6および比較例7の配合を用いて得られた経腸栄養剤を与えた試験群では軟便から水様便の下痢症状がみられ、試験期間中下痢の改善はみられなかった。 脂質を0.5〜15質量%含有し、平均粒子径(体積換算)が5μm以下の経腸栄養剤において、卵黄リゾリン脂質、中鎖脂肪酸トリグリセリド、遊離脂肪酸を含有し、脂質に対する中鎖脂肪酸トリグリセリドの割合が20〜65質量%であり、脂質に対する遊離脂肪酸の含有量が0.1〜5質量%であって、人工胃液と1:1の比率で混合した際の平均粒子径(体積換算)が10μm以下であり、人工腸液と1:1の比率で混合した際の平均粒子径(体積換算)が5μm以下であることを特徴とする経腸栄養剤。 容器に密封され、レトルト処理されてなる、請求項1に記載の経腸栄養剤。 下痢発生防止用である、請求項1または2に記載の経腸栄養剤。