タイトル: | 公開特許公報(A)_微生物の回収方法 |
出願番号: | 2013260423 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | C12N 1/02,C12N 1/20,C12Q 1/24,C12Q 1/04 |
安田 恵美 佐藤 澄江 松本 星隆 JP 2015116140 公開特許公報(A) 20150625 2013260423 20131217 微生物の回収方法 株式会社ヤクルト本社 000006884 宮原 貴洋 100145517 小林 生央 100108051 安田 恵美 佐藤 澄江 松本 星隆 C12N 1/02 20060101AFI20150529BHJP C12N 1/20 20060101ALI20150529BHJP C12Q 1/24 20060101ALI20150529BHJP C12Q 1/04 20060101ALI20150529BHJP JPC12N1/02C12N1/20 ZC12Q1/24C12Q1/04 13 OL 20 4B063 4B065 4B063QA01 4B063QA05 4B063QA18 4B063QQ06 4B063QQ16 4B063QR16 4B063QS13 4B065AA30X 4B065BD14 4B065BD15 4B065BD45 4B065BD50 4B065CA46 本発明は、酸性発酵乳を含む検体中の対象微生物を回収する方法、当該回収方法を利用する検体の品質判定方法及び対象微生物の活性評価方法に関する。 従来から、各種微生物の回収は、飲食品検査、臨床検査、環境検査など、幅広い分野で必要とされている。例えば、ヨーグルトなどの発酵乳製品は、乳酸菌、ビフィズス菌、酵母等の各種微生物を利用しており、整腸作用などの効果を期待して広く飲食されているところ、その評価においては、有用微生物の「生菌数」が指標とされることが多いため、発酵乳製品から微生物を高収率かつ生きたままの状態で回収することが必要となっている。 遺伝子工学の発展に伴い、有用微生物自体やその代謝産物の生理効果に着目した研究も数多くなされている。最近では、飲食品中の有用微生物の状態や有効成分を調べることにより、微生物等の生理効果のメカニズムを探る研究も進展しており、その中では、生菌ばかりでなく死菌も各種の生理効果を奏することが判明している。関連の研究においては、一定数量以上の微生物を回収することが実験プロトコル上必要となることもあり、例えば、レクチンマイクロアレイなどの技術を用いて、回収後の微生物表面に存在する多糖や糖鎖が付加された菌体成分を解析する場合やシュガーマイクロアレイなどの技術を用いて、回収後の微生物表面に存在する蛋白質を解析する場合がこれにあたる。また、微生物の測定を正確かつ容易に行うため、これらの研究に供する試料には、実験を阻害する夾雑物の低減された精製度の高いサンプルの提供が求められることから飲食品や化粧品等をそのまま使用することはできず、検体中の微生物を高収率で、また、検体中の状態を反映したまま回収する方法が求められていた。 微生物を回収する方法としては、例えば検体、すなわち飲食品、化粧品、医薬品などを適当な溶媒で希釈したうえ、微生物の生育に適した成分を含む寒天培地に塗布し、所定期間培養を行って増殖した微生物のコロニーを回収し、必要に応じ、更に集積培養して濃度を高めてから遠心分離などの手段を用いて微生物を回収する方法がある。 しかし、この方法では、培地上でコロニーを形成できる微生物しか検出することができず死菌の回収は不可能であること、寒天培地は検体中と環境が異なることなどから、当該寒天培地から採取した微生物が、元の検体中の状態を反映しているかが不明であるという問題点があった。また、検体中に培地を濁らせるような夾雑物が含まれていることも多いため、培養後に寒天培地上に出現したコロニーを検出する段階で検出が不正確となることもある。 こうした問題を解決するための手段として、エマルジョン粒子と微生物を含む検体について、当該エマルジョン粒子を微生物の大きさよりも微粒子化し、その後濾過することで、微粒子化したエマルジョン粒子を除いたうえ微生物を回収する方法(特許文献1)が知られている。しかしながら、これらの方法は、煩雑な操作を要し、回収コストが高価であるとともに、処理後の検体の精製度が低く十分な量の微生物を回収できないため、回収された生菌及び死菌の表層構造の解析や検体の有効性確認等に用い難いという問題がある。また、微生物の活性を維持しつつ生菌を回収することも困難であった。特開2006−94848号 従って、本発明は、簡易、低コスト、高収率かつ精製度高く検体中の微生物を回収する方法を提供することを課題とする。また、本発明は、微生物の活性を維持した状態で、生存率高くその回収を行う方法を提供することを目的とする。 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、酸性発酵乳を含む検体をpH5.4以上に調整する工程、検体を遠心分離する工程、および、検体もしくは対象微生物を含む画分に高分子有機物分解酵素を加え回収阻害因子を分解する工程を含む方法を用いることで、検体中の微生物の生死に関わらず、検体中の状態を反映したまま、当該微生物を簡易かつ高い精製度で高収率に回収できること、当該微生物が生きた微生物を含む場合には、その生存率、コロニー形成能等の活性を維持したまま回収できることを見出し、本発明を完成した。 すなわち、本発明は、酸性発酵乳を含む検体からの対象微生物回収方法であって、以下のa)〜c)工程を含み、かつ、工程b)は工程a)の後に施すことを特徴とする微生物の回収方法を提供するものである。a)検体溶液のpHを5.4以上に調整する工程、b)検体を遠心分離する工程、およびc)検体もしくは対象微生物を含む画分に、高分子有機物分解酵素を加え回収阻害因子を分解する工程。 また、本発明は、前記回収方法を用いて前記対象微生物を回収し、回収された微生物を用いて前記検体の品質を判定することを特徴とする検体の品質判定方法を提供するものである。 更に、本発明は、前記回収方法を用いて前記対象微生物を回収し、回収された対象微生物の活性を評価することを特徴とする対象微生物の活性評価方法を提供するものである。 本発明の回収方法によれば、検体中の対象微生物である生菌と死菌とを簡易、低コスト、高収率かつ高い精製度をもって、検体中の状態を反映したまま、回収することができる。また、検体に含まれる微生物が生きた微生物である場合には、当該微生物を生きたまま活性を維持した状態で、高収率に回収することができる。従って、当該回収方法を用いて得た試料は、元の検体の品質判定や回収された微生物の活性評価を正確かつ簡易に実施できるものであり、飲食品や医薬品、化粧品などの品質判定や当該微生物の活性評価を行う際に有用である。 本発明は、酸性発酵乳を含む検体をpH5.4以上に調整する工程、検体を遠心分離する工程、および、検体もしくは対象微生物を含む画分に高分子有機物分解酵素を加え回収阻害因子を分解する工程を経ることで、検体中に存在する回収阻害因子を低減し、検体中の状態を反映したまま、より多くの対象微生物を回収することを特徴とするものである。 本発明において、「発酵乳」は、乳由来成分を含む発酵物であれば特に限定されず、例えば、牛乳、ヤギ乳、ヒツジ乳、ウマ乳等の獣乳、粉乳や脱脂粉乳からの還元乳、クリーム等の乳成分を含む培地を原料とし、これに乳酸菌やビフィズス菌、酵母等を添加発酵させた発酵物、またその加工物、希釈物、処理物等が挙げられ、乳および乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)で規定されたはっ酵乳に限定されるものではない。 本発明の「酸性発酵乳を含む検体」(以下、検体ということがある)とは、発酵乳自体又は発酵乳を含む組成物のうちpHが5.4よりも低いものをいう。また、検体のpHは5.3以下であることが好ましく、さらにpHが3.0〜5.2、特にpHが3.4〜5.2であることが好ましい。検体の形態としては、飲食品、化粧品、医薬品等が挙げられ、飲食品もしくは化粧品が好ましく、飲食品が特に好ましい。検体のうち、例えば乳等省令でいうはっ酵乳や乳製品乳酸菌飲料等の飲食品には、通常生菌と死菌とが混在しており、加熱殺菌を施した加工食品等には、死菌のみが含まれている。本発明の回収方法は、生菌と死菌のいずれか、または両方を含む検体に用いることができるが、特に生菌を含むものに好適に用いられる。なお、本発明において生菌とは、コロニー形成能を有している菌のことをいう。また、死菌とはコロニー形成能を有していない菌をいい、死んだ菌だけではなく、コロニー形成能を失っており膜の安定性や酵素活性を有する菌等も包含する。 本発明において、「対象微生物」は特に限定されず、例えば、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・ブレビス、ラクトバチルス・コリニフォルミス、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・ゼアエ、ラクトバチルス・ジョンソニー、ラクトバチルス・デルブルッキィ サブスピーシーズ.デルブルッキィ、ラクトバチルス・デルブルッキィ サブスピーシーズ.ブルガリカス等のラクトバチルス属細菌、ストレプトコッカス・サーモフィルス等のストレプトコッカス属細菌、ラクトコッカス・ラクチス、ラクトコッカス・プランタラム、ラクトコッカス・ラフィノラクチス等のラクトコッカス属細菌、ロイコノストック・メセンテロイデス、ロイコノストック・メセンテロイデス サブスピーシーズ.クレモリス、ロイコノストック・ラクチス等のロイコノストック属細菌もしくはエンテロコッカス・フェーカリス、エンテロコッカス・フェシウム等のエンテロコッカス属細菌等などの乳酸菌や、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・アニマリス、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス、ビフィドバクテリウム・アンギュラータム、ビフィドバクテリウム・カテヌラータム、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム等のビフィドバクテリウム属細菌、及びサッカロマイセス・セルビシエ等のサッカロマイセス属、シゾサッカロマイセス属等の酵母が挙げられ、このうち、対象微生物の回収率、生菌の生存率、菌のコロニー形成能の維持、菌体が有する生理効果の探索の点からは乳酸菌が好ましく、特にラクトバチルス属細菌が好ましい。なお、これらの微生物は1種又は2種以上含んでいてもよい。 本発明において、「回収阻害因子」とは、検体に元来含まれている夾雑物の一種であり、検体からの対象微生物の分離回収において、当該微生物と、その他の夾雑物との分離を阻害する糖質や高分子有機物をいう。回収阻害因子が対象微生物に直接作用してその分離回収を妨げる場合や、回収阻害因子の存在により夾雑物が対象微生物の画分に残存し、精製度が低下する場合などがある。回収阻害因子は、物理的、化学的に分離回収を阻害する因子であれば特に制限はなく、検体中に存在する蛋白質、糖質、脂質、多糖類、果汁等の果実由来成分等を含む夾雑物が挙げられ、より具体的には、蛋白質、糖質、脂質、多糖類が挙げられる。 本発明の「検体のpHを5.4以上に調整する工程」(pH調整工程)としては、例えば検体にNaOHや緩衝液等のpH調整剤を加えてpHを5.4以上とする方法が挙げられる。本発明に至る研究において、発酵乳中では乳蛋白質がカゼインミセルとして対象微生物に接着し、遠心分離等における対象微生物の回収を妨げている可能性が示唆されている。一般的に、pHを上げると発酵乳中のカゼインミセルは、カゼインミセル同士の凝集がなくなり各カゼインミセルが溶液中に浮遊した状態へと変化することから、カゼインミセルを遠心分離により回収することができなくなる。そのため、pH調整工程により、カゼインミセルに接着している対象微生物も溶液中に浮遊し、対象微生物の回収率が更に低下することが予想されていた。しかし、意外にも、pH調整工程を施すことにより、回収阻害因子である乳蛋白質のみが遠心分離後の上清へと移行し、後述する分離工程により、検体中の対象微生物を効率よく回収できることが明らかとなった。これはpH調整工程でカゼインミセルと対象微生物の接着が破壊されたものと考えられるが詳細は不明である。対象微生物の回収率、生菌の生存率及び精製度向上の観点から、検体のpHはpH5.4〜pH10とすることが好ましく、pH5.8〜pH10とすることが更に好ましく、pH6〜pH8とすることが特に好ましい。pH調整に使用するpH調整剤は特に限定されず、NaOHやリン酸カルシウム等のリン酸緩衝液等の緩衝液を用いることができ、対象微生物の回収率を高める観点からはNaOHが特に好ましい。 本発明の「検体を遠心分離する工程」(分離工程)は、遠心分離により行われる。微生物の回収率、生存率の観点からは、遠心分離は、4℃〜10℃で、3000×g以上、特に7000〜8000×gで、8〜30分程度行うことが好ましい。分離工程は、pH調整や酵素処理を行った検体にそのまま施すこともできるが、検体中に存在する夾雑物、例えば糖質等の水溶性成分の除去効率をあげるため、溶媒(希釈液)を添加し検体を希釈してから行うことが好ましい。希釈の割合は特に制限されないが、検体を2〜10倍、好ましくは3〜6倍に希釈するよう溶媒を添加することが好ましい。希釈液としては、例えば水、ペプトン生理食塩水、ペプトン水、PBS(リン酸緩衝液)、リンゲル液、生理食塩水や、グリシン(Glycine)、2−(N−モリホリノ)エタンスルホン酸(Mes)、N−(2−アセトアミド)イミノ二酢酸(ADA)、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N′−2−エタンスルホン酸(HEPES)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノ−メタン(Tris)、イミダゾール(Imidazole)、2−(シクロヘキシルアミノ)プロパンスルホン酸(CHES)、3−(シクロヘキシルアミノ)プロパンスルホン酸(CAPS)、ナトリウム/カリウム リン酸塩(Na/K Phosphate)、ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ−トリス(ヒドロキシメチル)−メタン(Bis-Tris)及び3−モルフォリノプロパンスルホン酸(MOPS)を含む水溶液等を使用することができる。また、これらの溶媒はトレハロース、塩化ナトリウム、グルタミン酸、アルギニン、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(Tween20)等を含んでいてもよい。検体溶液のpH調整工程におけるpH調整に緩衝液を用いる場合には、緩衝液自体を希釈液として添加することによりpH調整と希釈を同時に行うことも可能である。 本発明の検体もしくは分離工程を経て分離した対象微生物を含む画分に、高分子有機物分解酵素を加え回収阻害因子を分解する工程(酵素処理工程)では、検体自体もしくは分離工程で得られた対象微生物を含む画分に、高分子有機物分解酵素を加え、当該対象微生物を含む画分に残存した回収阻害因子を分解する。また、対象微生物や検体の濃度により、適宜、溶媒を添加してもよい。高分子有機物分解酵素としては、回収阻害因子が蛋白質である場合は蛋白質分解酵素が、回収阻害因子が脂質である場合は、リパーゼ、ホスホリパーゼ等の脂質分解酵素が、回収阻害因子が多糖類である場合は、セルラーゼ、アミラーゼ、ペクチナーゼ等の多糖類分解酵素が使用できる。酵素処理は使用する酵素の至適温度付近で行えばよく、蛋白質分解酵素であれば37〜40℃が好ましい。酵素処理時の溶媒は、PBS、水、ペプトン生理食塩水、ペプトン水、リンゲル液、生理食塩水等が使用できる。 前記蛋白質分解酵素は、検体中の蛋白質の種類に応じて適宜選択すればよく、対象微生物の増殖を阻害しない酵素が好ましい。蛋白質分解酵素の具体例としては、プロテアーゼ、ペプチダーゼ、パパイン、トリプシン、キモトリプシン、プロナーゼ等が挙げられ、アルカリ性領域、中性領域又は酸性領域で反応至適pHを示すいずれの蛋白質分解酵素であってもよいが、中性領域で反応至適pHを示す蛋白質分解酵素が好ましい。 高分子有機物分解酵素としては、蛋白質分解酵素、特に、乳蛋白質分解酵素を用いることが、高い精製度、対象微生物の生存率、コロニー形成能維持等の効果が奏されるため好ましい。乳蛋白質分解酵素を用いる場合の処理条件は特に限定されないが、処理時のpHは、例えばプロテアーゼであればpH5.4〜pH10の範囲が好ましく、pH5.8〜pH10がより好ましく、pH6〜pH8の範囲が特に好ましい。また、酵素の添加量は、検体1gあたり0.15U以上が好ましく、0.15〜1.5Uがより好ましく、0.15〜0.3Uが特に好ましい。処理時間は5〜30分が好ましく、5〜10分が特に好ましい。ここで、力価(U)とは酵素の反応至適pH・温度において、1分間に1μmolの基質の反応に関与する酵素の活力(酵素力価)のことを示し、プロテアーゼであればカゼインを基質とし、酵素の反応至適pH・温度において、1分間に1μmolのチロシンを遊離する活性をいう。また、酵素処理の効率をあげるためには、検体もしくは分離工程を経て分離した対象微生物を含む画分を2〜10倍、特に2〜5倍に濃縮し、酵素処理を行うことが好ましい。この場合の酵素の添加量は元の検体の量から算出すればよく、例えば10gの検体に分離工程を施して得られた対象微生物を含む画分に対して溶媒を2gとなるように添加した場合は、1.5U以上の酵素を使用することが好ましい。酵素反応の停止は、冷却や加熱処理による酵素の失活など通常の手段を用いればよいが、菌の活性を維持し、生存率の低下を防ぐためには、検体を冷却して酵素反応を停止することが好ましい。また、本発明では、酵素処理を施すことにより、生菌の回収率が大幅に上昇することが見出された。酵素が対象微生物の細胞膜に作用して菌の生存が阻害されることが懸念されたが、意外にも、この酵素処理工程を施すことによって、生菌が多く回収され、検体中の生菌と死菌の割合を反映した状態で菌体を回収することが可能となった。また、菌体それぞれが分離し菌の表層構造に関連した解析をしやすい試料が得られるという点でも本発明の回収方法は非常に有用である。 上記分離工程、酵素処理工程では、所望の段階で、分離工程もしくは酵素処理工程を経た対象微生物に溶媒を加え洗浄することによる、対象微生物に洗浄回収処理を施す工程(洗浄回収工程)を行うことが好ましく、検体と回収阻害因子の性質に応じて、これらの工程を適宜組み合わせて使用できる。洗浄回収処理を施すことにより蛋白質や糖質等の夾雑物を十分に除去することができる。洗浄に使用する洗浄液のpHは特に限定されないが、pH3〜pH10のものを使用することができ、特にpH6〜pH10であることが好ましい。具体的には、ペプトン生理食塩水、ペプトン水、PBS、リンゲル液、生理食塩水や、Glycine、Mes、ADA、HEPES、Tris、Imidazole、CHES、CAPS、MOPS、Na/K Phosphate、Bis-Tris等を含む水溶液を洗浄液として使用することができるが、Glycine、Mes、ADA、HEPES、Tris、Imidazole、CHES、CAPS、MOPS、Na/K Phosphate及びBis-Trisのうち1種又は2種以上を含む水溶液を洗浄液として使用することが、蛋白質の回収量が高く、また、対象微生物が生菌である場合その生存率が高いため好ましく、対象微生物の活性維持、表層構造維持の観点から、Imidazole、CHES、CAPS、Bis-Tris、MOPSのうち1種又は2種以上を含む水溶液を洗浄液として使用することが特に好ましい。また、溶媒への添加物は、同様の観点からトレハロース、塩化ナトリウム、グルタミン酸、アルギニン、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(Tween20)が好ましく、トレハロースまたは塩化ナトリウムが特に好ましい。洗浄から対象微生物の回収までの具体例としては、例えば、酵素処理工程後の検体を溶媒によって2〜10倍程度に希釈し、分離工程と同様の条件で遠心分離し対象微生物を回収する方法が挙げられる。遠心分離後に溶媒を加え、洗浄回収する場合には、洗浄液となる溶媒の添加と遠心分離とを2回以上行うことが好ましい。また、対象微生物の回収方法としては、遠心分離のほか、抗体と対象微生物との抗原抗体反応による捕捉等が挙げられる。 pH調整工程、分離工程及び酵素処理工程は、分離工程をpH調整工程の後に施すこと以外は、前記のとおり適宜組み合わせて使用できる。また、分離工程はpH調整工程の直後に行う必要はなく、その間あるは同時に酵素処理工程等の処理を行ってもよいが、酵素処理の効率性、生菌の生存率の観点からは、酵素処理工程は、pH調整工程及び分離工程を経た後に行うことが好ましい。また、前述のとおり、分離工程、酵素処理工程では、所望の段階で、洗浄回収工程を行うことができる。例えば、検体のpH調整後、遠心分離により対象微生物を分離し、分離された対象微生物に酵素処理を施した後、当該酵素処理後の溶液に洗浄回収処理を行う方法、検体中にpH調整剤および高分子有機物分解酵素を添加し、酵素処理を施した後、遠心分離により対象微生物を分離し、分離された対象微生物に洗浄回収処理を行う方法、検体のpH調整後、遠心分離により対象微生物を分離し、分離された対象微生物に洗浄回収処理をし、得られた対象微生物に酵素処理を施したうえで、更に、洗浄回収を行う方法等が挙げられる。また、精製度の向上、対象微生物の生存率、コロニー形成能の維持等の観点からは、検体溶液のpH調整後、遠心分離により対象微生物と回収阻害因子を分離し、対象微生物を含む画分に酵素処理を施すことが好ましく、さらにその酵素処理後に複数回、洗浄回収処理を繰り返す方法がより好ましい。更に具体的には、酸性発酵乳を含む検体のpHを5.4以上に調整した後、遠心分離により対象微生物を分離し、分離された対象微生物に乳蛋白質分解酵素を作用させた後、当該酵素処理後の溶液に洗浄回収処理を行うことが特に好ましい。 本発明の検体の品質判定方法は、例えば、発酵乳製品に対し、本発明を使用して微生物を回収し、寒天平板培養法等により処理後の検体の生菌数を測定(定量)、または、DAPI染色により生菌、死菌を含む総菌数を測定することにより、当該発酵乳製品の有用性を検証する場合、生菌数や総菌数から検体が設定された基準を満たしているかを判定する場合や検体のロット差の有無を判定する場合、検体中の汚染微生物の有無やその個数を測定する場合、生菌と死菌の比率から検体の保存状態や劣化を検証する場合などに用いることができる。発酵乳製品のpH調整工程及び回収阻害因子の分解工程を経た検体からは、培地を濁らせるような夾雑物が十分に低減されているため、寒天平板培養においては、対象微生物のコロニーの判別が容易になり、比較的小さなコロニーであっても判別が可能となる。結果的に、培養時間を短縮し、コロニーを検出する段階での判別の正確性が高まる。すなわち、従来のように夾雑物の比較的多い検体を用いて寒天平板培養法等により微生物を検出する場合に比較して、検体中の対象微生物を迅速、高感度に検出することができるため、検体、特に有用微生物を含む発酵乳製品など、生菌を含む飲食品の品質判定方法に好適に利用できる。生菌数の測定方法は特に制限されず、通常使用されている寒天平板法等を適宜用いればよい。対象微生物の増殖コロニーの検出は、目視あるいは市販の実体顕微鏡やディジタル光学顕微鏡の使用により行えばよいが、微小なコロニーの検出が容易になる点で、ディジタル光学顕微鏡の使用が好ましい。 本発明の対象微生物の活性評価方法は、例えば、有用微生物を含む発酵乳製品などの検体から本発明を使用して、対象微生物を回収し、当該微生物の表層構造を電子顕微鏡等を用いて評価する場合、微生物からその生理活性に寄与する有効成分を特定する場合、抗体を用いた抗原抗体反応によって菌体の表層構造に変異が生じているか否かを判定する場合、通常の培養法によりコロニー形成能(CFU)を評価する場合、蛍光色素遊出法等を使用して膜安定性あるいは形態保持能を評価する場合、生菌と死菌の比率による生理活性強度の変化を評価する場合、生菌と死菌に含まれる成分の違いを評価する場合等に用いることができる。なお、例えば上記のような活性評価を生菌、死菌について別々に行いたい場合には、菌体の酵素活性、例えばエステラーゼ活性等を指標に用いることによって、あるいは菌の生死判別に使用される染色法によって生菌死菌を分離して試料とすることもできる。本発明の方法を経て回収された対象微生物は、従来の回収手段を用いた場合に比べ、生菌、死菌を問わず高収率で回収できること、培地等を介していないため製品中の対象微生物をそのままの状態で回収することができること、その表層構造への影響が少なく処理前の活性を維持していることから、活性評価方法に供する検体試料として好ましいものとなっている。 以下、実施例を挙げて本発明の内容をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制約されるものではない。試験例1 発酵乳製品へのpH調整及び分離処理における洗浄液の影響 滅菌容器にヤクルト(無脂乳固形分3.1%、乳脂肪分0.1%、pH3.5、株式会社ヤクルト本社製)を65mL移し、スターラーで撹拌しながら20%NaOH(終濃度0.24%)を一滴ずつ添加してpHを6.7〜6.9に調整した。次に蒸留水を全体が325mL(5倍量)となるように加えて速やかに撹拌し、遠心分離に供する試料とした。試料を30mL容の遠心チューブに分注し、遠心処理を施し(7000×g、10分、4℃:遠心機GRX-220(TOMY)使用(以下、試験例、実施例はすべて同機を使用))、上清をアスピレーターで除いた。集菌後の乳酸菌菌体(ラクトバチルス・カゼイ YIT9029(FERM-BP-1366))に表1に記載の各洗浄液を添加して懸濁し、同様の遠心分離を行い、上清を取り除いた(この作業を3回繰り返した)。回収された菌体を各洗浄液6mLに懸濁して試験試料とし、以下のとおり、総菌数(DAPI法)を測定した。また、遠心分離により回収した上清中の糖質量及び蛋白質量を次のとおり測定した。あわせて、pH調整を行っていない試料(pH3.5)に対し、上記と同様の遠心分離処理を行った。DAPI染色による総菌数の測定(DAPI法) DAPI染色を用いて、試験試料の総菌数を測定した。試験試料をカウント用マイクロスライドグラスに10μL/well添加し、十分乾燥させて固定した後、100%EtOHで5分間処理してから十分乾燥させた。次に、各wellにVecta Shield with DAPI(Vector社)を4.6μL/well添加してカバーグラスを被せ、蛍光顕微鏡(OLYMPUS BX51)で検鏡し菌数を測定した(接眼レンズ10倍、対物レンズ100倍)。DAPI法による総菌数は全て、1試料に対し、1ウェル中の12視野を測定して平均値を求め、更にこれを3well測定して平均値を求めた。フェノール硫酸法による中性糖質量の測定 菌体分離後の上清と、洗浄操作後の上清中の中性糖類をフェノール硫酸法で定量した。ガラス製の試験管に試料100μLを入れ、5%(w/v)フェノール水溶液100μLを添加して撹拌した後、濃硫酸500μLを添加して速やかに10秒間激しく撹拌した。室温で20分以上放置した後、ELISA用マイクロプレートを用いて490nm波長の吸収をARVOTM×3 Multilabel Readerで測定した。標準曲線は1% Glucose溶液を用いて作製した。ブラッドフォード法による蛋白質量の測定 蛋白質の除去率を確認するため、菌体分離後と洗浄操作後の上清の蛋白質量をブラッドフォード法により測定した。マイクロプレート上で試料40μLに4倍希釈のProtein assay(Bio-Rad社CBB G-250色素)160μLを加えた後、595nm波長の吸収をARVOTM×3 Multilabel Readerで測定した。標準曲線は0.2%BSA溶液を用いて作製した。 糖質量、蛋白質量の測定はいずれも、2回行い、平均値を求めた。合計4回の遠心操作(菌体分離時の1回と洗浄時の3回)による上清のうち、4回目(最終回)の上清を上清1として回収した。 その結果、総菌数は、どの洗浄液を使用した場合でも全体の50%以上を回収できたが、特にペプトン水、1/4 強度リンゲル液、PBSを使用することにより、より多くの菌数を回収することができた(表2)。上清中の糖質量を測定した結果、どの洗浄液を用いても糖質を除去できることが確認されたが、特に1/4 強度リンゲル液及び生理食塩水において、上清1(最終上清)で0に近い値を示し、これら2種類の洗浄液は糖質の除去に適していることが分かった(表3)。蛋白質の除去については、洗浄液間での上清1に含まれる蛋白質の差は数倍であり、洗浄液による差は小さかった(表4)。なお、ペプトン水の蛋白質量は7.4μg/mLだったため、この溶液については蛋白質の定量値から除いた補正値を示した。これらの結果から、溶媒にはどの洗浄液も使用することができること、菌の回収性の観点からはペプトン水、1/4 強度リンゲル液、PBSが好ましいことが確認された。また、pH調整しなかった試料は、遠心処理を行っても菌体が沈降せず乳酸菌菌体画分を得られなかった。試験例2 発酵乳製品へのpH調整及び分離処理におけるpH調整剤の影響 滅菌容器にヤクルトを65mL加え、スターラーで撹拌しながら20%NaOH(終濃度0.24%)、または0.1Mリン酸カリウム溶液(pH7.2)をそれぞれ単独で一滴ずつ添加してpHを表5に記載のとおりに調整した。調整後の溶液に、蒸留水を全体が325mL(5倍量)となるように加えて速やかに撹拌し、遠心分離に供する試料とした。試料を30mL容の遠心チューブに分注し、遠心処理を施し(8,000×g、10分、4℃)、上清をアスピレーターで除いた。上記5倍量希釈試料30mLから得られた集菌後の乳酸菌菌体に1/4強度リンゲル液6mLを添加して懸濁し、同様に遠心分離を行い、上清を取り除いた(この作業を3回繰り返した)。回収された菌体に1/4リンゲル液6mLを添加して懸濁し、試験試料とした。この試料を用いて、DAPI染色による総菌数(DAPI法)を測定した。また、遠心分離により回収した上清を用いて、フェノール硫酸法による中性糖質量、およびブラッドフォード法による蛋白質量を試験例1と同様に測定し、計4回の上清に含まれる糖質および蛋白質の合計量を求めた。なお、試験は2名で行いその平均値を求めた。 その結果、回収された乳酸菌の総菌数の検体自体(ヤクルト)に対する比率(回収総菌数比)は、pH調整剤として0.1Mリン酸カリウム溶液を用いた場合に比べ、NaOHを用いた場合が約71%と高かった。また、糖質と蛋白質の回収量はほぼ同程度であった(表5)。よって、pH調整剤としては、0.1Mリン酸カリウム溶液およびNaOHをどちらも使用できること、総菌数の回収率の面からは、NaOHがより好ましいことが確認された。実施例1 発酵乳製品への酵素処理の影響(1)酵素処理に供する試料の調製 滅菌容器にヤクルトを65mL加え、スターラーで撹拌しながら20%NaOH(終濃度0.24%)を一滴ずつ添加してpHを6.7〜6.9に調整した。調整後の溶液に蒸留水を全体が325mL(5倍量)となるように加えて速やかに撹拌し、30mL容の遠心チューブに分注し遠心処理を施した(7,000×g、10分、4℃)。上記5倍量希釈試料325mLから得られた菌体画分を13ml(検体に対して5倍に濃縮)のPBSに懸濁し、酵素処理に供する試料とした。なお、酵素処理反応は、菌体溶液を氷付けにすることにより停止させた。(2)酵素濃度と反応時間の影響 菌体溶液100μLに対し、終濃度25、50、100、250μg/g(菌体溶液1gあたり0.75〜7.5U(検体1gあたり0.15Uから1.5U))の範囲で表6のとおりプロテアーゼP「アマノ」3DSを添加した。また、コントロールとして酵素を添加しない試料も作成し、酵素を添加した試料と同様に、以下の操作を行った。酵素反応にはサーマルサイクラー用マイクロプレートを使用し、サーマルサイクラー内で37℃、5分間の酵素反応を行った。酵素反応後の溶液を7000×g、10分、4℃で遠心分離した後、上清に回収された蛋白質やアミノ酸量の増加の指標として、遠心上清の280nmにおける吸光度を測定した。また、菌体を含む沈殿画分に回収した上清と等量の蒸留水を加えて再懸濁し、660nmの吸収(濁度)を測定した。酵素処理前後の沈殿物の濁度から、消化率(酵素反応率)を次式により求めた。吸光度と濁度の測定には、ARVOTM×MVMultilabel Readerを使用した。消化率(%)=(酵素処理前の濁度(T0)−酵素処理後の濁度(T))/T0×100 その結果、酵素濃度が25μg/g(検体1gあたり0.15U)以上で280nm吸光度、消化率が上昇し、回収阻害因子である蛋白質と菌体の分離が進み、蛋白質が上清に移行していることが確認された(表6)。(3)酵素反応温度、酵素処理による菌の活性への影響 菌体溶液100μLに対し、終濃度が25、50、100μg/gとなるようプロテアーゼP「アマノ」3DSを添加した。また、コントロールとして酵素を添加しない試料も作成し、酵素を添加した試料と同様に、以下の操作を行った。反応温度37℃または40℃で5分間の酵素処理を行った。酵素反応後の溶液を7000×g、10分、4℃で遠心分離した後、前記(2)と同様に、遠心上清の280nmにおける吸光度を測定した。あわせて、酵素処理後の菌体が、特異抗体反応性を保持しているか否かを指標に、菌体の表層構造に基づく活性が維持されているかを確認する目的で、次の方法により、抗体反応性を調べた。ELISA法による抗体反応性の測定 遠心分離後の菌体を含む沈殿画分を、ELISA用buffer (Carbonate Buffer)に懸濁して遠心(7,000 ×g, 4℃, 10分間)洗浄し、Carbonate Bufferで再懸濁した。96穴イミュノプレートの1ウェル辺りの菌数は、2.2E+07cellsであった。一次抗体にはL8抗体(ラクトバチルス カゼイ YIT9029株特異抗体)を、二次抗体にはペルオキシダーゼ結合抗体を、発色反応の基質にはSHIGMA FAST o-phenylenediamine dihydrochoride tablet sets(SHIGMA)を使用した。発色反応後、硫酸によって発色反応を停止させた後、490nmの吸光度を測定し、吸光度が1.0以上でL8抗体陽性とした。L8抗体反応陽性の対照には、MRS培地で培養したYIT9029株の純培養菌体を使用した。 その結果、反応温度(37℃、40℃)や酵素濃度(25〜100μg/g)が異なっても、280nmの吸光度上昇率は1.4 〜1.5 と同等であった。また、各酵素処理条件で回収された菌体のL8抗体反応は陽性で、酵素処理を行なってもL8抗体反応性、すなわち菌体の表層構造への影響がないことを確認できた(表7)。また、酵素処理を行った検体中の菌体は、酵素処理していないそれに比べ、高い抗体結合性が認められた。このことからも、酵素処理により菌体の表層に付着した不純物が除去されていることが示唆された。なお、対照であるYIT9029株の純培養菌体の吸光度は3.7で、陽性であった。(4)酵素反応の生菌生存率への影響 菌体溶液100μLに対し、終濃度が25μg/g(検体1gあたり0.15U)となるようプロテアーゼP「アマノ」3DSを添加し、サーマルサイクラー用マイクロプレートを使用し、40℃、5分または30分間の酵素反応を行った。また、酵素処理を行わず、40℃で5分または30分間放置した菌体溶液も準備した。これら4種の溶液を7000×g、10分、4℃で遠心分離し、分離後の乳酸菌菌体画分を1/4強度リンゲル液で懸濁し、同様の遠心処理を施した(この操作を3回繰り返した)。同洗浄液で全体で100μLとなるように懸濁して試験試料とし、総菌数(DAPI法)を試験例1と同様に、生菌数(BCP法)を以下のとおり測定した。また、試験例1と同様に、遠心分離により回収した上清中の糖質量及び蛋白質量を測定した。なお、試験例1と同様に、4回目(最終回)の上清を上清1として記載した。BCP培地による生菌数の測定 試験試料をBCP培地(日水製薬(株))に塗布し、生菌数を求めた。ヤクルトの1/100,000希釈液及び遠心分離後の各試料の1/10,000希釈液を、スパイラルプレーターを用いてBCP平板培地に塗抹し、37℃で3日間好気培養後、生じたコロニー数をコロニーカウンター(Color QCount530)で測定した。BCP培地による生菌数(CFU)は全て、1試料に対し、プレート2枚の平均値を求めた。 酵素処理した場合の生菌数は、いずれも高い数値を示し、酵素処理していない場合に対して約10倍高い結果であった。また、酵素処理をした場合、総菌数に対する生菌数の比率(CFU/DAPI)は、検体自体(ヤクルト)の結果と同等だった。このことから、酵素処理をすることによって、検体中の生菌と死菌の割合を変えることなく菌体を回収できることが判明した(表8)。糖質や蛋白質の除去に関しては、酵素処理した場合の最終上清(上清1)では、糖質は完全に除去されて、蛋白質も酵素処理をしない試料と比較して最終上清に含まれる量が非常に少なくなっており、酵素処理を用いることによって、より少ない洗浄回数で糖質、蛋白質を除去できることが示唆された。以上の結果から、pH調整工程後に分離工程、酵素処理工程を経ることは、乳蛋白質、糖質の除去に有効であることに加え、生菌を効率よく回収することが判明した。実施例2 発酵乳製品への菌体洗浄液の影響(1)洗浄液の検討1 OptiSolTM Protein Solubility Screening Kit200 (Dilyx Biotechnologies、LLC) キットを使用して、96穴のマイクロプレートに表9の洗浄液を加え、各洗浄液が蛋白質の除去や対象微生物の生存率に及ぼす影響を調べた。実施例1(1)と同様に、酵素処理に供する菌体溶液を調製し、酵素濃度25μg/g(検体1gあたり0.15U)、40℃、5分間、酵素反応を行い、反応後氷冷した。この酵素処理菌体20μLに対し、各洗浄液80μLを加えて懸濁し(96穴PCRプレート使用)、7000×g、10分、4℃の遠心分離後、上清(約80μL)を回収した。菌体画分に同溶液80μLを加えて懸濁し、同様の遠心分離を施した。2回目の遠心分離で回収した菌体の懸濁には、各洗浄液の代わりに1/4リンゲル液を使用した。各遠心上清中に回収された蛋白質の量は、ブラッドフォード法で測定し合計量を求めた。次に、2回の洗浄後に回収された菌体についてBCP培地によって生菌数を測定し、1/4リンゲル液による回収率を100%としたときの各溶液の相対回収率(%)を求めた。 結果は表10のとおりであった。生菌数が高いこと及び蛋白質の回収量が高いことを指標として判断したところ、Glycine、Mes、ADA、HEPES、Tris、Imidazole、CHES、CAPS、MOPS-NaCl、Na/K Phosphate‐NaCl、Bis-Tris-Treharose、MOPS-Treharose、Imidazole-Treharose、Na/K Phospahte-Arg/Glu、及びGlycine-Tween 20が洗浄液に適しているものと認められた。また、これらの好ましい洗浄液のpHは3〜10であった。(2)洗浄液の検討2 表11の洗浄液を用い、各洗浄液が蛋白質の除去や対象微生物の生存率に及ぼす影響を調べた。1.5mLチューブを使用し、前記(1)の10倍量で処理を行なった。すなわち、酵素処理菌体200μLに対し各洗浄液を800μL加えて懸濁し、7000×g、10分、4℃で遠心分離後、上清(約800μL)を回収した。菌体画分に同溶液800μLを加えて懸濁後、同様の遠心分離処理を施して上清を回収した。得られた菌体を1/4リンゲル液を用いて懸濁した。その後、(1)と同様に生菌数を測定し、あわせて、実施例1(3)と同様にL8抗体反応性を調べた。また、遠心上清について糖質量及び蛋白質量を試験例1と同様に測定した。表中の生菌数は2回の測定の平均値である。結果的に、蛋白質の回収量の高さ、生菌の生存率の高さ、対象微生物の活性維持の観点からは、Imidazole、CHES、CAPS、Bis-Tris‐Trehalose、MOPS-Treharose、Imidazole-Treharoseが最も優れていた。また、これらの好ましい洗浄液のpHは6〜10であった。実施例3 pH調整時及び酵素処理時のpHの影響 市販の発酵乳製品(ヤクルト)65mLを攪拌しながら、20%NaOHを添加しpHを表12、13のとおり調製した(二回に分けて同様の実験を実施)。滅菌水を全体が325mL(5倍量)となるように加え、遠心分離処理を施し(7000×g、15分、4℃)、上清をアスピレーターで取り除いた。得られた菌体画分を、13mLのPBS(pHは菌体回収時と同じ)に希釈し、酵素(プロテアーゼP「アマノ」)を最終濃度25μl/mL(0.15U)となるように加え、40℃、5分間処理をした。酵素処理溶液に52mLのCAPS溶液(pHは菌体回収時と同じ)を添加して懸濁し、7000×g、15分、4℃で遠心処理を行い、上清をアスピレーターで取り除いた(この作業を3回繰り返した)。菌体をPBSに懸濁して試料とし、ブラッドフォード法による蛋白質の測定を行った。また、pHを5.4以上に調整したものについては、DAPIによる総菌数、BCP培地による生菌数、およびフェノール硫酸法による中性糖量の測定を行った。なお、蛋白質の測定では、酵素処理前の分離工程で回収された上清を上清1、酵素処理後3回洗浄の上清の合計を上清2とし、糖質の測定では、酵素処理後の1、2回洗浄の上清を上清3、酵素処理後の3回洗浄時の上清を上清4とした。 その結果、試料のpHを5.4以上とすることにより、多くの蛋白質が分離処理時の上清へ移行し検体から除去できることが確認された。特に、pH5.8〜10.0では蛋白質を90mg/mL以上、pH6.0〜10.0では150mg/mL以上回収することができ、効率的に蛋白質を除去することができた(表12、13)。また、pH5.4〜10.0において、3回の洗浄で上清に含まれる糖質がほぼ0となり十分に糖質が除去できていることが確認された(表14、15)。pH5.4〜8.0の範囲では、回収された総菌数、生菌数ともに1.12E+10を超える高い数値を示した(表16、17)。総合的には、pH調整時及び酵素処理時はpH6.0〜8.0の範囲に検体を調整することが最も優れているものと認められた。 本発明の微生物の回収方法によれば、検体中の対象微生物である生菌と死菌とを簡易、低コスト、高収率かつ高い精製度をもって、検体中の状態を反映したまま、回収することができる。また、検体に含まれる微生物が生きた微生物である場合には、当該微生物を生きたまま活性を維持した状態で、高収率に回収することができる。従って、当該回収方法を用いて得た試料は、元の検体の品質判定や回収された微生物の活性評価を正確かつ簡易に実施できるものであり、飲食品や医薬品、化粧品などの品質判定や当該微生物の活性評価を行う際に有用である。 酸性発酵乳を含む検体からの対象微生物回収方法であって、以下のa)〜c)の工程を含み、かつ、工程b)は工程a)の後に施すことを特徴とする微生物の回収方法。a)検体のpHを5.4以上に調整する工程、b)検体を遠心分離する工程、およびc)検体もしくは対象微生物を含む画分に、高分子有機物分解酵素を加え回収阻害因子を分解する工程。 前記工程a)の後に前記工程b)を行い、次いで前記工程c)を行うことを特徴とする請求項1に記載の方法。 前記酸性発酵乳を含む検体が飲食品もしくは化粧品であり、前記回収阻害因子が乳蛋白質を含むものである請求項1又は2記載の方法。 前記酸性発酵乳を含む検体のpHがpH5.3以下である請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。 更に、前記対象微生物に洗浄回収処理を施す洗浄回収工程を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。 前記洗浄回収処理に使用される洗浄液が、グリシン、2−(N−モリホリノ)エタンスルホン酸(Mes)、N−(2−アセトアミド)イミノ二酢酸(ADA)、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N′−2−エタンスルホン酸(HEPES)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノ−メタン(Tris)、イミダゾール、2−(シクロヘキシルアミノ)プロパンスルホン酸(CHES)、3−(シクロヘキシルアミノ)プロパンスルホン酸(CAPS)、3−モルフォリノプロパンスルホン酸(MOPS)、ナトリウム/カリウム リン酸塩(Na/K Phosphate)、及びビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ−トリス(ヒドロキシメチル)−メタン(Bis-Tris)から選ばれる1種又は2類以上を含むことを特徴とする請求項5に記載の方法。 前記高分子有機物分解酵素が蛋白質分解酵素である請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。 前記蛋白質分解酵素を検体1gあたり0.15U以上で使用することを特徴とする請求項7記載の方法。 前記対象微生物が乳酸菌である請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。 前記対象微生物が生菌を含むものである請求項1〜9のいずれか1項記載の方法。 酸性発酵乳を含む検体からの対象微生物回収方法であって、酸性発酵乳を含む検体のpHを5.4以上に調整した後、遠心分離により対象微生物を分離し、分離された対象微生物に乳蛋白質分解酵素を加え酵素処理した後、当該酵素処理後の溶液に洗浄回収処理を行うことを特徴とする微生物の回収方法。 請求項1〜11のいずれか1項記載の方法を用いて前記対象微生物を回収し、回収された対象微生物を用いて前記検体の品質を判定することを特徴とする検体の品質判定方法。 請求項1〜11のいずれか1項記載の方法を用いて前記対象微生物を回収し、回収された対象微生物の活性を評価することを特徴とする対象微生物の活性評価方法。 【課題】酸性発酵乳を含む検体から、検体中の微生物の生死に関わらず、検体中の状態を反映したまま、当該微生物を高い精製度で高収率に回収する。【解決手段】酸性発酵乳を含む検体からの対象微生物回収方法であって、以下のa)〜c)の工程を含み、かつ、工程b)は工程a)の後に施すことを特徴とする微生物の回収方法。a)検体のpHを5.4以上に調整する工程、b)検体を遠心分離する工程、およびc)検体もしくは対象微生物を含む画分に、高分子有機物分解酵素を加え回収阻害因子を分解する工程。【選択図】なし