タイトル: | 公開特許公報(A)_ストロンチウム90の分析方法および分析装置 |
出願番号: | 2013228690 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | G01N 27/62 |
高貝 慶隆 古川 真 亀尾 裕 鈴木 勝彦 JP 2015087363 公開特許公報(A) 20150507 2013228690 20131101 ストロンチウム90の分析方法および分析装置 国立大学法人福島大学 505089614 株式会社パーキンエルマージャパン 504074787 独立行政法人海洋研究開発機構 504194878 岩谷 龍 100077012 高貝 慶隆 古川 真 亀尾 裕 鈴木 勝彦 G01N 27/62 20060101AFI20150410BHJP JPG01N27/62 VG01N27/62 X 2 1 OL 15 特許法第30条第2項適用申請有り (1)日本分析化学会第73回分析化学討論会講演要旨集,第49頁,公開日 平成25年5月4日 (2)日本分析化学会第73回分析化学討論会,開催日 平成25年5月19日 (3)新化学技術推進協会特別課題講演会「研究奨励賞を通じて震災復旧を考える」,開催日 平成25年5月24日 (4)環境放射能除染学会第2回研究発表会,開催日 平成25年6月5日 (5)プラズマ分光分析研究会2013筑波セミナー,開催日 平成25年7月5日 (6)環境放射能除染学会第6回講演会,開催日 平成25年9月6日 (7)日本分析化学会第62年会,開催日 平成25年9月12日 (8)http://pubs.rsc.org/en/content/articleanding/2013/ay/c3ay41067f#!divAbstract,ウェブサイトの掲載日 平成25年9月17日 (9)国立大学法人福島大学事務局第2会議室,会見日 平成25年9月18日 (10)(a)福島民報新聞,平成25年9月19日朝刊,第2面,(b)福島民友新聞,平成25年9月19日朝刊,第24面,(c)朝日新聞,平成25年9月19日朝刊,第25面,発行日 平成25年9月19日 (11)(a)毎日新聞,平成25年9月21日朝刊,第21面,発行日 平成25年9月21日 (12)プラズマ分光分析研究会第89回講演会,開催日 平成25年10月4日 2G041 2G041CA01 2G041DA14 2G041EA04 2G041FA02 2G041GA03 2G041HA01 2G041LA08 本発明はストロンチウムの放射性核種のうち、最も寿命の長い核種であるストロンチウム90の分析方法および分析装置に関し、特に、高周波誘導結合プラズマ質量分析装置を応用して、ストロンチウム90を迅速に分析することができる方法および装置に関するものである。 放射性物質はα線,β線,γ線等の放射線を放出し、より安定な原子核になろうとして壊変を行う。その際,γ線を放出する放射性核種は,エネルギー分解能が高く核種分析に優れたゲルマニウム半導体検出器で測定すればγ線核種を特定することができる。しかし、ストロンチウム90はγ線を放出せず,β線のみを放出し,またストロンチウム90の娘核種のイットリウム90もβ壊変であるため,それをゲルマニウム半導体検出器によって核種同定,定量することはできない。特に,ストロンチウム90などが放出するβ線は連続スペクトルを示すため,一般的にβ線を計測するガスフローカウンターや液体シンチレーションカウンターでは,広いエネルギー領域で重なり合って,その他のβ線核種とスペクトル分離が困難である。そのため、化学的にストロンチウムだけを分離精製してストロンチウム90をガスフローカウンターで定量することとが一般的である。ストロンチウム90の分析において,娘核種のイットリウム90のβ線の方がエネルギーが大きく測定しやすいため、ストロンチウムの単離後,永年平衡を待ち娘核種のイットリウム90のβ線からストロンチウム90の放射能を算出する方法が一般的に行われている。 例えば、海水中のストロンチウム90を分析する場合、1)適量の海水を大型イオン交換樹脂カラムに通してストロンチウムなどを吸着させ、ストロンチウムを吸着した同上カラムに溶離液を通してマグネシウムやカルシウムを溶離し、さらに塩酸を同上カラムに通してストロンチウムを溶出させる。(大型イオン交換樹脂カラムによる予備濃縮);2)次に、そのストロンチウム溶出塩酸に対して水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムを加えて炭酸塩沈殿を生成し、その沈殿を遠心分離する。(炭酸塩沈殿操作によるストロンチウムの濃縮);3)次に、その沈殿を塩酸に溶解したものをイオン交換樹脂に通してストロンチウムなどを吸着させ、溶離液Aを上記イオン交換樹脂に通してカルシウム等を溶離し、さらに別の溶離液Bを上記イオン交換樹脂に通してストロンチウムを溶出させる(イオン交換法によるストロンチウムの精製);4)ストロンチウム90から生成されるイットリウム90の放射能を測定するのが目的であるが、測定精度を向上させるために、イットリウム90を含有するストロンチウム溶出液からスカベンジング操作により沈殿物とともにイットリウム90を除去し、ストロンチウム溶出液中のストロンチウム90から新たにイットリウム90が生成されるのを待つ。(スカベンジング操作によるイットリウム90の除去);5)最後に、ストロンチウム90から新たに生成したイットリウム90を沈殿物とともに回収して放射能測定試料とし、適切な放射能測定器で放射能を測定する。(ミルキング操作による放射能測定試料の調製と放射能測定)かかる放射性ストロンチウムの分析方法に関しては、例えば、非特許文献1に記載されている。 ストロンチウム90は人体に入ると骨に蓄積し、長期にわたって造血臓器をおかす、極めて厄介な放射性核種であるが、ハンディな線量計では計測することはできない。そのために、上記したような方法で測定されているのであるが、ストロンチウム90から新たにイットリウム90が生成されるまでに2週間(放射平衡に達するまでの期間)という長期間を要するともに煩雑な化学分離作業を伴うので、緊急時における迅速な分析要請に対応することができない。さらに、ストロンチウムの濃縮、精製、イットリウム90の除去操作などに熟練のスキルが必要である。 また、一般的に知られている高周波誘導結合プラズマ質量分析装置によれば、ストロンチウム90を短時間で測定することは可能であるが、測定精度が十分であるとは言えない。放射性ストロンチウム分析法 文部科学省 科学技術・学術政策局 原子力安全課防災環境対策室編 平成15年11月10日 日本分析センター発行 上記したように、従来のストロンチウム90の分析方法は長期間を要するともに煩雑な化学分離作業を伴うので、緊急時における迅速な分析要請に対応することができず、熟練のスキルが必要であるという問題がある。一方、公知の高周波誘導結合プラズマ質量分析装置によれば、ストロンチウム90を短時間で測定することは可能であるが、測定精度が十分であるとは言えない。 本発明は、従来技術の前記問題点に鑑みてなされたものであって、短時間で、高度な測定スキルを必要とせずに、ストロンチウム90を高精度で分析することができる方法および装置を提供することを目的とする。 本発明者は、上記目的を達成するために、多くの分析機関が保有しており、特別なスキルを必要とせず、短時間の測定が可能である高周波誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)の長所を活かして、ICP−MSによる測定精度を向上するための手段について鋭意検討した。このICP−MSとは、多元素分析を短時間で実現する元素分析装置であり、試料導入部、プラズマイオン源、インターフェースコーン(サンプリングコーンとスキマーコーンおよびハイパースキマーコーンを有する場合もある)、イオンレンズ部、コリジョン・リアクションセル、四重極マスフィルターおよび検出器を基本的な構成としている。 《高周波誘導結合プラズマ質量分析装置:ICP−MS》 一般に液体試料は、試料導入部のネブライザに導入されてエアロゾル化される。そのエアロゾルはプラズマイオン源に導入される。プラズマイオン源では、高周波エネルギーが印加された高周波コイルの中心にアルゴンガスが導入され、強力な高周波がアルゴン原子同士を衝突させ、高エネルギーのアルゴンプラズマを発生する。エアロゾル化された試料は、プラズマ(6000〜10000Kの温度)内で瞬時に分解し、測定対象元素は原子化し、そしてイオン化される。そのイオンは、サンプリングコーンとスキマーコーン(ハイパースキマーコーンを有する装置もある)と呼ばれる一対のオリフィスの約1mm前後の細孔を通過してイオンレンズ部に導入される。イオンレンズ部は、イオンを収束してイオンと中性物質を分離するとともにプラズマから入り込んできた光子を遮断する役目を果たす。コリジョン・リアクションセルは、反応性の無いガス(He)をセル内に導入して干渉イオンに衝突させ、分析対象元素との運動エネルギー差を利用して干渉を除去するか(コリジョンモード)または反応性の高いガス(メタン、アンモニアなど)をセル内に導入して、干渉イオンと反応させて干渉を除去する(リアクションモード)ものである。四重極マスフィルターは、4本の平行なロッド状電極からなり、相対する電極の極性を同じにして直流電圧と高周波交流電圧を重ね合わせた電圧を印加して四重極電場を形成するものである。低い加速電圧でロッド状電極に沿ってイオンを四重極電場に導入すると、イオンは上下、左右方向に振動しながら進むが、直流電圧/交流電圧の比を一定に保ちつつ電圧を変化させると、ある瞬間には特定の質量数を持つイオンのみが安定な振動をして四重極を通りぬけ、二次電子増倍管を備えた検出器に達する。一方、その他の質量数を持つイオンは振幅が大きくなり、発散して電極に衝突して消滅する。二次電子増倍管は微弱なイオン流を高精度で検出できる検出器であり、金属面または特殊加工したセラミックの表面にイオンが衝突すると二次電子が放出される性質を利用したもので、放出された二次電子は電場により加速され、さらに、衝突を繰り返すことで指数関数的に増幅される。最終的には数十万倍から一千万倍以上に二次電子が増幅されるため、質量ごとの大きな信号電流として取り出すことができる。 ICP−MSは、1)小型化が可能、2)高速走査が可能、3)普及が進んだことにより比較的安価、4)放射線を取り扱うための国家資格を取得することが不要、5)操作が容易など多くの利点を有している。しかし、ICP−MSは、質量分解能に限度があり、質量が1つ違うイオンを分離することはできるが、同重体のイオンを分離することができないという不都合な点と、放射性ストロンチウムの分析感度が十分でないという不都合な点がある。 《本発明の重要な特徴》 そこで、本発明は、上記不都合な点を解消するために、「ストロンチウムの濃縮による同重体の粗分離」と、「酸化反応による同重体の精密分離」とを重要な特徴とする。(1)ストロンチウムの濃縮よる同重体の粗分離 ストロンチウムを含有する試料溶液に硝酸を添加し(20〜50%硝酸溶液とする)、その試料溶液をストロンチウム分子認識樹脂(ストロンチウムと同じイオン半径を有するものを選択的に吸着するもので、例えば、Eichrom Technologies社の商品名「Srレジン」や3M社の商品名「エムポア ラドディスク ストロンチウム」など)を充填したカラムまたはフィルターに導入して、その樹脂にストロンチウムを吸着させる。ストロンチウムが吸着したカラムに洗浄液(20〜50%硝酸溶液)を通して、ストロンチウム以外の物質を洗い流す。その後、樹脂に吸着したストロンチウムを溶離液(水または1%以下の硝酸溶液)で溶出させることにより、ストロンチウムの濃縮した溶出液を得ることができる。(2)酸素リアクションによる同重体の精密分離 ICP−MSのコリジョン・リアクションセルに高純度酸素を通入して、酸素との反応性の高い元素を別の質量に変換することにより、その干渉を除去することができる。例えば、90Srと90Zrと90Yを含むイオンに高純度酸素を導入すれば、90Zrと90Yは酸化して、それぞれ90Zr16O(合計質量数106)と90Y16O(合計質量数106)に質量変換されることにより、系外に排出することができる。 《本発明のストロンチウムの分析方法》 上記の重要な特徴を備えた本発明のストロンチウム90の分析方法は、ストロンチウムを選択的に認識するストロンチウム認識樹脂を備えたストロンチウム濃縮分離カラムに試料溶液を導入し、上記ストロンチウム濃縮分離カラムのストロンチウム認識樹脂に試料溶液に含まれるストロンチウムを吸着させ、上記ストロンチウム認識樹脂に吸着されたストロンチウムを溶離液に溶出させ、ストロンチウムを含む溶離液を霧化してプラズマイオン源に導入してイオン化し、ストロンチウムイオンを主として含むイオン群に高純度酸素を導入して酸素との反応性の高い元素を酸化することにより当該元素のイオンの質量を変換し、次いで、四重極マスフィルターにおいて90Sr以外の質量数を持つイオンを除去し、四重極マスフィルターを通過した90Srの特定信号を測定することを特徴としている。なお、かかる分析方法を適切なソフトウエアを用いて自動制御することができる。また、ストロンチウム濃縮分離カラムに導入する前の試料溶液を適正な濃度に事前に濃縮することもできる。 《本発明のストロンチウムの分析装置》 また、本発明のストロンチウム90の分析装置は、ネブライザを有する試料導入部と、プラズマイオン源と、インターフェースコーンと、イオンレンズ部と、コリジョン・リアクションセルと、四重極マスフィルターと、検出器とを備えている高周波誘導結合プラズマ質量分析装置において、上記試料導入部がストロンチウムを選択的に認識するストロンチウム認識樹脂を備えたストロンチウム濃縮分離カラムを有し、コリジョン・リアクションセルが高純度酸素供給手段を有していることを特徴としている。また、高感度化の一助として、ネブライザには超音波ネブライザなどの脱溶媒による高感度試料導入装置を用いることもできる。高感度試料導入装置は、同軸形ネブライザや超音波振動子によって試料溶液を細霧化し、加熱部および冷却部を通過させることによる脱水により、高効率にプラズマイオン源へ試料溶液中の元素を導入するものである。 本発明のストロンチウム90の分析装置は、公知の高周波誘導結合プラズマ質量分析装置を応用して、試料導入部のネブライザの前にストロンチウムを選択的に認識するストロンチウム認識樹脂を備えたストロンチウム濃縮分離カラムを有し、コリジョン・リアクションセルに高純度酸素供給手段を付加するだけでよく、高度な測定スキルを必要とせず、ストロンチウム90の分析を短時間(15ないし20分間)で自動分析を実施することができる。また、ストロンチウム濃縮分離カラムと、酸化反応が可能なコリジョン・リアクションセルとを備えることにより、ストロンチウム90を高精度で分析することができる。係るストロンチウム90の分析装置を使用する本発明のストロンチウム90の分析方法によれば、測定対象試料に測定者が接触せずに、測定者の個人差もなく、緊急時において迅速なストロンチウム90の分析が可能である。 本発明によれば、ストロンチウム濃縮分離カラムによるストロンチウムの濃縮と超音波ネブライザなどの高感度試料導入装置を用いることにより、ストロンチウム90の分析感度を向上することができ、ストロンチウム濃縮分離カラムによるストロンチウム以外の物質の分離とコリジョン・リアクションセルによる同重体の精密分離と四重極マスフィルターによる特定の質量数以外のイオンの分離により、ストロンチウム90の分離精度を向上することができる。図1は、本発明のストロンチウム90の分析方法を実施するに好適な装置の概略構成を示す図である。図2は、ストロンチウム濃縮分離カラムにおいて試料溶液に含まれているストロンチウムを選択的に認識するストロンチウム認識樹脂にストロンチウムを吸着させる方法を説明するための図である。図3は、ストロンチウム濃縮分離カラムにおいてストロンチウム認識樹脂に吸着されたストロンチウムを溶出させて高周波誘導結合プラズマ質量分析装置に導入する方法を説明するための図である。図4は、ストロンチウム濃縮分離カラムを使用して、65元素を含有する混合標準溶液の濃縮分離を実施した一例を示す図である。図5は、コリジョン・リアクションセルによる同重体の干渉除去の概念を説明する図である。図6は、コリジョン・リアクションセルにおける酸化反応によるSrとZrとYのイオンカウント(カウント毎秒:cps)の変化を示す図である。図7は、安定同位体ストロンチウムと放射性ストロンチウムの検量線を示す図である。 以下に、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。本発明は下記実施形態に限定されるものでないことは言うまでもなく、様々な変形や修正が可能である。 《ストロンチウム90の分析装置》 図1は、本発明のストロンチウム90の分析方法を実施するに好適な装置の概略構成を示す図である。図1において、1は分析対象である試料を適切な溶解液に溶出してなる試料溶液を充填した試料容器を保管しているオートサンプラー(自動分取装置)、2はストロンチウム濃縮分離カラムまたはフィルター、3は、ネブライザ(同軸形ネブライザまたは超音波ネブライザ)4と、プラズマイオン源5と、インターフェースコーン6と、イオンレンズ7と、高純度酸素供給手段8aを備えたコリジョン・リアクションセル8と、四重極マスフィルター9と、検出器10とを備えている高周波誘導結合プラズマ質量分析装置を示す。 《ストロンチウム濃縮分離カラム》 図1において、オートサンプラー(自動分取装置)1に保管されている試料容器に充填されている試料溶液は、ストロンチウム濃縮分離カラム2に供給される。図2は、ストロンチウム濃縮分離カラムにおいて試料溶液に含まれているストロンチウムを選択的に認識するストロンチウム認識樹脂にストロンチウム90を吸着させる方法を説明するための図である。 《ストロンチウム90の吸着工程》 図2において、オートサンプラー(自動分取装置)11の上にセットされた特定の試料容器に充填された、ストロンチウムを含有する試料溶液を吸い上げて、ポンプ12で供給する。この試料溶液はポンプ12によってミキサー13に送給される。一方、ポンプ14には2つの流路があり、洗浄液(20〜50容積%の硝酸)または溶離液(超純水)が供給されている。ストロンチウム認識樹脂にストロンチウムを吸着させる工程においては、ポンプ14に洗浄液側の流路から洗浄液が供給される。この洗浄液はポンプ14によってミキサー13に送給される。ミキサー13において、ストロンチウムを含有する試料溶液と洗浄液とが混合されて、この混合液はV4バルブからポート4を経てストロンチウムを選択的に認識するストロンチウム認識樹脂を備えたストロンチウム濃縮分離カラム15またはフィルターに送給される。ストロンチウム濃縮分離カラム15において、ストロンチウムをストロンチウム認識樹脂に吸着させた後の液はポート2からバルブV2、ミキサー13を経て廃棄される。一定量の試料溶液をストロンチウム濃縮分離カラム15へ送給した後は、オートサンプラー11のプローブは洗浄液の入った洗浄位置へ移動し、洗浄液をポンプ12で送給し、ストロンチウム濃縮分離カラム15内を洗浄する。 《ストロンチウムの溶出工程》 図3は、ストロンチウム濃縮分離カラムにおいてストロンチウム認識樹脂に吸着されたストロンチウムを溶出させて高周波誘導結合プラズマ質量分析装置に導入する方法を説明するための図である。図3において、ストロンチウム認識樹脂に吸着されたストロンチウムを溶出させる工程においては、ポンプ14から上記溶離液が供給される。この溶離液はポンプ14によって、V1バルブからポート2を経てストロンチウム濃縮分離カラム15に送給される。ストロンチウム濃縮分離カラム15において、ストロンチウム認識樹脂に吸着されたストロンチウムは溶離液に溶出して、ポート4からV3バルブを経て、高周波誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)に導入される。導入の際のネブライザには、同軸形ネブライザや超音波ネブライザ(USN)などを用いる。 一方、次回のストロンチウムの分析に備えて、ポンプ12からミキサー13に至る配管16を洗浄するために、調整液(20〜50容積%の硝酸)がポンプ12によって配管16を経てミキサー13に送給され、V4バルブからポート5を経て廃棄される。 《ストロンチウムの濃縮分離》 上記のように構成されるストロンチウム濃縮分離カラムを使用して、65元素を含有する混合標準溶液の濃縮分離を実施した一例を示すものが図4である。この混合標準溶液の組成は、金属イオンを2.5μg含む20容積%硝酸の10ミリリットルの溶液である。ストロンチウム認識樹脂は、50mgの重量である。図4において、横軸は元素を示し、縦軸はストロンチウム認識樹脂に吸着された元素の吸着率(%)を示す。図4に示すように、ストロンチウム認識樹脂を用いることによって、ストロンチウムとイオン半径の異なるジルコニウムやイットリウムなどをほぼ完全に除去することが可能である。すなわち、ストロンチウムは混合標準溶液に含まれるものの98%を捕捉することができ、ジルコニウムは99.77%除去することができ、イットリウムは99.9%除去することができた。なお、同ストロンチウム認識樹脂には、バリウムも98%捕捉され、鉛も85%捕捉され、その他にもタンタルやカリウムなども捕捉された。しかし、これらバリウム、鉛、タンタルやカリウムなど、ストロンチウム以外の元素は高周波誘導結合プラズマ質量分析装置の四重極マスフィルターで排除することができる。210Pbや212Pbなどは、90Srと同じようにβ−崩壊をするため、放射線分析では、210Pbや212Pbなどを90Srと誤認識する可能性がある。しかし、ストロンチウム認識樹脂を用いたストロンチウムの濃縮分離と四重極マスフィルターとの組み合わせにより、210Pbや212Pbなど、ストロンチウムと異なる質量数の元素を排除することができ、ストロンチウムの分析精度を高めることができる。 《コリジョン・リアクションセルによる同重体の干渉除去》 図4に示すように、ストロンチウム認識樹脂を用いたストロンチウムの濃縮分離によれば、ジルコニウムは99.77%、イットリウムは99.9%除去される。しかし、ジルコニウムは0.23%、イットリウムは0.01%除去分離されずに、溶液中に含まれたままである。これら少量のジルコニウムとイットリウムを含む溶液を高周波誘導結合プラズマ質量分析装置に導入すれば、質量数が同じである90Sr、90Zrおよび90Yを分離することができない。 そこで、図1において、高純度酸素供給手段8aからコリジョン・リアクションセル8内に高純度酸素を供給することにより、酸素との反応性の高い90Zrと90Yはそれぞれ酸化して、90Zr16Oと90Y16Oに質量変換される。これら、90Zr16Oと90Y16Oは四重極マスフィルターで排除することができる。図5は、コリジョン・リアクションセルによる同重体の干渉除去の概念を説明する図である。 図6は、コリジョン・リアクションセルにおける酸化反応によるSrとZrとYのイオンカウントの変化を示す図で、横軸は酸素の流量(mL/min)を示し、縦軸はイオンカウント(カウント毎秒:cps)を示す。Srの場合、酸素流量を変化させてもイオンカウントはほとんど変化していない。しかし、ZrとYは酸素流量を増加することによりイオンカウントは明らかに低下しており、コリジョン・リアクションセルにおける酸化反応によって、ZrとYが効果的に排除されることが分かる。 上記のように、本発明は、ストロンチウム認識樹脂を備えたストロンチウム濃縮分離カラムと、高純度酸素供給手段を備えたコリジョン・リアクションセルと、四重極マスフィルターとを巧みに組み合わせることにより、ストロンチウム以外の元素をストロンチウム濃縮分離カラムで試料溶液から大幅に除去し、次いで、コリジョン・リアクションセルで同重体を除去し、最後に四重極マスフィルターで目的外元素を完全に除去することができる。 すなわち、例えば、試料溶液中に74Geと54Feが含まれる場合、高純度酸素供給手段を備えたコリジョン・リアクションセルのみでは、74Geはコリジョン・リアクションセルにおける酸化反応により74Ge16O+に質量変換され、一方、54Feは、プラズマイオン源のArプラズマと反応して54Fe36Ar+となるので、これらの元素を排除することができない。プラズマイオン源においても、一部74Ge16Oや54Fe36Arが発生してしまう。しかし、本発明はストロンチウム認識樹脂を備えたストロンチウム濃縮分離カラムを有しているので、74Geと54Feはこのストロンチウム濃縮分離カラムを通過させることによりプラズマイオン源への導入前に排除することができる(図4参照)。 《安定同位体ストロンチウムと放射性ストロンチウムの検量線》 図7は、安定同位体ストロンチウムと放射性ストロンチウムの検量線を示す図で、横軸は濃度(ng/L)を示し、縦軸はイオンカウント(カウント毎秒:cps)を示す。図7に示すように、放射性ストロンチウム90Srは安定同位体ストロンチウム88Srの約1.25倍の測定強度比を有することが分かる。従って、安定同位体ストロンチウムの測定強度から放射性ストロンチウムの測定強度を知ることができるため、放射性ストロンチウム標準液が無い場合や、放射線管理区域を持たない分析事業所でも、この検量線を用いて放射性ストロンチウム90Srの分析が可能であり、多くの分析機関・分析事業所で環境分析を実施することができる。一方、放射性ストロンチウム標準液を取り扱える機関であれば、放射性ストロンチウム標準液で検量線を作成することで、分析精度をより向上させることができる。 《検出下限値》 以下の表1は、本発明の検出下限値と他法の検出下限値とを比較するものである。 表1に示すように、本発明によるストロンチウムの分析方法の検出下限値は、他の方法に比べて十分に低いことが分かる。 《本発明の方法と公定法との比較》 東京電力福島第一原子力発電所から20km以内にある放射線量率の高い地域の土壌を採取して、本発明の方法と公定法(ミルキング法)による放射線量の測定値の比較を行った。以下の表2は、その一例を示すものである。 表2に示すように、本発明の方法と公定法による90Srの測定値の間は、95%の信頼性があり、有意な差はないことが分かった。 本発明の方法は、短時間で、高度な測定スキルを必要とせずに、ストロンチウム90を高精度で分析することができるので、様々な環境分析機関や事業所に適用することができる。 1 オートサンプラー(自動分取装置) 2 ストロンチウム濃縮分離カラムまたはフィルター 3 高周波誘導結合プラズマ質量分析装置 4 同軸形ネブライザまたは超音波ネブライザ 5 プラズマイオン源 6 インターフェースコーン 7 イオンレンズ 8a 高純度酸素供給手段 8 コリジョン・リアクションセル 9 四重極マスフィルター 10 検出器 11 試料溶液充填容器とオートサンプラー 12 ポンプ 13 ミキサー 14 ポンプ 15 ストロンチウム濃縮分離カラムまたはフィルター 16 配管 ストロンチウムを選択的に認識するストロンチウム認識樹脂を備えたストロンチウム濃縮分離カラムに試料溶液を導入し、上記ストロンチウム濃縮分離カラムのストロンチウム認識樹脂に試料溶液に含まれるストロンチウムを吸着させ、上記ストロンチウム認識樹脂に吸着されたストロンチウムを溶離液に溶出させ、ストロンチウムを含む溶離液を霧化してプラズマイオン源に導入してイオン化し、ストロンチウムイオンを主として含むイオン群に高純度酸素を導入して酸素との反応性の高い元素を酸化することにより当該元素のイオンの質量を変換し、次いで、四重極マスフィルターにおいて90Sr以外の質量数を持つイオンを除去し、四重極マスフィルターを通過した90Srの特定信号を測定することを特徴とするストロンチウム90の分析方法。 ネブライザを有する試料導入部と、プラズマイオン源と、インターフェースコーンと、イオンレンズ部と、コリジョン・リアクションセルと、四重極マスフィルターと、検出器とを備えている高周波誘導結合プラズマ質量分析装置において、上記試料導入部がストロンチウムを選択的に認識するストロンチウム認識樹脂を備えたストロンチウム濃縮分離カラムを有し、コリジョン・リアクションセルが高純度酸素供給手段を有していることを特徴とするストロンチウム90の分析装置。 【課題】短時間で、高度な測定スキルを必要とせずに、ストロンチウム90を高精度で分析することができる方法を提供する。【解決手段】ストロンチウムを選択的に認識するストロンチウム認識樹脂を備えたストロンチウム濃縮分離カラム2に試料溶液を導入し、ストロンチウム濃縮分離カラム2のストロンチウム認識樹脂に試料溶液に含まれるストロンチウムを吸着させ、ストロンチウム認識樹脂に吸着されたストロンチウムを溶離液に溶出させ、ストロンチウムを含む溶離液を霧化してプラズマイオン源5に導入してイオン化し、ストロンチウムイオンを主として含むイオン群に高純度酸素を導入して酸素との反応性の高い元素を酸化することにより当該元素のイオンの質量を変換し、次いで、四重極マスフィルター9において90Sr以外の質量数を持つイオンを除去し、四重極マスフィルター9を通過した90Srの特定信号を測定する。【選択図】図1