生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_新規L−アミノ酸オキシダーゼとその用途
出願番号:2013256278
年次:2015
IPC分類:C12N 9/06,C12P 21/02


特許情報キャッシュ

礒部 公安 JP 2015112058 公開特許公報(A) 20150622 2013256278 20131211 新規L−アミノ酸オキシダーゼとその用途 天野エンザイム株式会社 000216162 国立大学法人岩手大学 504165591 萩野 幹治 100114362 礒部 公安 C12N 9/06 20060101AFI20150526BHJP C12P 21/02 20060101ALI20150526BHJP JPC12N9/06 BC12P21/02 B 11 OL 16 4B050 4B064 4B050CC01 4B050DD03 4B050EE02 4B050EE03 4B050EE04 4B050FF04E 4B050FF09E 4B050FF11E 4B050FF12E 4B050LL05 4B064AG01 4B064CA21 4B064CB30 蛋白質又はペプチドの物性改良技術は新食品の開発、新素材の開発等にとって重要な技術である。蛋白質やペプチドの物性は構成アミノ酸の側鎖によって大きく変化することが知られており、蛋白質やペプチドを構成するアミノ酸の側鎖を対象にした物性改良技術は特に重要である。アミノ酸側鎖を対象とした物性改良技術としては、酸などの化学試薬処理による方法と酵素による方法が知られている。一般に化学試薬による処理では反応条件が過激で蛋白質やペプチドの低分子化などが同時に進行する懸念があり、よりマイルドな条件下で実施でき且つ副反応も少ないことから、酵素による方法が優れていると考えられる。本発明は、蛋白質やペプチドの物性改良に有効な新規酵素に関する。詳しくはペニシリウム属微生物により産生されるL-アミノ酸オキシダーゼとその用途(蛋白質やペプチドの物性改良など)に関する。 乳化性や溶解度の改善、吸着性の改善、粘度の改善、アレルギー性の低減、蛋白質分解酵素への反応性の改善、酵素の活性調節等の目的の下、蛋白質の物性改良技術が広く用いられている。一般に、目的とする物性改良に伴って他の物性が変化することは好ましくない。そこで、マイルドな条件で物性を改良できる方法、即ち、酵素による物性改良法が産業界から求められている。 蛋白質の物性は、蛋白質を構成しているアミノ酸の種類による。幾つかのアミノ酸は特徴的な側鎖を有しており、その側鎖が蛋白質の物性に大きく影響する。そのような特徴的なアミノ酸として、リジン、アルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸が広く知られている。特定条件において、リジンやアルギニンなどのアミノ基やグアニジル基はプラスに、グルタミン酸やアスパラギン酸などのカルボキシル基はマイナスにそれぞれ帯電しており、蛋白質の凝集、吸着特性に大きく影響する。この内リジンについては、側鎖のε−アミノ基がグルタミン側鎖のアミド基などと反応することにより蛋白質の分子内、あるいは分子間で架橋を形成することが知られている。架橋形成により蛋白質のゲル化などの顕著な物性変化が生じる。さらに、リジンの側鎖のε−アミノ基は還元糖と反応し、メイラード反応を引き起こす。メイラード反応は食品の褐色反応、フレーバー生成反応として注目されているが、反応が行き過ぎると食品の品質を落とすことにも繋がるため、その調節技術が重要視されている。以上のように、蛋白質の物性改善には、とりわけリジンの側鎖のε−アミノ基の修飾が重要であることが示唆される。実際、無水コハク酸で、ティラピア魚皮コラーゲンのリジンのε−アミノ基を修飾した事例では、コラーゲンの粘度やゲル化速度の上昇が観測されている。 以上のような背景から、蛋白質物性改良のための側鎖修飾酵素として、リジンのε−アミノ基と反応する酵素の開発が注目されてきた。代表的なものとしてはグルタミンとリジンとグルタミン側鎖の架橋反応を触媒する酵素であるトランスグルタミナーゼの開発を例示できる(例えば特許文献1を参照)。しかしながら、当該酵素による蛋白質中のリジン側鎖の修飾は、蛋白質中の全てのリジンが基質になるわけではなく、蛋白質中における特定の存在位置、特定の周辺のアミノ酸配列におけるリジンのみが基質となりうるため、結果として対象となる蛋白質は限定されていた。 リジンのε−アミノ基に作用する別の酵素として、ε−アミノ基を酸化する酵素が考えられる。アミノ酸のアミノ基の酸化反応を行なう酵素としては、アミノ酸のα−アミノ基を酸化する酵素としてL-アミノ酸オキシダーゼが古くから知られている。L-アミノ酸オキシダーゼが触媒する化学反応は次の通りである。 L-アミノ酸+H2O+O2 2-オキソ酸+NH3+H2O2 L-アミノ酸オキシダーゼはこれまでアミノ酸分析用酵素として開発が進められてきた(例えば特許文献2〜4を参照)。例えば、トリコデルマ・ビリデ(Tricoderma viride)由来のL-リジンαオキシダーゼ、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)由来のL-リジンオキシダーゼ活性を示すL-リジンモノオキシゲナーゼ、海水魚の粘液由来のL-リジンαオキシダーゼ、シュードモナス(Pseudomonas)属由来アミノ酸オキシダーゼが知られている。特開平4−207194号公報特開2011−43396号公報特開2013−153674号公報特開2012−200217号公報しかしながら、これらのアミノ酸オキシダーゼのε−アミノ酸への作用については殆ど知られておらず、ε−アミノ酸の酸化酵素として応用可能なアミノ酸酸化酵素は知られていなかった。 ペプチド中のε−アミノ酸を酸化可能な酵素としてはペプチジルリジンオキシダーゼが知られているが、本酵素は動物由来の酵素であり、微生物由来のものは知られておらず、産業用への応用は進んでいない。 さらに銅アミンオキシダーゼもリジンを基質とした場合、α−アミノ基の酸化が認められるが、ε−アミノ基の酸化は弱く、蛋白質側鎖の修飾には適していない。 既に蛋白質中のリジン側鎖の修飾に実用化されているリジン側鎖に作用するトランスグルタミナーゼとは違い、L-アミノ酸オキシダーゼはリジンの側鎖をより効率的に修飾できるものと考えられる。したがって、リジン側鎖のε−アミノ基を効率的に酸化できるL-アミノ酸オキシダーゼが開発できれば、優れた蛋白質、ペプチドの物性改良酵素として高い有用性が期待できる。上記の通り、L-アミノ酸オキシダーゼはアミノ酸分析用として開発されており、α位のアミノ基への酸化反応が重要視されてきた。そのためか、従来のL-アミノ酸オキシダーゼでは、リジン側鎖に相当するε位のアミノ基に対する反応は充分ではない。即ち、従来のL-アミノ酸オキシダーゼは、蛋白質やペプチドの物性改良には有効とはいえなかった。 そこで、本発明の課題は、蛋白質やペプチドの物性改良(修飾)に適したL-アミノ酸オキシダーゼ、即ち、リジン側鎖のε位にあたるアミノ基にも充分に作用できる新規L-アミノ酸オキシダーゼを提供することにある。 本発明者は以上の課題を解決するため鋭意検討した。その結果、特有の性質を備え、蛋白質やペプチドの物性改良に有効であり、しかも適用の幅の広い(即ち多種の蛋白質/ペプチドが基質となる)L-アミノ酸オキシダーゼを取得することに成功した。以下に示す発明は当該成果に基づく。 [1]下記の酵素化学的性質を有するL-アミノ酸オキシダーゼ、 (1)作用:L-アミノ酸のα−アミノ基とL-リジンのε−アミノ基を脱アミノする反応を触媒する、 (2)分子量:SDS-PAGEによる分子量が約75.3kDa、ゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量が約290kDa、 (3)基質特異性:β−ラクトグロブリン、ミオグロビン、サケゼラチンに作用する。L-リジン、L-ロイシン、L-メチオニン、L-アスパラギン、L-グルタミン、L-アルギニン、L-オルニチン、L-チロシン、L-フェニルアラニン、L-トリプトファン、L-ヒスチジンに対して作用し、L-トレオニン、L-イソロイシン、L-セリン、L-バリン、L-システイン、L-アスパラギン酸、L-プロリン、グリシン、D-アミノ酸、モノアミン、ジアミン及びアミノアルコールには作用しない。 [2]下記の酵素化学的性質を更に有する、[1]に記載のL-アミノ酸オキシダーゼ、 (4)至適pH:7〜8、 (5)pH安定性:pH5〜6の範囲で安定(40℃、30分間)、 (6)至適温度:50℃〜55℃、 (7)温度安定性:20℃〜40℃の範囲で安定(pH6.0、30分間)。 [3]下記の酵素化学的性質を更に有する、[2]に記載のL-アミノ酸オキシダーゼ、 (8)等電点:3.2、 (9)阻害剤:カルボニル化合物、キレート剤及びFeCl3によりL-アミノ酸オキシダーゼ活性が強く阻害される、 (10)補酵素:フラビンを補酵素として含有する。 [4]アミノ酸配列ENIADVADAMGPWFDGVAYM(配列番号1)を構造の一部に含む、[3]に記載のL-アミノ酸オキシダーゼ。 [5]N末端アミノ酸配列がENIADVADAMGPWFDGVAYM(配列番号1)である、[3]に記載のL-アミノ酸オキシダーゼ。 [6]ペニシリウム ステッキイ由来である、[1]〜[5]のいずれか一項に記載のL-アミノ酸オキシダーゼ。 [7]ペニシリウム ステッキイ AIU027由来である、[1]〜[6]のいずれか一項に記載のL-アミノ酸オキシダーゼ。 [8][1]〜[7]のいずれか一項に記載のL-アミノ酸オキシダーゼを有効成分とする酵素剤。 [9]以下のステップ(1)及び(2)を含む、L-アミノ酸オキシダーゼの製造法: (1)ペニシリウム ステッキイを、L-リジン又はL-リジン誘導体を窒素源として含有する培地で培養するステップ、 (2)培養後の培養液及び/又は菌体より、L-アミノ酸オキシダーゼを回収するステップ。 [10][1]〜[7]のいずれか一項に記載のL-アミノ酸オキシダーゼ又は[8]に記載の酵素剤を蛋白質又はペプチドに作用させることを特徴とする、蛋白質又はペプチドの修飾方法。 [11]前記蛋白質及びペプチドが、L-リジンを構成アミノ酸として含有している、[10]に記載の修飾方法。L-アミノ酸オキシダーゼ生産の経時的変化。ペニシリウム ステッキイAIU 027株を培養し、経時的に菌体を回収して酵素活性を調べた。●:サケゼラチンを基質にした場合の酵素活性、○:β−ラクトグロブリンを基質にした場合の酵素活性、□:細胞の生育、▲:培地のpHL-アミノ酸オキシダーゼの精製結果。各精製段階での酵素活性、蛋白量、比活性、回収率、精製度を示す。分子量の測定結果。左はSDS-PAGEの結果、右はゲルろ過の結果。L-アミノ酸オキシダーゼの至適pH(●)とpH安定性(○)。L-アミノ酸オキシダーゼの至適温度(●)と温度安定性(○)。各種物質によるL-アミノ酸オキシダーゼの阻害。各種金属、キレート剤等の酵素活性への影響を調べた。L-アミノ酸オキシダーゼの基質特異性。各種蛋白質及び各種ペプチドを基質として酵素活性を測定し、比較した。L-アミノ酸オキシダーゼのKm値。各種蛋白質及び各種ペプチドについてKm値を算出し、比較した。(用語) 本明細書において用語「単離された」は「精製された」と交換可能に使用される。用語「単離された」は、天然の状態、即ち、自然界において存在している状態のものと区別するために使用される。単離するという人為的操作によって、天然の状態とは異なる状態である、「単離された状態」となる。単離されたものは、天然物自体と明確且つ決定的に相違する。 単離された酵素の純度は特に限定されない。但し、純度の高いことが要求される用途への適用が予定されるのであれば、単離された酵素の純度は高いことが好ましい。(L-アミノ酸オキシダーゼ及びその生産菌) 本発明の第1の局面はL-アミノ酸オキシダーゼ及びその生産菌を提供する。本発明のL-アミノ酸オキシダーゼ(以下、「本酵素」ともいう)は以下の酵素化学的性質を備えることを特徴とする。まず、本酵素は次の反応、即ち、L-アミノ酸のα−アミノ基とL-リジンのε−アミノ基を脱アミドする反応を触媒する。また、SDS-PAGEによる分子量が約75.3kDa、ゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量が約290kDaである。尚、本酵素は4量体からなる。 本酵素は広範囲のアミノ酸とその誘導体、そして高分子の蛋白質を基質とし得る。好ましい基質としてはリジン、リジン誘導体、リジン若しくはリジン誘導体を含むペプチド、又はリジン若しくはリジン誘導体を含む蛋白質を挙げることができる。作用可能な基質として例えば、アミノ酸としてはリジン、ロイシン、アスパラギン、アルギニン、チロシン、トリプトファン、アラニン、メチオニン、グルタミン、グルタミン酸、フェニルアラニン、ヒスチジン、オルニチン、アミノ酸誘導体としてはNα-リジン、Nα-アセチルリジン、Nε-アセチルリジン、Nα-Z-オルニチン、ペプチドとしてはリジン‐ロイシン、グリシン‐リジン、アラニン‐リジン、グリシン‐アラニン、ポリリジン、蛋白質としてはβ−ラクトグロブリン、ミオグロビン、ゼラチンが挙げられる。また、L-トレオニン、L-イソロイシン、L-セリン、L-バリン、L-システイン、L-アスパラギン酸、L-プロリン、グリシン、D-アミノ酸、モノアミン、ジアミン及びアミノアルコールには作用しない。 本酵素は好ましくはペニシリウム ステッキイ(Penicillium steckii)に由来するL-アミノ酸オキシダーゼである。ここでの「ペニシリウム ステッキイに由来するL-アミノ酸オキシダーゼ」とは、ペニシリウム ステッキイに分類される微生物(野生株であっても変異株であってもよい)が生産するL-アミノ酸オキシダーゼ、或いはペニシリウム ステッキイ(野生株であっても変異株であってもよい)のL-アミノ酸オキシダーゼ遺伝子を利用して遺伝子工学的手法によって得られたL-アミノ酸オキシダーゼであることを意味する。従って、ペニシリウム ステッキイより取得したL-アミノ酸オキシダーゼ遺伝子(又は当該遺伝子を改変した遺伝子)を導入した宿主微生物によって生産された組み換え体も、「ペニシリウム ステッキイに由来するL-アミノ酸オキシダーゼ」に該当する。 本酵素がそれに由来することになるペニシリウム ステッキイのことを、説明の便宜上、本酵素の生産菌という。 後述の実施例に示す通り、本発明者はペニシリウム ステッキイAIU 027株から上記性質を備えるL-アミノ酸オキシダーゼを単離・精製することに成功した。尚、ペニシリウム ステッキイAIU 027株は以下の通り所定の寄託機関に寄託されており、容易に入手可能である。 寄託機関:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 122号室) 寄託日:2013年10月11日 受託番号:NITE BP−01717 ペニシリウム ステッキイ AIU027株由来の精製酵素を用いた検討の結果、当該L-アミノ酸オキシダーゼが以下の性質も示すことが明らかとなった。(4)至適pH 本酵素の至適pHは7〜8である。至適pHは、例えば、pH5.0〜8.5のpH域では0.2Mリン酸カリウム緩衝液、pH8.5〜9.0のpH域では0.2MのH3BO3-KCl-NaOH緩衝液中で測定した結果を基に判断される。(5)pH安定性 本酵素はpH5〜6のpH域で安定した活性を示す。即ち、処理に供する酵素溶液のpHがこの範囲内にあれば、40℃、30分の処理後、最大活性の80%以上の活性を示す。pH安定性は、例えば、pH5.0〜8.5のpH域では0.2Mリン酸カリウム緩衝液、pH8.5〜9.0のpH域では0.2MのH3BO3-KCl-NaOH緩衝液中で測定した結果を基に判断される。(6)至適温度 本酵素の至適温度は50℃〜55℃である。至適温度は、リン酸カリウム緩衝液(pH6.0)を用い、β−ラクトグロブリンを基質とした測定法によって評価することができる。(7)温度安定性 本酵素は、リン酸カリウム緩衝液(pH6.0)中、20℃〜40℃の条件で30分間処理しても80%以上の活性を維持する。(8)等電点 本酵素の等電点(pI)は3.2である。(9)阻害剤 カルボニル化合物(ヒドロキシルアミンやフェニルヒドラジン)、キレート剤(α,α’−ジピリジル(α,α'-Dipyridyl)や 8-ヒドロキシキノリン)及びFeCl3によりL-アミノ酸オキシダーゼ活性が強く阻害される。(10)補酵素 本酵素はフラビンを補酵素として含有する。 ペニシリウム ステッキイ AIU027株由来の精製酵素のアミノ酸配列を解析した結果、ENIADVADAMGPWFDGVAYM(配列番号1)の配列が含まれていることが判明した。本配列は精製酵素のN末端に相当するものと考えられるが、本酵素が前駆体として産生され、その後プロセッシングを受けている可能性も考えられる。(L-アミノ酸オキシダーゼの製造法) 本発明の第2の局面はL-アミノ酸オキシダーゼの製造法を提供する。本発明の製造法では、ペニシリウム ステッキイを、L-リジン又はL-リジン誘導体を窒素源として含有する培地で培養するステップ(ステップ(1))と培養後の培養液及び/又は菌体より、L-アミノ酸オキシダーゼを回収するステップ(ステップ(2))を行う。ステップ(1)に使用するペニシリウム ステッキイは、本酵素(L-アミノ酸オキシダーゼ)を生産するものであれば特に限定されない。好ましくは、ペニシリウム ステッキイAIU 027株を使用する。本発明では、目的の酵素、即ちL-アミノ酸オキシダーゼの生産を誘導するために、L-リジン又はL-リジン誘導体を窒素源として含有する培地を用いて培養する。その他の培養条件や培養法は、本酵素が生産されるものである限り特に限定されない。即ち、本酵素が生産されることを条件として、使用する微生物の培養に適合した方法や培養条件を適宜設定できる。培養法としては液体培養、固体培養のいずれでも良いが、好ましくは液体培養が利用される。液体培養を例にとり、その培養条件を説明する。 培地としては、使用する微生物が生育可能な培地であれば、特に限定されない。例えば、窒素源としてのL−リジン又はL-リジン誘導体、グルコース、シュクロース、ゲンチオビオース、可溶性デンプン、グリセリン、デキストリン、糖蜜、有機酸等の炭素源、更にカリウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、鉄塩、亜鉛塩等の無機塩を添加したものを用いることができる。本酵素の生産を阻害しない限りにおいて、L-リジン又はL-リジン誘導体に加え、他の窒素源(硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、あるいは、ペプトン、酵母エキス、コーンスティープリカー、カゼイン加水分解物、ふすま、肉エキス等)を併用することにしてもよい。使用する微生物の生育を促進するためにビタミン、アミノ酸などを培地に添加してもよい。培地のpHは例えば約5〜8、好ましくは約6〜7.5程度に調整し、培養温度は通常約20〜40℃、好ましくは約25〜35℃程度で、1〜10日間、好ましくは3〜6日間程度好気的条件下で培養する。培養法としては例えば振盪培養法、ジャー・ファーメンターによる好気的深部培養法が利用できる。 以上の条件で培養した後、培養液又は菌体より目的の酵素を回収する(ステップ(2))。培養液から回収する場合には、例えば培養上清をろ過、遠心処理等することによって不溶物を除去した後、限外ろ過膜による濃縮、硫安沈殿等の塩析、透析、イオン交換樹脂等の各種クロマトグラフィーなどを適宜組み合わせて分離、精製を行うことにより本酵素を得ることができる。 他方、菌体内から回収する場合には、例えば菌体を加圧処理、超音波処理などによって破砕した後、上記と同様に分離、精製を行うことにより本酵素を得ることができる。尚、ろ過、遠心処理などによって予め培養液から菌体を回収した後、上記一連の工程(菌体の破砕、分離、精製)を行ってもよい。本酵素の精製度は特に限定されない。また、最終的な形態は液体状であっても固体状(粉体状を含む)であってもよい。上記のようにして得られた精製酵素を、例えば凍結乾燥や真空乾燥或いはスプレードライなどにより粉末化して提供することも可能である。その際、精製酵素を予めリン酸緩衝液、トリエタノールアミン緩衝液、トリス塩酸緩衝液やGOODの緩衝液に溶解させておいてもよい。好ましくは、リン酸緩衝液、トリエタノールアミン緩衝液を使用することができる。尚、ここでGOODの緩衝液としてはPIPES、MES又はMOPSが挙げられる。(酵素剤) 本酵素は例えば酵素剤の形態で提供される。酵素剤は、有効成分(本酵素)の他、賦形剤、緩衝剤、懸濁剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水などを含有していてもよい。賦形剤としては乳糖、ソルビトール、D-マンニトール、白糖等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等と用いることができる。(L-アミノ酸オキシダーゼの用途) 本発明の更なる局面は、本酵素の用途として、本酵素(又は本酵素を含有する酵素剤)を用いた、蛋白質又はペプチドの修飾方法(物性改良方法)を提供する。本発明の修飾方法では蛋白質又はペプチドに対して本酵素を作用させる。本発明の修飾方法は、様々な蛋白質、ペプチドの修飾に利用可能である。基質となる蛋白質又はペプチドは特に限定されない。上記の通り本酵素はL-リジンのε−アミノ基を脱アミドする能力を持つ。従って、L-リジンを含む蛋白質又はペプチドは好適な基質となる。また、ペプチドの長さは特に限定されない。但し、後述の実施例に示すように、本酵素が高分子量のペプチドに対して効率的に作用することを考慮すれば、高分子ペプチド(例えば分子量が100〜4700)は好適な基質となる。 食品や食品素材、繊維、容器、コーティング材、医療用素材、産業用ポリマー等の構成成分、或いは食品や食品素材、繊維、容器、コーティング材、医療用素材、産業用ポリマー等に含有されている蛋白質又はペプチドを基質として用いることもできる。換言すれば、これらの組成物に対して本酵素を作用させ、当該組成物の物性や特性を改変することも可能である。ここでの食品として、食肉、食肉加工品、肉エキス、魚肉製、魚肉加工品、魚肉エキス、野菜、野菜加工品、野菜エキス、果実、果実加工品、果汁、果汁加工品、穀類、穀類粉末、穀類加工品、レトルト食品、調理加工済み食品、ペットフード等を例示することができる。また、食品素材として、粉乳、米粉、小麦粉、粉末野菜、プロテインパウダー、魚粉を例示することができる。 使用する基質、反応系中の夾雑物、pH、粘度、密度、物性等によって最適な反応条件は変動するものの、当業者であれば、本願明細書の開示事項及び技術常識などを考慮しつつ、予備実験を通して、目的に合致した反応条件を特定ないし決定することができる。以下、反応条件の一例を示す。 反応温度:20℃〜55℃ 反応時のpH:pH5〜9 反応時間:10分〜12時間 尚、カルボニル化合物、キレート剤及びFeCl3はL-アミノ酸オキシダーゼ活性に影響を及ぼすため、使用しない(反応系から排除する)ことが望まれる。1.新規L-アミノ酸オキシダーゼ生産菌のスクリーニング 本発明者は、リジン側鎖のε位にあたるアミノ基にも充分に作用でき、多種類の蛋白質やペプチドが基質となるL-アミノ酸オキシダーゼを見出すべく、以下のスクリーニングを実施した。 スクリーニングの実施にあたり、アミノ酸の酸化によって生成する過酸化水素を定量することで酵素活性を評価した。以下、測定方法を、基質としてβ−ラクトグロブリンを用いた場合を例にとって説明する。適量の酵素抽出液に対し、4 mg/mlのβ−ラクトグロブリン、0.6μmol/mlの4-aminoantipyrine (4-AA)、1.94μmol/mlのN-ethyl-N-(2-hydroxy-3-sulfopropyl)-3-methylaniline sodium salt dehydrate (TOOS)、6.7 ユニット/mlのペルオキシダーゼ、0.1 mmol/mlのリン酸カリウム(pH7.0)を含む溶液を標準反応溶液とした。標準反応溶液に酵素が加えられた時点を測定の開始時とし、30℃、5分間の反応条件下で生成した過酸化水素をペルオキシダーゼの作用により4-AA及びTOOSと酸化縮合反応させる。この反応で得られる生成物は555 nmに極大吸収波長をもつため、555nmの吸光度を測定することで過酸化水素の生成量を求めることができる。1分間当たり1μモルの過酸化水素を生成する反応を触媒する酵素量を1ユニットと定義し、酵素活性を算出した。基質を他の蛋白質、アミノ酸、アミノ酸誘導体等に換えることで、各基質に対する酵素活性を測定することができる。 スクリーニングは以下の通り実施した。Nα-Z-L-リジン培地(培地組成:0.5% Nα-Z-L-リジン、0.5% グルコース、0.2% KH2PO4、0.1% Na2HPO4、0.05% MgSO4・7H2O、pH 7.0)を用いて土壌サンプルの濃縮培養を行なった。濃縮培養により得られた菌株を単離し、5mlのNα-Z-L-リジン培地にて30℃で3日間、試験管培養を行なった。菌体培養液から菌体を回収した後、マルチビーズショッカー(安井器械株式会社製)にて菌体を5℃、8分間破砕後、菌体破砕液中のL-アミノ酸オキシダーゼ活性を、Nα-Z-L-リジン、β−ラクトグロブリン及びゼラチンを基質にして測定した。結果として、L-アミノ酸オキシダーゼ活性を有する菌株を5株得た。これらの株はNα-Z-L-リジン、β−ラクトグロブリン、ゼラチンの何れに対してもL-アミノ酸オキシダーゼ活性を示した。この5株の内、No.027と名付けた菌株が、ゼラチンとβ−ラクトグロブリンを基質とした場合に強いL-アミノ酸オキシダーゼ活性を示したため、当該菌株の同定を行うことにした。 No.027株の同定のためリボソームDNA解析を行った。No.027株を培養し、菌体を回収した。回収菌体からゲノムDNAを回収し28SリボソームDNAのD1/D2領域の解析を行なった。その結果、No.027株の28SリボソームDNAのD1/D2領域の塩基配列はペニシリウム ステッキイ(Penicillium steckii)NRRL35367ペニシリウム ステッキイ(Penicillium steckii)NRRL35625、ペニシリウム ステッキイ(Penicillium. steckii) NRRL354633及びペニシリウム ステッキイ(Penicillium steckii)KUC1681-1の配列と完全に一致した。また、ペニシリウム トロピカム(Penicillium tropicum) NRRL35470(EU427292)の配列とは99.3%一致した。更に、リボソームDNAのITS-5.8S領域の配列はペニシリウム ステッキイ(Penicillium steckii)NRRL354633及びKUC1681-1と完全に一致し、ペニシリウム ステッキイ(Penicillium steckii)NRRL35367の配列とは99.5%一致した。 次に、No.027株の菌体形態学的観察を行った。No.027株をポテトデキストロース寒天培地及びオートミール寒天培地で25℃、7日間培養したところ、良好な増殖を示し、ポテトデキストロース寒天培地上では灰色がかった緑の淡い緑色を呈したビロード状の、オートミール寒天培地上では灰色がかった緑の灰白色を呈したビロード状のコロニーを形成した。更に顕微鏡観察の結果、栄養菌糸には中隔があり、分生子柄は菌糸から生じており、その表面は滑らかであった。また、ほうき状体は二輪生、メトレは分生胞子の頂端から生じており、フィアライドはアンプル形、分生子は準内生型でかつ滑面であった。以上の形態学的な特徴とリボソーム遺伝子の解析結果から、No.027株はペニシリウム ステッキイに属すると結論付けられた。よって、本No.027株をペニシリウム ステッキイAIU 027と命名した。2.ペニシリウム ステッキイAIU 027のL-アミノ酸オキシダーゼ生産条件の検討 ペニシリウム ステッキイAIU 027のスクリーニングは、窒素源としてL-リジンの誘導体であるNα-Z-L-リジンを用いる特殊な条件で行った。本L-アミノ酸オキシダーゼの生産に窒素源の種類が影響している可能性が考えられたことから、単一窒素源としてL-リジン、Nα-Z-L-リジン、硝酸アンモニウム又は硫酸アンモニアを用い、ペニシリウム ステッキイAIU 027を培養した。培養後に回収した菌体から酵素を抽出し、酵素活性の違いを検討した。Nα-Z-L-リジン培地(培地組成:0.5% Nα-Z-L-リジン、0.5% グルコース、0.2% KH2PO4、0.1% Na2HPO4、0.05% MgSO4・7H2O、pH 7.0)の窒素源をL-リジン、Nα-Z-L-リジン、硝酸アンモニウム又は硫酸アンモニアに置き換えた培地(以下、各培地をL-リジン培地、Nα-Z-L-リジン培地、硝酸アンモニウム培地、硫酸アンモニア培地と呼ぶ)を調製し、ペニシリウム ステッキイAIU 027株を培養し、菌体中の酵素活性をβ−ラクトグロブリンを基質として測定した。その結果、硝酸アンモニウム培地又は硫酸アンモニア培地ではL-アミノ酸オキシダーゼ活性が検出できなかった。L-リジン培地又はNα-Z-L-リジン培地ではL-アミノ酸オキシダーゼ活性を検出でき、L-リジン培地の場合の方がNα-Z-L-リジン培地の場合よりも酵素活性が高かった。以上より、ペニシリウム ステッキイ AIU027株のL-アミノ酸オキシダーゼの生産は窒素源の種類に影響を受け、L-リジンやNα-Z-L-リジンで生産が誘導されることが明らかとなった。3.L-アミノ酸オキシダーゼ生産の経時的変化の検討 ペニシリウム ステッキイAIU 027株のL-アミノ酸オキシダーゼ生産の経時的変化を検討した。ペニシリウム ステッキイAIU 027株を以下の通り培養した。500mlフラスコを用い、150mlのL-リジン培地でペニシリウム ステッキイAIU 027株を30℃、2日間振とう培養(115 strokes/min)した。培養後の培養液200mlを3Lフラスコに移し、2LのL-リジン培地を添加して30℃、4日間培養した。経時的に菌体を回収し、菌体中のL-アミノ酸オキシダーゼ活性をβ−ラクトグロブリンとサケゼラチンを基質として測定した。β−ラクトグロブリンとサケゼラチンを基質とした活性測定のいずれにおいても、L-アミノ酸オキシダーゼ活性は培養開始後1日目から上昇し始め3日目に最大値を示し、4日目には3日目の活性よりも低下した(図1)。酵素活性の上昇に伴い培地pHは7から次第に低下した。菌体量は酵素活性が最大になった3日目以降も増加し、培養4日目までは低下しなかった。以上より、菌体培養3日目に酵素生産量が最大になると考えられた。4.ペニシリウム ステッキイAIU 027株培養液からの酵素の精製 ペニシリウム ステッキイAIU 027株由来のL-アミノ酸オキシダーゼの酵素学的な特性を解析するため、酵素の精製を行った。菌体の培養と回収は次のように行った。500mlフラスコを用い、150mlのL-リジン培地(0.5% L-リジン、0.5% グルコース、0.2% KH2PO4、0.1% Na2HPO4、0.05% MgSO4・7H2O、pH 7.0)でペニシリウム ステッキイAIU 027株を30℃、2日間振とう培養(115ストローク/分)した。培養後の培養液200mlを3Lフラスコに移し、2LのL-リジン培地を添加し、更に30℃、3日間培養を行った。培養後、菌体をろ過により回収し、10 mMリン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)で洗浄後、−30℃で保存した。38LのL-リジン培地での培養に相当する菌体から酵素を精製した。酵素精製の全操作は5℃〜10℃の温度条件下で行った。また、緩衝液はリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)を用いた。まず最初に菌体(湿潤重量66g)を560 mlの10 mMリン酸カリウム緩衝液に懸濁し、マルチビーズショッカー(安井器械社製)にて破砕した。遠心分離(10,000×g、10分)後、上清を回収し、残った菌体破砕物を500 mlの別の10 mMリン酸カリウム緩衝液に懸濁し、遠心分離により上清を回収した。この操作を繰り返し、合計3回の菌体破砕物からの抽出を行った。得られた抽出物をまとめて合計1,900 mlの溶液とした。この抽出液に対し309 gの硫酸アンモニウムを加えて40%飽和溶液とし、硫安沈殿を行った。沈殿物は遠心分離(10,000×g、10分)により取り除いた。遠心分離の上清を、2.0M硫酸アンモニウムを含む10mMリン酸カリウム緩衝液で平衡化したPhenyl-Toyopearlカラム(20 cm×直径2.5 cm)に供した。2.0M硫酸アンモニウムを含む10mMリン酸カリウム緩衝液でカラムを洗浄後、吸着成分を1.5M 硫酸アンモニアを含む10 mM リン酸緩衝液で溶出し、酵素活性を確認した。酵素活性が確認された画分を集めてゲルろ過で脱塩処理した。このようにして得られた酵素活性画分を、40mMリン酸緩衝液で平衡化したDEAE-Toyopearlカラム(20 cm×直径2.5 cm)に供した。40mMリン酸緩衝液でカラムを洗浄後、カラムに吸着した酵素成分を40 mM リン酸カリウム緩衝液と0.12 M食塩を含む40mMリン酸カリウム緩衝液を用いた食塩のグラジエントで溶出させた。溶出した酵素画分を30 mMのリン酸緩衝液で透析処理した。次に、透析処理した画分を、50mMリン酸カリウム緩衝液で平衡化されたAminooctyl-Toyopearlカラム(10 cm×直径2.5 cm)に供した。50mMリン酸緩衝液でカラムを洗浄後、カラムに吸着された酵素成分を50 mMリン酸カリウム緩衝液と0.2 M食塩を含む50mMリン酸カリウム緩衝液を用いた食塩のグラジエントで溶出した。酵素活性を示した画分を回収し、10mMリン酸カリウム緩衝液で透析処理を行った。更に、透析処理した酵素画分を、20 mMリン酸緩衝液で平衡化したヒドロキシアパタイトカラム(38 cm×直径1.0 cm)に供した。カラムを20 mMリン酸緩衝液で洗浄後、カラムに吸着された酵素成分を、20 mMリン酸カリウム緩衝液と0.12 M食塩を含む20mMリン酸カリウム緩衝液を用いた食塩のグラジエントで溶出した。酵素活性を示した画分を集め、限外ろ過により0.8mlまで濃縮した。次に、濃縮された酵素画分を、50mMリン酸カリウム緩衝液で平衡化したToyopearl HW-55 カラム(53 cm×直径1.3 cm)に供し、酵素活性を示す画分を回収した。精製結果を図2の表に示す。5.分子量の測定 精製酵素の分子量を推定するためにSDS-PAGEを実施した。SDS-PAGEはLaemmliの方法(Laemmli, U. K.: Cleavage of structure proteins during the assembly of the head of bacteriophage T4. Nature, 227, 680-685 (1970).)に従い行った。ゲルの染色にはCoomassie Brilliant Blue R-250を用いた。分子量推定に用いるマーカー蛋白質には標準分子量マーカー(Standard markers of molecular mass(Sigma-Aldrich))を用いた。SDS-PAGEの結果を図3左に示した。SDS-PAGEの分析では、精製酵素は約75.3KDaのフラグメントからなると推察された。 更に、ゲルろ過で分子量の解析を進めた。ゲルろ過にはTSK gel G3000SWXLを用いた。マーカータンパク質の移動度から、精製酵素は290KDaの大きさのタンパク質として存在することがわかった(図3右)。SDS-PAGEの結果と併せ、本酵素は4量体として存在しているものと結論付けられた。6.補酵素の特定 本酵素の補酵素を特定するために精製酵素の吸収波長を調べた。その結果、波長275nm、390nm及び460 nmで吸収を観察した。この結果から、本酵素はフラビンを補酵素として含有すると考えられた。更に、ICPEスペクロメトリーにより、本酵素は鉄原子を含有していると考えられた。7.等電点の分析 Pharmalyteを用いた等電点電気泳動の結果より、精製酵素の等電点はpH 3.2であった。8.ペニシリウム ステッキイ AIU 027株由来L-アミノ酸オキシダーゼのN末端アミノ酸解析 精製酵素のアミノ酸配列を解析した。その結果、アミノ酸配列ENIADVADAMGPWFDGVAYM(配列番号1)を持つ酵素であることが判明した。本配列を有する微生物由来L-アミノ酸オキシダーゼの報告はなく、本酵素が新規の酵素であることが判明した。本配列は本酵素成熟体のN末端配列と考えられた。9.至適pHとpH安定性 本酵素の至適pHとpH安定性を検討した。至適pH検討にはpH5.0〜8.5域では0.2Mリン酸カリウム緩衝液、pH8.5〜9.0では0.2MのH3BO3-KCl-NaOH緩衝液を使用した。酵素活性はβ−ラクトグロブリンを基質として測定した。測定結果を図4に示した。酵素の至適pHは7〜8と推定された。 各pHの緩衝液(上記緩衝液を使用)を40℃で30分間加温した後、β−ラクトグロブリンを基質として残存活性を測定することにより、pH安定性を検討した。結果を図4に示した。本酵素はpH5〜6で安定であると結論した。10.至適温度と温度安定性 至適温度を検討するため、リン酸カリウム緩衝液(pH6.0)を用い、各温度での酵素活性を測定した。酵素活性はβ−ラクトグロブリンを基質として測定した。結果を図5に示した。至適温度は50〜55℃であり、60℃で急激に酵素活性を示さなくなった。温度安定性を検討するため、リン酸カリウム緩衝液(pH6.0)中、各温度で30分間加熱後、β−ラクトアルブミンを基質として酵素活性を測定した。結果を図5に示した。20〜40℃で安定であり、活性は80%以上保持されていた。50℃以上で酵素は急激に失活した。11.阻害剤の影響 各種金属、キレート剤又はその他の化合物の酵素活性への影響を調べた。酵素活性測定系に各化合物を1mM濃度で添加後、酵素活性を測定し、各化合物による酵素活性への影響を調べた。結果を図6の表に示した。12種類の化合物について調べた結果、カルボニル化合物(ヒドロキシルアミンやフェニルヒドラジン)によりL-アミノ酸オキシダーゼ活性が強く阻害された。α,α’-ジピリジル(Dipyridyl)や8-ヒドロキシキノリンなどのキレート剤もまたL-アミノ酸オキシダーゼ活性を阻害した。金属ではFeCl3がL-アミノ酸オキシダーゼ活性を強く阻害した。12.基質特異性 各種基質に対する本酵素の反応性を調べた。各種アミノ酸誘導体40mM溶液、又は各種アミノ酸基質1mMを用い、様々な基質に対する反応性を調べた。また、ポリ-L-リジン、フィッシュコラーゲンペプチド及びサケゼラチンについても、Toyopearl HW-55カラム(53 cm×直径1.3 cm)を使用してこれらの蛋白質を分画し、メインピークを集めて基質とし、反応性を調べた。ポリ-L-リジン、フィッシュコラーゲンペプチドI、フィッシュコラーゲンペプチドII及びサケゼラチンの分子量はTSK gel G3000SWXLカラムを用いたゲルろ過で算出した。 結果を図7の表に示した。本酵素はβ−ラクトグロブリン、ミオグロビン、サケゼラチン、L-リジンを含め、各種蛋白質及び各種ペプチドに作用した。また、本酵素はNα-アセチルL-リジン、Nε-アセチルL-リジン、そしてNα-Z-L-オルニチンに良く作用した。一方で、本酵素はNα-Z-L-グルタミン、Nα-Z-L-アスパラギン及びNα-Z-L-アルギニンには作用しなかった。フリーアミノ酸については、L-リジン、L-ロイシン、L-メチオニン、L-アスパラギン、L-グルタミン、L-アルギニン、L-オルニチン及び芳香族L-アミノ酸に対しては良く反応したが、L-トレオニン、L-イソロイシン、L-セリン、L-バリン、L-システイン、L-アスパラギン酸、L-プロリン、グリシン、D-アミノ酸、モノアミン、ジアミン及びアミノアルコールに対しても作用しなかった。以上より、本酵素はLアミノ酸に特異的に作用し、アミノ酸のα-アミノ基とL-リジンのε-アミノ基を脱アミドする活性を持つことがわかった。L-リジン、L-リジン誘導体に加え、これらを含むペプチドや蛋白質も基質になることが判明した。13.各種基質に対するKm値の比較 L-リジン、Nα-Z-L-リジン及びNε-Z-L-リジンに対するKm値を求め、L-リジンとL-リジン誘導体の各アミノ基(α-アミノ基、ε-アミノ基)に対するKm値を比較した。各種蛋白質、ペプチドにおけるリジン残基に対する作用を検討するためにKmとVmaxを算出した。0.055〜0.66 mMのβ−ラクトグロブリン、0.07〜0.55 mMのポリ-L-リジン、0.0021〜0.025 mMのフィッシュコラーゲンペプチドI、0.0018〜0.018 mMのフィッシュコラーゲンペプチドII、0.6〜20 mMのサケゼラチン、5.0〜80 mMのGly-Lys、5.0〜80 mMのAla-Lysを基質に用い、KmとVmaxを算出した。ポリ-L-リジン、フィッシュコラーゲンペプチド及び サケゼラチンToyopearl HW-55カラム(53 cm×直径1.3 cm)にて分画し、メインピークを集めて基質とした。ポリ-L-リジン、フィッシュコラーゲンペプチドI、フィッシュコラーゲンペプチドII及びサケゼラチンの分子量はTSK gel G3000SWXLカラムを用いたゲルろ過で算出した。 Nε-Z-L-リジン及びL-リジンに対する見かけのKm値はそれぞれ7.0μM及び10μMと推算され、Nα-Z-L-リジンに対するKm値(26.5 mM)に比べ著しく低かった。L-オルニチンとNα-Z-L-オルニチンを基質とした場合、見かけのKm値はそれぞれ17μMと56.4 mMと推算され、L-リジンとNα-Z-L-リジンの場合と同様の傾向であった(図8の表)。これらの結果より、本酵素はL-リジンのα−アミノ基に優先的に結合し、反応すると考えられた。 一方、β-ラクトグロブリン、フィッシュコラーゲンペプチドとサケペプチドに対するKm値は、Nα-Z-L-リジン及びAla-LysやGly-Lysなどのリジンを含むジペプチドに対するKm値よりもはるかに低い値であった(図8の表)。これらの結果から、本酵素は、Nα-Z-L-リジンや低分子ペプチドのε−アミノ基よりは、分子量の大きなペプチドのε−アミノ基に優先的に結合する性質を有することがわかった。 以上の通り、L-リジンを含む蛋白質や高分子ペプチドにおけるリジン残基のε−アミノ基を効率的に酸化するという、ユニークな性質を本酵素が有することが判明した。 本発明のL-アミノ酸オキシダーゼは蛋白質又は高分子ペプチド中のリジン残基のε−アミノ基を効率的に酸化するという、特有の性質を備える。また、作用可能な基質の幅が広い。このような特徴を示す本発明のL-アミノ酸オキシダーゼは、各種蛋白質又はペプチド、或いはそれを含有するもの(例えば食品や食品素材、繊維、容器、コーティング材、医療用素材、産業用ポリマー)の物性改変(修飾)に有用である。 この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。 下記の酵素化学的性質を有するL-アミノ酸オキシダーゼ、 (1)作用:L-アミノ酸のα−アミノ基とL-リジンのε−アミノ基を脱アミドする反応を触媒する、 (2)分子量:SDS-PAGEによる分子量が約75.3kDa、ゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量が約290kDa、 (3)基質特異性:β−ラクトグロブリン、ミオグロビン、サケゼラチンに作用する。L-リジン、L-ロイシン、L-メチオニン、L-アスパラギン、L-グルタミン、L-アルギニン、L-オルニチン、L-チロシン、L-フェニルアラニン、L-トリプトファン、L-ヒスチジンに対して作用し、L-トレオニン、L-イソロイシン、L-セリン、L-バリン、L-システイン、L-アスパラギン酸、L-プロリン、グリシン、D-アミノ酸、モノアミン、ジアミン及びアミノアルコールには作用しない。 下記の酵素化学的性質を更に有する、請求項1に記載のL-アミノ酸オキシダーゼ、 (4)至適pH:7〜8、 (5)pH安定性:pH5〜6の範囲で安定(40℃、30分間)、 (6)至適温度:50℃〜55℃、 (7)温度安定性:20℃〜40℃の範囲で安定(pH6.0、30分間)。 下記の酵素化学的性質を更に有する、請求項2に記載のL-アミノ酸オキシダーゼ、 (8)等電点:3.2、 (9)阻害剤:カルボニル化合物、キレート剤及びFeCl3によりL-アミノ酸オキシダーゼ活性が強く阻害される、 (10)補酵素:フラビンを補酵素として含有する。 アミノ酸配列ENIADVADAMGPWFDGVAYM(配列番号1)を構造の一部に含む、請求項3に記載のL-アミノ酸オキシダーゼ。 N末端アミノ酸配列がENIADVADAMGPWFDGVAYM(配列番号1)である、請求項3に記載のL-アミノ酸オキシダーゼ。 ペニシリウム ステッキイ由来である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のL-アミノ酸オキシダーゼ。 ペニシリウム ステッキイ AIU027由来である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のL-アミノ酸オキシダーゼ。 請求項1〜7のいずれか一項に記載のL-アミノ酸オキシダーゼを有効成分とする酵素剤。 以下のステップ(1)及び(2)を含む、L-アミノ酸オキシダーゼの製造法: (1)ペニシリウム ステッキイを、L-リジン又はL-リジン誘導体を窒素源として含有する培地で培養するステップ、 (2)培養後の培養液及び/又は菌体より、L-アミノ酸オキシダーゼを回収するステップ。 請求項1〜7のいずれか一項に記載のL-アミノ酸オキシダーゼ又は請求項8に記載の酵素剤を蛋白質又はペプチドに作用させることを特徴とする、蛋白質又はペプチドの修飾方法。 前記蛋白質及びペプチドが、L-リジンを構成アミノ酸として含有している、請求項10に記載の修飾方法。 【課題】蛋白質やペプチドの物性改良に適したL-アミノ酸オキシダーゼを提供することを課題とする。【解決手段】 以下の酵素化学的性質を有するL-アミノ酸オキシダーゼ、(1)作用:L-アミノ酸のα−アミノ基とL-リジンのε−アミノ基を脱アミドする反応を触媒する;(2)分子量:SDS-PAGEによる分子量が約75.3kDa、ゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量が約290kDa;(3)基質特異性:β−ラクトグロブリン、ミオグロビン、サケゼラチンに作用する。L-リジン、L-ロイシン、L-メチオニン、L-アスパラギン、L-グルタミン、L-アルギニン、L-オルニチン、L-チロシン、L-フェニルアラニン、L-トリプトファン、L-ヒスチジンに対して作用し、L-トレオニン、L-イソロイシン、L-セリン、L-バリン、L-システイン、L-アスパラギン酸、L-プロリン、グリシン、D-アミノ酸、モノアミン、ジアミン及びアミノアルコールには作用しない。【選択図】なし配列表


ページのトップへ戻る

生命科学データベース横断検索へ戻る