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タイトル:特許公報(B2)_リパーゼによる高度不飽和脂肪酸含有油脂の製造方法
出願番号:2013502410
年次:2014
IPC分類:C11B 3/12,C12P 7/64


特許情報キャッシュ

土居崎 信滋 池本 英生 秦 和彦 常盤 真司 松島 一倫 JP 5416861 特許公報(B2) 20131122 2013502410 20120302 リパーゼによる高度不飽和脂肪酸含有油脂の製造方法 日本水産株式会社 000004189 土居崎 信滋 池本 英生 秦 和彦 常盤 真司 松島 一倫 JP 2011046621 20110303 20140212 C11B 3/12 20060101AFI20140123BHJP C12P 7/64 20060101ALI20140123BHJP JPC11B3/12C12P7/64 C11B 3/12 C12P 7/64 特表2000−510513(JP,A) 特開平10−070992(JP,A) 特表平10−512444(JP,A) 特表2006−501840(JP,A) 国際公開第2007/119811(WO,A1) 特開平03−259999(JP,A) 特開平03−500054(JP,A) 20 JP2012055334 20120302 WO2012118173 20120907 17 20130809 高橋 直子 本発明はリパーゼ反応を利用した高度不飽和脂肪酸含有油脂の製造方法に関する。詳細には、コレステロール含有量の少ない高度不飽和脂肪酸含有油脂の製造方法に関する。 高度不飽和脂肪酸はヒトを含む脊椎動物の成長に必須の栄養素であるばかりでなく、近年、心血管系疾患、炎症性疾患への関与について多く報告されている。特にドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸のようなn-3系の高度不飽和脂肪酸の摂取はヒトの健康に有用であるとの知見が多く報告されている。n-3系の高度不飽和脂肪酸の摂取量とn-6系高度不飽和脂肪酸の摂取量と比率が重要であるという報告もある。現代社会では、エネルギー摂取量、コレステロール摂取量及びn-6系高度不飽和脂肪酸摂取量の増加傾向とn-3系高度不飽和脂肪酸摂取量の減少傾向という特徴があり、それが各種成人病などと関係していると考えられてきた。 魚油はn-3系高度不飽和脂肪酸を豊富に含む油脂であり、それらの摂取が広く推奨されるとともに、より効率よくn-3系高度不飽和脂肪酸を摂取するために、魚油中のn-3系高度不飽和脂肪酸を濃縮する工夫がされている。リパーゼ反応を用いる高度不飽和脂肪酸の濃縮はそのひとつである。 リパーゼは油脂を遊離脂肪酸とグリセリンに加水分解する反応を触媒する酵素で、種々の動植物や微生物がリパーゼを有していることが知られている。ある種のリパーゼは全ての脂肪酸に同じように作用するわけではなく、グリセリド中の結合位置や脂肪酸の炭素鎖長、二重結合数などによって作用性が異なる。したがって、このようなリパーゼを用いて脂肪酸を選択的に加水分解することが可能で、その結果、グリセリド画分中に特定の脂肪酸を濃縮することが可能である。例えばある種のカンディダ(Candida)属が産生するリパーゼを用いると、魚油の加水分解反応によってドコサヘキサエン酸などの高度不飽和脂肪酸が未分解のグリセリド画分中に濃縮されることが知られている(特許文献1)。 このようにリパーゼによる加水分解反応は高度不飽和脂肪酸の濃縮に有効な方法である。目的の高度不飽和脂肪酸以外の脂肪酸に対する加水分解が進行するほどグリセリド画分中の高度不飽和脂肪酸の濃縮も進行する。 油脂の摂取においてトリグリセリドと並んで注目されるのがコレステロールの含有量である。コレステロールの過剰摂取は動脈硬化、心筋梗塞の原因になりうるため好ましくないと考えられている。高度不飽和脂肪酸を含有する魚油や微生物油の原油にはトリグリセリド以外にコレステロールも含まれている。 特許文献2には、蒸留作業流体を添加したうえで、蒸留によって高度不飽和脂肪酸含有油脂からフリー体のコレステロールを除去する方法が記載されている。特公平4‐16519号US7678930 上述のとおり、リパーゼ反応を用いて高度不飽和脂肪酸を含有する油脂を製造する方法は種々に検討されているが、本発明はリパーゼ反応により製造する高度不飽和脂肪酸濃縮油脂に含まれるステロール類、特にコレステロールに着目した発明である。高度不飽和脂肪酸が濃縮された油脂は、ドコサヘキサエン酸(以下、「DHA」とも記す。)やエイコサペンタエン酸(以下、「EPA」とも記す。)、アラキドン酸(以下、「ARA」とも記す。)などの有用成分を摂取する目的で使用される。その際、その目的に無関係、あるいはむしろ好ましくないコレステロールの含有量は少ないほど好ましいと考えられる。本発明は、よりコレステロールの含有率の低い高度不飽和脂肪酸濃縮油脂を提供することを課題とする。 本発明者らは、リパーゼ反応により製造する高度不飽和脂肪酸濃縮油脂についてさらに改良を図る余地がないか検討するなかで、リパーゼ反応により高度不飽和脂肪酸を濃縮した油脂に含まれるコレステロールを低下させることが予想外に困難であることを見出し本発明を完成させた。 本発明は、下記(1)〜(19)の高度不飽和脂肪酸含有グリセリドの製造方法、及び高度不飽和脂肪酸含有グリセリドを要旨とする。(1)リパーゼ反応を用いる高度不飽和脂肪酸濃縮方法において、リパーゼ反応を行う前に高度不飽和脂肪酸含有グリセリドを含む原料油からフリー体のステロール類を除去し、その後、高度不飽和脂肪酸に対して作用性の低いリパーゼを作用させて高度不飽和脂肪酸含有グリセリド中の高度不飽和脂肪酸を濃縮することを特徴とする高度不飽和脂肪酸濃縮油中のステロール類含有量を低下させる方法。(2)ステロール類がコレステロールである(1)の方法。(3)(2)の方法を用いることを特徴とする、コレステロール含有量が0.3重量%以下であり、かつ、脂肪酸中の高度不飽和脂肪酸量が40面積%以上である高度不飽和脂肪酸含有グリセリドの製造方法。(4)リパーゼ反応を25℃以下の温度で行うことを特徴とする、コレステロール含有量が0.3重量%以下であり、高度不飽和脂肪酸含有量が40面積%以上であり、かつ、脂肪酸中の飽和脂肪酸の割合が12面積%以下である(3)の高度不飽和脂肪酸含有グリセリドの製造方法。(5)リパーゼがカンディダ シリンドラセ(Candida cylindracea)、アルカリゲネス エスピー(Alcaligenes sp.)、バークホリデリア セパシア(Burkholderia cepacia)、シュードモナス フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)、サーモマイセス ラヌギノサス(Thermomyces lanuginosa)、リゾムコール ミエヘイ(Rhizomucor miehei)、シュードモナス エスピー(Pseudomonas sp.)のいずれか由来のリパーゼである(3)又は(4)の製造方法。(6)コレステロールを除去する方法が蒸留工程によるものである(3)ないし(5)いずれかの製造方法。(7)蒸留工程を200〜270℃の温度で行う(6)の製造方法。(8)蒸留工程を220〜260℃の温度で行う(6)の製造方法。(9)蒸留工程を5Pa以下の圧力で行う(6)の製造方法。(10)蒸留工程を2Pa以下の圧力で行う(6)の製造方法。(11)蒸留工程の流速が20−200(kg/h)/m2である(6)の製造方法。(12)蒸留工程の流速が20−150(kg/h)/m2である(6)の製造方法。(13)蒸留工程が薄膜蒸留、分子蒸留、短行程蒸留のいずれかまたはこれらの組み合わせである(6)ないし(12)いずれかの製造方法。(14)高度不飽和脂肪酸がドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、アラキドン酸(ARA)又はジホモ−γ−リノレン酸(DGLA)である(3)ないし(13)いずれかの製造方法。(15)原料油が魚油又は微生物油である(14)の製造方法。(16)ステロール類の含有量が0.3重量%以下であり、かつ、高度不飽和脂肪酸含有量が40面積%以上の高度不飽和脂肪酸含有グリセリド。(17)ステロール類がコレステロールである(16)のグリセリド。(18)さらに脂肪酸中の飽和脂肪酸の割合が12面積%以下である(16)又は(17)のグリセリド。(19)グリセリド中のトリグリセリドの割合が80面積%以上である(16)ないし(18)いずれかのグリセリド。(20)高度不飽和脂肪酸がドコサヘキサエン酸(DHA)及び/又はエイコサペンタエン酸(EPA)、アラキドン酸(ARA)又はジホモ−γ−リノレン酸(DGLA)である(16)ないし(19)いずれかのグリセリド。 本発明において、面積%とは、各種脂肪酸を構成成分とするグリセリドの混合物をガスクロマトグラフィーや薄層クロマトグラフィー/水素炎イオン化検出器(TLC/FID)を用いて分析したチャートのそれぞれの成分のピーク面積の全ピーク面積に対する割合で、そのピークの成分の含有比率を示すものである。脂肪酸組成については実施例に示す方法によるガスクロマトグラフィーにより、脂質組成については、TLC/FIDを用いた。油化学分野では面積%を重量%とほぼ同義のものとして用いられている。 本発明の方法によれば、EPAやDHAなどの高度不飽和脂肪酸が濃縮され、かつ、コレステロール含有率が少ないグリセリドを製造することができる。健康に好ましいとされる高度不飽和脂肪酸を摂取する際に、余分なコレステロールの摂取量を低減することができ、さらに、飽和脂肪酸の含有量の摂取量も低減することができる。図1は実施例1において精製魚油Aを酵素反応、蒸留脱酸した時のコレステロールの含量の変化を示す図である。図2は比較例1において精製魚油Bを酵素反応、蒸留脱酸した時のコレステロールの含量の変化を示す図である。図3は実施例2のそれぞれの原料油の蒸留前後の総コレステロール量の変化を示す図である。図4は製造例1において各反応温度でリパーゼ処理した際のグリセリド画分に含まれる飽和脂肪酸とEPA+DHAの比率を40℃での反応の結果を100として表した図である。図5は製造例2において各反応温度でリパーゼ処理した際のグリセリド画分に含まれる飽和脂肪酸とEPA+DHAの比率を40℃での反応の結果を100として表した図である。図6は製造例3のリパーゼ反応における飽和脂肪酸、EPA、DHA量の経時変化を示す図である(20℃、600unit/mL油)。図7は製造例3のリパーゼ反応における飽和脂肪酸、EPA、DHA量の経時変化を示す図である(20℃、300unit/mL油)。図8は比較例2のリパーゼ反応における飽和脂肪酸、EPA、DHA量の経時変化を示す図である(40℃、600unit/mL油)。図9は製造例4(20℃)、比較例3(40℃)のリパーゼ反応における飽和脂肪酸、EPA、DHA量の比較を示す図である。図10は大きいスケールで反応した製造例5の結果を示す図である。 本発明は、リパーゼ反応を用いて、高度不飽和脂肪酸濃縮油を製造する方法において、リパーゼ反応を行う前に高度不飽和脂肪酸含有グリセリドを含む原料油からフリー体のステロール類を除去し、その後、高度不飽和脂肪酸に対して作用性の低いリパーゼを作用させて高度不飽和脂肪酸含有グリセリド中の高度不飽和脂肪酸を濃縮することを特徴とする高度不飽和脂肪酸濃縮油中のステロール類含有量を低下させる方法である。 以下、本発明を詳細に説明する。本発明において、高度不飽和脂肪酸とは、炭素数18以上、二重結合数3以上の脂肪酸であり、より好ましくは炭素数20以上、二重結合数3又は4以上の脂肪酸、特に好ましくは炭素数20以上、二重結合数5以上の脂肪酸である。具体的にはα‐リノレン酸(18:3,n‐3)、γ‐リノレン酸(18:3,n‐6)、ジホモ−γ−リノレン酸(20:3、n−6)、アラキドン酸(20:4,n‐6)、エイコサペンタエン酸(20:5,n‐3)、ドコサペンタエン酸(22:5,n‐6)、ドコサヘキサエン酸(22:6,n‐3)などが例示される。これらはある種の微生物油、植物油や海産動物油などに多く含まれることが知られている。具体的には、イワシ、マグロ、カツオなどの魚類やオキアミなどの甲殻類の海産動物油、エゴマ、アマ、大豆、菜種などの植物油、モルティエレラ(Mortierella)属、ペニシリューム(Penicillium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ロードトルラ(Rhodotorula)属、フザリューム(Fusarium)属に属する微生物が産生する油脂などが例示される。 コレステロールは、分子式C27H46Oで表されるステロイド骨格を有する化合物であるが、天然物中では、フリー体又はエステル体として存在している。エステル体とは、ヒドロキシ基(OH基)の部分に脂肪酸が結合したアシルコレステロールである。 本発明において、高度不飽和脂肪酸含有グリセリドとは、上記の高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含有するトリグリセリド、ジグリセリド、およびモノグリセリドである。上記の微生物油、植物油、海産動物油は高度不飽和脂肪酸を含有するトリグリセリドを主成分とする。 本発明において用いるリパーゼは、高度不飽和脂肪酸に対して作用しにくく、加水分解反応又はアルコリシス反応で未分解のグリセリド画分中に高度不飽和脂肪酸を濃縮する性質を持てば、どのようなリパーゼでも良い。例えば、アルカリゲネス エスピー(Alcaligenes sp.)に属する微生物から得られるリパーゼ(リパーゼQLM、リパーゼQLC、リパーゼPL、いずれも名糖産業(株)製)、バークホリデリア セパシア(Burkholderia cepacia)に属する微生物から得られるリパーゼ(リパーゼPS、天野エンザイム(株)製)、シュードモナス フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)に属する微生物から得られるリパーゼ(リパーゼAK、天野エンザイム(株)製)、サーモマイセス ラヌギノサス(Thermomyces lanuginosa)に属する微生物から得られるリパーゼ(リポザイムTLIM、ノボザイム社製)などが例示される。Candida rugosa由来のリパーゼはDHA、アラキドン酸、γリノレン酸を濃縮する。Rhizomucor miehei由来のリパーゼもDHA濃縮能を有する。Pseudomonas sp.由来のリパーゼはEPA濃縮能を有する。これらはいずれも市販されており容易に入手できる。これらは必要に応じて固定化して使用することもできる。好ましくは、カンディダ属由来のリパーゼである、カンディダ シリンドラセ(Candida cylindracea)由来のリパーゼを用いることができる。カンディダ シリンドラセ(Candida cylindracea)由来のリパーゼとしては、名糖産業株式会社製リパーゼOFが例示される。 リパーゼの使用量については特に限定されないが、粉末のリパーゼについては油脂に対して10 unit/g以上、反応速度を考えた実用性を考えると30unit/g以上用いるのが好ましく、固定化リパーゼについては油脂に対し0.01%(w/w)以上が好ましい。カンディダ属由来のリパーゼの使用量は、通常トリグリセリド1gに対して10〜2000ユニット、好ましくは200〜700ユニットとするのが望ましい。なお1ユニットは1分間に1マイクロモルの脂肪酸を遊離する酵素量である。リパーゼによる加水分解反応は、リパーゼの加水分解活性が発現するのに十分な量の水の存在下に行う必要がある。水の存在量としては、トリグリセリド1重量部に対して10〜200重量部、好ましくは30〜60重量部とするのが望ましい。 リパーゼ反応は、例えば、WO2007/119811に記載の方法などを参照して行うことができる。 また加水分解は、脂肪酸の劣化、酵素の失活などを抑制するため、乾燥窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。またトコフェロール、アスコルビン酸、t−ブチルハイドロキノンなどの抗酸化剤を併用しても良い。 加水分解反応はリパーゼの活性がある温度であれば何度でもよいが、10〜40℃程度が好ましい。飽和脂肪酸の含量を抑えるためには25℃以下、好ましくは10〜25℃、さらに好ましくは15〜20℃で行う。低温であるほど、飽和脂肪酸の含有率を低下させるのには好ましいが、10℃以下では酵素反応の速度自体が遅くなりすぎる点や油脂の粘度が高くなる点に配慮すると、15〜20℃前後が最も好ましい。大量反応の場合、反応相を平均15〜20℃になるよう設定し、±5℃程度の範囲に保持しながら反応を行えばよい。加水分解反応は撹拌や不活性ガス等の吹込による流動などによって行う。 加水分解は、構成脂肪酸中に占める高度不飽和脂肪酸(例えば、ドコサヘキサエン酸)の割合が目的濃度になるまで反応を行う。条件は原料油脂により異なるが、例えばマグロ油(DHA23%程度含有)などを原料とする場合、反応時間は7時間以上が好ましく、通常5〜24時間加水分解することにより、1回のリパーゼ反応で、ドコサヘキサエン酸の割合は40面積%以上、好ましくは46面積%以上になる。また酸価を加水分解の程度を示す指標とすることもでき、通常酸価が140以上になればドコサヘキサエン酸の割合は46面積%以上になる。 このようにして加水分解を行うことにより、未反応のトリグリセリドおよび加水分解物の混合物が反応液として得られる。カンディダ属由来のリパーゼはグリセリンとドコサヘキサエン酸とのエステル結合を加水分解しにくいので、加水分解が進行するに従って、反応液中の未反応のトリグリセリドおよび部分グリセリドにおける構成脂肪酸中に占めるドコサヘキサエン酸の割合は高くなり、加水分解終了時にはこの値が40面積%以上、好ましくは46面積%以上になるまで濃縮される。一方、遊離脂肪酸は大部分がドコサヘキサエン酸以外の脂肪酸で占められる。 加水分解終了後は、遠心分離などによりリパーゼおよびグリセリンなどを含む水層を除去して油層の反応液を得た後、遊離脂肪酸を除去する。遊離脂肪酸の分離除去方法としては、アルカリ塩として除去する方法、液体クロマトグラフィー装置を用いる方法、分別留分法、結晶分別法など、公知の方法が採用できるが、分子蒸留、水蒸気蒸留が好ましい。遊離脂肪酸を除去することにより、高濃度でドコサヘキサエン酸を含有するトリグリセリドおよび部分グリセリドのグリセリド混合物が得られる。 本発明者らは、上述のとおりリパーゼ反応により高度不飽和脂肪酸濃縮油を製造した場合、コレステロールは遊離脂肪酸とともに除かれるのではなく、グリセリド側に残ること、すなわち、高度不飽和脂肪酸濃縮油では原油に比べてコレステロールの含有比率が高まってしまうことに気づいた。そこで、リパーゼ反応後にコレステロールを除去することを試みたが、リパーゼ反応によりコレステロールがエステル化しており、特殊な方法でなければ除去できなかった。 本発明の方法は、リパーゼ反応を行う前にコレステロール除去を行うことを必須工程とする。これはリパーゼ反応を行うと原料油に含まれるフリー体のコレステロールがエステル体に変化してしまい、グリセリドと分別することが難しくなるからである。 DHA濃縮グリセリドの原料油としては例えば、DHA含有量の多いマグロ油などが用いられる。マグロ油の未精製油を脱酸、脱色した精製油などを本発明の原料として用いることができる。マグロ油の未精製油に含まれるコレステロールは0.5重量%前後であるが、アルカリによる脱酸で0.18重量%程度になる。しかし、リパーゼ反応後遊離脂肪酸を除去すると不飽和脂肪酸だけでなく、コレステロールも濃縮されることとなる。事実上、DHA40面積%以上に濃縮するとコレステロールも2〜3倍程度に濃縮されることとなる。 本発明の方法により、リパーゼ反応前にコレステロールを除去することにより0.3重量%以下、さらに0.2重量%以下の濃縮油を得ることができる。 本発明では、脱酸、脱色した原料油を蒸留工程にかけてコレステロールを除去する。その後、上述のリパーゼ反応にかける。 本発明において、コレステロールの除去は蒸留工程によって行う。蒸留工程は、薄膜蒸留、分子蒸留、短行程蒸留(SPD:Short Path Distillation)のいずれかまたはこれらの組み合わせによって行う。これらの方法は油が高温に晒される時間が短いので、高度不飽和脂肪酸を含有する油脂の蒸留に適している。 蒸留工程は、20-200(kg/h)/m2の流量で、200-270℃の温度、5Pa以下の圧力で行うのが好ましい。より好ましくは、20-200(kg/h)/m2の流量で、220-260℃、2Pa以下である。流量は少なすぎると生産性が低下するので、コレステロールが除去されることを確認しながら、除去できる範囲で最大量流すのが好ましい。 高真空(<0.1Pa)下の一定圧力において加熱面から蒸発したベーパー分子の平均自由行程よりも短い距離内に凝縮器を配置させて行われる蒸留を分子蒸留と呼ばれる。分子蒸留の蒸留能力を高めるために開発されたのが、短行程蒸留である。短行程蒸留は、0.1Paより高い中真空領域の圧力で行われ、凝縮器も蒸発分子の平均自由行程と等距離前後に配置されるため、分子蒸留と比べ蒸留能力が格段に改善され実用的な方法である。 特に短行程蒸留は、実生産規模での装置として適している。 本発明の製造方法により、コレステロール含有量が0.3重量%以下、あるいはさらに0.2重量%以下であり、かつ、高度不飽和脂肪酸含有量が40面積%以上の高度不飽和脂肪酸含有グリセリドを得ることができる。 さらに低温リパーゼ反応によりドコサヘキサエン酸が40面積%以上に濃縮され、かつ、飽和脂肪酸量の合計が12面積%以下、好ましくは、10面積%以下のグリセリドを得ることができる。特に飽和脂肪酸の中でも含有量が多いパルミチン酸(炭素数16)の含有量が8面積%以下、好ましくは6面積%以下であるものが好ましい。低温でリパーゼ反応すると、得られる反応油中のグリセリドの脂質組成がトリグリセリドの比率の高いものを得ることができる。製造例に示したマグロ精製魚油やカツオ精製魚油のようなドコサヘキサエン酸を多く含有する油脂を原料とした場合、40℃では70面積%代程度であるが、低温反応では80面積%以上のものが得られた。本発明によりグリセリド中のトリグリセリドの割合が80面積%以上であるグリセリドを得ることができる。 本発明のリパーゼ反応油脂について、脱酸、脱色、脱臭処理を行うことによって、高度不飽和脂肪酸が濃縮され、かつ、コレステロール含有量が低減されたグリセリドを得ることができる。脱酸、脱色、脱臭はどのような方法で行ってもよいが、脱酸処理は蒸留処理により、脱色処理は活性白土、活性炭、シリカゲルなどにより、脱臭処理は水蒸気蒸留などが例示される。 脱酸処理を蒸留で行うと、同時にモノグリセリドも除去されるので、得られる油脂のトリグリセリド比率をさらに高めることができる。グリセリド中に占めるトリグリセリドの割合が85面積%以上、好ましくは90面積%以上のものを得ることもできる。 本発明の方法はコレステロール以外のステロールであって、フリー体とエステル体の両方が存在するステロール類の低減方法としても利用できる。その場合、高度不飽和脂肪酸濃縮方法において、リパーゼ反応を行う前に高度不飽和脂肪酸含有グリセリドを含む原料油からフリー体のステロール類を除去し、その後、高度不飽和脂肪酸に対して作用性の低いリパーゼを作用させて高度不飽和脂肪酸含有グリセリド中の高度不飽和脂肪酸を濃縮することを特徴とするステロール含有量が1重量%以下、好ましくは0.3重量%以下であり、かつ、高度不飽和脂肪酸含有量が40面積%以上、好ましくは60面積%以上である高度不飽和脂肪酸含有グリセリドの製造方法である。微生物から生産されるアラキドン酸、ジホモ−γ−リノレン酸などの場合、デスモステロール、24,25-メチレンコレスト-5-エン-3β-オールなどのような微生物特有のステロール類が含まれているのでそれらを除去するのに適している。 以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。 各実施例において、コレステロール、脂肪酸組成、酸価の測定は以下の方法で行った。コレステロールの測定 油の総コレステロール量(遊離コレステロール+コレステロールエステル)、遊離コレステロール量、コレステロールエステル量はガスクロマトグラフィーにて測定した。 総コレステロール量の測定については、以下の通りに行った。 油約0.1gに内標準物質として1mLの0.1g/L 5α−コレスタンを加え、2mol/L 水酸化カリウム/含水エタノール溶液を1mL加えてから100℃で10分間加熱した。冷却後、石油エーテル3mL、飽和硫酸アンモニウム3mLを加え攪拌、静置後に上層を回収してガスクロマトグラフィーにて測定した。5α−コレスタンと遊離コレステロールの相対感度を求めるために、5α−コレスタンおよびコレステロールを25mgずつ溶解したヘキサン溶液をガスクロマトグラフィーにて測定し総コレステロール量を算出した。 遊離コレステロール量およびコレステロールエステル量の測定については以下の通りに行った。 油約1.0gをヘキサンで10mLに溶解し、0.5mLをサンプリングした。シリカゲルカートリッジ(Waters社、登録商標Sep−pack Plus Silica Cartridge 55−105μm)に負荷し、ヘキサン:ジエチルエーテル=9:1(容量比)、5mLを流してコレステロールエステル画分とした。さらにジエチルエーテルを5mL流して遊離コレステロール画分とした。その後、溶媒を留去してから総コレステロール量測定と同様の操作を行い、コレステロールエステルと遊離コレステロールの比率を求め、総コレステロールからそれぞれの量を算出した。ガスクロマトグラフィー分析条件機種;Agilent 6890 GC system (Agilent社) カラム;DB−WAX J&W 123−1012カラム温度;270℃ 注入温度 ;300℃注入方法 ;スプリットスプリット比;50:1検出器温度:300℃検出器:FIDキャリアーガス:ヘリウム (39.3kPa、コンスタントプレッシャ)脂肪酸組成の測定 原料に用いた魚油及び短行程蒸留による脱酸処理をした後の油の脂肪酸組成は、魚油をエチルエステル化してガスクロマトグラフィーにて測定した。すなわち、魚油40μLに1Nナトリウムエチラート/エタノール溶液1mLを加え、約30秒間撹拌した。その後、1N塩酸を1mL加えて中和し、ヘキサン2mL、飽和硫酸アンモニア水溶液3mLを加え、撹拌、静置後、上層をガスクロマトグラフィーにて測定した。 酵素反応を行った油のグリセリド画分脂肪酸組成はグリセリド画分をエチルエステル化してから、酵素反応の副生成物である遊離脂肪酸を除去し、ガスクロマトグラフィーにて測定した。すなわち、反応油100(70)μLに1Nナトリウムエチラート/エタノール溶液1mLを加え、約30秒間撹拌した。その後、1N塩酸を1mL加えて中和後、ヘキサン1(0.7)mLおよび飽和硫酸アンモニア水溶液3mLを加え撹拌、静置後、エチルエステルと遊離脂肪酸を含有する上層を回収した。得られた上層から遊離脂肪酸を除去するために、上層250(700)μLにトリエチルアミンを1〜2滴加えてから、シリカゲルカラム(Varian社、BOND ELUT SI、100mg、1mL)に負荷し、ヘキサンと酢酸エチルの混合溶液(ヘキサン:酢酸エチル=50:1容積比)750(1000)μLにてエチルエステルを溶出させ、ガスクロマトグラフィーにて測定した。(本実施例中、製造例では上記の文中の( )内の分量を用いて測定した。)ガスクロマトグラフィー分析条件機種;Agilent 6850 GC system (Agilent社) カラム;DB−WAX J&W 122−7032カラム温度;200℃ 注入温度;300℃注入方法;スプリットスプリット比;30:1(製造例では、スプリット比 ;50:1で行った)検出器温度:300℃検出器:FIDキャリアーガス:ヘリウム (2.9mL/min、コンスタントフロー)酸価(AV)の測定原料に用いた魚油および短行程蒸留脱酸処理により遊離脂肪酸を分離した後の油では以下の通りに行った。油約1.5gをエタノール、ジエチルエーテル混合溶媒(1:1、容量比)に溶解し、フェノールフタレイン1滴を加え、0.1N水酸化ナトリウム/エタノール溶液で中和滴定を行い、下式により算出した。AV=滴定量(mL)×5.611/サンプル重量(g) 酵素反応を行った油では以下の通りに行った。 油約0.5gをエタノールに溶解し、フェノールフタレイン1滴を加え、1N水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定を行い、下式により算出した。AV=滴定量(mL)×56.11/サンプル重量(g)脂質組成の測定 脂質組成は薄層クロマトグラフィー/水素炎イオン化検出器(TLC/FID,イアトロスキャン、三菱化学ヤトロン株式会社)にて行った。油20μLをヘキサン1mLに溶解し、クロマロッドに0.5μLを負荷した。ヘキサン、ジエチルエーテル、酢酸の混合溶液(ヘキサン:ジエチルエーテル:酢酸=70:30:0.1容積比)を展開溶媒として用い、35分間展開した。これをイアトロスキャンにて分析した。[実施例1] 水洗したマグロ原油から短行程蒸留によりステロール類および脂肪酸を除去した。短行程蒸留は、短行程蒸留装置(SPD)KD450(UIC GmbH社製、蒸発面面積4.5m2)を用いて、真空度は0.6〜1.5Pa、温度は250-260℃、フィード量200kg/h(流速44.4(kg/h)/m2)で行った。 短行程蒸留処理をしたマグロ油(精製魚油A、日本水産株式会社製) 330mL、蒸留水 165mL、リパーゼOF 275mg(名糖産業株式会社、300unit/mL 油)を混合し、20℃下で30時間後まで撹拌羽にて攪拌した。反応開始、10時間後、23時間後、30時間後において反応混合物をサンプリングし、80℃で10分加熱してリパーゼを失活させ、その後に遠心分離機にて油層と水層を分離(40℃、1800×g、10分)して酵素反応油を回収した。30時間後にサンプリングした油については、さらに短行程蒸留による脱酸処理を行った。装置は短行程蒸留装置KDL5型 (UIC GmbH社、蒸発面面積0.05m2)、を用いて、真空度0. 1Pa、本体温度200℃、フィード量0.60L/hの条件で行った。精製魚油A(反応前原料)、得られた酵素反応油、さらに蒸留脱酸処理した油のグリセリド中脂肪酸組成(面積%)、酸価(AV)、総コレステロール量(重量%)、コレステロールエステル量(重量%)、遊離コレステロール量(重量%)と蒸留脱酸処理における油の歩留(重量%)を表1に示した。[比較例1] リン酸、水酸化ナトリウム、活性白土を用いた一般的な精製方法(脱ガム、脱酸、脱色処理、ステロール類は除去されずに残存する精製方法)にて精製したマグロ油(精製魚油B、日本水産株式会社製)を使用し、実施例1と同様にして、反応10時間後、反応23時間後、反応30時間後、脱酸処理後の油を調製した。 精製魚油B(反応前原料)、得られた酵素反応油、さらに蒸留脱酸処理した後の油のグリセリド中の脂肪酸組成(面積%)と酸価、蒸留脱酸処理における油の回収率(重量%)を表2に示した。 上記の実施例1、比較例1の油脂中のコレステロール含有量を、図1(実施例1)および図2(比較例1)に示した。脱酸処理後は遊離脂肪酸が除去されるため、実施例1、比較例1のいずれにおいても相対的にコレステロール含有量は増加している。 両者を比較すると、蒸留脱酸した精製魚油Aを原料とした実施例1は、最後の蒸留脱酸処理でコレステロールエステルのほとんどが残存するが、遊離コレステロールが反応前原料の時点で少ないことから、酵素反応によるコレステロールエステルの生成が少なく、結果、残存する総ステロール量も少ない。一方、蒸留脱酸ではない一般的な精製方法を行った精製魚油Bを原料とした比較例1は、反応前原料の時点で遊離コレステロールが多く、それが酵素反応によってコレステロールエステルとなり、さらに蒸留脱酸処理でコレステロールエステルのほとんどが残存するため、最後の蒸留脱酸の後でも大量のコレステロールエステルが油中に残存するということが分かる。[実施例2] 種々の品質のイワシ原油を原料油として、蒸留温度を変化させて短行程蒸留を行った。使用した装置は、短行程蒸留装置(SPD)KD10(UIC GmbH社製、蒸発面面積0.1m2)であり、真空度1.0〜1.4Pa、フィード量10kg/hで、温度は表3に示すように181〜250℃の条件で行った。 原料油及び、蒸留後の油脂中のコレステロールの含有量(重量%)を表3及び図3に示す。用いた原料のイワシ原油の品質を酸価で表した。いずれの品質の原油も蒸留温度を上昇させるほど、コレステロールを低減させることができた。220℃以上であれば、確実に0.2以下まで低減させることができる。リパーゼ処理後の脱酸工程でコレステロール濃度が相対的に増加するが、蒸留により、0.15重量%程度以下に低下させておくと、ほぼ、脱酸後にもコレステロール含有量0.3重量%以下の高度不飽和脂肪酸濃縮油を生産することが可能である。特に250℃で蒸留することにより、コレステロール含有量0.2重量%以下の高度不飽和脂肪酸濃縮油を生産することが可能である[実施例3] イワシ原油を原料油として、蒸留温度を変化させて短行程蒸留を行った。使用した装置は、短行程蒸留装置(SPD)KDL5(UIC GmbH社製、蒸発面面積0.05m2)であり、真空度0. 006mbar(=0.6Pa)、温度270℃、フィード量1.2kg/hの条件で行った。 原料油及び、蒸留後の油脂中のコレステロールの含有量(重量%)を表4に示す。これらの条件でもコレステロール含有量を低減させることができた。[実施例4] 実施例1、比較例1と同様の処理を実生産スケールで行った。すなわち、マグロの魚油を原料油として、水洗→短行程蒸留→酵素反応→分子蒸留→脱色→脱臭という順序で精製を行う本願発明の方法、及び、同じ原料油を脱ガム・脱酸・脱色→酵素反応→分子蒸留→ウィンタリング→脱色→脱臭という順序で行う従来の精製方法とを比較した。 それぞれの方法で、異なる3ロットの原料を用いて生産を行い、それら製造物のコレステロール含量を表5に示した。 マグロ油原油のコレステロール含量は0.3〜0.5重量%程度であり、従来法でDHA濃縮油を製造すると原料油と比較して相対的に総コレステロールの含有量が増加していたが、本発明の方法によれば、安定して原料油よりもコレステロール含有量を低下させることができることが確認された。 以下の製造例は飽和脂肪酸の割合を少なくさせることができるリパーゼ反応の製造例である。コレステロールを除去した後の油を原料として、これらの方法でリパーゼ反応を行うことにより、コレステロールの含有量及び飽和脂肪酸の含有量の少ない高度不飽和脂肪酸の濃縮油を製造することができる。[製造例1] 精製魚油1(脱酸マグロ油、日本水産株式会社)3mLに水1.5mLとリパーゼOF5mg(名糖産業株式会社、600unit/mL油)を加えて、10〜60℃の恒温槽内でマグネチックスターラーにて14時間撹拌した。14時間撹拌後、反応油約2mLをサンプリングし、80℃で10分間加熱してリパーゼを失活させ、その後遠心分離機(40℃、1800g、10分)にて油層と水層とを分離し反応油を得た。 得られた反応油のグリセリド画分の脂肪酸組成(面積%)及び酸価と精製魚油1の脂肪酸組成(面積%)を表6に示した。また、ガスクロマトグラフィーで得られたグリセリド画分中のミリスチン酸(C14:0)、パルミチン酸(C16:0)、ステアリン酸(C18:0)含量(面積%)の合計を飽和脂肪酸含量として示した(以下、製造例中で「飽和脂肪酸含量」と記載するときは同じ意味で用いる)。 反応温度30〜60℃では飽和脂肪酸含量が15%程度なのに対して、25℃では11.40%、20℃では9.36%、15℃では7.74%、10℃では8.42%と低温で反応すると大幅に減少した。10〜25℃で飽和脂肪酸含量が大幅に減少した。また、10℃では他の温度条件より反応速度が劣り、酸価(AV)が113.9と低い結果であったが、そのような条件においても飽和脂肪酸含量は8.42%と低く、酸価(AV)が125.1と加水分解反応がより進行した40℃条件よりも大幅に低減された。 リパーゼ加水分解反応で一般的に実施される温度帯(40℃付近)と飽和脂肪酸低減効果を比較するために、40℃でのDHAとEPA含量の合計、及び飽和脂肪酸含量を100としたときのそれぞれの温度での該当脂肪酸含量の割合をプロットし図4に示した。この図から、10〜25℃の条件でEPA、DHA含量は高いままで飽和脂肪酸含量が大幅に低減していることが分かる。[製造例2] 精製魚油2(脱酸マグロ油、日本水産株式会社)200gに水100gとリパーゼOF320mg(名糖産業株式会社、640unit/ml油)を加えて、10〜40℃にて撹拌羽にて20時間撹拌した。20時間撹拌後、反応油を80℃で15分間加熱してリパーゼを失活させ、その後上層の反応油を得た。 得られた反応油のグリセリド画分の脂肪酸組成(面積%)及び酸価と精製魚油2の脂肪酸組成(面積%)を表7に示した(脂肪酸組成については代表的な脂肪酸のみ)。ここでグリセリド含量は酸価からオレイン酸相当として遊離脂肪酸含量を算出し、反応油全体から差し引いて算出した。また、ガスクロマトグラフィーで得られたグリセリド画分中のミリスチン酸(C14:0)、パルミチン酸(C16:0)、ステアリン酸(C18:0)含量(面積%)の合計を飽和脂肪酸含量として示した。 35、40℃に比べ10〜25℃では飽和脂肪酸含量が大幅に低減された。 上記結果を、40℃反応油の結果を100としたときの各温度条件でのグリセリド画分中EPAとDHA含量、飽和脂肪酸含量として図5に示した。この図から、10〜25℃の条件でEPA、DHAは高いままで飽和脂肪酸が大幅に低減していることが分かる。[製造例3] 8mLの精製魚油1に水4mLとリパーゼOF13.3mg(600unit/mL油)または6.7mg(300unit/mL油)を加えて、撹拌羽で撹拌した。反応温度は20℃とした。2、5、8、14、20時間後に約1〜2gをサンプリングし、80℃で10分間加熱してリパーゼを失活させ、その後遠心分離機(40℃、1800g、10分)にて油層と水層とを分離し反応油を得た。 時間ごとの飽和脂肪酸含量(重量%)、EPAとDHA含量(面積%)を図6、7に示した。反応時間とともに飽和脂肪酸含量は大幅に低減し、EPAとDHA含量は増加した。[比較例2] 反応温度を40℃にする以外は、製造例3のリパーゼを600unit/mL用いた場合と同じ条件、操作で反応を行った。 時間ごとの飽和脂肪酸含量(重量%)、EPAとDHA含量(面積%)を図8に示した。飽和脂肪酸含量は反応2時間で15.0%まで減少したが、反応時間が長くなっても更なる減少は認められず、15%程度の高い含量で推移した。[製造例4、比較例3] 精製魚油3(脱酸マグロ油、日本水産株式会社)3mLに水1.5mLとリパーゼOF5mg(600unit/mL油)を加えて、20℃の恒温槽内でマグネチックスターラーにて14時間撹拌した。14時間撹拌後、反応油約2mLをサンプリングし、80℃で10分間加熱してリパーゼを失活させ、その後遠心分離機(40℃、1800g、10分)にて油層と水層とを分離し反応油を得た。 比較例3として、上記製造例4の条件を温度だけ変化させて40℃にて反応を行った。温度以外はすべて同じ条件、操作である。 製造例4と比較例3の飽和脂肪酸含量(重量%)、EPAとDHA含量(面積%)を図9に示した。この図から20℃条件の場合、40℃条件と比較して飽和脂肪酸含量が大幅に減少し、EPA、DHA含量は若干増加することが分かった。[製造例5] 精製魚油4(脱酸マグロ油、日本水産株式会社)6,000L、水3,000L、リパーゼOFを5kg(300unit/mL油)反応タンクに仕込み、20〜25℃に保ちながら21時間撹拌して反応を行った。21時間後に反応油約50gをサンプリングし、80℃で10分間加熱してリパーゼを失活させ、上層の反応油を得た。 精製魚油の飽和脂肪酸含量(重量%)とEPAとDHA含量(面積%)、反応油グリセリド画分中の飽和脂肪酸含量(重量%)、EPA、DHA含量(面積%)を図10に示した。大きいスケールで反応を行っても、EPAとDHAが濃縮されるとともに飽和脂肪酸含量が10%以下と大幅に低減されることが確認された。[製造例6] 製造例1の10、20、40、50℃条件での反応油に関してグリセリド画分中の脂質組成(面積%)を測定した。表8に示すように、10、20℃で反応するとトリグリセリドの比率が80面積%以上のものを得ることができた。一方、40、50℃で反応した場合は72.8%、59.9%程度であった。低温でリパーゼ反応を行うことにより、飽和脂肪酸含有量を低下させることができるだけでなく、トリグリセリドの比率を高めることができることが示された。 EPAやDHAなどの生理活性を有する脂肪酸を摂取する目的のひとつは、高コレステロール血症など、心、血管系の疾病予防である。コレステロールはエネルギー源として重要ではあるが、現代の食生活では、特に中高年においては摂取過多になりがちであり、積極的に摂取するのは好ましくない。特に心、血管系疾患の予防が必要な層においては、折角、高度不飽和脂肪酸を摂取するときに、一緒に摂取することになるコレステロールは少ないほうが好ましい。本発明の発明により製造された油脂は、高度不飽和脂肪酸が濃縮され、コレステロールはより低減されたものであるから、n-3系高度不飽和脂肪酸を供給するための健康食品やサプリメントとして用いるのに適している。 リパーゼ反応を用いる高度不飽和脂肪酸濃縮方法において、リパーゼ反応を行う前に高度不飽和脂肪酸含有グリセリドを含む原料油からフリー体のステロール類を除去し、その後、高度不飽和脂肪酸に対して作用性の低いリパーゼを作用させて高度不飽和脂肪酸含有グリセリド中の高度不飽和脂肪酸を濃縮することを特徴とする高度不飽和脂肪酸濃縮油中のステロール類含有量を低下させる方法。 ステロール類がコレステロールである請求項1の方法。 請求項2の方法を用いることを特徴とする、コレステロール含有量が0.3重量%以下であり、かつ、脂肪酸中の高度不飽和脂肪酸量が40面積%以上である高度不飽和脂肪酸含有グリセリドの製造方法。 リパーゼ反応を25℃以下の温度で行うことを特徴とする、コレステロール含有量が0.3重量%以下であり、高度不飽和脂肪酸含有量が40面積%以上であり、かつ、脂肪酸中の飽和脂肪酸の割合が12面積%以下である請求項3の高度不飽和脂肪酸含有グリセリドの製造方法。 リパーゼがカンディダ シリンドラセ(Candida cylindracea)、アルカリゲネス エスピー(Alcaligenes sp.)、バークホリデリア セパシア(Burkholderia cepacia)、シュードモナス フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)、サーモマイセス ラヌギノサス(Thermomyces lanuginosa)、リゾムコール ミエヘイ(Rhizomucor miehei)、シュードモナス エスピー(Pseudomonas sp.)のいずれか由来のリパーゼである請求項3又は4の製造方法。 コレステロールを除去する方法が蒸留工程によるものである請求項3ないし5いずれかの製造方法。 蒸留工程を200〜270℃の温度で行う請求項6の製造方法。 蒸留工程を220〜260℃の温度で行う請求項6の製造方法。 蒸留工程を5Pa以下の圧力で行う請求項6の製造方法。 蒸留工程を2Pa以下の圧力で行う請求項6の製造方法。 蒸留工程の流速が20−200(kg/h)/m2である請求項6の製造方法。 蒸留工程の流速が20−150(kg/h)/m2である請求項6の製造方法。 蒸留工程が薄膜蒸留、分子蒸留、短行程蒸留のいずれかまたはこれらの組み合わせである請求項6ないし12いずれかの製造方法。 高度不飽和脂肪酸がドコサヘキサエン酸(DHA)及び/又はエイコサペンタエン酸(EPA)、アラキドン酸(ARA)又はジホモ−γ−リノレン酸(DGLA)である請求項3ないし13いずれかの製造方法。 原料油が魚油又は微生物油である請求項14の製造方法。 ステロール類の含有量が0.3重量%以下であり、かつ、高度不飽和脂肪酸含有量が40面積%以上の高度不飽和脂肪酸含有グリセリド。 ステロール類がコレステロールである請求項16のグリセリド。 さらに脂肪酸中の飽和脂肪酸の割合が12面積%以下である請求項16又は17のグリセリド。 グリセリド中のトリグリセリドの割合が80面積%以上である請求項16ないし18いずれかのグリセリド。 高度不飽和脂肪酸がドコサヘキサエン酸(DHA)及び/又はエイコサペンタエン酸(EPA)、アラキドン酸(ARA)又はジホモ−γ−リノレン酸(DGLA)である請求項16ないし19いずれかのグリセリド。


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