タイトル: | 公開特許公報(A)_アルコール応力腐食割れ試験方法 |
出願番号: | 2013249048 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | G01N 17/00,G01N 3/00 |
寒沢 至 塩谷 和彦 小森 務 JP 2015105910 公開特許公報(A) 20150608 2013249048 20131202 アルコール応力腐食割れ試験方法 JFEスチール株式会社 000001258 井上 茂 100126701 森 和弘 100130834 寒沢 至 塩谷 和彦 小森 務 G01N 17/00 20060101AFI20150512BHJP G01N 3/00 20060101ALI20150512BHJP JPG01N17/00G01N3/00 R 4 1 OL 12 2G050 2G061 2G050AA01 2G050BA01 2G050BA10 2G050BA12 2G050EB01 2G061AA01 2G061AB02 2G061AC03 2G061AC10 2G061BA04 2G061CA01 2G061CB02 本発明は、アルコール環境で使用される鋼材の応力腐食割れ(以下SCCと記載)環境を実験室的に模し、その応力腐食割れ感受性を評価することのできる試験方法に関するものである。 バイオアルコールのうち、例えばバイオエタノールは、主にとうもろこしや小麦などの糖分を分解・精製して造られる。近年では、石油(ガソリン)の代替燃料として、またガソリンと混合する燃料として世界中で広く使用されており、その使用量は年々増加する傾向にある。そのため、バイオエタノールを貯蔵・運搬する工程あるいはガソリンと混合する工程等において、バイオエタノールの扱い量は増加しているにも関わらず、バイオエタノールの腐食性が高い点、すなわち高い残留応力が存在する箇所でSCCの発生が、その取り扱いを困難にしている。 バイオエタノールは、その製造工程で酢酸などのカルボン酸が極微量不純物として存在することや、貯蔵中に吸水や溶存酸素及び塩化物イオンを取り込むことが、腐食性を高める一因となっている。そのため、バイオアルコール環境における鋼材のSCC感受性を正しく評価するためのSCC試験方法が求められている。 例えば、非特許文献1では、応力集中部となるノッチを付加した引張試験片に対して、模擬バイオエタノール溶液中で鋼材の引張強さの60〜80%に相当する変動荷重を1.4×10−4Hzの周期で負荷し、試験により進展した亀裂距離をもってSCC感受性を評価する方法が報告されている。 また、例えば非特許文献2および3では、引張試験片に2×10−6in/s〜8×10−7in/sの一定の歪速度を負荷し、破断後の破面状態からSCC感受性を評価する方法が報告されている。F. Gui,N. Sridhar and J. A. Beavers, Localized corrosion of carbon steel and its implications on the mechanism and inhibition of stress corrosion cracking in Fuel-grade ethanol, Corrosion,Vol.66, No.12, 125001 (2010)F. Gui,J. A. Beavers and N. Sridhar, Evaluation of ammonia hydroxide for mitigating stress corrosion cracking of carbon steel in fuel grade ethanol, NACE Corrosion Paper,No.11138 (2011)X. Lou,J. D. Yang and Preet M Singh, Film breakdown and anodic dissolution during stress corrosion cracking of carbon steel in bioethanol, J. Electrochem. Soc., 157, C86, (2010) しかしながら、非特許文献1に開示されたSCC感受性評価試験方法は、予め人工的に付与した応力集中部からのクラックの進展を評価するため、クラック進展過程に対する影響は考慮されるが、クラックの生成過程が無視されており、SCC感受性をトータルで評価するには不十分である。 また、非特許文献2または3に開示された試験方法では一定の歪速度が付加され続け、亀裂先端での新生面の生成が常に生じるため、実環境よりも厳しいSCC環境となっている。 また、実環境では局部腐食部に応力が集中することで、クラックが生成するが、前記試験法は歪の負荷によって強制的にクラックを生成させるため、バイオアルコール中のSCC環境を再現できているとは云い難い。すなわち、本来鋼材が有しているSCC感受性を正しく見積もれない可能性がある。 従って、本発明の目的は、アルコール環境における鋼材の応力腐食割れを模した応力腐食割れ試験方法を提供することにある。 そこで、発明者らは、上記の課題を解決すべく、鋭意研究、検討を重ねた結果、以下の課題を解決するための手段を得た。 [1]鋼材のアルコール中での応力腐食割れ感受性を評価する試験であって、前記鋼材の単軸引張試験片を覆うセル中に、アルコール1000mLに対して、カルボン酸:0.4mmol/L以上40mmol/L未満、塩化物イオン:0.05mg/L以上300mg/L未満及び水:0.1vol.%以上5vol.%未満を含む試験溶液を充填し、前記単軸引張試験片の平行部の引張軸方向に一定応力を負荷することを特徴とするアルコール応力腐食割れ試験方法。 [2]前記試験溶液の温度を0℃以上50℃未満とすることを特徴とする[1]に記載のアルコール応力腐食割れ試験方法。 [3]前記一定応力が、前記試験溶液の温度と同一温度における前記単軸引張試験片の0.5%耐力値の80%以上引張強さ未満であることを特徴とする[1]または[2]に記載のアルコール応力腐食割れ試験方法。 [4]前記試験溶液中の溶存酸素濃度が、1mg/L以上であることを特徴とする[1]乃至[3]の何れかに記載のアルコール応力腐食割れ試験方法。 なお、本試験に使用できるアルコールとは、脂肪族の1価アルコールを指し、具体的にはメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が好適に使用できる。 また、本試験に試用できるカルボン酸とは、飽和脂肪酸を指し、具体的にはギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等が好適に使用できる。 また、本試験に試用できる塩化物イオンは、無機塩類に含まれるCl−イオンを指し、具体的な無機塩類としては塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム等が好適に使用できる。 本発明によれば、アルコール環境における鋼材の応力腐食割れを模した応力腐食割れ試験方法を提供することができる。応力腐食割れ試験片(丸棒引張試験片)の形状例を示す図である。応力腐食割れ試験により破断した試験片の破断部外観を示す写真である。 以下に、本発明を具体的に説明する。 本発明者らはバイオアルコール環境におけるSCCの発生メカニズムを調査した結果、以下のことを知見した。 一般に、アルコール中では鋼材表面は酸化被膜が安定に存在することができ保護されるため、腐食反応はほとんど進行しない。しかしながら、溶液中にカルボン酸が存在する場合、被膜の一部が溶解し、局部腐食が生じる。この局部腐食部が溶接部近傍等の残留応力が存在する箇所に生じた場合、その先端において、残留応力が集中し、局所的なすべりが生じ、クラックが生成する。生成したばかりのクラックは新生面であるため、そこでは酸素が消費されて再び酸化被膜が形成されるが、クラック先端部では酸素が十分に供給されにくいため、酸化被膜形成が不十分となり、且つ、クラック先端部と鋼材表面との酸素濃度差や塩化物イオンが存在するため、クラック先端を選択的アノード部とした腐食反応が生じる。腐食反応の進行により先端が溶解すると、再び残留応力が集中し、局所的なすべりが生じて、さらなる溶解反応が進行する。以上が繰り返され、クラックが進展する。最終的には、破断に至るものと考えられる。ここで得られたメカニズムに関する知見を基に、バイオアルコール中のSCCを実験室的に模擬すべく以下の条件とした。 本発明においては、単軸引張試験片を覆うセル中に、アルコール1000mLに対して、カルボン酸を0.4mmol/L以上40mmol/L未満、塩化物イオンを0.05mg/L以上300mg/L未満及び水を0.1vol.%以上5vol.%未満含むアルコール溶液を充填し、前記単軸引張試験片の平行部の引張軸方向に一定応力を負荷するアルコール応力腐食割れ試験方法とした。すなわち前記アルコール溶液環境はバイオアルコール腐食環境を模擬しており、一定荷重による応力負荷は残留応力を模擬している。 さらに、本発明において、試験環境条件を前記の範囲に限定した理由について説明する。 まず溶液組成について説明する。バイオアルコールによる腐食は溶液中の腐食因子の濃度に大きく左右される。まず、カルボン酸はバイオアルコール中の局部腐食因子であり、鋼材表面の酸化被膜を溶解する働きをする。しかしながら、濃度が0.4mmol/L未満では鋼材表面の酸化被膜が溶解せず、腐食しない。また、40mmol/L以上では被膜溶解が広範囲に亘り、局部腐食ではなく、全面腐食となるため、カルボン酸濃度は0.4mmol/L以上40mmol/L未満とした。なお、好ましくは、0.6mmol/L以上30mmol/L未満である。 また、塩化物イオンもバイオアルコール中の局部腐食因子であり、鋼材の酸化被膜破壊部でのアノード反応を促進する働きをする。しかしながら、濃度が0.05mg/L未満では腐食を促進しないため、0.05mg/L以上とした。一方、濃度が300mg/L以上では、腐食が促進されすぎてしまい、全面腐食し、応力腐食割れが生じないため、300mg/L未満とした。なお、好ましくは、0.1mg/L以上270mg/L未満である。 また、水もバイオアルコール中の腐食挙動に大きく関与する。すなわち、カルボン酸の解離プロトンの輸送体として、酸化被膜溶解過程に関与する。0.1vol.%未満では溶液中の解離プロトンを輸送するに不十分であり、鋼材表面の酸化被膜が溶解せず、腐食しない。一方、5vol.%以上では、鋼材表面で酢酸の解離プロトンが均一に供給され全面腐食となるため水の濃度は0.1vol.%以上5vol%未満とした。なお、好ましくは、0.3vol.%以上3vol.%未満である。 さらに、試験溶液中の溶存酸素は酸化被膜の生成に関与するため、その濃度は1mg/L以上とすることが好ましい。一方で、過度な酸素濃度の増加は、それに伴う試験設備の大掛り化を招き、試験の汎用性が損なわれる。また、実際のバイオアルコール関連施設環境で、濃度が1000mg/L以上になることは想定できないため、上限は1000mg/L未満とした。より好ましくは5mg/L以上800mg/L未満である。 また、一般にバイオアルコールは、ガソリンと混合されて使用される。ガソリンはバイオアルコール中の腐食に影響を及ぼさないが、混合後の組成を再現する目的で、ガソリンを30vol.%未満添加しても良い。 次に応力条件に関して説明する。バイオアルコール中のSCCは応力集中によるすべりの発生と、アノード溶解が繰り返されるメカニズムで進展すると考えられる。さらに言うなら、メカニズムに大きく関与する新生面は、アノード溶解反応の影響を受け、断続的乃至速度を変えながら生成する。また、アノード溶解反応は、新生面の生成速度の影響を受け、新生面での酸化被膜の再生速度が新生面の生成速度に追いつかない場合に、顕著に進行すると考えられる。 すなわち、バイオアルコール環境で使用される鋼材のSCC環境を実験室的に再現するためには、応力集中部に対して、局所的なすべりが生じ得るだけの荷重が付加される環境であって、且つすべりの発生と、アノード溶解速度が相互に影響し合う環境である必要がある。 そこで、鋼材に対して単軸引張方向に一定荷重にて、応力を負荷し続けることとした。定荷重であれば、試験環境中で、自発的に応力集中部が生成した場合、そこでのすべりの発生が起こり得る。なお、ここで言う自発的な応力集中部の生成とは、鋼材表面に生成する局部腐食部ないしクラック先端のアノード溶解部の生成を意味している。 すべりの発生を促す観点から、応力条件は、大気中の同じ温度における前記鋼材の0.5%耐力値の80%以上に相当する応力値が負荷されることが好ましい。より好ましくは91%以上に相当する応力値である。なお、SCCに因らない機械的な破断を避けるために、更に引張強さ未満であることが好ましい。しかし、この応力条件に限られることはない。 また、試験温度によって、鋼材の機械的特性や腐食反応速度が変化することから、腐食量、SCC進展の程度が異なってくる。実際のバイオアルコール設備が置かれる温度を模擬するために、試験温度は0℃以上50℃未満であることが好ましい。 以上説明したように、本発明に係わる試験方法は、バイオアルコールを模擬した腐食環境において、単軸引張試験片に一定応力を負荷し続けることで、実環境を模し、SCCを発生させる。 ここで、対象となる鋼材は、裸鋼材又は、塗装を施した鋼材等、種々の状態が可能である。また、試験片の形状について特別の限定はないが、例えば、図1に示した丸棒引張タイプの形状であって平行部の粗度(JIS B0601: 2001)をRz<10μmとすることが好ましい。なお、平行部にはノッチ等は付与されていない。 本発明に係わる試験方法は、試験開始より破断に至るまでの時間を基に、対象とする鋼材のSCC感受性を定量的に評価することが可能である。さらに、SCC対策を施した鋼材の耐SCC性向上効果を比較検討することも可能となる。また、試験期間中に破断に至らずとも未破断試験片を取り出して、断面観察をすることで、クラック進展距離からSCC感受性を見積もることもできる。また、例えば任意の試験期間を複数条件選定し、試験評価することで、SCC対策を施した鋼材の耐SCC性向上効果が、クラックの生成過程と進展過程のどちらに作用しているのか、メカニズムを検討することもできる。 以下、実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 一般的なラインパイプ用途に用いられる表1に示す成分組成を有する鋼を、真空溶解炉で溶製後または転炉溶製後、連続鋳造によりスラブとした。ついで、1230℃に加熱後、圧延終了温度820℃で熱間圧延を施して、13mm厚の鋼板とした。 これらの鋼板から、図1に示した形状の単軸丸棒引張試験片(平行部寸法:長さ35mm×直径4mmΦ)に切り出し、平行部を番手600仕上相当で研磨し、アセトン中で超音波脱脂を5分間行い、風乾して定荷重SCC試験機に取り付けた。なお、試験温度における鋼材の0.5%耐力値と引張強さはSCC試験の前に測定した。例えば、25℃における0.5%耐力値は409MPa、引張強さは512MPaであった。測定した0.5%耐力値に対して各条件に相当する応力を負荷し、試験材を覆うセル中へ、各組成の試験溶液を充填し、240時間放置した。本試験時間を延長した場合に、SCCが発生する可能性は必ずしも否定されるものではないが、試験方法の実用性の観点から、前記試験時間内であることが好ましい。試験後、平行部の外観を観察し、腐食モードを確認するとともに、SCC発生の有無は、 ◎:破断、○:クラック有、×:クラック無と判定した。 試験期間中に破断が確認された場合、その破断時間を記録した。また、破断しなかった鋼材については試験後に試験片を取り出し、断面を観察し、クラックの有無を確認するとともに、最大クラック長さを測定し、クラック進展距離を算出した。実施した試験条件を表2に、結果を表3に示す。 表3から明らかなように、発明例はいずれも、図2に示すような破断ないしクラックが確認されSCCが発生していることがわかる。これに対して、発明範囲から外れた比較例はいずれも、孔食(局部腐食)が起きず、応力集中部が生じないために、SCCが発生していない。発明例と比較例の対比から、本発明の効果は明らかである。 鋼材のアルコール中での応力腐食割れ感受性を評価する試験であって、前記鋼材の単軸引張試験片を覆うセル中に、アルコール1000mLに対して、カルボン酸:0.4mmol/L以上40mmol/L未満、塩化物イオン:0.05mg/L以上300mg/L未満及び水:0.1vol.%以上5vol.%未満を含む試験溶液を充填し、前記単軸引張試験片の平行部の引張軸方向に一定応力を負荷することを特徴とするアルコール応力腐食割れ試験方法。 前記試験溶液の温度を0℃以上50℃未満とすることを特徴とする請求項1に記載のアルコール応力腐食割れ試験方法。 前記一定応力が、前記試験溶液の温度と同一温度における前記単軸引張試験片の0.5%耐力値の80%以上引張強さ未満であることを特徴とする請求項1または2に記載のアルコール応力腐食割れ試験方法。 前記試験溶液中の溶存酸素濃度が、1mg/L以上であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のアルコール応力腐食割れ試験方法。 【課題】アルコール環境における鋼材の応力腐食割れを模した応力腐食割れ試験方法を提供する。【解決手段】鋼材のアルコール中での応力腐食割れ感受性を評価する試験であって、前記鋼材の単軸引張試験片を覆うセル中に、アルコール1000mLに対して、カルボン酸:0.4mmol/L以上40mmol/L未満、塩化物イオン:0.05mg/L以上300mg/L未満及び水:0.1vol.%以上5vol%未満を含む試験溶液を充填し、前記単軸引張試験片の平行部の引張軸方向に一定応力を負荷することを特徴とするアルコール応力腐食割れ試験方法。【選択図】図1