タイトル: | 公開特許公報(A)_手足症候群治療用組成物 |
出願番号: | 2013235351 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | A61K 45/00,A61K 38/44,A61P 17/00 |
山口 葉子 横道 憲幸 長澤 輝明 JP 2014129338 公開特許公報(A) 20140710 2013235351 20131113 手足症候群治療用組成物 株式会社ナノエッグ 506151235 南条 雅裕 100113376 瀬田 あや子 100179394 伊波 興一朗 100185384 山口 葉子 横道 憲幸 長澤 輝明 JP 2012262885 20121130 A61K 45/00 20060101AFI20140613BHJP A61K 38/44 20060101ALI20140613BHJP A61P 17/00 20060101ALI20140613BHJP JPA61K45/00A61K37/50A61P17/00 12 8 OL 18 4C084 4C084AA02 4C084AA17 4C084BA44 4C084CA62 4C084DC24 4C084MA63 4C084NA14 4C084ZA891 本発明は、手足症候群(hand−foot syndrome)を治療または予防するための組成物に関する。 手足症候群は、抗癌剤等の化学療法薬の投与に起因して発症する皮膚疾患である。一般的な症状は、手のひらおよび足の裏の限定された範囲に現れ、チクチクするような感覚異状から、多くの場合に疼痛、発疹、紅斑を伴う。何ら対処をしない場合は重症化して、患者のQOLの低下に伴って原因薬剤による治療継続が難しくなるなど、本来の治療に支障をきたす場合も少なくない。 手足症候群の治療方法として、手足の安静;保湿を目的とした尿素軟膏;ヘパリン類似物質製剤またはビタミン含有軟膏などの外用剤を用いた局所治療;全身療法としてプロドニゾロンやデキサメタゾン、または塩酸ピリドキシン(ビタミンB6)の内服(非特許文献1)などが提案されているが、これらはいずれも対処療法であり、手足症候群の根治を図るものではない。 現在までに、手足症候群の発症メカニズムとして、皮膚基底細胞の増殖能の阻害、血管からの抗癌剤漏出(特許文献1)、エクリン汗腺からの抗癌剤分泌(非特許文献2)などがその原因の一つである可能性も示されているが、抗癌剤とその発症との因果関係は不明である。 多くの抗癌剤はDNA損傷を引き起こし、癌細胞のアポトーシスを誘導する。癌のアポトーシスは、抗癌剤によって直接的または間接的に生じた活性酸素(reactive oxygen species;以下、「ROS」とも称する)によって誘導されることが報告されている(非特許文献3〜8)。さらに、ROSによる酸化損傷は、ヒト全骨髄球性白血病細胞株HL−60細胞およびHL−60由来カタラーゼ過剰発現HP100細胞を用いた実験において、銅(II)イオンの存在下で増幅されたことが報告されている(非特許文献6および9)。米国特許第6060083号Investigational New Drugs,8巻,p57−63,1990年Annals of Oncology 16巻、1210〜1211、2005年Hiraoka W et al.,(1998) J.Clin.Invest.,102,1961−1968Tada−Oikawa S et al.,(1999) FEBS Lett.,442,65−69Varbiro G et al.,(2001) Free Radic.Biol.Med.,31,548−558Murata M et al.,(2004) Free Radic Biol.Med.,37,793−802Sadzuka Y et al.,(2005) YAKUGAKU ZASSHI,125,149−157Gewirtz.D.A.,(1999) Biochemi.Pharmacol.,57,727−741Murata M et al.,(2004) Free Radic Biol.Med.,37,793−802. 上記のとおり、原因薬剤の継続や患者のQOL向上などの点で重大な手足症候群の治療または予防ニーズの存在にも関わらず、その発症機序は不明であり、有効な対処法が存在しない状況にある。そこで本発明は、手足症候群の治療または予防に有効な新規組成物を提供することを目的とする。 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、抗癌剤等の化学療法剤の投与に伴って発生するROSが、手足症候群の炎症症状の発現に密接に関与していることを見出し、本発明を完成するに至った。 したがって、本発明は以下の特徴を包含する。 (1)活性酸素を捕捉または除去する物質を有効成分とする、手足症候群を治療または予防するための組成物。 (2)活性酸素を捕捉または除去する物質は、スーパーオキシドジスムターゼ、ビリルビン、グルタチオンペルオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、カタラーゼ、アスコルビン酸若しくはその誘導体、システイン、グルタチオン、リノール酸、トコフェロール若しくはその誘導体、α−カロテン、β−カロテン、フラボノイド、尿酸、チオレドキシン、またはフィトケミカルから選択される少なくとも1種である前記(1)記載の組成物。 (3)活性酸素を捕捉または除去する物質は、スーパーオキサイドアニオンを標的とするものであることを特徴とする、前記(1)記載の組成物。 (4)活性酸素を捕捉または除去する物質として、少なくともスーパーオキシドジスムターゼを含んでいることを特徴とする、前記(1)記載の組成物。 (5)手足症候群はドキソルビシンのリポソーム化製剤の投与に起因して発症したものであることを特徴とする、前記(1)〜(4)のいずれか記載の組成物。 (6)皮膚外用剤である、前記(1)〜(5)のいずれか記載の組成物。 (7)皮膚外用医薬品である、前記(6)記載の組成物。 (6)皮膚外用剤である、前記(1)〜(5)のいずれか記載の組成物。 (7)皮膚外用医薬品である、前記(6)記載の組成物。 (8)手足症候群の治療剤または予防剤を製造するための、活性酸素を捕捉または除去する物質の使用。 (9)活性酸素を捕捉または除去する物質は、スーパーオキシドジスムターゼ、ビリルビン、グルタチオンペルオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、カタラーゼ、アスコルビン酸もしくはその誘導体、システイン、グルタチオン、リノール酸、トコフェロールもしくはその誘導体、α−カロテン、β−カロテン、フラボノイド、尿酸、チオレドキシン、またはフィトケミカルから選択される少なくとも1種である前記(8)記載の使用。 (10)活性酸素を捕捉または除去する物質は、スーパーオキサイドアニオンを標的とするものであることを特徴とする、前記(8)記載の使用。 (11)活性酸素を捕捉または除去する物質は、スーパーオキシドジスムターゼである前記(8)記載の使用。 (12)手足症候群はリポソーム化製剤の投与に起因して発症したものであることを特徴とする、前記(8)〜(11)のいずれか記載の使用。 本発明によれば、手足症候群の治療または予防に有効な新規組成物が提供される。高用量(10mg/kg)または低用量(5mg/kg)のPEGL−DOX溶液を反復投与(3日に1回を3回実施)後の、ラット後肢足底の写真図を示す。手足症候群発症ラットの病変部位から採取した皮膚組織におけるH&E染色(a)、ピクロシリウスレッド染色(b)およびTUNEL染色(c)の結果を示す写真図である。手足症候群発症ラットの病変部位から採取した皮膚組織において実施したサイトカインおよびケモカインの測定結果を示す。HaCaTおよびNHDFの各培養細胞を用いた分析の結果である。(a)および(b)は、それぞれ手足症候群発症ラットの病変部位から採取した組織で産生量増加が確認されたケモカインおよび炎症性サイトカインに関する、in vitro試験結果である。HaCaTおよびNHDFの各培養細胞を用いたDOXのin vitro毒性試験の結果である。HaCaT培養細胞を用いたスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)によるDOX細胞毒性からのレスキューを示す図である。ドキソルビシン(DOX)の皮内注射により惹起した手足症候群発症ラットにおける前肢甲皮膚のH&E染色像を示す。a〜c、生理食塩水投与群;d〜f、1%SOD投与群。ドキソルビシン(DOX)の皮内注射により惹起した手足症候群発症ラットにおける、生理食塩水処置群および1%SOD処置群の前肢甲皮膚の表肥厚を示すヒストグラムである。 本発明は、手足症候群を治療または予防するための組成物(以下、「本発明の組成物」とも称する。)に関する。本発明において、治療または予防の対象となる手足症候群は、化学療法薬(特に抗癌剤)の投与に起因して手足指先、手掌、足底などの四肢末端に発症する皮膚症状(しびれ、皮膚知覚過敏、色素沈着、発赤、熱感、紅斑、水疱、むくみ、角化、ひび割れ、爪の変形・色素沈着などを含むがこれに限られない)をいう。また、手足症候群は、手掌・足底発赤知覚不全症候群、脚端紅斑、化学療法薬誘導性脚端紅斑、手掌・足底紅斑、手足皮膚反応としても知られているが、本発明における手足症候群という用語はこれらを全て含むものである。 また、手足症候群の発症原因となりうる化学療法薬として、結腸直腸癌および乳癌の治療に使用されるフッ化ピリミジン系抗腫瘍剤(例えばカペシタビン);悪性固形腫瘍に対して使用されるアントラサイクリン;再発性卵巣癌に対して使用されるPEG改変型リポソームドキソルビシン製剤(PEGL−DOX);広範な癌に対して使用されるドセタキセル;腎癌に対して使用される分子標的薬であるソラフェニブやスニチニブなど、多数の薬剤が知られているが、本発明における手足症候群は、その発症原因となる薬剤によって制限されるものではなく、任意の薬剤を原因とするものを対象とする。一実施態様においては、手足症候群は、ドキソルビシンのリポソーム化製剤の投与に起因する手足症候群である。 本発明は、抗癌剤等の化学療法薬の投与に起因する手足症候群の症状に、化学療法薬との相互作用によって発生するROSが関与していることを見出したことを基礎とするものである。したがって本発明の組成物は、活性酸素を捕捉または除去する物質を有効成分として含むことを特徴とする。 ROSには、一般的に、酸素分子の一電子還元で生じるスーパーオキサイドアニオン(O2−)、過酸化水素(H2O2)、ヒドロキシラジカル(・OH)、および一重項酸素(1O2)の4種が含まれるが、本発明においては、その少なくとも1種、2種、3種、そして4種の全てを標的とするように、有効成分を選択または組み合わせることができる。したがって、本発明において「活性酸素(ROS)を捕捉または除去する物質」とは、スーパーオキサイドアニオン(O2−)、過酸化水素(H2O2)、ヒドロキシラジカル(・OH)、および一重項酸素(1O2)のうちの少なくとも1種を捕捉または除去の標的とする物質(例えば抗酸化剤)をいう。 活性酸素を捕捉または除去する物質は、スーパーオキサイドアニオン、過酸化水素、ヒドロキシラジカルおよび一重項酸素のいずれか1種を捕捉または除去することができ、かつ、人体に有害作用を生じない限り、天然由来であっても合成由来であってもよい。本発明の一実施態様においては、活性酸素を捕捉または除去する物質は、スーパーオキサイドアニオンを捕捉または除去の標的とする物質である。 スーパーオキサイドアニオンを捕捉または除去することができる物質として、これに限定されるものではないが、スーパーオキシドジスムターゼ、ビリルビン、アスコルビン酸またはその誘導体(6−ステアリン酸アスコルビル、6−パルミチン酸アスコルビル、2,6−ジパルミチン酸アスコルビル、2,3,5,6−テトラヘキシルデカン酸アスコルビル、(アスコルビル/トコフェリル)リン酸カリウム、アスコルビン酸−2−硫酸2ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸−2−リン酸マグネシウム、アスコルビン酸−2−リン酸ナトリウム、アスコルビル−2−グルコシドなど)などが知られており、本発明の組成物はこれらの少なくとも1種を有効成分として含むことができる。 過酸化水素を捕捉または除去することができる物質として、これに限定されるものではないが、グルタチオンペルオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、カタラーゼ、アスコルビン酸またはその誘導体(6−ステアリン酸アスコルビル、6−パルミチン酸アスコルビル、2,6−ジパルミチン酸アスコルビル、2,3,5,6−テトラヘキシルデカン酸アスコルビル、(アスコルビル/トコフェリル)リン酸カリウム、アスコルビン酸−2−硫酸2ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸−2−リン酸マグネシウム、アスコルビン酸−2−リン酸ナトリウム、アスコルビル−2−グルコシドなど)、ビタミンEコハク酸エステルなどが知られており、本発明の組成物はこれらの少なくとも1種を有効成分として含むことができる。 ヒドロキシラジカルを捕捉または除去することができる物質として、これに限定されるものではないが、システイン、グルタチオン、リノール酸、トコフェロールまたはその誘導体(α−トコフェロール、酢酸トコフェロール、ビタミンEコハク酸エステルなど)、α−カロテン、β−カロテン、フラボノイド、尿酸、チオレドキシンなどが知られており、本発明の組成物はこれらの少なくとも1種を有効成分として含むことができる。 一重項酸素を捕捉または除去することができる物質として、これに限定されるものではないが、アスコルビン酸およびその誘導体(6−ステアリン酸アスコルビル、6−パルミチン酸アスコルビル、2,6−ジパルミチン酸アスコルビル、2,3,5,6−テトラヘキシルデカン酸アスコルビル、(アスコルビル/トコフェリル)リン酸カリウム、アスコルビン酸−2−硫酸2ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸−2−リン酸マグネシウム、アスコルビン酸−2−リン酸ナトリウム、アスコルビル−2−グルコシドなど)、トコフェロールおよびその誘導体(α−トコフェロール、酢酸トコフェロールなど)、β−カロテン、リボフラビン、尿酸、チオレドキシンなどが知られており、本発明の組成物はこれらの少なくとも1種を有効成分として含むことができる。 また上記の他、本発明の組成物は、有効成分として高い抗酸化作用が知られている物質、例えばα−リポ酸、コエンザイムQ10、キサントフィル類(アスタキサンチン、ルテイン、ゼアキサンチン、カンタキサンチン、フコキサンチン、アンテラキサンチン、ビオラキサンチンなど)、カロテノイド(αカロテン、βカロテン、リコペンなど)、ポリフェノール(クロロゲン酸、エラグ酸、リグナン、セサミン、クルクミン、クマリン、オレオカンタール、オレウロペイン、レスベラトロールなど)、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、エリソルビン酸ナトリウム、没食子酸プロピル、フェルラ酸、カフェ酸、5−(ジエチルホスホノ)−5−メチル−1−ピロリンN−オキシド、フラボノイド(フラバノン、フラボン、カルコン、カテキン、没食子酸エピガロカテキン、フラバノノール、オーロン、フラバン−34−ジオール(ロイコアントシアン)、イソフラボン、アントシアニン、タンニン、ルチンなど)、植物抽出物(ビワ葉エキス、籐茶エキス、エイジツエキス、ローズマリーエキスなど)、マンガンN,N’−ビス(サリチリジエン)エチレンジアミンクロライド、(acetato−κO)[[2,2−[1,2’−ethanediylbis[(nitrilo−κN)methylidyne]]bis[3,5−dimethoxyphenolato−κO]](2−)]−manganese、2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−[[(1−エチル)アミノ]メチル]フェノール塩酸塩、3−メチル−1−フェニル−5−ピラゾロン、SODミメティック化合物(マンガン(III)テトラキス(4−安息香酸)ポルフィリンクロライド、マンガン(III)テトラキス(1−メチル−2−ピリジル)ポルフィリン、マンガン(III)メソ−テトラキス(N−メチル−2−ピリジル)ポルフィリンペンタクロライドなど)、7−ヒドロキシフラボン−マンガン複合体、ノルジヒドログアヤレチン酸、21−(4−(2,6 Di−1−pyrrolidinyl−4−pyrimidinyl)−1−piperazinyl)−pregna−1,4,9(11)−triene−3,20−dione,(Z)−2−Butenedionate、(−)−2−((4−(2,6−Di−1−pyrrolidinyl−4−pyrimidinyl)−1−piperazinyl)methyl)−3,4−dihydro−2,3,7,8−tetramethyl−2H−1−benzopyran−6−ol, 2HCl、フィトケミカル(アントシアニン、イソフラボン、セサミノール、クルクミン、スルフォラハン、メチルシステインスルホキシド、アリシン、ルテイン、リコペン、リモネン、フィトステロール、βグルカン、サポニン、カプサイシン、ジンゲロールなど)を含んでもよい。 本発明において、標的とするROSの種類に依らず、上述したROSを捕捉または除去することができる物質のうち、1種〜複数種を選択して本発明の組成物を調製することができる。 本発明において、組成物の投与ルートおよび剤型は、手足症候群の治療または予防効果が発揮される限り特に制限されないが、手足症候群の発症原因となることが既に知られている化学療法薬の投与を予定している対象、手足症候群の発症原因となった化学療法薬の投与を継続している対象への適用に際しては、化学療法剤の効果を損なわないようにすることが好ましい。すなわち、上記のとおり、癌のアポトーシスは、抗癌剤によって直接的または間接的に生じた活性酸素(以下、「ROS」とも称する)によって誘導されることが報告されており(Hiraoka W et al.,(1998)前掲;Tada−Oikawa S et al.,(1999)前掲;Varbiro G et al.,(2001)前掲;Murata M et al.,(2004)前掲;Sadzuka Y et al.,(2005)前掲;Gewirtz.D.A.,(1999)前掲)、抗癌剤によるそのような本来的役割に鑑みれば、ROSの全身性の除去は化学療法薬の有効性を著しく減じる可能性があるからである。 したがって、本発明の組成物は、一実施態様において、ROSを捕捉または除去する物質を、手足症候群病変部位に局所的に送達する剤形、例えば皮膚外用剤の形態とすることができる。そのような皮膚外用剤は、例えば皮膚外用医薬品として提供することができる。 本発明の皮膚外用医薬品において、ROSを捕捉または除去する物質の配合量は、効果的に手脚症候群の症状を改善することができ、かつ、他の有害な副作用を生じない範囲であれば特に制限されないが、例えば0.001〜30(w/w)%、好ましくは0.01〜10(w/w)%、例えば5(w/w)%とすることができる。 本発明の皮膚外用医薬品には、有効成分の他、皮膚外用剤に一般的に用いられる成分、例えば、これに限定されるものではないが、水、界面活性剤(アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤または非イオン界面活性剤)、液体または固体油脂、ロウ、炭化水素油、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル油、シリコーン油、増粘剤、皮膜剤、紫外線吸収剤、金属イオン封鎖剤、低級アルコール、糖、アミノ酸、有機アミン、高分子エマルション、pH調整剤、皮膚栄養剤、酸化防止剤、香料等を適宜配合し、目的とする製品形態に応じて常法に従って製造することができる。 本発明の皮膚外用医薬品の形態は特に制限されず、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、液剤、ローション剤、エアゾール剤、パップ剤、化粧用シート剤などの形態で提供することができる。 本発明の皮膚外用医薬品は、単剤で使用してもよいし、手足症候群の治療に用いられる他の薬剤と組み合わせて使用してもよい。そのような薬剤として、例えば、保湿剤、抗生物質、ステロイド外用剤、ステロイド内服薬、非ステロイド性消炎鎮痛剤等が挙げられる。 本発明の皮膚外用医薬品は、化学療法薬の投与に起因して手足症候群を発症している患者の他、化学療法薬の投与を予定している癌患者に対して予防的に使用してもよい。 以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。1.手足症候群発症モデルの作製 薬剤の種類に応じた手足症候群の発症頻度については次のような報告がある:PEGL−DOX(最高で約78%);カペシタビン(51〜78%);ソラフェニブ(約55%)(Ministry of Health,Labour and Welfare,2010)。そこで手足症候群発症モデルの作製のために、発症頻度の最も高いPEGL−DOXを採用することとした。(1)PEGL−DOX(ドキソルビシンPEG化リポソーム製剤)の調製 粒子径を統一するためのフィルターによる分割および作製後の平均粒子径の確認を行わなかったこと以外は、既報(Sadzuka Y.,2005、前掲)に従ってPEG化リポソーム製剤を作製した。 すなわち、L−α−distearoylphosphatidyl−DL−glycerol(PEG修飾レシチン;DSPG)およびレシチン(それぞれ日油株式会社製)を、メタノールおよびクロロホルムを1:4に混合した溶媒に溶解し、35℃の温浴中でロータリーエバポレーターにて溶媒を除去し、ナスフラスコ面に薄膜を形成した。フラスコ内にDOX水溶液(20%水溶液;日本化薬株式会社製)とソルビトール/乳酸溶液を添加し、60℃の温浴中で15分撹拌した。その後超音波照射を3分間実施し0.2w/v%のPEGL−DOX溶液を得た。(2)手足症候群モデルの作製(2−1)PEGL−DOXの尾静注モデル 高用量(10mg/kg)または低用量(5mg/kg)のPEGL−DOX溶液を、日本SLC株式会社より購入した7週齢の雌SDラットに単回または反復投与(3日に1回投与を3回)した(尾静注)。 単回投与群では、PEGL−DOX投与直後から前肢掌、肢底、耳介、鼻先に発赤が出現したが、生じた発赤は一過性で5〜10分で消失した。一方、PEGL−DOXの反復投与群では5mg/kgの低用量で四肢末梢部の炎症所見が観察され、高用量(10mg/kg)ではその傾向が顕著であった(図1)。 また反復投与群では、手足に障害が生じることが観察されたが、全身の皮膚への影響は顕著ではなく若干の乾燥状態が観察されたのみであった。これはヒトにDoxil(登録商標)を投与した際に観察される症状に酷似していた(Gewirtz.D.A.,1999、前掲)。したがって、PEGL−DOXの投与により、前肢掌および後肢足底に手足症候群が発症したと判断した。(2−2)ドキソルビシンの局所注射モデル PEGL−DOX尾静注による場合、重篤な手足症候群を惹起するためには比較的高濃度のPEGL−DOXの投与が必要であるため、手足症候群の症状を発症する前に動物が死亡してしまうという問題があった。そこで、ドキソルビシンをラットの肢底部に皮内投与することによる手足症候群の惹起を試みた。 0.08%に調製したドキソルビシン生理食塩水溶液を、日本SLC株式会社より購入した8週齢の雌SDラットの前肢および後肢足底部に40μlずつ皮内投与したところ、投与後2日でラット足底部および甲に炎症性の発赤や腫脹、落屑など、手足症候群の症状と酷似する所見が観察された。 そこで、本モデルを手足症候群発症の第2のモデルとして使用した。2.手足症候群モデルラットの病理解析 手足症候群発症部位の病理解析を行うために、上記(2−1)に従って手足症候群が発症した高用量(10mg/kg)PEGL−DOX反復投与ラットから採取した皮膚組織を組織学的に評価した。組織学的評価は、H&E染色、ピクロシリウスレッド染色およびTUNEL染色を用い、それぞれ無投与コントロール群と比較することにより行った。(1)ヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色 ホルマリン固定してパラフィン包埋した皮膚組織を4μmの厚さで切片を作製した。脱パラフィンした後、再水和し、H&E染色を行い、前肢手掌および後肢足底部の組織像を光学顕微鏡にて観察を行った。(2)ピクロシリウスレッド染色 真皮の膠原線維の様子を詳細に観察するため、ピクロシリウスレッド染色を行い、偏光顕微鏡にて観察を行った。(3)TUNEL染色 アポトーシスを検出するためにTUNEL染色を行った。DeadEndTM Fluorometric TUNEL systemキット(Promega株式会社製)を使用してTUNEL染色し、蛍光顕微鏡にて観察を行った。 結果を図2に示す。高用量PEGL−DOX反復投与ラットの肢底部皮膚のH&E染色では、無投与コントロール群に比較して、顆粒層が菲薄化または消失し、基底層から有棘層にかけて細胞数が減少し、細胞間は粗な配列を呈しており、表皮層の菲薄化が顕著であった(図2a)。一方、真皮層の線維芽細胞は正常状態とほぼ同等であった。 図2bにピクロシリウスレッド染色(コラーゲン線維の染色)結果を示す。赤く高輝度で観察される程太いコラーゲン線維束が多く、黄色〜緑で低輝度になるほど配列の乱れもしくは断裂状態を示す。図2bから明らかな通り、PEGL−DOX反復投与ラットでは真皮層のコラーゲン線維の配列が乱れ、線維の断裂が顕著であった。 図2cにTUNEL染色結果を示す。緑色はアポトーシスが誘導されている細胞を示している。PEGL−DOX投与モデルでは、表皮基底細胞のアポトーシスが誘導されていた。 以上の結果は、手足症候群発症部位においては、表皮層の細胞減少に伴う菲薄化、真皮層のコラーゲン破壊、表皮基底細胞のアポトーシスが認められることを示しており、その結果、炎症症状が引き起こされていると考えられる。3.手足症候群発症原因の解析(1)in vivoサイトカイン分析 手足症候群が発症する原因を解明するために、上記(2−1)に従うPEGL−DOX投与後の後肢の皮膚組織を採取し、発現しているサイトカインおよびケモカインを測定した。採取した皮膚組織をホモジナイズした後、遠心して上清を回収しRat Cytokine Antibody Array(RayBiotech社製)にて検出を行った。 その結果を図3に示す。ケモカインであるCINC3やFractalkineの発現およびILファミリーの産生抑制に働くIL−10産生が顕著で、同時に炎症系サイトカインであるIL−1βやIL−6の発現亢進も確認された。(2)in vitroサイトカイン分析 DOXによる皮膚組織内細胞への影響を確認するため、in vitro実験をさらに実施した。表皮層および真皮層への影響を比較するために、それぞれHaCaT細胞(ヒトケラチノサイト由来株化細胞;神戸大学医学部より受領)と正常ヒト真皮線維芽細胞であるNHDF(倉敷紡績株式会社製)とを用いた。具体的には、各培養細胞にDOX(1.5μM)を添加して24時間培養した後、培地中のサイトカインをLuminex200 system(Millipore社製)(図4a)またはHuman Cytokine Antibody Array(RayBiotech社製)(図4b)にて検出を行った。検出対象のサイトカインは、in vivoで産生が亢進していたケモカインであるIL−8、GRO(いずれもラットCINC3に相当する)およびFractalkine、並びに炎症性サイトカインIL−1およびIL−6とした。 また、サイトカイン産生量への活性酸素(ROS)の関与を評価するために、銅(II)イオンとして塩化銅(II)(和光純薬社製)を培地にさらに添加した系においても同様の実験を行った。 結果を図4に示す。HaCaTにおいて、DOX 1.5μMの存在だけでは、3種のケモカイン産生は増加しなかった(図4a)。一方、DOXと銅(II)イオン共存下(50および375μM)では、各ケモカインの産生量は増加し、GROおよびIL−8は、Cu(II)イオン濃度が高いほどその産生量は増加した。一方、NHDFにおいては、DOX添加やCu(II)イオン共存による変化はほとんどなく、むしろDOX存在下で各種ケモカイン産生量は抑制される傾向が観察された。 炎症性サイトカインについても、DOXおよび/または銅(II)イオンによる影響は細胞種によって変化した(図4b)。HaCaT細胞はDOXの存在下ではIL−1αおよびIL−6の産生を増加し、その産生はDOX存在下でCu(II)イオンの添加によってさらに増強された。IL−1βの産生は高濃度の銅(II)イオンとDOXの併存下で上昇した。対照的に、NHDF細胞はDOXのみの場合には考慮すべき反応を示さなかったが、銅(II)イオンの併存下ではIL−1βの産生増加を刺激した。 以上のとおり、DOXが表皮細胞においてケモカインIL−8、GROおよびFractalkine、炎症性サイトカインIL−1β、IL−6およびIL−1αの産生を増強し、真皮細胞においてIL−1βの産生を増強すること、並びにこの産生増強は銅(II)イオン依存的に認められることが示された。これらの結果は、DOXと銅(II)イオン共存下で産生が増強されるROSが、これらのサイトカインの産生増強に関与している可能性を示唆している。(3)DOX毒性評価試験 DOXの毒性評価のために、培養細胞HaCaTとNHDF(前掲)を使用した毒性評価試験を行った。すなわち、培地に1.5μM DOXを添加し、24時間後の生細胞の割合をCell Counting kit−8(CCK8)(DOJINDO LABORATORIES社製)を使用して測定した。銅(II)イオン共存下の毒性試験は、1.5μMのDOXを含む培地に、50μMまたは375μMの塩化銅(和光純薬社製)を添加した。 また、DOXによる皮膚組織破壊とROSの関与を調べるために、1.5μM DOX、50μM塩化銅(II)および100μg/ml スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)(Sigma Aldrich社製)をHaCaT培養培地に添加して、12時間後の生存率を測定した。 DOXを添加しなかった場合には、HaCaT細胞の生存率は50μM塩化銅(II)添加時に約20%低下したが、高濃度の375μMを添加した場合でも同程度であった。DOXの存在下では、細胞の生存率は銅(II)イオン濃度の増加に伴って急速に低下した(図5)。これは、DOXと銅(II)イオンが共存することによるROSの産生促進が、細胞の生存率を低下させたことを示唆している。一方、NHDF細胞はDOXおよび銅(II)イオンの組み合わせによる生存率への顕著な影響は認められなかった。HaCaTとNHDFの間において、ROSによる細胞障害に差が見られたことは、手足症候群モデル動物の皮膚組織像とよく相関していた。 また、ROSを捕捉することが知られているSODの添加は、HaCaT細胞の生存率を改善した(図6)。 以上の結果から、手足症候群の病態は、抗癌剤と皮膚内に存在する銅(II)イオンとの相互作用により発生したROSが、表皮細胞におけるケモカインおよび炎症性サイトカイン類の産生を促進し、その結果、血管拡張、発赤、熱感が現れ、血管透過性が亢進し膨張する手足症候群の炎症症状が発現されることが示された。 一方、HaCaTを用いた細胞毒性試験において、SODの添加によって、細胞生存率の改善が認められたことから、ROSを捕捉または除去する成分が、手足症候群の治療または予防に有効であることが示された。4.手足症候群の発症抑制試験 本試験には、上記(2−2)ドキソルビシンの局所注射による手足症候群発症動物モデルを用いた。 1%スーパーオキシドジスムターゼ生理食塩水溶液(SOD)を、8週齢の雌SDラット前肢および後肢足底部に40μlずつ皮内投与した。陰性対照としてSODを含まない生理食塩水のみの投与群も用意した。SOD投与24時間後、0.08%ドキソルビシンを同じ部位に皮内投与した。SODまたは生理食塩水、およびドキソルビシンの投与はそれぞれ1回のみとし、手足症候群の発症とその経過を17日間観察した。観察最終日に前肢・後肢の掌および甲の皮膚を採取してホルマリン固定し、パラフィン包埋を行って組織切片を作製した。H&E染色を行って、肢皮膚の状態を観察した。表皮の厚さは、画像処理ソフトウェアAxio Vision4.8(Carl Zeiss社製)によって計測し、群間の比較はWelch’s t testによる統計処理を行った。 0.08%ドキソルビシンをラット足底部に投与することで足底部に炎症性の発赤や腫脹、落屑などの手足症候群でみられる症状が、SOD投与群および生理食塩水投与群において異なる程度で観察された。陰性対照の生理食塩水投与群(n=2、(前肢n=4、後肢n=4))に比較して、1%SOD投与群(n=2、(前肢n=4、後肢n=4))は発赤や腫脹の程度はやや弱く、正常状態への回復が早いことが観察された。生理食塩水投与群では、前肢甲にも発赤や腫脹が確認された。これに対し、1%SOD投与群では前肢甲における諸症状は著しく軽減された。 H&E染色による前肢甲の皮膚組織像を観察したところ、陰性対照の生理食塩水投与群は炎症性の表皮肥厚が観察された(図7a〜c)。1%SOD投与群は有意に炎症性の表皮肥厚を抑制しており、その程度はわずかであった(図7d〜f)。表皮の厚さを染色組織像60〜80か所で測定したところ、1%SOD投与群において有意な抑制効果が認められた(p<0.001)(図8)。 このように、ROSを捕捉または除去することが可能な抗酸化剤を事前に投与しておくことで、手足症候群の発症またはその症状を効果的に低減することができた。したがって、ROSを捕捉または除去する物質は、手足症候群の治療または予防に有用であることが示された。 本発明によれば、手足症候群の治療または予防に有用な組成物が提供される。本発明の組成物は、手足症候群の患者向けの皮膚外用剤、例えば手足症候群治療用医薬品として提供される点で産業上の利用可能性を有している。 活性酸素を捕捉または除去する物質を有効成分とする、手足症候群を治療または予防するための組成物。 活性酸素を捕捉または除去する物質は、スーパーオキシドジスムターゼ、ビリルビン、グルタチオンペルオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、カタラーゼ、アスコルビン酸もしくはその誘導体、システイン、グルタチオン、リノール酸、トコフェロールもしくはその誘導体、α−カロテン、β−カロテン、フラボノイド、尿酸、チオレドキシン、またはフィトケミカルから選択される少なくとも1種である請求項1記載の組成物。 活性酸素を捕捉または除去する物質は、スーパーオキサイドアニオンを標的とするものであることを特徴とする、請求項1記載の組成物。 活性酸素を捕捉または除去する物質として、少なくともスーパーオキシドジスムターゼを含んでいることを特徴とする、請求項1記載の組成物。 手足症候群はドキソルビシンのリポソーム化製剤の投与に起因して発症したものであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項記載の組成物。 皮膚外用剤である、請求項1〜5のいずれか1項記載の組成物。 皮膚外用医薬品である、請求項6記載の組成物。 手足症候群の治療剤または予防剤を製造するための、活性酸素を捕捉または除去する物質の使用。 活性酸素を捕捉または除去する物質は、スーパーオキシドジスムターゼ、ビリルビン、グルタチオンペルオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、カタラーゼ、アスコルビン酸もしくはその誘導体、システイン、グルタチオン、リノール酸、トコフェロールもしくはその誘導体、α−カロテン、β−カロテン、フラボノイド、尿酸、チオレドキシン、またはフィトケミカルから選択される少なくとも1種である請求項8記載の使用。 活性酸素を捕捉または除去する物質は、スーパーオキサイドアニオンを標的とするものであることを特徴とする、請求項8記載の使用。 活性酸素を捕捉または除去する物質は、スーパーオキシドジスムターゼである請求項8記載の使用。 手足症候群はリポソーム化製剤の投与に起因して発症したものであることを特徴とする、請求項8〜11のいずれか1項記載の使用。 【課題】原因薬剤の継続や患者のQOL向上などの点で重大な治療または予防ニーズの存在にも関わらず、その発症機序は不明であり、有効な対処法が存在しない状況にある手足症候群の治療または予防に有効な新規組成物を提供することを目的とする。【解決手段】活性酸素を捕捉または除去する物質を有効成分とする、手足症候群を治療または予防するための組成物を提供する。本発明の組成物は、手足症候群の患者向けの皮膚外用剤、例えば手足症候群治療用医薬品として提供することができる。【選択図】図8