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タイトル:公開特許公報(A)_(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトとその微粒子の製造方法
出願番号:2013236075
年次:2015
IPC分類:C01B 25/32,A61K 6/04,A61L 31/00,C01B 25/455,A61C 13/00


特許情報キャッシュ

古川 彰 JP 2015093825 公開特許公報(A) 20150518 2013236075 20131114 (炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトとその微粒子の製造方法 三菱製紙株式会社 000005980 古川 彰 C01B 25/32 20060101AFI20150421BHJP A61K 6/04 20060101ALI20150421BHJP A61L 31/00 20060101ALI20150421BHJP C01B 25/455 20060101ALI20150421BHJP A61C 13/00 20060101ALN20150421BHJP JPC01B25/32 YA61K6/04A61L31/00 ZC01B25/455A61C13/00 B 5 OL 33 4C081 4C089 4C081AB02 4C081AB03 4C081AB04 4C081AB05 4C081AB06 4C081BA14 4C081BB08 4C081CF25 4C081DC03 4C081EA02 4C081EA05 4C081EA06 4C089AA02 4C089BA08 4C089BA11 4C089BA15 4C089BA16 4C089CA08 本発明は一段階の反応により、高結晶性を有する(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトを高純度で得るための、簡便で生産性の良好な(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトの製造方法、およびコーティング用途に好適な(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト微粒子の製造方法に関する。 種々のリン酸ストロンチウム塩の中で特にヒドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)は、生体骨の成分に近似しており生体に対する安全性と高い生体適合性を示すことから、各種インプラントや骨充填剤などの様々な用途に用いられている。これに対してヒドロキシアパタイトの水酸基がフッ素に置換されたカルシウムフッ素アパタイト(Ca10(PO4)6F2)は、水に対する溶解性がヒドロキシアパタイトより更に低く、特に耐酸性に優れていることが知られている。例えば歯科分野では歯のエナメル質の表面をフッ素化合物で処理し、表面をカルシウムフッ素アパタイトで覆うことで虫歯から歯を守ることが古くから知られてきた。カルシウムフッ素アパタイトはヒドロキシアパタイトと同様に生体親和性が高く、良好な骨伝導性を示すことも知られている。従って従来のヒドロキシアパタイトに代えてカルシウムフッ素アパタイトを利用することで、例えばインプラントの表面コートに利用すれば、より表面コートの寿命が長く安定したインプラントが形成されることが期待される。こうした医療用途への使用の際には、カルシウムフッ素アパタイトとして極めて純度の高い素材を使用する必要がある。 カルシウムフッ素アパタイトは、上記のような医療用途のみならず、例えば液体クロマトグラフィーの用途において、ヒドロキシアパタイトとともに蛋白質の分離を行うためのカラム充填剤としても利用されている。ヒドロキシアパタイトに比較してカルシウムフッ素アパタイトは化学的安定性が高く、耐水性、耐酸性などに優れているなどの様々な利点を有しているが、反面、現状に於いては、その製造方法が煩雑で且つ製造コストも高いことが災いして、ヒドロキシアパタイトに比べて実際に使用される頻度は極めて低いのが現状である。 カルシウムフッ素アパタイトを製造するための従来技術の例として特許文献1には水酸化カルシウムにフッ化水素酸およびリン酸の混合溶液を加えることでカルシウムフッ素アパタイトを得る方法が示されている。この場合に於いては、取扱いの困難なフッ化水素酸を使用し、かつアルカリ水溶液と強酸水溶液を混合することで反応の際に多量の発熱を伴うことから反応の制御が難しく、さらには反応系が不均一系であるため生成物の純度や結晶性に関して再現性のある結果が得難いという問題があった。特に、水酸化カルシウムが懸濁したアルカリ性溶液中にリン酸を添加した場合、ヒドロキシアパタイトが生成することから、特許文献1の方法で得られるカルシウムフッ素アパタイトにはヒドロキシアパタイトが含まれる場合があり、さらに生成するカルシウムフッ素アパタイトの結晶性が低いため、生体内での溶解性が高く、カルシウムフッ素アパタイトの特性が発揮出来ない問題があることから、カルシウムフッ素アパタイトの合成方法としては適さない方法であった。 カルシウムフッ素アパタイト微粒子を製造するための従来技術の例として特許文献2には、体積平均粒子径が1〜25nmであるヒドロキシアパタイト粒子の合成方法が開示され、その中でフッ素原子がドープされたカルシウムフッ素アパタイトの例が示されている。この方法は、塩基性条件下でカルシウム塩とリン酸塩を反応させることでヒドロキシアパタイト粒子を合成する方法を利用するものであり、具体的にはカルシウム塩を溶解した水溶液中に、リン酸塩とフッ素塩を溶解した溶液を添加する際に、反応系のpHを塩基性に調整することでフッ素原子がドープされたカルシウムフッ素アパタイト粒子を得る方法である。この方法では、生成するカルシウムフッ素アパタイトは結晶性を有しないことから、生体内での溶解性が高く、カルシウムフッ素アパタイトの特性が発揮出来ない問題があった。更には、生成するカルシウムフッ素アパタイト粒子の粒子径が小さいため、反応系から生成した粒子を分離することが困難であり、純度の高い高結晶性のカルシウムフッ素アパタイトを得ることが困難であった。 従来から用いられ、或いは検討されてきたフッ素アパタイトは上記の例のように、その殆どがカルシウムフッ素アパタイトであるが、カルシウム以外の金属元素が導入された様々なアパタイトが知られており、例えばカルシウムがストロンチウムに置き換わったストロンチウムアパタイト(Sr10(PO4)6(OH)2)が知られている。ストロンチウムの性質として例えば骨の修復過程を促進する作用があることが知られている。非特許文献1ではストロンチウムを含むアパタイト([Sr,Ca]10(PO4)6(OH)2)を用いて、これの細胞培養におけるアルカリフォスファターゼ活性に対する好ましい効果を示している。或いは、特許文献3には、軟骨障害および骨障害の治療に有効であるストロンチウム塩とビタミンDを組み合わせた薬学的組成物が示されており、更に特許文献4には、ストロンチウムと有機酸との間で形成される水溶性ストロンチウム塩から成る軟骨障害および骨障害の治療に有効である薬学的組成物が開示されている。従って、ストロンチウムを含むアパタイト([Sr,Ca]10(PO4)6(OH)2)を前記の生体インプラント用途等に用いることで、骨治療に関して有用な薬理作用も併せて期待される。 ストロンチウム化合物の薬理作用は、量依存性があり、過剰な投与では逆に骨の再生に逆効果であることも知られている。従って、骨再生を行う生体内の局所的部位に於いて、溶離するストロンチウム化合物の濃度が制御された形で存在することが好ましい。このことからストロンチウム化合物として、生体内での溶解性が適度な範囲にある化合物が望まれているのが実情である。こうした溶解性をコントロールするための様々な手段として、上記ストロンチウム化合物として例えばストロンチウムアパタイトを選んだ場合、該アパタイトの結晶性を制御することで溶解性をコントロールする方法や、或いはフッ素イオンを導入することで溶解性を制御する方法などが挙げられる。具体的には、例えばストロンチウム化合物の生体内での溶解性や吸収性を低下させる目的では、高結晶性のストロンチウムフッ素アパタイトを用いることが選択肢の一つである。こうした目的のために、高結晶性を有する高純度の(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトの、簡便で且つ生産性の良好な製造方法が求められてきた。 一方、非特許文献2には、ストロンチウムを含む炭酸アパタイト([Sr,Ca]10[PO4,CO3]6(OH)2)の合成方法と、これを用いてディスクを作製し、その表面において骨芽細胞を培養した場合の、細胞の初期接着と増殖および活性を評価し、炭酸アパタイト中に含まれるストロンチウムの割合とこれらの性質との相関について報告を行っている。その結果として、ストロンチウムを導入することで細胞の初期接着が促進され、細胞の骨アルカリフォスファターゼ活性とストロンチウムの割合には最適値が存在することも報告している。炭酸アパタイトを用いることで、その結晶性が一般に低下することから、生体内における溶解性が増大し、比較的短期間の内に生体内に該アパタイトが溶解吸収されうることが知られている。ストロンチウムの効果を長期間にわたって持続的に保つためには、むしろ生体内における該アパタイトの溶解性を低下させることも重要である。ストロンチウムを含むカルシウムアパタイト([Sr,Ca]10(PO4)6(OH)2)の溶解性を低下させるために有効な方法として、アパタイトの結晶性を高めることや、アパタイトとしてストロンチウムフッ素アパタイトを用いることが有効であると考えられる。さらには、溶解性を微妙に制御する目的に於いては、アパタイトの構造中にフッ素原子と炭酸基を同時に含む炭酸ストロンチウムフッ素アパタイト(Sr10(PO4)6−x(CO3)x(OH)2−yFy)が実現出来れば、その有用性がより期待される。従来技術では、炭酸ストロンチウムフッ素アパタイトの簡便で生産性の良好な製造方法が知られていないのが現状である。 ストロンチウムを含むアパタイトは、従来から生体適合性や生体に対する安全性が確認されていることに加え、さらにユニークな特性の一つとしてX線造影性に優れることが知られている。このことから、ストロンチウムフッ素アパタイトや炭酸ストロンチウムフッ素アパタイトのような(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトの用途の一つとして、上記の骨充填材以外に各種生体インプラントへの適用が挙げられる。例えば生体インプラントの表面コートに利用するなどのコーティング素材としての利用を想定した場合、コートされた表面が生体親和性を示すと共に、X線造影性を付与出来るという利点が出てくる。コーティングする際の基材としては、チタンなどの金属や、ポリエステル、PEEK樹脂などのプラスチック材料が挙げられる。それらの表面に(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトを含む層をコーティングにより形成することで、生体内に於いて持続的に長期間安定した表面コート層が形成され、このことで耐久性に優れた生体インプラントが得られると期待される。このようなコーティング用途に用いる場合、表面コート層の厚みや性状が均一であることが必要とされ、コーティング適性として、(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトが出来るだけ微細で均一な微粒子であることと、該微粒子の分散物を含有するコーティング液中において該微粒子が安定に分散し、経時により沈降することや、沈殿物や凝集物を発生させることのない適性が要求される。従来の様々な製造方法で得られる様々なアパタイトは粒状もしくは塊状の粉体として得られ、これらは水などの媒体中において安定に分散した分散物を得ることが困難で、コーティング用途に適用することが困難であった。特開2009−57228号公報特開2008−69048号公報特開2012−193208号公報特開2012−167100号公報Zhang W et al, Acta Biomater., 7, 800-808,(2011)A. Sakai, et al, Dental Materials Journal, 31(2), 197-205,(2005) 本発明は、一段階の反応により、高結晶性を有する(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトを高純度で得るための、簡便でかつ生産性の良好な(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトの製造方法、およびコーティング用途に好適な(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト微粒子の製造方法を与えることを課題とする。 本発明の課題は、下記の製造方法を用いることで基本的に解決される。1.水中に於いて、ストロンチウム塩とリン酸塩、炭酸塩または炭酸水素塩、およびフッ素塩を混合し、反応を行う(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトの製造方法であって、ストロンチウム塩のモル比率をA、リン酸塩のモル比率をB、炭酸塩または炭酸水素塩のモル比率をC、フッ素塩のモル率をDとした場合、下記(i)もしくは(ii)の要件を満たし、かつ反応系のpHが3〜7の範囲にある(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトの製造方法。(i)リン酸塩がリン酸水素塩の場合A:B:C:D=1:(0.6〜1.2)α:p(0.2〜0.6)α:βα。(ii)リン酸塩がリン酸二水素塩の場合A:B:C:D=1:(0.6〜1.2)α:p(0.4〜1.2)α:βα。 式中、αは0.1≦α≦10の実数を表す。βは0<β≦0.3の範囲の実数を表す。pは係数を表し、炭酸塩の場合は1、炭酸水素塩の場合は2を表す。2.炭酸塩または炭酸水素塩のモル比率が、上記した炭酸塩または炭酸水素塩のモル比率の下限値に0.1pαを加えたモル比率未満である上記1記載のストロンチウムフッ素アパタイトの製造方法。3.炭酸塩または炭酸水素塩のモル比率が、上記した炭酸塩または炭酸水素塩のモル比率の下限値に0.1pαを加えたモル比率以上である上記1記載の炭酸ストロンチウムフッ素アパタイトの製造方法。4.上記1〜3のいずれかに記載の製造方法により得られた(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトを、メディアミルを使用して湿式分散処理を行う(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト微粒子の製造方法。5.上記4に記載の湿式分散処理を行う際に、ポリリン酸(塩)を加えて湿式分散処理を行う、上記4に記載の(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト微粒子の製造方法。 本発明により、一段階の反応により、高結晶性を有する(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトを高純度で得るための、簡便で生産性の良好な(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトの製造方法、およびコーティング用途に好適な(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト微粒子の製造方法を提供することが出来る。実施例1で得られたストロンチウムフッ素アパタイトの広角X線回折パターン。実施例1で得られたストロンチウムフッ素アパタイトのFT−IRスペクトルチャート。実施例1で得られたストロンチウムフッ素アパタイトの走査型電子顕微鏡による拡大図。実施例1で得られたストロンチウムフッ素アパタイトを、分散剤を使用せず湿式分散処理を行って得られたストロンチウムフッ素アパタイト微粒子分散物の粒子径分布曲線。実施例1で得られたストロンチウムフッ素アパタイトを、分散剤としてポリリン酸(塩)を使用して湿式分散処理を行って得られたストロンチウムフッ素アパタイト微粒子分散物の粒子径分布曲線。実施例2で得られたストロンチウムフッ素アパタイトの広角X線回折パターン。実施例2で得られたストロンチウムフッ素アパタイトのFT−IRスペクトルチャート。実施例3で得られた炭酸ストロンチウムフッ素アパタイトの広角X線回折パターン。実施例3で得られた炭酸ストロンチウムフッ素アパタイトのFT−IRスペクトルチャート。実施例4で得られた炭酸ストロンチウムフッ素アパタイトの広角X線回折パターン。実施例4で得られた炭酸ストロンチウムフッ素アパタイトのFT−IRスペクトルチャート。実施例5で得られたストロンチウムフッ素アパタイトの広角X線回折パターン。実施例5で得られたストロンチウムフッ素アパタイトのFT−IRスペクトルチャート。実施例6で得られたストロンチウムフッ素アパタイトの広角X線回折パターン。実施例6で得られたストロンチウムフッ素アパタイトのFT−IRスペクトルチャート。実施例10で得られた炭酸ストロンチウムフッ素アパタイトの広角X線回折パターン。実施例10で得られた炭酸ストロンチウムフッ素アパタイトのFT−IRスペクトルチャート。比較例6で得られた生成物の広角X線回折パターン。 最初に、本発明で与えられる(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトの一般式と、本発明で言う高純度の基準について説明を行う。本発明に於いて、(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトとの用語は、ストロンチウムフッ素アパタイト、あるいは、炭酸ストロンチウムフッ素アパタイトを表す。本発明で与えられる(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトは、下記一般式(I)で示される構造で代表される化合物である。但し、一般にアパタイトとして総称される化合物として、ヒドロキシアパタイトの場合のように、ストロンチウム原子とリン原子および水酸基やフッ素原子の比率は一義的に定まるものではなく、ここに示す組成比を標準として化学量論的に組成比が僅かに異なる化合物も本発明の(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトとして含むものとする。さらに、本発明に於いて(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト中に含まれるフッ素原子の比率yは、下記一般式(I)中に於いて0<y≦2の範囲にある場合を全て(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトとして含める。本発明に於いて炭酸ストロンチウムフッ素アパタイトとは、該アパタイト中のリン酸基が一部炭酸基に置き換わったB型の炭酸アパタイト化合物である炭酸ストロンチウムフッ素アパタイトである。 一般式(I)において、xは0≦x≦5の範囲にある任意の実数を表し、yは0<y≦2の範囲の任意の実数を表す。 本発明で得られる(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトは医療用途への適用を前提に、極めて安全性の高い、高品質の材料を提供することも意図している。従って、実質的に有機物を含まず、無機物であっても生体に対する安全性が懸念されるような成分が含まれないことが好ましい。本発明で高純度とする基準として、安全性に懸念のない塩類などの無機成分であれば、本発明で得られる(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト中に微量であれば含まれている場合であっても許容され、その上限として5質量%未満であることが好ましく、更に好ましくは1質量%未満である。本発明において実質的に有機物を含まないとは、(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトに対して有機物が1質量%未満であることを意味する。より好ましくは0.1質量%未満である。これら以外に、安全性に懸念のある不純物が本発明で得られる(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトに含まれないことが重要である。尚、本発明で得られる(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト中には、ナトリウムイオン等のアルカリ金属イオン或いは結晶水等が結晶内部に閉じ込められた形で含まれている場合があるが、これらは不純物ではなく、(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトの構成成分として本発明では見なした。 本発明で得られる(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトは高純度であることと共に、その微粒子を製造出来ることが特徴である。本発明で言う(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト微粒子の大きさとしては、体積平均粒子径において10μm以下であることが好ましい。本発明で得られる(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト微粒子としての大きさは体積平均粒子径に於いて40nmから10μmの範囲にあることがより好ましく、体積平均粒子径が小さいほどコーティング用途に適用した場合、均一性に優れたコーティング膜が形成されることからより好ましい。さらに、本発明に於いてコーティング用途に好適であるための条件として、本発明で得られる(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト微粒子を分散した分散液において、該微粒子の分散安定性が良好であり、長期間(例えば室温に於いて1週間の保管期間)の保存に際しても微粒子の凝集や沈降が発生しないことが好ましい。 本発明で与えられる(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトの製造方法において用いられる要素として、(1)ストロンチウム塩と、(2)リン酸塩、(3)炭酸塩または炭酸水素塩、および(4)フッ素塩の4種の塩を挙げることが出来、これらを水中において混合することで反応を行うことが基本である。以下に各々の構成要素について説明を行う。 (1)ストロンチウム塩としては、水溶性のストロンチウム塩を好ましく用いることが出来るが、好ましい例として、塩化ストロンチウムおよびその水和物、臭化ストロンチウムおよびその水和物、ヨウ化ストロンチウムおよびその水和物、酢酸ストロンチウムおよびその水和物、硝酸ストロンチウム、シュウ酸ストロンチウムおよびその水和物、ギ酸ストロンチウムおよびその水和物、水酸化ストロンチウムおよびその水和物、酸化ストロンチウムなどが挙げられる。本発明に於いて水溶性とは、10℃の水に対する溶解性が1質量%以上であることを意味する。これらのストロンチウム塩中には不純物が可能な限り含まれていないことが好ましく、少なくとも95質量%以上の純度でストロンチウム塩およびその水和物が含まれていることが好ましく、さらに98質量%以上の純度であることが好ましい。 (2)リン酸塩として好適である原料の例としては、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二リチウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素リチウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸リチウム、リン酸アンモニウムおよびこれら各々の水和物等が特に好ましい例として挙げられる。これらについても、10℃の水に対する溶解性が1質量%以上である、水溶性のリン酸塩を好ましく用いることが出来る。例示したリン酸塩にはリン酸水素塩(HPO4――)、リン酸二水素塩(H2PO4−)および第三リン酸塩(PO4―――)の三種類が存在するが、それぞれについて以下に述べる適切なpH範囲に於いて用いることにより、何れも本発明の(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトを得るために好ましく用いることが出来る。これらのリン酸塩中には不純物が可能な限り含まれていないことが好ましく、純度としては少なくとも95質量%以上の純度でリン酸塩およびその水和物が含まれていることが好ましく、さらに98質量%以上の純度であることが好ましい。 (3)炭酸塩または炭酸水素塩としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム等の水溶性の炭酸塩または炭酸水素塩が好ましい。これらの炭酸塩または炭酸水素塩中には不純物が可能な限り含まれていないことが好ましく、純度としては少なくとも95質量%以上の純度で炭酸塩または炭酸水素塩が含まれていることが好ましく、さらに98質量%以上の純度であることが好ましい。炭酸塩と炭酸水素塩では本発明の(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトを得るために用いることの出来るモル比率が異なるため炭酸塩または炭酸水素塩はそれぞれ個別に本文中で説明を行う。 (4)フッ素塩として、水溶性のフッ素塩を用いることが好ましく、例えば、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化リチウム、フッ化アンモニウム等の水溶性のフッ素塩を挙げることが出来る。 本発明では、前記したストロンチウム塩とリン酸塩、炭酸塩または炭酸水素塩、及びフッ素塩を混合して、後述するように反応系のpHが3〜7の範囲内に於いて反応を行うことで、(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトが高結晶性の生成物として得られる。混合の際に、後述する各々のモル比率の範囲内で互いに混合される方法であればそれらの添加方法に依らない。このように混合する一段階の反応で(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトを製造できることが本発明の最も大きな特徴である。混合方法として、例えば、各々の塩を固体(分散体)或いは水溶液の状態で、各々独立して投入量を調節しながら水中に添加し、水中に於いて各々の塩がそれぞれのモル比率が適当である範囲内にあるよう調節しながら、均一に混合するよう攪拌を行う方法が挙げられる。或いは、リン酸塩と、炭酸塩または炭酸水素塩、およびフッ素塩をそれぞれの所定のモル比率で共に溶解した水溶液をあらかじめ作製しておき、これを用いてストロンチウム塩を溶解した水溶液中に添加する方法や、或いは、リン酸塩と、炭酸塩または炭酸水素塩、およびフッ素塩を共に溶解した水溶液中にストロンチウム塩を溶解した水溶液を添加する方法を行っても良い。本発明に於いて重要な点は、リン酸塩と、炭酸塩または炭酸水素塩、およびフッ素塩が共に適切なモル比率を維持した状態でストロンチウム塩と混合されることがより好ましい。本発明に於いて最も好ましく利用出来る添加方法としては、ストロンチウム塩を溶解した水溶液中に、リン酸塩と、炭酸塩または炭酸水素塩、およびフッ素塩の3者を、後述するそれぞれの適切なモル比率に於いて共に溶解した水溶液を用いてこれを添加する方法が挙げられる。 ストロンチウム塩を水中に溶解した場合の水溶液のpHは特に調整する必要はなく、この場合、水溶液のpHは通常6〜7前後である。上記の好ましい添加方法に従い、このストロンチウム塩を溶解した水溶液に対してリン酸塩と、炭酸塩または炭酸水素塩、およびフッ素塩の3者を含有する水溶液を混合する場合、後者の水溶液のpHは7〜11の範囲にあることが好ましい。さらに、ストロンチウム塩とリン酸塩、炭酸塩または炭酸水素塩、およびフッ素塩を水中にて混合して反応を行う際の、反応系のpH(上記(1)〜(4)の要素が混合された状態のpH)は、後述するようにpHが3〜7の範囲にあることが必要である。この範囲を超えてpHが7を上回るアルカリ側で反応を行った場合、目的とする(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトが高純度で得られない。或いは、pHが3未満の酸性側で反応を行った場合にも、目的とする(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトが高純度で得られない。 以下に本発明の(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトを生成する際の反応機構について説明する。模式的に、例えばストロンチウム塩(例として塩化ストロンチウムを挙げる)とリン酸水素塩(例としてリン酸水素二ナトリウムを挙げる)からストロンチウムアパタイトが仮に生成するとした場合の反応式は下記のようになる。 10SrCl2 + 6Na2HPO4 + 2H2O → Sr10(PO4)6(OH)2 +12NaCl + 8HCl 上式によると、10モル比の塩化ストロンチウムから8モル比の塩酸が発生することになり、反応が進行するに従い、系のpHは強酸性に傾くことになる。しかしながら、本発明で得られた知見によると、反応系のpHが3未満である場合には、上記の反応は進行しない。一方、反応系に炭酸塩または炭酸水素塩を添加した場合、反応の進行に伴う酸を中和することから、上記ストロンチウムアパタイトを生成する反応が円滑に進行することが本発明に於いて判明した。その際、反応系にフッ素塩を併せて添加すると、生成するストロンチウムアパタイト中に含まれる水酸基をフッ素原子が置換する形で(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトが生成することを見出したことが本発明の特徴の一つである。 例えば、上記に例示した反応系に対して、炭酸塩として炭酸ナトリウムを添加し、更にフッ素塩としてフッ化ナトリウムを添加して反応を行った場合には、反応系を中和するために必要な炭酸ナトリウムのモル比は、添加するフッ化ナトリウムのモル比nに依存して下式のように表される。ここで、nは0<n≦2の範囲の任意の実数を表す。 10SrCl2+6Na2HPO4+[3+(2−n)/2]Na2CO3+nNaF +(2−n)H2O → Sr10(PO4)6(OH)2−nFn+20NaCl +[3+(2−n)/2]CO2+[3+(2−n)/2]H2O 上式の反応式に於いて、ストロンチウム塩10モル比に対して、リン酸水素塩を6モル比、フッ素塩をnモル比を添加して反応を行う際に、炭酸塩を[3+(2−n)/2]モル比添加することで、反応中に発生する酸を中和し、上式の反応が進行することを見出したことが本発明の特徴の一つである。この際、(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト中に含まれるフッ素原子の比率は、後述する実施例に於いて示すように、反応の際に添加したフッ素塩のモル比nの値と、生成する該アパタイト中のフッ素原子の比率nがほぼ一致することを見出した。したがって、本発明の製造方法に従うことで、(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト中に含まれるフッ素原子の割合を0<n≦2の範囲で任意に制御することが可能である。 同様に、上記の反応に於いて、炭酸塩に代えて炭酸水素塩を用いた場合には、反応中に発生する酸を中和することで(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトを生成する反応式は下式のように表される。 10SrCl2+6Na2HPO4+(8−n)NaHCO3+nNaF +(2−n)H2O → Sr10(PO4)6(OH)2−nFn+20NaCl+(8−n)CO2 +(8−n)H2O 上記の炭酸水素塩を用いて反応を行った場合についても同様に、(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト中に含まれるフッ素原子の比率は、後述する実施例に於いて示すように、反応の際に添加したフッ素塩のモル比nの値と、生成する該アパタイト中のフッ素原子の比率nがほぼ一致することを見出した。したがって、炭酸水素塩を用いても、本発明の製造方法に従うことで、(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト中に含まれるフッ素原子の割合を0<n≦2の範囲で任意に制御することが可能である。 上記の化学反応式から、炭酸塩を用いる場合には、ストロンチウム塩、リン酸水素塩、炭酸塩およびフッ素塩の各々のモル比率については、各々10:6:[3+(2−n)/2]:nの比率で用いた場合には、反応系のpHが3〜7の範囲に維持されることで、該アパタイトを形成する反応が進行すると期待される。同様に、炭酸水素塩を用いる場合には、ストロンチウム塩、リン酸水素塩、炭酸水素塩およびフッ素塩の組み合わせの場合には、各々のモル比率については、各々10:6:(8−n):nの比率で用いた場合には、反応系のpHが3〜7の範囲に維持されることで、該アパタイトを形成する反応が進行すると期待される。 後述する実施例に於いて示すように、上記の理論比に対して、実際に必要とされる各々の塩のモル比率を確かめるため、各々の塩について様々なモル比率の組み合わせを用いて該アパタイトを生成するための条件を詳細に検討した結果、ストロンチウム塩、リン酸水素塩、炭酸塩およびフッ素塩の各々のモル比率については、反応系のpHが3〜7の範囲に維持される場合、各々について最小限必要とされるモル比率は、1:0.6:0.2:β(ここで、0<β≦0.3)のモル比率で用いた場合、該アパタイトを形成することが出来ることが判明した。同様に、炭酸水素塩を用いた場合には、ストロンチウム塩、リン酸水素塩、炭酸塩およびフッ素塩の各々のモル比率については、反応系のpHが3〜7の範囲に維持される場合、各々について最小限必要とされるモル比率は、1:0.6:0.4:β(ここで、0<β≦0.3)のモル比率で用いた場合、該アパタイトを形成することが出来ることが本発明で明らかとなった。また、0.05≦β≦0.3である場合、より純度の高い(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトが得られるため好ましい。ここでβは、βが0<β≦0.2の範囲にある場合には、得られる(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトに含まれるフッ素原子の割合は、先に示した0<n≦2の範囲にあり、βとnの間には比例関係が成立し、βの値を増大するに従い、得られる(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトに含まれるフッ素原子の割合を0<n≦2の範囲に制御することが可能である。また、βが0.2<β≦0.3の範囲にある場合には、得られる(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトに含まれるフッ素原子の割合は、n=2で一定である。βが0.3を超えた状態で反応を行った場合には、フッ化ストロンチウムなどの副生成物が生じ、高純度の(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトが得られない。 リン酸水素塩と、炭酸塩または炭酸水素塩(以下両者を併せて炭酸(水素)塩と記す場合もあり、括弧内の数値は炭酸水素塩の場合を表す)およびフッ素塩はそれぞれが単独でストロンチウム塩と反応し得ることから、ストロンチウム塩1モル比に対して、リン酸水素塩と炭酸(水素)塩およびフッ素塩がそれぞれ0.6:0.2(0.4):βのモル比率で共に含まれている場合に於いて、本発明の目的とする(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトが生成する。従ってストロンチウム塩の存在下でリン酸水素塩と炭酸(水素)塩およびフッ素塩が同時に混合して反応を行う際の、ストロンチウム塩以外のこれらのモル比率が極めて重要である。即ち、ストロンチウム塩が存在しない場合、これ以外の塩を混合しても反応は生じない。また、ストロンチウム塩が過剰に存在していても、それ以外の塩が反応系に存在しなければ、反応は生じない。従って、ストロンチウム塩と、それ以外の塩との比率については基本的には制約がない。即ち、ストロンチウム塩1モル比に対し、リン酸水素塩および炭酸(水素)塩およびフッ素塩は0.6:0.2(0.4):βの比率を保ったまま、0.6α:0.2α(0.4α):βα、 (0.1≦α≦10)で表されるように、0.1から10の範囲にある実数倍αでリン酸塩と炭酸(水素)塩およびフッ素塩が含まれている場合に上記の反応が進行することが判明した。αが1である場合はストロンチウム塩とリン酸水素塩、炭酸(水素)塩およびフッ素塩はそれぞれ過不足無く反応に寄与し、最も収率の良好な結果を与える。一方、αが1未満である場合には、リン酸水素塩、炭酸(水素)塩およびフッ素塩に対するストロンチウム塩の割合が過剰であるため、反応終了時に過剰のストロンチウム塩が反応系に残存することになるが、これは生成する該アパタイトから容易に水洗等の処理で除去することが出来る。但し、αとして0.1未満である場合には、用いるストロンチウム塩の90質量%以上が過剰であるため、収率が低下し、現実的には好ましくない。さらに、αが1を超える場合には、用いるストロンチウム塩に対して、リン酸水素塩、炭酸(水素)塩およびフッ素塩の両方が過剰となるが、これらも水溶性が良好であるため、生成する該アパタイトから容易に水洗等の処理で除去することが出来る。但し、αとして10を超える場合には、用いるリン酸水素塩、炭酸(水素)塩およびフッ素塩の90質量%以上が過剰であるため、収率が低下し、現実的には好ましくない。 上記の場合、反応を行う際のストロンチウム塩とリン酸水素塩のモル比は、ストロンチウム塩1モル比に対して、少なくとも0.6αモル比含まれていることが必要であることが明確になったが、更にその上限として1.2αモル比を超えない範囲のモル比である場合に高純度の(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトを高収率で得ることが出来ることを見出したことが本発明の特徴の一つである。即ち、ストロンチウム塩1モル比に対して、リン酸水素塩の用いることの出来るモル比として(0.6〜1.2)αモル比の範囲であることが必要で、この範囲から逸脱した比率で反応を行った場合、アパタイト以外の化合物が副成し、生成物の純度が低下する。更に、炭酸塩の比率に関しては、(0.2〜0.6)αモル比の範囲で用いることが必要であることを見出した。同様に、炭酸水素塩を用いる場合には、ストロンチウム塩1モル比に対して(0.4〜1.2)αモル比の範囲で用いることが必要で、この範囲から逸脱した比率で反応を行った場合、アパタイト以外の化合物が副成し、生成物の純度が低下する。 以上を整理すると、反応を行う際のストロンチウム塩とリン酸水素塩、炭酸(水素)塩およびフッ素塩のそれぞれのモル比は、ストロンチウム塩1モル比に対して、リン酸水素塩は(0.6〜1.2)αモル比の範囲で用い、炭酸塩の比率は(0.2〜0.6)α、炭酸水素塩の場合は(0.4〜1.2)αの範囲で用い、さらにフッ素塩の比率はβα(ここで0<β≦0.3)の範囲で用いた場合に、目的とする(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトを高純度で得ることが出来る。 上述した反応式においては、リン酸塩として、リン酸水素塩を用いた場合について例示したが、リン酸水素塩に代えてリン酸二水素塩を用いた場合にも同様にして、それぞれ下記のように反応式を表すことが出来る。 10SrCl2+6NaH2PO4+[6+(2−n)/2]Na2CO3+nNaF +(2−n)H2O → Sr10(PO4)6(OH)2−nFn+20NaCl +[6+(2−n)/2]CO2+[6+(2−n)/2]H2O 10SrCl2+6NaH2PO4+(14−n)NaHCO3+nNaF +(2−n)H2O → Sr10(PO4)6(OH)2−nFn+20NaCl+(14−n)CO2 +(14−n)H2O 上記の化学反応式から、炭酸塩を用いる場合には、ストロンチウム塩、リン酸二水素塩、炭酸塩およびフッ素塩の各々のモル比率については、各々10:6:[6+(2−n)/2]:nの比率で用いた場合には、反応系のpHが3〜7の範囲に維持されることで、該アパタイトを形成する反応が進行すると期待される。同様に、炭酸水素塩を用いる場合には、ストロンチウム塩、リン酸二水素塩、炭酸水素塩およびフッ素塩の組み合わせの場合には、各々のモル比率については、各々10:6:(14−n):nの比率で用いた場合には、反応系のpHが3〜7の範囲に維持されることで、該アパタイトを形成する反応が進行すると期待される。 先のリン酸水素塩を用いた場合と同様に、リン酸二水素塩を用いた場合に於いて、上記の理論比に対して、実際に必要とされる各々の塩のモル比率を確かめるため、各々の塩について様々なモル比率の組み合わせを用いて該アパタイトを生成するための条件を詳細に検討した結果、ストロンチウム塩、リン酸二水素塩、炭酸塩およびフッ素塩の各々のモル比率については、反応系のpHが3〜7の範囲に維持される場合、各々について最小限必要とされるモル比率は、1:0.6:0.4:β(ここで、0<β≦0.3)のモル比率で用いた場合、該アパタイトを形成することが出来ることが判明した。同様に、炭酸水素塩を用いた場合には、ストロンチウム塩、リン酸二水素塩、炭酸水素塩およびフッ素塩の各々のモル比率については、反応系のpHが3〜7の範囲に維持される場合、各々について最小限必要とされるモル比率は、1:0.6:0.8:β(ここで、0<β≦0.3)のモル比率で用いた場合、該アパタイトを形成することが出来ることが明らかとなった。ここでβは、先のリン酸水素塩を用いた場合と同様に、βが0<β≦0.2の範囲にある場合には、得られる(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトに含まれるフッ素原子の割合は、先に示した0<n≦2の範囲にあり、βとnの間には比例関係が成立し、βの値を増大するに従い、得られる(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトに含まれるフッ素原子の割合を0<n≦2の範囲に制御することが可能である。また、βが0.2<β≦0.3の範囲にある場合には、得られる(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトに含まれるフッ素原子の割合は、n=2で一定である。βが0.3を超えた状態で反応を行った場合には、フッ化ストロンチウムなどの副生成物が生じ、高純度の(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトが得られない。 リン酸二水素塩と炭酸(水素)塩およびフッ素塩はそれぞれが単独でストロンチウム塩と反応し得る。従って、ストロンチウム塩1モル比に対して、リン酸二水素塩と炭酸(水素)塩およびフッ素塩がそれぞれ0.6:0.4(0.8):βのモル比率で共に含まれている場合に於いて、本発明の目的とする(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトを生成する。また、ストロンチウム塩の存在下でリン酸二水素塩と炭酸(水素)塩およびフッ素塩が同時に混合して反応を行う際の、ストロンチウム塩以外のこれらのモル比率が極めて重要である。即ち、ストロンチウム塩が存在しない場合、これ以外の塩を混合しても反応は生じない。また、ストロンチウム塩が過剰に存在していても、それ以外の塩が反応系に存在しなければ、反応は生じない。従って、ストロンチウム塩と、それ以外の塩との比率については基本的には制約がない。即ち、ストロンチウム塩1モル比に対し、リン酸二水素塩および炭酸(水素)塩およびフッ素塩は0.6:0.4(0.8):β(ここで0<β≦0.3)の比率を保ったまま、0.6α:0.4α(0.8α):βα、 (0.1≦α≦10)で表されるように、0.1から10の範囲にある実数倍αでリン酸二水素塩と炭酸(水素)塩およびフッ素塩が含まれている場合に上記の反応が進行することが判明した。αが1である場合はストロンチウム塩とリン酸二水素塩、炭酸(水素)塩およびフッ素塩はそれぞれ過不足無く反応に寄与し、最も収率の良好な結果を与える。一方、αが1未満である場合には、リン酸二水素塩、炭酸(水素)塩およびフッ素塩に対するストロンチウム塩の割合が過剰であるため、反応終了時に過剰のストロンチウム塩が反応系に残存することになるが、これは生成する該アパタイトから容易に水洗等の処理で除去することが出来る。但し、αとして0.1未満である場合には、用いるストロンチウム塩の90質量%以上が過剰であるため、収率が低下し、現実的には好ましくない。さらに、αが1を超える場合には、用いるストロンチウム塩に対して、リン酸二水素塩、炭酸(水素)塩およびフッ素塩の両方が過剰となるが、これらも水溶性が良好であるため、生成する該アパタイトから容易に水洗等の処理で除去することが出来る。但し、αとして10を超える場合には、用いるリン酸二水素塩、炭酸(水素)塩およびフッ素塩の90質量%以上が過剰であるため、収率が低下し、現実的には好ましくない。 上記の場合、反応を行う際のストロンチウム塩とリン酸二水素塩のモル比は、ストロンチウム塩1モル比に対して、少なくとも0.6αモル比含まれていることが必要であることが判明したが、更にその上限として1.2αモル比を超えない範囲のモル比である場合に高純度の(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトを高収率で得ることが出来る。即ち、ストロンチウム塩1モル比に対して、リン酸二水素塩の用いることの出来るモル比として(0.6〜1.2)αモル比の範囲であることが必要で、この範囲から逸脱した比率で反応を行った場合、アパタイト以外の化合物が副成し、生成物の純度が低下する。更に、炭酸塩の比率に関しては、(0.4〜1.2)αモル比の範囲で用いることが必要である。同様に、炭酸水素塩を用いる場合には、ストロンチウム塩1モル比に対して(0.8〜2.4)αモル比の範囲で用いることが必要で、この範囲から逸脱した比率で反応を行った場合、アパタイト以外の化合物が副成し、生成物の純度が低下する。 以上を整理すると、反応を行う際のストロンチウム塩とリン酸二水素塩、炭酸(水素)塩およびフッ素塩のそれぞれのモル比は、ストロンチウム塩1モル比に対して、リン酸二水素塩は(0.6〜1.2)αモル比の範囲で用い、炭酸塩の比率は(0.4〜1.2)α、炭酸水素塩の場合は(0.8〜2.4)αの範囲で用い、さらにフッ素塩の比率はβα(ここで0<β≦0.3)の範囲で用いた場合に、目的とする(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトを高純度で得ることが出来る。 リン酸塩として第三リン酸塩を使用した場合、第三リン酸塩を溶解した水溶液のpHは通常11を超えるため、この水溶液をそのまま(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトの合成に用いようとすると、反応系のpHが7を超えてしまう場合があるため、これに予め適当な酸を加えてリン酸塩を含む水溶液のpHを5〜11の範囲に調整して用いることが好ましい。この場合、用いる第三リン酸塩はリン酸水素塩もしくはリン酸二水素塩に実質的に変化していることから、第三リン酸塩を溶解した溶液のpHが9以上11以下の場合には、上記のリン酸水素塩についての説明に当てはまり、第三リン酸塩を溶解した溶液のpHが5以上9未満の場合には、上記のリン酸二水素塩を使用した場合に当てはまることになる。 以上を纏めると、水中に於いて、ストロンチウム塩と、リン酸塩、炭酸塩または炭酸水素塩、およびフッ素塩を、各々のモル比率A:B:C:Dの比率で混合し、反応系のpHを3〜7の範囲に維持して反応を行うことで、生成物として(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトが得られる。下記で、αは0.1≦α≦10の範囲の任意の実数を表す。βは0<β≦0.3の範囲の任意の実数を表す。pは係数を表し、炭酸塩の場合は1、炭酸水素塩の場合は2を表す。 リン酸塩がリン酸水素塩の場合A:B:C:D=1:(0.6〜1.2)α:p(0.2〜0.6)α:βα。 リン酸塩がリン酸二水素塩の場合A:B:C:D=1:(0.6〜1.2)α:p(0.4〜1.2)α:βα。 上記した炭酸(水素)塩の用いるべきモル比率の範囲に於いて、各々の条件における炭酸(水素)塩のモル比率の下限値に0.1pαを加えたモル比率未満のモル比率において反応を行った場合、生成する(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト中には炭酸イオンが含まれないか、含まれている場合であっても質量%で該アパタイトに対して高々2質量%未満であり、実質的に炭酸イオンの影響は認められないことからストロンチウムフッ素アパタイトとして利用出来ることが明らかとなった。即ち、上述の反応条件に於いて、炭酸(水素)塩のモル比率が、該モル比率の下限値に0.1pαを加えたモル比率未満において反応を行った場合、ストロンチウムフッ素アパタイトが選択的に得られる。 一方、炭酸(水素)塩の用いるべきモル比率の範囲に於いて、各々の条件における炭酸(水素)塩のモル比率の下限値に0.1pαを加えたモル比率以上において反応を行った場合、生成する(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト中には炭酸イオンが含まれており、この場合、後述する実施例において示すように、炭酸イオンをストロンチウムフッ素アパタイト中に効率よく導入出来ることが明らかとなった。ストロンチウムフッ素アパタイト中に更に炭酸イオンが導入されることで、その生体内における溶解性を様々に制御することが可能であると考えられることから、本発明で得られる炭酸ストロンチウムフッ素アパタイトは医療用材料としてとりわけ有用である。 本発明の(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトの製造方法に於いて、ストロンチウム塩、リン酸塩および炭酸塩または炭酸水素塩、およびフッ素塩の4成分の内、炭酸塩または炭酸水素塩が上述した上限を超えたモル比率で含まれている場合には、(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト以外に特に炭酸ストロンチウムが副成する。 更に、本発明の(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトの製造方法に於いて、ストロンチウム塩、リン酸塩、炭酸塩または炭酸水素塩、およびフッ素塩の4成分の内、リン酸塩が上述した上限を超えたモル比率で含まれている場合には、(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト以外に特にリン酸水素ストロンチウム或いはリン酸ストロンチウムが副成する。 リン酸塩としてリン酸水素塩を使用した場合には、リン酸水素塩を溶解した水溶液のpHは8〜10の範囲にあるが、ストロンチウム塩とリン酸塩の反応により直ちに酸が発生し、反応系のpHは3〜7の範囲に留まることから、これをそのまま反応系に加えて反応を行うことが出来る。同様に、リン酸塩としてリン酸二水素塩を使用した場合には、リン酸二水素塩の水溶液が通常pHが4〜5の範囲であり、これに炭酸塩または炭酸水素塩を加えた水溶液のpHはpH10未満の範囲にあることから、これをそのまま反応に用いても、ストロンチウム塩を溶解した水溶液のpHが6〜7付近であるため、これらを混合した反応系のpH範囲として、pHが3〜7の範囲に保たれたまま反応を進行させることが出来る。 リン酸塩としてリン酸二水素塩を用いた場合、炭酸塩または炭酸水素塩と混合することで中和反応が進行し、リン酸二水素塩はリン酸水素塩に変化し、炭酸塩は炭酸水素塩に変換する。この場合も、上記のリン酸水素塩を用いる場合と同様に、反応系のpHは特に制御する必要はなく、使用するリン酸二水素塩の水溶液が通常pHが4〜5の範囲であり、これに炭酸塩または炭酸水素塩を加えた水溶液のpHは高々pH11未満の範囲にあることから、これをそのまま反応に用いても、ストロンチウム塩を溶解した水溶液のpHが6〜7付近であるため、これらを混合した反応系のpH範囲として、pH=3〜7の範囲に保たれたままストロンチウム塩とリン酸水素塩、および炭酸塩または炭酸水素塩を水中で混合し、円滑に反応を進行させることが出来る。 ストロンチウム塩とリン酸塩、炭酸塩または炭酸水素塩、およびフッ素塩を用いて水中でこれらを混合して反応を行う際の反応温度としては、0〜100℃の範囲が好ましく、より好ましくは20〜80℃である。これらの温度範囲から外れた反応温度でストロンチウム塩とリン酸塩、炭酸塩または炭酸水素塩、およびフッ素塩を水中で混合して反応を行った場合、目的とする(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトの収率が低下し、これ以外の化合物が副成する場合もあることから、生成物の収率と純度が低下する場合がある。また、本発明に於いて水中とは、少なくとも水を50質量%以上、より好ましくは60質量%以上含む媒体中において上述した反応を行うことを意味し、必要に応じて水以外に、水に混和する各種有機溶剤や、或いは窒素、ヘリウム、炭酸ガス、その他の気体を導入した状態で反応を行っても良い。 上記で反応を行う媒体としての水には、種々の目的で各種有機溶剤や界面活性剤、或いは種々の高分子化合物を含む場合であっても良い。有機溶剤としては、メタノールやエタノール、ジエチレングリコール、グリセリン等のような各種脂肪族アルコール類や、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン等の環状ケトン類、或いはメチルエチルケトン等の脂肪族ケトン類などを含んでいても良い。更には、反応系として炭化水素系溶剤中に水が分散した逆相w/oエマルジョンを利用し、乳化した水エマルジョン粒子内で上記の反応を行う場合であっても良い。 上記で得られる(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトは微粒状の粉体であるが、それぞれの粉体を走査型電子顕微鏡で観察すると、ナノメートルサイズの微小な微粒子が集合して粉体を形成しており、比表面積の極めて大きな表面多孔質の粉体であることが判明した。これらの(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトは例えばクロマト用カラム用担体や蛋白や様々な物質に対する吸着剤の用途に対して粉体として利用することも出来るが、必要に応じて微粒子集合体の粉砕や微分散を行うことで微粒化を行い、個々の(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト微粒子が単独もしくは複数個凝集して媒体中で分散した分散体としてコーティング用途に好ましく利用することも出来る。 上記微粒化の方法として特に好ましい方法は、媒体中に於いて上記の方法で得られる(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトの粉体を用いて、これに湿式分散処理を行うことが好ましい。こうした湿式分散処理を行うためには、従来から知られている様々な湿式分散処理方法を挙げることが出来る。好ましい湿式分散方法としては、メディアミルを使用した湿式分散方式が特に好ましく、具体的には、(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトを導入した媒体中に於いて、通常ガラスビーズやアルミナビーズ、その他のセラミックビーズ等のメディアを加えて振盪や攪拌を行い、(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト粒子と該ビーズが機械的に衝突し、微粉砕されることで微粒化を行う処理方法を利用することが出来る。少量をバッチ方式で処理を行う場合には、メディアミルとしてペイントコンディショナーを使用して数時間に亘る振盪を行うことで湿式分散処理を行うことが出来る。また上記したメディアミルは、ダイノミルのような連続方式での湿式分散処理が可能である装置を用いて、これを複数台用いて直列に配置して1パスで湿式分散処理を行っても良く、或いは1台のメディアミルを用いて複数回処理を繰り返すことも好ましく行うことが出来る。このような湿式分散処理を行うことで、経時により沈降することや、沈殿物や凝集物が発生することが無く、また均一な厚みのコート層が得られるといったコーティング用途に好適な(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト微粒子を得ることが出来る。 上記でコーティング用途に好適であるとは、コーティングにより形成されるコート層の厚みに対して、該コート層中に含まれる(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト微粒子の体積平均粒子径が同等かそれ以下であることが必要であり、該コート層の厚みを超えた大きさの微粒子が含まれている場合、該コート層から微粒子が露出し、表面の平滑性が失われる場合がある。本発明で意図するコーティングによって形成されるコート層の厚みは10μm以下であることから、従って、本発明で目的とする(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト微粒子の大きさとしては、体積平均粒子径において10μm以下が好ましい。本発明で得られる(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト微粒子としての大きさは、より好ましくは、体積平均粒子径に於いて40nmから10μmの範囲であり、体積平均粒子径が小さいほど均一性に優れたコーティング膜が形成されることからより好ましい。 さらに、本発明に於いてコーティング用途に好適であるための条件として、本発明で得られる(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト微粒子を分散した分散液において、該微粒子の分散安定性が良好であり、長期間(例えば室温に於いて1週間の保管期間)の保存に際しても微粒子の凝集や沈降が発生しないことが挙げられる。 (炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトを分散するための媒体としては水が最も好ましく、該媒体中における水の割合は80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。また、水に対して20質量%未満の添加量であれば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類や、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド等の極性溶媒等、水と混和性のある種々の溶剤を添加して用いることも出来る。 上記したメディアを利用して(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトの湿式分散処理を行う場合に、使用するメディアはセラミックビーズを用いることが好ましい。特に(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトを分散する場合に、ビーズが研磨されるなどしてビーズ由来の不純物が、得られる(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト微粒子の分散物に混入することを防止することが好ましい。こうした目的で利用できるセラミックビーズとして、具体的にはZrO、立方晶ジルコニア、イットリウム安定化ジルコニア、ジルコニア強化アルミナなどのジルコニアを含有するセラミックビーズなどを最も好ましく用いることが出来る。また、メディアの平均直径は0.01〜10mmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは0.1〜5mmである。こうしたメディアを使用したメディアミルを用いる湿式分散処理の条件は、通常行われる室温での処理であり、特に処理時間や温度等に関する制限は無い。また、パス回数については1回で十分である場合もあるが、2〜7回程度のパス回数で処理を行うことで、より粒子径分布が狭く、かつ分散安定性に優れた(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト微粒子の分散物が得られることから好ましく行うことが出来る。 上記の(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト微粒子の分散物を製造する際に、分散剤として、各種界面活性剤や無機化合物および各種水溶性ポリマーなどを添加して湿式分散処理を行い、得られる(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト微粒子の分散物における体積平均粒子径をより小さくすることが好ましい。 上記の分散剤として用いることの出来るアニオン性界面活性剤としては、ラウリン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム等の高級脂肪酸塩類、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩類、オクチルアルコール硫酸エステルナトリウム、ラウリルアルコール硫酸エステルナトリウム、ラウリルアルコール硫酸エステルアンモニウム等の高級アルコール硫酸エステル塩類、アセチルアルコール硫酸エステルナトリウム等の脂肪族アルコール硫酸エステル塩類、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩類、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム、イソプロピルナフタレンスルホン酸ナトリウム等のアルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム等のアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩類、ラウリル燐酸ナトリウム、ステアリル燐酸ナトリウム等のアルキル燐酸エステル塩類、ラウリルエーテル硫酸ナトリウムのポリエチレンオキサイド付加物、ラウリルエーテル硫酸アンモニウムのポリエチレンオキサイド付加物、ラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミンのポリエチレンオキサイド付加物等のアルキルエーテル硫酸塩のポリエチレンオキサイド付加物類、ノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウムのポリエチレンオキサイド付加物等のアルキルフェニルエーテル硫酸塩のポリエチレンオキサイド付加物類、ラウリルエーテル燐酸ナトリウムのポリエチレンオキサイド付加物等のアルキルエーテル燐酸塩のポリエチレンオキサイド付加物類、ノニルフェニルエーテル燐酸ナトリウムのポリエチレンオキサイド付加物等のアルキルフェニルエーテル燐酸塩のポリエチレンオキサイド付加物類等を挙げることができる。 前記の分散剤として用いることの出来るノニオン性界面活性剤としては、種々の鎖長のポリエチレンオキサイドに、アルキル基やフェニル基およびアルキル置換フェニル基が結合したポリエチレンオキサイドアルキルエーテル、ポリエチレンオキサイドアルキルフェニルエーテルが好ましく用いることが出来、これらの内でも、商品名TWEEN20、同40、同60および同80として知られるソルビタンモノアルキレート誘導体が最も好ましく用いることが出来る。 前記の分散剤として用いることの出来る水溶性ポリマーとしては、例えば、ゼラチン、ゼラチン誘導体(例えば、フタル化ゼラチン等)、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、キサンタン、カチオン性ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、デンプン、各種変性デンプン(例えばリン酸変性デンプン等)等を挙げることが出来る。 前記の分散剤として用いることの出来る無機化合物として各種リン酸塩を挙げることが出来るが、特に好ましい例としてポリリン酸(塩)を挙げることが出来る。この場合、得られる(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト微粒子の分散物中に含まれる微粒子の大きさが体積平均粒子径にして40〜1000nmの範囲にある微粒子に分散され、実質的に有機物を含まず、高純度で分散安定性に優れた(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト微粒子の分散物が得られることから、極めて好ましく用いることが出来る。本発明により得られる(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト微粒子の分散物をコーティング用途に使用して、例えば前記した生体インプラントへの適用を行った場合、(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト微粒子の分散物中に有機物が含まれている場合、生体に対する安全性が損なわれる場合がある。よって本発明の(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト微粒子の製造方法によって得られる分散物は、有機物を含有しないことが好ましい。尚、本発明において実質的に有機物を含まないとは、(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトに対して有機物が1質量%以下であることを意味する。より好ましくは0.1質量%以下である。 上記で用いることの出来るポリリン酸(塩)の例として、ピロリン酸(ナトリウム)、トリポリリン酸(ナトリウム)、テトラポリリン酸(ナトリウム)、直鎖状のポリリン酸(ナトリウム)のような直鎖状のポリリン酸(塩)及びこれらの水和物が挙げられ、或いは環状化合物であるヘキサメタリン酸(ナトリウム)などを含み、実際には高分子化合物であるメタリン酸(ナトリウム)や、或いは、直鎖状骨格のみならず、分岐構造を含むウルトラリン酸(ナトリウム)及びこれらの水和物などを挙げることが出来る。これらの種々のポリリン酸(塩)は複数の種類を任意の割合で混合して用いても良い。なおここでポリリン酸(塩)とは、ポリリン酸あるいはこれらの塩であることを意味する。 上記のような種々の分散剤を用いて(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト微粒子を製造する場合には、(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトに対する各種分散剤の比率についても好ましい範囲が存在する。(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト100質量部に対して、用いられる分散剤の量は、5〜100質量部とすることが最も好ましい。 以下に実施例によって本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の百分率は断りのない限り質量基準である。 (実施例1)(ストロンチウムフッ素アパタイトの合成) 塩化ストロンチウム六水和物(和光純薬工業製試薬)134グラム(0.5モル)を1リットルの三角フラスコ内に秤取り、イオン交換水350グラムを加えて溶解した。これとは別に、500ccのガラスビーカー内にリン酸水素二アンモニウム(和光純薬工業製試薬)40グラム(0.3モル)、炭酸ナトリウム(和光純薬工業製試薬)11グラム(0.1モル)、およびフッ化ナトリウム(和光純薬工業製試薬)4.2グラム(0.1モル)を秤取り、イオン交換水300グラムを加えて溶解した。上記で作製した塩化ストロンチウム水溶液を導入した三角フラスコを50℃に調整した水浴上に移し、攪拌しながら滴下漏斗を用いて、リン酸水素二アンモニウム、炭酸ナトリウムおよびフッ化ナトリウムを溶解した水溶液を1時間に亘って徐々に滴下した。反応時の反応系のpHは4であった。滴下終了後さらに1時間加熱攪拌を行った。その後水浴上から三角フラスコを移し、室温まで冷却した後、グラスフィルターを用いて生成した白色沈殿を吸引濾過した。フィルター上の白色沈殿は更に繰り返しイオン交換水で洗浄を行った後、60℃に調節した乾燥器内で1昼夜乾燥を行い、白色の粉体を得た。生成物の収量は、ストロンチウムフッ素アパタイトとして計算した理論収量に対してほぼ100質量%の収量であった。 得られた生成物を広角X線回折装置を用いて解析を行い、図1に示す結果を得た。図1には、実施例1で得られたストロンチウムフッ素アパタイトの広角X線回折パターンを示した。ストロンチウムフッ素アパタイトに由来するピークのみが観察され、それ以外の不純物に起因するピークは認められなかった。X線回折におけるピーク強度がノイズに比較して十分に高く、さらに各々の回折ピークの半値幅も比較的小さい値を示したことから、本実施例で得られたストロンチウムフッ素アパタイトは高い結晶性を有することが示された。 図2には、実施例1で得られたストロンチウムフッ素アパタイトのFT−IRスペクトルチャートを示した。図2より、生成物はストロンチウムアパタイトであり、炭酸イオンは結晶中に含まれておらず高純度のストロンチウムフッ素アパタイトが得られていることが明らかとなった。更に、得られたストロンチウムフッ素アパタイトを走査型電子顕微鏡を用いて観察したところ、図3に示す拡大図を得た。図3は、実施例1で得られたストロンチウムフッ素アパタイトの走査型電子顕微鏡による拡大図を表す。倍率は、(a)1万倍、(b)10万倍。本実施例で得られた粉末状の生成物は、微細な六角柱状の長細いナノメートルサイズの微結晶の集合体から構成されていることが明らかとなった。断面の長さは30ナノメートル前後であり、長軸側の長さは、大凡200〜300ナノメートルであった。また、ここでは示していないが、実施例1で得られたストロンチウムフッ素アパタイトを蛍光X線分析およびEDS(エネルギー分散型X線分光法)を用いてそれぞれの方法で含まれている元素分析を行った結果、99質量%以上の高純度のストロンチウムフッ素アパタイトであり、含まれるフッ素原子の比率として本文中で示したnの値として、実施例1で得られた試料では、n=2と求められ、これ以外の構成元素比率も理論値と良く一致する結果を得た。 (分散剤を使用しない場合のストロンチウムフッ素アパタイト微粒子の製造方法と評価結果) 上記で得られたストロンチウムフッ素アパタイトを用いて以下のようにしてメディアミルを利用した湿式分散処理を行うことで、ストロンチウムフッ素アパタイト微粒子を製造した。即ち、上記で得たストロンチウムフッ素アパタイト20グラムを0.2リットルのポリプロピレン容器に移し、さらにイオン交換水80グラムおよび粒径0.3mmのジルコニアビーズを160グラム加えて密閉し、ペイントコンディショナーを使用して6時間湿式分散処理を行った。その後、濾布を使用して分散物からジルコニアビーズを分離した。得られた分散物の固形分濃度は20質量%であった。これを用いて以下のように評価を行った。 上記で得られた分散物を用いて、分散しているストロンチウムフッ素アパタイト微粒子の大きさを測定するために、光散乱回折式粒度分布計(堀場製作所製粒度分布測定装置LA−920)を使用して測定した。結果を図4に示す。図4は、実施例1で得られたストロンチウムフッ素アパタイトを分散剤を使用せず湿式分散処理を行って得られたストロンチウムフッ素アパタイト微粒子分散物の粒子径分布曲線を表す。図4より求められた体積平均粒子径は、メジアン径で3.3μmであり、比較的粒子径分布の狭い微粒子であることが明らかとなった。また上記で得られた分散物に含まれるストロンチウムフッ素アパタイト微粒子の分散安定性を評価するために、分散物を透明ガラス製容器内に入れて1週間室温で静置しておき、静置後の分散物の様子を目視で観察したが、沈殿物や凝集物の発生もなく、安定に分散していることが確認された。 (ポリリン酸(塩)を用いた際のストロンチウムフッ素アパタイト微粒子の製造方法と評価結果) 上記実施例1で得たストロンチウムフッ素アパタイト20グラムを0.2リットルのポリプロピレン容器に移し、これにピロリン酸ナトリウム十水和物(和光純薬工業製試薬)を4グラム添加し、さらにイオン交換水76グラムおよび粒径0.3mmのジルコニアビーズを160グラム加えて密閉し、ペイントコンディショナーを使用して6時間湿式分散処理を行った。その後、濾布を使用して分散物からジルコニアビーズを分離した。得られた分散物のpHは10.7であり、固形分濃度は22質量%であった。得られた分散物を用いて、分散しているストロンチウムフッ素アパタイト微粒子の大きさを先の場合と同様にして測定し、図5に示す結果を得た。図5は、実施例1で得られたストロンチウムフッ素アパタイトを分散剤としてポリリン酸(塩)を使用して湿式分散処理を行って得られたストロンチウムフッ素アパタイト微粒子分散物の粒子径分布曲線を表す。求められた体積平均粒子径は、メジアン径で950nmであった。ポリリン酸(塩)として使用したピロリン酸ナトリウム十水和物の添加により、粒子径が大幅に低下したnmオーダーの微細な(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト微粒子が得られることが明らかとなった。上記で得られた分散物に含まれるストロンチウムフッ素アパタイト微粒子の分散安定性を評価するために、分散物を透明ガラス製容器内に入れて1週間室温で静置しておき、静置後の分散物の様子を目視で観察したが、沈殿物や凝集物の発生もなく、安定に分散していることが確認された。 (ストロンチウムフッ素アパタイト微粒子のコーティング評価結果) 上記のピロリン酸ナトリウム十水和物を添加して湿式分散処理後に得られた分散物を用いて、これをスライドガラス上に乾燥塗布膜厚が約2μmになるよう塗布を行った。乾燥後に塗膜を観察したところ、ほぼ完全に透明である均一な塗布膜が形成されていることが確認された。 (実施例2〜7および比較例1〜5) 実施例1と同様にして、塩化ストロンチウム六水和物134グラム(0.5モル)に対して、表1に示す配合に従って実施例1と同様に反応を行い、実施例2〜7および比較例1〜5の生成物を得た。実施例5ではフッ素原子の導入比率を低下したストロンチウムフッ素アパタイトの実施例を示した。実施例6は、反応の際に用いることの出来るフッ素塩の比率の最大値を用いた場合の実施例を示した。また、実施例7は、用いたストロンチウム塩に対して、本文中の説明にあるαとして、α=0.5の場合についての実施例を示した(実施例1において、リン酸水素二アンモニウム、炭酸ナトリウム、およびフッ化ナトリウムを溶解した水溶液の半分を、塩化ストロンチウム水溶液に添加した例)。何れの実施例および比較例に於いても、反応を通して反応系中のpHは3〜7の範囲であった。 実施例1と同様にして、それぞれの実施例および比較例で得られた生成物について、広角X線回折、FT−IR、蛍光X線分析およびEDSを用いて解析を行った。図6は実施例2で得られたストロンチウムフッ素アパタイトの広角X線回折パターンを表す。更に図7は実施例2で得られたストロンチウムフッ素アパタイトのFT−IRスペクトルチャートを表す。これらの結果より、実施例2で得られた生成物は高結晶性を示し、高純度のストロンチウムフッ素アパタイトが得られていることが確認された。さらに実施例2〜7で得られた(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトを蛍光X線分析およびEDS(エネルギー分散型X線分光法)を用いてそれぞれの方法で含まれている元素分析を行った結果、何れの生成物も95質量%以上の高純度の(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトであり、含まれるフッ素原子の比率として本文中で示したnの値として、実施例5を除く実施例2〜7では、n=2であり、実施例5では、n=0.2と求められ、これ以外の構成元素比率も理論値と良く一致する結果を得た。 図8は実施例3で得られた炭酸ストロンチウムフッ素アパタイトの広角X線回折パターンを表す。更に図9は実施例3で得られた炭酸ストロンチウムフッ素アパタイトのFT−IRスペクトルチャートを表す。図8の結果より、実施例3で得られた生成物は高結晶性を示し、高純度の炭酸ストロンチウムフッ素アパタイトが得られていることが確認された。更に、図9に示すチャートに於いて、1415cm−1付近にB型炭酸アパタイトに特徴的な炭酸基に基づく吸収ピークが認められた。この1415cm−1の吸光度を1010cm−1付近のリン酸基に基づく吸収ピークの吸光度に対してFeathersotone等の方法に従い(J.D.B. Featherstone, Caries Res., 18, 63-66 (1984))炭酸基の割合を計算した。その結果、実施例3で得られた生成物は炭酸ストロンチウムフッ素アパタイトであり、該アパタイト中に含まれる炭酸基の割合は質量%で6.2質量%と計算された。以上の結果より、実施例3では、高純度の炭酸ストロンチウムフッ素アパタイトが得られていることが明らかとなった。 図10は実施例4で得られた炭酸ストロンチウムフッ素アパタイトの広角X線回折パターンを表す。更に図11は実施例4で得られた炭酸ストロンチウムフッ素アパタイトのFT−IRスペクトルチャートを表す。図10の結果より、実施例4で得られた生成物は高結晶性を示し、高純度の炭酸ストロンチウムフッ素アパタイトが得られていることが確認された。更に、図11に示すチャートに於いて、1415cm−1付近にB型炭酸アパタイトに特徴的な炭酸基に基づく吸収ピークが認められ、実施例4で得られた生成物は炭酸ストロンチウムフッ素アパタイトであり、該アパタイト中に含まれる炭酸イオンの割合は質量%で2.1質量%と計算された。以上の結果より、実施例4では、高純度の炭酸ストロンチウムフッ素アパタイトが得られていることが明らかとなった。 図12は実施例5で得られたストロンチウムフッ素アパタイトの広角X線回折パターンを表す。更に図13は実施例5で得られたストロンチウムフッ素アパタイトのFT−IRスペクトルチャートを表す。図12の結果より、実施例5で得られた生成物は高結晶性を示し、僅かに不純物に依ると考えられる回折ピークが認められたが、少なくとも95質量%以上の純度を有するストロンチウムフッ素アパタイトが得られていることが確認された。更に、図13に示すチャートに於いて、炭酸基に基づく吸収ピークは認められず、実施例5で得られた生成物は高結晶性の高純度ストロンチウムフッ素アパタイトが得られていることが明らかとなった。 図14は実施例6で得られたストロンチウムフッ素アパタイトの広角X線回折パターンを表す。更に図15は実施例6で得られたストロンチウムフッ素アパタイトのFT−IRスペクトルチャートを表す。図14の結果より、実施例6で得られた生成物は高結晶性を示し、高純度のストロンチウムフッ素アパタイトが得られていることが確認された。更に、図15に示すチャートに於いて、炭酸基に基づく吸収ピークは認められず、実施例6で得られた生成物は高結晶性の高純度ストロンチウムフッ素アパタイトが得られていることが明らかとなった。 α=0.5である例を示した実施例7では、生成物は実施例1で得られた高結晶性の高純度ストロンチウムフッ素アパタイトと同様なX線回折パターンおよびFT−IRスペクトルチャートを示した。但し、反応後の生成物の収量は実施例1の場合の約半分の質量であった。 一方、比較例1で得られた生成物を広角X線回折測定を行って解析した結果、生成物中には炭酸ストロンチウムに基づく回折ピークが顕著に認められ、高純度の(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトは得られていないことが判明した。同様に、比較例2および3で得られた生成物には、広角X線回折測定より、リン酸水素ストロンチウムが含まれており、高純度の(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトは得られていないことが判明した。また、比較例4で得られた生成物には炭酸ストロンチウムが、比較例5ではフッ化ストロンチウムが生成物中に顕著に含まれており、高純度の(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトは得られていないことが判明した。 上記実施例2〜7で得られた各々の(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトを用いて実施例1と同様にして分散剤を用いないで湿式分散処理を行った結果、実施例2〜6で得られた生成物では、何れの場合も体積平均粒子径が5μm以下の、実施例1の場合と同様に粒子径分布の狭い(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト微粒子が得られていることが確認された。得られた該微粒子を含む分散液をスライドガラス表面にコートし、乾燥させることでコート膜を作製した結果、何れの実施例の場合も、表面が平滑である均一なコート膜が得られた。また、分散物を透明ガラス製容器内に入れて1週間室温で静置しておき、静値後の分散物の様子を目視で観察したが、沈殿物や凝集物の発生もなく、安定に分散していることが確認された。 (実施例8〜14および比較例6〜10) 実施例1と同様にして、塩化ストロンチウム六水和物134グラム(0.5モル)に対して、表2に示す配合に従って実施例1と同様に反応を行い、実施例8〜14および比較例6〜10の生成物を得た。実施例12ではフッ素原子の導入比率を低下したストロンチウムフッ素アパタイトの実施例を示した。実施例13は、反応の際に用いることの出来るフッ素塩の比率の最大値を用いた場合の実施例を示した。また、実施例14は、実施例9において、用いたストロンチウム塩に対して、本文中の説明にあるαとして、α=2の場合についての実施例を示した(リン酸水素二アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、およびフッ化ナトリウムを溶解した水溶液の2倍量を、塩化ストロンチウム水溶液に添加した例)。何れの実施例および比較例に於いても、反応を通して反応系中のpHは3〜7の範囲であった。 実施例1と同様にして、それぞれの実施例および比較例で得られた生成物について、広角X線回折、FT−IR、蛍光X線分析およびEDSを用いて解析を行った。図16は実施例10で得られた炭酸ストロンチウムフッ素アパタイトの広角X線回折パターンを表す。更に図17は実施例10で得られた炭酸ストロンチウムフッ素アパタイトのFT−IRスペクトルチャートを表す。図16の結果より、実施例10で得られた生成物は高結晶性を示し、高純度の炭酸ストロンチウムフッ素アパタイトが得られていることが確認された。更に、図17に示すチャートに於いて、1415cm−1付近に(B型)炭酸アパタイトに特徴的な炭酸基に基づく吸収ピークが認められた。この1415cm−1の吸光度を1010cm−1付近のリン酸基に基づく吸収ピークの吸光度に対してFeathersotone等の方法に従い(J.D.B. Featherstone, Caries Res., 18, 63-66 (1984))炭酸基の割合を計算した。その結果、実施例10で得られた生成物は炭酸ストロンチウムフッ素アパタイトであり、該アパタイト中に含まれる炭酸基の割合は質量%で23.5質量%と計算された。以上の結果より、実施例10では、高純度の炭酸ストロンチウムフッ素アパタイトが得られていることが明らかとなった。同様に、実施例11で得られた生成物も高純度の炭酸ストロンチウムフッ素アパタイトであり、該アパタイト中に含まれる炭酸基の割合は質量%で5.0質量%と計算された。実施例8、9および実施例12〜14で得られた生成物は高結晶性を示し、高純度のストロンチウムフッ素アパタイトが得られていることが確認された。実施例8〜14で得られたストロンチウムフッ素アパタイトを蛍光X線分析およびEDS(エネルギー分散型X線分光法)を用いてそれぞれの方法で含まれている元素分析を行った結果、何れの生成物も95質量%以上の高純度のストロンチウムフッ素アパタイトであり、含まれるフッ素原子の比率として本文中で示したnの値として、実施例12を除く実施例8〜14では、n=2であり、実施例12では、n=0.5と求められ、これ以外の構成元素比率も理論値と良く一致する結果を得た。 一方、比較例6で得られた生成物を広角X線回折測定を行って解析した結果、図18に示す結果が得られた。図18は、比較例6で得られた生成物の広角X線回折パターンを示す。図中矢印で示すように、生成物中には炭酸ストロンチウムに基づく回折ピークが顕著に認められ、高純度の(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトは得られていないことが判明した。同様に、比較例7および8で得られた生成物には、広角X線回折測定より、リン酸水素ストロンチウムが含まれており、高純度の(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトは得られていないことが判明した。また、比較例9で得られた生成物には炭酸ストロンチウムが、比較例10ではフッ化ストロンチウムが生成物中に顕著に含まれており、高純度の(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトは得られていないことが判明した。 (実施例15〜21および比較例11〜15) 実施例1と同様にして、塩化ストロンチウム六水和物134グラム(0.5モル)に対して、表3に示す配合に従って実施例1と同様に反応を行い、実施例15〜21および比較例11〜15の生成物を得た。実施例19ではフッ素原子の導入比率を低下したストロンチウムフッ素アパタイトの実施例を示した。実施例20は、反応の際に用いることの出来るフッ素塩の比率の最大値を用いた場合の実施例を示した。また、実施例21は、用いたストロンチウム塩に対して、本文中の説明にあるαとして、α=2の場合についての実施例を示した。何れの実施例および比較例に於いても、反応を通して反応系中のpHは3〜7の範囲であった。 実施例1と同様にして、それぞれの実施例および比較例で得られた生成物について、広角X線回折、FT−IR、蛍光X線分析およびEDSを用いて解析を行った。その結果、実施例15、16および実施例19〜21で得られた生成物は高結晶性を示し、高純度のストロンチウムフッ素アパタイトが得られていることが確認された。また、実施例17で得られた生成物は炭酸ストロンチウムフッ素アパタイトであり、該アパタイト中に含まれる炭酸基の割合は質量%で20.5質量%と計算された。同様に、実施例18で得られた生成物も高純度の炭酸ストロンチウムフッ素アパタイトであり、該アパタイト中に含まれる炭酸基の割合は質量%で4.0質量%と計算された。また実施例21はα=2である例(実施例16において、リン酸水素二アンモニウム、炭酸ナトリウム、およびフッ化ナトリウムを溶解した水溶液の2倍量を、塩化ストロンチウム水溶液に添加した例)である。実施例15〜21で得られた(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトを蛍光X線分析およびEDS(エネルギー分散型X線分光法)を用いてそれぞれの方法で含まれている元素分析を行った結果、何れの生成物も95質量%以上の高純度の(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトであり、含まれるフッ素原子の比率として本文中で示したnの値として、実施例19を除く実施例15〜21では、n=2であり、実施例19では、n=1と求められ、これ以外の構成元素比率も理論値と良く一致する結果を得た。 一方、比較例11で得られた生成物中には炭酸ストロンチウムに基づく回折ピークが顕著に認められ、高純度の(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトは得られていないことが判明した。同様に、比較例12および13で得られた生成物には、広角X線回折測定より、リン酸水素ストロンチウムが含まれており、高純度の(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトは得られていないことが判明した。また、比較例14で得られた生成物には炭酸ストロンチウムが、比較例15ではフッ化ストロンチウムが生成物中に顕著に含まれており、高純度の(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトは得られていないことが判明した。 (実施例22〜28および比較例16〜20) 実施例1と同様にして、塩化ストロンチウム六水和物134グラム(0.5モル)に対して、表4に示す配合に従って実施例1と同様に反応を行い、実施例22〜28および比較例16〜20の生成物を得た。実施例26ではフッ素原子の導入比率を低下したストロンチウムフッ素アパタイトの実施例を示した。実施例27は、反応の際に用いることの出来るフッ素塩の比率の最大値を用いた場合の実施例を示した。また、実施例28は、実施例23において、用いたストロンチウム塩に対して、本文中の説明にあるαとして、α=2の場合についての実施例(リン酸二水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、およびフッ化ナトリウムを溶解した水溶液の2倍量を、塩化ストロンチウム水溶液に添加した例)を示した。何れの実施例および比較例に於いても、反応を通して反応系中のpHは3〜7の範囲であった。 実施例1と同様にして、それぞれの実施例および比較例で得られた生成物について、広角X線回折、FT−IR、蛍光X線分析およびEDSを用いて解析を行った。その結果、実施例22、23および実施例26〜28で得られた生成物は高結晶性を示し、高純度のストロンチウムフッ素アパタイトが得られていることが確認された。また、実施例24で得られた生成物は炭酸ストロンチウムフッ素アパタイトであり、該アパタイト中に含まれる炭酸基の割合は質量%で22.5質量%と計算された。同様に、実施例25で得られた生成物も高純度の炭酸ストロンチウムフッ素アパタイトであり、該アパタイト中に含まれる炭酸基の割合は質量%で9.0質量%と計算された。実施例22〜28で得られた(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトを蛍光X線分析およびEDS(エネルギー分散型X線分光法)を用いてそれぞれの方法で含まれている元素分析を行った結果、何れの生成物も95質量%以上の高純度の(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトであり、含まれるフッ素原子の比率として本文中で示したnの値として、実施例26を除く実施例22〜28では、n=2であり、実施例26では、n=1.5と求められ、これ以外の構成元素比率も理論値と良く一致する結果を得た。 一方、比較例16で得られた生成物中には炭酸ストロンチウムに基づく回折ピークが顕著に認められ、高純度の(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトは得られていないことが判明した。同様に、比較例17および18で得られた生成物には、広角X線回折測定より、リン酸水素ストロンチウムが含まれており、高純度の(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトは得られていないことが判明した。また、比較例19で得られた生成物には炭酸ストロンチウムが、比較例20ではフッ化ストロンチウムが生成物中に顕著に含まれており、高純度の(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトは得られていないことが判明した。 本発明の製造方法により得られる(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトはクロマトグラフィー用カラム用担体や各種吸着剤として利用可能である。或いは、各種生体活性インプラントとしての利用も可能である。更には、フィルムや繊維への表面処理を行うことで生体に親和性を有する各種親水性材料を提供することが可能である。 水中に於いて、ストロンチウム塩とリン酸塩、炭酸塩または炭酸水素塩、およびフッ素塩を混合し、反応を行う(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトの製造方法であって、ストロンチウム塩のモル比率をA、リン酸塩のモル比率をB、炭酸塩または炭酸水素塩のモル比率をC、フッ素塩のモル率をDとした場合、下記(i)もしくは(ii)の要件を満たし、かつ反応系のpHが3〜7の範囲にある(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトの製造方法。(i)リン酸塩がリン酸水素塩の場合A:B:C:D=1:(0.6〜1.2)α:p(0.2〜0.6)α:βα。(ii)リン酸塩がリン酸二水素塩の場合A:B:C:D=1:(0.6〜1.2)α:p(0.4〜1.2)α:βα。 式中、αは0.1≦α≦10の実数を表す。βは0<β≦0.3の範囲の実数を表す。pは係数を表し、炭酸塩の場合は1、炭酸水素塩の場合は2を表す。 炭酸塩または炭酸水素塩のモル比率が、上記した炭酸塩または炭酸水素塩のモル比率の下限値に0.1pαを加えたモル比率未満である前記請求項1記載のストロンチウムフッ素アパタイトの製造方法。 炭酸塩または炭酸水素塩のモル比率が、上記した炭酸塩または炭酸水素塩のモル比率の下限値に0.1pαを加えたモル比率以上である前記請求項1記載の炭酸ストロンチウムフッ素アパタイトの製造方法。 前記請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により得られた(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトを、メディアミルを使用して湿式分散処理を行う(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト微粒子の製造方法。 前記請求項4に記載の湿式分散処理を行う際に、ポリリン酸(塩)を加えて湿式分散処理を行う、前記請求項4に記載の(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト微粒子の製造方法。 【課題】一段階の反応により、高結晶性を有する(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトを高純度で得るための、簡便で生産性の良好な(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトの製造方法、およびコーティング用途に好適な(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイト微粒子の製造方法を与えること。【解決手段】ストロンチウム塩と、各々特定のモル比率の範囲でリン酸塩、炭酸塩または炭酸水素塩、およびフッ素塩を用いて、これらを水中において混合し反応を行う。これより得られた(炭酸)ストロンチウムフッ素アパタイトをメディアミルを使用して湿式分散処理を行う。【選択図】なし


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