生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_膵液瘻モデル動物
出願番号:2013255010
年次:2015
IPC分類:A01K 67/027,G01N 33/50,G01N 33/15


特許情報キャッシュ

高木 克典 村上 豪志 及川 将弘 JP 2015112041 公開特許公報(A) 20150622 2013255010 20131210 膵液瘻モデル動物 国立大学法人 長崎大学 504205521 高島 一 100080791 土井 京子 100125070 鎌田 光宜 100136629 田村 弥栄子 100121212 山本 健二 100122688 村田 美由紀 100117743 小池 順造 100163658 當麻 博文 100174296 高木 克典 村上 豪志 及川 将弘 A01K 67/027 20060101AFI20150526BHJP G01N 33/50 20060101ALI20150526BHJP G01N 33/15 20060101ALI20150526BHJP JPA01K67/027G01N33/50 ZG01N33/15 Z 12 OL 16 特許法第30条第2項適用申請有り ▲1▼平成25年6月10日 「膵臓」第28巻第3号 第183:395頁にて発表 ▲2▼平成25年7月25日 第44回 日本膵臓学会大会において文書(スライド)をもって発表 2G045 2G045AA25 本発明は、膵液瘻モデル動物に関する。 膵液瘻は、膵臓手術(膵頭十二指腸切除術、膵体尾部切除術)、下部胆管癌手術(膵頭十二指腸切除術)、胃癌手術(幽門側胃切除、胃全摘術のリンパ節廓清時)などの手術の合併症であり、仮性動脈瘤や腹腔内膿瘍の原因となり得る。膵液瘻を予防することは、外科手術の一つの命題である。これまで、様々な膵液瘻予防方法が検討されてきたが、全て実臨床においてヒトに投与されてきた。イヌやブタを用いた膵液瘻モデル作製を試みた例は30年以上前の文献に散見されるものの、ラットなどの小動物の実験は皆無に等しい。しかも、ヒトへの投与の安全性優先のため、他用途の薬剤の流用で膵液瘻を防止しようと試みられており、いまだ膵液瘻予防に有用な薬剤はなく、膵液瘻に特化した薬剤はない。 膵液瘻の治療は良いモデルがなかったことから、これまでは別目的で開発された薬の適応拡大としての臨床的な試験がいくつか行われており、例えばホルモン製剤のサンドスタチンの投与や、創傷治癒ゲルなどのポリマーの適用が知られている。 本発明の目的は、膵液瘻の治療に帰する動物モデルを創出し、膵液瘻の生理学的意義を解明し、膵液瘻の治療薬の簡便なスクリーニング方法を提供することにある。 本発明者らは、膵液瘻のモデル実験動物として取り扱いやすい大きさのげっ歯類に注目し、当該動物の膵臓の生理学的特性を考慮して注意深く検討した結果、適切な処置を施すことにより、ヒトの膵液瘻の病態に近似した疾患モデル動物を作出することに成功し、本発明を完成させるに至った。即ち、本願発明は、以下に示す通りである。〔1〕 げっ歯類の膵液瘻モデル動物であって、膵尾部の切除、脾臓および大網の合併切除、膵臓と胃の切離、かつ、横行結腸間膜と膵臓の部分剥離を施行してなるモデル動物。〔2〕 施行後1〜3日の腹水または血清中のアミラーゼ活性またはリパーゼ活性が施行前に比べて有意に上昇している〔1〕に記載のモデル動物。〔3〕 施行後7〜10日以内に膵液瘻が寛解する〔1〕または〔2〕に記載のモデル動物。〔4〕 げっ歯類がラット、マウス、ハムスターまたはモルモットである〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載のモデル動物。〔5〕 げっ歯類を麻酔下に開腹し、膵尾部を切除し、脾臓および大網を合併切除し、膵臓と胃を切り離し、さらに、横行結腸間膜と膵臓を部分剥離する工程を含む、げっ歯類の膵液瘻モデル動物の作出方法。〔6〕 げっ歯類がラット、マウス、ハムスターまたはモルモットである〔5〕に記載の作出方法。〔7〕 〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載のモデル動物に被験物質を投与する工程、被験物質を投与したモデル動物における腹水または血中のアミラーゼ活性を、非投与モデル動物または対照動物における腹水または血中のアミラーゼ活性と比較する工程、ならびに比較工程により得られた結果に基づいて、膵液瘻の治療薬候補を選択する工程、を含有する膵液瘻の治療薬のスクリーニング方法。〔8〕 〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載のモデル動物に被験物質を投与する工程、被験物質を投与したモデル動物における膵液瘻に及ぼす影響を、非投与モデル動物における状態と比較する工程、および比較工程により得られた結果に基づいて、膵液瘻の治療薬候補を選択する工程、を含有する膵液瘻の治療薬のスクリーニング方法。〔9〕 げっ歯類の膵液瘻モデル動物であって、当該動物は膵尾部、脾臓および大網の欠損、膵臓と胃との切離、および横行結腸間膜と膵臓との部分剥離を呈しており、かつ、正常の同種動物と比べて腹水または血清中のアミラーゼ活性またはリパーゼ活性が有意に上昇しているモデル動物。〔10〕 腹水中のアミラーゼ活性が、正常の同種動物と比べて約2〜200倍上昇している〔9〕に記載のモデル動物。〔11〕 腹水中のリパーゼ活性が、正常の同種動物と比べて約2〜50倍上昇している〔9〕または〔10〕に記載のモデル動物。〔12〕 げっ歯類がラット、マウス、ハムスターまたはモルモットである〔9〕〜〔11〕のいずれか1項に記載のモデル動物。 本発明の膵液瘻モデル動物によると、ヒトの膵液瘻の病態に即した症状を呈するので、ヒト膵液瘻の治療薬または治療方法の探索に有効に供することができる。また、本発明の膵液瘻モデル動物は、げっ歯類の小動物であるので、取り扱いが容易で、飼育コストも低く、スクリーニングに供する薬剤の量も節約することができる。さらに、本発明の膵液瘻モデル動物は、施行後7〜10日以内に膵液瘻が寛解するので、観察期間を短期に設定することができる。本発明の膵液瘻モデル動物作出の概念図および開腹時の一態様を示す。膵液瘻モデル動物作出のための比較例1の概念図を示す。膵液瘻モデル動物作出のための比較例2の概念図を示す。膵液瘻モデル動物作出のための比較例3の概念図を示す。グレリン群とコントロール群の腹水アミラーゼ濃度の比較結果を示す。グレリン群とコントロール群の血清アミラーゼ濃度の比較結果を示す。グレリン群とコントロール群の腹水量の比較結果を示す。グレリン群とコントロール群の腹水アミラーゼ量の比較結果を示す。 本発明は、げっ歯類の膵液瘻モデル動物を提供する。本発明のモデル動物は、膵臓の少なくとも一部、好ましくは膵尾部を切除することにより得られるものである。 本発明においてげっ歯類とは、実験動物として利用可能なげっ歯類であれば特に限定されるものではなく、ラット、マウス、ハムスター、モルモット等があげられるが、取り扱いの容易さおよび評価対象の薬物の使用量を減らすことができるという観点から、体重の軽いげっ歯類が好ましい。ラットを例にすると、体重200〜500gが例示される。 膵液瘻とは、膵臓手術(膵頭十二指腸切除術、膵体尾部切除術)、下部胆管癌手術(膵頭十二指腸切除術)、胃癌手術(幽門側胃切除、胃全摘術のリンパ節廓清時)などの手術の合併症であり、術後3日目に測定された腹腔内ドレーンの排液中アミラーゼ濃度が血清中濃度の3倍以上の値を示した場合を術後膵液瘻という。 膵液瘻は、入院期間の延長または再手術の原因となったり、仮性動脈瘤や腹腔内膿瘍の原因にもなりうる。(膵液瘻モデル動物) 本発明の膵液瘻モデル動物における「膵液瘻」は、膵臓の少なくとも一部の切除、および腹水もしくは血清のアミラーゼ値またはリパーゼ値の上昇を伴う病態をいう。膵臓の少なくとも一部の切除は、致死率が低く寛解に達しやすいという観点から、膵尾部の切除が好ましい。 本発明のモデル動物は、膵尾部の欠損に加えて、脾臓および大網の欠損、膵臓と胃との切離、および横行結腸間膜と膵臓との部分剥離を呈していることが好ましく、かつ、正常の同種動物と比べて腹水中のアミラーゼ活性またはリパーゼ活性が有意に上昇している動物である。 膵尾部を欠損しているげっ歯類が本発明のモデル動物として使用できるか否かは、後述するアミラーゼ活性(腹水中または血清中)またはリパーゼ活性(腹水中または血清中)に基づいて選択することができる。 本発明のモデル動物は、腹水中のアミラーゼ活性が、正常の同種動物と比べて約2〜200倍上昇していることが好ましい。 本発明のモデル動物は、腹水中のリパーゼ活性が、正常の同種動物と比べて約2〜50倍上昇していることが好ましい。 膵尾部を欠損し、さらには脾臓および大網の欠損、膵臓と胃との切離、および横行結腸間膜と膵臓との部分剥離を呈しているげっ歯類が膵液瘻モデル動物として供されるか否かは、施行後1日目に、血清もしくは腹水中のアミラーゼ活性またはリパーゼ活性を測定し、施行前の活性に比べて有意に上昇していることを確認することにより、決定することができる。また、比較対象として、同種のラットの正常値を別途調べて基準値として設定しておくこと望ましい。 血清もしくは腹水中のアミラーゼ(α−アミラーゼ)活性は、2-クロロ-4-ニトロフェニル-4-ガラクトピラノシルマルトシド(Gal-G2-CNP)を基質とし、検体中のアミラーゼにより加水分解し、遊離した2-クロロ-4-ニトロフェニル(CNP)の増加速度を分光光学的に測定することにより、アミラーゼ活性(単位U/L)として求める。 上記アミラーゼ活性の測定には、市販のシカリキッド−N AMY(関東化学株式会社)を好適に使用することができる。 血清もしくは腹水中のリパーゼ活性は、1,2-o-ジラウリル-rac-グリセロ-3-グルタル酸-(6-メチル-レゾルフィン)エステルを基質とし、検体中のリパーゼによる酵素反応により1,2-o-ジラウリル-rac-グリセロールとグルタル酸-(6-メチル-レゾルフィン)エステルに分解し、生成したグルタル酸-(6-メチル-レゾルフィン)エステルをアルカリ条件下で自発的に加水分解し、グルタル酸および赤色色素を生じさせて当該色素の吸光度を測定することにより、リパーゼ活性(単位U/L)として求める。 上記リパーゼ活性の測定には、市販のリキテック(登録商標)リパーゼカラーII(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)を好適に使用することができる。 本発明のモデル動物は、施行後1〜3日の、血清もしくは腹水中のアミラーゼ活性またはリパーゼ活性が施行前に比べて有意に上昇していることが望ましい。したがって、本発明のモデル動物を用いて、施行後1〜3日以内に膵液瘻のスクリーニングを完了することができる。 本発明のモデル動物は、施行後1〜3日の腹水中のアミラーゼ活性が基準範囲以上、例えば、500U/L以上であることが望ましい。アミラーゼ活性が高値を示すことにより、スクリーニング方法に供した場合に、スクリーニング対象の被験物質または手法の効果の判定が容易になる。 本発明のモデル動物は、施行後1〜3日の腹水中のリパーゼ活性が基準範囲以上、例えば、50U/L以上であることが望ましい。リパーゼ活性が高値を示すことにより、スクリーニング方法に供した場合に、スクリーニング対象の被験物質または手法の効果の判定が容易になる。 本発明のモデル動物は、施行後7〜10日以内に膵液瘻が寛解することが望ましい。本発明のモデル動物を用いたスクリーニング系においては、奏功を示す薬剤または手法による寛解の時期が7日以前、好ましくは3日以前に早まる可能性が高く、その場合に、当該薬剤または手法が膵液瘻に対して奏功したと判断することができる。(膵液瘻モデル動物の作出方法) 本発明のげっ歯類の膵液瘻モデル動物の作出方法は、げっ歯類を麻酔下に開腹し、膵尾部を切除し、脾臓および大網を合併切除し、膵臓と胃を切り離し、さらに、横行結腸間膜と膵臓を部分剥離する工程を含むことを特徴とする。 本発明のモデル動物の作出方法を、ラットを例にして説明する。ラット以外のげっ歯類については、ラットの手技を参照して、体重や週齢に応じて同様に実施することができる。 まず、通常の条件下で飼育したラット(体重約200〜500g)に全身麻酔を施す。麻酔の条件は、例えば、塩酸ケタミン(90mg/kg)で鎮静し、塩酸キシラジン(10mg/kg)で鎮痛を行う。 1)ラットを上腹部正中切開で開腹し、胃を拳上し、電気メスを用いて、大網を胃付着部より脾臓へ向け切除し、胃と脾間膜を切り離す。また、大網を十二指腸手前まで十分電気メスで切り離す。 2)次に、横行結腸を尾側へ牽引し、電気メスを用いて、膵と横行結腸の生理的癒着を剥離する。このとき、上腸間膜静脈が十分露出するまで剥離することが望ましい。 3)上記1)および2)の工程が終了した後、脾動静脈を剥離し、脾門部より約1.5cmの部位で電気メスを用いて焼灼して止血する。その後、脾門部より膵を3等分するライン(脾門部より約1.5cm)で膵実質をクーパーで鋭的に切り離す。この段階で、脾臓とともに膵尾側1/3および大網を一塊として摘出することができる。 4)膵実質の切離後、臓器を腹腔内へ還納し、腹壁を2層で閉創し、手技を終了させる。手術後のラットは、通常の条件下で飼育することができる。(スクリーニング方法I) 本発明のモデル動物を用いて、膵液瘻の治療薬をスクリーニングすることができ、本発明は、かかるスクリーニング方法を提供する。ここで「治療」とは、膵液瘻の治療のみならず、改善および予防をも含む概念である。(1)本発明のモデル動物に被験物質を投与する工程 被験物質としては、いかなる公知物質および新規物質であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、蛋白質、ペプチド、有機低分子化合物、有機高分子化合物(ポリマーなど)、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分などがあげられる。 被験物質の投与時期は、膵液瘻モデル作出前、膵液瘻モデル作出中または膵液瘻モデル作出後のいずれでもよく、スクリーニング目的に応じて適宜設定することができる。膵液瘻モデル作出前の場合、1〜7日前、好ましくは1〜3日前が例示される。膵液瘻モデル作出後の場合、1〜3日後、好ましくは1日後である。 被験物質の投与回数については、特に制限はない。また、被験物質の投与経路については全身投与でも局所投与でもよく、被験物質の種類およびスクリーニング目的に応じて適宜設定することができる。局所投与の場合、膵液瘻モデル作出中に静脈内への注射、腹腔内への留置、膵臓への注入、膵臓への直接貼布等;膵液瘻モデル作出後に腹腔内への注入、尾静脈への注射等が好ましく例示される。(2)被験物質を投与したモデル動物における腹水または血清中のアミラーゼ活性を、非投与モデル動物または対照動物における腹水または血清中のアミラーゼ活性と比較する工程 被験物質を投与した当日から所定の日を経過するまでに経時的に、モデル動物から血液または腹水を常法により採取し、採取した試料を必要により常法に従って前処理し、アミラーゼ活性の測定に供する。アミラーゼ活性の測定方法は、(膵液瘻モデル動物)の項に記載した通りである。 別途、被験物質非投与の同種モデル動物(陽性対照)および/または対照動物(同種の正常動物、陰性対照)における血液または腹水を常法により採取し、採取した試料を必要により常法に従って前処理し、アミラーゼ活性の測定に供する。また、陽性対照の試料は、被験物質投与前の同一のモデル動物から採取した血液または腹水であってもよい。 被験物質を投与したモデル動物におけるアミラーゼ活性を陽性対照と比較し、有意にアミラーゼ活性が低下しているか、あるいは、陰性対照と比較し、アミラーゼ活性が陰性対照と同等のレベルであるかを判定する。(3)比較工程により得られた結果に基づいて、膵液瘻の治療薬候補を選択する工程 比較工程(2)により、被験物質投与群が陽性対照と比較して有意にアミラーゼ活性が低下している場合、あるいは、被験物質投与群が陰性対照と比較してアミラーゼ活性が陰性対照と同等のレベルとなった場合に、当該被験物質を膵液瘻の候補物資として選択することができる。 また、アミラーゼ活性の高低のみならず、膵液瘻モデルの全身状態の観察、例えば、体重低下の抑制も同時に観察することが望ましい。(スクリーニング方法II) 本発明のスクリーニング方法は、上記工程(1)後に、以下の工程(2’)および工程(3’)を含むこともできる。(2’)被験物質を投与したモデル動物における膵液瘻に及ぼす影響を、非投与モデル動物における状態と比較する工程 本工程において、被験物質投与後所定の期間経過後(1〜7日後)のモデル動物を開腹し、膵液瘻の病理的変化を観察し、非投与モデル動物における膵液瘻と比較する。(3’)比較工程(2’)により得られた結果に基づいて、膵液瘻の治療薬候補を選択する工程 比較工程(2’)の結果、被験物質を投与したモデル動物の膵液瘻が対照の非投与モデル動物と比較して、有意に改善または奏功している場合、当該被験物質を膵液瘻の候補物資として選択することができる。 以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。 以下の実験は、実験計画書を作成し、大学内の承認を得て行う。(実施例1)膵液瘻モデルラットの作出 ラット(Wister rat、8-11週齢、雄性、テクサム田川より入手)(体重200-500g、n=30)を、餌、水の自由摂餌下、温度22℃、湿度50%、照明を12時間毎に点灯および消灯する条件下で飼育し、実験に供した。ラットにケタラール(90mg/kg)およびキシラジン(10mg/kg)を筋注で投与し、麻酔下で以下の手技を行った。 1)ラットを上腹部正中切開で開腹し、胃を拳上し、電気メスを用いて、大網を胃付着部より脾臓へ向け切除し、胃と脾間膜を切り離した。また、大網を十二指腸手前まで十分電気メスで切り離した。 2)次に、横行結腸を尾側へ牽引し、電気メスを用いて、膵と横行結腸の生理的癒着を剥離した。このとき、上腸間膜静脈が十分露出するまで剥離した。 3)上記1)および2)の工程が終了した後、脾動静脈を剥離し、脾門部より約1.5cmの部位で電気メスを用いて焼灼して止血した。その後、脾門部より約1.5cm(膵を3等分するライン)で膵実質をクーパーで鋭的に切り離した。脾臓とともに膵尾側1/3および大網を一塊として摘出した。 4)膵実質の切離後、臓器を腹腔内へ還納し、腹壁を2層で閉創し、手技を終了させた。膵液瘻作出の概念図および開腹時の一態様を図1に示す。 手技終了後、ラットを手技前の同様の条件下で飼育した。(実施例2)アミラーゼ活性およびリパーゼ活性の測定 正常ラットおよび実施例1で作出した膵液瘻モデルラットの体重を経時的に測定した。腹水は、正常ラットおよび膵液瘻モデルラットを麻酔下で開腹し、全量を採取し、容量を測定するとともに、腹水中のアミラーゼ活性およびリパーゼ活性の測定に供した。ラットの血清試料は、心臓穿刺にて採血し、血清中のアミラーゼ活性およびリパーゼ活性の測定に供した。アミラーゼ活性の測定(酵素法) シカリキッド−N AMY(関東化学株式会社製)を用いて添付文書の記載に従い、腹水および血清試料中のアミラーゼ活性を分光学的に測定し、α−アミラーゼ活性(U/L)を求めた。リパーゼ活性の測定(酵素法) リキテック(登録商標)リパーゼカラーII(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)を用いて添付文書の記載に従い、腹水および血清試料中のリパーゼ活性を分光学的に測定し、リパーゼ活性(U/L)を求めた。 正常ラットの体重、腹水量、腹水中または血清中アミラーゼ濃度、腹水中または血清中リパーゼ濃度の測定結果を表1に示す。本実施例に供したラットの体重、腹水量、腹水中または血清中アミラーゼ濃度、腹水中または血清中リパーゼ濃度の測定結果を表2に示す。 得られた膵液瘻モデルラットは、死亡例がほとんどなかった。腹水中または血清中のアミラーゼ活性およびリパーゼ活性の推移から、術後1日に最も膵液瘻を強く惹起することが明らかとなった。膵液瘻は、術後3日に著明に減少し、7日で完全に吸収された。(比較例1〜3)膵液瘻モデルラット樹立のための比較実験 比較のため、1)膵頭部(膵管)結紮(図2、比較例1)2)膵全摘、脾、大網合併切除(図3、比較例2)および3)大網切除、膵部分切除(図4、比較例3)を施したラットを作出した。 1)および2)のラットは術後1日目に死亡した。 3)のラットでは生存していたものの、採取できる腹水量が少なくアミラーゼ活性を比較することはできなかった。 よって、上記手術方法では膵液瘻モデルラットの作出には至らなかった。(試験例1)膵液瘻モデルラットに対するグレリンの作用の検討 胃底腺から分泌される胃・膵臓ホルモンのグレリンは、胃酸分泌の促進、胃運動の促進、食事摂取量の増加などの作用があるといわれており、グレリン投与により胃全摘後症例の食事摂取量および食欲が増加し、体重減少が抑制されたと報告されている(Sato N et al. Japanese Journal of Physiology 2003, Zhang W et al. Journal of Physiology 2001, Nawrot- Porabka K et al. Regulatory peptide 2007)。 また、グレリンの経静脈持続投与は、全身麻酔下のラットにおいて膵液分泌を抑制するが、経十二指腸投与および脳室投与においては膵液分泌を促進するといわれており、周術期の膵液分泌に与える影響は不明である(Adachi S etal. Gastroenterology 2010, Masuda Y et al. Biochemical and Biophysical Research Communication 2000)。 本試験例において、膵液瘻モデルラットを用いて、膵液瘻に対するグレリンの影響を検討した。試験期間中は、食餌制限をしなかった。グレリン群(n=15)には、膵液瘻モデルラット作出中に閉創前に経下大静脈にヒトグレリン注射液(3μg/kg)を投与した。コントロール群(n=15)には、ヒトグレリン注射液の代わりに同量の生理食塩水を投与した。観察項目 血清アミラーゼ濃度、腹水アミラーゼ濃度、腹水アミラーゼ量、腹水量および体重観察時期 術後1日(n=5×2群)、術後3日(n=5×2群)、術後7日(n=5×2群)にラットを犠牲死させ、腹水および血液を採取し、観察項目の各データを測定した。結果を図5〜8に示す。 腹水アミラーゼ濃度は、day3でグレリン群が有意に高く(図5)、膵液分泌を亢進する可能性があるが、腹水アミラーゼ量に有意差はなかった(図8)。 血清アミラーゼ濃度は、day7でコントロール群が有意に高かった(図6)。グレリン投与により、遷延する血清アミラーゼ高値が是正された可能性がある。 腹水量は、day1でグレリン群が有意に多く、day7でコントロール群が有意に多かった(図7)。グレリンは術後早期に膵液分泌を亢進する可能性があるが、腹水アミラーゼ量に有意差はなかった(図8)。 グレリンの3μg/kg(臨床投与量)単回投与では、腹水や血清のアミラーゼ濃度に有意差はみられたものの、アミラーゼ量を考慮すると有意差はなく、膵液瘻に与える影響は少ないと考えられる。 以上の結果、膵切除症例へのグレリン投与は、膵液瘻に与える影響は少なく、安全に施行できると考えられる。今後、グレリン大量投与や複数回投与による影響を検証していく必要がある。 本発明によれば、ヒト膵液瘻の病態を反映したげっ歯類の膵液瘻モデル動物が提供される。本発明のモデル動物を用いて、膵液瘻の治療薬または治療方法を簡便にスクリーニングすることができる。 げっ歯類の膵液瘻モデル動物であって、膵尾部の切除、脾臓および大網の合併切除、膵臓と胃の切離、かつ、横行結腸間膜と膵臓の部分剥離を施行してなるモデル動物。 施行後1〜3日の腹水または血清中のアミラーゼ活性またはリパーゼ活性が施行前に比べて有意に上昇している請求項1に記載のモデル動物。 施行後7〜10日以内に膵液瘻が寛解する請求項1または2に記載のモデル動物。 げっ歯類がラット、マウス、ハムスターまたはモルモットである請求項1〜3のいずれか1項に記載のモデル動物。 げっ歯類を麻酔下に開腹し、膵尾部を切除し、脾臓および大網を合併切除し、膵臓と胃を切り離し、さらに、横行結腸間膜と膵臓を部分剥離する工程を含む、げっ歯類の膵液瘻モデル動物の作出方法。 げっ歯類がラット、マウス、ハムスターまたはモルモットである請求項5に記載の作出方法。 請求項1〜4のいずれか1項に記載のモデル動物に被験物質を投与する工程、被験物質を投与したモデル動物における腹水または血中のアミラーゼ活性を、非投与モデル動物または対照動物における腹水または血中のアミラーゼ活性と比較する工程、ならびに比較工程により得られた結果に基づいて、膵液瘻の治療薬候補を選択する工程、を含有する膵液瘻の治療薬のスクリーニング方法。 請求項1〜4のいずれか1項に記載のモデル動物に被験物質を投与する工程、被験物質を投与したモデル動物における膵液瘻に及ぼす影響を、非投与モデル動物における状態と比較する工程、および比較工程により得られた結果に基づいて、膵液瘻の治療薬候補を選択する工程、を含有する膵液瘻の治療薬のスクリーニング方法。 げっ歯類の膵液瘻モデル動物であって、当該動物は膵尾部、脾臓および大網の欠損、膵臓と胃との切離、および横行結腸間膜と膵臓との部分剥離を呈しており、かつ、正常の同種動物と比べて腹水または血清中のアミラーゼ活性またはリパーゼ活性が有意に上昇しているモデル動物。 腹水中のアミラーゼ活性が、正常の同種動物と比べて約2〜200倍上昇している請求項9に記載のモデル動物。 腹水中のリパーゼ活性が、正常の同種動物と比べて約2〜50倍上昇している請求項9または10に記載のモデル動物。 げっ歯類がラット、マウス、ハムスターまたはモルモットである請求項9〜11のいずれか1項に記載のモデル動物。 【課題】膵液瘻の治療に帰する動物モデルを創出し、膵液瘻の生理学的意義を解明し、膵液瘻の治療薬の簡便なスクリーニング方法を提供する。【解決手段】げっ歯類の膵液瘻モデル動物であって、膵尾部の切除、脾臓および大網の合併切除、膵臓と胃の切離、かつ、横行結腸間膜と膵臓の部分剥離を施行してなるモデル動物、ならびに当該モデル動物を用いることを特徴とする膵液瘻の治療薬のスクリーニング方法。【選択図】なし


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